(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】データ処理装置およびデータ処理方法
(51)【国際特許分類】
H01J 37/22 20060101AFI20230214BHJP
G01N 23/2252 20180101ALI20230214BHJP
G01N 23/2251 20180101ALI20230214BHJP
【FI】
H01J37/22 502H
G01N23/2252
G01N23/2251
(21)【出願番号】P 2021552008
(86)(22)【出願日】2019-10-15
(86)【国際出願番号】 JP2019040473
(87)【国際公開番号】W WO2021074957
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】星名 豊
(72)【発明者】
【氏名】上村 重明
(72)【発明者】
【氏名】奥村 宗一郎
(72)【発明者】
【氏名】岡本 悠
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 清二
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第7725517(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/22
G01N 23/2252
G01N 23/2251
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1変数、第2変数、第3変数、および第4変数の組み合わせに関連付けられたデータ値を有する元データを格納するメモリと、
前記元データを処理するプロセッサとを備え、
前記プロセッサは、
前記元データに基づいて、前記第1変数および前記第2変数の直積に行番号が対応し、前記第3変数および前記第4変数の直積に列番号が対応する第1行列を生成し、
各行のいずれか1つの要素のみが1であり、他の要素が0であるように2値化された第2行列を生成し、
前記生成された第2行列を用いて、前記第1行列を、前記第1行列よりも低次元の前記第2行列と第3行列との積で近似する近似処理を実行し、
前記第3行列の各要素を並べ替えることによって、前記第4変数に列番号が対応する第4行列を生成し、
前記第4行列を、前記第4行列よりも低次元の第5行列および第6行列の積で近似する近似処理を実行し、
前記近似処理は、被最小化関数を最小化するように、近似される側の行列に基づいて近似する側の行列を決定することを含み、前記被最小化関数は、前記近似される側の行列の各要素と前記近似する側の行列の対応する要素との間の偏差の絶対値のα乗(αは正の実数)の総和を含む、データ処理装置。
【請求項2】
前記第2行列を生成することは、
前記第1行列を、前記第1行列よりも低次元の第7行列と第8行列との積で近似する前記近似処理を実行することと、
前記第7行列について、列ごとに最大値の要素で各要素を除算する規格化を実行した後、行ごとに最大値の要素を1に変更し、最大値以外の要素を0に変更することによって、前記第7行列を2値化した前記第2行列を生成することとを含む、請求項1に記載のデータ処理装置。
【請求項3】
前記第2行列を生成することは、
前記第1変数、前記第2変数、および前記第4変数の組み合わせごとに、前記第3変数について前記元データのデータ値を積算することによって、積算データを生成することと、
前記積算データに基づいて、前記第1変数および前記第2変数の直積に行番号が対応し、前記第4変数に列番号が対応する第9行列を生成することと、
前記第9行列を、前記第9行列よりも低次元の第10行列と第11行列との積で近似する前記近似処理を実行することと、
前記第10行列について、列ごとに最大値の要素で各要素を除算する規格化を実行した後、行ごとに最大値の要素を1に変更し、最大値以外の要素を0に変更することによって、前記第10行列を2値化した前記第2行列を生成することとを含む、請求項1に記載のデータ処理装置。
【請求項4】
前記被最小化関数は、前記近似される側の行列の各要素と前記近似する側の行列の対応する要素との間の偏差の二乗の総和であり、
前記第1行列を前記第2行列と前記第3行列との積で近似する前記近似処理を実行することは、
前記第2行列の転置行列と前記第2行列との積の逆行列に、前記第2行列の転置行列と前記第1行列との積を乗算することによって、前記第3行列を生成することを含む、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のデータ処理装置。
【請求項5】
前記第4行列を生成すること、および前記第4行列を前記第5行列および前記第6行列の積で近似する前記近似処理を実行することは、
前記第3行列の行ごとに各要素を並べ替えることによって、前記第4変数が列番号に対応する複数の第4行列を前記第3行列の行に対してそれぞれ生成することと、
前記複数の第4行列の各々を、前記第4行列よりも低次元の第5行列および第6行列の積で近似する前記近似処理を実行することとを含む、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のデータ処理装置。
【請求項6】
前記第1変数、前記第2変数、および前記第3変数は、分析対象試料の表面または内部の位置を表す空間座標であり、
前記第4変数は、原子番号またはX線のエネルギーであり、
前記データ値は、EDX(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)によって得られた原子番号またはX線のエネルギーにそれぞれ対応する前記分析対象試料の成分割合またはX線の強度である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のデータ処理装置。
【請求項7】
前記第1変数、前記第2変数、および前記第3変数は、分析対象試料の表面または内部の位置を表す空間座標であり、
前記第4変数は、質量電荷比であり、
前記データ値は、ToF-SIMS(Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)によって得られた質量電荷比に対応する前記分析対象試料の成分割合である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のデータ処理装置。
【請求項8】
第1変数、第2変数、第3変数、および第4変数の組み合わせに関連付けられたデータ値を有する元データを格納するメモリと、
前記元データを処理するプロセッサとを備え、
前記プロセッサは、
前記元データに基づいて、前記第1変数、前記第2変数、および前記第3変数の直積に行番号が対応し、前記第4変数に列番号が対応する第1行列を生成し、
前記第1行列を、前記第1行列よりも低次元の第2行列および第3行列の積で近似する近似処理を実行し、
前記第2行列の各要素を並べ替えることによって、前記第1変数および前記第2変数の直積に行番号が対応する第4行列を生成し、
前記第4行列を、前記第4行列よりも低次元の第5行列および第6行列の積で近似する近似処理を実行し、
各行のいずれか1つの要素のみが1であり他の要素が0であるように、前記第5行列を2値化した第7行列を生成し、
前記第4行列を、前記第7行列と第8行列との積で近似する近似処理を実行し、
前記近似処理は、被最小化関数を最小化するように、近似される側の行列に基づいて近似する側の行列を決定することを含み、前記被最小化関数は、前記近似される側の行列の各要素と前記近似する側の行列の対応する要素との間の偏差の絶対値のα乗(αは正の実数)の総和を含む、データ処理装置。
【請求項9】
前記第7行列を生成することは、前記第5行列について、列ごとに最大値の要素で各要素を除算する規格化を実行した後、行ごとに最大値の要素を1に変更し、最大値以外の要素を0に変更することによって、前記第5行列を2値化した前記第7行列を生成することを含む、請求項8に記載のデータ処理装置。
【請求項10】
前記被最小化関数は、前記近似される側の行列の各要素と前記近似する側の行列の対応する要素との間の偏差の二乗の総和であり、
前記第4行列を前記第7行列と前記第8行列との積で近似する前記近似処理を実行することは、
前記第7行列の転置行列と前記第7行列との積の逆行列に、前記第7行列の転置行列と前記第4行列との積を乗算することによって、前記第8行列を生成することを含む、請求項8または請求項9に記載のデータ処理装置。
【請求項11】
前記第3行列は、予め定められた行列であり、
前記被最小化関数は、前記近似される側の行列の各要素と前記近似する側の行列の対応する要素との間の偏差の二乗の総和であり、
前記第1行列を前記第2行列と前記第3行列との積で近似する前記近似処理を実行することは、
前記第1行列と前記第3行列の転置行列との積に、前記第3行列と前記第3行列の転置行列との積の逆行列を乗算することによって、前記第2行列を生成することを含む、請求項8から請求項10のいずれか1項に記載のデータ処理装置。
【請求項12】
前記第1変数、前記第2変数、および前記第3変数は、分析対象試料の表面または内部の位置を表す空間座標であり、
前記第4変数は、測定回数であり、
前記データ値は、X線CT(Computed Tomography)装置で検出された前記分析対象試料におけるX線吸収率である、請求項8から請求項11のいずれか1項に記載のデータ処理装置。
【請求項13】
元データを処理するためのデータ処理方法であって、
前記元データは、第1変数、第2変数、第3変数、および第4変数の組み合わせに関連付けられたデータ値を有し、
前記データ処理方法は、
コンピュータが、前記元データに基づいて、前記第1変数および前記第2変数の直積に行番号が対応し、前記第3変数および前記第4変数の直積に列番号が対応する第1行列を生成するステップと、
前記コンピュータが、各行のいずれか1つの要素のみが1であり、他の要素が0であるように2値化された第2行列を生成するステップと、
前記生成された第2行列を用いて、前記第1行列を、前記第1行列よりも低次元の前記第2行列と第3行列との積で近似する近似処理を実行するステップと、
前記コンピュータが、前記第3行列の各要素を並べ替えることによって、前記第4変数に列番号が対応する第4行列を生成するステップと、
前記コンピュータが、前記第4行列を、前記第4行列よりも低次元の第5行列および第6行列の積で近似する近似処理を実行するステップとを備え、
前記近似処理は、被最小化関数を最小化するように、近似される側の行列に基づいて近似する側の行列を決定することを含み、前記被最小化関数は、前記近似される側の行列の各要素と前記近似する側の行列の対応する要素との間の偏差の絶対値のα乗(αは正の実数)の総和を含む、データ処理方法。
【請求項14】
元データを処理するためのデータ処理方法であって、
前記元データは、第1変数、第2変数、第3変数、および第4変数の組み合わせに関連付けられたデータ値を有し、
前記データ処理方法は、
コンピュータが、前記元データに基づいて、前記第1変数、前記第2変数、および前記第3変数の直積に行番号が対応し、前記第4変数に列番号が対応する第1行列を生成するステップと、
前記コンピュータが、前記第1行列を、前記第1行列よりも低次元の第2行列および第3行列の積で近似する近似処理を実行するステップと、
前記コンピュータが、前記第2行列の各要素を並べ替えることによって、前記第1変数および前記第2変数の直積が行番号に対応する第4行列を生成するステップと、
前記コンピュータが、前記第4行列を、前記第4行列よりも低次元の第5行列および第6行列の積で近似する近似処理を実行するステップと、
前記コンピュータが、各行のいずれか1つの要素のみが1であり他の要素が0であるように、前記第5行列を2値化した第7行列を生成するステップと、
前記コンピュータが、前記第4行列を、前記第7行列と第8行列との積で近似する近似処理を実行するステップとを備え、
前記近似処理は、被最小化関数を最小化するように、近似される側の行列に基づいて近似する側の行列を決定することを含み、前記被最小化関数は、前記近似される側の行列の各要素と前記近似する側の行列の対応する要素との間の偏差の絶対値のα乗(αは正の実数)の総和を含む、データ処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、データ処理装置およびデータ処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
指定された2次元領域から所定のステップ幅で網羅的に分析スペクトルを検出するスペクトラムイメージ法が開発されている。具体的に分析スペクトルを取得するために、SEM/EDX(Scanning Electron Microscope/Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)およびToF-SIMS(Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)などが用いられる。
【0003】
スペクトラムイメージ法によって取得される2次元スペクトルデータを解析する手法としてMCR(Multivariate Curve Resolution)法が知られている。MCR法では、2次元領域の各点からのスペクトルは、各点における濃度に応じて重み付けられた成分スペクトルの一次結合に分解される(たとえば、特許文献1(米国特許第6584413号明細書)を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
本開示の一実施形態のデータ処理装置は、第1変数、第2変数、第3変数、および第4変数の組み合わせに関連付けられたデータ値を有する元データを格納するメモリと、元データを処理するプロセッサとを備える。プロセッサは、元データに基づいて、第1変数および第2変数の直積に行番号が対応し、第3変数および第4変数の直積に列番号が対応する第1行列を生成する。プロセッサは、各行のいずれか1つの要素のみが1であり、他の要素が0であるように2値化された第2行列を用いて、第1行列を、第1行列よりも低次元の第2行列と第3行列との積で近似する近似処理を実行する。プロセッサは、第3行列の各要素を並べ替えることによって、第4変数に列番号が対応する第4行列を生成する。プロセッサは、第4行列を、第4行列よりも低次元の第5行列および第6行列の積で近似する近似処理を実行する。上記の近似処理は、被最小化関数を最小化するように、近似される側の行列に基づいて近似する側の行列を決定することを含む。上記の被最小化関数は、近似される側の行列の各要素と近似する側の行列の対応する要素との間の偏差の絶対値のα乗(αは正の実数)の総和を含む。
【0006】
本開示の他の実施形態のデータ処理装置は、第1変数、第2変数、第3変数、および第4変数の組み合わせに関連付けられたデータ値を有する元データを格納するメモリと、元データを処理するプロセッサとを備える。プロセッサは、元データに基づいて、第1変数、第2変数、および第3変数の直積に行番号が対応し、第4変数に列番号が対応する第1行列を生成する。プロセッサは、第1行列を、第1行列よりも低次元の第2行列および第3行列の積で近似する近似処理を実行する。プロセッサは、第2行列の各要素を並べ替えることによって、第1変数および第2変数の直積に行番号が対応する第4行列を生成する。プロセッサは、第4行列を、第4行列よりも低次元の第5行列および第6行列の積で近似する近似処理を実行する。プロセッサは、各行のいずれか1つの要素のみが1であり他の要素が0であるように、第5行列を2値化した第7行列を生成する。プロセッサは、第4行列を、第7行列と第8行列との積で近似する近似処理を実行する。上記の近似処理は、被最小化関数を最小化するように、近似される側の行列に基づいて近似する側の行列を決定することを含む。上記の被最小化関数は、近似される側の行列の各要素と近似する側の行列の対応する要素との間の偏差の絶対値のα乗(αは正の実数)の総和を含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、分析システムの全体構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、3次元MCR法によるデータ処理手順を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、タイプAの4D-MCR法によるデータ処理手順を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、FIB-SEM/EDXによる分析対象の試料のSEM像データより構成した3D像を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、イオンビームの入射方向とEDXの観察方向とを説明するための図である。
【
図6A】
図6Aは、
図3で説明した手法を用いてFIB-SEM/EDXデータを解析した結果の一部(領域分類、深さプロファイル)を示す図である。
【
図6B】
図6Bは、
図3で説明した手法を用いてFIB-SEM/EDXデータを解析した結果の一部(組成)を示す図である。
【
図7】
図7は、タイプBの4D-MCR法によるデータ処理手順を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、TOF-SIMSによる分析対象の試料の外観を模式的に示す斜視図である。
【
図9A】
図9Aは、
図7で説明した手法を用いてTOF-SIMSデータを解析した結果の一部(領域分類、深さプロファイル)を示す図である。
【
図9B】
図9Bは、
図7で説明した手法を用いてTOF-SIMSデータを解析した結果の一部(質量スペクトル)を示す図である。
【
図10】
図10は、Niに相当する質量電荷比が58の領域の3次元分布を示す図である。
【
図11】
図11は、タイプCの4D-MCR法によるデータ処理手順を示すフローチャートである。
【
図12】
図12は、タイプCの4D-MCR法の変形例によるデータ処理手順を示すフローチャートである。
【
図13】
図13は、X線CTによる分析対象の試料の構造を模式的に示す断面図である。
【
図14】
図14は、3000サイクルが経過した時点でのX線CTデータより構成した3D像を示す斜視図である。
【
図15】
図15は、
図11で説明した手法を用いてz方向から見た視線でX線CTデータを解析した結果を示す図である。
【
図16】
図16は、
図11で説明した手法を用いてx方向から見た視線でX線CTデータを解析した結果を示す図である。
【
図17】
図17は、
図11で説明した手法を用いてy方向から見た視線でX線CTデータを解析した結果を示す図である。
【
図19A】
図19Aは、第2の実施形態の変形例(式25を使用)による4D-MCRの結果の一部(λ=0の場合の深さプロファイル)を示す図である。
【
図19B】
図19Bは、第2の実施形態の変形例(式25を使用)による4D-MCRの結果の一部(λ=0.001の場合の深さプロファイル)を示す図である。
【
図19C】
図19Cは、第2の実施形態の変形例(式25を使用)による4D-MCRの結果の一部(λ=0.01の場合の深さプロファイル)を示す図である。
【
図19D】
図19Dは、第2の実施形態の変形例(式25を使用)による4D-MCRの結果の一部(λ=0.1の場合の深さプロファイル)を示す図である。
【
図20A】
図20Aは、第2の実施形態の変形例(式27を使用)による4D-MCRの結果の一部(λ=0の場合の深さプロファイル)を示す図である。
【
図20B】
図20Bは、第2の実施形態の変形例(式27を使用)による4D-MCRの結果の一部(λ=0.001の場合の深さプロファイル)を示す図である。
【
図20C】
図20Cは、第2の実施形態の変形例(式27を使用)による4D-MCRの結果の一部(λ=0.01の場合の深さプロファイル)を示す図である。
【
図20D】
図20Dは、第2の実施形態の変形例(式27を使用)による4D-MCRの結果の一部(λ=0.1の場合の深さプロファイル)を示す図である。
【
図21A】
図21Aは、第2の実施形態の変形例(式29を使用)による4D-MCRの結果の一部(λ=0の場合の深さプロファイル)を示す図である。
【
図21B】
図21Bは、第2の実施形態の変形例(式29を使用)による4D-MCRの結果の一部(λ=0.001の場合の深さプロファイル)を示す図である。
【
図21C】
図21Cは、第2の実施形態の変形例(式29を使用)による4D-MCRの結果の一部(λ=0.01の場合の深さプロファイル)を示す図である。
【
図21D】
図21Dは、第2の実施形態の変形例(式29を使用)による4D-MCRの結果の一部(λ=0.1の場合の深さプロファイル)を示す図である。
【
図22A】
図22Aは、第2の実施形態の変形例(式30を使用)による4D-MCRの結果の一部(x=1.5の場合の深さプロファイル)を示す図である。
【
図22B】
図22Bは、第2の実施形態の変形例(式30を使用)による4D-MCRの結果の一部(x=2の場合の深さプロファイル)を示す図である。
【
図22C】
図22Cは、第2の実施形態の変形例(式30を使用)による4D-MCRの結果の一部(x=3の場合の深さプロファイル)を示す図である。
【
図22D】
図22Dは、第2の実施形態の変形例(式30を使用)による4D-MCRの結果の一部(x=4の場合の深さプロファイル)を示す図である。
【
図23】
図23は、第2の実施形態の変形例(式30を使用)による4D-MCRの結果の一部(スペクトル)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示が解決しようとする課題]
上記のスペクトラムイメージ法を拡張して3次元空間内の各点に対するスペクトルデータを検出することも可能である。たとえば、試料表面をエッチングしながら、走査イオンビームを用いてTOF-SIMS分析を実行する場合が考えられる。この場合、3次元空間の位置情報に対応付けられたマススペクトルデータが得られる。以下、n次元空間の位置情報と対応付けられたスペクトルデータをn次元スペクトルデータと称する。
【0009】
従来、上記ような3次元空間の位置情報に対応付けられたスペクトルデータ(すなわち、3次元スペクトルデータ)を解析する場合、そのままでは2次元平面上でのグラフ化が困難なため、基板面に平行な平面内でデータを平均化することにより深さ方向の1次元スペクトルデータを解析したり、特定の断面における2次元スペクトルデータを解析したりしていた。いずれも多くの情報が失われることになるので、3次元スペクトルデータ全体の特徴および特徴的な箇所を把握することが困難であった。
【0010】
本開示は上記の問題点を考慮したものである。本開示の一態様の目的は、3次元スペクトルデータの特徴を容易に把握可能なデータ処理方法およびデータ処理装置を提供することである。
【0011】
なお、本開示によるデータ処理装置および方法は、3次元スペクトルデータの解析に好適に使用できるものであるが、必ずしもその目的に限定されない。一般に、本開示によるデータ処理方法は、4次元の変数に対してデータ値が決まるような任意の4次元配列データのデータ処理に使用できる。さらに、本開示のデータ処理方法は、5次元以上の変数に対してデータ値が決まる多次元配列データの一部である4次元配列データを解析する際にも使用できる。さらに、本開示のデータ処理方法は、特定の変数について積算、平均、または各種統計処理などの操作を施すことにより、5次元以上の多次元配列データの次元を下げることによって得られた4次元配列データを解析する際にも使用できる。
【0012】
[本開示の効果]
本開示の一態様によるデータ処理装置およびデータ処理方法によれば、3次元スペクトルデータなどの4次元配列データの全体的な特徴および特徴的な箇所を容易に把握できる。
【0013】
[実施形態の概要]
最初に本開示の実施形態の概要を列記して説明する。
【0014】
(1) 第1の実施形態および第2の実施形態のデータ処理装置60は、第1変数(x座標)、第2変数(y座標)、第3変数(z座標)、および第4変数(スペクトルの横軸、原子番号、電荷質量比など)の組み合わせに関連付けられたデータ値(スペクトル強度、成分割合など)を有する元データを格納するメモリ62と、元データを処理するプロセッサ61とを備える。プロセッサ61は、以下の(a)~(e)を実行する(タイプAおよびタイプBの4D-MCR法)。
【0015】
(a) 元データに基づいて、第1変数および第2変数の直積に行番号が対応し、第3変数および第4変数の直積に列番号が対応する第1行列Dを生成する(ステップS200,S310)。
【0016】
(b) 各行のいずれか1つの要素のみが1であり、他の要素が0であるように2値化された第2行列Cを生成する。(ステップS210~S220,S300~S330、なお、第2行列Cのより詳細な計算方法は、以下の(2),(3)に示される。)
(c) 生成された第2行列Cを用いて、第1行列Dを、第1行列Dよりも低次元の第2行列Cと第3行列PTとの積で近似する近似処理を実行する(ステップS230,S340)。
【0017】
(d) 第3行列PTの各要素を並べ替えることによって、第4変数に列番号が対応する第4行列PT*を生成する(ステップS240,S350)。
【0018】
(e) 第4行列PT*を、第4行列PT*よりも低次元の第5行列Fおよび第6行列STの積で近似する近似処理を実行する(ステップS250,S360)。
【0019】
上記の近似処理は、被最小化関数を最小化するように、近似される側の行列に基づいて近似する側の行列を決定することを含み、上記の被最小化関数は、近似される側の行列の各要素と近似する側の行列の対応する要素との間の偏差の絶対値のα乗(αは正の実数)の総和を含む。
【0020】
上記のデータ処理装置によれば、元データ全体を、2値化された第2行列Cと、深さプロファイルを表す第5行列Fと、成分スペクトルを表す第6行列STとによって特徴付けることができる。これら3つの行列によって元データを特徴付けることによって、4次元配列データである元データの特徴を容易に理解することができる。
【0021】
(2) 第1の実施形態のデータ処理装置60では、上記(1)において、(b)第2行列Cを生成することは、以下の手順(b.1),(b.2)を含む。
【0022】
(b.1) 第1行列Dを、第1行列Dよりも低次元の第7行列Cと第8行列PTとの積で近似する近似処理を実行する(ステップS210)。
【0023】
(b.2) 第7行列Cについて、列ごとに最大値の要素で各要素を除算する規格化を実行した後、行ごとに最大値の要素を1に変更し、最大値以外の要素を0に変更することによって、第7行列Cを2値化した第2行列Cを生成する(ステップS220)。
【0024】
上記のように、2値化された第2行列Cを用いることによって、第1変数と第2変数とによって規定される基準平面が少数の領域に分類される。これにより、各領域ごとの深さプロファイルの特徴を容易に把握することができる。
【0025】
(3) 第2の実施形態のデータ処理装置60では、上記(1)において、(b)第2行列Cを生成することは、以下の手順(b.1)~(b.4)を含む。
【0026】
(b.1) 第1変数、第2変数、および第4変数の組み合わせごとに、第3変数について元データのデータ値を積算することによって、積算データを生成する(ステップS300)。
【0027】
(b.2) 積算データに基づいて、第1変数および第2変数の直積に行番号が対応し、第4変数に列番号が対応する第9行列D’を生成する(ステップS310)。
【0028】
(b.3) 第9行列D’を、第9行列D’よりも低次元の第10行列Cと第11行列STとの積で近似する近似処理を実行する(ステップS320)。
【0029】
(b.4) 第10行列Cについて、列ごとに最大値の要素で各要素を除算する規格化を実行した後、行ごとに最大値の要素を1に変更し、最大値以外の要素を0に変更することによって、第10行列Cを2値化した第2行列Cを生成する(ステップS330)。
【0030】
上記の2値化された第2行列Cの生成方法によれば、元データが深さ方向に積算された積算データが用いられる。したがって、深さプロファイルに含まれるノイズが大きいデータの解析に向いている。
【0031】
(4) 上記(1)~(3)において、上記の被最小化関数は、近似される側の行列の各要素と近似する側の行列の対応する要素との間の偏差の二乗の総和である。上記手順(c)で示すように第1行列Dを2値化された第2行列Cと第3行列PTとの積で近似することは、第2行列の転置行列CTと第2行列Cとの積の逆行列に、第2行列の転置行列CTと第1行列Dとの積を乗算することによって、第3行列PTを生成することを含む(ステップS230,S340)。
【0032】
上記のように近似処理が交互最小二乗法による処理であって、既に第2行列Cが決定されている場合には、近似処理を実行する際に逐次近似による3D-MCR法を用いる必要はない。
【0033】
(5) 上記(1)~(4)において、第4行列PT*を生成すること、および第4行列PT*を上記第5行列および第6行列の積で近似する近似処理を実行することは(上記手順(c)および(d))、ある局面において次の(c’)および(d’)を実行することを含む。
【0034】
(c’) 第3行列PTの行ごとに各要素を並べ替えることによって、第4変数が列番号に対応する複数の第4行列PT*を、第3行列PTの行に対してそれぞれ生成する。
【0035】
(d’) 複数の第4行列PT*の各々を、第4行列PT*よりも低次元の第5行列Fおよび第6行列STの積で近似する近似処理を実行する。
【0036】
分析対象である元データの特徴によっては、成分スペクトルを表す行列STを試料全体で共通にするのでなく、上記のように基準平面に設定された領域ごとに成分スペクトルを表す行列STを設けてもよい。
【0037】
(6) 上記(1)~(5)においてある局面では、第1変数、第2変数、および第3変数は、分析対象試料の表面または内部の位置を表す空間座標である。第4変数は、原子番号またはX線のエネルギーである。データ値は、EDX(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)によって得られた原子番号またはX線のエネルギーにそれぞれ対応する分析対象試料の成分割合またはX線の強度である。
【0038】
第1の実施形態に好適な分析対象データとして、分析対象試料を深さ方向にエッチングしながら、各エッチング断面においてSEM/EDXによって得られたデータ(すなわち、深さ方向に複数枚得られるデータ)を挙げることができる。したがって、深さ方向SEM/EDXデータの分析には、第2の実施形態のデータ処理装置を利用することもできる。
【0039】
(7) 上記(1)~(5)においてある局面では、第1変数、第2変数、および第3変数は、分析対象試料の表面または内部の位置を表す空間座標である。第4変数は、質量電荷比である。データ値は、ToF-SIMS(Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)によって得られた質量電荷比に対応する分析対象試料の成分割合である。
【0040】
第2の実施形態に好適な分析対象データとして、ToF-SIMSによって得られたデータを挙げることができる。ToF-SIMSデータの分析には、第1の実施形態のデータ処理装置を利用することもできる。
【0041】
(8) 第3の実施形態のデータ処理装置60は、第1変数、第2変数、第3変数(空間座標x,y,zに対応(順不同))、および第4変数(スペクトルの横軸、時間など)の組み合わせに関連付けられたデータ値(スペクトル強度、X線吸収率など)を有する元データを格納するメモリ62と、元データを処理するプロセッサ61とを備える。プロセッサ61は、以下の(a)~(f)を実行する(タイプCの4D-MCR法)。
【0042】
(a) 元データに基づいて、第1変数、第2変数、および第3変数の直積に行番号が対応し、第4変数に列番号が対応する第1行列Dを生成する(ステップS400)。
【0043】
(b) 第1行列Dを、第1行列Dよりも低次元の第2行列Cおよび第3行列STの積で近似する近似処理を実行する(ステップS410)。
【0044】
(c) 第2行列Cの各要素を並べ替えることによって、第1変数および第2変数の直積に行番号が対応する第4行列C*を生成する(ステップS430)。
【0045】
(d) 第4行列C*を、第4行列C*よりも低次元の第5行列Lzおよび第6行列PTの積で近似する近似処理を実行する(ステップS440)。
【0046】
(e) 各行のいずれか1つの要素のみが1であり他の要素が0であるように、第5行列Lzを2値化した第7行列Lzを生成する(ステップS450)。
【0047】
(f) 第4行列C*を、第7行列Lzと第8行列PTとの積で近似する近似処理を実行する(ステップS460)。
【0048】
上記の近似処理は、被最小化関数を最小化するように、近似される側の行列に基づいて近似する側の行列を決定することを含み、上記の被最小化関数は、近似される側の行列の各要素と近似する側の行列の対応する要素との間の偏差の絶対値のα乗(αは正の実数)の総和を含む。
【0049】
上記のデータ処理装置によれば、元データ全体を、2値化された第7行列Lzと、深さプロファイルを表す第8行列PTと、成分スペクトルを表す第3行列STとによって特徴付けることができる。これら3つの行列によって元データを特徴付けることによって、4次元配列データである元データの特徴を容易に理解することができる。
【0050】
(9) 上記(8)のある局面において、プロセッサ61は、第5行列Lzについて、列ごとに最大値の要素で各要素を除算する規格化を実行した後、行ごとに最大値の要素を1に変更し、最大値以外の要素を0に変更することによって、第5行列Lzを2値化した第7行列Lzを生成する(上記手順(e))。
【0051】
上記のように、2値化された第7行列Lzを用いることによって、第1変数と第2変数とによって規定される基準平面が少数の領域に分類される。これにより、各領域ごとの深さプロファイルの特徴を容易に把握することができる。なお、第1変数と第2変数を選択する際には、x座標、y座標、z座標のいずれの組み合わせでも良い。
【0052】
(10) 上記(8)または(9)において、上記の被最小化関数は、近似される側の行列の各要素と近似する側の行列の対応する要素との間の偏差の二乗の総和である。プロセッサ61は、第4行列C*を第7行列Lzと第8行列PTとの積で近似する際に(上記手順(f))、第7行列の転置行列LzTと第7行列Lzとの積の逆行列に、第7行列の転置行列LzTと第4行列C*との積を乗算することによって、第8行列PTを生成する。
【0053】
上記のように近似処理が交互最小二乗法による処理であって、既に第7行列Lzが決定されている場合には、近似処理を実行する際に逐次近似による3D-MCR法を用いる必要はない。
【0054】
(11) 上記(8)~(10)のある局面において、第3行列STは、予め定められた行列である(ステップS415)。上記の被最小化関数は、近似される側の行列の各要素と近似する側の行列の対応する要素との間の偏差の二乗の総和である。プロセッサ61は、第1行列Dを第2行列Cと第3行列STとの積で近似する際に(上記手順(b))、第1行列Dと第3行列の転置行列Sとの積に、第3行列STと第3行列の転置行列Sとの積の逆行列を乗算することによって、第2行列Cを生成する(ステップS425)。
【0055】
第4変数のデータ点数が少ない場合(たとえば、数個の場合)には、成分スペクトルを表す第3行列STを予め定めておいてもよい。近似処理が交互最小二乗法による処理であって、第3行列STを予め決定した場合には、逐次近似による3D-MCR法を用いる必要はない。
【0056】
(12) 上記(8)~(11)においてある局面では、第1変数、第2変数、および第3変数は、分析対象試料の表面または内部の位置を表す空間座標である。第4変数は、測定回数である。データ値は、X線CT(Computed Tomography)装置で検出された分析対象試料におけるX線吸収率である。
【0057】
第3の実施形態に好適な分析対象データとして、X線CTデータを挙げることができる。
【0058】
(13) 第1の実施形態および第2の実施形態は、元データを処理するためのデータ処理方法を提供する。元データは、第1変数(x座標)、第2変数(y座標)、第3変数(z座標)、および第4変数(スペクトルの横軸、原子番号、電荷質量比など)の組み合わせに関連付けられたデータ値(スペクトル強度、成分割合など)を有する。データ処理方法は、以下の(a)~(d)の各ステップを備える。
【0059】
(a) コンピュータが、元データに基づいて、第1変数および第2変数の直積に行番号が対応し、第3変数および第4変数の直積に列番号が対応する第1行列Dを生成するステップ(S200)。
【0060】
(b) コンピュータが、各行のいずれか1つの要素のみが1であり、他の要素が0であるように2値化された第2行列Cを用いて、第1行列Dを、第1行列Dよりも低次元の第2行列Cと第3行列PTとの積で近似する近似処理を実行するステップ(S230)。
【0061】
(c) コンピュータが、第3行列PTの各要素を並べ替えることによって、第4変数に列番号が対応する第4行列PT*を生成するステップ(S240)。
【0062】
(d) コンピュータが、第4行列PT*を、第4行列PT*よりも低次元の第5行列Fおよび第6行列STの積で近似する近似処理を実行するステップ(S250)。
【0063】
上記の近似処理は、被最小化関数を最小化するように、近似される側の行列に基づいて近似する側の行列を決定することを含み、上記の被最小化関数は、近似される側の行列の各要素と近似する側の行列の対応する要素との間の偏差の絶対値のα乗(αは正の実数)の総和を含む。
【0064】
上記のデータ処理方法によれば、元データの全体を、2値化された第2行列Cと、深さプロファイルを表す第5行列Fと、成分スペクトルを表す第6行列STとによって特徴付けることができる。これら3つの行列によって元データを特徴付けることによって、4次元配列データである元データの特徴を容易に理解することができる。
【0065】
(14) 第3の実施形態は、元データを処理するためのデータ処理方法を提供する。元データは、第1変数(x座標)、第2変数(y座標)、第3変数(z座標)、および第4変数(スペクトルの横軸、時間など)の組み合わせに関連付けられたデータ値(スペクトル強度、X線吸収率など)を有する。データ処理方法は、以下の(a)~(f)の各ステップを備える。
【0066】
(a) コンピュータが、元データに基づいて、第1変数、第2変数、および第3変数の直積に行番号が対応し、第4変数に列番号が対応する第1行列Dを生成するステップ(S400)。
【0067】
(b) コンピュータが、第1行列Dを、第1行列Dよりも低次元の第2行列Cおよび第3行列STの積で近似する近似処理を実行するステップ(S410)。
【0068】
(c) コンピュータが、第2行列Cの各要素を並べ替えることによって、第1変数および第2変数の直積に行番号が対応する第4行列C*を生成するステップ(S430)。
【0069】
(d) コンピュータが、第4行列C*を、第4行列C*よりも低次元の第5行列Lzおよび第6行列PTの積で近似する近似処理を実行するステップ(S440)。
【0070】
(e) コンピュータが、各行のいずれか1つの要素のみが1であり他の要素が0であるように、第5行列Lzを2値化した第7行列Lzを生成するステップ(S450)。
【0071】
(f) コンピュータが、第4行列C*を、第7行列Lzと第8行列PTとの積で近似する近似処理を実行するステップ(S460)。
【0072】
上記の近似処理は、被最小化関数を最小化するように、近似される側の行列に基づいて近似する側の行列を決定することを含み、上記の被最小化関数は、近似される側の行列の各要素と近似する側の行列の対応する要素との間の偏差の絶対値のα乗(αは正の実数)の総和を含む。
【0073】
上記のデータ処理方法によれば、元データの全体を、2値化された第7行列Lzと、深さプロファイルを表す第8行列PTと、成分スペクトルを表す第3行列STとによって特徴付けることができる。これら3つの行列によって元データを特徴付けることによって、4次元配列データである元データの特徴を容易に理解することができる。
【0074】
[実施形態の詳細]
以下、実施形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して、その説明を繰り返さない場合がある。
【0075】
<<第1の実施形態>>
(分析システムの全体構成)
図1は、分析システムの全体構成を示すブロック図である。
図1の分析システム100は、分析装置50とデータ処理装置60とを含む。
【0076】
一例として分析装置50は、試料の指定された3次元領域内の各測定点での分析スペクトルを検出する。たとえば、分析装置50は、FIB(Focused Ion Beam)-SEM/EDXによる組成情報を検出してもよいし、TOF-SIMSによる組成情報を検出してもよい。
【0077】
他の例として、分析装置50は3次元領域内の各測定点に関連付けられた何らかの物理量または化学量を表す数値を出力するように構成されていてもよい。この場合、データ処理装置60は、分析装置50から得られたデータの時間変化を4次元配列データとして解析できる。たとえば、分析装置50は、X線CT(Computed Tomography)装置であってもよい。
【0078】
第1の実施形態では、分析装置50がFIB-SEM/EDXを利用した分析装置である場合について説明する。具体的に、分析装置50は、収束イオンビーム(FIB)によって試料をエッチングしながら、SEMによって切断面を観察する。さらに、分析装置50は、SEM観察の際の電子線照射により発生する特性X線を検出し、検出した特性X線をエネルギーで分光することにより、元素分析および組成分析を行う。
【0079】
ここで、FIBによる試料の切断面上の位置をx座標、y座標で表し、切断面に交差する方向をz座標で表す。EDX分析で得られる元データは、各切断面での位置座標(x座標、y座標)に対応して得られるEDXスペクトルである。分析装置50に設けられたコントローラ(不図示)は、EDXスペクトルに基づく定量分析結果から、xy平面内での元素ごとの成分比を表す元素マッピング像を生成する。したがって、分析装置50から出力されるデータは、各切断面を区別するz座標、各切断面内での位置情報(x座標、y座標)、これらの座標値に対応付けられた元素ごとのマッピング像である。言い替えると、4次元配列データを構成する第1変数はx座標であり、第2変数はy座標であり、第3変数はz座標であり、第4変数は原子番号である。これらの第1~第4変数の組み合わせに対して、元素の成分比を表すデータ値が対応付けられている。
【0080】
データ処理装置60は、分析装置50から受け取った4次元配列データに基づいてデータ解析を行う。
図1の例では、データ処理装置60はコンピュータをベースに構成される。これに代えてASIC(Application Specific Integrated Circuit)またはFPGA(Field Programmable Gate Array)などの回路に基づいて構成されていてもよい。もしくは、データ処理装置60は、コンピュータ、ASIC、およびFPGAなどの回路のうちのいくつかを組み合わせて構成されていてもよい。本開示では、これらを総称してデータ処理の実行主体をプロセッサと称する。
【0081】
具体的に
図1のデータ処理装置60は、CPU(Central Processing Unit)61と、メモリ62と、補助記憶装置63と、出力装置64と、通信装置65と、インタフェース(I/F)66と、これらを相互に接続するためのバス67とを含む。
【0082】
CPU61は、データ処理プログラムに従って動作することにより、分析装置50から受け取った4次元配列データに基づくデータ処理を実行する。CPU61は、さらに、制御プログラムに従って分析装置50を制御するように構成されていてもよい。
【0083】
メモリ62は、CPU61の主記憶として用いられるRAM(Random Access Memory)およびROM(Read Only Memory)を含む。さらに、メモリ62は、書き換え可能な不揮発性メモリを含んでいてもよい。不揮発性メモリは、たとえば、分析装置50からのデータを格納するために用いられる。メモリ62には、処理前の元データが格納されている。
【0084】
補助記憶装置63は、ハードディスクおよびリムーバルディスクなどの記憶媒体である。補助記憶装置63は、前述のデータ処理プログラムおよび制御プログラムなどを格納する。
【0085】
出力装置64は、ディスプレイおよびプリンタなどを含む。出力装置64は、CPU61からの指令に従ってデータ処理の結果を出力する。
【0086】
通信装置65は、データ処理装置60を外部のネットワークと接続する。たとえば、CPU61は、通信装置65を介して外部からデータ処理用の4次元配列データを受信するように構成されていてもよい。
【0087】
(3D-MCR法)
まず、本開示におけるデータ処理の前提として従来のMCR法(以下、3D-MCR法と称する)について説明する。本開示のデータ処理は、3D-MCR法によるデータ処理を複数回繰り返したものと考えることができる。なお、以下で説明する3D-MCR法は、第1~第3の実施形態で共通に使用される。
【0088】
まず、3D-MCRの処理前の元データは、3次元の変数(第1変数、第2変数、第3変数)に対してデータ値が決まるような3次元配列データである。たとえば、第1変数はx座標の値に対応し、第2変数はy座標の値に対応し、第3変数はスペクトルの横軸の値に対応し、データ値はスペクトルの縦軸の値である強度値に対応する。
【0089】
なお、EDXスペクトルの場合には、スペクトルの横軸は特性X線のエネルギー値であり、スペクトルの縦軸は各エネルギーに対応するスペクトルの強度(すなわち、X線のカウント数)である。EDX分析に基づく元素マッピング像の場合には、スペクトルの横軸は原子番号に対応し、スペクトルの縦軸は各原子番号に対応する元素の成分比を表す。
【0090】
以下の(1A)および(1B)に示すように、3D-MCR法を適用するために処理前の元データはI行J列の行列Dに書き直される。行列Dの行番号は、第1変数と第2変数との直積の値に対応し、平面内でのデータ点の位置を表す。行列Dの列番号は、第3変数の値、すなわちスペクトルの横軸の値に対応する。
【0091】
したがって、行列Dの行数Iは、第1変数を表す第1軸のデータ点数と第2変数を表す第2軸のデータ点数との積、すなわち、分析対象である試料表面内のデータ点数を表す。列数Jは第3変数を表す第3軸のデータ点数、すなわち、スペクトルの横軸のデータ点数に対応する。
【0092】
【0093】
3D-MCR法では、試料表面の各データ点におけるスペクトルを、少数(以下、「K個」と記載する)の成分スペクトルの一次結合として近似する。K個の成分スペクトルの各々にはデータ点ごとに濃度分布に応じた重みが乗算される。これを全てのデータ点でまとめると、上式(1A)に示すように、元データを表す行列Dは、全データ点にわたる濃度分布を表すI行K列の行列Cと、K個の成分スペクトルをまとめたK行J列の行列STとの積として表される。なお、行列STは、行列Sの転置行列を表す。さらに、上式(1A)において各行列の要素を記載すると、次式(2)のように表される。
【0094】
【0095】
式(2)を参照して、たとえば、第1番目の位置における最も小さい番号のスペクトルの値d11の近似値は、K個の成分スペクトルの最も小さい番号の値にS11~S1Kにそれぞれ対応する濃度c11~c1Kを乗算し、乗算結果を加算することによって得られる。他の位置およびスペクトル番号についても同様である。
【0096】
上式(2)の行列CおよびSTは、D-C・STをできるだけ小さくするように決定される。一般的な手法である最小二乗法では、次式(3)に示す偏差の2乗和sが最小になるように、cikおよびsjkを決定する。
【0097】
【0098】
より詳細には、次式(4A),(4B)に示すように、偏差の2乗和sについて各パラメータcikおよびsjkごとの偏微分が0になるように、各パラメータcikおよびsjkを決定する。
【0099】
【0100】
上式(4A),(4B)を全データ点についてまとめると、次式(5A),(5B)のに示すような行列を用いた式が得られる。なお、次式(5A),(5B)において、行列(ST・S)-1は、行列(ST・S)の逆行列を表す。
【0101】
【0102】
上記の計算は行列Cと行列S
Tとの積を扱う非線形の問題であるため、最小二乗解を解析的に求めることはできない。そこで、
図2にその手順を示すように、コンピュータを用いて最小二乗解に漸近するように逐次計算を行うことになる。なお、この手順において、単純な最小二乗解ではなく別の解を求める変形例も考えられる。この変形例については、式(24)~(30)を参照して後述する。
【0103】
図2は、3次元MCR法によるデータ処理手順を示すフローチャートである。以下の各ステップは、たとえば、
図1のCPU61がプログラムに従って動作することによって実現される。
図2に示すアルゴリズムを交互最小二乗法(ALS:Alternating Least Squares)と称する。
【0104】
図2を参照して、ステップS100において、CPU61は、処理前の元データである3次元配列データに基づいて、前述の式(1A)および(2)を参照して説明したI行J列の行列Dを生成する。
【0105】
次のステップS105において、CPU61は、行列C,Sの初期値C(0),S(0)を決定する。このために、CPU61は、元データに対して主成分分析を行うことによって固有値および固有ベクトルを決定する。CPU61は、固有値に基づいてK個の主成分を決定し、これらのK個の固有値に対応する固有ベクトルからスペクトル行列Sの初期値S(0)を決定する。さらに、CPU61は、D・S(0)から濃度分布を表す行列Cの初期値C(0)を決定する。初期値C(0)を総合指標のスコアとも称する。なお、上記において、Kは主成分分析の結果を参照して決定することもできるし、何らかの周辺情報をもとに事前に決定しても構わない。また、行列C,Sの初期値の決定には主成分分析がよく用いられるが、他の方法によって定めてもよい。
【0106】
その次のステップS110において、CPU61は、初期値行列C(0)およびS(0)を非負化する。ここで、非負化とは、負の値の要素を0に変更することをいう。非負化処理は、計算結果を物理的実体に整合させるために必要である。
【0107】
その次のステップS115において、CPU61は、ループの回数を表すパラメータnを初期値0に設定する。
【0108】
その次のステップS120において、CPU61は、初期値行列S(0)と元データを表す行列Dとを用いて、前述の式(5A)に従って行列C(n+1)を計算する。CPU61は、得られた行列C(n+1)を非負化する(ステップS125)。このように非負化は行列計算の度に実行される。
【0109】
その次のステップS130において、CPU61は、元データを表す行列Dと非負化処理後の行列C(n+1)とを用いて、前述の式(5B)に従って行列S(n+1)
Tを計算する。CPU61は、得られた行列S(n+1)を非負化する(ステップS135)。このように非負化は行列計算の度に実行される。
【0110】
その次のステップS140において、CPU61は、行列S(n+1)と行列S(n)とを比較し、行列C(n+1)と行列C(n)とを比較する。CPU61は、いずれについても偏差が閾値以内であれば(ステップS140でYES)、処理をステップS145に進める。ステップS145において、CPU61は、行列S(n+1)と行列C(n+1)を3D-MCR法の結果として出力する。
【0111】
一方、ステップS140でNOの場合、CPU61は、ステップS150において、算出された非負化処理後の行列S(n+1)を次のループでの行列S(n)とし、算出された非負化処理後の行列C(n+1)を次のスープでの行列C(n)とする。すなわち、パラメータnがインクリメントされる。そして、CPU61は、処理をステップS120に戻す。以下、ステップS140でYESとなるまで、CPU61は上記の手順を繰り返す。
【0112】
上記の手順において、行列Cの要素が予め決定されている場合、上記のステップS130(すなわち、式(5B))の計算を1回だけ実行することにより、行列Sを決定することができる。この場合には、主成分分析などによって初期値を決定する必要がない。
【0113】
同様に、上記の手順において行列Sの要素が予め決定されている場合、上記のステップS120(すなわち、式(5A))の計算を1回だけ実行することにより、行列Cを決定することができる。この場合には、主成分分析などによって初期値を決定する必要がない。
【0114】
(4D-MCR法:タイプA)
次に、4次元配列データの処理方法について説明する。このデータ処理方法は、上述した3D-MCR法を複数回繰り返すものであり、以下、4D-MCR法と称する。4D-MCR法には、適用すべきデータの特徴に応じて複数のバリエーションがある。第1の実施形態では、タイプAと称する4D-MCR法のバリエーションについて説明する。タイプAの4D-MCR法は、FIB-SEM/EDXによって取得された分析データの解析のために好適に用いることができる。ただし、タイプAの4D-MCR法はこれに限定されるものではなく、他の種類の分析データの解析にも適用することができる。
【0115】
図3は、タイプAの4D-MCR法によるデータ処理手順を示すフローチャートである。以下の各ステップは、たとえば、
図1のCPU61がプログラムに従って動作することによって実現される。
【0116】
ステップS200において、データ処理前の元データが入力される。データ処理前の元データは、4次元の変数(すなわち、第1変数~第4変数)に対してデータ値が決まる4次元配列データである。FIB-SEM/EDXによって取得された分析データの場合、第1変数はx座標を表し、第2変数はy座標を表し、第3変数はz座標を表し、第4変数は原子番号を表す。これらの第1~第4変数の組み合わせに対して、元素の成分比を表すデータ値が対応付けられている。
【0117】
下式(6A)および(6B)に示すように、CPU61は、3D-MCR法を適用するために、処理前の元データに基づいてI行J×T列の行列Dを生成する。行列Dの行番号は、第1変数と第2変数との直積の値に対応し、試料の表面上(すなわち、xy平面内)でのデータ点の位置を表す。行列Dの列番号は第3変数と第4変数との直積の値に対応し、試料の深さ方向(すなわち、z方向)の位置と原子番号との組み合わせに対応する。以下の説明においてxy平面を基準平面とも称する。
【0118】
したがって、行列Dの行数Iは、第1軸のデータ点数と第2軸のデータ点数との積に等しく、分析対象の試料の基準平面上でのデータ点数を表す。列数J×TのうちTは第3軸のデータ点数、すなわち、上記の基準平面に交差する深さ方向(すなわち、z方向)に沿ったデータ点数を表す。列数J×TのうちのJは第4軸のデータ点数、すなわち、分析可能な原子番号の最大値を表す。
【0119】
【0120】
次のステップS210で、CPU61は、3D-MCR法を用いることによって、元データを表す行列Dを、面内分布を表すI行K列の行列Cと深さプロファイルを表すK行J×T列の行列PTとの積に近似する。上式(6A)において、各行列の要素を記載すると、次式(7)のように表される。
【0121】
【0122】
行列PTは、式(1A)の成分スペクトルを表す行列STに対応するものである。しかし、行列PTは、スペクトルに関連する第4変数だけでなく、z座標を表す第3変数と第4変数との直積に対応してデータ値が決まる点で行列STと異なる。そこで、行列PTの各行を「深さプロファイル」と称する。xy平面内の各点のデータは、K個の深さプロファイルの線形結合によって近似できる。
【0123】
行列Cは、K個の深さプロファイルに乗算される重みをxy平面内の各点について表したものであり、式(1A)の面内分布を表す行列Cに対応する。しかし、次のステップS220で示すように、4D-MCR法では、xy平面の各点のデータがK個の深さプロファイルのいずれか1つに一致するように行列Cが2値化される。すなわち、xy平面はK個の領域に分割されることになり、Kはxy平面の分割数を意味する。この領域分割によって、4D-MCR法の解析結果の物理的解釈が容易になる。
【0124】
ステップS220において、CPU61は、I行K列の行列Cを2値化する。具体的にCPU61は、次のステップ(1)~(3)を実行する。
【0125】
(1)行列Cの列ごとに、最大値が1となるように規格化する。たとえば、行列Cのk列目(1≦k≦K)の要素cikについて(1≦i≦I)、i=Mのときの要素cMkが最大であるとする。この場合、cMkを1(=cMk/cMk)にし、その他の要素cik(i≠M)をcik/cMkに設定する。
【0126】
(2)行列Cの行ごとに、最大値が1となり、その他の要素が0となるよう2値化する。たとえば、行列Cのi行目(1≦i≦I)の要素cikについて(1≦k≦K)、k=Nのとき要素ciNが最大であるとする。この場合、ciNを1に設定し、その他の要素cik(k≠N)を0に設定する。
【0127】
(3)上記(2)の実行後の行列Cを初期値としてK-means法によってクラスタリングを施す。クラスターの数は行列Cの列数Kである。K-meansクラスタリングによって、上記(1)および(2)の処理に起因したノイズの増加を抑制することができる。
【0128】
たとえば、上記(1)の規格化処理の結果、ある特定行のK個全ての係数が小さい場合には、上記(2)の2値化によって、本来0とすべき係数に1が割り当てられることがある。すなわち、当該特定行に対応するxy平面上の位置には、本来対応付けられるべきではないプロファイルが対応付けられることになる。K-meansクラスタリングによって、このような場合の処理結果を補正できる。なお、ステップ(3)は、ノイズが問題とならない場合には、必ずしも実行しなくてもよい。
【0129】
CPU61は、上記ステップ(1)~(3)を実行した後、処理後の行列Cをメモリ62に出力する。
【0130】
その次のステップS220において、CPU61は、上記のステップ(1)~(3)によって2値化した行列Cを用いて、深さプロファイルを表す行列P
Tを再計算する。この場合、行列Cは既に決定しているので、
図2で説明した3D-MCR法をそのまま実行する必要はない。CPU61は、前述の式(5B)の右辺の表式を用いて行列P
Tを計算する。
【0131】
その次のステップS240において、CPU61は、次の(8)に示すように、K行J×T列の行列PTを並べ替えることにより、T×K行J列の行列PT*を生成する。このような行列の並べ替えは、次のステップS250で3D-MCR法を実行するために行われる。
【0132】
【0133】
上式(8)において、各行列の要素を記載すると次式(9)が得られる。xy平面を複数の領域に分割した場合の各領域の番号を表す変数を第5変数(最大値K)とすると、行列PT*の行番号は深さ方向を表す第3変数とxy平面内の領域番号を表す第5変数との直積に対応する。行列PT*の列番号は、一般にスペクトルの横軸に対応し、本実施形態では原子番号に対応する。したがって、行列PT*の行数T×Kは、第3軸のデータ点数と領域の分類数Kとの積を表す。列数Jは第4軸のデータ点数、すなわち、原子番号の最大値を表す。
【0134】
【0135】
その次のステップS250において、CPU61は、以下の(10A)および(10B)に示すように、3D-MCR法を用いて、行列PT*を、T×K行L列の行列FとL行J列の行列STとの積に近似する。
【0136】
【0137】
一般的には、行列STはL個の成分スペクトルを表し、その行数Lは成分スペクトルの成分数に対応する。本実施形態の場合には、行列STはL個の化合物スペクトルを表す。上式(10A)を要素で記載すると、次式(11)が得られる。
【0138】
【0139】
上式(10A),(11)において、行列PT*および行列Fの行番号は、深さ方向を表す第3変数とxy平面内の領域番号を表す変数との直積に対応する。したがって、領域ごとに深さ方向の各点が、L個のスペクトルSTの線形結合によって表される。すなわち、行列Fは領域ごとの深さ分布を表し、行列Fの成分は、各領域の深さごとのスペクトルの相対的な比率を表す。
【0140】
その次のステップS260において、CPU61は、算出された行列Fと行列STとをメモリ62に出力する。さらに、CPU61は、算出された2値化行列C、行列F、および行列STを2次元のグラフの形で出力装置64によって出力する。
【0141】
(FIB-SEM/EDXによる分析および結果)
以下、上述したタイプAの4D-MCR法を用いて、FIB-SEM/EDXによる分析データのデータ処理結果の一例を説明する。
【0142】
図4は、FIB-SEM/EDXによる分析対象の試料のSEM像データより構成した3次元(3D)像を示す斜視図である。
図4を参照して、試料70は、樹脂製の基板73と、基板73上に配線された銅配線71,72と、配線71,72および基板73を覆うように形成された樹脂製の絶縁層74とを含む。
図4に示すように現在の端面から深さ(depth)方向に70~80(任意単位)の距離の位置に、シリコン(Si)の異物(contamination)が存在している。この異物の存在を含めた分析対象試料の全体像は、3次元空間領域にわたる元素組成データをSEM/EDX分析によって取得しただけでは把握できず、上述した手法を用いてデータ解析することによって把握できるものである。
【0143】
図5は、イオンビームの入射方向とEDXの観察方向とを説明するための図である。
図5に示すように、収束イオンビームの入射方向をy方向とする。分析装置50は、z軸方向に沿って入射位置を変更しながら基板73に垂直な方向から収束イオンビームを入射することにより、試料をエッチングする。分析装置50は、エッチング後の断面をSEMによって観察するとともに、EDX分析を行う。したがって、z軸方向の各点において、xy平面内の組成分析結果が得られる。分析装置50によって得られるデータは、空間内の各点に元素の組成情報が対応付けられた4次元配列データである。便宜的に、xy平面を基準平面と称し、z軸方向を深さ(depth)方向と称する。
【0144】
図6Aは、
図3で説明した手法を用いてFIB-SEM/EDXデータを解析した結果の一部(領域分類、深さプロファイル)を示す図である。同様に
図6Bは、
図3で説明した手法を用いてFIB-SEM/EDXデータを解析した結果の一部(組成)を示す図である。
図6Aおよび
図6Bには、前述の(6A)~(11)式において、基準平面の面分割数Kが4であり、スペクトルの成分数(すなわち、化合物スペクトルの数)Lが4の場合が示されている。
【0145】
図6Aの領域分類では、領域(Area)1~領域4の4種類の領域にxy平面が分類されている。図中において白で表示されているところが、当該領域を示す。領域1~領域4は、式(6A)および(7)の行列C(ただし、2値化されたもの)において第1~第K列(K=4)にそれぞれ対応している。
【0146】
図6Bの組成は、領域1~領域4に対して共通に定められ、Material_A~Material_Dの4種類に分類される。Material_A~Material_Dは、式(11)の行列S
Tの第1行~第L行(L=4)にそれぞれ対応している。各組成は複数の元素に対応している場合があるし、複数の組成で重複している元素もある。
【0147】
具体的に
図6Bの場合、Material_Aは、原子番号6の炭素と原子番号8の酸素とを主成分とするに対応する。Material_Bは、原子番号29の銅と原子番号56のバリウムとを主成分とする物質に対応する。Mtarial_Cは、原子番号14のシリコンに対応する。Material_Dは、原子番号8の酸素と原子番号14のシリコンと原子番号56のバリウムとを主成分とする物質に対応する。
【0148】
図6Aのプロファイルには、領域ごとに深さ方向(z軸方向)の組成の変化が示されている。具体的に領域1のプロファイルは、式(11)の行列Fの第1行~第T行に対応する。領域2のプロファイルは、式(11)の行列Fの第(T+1)行から第2T行に対応する。領域3のプロファイルは、式(11)の行列Fの第(2T+1)行から第3T行に対応する。領域4のプロファイルは、式(11)の行列Fの第(K-1)×T+1行から第K×T行に対応する(ただし、K=4)。
【0149】
具体的に
図6Aの場合、領域1は、樹脂製の基板73を示し、z軸方向の位置によらずMaterial Aの組成によって特徴付けられる。領域2は、絶縁層74を示し、z軸方向の位置によらずMaterial AとMaterial Dとによって特徴付けられる。領域3は、配線71,72を示し、z軸方向の位置によらずMaterial Bによって特徴付けられる。領域4は、z軸方向の途中(70~80の位置)に異物を含む。異物の位置で局所的にMaterial Cの割合が増加する。
【0150】
このように、
図6Aおよび
図6Bに示す4D-MCR法によるデータ処理結果によれば、2次元平面での可視化が困難である4次元配列データの全体像、具体的には試料に含まれる異物の組成とその空間位置とを一目で把握することができる。
【0151】
上記のデータ処理では第4変数は「原子番号」であり、4D-MCR法を用いて3次元空間の各点に対応した元素組成比のデータが解析された。しかしながら本手法はこれに限らず、EDX分析で得られる「EDXスペクトル」にもそのまま適用可能である。この場合、第4変数は「X線のエネルギー」となり、データ行列の値はX線の強度となる。3次元空間の各点に対応したスペクトルの解析は次の第2の実施形態で述べており、「EDXスペクトル」をそのまま分析する場合と本質的に同一であるためここでは詳細を述べない。
【0152】
(第1の実施形態の変形例)
上式(11)の場合には、K個の領域によらず共通の行列STを、深さプロファイルを表す行列PT*に対応付けた。これに対して、次式(12)に示すように、領域ごとに異なる行列STを、深さプロファイルを表す行列PT*に対応付けることができる。分析対象によっては、このような解析方法が望ましい場合がある。
【0153】
【0154】
(タイプAの4D-MCR法のまとめ)
以下、第1の実施形態において開示したタイプAの4D-MCR法の要点を示す。処理前の元データは、第1変数(x座標)、第2変数(y座標)、第3変数(z座標)、および第4変数(スペクトルの横軸、原子番号など)の組み合わせに関連付けられたデータ値(スペクトル強度、成分割合など)を有する。この元データを処理するために、CPU61などのプロセッサは、以下のステップ(i)~(vii)を順に実行する。
【0155】
(i) プロセッサは、元データに基づいて、第1変数および第2変数の直積に行番号が対応し、第3変数および第4変数の直積に列番号が対応する第1行列Dを生成する(ステップS200)。第1変数と第2変数とによって規定される平面を基準平面と称する。
【0156】
(ii) プロセッサは、第1行列Dを、第1行列Dよりも低次元の第7行列Cと第8行列P
Tとの積で近似する近似処理を実行する(ステップS210)。第7行列Cの列数および第8行列P
Tの行数をKとすると、Kは比較的小さい数に設定される。この近似処理は、被最小化関数を最小化するように、近似される側の行列に基づいて近似する側の行列を決定することを含む。上記の被最小化関数は、近似される側の行列の各要素と近似する側の行列の各要素との間の偏差の絶対値の2乗の総和である(いわゆる、最小二乗法)。具体的に、CPU61は、
図2で説明した逐次近似による3D-MCR法を実行する。
【0157】
(iii) プロセッサは、第7行列Cを2値化した第2行列Cを生成する(ステップS220)。具体的に、プロセッサは、第7行列Cについて、列ごとに最大値の要素で各要素を除算する規格化を実行した後、行ごとに最大値の要素を1に変更し、最大値以外の要素を0に変更する。これにより、2値化後の第2行列の各行について、いずれか1つの要素のみが1であり他の要素が0である。この2値化によって、試料の基準平面がK個の領域に分割される。
【0158】
(iv) プロセッサは、2値化された第2行列Cを用いて、第1行列Dを、第1行列Dよりも低次元の第2行列Cと第3行列PTとの積で近似する近似処理を実行する(ステップS230)。既に第2行列Cは決定されているので、逐次近似による3D-MCR法を用いる必要はない。具体的に、プロセッサは、第2行列の転置行列CTと第2行列Cとの積の逆行列に、第2行列の転置行列CTと第1行列Dとの積を乗算することによって、第3行列PTを生成する(ステップS230)。
【0159】
(v) プロセッサは、第3行列PTの各要素を並べ替えることによって、第4変数に列番号が対応する第4行列PT*を生成する(ステップS240)。
【0160】
(vi) プロセッサは、第4行列P
T*を、第4行列P
T*よりも低次元の第5行列Fおよび第6行列S
Tの積で近似する近似処理を実行する(ステップS250)。具体的に、プロセッサは、
図2で説明した逐次近似による3D-MCR法を実行する。第5行列Fの列数および第6行列S
Tの行数をLとすると、Lはスペクトルの成分数に対応する。
【0161】
(vii) プロセッサは、2値化された第2行列C、第5行列F、および第6行列STをメモリ62に出力する(ステップS220,S260)。
【0162】
上記のタイプAの4D-MCR法を変形したタイプA’の4D-MCR法として、上記の(v)および(vi)のステップを次のように変形してもよい。この変形例では、成分スペクトルを表す行列STが試料全体で共通ではなく、基準平面に設定されたK個の領域ごとに設けられる点に特徴がある。
【0163】
(v') プロセッサは、第3行列PTの行ごとに各要素を並べ替えることによって、第4変数が列番号に対応する複数の第4行列PT*を、第3行列PTの行に対してそれぞれ生成する。
【0164】
(vi') プロセッサは、複数の第4行列PT*の各々を、第4行列PT*よりも低次元の第5行列Fおよび第6行列STの積で近似する近似処理を実行する。
【0165】
上記のように、タイプAの4D-MCR法によれば、4次元配列データである元データDは、2値化された第2行列Cと、深さプロファイルを表す第5行列Fと、成分スペクトルを表す第6行列STとによって特徴付けられる。2値化された第2行列Cによって試料の基準平面はK個の領域に分割される。K個の領域ごとに、第5行列Fによって表される第3軸方向の成分の変化(成分スペクトルの割合の変化)が異なる。これら3つの行列によって元データを特徴付けることによって、4次元配列データである元データの特徴を容易に理解することができる。
【0166】
これらの行列C,F,STの計算のために、上記の(ii)および(vi)に示す2回の逐次近似による3D-MCR処理が行われる。さらに、この3D-MCR処理の実行のために、上記(iii)に示す2値化と、上記の(iv)に示す近似処理(逐次計算ではない)と、上記(v)に示す第3行列PTの要素の並べ替えとを実行する点に特徴がある。
【0167】
<<第2の実施形態>>
第2の実施形態では、
図1の分析装置50がToF-SIMS装置の場合について説明する。
【0168】
ToF-SIMS装置は、固体試料の表面にイオンビームを走査しながら照射し、試料表面の各測定点から放出される二次イオンの質量を分析する。具体的に、ToF-SIMS装置は、飛行時間差を利用して二次イオンの質量を分離する。さらに、ToF-SIMS装置は、ドライエッチング装置によって試料の表面層をエッチングし、エッチングされた試料表面に対してイオンビームを照射したときに試料表面から放出される二次イオンの質量を分析することも可能である。これによって、ToF-SIMS装置は、ビームの走査範囲内の深さ方向の元素および分子構造に関する情報、すなわち、試料の3次元領域内に存在する元素および分子の構造に関する情報を得ることができる。
【0169】
図1の分析システム100のその他のハードウェア構成は、第1の実施形態の場合と同様であるので説明を繰り返さない。
【0170】
(4D-MCR法:タイプB)
上記のToF-SIMS装置による分析データの解析に好適な4D-MCR法として、タイプBの4D-MCR法を次に説明する。ただし、タイプBの4D-MCR法はToFーSIMSデータの解析に限定的に適用されるものでなく、他の種類の分析データの解析にも適用できる。
【0171】
図7は、タイプBの4D-MCR法によるデータ処理手順を示すフローチャートである。以下の各ステップは、たとえば、
図1のCPU61がプログラムに従って動作することによって実現される。
【0172】
ステップS300において、CPU61は、データ処理前の元データをメモリから読み出す。データ処理前の元データは、4次元の変数(すなわち、第1変数~第4変数)に対してデータ値が決まる4次元配列データである。ToF-SIMS装置によって取得された分析データの場合、第1変数はx座標を表し、第2変数はy座標を表し、第3変数はz座標を表し、第4変数は、質量電荷比m/z(質量/電荷)を表す。こららの第1~第4変数の組み合わせに対して、スペクトル強度を表すデータ値が対応付けられる。本開示において、xy平面を基準平面と記載し、z軸方向を深さ方向と記載する場合がある。
【0173】
さらに、CPU61は、xy平面の各点において、元データのz軸方向についてデータ値を積算するまたは平均化することによって、積算データを生成する。この結果、元データの深さ方向のバラツキが除去される。なお、深さプロファイルが大きく異なる箇所は、積算データにも違いとして現れるので、元データの深さプロファイルが全く無視されるわけではない。
【0174】
次のステップS310において、CPU61は、3D-MCR法を適用するために積算データに基づいて、以下の(13A)および(13B)に示すようなI行J列の行列D’を生成する。行列D’の行番号は、第1変数と第2変数との直積の値に対応し、試料の表面上(すなわち、xy平面内)でのデータ点の位置を表す。行列D’の列番号は、第4変数に対応し、スペクトルの横軸を表す。行列D’のデータ値は、深さ方向に(すなわち、第3変数について)積算または平均化されたスペクトル強度である。
【0175】
したがって、行列D’の行数Iは、第1軸のデータ点数と第2軸のデータ点数との積、すなわち、分析対象の試料の基準平面上でのデータ点数を表す。列数Jは、第4軸のデータ点数、すなわち、質量電荷比のデータ点数を表す。
【0176】
【0177】
次のステップS320で、CPU61は、3D-MCR法を用いることによって、積算データを表す行列D’を、面内分布を表すI行K列の行列Cと、成分スペクトルを表すK行J列の行列STとの積に近似する。上式(13A)において、各行列の要素を記載すると、次式(14)のように表される。
【0178】
【0179】
上式(13A)および(14)は、前述の式(1A)および(2)に対応するものである。すなわち、基準面内の各データ点におけるスペクトルは、K個の成分スペクトルの1次結合として近似される。行列Cは、基準面内の全データ点にわたる成分スペクトルの濃度分布を表す。成分スペクトルを表す行列STは、一時的に算出されるものでその後の計算には使用されない。
【0180】
その後のステップS330~S370は、第1の実施形態の
図3のステップS220~S260と同じである。したがって、詳しい説明を繰り返さない。
【0181】
簡単に要約すると、ステップS330で、CPU61は、ステップS320で計算したI行K列の行列Cを2値化する。この場合、式(14)の行列Cの列数Kは、面分割の数を表す。次のステップS340で、CPU61は、元データを表す行列Dと2値化した行列Cとを用いて、深さプロファイルを表す行列PTを計算する。行列Dは、第1の実施形態の式(6A)および(7)に示されているI行J×T列の行列Dである。この計算では、3D-MCR法をそのまま実行する必要は無く、前述の式(5B)の右辺の表式を用いて行列PTが計算される。その次のステップS350で、CPU61は、前述の式(8)および(9)で説明したように、K行J×T列の行列PTを並べ替えることにより、T×K行J列の行列PT*を生成する。その次のステップS360で、CPU61は、3D-MCR法を用いて、前述の式(10A)および(11)に示すように、行列PT*を、T×K行L列の行列FとL行J列の行列STとの積に近似する。その次のステップS370において、CPU61は、算出された行列Fと行列STとをメモリ62に出力する。さらに、CPU61は、算出された2値化行列C、行列F、および行列STを2次元のグラフの形で出力装置64によって出力する。
【0182】
なお、式(12)を参照して説明したようにタイプBの4D-MCR法においても、領域ごとに異なる行列STを、深さプロファイルを表す行列PT*に対応付けることができる。分析対象によっては、このような解析方法が望ましい場合がある。
【0183】
(ToF-SIMSによる分析および結果)
以下、上述したタイプBの4D-MCR法を用いて、ToF-SIMSによる分析データのデータ処理結果の一例を説明する。
【0184】
図8は、分析対象の試料の構造を模式的に示す斜視図である。
図8に示すように、イットリウムをドープしたジルコン酸バリウム(BaZr
1-yY
yO
x:BZY)とニッケル酸化物(NiO)との共焼結体が下地層85として形成される。さらに、下地層85の表面上に、BZYの焼結体が中間層86として形成される。さらに、中間層86の表面上にBZYの薄膜87が成膜される。薄膜87の表面に沿う方向をx方向およびy方向とし、試料の深さ方向をz方向とする。
【0185】
図9Aは、
図7で説明した手法を用いてTOF-SIMSデータを解析した結果の一部(領域分類、深さプロファイル)を示す図である。同様に
図9Bは、
図7で説明した手法を用いてTOF-SIMSデータを解析した結果の一部(質量スペクトル)を示す図である。基準平面の面分割数Kが4であり、スペクトルの成分数Lが3の場合が示されている。
【0186】
図9Aの領域分類では、領域(Area)1~領域4の4種類の領域にxy平面が分類されている。図中において白で表示されているところが、当該領域を示す。領域1~領域4は、式(13A)および(14)の行列C(ただし、2値化されたもの)において第1~第K列(K=4)にそれぞれ対応している。
【0187】
図9Bの質量スペクトルは、領域1~領域4に対して共通に定められ、Material_A~Material_Cの3種類に分類される。Material_A~Material_Cは、式(11)の行列S
Tの第1行~第L行(L=3)にそれぞれ対応している。各質量スペクトルは複数の元素に対応している場合もあるし、化合物に対応している場合もあるし、元素と化合物の両方に対応している場合もある。
【0188】
具体的に
図9Bの場合、Material_Aは主にバリウム(Ba)に対応し、Material_Bは主にニッケル(Ni)およびBZYに対応し、Material_Cは主にイットリウム(Y)およびジルコニウム(Zr)に対応していると考えられる。
【0189】
図9Aのプロファイルには、領域ごとに深さ方向(z軸方向)の組成の変化が示されている。具体的に領域1のプロファイルは、式(11)の行列Fの第1行~第T行に対応する。領域2のプロファイルは、式(11)の行列Fの第(T+1)行から第2T行に対応する。領域3のプロファイルは、式(11)の行列Fの第(K-1)×T+1行から第K×T行に対応する(ただし、K=3)。
図9Aに示すように、領域3および領域4のみにおいて局所的にMaterial_Bの比率が増加している。
【0190】
図10は、Niに相当する質量電荷比が58の領域の3次元分布を示す図である。
図10の分布図は、元の4次元配列データにおいてm/z=58の値を有する空間位置を、3次元分布としてプロットしたものである。
図10の(1)および(2)に示すように、Niは中間層86のうち領域3および領域4に対応する局所的なパスを通って拡散していることが容易に理解できる。
【0191】
(タイプBのMCR法のまとめ)
以下、第2の実施形態において開示したタイプBの4D-MCR法の要点を示す。処理前の元データは、第1変数(x座標)、第2変数(y座標)、第3変数(z座標)、および第4変数(スペクトルの横軸、質量電荷比など)の組み合わせに関連付けられたデータ値を有する。この元データを処理するために、CPU61などのプロセッサは、以下のステップ(i)~(ix)を実行する。
【0192】
(i) プロセッサは、第1変数、第2変数、および第4変数の組み合わせごとに、第3変数について元データのデータ値を積算することによって、積算データを生成する(ステップS300)。
【0193】
(ii) プロセッサは、元データに基づいて、第1変数および第2変数の直積に行番号が対応し、第3変数および第4変数の直積に列番号が対応する第1行列Dを生成する(ステップS310)。
【0194】
(iii) プロセッサは、積算データに基づいて、第1変数および第2変数の直積に行番号が対応し、第4変数に列番号が対応する第9行列D’を生成する(ステップS310)。
【0195】
(iv) プロセッサは、第9行列D’を、第9行列D’よりも低次元の第10行列Cと第11行列S
Tとの積で近似する近似処理を実行する(ステップS320)。この近似処理は、被最小化関数を最小化するように、近似される側の行列に基づいて近似する側の行列を決定することを含む。上記の被最小化関数は、近似される側の行列の各要素と近似する側の行列の対応する要素との間の偏差の絶対値の2乗の総和である(いわゆる、最小二乗法)。具体的に、プロセッサは、
図2で説明した逐次近似による3D-MCR法を実行する。なお、第11行列S
Tは、一時的に求めたものでこれ以降は使用されない。
【0196】
(v) プロセッサは、第10行列Cを2値化した第2行列Cを生成する(ステップS330)。具体的に、プロセッサは、第10行列Cについて、列ごとに最大値の要素で各要素を除算する規格化を実行した後、行ごとに最大値の要素を1に変更し、最大値以外の要素を0に変更する。これにより、2値化後の第2行列の各行について、いずれか1つの要素のみが1であり他の要素が0である。
【0197】
(vi) プロセッサは、2値化された第2行列Cを用いて、第1行列Dを、第1行列Dよりも低次元の第2行列Cと第3行列PTとの積で近似する近似処理を実行する(ステップS340)。既に第2行列Cは決定されているので、逐次近似による3D-MCR法を用いる必要はない。具体的に、プロセッサは、第2行列の転置行列CTと第2行列Cとの積の逆行列に、第2行列の転置行列CTと第1行列Dとの積を乗算することによって、第3行列PTを生成する(ステップS340)。
【0198】
(vii) プロセッサは、第3行列PTの各要素を並べ替えることによって、第4変数に列番号が対応する第4行列PT*を生成する(ステップS350)。
【0199】
(viii) プロセッサは、第4行列P
T*を、第4行列P
T*よりも低次元の第5行列Fおよび第6行列S
Tの積で近似する近似処理を実行する(ステップS360)。具体的に、プロセッサは、
図2で説明した逐次近似による3D-MCR法を実行する。
【0200】
(ix) プロセッサは、2値化された第2行列C、第5行列F、第6行列STをメモリ62に出力する(ステップS330,S370)。なお、上記のステップ(vi)~(ix)は、第1の実施形態で説明したタイプAの4D-MCR法の(iv)~(vii)と同じである。
【0201】
次に、タイプAの4D-MCR法とタイプBの4D-MCR法の共通点および相違点についてまとめる。
【0202】
タイプBの4D-MCR法はタイプAの4D-MCR法と同様に、第1変数と第2変数とよって表される基準平面を最初に決定し、この基準平面が、互いに深さプロファイルが異なる複数の領域に区分される。したがって、いずれの4D-MCR法も、材料組成の主要な変化が互いに直交する3軸のうち1軸(すなわち、第3変数の方向)に沿って起こるような試料の分析に向いている。
【0203】
一方、タイプBの4D-MCR法は、タイプAの4D-MCR法と異なり、基準平面を複数の領域に区分する際に、元データが深さ方向に積算された積算データが用いられる。したがって、深さプロファイルに含まれるノイズが大きいデータの解析に向いている。第2の実施形態で解析したToF-SIMSデータは、深さプロファイルのノイズが多かったため、タイプBの4D-MCR法のほうが、タイプAの4D-MCR法よりも適していた。一方、深さプロファイルのわずかな違いを抽出する目的のためには、タイプAの4D-MCR法のほうが、タイプBの4D-MCR法よりも適している。
【0204】
<<第3の実施形態>>
第3の実施形態では、
図1の分析装置50がX線CT(Computed Tomography)装置の場合について説明する。X線CT装置は、試料の各部位におけるX線の吸収率を出力する。したがって、分析装置50から出力されるデータは、3次元空間の各点におけるX線吸収率を示す3次元配列データである。
【0205】
データ処理装置60は、同一の試料に対して複数のタイミングで測定されたX線CTデータ、すなわち、X線CTデータの時間変化を、4次元配列データとして取り扱う。この場合、4次元配列データの第1変数は空間のx座標であり、第2変数は空間のy座標であり、第3変数は空間のz座標であり、第4変数は時間または測定回数である。試料の各部位のX線吸収率は、これらの第1~第4変数に対応付けられたデータ値である。
【0206】
図1の分析システム100のその他のハードウェア構成は、第1の実施形態の場合と同様であるので説明を繰り返さない。
【0207】
(4D-MCR法:タイプC)
上記のX線CT装置による分析データの解析に好適な4D-MCR法として、タイプCの4D-MCR法を次に説明する。ただし、タイプCの4D-MCR法はX線CTデータの時間変化の解析に限定的に適用されるものでなく、他の種類の分析データの解析にも適用できる。
【0208】
図11は、タイプCの4D-MCR法によるデータ処理手順を示すフローチャートである。以下の各ステップは、たとえば、
図1のCPU61がプログラムに従って動作することによって実現される。
【0209】
ステップS400において、CPU61は、データ処理前の元データをメモリ62から読み出す。データ処理前の元データは、4次元の変数(すなわち、第1変数~第4変数)に対してデータ値が決まる4次元配列データである。
【0210】
さらに、CPU61は、以下の(15A)および(15B)に示すように、3D-MCR法を適用するために、処理前の元データに基づいてI×T行J列の行列Dを生成する。行列Dの行番号は、第1変数、第2変数、および第3変数の直積の値に対応し、3次元空間内でのデータ点の位置を表す。行列Dの列番号は、第4変数すなわち時間(または測定回数)に対応する。
【0211】
したがって、行列Dの行数I×Tは、第1軸のデータ点数I1と第2軸のデータ点数I2と第3軸のデータ点数Tとの積(すなわち、I1×I2×T=I×T)に等しく、分析対象の試料全体でのデータ点数に対応する。行列Dの列数Jは、第4軸のデータ点数、すなわち、時間軸上のデータ点数に等しい。なお、第3の実施形態におけるデータ解析手法の議論において、X線吸収率などのスカラー量の時間変化も、数学の形式上はスペクトルと同じである。したがって、以下の議論において、行列Sを他の実施形態と同様に「スペクトル」と表記する。
【0212】
【0213】
次のステップS410で、CPU61は、3D-MCR法を用いることによって、元データを表す行列Dを、3次元分布を表す行列Cと成分スペクトルを表す行列STとの積に近似する。本実施形態の場合には、行列STの各列ベクトルは、試料を構成する成分の時間変化を表している。以下では、成分スペクトルを表す行列STを時間変化行列STと称する場合がある。
【0214】
上式(15A)において、各行列の要素を記載すると次式(16)のように表される。行列Dの要素dijtは、xy平面内の第i番目かつz軸方向の第t番目のデータ点における第j番目の時刻でのデータ値を表す。行列Cの要素ciktは、xy平面内の第i番目かつz軸方向の第t番目のデータ点における第k番目の成分の濃度を表す。行列STの要素pjkは、時刻jにおける第k番目の成分の値を表す。
【0215】
【0216】
上式(15A)および(16)は、前述の式(1A)および(2)に対応するものである。ただし、本実施形態の場合、各データ点の分布が2次元から3次元に拡張されている。すなわち、本実施形態の場合、3次元空間内の各データ点におけるスペクトルは、K個の成分スペクトルの1次結合として近似される。行列Cは、3次元空間内の全データ点にわたる成分スペクトルの濃度分布を表す。
【0217】
その次のステップS420において、CPU61は、成分スペクトルを表す行列STをメモリ62に出力する。
【0218】
その次のステップS430において、CPU61は、3D-MCRを適用するために、3次元分布を表すI×T行K列の行列Cを並べ替えることにより、行列C*を生成する。この場合、以下の(17A)~(17C)に示すように、どの座標軸方向の視点から3次元分布を見るかによって3通りの方法がある。
【0219】
【0220】
以下の(18A)~(18C)は、上記の(17A)~(17C)を行列の要素で記載したものである。行列Cの要素ciktは、xy平面内の第i番目かつz軸方向の第t番目のデータ点における第k番目の成分スペクトルの濃度を表す。簡単のために(18B)および(18C)では、x軸方向のデータ点数I1を128とし、y軸方向のデータ点数I2を128としている。
【0221】
【0222】
上記の(17A)および(18A)に示すように、z軸方向から見た視点では、I×T行K列の行列Cを並べ替えることにより、I行T×K列の行列C*が生成される。この場合、行列C*の行番号は、第1変数(x座標)と第2変数(y座標)との直積に対応し、xy平面内でのデータ点の位置を表す。行列C*の列番号は、第3変数(z座標)と成分スペクトルを区別するための番号kとの直積に対応する。
【0223】
たとえば、行列Cの第1行第1列から第I行第1列までの要素は、行列C*の第1行第1列から第I行第1列までにそれぞれ配置される。行列Cの第I+1行第1列から第2I行第1列までの要素は、行列C*の第1行第2列から第I行第2列までにそれぞれ配置される。行列Cの第[(T-1)×I+1]行第1列から第I×T行第1列までの要素は、行列C*の第1行第T列から第I行第T列までにそれぞれ配置される。
【0224】
上記の(17B)および(18B)に示すように、x軸方向から見た視点では、I×T行K列の行列Cを並べ替えることにより、I2×T行I1×K列の行列C*が生成される。この場合、行列C*の行番号は、第2変数(y座標)と第3変数(z座標)との直積に対応し、yz平面内でのデータ点の位置を表す。行列C*の列番号は、第1変数(x座標)と成分スペクトルを区別するための番号kとの直積に対応する。
【0225】
たとえば、行列Cの第1行第1列から第128行第1列までの要素は、行列C*の第1行第1列から第1行第128列までにそれぞれ配置される。行列Cの第1行第2列から第128行第2列までの要素は、行列C*の第1行第129列から第1行第256列までにそれぞれ配置される。行列Cの第1行第K列から第128行第K列までの要素は、行列C*の第1行第(127K+1)列から第1行第128K列までにそれぞれ配置される。行列Cの第(I-127)行第K列から第I行第K列までの要素は、行列C*の第128T行第(128K-127)列から第128T行第128K列までにそれぞれ配置される。
【0226】
上記の(17C)および(18C)に示すように、y軸方向から見た視点では、I×T行K列の行列Cを並べ替えることにより、I1×T行I2×K列の行列C*が生成される。この場合、行列C*の行番号は、第1変数(x座標)と第3変数(z座標)との直積に対応し、xz平面内でのデータ点の位置を表す。行列C*の列番号は、第2変数(y座標)と成分スペクトルを区別するための番号kとの直積に対応する。
【0227】
たとえば、行列Cの第1行第1列の要素は、行列C*の第1行第1列に配置される。行列Cの第129行第1列の要素は、行列C*の第1行第2列に配置される。行列Cの第1行第K列の要素は、行列C*の第1行第(127K+1)列に配置される。行列Cの第(I-127)行第1列の要素は、行列C*の第128T行第1列に配置される。行列Cの第IT行第1列の要素は、行列C*の第128T行第128K列に配置される。
【0228】
以下、上記の(17A)および(18A)に示すように、z軸方向の視点から見て並べ替えた行列C*を用いて後続するステップについて説明するが、他の視点から見た場合も同様に計算ができる。
【0229】
次のステップS440において、CPU61は、以下の(19A)および(19B)に示すように、3D-MCR法を用いて、行列C*を、I行L列の行列LzとL行T×K列の行列PTとの積に近似する。
【0230】
【0231】
上式(19A)において、各行列の要素を記載すると次式(20)のように表される。
【0232】
【0233】
上式(19A)および(20)は、第1の実施形態の式(6A)および(7)に対応するものである。行列Lzはxy平面内の濃度分布を表し、行列PTはz方向のプロファイルを表す。xy平面内の各データ点のデータは、L個のz方向プロファイルの線形結合によって近似できる。
【0234】
その次のステップS450において、CPU61は、上式(19A)および(20)における行列Lzを2値化する。CPU61は2値化したLzをメモリ62に出力する。2値化の具体的手順は、
図3のステップS220で説明したものと同様であるので説明を繰り返さない。
【0235】
2値化によって、xy平面の各点のデータは、L個のz方向プロファイルのいずれか1つに一致する。したがって、xy平面は、互いにz方向プロファイルの異なるL個の領域に分割されることになり、Lはxy平面の分割数を意味する。
【0236】
その次のステップS460において、CPU61は、2値化した行列Lzを用いて、z方向プロファイルを表す行列P
Tを再計算する。この場合、xy面内分布を表す行列Lz(式(1A)の行列Cに対応する)は既に決定しているので、
図2で説明した3D-MCR法をそのまま実行する必要はない。CPU61は、次式(21)に従って、行列Lzと行列C*とを用いて行列PTを計算する。次式(21)は、前述の式(5B)および
図2のステップS130に対応している。
【0237】
【0238】
その次のステップS470において、CPU61は、算出した行列PTをメモリ62に出力する。さらに、CPU61は、算出した行列ST、2値化行列Lz、および行列PTを2次元のグラフの形で出力装置64によって出力する。
【0239】
(4D-MCR法:タイプCの変形例)
上述のようにタイプCの4D-MCR法では、式(15A)および(16)に示すように、3D-MCR法を適用することによって最初に3次元分布Cと成分スペクトルを表す時間変化行列STとを導出した。
【0240】
ここで、X線CTデータのような3次元配列データについてその時間変化を分析する場合には、時間軸上のデータ点数は比較的少ない場合が多い。たとえば、第1および第2の実施形態で説明したFIB-SEM/EDXデータおよびToF-SIMSデータの場合には、第4変数すなわちスペクトルの横軸のデータ点数は、典型的には100程度から1000程度である。したがって、MCR法を用いて情報圧縮する必要がある。これに対して、本実施形態の場合の第4変数のデータ点数はせいぜい10である。このような場合に、3D-MCR法をそのまま適用することによって時間変化の情報を圧縮した時間変化行列STを導出するメリットは少ない。
【0241】
時間軸上のデータ点数Jが少ない場合には、時間変化の情報を圧縮した3次元分布を表すI×T行K列の行列Cに代えて、元データを表すI×T行J列の行列Dをそのまま用いることも可能である。元データ行列Dを用いることは、式(15A)および(16)において、時間変化行列STを単位行列として取り扱うことと等価である。しかしながら、元データを表す行列Dをそのま用いると、3次元配列データの時間変化の特徴が捉えにくくなる傾向がある。たとえば、X線CTを用いてボイドの発生を検出しようとする場合に、ボイドがどのタイミングで発生したかを特定することが困難になりがちである。
【0242】
そこで、下式(22)に示すように、1と0のみの要素を用いて時間変化行列STを予め設定する。式(22)の場合、時間変化行列STの時間軸のデータ点数Jは4である。たとえば、初期状態の試料から得られたX線CTデータと、1000、2000、3000サイクルの各々について環境負荷試験を実行したときの試料から得られたX線CTデータとが生データとして得られていると仮定する。ボイドつまり空気は、はんだよりもX線吸収率が低いため、ある時刻においてある空間地点のデータ数値が大きく減少したとしたら、それはその場所にボイドが発生したことを意味する。この場合の時間変化行列STは、X線吸収率の時間変化に着目することによって次式(22)のように設定することができる。
【0243】
【0244】
時間変化行列STの第1列目は、初期状態から3000サイクル経過時まで試料に時間変化がなかった成分を表している。時間変化行列STの第2列目は、初期状態から2000サイクル経過時まで試料にボイドが発生せずに、3000サイクル経過時にボイドの発生を確認できた成分を表している。時間変化行列STの第3列目は、初期状態から1000サイクル経過時まで試料にボイドが発生せずに、2000サイクル経過時にボイドの発生を確認できた成分を表している。時間変化行列STの第4列目は、1000サイクル経過時にボイドの発生を確認できた成分を表している。
【0245】
図12は、タイプCの4D-MCR法の変形例によるデータ処理手順を示すフローチャートである。
図12のフローチャートは、
図11のフローチャートのステップS410,S420をステップS415,S425に変更したものである。
図12のその他のステップS400,S430~S470は、
図11の場合と同様であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0246】
図12のステップS415において、CPU61は、予め作成された固定値の時間変化行列S
Tの入力を受ける。
【0247】
次のステップS425において、CPU61は、固定された時間変化行列S
Tを用いて、前述の式(15A)および(16)で説明した3次元分布を表す行列Cを計算する。この場合、時間変化行列S
Tは既に決定しているので、
図2で説明した3D-MCR法をそのまま実行する必要はない。CPU61は、次式(23A)に従って、元データを表す行列Dと時間変化行列S
Tとを用いて行列Cを計算する。次式(23A)は、前述の式(5A)と同じである。
【0248】
また、時間変化行列STが前述の式(22)で与えられる場合、式(23A)の行列Cは、元データを表す行列Dを用いて次式(23B)のように表される。
【0249】
【0250】
式(23B)では、3次元空間内の点i(ただし、1≦i≦I×T)における行列Cの要素が示されている。第1列目の要素ci1は、3000サイクル時点でのデータ値di4を表す。第2列目の要素ci2は、2000サイクルから3000サイクルの間で減少した値(di3-di4)が示されている。第3列目の要素ci3は、1000サイクルから2000サイクルの間で減少した値(di2-di3)が示されている。第4列目の要素ci4は、初期から1000サイクルの間で減少した値(di1-di2)が示されている。つまり、元データのうち時間変化した部分を強調して解析を行うことになり、ボイドの途中発生を検知しやすくなる。
【0251】
その次のステップS430以降の手順は
図11の場合と同じであるので、説明を繰り返さない。
【0252】
(X線CT装置に分析および結果)
以下、上述したタイプCの変形例による4D-MCR法を用いて、X線CTデータの時間変化を解析した結果について説明する。
【0253】
図13は、分析対象の試料の構造を模式的に示す断面図である。
図13に示すように、分析対象の試料は、基板80と、その上に半田82で固定されたチップ81とを含む。
図13に示すようにx,y,zの座標軸を定義する。基板面はxz平面に平行であり、基板80に垂直な方向がy方向である。
【0254】
この試料に対して冷熱サイクル試験が施される。冷熱サイクル試験では、試料の環境温度を-40°Cと140°Cとの間で変化させた。X線CTの測定は、初期状態(冷熱サイクル:0回)、1000回の冷熱サイクル経過後、2000回の冷熱サイクル経過後、3000回の冷熱サイクル経過後の4回行った。解析には、xy平面内で半田82を含む128×128画素の領域を抽出して使用した。z方向のピッチは4.5μmであり、z方向に垂直なスライス像の数は500枚である。したがって、128×128×500×4=3300万個の数値データが得られる。各数値データの精度は8ビット(0~255)である。
【0255】
図14は、3000サイクルが経過した時点でのX線CTデータより構成した3D像を示す斜視図である。
図14において、ボイドの部分が黒く表示されている。このような3D像では確かに、3000サイクル経過時点においていくつかのボイドが存在していることは読み取れる。しかし、斜め方向からの投影図であるためボイドの正確な位置は把握しづらく、ましてどのタイミングで発生したボイドなのかは全く読み取れない。
【0256】
本実施形態では、
図11で説明した手法を用いてx方向、y方向、およびz方向の各々の視線でX線CTデータを解析する。すなわち、
図14の矢印は、3次元分布を表す行列Cから行列C*を作成する際の視線を示している。これによって、ボイドの正確な位置の把握およびボイドの発生タイミングを知ることができる。
【0257】
図15は、
図11で説明した手法を用いてz方向から見た視線でX線CTデータを解析した結果を示す図である。
図11のステップS430において、行列Cの各要素は、式(17A)および(18A)に示す行列C*のように並べ替えられる。具体的に
図15は、xy平面の分割数L=5の場合のxy平面の領域分割と、対応するz方向プロファイルとを示す。
図15に示すように、xy平面は5つの領域に分割される。図中において白で表示されているところが、当該領域を示す。さらに、各領域に対応するz方向プロファイルが示される。各z方向プロファイルにおいて、点線のグラフ90が初期状態のz方向プロファイルを示す。破線のグラフ91が1000サイクル経過時のz方向プロファイルを示す。細い実線のグラフ92が2000サイクル経過時のz方向プロファイルを示す。太い実線のグラフ93が3000サイクル経過時のz方向プロファイルを示す。
【0258】
図15の上から4つ目に示されたプロファイルにおいて、グラフ93だけが地点P,Q,Rにおいて局所的に値が小さくなっていることがわかる。これはP,Q,Rに対応する位置において3000サイクル経過時点でボイドが発生したことを示している。
【0259】
図16は、
図11で説明した手法を用いてx方向から見た視線でX線CTデータを解析した結果を示す図である。
図11のステップS430において、行列Cの各要素は、式(17B)および(18B)に示す行列C*のように並べ替えられる。具体的に
図16は、yz平面の分割数L=5の場合のyz平面の領域分割と、対応するx方向プロファイルとを示す。
図16に示すように、yz平面は5つの領域に分割される。図中において白で表示されているところが、当該領域を示す。さらに、各領域に対応するx方向プロファイルが示される。各x方向プロファイルにおいて、点線のグラフ90が初期状態のx方向プロファイルを示す。破線のグラフ91が1000サイクル経過時のx方向プロファイルを示す。細い実線のグラフ92が2000サイクル経過時のx方向プロファイルを示す。太い実線のグラフ93が3000サイクル経過時のx方向プロファイルを示す。
【0260】
図17は、
図11で説明した手法を用いてy方向から見た視線でX線CTデータを解析した結果を示す図である。
図11のステップS430において、行列Cの各要素は、式(17C)および(18C)に示す行列C*のように並べ替えられる。
図17は、zx平面の分割数L=5の場合のzx平面の領域分割と、対応するy方向プロファイルとを示す。
図17に示すように、zx平面は5つの領域に分割される。図中において白で表示されているところが、当該領域を示す。さらに、各領域に対応するy方向プロファイルが示される。各y方向プロファイルにおいて、点線のグラフ90が初期状態のy方向プロファイルを示す。破線のグラフ91が1000サイクル経過時のy方向プロファイルを示す。細い実線のグラフ92が2000サイクル経過時のy方向プロファイルを示す。太い実線のグラフ93が3000サイクル経過時のy方向プロファイルを示す。
【0261】
図18A~
図18Dは、
図15~
図17のQ点を通る位置でのX線CTのスライス像を示す図である。
図18Aは、冷熱試験開始前のQ点を通る位置(z=1.05mm)でのX線CTのスライス像を示す。
図18Bは、1000サイクル経過時点での同じ位置におけるX線CTのスライス像を示す。
図18Cは、2000サイクル経過時点での同じ位置におけるX線CTのスライス像を示す。
図18Dは、3000サイクル経過時点での同じ位置におけるX線CTのスライス像を示す。
【0262】
図18Dに示すように、3000サイクルが経過した時点で半田82にボイドが生じている。この結果は、
図15~
図17に示す4D-MCR法によるデータ処理結果にも整合していることがわかる。4D-MCR法を用いることによって、1回のCT観察ごとに100枚から1000枚に達する断面写真をくまなく見るという作業を行うことなく、ボイドの発生位置および発生したタイミングを正確に検知でき、ボイドの位置を2次元平面上に正確に図示できる。
【0263】
本実施形態の上記の例では、はんだ試料の時間変化の解析結果を示した。この場合、解析対象データは、同一の試料に対して複数回のCT観察を行うことにより得られたものである。しかしながら、本手法は上記の例のような「同じ試料の時間変化の解析」に限定されない。たとえば、同じ形状の複数の試料をCT観察してそれらの差異を抽出する、という使い方も可能である。この場合、第4変数は、たとえば「試料」の識別番号となる。一例として本実施形態の上記の分析例と同じくはんだ試料を分析する場合、観察した複数の試料のうちある試料またはある試料群だけが特定の空間位置にボイドが存在しているといった事象をとらえることが可能である。要するに、第3の実施形態では同じ試料の時間変化を追ったデータが分析対象であったが、分析対象データが仮に同じ形状の4つの試料を同時に観察したデータであったとしても、第4変数の意味付けが異なるだけでデータの構造および解析の手順は本質的に同一である。
【0264】
(タイプCの4D-MCR法のまとめ)
まず、第3の実施形態において開示したタイプCの4D-MCR法の要点を示す。処理前の元データは、第1変数(x座標)、第2変数(y座標)、第3変数(z座標)、および第4変数(スペクトルの横軸、時間など)の組み合わせに関連付けられたデータ値(スペクトル強度、X線吸収率など)を有する。この元データを処理するために、CPU61などのプロセッサは、以下のステップ(i)~(vii)を順に実行する。
【0265】
(i) プロセッサは、元データに基づいて、第1変数、第2変数、および第3変数の直積に行番号が対応し、第4変数に列番号が対応する第1行列Dを生成する(ステップS400)。
【0266】
(ii) プロセッサは、第1行列Dを、第1行列Dよりも低次元の第2行列Cおよび第3行列S
Tの積で近似する近似処理を実行する(ステップS410)。この近似処理は、いわゆる、最小二乗法と呼ばれるものと等価であり、具体的には、
図2で説明した逐次近似による3D-MCR法が実行される。第2行列Cの列数および第3行列S
Tの行数であるKは、成分スペクトルの成分数に相当する。
【0267】
(iii) プロセッサは、第2行列Cの各要素を並べ替えることによって、第1変数および第2変数の直積に行番号が対応する第4行列C*を生成する(ステップS430)。なお、第4行列C*の行番号は、第2変数および第3変数の直積に対応付けることもできるし、第1変数および第3変数の直積に対応付けることもできる。以下、第4行列C*の行番号を第1変数および第2変数に対応付けた場合、第1変数および第2変数で規定される平面を基準平面と称する。
【0268】
(iv) プロセッサは、第4行列C*を、第4行列C*よりも低次元の第5行列Lzおよび第6行列PTの積で近似する近似処理を実行する(ステップS440)。
【0269】
(v) プロセッサは、第5行列Lzを2値化した第7行列Lzを生成する(ステップS450)。具体的に、プロセッサは、第5行列について、列ごとに最大値の要素で各要素を除算する規格化を実行した後、行ごとに最大値の要素を1に変更し、最大値以外の要素を0に変更する。これにより、各行のいずれか1つの要素のみが1であり他の要素が0であるように、2値化された第7行列Lzが生成される。
【0270】
(vii)プロセッサは、 第4行列C*を、第7行列Lzと第8行列PTとの積で近似する近似処理を実行する(ステップS460)。第7行列Lzの列数および第8行列PTの行数であるLは、基準平面であるxy平面の領域分割数に相当する。既に第7行列Lzは決定されているので、逐次近似による3D-MCR法を用いる必要はない。具体的に、プロセッサは、第7行列の転置行列LzTと第7行列Lzとの積の逆行列に、第7行列の転置行列LzTと第4行列C*との積を乗算することによって、第8行列PTを生成する。
【0271】
(viii) プロセッサは、第3行列ST、2値化された第7行列Lz、および第8行列PTをメモリ62に出力する。
【0272】
以下、タイプCの4D-MCR法の特徴を、タイプAおよびタイプBの4D-MCR法と比較する。タイプCの4D-MCR法には2つの特徴がある。第1の特徴は、最初に成分スペクトルを表す行列STを導き出す点にある。行列STと同時に導き出された3次元分布を表す行列Cをさらに見やすくするために、追加の3D-MCR法が実行される。
【0273】
タイプCの4D-MCR法の第2の特徴は、タイプAおよびタイプBのように基準平面を最初に決めないという点にある。3次元分布を表す行列Cを適切に並べ替えることによって、第1軸方向、第2軸方向、および第3軸方向のいずれにも視点を変えることができる。
【0274】
上記の第1および第2の特徴によれば、タイプCの4D-MCR法は、特定の面および方向における組成変化を優先的に抽出するタイプAおよびタイプBに比べ、方向によらない特徴または試料中の材料そのものの特徴をより抽出しやすい傾向を有する。言い替えると、タイプCの4D-MCR法は、材料組成の変化が、互いに直交する3軸のうち1軸の方向に偏っておらずバラバラな方向に起こるような試料の解析に向いている。
【0275】
なお、第4変数のデータ点数が少ない場合(たとえば、数個の場合)には、上記のステップ(ii)に示すように逐次近似によって最初に成分スペクトルを表す行列STを導出するメリットが少ない。この場合、成分スペクトルを表す第3行列STを予め定めておいてもよい(ステップS415)。第3行列STを予め決定した場合には、逐次近似による3D-MCR法を用いる必要はない。具体的に、上記のステップ(ii)は次のように変更される。プロセッサは、第1行列Dと第3行列の転置行列Sとの積に、第3行列STと第3行列の転置行列Sとの積の逆行列を乗算することによって、第2行列Cを生成する(ステップS425)。
【0276】
<<第1~第3の実施形態の変形例>>
以下、第1~第3の実施形態に共通する変形例について説明する。具体的には、3D-MCR法を実行する際に単純な交互最小二乗法を使用しない例について説明する。いずれの例も適切に用いることで、出力結果に、単純な交互最小二乗法では得られない追加の効果をもたらすことができる。
【0277】
元データを表す行列Dを、行列Dよりも次元の小さい2つの行列CおよびSTの積で近似する場合に、交互最小2乗法では、最小化すべき被最小化関数として、近似される側の行列Dと近似する側の行列CSTとの間で対応する要素同士の偏差の2乗和を計算した。
【0278】
これに対して、次式(24)に示すように、偏差の二乗和に関数Rの定数λ倍を加算したものを被最小化関数としてもよい。関数Rは、行列Cの要素と行列Sの要素とを引数とする任意の関数である。λ=0の場合は、交互最小二乗法の場合に相当する。
【0279】
【0280】
具体的に、上式(24)の関数Rを、次式(25)に示すように、行列Cの要素の2乗和と行列STの要素の2乗和とを加算した関数に設定してもよい。なお、行列Cの要素の2乗和と行列STの要素の2乗和とで係数λを異ならせてもよい。λの絶対値を大きくすると追加の効果は大きくなるが、もとの偏差の二乗の扱いが相対的に軽くなり行列近似の精度は悪くなる。よってλの絶対値は不必要に大きくしてはならず、元データに応じてある範囲に収めておくべきである。
【0281】
【0282】
被最小化関数を最小化するには、式(4A),(4B)を参照して説明したように、各パラメータcikおよびsjkごとの偏微分が0になるように、各パラメータcikおよびsjkを決定する。この結果、次式(26A)および(26B)が得られる。次式(26A)および(26B)は、式(5A)および(5B)に対応するものである。行列Eは、K行K列の単位行列である。
【0283】
【0284】
実際のMCR法の計算では、
図2を参照して説明したように、下式(26A),(26B)に漸近するように逐次計算を行う。
【0285】
実際に、第2の実施形態の場合と同じ元データを用いて、λ=0、λ=0.001、λ=0.01、λ=0.1の各々についてタイプBの4D-MCR法を実行した。結果の抜粋(深さプロファイル)を
図19A~
図19Dに示す。
図19Aは、第2の実施形態の変形例(式25を使用)による4D-MCRの結果の一部(λ=0の場合の深さプロファイル)を示す図である。
図19Bは、第2の実施形態の変形例(式25を使用)による4D-MCRの結果の一部(λ=0.001の場合の深さプロファイル)を示す図である。
図19Cは、第2の実施形態の変形例(式25を使用)による4D-MCRの結果の一部(λ=0.01の場合の深さプロファイル)を示す図である。
図19Dは、第2の実施形態の変形例(式25を使用)による4D-MCRの結果の一部(λ=0.1の場合の深さプロファイル)を示す図である。
図19Aに示すλ=0の場合が、交互最小二乗法(ALS)の場合に相当する。
【0286】
図19A~
図19Dに示すように、いずれのλに対しても全体的には似た結果であるが、λを大きくするにつれて材料成分ごとの強度差が縮まっていることがわかる。このことは、式(25)に相当する、行列Cの要素および行列Sの要素の絶対値和が小さくなることに対応している(図に示したのは行列Cのみである)。なぜなら、行列の要素の絶対値和は、行列の要素が全て等しいとき最小となり、要素ごとに極端に大小があるとき大きくなるからである。絶対値和が小さくなる結果、行列の要素に極端に大きな値が含まれにくくなり、計算が安定化した。
【0287】
他の変形例として関数Rを、次式(27)に示すように、行列Cの要素についての分散と行列STの要素についての分散との和に設定してもよい。なお、行列Cの要素の分散と行列STの要素の分散とで係数λを異ならせてもよい。
【0288】
【0289】
被最小化関数を最小化するには、各パラメータcikおよびsjkごとの偏微分が0になるように、各パラメータcikおよびsjkを決定する。この結果、次式(28A)および(28B)が得られる。次式(26A)および(26B)は、式(5A)および(5B)に対応するものである。行列EはK行K列の単位行列であり、行列Uは要素が全て1のK行K列の行列である。
【0290】
【0291】
λを正に設定すると分散が小さくなる方向に変化し、λを負に設定すると分散が大きくなる方向に変化する。実際に、第2の実施形態の場合と同じ元データを用いて、λ=0、λ=0.001、λ=0.01、λ=0.1の各々についてタイプBの4D-MCR法を実行した。結果の抜粋(深さプロファイル)を
図20A~
図20Dに示す。
図20Aは、第2の実施形態の変形例(式27を使用)による4D-MCRの結果の一部(λ=0の場合の深さプロファイル)を示す図である。
図20Bは、第2の実施形態の変形例(式27を使用)による4D-MCRの結果の一部(λ=0.001の場合の深さプロファイル)を示す図である。
図20Cは、第2の実施形態の変形例(式27を使用)による4D-MCRの結果の一部(λ=0.01の場合の深さプロファイル)を示す図である。
図20Dは、第2の実施形態の変形例(式27を使用)による4D-MCRの結果の一部(λ=0.1の場合の深さプロファイル)を示す図である。
図20Aに示すλ=0の場合が、交互最小二乗法(ALS)の場合に相当する。
【0292】
図20A~
図20Dに示すように、いずれのλに対しても全体的には似た結果であるが、λを大きくするにつれて領域(Area)3および領域4についてはλ=0のとき深さ0付近で大きく変化していたMaterial_Bが、λ=0.1では全深さでほぼ一様となっている。このことは式(27)に相当する、行列Cの要素の分散および行列Sの要素の分散が小さくなることに対応している(図に示したのは行列Cのみである)。なぜなら、分散は、プロファイルが一様(すなわち、位置によるバラつきがない)とき最小となるからである。
【0293】
さらに、他の変形例として関数Rを、次式(29)に示すように、行列Cの各要素の絶対値と行列STの各要素の絶対値との総和に設定してもよい。記号||R||は、Rを構成する各成分の絶対値の和を表す。行列Cおよび行列STは、交互方向乗数法などを用いて決定できる。
【0294】
【0295】
実際に、第2の実施形態の場合と同じ元データを用いて、λ=0、λ=0.001、λ=0.01、λ=0.1の各々についてタイプBの4D-MCR法を実行した。
図21A~
図21Dに結果の一部(深さプロファイル)を示す。
図21Aは、第2の実施形態の変形例(式29を使用)による4D-MCRの結果の一部(λ=0の場合の深さプロファイル)を示す図である。
図21Bは、第2の実施形態の変形例(式29を使用)による4D-MCRの結果の一部(λ=0.001の場合の深さプロファイル)を示す図である。
図21Cは、第2の実施形態の変形例(式29を使用)による4D-MCRの結果の一部(λ=0.01の場合の深さプロファイル)を示す図である。
図21Dは、第2の実施形態の変形例(式29を使用)による4D-MCRの結果の一部(λ=0.1の場合の深さプロファイル)を示す図である。
図21Aに示すλ=0の場合が、交互最小二乗法(ALS)の場合に相当する。
【0296】
図21A~
図21Dに示すように、いずれのλに対しても全体的には似た結果であるが、λを大きくするにつれ領域1および領域2においてMaterial Bのプロファイルがゼロになる点が増加している。
図21A~
図21Dの縦軸は対数表示のためややわかりにくいが、特に領域2においてMaterial_Bの曲線が切れている箇所はすべてゼロ点である点に注意されたい。したがって、式(29)の絶対値和を小さくすることは、式(25)の2乗和を小さくすることと異なり、零の要素を増やす効果があることがわかる。すなわち、データ全体への影響が小さい成分がゼロ化され主要な成分だけがより際立って抽出された出力が得られた。
【0297】
さらに他の変形例として、次式(30)に示すように、被最小化関数に含まれる偏差の2乗和を、偏差の絶対値のx乗和(ただし、x>0)に変更してもよい。すなわち、元データを表す行列Dを、行列Dよりも次元の小さい2つの行列CおよびSTの積で近似する場合に、近似される側の行列Dと近似する側の行列CSTとの間で対応する要素同士の偏差の絶対値のx乗を計算し、これらの計算結果の総和を含む関数を最小化する。第1~第3の実施形態で述べてきた手法は、x=2の特別な場合である。
【0298】
【0299】
x≠2の場合には、各パラメータcikおよびsjkごとの偏微分が0に等しいとした前述の式(4A)および(4B)は、非線形連立方程式になる。この場合、ニュートン法などを用いて行列Cおよび行列STを求めることができる。
【0300】
実際に、第2の実施形態の場合と同じ元データを用いて、x=1.5、x=2、x=3、x=4の4通りについてタイプBの4D-MCR法の計算を実行した。
図22A~
図22Dに深さプロファイルの結果を示し、
図23にスペクトルの結果を示す。
図22Aは、第2の実施形態の変形例(式30を使用)による4D-MCRの結果の一部(x=1.5の場合の深さプロファイル)を示す図である。
図22Bは、第2の実施形態の変形例(式30を使用)による4D-MCRの結果の一部(x=2の場合の深さプロファイル)を示す図である。
図22Cは、第2の実施形態の変形例(式30を使用)による4D-MCRの結果の一部(x=3の場合の深さプロファイル)を示す図である。
図22Dは、第2の実施形態の変形例(式30を使用)による4D-MCRの結果の一部(x=4の場合の深さプロファイル)を示す図である。
図22Bに示すx=2の場合が、交互最小二乗法(ALS)の場合に相当する。また、
図23は、第2の実施形態の変形例(式30を使用)による4D-MCRの結果の一部(スペクトル)を示す図である。
【0301】
図22A~
図22Dおよび
図23に示すように、上記のxの値に対しては互いに類似した解が得られた。一般にxを2より小さくすると元データからのずれに対して過剰なペナルティを課すようになり、一方でxを2より大きくするとずれに対するペナルティが軽くなる傾向がある。近似の精度をどこまで要求するかによって最適なxを選択することが重要である。
【0302】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0303】
50 分析装置、60 データ処理装置、61 CPU、62 メモリ、63 補助記憶装置、64 出力装置、65 通信装置、67 バス、100 分析システム。