(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】2次コイルモジュール、移動焼入れ装置及び移動焼入れ方法
(51)【国際特許分類】
H05B 6/10 20060101AFI20230214BHJP
H05B 6/38 20060101ALI20230214BHJP
H05B 6/42 20060101ALI20230214BHJP
C21D 1/42 20060101ALI20230214BHJP
C21D 9/28 20060101ALI20230214BHJP
C21D 1/667 20060101ALI20230214BHJP
C21D 1/10 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
H05B6/10 371
H05B6/38
H05B6/42
C21D1/42 K
C21D9/28 A
C21D9/28 B
C21D1/667
C21D1/10 R
(21)【出願番号】P 2021520819
(86)(22)【出願日】2020-05-20
(86)【国際出願番号】 JP2020019965
(87)【国際公開番号】W WO2020235598
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2021-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2019096867
(32)【優先日】2019-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】山根 明仁
(72)【発明者】
【氏名】秦 利行
(72)【発明者】
【氏名】小塚 千尋
【審査官】西村 賢
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-060634(JP,A)
【文献】特開2007-230845(JP,A)
【文献】特開2018-041730(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0183330(US,A1)
【文献】中国実用新案第203890388(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/10ー 6/44
C21D 1/02- 1/84
C21D 9/00- 9/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空矩形断面を有する円弧形コイルと、
前記円弧形コイルに対して着脱自在に構成された冷却治具と、
を備え、
前記円弧形コイルは、
前記円弧形コイルの周方向一端部に設けた冷媒導入口と、
前記円弧形コイルの周方向他端部に設けた冷媒排出口と、
を有し、
前記冷却治具は、
前記冷媒導入口に対して篏合自在に構成された開口先端部を有する冷媒導入管と、
前記冷媒排出口に対して篏合自在に構成された開口先端部を有する冷媒排出管と、
前記冷媒導入管の前記開口先端部を前記冷媒導入口に対して着脱自在に接続する第1接続部品と、
前記冷媒排出管の前記開口先端部を前記冷媒排出口に対して着脱自在に接続する第2接続部品と、
前記円弧形コイルの半径方向外側に向かって延びるように前記冷媒導入管に接続された冷媒供給管と、
前記円弧形コイルの前記半径方向外側に向かって延びるように前記冷媒排出管に接続された冷媒回収管と、
を有する
ことを特徴とする2次コイルモジュール。
【請求項2】
中空矩形断面を有する円弧形コイルと、
前記円弧形コイルに対して着脱自在に構成された冷却治具と、
を備え、
前記円弧形コイルは、
前記円弧形コイルの周方向一端部において前記円弧形コイルの中心軸方向の一方側に向かって開口する冷媒導入口と、
前記円弧形コイルの周方向他端部において前記冷媒導入口と同じ向きに開口する冷媒排出口と、
を有し、
前記冷却治具は、
前記冷媒導入口に対して篏合自在に構成された開口先端部を有する冷媒導入管と、
前記冷媒排出口に対して篏合自在に構成された開口先端部を有する冷媒排出管と、
前記冷媒導入管の前記開口先端部が前記冷媒導入口に篏合し且つ前記冷媒導入管の長手方向が前記中心軸方向に平行となる状態で、前記冷媒導入管を前記円弧形コイルに着脱自在に接続する第1接続部品と、
前記冷媒排出管の前記開口先端部が前記冷媒排出口に篏合し且つ前記冷媒排出管の長手方向が前記中心軸方向に平行となる状態で、前記冷媒排出管を前記円弧形コイルに着脱自在に接続する第2接続部品と、
前記円弧形コイルの半径方向外側に向かって延びるように前記冷媒導入管に接続された冷媒供給管と、
前記円弧形コイルの前記半径方向外側に向かって延びるように前記冷媒排出管に接続された冷媒回収管と、
を有する
ことを特徴とする2次コイルモジュール。
【請求項3】
前記第1接続部品は、
弾性材料によって構成され且つ前記中心軸方向に延びる第1アーム部と、
前記第1アーム部の長手方向一端部を前記冷媒導入管に固定する第1固定部と、
前記第1アーム部の長手方向他端部に設けられ且つ前記円弧形コイルの半径方向内側に向かって突出する第1爪部と、
を有し、
前記第2接続部品は、
弾性材料によって構成され且つ前記中心軸方向に延びる第2アーム部と、
前記第2アーム部の長手方向一端部を前記冷媒排出管に固定する第2固定部と、
前記第2アーム部の長手方向他端部に設けられ且つ前記円弧形コイルの前記半径方向内側に向かって突出する第2爪部と、
を有する
ことを特徴とする請求項2に記載の2次コイルモジュール。
【請求項4】
前記円弧形コイルに固定されたグリップ部品をさらに有し、
前記グリップ部品は、
前記円弧形コイルから前記中心軸方向の一方側へ延びる第1部位と、
前記第1部位から前記円弧形コイルの前記半径方向外側へ延びる第2部位と、
を有する
ことを特徴とする請求項2または3に記載の2次コイルモジュール。
【請求項5】
本体部と、前記本体部の軸線方向の中間部に設けられ前記本体部よりも径が小さい小径部と、を有する軸状体に、移動焼入れを行うための移動焼入れ装置であって、
高周波電流が流され、内部に前記軸状体が挿入される環状の1次コイル部材と、
請求項1~4のいずれか一項に記載の複数の2次コイルモジュールと、
前記複数の2次コイルモジュールの前記円弧形コイルが、前記小径部の径方向外側において、周方向に互いに離間した状態で前記1次コイル部材内に配置されるように、前記複数の2次コイルモジュールの位置決めを行う位置決め装置と、
を備えることを特徴とする移動焼入れ装置。
【請求項6】
前記小径部の端部のうち、前記軸線方向の一方側に位置する端部を一方側端部とし、前記軸線方向の他方側に位置する端部を他方側端部としたとき、
前記複数の2次コイルモジュールとして、
前記小径部の前記他方側端部の加熱に用いられる複数の2次第1コイルモジュールと、
前記小径部の前記一方側端部の加熱に用いられる複数の2次第2コイルモジュールと、
を備えることを特徴とする請求項5に記載の移動焼入れ装置。
【請求項7】
本体部と、前記本体部の軸線方向の中間部に設けられ前記本体部よりも径が小さい小径部と、を有する軸状体に、移動焼入れを行うための移動焼入れ方法であって、
請求項1~4のいずれか一項に記載の複数の2次コイルモジュールの前記円弧形コイルを、前記小径部の径に応じて取り換える取換工程と、
前記取換工程によって取り換えられた前記円弧形コイルが、前記小径部の径方向外側において、周方向に互いに離間して配置されるように前記複数の2次コイルモジュールを位置決めする配置工程と、
内部に前記軸状体が挿入された状態で高周波電流が流される環状の1次コイル部材を、前記小径部の前記軸線方向の一方側に位置する端部から、前記小径部の他方側に位置する端部に向かって前記軸線方向に移動させる際に、前記1次コイル部材内に前記複数の2次コイルモジュールの前記円弧形コイルの少なくとも一部を配置することで、誘導加熱により前記小径部を加熱する加熱工程と、
を有することを特徴とする移動焼入れ方法。
【請求項8】
前記小径部の一対の端部のうち、前記軸線方向の一方側に位置する前記端部を一方側端部とし、前記軸線方向の他方側に位置する前記端部を他方側端部としたとき、
前記取換工程として、前記複数の2次コイルモジュールに含まれる複数の2次第1コイルモジュールの円弧形コイルを、前記小径部の前記他方側端部の径に応じて取り換える第1取換工程と、
前記配置工程として、前記複数の2次第1コイルモジュールを、それらの円弧形コイルが、前記小径部の前記他方側端部の径方向外側において、周方向に互いに離間して配置されるように位置決めする第1配置工程と、
前記加熱工程として、前記軸状体に対して前記軸線方向の一方側に相対的に移動する前記1次コイル部材内に前記複数の2次第1コイルモジュールの前記円弧形コイルの少なくとも一部が配置されたときに、前記小径部の前記他方側端部を加熱する第1加熱工程と、
前記第1加熱工程の後で、前記1次コイル部材に対して前記複数の2次第1コイルモジュールを前記軸線方向の一方側に移動させた後、前記複数の2次第1コイルモジュールを前記小径部から前記径方向外側に移動させる離間工程と、
前記取換工程として、前記複数の2次コイルモジュールに含まれる複数の2次第2コイルモジュールの円弧形コイルを、前記小径部の前記一方側端部の径に応じて取り換える第2取換工程と、
前記配置工程として、前記複数の2次第2コイルモジュールを、それらの円弧形コイルが前記1次コイル部材の前記軸線方向の他方側から前記1次コイル部材内を通って前記小径部の前記一方側端部の径方向外側において周方向に互いに離間して配置されるように位置決めする第2配置工程と、
前記加熱工程として、前記軸状体に対して前記軸線方向の一方側に相対的に移動する前記1次コイル部材内に前記複数の2次第2コイルモジュールの円弧形コイルの少なくとも一部が配置されたときに、前記小径部の前記一方側端部を加熱する第2加熱工程と、
を行うことを特徴とする請求項7に記載の移動焼入れ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2次コイルモジュール、移動焼入れ装置及び移動焼入れ方法に関する。
本願は、2019年5月23日に、日本国に出願された特願2019-096867号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、軸状体を誘導加熱により移動焼入れし、軸状体の疲労強度を高めることが行われている。ここで言う、移動焼入れとは、軸状体に対してコイル部材等を軸状体の軸線方向に移動させながら焼入れすることを意味する。
誘導加熱では、環状に形成された1次コイル部材内に軸状体を挿入し、1次コイル部材に高周波電流を流して誘導加熱により軸状体を加熱する。誘導加熱では、軸状体と1次コイル部材との距離が短いほど軸状体が高い温度で加熱される。このため、軸状体が、本体部と、本体部に設けられて本体部よりも径が小さい小径部と、を備える場合には、本体部に比べて小径部が加熱されにくいという課題がある。
【0003】
この課題に対して、1次コイル部材の内側に、1次コイル部材の内径よりも小さい外径を有する2次コイル部材を備える移動焼入れ装置が提案されている(例えば下記特許文献1~3参照)。2次コイル部材は、O字形又はC字形に形成されている。提案されている2次コイルを用いた装置では、軸状体と軸状体に近接するコイル部材との距離が、本体部と小径部であまり変わらないため、本体部と小径部とを同等に加熱することができる。
これらの移動焼入れ装置では、複数のコイル部材が同心円状に配置されているため、軸状体と軸状体に近接するコイル部材との距離は周方向の各位置で均一になる。巻き数を多くした電流効率の良いコイル部材を用いることができるため、少ない電流でむらなく効率的に軸状体を加熱することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特公昭52-021215号公報
【文献】日本国特開2015-108188号公報
【文献】日本国特開2000-87134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1~3に開示された移動焼入れ装置では、いずれも軸線方向の端部に小径部が設けられた軸状体を加熱対象にしている。軸状体の小径部が軸状体の軸線方向の中間部に設けられた場合には、小径部に取付けた2次コイル部材を、軸状体の軸線方向の端まで移動させて軸状体から取外すのに時間を要するという問題がある。
【0006】
また、様々な形状の軸状体を焼入れする場合、その形状に適した2次コイルはそれぞれ異なる。1本の軸状体において軸径が変化する場合にも、それぞれの軸径に適した2次コイルは異なる。数段階の径差であれば、例えば2次コイルだけでなく、2次コイルの内径よりも小さい外径を有する3次コイルを使用する方法が考えられるが、3次コイルは一定以上の太さが必要であるため、3次コイルを用いる方法によって、細かいピッチで径差が設けられた軸状体に対して柔軟に対応することは難しい。従って、上述の2次コイル及び3次コイルを用いて焼入れする場合には投入エネルギーの効率が落ち、径差が生じる段差の角部等で過加熱も生じやすくなる。
【0007】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、様々な形状(径)を有する軸状体に対応可能であって且つ2次コイルの交換容易性が高い2次コイルモジュールと、その2次コイルモジュールを備えた移動焼入れ装置と、その移動焼入れ装置によって実現可能な移動焼入れ方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記課題を解決して係る目的を達成するために以下の手段を採用する。
(1)本発明の一態様に係る2次コイルモジュールは、中空矩形断面を有する円弧形コイルと、前記円弧形コイルに対して着脱自在に構成された冷却治具と、を備える。
前記円弧形コイルは、前記円弧形コイルの周方向一端部に設けた冷媒導入口と、前記円弧形コイルの周方向他端部に設けた冷媒排出口と、を有する。
前記冷却治具は、前記冷媒導入口に対して篏合自在に構成された開口先端部を有する冷媒導入管と、前記冷媒排出口に対して篏合自在に構成された開口先端部を有する冷媒排出管と、前記冷媒導入管の前記開口先端部を前記冷媒導入口に対して着脱自在に接続する第1接続部品と、前記冷媒排出管の前記開口先端部を前記冷媒排出口に対して着脱自在に接続する第2接続部品と、前記円弧形コイルの半径方向外側に向かって延びるように前記冷媒導入管に接続された冷媒供給管と、前記円弧形コイルの前記半径方向外側に向かって延びるように前記冷媒排出管に接続された冷媒回収管と、を有する。
【0009】
(2)本発明の他の態様に係る2次コイルモジュールは、中空矩形断面を有する円弧形コイルと、前記円弧形コイルに対して着脱自在に構成された冷却治具と、を備える。
前記円弧形コイルは、前記円弧形コイルの周方向一端部において前記円弧形コイルの中心軸方向の一方側に向かって開口する冷媒導入口と、前記円弧形コイルの周方向他端部において前記冷媒導入口と同じ向きに開口する冷媒排出口と、を有する。
前記冷却治具は、前記冷媒導入口に対して篏合自在に構成された開口先端部を有する冷媒導入管と、前記冷媒排出口に対して篏合自在に構成された開口先端部を有する冷媒排出管と、前記冷媒導入管の前記開口先端部が前記冷媒導入口に篏合し且つ前記冷媒導入管の長手方向が前記中心軸方向に平行となる状態で、前記冷媒導入管を前記円弧形コイルに着脱自在に接続する第1接続部品と、前記冷媒排出管の前記開口先端部が前記冷媒排出口に篏合し且つ前記冷媒排出管の長手方向が前記中心軸方向に平行となる状態で、前記冷媒排出管を前記円弧形コイルに着脱自在に接続する第2接続部品と、前記円弧形コイルの半径方向外側に向かって延びるように前記冷媒導入管に接続された冷媒供給管と、前記円弧形コイルの前記半径方向外側に向かって延びるように前記冷媒排出管に接続された冷媒回収管と、を有する。
【0010】
(3)上記(2)に記載の2次コイルモジュールにおいて、前記第1接続部品は、弾性材料によって構成され且つ前記中心軸方向に延びる第1アーム部と、前記第1アーム部の長手方向一端部を前記冷媒導入管に固定する第1固定部と、前記第1アーム部の長手方向他端部に設けられ且つ前記円弧形コイルの半径方向内側に向かって突出する第1爪部と、を有していてもよい。また、前記第2接続部品は、弾性材料によって構成され且つ前記中心軸方向に延びる第2アーム部と、前記第2アーム部の長手方向一端部を前記冷媒排出管に固定する第2固定部と、前記第2アーム部の長手方向他端部に設けられ且つ前記円弧形コイルの前記半径方向内側に向かって突出する第2爪部と、を有していてもよい。
【0011】
(4)上記(2)または(3)に記載の2次コイルモジュールは、前記円弧形コイルに固定されたグリップ部品をさらに有していてもよい。前記グリップ部品は、前記円弧形コイルから前記中心軸方向の一方側へ延びる第1部位と、前記第1部位から前記円弧形コイルの前記半径方向外側へ延びる第2部位と、を有していてもよい。
【0012】
(5)本発明の一態様に係る移動焼入れ装置は、本体部と、前記本体部の軸線方向の中間部に設けられ前記本体部よりも径が小さい小径部と、を有する軸状体に、移動焼入れを行うための移動焼入れ装置であって、高周波電流が流され、内部に前記軸状体が挿入される環状の1次コイル部材と、上記(1)~(4)のいずれか一つに記載の複数の2次コイルモジュールと、前記複数の2次コイルモジュールの前記円弧形コイルが、前記小径部の径方向外側において、周方向に互いに離間した状態で前記1次コイル部材内に配置されるように、前記複数の2次コイルモジュールの位置決めを行う位置決め装置と、を備える。
【0013】
(6)上記(5)に記載の移動焼入れ装置において、前記小径部の端部のうち、前記軸線方向の一方側に位置する端部を一方側端部とし、前記軸線方向の他方側に位置する端部を他方側端部としたとき、前記移動焼入れ装置は、前記複数の2次コイルモジュールとして、前記小径部の前記他方側端部の加熱に用いられる複数の2次第1コイルモジュールと、前記小径部の前記一方側端部の加熱に用いられる複数の2次第2コイルモジュールと、を備えていてもよい。
【0014】
(7)本発明の一態様に係る移動焼入れ方法は、本体部と、前記本体部の軸線方向の中間部に設けられ前記本体部よりも径が小さい小径部と、を有する軸状体に、移動焼入れを行うための移動焼入れ方法であって、上記(1)~(4)のいずれか一つに記載の複数の2次コイルモジュールの前記円弧形コイルを、前記小径部の径に応じて取り換える取換工程と、前記取換工程によって取り換えられた前記円弧形コイルが前記小径部の径方向外側において、周方向に互いに離間して配置されるように前記複数の2次コイルモジュールを位置決めする配置工程と、内部に前記軸状体が挿入された状態で高周波電流が流される環状の1次コイル部材を、前記小径部の前記軸線方向の一方側に位置する端部から、前記小径部の他方側に位置する端部に向かって前記軸線方向に移動させる際に、前記1次コイル部材内に前記複数の2次コイルモジュールの前記円弧形コイルの少なくとも一部を配置することで、誘導加熱により前記小径部を加熱する加熱工程と、を有する。
【0015】
(8)上記(7)に記載の移動焼入れ方法において、前記小径部の一対の端部のうち、前記軸線方向の一方側に位置する前記端部を一方側端部とし、前記軸線方向の他方側に位置する前記端部を他方側端部としたとき、前記取換工程として、前記複数の2次コイルモジュールに含まれる複数の2次第1コイルモジュールの円弧形コイルを、前記小径部の前記他方側端部の径に応じて取り換える第1取換工程と、前記配置工程として、前記複数の2次第1コイルモジュールを、それらの円弧形コイルが前記小径部の前記他方側端部の径方向外側において周方向に互いに離間して配置されるように位置決めする第1配置工程と、前記加熱工程として、前記軸状体に対して前記軸線方向の一方側に相対的に移動する前記1次コイル部材内に前記複数の2次第1コイルモジュールの前記円弧形コイルの少なくとも一部が配置されたときに、前記小径部の前記他方側端部を加熱する第1加熱工程と、前記第1加熱工程の後で、前記1次コイル部材に対して前記複数の2次第1コイルモジュールを前記軸線方向の一方側に移動させた後、前記複数の2次第1コイルモジュールを前記小径部から前記径方向外側に移動させる離間工程と、前記取換工程として、前記複数の2次コイルモジュールに含まれる複数の2次第2コイルモジュールの円弧形コイルを、前記小径部の前記一方側端部の径に応じて取り換える第2取換工程と、前記複数の2次第2コイルモジュールを、それらの円弧形コイルが前記1次コイル部材の前記軸線方向の他方側から前記1次コイル部材内を通って前記小径部の前記一方側端部の径方向外側において周方向に互いに離間して配置されるように位置決めする第2配置工程と、前記加熱工程として、前記軸状体に対して前記軸線方向の一方側に相対的に移動する前記1次コイル部材内に前記複数の2次第2コイルモジュールの円弧形コイルの少なくとも一部が配置されたときに、前記小径部の前記一方側端部を加熱する第2加熱工程と、を行ってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の上記各態様によれば、様々な形状(外径)を有する軸状体に対応可能であって且つ2次コイルの交換容易性が高い2次コイルモジュールと、その2次コイルモジュールを備えた移動焼入れ装置と、その移動焼入れ装置によって実現可能な移動焼入れ方法とを提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態において2次コイルとして用いられる一対の円弧形コイルを模式的に示す斜視図である。
【
図2A】同実施形態に係る2次コイルモジュールの外観を模式的に示す平面図である。
【
図2B】同2次コイルモジュールを示す図であって
図2AのA-A断面図である。
【
図2C】同2次コイルモジュールを示す図であって
図2Aの矢印Bより見た側面図である。
【
図3A】同2次コイルモジュールが備える円弧形コイルの外観を模式的に示す斜視図である。
【
図3C】同円弧形コイルを示す図であって、
図3BのCa-Ca断面図である。
【
図4】同2次コイルモジュールにおいて、円弧形コイルの外径を一つの値に固定し、その固定値に合わせて冷媒導入管と冷媒排出管との中心間距離を一つの値に固定するという条件下で、円弧形コイルの内径を変化させた場合を例示するための平面図である。すなわち、(b)では、(a)よりも内径R20を大きくしている。
【
図5】同実施形態に係る移動焼入れ装置の一部を破断して模式的に示す側面図である。
【
図7】同移動焼入れ装置の要部を示す図であって、
図5のD-D線より見た平断面図である。
【
図8】同移動焼入れ装置において、軸状体の小径部に2次第2コイル部材を配置した状態を示す斜視図である。
【
図9】同実施形態に係る移動焼入れ方法を示すフローチャートである。
【
図10】同移動焼入れ方法における第1離間工程を説明するための図であって、同移動焼入れ装置の斜視図である。
【
図11】同移動焼入れ方法における第1離間工程を説明するための斜視図である。
【
図12】同移動焼入れ方法における中央加熱工程を説明するための図であって、移動焼入れ装置の一部を破断して模式的に示す側面図である。
【
図13】同移動焼入れ方法における第2配置工程を説明するための斜視図である。
【
図14】同移動焼入れ方法における第2配置工程を説明するための斜視図である。
【
図15】同移動焼入れ装置のシミュレーションに用いた解析モデルの側面図である。
【
図16】実施例1の移動焼入れ装置によるシミュレーション結果を示す図である。
【
図17】実施例2の移動焼入れ装置によるシミュレーション結果を示す図である。
【
図18】比較例の移動焼入れ装置によるシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本願発明者らは、加熱効率が良い2次コイルを使用する方法をベースに、様々な径や段差を有する軸状体を移動焼入れする方法を鋭意検討した。
2次コイルの利点は、その周方向に欠損部が存在することにより、2次コイルに生じた渦電流が周方向に閉じずに2次コイルの外周面から内周面に回り込み、その内周面に回り込んだ渦電流によって軸状体の表面を誘導加熱できることにある。その一方で、従来のようにO字形又はC字形に形成された2次コイルを使用する場合、1次コイルが軸状体に対して相対的に移動している際中(つまり移動焼入れ中)に、1次コイルと軸状体との間の空隙に2次コイルを自由に配置したり取り出したりできない。
【0019】
そこで、本願発明者らは、
図1に示すように、2次コイルとして円弧形コイル100を複数準備し、軸状体の径に応じて円弧形コイル100を取り換える方法を発案した。この方法によれば、複数の円弧形コイル100を一体の2次コイルとして見たとき、その周方向に複数の欠損部110が形成されるので、各円弧形コイル100の内周面に回り込んだ渦電流によって軸状体の表面を誘導加熱できるという機能を保持したまま、移動焼入れ中に、1次コイルと軸状体との間の空隙に2次コイル(円弧形コイル100)を自由に配置したり取り出したりすることが可能となる。
【0020】
なお、
図1では、一例として、2個(一対)の円弧形コイル100を2次コイルとして用いた場合を図示しているため、欠損部110も2箇所形成されている。しかしながら、円弧形コイル100の数は2個に限らず、3個でも4個でも必要な数だけ円弧形コイル100を用意しても勿論よい。
【0021】
図1に示すように、円弧形コイル100の外径R10は、1次コイルの内径よりも小さく且つ1次コイルの内径に近接する値に設計される。また、円弧形コイル100の内径R20は、軸状体の外径よりも大きく且つ軸状体の外径に近接する値に設計される。なお、
図1において、符号C10は、各円弧形コイル100の中心軸を指し示している。このように設計された円弧形コイル100を軸状体の外径に応じて複数準備しておくことにより、様々な形状の軸状体に対応することが可能となる。また、1本の軸状体において軸径が変化する場合でも、移動焼入れ中に、それぞれの軸径に適した円弧形コイル100に取り換えることで対応できるようになる。
【0022】
本願発明者らは、上述したような高い交換容易性を有する円弧形コイル100の特性を最大限に活用できる移動焼入れ装置の構成を検討した。また、円弧形コイル100自身も渦電流が流れるとジュール効果により発熱するため、移動焼入れ中に円弧形コイル100を冷却する必要がある。そこで、本願発明者らは、円弧形コイル100の特性を最大限に活用しながら、移動焼入れ中における円弧形コイル100の冷却をも実現できる移動焼入れ装置の構成をさらに検討した。その結果、本発明に係る2次コイルモジュールと、それを備える移動焼入れ装置とを発明したのである。
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0023】
〔2次コイルモジュール〕
まず、本実施形態に係る2次コイルモジュール200について説明する。
図2A~
図2Cは、2次コイルモジュール200の外観を模式的に示す図である。
図2Aは、2次コイルモジュール200の平面図である。
図2Bは、2次コイルモジュール200を示す図であって
図2AのA-A断面図である。
図2Cは、2次コイルモジュール200を示す図であって
図2Aの矢印Bより見た側面図である。
図2A~
図2Cに示すように、2次コイルモジュール200は、中空矩形断面を有する円弧形コイル300と、円弧形コイル300に対して着脱自在に構成された冷却治具(410、420、430、440、450、460)と、グリップ部品500とを備える。
【0024】
先に、
図3A~
図3Cを参照しながら円弧形コイル300について説明する。
図3A~
図3Cは、円弧形コイル300の外観を模式的に示す図である。
図3Aは円弧形コイル300の斜視図である。
図3Bは、円弧形コイル300の平面図である。
図3Cは、
図3Bに示す円弧形コイル300のCa-Ca断面図である。
図3A~
図3Cに示すように、円弧形コイル300は、中空矩形断面を有し、且つ平面視において円弧形の形状を有するコイルである。円弧形コイル300は、後述の1次コイルの内径よりも小さく且つ1次コイルの内径に近接する値に設計された外径R10と、後述の軸状体(とくに小径部)の外径よりも大きく且つ軸状体の外径に近接する値に設計された内径R20とを有する。
【0025】
円弧形コイル300は、円弧形コイル300の周方向一端部において円弧形コイル300の中心軸C10方向の一方側(上方側)D10に向かって開口する冷媒導入口310と、円弧形コイル300の周方向他端部において冷媒導入口310と同じ向き(上方側)に開口する冷媒排出口320とを有する。これらの冷媒導入口310及び冷媒排出口320により、円弧形コイル300の内部空間において冷却水等の冷媒の流通が可能となっている。
なお、
図3Cに示すように、冷媒導入口310は、中心軸C10方向の一方側D10から他方側D20に向かって開口径が徐々に小さくなるように形成されている。冷媒排出口320も、中心軸C10方向の一方側D10から他方側D20に向かって開口径が徐々に小さくなるように形成されている。すなわち、冷媒導入口310は、円弧形コイル300の外部から内部に向かって先細りとなるように形成されている。冷媒導入口310も、円弧形コイル300の外部から内部に向かって先細りとなるように形成されている。
【0026】
円弧形コイル300は、中心軸C10方向に直交する一対の表面を有する。以下では、これら一対の表面のうち、中心軸C10方向の一方側D10に位置する円弧形の表面を第1円弧面330と呼称し、中心軸C10方向の他方側D20に位置する円弧形の表面を第2円弧面340と呼称する。
【0027】
以下、
図2A~
図2Cに戻って2次コイルモジュール200の説明を続ける。
図2A~
図2Cに示すように、冷却治具は、冷媒導入管410と、冷媒排出管420と、第1接続部品430と、第2接続部品440と、冷媒供給管450と、冷媒回収管460とから構成されている。
【0028】
冷媒導入管410は、外部から円弧形コイル300内に冷媒を導入するために用いられる管状部品であり、円弧形コイル300の冷媒導入口310に対して篏合自在に構成された開口先端部411を有する。具体的には、開口先端部411は、冷媒導入口310に対して隙間なくフィットする形状を有するように構成されている。
【0029】
冷媒排出管420は、円弧形コイル300内から外部に冷媒を排出するために用いられる管状部品であり、円弧形コイル300の冷媒排出口320に対して篏合自在に構成された開口先端部421を有する。具体的には、開口先端部421は、冷媒排出口320に対して隙間なくフィットする形状を有するように構成されている。
【0030】
第1接続部品430は、冷媒導入管410の開口先端部411が冷媒導入口310に篏合し且つ冷媒導入管410の長手方向が円弧形コイル300の中心軸C10方向に平行となる状態で、冷媒導入管410を円弧形コイル300に着脱自在に接続するための部品である。
具体的には、第1接続部品430は、弾性材料によって構成され且つ中心軸C10方向に延びる第1アーム部431と、第1アーム部431の長手方向一端部を冷媒導入管410に固定する第1固定部432と、第1アーム部431の長手方向他端部に設けられ且つ円弧形コイル300の半径方向内側に向かって突出する第1爪部433とを有する。第1爪部433の先端には、傾斜面433aが形成されている。上記のように、第1アーム部431は弾性材料によって構成されており、外力が付与されると湾曲し、外力が消失すると元の直線状の形に復元する板バネのような性質を有している。
【0031】
第2接続部品440は、冷媒排出管420の開口先端部421が冷媒排出口320に篏合し且つ冷媒排出管420の長手方向が円弧形コイル300の中心軸C10方向に平行となる状態で、冷媒排出管420を円弧形コイル300に着脱自在に接続するための部品である。
具体的には、第2接続部品440は、弾性材料によって構成され且つ中心軸C10方向に延びる第2アーム部441と、第2アーム部441の長手方向一端部を冷媒排出管420に固定する第2固定部442と、第2アーム部441の長手方向他端部に設けられ且つ円弧形コイル300の半径方向内側に向かって突出する第2爪部443とを有する。第2爪部443の先端には、傾斜面443aが形成されている。上記のように、第2アーム部441は弾性材料によって構成されており、外力が付与されると湾曲し、外力が消失すると元の直線状の形に復元する板バネのような性質を有している。
【0032】
冷媒供給管450は、円弧形コイル300の半径方向外側に向かって延びるように冷媒導入管410に接続された管状部品である。この冷媒供給管450は、不図示の2次コイル用冷媒供給装置から冷却水等の冷媒を供給されるように構成されている。つまり、冷媒供給管450及び冷媒導入管410を介して前記2次コイル用冷媒供給装置から円弧形コイル300へ冷媒を供給することが可能となっている。
なお、例えばL字形の管状部品を使って、冷媒導入管410と冷媒供給管450とを一つの部品で構成してもよい。
【0033】
冷媒回収管460は、円弧形コイル300の半径方向外側に向かって延びるように冷媒排出管420に接続された管状部品である。この冷媒回収管460は、上述した2次コイル用冷媒供給装置へ円弧形コイル300の冷却に使用された冷媒を送り戻すように構成されている。つまり、冷媒排出管420及び冷媒回収管460を介して円弧形コイル300から前記2次コイル用冷媒供給装置へ冷媒を回送することが可能となっている。
なお、例えばL字形の管状部品を使って、冷媒排出管420と冷媒回収管460とを一つの部品で構成してもよい。
【0034】
以上が冷却治具の構成であるが、このような冷却治具は以下のような手順によって容易に円弧形コイル300に接続することが可能である。
(1)まず、冷媒導入管410の中心軸と冷媒導入口310の中心軸とが一致し、且つ冷媒導入管410の開口先端部411が中心軸C10方向の他方側D20を向くように、冷媒導入管410を冷媒導入口310から一方側D10の離れた位置に配置する。
【0035】
(2)続いて、円弧形コイル300と冷媒導入管410とが中心軸C10方向に沿って互いに接近するように、一方或いは両方を移動させる。その過程において、第1接続部品430の第1爪部433が最初に円弧形コイル300の第1円弧面330に接触するが、そのまま円弧形コイル300と冷媒導入管410とをさらに接近させる。すると、第1爪部433に形成された傾斜面433aが第1円弧面330により半径方向外側へ向かって押し退けられるので、第1爪部433には半径方向外側へ向かう外力が付与される。
このように第1爪部433に半径方向外側へ向かう外力が付与されると、弾性材料によって構成されている第1アーム部431が半径方向外側へ湾曲し、第1爪部433によって邪魔されることなく、円弧形コイル300と冷媒導入管410とを接近させることができるようになる。
【0036】
(3)続いて、冷媒導入管410の開口先端部411が冷媒導入口310に篏合するまで(つまり開口先端部411が冷媒導入口310に隙間なくフィットするまで)、円弧形コイル300と冷媒導入管410とをさらに接近させる。ここで、冷媒導入口310は、中心軸C10方向の一方側D10から他方側D20に向かって開口径が徐々に小さくなるように形成されているので、冷媒導入管410の開口先端部411が冷媒導入口310にフィットした状態で、冷媒導入管410の他方側D20への移動を停止させることができる。
このように、冷媒導入管410の開口先端部411が冷媒導入口310にフィットした状態になると、第1爪部433に付与されていた外力が消失し、第1アーム部431が元の直線形状に復元する。その結果、第1爪部433が円弧形コイル300の第2円弧面340に係止された状態(引っ掛かった状態)になり、冷媒導入管410の開口先端部411が冷媒導入口310にフィットした状態で、冷媒導入管410が円弧形コイル300に接続されることになる(
図2B参照)。
【0037】
以上のような手順により、冷媒導入管410を円弧形コイル300に容易に接続することができる。同様な手順により、冷媒排出管420も円弧形コイル300に容易に接続することができる。
(1)すなわち、まず、冷媒排出管420の中心軸と冷媒排出口320の中心軸とが一致し、且つ冷媒排出管420の開口先端部421が中心軸C10方向の他方側D20を向くように、冷媒排出管420を冷媒排出口320から一方側D10の離れた位置に配置する。
【0038】
(2)続いて、円弧形コイル300と冷媒排出管420とが中心軸C10方向に沿って互いに接近するように、一方或いは両方を移動させる。その過程において、第2接続部品440の第2爪部443が最初に円弧形コイル300の第1円弧面330に接触するが、そのまま円弧形コイル300と冷媒排出管420とをさらに接近させる。すると、第2爪部443に形成された傾斜面443aが第1円弧面330により半径方向外側へ向かって押し退けられるので、第2爪部443には半径方向外側へ向かう外力が付与される。
このように第2爪部443に半径方向外側へ向かう外力が付与されると、弾性材料によって構成されている第2アーム部441が半径方向外側へ湾曲し、第2爪部443によって邪魔されることなく、円弧形コイル300と冷媒排出管420とを接近させることができるようになる。
【0039】
(3)続いて、冷媒排出管420の開口先端部421が冷媒排出口320に篏合するまで(つまり開口先端部421が冷媒排出口320に隙間なくフィットするまで)、円弧形コイル300と冷媒排出管420とをさらに接近させる。ここで、冷媒排出口320は、中心軸C10方向の一方側D10から他方側D20に向かって開口径が徐々に小さくなるように形成されているので、冷媒排出管420の開口先端部421が冷媒排出口320にフィットした状態で、冷媒排出管420の他方側D20への移動を停止させることができる。
このように、冷媒排出管420の開口先端部421が冷媒排出口320にフィットした状態になると、第2爪部443に付与されていた外力が消失し、第2アーム部441が元の直線形状に復元する。その結果、第2爪部443が円弧形コイル300の第2円弧面340に係止された状態(引っ掛かった状態)になり、冷媒排出管420の開口先端部421が冷媒排出口320にフィットした状態で、冷媒排出管420が円弧形コイル300に接続されることになる(
図2B参照)。
【0040】
なお、
図2Bに示すように、冷媒導入管410が円弧形コイル300に接続された状態で、傾斜面433aに半径方向外側へ向かう外力を与える。これによって第1爪部433に再び半径方向外側へ向かう外力を付与し、第1アーム部431を半径方向外側へ湾曲させれば、円弧形コイル300から冷媒導入管410を容易に取り外すことができる。
同様な方法で、冷媒排出管420も円弧形コイル300から容易に取り外すことができる。すなわち、冷媒排出管420が円弧形コイル300に接続された状態で、傾斜面443aに半径方向外側へ向かう外力を与える。これによって第2爪部443に再び半径方向外側へ向かう外力を付与し、第2アーム部441を半径方向外側へ湾曲させれば、円弧形コイル300から冷媒排出管420を容易に取り外すことができる。
【0041】
さらに、2次コイルモジュール200は、円弧形コイル300に固定されたグリップ部品500を有する。グリップ部品500は、円弧形コイル300の第1円弧面330の周方向中央部に固定されたL字形の部品である。グリップ部品500は、円弧形コイル300の第1円弧面330から中心軸C10方向の一方側D10へ延びる第1部位510と、第1部位510の先端から半径方向外側へ延びる第2部位520とを有する。グリップ部品500は、後述の位置決め装置によって2次コイルモジュール200の円弧形コイル300の位置を制御する際に、ロボットアーム等の把持機構によって把持される部品である。
【0042】
以上、2次コイルモジュール200の構成について説明したが、少なくとも円弧形コイル300に接触する部品、すなわち、冷媒導入管410、冷媒排出管420、第1接続部品430、第2接続部品440及びグリップ部品500は、電気的絶縁材料によって構成されていることが望ましい。
また、上記の説明では、第1接続部品430の構成として、第1アーム部431と、第1固定部432と、第1爪部433とを含む構成を採用する場合を例示したが、第1接続部品430の構成はこれのみに限定されない。冷媒導入管410の開口先端部411が冷媒導入口310に篏合し且つ冷媒導入管410の長手方向が円弧形コイル300の中心軸C10方向に平行となる状態で、冷媒導入管410を円弧形コイル300に対して着脱自在に接続することが可能な構成であれば、第1接続部品430の構成としてどのような構成を採用してもよい。
第2接続部品440についても同様である。すなわち、冷媒排出管420の開口先端部421が冷媒排出口320に篏合し且つ冷媒排出管420の長手方向が円弧形コイル300の中心軸C10方向に平行となる状態で、冷媒排出管420を円弧形コイル300に対して着脱自在に接続することが可能な構成であれば、第2接続部品440の構成としてどのような構成を採用してもよい。
【0043】
以上のような2次コイルモジュール200によれば、円弧形コイル300の大きさに応じて、冷媒導入管410及び冷媒排出管420の位置を調整することにより、複数の円弧形コイル300を都度取り換えることができる。すなわち、円弧形コイル300の外径に応じて、外径が大きい場合は冷媒導入管410及び冷媒排出管420の位置を円弧形コイル300の半径方向外側に、逆に外径が小さい場合には半径方向内側にすれば、冷媒導入管410と冷媒排出管420の間隔を変えることなく、複数の円弧形コイル300に対応することができる。
【0044】
あるいは、
図4の(a),(b)に示すように、冷媒導入管410と冷媒排出管420との中心間距離L10を、1次コイルの内径、すなわち円弧形コイル300の外径R10に合わせて設定する。つまり、円弧形コイル300の外径R10を一つの値に固定し、その固定値に合わせて冷媒導入管410と冷媒排出管420との中心間距離L10を一つの値に固定する。このようにすれば、冷媒導入管410及び冷媒排出管420の位置を調整する必要なく、様々な内径R20を有する円弧形コイル300を容易に取り換えることができる。
【0045】
図4(a)は、円弧形コイル300の内径R20が比較的小さい場合を例示している。
図4(b)は、円弧形コイル300の内径R20が比較的大きい場合を例示している。これらの図から、円弧形コイル300の外径R10を一つの値に固定し、その固定値に合わせて冷媒導入管410と冷媒排出管420との中心間距離L10を一つの値に固定すれば、冷媒導入管410及び冷媒排出管420の位置を調整する必要なく、様々な内径R20を有する円弧形コイル300を容易に交換できる2次コイルモジュール200が得られる。
以上のように、本実施形態によれば、様々な形状(外径)を有する軸状体に対応可能であって且つ2次コイル(円弧形コイル300)の交換容易性が高く、さらに移動焼入れ中に2次コイルの冷却も可能な2次コイルモジュール200を得ることができる。
【0046】
〔移動焼入れ装置〕
次に、本実施形態に係る移動焼入れ装置1について、
図5~
図14を参照しながら詳細に説明する。
図5及び
図6に示すように、移動焼入れ装置1は、鉄道車両用の車軸等の軸状体51に、高周波電流を用いて移動焼入れを行うための装置である。
まず、軸状体51について説明する。軸状体51は、本体部52と、本体部52の軸線C方向の中間部に設けられた小径部53と、を備えている。本体部52及び小径部53は、それぞれ円柱状に形成され、小径部53の軸線は、本体部52の軸線Cに一致する。
以下では、本体部52のうち、小径部53に対して軸線C方向の一方側D1に配置された部分を、第1本体部52Aと言う。小径部53に対して軸線C方向の他方側D2に配置された部分を、第2本体部52Bと言う。
【0047】
第1本体部52A、小径部53、及び第2本体部52Bは、それぞれ円柱状に形成され、共通の軸線C上に配置されている。小径部53の外径は、第1本体部52A及び第2本体部52Bの外径よりもそれぞれ小さい。
軸状体51は、フェライト相である、炭素鋼、鉄(Fe)を95重量%以上含有する低合金鋼等の導電性を有する材料で形成されている。
【0048】
移動焼入れ装置1は、支持部材6と、1次コイル部材11と、複数の2次第1コイル部材16A,16Bと、複数の2次第2コイル部材17A,17B(
図8参照)と、冷却環36と、制御部46と、を備えている。
なお、2次第1コイル部材(2次第1コイルモジュール)16A,16Bと、2次第2コイル部材(2次第2コイルモジュール)17A,17Bは、それぞれ上述した2次コイルモジュール200と同じ構成(特徴)を有しているが、説明の便宜上、
図5~
図14では、円弧形コイル300とグリップ部品500に対応する部位のみを図示している。すなわち、以下では、2次第1コイル部材16A,16Bと、2次第2コイル部材17A,17Bを、円弧形コイル300そのものに対応する部位として説明する。グリップ部品500に対応する部位については以下で説明する。
【0049】
また、本来であれば、移動焼入れ装置1は、各2次コイルモジュールに冷却水等の冷媒を供給する2次コイル用冷媒供給装置を備えているが、これについても
図5~
図14では図示を省略している。移動焼入れ中において、2次コイル用冷媒供給装置から各2次コイルモジュールに冷媒が供給されることにより、それらの各円弧形コイルが冷却される。
【0050】
図5に示すように、支持部材6は、下方センター7と、上方センター8と、を備えている。下方センター7は、軸状体51の第2本体部52Bを第2本体部52Bの下方から支持している。上方センター8は、軸状体51の第1本体部52Aを第1本体部52Aの上方から支持している。下方センター7及び上方センター8は、軸線Cが上下方向に沿い、軸線C方向の一方側D1が上方、他方側D2が下方となるように軸状体51を支持している。
【0051】
1次コイル部材11は、コイルの素線を螺旋状に巻いた環状に形成されている。1次コイル部材11の内径は、第1本体部52A及び第2本体部52Bの外径よりも大きい。1次コイル部材11の内部には、軸状体51が同軸に挿入される。
1次コイル部材11の各端部は、カーレントトランス12に電気的及び機械的に接続されている。カーレントトランス12は、1次コイル部材11に高周波電流を流す。
【0052】
図6及び
図7に示すように、本実施形態では、複数の2次第1コイル部材16A,16Bとして2つの2次第1コイル部材16A,16Bを備えている。ただし、移動焼入れ装置1が備える2次第1コイル部材の数は、複数であれば2つのみに限定されず、3つ以上でもよい。
2次第1コイル部材16A,16Bは、軸線C方向に沿って見た平面視で、円弧形に形成されている。2次第1コイル部材16A,16Bは、軸状体51の周方向(以下、単に周方向と言う)に沿ってかつ、周方向の2箇所において互いに離間するように、並べて配置されている。この周方向は、1次コイル部材11の周方向等に一致する。この例では、
図5に示すように、2次第1コイル部材16A,16Bの軸線C方向の長さは、軸状体51の小径部53の軸線C方向の長さよりもかなり短い。
【0053】
図7に示すように、2次第1コイル部材16A,16Bの軸線Cに対向する各外面に接する内接円の径R1(つまり、2次第1コイル部材16A,16Bの内周面によって形成される内径)は、軸状体51の小径部53の径(つまり外径)よりも大きい。この内径R1は、第1本体部52A及び第2本体部52Bの径(つまり外径)よりも小さいことが望ましい。2次第1コイル部材16A,16Bの軸線Cとは反対側の各外面に接する外接円の径R2(つまり、2次第1コイル部材16A,16Bの外周面によって形成される外径)は、1次コイル部材11の内径よりも小さい。
2次第1コイル部材16A,16Bは、小径部53の径方向外側であってかつ1次コイル部材11内の位置に、小径部53及び1次コイル部材11からそれぞれ離間した状態に配置可能である。なお、この径方向は、1次コイル部材11の径方向等に一致する。
【0054】
図6及び
図7に示すように、2次第1コイル部材16A,16Bには、第1支持部19A,19Bが固定されている。
第1支持部19Aは、2次第1コイル部材16Aから上方に向かって延びる第1支持片20Aと、第1支持片20Aの上端から径方向外側に向かって延びる第1連結片21Aと、を備えている。第1支持片20Aは、2次第1コイル部材16Aの周方向における中央部又は端部に配置されている。第1支持片20Aを、2次第1コイル部材16Aの径方向外側の端部であって、第1本体部52A及び第2本体部52Bよりも径方向外側となる位置に取付けることで、第1支持片20Aと第1本体部52A及び第2本体部52Bとの干渉を避けることが望ましい。第1連結片21Aは、第1支持片20Aにおける2次第1コイル部材16Aが固定された下端部とは反対である上端部から径方向外側に向かって延びている。
【0055】
第1支持部19Aと同様に、第1支持部19Bは、第1支持片20Bと、第1連結片21Bと、を備えている。第1連結片21A,21Bは、同一直線上に配置されている。第1支持部19A,19Bは、例えば電気的な絶縁性を有する棒状部材を直角に折り曲げて形成されている。以上説明の第1支持部19A,19Bが、2次コイルモジュール200におけるグリップ部品500に相当する部位である。
【0056】
図7に示すように、第1連結片21Aには第1移動部23A(位置決め装置)が接続されている。また、第1連結片21Bには、第1移動部23B(位置決め装置)が接続されている。第1移動部23A,23Bは、例えば、図示しない3軸ステージ及び駆動モータを備えていて、第1支持部19A,19Bを介して2次第1コイル部材16A,16Bを、上下方向及び水平面に沿う方向に移動させることができる。
【0057】
図5及び
図8に示すように、2次第2コイル部材17A,17Bは、2次第1コイル部材16A,16Bと同様に構成されている。1次コイル部材11、2次第1コイル部材16A,16B、及び2次第2コイル部材17A,17Bは、銅等の導電性を有する材料でそれぞれ形成されている。2次第2コイル部材17Aには、第2支持部25Aが固定されている。2次第2コイル部材17Bには、第2支持部25Bが固定されている。
【0058】
第2支持部25Aは、2次第2コイル部材17Aの下面から下方に向かって延びる第2支持片26Aと、第2支持片26Aの下端から径方向外側に向かって延びる第2連結片27Aと、を備えている。第2支持片26Aは、2次第2コイル部材17Aの周方向における中央部又は端部に接続されている。第2支持片26Aを、2次第2コイル部材17Aの径方向外側の端部であって、第1本体部52A及び第2本体部52Bよりも径方向外側となる位置に取付けて、第2支持片26Aと第1本体部52A及び第2本体部52Bとの干渉を避けることが望ましい。第2連結片27Aは、第2支持片26Aにおける2次第2コイル部材17Aが固定された上端部とは反対である下端部から径方向外側に向かって延びている。
【0059】
第2支持部25Aと同様に、第2支持部25Bは、第2支持片26Bと、第2連結片27Bと、を備えている。第2連結片27A,27Bは、同一直線上に配置されている。この例では、第1連結片21A,21B及び第2連結片27A,27Bは、同一平面上に配置されている。以上説明の第2支持部25A,25Bが、2次コイルモジュール200におけるグリップ部品500に相当する部位である。
【0060】
図5に示すように、第2連結片27A,27B(第2連結片27Bは不図示)には、第1移動部23A,23Bと同様に構成された第2移動部29A,29B(第2移動部29Bは不図示)がそれぞれ接続されている。第2移動部29A(位置決め装置)は、第2支持部25Aを介して2次第2コイル部材17Aを、上下方向及び水平面に沿う方向に移動させることができる。第2移動部29B(位置決め装置)は、第2支持部25Bを介して2次第2コイル部材17Bを、上下方向及び水平面に沿う方向に移動させることができる。
【0061】
図5及び
図6に示すように、冷却環36は、環状に形成されている。冷却環36内には、内部空間36aが形成されている。冷却環36の内周面には、内部空間36aに連通する複数のノズル36bが周方向に互いに離間して形成されている。冷却環36の内部には、軸状体51が挿入される。冷却環36は、1次コイル部材11よりも下方に配置されている。
冷却環36には、送水管37aを介してポンプ37が連結されている。ポンプ37は、水等の冷却液Lを、送水管37aを介して冷却環36の内部空間36a内に供給する。内部空間36aに供給された冷却液Lは、複数のノズル36bを通して軸状体51の外周面に向かって噴出し、軸状体51を冷却する。
【0062】
図5に示すように、1次コイル部材11、カーレントトランス12、冷却環36、及びポンプ37は、支え板39に固定されている。支え板39には、ピニオン39aが形成されている。支え板39には、ピニオン39aを駆動するモータ40が取付けられている。
支え板39のピニオン39aは、ラック42に噛み合っている。モータ40を駆動すると、ピニオン39aが正回転又は逆回転するので、ラック42に対して支え板39が上方又は下方に移動する。
なお、ラック42はボールねじでもよい。この場合、ピニオン39aはボールねじを挟むように複数配置してもよい。
【0063】
制御部46は、図示はしないが、演算回路と、メモリと、を備えている。メモリには、演算回路を駆動するための制御プログラム等が記憶されている。
制御部46は、カーレントトランス12、第1移動部23A,23B、第2移動部29A,29B、ポンプ37、及びモータ40に接続され、これらを制御する。
【0064】
〔移動焼入れ方法〕
次に、上記のように構成された移動焼入れ装置1を用いて実現される移動焼入れ方法について説明する。
図9は、本実施形態に係る移動焼入れ方法Sを示すフローチャートである。
まず、第1取換工程(取換工程、
図9に示すステップS0)において、軸状体51の小径部53の下端部(他方側端部)を加熱するための2次コイルモジュールの円弧形コイルを、小径部53の下端部の外径に応じて取り換えることにより、小径部53の下端部の加熱に適した円弧形コイルを備える2次コイルモジュール(つまり、2次第1コイル部材16A,16B)を装備する。
【0065】
次に、第1配置工程(配置工程、
図9に示すステップS1)において、
図5及び
図6に示すように、制御部46は、第1移動部23A,23Bを駆動して、2次第1コイル部材16A,16Bを、軸状体51の小径部53の下端部に配置する。このとき、小径部53の径方向外側に、2次第1コイル部材16A,16Bを周方向の2箇所で互いに離間するように配置する。さらに、2次第1コイル部材16A,16Bの軸線Cに対向する各外周面に接する内接円の径R1(つまり内径)が、軸状体51の小径部53の外径よりも大きくなるように配置する。このとき、内径R1が第1本体部52A及び第2本体部52Bの外径よりも小さくなるように配置することが望ましい。2次第1コイル部材16A,16Bの各内周面は、小径部53の外周面から径方向外側に離間している。
第1配置工程S1が終了すると、ステップS3に移行する。
【0066】
次に、第1本体加熱工程(ステップS3)において、制御部46は、軸状体51の第2本体部52Bを移動焼入れする。
具体的には、カーレントトランス12を駆動して1次コイル部材11に高周波電流を流す。ポンプ37を駆動して、冷却環36の複数のノズル36bから冷却液Lを噴出する。モータ40を駆動して、ラック42に対して支え板39を上方に移動させる。軸状体51に対して1次コイル部材11及び冷却環36をこの順に外挿し、上方に移動させる。上方は、1次コイル部材11の軸状体51に対する移動方向である。
【0067】
第2本体部52Bを、その下端部から上方(小径部53)に向かって1次コイル部材11により加熱し、さらに冷却環36により急速に冷却する。1次コイル部材11に高周波電流を流すことにより、1次コイル部材11の電磁誘導により第2本体部52Bに他のコイルを介さず直接電流が流れ、第2本体部52Bの電気抵抗により第2本体部52Bにジュール熱が発生する。第2本体部52Bは、誘導加熱により加熱されてオーステナイト相になる。誘導加熱により加熱された第2本体部52Bを、1次コイル部材11の後を追って上方に移動する冷却環36により冷却することにより、第2本体部52Bがマルテンサイト相になる。こうして、第2本体部52Bを移動焼入れする。
なお、第1本体加熱工程S3、及び後述する第1加熱工程S5、第1離間工程S7、中央加熱工程S9、第2配置工程S11、第2加熱工程S13、第2本体加熱工程S15において、軸状体51に対する1次コイル部材11及び冷却環36の上方への移動は止めずに移動焼入れする。
第1本体加熱工程S3が終了すると、ステップS5に移行する。
【0068】
次に、第1加熱工程(加熱工程、ステップS5)において、1次コイル部材11内に2次第1コイル部材16A,16Bの少なくとも一部が配置されたときに、小径部53の下端部を加熱開始する。このとき、2次第1コイル部材16A,16Bは、1次コイル部材11から径方向内側に離間している。
1次コイル部材11に高周波電流を流すことにより、1次コイル部材11の電磁誘導により2次第1コイル部材16A,16Bを介して小径部53の下端部に電流が流れ、誘導加熱により小径部53の下端部が加熱される。具体的には、
図7に示すように、1次コイル部材11に方向E1の電流が流れると、電磁誘導により2次第1コイル部材16A,16Bの外表面に方向E2,E3の渦電流が流れ、さらに小径部53の外表面に方向E4の渦電流が流れる。こうして、小径部53の下端部が加熱される。
なお、第1本体加熱工程S3の後でかつ第1加熱工程S5の前に、第1配置工程S1を行ってもよい。
第1加熱工程S5が終了すると、ステップS7に移行する。
【0069】
次に、第1離間工程(離間工程、ステップS7)において、制御部46は第1移動部23A,23Bを駆動して、
図10に示すように第1支持部19A,19Bを用いて、1次コイル部材11に対して2次第1コイル部材16A,16Bを上方に移動させる。そして、
図11に示すように2次第1コイル部材16A,16Bを小径部53から径方向外側に離間させる。第1離間工程S7は、第1加熱工程S5の後で行われる。
第1離間工程S7が終了すると、ステップS9に移行する。
【0070】
次に、中央加熱工程(ステップS9)において、
図12に示すように、小径部53における軸線C方向の中央部を加熱する。このとき、1次コイル部材11と小径部53との間に2次第1コイル部材16A,16Bが配置されていないため、1次コイル部材11に流す高周波電流の電流値を増加させる。小径部53の中央部を加熱するときの1次コイル部材11は、軸状体51における第1本体部52A及び第2本体部52Bと小径部53との接続部分51a(特に、軸状体51の外側に向かって凸となる部分)に対し、1次コイル部材11が小径部53の下端部を加熱している位置に配置されているときよりも離間している。そのため、1次コイル部材11に流す電流値を増加させても、接続部分51aの温度が高くなり過ぎるのが抑えられる。
小径部53の軸線C方向の中央部の加熱が終わったら、1次コイル部材11に流す高周波電流の電流値を低減させ、元の電流値に戻す。
中央加熱工程S9が終了すると、ステップS10に移行する。
【0071】
なお、第1離間工程S7及び中央加熱工程S9に代えて、中央加熱工程において2次第1コイル部材16A,16Bを用いて小径部53における軸線C方向の中央部を加熱してもよい。その場合、この中央加熱工程の後で、小径部53から2次第1コイル部材16A,16Bを径方向外側に離間させる第1離間工程を行う。
【0072】
次に、第2取換工程(取換工程、
図9に示すステップS10)において、軸状体51の小径部53の上端部(一方側端部)を加熱するための2次コイルモジュールの円弧形コイルを、小径部53の上端部の外径に応じて取り換える。これにより、小径部53の上端部の加熱に適した円弧形コイルを備える2次コイルモジュール(つまり、2次第2コイル部材17A,17B)を装備する。
【0073】
次に、第2配置工程(配置工程、ステップS11)において、制御部46は、第2移動部29A,29Bを駆動して、
図13に示すように2次第2コイル部材17A,17Bを、1次コイル部材11及び冷却環36の下方側から小径部53の下端部に近づける。そして、
図14に示すように、2次第2コイル部材17A,17Bを上方に移動させて、
図8に示すように1次コイル部材11内を通して小径部53の上端部に2次第2コイル部材17A,17Bを配置する。2次第2コイル部材17A,17Bは、小径部53から径方向外側に離間している。
第2配置工程S11が終了すると、ステップS13に移行する。
【0074】
次に、第2加熱工程(加熱工程、ステップS13)において、制御部46は、
図8に示すように軸状体51に対して上方に移動する1次コイル部材11内に2次第2コイル部材17A,17Bの少なくとも一部が配置されたときに、小径部53の上端部を加熱する。このとき、2次第2コイル部材17A,17Bは、1次コイル部材11から径方向に離間している。
第2加熱工程S13が終了すると、ステップS15に移行する。
【0075】
次に、第2本体加熱工程(ステップS15)において、制御部46は、1次コイル部材11内に軸状体51の第1本体部52Aが配置されたときに、第1本体部52Aを移動焼入れする。第2本体加熱工程S15が終了すると、ステップS17に移行する。
【0076】
次に、第2離間工程(ステップS17)において、制御部46は第2移動部29A,29Bを駆動して、2次第2コイル部材17A,17Bを小径部53から径方向外側に離間させる。なお、第2離間工程S17は、第2本体加熱工程S15の前に行ってもよい。
第1加熱工程S5、中央加熱工程S9、第2加熱工程S13、第2本体加熱工程S15において小径部53及び第1本体部52Aが加熱された後で、冷却環36から冷却液Lを噴出させることにより、小径部53及び第1本体部52Aが冷却される。
第2離間工程S17が終了すると、移動焼入れ方法Sの全工程が終了し、軸状体51全体が移動焼入れされた状態となる。移動焼入れされた軸状体51は、硬度が向上する。
【0077】
上述したように、移動焼入れ方法Sでは、小径部53の径方向外側にコイル部材16A,16B,17A,17Bを配置したり、小径部53からコイル部材16A,16B,17A,17Bを離間させたりしながら、軸状体51を移動焼入れする。
【0078】
以上説明したように、本実施形態に係る移動焼入れ装置1及び移動焼入れ方法Sによれば、予め互いに分離した状態の複数の2次第1コイル部材16A,16Bを、軸状体51の小径部53の径方向外側に周方向に互いに離間して並べて配置する。
そして、軸状体51に対して上方に移動する1次コイル部材11に高周波電流を流す。すると、軸状体51の第1本体部52A及び第2本体部52Bについては、1次コイル部材11の電磁誘導により第1本体部52A及び第2本体部52Bに直接電流が流れ、第1本体部52A及び第2本体部52Bの電気抵抗により第1本体部52A及び第2本体部52Bにジュール熱が発生する。ジュール熱により加熱された第1本体部52A及び第2本体部52Bを、1次コイル部材11の後を追って上方に移動する冷却環36により冷却して、第1本体部52A及び第2本体部52Bを移動焼入れする。
【0079】
一方で、軸状体51の小径部53については、電磁誘導により小径部53の径方向外側に配置された2次第1コイル部材16A,16Bを介して軸状体51の小径部53に電流が流れ、小径部53の電気抵抗により小径部53にジュール熱が発生する。ジュール熱により加熱された小径部53を同様に冷却環36で冷却して、小径部53を移動焼入れする。小径部53の移動焼入れが終わったら、2次第1コイル部材16A,16Bを小径部53から径方向外側に取外す。
この際に、小径部53から2次第1コイル部材16A,16Bを径方向外側に移動させれば、小径部53から2次第1コイル部材16A,16Bを取外せるため、軸状体51から2次第1コイル部材16A,16Bを容易に取外すことができる。
【0080】
例えば、2次第1コイル部材16A,16Bの内接円の径R1(つまり内径)が軸状体51の第1本体部52A及び第2本体部52Bの外径よりも僅かに大きい場合でも、第1本体部52A及び第2本体部52Bに2次第1コイル部材16A,16Bが干渉することを避けることができる。
【0081】
また、2次第1コイル部材16A,16Bの軸線Cに対向する各外面に接する内接円の径R1(つまり内径)は、第1本体部52A及び第2本体部52Bの外径よりも小さい。これにより、2次第1コイル部材16A,16Bを小径部53により近づけて、2次第1コイル部材16A,16Bにより小径部53をさらに効率的に加熱することができる。
【0082】
また、本実施形態では、2次第1コイル部材16A,16B及び2次第2コイル部材17A,17Bを備えている。1次コイル部材11及び2次第1コイル部材16A,16Bにより軸状体51の小径部53の下端部を加熱した後で、第1支持片20A,20Bを用いて1次コイル部材11に対して2次第1コイル部材16A,16Bを上方に移動させる。これにより、第1支持片20A,20Bが、1次コイル部材11、及び小径部53よりも下方に配置された第2本体部52Bに干渉するのを防いで、1次コイル部材11内から2次第1コイル部材16A,16Bを取出し、2次第1コイル部材16A,16Bを小径部53から径方向外側に離間させることができる。
【0083】
そして、1次コイル部材11及び2次第2コイル部材17A,17Bにより小径部53の上端部を加熱した後で、第2支持片26A,26Bを用いて1次コイル部材11に対して2次第2コイル部材17A,17Bを下方に移動させる。これにより、第2支持片26A,26Bが、1次コイル部材11、及び小径部53よりも上方に配置された第1本体部52Aに干渉するのを抑えて、1次コイル部材11内から2次第2コイル部材17A,17Bを取出し、複数の2次第2コイル部材17A,17Bを小径部53から径方向外側に離間させることができる。
【0084】
なお、2次第2コイル部材17A及び第2支持部25Aの代わりに、2次第1コイル部材16A及び第1支持部19Aから第1支持部19Aを取外し、そして第2支持部25Aを取付けたものを用いてもよい。あるいは、2次第2コイル部材17A及び第2支持部25Aの代わりに、2次第1コイル部材16A及び第1支持部19Aの配置を水平面に沿う軸線回りに180°回転(上下反転)させたものを用いてもよい。
第1支持部19Aは、第1連結片21Aを備えなくてもよい。第2支持部25Aは、第2連結片27Aを備えなくてもよい。第1支持部19Bは、第1連結片21Bを備えなくてもよい。第2支持部25Bは、第2連結片27Bを備えなくてもよい。
【0085】
2次第1コイル部材16A,16Bの軸線C方向の長さが軸状体51の小径部53の軸線C方向の長さとほぼ等しい場合等には、移動焼入れ装置1は、2次第2コイル部材17A,17B、第2支持部25A,25B、及び第2移動部29A,29Bを備えなくてもよい。この場合、移動焼入れ方法Sでは、中央加熱工程S9、第2配置工程S11、第2加熱工程S13、及び第2離間工程S17を行わない。
【0086】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態のみに限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、上記実施形態において、軸状体51は、軸線Cが上下方向(鉛直方向)に沿うように配置されなくてもよく、軸線Cが上下方向に対して傾くように配置されてもよい。この場合、1次コイル部材11及び冷却環36は、上下方向に対して傾いて移動する。
【0087】
移動焼入れ装置1は、支持部材6及び制御部46を備えなくてもよい。
軸状体51は、鉄道車両用の車軸であるとしたが、ボールネジ等の他の軸状体であってもよい。
また、
図2Aから
図4では、円弧形コイル300の冷媒導入口310及び冷媒排出口320が中心軸C10方向の一方側D10に開口する例を示した。1次コイルの半径方向内側に2次コイル(円弧形コイル)を配置するときに、1次コイルと2次コイルとの間隙を小さくした方が少ない供給電流で加熱できる。そのため、冷媒導入口310及び冷媒排出口320は、中心軸C10方向に開口することが望ましく、導入側と排出側の方向を合わせると1次コイルから離間させやすく着脱が容易になるため望ましい。しかし、開口部は半径方向外向きに形成されてもよく、あるいは中心軸C10方向の他方側に形成されてもよい。
また、上記実施形態では、冷媒導入管410及び冷媒排出管420を円弧形コイル300に着脱させる接続部品について弾性材料の例で説明した。しかし、接続部品は、嵌合力を制御できるのであれば必ずしも接続部品を弾性変形させる必要はなく、剛性の高い材料であってもよい。
【0088】
〔解析結果〕
以下では、本実施形態に基づく実施例1,2の移動焼入れ装置1と、比較例の移動焼入れ装置をシミュレーションした結果について説明する。
図15に、シミュレーションに用いた解析モデルを示す。
シミュレーションに用いた軸状体51は、2次第1コイル部材16A,16Bの上下方向の長さが、軸状体51の小径部53の上下方向の長さよりもそれほど短くなく、移動焼入れする際に軸状体51の温度が高くなりやすい形状とした。
なお、実施例1の解析モデルでは、2次第1コイル部材16A,16Bの内接円の径は、本体部52の外径よりも大きい。
【0089】
本体部52の外径は198mmであり、小径部53の外径(最小径)は181mmであるとした。軸状体51の材質は、炭素鋼であるとした。1次コイル部材11に流す高周波電流の周波数を1kHzとした。移動焼入れにより軸状体51に対して一定の深さの焼入れをするために必要な加熱をする際に、軸状体51の温度の最高値を求めた。
【0090】
移動焼入れ時に軸状体51の温度が高くなり過ぎる(過加熱になる)と、軸状体51の組織が変化してしまうという問題がある。このため、軸状体51に対して一定の深さの焼入れを確保しつつ、軸状体51の温度の最高値を抑制することが望まれる。
【0091】
[実施例1]
図16に、実施例1の移動焼入れ装置1によるシミュレーション結果を示す。
図16及び後述する
図17、
図18中には、灰色の濃淡に対応した温度スケールを示す。温度は、灰色が白くなるに従い漸次、高くなる。
実施例1の移動焼入れ装置1により軸状体51を移動焼入れすると、小径部53で800℃以上に加熱できる深さを5.0mmに確保しながら、
図16中に示す1次コイル部材11の位置の時に、領域R11の温度が軸状体51の最高温度を示すことが分かった。この領域R11での最高温度は、1149℃である。
【0092】
[実施例2]
実施例2の移動焼入れ装置1は、実施例1の移動焼入れ装置1に比べて、
図15中に二点鎖線で示すように、2次第1コイル部材16A,16Bの内接円の径が本体部52の外径よりも小さいことが異なる。2次第1コイル部材16A,16Bの内接円の径は、本体部52の外径よりも6mm小さい。
実施例2の移動焼入れ装置1により軸状体51を移動焼入れすると、小径部53で800℃以上に加熱できる深さを4.8mmに確保しながら、
図17中に示す1次コイル部材11の位置の時に、領域R12の温度が軸状体51の最高温度を示すことが分かった。この領域R12での最高温度は、1072℃である。
【0093】
[比較例]
図18に、比較例の移動焼入れ装置1Aによるシミュレーション結果を示す。比較例の移動焼入れ装置1Aは、実施例1,2の移動焼入れ装置1の構成とは異なり、2次第1コイル部材16A,16Bを備えていない。比較例の移動焼入れ装置1Aにより軸状体51を移動焼入れすると、小径部53で800℃以上に加熱できる深さが3.5mmしか確保できないにもかかわらず、領域R13の温度が軸状体51の最高温度を示すことが分かった。この領域R13での最高温度は、1225℃である。
【0094】
実施例1の移動焼入れ装置1は、比較例の移動焼入れ装置1Aに比べて、小径部53で800℃以上に加熱できる深さを1.5mm深くでき、かつ、移動焼入れ時における軸状体51の温度の最高値を、約76℃低減できることが分かった。
さらに、実施例2の移動焼入れ装置1は、比較例の移動焼入れ装置1Aに比べて、小径部53で800℃以上に加熱できる深さを1.3mm深くでき、かつ、移動焼入れ時における軸状体51の温度の最高値を、約153℃低減できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明によれば、様々な形状(外径)を有する軸状体に対応可能であって且つ2次コイルの交換容易性が高い2次コイルモジュールと、その2次コイルモジュールを備えた移動焼入れ装置と、その移動焼入れ装置によって実現可能な移動焼入れ方法とを提供することが可能である。よって、産業上の利用可能性は大である。
【符号の説明】
【0096】
100、300 円弧形コイル
200 2次コイルモジュール
310 冷媒導入口
320 冷媒排出口
410 冷媒導入管、冷却治具
420 冷媒排出管、冷却治具
430 第1接続部品、冷却治具
440 第2接続部品、冷却治具
450 冷媒供給管、冷却治具
460 冷媒回収管、冷却治具
500 グリップ部品
1 移動焼入れ装置
11 1次コイル部材
16A,16B 2次第1コイル部材
17A,17B 2次第2コイル部材
51 軸状体
52 本体部
53 小径部