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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】継目無金属管の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 19/04 20060101AFI20230214BHJP
   B21B 27/02 20060101ALI20230214BHJP
   B21B 19/06 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
B21B19/04
B21B27/02 H
B21B19/06 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021570643
(86)(22)【出願日】2020-09-28
(86)【国際出願番号】 JP2020036582
(87)【国際公開番号】W WO2021145027
(87)【国際公開日】2021-07-22
【審査請求日】2022-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2020003451
(32)【優先日】2020-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】下田 一宗
(72)【発明者】
【氏名】山根 康嗣
(72)【発明者】
【氏名】黒田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】井上 祐二
(72)【発明者】
【氏名】下岡 秀輔
(72)【発明者】
【氏名】邨上 和幸
(72)【発明者】
【氏名】信藤 康太
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-009507(JP,A)
【文献】特開平05-261408(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 17/00-25/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜圧延機を用いて、第1の肉厚を有する第1の継目無金属管、及び前記第1の肉厚と異なる第2の肉厚を有する第2の継目無金属管を製造する、継目無金属管の製造方法であって、
前記傾斜圧延機は、
パスライン上に配置されたプラグと、
前記パスラインの回りに等間隔に配置され、各々が入側面及び出側面を有する3つの傾斜ロールであって、前記パスラインと前記入側面との距離が前記パスラインの入側から出側に向かって漸減し、前記パスラインと前記出側面との距離が前記パスラインの入側から出側に向かって漸増する、前記傾斜ロールと、を備え、
前記製造方法は、
前記傾斜圧延機によって、加熱された第1の被圧延材を圧延する第1の傾斜圧延工程と、
前記傾斜圧延機の設定条件を下記(a)及び(b)のいずれかに変更する設定変更工程と、
設定条件を変更された前記傾斜圧延機によって、加熱された第2の被圧延材を圧延する第2の傾斜圧延工程と、を含む、継目無金属管の製造方法。
(a)前記第2の肉厚が前記第1の肉厚よりも小さい場合、前記傾斜ロールの交叉角を前記第1の傾斜圧延工程のときよりも大きくする、
(b)前記第2の肉厚が前記第1の肉厚よりも大きい場合、前記傾斜ロールの交叉角を前記第1の傾斜圧延工程のときよりも小さくする。
【請求項2】
請求項1に記載の継目無金属管の製造方法であって、
前記第1の傾斜圧延工程及び前記第2の傾斜圧延工程では、前記出側面のうち前記第1の被圧延材及び前記第2の被圧延材との接触範囲における前記出側面の角度を0°以上、9°以下とし、
前記第1の傾斜圧延工程では、前記第1の継目無金属管の外径に対する前記第1の肉厚の比が0.07以下の場合、前記出側面の前記角度を3°よりも大きくし、
前記第2の傾斜圧延工程では、前記第2の継目無金属管の外径に対する前記第2の肉厚の比が0.07以下の場合、前記出側面の前記角度を3°よりも大きくする、継目無金属管の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の継目無金属管の製造方法であって、
前記入側面が凸の曲面であり、
前記第2の傾斜圧延工程では、前記第1の傾斜圧延工程で用いた前記傾斜ロールを用いる、継目無金属管の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の継目無金属管の製造方法であって、
前記第1の被圧延材及び前記第2の被圧延材が中実であり、
前記第1の傾斜圧延工程及び前記第2の傾斜圧延工程では、穿孔比を3.5以上とし、前記入側面の角度を8°以上、15°以下とし、かつゴージドラフト率を30%以上とする、継目無金属管の製造方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の継目無金属管の製造方法であって、
前記第1の被圧延材及び前記第2の被圧延材が中実であり、
前記入側面が凸の曲面であって、前記傾斜ロールの中心軸を含む断面に現れる前記入側面の線が円弧であり、
前記円弧の曲率半径を前記第1の被圧延材及び前記第2の被圧延材の外径で除した値が1.67以上、6.67以下である、継目無金属管の製造方法。
【請求項6】
請求項1から3のいずれか1項に記載の継目無金属管の製造方法であって、
前記第1の被圧延材及び前記第2の被圧延材が中実であり、
前記第1の傾斜圧延工程及び前記第2の傾斜圧延工程では、ゴージドラフト率(GD)と噛み込み角(α)が下記の式(1)で表わされる条件を満足する、継目無金属管の製造方法。
0.12×GD+1.5≦α≦0.25×GD+6 (1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンネスマン法による継目無金属管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、マンネスマン法による継目無金属管の製造方法は、以下のステップを含む。丸ビレットを所定の温度に加熱する。丸ビレットを穿孔圧延して、素管(継目無金属管)を製造する。素管をさらに延伸圧延し、さらに定径圧延する。穿孔圧延工程では穿孔圧延機(例:ピアサ)が用いられる。延伸圧延工程では延伸圧延機(例:マンドレルミル、エロンゲータ)が用いられる。穿孔圧延機は傾斜圧延機である。延伸圧延機として傾斜圧延機が用いられる場合もある。
【0003】
傾斜圧延機は、例えば、特開平5-228514号公報(特許文献1)、特開平2-263506号公報(特許文献2)、特開昭64-31505号公報(特許文献3)、及び特開昭59-80716号公報(特許文献4)に開示される。
【0004】
傾斜圧延機は、圧延工具として、プラグと2つの傾斜ロールとを備える。傾斜圧延機が3つの傾斜ロールを備える場合もある。2つの傾斜ロールを備える傾斜圧延機は2ロール式傾斜圧延機と称される。3つの傾斜ロールを備える傾斜圧延機は3ロール式傾斜圧延機と称される。各傾斜ロールは、パスラインの周りに等間隔に配置される。各傾斜ロールの中心軸はパスラインに対して傾いている。つまり、各傾斜ロールには傾斜角が与えられている。各傾斜ロールにさらに交叉角が与えられる場合もある。プラグは、傾斜ロール同士の間のパスライン上に配置される。
【0005】
傾斜圧延機を穿孔圧延機として用いる場合、その傾斜圧延(穿孔圧延)は次のように行われる。被圧延材は中実の丸ビレットである。加熱された被圧延材がパスライン上に配置される。被圧延材は、プッシャによって、回転する傾斜ロール同士の間に送られて、傾斜ロールに噛み込む。そして、被圧延材は、パスライン上で自身の軸心回りに回転しながら前進して、傾斜ロールとプラグによって穿孔圧延される。これにより、所定の肉厚と外径を有する素管(継目無金属管)が得られる。
【0006】
傾斜圧延機を延伸圧延機として用いる場合、その傾斜圧延(延伸圧延)の状況は、被圧延材が中空の素管である以外は、穿孔圧延の状況と同じである。
【0007】
ここで、マンネスマン法による継目無金属管の製造方法において、各ステップのうちの最初のステップ(穿孔圧延工程)を担うピアサ(穿孔圧延機)は、1885年にマンネスマン兄弟によって実用化された。当時のピアサは、基本的な2ロール式ピアサであった。ピアサは、実用化後も種々の改良を施されて、現在も世界各国の工場で稼働している。これまでピアサ以外の穿孔機が数多く実用化されてきたが、エルハルト穿孔法やユジーン押出法を除いて、ピアサ以外の穿孔機はほぼ淘汰されている。これは、ピアサが生産性及び製品寸法精度に優れるためである。したがって、工業的な成功を収めた穿孔機は、ピアサ(穿孔圧延機)のみと言っても過言ではない。
【0008】
しかしながら、現在の2ロール式ピアサは解決すべき問題を抱えている。主に以下に示す2つの課題がある。
【0009】
1つ目の課題は、マンネスマン破壊に起因する内面疵である。マンネスマン破壊とは、被圧延材の中心部が脆化して崩壊する現象である。2ロール式ピアサの場合、パスラインの周りの傾斜ロール同士の間にガイド工具(例:プレートシュー、ディスクロール)が設けられている。ガイド工具は、被圧延材の張り出しを制限する役割を担う。穿孔圧延(傾斜圧延)中、回転する被圧延材の中心部には、傾斜ロール同士の向き合う方向の圧縮応力と、ガイド部材同士の向き合う方向の引張応力と、が同時に作用する。このような応力は、被圧延材が1/4回転する度に繰り返される。繰り返しの応力負荷により、マンネスマン破壊が発生する。マンネスマン破壊が著しくなると、得られた素管の内面に疵が発生する。この疵が内面疵である。
【0010】
従来、長期にわたり、マンネスマン破壊をむしろ利用し、被圧延材の崩壊した中心部にプラグを押し当てて穿孔していた。容易に穿孔を行えるからである。ただし、この方法では内面疵が発生する。
【0011】
近年では、マンネスマン破壊を抑制するための対策が採られている。その対策は、例えばコーン型の傾斜ロールを用いることである。しかしながら、マンネスマン破壊を完全に防ぐことはできない。このため、内面疵の発生は根絶できていない。特に、被圧延材が鋳造ビレットや、ステンレス鋼等の難加工性材料である場合、マンネスマン破壊が助長され、内面疵の発生頻度が高くなる。
【0012】
なお、マンネスマン破壊は、前述した応力負荷の繰り返し回数すなわち被圧延材の回転回数に応じて著しくなる。そのため、傾斜ロールの入側面角を大きくして、被圧延材が傾斜ロールに接触してからプラグの先端に到達するまでの距離を短くすることが、マンネスマン破壊を抑制する手段の一つとなる。ただし、2ロール式ピアサでは一般的に3°前後の入側面角を有する傾斜ロールが用いられている。それは、2ロール式ピアサによる穿孔圧延では、被圧延材が傾斜ロール同士の対向する方向とは垂直な方向にずれやすくて、噛み込み不良を生じやすいため、あまりに大きい入側面角を採用することは難しいからである。
【0013】
2つ目の課題は、ディスクロールの損傷に起因する外面疵である。ディスクロールは、2ロール式ピアサに設けられるガイド工具である。当時は、ガイド工具として固定式のプレートシューが用いられていた。穿孔圧延(傾斜圧延)中、プレートシューは被圧延材と摺動する。この摺動が著しくなると、得られた素管の外面に疵が発生する。この疵が外面疵である。
【0014】
近年では、プレートシューに替えて回転式のディスクロールが用いられている。ディスクロールの使用により、外面疵の発生頻度が少なくなっている。
【0015】
しかしながら、ディスクロールの回転方向は被圧延材の回転方向と必ずしも一致しない。このため、ディスクロールの表面と被圧延材の外面との焼き付きを防ぐことはできない。また、ディスクロールの表面の変形を防ぐことはできない。そうすると、定期的にディスクロールの表面を手入れしたり、定期的にディスクロールを交換したりすることが必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】特開平5-228514号公報
【文献】特開平2-263506号公報
【文献】特開昭64-31505号公報
【文献】特開昭59-80716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
3ロール式傾斜圧延機は上記の2つの課題を解決できる。3ロール式傾斜圧延機では、2ロール式傾斜圧延機とは異なり、傾斜圧延中、被圧延材の中心部に圧縮応力のみが作用するため、マンネスマン破壊が生じない。このため、内面疵は発生しない。また、3ロール式傾斜圧延機では、ガイド工具を使用しない。このため、外面疵も発生しない。したがって、2ロール式傾斜圧延機を用いた傾斜圧延に内在する品質上の課題を解消するために、3ロール式傾斜圧延機を用いた傾斜圧延は極めて有用である。
【0018】
しかしながら、3ロール式傾斜圧延機はあらゆる継目無金属管の製造に実用化されているわけではない。例えば、3ロール式傾斜圧延機を用いた穿孔圧延では、肉厚の小さい継目無金属管を製造することが困難である。ガイド工具を使用しないからである。このため、ガイド工具の設置が検討されてきたものの、実現には至っていない。3ロール式傾斜圧延機にガイド工具を設置することは構造的に無理があるからである。現在のところ、中空の素管から肉厚の大きい継目無金属管を製造することに特化したアッセルミル等の延伸圧延機として、3ロール式傾斜圧延機が利用されているにすぎない。
【0019】
したがって、あらゆる継目無金属管の製造で3ロール式傾斜圧延機を実用化することが望まれる。このため、3ロール式傾斜圧延機を用いた傾斜圧延において、品質上で問題なく、肉厚の小さい継目無金属管、及び肉厚の大きい継目無金属管のいずれも製造できることが重要である。
【0020】
本発明の1つの目的は、3ロール式傾斜圧延機を実用化できる、継目無金属管の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の実施形態による継目無金属管の製造方法は、傾斜圧延機を用いて、第1の肉厚を有する第1の継目無金属管、及び第1の肉厚と異なる第2の肉厚を有する第2の継目無金属管を製造する。傾斜圧延機は、パスライン上に配置されたプラグと、パスラインの回りに等間隔に配置され、各々が入側面及び出側面を有する3つの傾斜ロールと、を備える。パスラインと上記入側面との距離がパスラインの入側から出側に向かって漸減し、パスラインと上記出側面との距離がパスラインの入側から出側に向かって漸増する。
【0022】
上記製造方法は、第1の傾斜圧延工程と、設定変更工程と、第2の傾斜圧延工程と、を含む。第1の傾斜圧延工程は、傾斜圧延機によって、加熱された第1の被圧延材を圧延する。設定変更工程は、傾斜圧延機の設定条件を下記(a)及び(b)のいずれかに変更する。第2の傾斜圧延工程は、設定条件を変更された傾斜圧延機によって、加熱された第2の被圧延材を圧延する。
(a)第2の肉厚が第1の肉厚よりも小さい場合、傾斜ロールの交叉角を第1の傾斜圧延工程のときよりも大きくする、
(b)第2の肉厚が第1の肉厚よりも大きい場合、傾斜ロールの交叉角を第1の傾斜圧延工程のときよりも小さくする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の実施形態による製造方法によれば、3ロール式傾斜圧延機を用いた傾斜圧延において、品質上で問題なく、肉厚の小さい継目無金属管、及び肉厚の大きい継目無金属管のいずれも製造することができる。このため、3ロール式傾斜圧延機を実用化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、3ロール式傾斜圧延機の斜視図である。
図2図2は、3ロール式傾斜圧延機の正面図である。
図3図3は、3ロール式傾斜圧延機の上面図である。
図4図4は、3ロール式傾斜圧延機の側面図である。
図5図5は、凸の曲面の入側面を有する傾斜ロールの一例を示す図である。
図6図6は、本実施形態の継目無金属管の製造方法を示すフロー図である。
図7図7は、設定変更工程における選択肢(a)の状況を示す模式図である。
図8図8は、設定変更工程における選択肢(b)の状況を示す模式図である。
図9図9は、穿孔圧延試験で用いたプラグの外観を示す図である。
図10図10は、穿孔圧延試験で用いた傾斜ロールの外観を示す図である。
図11図11は、穿孔圧延試験で用いた傾斜ロールの外観を示す図である。
図12図12は、実施例1における不具合の発生有無をまとめた図である。
図13図13は、実施例3における不具合の発生有無をまとめた図である。
図14図14は、実施例4における不具合の発生有無をまとめた図である。
図15図15は、穿孔圧延試験で用いた傾斜ロールの外観を示す図である。
図16図16は、実施例5における不具合の発生有無をまとめた図である。
図17図17は、実施例5における不具合の発生有無をまとめた図である。
図18図18は、穿孔圧延試験で用いた傾斜ロールの外観を示す図である。
図19図19は、穿孔圧延試験で用いた傾斜ロールの外観を示す図である。
図20図20は、実施例6における不具合の発生有無をまとめた図である。
図21図21は、実施例6における不具合の発生有無をまとめた図である。
図22図22は、噛み込み角(α)を説明するための図である。
図23図23は、噛み込み角(α)とゴージドラフト率との関係に基づいて不具合の発生有無をまとめた図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
上記の課題を解決するために本発明者らは鋭意検討を重ね、その結果下記の知見を得た。
【0026】
[3ロール式傾斜圧延機の基本構成]
図1図4は、3ロール式傾斜圧延機の構成を示す図である。これらの図のうち、図1は、その傾斜圧延機をパスラインPLの出側から見たときの斜視図を示す。図2には、その傾斜圧延機をパスラインPLの入側からパスラインPLに沿って見たときの正面図を示す。図3は、その傾斜圧延機の上面図を示す。図4は、その傾斜圧延機の側面図を示す。図1では、プラグ2の図示は省略される。図3及び図4では、パスラインPLの鉛直方向上方に配置された1つの傾斜ロール1のみを示し、下方に配置された2つの傾斜ロール1の図示は省略される。図4では、被圧延材WPはパスラインPLを含む断面で示される。図1図4には、被圧延材WPが中実の丸ビレットであるときの状況が例示される。つまり、図1図4に例示する傾斜圧延機は、穿孔圧延に用いられる穿孔圧延機である。本明細書において、3ロール式傾斜圧延機を単に傾斜圧延機と言う場合がある。
【0027】
図1図4を参照して、傾斜圧延機は、圧延工具として、プラグ2と3つの傾斜ロール1とを備える。3つの傾斜ロール1は、パスラインPLの周りに等間隔に配置される。つまり、3つの傾斜ロール1は、互いに120°の間隔で配置される。3つの傾斜ロール1のうちの1つの傾斜ロール1がパスラインPLの真上(鉛直方向上方)に配置される。ただし、3つの傾斜ロール1がパスラインPLの周りに等間隔に配置される限り、3つの傾斜ロール1の位置は限定されない。例えば、1つの傾斜ロール1がパスラインPLの真下(鉛直方向下方)に配置されてもよい。各傾斜ロール1の表面は、パスラインPLに沿って入側面1aと出側面1bに区分される。
【0028】
各傾斜ロール1の中心軸1cはパスラインPLに対して傾いている。つまり、各傾斜ロール1には傾斜角FAが与えられている(図3参照)。各傾斜ロールには交叉角CAが与えられている(図4参照)。傾斜角FA及び交叉角CAは調整可能である。また、各傾斜ロール1には、パスラインPLに対して開度が与えられている。このロール開度も調整可能である。
【0029】
傾斜角FAとは、パスラインPLを中心とする周方向における傾斜ロール1の中心軸1cの振れ角を意味する。交叉角CAとは、パスラインPLを中心とする径方向における傾斜ロール1の中心軸1cの振れ角を意味する。
【0030】
パスラインPLと入側面1aとの距離はパスラインPLの入側から出側に向かって漸減する。一方、パスラインPLと出側面1bとの距離はパスラインPLの入側から出側に向かって漸増する。入側面1aは、例えば勾配が一定のテーパ面である。出側面1bは、例えば勾配が一定のテーパ面である。
【0031】
プラグ2は、傾斜ロール1同士の間のパスラインPL上に配置される。プラグ2は、パスラインPLに沿って延びる芯金3によって保持される。
【0032】
このような傾斜圧延機を用いた傾斜圧延(穿孔圧延)は次のように行われる。丸ビレットである被圧延材WPを加熱する。加熱された被圧延材WPがパスラインPL上に配置される。被圧延材WPは、プッシャによって、回転する傾斜ロール1同士の間に送られて、傾斜ロール1に噛み込む。そして、被圧延材WPは、パスラインPL上で自身の軸心回りに回転しながら前進して、傾斜ロール1とプラグ2によって穿孔圧延される。これにより、所定の肉厚と外径を有する素管(継目無金属管)が得られる。
【0033】
傾斜圧延機を延伸圧延機として用いる場合、その傾斜圧延(延伸圧延)の状況は、被圧延材が中空の素管である以外は、穿孔圧延の状況と同じである。つまり、被圧延材はパスラインPL上で自身の軸心回りに回転しながら前進して、傾斜ロール1とプラグ2によって延伸圧延される。
【0034】
[3ロール式傾斜圧延機の実用化への検討]
本発明者らは、まず、3ロール式傾斜圧延機を用いた傾斜圧延(穿孔圧延及び延伸圧延)のうちの穿孔圧延に着目した。穿孔圧延の加工条件は延伸圧延よりもはるかに厳しいからである。そして本発明者らは、3ロール式傾斜圧延機(3ロール式ピアサ)を用いた穿孔圧延において、弱点とされてきた肉厚の小さい継目無金属管の製造に取り組んだ。
【0035】
なお、本明細書において、肉厚の小さい継目無金属管の製造を薄肉製管と言う場合がある。また、肉厚の大きい継目無金属管の製造を厚肉製管と言う場合がある。
【0036】
3ロール式傾斜圧延機を用いた穿孔圧延において、薄肉製管を行えば、傾斜ロール同士の間に被圧延材の一部の材料が噛み出して、被圧延材の回転が止まる。これが薄肉製管を困難にする原因である。
【0037】
本発明者らは、第1の対策として、プラグによる肉厚加工量を小さくすることを試みた。プラグによる肉厚加工量が小さければ、傾斜ロール同士の間への材料の噛み出しも小さくなるからである。その手段として、ロール開度を小さくする方法を採用した。ロール開度を小さくすることによって、被圧延材がプラグの先端に到達するまでに被圧延材の外径が小さくなり、その後に被圧延材の外径が大きくなる。これにより、プラグによる肉厚加工量を小さくすることができる。例えば、断面積(外径)が異なる2つの被圧延材から、外径と肉厚が共通する素管を得る場合、断面積(外径)の小さい被圧延材の方が全体の加工度は小さくて済む。
【0038】
しかしながら、被圧延材の外径に対してロール開度を小さくしすぎると、穿孔圧延によって得られた素管の外径が長手方向で不均一になることが判明した。これは、被圧延材全体の加工度が大きくなり、傾斜ロールの入側での材料流量と傾斜ロールの出側での材料流量との平衡が崩れることによる。傾斜ロールの入側での材料流量を傾斜ロールの出側での材料流量と等しくするためには、入側での被圧延材の進行速度を下げる必要がある。なお、材料流量は、対象となる位置における被圧延材の断面積と進行速度との積で表わされる。
【0039】
そこで、本発明者らは、各種の実験及び数値解析を実施し、傾斜ロールの入側での被圧延材の進行速度を下げる手法を検討した。その結果、傾斜ロールの入側面の角度を大きくすれば、傾斜ロールの入側面において、被圧延材の進行速度が下がり、被圧延材の周方向の周長変動が抑制されることを確認した。
【0040】
本明細書において、傾斜ロールの入側面の角度を入側面角と言う場合がある。入側面角は、パスラインを含む断面において、被圧延材と接触する範囲の入側面とパスラインとの成す角度のうちの最大の角度を意味する。
【0041】
次に、本発明者らは、第2の対策として、穿孔圧延中に被圧延材が伸びる方向を制御することを試みた。その手段は傾斜ロールの出側面の角度を大きくすることである。傾斜ロールの出側面の角度を大きくすれば、傾斜ロールの出側面において、被圧延材と接触する範囲の長手方向の距離が短くなり、長手方向の材料拘束が弱まる。そうすると、被圧延材は長手方向に伸びやすくなるが、被圧延材の周方向の伸びはその分減少する。これにより、噛み出しが小さくなる。
【0042】
本明細書において、傾斜ロールの出側面の角度を出側面角と言う場合がある。出側面角は、パスラインを含む断面において、被圧延材と接触する範囲の出側面とパスラインとの成す角度のうちの最大の角度を意味する。
【0043】
以上の対策及びその対策のための手段を採用することにより、従来困難とされていた3ロール式傾斜圧延機による薄肉製管が可能となる。
【0044】
ただし、上記の対策及び手段は、薄肉製管に特化したものである。上記の対策及び手段を厚肉製管に採用した場合、得られた素管の後端にプラグの最大径部が残り、プラグが素管から抜けきれないという問題が生じる。この問題は圧延不具合の一つであり、プラグ詰まりと称される。プラグ詰まりは、被圧延材の周方向の周長が不足するために起きる現象である。プラグ詰まりを解消するには、薄肉製管時とは逆に、被圧延材の周方向の周長を大きくしなければならない。
【0045】
したがって、厚肉製管の場合に採用する手段は薄肉製管の場合と逆になる。つまり、厚肉製管時には、プラグよりも入側の被圧延材の材料断面積を大きくするため、ロール開度は大きくする。この場合、被圧延材への推進力を得るため、傾斜ロールの入側面において、被圧延材と接触する距離を長くする必要がある。その手段として、傾斜ロールの入側面角を小さくしなければならない。また、周方向に被圧延材の材料を逃がすために、傾斜ロールの出側面角を小さくし、長手方向の材料拘束を強くしなければならない。
【0046】
厚肉製管と薄肉製管を一つの傾斜圧延機で実施する場合、相互に形状寸法が異なる傾斜ロールを用いればよい。これにより、厚肉製管及び薄肉製管それぞれの肉厚限界を拡大することができる。
【0047】
もっとも、得ようとする継目無金属管の肉厚に応じて傾斜ロールを交換することになれば、操業能率が低下することは否めない。このため、可能ならば傾斜ロールの交換を回避することが望まれる。
【0048】
本発明者らは、傾斜ロールの交換が不要となる手段についてさらに鋭意検討を重ねた。その結果、辿り着いた手段が、傾斜ロールの入側面を凸の曲面にすることである。通常、傾斜ロールの入側面は、勾配が一定のテーパ面である。本発明者らは、同一の傾斜ロールを用いて肉厚の異なる継目無金属管を製造する手段として、入側面が凸の曲面である傾斜ロールを用い、さらに傾斜ロールの交叉角CAを調整することを思い至った。
【0049】
ここで、3ロール式傾斜圧延機の構造について説明する。3ロール式傾斜圧延機は、傾斜ロールの中心軸の両端を支えるハウジングが入側と出側に分かれている。その2つのハウジングのうちのいずれか一方又は両方が回動することにより、傾斜ロールの傾斜角FAが調整される。また、入側と出側の各ハウジングにおいて、傾斜ロールの支持位置は調整可能に構成される。支持位置それぞれの調整により、傾斜ロールの交叉角CAが調整される。これと合わせて、入側及び出側それぞれのロール開度が調整される。なお、傾斜ロールの中心軸の両端が1つのハウジングによって支えられる場合もある。
【0050】
図5は、凸の曲面の入側面1aを有する傾斜ロール1の一例を示す図である。図5を参照して、入側面1aと出側面1bとの境界がゴージGである。傾斜ロール1の入側面1aは、単なるテーパ面、すなわち勾配が一定のテーパ面ではなくて、凸の曲面である。本明細書において、凸の曲面とは、勾配が連続的に変化するテーパ面、勾配が段階的に変化するテーパ面、又はこれらを組み合わせたテーパ面を意味する。入側面1aを傾斜ロール1の中心軸1cに沿って切断したときに現われる線は、例えば凸の曲線である。この凸の曲線は、例えば曲率半径が一定の円弧を描く関数で表わされる。この凸の曲線は多次項式関数で表わされるものでもよい。また、入側面1aを傾斜ロール1の中心軸1cに沿って切断したときに現われる線は、凸の曲線と直線との組合せであってもよいし、傾きが相互に異なる複数の直線の組合せであってもよい。一方、傾斜ロール1の出側面1bは、勾配が一定のテーパ面である。
【0051】
入側面が凸の曲面である傾斜ロールを用いた穿孔圧延により、薄肉製管及び厚肉製管を実施する方法を以下に説明する。
【0052】
薄肉製管の場合、傾斜ロールの交叉角CAを大きくする。続いてロール開度を小さくする。つまり、傾斜ロールをパスラインに近づける。これにより、被圧延材と傾斜ロールとの接触開始位置がパスラインの入側に向けて移動する。このため、被圧延材は、傾斜ロールの入側面の勾配が大きい位置で入側面と接触するようになる。これは被圧延材の直径を大きくして高縮径する場合も同様の効果をもたらす。
【0053】
傾斜ロールの交叉角CAを大きくすることにより、傾斜ロールの出側面角を大きくする。このとき、傾斜ロールの入側面角はほとんど変化することはない。傾斜ロールの入側面が凸の曲面であるからである。この場合、仮に、傾斜ロールの入側面が単なるテーパ面であって、入側面全域の勾配が一定であれば、入側面の胴長を予め長くしておく必要がある。傾斜ロールの交叉角CAが大きくなるのに伴って、入側面角が小さくなることから、入側面の入側端におけるロール開度を被圧延材の直径以上に拡げなければならないためである。これに対して、入側面が凸の曲面であれば、その必要がない。また、被圧延材の直径が大きい場合であっても、入側面が凸の曲面であれば、材料の押し込み過多がないため、被圧延材の長手方向の周長は変動なく安定する。なお、交叉角CAの変更と合わせて、プラグを交換してもよい。
【0054】
なお、ロール開度の調整は、傾斜ロールの交叉角CAの調整後に実施されてもよいし、傾斜ロールの交叉角CAの調整前に実施されてもよい。微調整のため、ロール開度の調整と傾斜ロールの交叉角CAの調整が繰り返されてもよい。
【0055】
厚肉製管の場合は薄肉製管の場合と逆の操作を行う。具体的には、まず傾斜ロールの交叉角CAを小さくする。続いてロール開度を大きくする。つまり、傾斜ロールをパスラインから遠ざける。これにより、被圧延材と傾斜ロールとの接触開始位置がパスラインの出側に向けて移動する。このため、被圧延材は、傾斜ロールの入側面の勾配が小さい位置で入側面と接触するようになる。
【0056】
ロール開度の調整前に傾斜ロールの交叉角CAを小さくすることにより、傾斜ロールの出側面角を小さくする。この場合、仮に、傾斜ロールの入側面が単なるテーパ面であって、入側面全域の勾配が一定であれば、傾斜ロールの交叉角CAが小さくなるのに伴って、入側面角が大きくなる。このため、入側面と被圧延材との接触距離が短くなり、被圧延材の噛み込みが不安定となる。これに対して、入側面が凸の曲面であれば、入側面角がほとんど変化することはないため、被圧延材の噛み込み不良は生じない。なお、交叉角CAの変更と合わせて、プラグを交換してもよい。
【0057】
このように傾斜ロールの入側面が凸の曲面であれば、傾斜ロールの設定条件を変更するだけで、同一の傾斜ロールを用いて肉厚の異なる継目無金属管を製造することが可能になる。その際、被圧延材の直径が大きい場合であっても、材料の周長変動が抑制され、さらに材料噛み出しやプラグ詰まりといった圧延不具合は生じない。
【0058】
以上の対策及び手段を適宜適用すれば、3ロール式傾斜圧延機を用いた傾斜圧延(穿孔圧延及び延伸圧延)によって、肉厚の大小を問わずに継目無金属管を製造できる。継目無金属管の肉厚の度合いは、外径に対する肉厚の比で表わされる。この比の値は、肉厚外径比とも称される。肉厚外径比が小さいほど、継目無金属管の肉厚の度合いが小さい(すなわち薄肉である)ことを意味する。従来の3ロール式傾斜圧延機を用いた穿孔圧延では、肉厚外径比が0.07以下である薄肉の継目無金属管を製造することは困難である。上記の対策及び手段の適用により、肉厚外径比が0.07以下である薄肉の継目無金属管を製造できるし、厚肉の継目無金属管も当然に製造できる。
【0059】
また、上記の対策及び手段の適用により、被圧延材として大きい外径を有する丸ビレットを用いて、高加工度の穿孔圧延を行うことも可能である。この場合、丸ビレットの外径を大きい方に集約できるため、製鋼及び分塊圧延に要する製造コストを大幅に削減できるという有益な利点がある。
【0060】
本発明の継目無金属管の製造方法は、上記の知見に基づいて完成されたものである。
【0061】
本発明の実施形態による継目無金属管の製造方法は、傾斜圧延機を用いて、第1の肉厚を有する第1の継目無金属管、及び第1の肉厚と異なる第2の肉厚を有する第2の継目無金属管を製造する。傾斜圧延機は、プラグと、3つの傾斜ロールと、を備える。プラグは、パスライン上に配置される。3つの傾斜ロールは、パスラインの回りに等間隔に配置され、各々が入側面及び出側面を有する。パスラインと上記入側面との距離がパスラインの入側から出側に向かって漸減する。パスラインと上記出側面との距離がパスラインの入側から出側に向かって漸増する。
【0062】
上記製造方法は、第1の傾斜圧延工程と、設定変更工程と、第2の傾斜圧延工程と、を含む。第1の傾斜圧延工程は、傾斜圧延機によって、加熱された第1の被圧延材を圧延する。設定変更工程は、傾斜圧延機の設定条件を下記(a)及び(b)のいずれかに変更する。第2の傾斜圧延工程は、設定条件を変更された傾斜圧延機によって、加熱された第2の被圧延材を圧延する(第1の構成)。
(a)第2の肉厚が第1の肉厚よりも小さい場合、傾斜ロールの交叉角を第1の傾斜圧延工程のときよりも大きくする、
(b)第2の肉厚が第1の肉厚よりも大きい場合、傾斜ロールの交叉角を第1の傾斜圧延工程のときよりも小さくする。
【0063】
第1の構成の製造方法によれば、3ロール式傾斜圧延機を用いた傾斜圧延において、品質上で問題なく、肉厚の小さい継目無金属管、及び肉厚の大きい継目無金属管のいずれも製造することができる。このため、3ロール式傾斜圧延機を実用化することができる。
【0064】
なお、第1の肉厚及び第2の肉厚は、傾斜圧延後の狙い肉厚であって、実際に傾斜圧延された後の実肉厚の値とは若干異なる場合もある。
【0065】
典型的な例では、傾斜圧延機は穿孔圧延機である。この場合、第1の傾斜圧延工程及び第2の傾斜圧延工程は穿孔圧延工程である。第1の被圧延材及び第2の被圧延材は中実の丸ビレットである。
【0066】
別の典型的な例では、傾斜圧延機は延伸圧延機である。この場合、第1の傾斜圧延工程及び第2の傾斜圧延工程は延伸圧延工程である。第1の被圧延材及び第2の被圧延材は中空の素管である。
【0067】
第1の構成の製造方法において、好ましくは、第1の傾斜圧延工程及び第2の傾斜圧延工程では、出側面のうち第1の被圧延材及び第2の被圧延材との接触範囲における出側面の角度(出側面角)を0°以上、9°以下とする。特に、第1の傾斜圧延工程では、第1の継目無金属管の外径に対する第1の肉厚の比が0.07以下の場合、出側面の角度を3°よりも大きくする。同様に、第2の傾斜圧延工程では、第2の継目無金属管の外径に対する第2の肉厚の比が0.07以下の場合、出側面の角度を3°よりも大きくする(第2の構成)。
【0068】
第2の構成の製造方法は、第1の継目無金属管が薄肉の継目無金属管である場合、又は第2の継目無金属管が薄肉の継目無金属管である場合に有用である。出側面角が上記の範囲に設定されれば、品質上で問題なく薄肉の第1の継目無金属管及び薄肉の第2の継目無金属管を製造することができる。この効果を発現する観点から、出側面角は3°よりも大きいことが好ましい。出側面角の上限は特に限定されない。ただし、プラグの設計との兼ね合いのため、出側面角の上限は、好ましくは9°であり、より好ましくは6°である。
【0069】
第1の構成又は第2の構成の製造方法において、好ましくは、入側面が凸の曲面であり、第2の傾斜圧延工程では、第1の傾斜圧延工程で用いた傾斜ロールを用いる(第3の構成)。
【0070】
第3の構成の製造方法によれば、第1の傾斜圧延工程と第2の傾斜圧延工程との間で傾斜ロールの交換が不要となる。つまり、傾斜ロールの交換なしで、相互に肉厚の異なる第1の継目無金属管と第2の継目無金属管を一つの傾斜圧延機で製造することができる。このため、操業能率が優れる。
【0071】
第1の構成又は第2の構成の製造方法において、例えば、第1の被圧延材及び第2の被圧延材が中実である。つまり、第1の傾斜圧延工程及び第2の傾斜圧延工程が穿孔圧延工程である。この場合、好ましくは、第1の傾斜圧延工程及び第2の傾斜圧延工程では、穿孔比を3.5以上とし、入側面の角度(入側面角)を8°以上、15°以下とし、かつゴージドラフト率を30%以上とする(第4の構成)。
【0072】
第4の構成の製造方法は、傾斜圧延機が穿孔圧延機であって、第1の傾斜圧延工程及び第2の傾斜圧延工程が穿孔圧延工程である場合に有用である。穿孔比を3.5以上とする高加工度の穿孔圧延を行う場合、入側面角及びドラフト率が上記の範囲に設定されれば、品質上で問題なく第1の継目無金属管及び第2の継目無金属管を製造することができる。この効果を発現する観点から、入側面角は8°以上、15°以下とすることが好ましい。同様の観点から、ゴージドラフト率を30%以上とすることが好ましい。ゴージドラフト率の上限は特に限定されない。ただし、ゴージドラフト率を大きくして材料の断面積を小さくすると傾斜ロールへの反力が大きくなる。傾斜ロール軸を支えるベアリング強度を確保するためにロール軸は大きくなるので、ロール径も大きくする必要がある。しかし、傾斜ロールの数が3つ以上の場合、傾斜ロール同士が干渉するため、ゴージドラフト率の上限は、60%とすることが好ましい。
【0073】
本明細書において、穿孔比は、穿孔圧延前の被圧延材の長さに対する穿孔圧延後の継目無金属管の長さの比を意味する。つまり、第1の傾斜圧延工程の穿孔比は、第1の被圧延材の長さに対する第1の継目無金属管の長さの比を意味する。第2の傾斜圧延工程の穿孔比は、第2の被圧延材の長さに対する第2の継目無金属管の長さの比を意味する。別の観点では、穿孔比は、穿孔圧延後の継目無金属管の断面積に対する穿孔圧延前の被圧延材の断面積の比を意味する。要するに、穿孔比は、穿孔圧延による加工度の指標となる。なお、延伸圧延の場合、穿孔比は延伸比と称される。
【0074】
本明細書において、ゴージドラフト率(GD)[%]は、被圧延材である丸ビレットの外径(DB)、及びロール開度(RO)をパラメータとする下記の式(A)により表わされる。
GD=(DB-RO)/DB×100 (A)
【0075】
式(A)中のロール開度(RO)は、ロールゴージ部、つまりロール入側面とロール出側面の境界部におけるロール開度を意味する。より正確には、ロール開度(RO)は、傾斜ロールの表面(例えば入側面)とパスラインとの最短距離の2倍の値である。
【0076】
第1の構成~第3の構成の製造方法において、例えば、第1の被圧延材及び第2の被圧延材が中実である。つまり、第1の傾斜圧延工程及び第2の傾斜圧延工程が穿孔圧延工程である。この場合、好ましくは、入側面が凸の曲面であって、傾斜ロールの中心軸を含む断面に現れる入側面の線が円弧である。円弧の曲率半径を第1の被圧延材及び第2の被圧延材の外径で除した値が1.67以上、6.67以下である(第5の構成)。
【0077】
第5の構成の製造方法は、傾斜圧延機が穿孔圧延機であって、第1の傾斜圧延工程及び第2の傾斜圧延工程が穿孔圧延工程である場合に有用である。本明細書において、入側面が凸の曲面であって、傾斜ロールの中心軸を含む断面に現れる入側面の線が円弧である場合、その円弧の曲率半径を被圧延材である丸ビレットの外径で除した値を、入側面の曲面指数と言う場合がある。
【0078】
第1の傾斜圧延工程及び第2の傾斜圧延工程において、第1の被圧延材及び第2の被圧延材に関する入側面の曲面指数が上記の範囲に設定されれば、品質上で問題なく第1の継目無金属管及び第2の継目無金属管を製造することができる。この効果を発現する観点から、入側面の曲面指数は1.67以上、6.67以下であることが好ましい。ただし、入側面の曲面指数における上記曲率半径が小さいと、短い接触長さで材料を圧延することになり、傾斜ロールの表面の摩耗が著しくなる。また、上記曲率半径が大きいと、被圧延材を噛み込ませるために傾斜ロールの入側面の胴長は長くせざるを得ず、設備費ならびに傾斜ロールの製造コストが嵩む。したがって、外径60mmの丸ビレットを用いる場合、上記曲率半径は好ましくは150mm以上、350mm以下である。この場合、換算により、入側面の曲面指数は好ましくは2.50以上5.83以下である。
【0079】
第1の構成~第3の構成の製造方法において、例えば、第1の被圧延材及び第2の被圧延材が中実である。つまり、第1の傾斜圧延工程及び第2の傾斜圧延工程が穿孔圧延工程である。この場合、好ましくは、第1の傾斜圧延工程及び第2の傾斜圧延工程では、ゴージドラフト率(GD)と噛み込み角(α)が下記の式(1)で表わされる条件を満足する(第6の構成)。
0.12×GD+1.5≦α≦0.25×GD+6 (1)
【0080】
上記式(1)中のゴージドラフト率(GD)は、上記式(A)により表わされる。一方、噛み込み角(α)は次のようにして定められる。傾斜ロールの傾斜角FAを0°に仮定する。このときの傾斜ロールの中心軸及びパスラインの両方を含む仮想平面を定める。この仮想平面において、被圧延材(丸ビレット)と傾斜ロールとの接触開始位置と、ゴージ位置と、を結ぶ直線を描く。ここでの被圧延材と傾斜ロールとの接触開始位置は、傾斜ロールの入側面における被圧延材の噛み込み位置に対応する。その直線とパスラインとの成す角度が噛み込み角(α)である。
【0081】
第6の構成の製造方法は、傾斜圧延機が穿孔圧延機であって、第1の傾斜圧延工程及び第2の傾斜圧延工程が穿孔圧延工程である場合に有用である。ゴージドラフト率(GD)と噛み込み角(α)が式(1)の条件を満足すれば、品質上で問題なく第1の継目無金属管及び第2の継目無金属管を製造することができる。この効果を発現するために、式(1)に示すとおり、噛み込み角(α)は「0.12×GD+1.5」以上、「0.25×GD+6」以下であることが好ましい。別の観点では、式(1)に示す条件を満足するように、入側面の入側端に向かうほど入側面の勾配が大きく設定されればよい。
【0082】
以下に、図面を参照しながら、本実施形態の製造方法の具体例を説明する。図6は、本実施形態の継目無金属管の製造方法を示すフロー図である。図6を参照して、本実施形態の製造方法は、第1の傾斜圧延工程(#5)と、設定変更工程(#10)と、第2の傾斜圧延工程(#15)と、を含む。
【0083】
[第1の傾斜圧延工程(#5)]
第1の傾斜圧延工程(#5)は、3ロール式傾斜圧延機を用いて第1の被圧延材を圧延し、第1の肉厚を有する第1の継目無金属管を製造する。その際、第1の被圧延材は、予め、加熱炉によって所定の温度に加熱される。第1の被圧延材の加熱温度は、例えば1150~1250℃の範囲内である。
【0084】
第1の被圧延材は丸ビレットである。この場合、傾斜圧延機は穿孔圧延機であり、穿孔圧延機によって丸ビレットは穿孔圧延される。ただし、第1の被圧延材は素管であってもよい。この素管は、穿孔圧延によって製造された素管であってもよいし、他の方法によって製造された素管であってもよい。この場合、傾斜圧延機は延伸圧延機であり、延伸圧延機によって素管は延伸圧延される。
【0085】
[第2の傾斜圧延工程(#15)]
第2の傾斜圧延工程(#15)は、3ロール式傾斜圧延機を用いて第2の被圧延材を圧延し、第1の肉厚と異なる第2の肉厚を有する第2の継目無金属管を製造する。その際、第1の傾斜圧延工程と同様に、第2の被圧延材は、予め、所定の温度に加熱される。
【0086】
第2の傾斜圧延工程では、第1の傾斜圧延工程と同一の傾斜圧延機が用いられる。第1傾斜圧延工程及び第2傾斜圧延工程で用いられる傾斜圧延機において、傾斜ロールの入側面は、上記の図5に示すような凸の曲面である。ただし、傾斜ロールの入側面は、上記の図1図4に示すような、勾配が一定のテーパ面であってもよい。一方、傾斜ロールの出側面は、図1図5に示すような、勾配が一定のテーパ面である。パスラインと入側面との距離はパスラインの入側から出側に向かって漸減する。パスラインと出側面との距離はパスラインの入側から出側に向かって漸増する。
【0087】
第1の被圧延材が丸ビレットであれば、第2の被圧延材も丸ビレットである。第1の被圧延材が素管であれば、第2の被圧延材も素管である。第2の被圧延材が丸ビレットである場合、穿孔圧延機によって丸ビレットは穿孔圧延される。第2の被圧延材が素管である場合、延伸圧延機によって素管は延伸圧延される。
【0088】
第2の被圧延材の形状寸法は第1の被圧延材と同じである。ただし、第2の被圧延材の形状寸法が第1の被圧延材と異なってもよい。第2の被圧延材の材質は第1の被圧延材と同じである。ただし、第2の被圧延材の材質が第1の被圧延材と異なってもよい。
【0089】
[設定変更工程(#10)]
設定変更工程(#10)は、第1の傾斜圧延工程(#5)の後、第2の傾斜圧延工程(#15)の前に、傾斜圧延機の設定条件を(a)及び(b)のいずれかに変更する。つまり、設定変更工程は、第1の傾斜圧延工程での傾斜圧延機の設定条件を踏まえて、第2の傾斜圧延工程に適した傾斜圧延機の設定条件を設定する。
(a)第2の肉厚が第1の肉厚よりも小さい場合、傾斜ロールの交叉角を第1の傾斜圧延工程のときよりも大きくする、
(b)第2の肉厚が第1の肉厚よりも大きい場合、傾斜ロールの交叉角を第1の傾斜圧延工程のときよりも小さくする。
【0090】
図7及び図8は、設定変更工程の具体例を説明するための模式図である。これらの図のうち、図7は、選択肢(a)の状況を示す。図8は、選択肢(b)の状況を示す。図7及び図8には、傾斜ロール1の入側面1aが凸の曲面である場合が示される。
【0091】
図7及び図8を参照して、傾斜ロール1の入側面1aは、凸の曲面である。入側面1aを傾斜ロール1の中心軸1cに沿って切断したときに現われる線は、凸の曲線である。この凸曲線は、曲率半径が一定の円弧を描く関数で表わされる。一方、傾斜ロール1の出側面1bは、テーパ面である。
【0092】
このような傾斜ロール1では、パスラインPLと入側面1aとの距離はパスラインPLの入側から出側に向かって漸減する。一方、パスラインPLと出側面1bとの距離はパスラインPLの入側から出側に向かって漸増する。
【0093】
[選択肢(a)]
選択肢(a)は、第2の肉厚が第1の肉厚よりも小さい場合に選択される。別の観点では、第2の傾斜圧延工程で薄肉の継目無金属管を製造する場合に、選択肢(a)が選択される。この場合、傾斜ロール1の交叉角CAを第1の傾斜圧延工程のときよりも大きくする。これにより、傾斜ロール1の出側面角θbが大きくなる。
【0094】
このように、傾斜圧延機の設定条件を選択肢(a)に変更すれば、第2の傾斜圧延工程で第2の継目無金属管を製造する際、材料の押し込み過多がないため、第2の被圧延材WPの長手方向の周長は変動なく安定する。これにより、品質上で問題なく、肉厚の小さい継目無金属管を製造することができる。
【0095】
[選択肢(b)]
選択肢(b)は、第2の肉厚が第1の肉厚よりも大きい場合に選択される。別の観点では、第2の傾斜圧延工程で厚肉の継目無金属管を製造する場合に、選択肢(b)が選択される。この場合、傾斜ロール1の交叉角CAを第1の傾斜圧延工程のときよりも小さくする。これにより、傾斜ロール1の出側面角θbが小さくなる。
【0096】
このように、傾斜圧延機の設定条件を選択肢(b)に変更すれば、第2の傾斜圧延工程で第2の継目無金属管を製造する際、被圧延材の噛み込み不良は生じない。これにより、品質上で問題なく、肉厚の大きい継目無金属管を製造することができる。
【0097】
特に、第2の被圧延材の形状寸法及び材質が第1の被圧延材と同じ場合、以下の点で有用である。傾斜圧延機の上流に配置された設備(例:搬送設備)の設定条件を共用できる。このため、操業能率が優れる。
【実施例1】
【0098】
実施例1では、穿孔圧延試験を実施した。この穿孔圧延試験では、3ロール式傾斜圧延機を用いて、炭素鋼の丸ビレット(素材、被圧延材)を穿孔圧延し、素管(継目無金属管)を製造した。傾斜圧延機の構成要素として、相互に寸法形状の異なる複数のプラグ(プラグNo.A~F)を準備した。また、相互に寸法形状の異なる複数の傾斜ロール(ロールNo.R60~R600、O~Z)を準備した。
【0099】
図9は、穿孔圧延試験で用いたプラグの外観を示す図である。図9を参照して、プラグNo.A~Fのプラグ2の形状は一般的な砲弾形状であった。下記の表1に、プラグNo.A~Fのプラグ2それぞれの諸寸法を示す。表1中のLは、図9に示すプラグ2において、先端から最大径の部分までの軸方向の長さである。表1中のDは、図9に示すプラグ2の胴部の最大径である。
【0100】
【表1】
【0101】
図10及び図11は、穿孔圧延試験で用いた傾斜ロールの外観を示す図である。これらの図のうち、図10には、ロールNo.R60~R600の傾斜ロール1が示される。図11には、ロールNo.O~Zの傾斜ロール1が示される。
【0102】
図10を参照して、ロールNo.R60~R600の傾斜ロール1は、ゴージGを境界にして入側面1aと出側面1bに区分されていた。入側面1aは凸の曲面であった。入側面1aを傾斜ロール1の中心軸1cに沿って切断したときに現われる線は、凸の曲線であった。この凸曲線は、曲率半径(RG)が一定の円弧であった。出側面1bはテーパ面であった。傾斜ロール1の全長は一定であった。出側面1bの軸方向の長さは一定であった。入側面1aの軸方向の長さは、凸曲面を形成する円弧の曲率半径(RG)に応じて変更された。このため、必要に応じて、入側面1aの入側端に補助円筒部1aaが設けられた。
【0103】
下記の表2に、ロールNo.R60~R600の傾斜ロール1それぞれの諸寸法を示す。図10には、それらの各傾斜ロール1に共通する諸寸法を示す。表2中のRGは、図10に示す入側面1aの凸曲面を形成する円弧の曲率半径である。表2中のHは、図10に示す補助円筒部1aaの軸方向の長さである。
【0104】
【表2】
【0105】
図11を参照して、ロールNo.O~Zの傾斜ロール1は、ゴージGを境界にして入側面1aと出側面1bに区分されていた。入側面1aはテーパ面であった。出側面1bはテーパ面であった。入側面1aの軸方向の長さは一定であった。出側面1bの軸方向の長さは一定であった。このため、傾斜ロール1の全長は一定であった。ロールNo.O~Zの傾斜ロール1の全長は、ロールNo.R60~R600の傾斜ロール1の全長と同じであった。
【0106】
下記の表3に、ロールNo.O~Zの傾斜ロール1それぞれの諸寸法を示す。図11には、それらの各傾斜ロール1に共通する諸寸法を示す。表3中のαaは、図11に示す入側面1aの勾配である。
【0107】
【表3】
【0108】
実施例1の穿孔圧延試験では、プラグNo.A~Dのプラグと、ロールNo.O、P、R及びSの傾斜ロールとを種々組み合わせて、穿孔圧延を行った。その際、丸ビレットの加熱温度は1200℃であった。傾斜ロールの傾斜角FAは10°であった。また、傾斜ロールの交叉角CA、及びロール開度を種々変更した。
【0109】
なお、得ようとする素管(継目無金属管)について、外径は一定の値を目標としつつ、肉厚を種々変更した。これは実操業において穿孔圧延後の素管は延伸圧延機に供給されるため、多くの場合は外径を一定に保つ必要があるからである。
【0110】
下記の表4に、実施例1の試験条件及び試験結果を示す。
【0111】
【表4】
【0112】
まず、ロールNo.Oの傾斜ロールとプラグNo.Aのプラグを用いた条件1で穿孔圧延を実施した。続いて、条件1よりロール開度を小さくした条件2で穿孔圧延を実施した。条件2は、得ようとする継目無金属管の目標肉厚を条件1よりも小さくしたものであった。しかし、条件2の穿孔圧延では、材料の噛み出しが発生した。そこで、傾斜ロールをロールNo.Pの傾斜ロールに取り替えて出側面角を0°から3°に変更するとともに、プラグをプラグNo.Bのプラグに取り替えた条件3で穿孔圧延を実施した。条件3の穿孔圧延では、材料の噛み出し等の不具合が発生することなく、条件1よりも肉厚が小さい継目無金属管を得ることができた。
【0113】
条件4及び5では、条件3よりもロール開度を小さくして、肉厚を小さくする穿孔圧延を実施した。条件4の穿孔圧延では、問題無く条件3よりも薄肉になった。一方、条件5の穿孔圧延では、材料の噛み出しが発生した。そこで、傾斜ロールをロールNo.Rの傾斜ロールに取り替えて出側面角を6°に変更するとともに、プラグをプラグNo.Cのプラグに取り替えた条件6で穿孔圧延を実施した。条件6の穿孔圧延では、条件4よりも肉厚が小さい継目無金属管を得ることができた。
【0114】
条件7及び8では、条件6よりもロール開度を小さくして、肉厚をさらに小さくする穿孔圧延を実施した。条件7の穿孔圧延では、条件6よりも薄肉になった。一方、条件8の穿孔圧延では、材料の噛み出しが発生した。そこで、傾斜ロールをロールNo.Sの傾斜ロールに取り替えて出側面角を9°に変更するとともに、プラグをプラグNo.Dのプラグに取り替えた条件9で穿孔圧延を実施した。条件9の穿孔圧延では、条件7よりも肉厚が小さい継目無金属管を得ることができた。続いて、条件9よりロール開度を小さくした条件10で穿孔圧延を実施した。条件10の穿孔圧延では、材料の噛み出しが発生した。
【0115】
次に、条件11及び12では、条件9よりもロール開度を大きくして、肉厚を大きくする穿孔圧延を実施した。条件11の穿孔圧延では、条件9よりも肉厚が大きい継目無金属管を得ることができた。条件12の穿孔圧延では、プラグ詰まりが発生した。そこで、傾斜ロールをロールNo.Rの傾斜ロールに取り替えて出側面角を9°から6°に変更するとともに、プラグをプラグNo.Cのプラグに取り替えた条件13で穿孔圧延を実施した。しかし、条件13では、プラグ詰まりは解消されなかった。
【0116】
そこで、傾斜ロールをロールNo.Pの傾斜ロールに取り替えて出側面角を小さくするとともに、プラグをプラグNo.Bのプラグに取り替えた条件14で穿孔圧延を実施した。条件14の穿孔圧延では、条件11よりも肉厚が大きい継目無金属管を得ることができた。条件15では、条件14のプラグリードを小さくして、肉厚をさらに大きくする穿孔圧延を実施した。条件15の穿孔圧延では、プラグ詰まりが発生した。そこで、傾斜ロールをロールNo.Oの傾斜ロールに取り替えて出側面角をさらに小さくするとともに、プラグをプラグNo.Aのプラグに取り替えた条件16で穿孔圧延を実施した。条件16の穿孔圧延では、条件14よりも肉厚が大きい継目無金属管を得ることができた。
【0117】
以上の結果より、下記のことが示される。穿孔圧延によって第1の肉厚を有する第1の継目無金属管を製造した後、同じく穿孔圧延によって第1の肉厚と異なる第2の継目無金属管を製造するプロセスについて考える。第2の継目無金属管を製造するとき、第2の肉厚が第1の肉厚よりも小さい場合、傾斜ロールの出側面角を大きくすれば、品質上で問題なく薄肉の第2の継目無金属管を製造できる。傾斜ロールの出側面角を大きくするには、傾斜ロールの交叉角を大きくすればよい。これとは逆に、第2の肉厚が第1の肉厚よりも大きい場合、傾斜ロールの出側面角を小さくすれば、品質上で問題なく厚肉の第2の継目無金属管を製造できる。傾斜ロールの出側面角を小さくするには、傾斜ロールの交叉角を小さくすればよい。要するに、上記した第1の構成の製造方法により、品質上で問題なく、肉厚の小さい継目無金属管、及び肉厚の大きい継目無金属管のいずれも製造することができる。
【0118】
また、条件1~16の穿孔圧延について、不具合(材料の噛み出し、及びプラグ詰まり)の発生有無を整理した。この整理は、傾斜ロールの出側面角、及び継目無金属管の肉厚外径比を指標とした。図12は、実施例1における不具合の発生有無をまとめた図である。図12において、横軸は傾斜ロールの出側面角[°]を示し、縦軸は得られた継目無金属管の肉厚外径比(t/d)[単位:無次元]を示す。図12において、「〇」印は、不具合の発生がなかったことを示し、「×」印は、不具合が発生したことを示す。なお、図12中のA、B、C及びDはプラグNo.を意味する。
【0119】
図12の結果より、下記のことが示される。傾斜ロールの出側面角が大きくなるのに伴って、噛み出しが発生する肉厚外径比が小さくなる。これは、傾斜ロールの出側面角を大きくすれば、噛み出しが抑制されて、薄肉製管での肉厚限界が広がることを意味する。これとは逆に、傾斜ロールの出側面角が小さくなるのに伴って、プラグ詰まりが発生する肉厚外径比が大きくなる。これは、傾斜ロールの出側面角を小さくすれば、プラグ詰まりが抑制されて、厚肉製管での肉厚限界が広がることを意味する。
【0120】
そして、肉厚外径比が0.07以下である薄肉の継目無金属管を、不具合(噛み出し)の発生なく製造するには、出側面角を3°よりも大きくすればよい。出側面角の上限は特に限定されない。ただし、出側面角が6°の場合と9°の場合とで、薄肉製管での肉厚限界はほぼ等しくなる。また、出側面角を9°よりも大きくする場合、プラグを幾何学的に短くせざるを得ない。この場合、プラグの設計自体が困難になり、寸法精度、特に偏肉の悪化が懸念される。このため、出側面角の上限は、好ましくは9°であり、より好ましくは6°である。
【0121】
また、薄肉製管及び厚肉製管のいずれの場合でも、出側面角を0°より小さくすれば、傾斜ロールの出側に行くほどロール開度が小さくなる。この場合、製造される継目無金属管の内周とプラグの外周のクリアランスが小さくなって、プラグを継目無金属管から引き抜くことが困難になる。そのため、出側面角は0°以上であることが好ましい。要するに、上記した第2の構成の製造方法により、品質上でより問題なく、肉厚の小さい継目無金属管、及び肉厚の大きい継目無金属管のいずれも製造することができる。
【実施例2】
【0122】
傾斜ロールの交換は長時間の停機を要し、生産量を低下させる。そのため、傾斜ロールの交換は極力回避するべきである。
【0123】
実施例2では、実施例1と同様に穿孔圧延試験を実施した。実施例2の穿孔圧延試験では、プラグNo.A~Dのプラグと、ロールNo.V、P及びR220の傾斜ロールとを種々組み合わせて、穿孔圧延を行った。
【0124】
下記の表5に、実施例2の試験条件及び試験結果を示す。
【0125】
【表5】
【0126】
まず、ロールNo.Vの傾斜ロールとプラグNo.Aのプラグを用いた条件17で穿孔圧延を実施した。条件17は、使用する傾斜ロールの入側面角以外は、実施例1の条件1に対応していた。しかし、条件17の穿孔圧延では、丸ビレットが傾斜ロールに噛み込まなかった。
【0127】
そこで、条件18~21で穿孔圧延を実施した。条件18~21では、傾斜ロールをロールNo.Pに取り替えて、条件1とほぼ同じ寸法の材料が穿孔可能であることを確認した。特に、条件19及び20は、それぞれ実施例1の条件3及び4に対応する条件であった。これらの条件19及び20の穿孔圧延により、徐々に肉厚を小さくしても穿孔可能であることを再確認した。ここで、実施例1の条件5では、ロールNo.Pの傾斜ロールとプラグNo.Bのプラグの組合せでは、さらに肉厚を小さくすることができなかった。このため、条件21では、ロールNo.Pの傾斜ロールとプラグNo.Cのプラグの組合せを採用し、傾斜ロールの出側面角を実施例1の条件6と同じにし、実施例1の条件6と同じ肉厚を狙った。しかし、この条件21の穿孔圧延では、傾斜ロールの入側の端面に丸ビレットが衝突して、丸ビレットを傾斜ロールに噛み込ませることができなかった。これは、傾斜ロールの入側面角が1°であったため、傾斜ロールの入側面の胴長(軸方向の長さ)が不足したからである。
【0128】
そもそも薄肉製管の場合、傾斜ロールの出側面角を大きくするため、入側面角は必然的に小さくなる。それに加えて薄肉製管ではロール開度が小さいため、入側面の胴長をより長くすることが必要である。条件23の穿孔圧延において、傾斜ロールに丸ビレットを噛み込ませるために必要な入側面の胴長は170mm以上になる。実際の試験で用いた傾斜ロールの入側面の胴長は150mmであった(図11参照)。
【0129】
傾斜ロールの入側面の胴長が長すぎれば、傾斜圧延機の建設コスト、及び工具の製造コストが悪化する。このため、傾斜ロールの入側面の胴長を長くすることは好ましくない。
【0130】
そこで、条件22~30で穿孔圧延を実施した。条件22~30では、傾斜ロールをロールNo.R220の傾斜ロールに取り替え、さらにプラグを別のプラグに取り替えた。さらに傾斜ロールの交叉角CA、及びロール開度を種々変更した。条件22~30の穿孔圧延を実施例1と同じ順番で実施した。つまり、各穿孔圧延の順に、一旦肉厚を小さくしたあと肉厚を大きくした。条件22~30のいずれの穿孔圧延でも、噛み込み不良等の不具合が発生することなく、継目無金属管を得ることができた。
【0131】
以上の結果より、下記のことが示される。傾斜ロールの入側面が凸の曲面であれば、傾斜ロールの交換なしで、品質上で問題なく、肉厚の小さい継目無金属管、及び肉厚の大きい継目無金属管のいずれも製造することができる。
【実施例3】
【0132】
実施例3では、実施例1と同様に穿孔圧延試験を実施した。実施例3の穿孔圧延試験では、プラグNo.C及びEのプラグと、ロールNo.S~Z及びR220の傾斜ロールとを種々組み合わせて、穿孔比を3.5以上とする高加工度の穿孔圧延を行った。丸ビレットの外径は50mmと60mmの2種類であった。
【0133】
傾斜ロールの交叉角CAは3°であり、傾斜角FAは10°であった。また、傾斜ロールの出側面角は6°であった。ロール開度を種々変更し、不具合(材料の噛み出し、噛み込み不良、及び材料の周長変動)の発生有無を調査した。この調査は、傾斜ロールの入側面角、及びゴージドラフト率を指標とした。
【0134】
下記の表6に、実施例3の試験条件及び試験結果を示す。
【0135】
【表6】
【0136】
図13は、実施例3における不具合の発生有無をまとめた図である。図13において、横軸は傾斜ロールの入側面角[°]を示し、縦軸はゴージドラフト率[%]を示す。図13において、「〇」印は、不具合の発生がなかったことを示し、「×」印は、不具合が発生したことを示す。
【0137】
表6及び図13を参照して、傾斜ロールの入側面角が7°以下であれば、材料の長手方向の周長変動が大きくなった。一方、傾斜ロールの入側面が16°以上であれば、噛み込み不良が発生した。また、ゴージドラフト率が30%未満であれば、材料の噛み出しが発生した。したがって、穿孔比を3.5以上とする穿孔圧延の場合、傾斜ロールの入側面角は8°以上、15°以下とし、かつドラフト率は30%以上に設定すればよいことがわかった。
【0138】
また、ロールNo.R220の傾斜ロールを用いた場合、すなわち入側面が凸の曲面である傾斜ロールを用いた場合であっても、穿孔比を3.5以上とする穿孔圧延でゴージドラフト率を30%未満にすれば噛み出しが発生することを確認した。
【実施例4】
【0139】
実施例4では、実施例1と同様に穿孔圧延試験を実施した。実施例4の穿孔圧延試験では、プラグNo.A、E及びFのプラグと、ロールNo.R60~R600という5種類の傾斜ロールとを種々組み合わせて、穿孔圧延を行った。ベースとなる条件として、条件46~48という3つの条件を設定した。条件46~48の各条件において、ロールNo.R60~R600の各傾斜ロールを用いた。条件46、47及び48はそれぞれ厚肉、中肉及び薄肉の継目無金属管を製造することを意図したものであった。条件46、47及び48の出側面角はそれぞれ0°、3°及び6°であった。
【0140】
各条件の穿孔圧延において、不具合の発生有無を調査した。この調査は、丸ビレットと傾斜ロールとの接触開始位置を指標とした。接触開始位置は、傾斜ロールの傾斜角FAを0°と仮定したときの二次元幾何学によって算出できる。調査の指標は、パスラインに沿った方向の第1距離、及びパスラインに垂直な方向の第2距離であった。第1距離は、ゴージ位置から接触開始位置までの距離であった。第2距離は、パスラインから接触開始位置までの距離からロール開度の半分を減じた距離であった。本明細書において、第1距離をゴージからの距離と言う場合がある。第2距離を(パスラインからの距離)-(ロール開度/2)と言う場合がある。
【0141】
下記の表7に、実施例4の試験条件を示す。
【0142】
【表7】
【0143】
図14は、実施例4における不具合の発生有無をまとめた図である。図14において、横軸はゴージからの距離[mm]を示し、縦軸は(パスラインからの距離)-(ロール開度/2)[mm]を示す。図14において、「〇」印は、不具合の発生がなかったことを示し、「×」印は、不具合が発生したことを示す。
【0144】
図14を参照して、ロールNo.R60の傾斜ロールを用いた穿孔圧延では、条件46~48の全てで噛み込み不良が発生した。また、ロールNo.R600の傾斜ロールを用いた穿孔圧延では、条件47及び48の場合に材料の周長変動が大きくなる不具合が生じた。
【0145】
以上の結果より、下記のことが示される。不具合の発生を抑制するためには、ロールNo.R60~R600のうち、ロールNo.R100~R400の傾斜ロールを用いることが好ましい。これらのロールNo.R100~R400のうち、最小のロールNo.R100の傾斜ロールにおいて、入側面の凸曲面を形成する円弧の曲率半径は100mmであった。一方、最大のロールNo.R400の傾斜ロールにおいて、入側面の凸曲面を形成する円弧の曲率半径は400mmであった。丸ビレットの外径は60mmであった。したがって、入側面の凸曲面を形成する円弧の曲率半径を丸ビレットの外径で除した値(入側面の曲面指数)が、1.67以上、6.67以下であれば、不具合の発生を抑制することができる。
【実施例5】
【0146】
実施例5では、実施例1と同様に穿孔圧延試験を実施した。実施例5では、さらに2種類の傾斜ロール(ロールNo.A及びB)を準備した。
【0147】
図15は、穿孔圧延試験で用いた傾斜ロールの外観を示す図である。図15には、ロールNo.A及びBの傾斜ロール1が示される。
【0148】
図15を参照して、ロールNo.A及びBの傾斜ロール1は、ゴージGを境界にして入側面1aと出側面1bに区分されていた。入側面1aは凸の曲面であった。入側面1aを傾斜ロール1の中心軸1cに沿って切断したときに現われる線は、凸の曲線であった。この凸曲線は、多次項式関数で表わされるものであった。出側面1bはテーパ面であった。傾斜ロール1の全長は一定であった。出側面1bの軸方向の長さは一定であった。入側面1aの軸方向の長さは、凸曲面を形成する凸曲線の多次項式関数に応じて変更された。このため、必要に応じて、入側面1aの入側端に補助円筒部1aaが設けられた。ロールNo.A及びBの傾斜ロール1の全長は、上記したロールNo.O~Z及びR60~R600の傾斜ロール1の全長と同じであった。
【0149】
下記の表8に、ロールNo.A及びBの傾斜ロール1それぞれの諸寸法を示す。図15には、それらの各傾斜ロール1に共通する諸寸法を示す。表8中のa及びbは、図15に示す入側面1aの凸曲面を形成する凸曲線の多次項式関数における係数である。表8中のHは、図15に示す補助円筒部1aaの軸方向の長さである。
【0150】
【表8】
【0151】
実施例5の穿孔圧延試験では、実施例4における条件46~48の各条件において、ロールNo.A及びBの各傾斜ロールを用いた。各条件の穿孔圧延において、実施例4と同様に不具合の発生有無を調査した。
【0152】
図16及び図17は、実施例5における不具合の発生有無をまとめた図である。これらの図のうち、図16は、ロールNo.Aの傾斜ロールを用いた結果を示す。図17は、ロールNo.Bの傾斜ロールを用いた結果を示す。図16及び図17において、横軸はゴージからの距離[mm]を示し、縦軸は(パスラインからの距離)-(ロール開度/2)[mm]を示す。図16及び図17において、「◇」印は、不具合の発生がなかったことを示し、「×」印は、不具合が発生したことを示す。図16及び図17には、実施例4の穿孔圧延で不具合が発生しなかった条件及びその範囲も示している。
【0153】
図16を参照して、ロールNo.Aの傾斜ロールを用いた穿孔圧延では、出側面角が0°、3°及び6°のいずれの場合でも、実施例4で不具合が発生しなかった範囲内で丸ビレットと傾斜ロールとの接触が開始し、不具合が発生しなかった。また、図17を参照して、ロールNo.Bの傾斜ロールを用いた穿孔圧延では、出側面角が0°の場合、実施例4で不具合が発生しなかった範囲外で丸ビレットと傾斜ロールとの接触が開始することがあった。このときに、噛み込み不良が発生した。
【実施例6】
【0154】
実施例6では、実施例1と同様に穿孔圧延試験を実施した。実施例6では、さらに2種類の傾斜ロール(ロールNo.C及びD)を準備した。
【0155】
図18及び図19は、穿孔圧延試験で用いた傾斜ロールの外観を示す図である。これらの図のうち、図18には、ロールNo.Cの傾斜ロール1が示される。図19には、ロールNo.Dの傾斜ロール1が示される。
【0156】
図18及び図19を参照して、ロールNo.C及びDの傾斜ロール1は、ゴージGを境界にして入側面1aと出側面1bに区分されていた。入側面1aは3段のテーパ面からなるものであった。つまり、入側面1aは、勾配が中心軸1cに沿って3段階に変化するテーパ面(凸の曲面)であった。出側面1bは勾配が一定のテーパ面であった。入側面1aの軸方向の長さは一定であった。出側面1bの軸方向の長さは一定であった。このため、傾斜ロール1の全長は一定であった。ロールNo.C及びDの傾斜ロール1の全長は、上記したロールNo.A、B、O~Z及びR60~R600の傾斜ロール1の全長と同じであった。
【0157】
実施例6の穿孔圧延試験では、実施例5と同様に、実施例4における条件46~48の各条件において、ロールNo.C及びDの各傾斜ロールを用いた。各条件の穿孔圧延において、実施例4と同様に不具合の発生有無を調査した。
【0158】
図20及び図21は、実施例6における不具合の発生有無をまとめた図である。これらの図のうち、図20は、ロールNo.Cの傾斜ロールを用いた結果を示す。図21は、ロールNo.Dの傾斜ロールを用いた結果を示す。図20及び図21において、横軸はゴージからの距離[mm]を示し、縦軸は(パスラインからの距離)-(ロール開度/2)[mm]を示す。図20及び図21において、「◇」印は、不具合の発生がなかったことを示し、「×」印は、不具合が発生したことを示す。図20及び図21には、実施例4の穿孔圧延で不具合が発生しなかった条件及びその範囲も示している。
【0159】
図20を参照して、ロールNo.Cの傾斜ロールを用いた穿孔圧延では、出側面角が0°、3°及び6°のいずれの場合でも、実施例4で不具合が発生しなかった範囲内で丸ビレットと傾斜ロールとの接触が開始し、不具合が発生しなかった。また、図21を参照して、ロールNo.Dの傾斜ロールを用いた穿孔圧延では、出側面角が6°の場合、実施例4で不具合が発生しなかった範囲外で丸ビレットと傾斜ロールとの接触が開始することがあった。このときに、材料の周長変動が発生した。
【0160】
実施例4~6の結果から、上述した噛み込み角(α)とゴージドラフト率との関係を整理した。
【0161】
図22は、噛み込み角(α)を説明するための図である。図22において、横軸はゴージからの距離[mm]を示し、縦軸は(パスラインからの距離)-(ロール開度/2)[mm]を示す。図22において、「〇」印は、接触開始位置を示す。原点がゴージ位置に対応する。横軸がパスラインに相当する。接触開始位置とゴージ位置とを結ぶ直線を描く。その直線とパスラインとの成す角度が噛み込み角(α)である。これは上述したとおりである。
【0162】
図23は、噛み込み角(α)とゴージドラフト率との関係に基づいて不具合の発生有無をまとめた図である。図23において、横軸はゴージドラフト率[%]を示し、縦軸は噛み込み角(α)[°]を示す。図23において、「〇」印は、不具合の発生がなかったことを示し、「×」印は、不具合が発生したことを示す。
【0163】
図23の結果より、下記のことが示される。ゴージドラフト率を大きくするほど、大きな噛み込み角(α)を必要とする。ゴージドラフト率を大きくするには、ロール開度を小さくする。ロール開度が小さければ、穿孔比の高い穿孔圧延となる。これに対して、ゴージドラフト率を小さくするほど、小さな噛み込み角(α)を必要とする。ゴージドラフト率を小さくするには、ロール開度を大きくする。ロール開度が大きければ、穿孔比の低い穿孔圧延となる。
【0164】
したがって、上記の式(1)に示すとおり、噛み込み角(α)は「0.12×GD+1.5」以上、「0.25×GD+6」以下であることが好ましい。別の観点では、式(1)に示す条件を満足するように、入側面の入側端に向かうほど入側面の勾配が大きく設定されればよい。
【0165】
その他、本発明は上記の実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0166】
本発明の製造方法は、マンネスマン法による継目無金属管の製造に有効に利用できる。
【符号の説明】
【0167】
1:傾斜ロール
1a:入側面
1b:出側面
1c:中心軸
2:プラグ
PL:パスライン
WP:被圧延材
CA:交叉角
FA:傾斜角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図22
図23