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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】複合膜および複合膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/38 20060101AFI20230214BHJP
   B01D 71/52 20060101ALI20230214BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20230214BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
B01D71/38
B01D71/52
B01D69/10
B01D69/12
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021545619
(86)(22)【出願日】2020-09-11
(86)【国際出願番号】 JP2020034487
(87)【国際公開番号】W WO2021049623
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2019167126
(32)【優先日】2019-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大亀 敬史
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 真史
【審査官】松本 要
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-014725(JP,A)
【文献】特開2018-058040(JP,A)
【文献】国際公開第2010/119858(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00-71/82
C02F 1/44
B32B 27/00-27/42
C08J 9/00- 9/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンオキサイドを含有する支持膜と、
前記支持膜の一方の主面に設けられた分離層と、を備え、
前記支持膜の前記一方の主面において、ポリフェニレンオキサイドがスルホン化されており、
前記支持膜は、スルホン化ポリフェニレンオキサイド相とポリフェニレンオキサイド相が連続的に変化する非対称膜構造を有し、
前記分離層は、イオン性官能基を有するポリビニルアルコールからなる、複合膜。
【請求項2】
前記支持膜の前記一方の主面における硫黄元素の比率が0.2~10%である、請求項1に記載の複合膜。
【請求項3】
前記イオン性官能基は、4級アンモニウム基を含むカチオン性官能基である、請求項1または2に記載の複合膜。
【請求項4】
前記イオン性官能基は、スルホン酸基を含むアニオン性官能基である、請求項1~3のいずれか1項に記載の複合膜。
【請求項5】
前記分離層において、前記ポリビニルアルコールが架橋されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の複合膜。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の複合膜の製造方法であって、
前記支持膜の表面に硫酸を接触させて、表面の少なくとも一部をスルホン化させるスルホン化工程と、
前記支持膜のスルホン化された表面に前記分離層を吸着させる吸着工程と、
を含む製造方法。
【請求項7】
前記スルホン化工程において、前記支持膜の表面に90~98質量%の酸を接触させる、請求項6に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合膜および複合膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
逆浸透(Reverse Osmosis,RO)膜などにおいては、膜の孔径が数オングストロームであるため、ろ過抵抗が大きい。そのため透水性に優れる限外ろ過膜を支持膜として、支持膜の表面に薄膜状の分離層を形成させることで透水抵抗を低減させた複合膜が好ましく用いられる。
【0003】
化学耐久性に優れるポリフェニレンオキサイドを支持膜として用いて、塗布法により作製された複合膜としては、例えば、特許文献1(国際公開第2014/054346号)に、ポリフェニレンオキサイド(ポリフェニレンエーテル)を含む支持膜の表面に、疎水性セグメントと親水性セグメントとの繰り返し構造からなるスルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体を含む分離層を備える複合分離膜が開示されている。
【0004】
また、特許文献2(国際公開第2017/064936号)には、特許文献1と同様の複合分離膜の表面(スルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体側の表面)に、Layer-by-Layer法(例えば、G. Decher, Science, vol.277,Issue 5330, pp.1232-1237, 1997)を用いて、イオン性官能基を有するポリビニルアルコールを吸着および架橋処理させてなる分離層を有する複合膜が開示されている。なお、イオン性官能基を有するポリビニルアルコール(PVA)からなる分離層を設けることにより、中性低分子の阻止性を向上させることができる。
【0005】
Layer-by-Layer法(LbL法)を応用した分離膜においては、支持膜の表面(電荷を有する表面)に、正または負の電荷を有する複数のポリマー層を交互に積層する。LbL法によれば、簡単に欠陥のない薄膜を積層することができ、ポリマー等の薄膜材料の使用量がごく微量で済むために、経済的かつ環境負荷が小さい。なお、特許文献2では、スルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体が帯電していることにより、LbL法を実施することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2014/054346号
【文献】国際公開第2017/064936号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献2では、LbL法により架橋PVA膜を設ける前に、塗布法などによってポリフェニレンオキサイド(PPO)支持膜にスルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体からなる分離層を積層して複合膜を作製する必要がある。このため、製造工程が煩雑であり、製造コストが高くなるという問題がある。さらに、特許文献2に記載されている塗布法においては、塗布厚みムラの発生を避けられないため、塗布後の乾燥工程で分離層が形成される際に、ピンホールやクラック等の分離層の欠陥が生じ易い問題がある。
【0008】
また、従来の界面重合法や塗布法によって作製された複合膜では、通常、支持膜と分離層との間に共有結合やイオン結合のような強い結合は存在しない。そのため、通常のろ過運転、すなわち分離層側から支持膜側に水圧がかかる場合には膜の完全性に問題を生じないが、逆圧洗浄のように、支持膜側から分離層側に水圧がかかる処理においては、分離層が剥離してしまう問題を生じる。
【0009】
具体的には、特許文献2では、スルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体の層と、ポリビニルアルコールの層との間は、イオン結合を介した接着力が働いているため、密着性が良好である。しかし、PPO支持膜とスルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体の層との間には、何らの化学結合も存在しないため、逆圧洗浄によって分離層の剥離が生じ易く、その結果、膜性能が低下してしまう問題がある。
【0010】
本発明は、上記の課題に鑑み、ポリフェニレンオキサイド(PPO)を含む支持膜と、イオン性官能基を有するポリビニルアルコール(PVA)からなる分離層と、を備える複合膜であって、簡便な方法で製造可能であり、支持膜と分離層の結合性に優れており、逆圧洗浄時などにおいて分離層の剥離が生じ難く、ピンホール等の分離層の欠陥が生じにくい複合膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1) ポリフェニレンオキサイドを含有する支持膜と、
前記支持膜の一方の主面に設けられた分離層と、を備え、
前記支持膜の前記一方の主面において、ポリフェニレンオキサイドがスルホン化されており、
前記分離層は、イオン性官能基を有するポリビニルアルコールからなる、複合膜。
【0012】
(2) 前記支持膜の前記一方の主面における硫黄元素の比率が0.2~10%である、(1)に記載の複合膜。
【0013】
(3) 前記イオン性官能基は、4級アンモニウム基を含むカチオン性官能基である、(1)または(2)に記載の複合膜。
【0014】
(4) 前記イオン性官能基は、スルホン酸基を含むアニオン性官能基である、(1)~(3)のいずれかに記載の複合膜。
【0015】
(5) 前記分離層において、前記ポリビニルアルコールが架橋されている、(1)~(4)のいずれかに記載の複合膜。
【0016】
(6) (1)~(5)のいずれかに記載の複合膜の製造方法であって、
前記支持膜の表面に硫酸を接触させて、表面の少なくとも一部をスルホン化させるスルホン化工程と、
前記支持膜のスルホン化された表面に前記分離層を吸着させる吸着工程と、
を含む製造方法。
【0017】
(7) 前記スルホン化工程において、前記支持膜の表面に90~98質量%の濃硫酸を接触させる、(6)に記載の製造方法。
【0018】
(8) ポリフェニレンオキサイドを含有する多孔質膜であって、
前記多孔質膜の前記一方の主面において、ポリフェニレンオキサイドがスルホン化されている、多孔質膜。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ポリフェニレンオキサイド(PPO)を含む支持膜と、イオン性官能基を有するポリビニルアルコール(PVA)からなる分離層と、を備える複合膜であって、簡便な方法で製造可能であり、支持膜と分離層の結合性に優れた、複合膜を提供することができる。
【0020】
なお、本発明においては、PPO支持膜の表面をスルホン化し、そのスルホン化された表面に、イオン性官能基を有するポリビニルアルコールの分離層を積層すればよい。このため、特許文献2に開示されるようなPPO膜とスルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体からなる分離層との複合膜を作製する必要がなく、PPOを含む支持膜とPVAからなる分離層とを備える複合膜を簡便な方法で製造することができる。
【0021】
また、本発明において、支持膜は、スルホン化PPO相とPPO相が連続的に変化する非対称膜構造を有するため、特許文献2に開示されるようなPPO膜とスルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体からなる複合膜のような異種ポリマーの接合界面を有しない。そのため、逆圧洗浄時等における分離層の剥離等の欠陥は生じ難い。
【0022】
また、PVA分離層は、PPO支持膜のスルホン化された表面(スルホン化PPO)とイオン結合を介して接着している。このため、最終的に得られた複合膜においても、支持膜と分離層との接合性が高く、逆圧洗浄時等における分離層の剥離等の欠陥は生じ難い。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の複合膜において、支持膜の主面に分離層が形成される工程を示す模式図である。
図2】本発明の複合膜において、支持膜の主面に分離層が形成される工程を示す模式図である。
図3】本発明の複合膜において、支持膜の主面に分離層が形成される工程を示す模式図である。
図4】本発明の複合膜において、支持膜の主面に分離層が形成される工程を示す模式図である。
図5】本発明の複合膜の断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<複合膜>
本発明の複合膜は、ポリフェニレンオキサイドを含有する支持膜と、支持膜の一方の主面に設けられた分離層と、を備える。
支持膜の一方の主面(分離層が設けられる側の主面)において、ポリフェニレンオキサイドがスルホン化されている。
分離層は、イオン性官能基を有するポリビニルアルコールからなる。
【0025】
本発明の複合膜は、ポリフェニレンオキサイドを含有する支持膜(例えば、アニオン性のスルホン化されたポリフェニレンオキサイドからなる支持膜)の主面に、イオン性官能基を有するポリビニルアルコールからなる分離層(例えば、架橋されたPVA薄膜)を備えることにより、一価および多価イオン、中性物質等に対して高度な分離性能を有するため、例えば、液体処理膜、ガス分離膜などとして好適に用いることができる。特に、逆浸透膜として好適に用いることができる。
【0026】
〔支持膜〕
支持膜は、ポリフェニレンオキサイド(PPO)を含有する。支持膜は、多孔性膜であることが好ましい。
【0027】
支持膜は、PPOのみから構成されていてもよく、PPO以外の材料を含んでいてもよい。なお、少なくとも支持膜の一方の主面にはPPOが存在していることが好ましい。ポリフェニレンオキサイドは、アルカリおよび遊離塩素に対する化学耐久性および耐水性に優れ、かつ機械強度が良好で、溶液製膜に適した成形加工性を有するエンジニアリングプラスチックである。
【0028】
そして、本発明者は、PPOを含有する支持膜は、その表面を濃硫酸に接触させることで、支持膜の機械強度を低下させることなく、膜表面を容易かつ効率的にスルホン化させることができることを見出した。
【0029】
ポリフェニレンオキサイド(PPO)の代表例としては、下記式(1)で表される構造を有するPoly(2,6-dimethyl-1,4-phenylene oxide)が挙げられる。なお、式(1)中、nは自然数を表す。
【0030】
【化1】
【0031】
なお、市販の入手容易なエンジニアリングプラスチックとしては、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンオキサイド(PPO)、ポリフェニレンサルファイドなどが挙げられるが、ポリフェニレンオキサイドのみが、分子量を低下させることなく硫酸を用いて容易にスルホン化することが可能であり、かつ硫酸に不溶である。
【0032】
例えば、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフェニルスルホン等のポリアリールスルホン系ポリマーは、硫酸に溶解するか、または著しく膨潤してしまう。あるいは、主鎖中のスルホニル基の電子吸引性のために隣接するベンゼン環のスルホン化が起こりにくい。このような理由から、硫酸による支持膜のスルホン化は困難であった。
【0033】
なお、ポリフッ化ビニリデンは、その化学構造中にベンゼン環を有しないため、硫酸によるスルホン化が困難であった。これらのポリマーのスルホン化方法として、高温の濃硫酸、クロロ硫酸、発煙硫酸などの激しい反応条件を用いればスルホン化は可能であるが、支持膜の構造が損われやすく、また経済性および作業性の観点からも好ましくない。ポリエーテルエーテルケトンは硫酸でスルホン化が容易であったが、硫酸に溶解してしまう。ポリフェニレンサルファイドはほとんど全ての溶媒に不溶であり、溶液製膜自体が困難である。
【0034】
支持膜に用いるポリフェニレンオキサイドの数平均分子量は、5,000以上500,000以下であることが好ましい。この範囲であれば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等の非プロトン性溶媒に高温で溶解可能であり、湿式相分離法または乾湿式相分離法により、十分な強度の支持膜を作製することができる。
【0035】
上記の支持膜は、膜物性を好適化するために、種々公知の添加物を含んでいてもよい。添加物としては、例えば、ポリマー(ポリスチレン等)、フィラー、界面活性剤、親水化剤(ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン等)が挙げられる。
【0036】
ポリフェニレンオキサイドを溶解する溶媒としては、例えば、国際公開第2014/054346号公報などを参考にすることができる。溶媒としては、例えば、非プロトン性極性溶媒のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)が挙げられる。これらの溶媒は、約80℃以上の温度でPPOを溶解可能であり、また比較的環境負荷が小さいため、好適に用いることができる。これらのうちNMPがより好ましい。
【0037】
支持膜を得るための製膜方法としては、湿式相分離法または乾湿式相分離法が好ましく用いられる。湿式製膜法は、溶液状の製膜原液を、製膜原液中の良溶媒とは混和するがポリマーは不溶であるような非溶媒からなる凝固浴中に浸漬させ、ポリマーを相分離させて、析出させることによって、膜構造を形成させる方法である。また、乾湿式製膜法は、製膜原液を凝固浴に浸漬する直前に、製膜原液の表面から、溶媒を一定期間、蒸発乾燥させることにより、より膜表層のポリマー密度が緻密となった非対称構造を得る方法である。本発明では、乾湿式製膜法が選択されることがより好ましい。
【0038】
本発明の支持膜(および複合膜)の形態は、特に限定されないが、平膜または中空糸膜が好ましい。これらの膜は、いずれも当業者に公知の方法で製造することができる。例えば、平膜は、製膜原液を基板上にキャスティングし、所望により、一定期間の乾燥期間を与えた後に、凝固浴に浸漬することにより製造することができる。中空糸膜は、二重円筒型の紡糸ノズルの外周スリットから、製膜原液を中空円筒状となるように吐出させ、その内側のノズル内孔からは、非溶媒、潜在溶媒、良溶媒もしくはこれらの混合溶媒、または、製膜溶媒とは相溶しない液体、または、窒素、空気などの気体などの流体を、製膜原液と一緒に押出して、所望により、一定期間の乾燥期間を与えた後に、凝固浴に浸漬することにより製造することができる。
【0039】
製膜原液におけるポリフェニレンオキサイドの濃度は、支持膜の機械強度を十分にしつつ、支持膜(多孔性支持膜)の透水性能や表面孔径を好適にする観点から、5質量%以上60質量%以下であることが好ましく、10質量%以上50質量%以下であることがより好ましい。
【0040】
製膜原液の温度は、好ましくは40℃以上であり、より好ましくは60℃以上である。温度の上限は、好ましくは上記の非極性プロトン溶媒の沸点以下、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは100℃未満である。製膜原液の温度が上記範囲より低くなると、ポリフェニレンオキサイドが熱誘起相分離により、析出してしまうことがある。一方、製膜原液の温度が、上記範囲より高くなりすぎた場合には、製膜原液の粘度が低下し、成形が難しくなることがある。また、製膜原液中の良溶媒の蒸発速度や、凝固浴中での溶媒交換速度が大きくなるため、膜表面のポリマー密度が緻密になりすぎて、支持膜としての透水性が著しく低下することがある。
【0041】
乾湿式製膜法では、凝固浴に製膜原液を浸漬させる工程の前に、一定の溶媒乾燥時間が付与される。乾燥時間や温度は特に限定されず、最終的に得られる支持膜の非対称構造が、所望のものとなるように調節されるべきである。例えば、5~200℃の雰囲気温度において、0.01~600秒間、部分的に溶媒を乾燥させることが好ましい。
【0042】
湿式製膜法あるいは乾湿式製膜法に用いる凝固浴の非溶媒は、特に限定されないが、公知の製膜法と同様に、水、アルコール、多価アルコール(エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリンなど)が好ましく、これらの混合液体であってもよい。簡便性、経済性の観点から、水を主成分とすることが好ましい。
【0043】
また、凝固過程における溶媒交換速度を制御し、膜構造を好ましいものにするという観点から、凝固浴の非溶媒に製膜溶媒(NMP、DMAc等)が添加されることが好ましい。凝固浴の粘度を制御する観点から、凝固浴中には多糖類や水溶性ポリマーなどが加えられてもよい。
【0044】
凝固浴の温度は、支持膜(多孔性支持膜)の孔径制御、経済性、作業安全の観点から適宜選択される。具体的には、5℃以上100℃未満が好ましく、10℃以上80℃以下がより好ましい。温度がこの範囲より低いと、凝固液の粘度が高くなり、より遅延的に脱混合過程が進行する結果、膜構造が緻密化し、膜の透水性能が低下する傾向がある。また、温度がこの範囲より高いと、より瞬間的に脱混合過程が進行する結果、膜構造が疎になって、膜強度が低下する傾向がある。
【0045】
凝固浴に浸漬する時間は、相分離によって支持膜の構造が十分形成される時間を調整すればよい。十分凝固を進行させ、かつ工程を無駄に長くしないという観点からは、0.1~1000秒の範囲内が好ましく、1~600秒の範囲内がより好ましい。
【0046】
凝固浴での膜構造形成を完了して得られた支持膜は、水洗されることが好ましい。水洗方法としては、特に限定されず、十分な時間に浸漬されても良く、ロール間を搬送されながら流水で一定時間、洗浄されても良い。
【0047】
水洗された支持膜は、水を含んだ状態で保管してもよく、乾燥させた状態で保管してもよい。
【0048】
(支持膜のスルホン化)
上記の支持膜は一方の主面において、PPOがスルホン化されている。
スルホン化された一方の主面は、スルホン酸基に由来するアニオン性電荷を有していることが好ましい。
【0049】
スルホン化の方法としては、支持膜の表面をスルホン化剤に接触させてスルホン化する方法が特に好ましく用いられる。この理由は、スルホン化剤の濃度を適度に制御した溶液に膜を接触させることで、膜表面や表面細孔のみがスルホン化されて、バルク(内部)のポリマー成分はスルホン化されないため、膜全体の機械強度を低下させることなく、膜表面を高度にスルホン化することができるからである。
【0050】
このように形成したスルホン化膜は、スルホン化ポリマー相とバルクのニートポリマー相が連続的に変化した傾斜型構造を有する非対称膜であるために、逆圧洗浄のような支持膜側から分離層側に水圧がかかる操作においても、分離層の剥離を生じないという大きな利点を有する。
【0051】
なお、支持膜は、少なくとも一方の主面(分離層が設けられる側の主面)において、PPOがスルホン化されていればよいが、上記のようなスルホン化方法を用いる場合は、通常は支持膜の表面に加えて、表層部(細孔表面を含む)がスルホン化される。
【0052】
ポリフェニレンオキサイドは、スルホン化されることにより、例えば、下記式(2)の右側に示されるスルホン酸基が導入された構造単位を含む共重合体となる。なお、式(2)中、nおよびmは各々独立の自然数を表す。
【0053】
【化2】
【0054】
なお、本発明において、スルホン化手法としては、例えば、あらかじめスルホン化されたポリマーを支持膜に塗布して複合膜を作製するような手法は含まれない。このような方法は、前述のとおり、逆圧洗浄のような操作において分離層の剥離を生じやすいからである。
【0055】
また、製膜原液として、あらかじめスルホン化されたポリマー(PPO)、または、スルホン化されたポリマーを添加したポリマー原液を用いて、支持膜を作製する方法では、膜表面だけでなくバルク相(内部)もスルホン化された状態になる。しかし、膜全体が高いスルホン化度を有するポリマーからなる支持膜は、機械強度が低くなってしまう問題がある。したがって、後述されるLayer-by-Layer法により、イオン性ポリビニルアルコールを吸着させる工程を効果的に行うためには、支持膜の表面が十分スルホン化されている必要があるが、膜内部のポリマーはスルホン化されないような方法が好ましい。
【0056】
スルホン化剤としては、硫酸を用いることが簡便かつ安価であるために好ましい。ポリフェニレンオキサイドは主鎖のベンゼン環上で求電子置換反応を受けやすく、スルホニル基のような電子吸引性官能基を主鎖に含まないために、容易にスルホン化することができる。
【0057】
硫酸濃度は、好ましくは90%以上98%以下であり、より好ましくは92%以上96%以下である。なお、発明者の知見によれば、92~96%程度の比較的低濃度の硫酸によっても、支持膜をスルホン化することが可能である。
【0058】
硫酸と接触させる時間は、硫酸濃度と反応温度にもよるが、好ましくは10秒~6時間であり、より好ましくは30秒~2時間である。
【0059】
これらの範囲より硫酸濃度が低い、または反応時間が短い場合、PPO支持膜のスルホン化が十分でなく、後段のイオン性ポリビニルアルコールの吸着が効果的に進行せず、十分な分離性能が得られない可能性がある。また、硫酸濃度が高い、または反応時間が長い場合、過度に膜のスルホン化が進行する結果、膜表面が膨潤し、細孔径が大きくなってしまって十分な分離性能が得られない可能性がある。
【0060】
他のスルホン化剤としては、クロロ硫酸、発煙硫酸、三酸化硫黄などのより反応性の高いスルホン化剤を使用してもよい。ただし、コスト、環境負荷、スルホン化度の制御性などの観点から、硫酸を用いることが好ましい。
【0061】
膜表面のスルホン化度については特に限定されるものではないが、後段のLayer-by-Layer処理後の複合膜の性能および支持膜の機械強度が最適化されるような条件が選ばれる。
【0062】
スルホン化度の評価としては、スルホン化後の支持膜のNaCl阻止率評価が好適に用いられる。NaCl阻止率の評価において、例えば0.5MPa,NaCl濃度1500ppmの評価条件において、阻止率が5~70%の範囲内であることが好ましく、10~60%であることがより好ましい。
【0063】
スルホン化度の評価として、X線光電子分光法(XPS)による元素組成測定によって、支持膜の表面におけるスルホン酸基由来の硫黄元素の量を相対比較する方法も好適に用いることができる。XPSによる硫黄元素率は、残溶媒由来の元素量比などによって値が多少左右される可能性があるが、支持膜の一方の主面(分離層が設けられる側の主面)における硫黄元素の比率は、好ましくは0.2~10%であり、より好ましくは0.5~5%である。なお、支持膜の他方の主面における硫黄元素の比率は、0.5%未満であることが好ましい。
【0064】
支持膜を硫酸に浸漬する方法としては、平膜や外圧ろ過式の中空糸膜の場合、例えば、硫酸を満たした槽に支持膜を浸漬させるバッチ処理、または、ロール間搬送による連続浸漬処理を好適に用いることができる。
【0065】
硫酸処理された支持膜は、純水で洗浄されることが好ましい。硫酸が残留しないように、純水洗浄時間を長くする、または多段階の洗浄工程を行うことが好ましい。洗浄後に必要に応じて、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウムなどの無機塩の水溶液に浸漬して、スルホン酸基の対イオンをプロトンから無機イオンに置換することも、ポリマーの熱安定性を高める観点からは好ましい。
【0066】
内圧ろ過式中空糸膜の場合には、あらかじめモジュール形態に調製された中空糸膜束の両端ポッティング部を切断開口し、端面から硫酸を注入して、中空糸膜の内表面からスルホン化する手法を用いることが好ましい。
【0067】
硫酸に浸漬する際、支持膜は乾燥状態または含水状態のどちらであってもよい。含水状態の膜を硫酸に浸漬する場合には、硫酸と水が混合することによる発熱と、硫酸槽の濃度変化を低減する観点から、一度低濃度(例えば80~90質量%)の硫酸に浸漬してから、高濃度(例えば90質量%以上)の硫酸を用いた処理を行うことが好ましい。乾燥状態の支持膜の場合には、直接、高濃度(例えば90質量%以上)の硫酸を用いた処理を行うことが好ましい。
【0068】
〔分離層〕
支持膜の一方の主面には分離層が設けられる。
分離層は、イオン性官能基を有するポリビニルアルコールからなる。
【0069】
スルホン化された支持膜の主面(スルホン化PPO)は強いアニオン性を有している。これにより、イオン性官能基を有するポリビニルアルコールを接触させるLbL法により、薄い分離層(例えば、1nm~100nm)を形成させることができる。
【0070】
(ポリビニルアルコール)
分離層の形成には、イオン性官能基を有するポリビニルアルコール(イオン性PVA)が用いられる。
【0071】
イオン性官能基は、カチオン性官能基(カチオン基)およびアニオン性官能基(アニオン基)の少なくともいずれかである。尚、上記のとおり、スルホン化された支持膜の表面はアニオン性であるため、分離膜をLbL法で形成するためには、少なくともカチオン基を有するPVAが使用される。
【0072】
カチオン基を有するポリビニルアルコール(カチオン性PVA)は、公知の重合方法によって準備することができ、メタノールを用いた溶液重合法が簡便であるため好ましく用いられる。酢酸ビニルとカチオン基含有モノマーを共重合した後、アルカリによりケン化処理し、目的のカチオン化ポリビニルアルコールを得る方法を採用してもよいし、あらかじめケン化されたポリビニルアルコールの水酸基の一部を、エポキシ基を有するカチオン化剤と反応させて、カチオン化共重合体を得る方法を採用してもよい。
【0073】
カチオン基としては、アミノ基、イミノ基、アンモニウム基、スルホニウム基、ホスホニウム基などが挙げられるが、入手のしやすさ、遊離塩素への耐久性が良好である点から、4級アンモニウム基が好ましい。またカチオン基を含有するモノマーユニットは、アルカリによる加水分解への耐性を付与する観点から、エステル結合を含まないものであることが好ましい。2種類以上のカチオン基含有モノマーが、ポリビニルアルコール(共重合体)に含まれていても構わない。
【0074】
なお、カチオン基の対イオンは特に限定されないが、塩化物イオンが簡便であり好ましい。
【0075】
また、カチオン性PVA共重合体について、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって得られた微分分子量分布曲線において、重量平均分子量(Mw)は10,000以上200,000以下であることが好ましい。
【0076】
具体的なカチオン性PVAとしては、例えば下記式(3)で示されるジアリルジメチルアンモニウムクロリドの環化重合物を含むポリビニルアルコール共重合体が、遊離塩素耐性およびアルカリ耐性に優れており好ましい。なお、式(3)中、m,nおよびlは各々独立の自然数を表す。(以下、式(4)~(8)においても同様。)
【0077】
【化3】
【0078】
他のカチオン性PVAの例としては、下記式(4)で示される3-(メタクリルアミド)プロピルトリメチルアンモニウムクロライドの重合物を含むポリビニルアルコール共重合体が、アミド結合を有するため遊離塩素耐性に劣るものの、アルカリ耐性に優れているため好ましい。
【0079】
【化4】
【0080】
さらに他のカチオン性PVAの例としては、下記式(5)で示されるグリシジルトリメチルアンモニウムクロライドをポリビニルアルコールの水酸基に一部反応させたポリビニルアルコール共重合体が、遊離塩素耐性およびアルカリ耐性に優れており好ましい。
【0081】
【化5】
【0082】
アニオン基を有するポリビニルアルコール(アニオン性PVA)も同様に公知の重合方法によって調製することができ、メタノールを用いた溶液重合法が簡便な方法として好適に用いられ得る。例えば、酢酸ビニルとアニオン基含有モノマーを共重合した後、アルカリによりケン化処理し、目的のアニオン性ポリビニルアルコール(共重合体)を得る方法を採用することが簡便で好ましい。
【0083】
アニオン基としては、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基などが挙げられる。入手のしやすさ、イオン乖離性が良好である点から、スルホン酸基が特に好ましい。また、アニオン基を含有するモノマーユニットは、アルカリによる加水分解への耐性を付与する観点から、エステル結合を含まないものであることが好ましい。2種類以上のアニオン基含有モノマーが、ポリビニルアルコール(共重合体)に含まれていても構わない。
【0084】
なお、アニオン基の対イオンは特に限定されないが、ナトリウムイオンやカリウムイオンが簡便であり好ましい。
【0085】
アニオン性PVAの具体例としては、下記式(6)で示されるビニルスルホン酸ナトリウムの重合物を含むポリビニルアルコール共重合体が、遊離塩素耐性およびアルカリ耐性に優れており好ましい。
【0086】
【化6】
【0087】
アニオン性PVAの他の例としては、下記式(7)で示されるアリルスルホン酸ナトリウムの重合物を含むポリビニルアルコール共重合体が、遊離塩素耐性およびアルカリ耐性に優れており好ましい。
【0088】
【化7】
【0089】
さらにアニオン性PVAの他の例としては、下記式(8)で示される2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウムの重合物を含むポリビニルアルコール共重合体が、アミド結合を有するため遊離塩素耐性に劣るものの、アルカリ耐性に優れているため好ましい。
【0090】
【化8】
【0091】
上記のイオン性PVAがカチオン基含有構造単位を含むPVA共重合体である場合、PVA共重合体におけるイオン性官能基(特にカチオン基)含有構造単位の導入率は、0.3~6%であることが好ましい。なお、イオン性官能基含有構造単位の導入率M(%)は、上記式中の記号m、n、lを用いた以下の式で表される。
M=100×m/(m+n+l)
なお、イオン性官能基の導入量は、例えば重水溶媒を用いてプロトン核磁気共鳴法(H-NMR)によって測定することができる。
【0092】
イオン性官能基含有構造単位の導入率Mが上記範囲よりも小さいと、スルホン化支持膜表面とポリビニルアルコール共重合体とのイオン結合数が少なすぎるために、吸着層が十分形成されず、結果的に最終的な複合膜の脱塩性能が十分得られない可能性がある。また、イオン性官能基含有構造単位の導入率Mが上記範囲よりも大きいと、分離層内の荷電密度が高くなりすぎるため、孔径が大きくなり、結果的に最終的な複合膜の脱塩性能が十分得られない可能性がある。
【0093】
上記のイオン性ポリビニルアルコールにおけるアセチル化度は、20%未満であることが好ましい。すなわち、ケン化度が、80%以上100%未満であることが好ましい。アセチル化度がこの範囲より高いと、後述されるアルデヒドによる架橋密度が低くなり、複合膜の脱塩性能が低下する傾向がある。上記式中の記号lで表される酢酸ビニル構造単位のアセチル基は、アルカリ加水分解を容易に受けるため、少ないほうが好ましい。アセチル化度は、より好ましくは5%未満であり、さらに好ましくは1%未満である。アセチル化度A(%)は上記式中の記号n、lを用いた以下の式で表される。
A=100×l/(n+l)
なお、アセチル化度(またはケン化度)は、例えば重水溶媒を用いて、プロトン核磁気共鳴法(H-NMR)によって決定することができる。
【0094】
イオン性ポリビニルアルコールの分子量は複合膜の脱塩率に影響を及ぼす。ポリマーのアセチル化度によっても、ポリビニルアルコール共重合体の分子量と膜性能は変化するが、上記のアセチル化度で規定される範囲であって、分子量範囲が、10000以上200000以下において、複合膜の性能が好ましいものとなる。分子量がこの範囲より小さいと、吸着分子のコイル径が小さくなりすぎて、支持膜表面から膜内部へポリマーが侵入するようになり、分離層に微細な欠陥を生じやすくなると考えられる。また、分子量がこの範囲より大きいと、吸着分子のコイル径が大きくなりすぎる結果、やはり分離層に微細な欠陥が生じると考えられる。分子量は、より好ましくは20000以上180000以下である。
【0095】
なお、イオン性ポリビニルアルコールの重量平均分子量(分子量)は、10mMのトリフルオロ酢酸ナトリウムを添加したヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定され、標準物質としてポリメチルメタクリレート換算にて算出される。
【0096】
(支持膜への分離層の吸着)
スルホン化PPO支持膜の表面はアニオン性を有しているので、上記のイオン性官能基を有するポリビニルアルコール(例えば、その水溶液)を接触させると、公知のLayer-by-Layer(LbL)法を用いて、クーロン力を介した吸着層を形成させることができる。
【0097】
また所望によって、アニオン性官能基を有するポリビニルアルコール共重合体の水溶液をさらに支持膜表面に接触させることが好ましい。また、これらの正負のイオン性基を有するポリビニルアルコール共重合体の水溶液を交互に支持膜に接触・吸着させるサイクルを複数回繰り返すことにより、ポリマー吸着量を調整することができる。この際、支持膜表面を純水でリンス処理する工程を1秒~30分程度の範囲で間に挟むことが好ましい。各ポリマー溶液へ支持膜を接触させる時間は、好ましくは1分以上6時間以下であり、より好ましくは10分以上1時間以下である。ポリマー水溶液の温度は5℃以上40℃未満が好ましい。10℃以上30℃以下がより好ましい。これらの条件の範囲内で陥(例えば1nm以上100nm以下の大きさの欠陥)のない、完全性の高い複合膜を得ることができる。
【0098】
(ポリビニルアルコールの架橋)
分離層において、前記ポリビニルアルコールが架橋されていることが好ましい。
【0099】
PVAの水酸基をグルタルアルデヒド等の架橋剤で架橋する(アセタール化する)ことにより、PVA分離層の親水性を低下させ、かつ緻密化させることができる。LbL法によって極めて薄く、かつ欠陥なく形成されたPVA分離層を架橋処理することによって、透過選択性に優れ、高度な脱塩率を有する複合膜を得ることができる。
【0100】
架橋剤としては、アルデヒドを用いることが簡便かつ経済的であるため好ましい。アルデヒド(アルデヒド化合物)としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、グリオキサール、マロンジアルデヒド、スクシンアルデヒド、グルタルアルデヒド、ベンズアルデヒド、オルトフタルアルデヒド、イソフタルアルデヒド、テレフタルアルデヒド、1,3,5-ベンゼントリカルボアルデヒドなどを用いることができる。これらのうち、架橋剤の反応性が優れており、かつ架橋物の耐酸加水分解性が良好である観点から、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒドを用いることが好ましい。特にグルタルアルデヒドを用いることが好ましい。
【0101】
上記の架橋剤は、溶液の状態で(架橋液として)、支持膜の表面に接触させることが好ましい。溶媒は限定されないが、0.1質量%以上のアルデヒドを溶解可能な溶媒を選択することが好ましく、1質量%以上のアルデヒドを溶解可能な溶媒を選択することがより好ましい。溶媒は、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールまたはこれらの混合溶媒であることが好ましい。静電気力によるポリマー吸着を効果的に進行させるために、溶媒は水を主成分として50質量%以上含有することが好ましい。
【0102】
例えば、支持膜1の表面において、上記のイオン性ポリビニルアルコール(例えば、カチオン性PVA2単独(図1図2)、または、カチオン性PVA2およびアニオン性PVA3の組み合わせ(図3図4))の吸着およびアルデヒドによる架橋(架橋部4の形成)の工程を1サイクル(図1図3参照)として、このサイクルを2回以上行うことが好ましい(図2図4参照)。吸着と架橋のサイクルを1回行っただけでも脱塩性能は発現可能であるが、2回以上行うことで、より欠陥の少ない分離層を作製することができるため好ましい。なお、膜性能を最適化する観点から、1回目のアルデヒド架橋条件(アルデヒドの種類、架橋液濃度、架橋温度、架橋時間)と、2回目以降のアルデヒド架橋条件を変更してもよい。
【0103】
支持膜と架橋液を接触させる時間は、反応を十分行って架橋密度を高くする観点から、10分以上24時間以下であることが好ましい。
【0104】
架橋処理の温度は、反応性を十分高くする観点から、好ましくは10~80℃であり、より好ましくは20~50℃以下である。
【0105】
架橋溶液には触媒として酸が含まれていることが好ましい。酸としては、硫酸、塩酸、酢酸、クエン酸などを用いることができるが、硫酸を用いることが簡便かつ架橋反応に効果的であるため好ましい。
【0106】
上述のアセタール化による架橋とは、ポリビニルアルコール(共重合体)において、隣接するビニルアルコール構造単位の2個の水酸基とアルデヒド基が脱水縮合した分子内架橋構造を形成することを含み、また、ジアルデヒドやトリアルデヒドによって複数の環状アセタールを介して、ポリマー分子間を連結した架橋構造を形成することも含む。
【0107】
上記の分離層を有する複合膜は、RO膜として高度な脱塩性能を有している。さらに支持膜と分離層がクーロン結合で強固に接着しているため、逆圧洗浄のような操作を行っても、分離層の剥離やピンホール形成による性能低下が起こらない。
【0108】
なお、複合膜における架橋されたイオン性PVA分離層の厚みは、好ましくは1~100nmである。より好ましくは5nm以上50nm以下である。
【実施例
【0109】
<支持膜A1およびA2(PPO中空糸膜)の作製>
SABICイノベーティブプラスチックス社製のポリフェニレンオキサイドPPO646(以下PPO)に、その濃度がA1:30質量%、A2:35質量%となるように、N-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPと略す。)を加えて混練しながら、130℃で溶解させて、均一な製膜原液を得た。
【0110】
次に、二重円筒管ノズルを用いて、外液として製膜原液を押出し、同時に内液として20質量%のNMPを含むNMP水溶液を中空部より吐出することで、成膜原液を中空糸形状に成形した。吐出糸は常温のエアギャップで乾燥処理を行って、その後、純水で満たした凝固浴に25℃にて浸漬させた。得られたPPO中空糸膜は十分に洗浄処理し、残溶媒等の不純物を除去した後、常温で乾燥させた。支持膜A1のPPO中空糸膜の外径は250μm、膜厚は50μm、純水透過係数は24LMH/barであった。また支持膜A2の中空糸膜の外径は144μm、膜厚は42μm、純水透過係数は0.5LMH/barであった。
【0111】
<硫酸による支持膜A1およびA2のスルホン化>
乾燥した支持膜A1およびA2(PPO中空糸膜)800本を1m長のループ状にして、両端の開口部を封止して束ねた。続いて、この糸束を表2(実施例1~5)に示される濃度に調製した硫酸で満たしたポリテトラフルオロエチレン製容器に、表2(実施例1~4)に示される時間浸漬して、中空糸膜の外表面のスルホン化処理を行った。硫酸処理後、スルホン化されたPPO中空糸膜束を10℃の純水槽に浸漬し、洗浄液のpHが中性になるまで十分水洗を行った。
【0112】
得られた中空糸膜束で評価用モジュールを作製し、純水透過試験および塩水ろ過試験を行い純水透過係数およびNaCl阻止率を測定するとともに、中空糸膜の破断強度と、膜表面の硫黄(S)元素率の測定を行った。その結果、表2(実施例1~5)に示される実験結果を得た。
【0113】
なお、支持膜についての純水透過試験、塩水ろ過試験、破断強度の測定、膜表面の硫黄(S)元素率の測定、および、形状評価の詳細は後述するとおりである。
【0114】
<支持膜B(PPO平膜)の作製>
支持膜Aと同じ方法でPPOの製膜原液を得て、これをホットプレート上に設置した金属基板にポリエステル抄紙(廣瀬製紙製05TH-60)を固定し、この上から80℃に保温した製膜原液をハンドコーターで塗布した。金属基板上の塗布膜を純水で満たした凝固浴に25℃にて浸漬して、PPO平膜を得た。その後、膜を洗浄処理し、残溶媒等の不純物の除去を行った。ポリエステル抄紙部分を除いたPPO平膜の厚みは40μmであった。純水透過試験を行ったところ、純水透過係数は32LMH/barであった。
【0115】
<硫酸による支持膜Bのスルホン化>
乾燥した支持膜B(PPO平膜)をポリテトラフルオロエチレン製の枠で挟みこみ、支持膜の外表面に表2(実施例6)に示される濃度の硫酸を充填して、膜外表面のスルホン化を行った。硫酸処理後、スルホン化されたPPO平膜を10℃の純水で洗浄し、洗浄液のpHが中性になるまで十分水洗を行った。
【0116】
得られた平膜について、上記と同様にして、純水透過係数およびNaCl阻止率を測定するとともに、膜表面の硫黄(S)元素率の測定を行った。その結果、表2(実施例6)に示される実験結果を得た。
【0117】
<支持膜C(PPO中空糸膜)の作製>
凝固浴のNMP水溶液の温度を40℃に変更したこと以外は、支持膜Aと同じ作製方法で中空糸膜を得た。PPO中空糸膜の外径は250μm、膜厚は50μmであった。純水透過係数は90LMH/barであった。
【0118】
<スルホン化PPO(SPPO)ポリマーの合成>
5LフラスコにAr気流下、PPO100gをクロロホルム3200gに溶解させて、室温下、クロロ硫酸80gのクロロホルム溶液を滴下し、2時間スルホン化反応を進行させて反応物を得た。続いて、この反応物をヘキサンに再沈させてろ過を行った。ろ過されたケーク状物を破砕し、1Mの炭酸ナトリウム水溶液に浸漬して、反応物中のスルホン酸基をナトリウムイオンで中和した。その後、ポリマーをミキサーでフレーク状にして、イオン交換水で十分に水洗して、炭酸ナトリウム塩を完全に除去した。その後、ポリマーを乾燥させて目的物のスルホン化PPO(SPPO)ポリマーを得た。H-NMRにより測定したスルホン化度は20mol%であった。
【0119】
<支持膜CへのSPPOのコーティング>
支持膜Cに対して、上記のように合成されたSPPOポリマーをコーティングすることによって、以下の手順により複合膜を作製した。ボビンに巻き取った含水状態の中空糸状支持膜Cを巻出して、ローラー上を走行させて、80質量%濃度のグリセリン水溶液で満たした40℃の槽に含浸し、目詰め処理を行った。その後、グリセリンで目詰めされた中空糸膜を、1質量%のSPPOを溶解させたジメチルスルホキシド溶液で満たした槽にディップし、垂直に引き上げながら、対流式乾燥炉に導いて、160℃で1分間乾燥処理を行った。
【0120】
乾燥した中空糸膜800本を1m長のループ状にして、評価用モジュールを作製した。評価用モジュールをエタノールに30分間浸漬した後、純水に完全に置換してから、上記と同様にして、純水透過係数およびNaCl阻止率を測定した。また、上記と同様にして、中空糸膜の破断強度と、膜表面の硫黄(S)元素率を測定した。その結果、表2(比較例1)に示される実験結果を得た。
【0121】
<支持膜D(SPPOポリマーを製膜してなる中空糸膜)の作製>
(SPPOの製膜)
上記のように合成されたSPPOポリマーを30質量%となるようにNMPを加えて溶解、混練し、均一な製膜原液を得た。この成膜原液を二重円筒管から押し出して、内液として5質量%の硝酸アンモニウム水溶液を用いて、中空糸状に成形し、エアギャップで乾燥させた後、純水で満たした凝固浴中で凝固させることで、SPPO中空糸膜を作製した。SPPO中空糸膜の外径は250μm、膜厚は50μmであった。
【0122】
得られた含水状態の中空糸膜800本を1m長のループ状にして、評価用モジュールを作製した。上記と同様にして、純水透過係数およびNaCl阻止率を測定した。また、上記と同様にして、中空糸膜の破断強度と、膜表面の硫黄(S)元素率を測定した。その結果、表2(比較例2)に示される実験結果を得た。
【0123】
〔実施例1~6、比較例1,2〕
上記のようにして得た中空状の支持膜A1およびA2(スルホン化条件の異なる支持膜A1、支持膜製膜条件の異なるA2について各々表2を参照。)および支持膜B,Dの外表面、および平膜状の支持膜Cの外表面に、LbL法を用いて、イオン性PVAからなる分離層を形成した。使用したイオン性PVA(共重合体)の詳細を以下に説明する。
【0124】
(カチオン性ポリビニルアルコール(式(3))の合成)
2Lの丸底フラスコに、還流冷却器、攪拌機、窒素導入口、温度計、触媒およびモノマーの導入口を取り付けた。メタノール440g、酢酸ビニル(VAC)500g、カチオン性モノマーとして60%ジアリルジメチルアンモニウムクロリド(DADMAC)水溶液4.8gを仕込み、窒素を導入しながら、60℃に昇温を行った。反応開始剤には2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(V-65)を用いた。共重合体の組成分布が均一となるように、反応性の高いDADMACは、一部を反応容器内に予め充填し、残量は反応中にフィードする手法をとった。60%ジアリルジメチルアンモニウムクロリド水溶液11.0g、およびV-65をそれぞれメタノール30gに溶解させたものを準備し、定量ポンプ2基で4時間かけて、強撹拌下のフラスコ内溶液に滴下を行った。反応終了時のNV率(不揮発分率)=40質量%であった。温度を室温に下げて酸素をフラスコ内に吹き込むことで、反応を停止した。
【0125】
次に、重合溶液の温度を40℃に保ちながら、水酸化ナトリウムを10質量%含むメタノール溶液を、共重合体中の酢酸ビニル単位に対して50ミリモルとなる量を加えて、1時間ケン化処理を行った。生成した固形物をミキサーで破砕した後、メタノールで十分洗浄し、余剰のアルカリおよびモノマー等の不純物を除去した。その後、ポリマー粉末を自然乾燥した後、50℃で24時間真空乾燥し、目的物のカチオン化ポリビニルアルコール共重合体を得た。
【0126】
得られたカチオン性PVAのケン化度は99.7%であった。GPCによる重量平均分子量は70,200であった。H-NMRにより測定したカチオン性モノマーの導入量は1.1mol%であった。
【0127】
(アニオン性ポリビニルアルコール(式(7))の合成)
アニオン性モノマーとして、アリルスルホン酸ナトリウムを用いたこと以外は、式(3)で示される化合物の合成と同様の方法で、アニオン基含有ポリビニルアルコール共重合体を得た。反応終了時のNV=32%であった。
【0128】
得られたAPVAのケン化度は99.6%であった。GPCによる重量分子量は36,000であった。H-NMRにより測定したカチオン性モノマーの導入量は1.4mol%であった。
【0129】
LbL法を用いて、図1に模式的に示すようにポリビニルアルコール分離層を形成させた。上記のカチオン性ポリビニルアルコール(CPVA)2を単独で用いた場合には、0.1%水溶液のCPVAを、スルホン化PPO(SPPO)支持膜表面1に接触させた後、架橋剤として、1.0質量%のグルタルアルデヒド(GA)に40℃にて2時間接触させて、その後、十分に水洗を行った。これらの処理を第1サイクル(図1参照)として、もう一度同じ条件の処理を第2サイクル(図2参照)として行った。ただし、第2サイクルのGAによる架橋時間は40℃にて15時間行った。このようにして、PVA積層回数が2回である分離膜を得た。
一方、CPVAおよびアニオン性PVA(APVA)を組み合わせた製膜法の場合には、0.1%水溶液のCPVAを、SPPO支持膜表面1に接触させた後、さらに0.1%水溶液のAPVA3を接触させて、架橋剤として、1.0質量%のグルタルアルデヒド(GA)に40℃にて2時間接触させて、その後、十分に水洗を行った。これらの処理を第1サイクル(図3参照)として、もう一度同じ条件の処理を第2サイクル(図4参照)として行った。ただし、第2サイクルのGAによる架橋時間は40℃にて15時間行った。このようにして、PVA積層回数が4回である分離膜を得た。
PVA分離層の形成条件等の概要を表1に示す。
【0130】
【表1】
【0131】
以上のようにして、実施例1~6および比較例1,2の複合膜が製造された。
【0132】
<評価>
(支持膜および複合膜の純水透過係数、イオンの阻止率)
中空糸状の支持膜(支持膜A1、A2,CおよびD)、および、中空糸状の複合膜(実施例1~5および比較例1,2)については、適量の糸束をループ状にして、これを内径13mm、長さ5cmのポリカーボネート製スリーブに挿入した後、2液性エポキシ樹脂をスリーブに注入し、硬化させ封止した。硬化させた中空糸膜の端部を切断することで中空糸膜の開口面を得て、評価用モジュールを作製した。この評価用モジュールを供給水タンク、ポンプからなる中空糸膜性能試験装置に接続して性能評価した。
【0133】
平膜状の支持膜(支持膜B)、および、平膜状の複合膜(実施例6)については、SUEZ社製SEPA-CFIIクロスフロー試験機に供給水タンク、ポンプを接続した評価装置を用いて性能評価を行った。
【0134】
評価条件としては、実施例1、3~6および比較例1、2について、塩化ナトリウムまたは硫酸マグネシウムについて、それぞれ濃度1500mg/Lに調製した供給水溶液を、25℃、圧力5bar(0.5MPa)で、1時間運転させ、その後、膜からの透過水を採取して、電子天秤で透過水重量を測定した。透過水重量は、下記式にて25℃の透過水量に換算した。実施例2については、塩化ナトリウム濃度32000mg/L、25℃、圧力55bar(5.5MPa)にて同じく評価を行った。
透過水量(L)=透過水重量(kg)/0.99704(kg/L)
透水量(FR)は下記式より算出した。
FR[L/m/日]=透過水量[L]/膜面積[m]/採取時間[分]×(60[分]×24[時間])
純水透過係数(A値)は、純水での透過試験を行って透水量(FR)を測定し、下記式にて求めた。
A値[LMH/bar]=FR[L/m/日]/24[時間]/試験圧力[bar]
ここで、LMHはL/m/hを意味する。
【0135】
イオンの阻止率(NaClおよびMgSO)は、以下のように評価した。上記透水量測定で採取した膜透過水と、供給水溶液とを電気伝導率計(東亜ディーケーケー社CM-25R)を用いて伝導率を測定した。イオン阻止率は下記式より算出した。
イオン阻止率[%]=(1-膜透過水伝導率[μS/cm]/供給水溶液伝導率[μS/m])×100
【0136】
(複合膜の逆圧洗浄耐性:NaCl阻止率の保持率)
中空糸状の複合膜(実施例1~5および比較例1,2)について、評価用モジュールの供給液側を大気圧に開放した状態で、中空糸膜束の開口端面の透過側から、10bar(1.0MPa)の圧力にて純水を送液し、逆圧洗浄操作を30分間行った。その後、評価用モジュールのNaCl阻止率を評価して、逆圧洗浄操作前後の阻止率の保持率を評価した。保持率は下記式より算出した。
NaCl阻止率の保持率[%]=100×逆圧洗浄後のNaCl阻止率[%]/逆圧洗浄のNaCl阻止率[%]
平膜状の複合膜(実施例6)については、SEPA-CFIIクロスフロー試験機への膜の配置を上下逆にして、支持膜側から分離層側へ圧力がかかるようにして逆圧洗浄操作を実施した。10bar(1.0MPa)の圧力にて純水を送液し、逆圧洗浄操作を30分間行った。その後、中空糸膜における方法と同じ方法で、NaCl阻止率を評価して、逆圧洗浄操作前後の阻止率の保持率を評価した。
【0137】
(中空糸状の複合膜のつぶれ圧)
中空糸状の支持膜を用いた複合膜(実施例1~5、比較例1および2)については、評価圧力を20分間隔で0.5barずつ昇圧していき、中空糸膜が不可逆的に圧縮変形して透水性が著しく低下するつぶれ圧を測定することで、膜の耐圧性の差異を評価した。耐圧性は中空糸膜の外径と内径の比および膜中のポリマー密度の影響を受けるため、55bar(5.5MPa)で評価した実施例2を除き、実施例1、3、4、比較例1および2については、膜の断面形状を同じにした。
【0138】
なお、平膜状の支持膜を用いた複合膜(実施例6)については、中空糸膜のような圧縮によるつぶれは確認できず、50barまで著しい不可逆な透水低下は確認できなかった。
【0139】
(中空糸状の支持膜の破断強度)
中空糸状の支持膜(支持膜A1、A2,C,D)について引張試験を行い、中空糸膜の機械強度の比較を行った。引張試験機は島津製卓上型精密万能試験機EZTest EZ-SX50Nを用いて、サンプル長50mm、引張速度10mm/分にて評価を行った。破断強度(MPa)は下記の式で算出した。
(破断強度)=(中空糸膜の破断強力)/(中空糸膜の断面積)
【0140】
(支持膜の形状評価)
中空糸膜の形状評価と断面積の計算は以下の方法で行った。直径3mmの孔を空けた2mm厚のSUS板の孔に、適量の中空糸膜束を詰め、カミソリ刃でカットして断面を露出させた後、Nikon製の顕微鏡(ECLIPSE LV100)およびNikon製の画像処理装置(DIGITAL SIGHT DS-U2)およびCCDカメラ(DS-Ri1)を用いて、断面の形状を撮影し、画像解析ソフト(NIS Element D3.00 SP6)により、中空糸膜断面の外径および内径を、該解析ソフトの計測機能を用いて測定することで中空糸膜の外径および内径および厚みを算出した。
平膜の形状評価は、含水状態のサンプルを液体窒素で凍結させ、割断し、風乾させて、その割断面にPtをスパッタリングさせて、(株)日立製作所製の走査型電子顕微鏡S-4800を用いて、加速電圧5kVで観察し、膜部分の厚みを計測した。
【0141】
(支持膜の表面の硫黄比率:表面S率)
X線光電子分光法(XPS)によって、スルホン化膜表面の硫黄元素量を分析することにより、硫黄元素比率を求めた。なお、中空糸状の支持膜および平膜状の支持膜の外表面についてはそのまま測定を行い、中空糸状の支持膜の内表面についてはナイフで開腹して測定した。使用した装置および測定条件は、以下のとおりである。
[装置] K-Alpha+(Thermo Fisher Scientific製)[測定条件]
(励起X線) モノクロ化Al Kα線
(X線出力) 12kV,2.5mA
(光電子脱出角度) 90°
(スポットサイズ) 約200μmφ
(パスエネルギー) 50eV
(ステップ) 0.1eV
【0142】
(複合膜表層部における剥離等の欠損の有無の評価)
複合膜の分離層の剥離およびピンホール等の欠損の有無は、走査型電子顕微鏡(SEM)および透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて評価した。
【0143】
SEM評価については、中空糸状および平膜状の複合膜について、完全に含水させたサンプルを液体窒素で凍結させ、割断し、風乾させて、その割断面にPtをスパッタリングさせて、(株)日立製作所製の走査型電子顕微鏡S-4800を用いて、加速電圧5kVで観察した。
【0144】
TEM評価については、中空糸状および平膜状の複合膜について、これらを電子染色した後、エポキシ樹脂に包埋した。包埋した試料をウルトラミクロトームで超薄切片化し、カーボン蒸着を施してTEM観察を行った。日本電子製JEM-2100透過電子顕微鏡を使用し、観察条件は、加速電圧200kVにて行った。
【0145】
SEMおよびTEMについて、それぞれ膜断面サンプルをn=3で観察し、分離層の剥離やピンホールの有無を確認した。
【0146】
さらに、架橋されたPVA分離層5をTEMで観察する場合には、国際公開第2017/064936号を参考に、マツモトファインケミカル社製のチタンラクテート架橋剤(TC310)の10倍希釈液に、膜サンプルを24時間、40℃の条件で浸漬させ、PVA分離層5中の水酸基の一部を架橋処理し、チタン元素をPVA分離層5内に導入することで、電子密度のコントラストを付与した。その後、同サンプルを十分水洗した後、電子染色を行い、上記と同じ方法でTEM観察を行った(図5)。
【0147】
【表2】
【0148】
表2に示される結果から、本発明に包含される実施例1~6の複合膜では、スルホン化された支持膜が非対称構造であり、かつ支持膜と分離層の結合性も良好であるために、逆圧洗浄後において、スルホン化されたPPO膜表層と、PPO支持膜の間に、剥離等の欠損が生じていないことがわかった。その結果として、NaCl阻止率の保持率が優れていることがわかる。
【0149】
これに対して、PPO支持膜の表面に対して、SPPOをコーティングしてなる2層構造の膜に対してLbL処理を行った比較例1の複合膜では、逆圧洗浄時に、PPO膜とSPPO層との界面での剥がれが観察された。そのため、NaCl阻止率の保持率が低くなったものと考えられる。
【0150】
なお、SPPOからなる支持膜とPVA分離層との複合膜である比較例2では、支持膜と分離層の結合性が高いものの、支持膜全体がSPPOから構成されるため、破断強度が明らかに低下した。
【0151】
図5に示される複合膜の断面写真(TEM像)において、スルホン化されたPPO支持膜1の表層部の一例が確認される。また、スルホン化されたPPO支持膜の表面に形成されたPVA架橋層(PVA分離層5)の一例が確認される。
【0152】
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0153】
1 支持膜
2 カチオン性PVA
3 アニオン性PVA
4 架橋部
5 PVA分離層
図1
図2
図3
図4
図5