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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】電気機器
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20230214BHJP
   B25F 5/00 20060101ALI20230214BHJP
   H02P 27/06 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
H02M7/48 M
B25F5/00 H
B25F5/00 A
H02P27/06
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021515905
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020014094
(87)【国際公開番号】W WO2020217853
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2021-10-22
(31)【優先権主張番号】P 2019086245
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005094
【氏名又は名称】工機ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079290
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100136375
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 弘実
(72)【発明者】
【氏名】豊田 慎也
【審査官】柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-244966(JP,A)
【文献】特開2017-028668(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
B25F 5/00
H02P 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
前記モータの駆動電圧が供給される電源ラインに接続された高電圧スイッチング素子と、グランドラインに接続された低電圧スイッチング素子と、を含むスイッチング素子を有し、前記モータを駆動するインバータ回路と、
前記高電圧側スイッチング素子の制御端子に接続される高電圧側部と、前記低電圧側スイッチング素子に接続される低電圧側部と、を有し、前記スイッチング素子の駆動電圧を生成するチャージポンプ回路と、を備え、
前記電源ラインと前記チャージポンプ回路の出力端子との間に放電回路を設け、
前記放電回路は、前記電源ラインと前記高電圧側部との間に設けられ、
前記高電圧側スイッチング素子と前記低電圧側スイッチング素子との相互接続部と、前記チャージポンプ回路の前記高電圧側部と、の間を接続するダイオードを備え、前記ダイオードは、カソードが前記高電圧側部に接続される、電気機器。
【請求項2】
前記放電回路は、前記電源ラインと前記チャージポンプ回路の出力端子との間に設けた放電素子を有する、請求項1に記載の電気機器。
【請求項3】
モータと、
前記モータの駆動電圧が供給される電源ラインに接続された高電圧側スイッチング素子と、グランドラインに接続された低電圧側スイッチング素子と、を含むスイッチング素子を有し、前記モータを駆動するインバータ回路と、
前記高電圧側スイッチング素子の制御端子に接続される高電圧側部と、前記低電圧側スイッチング素子に接続される低電圧側部と、を有し、前記スイッチング素子の駆動電圧を生成するチャージポンプ回路と、を備え、
前記電源ラインと前記チャージポンプ回路の出力端子との間に放電素子を設け、
前記放電素子は、前記電源ラインと前記高電圧側部との間に設けられ、
前記高電圧側スイッチング素子と前記低電圧側スイッチング素子との相互接続部と、前記チャージポンプ回路の前記高電圧側部と、の間を接続するダイオードを備え、前記ダイオードは、カソードが前記高電圧側部に接続される、電気機器。
【請求項4】
前記チャージポンプ回路の出力端子は前記電源ラインに対して高電位である、請求項1から3の何れか一項に記載の電気機器。
【請求項5】
前記放電素子は、抵抗である、請求項2又は3に記載の電気機器。
【請求項6】
前記放電素子は、ツェナーダイオードである、請求項2又は3に記載の電気機器。
【請求項7】
前記高電圧スイッチング素子は複数設けられ、
前記高電圧側部は前記複数の高電圧スイッチング素子のそれぞれの制御端子に接続される、請求項1から6の何れか一項に記載の電気機器。
【請求項8】
前記低電圧スイッチング素子は複数設けられ、
前記低電圧側部は前記複数の低電圧スイッチング素子のそれぞれの制御端子に接続される、請求項7に記載の電気機器。
【請求項9】
前記電源ラインにはインダクタンスが設けられる、請求項1から8の何れか一項に記載の電気機器。
【請求項10】
前記モータに駆動電圧を供給する電池パックを備え、
前記高電圧側部で生成される前記駆動電圧は、前記電池パックの出力電圧より高い、請求項1から9の何れか一項に記載の電気機器。
【請求項11】
前記低電圧側部で生成される前記駆動電圧は、前記電池パックの出力電圧より低い、請求項10に記載の電気機器。
【請求項12】
前記モータの駆動電流を検出する電流検出回路と、
前記インバータ回路の入力電圧を検出する電圧検出回路と、
前記モータ又は前記インバータ回路の温度を検出する温度検出回路と、
前記電流検出回路、前記電圧検出回路、前記温度検出回路に接続された制御部と、を備える、請求項1から11の何れか一項に記載の電気機器。
【請求項13】
前記制御部は、前記電源ラインが接続される端子と、前記高電圧側部の出力端子と、前記低電圧側部の出力端子と、を備える、請求項12に記載の電気機器。
【請求項14】
前記制御部は、前記インバータ回路を駆動するためのインバータ駆動部と、前記インバータ駆動部へ制御信号を出力する演算部と、前記インバータ駆動部及び前記演算部の定電圧を生成する定電圧生成回路と、を備える、請求項12又は13に記載の電気機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チャージポンプ回路によりモータ駆動用のインバータ回路の駆動電圧を生成する電気機器に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1は、インバータ回路によりモータを駆動する電気機器を開示する。この電気機器は、交流駆動であり、インバータ回路に直流を供給するダイオードブリッジの出力端子間に、サージ吸収用の電解コンデンサを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-057178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インバータ回路の一部のスイッチング素子のターンオフのタイミングで、配線の寄生インダクタンスにサージ電圧が発生する。このサージ電圧により、チャージポンプ回路の出力端子の電圧が、チャージポンプ回路の出力電圧の設定値を超えて上昇することがある。チャージポンプ回路の出力端子の電圧が、回路素子の耐電圧をオーバーすると、故障のリスクが高くなる。
【0005】
本発明はこうした状況を認識してなされたものであり、その目的は、故障リスクを抑制可能な電気機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、電気機器である。この電気機器は、
モータと、
前記モータの駆動電圧が供給される電源ラインに接続された高電圧スイッチング素子と、グランドラインに接続された低電圧スイッチング素子と、を含むスイッチング素子を有し、前記モータを駆動するインバータ回路と、
前記高電圧側スイッチング素子の制御端子に接続される高電圧側部と、前記低電圧側スイッチング素子に接続される低電圧側部と、を有し、前記スイッチング素子の駆動電圧を生成するチャージポンプ回路と、を備え、
前記電源ラインと前記チャージポンプ回路の出力端子との間に放電回路を設け、
前記放電回路は、前記電源ラインと前記高電圧側部との間に設けられ、
前記高電圧側スイッチング素子と前記低電圧側スイッチング素子との相互接続部と、前記チャージポンプ回路の前記高電圧側部と、の間を接続するダイオードを備え、前記ダイオードは、カソードが前記高電圧側部に接続される。
ここで、前記放電回路は、前記電源ラインと前記チャージポンプ回路の出力端子との間に設けた放電素子を有してもよい。
【0007】
本発明の別の態様は、電気機器である。この電気機器は、
モータと、
前記モータの駆動電圧が供給される電源ラインに接続された高電圧側スイッチング素子と、グランドラインに接続された低電圧側スイッチング素子と、を含むスイッチング素子を有し、前記モータを駆動するインバータ回路と、
前記高電圧側スイッチング素子の制御端子に接続される高電圧側部と、前記低電圧側スイッチング素子に接続される低電圧側部と、を有し、前記スイッチング素子の駆動電圧を生成するチャージポンプ回路と、を備え、
前記電源ラインと前記チャージポンプ回路の出力端子との間に放電素子を設け
前記放電素子は、前記電源ラインと前記高電圧側部との間に設けられ、
前記高電圧側スイッチング素子と前記低電圧側スイッチング素子との相互接続部と、前記チャージポンプ回路の前記高電圧側部と、の間を接続するダイオードを備え、前記ダイオードは、カソードが前記高電圧側部に接続される
ここで、前記チャージポンプ回路の出力端子は前記電源ラインに対して高電位でもよい。
【0010】
前記放電素子は、抵抗であってもよい。
【0011】
前記放電素子は、ツェナーダイオードであってもよい。
【0012】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法やシステムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、故障リスクを抑制可能な電気機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態に係る電動工具1の斜視図。
図2】電動工具1の回路ブロック図。
図3図2の制御部20の回路ブロック図。
図4図2のスイッチング素子S1~S6のオンオフを示すタイムチャート。
図5図2の放電素子14をツェナーダイオードZDとした場合の電動工具1の要部回路ブロック図。
図6図2の放電素子14を抵抗Rとした場合の電動工具1の要部回路ブロック図。
図7図2の放電素子14を無くした比較例の要部回路ブロック図。
図8図6の回路におけるスイッチング素子S1、S2、S4、S5のオンオフ、並びにハイサイドチャージポンプ電圧VGT、スイッチング素子S4のドレイン-ソース間電圧Vu、ローサイドチャージポンプ電圧VGBの波形を示すタイムチャート。
図9図8の電気角θ=60度付近における電圧Vu、VGTの波形を拡大して示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態を詳述する。なお、各図面に示される同一または同等の構成要素、部材等には同一の符号を付し、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は発明を限定するものではなく例示であり、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0016】
本実施の形態は、電動工具1に関する。電動工具1は、電気機器の例示である。図1に示すように、電動工具1は、電動工具本体10と、電池パック5と、を備える。電池パック5は、電動工具本体10に着脱可能に接続される。作業者が電動工具本体10のトリガ11を引くと、電池パック5から電動工具本体10に電力が供給される。電動工具1の機械的な構成は周知なのでここでは説明を省略する。以下、電動工具1の回路構成を説明する。図2に示すように、電動工具1は、モータ31と、インバータ回路30と、制御部20と、を備える。モータ31は、ここではインナーロータ型のブラシレスモータであり、固定子32及び回転子33を有する。固定子32は、スター結線(Y結線)されたU相、V相、W相の固定子巻線を有する。
【0017】
インバータ回路30は、電池パック5の出力する直流を交流に変換して固定子32の各固定子巻線に供給し、モータ31を駆動する。電池パック5とインバータ回路30との間の配線路中に、寄生インダクタンス(配線インダクタンス)Lsが存在する。電池パック5の出力端子間に、サージ吸収用のコンデンサ(電解コンデンサ)は設けられない。インバータ回路30は、三相ブリッジ接続されたFETやIGBT等のスイッチング素子S1~S6を含む。スイッチング素子S1~S6の各ドレイン又は各ソースは、スター結線された固定子巻線U、V、Wに接続される。スイッチング素子S1~S6は、自身のゲート(制御端子)への入力電圧がハイレベルのときにオンとなり、ローレベルのときにオフとなる。スイッチング素子S1~S6のオンオフは、制御部20によって制御される。
【0018】
スイッチング素子S1~S6の各ゲートは、制御部20のインバータ駆動部25に接続され、スイッチング素子S1~S6は、インバータ駆動部25から入力されるスイッチング素子駆動信号H1~H6によってスイッチング動作を行う。これにより、インバータ回路30に印加される電池パック5からの直流電圧が三相(U相、V相及びW相)電圧Vu、Vv、VwとしてU相、V相及びW相の各固定子巻線に供給される。各固定子巻線に発生する逆起電圧信号Hu、Hv、Hwは、制御部20に入力される。
【0019】
逆起電圧信号Huが制御部20に至る経路には、抵抗R1が設けられる。抵抗R1の一端は、スイッチング素子S1、S4の相互接続部に接続される。抵抗R1の他端は、ダイオードD4のカソード及び制御部20に接続される。ダイオードD4のアノードは、グランドに接続される。逆起電圧信号Hvが制御部20に至る経路には、抵抗R2が設けられる。抵抗R2の一端は、スイッチング素子S2、S5の相互接続部に接続される。抵抗R2の他端は、ダイオードD5のカソード及び制御部20に接続される。ダイオードD5のアノードは、グランドに接続される。逆起電圧信号Hwが制御部20に至る経路には、抵抗R3が設けられる。抵抗R3の一端は、スイッチング素子S3、S6の相互接続部に接続される。抵抗R3の他端は、ダイオードD6のカソード及び制御部20に接続される。ダイオードD6のアノードは、グランドに接続される。抵抗R1~R3及びダイオードD4~D6は、寄生インダクタンスLsに発生するサージ電圧Vsの負の成分を吸収するための保護素子である。
【0020】
インバータ回路30による通電方式は、周知の120度通電(矩形波駆動)であり、図4に示すように、ハイサイド側(高電圧側)スイッチング素子S1~S3は一周期360度のうち120度ずつオンされ、ローサイド側(低電圧側)スイッチング素子S4~S6も一周期360度のうち120度ずつオンされる。図4では、スイッチング素子S1~S6のオン期間を黒塗りで示す。オン期間においてハイサイド側スイッチング素子S1~S3及びローサイド側スイッチング素子S4~S6の少なくとも一方は、PWM(Pulse Width Modulation)制御されてもよい。
【0021】
電流検出回路12は、モータ31の駆動電流(固定子32の各固定子巻線に流れる電流)の経路に設けられた抵抗Rsの電圧により、モータ31の駆動電流を検出し、制御部20に送信する。電圧検出回路13は、電池パック5の出力電圧(インバータ回路30への入力電圧)を検出し、制御部20に送信する。電池パック5の出力電圧は、制御部20のVM端子に入力される。放電素子(電力消費素子)14及び第2の放電素子(コンデンサC1)は、制御部20のVM端子とVGT端子との間に直列接続される。コンデンサC2は、制御部20のVGB端子とグランドとの間に接続される。すなわち、放電素子14、コンデンサC1及びコンデンサC2は制御部20とは別に外付けで設けられている。
【0022】
温度検出素子15は、例えばサーミスタであり、モータ31あるいはインバータ回路30の近傍に設けられる。温度検出回路16は、温度検出素子15の出力電圧によりモータ31あるいはインバータ回路30の温度を検出し、制御部20に送信する。ホールIC19は、磁気検出素子の例示であり、モータ31の近傍に例えば3つ設けられる。回転子位置検出回路17は、ホールIC19の出力信号からノイズを除去するフィルタ回路である。回転子位置検出回路17の3つの出力信号は、制御部20のUH端子、VH端子、WH端子にそれぞれ入力される。スイッチ機構18は、図1のトリガ11の操作に連動してオンオフが切り替わり、制御部20にスイッチ操作検出信号を送信する。
【0023】
図3は、制御部20の具体構成例を示す。制御部20は、三相DCブラシレスモータの制御に適した汎用モータ制御IC(IntegratedCircuit)を用いることができる。制御部20は、外部との電気的な接続を確立する手段として、複数の外部端子を備える。UH端子、VH端子、及びWH端子は、3つのホールIC19からの信号を入力する入力端子である。UHOUT端子、ULOUT端子、VHOUT端子、VLOUT端子、WHOUT端子、及びWLOUT端子は、インバータ回路30の駆動信号(図2のスイッチング素子駆動信号H1~H6)を出力する出力端子である。U端子、V端子、及びW端子は、固定子巻線に発生する逆起電圧(図2の逆起電圧信号Hu、Hv、Hw)検出用の入力端子である。VGT端子は、チャージポンプ回路22の出力するハイサイドゲート駆動用電圧(ハイサイドチャージポンプ電圧)VGTが現れる端子である。VGB端子は、チャージポンプ回路22の出力するローサイドゲート駆動用電圧(ローサイドチャージポンプ電圧)VGBが現れる端子である。VM端子は、電池パック5からの電源電圧VMの供給を受け付けるための電源端子である。前述のとおり、本実施の形態では、制御部20のVM端子とVGT端子との間に、コンデンサC1と直列に放電素子14を外部接続している。この理由については後述する。図示は省略したが、制御部20には、電流検出回路12、電圧検出回路13、温度検出回路16、及びスイッチ機構18の出力信号が入力される各端子も設けられ、各端子は演算部21に接続される。
【0024】
制御部20は、演算部21、チャージポンプ回路22、回転子位置検出回路23、定電圧生成回路24、及びインバータ駆動部(プリドライバ回路)25を含む。定電圧生成回路24は、3.3Vを出力する定電圧生成回路24a、及び5.0Vを出力する定電圧生成回路24bを含む。3.3Vは、演算部21に動作電圧として供給される。5.0Vは、インバータ駆動部25に供給される。チャージポンプ回路22は、演算部21の制御により動作し、電池パック5の出力電圧(ここでは18V)よりも高いハイサイドゲート駆動用電圧(ここでは31V)と、ローサイドゲート駆動用電圧(ここでは13V)を生成し、インバータ駆動部25に供給する。なお、チャージポンプ回路22は高電圧側部(ハイサイドチャージポンプ)と低電圧側部(ローサイドチャージポンプ)とを有し、高電圧側部でハイサイドゲート駆動電圧、低電圧側部でローサイドゲート駆動用電圧を生成する。回転子位置検出回路23は、UH端子、VH端子、WH端子から入力される信号を基にモータ31の回転位置を検出し、演算部21に送信する。演算部21は、回転子位置検出回路23からの信号を基にゲート制御信号を生成してインバータ駆動部25に出力する。ゲート制御信号はインバータ回路30のスイッチング素子S1~S6に対応して6個あり、その各々は、スイッチング素子S1~S6をオンさせるときはハイレベルとなり、オフさせるときはローレベルとなる2値信号である。インバータ駆動部25は、各ゲート制御信号の電流能力を高めたゲート電圧(スイッチング素子駆動信号H1~H6)を生成し、インバータ回路30のスイッチング素子S1~S6のゲート(制御端子)に出力する。各ゲート電圧は、対応するゲート制御信号がハイレベルであるときにハイレベルとなり、ゲート制御信号がローレベルであるときにローレベルとなる。
【0025】
図5は、図2の放電素子14をツェナーダイオードZDとした場合の電動工具1の要部回路ブロック図である。図6は、図2の放電素子14を抵抗Rとした場合の電動工具1の要部回路ブロック図である。抵抗Rは、固定抵抗である。図7は、図2の放電素子14を無くした比較例の要部回路ブロック図である。図5図7では、インバータ駆動部25の内部回路のうちスイッチング素子S1、S4の駆動に関する部分が示される。図示は省略したが、インバータ駆動部25の内部回路のうちスイッチング素子S2、S5の駆動に関する部分、及びスイッチング素子S3、S6の駆動に関する部分も、スイッチング素子S1、S4の駆動に関する部分と同様に構成され、同様に動作する。
【0026】
インバータ駆動部25は、FET等のスイッチング素子Q1~Q12を含む。スイッチング素子Q1、Q3、Q5、Q7、Q9、Q11はPチャンネル型であり、スイッチング素子Q2、Q4、Q6、Q8、Q10、Q12はNチャンネル型である。U端子(スイッチング素子S1、S4の相互接続部)とVGT端子との間には、ダイオードD1が設けられる。ダイオードD1は、アノードがU端子に接続され、カソードがVGT端子に接続される。U端子とグランドとの間には、ダイオードD2、D3が設けられる。ダイオードD2のアノードはU端子に接続される。ダイオードD2、D3のカソード同士が互いに接続される。ダイオードD3のアノードはグランドに接続される。
【0027】
演算部21は、スイッチング素子Q5~Q8のゲート(制御端子)に、スイッチング素子S1のゲート電圧を出力させるためのゲート制御信号を入力する。スイッチング素子Q5~Q8へのゲート制御信号がハイレベルのとき、スイッチング素子Q5、Q7はオフ、スイッチング素子Q6、Q8はオンであり、スイッチング素子Q1はオン、スイッチング素子Q2はオフとなり、スイッチング素子S1はオンとなる。スイッチング素子Q5~Q8へのゲート制御信号がローレベルのとき、スイッチング素子Q5、Q7はオン、スイッチング素子Q6、Q8はオフであり、スイッチング素子Q1はオフ、スイッチング素子Q2はオンとなり、スイッチング素子S1はオフとなる。同様に、演算部21からスイッチング素子Q9~Q12へのゲート制御信号がハイレベルのときはスイッチング素子S4はオンとなり、ローレベルのときはスイッチング素子S4はオフとなる。
【0028】
図8は、図6の回路におけるスイッチング素子S1、S2、S4、S5のオンオフ、並びにハイサイドチャージポンプ電圧VGT、スイッチング素子S4のドレイン-ソース間電圧Vu、ローサイドチャージポンプ電圧VGBの波形を示すタイムチャートである。例として、電気角θが0度~60度のときの動作を図5図6、及び図8を参照して説明する。電気角θが0度~60度の範囲では、スイッチング素子S1とスイッチング素子S5がON、それ以外のスイッチング素子はOFFである。このとき、スイッチング素子S4のドレイン-ソース間電圧Vuは、Vu=VMとなる。
【0029】
電気角θ=60度では、スイッチング素子S5がONからOFFになる。図5及び図6は、電気角θ=60度でスイッチング素子S5がターンオフした直後かつスイッチング素子6がターンオンする前の状態を示し、寄生インダクタンスLsにサージ電圧Vsが発生している。このとき、寄生インダクタンスLsに蓄えられていたエネルギーがサージ電圧Vsとしてスイッチング素子S1を介し、スイッチング素子S4のドレイン-ソース間に印加され、スイッチング素子S4のドレイン-ソース間電圧Vuは、Vu=VM+Vsとなる。サージ電圧Vsにより、スイッチング素子S4のドレイン-ソース間電圧Vuが、ハイサイドチャージポンプ電圧VGTよりも大きくなると、ダイオードD1を経由してVGT端子に充電電流が流れる。
【0030】
図5の回路では、VGT端子とVM端子との間に接続されたツェナーダイオードZDにより充電電流が消費されるため、ハイサイドチャージポンプ電圧VGTは常に実質的に一定の電圧となる。すなわち、VGT端子とVM端子との間にツェナーダイオードZDを含む放電回路が形成される。VGT端子はVM端子に対して高電位となる。放電回路は、例えば、ツェナーダイオードZD、寄生インダクタンスLs、スイッチング素子S1、ダイオードD1、コンデンサC1により形成される。このように、保護素子としてツェナーダイオードZDを使用する場合、ローサイド側(下アーム側)スイッチング素子S4~S6をターンオフしたときに寄生インダンタンスLsに発生するサージ電圧VsによりVu>VGTとなった分のエネルギーが、放電回路を形成するツェナーダイオードZDに流れる瞬時的な大電流により消費されることになる。このため、ツェナーダイオードZDには許容損失の大きなものを使用する必要があり、ツェナーダイオードZDの外形寸法が大きくなり、部品コストも高くなる。なお、ツェナーダイオードZDと直列にコンデンサC1を設けなくてもよく、この場合でもサージ電圧VsはツェナーダイオードZDに流れる瞬時的な大電流により消費することができる。
【0031】
図6の回路では、VGT端子とVM端子との間に接続された抵抗Rにより充電電流が熱として消費される。図5の回路と同様、VGT端子とVM端子との間に抵抗Rを含む放電回路が形成される。この場合も、VGT端子はVM端子に対して高電位となる。放電回路は、例えば、抵抗R、寄生インダクタンスLs、スイッチング素子S1、ダイオードD1、コンデンサC1により形成される。このときの充電電流は、保護素子がツェナーダイオードZDの場合と異なり、オームの法則に従って比較的小さく比較的時間をかけて流れる。放電回路を形成する抵抗Rに電流が流れている期間は、それ以外の期間と比較してハイサイドチャージポンプ電圧VGTが高くなる。抵抗Rの抵抗値を適切に選択することで、ハイサイドチャージポンプ電圧VGTの上昇を許容範囲内に抑制できる。ツェナーダイオードZDはショート故障のリスクが比較的高いが、受動素子である抵抗Rはショート故障のリスクが低いため、信頼性が向上する。なお、抵抗Rと直列にコンデンサC1を設けなくてもよく、この場合でもサージ電圧Vsは抵抗Rに流れる電流により消費することができる。
【0032】
図7の比較例の回路では、VGT端子とVM端子との間に第2の放電素子となるコンデンサC1しかなく電力を消費する素子が存在しないため、ハイサイドチャージポンプ電圧VGTが大きく上昇する。チャージポンプ回路22において、ハイサイドチャージポンプ電圧VGTの最大定格は例えば48Vである。図7の比較例の回路では、サージ電圧Vsによりハイサイドチャージポンプ電圧VGTが最大定格を超える可能性が高くなり、ハイサイドチャージポンプが故障するリスクが高い。但し、サージ電圧Vsが小さい場合であれば、図5図6のような放電素子14を設けずに第2の放電素子となるコンデンサC1だけでもサージ電圧Vsを吸収することができる。この場合でもVGT端子とVM端子との間にコンデンサC1を含む放電回路が形成される。放電回路は、例えば、コンデンサC1、寄生イダクタンスLs、スイッチング素子S1、ダイオードD1により形成される。
【0033】
図9は、図8の電気角θ=60度付近における電圧Vu、VGTの波形を拡大して示すグラフである。図9に示すように、Vu>VGTとなるA点から電圧VGTが上昇を始め、その後、Vu<VGTとなるB点から電圧VGTが下降していく。電圧Vuの上昇に対する電圧VGTの上昇の遅れ、及び電圧Vuと電圧VGTの頂点の時間的なずれは、抵抗R1に起因する。図9に示す電圧変動は電気角θ=60度におけるスイッチング素子S5のターンオフに起因する寄生インダクタンスLsのサージ電圧Vsによるものであるが、電気角θ=180度におけるスイッチング素子S6のターンオフ、及び電気角θ=300度におけるスイッチング素子S4のターンオフも、寄生インダクタンスLsに同様のサージ電圧Vsを発生させ、図9に示すのと同様の電圧変動を起こす。
【0034】
本実施の形態によれば、下記の効果を奏することができる。
【0035】
(1)チャージポンプ回路22が生成するハイサイドチャージポンプ電圧VGTが現れるVGT端子と、電池パック5の出力電圧VMが入力されるVM端子との間に、放電回路を構成したため、ローサイド側スイッチング素子S4~S6のターンオフに起因して寄生インダクタンスLsに発生するサージ電圧Vsによるエネルギーを放電回路で消費できる。このため、ハイサイドチャージポンプ電圧VGTが跳ね上がることによる回路素子(チャージポンプ22、特にハイサイド側(高電圧側)チャージポンプ)の故障リスクを抑制できる。
また、VGT端子とVM端子との間に放電素子14を設けたため、ローサイド側スイッチング素子S4~S6のターンオフに起因して寄生インダクタンスLsに発生するサージ電圧Vsによるエネルギーを放電素子14で消費できる。このため、ハイサイドチャージポンプ電圧VGTが跳ね上がることによる回路素子(チャージポンプ22、特にハイサイド側(高電圧側)チャージポンプ)の故障リスクを抑制できる。また、VGT端子とVM端子との間に第2の放電素子(コンデンサC1)を設けたため、ローサイド側スイッチング素子S4~S6のターンオフに起因して寄生インダクタンスLsに発生する比較的小さなサージ電圧Vsによるエネルギーを第2の放電素子で消費できる。
【0036】
(2)図5に示すように放電素子14をツェナーダイオードZDとした場合、ハイサイドチャージポンプ電圧VGTを常に実質的に一定とすることができる。
【0037】
(3)図6に示すように放電素子14を抵抗Rとした場合、ハイサイドチャージポンプ電圧VGTはある程度変動するものの、ショート故障のリスクが低いため信頼性が高く、また部品コストも抑制できる。
【0038】
(4)前述のように放電素子14を設けたことで、チャージポンプ方式の後述のメリットを享受しながら、デメリット、すなわちハイサイドチャージポンプ電圧VGTの大きな変動を許容できないことによる影響を抑制できる。以下、この点について説明する。ハイサイド側(上アーム側)スイッチング素子S1~S3を駆動する方式としては、チャージポンプ方式の他に、ブートストラップ方式がある。ブートストラップ方式は、モータ駆動中にブートストラップコンデンサに充電する期間が必要であることや、Duty100%を長時間維持することができないというデメリットがある。これに対し本実施の形態のチャージポンプ方式は、モータ31の駆動中にブートストラップコンデンサを充電する必要がないことや、Duty100%を長時間維持することができるといったメリットがある。一方、ブートストラップ方式は、フローティング電源のため電圧変動が許容され、寄生インダクタンスLsに発生するサージ電圧Vsによる電圧変動があまり問題とならない。これに対し本実施の形態のチャージポンプ方式は、グランドに対して常に一定の電圧を維持することをコンセプトとしているため(接地電源であるため)、サージ電圧Vsによるハイサイドチャージポンプ電圧VGTの変動が問題となる。本実施の形態では、放電素子14によりサージ電圧Vsによるハイサイドチャージポンプ電圧VGTの変動を抑制することで、チャージポンプ方式のデメリットの影響を抑制できる。
【0039】
(5)放電素子14により寄生インダンタンスLsのサージ電圧Vsによるエネルギーを消費するため、電池パック5の出力端子間にサージ吸収用の電解コンデンサを設ける必要がなく、コスト安である。
【0040】
(6)放電素子14を制御部20とは別に外付けにて設けることで、制御部20と一体のワンパッケージ化された構成と比較して、製品仕様に合わせて放電素子だけを選択することができるため、設計の自由度が向上するとともに、容易にハイサイドチャージポンプ電圧が跳ね上がることによる回路素子の故障リスクを抑制できる。
【0041】
(7)チャージポンプ回路22が生成するハイサイドチャージポンプ電圧VGTが現れるVGT端子と、電池パック5の出力電圧VMが入力されるVM端子との間に、放電素子14をコンデンサC1と直列に接続した構成のため、放電素子をVGT端子とグランドラインとの間に接続した場合と比較して、保護素子となる放電素子の耐圧を小さくすることができる。なおVGT端子とグランドラインとの間に接続した場合には、放電素子には電源電圧(電池電圧)にサージ電圧が加えられた電圧が印加されるため耐圧を大きくする必要がある。
【0042】
以上、実施の形態を例に本発明を説明したが、実施の形態の各構成要素や各処理プロセスには請求項に記載の範囲で種々の変形が可能であることは当業者に理解されるところである。以下、変形例について触れる。
【0043】
本発明の電気機器は、DC駆動(コードレスタイプ)に限定されず、AC駆動(コード付きタイプ)であってもよく、また、電動工具以外の電動作業機や動力工具であってもよいし、更に別の電気機器であってもよい。実施の形態で示した具体的な電圧値などは、一例であり、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0044】
1…電動工具、5…電池パック、10…電動工具本体、11…トリガ、12…電流検出回路、13…電圧検出回路、14…放電素子(電力消費素子)、15…温度検出素子、16…温度検出回路、17…回転子位置検出回路、18…スイッチ機構、19…ホールIC、20…制御部、21…演算部、22…チャージポンプ回路、23…回転子位置検出回路、24…定電圧生成回路、24a…定電圧生成回路(3.3V)、24b…定電圧生成回路(5.0V)、25…インバータ駆動部(プリドライバ回路)、30…インバータ回路、31…モータ(ブラシレスモータ)、32…固定子、33…回転子。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9