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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】生体適合性ポリマー組成物及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C08L 39/00 20060101AFI20230214BHJP
   C08K 5/19 20060101ALI20230214BHJP
   C08F 8/06 20060101ALI20230214BHJP
   C08F 20/34 20060101ALI20230214BHJP
   C08F 20/36 20060101ALI20230214BHJP
   C08F 26/06 20060101ALI20230214BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
C08L39/00
C08K5/19
C08F8/06
C08F20/34
C08F20/36
C08F26/06
C12N1/00 G
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022135524
(22)【出願日】2022-08-29
【審査請求日】2022-09-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】荻原 直人
(72)【発明者】
【氏名】金井 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】田尾 文哉
(72)【発明者】
【氏名】馬場 航希
(72)【発明者】
【氏名】高橋 洸洋
【審査官】吉田 早希
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/010147(WO,A1)
【文献】特表2006-513279(JP,A)
【文献】特開2001-310915(JP,A)
【文献】特開2004-238325(JP,A)
【文献】米国特許第04147851(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 - 101/14
C08C 19/00 - 19/44
C08F 6/00 - 246/00
C12N 1/00 - 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミンオキシド基を有し、かつ量平均分子量が5,000以上であるビニル系ポリマー(A)、両性イオン構造を有し、かつ分子量が500以下の化合物(B)(ただし、界面活性剤及びモノマーを除く)、並びに水を含み、前記ビニル系ポリマー(A)100部に対して、前記化合物(B)の割合が、0.5~10部であり、前記ビニル系ポリマー(A)が、下記一般式1~3で示される少なくともいずれかの構造を有し、1%水溶液での25℃における表面張力が30~50dyn/cmである、生体適合性ポリマー組成物。
【化1】

【化2】

【化3】

[一般式1~3中、
Xは2価の結合基、
yは0又は1、
は炭素数1~6のアルキレン基、
及びRはそれぞれ独立して炭素数1~4のアルキル基、
は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基、
~Rのうち4つはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、R~Rのうちの1つはビニル系ポリマー(A)の主鎖との結合位置を表し、
*はビニル系ポリマー(A)の主鎖との結合位置を表す。]
【請求項2】
1%水溶液での浸透圧が1~20mOsm/kgである、請求項1に記載の生体適合性ポリマー組成物。
【請求項3】
化合物(B)が、下記一般式4~9で示される少なくともいずれかの構造を有する、請求項1又は2に記載の生体適合性ポリマー組成物。
一般式4
【化4】

一般式5
【化5】

一般式6
【化6】

一般式7
【化7】

一般式8
【化8】

一般式9
【化9】

[一般式4~9中、
11、R12、R13はそれぞれ独立して炭素数1~5のアルキル基又はヒドロキシアルキル基を表す。R11、R12及びR13のいずれか2つが連結し、環を形成してもよい。
14は炭素数1~4のアルキレン基、
Zは-COO又はSO
15は水素原子又はメチル基、
16は炭素数1~4のアルキレン基、
17~R21は、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、
22は炭素数1~4のアルキレン基を表す。)
【請求項4】
請求項1又は2に記載の生体適合性ポリマー組成物を含む、タンパク質安定化剤。
【請求項5】
請求項4記載のタンパク質安定化剤と、タンパク質とを共存させることを特徴とする、タンパク質の安定化方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の生体適合性ポリマー組成物を含む、ブロッキング剤。
【請求項7】
請求項6記載のブロッキング剤を用いた、体外診断による検体中の標的物質の検出方法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の生体適合性ポリマー組成物を含む、細胞培養培地添加剤。
【請求項9】
請求項8記載の細胞培養培地添加剤を含む、細胞培養培地。
【請求項10】
細胞培養培地における前記生体適合性ポリマー組成物の濃度が0.01質量%以上1質量%以下である、請求項9に記載の細胞培養培地。
【請求項11】
請求項9に記載の細胞培養培地で細胞を培養することを特徴とする、細胞凝集塊又は生理活性物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体適合性ポリマー組成物及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質はポリペプチド鎖内のファンデルワールス相互作用、水素結合、静電的相互作用などの非共有結合性の弱い極性相互作用によって高次構造が維持されており、このような高次構造により様々な機能が発現されている。これらの結合は外的なさまざまな要因(温度、pH、塩濃度、タンパク質自身の濃度、界面活性剤、変性剤、二価金属、プロテアーゼの共存)によって変化し、場合によってはタンパク質の構造が壊れて本来の機能が失われた状態となる。そのためタンパク質の安定性は機能的な高次構造を維持する能力と言い換えることができる。
このような理由からタンパク質を水溶液中で安定化させる必要があり、緩衝溶液中で常に所定の温度にして保存するなど保管条件の最適化や、安定化剤(アルブミンなど他のタンパク質、グリセロース・ポリエチレングリコール・スクロースなどの多価アルコール、グルタミン酸・リジンなどのアミノ酸、グルタチオン・ジチオトレイトールなどの還元剤、EDTAなどの金属キレート剤、クエン酸などの有機酸塩、重金属塩、基質、補酵素)を単独又は併用しての使用が検討されている(非特許文献1)。特に合成化合物の安定化剤としては、例えば、特許文献1にはホスホリルコリン基を有する重合体、特許文献2にはポリエチレングリコール部位を有する高分子化合物、特許文献3には低分子アミンオキシド化合物、特許文献4には低分子スルホベタイン化合物を使用する方法が開示されている。また、特許文献5には高分子アミンオキシド化合物を使用する方法が開示されている。
しかし、これらの方法はタンパク質の種類によっては、保持率や安定期間が満足できるものではない場合があり、更なる改良が求められている。
【0003】
バイオアッセイでは、抗原抗体反応による特異吸着を利用し、DNAやタンパク質を検出し可視化する方法が、サザンブロッティング法、ウエスタンブロッティング法、ELISA法、免疫染色法等として広く知られている。抗体は、標的タンパク質以外とも非特異的な吸着反応を起こす。このような非特異的吸着を防ぐために、検出・測定対象表面を、非特異的な吸着は防ぐが特異的吸着は妨げないように、ブロッキング剤を覆うような前処理が行われる。
ブロッキング剤としては、例えば、特許文献6、非特許文献2には正常血清、ウシ血清アルブミン、ゼラチン、スキムミルクのような生体由来のタンパク質が開示されている。
また、特許文献7、8、9には、TWEEN(登録商標)20と称される界面活性剤、ヒドロキシアルキルセルロース、ポリビニルアルコール、(メタ)アクリロイルモルホリンとその他のモノマーとの共重合体なども開示されている。また、特許文献10、非特許文献3にはホスホリルコリン基を側鎖に有する共重合体、特許文献5には高分子アミンオキシド化合物を使用する方法が開示されている。しかし、特許文献6や非特許文献2に開示されるような生体由来のタンパク質は、性能にばらつきが生じやすいという潜在的な課題を有している。更に、特許文献5,7,8,9,10に開示されるような化合物は、抗原抗体反応の増感効果という観点では満足できるものではなく、さらなる改良が求められている。また、特許文献10に開示される共重合体は、原料のモノマー合成時に複数の反応やそれに伴う精製が必要であるなど生産性に問題を有していた。
【0004】
動物細胞の細胞培養では、大量培養することにより、モノクローナル抗体をはじめ有用な生理活性物質(ホルモン、神経伝達物質、サイトカイン、ビタミンやミネラル、酵素、核酸など)を工業的に量産することが多くなってきている。その際には増殖因子として、ウシ胎児血清(FBS)などの動物血清が頻繁に使用される。具体的にはRPM11640、イーグルMEM、Ham’sF12などの合成基礎培地に10~20%程度のウシ胎児血清(FBS)などの動物血清を添加した培養液が一般に用いられる。しかしながら、ウシ胎児血清(FBS)などの動物血清は、その供給に制限があり、一般的に高価なものである。これにより、培地のコスト上昇を招き、生理活性物質の製造コストの上昇へとつながる。また、血清由来のタンパク質を含む培養液から目的とする生理活性物質を単離することが困難になる欠点にもつながる。更に、血清にはロット間に品質のばらつきがみられる。そこで血清の使用に先立ってロットチェックを十分に行い、使用可能な血清を選択する必要があるが、この血清の選択には多くの労力を要する。それに加え、動物由来の血清に関しては、狂牛病、ウシ海綿状脳症、感染性海綿状脳、更にはクロイツフェルト・ヤコブ病といったプリオン関連の疾患に関する問題点の他、動物由来の血清はオートクレーブなどで滅菌できないため、ウイルス又はマイコプラズマ汚染される可能性があり、感染症などのリスク(安全性面)の問題が生じる。このような問題を解決すべく、血清を用いない培地(無血清培地)の検討が行われてきた。例えば、特許文献11には、グリシルグリシンを培地に添加することで、動物細胞に高濃度に有用物質を生産させることができることが開示されている。また、特許文献12には、リン脂質類似構造を有するポリマーを含有する培地で細胞培養した場合に、生理活性物質を効率的に生産できることが開示されている。また、特許文献13には、疎水性D-アミノ酸を含有する培地が、細胞増殖を促進させ、有用物質の生産量を増大させることが開示されている。しかし、このような培地の多くは、抗体産生細胞の増殖性、生存性及び抗体生産性の面でさらなる改良が求められている。更に血清代替物も天然物由来のものが多く、供給制限があり、一般的に高価である。以上のことから、ウシ胎児血清(FBS)に代わる血清代替物の開発が期待されている。特許文献5には、高分子アミンオキシド化合物を有する培地で細胞培養した場合に、細胞凝集塊の形成が良好であったり、抗体産生細胞の増殖性、生存性が高くなったりすることが開示されているが、上記抗体産生細胞の性能に改善の余地がある上に、泡立ちによるハンドリング性悪化の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-45794号公報
【文献】特開平10-237094号公報
【文献】特表2007-509164号公報
【文献】特表2007-516281号公報
【文献】特開2020-38059号公報
【文献】国際公開第2016/052690号
【文献】特開2004-219111号公報
【文献】特開平04-019561号公報
【文献】特開2008-209114号公報
【文献】特開平07-083923号公報
【文献】特開平7-23780号公報
【文献】特開平4-304882号公報
【文献】特開2015-027265号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】新生化学実験講座1 タンパク質I 分離・精製・性質 16章
【文献】「渡辺・中根 酵素抗体法」学際企画株式会社刊 2002年
【文献】高分子論文集 第35巻 7号 423(1978)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記事情に鑑み、本発明の目的は、タンパク質安定化能に優れたタンパク質安定化剤、増感効果に優れたブロッキング剤、並びに、抗体生産性及び細胞活性に優れた抗体産生細胞を培養能な細胞培養培地添加剤となる、ハンドリング性に優れた生体適合性ポリマー組成物を提供することにある。
及び更に
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は以下の〔1〕~〔14〕に関する。
〔1〕アミンオキシド基を有し、かつ量平均分子量が5,000以上であるビニル系ポリマー(A)及び水を含み、1%水溶液での25℃における表面張力が30~50dyn/cmである、生体適合性ポリマー組成物。
〔2〕1%水溶液での浸透圧が1~20mOsm/kgである、上記の生体適合性ポリマー組成物。
〔3〕更に、両性イオン構造を有し、かつ分子量が500以下の化合物(B)(ただし、界面活性剤及びモノマーを除く)を含む、上記の生体適合性ポリマー組成物。
〔4〕ビニル系ポリマー(A)100部に対して、化合物(B)の割合が、0.5~10部である、上記の生体適合性ポリマー組成物。
〔5〕アミンオキシド基を有し、かつ量平均分子量が5,000以上であるビニル系ポリマー(A)が、下記一般式1~3で示される少なくともいずれかの構造を有する、上記の生体適合性ポリマー組成物。
【化1】

【化2】

【化3】

[一般式1~3中、
Xは2価の結合基、
yは0又は1、
R1は炭素数1~6のアルキレン基、
R2及びR3はそれぞれ独立して炭素数1~4のアルキル基、
R4は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基、
R5~R9のうち4つはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、R5~R9のうちの1つはビニル系ポリマー(A)の主鎖との結合位置を表し、*はビニル系ポリマー(A)の主鎖との結合位置を表す。]
〔6〕化合物(B)が、下記一般式4~9で示される少なくともいずれかの構造を有する、上記の生体適合性ポリマー組成物。
一般式4
【化4】

一般式5
【化5】

一般式6
【化6】

一般式7
【化7】

一般式8
【化8】

一般式9
【化9】

[一般式4~9中、
R11、R12、R13はそれぞれ独立して炭素数1~5のアルキル基又はヒドロキシアルキル基を表す。R11、R12及びR13のいずれか2つが連結し、環を形成してもよい。
R14は炭素数1~4のアルキレン基、
Zは-COO-又はSO3-、
R15は水素原子又はメチル基、
R16は炭素数1~4のアルキレン基、
R17~R21は、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、
R22は炭素数1~4のアルキレン基を表す。)
〔7〕上記の生体適合性ポリマー組成物を含む、タンパク質安定化剤。
〔8〕上記のタンパク質安定化剤と、タンパク質とを共存させることを特徴とする、タンパク質の安定化方法。
〔9〕上記の生体適合性ポリマー組成物を含む、ブロッキング剤。
〔10〕上記のブロッキング剤を用いた、体外診断による検体中の標的物質の検出方法。
〔11〕上記の生体適合性ポリマー組成物を含む、細胞培養培地添加剤。
〔12〕上記の細胞培養培地添加剤を含む、細胞培養培地。
〔13〕細胞培養培地における前記生体適合性ポリマー組成物の濃度が0.01質量%以上1質量%以下である、上記の細胞培養培地。
〔14〕上記の細胞培養培地で細胞を培養することを特徴とする、細胞凝集塊又は生理活性物質の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、タンパク質安定化能に優れたタンパク質安定化剤、増感効果に優れたブロッキング剤、並びに、抗体生産性及び細胞活性に優れた抗体産生細胞を培養能な細胞培養培地添加剤となる、ハンドリング性に優れた生体適合性ポリマー組成物を提供することが可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<生体適合性ポリマー組成物>
本発明の生体適合性ポリマー組成物は、アミンオキシド基を有し、かつ量平均分子量が5,000以上であるビニル系ポリマー(A)及び水を含み、1%水溶液での25℃における表面張力が30dyn/cm~50dyn/cmである。上記のような構成とすることで、優れたタンパク質の安定化効果やブロッキング剤、細胞培養培地添加剤としての効果を発現する。
【0011】
<ビニル系ポリマー(A)>
本発明の生体適合性ポリマー組成物は、アミンオキシド基を有し、かつ量平均分子量が5,000以上であるビニル系ポリマー(A)を含む。
【0012】
ビニル系ポリマー(A)としては、具体的には、上記一般式1~3で表される少なくともいずれかの構造を含むものであることが好ましく、中でも一般式1で表される構造を含むものが特に好ましい。アミンオキシド基が下記式で表されるものであることによって、ポリマーが好適な水溶性を発現することができる。
ビニル系ポリマー(A)は、共重合体であることが好ましく、ブロック共重合体、ランダム共重合体、交互共重合体のいずれであってもよい。
【0013】
アミンオキシド基を有するビニル系ポリマー(A)は、例えば以下のような方法で得ることができる。
(1)3級アミノ基含有モノマー(a)と、必要に応じてその他のモノマーとを重合しビニル系ポリマーを得た後、前記3級アミノ基と酸化剤との反応生成物として得る方法。
(2)3級アミノ基含有モノマー(a)と酸化剤との反応生成物モノマー(アミンオキシド基含有モノマー)と、その他のモノマーとの共重合体として得る方法。
3級アミノ基に酸化剤(以下、オキシド化剤ともいう)を反応させることで、ポリマー又はモノマーにアミンオキシド基を導入することができる。この反応を以下「オキシド化」ともいう。
【0014】
上記方法の中でも、副反応を生じ難いという点で(1)の方法が好ましい。(1)の方法においては3級アミノ基含有モノマー(a)以外のその他モノマーを重合させることが好ましい。
【0015】
<3級アミノ基含有モノマー(a)>
オキシド化前の前駆体としての3級アミノ基含有モノマー(a)のうち、一般式1の構造を形成するためものとしては、例えば、
N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピオン酸ビニル、N,N-ジエチルアミノプロピオン酸ビニル、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアリルアミン、p-ジメチルアミノメチルスチレン、p-ジメチルアミノエチルスチレン、p-ジエチルアミノメチルスチレン、p-ジエチルアミノエチルスチレン、N,N-ジメチルビニルアミン、N,N-ジエチルビニルアミン、N,N-ジフェニルビニルアミン、あるいは、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等の不飽和基含有酸無水物と、N,N-ジメチル-1,3-プロパンジアミン等との反応生成物、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有不飽和化合物とN,N-ジメチル-1,3-プロパンジアミン等との反応生成物が挙げられる。
好ましくは、(メタ)アクリレートモノマーであり、より好ましくはN,N-ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート又はN,N-ジアルキルアミノプロピル(メタ)アクリレートである。
なお、本発明において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び「メタクリル」の両者を表し、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」及び「メタクリレート」の両者を表すものとする。
【0016】
一般式2の構造を形成するためのものとしては、例えば、
1-ビニルイミダゾール、2-メチル-1-ビニルイミダゾール、4-メチル-1-ビニルイミダゾール、5-メチル-1-ビニルイミダゾール、2-ラウリル-1-ビニルイミダゾール、4-(t-ブチル)-1-ビニルイミダゾールが挙げられる。
【0017】
一般式3の構造を形成するためのものとしては、例えば、
2-ビニルピリジン、3-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、2-メチル-3-ビニルピリジン、2-メチル-4-ビニルピリジン、3-メチル-4-ビニルピリジン、2-メチル-5-ビニルピリジン、3-メチル-5-ビニルピリジン、4-メチル-5-ビニルピリジン、2-ラウリル-4-ビニルピリジン、2-ラウリル-5-ビニルピリジン、2-(t-ブチル)-4-ビニルピリジン、2-(t-ブチル)-5-ビニルピリジンが挙げられる。
【0018】
<その他モノマー>
ビニル系ポリマー(A)を得る際に、前記3級アミノ基含有モノマー(a)の他に、1分子中に1つのエチレン性不飽和基を有する、その他モノマーを用いることができる。その他モノマーに基づく構造の導入により、極性やTgが適切に制御され、溶媒溶解性等を制御することができる。
例えば、
炭素数1~18のアルキル基を有するモノマー;
メトキシエチル(メタ)アクリレート等のアクリルエステル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート等の芳香族エステル(メタ)アクリレート;
2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの水酸基を有するモノマー;
マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸などのカルボン酸基、若しくはその無水物を有するモノマー;
N-ビニル-2-ピロリドンなどの1~3級アミド基を有するモノマー;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩、トリメチル-3-(1-(メタ)アクリルアミド-1,1-ジメチルプロピル)アンモニウムクロライド、トリメチル-3-(1-(メタ)アクリルアミドプロピル)アンモニウムクロライド、及びトリメチル-3-(1-(メタ)アクリルアミド-1,1-ジメチルエチル)アンモニウムクロライドなどの4級アミノ基を有するモノマー;
ポリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどのポリエーテル鎖を有するモノマー;
ラクトン変性(メタ)アクリレートなどのポリエステル鎖を有するエチレン性不飽和化合物などの側鎖に高分子構造を有する(メタ)アクリレート系モノマー;スチレンなどの芳香族ビニルモノマー;
(メタ)アクリロニトリルなどのニトリル基含有エチレン性不飽和モノマー;
酢酸ビニルなどの脂肪酸ビニル系化合物;
ブチルビニルエーテル、などのビニルエーテル系エチレン性不飽和モノマー;
が挙げられる。
中でも疎水性基を導入するという観点から、炭素数1~18のアルキル基を有するモノマー(b)を用いることが好ましい。ビニル系ポリマー(A)が、炭素数1~18のアルキル基を有するモノマー(b)に基づく構造単位を含む場合、その含有量は、ビニル系ポリマー(A)を構成する単量体単位の合計100質量%に対して、5~70質量%であることが好ましく、10~60質量%であることがより好ましく、15~50質量%であることが更に好ましい。
【0019】
<オキシド化>
3級アミノ基含有モノマー(a)に由来する3級アミノ基は、各種酸化剤を使用することでアミンオキシド基化することができる。これによりビニル系ポリマー(A)にアミンオキシド基を導入することができる。オキシド化は、ビニル系ポリマー(A)の重合前、重合後のいずれであってもよく、重合前のオキシド化は、3級アミノ基含有モノマー(a)を含む溶液に、重合後のオキシド化は、3級アミノ基含有モノマー(a)を必須とするモノマーを重合したビニル系ポリマーを含む溶液に、オキシド化剤を加えて20℃~100℃の範囲で0.1~100時間、好ましくは1~50時間反応させることによって、3級アミノ基をオキシド化することができる。
【0020】
オキシド化剤としては、過酸化物又はオゾン等の酸化剤が用いられる。過酸化物としては、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸ソーダ、過酢酸、メタクロロ過安息香酸、ベンゾイルパーオキシド、t-ブチルハイドロパーオキシド等が挙げられ、過酸化水素が好ましく、通常は水溶液の形で用いられる。
【0021】
<質量平均分子量(Mw)>
ビニル系ポリマー(A)の質量平均分子量は、5,000以上であり、好ましくは5,000~500,000である。分子量が上記範囲であることにより、水溶液にした際に適切な表面張力に調整することができ、更に、水溶液としてタンパク質や細胞培養用培地に添加する際に消泡性の観点から取り扱いが容易になる。
【0022】
本発明の生体適合性ポリマー組成物は、タンパク質や抗体、細胞などの物質に添加して使用されるため、物質間の界面に生じる作用が重要である。本発明では生体適合性ポリマー組成物を1%水溶液にした際の表面張力を適した範囲にすることにより、タンパク質安定性、ブロッキング性及び細胞培養時のモノクローナル抗体や生理活性物質の産生性を向上させることができる。詳細は定かではないが、適切な表面張力が、ビニル系ポリマー(A)とタンパク質又は細胞との相互作用を助けるものと考察している。
【0023】
<水>
本発明の生体適合性ポリマー組成物は、上記アミンオキシド基を有するビニル系ポリマー(A)のほかに水を含む。水としては、例えば、滅菌精製水、精製水、イオン交換水、蒸留水、純粋、超純水等、特に限定されないが、好ましくは、滅菌精製水である。使用する水は、生体適合性ポリマー組成物に含有される他の成分の働きが阻害されることを防ぐため、例えばイオン交換樹脂による不純物異音の除去、フィルターによる異物の除去、上流等の操作によって水の純度を高めることが好ましい。なお、以下の説明において水は、特に断りがない限り滅菌精製水を意味する。
【0024】
<表面張力(dyn/cm)>
本発明の生体適合性ポリマー組成物は、1%水溶液にした際の25℃における表面張力が30~50dyn/cmの範囲であり、30~48dyn/cmの範囲であることがより好ましい。
【0025】
表面張力は物質間の界面に影響を与える因子であり、塩化ナトリウム、塩化カリウムなどのイオン性化合物、プロピレングリコール、グリセリンなどの非イオン性化合物、界面活性剤などの添加によって調節することが可能であるが、本発明の一実施形態では、後述する、両性イオン構造を有し、かつ分子量が500以下の化合物(B)が使用される。
【0026】
液体の表面の分子は、内部の分子の強い引力を受ける。その結果生じる力は、可能な限り小さな液体表面を作るように働く。この力の大きさは表面張力と呼ばれ、単位長さ当たりの力の単位で表される。なお、本発明において表面張力は、液温が25℃である場合の表面張力であるものとする。このとき、水の表面張力は72dyn/cmである。すなわち、生体適合性ポリマー組成物は、表面張力を低下させる作用を有する。
【0027】
(表面張力の測定方法)
表面張力の測定方法としては、Wilhelmy法(プレート法、垂直板法)、duNouy法(リング法、輪環法)、懸滴法(ペンダント・ドロップ法)、最大泡圧法、接触角を測定してヤングの式から算出する方法などが挙げられる。いずれの方法でもよいが、本発明ではWilhelmy法を用い、生体適合性ポリマー組成物が25℃1%水溶液状態における表面張力を測定した。
【0028】
<浸透圧(mOsm/kg)>
本発明の生体適合性ポリマー組成物は、1%水溶液にした際の浸透圧が1~20mOsm/kgの範囲であることが好ましく、2~17mOsm/kgの範囲であることがより好ましい。浸透圧が上記範囲であると、ビニル系ポリマー(A)及び上記表面張力と相乗的に作用し、タンパク質安定性、ブロッキング性及び細胞培養時のモノクローナル抗体や生理活性物質の産生性を更に向上させることができる。
【0029】
浸透圧は粒子の数mol÷溶質の容量(L)で、浸透圧の単位はオスモル濃度Osm/Lで表される。水溶液の場合、オスモル濃度はOsm/kgと表すことができる。特に細胞内外の水分移動には、浸透圧が関与し、電解質、糖質、アミノ酸のような溶質によって生じる。本発明の一実施形態では、後述する化合物(B)の含有により調整される。1%水溶液にした際の浸透圧が1mOsm/kg以上であることで、細胞への障害を防ぐことができる。また、1%水溶液にした際の浸透圧が20mOsm/kg以下であることで、細胞内脱水を生じるリスクを低下させる。
【0030】
<化合物(B)>
本発明の生体適合性ポリマー組成物は、更に、両性イオン構造を有し、かつ分子量が500以下の化合物(B)を含むことが好ましい。ただし、細胞毒性の観点から、化合物(B)からは、界面活性剤及びモノマーは除かれる。しかし、本発明の要旨を逸脱しない限り、残留モノマー等の意図しない混入を阻むものではない。本発明において、化合物(B)の量はビニル系ポリマー(A)100部に対し0.5~10部であることが好ましく、1~5部であることがより好ましい。
【0031】
化合物(B)は、具体的には、上記一般式4~9で表される少なくともいずれかの構造を含むものであることが好ましく、中でも一般式4及び/又は一般式5で表される構造を含むものが特に好ましい。化合物(B)が下記式で表されるものであることによって、生体適合性ポリマー組成物を好適な表面張力にすることができる。
【0032】
化合物(B)は、例えば、3級アミノ基を有する化合物を出発原料として合成することができる。
例えば、アミンオキシド構造を有する化合物を得る場合、3級アミノ基を有する化合物に前述の過酸化物又はオゾン等のオキシド化剤を用いる。
また、カルボキシベタイン構造を有する化合物を得る場合、3級アミノ基を有する化合物にβ-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトンなどの環状カルボン酸エステルや2-クロロ酢酸ナトリウム、2-ブロモ酢酸ナトリウム、3-クロロプロピオン酸ナトリウム、3-ブロモプロピオン酸ナトリウム、4-クロロ酪酸ナトリウム、4-ブロモ酪酸ナトリウム、5-クロロペンタン酸ナトリウム、5-ブロモペンタン酸ナトリウムなどのω‐ハロゲン化アルキルカルボン酸金属塩を用いる。
また、スルホベタイン構造を有する化合物を得る場合、3級アミノ基を有する化合物に1,2-エタンスルトン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトンなどの環状スルホン酸エステルや、2-クロロエタンスルホン酸ナトリウム、2-ブロモエタンスルホン酸ナトリウム、3-クロロプロパンスルホン酸ナトリウム、3-ブロモプロパンスルホン酸ナトリウム、4-クロロブタンスルホン酸ナトリウム、4-ブロモブタンスルホン酸ナトリウムなどのω‐ハロゲン化アルキルスルホン酸金属塩を用いる。
【0033】
一般式4、5の構造を形成するためのものとしては、例えば、
トリメチルアミンN-オキシド、ジメチル-2-ヒドロキシエチルアミンN-オキシド、N,N,N-トリメチルグリシン、ジメチルエチルアンモニウムプロパンスルホン酸、ジメチル-2-ヒドロキシエチルアンモニウムプロパンスルホン酸、ジメチルベンジルアンモニウムプロパンスルホン酸、3-(1-メチルピペリジウム)-1-プロパンスルホン酸が挙げられる。
【0034】
一般式6、7の構造を形成するためのものとしては、例えば、
イミダゾールN-オキシド、2-メチルーイミダゾールN-オキシド、イミダゾリニウムベタイン、3-(3-スルホプロピル)イミダゾリウム内部塩が挙げられる。
【0035】
一般式8、9の構造を形成するためのものとしては、例えば、
ピリジンN-オキシド、1-(3-スルホプロピル)ピリジニウム内部塩、1-(4-スルホブチル)ピリジニウム内部塩が挙げられる。
【0036】
以下に、タンパク質安定化剤、ブロッキング剤及び細胞培養培地添加剤を含む各種用途について詳細を述べる。
【0037】
<タンパク質安定化剤>
本発明の生体適合性ポリマー組成物は、タンパク質を共存させることにより、タンパク質を安定に保管することができる。安定化剤とタンパク質は、共通の溶媒に溶解又は分散させることで共存させることができる。安定化剤とタンパク質を共存させる溶媒は水系の溶媒が好ましい。例えば、水やトリス緩衝生理塩水(TBS)、リン酸緩衝生理塩水(PBS)があげられる。水はメタノールやエタノール、プロピルアルコール、テトラヒドロフランなど水と混合できる有機溶剤を一部含んでもよい。タンパク質に対して本発明の安定化剤は質量で好ましくは100倍、更に好ましくは10000倍加えて使用する。安定化剤の添加量が不十分な場合、安定化効果が発現できない可能性がある。同じ理由から、安定化剤は溶液の全量に対して好ましくは0.01%以上、更に好ましくは0.1%以上加えて使用する。
【0038】
<ブロッキング剤>
本発明の生体適合性ポリマー組成物は、ブロッキング剤として用いることができる。ブロッキング剤とは、抗原が存在しない部位への抗体タンパク質の非特異的な吸着を防ぎ、特異的な抗原抗体反応を増強するためのものであり、生体適合性ポリマー組成物をブロッキング剤として用いる場合、その濃度は好ましくは0.01%以上5%以下、より好ましくは0.01%以上1%以下である。生体適合性ポリマー組成物の濃度が低い場合、抗原抗体反応効率向上又は非特異的反応の低減に対する効果がなく、濃度が高い場合、抗原抗体反応に対して阻害的に作用する。ここで言うブロッキング剤とは、抗体が抗原の存在しない部位への非特異的吸着を防止するために、抗体反応の前に抗原を含む検体を前処理する場合や、抗体の非特異的な反応を防止するために、抗体反応用の希釈液への添加に用いられるものであって、その形態は特に限定されない。
これらはいずれも、適当な緩衝液に該ブロッキング剤抗体を添加し、該組成物を、免疫反応を利用する実験手法に適用したときの非特異反応の程度を比較することにより判断することができる。より好ましくは、酵素免疫測定(EIA)において、該ブロッキング剤を一般的に用いられる緩衝液、例えば、TBSやPBS等により希釈したものを、抗体反応前の抗原を含む検体へ滴下し、37℃で1時間インキュベートした後に、抗体反応を行うことにより、抗体の非抗原への非特異的吸着の度合いを定量的に測定することができる。
【0039】
<細胞培養培地添加剤>
本発明の生体適合性ポリマー組成物は、細胞培養培地添加剤として用いることができる。細胞培養培地としては、従来公知のものを使用することができる。例えば、市販されている各種培地(αMEM、MEM、DMEM、IMDEM、RPMI1640、DMEM/F12等)や、これらの組み合わせが挙げられる。細胞培養培地添加剤である水溶性ビニル重合体(A)の培地中の濃度は0.001~1質量%が好ましく、0.01~1質量%がより好ましい。0.1~1質量%が更に好ましい。細胞培養培地には、必要に応じて、各種増殖因子(上皮成長因子やインスリン様成長因子、神経成長因子、肝細胞増殖因子、血管内皮増殖因子、塩基性繊維芽細胞増殖因子、トランスフェリン、ステロイドホルモン、2-メルカプトエタノール等)や各種動物血清(ウシ胎児血清(FBS)やウシ血清等)、血清代替物などを添加するのが好ましい。
【0040】
<生理活性物質、スフェロイドの製造方法>
本発明の生体適合性ポリマー組成物を含む細胞培養培地中で細胞を培養することで、生理活性物質を高効率で生産することができる。また、本発明の生体適合性ポリマー組成物を含む細胞培養培地中で細胞を培養することで、スフェロイドを形成することができる。
【0041】
<生理活性物質>
本実施形態に係る生理活性物質とは、例えば、抗体タンパク質(以下抗体という)やアルブミン、薬物代謝酵素などである。ここで産生される抗体は特に限定されず、例えば、マウスモノクローナル抗体、ヒト化モノクローナル抗体又はヒトモノクローナル抗体である。また、免疫グロブリンのクラスは特に限定されないが、例えば、IgG(例えば、IgG1、IgG2など)である。また、産生される薬物代謝酵素は特に限定されず、例えば、アルコールデヒドロゲナーゼ、アルデヒドデヒドロゲナーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、モノアミンオキシダーゼ、ジアミンオキシダーゼ、エポキシドヒドラーゼ、エステラーゼ、アミダーゼ、UDP-グルクロノシルトランスフェラーゼ、グルタチオンS-トランスフェラーゼ、γ-グルタミルトランスペプチダーゼ、アセチルトランスフェラーゼ、スルホトランスフェラーゼ、シトクロムP450などが挙げられる。
本発明の培養方法又は製造方法において、培養を行う際、通常培養に用いられている容器又は装置を使用することができる。例えば、マルチウェルプレート、シャーレ、培養フラスコ、スピナーフラスコ、ジャーファーメンター、ファーメンター、ローラーボトル、ホローファイバー、マイクロキャリアーが挙げられる。
【0042】
<細胞>
本発明の培養方法で培養される細胞は、生理活性物質の生産に使用可能な細胞であれば特に限定されず、抗体生産可能な細胞として例えば、CHO細胞、BHK細胞、HepG2細胞、rodentmyeloma細胞、(SP2/O細胞、NSO細胞等のマウス骨髄腫細胞など)、ハイブリドーマ、昆虫細胞、及び、それらの細胞に外来遺伝子を導入した形質転換細胞が挙げられるが、例えばCHO細胞、SP2/O細胞又はNSO細胞等を細胞融合することによって得られるハイブリドーマ等を採用することができる。薬物代謝酵素を産生可能な細胞として例えば、動物の肝臓から採取された初代肝細胞、ES細胞やiPS細胞、間葉系幹細胞等の幹細胞から分化誘導させた肝細胞、HepG2細胞やHuH-7細胞等の肝がん由来の細胞株等が挙げられる。
【0043】
本実施形態における培養条件は、通常の動物細胞の培養条件でよく、例えば、5体積%CO2雰囲気下で、温度37℃である条件とすることができる。
【0044】
培養液から細胞を採取するには、浮遊細胞の場合は、例えば、培養液を直接遠心分離機やろ過機にかけて集める。接着細胞の場合は、例えば0.25%トリプシン-0.02%EDTA液を添加して細胞を浮遊させた後、遠心分離やろ過により集める。
【0045】
細胞培養によって生産される生理活性物質、特に抗体は、その物質が培養液中に蓄積される場合、ろ過又は遠心分離により上澄み液を得て、これから採取される。また、細胞内に蓄積される物質の場合には、ろ過又は遠心分離により得た細胞をホモジナイズ、超音波処理、化学薬品処理等を施し、生産物を抽出した上澄み液を得る。
【0046】
上記上澄みから抗体を分離、精製するには、公知の方法を適宜組み合わせて行う。例えば、硫安沈殿、透析、限外ろ過、電気泳動、ゲルろ過、イオン交換クロマトグラフィ、逆相クロマトグラフィ、アフィニティクロマトグラフィなどが好ましい。
【実施例
【0047】
以下に、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。尚、実施例及び比較例における「部」及び「%」は、「質量部」及び「質量%」を表し、molは物質量を表し、mol%は全単量体中の物質量の割合を表す。
【0048】
(質量平均分子量(Mw)の測定方法)
質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって標準プルラン換算で計測した値を採用した。測定装置及び測定条件としては下記条件1を用いた。その他の事項については、JISK7252-1~4:2008を参照した。なお、難溶の高分子化合物については下記条件の下、溶解可能な濃度で測定した。また、ビニル系ポリマー(A)の分子量測定が困難な場合は、アミンオキシド前駆体ポリマーの質量平均分子量をビニル系ポリマー(A)の質量平均分子量とすることができる。アミンオキシド前駆体ポリマーの質量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって標準ポリスチレン換算で計測した値を採用し、測定装置及び測定条件としては、下記条件2によることを基本とした。
【0049】
(条件1)
カラム:OHpakSB-G、
OHpakSB-806MHQを3本及び、
OHpakSB-802.5HQを連結したもの。
キャリア:1/15mol/LpH7.0リン酸緩衝液
(りん酸緩衝剤粉末1/15mol/LpH7.0(富士フイルム和光純薬(株)製)をイオン交換水1Lに溶解させたもの)
キャリア流量:1.0mL/min
試料濃度:0.5質量%
検出器:RI(屈折率)検出器
注入量:0.1mL
【0050】
(条件2)
カラム:TOSOHTSKgelSuperAW4000、
TOSOHTSKgelSuperAW3000及び
TOSOHTSKgelSuperAW2500を連結したもの。
キャリア:N,N-ジメチルホルムアミド(1L)、トリエチルアミン(3.04g)、LiBr(0.87g)の混合液
測定温度:40℃
キャリア流量:0.6mL/min
【0051】
(表面張力の測定方法)
生体適合性ポリマー組成物を1%水溶液とし、25℃においてWilhelmy法により測定した。
【0052】
(浸透圧の測定方法)
浸透圧の測定方法としては、第十六改正日本薬局方記載の浸透圧測定方法に従い、水の凝固点降下度測定により、生体適合性ポリマー組成物を1%水溶液とし、オスモル濃度を測定した。
【0053】
<ビニル系ポリマー(A)の製造>
[製造例1]
(P-1)
温度計、撹拌機、窒素導入管、還流冷却器、滴下管を備えた反応容器に、窒素気流下、有機溶媒として酢酸エチル150質量部を仕込み、撹拌下80℃で30分加熱した。滴下管にモノマーとしてN,N-ジメチルアミノエチルメタクリレートを70質量部、ブチルメタクリレートを30質量部、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を0.3質量部、溶媒として酢酸エチルを10質量部仕込み、2時間かけて滴下した。滴下終了後6時間加熱を継続した。その後、室温に冷却し反応を停止した。
次に、エタノール150部とオキシド化剤として35%過酸化水素水を43部(用いたN,N-ジメチルアミノエチルメタクリレートと等モル量)加え、70℃で16時間反応させることで3級アミノ基のオキシド化を行った。その後、ダイヤフラムポンプで溶剤を除去し、アミンオキシド基を有するビニル系ポリマーを得た。
【0054】
[製造例2~4、比較製造例1]
(P-2~5)
表1に示す組成に変更した以外は、P-1と同様にして、ビニル系ポリマーを得た。
【0055】
【表1】
【0056】
表1中の略称の詳細は以下の通りである。
DEAEMA:N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート
VP:ビニルピリジン
VI:ビニルイミダゾール
ISTA:イソステアリルアクリレート
BMA:ブチルメタクリレート
MMA:メチルメタクリレート
St:スチレン
【0057】
<生体適合性ポリマー組成物の製造>
[実施例1-1]
(添加剤1)
上記で得たビニル系ポリマー(P-1)100部に対し、トリメチルグリシン(TMG)が2部になるように両者を水に溶解し、濃度1質量%の生体適合性ポリマー組成物を得た。表面張力は43dyn/cm、浸透圧は2mOsm/kgであった。またハンドリングの指標として評価した消泡性評価の結果は○であった。
【0058】
[実施例1-2~22、比較例1-1~4]
(添加剤2~26)
表2に示す組成に変更した以外は、実施例1-1と同様にして調製した。
【0059】
[消泡性評価]
生体適合性ポリマー組成物は使用前に撹拌するが、撹拌時に泡が生じるとハンドリングの観点で不具合をきたす。そこで、撹拌後に生じる泡の消泡性をハンドリングの指標として、以下の方法で評価した。
【0060】
15mL遠沈管に生体適合性ポリマー組成物の1%水溶液を3mL添加し、手振りで激しく撹拌した後、30分間静置した。静置後の泡の高さを計測し、下記基準にて評価した。
【0061】
30分静置後の泡の高さ
○:3cm未満
×:3cm以上
【0062】
【表2】
【0063】
表2中の略称の詳細は以下の通りである。
TMG:トリメチルグリシン
NDSB195:ジメチルエチルアンモニウムプロパンスルホン酸
NDSB201:3-(1-ピリジノ)プロパンスルホン酸
NDSB211:ジメチル-2-ヒドロキシエチルアンモニウムプロパンスルホン酸
TMAO:トリメチルアミンN-オキシド
DMHEAO:ジメチル-2-ヒドロキシエチルアミンN-オキシド
PyO:ピリジンN-オキシド
【0064】
<生体適合性ポリマー組成物のタンパク質安定性試験>
[実施例2-1~22][比較例2-1~4]
表2に示した組成比で各化合物をPBSに溶かし、固形分濃度0.1質量%とした。
【0065】
<タンパク質安定化剤の評価>
得られたタンパク質安定化剤について以下の評価を実施した。結果を表3に示す。
【0066】
[評価用酵素水溶液の調製]
HRP標識CRP抗体(abcam社製)を8.0ng/mlとなるように、得られたタンパク質安定化剤水溶液1mlで希釈・混合し、評価用の酵素水溶液を作成した。評価用酵素水溶液は濃度変化がないよう、よく密閉し40℃で保管した。
【0067】
[酵素活性評価]
ペルオキシダーゼ用発色キット(住友ベークライト製)を用い、発色剤(3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMBZ)溶液)を10mlと基質液(過酸化水素水)100μlを混合し発色液を得た。
この発色液100μlと、評価用酵素水溶液100μlとを96穴ウェルプレートに加え、30℃暗所で20分間静置した。これに停止液(硫酸水溶液)を100μl加え反応を停止させた。450nmでの吸光度をプレートリーダーMultimodeReaderMithras2LB943(BERTHOLDTECHNOLOGIES社製)で測定し、反応により生じたTMBZ酸化物の量を定量した。TMBZの酸化反応はHRP標識CRP抗体の活性と相関するため、得られた吸光度を酵素活性の指標として使用することができる。
【0068】
[タンパク質安定化効果の評価]
上記酵素活性評価を、評価用酵素水溶液の保管前と40℃、3日間保管後の2回行い、吸光度を測定した。保管前の吸光度を100%としたときの、保管後の吸光度の比率を計算して相対吸光度とし、下記基準にてタンパク質の変性を評価した。
【0069】
40℃、3日保管後の相対吸光度
◎:70%以上(極めて良好)
○:50%以上、70%未満(良好)
△:30%以上、50%未満(使用可能)
×:30%未満(使用不可)
【0070】
【表3】
【0071】
表3に示すように、本発明の生体適合性ポリマー組成物をタンパク質安定化剤として使用することで、高いタンパク質安定化効果が得られた。一方、ビニル系ポリマー(A)を有しないか、水溶液の表面張力が本発明の範囲外である比較例2-1~4、タンパク質と共存させ保管しても十分な安定化効果が得られなかった。
【0072】
<生体適合性ポリマー組成物のブロッキング剤としての増感効果評価>
[実施例3-1~22][比較例3-1~4]
表2に示した組成比で各化合物をPBSに溶かし、固形分濃度1質量%とした。下記の通り、増感効果評価を実施し、吸光度の差異を基準に評価した。結果を表4に示す。
【0073】
[抗原抗体反応試験]
(ウェルプレートの固相抗体処理)
固相用抗体として抗HSA抗体を3μg/mlの濃度になるようにPBS溶液で調整した。この固相用抗体溶液をPSt製96穴ウェルプレートに100μlずつ添加し、4℃で一晩静置した後、溶液を吸引除去した後、PBS-T溶液を200μlずつ添加し吸引除去することを3回繰り返した。
【0074】
(ブロッキング処理)
上記で調整したブロッキング剤を、前述の抗体処理した96穴ウェルプレートに200μlずつ添加し、室温2時間静置した後、溶液を吸引し除去した後、PBS-T溶液を200μlずつ添加し吸引除去することを3回繰り返した。
【0075】
(抗原吸着処理)
抗原としてHSAが0,25,50,100ng/mlになるようにPBS溶液で調整した。このHSA抗原溶液を、前述の固相抗体処理した96穴ウェルプレートに100μlずつ添加し、室温1時間静置した後、溶液を吸引し除去した後、PBS-T溶液を200μlずつ添加し吸引除去することを3回繰り返した。
【0076】
(標識抗体吸着処理)
HRP標識抗体としてA80-129P(抗ヒトアルブミン抗体)が20ng/mlになるようにPBS溶液で調整した。このHRP標識HSA抗体溶液を、前述のブロッキング処理した96穴ウェルプレートに100μlずつ添加し、室温1時間静置した後、溶液を吸引し除去した後、PBS-T溶液を200μlずつ添加し吸引除去することを3回繰り返した。
【0077】
(発色反応)
前述の標識抗体吸着処理した96穴ウェルプレートに100μlずつABTS溶液を添加した。室温で1時間静置した後、各ウェルに停止液100μlを添加した。
【0078】
(吸光度測定)
HSA抗原濃度が100ng/mlの時の405nmの吸光度(吸光度Aとする)とHSA抗原濃度が0ng/mlの時の405nmの吸光度プロット(吸光度Bとする)を測定した。下記基準にてELISAのブロッキング剤として使用した際の増感効果を評価した。
【0079】
[評価基準]
◎:1.5≦(吸光度A-吸光度B) :良好
○:0.8<(吸光度A-吸光度B)<1.5 :使用可能
×:(吸光度A-吸光度B)≦0.8 :使用不可
【0080】
【表4】
【0081】
表4の結果から、本発明の生体適合性ポリマー組成物をブロッキング剤として使用することで、ELISA試験時の増感効果が得られた。一方、ビニル系ポリマー(A)を有しないか、水溶液の表面張力が本発明の範囲外である比較例3-1~4は、ブロッキング剤として十分な増感効果が得られなかった。
【0082】
<生体適合性ポリマー組成物の細胞培養試験>
[実施例4-1~22][比較例4-1~4]
表2に示した組成比で各化合物を細胞培養用培地に溶かし、以下の評価を実施した。結果を表5に示す。以下に述べる(1)生理活性物質の生産量の評価、(3)細胞の活性の評価は、それぞれの基礎培地に細胞用培地添加剤を所定量添加し、ピペッティングをすることで培地組成物を調整し、最終濃度0.01質量%から1質量%の範囲で評価した。
【0083】
(1)生理活性物質の生産量の評価
【0084】
<抗体産生性評価>
培地はDynamisMedium(Gibco製)を用い、L-Glutaminを1.0質量%になるように添加した。以後、これを基礎培地と呼ぶ。これを2セット用意し、得られた生体適合性ポリマー組成物を含む細胞用培地添加剤を表5に記載の濃度になるように添加した。生体適合性ポリマー組成物を含む細胞用培地添加剤の濃度が異なる2種の培地にそれぞれIgG遺伝子を導入しIgG抗体を分泌産生するCHO細胞株を加え、CHO細胞株の濃度が1,000,000cells/mLとなる細胞懸濁液を作製した。得られた細胞懸濁液20mLを、125mLの三角フラスコに播種し、37℃にて培養した。なお、培養中、栄養源が枯渇する前に3~4日に一度、上澄み液15mLを回収し、新たな基礎培地15mLと交換し、これを5回繰り返した。培地交換を5回繰り返した後の細胞培養液を遠心分離することで、培地上清を回収した。培地中の抗体量を、BethylLaboratories,Inc製のHumanIgGELISAQuantitationSetを用いて測定した。また、沈降した細胞群のDNA量も定量し、単位DNA量あたりの抗体生産量として算出した。生体適合性ポリマー組成物を含む細胞培養培地添加剤を加えないで培養した場合の成績を1とした場合の相対値で判定した。評価結果を表5に示す。
◎:1.3以上(非常に良好)
○:1以上~1.3未満(良好)
×:1未満(不良)
【0085】
<アルブミン産生性評価>
10%FBS-DMEM培地に生体適合性ポリマー組成物を含む細胞培養培地添加剤を表5に記載の濃度になるように添加し、攪拌をすることで培地組成物を調製した。ヒト肝がん細胞株HepG2細胞を250,000cells/mLとなるように、上記の生体適合性ポリマー組成物を含む細胞培養培地添加剤を添加した培地組成物を播種した後、96ウェルU底マイクロプレートのウェルに1ウェルあたり200μLになるように分注した。その後、本プレートをCO2インキュベーター(37℃、5%CO2)内にて静置状態で3日間培養した。3日間培養後の肝細胞を含む培養液を回収し、遠心分離にすることで培地上清を回収した。培地中のアルブミン量を、BethylLaboratories,Inc製AlbuminELISAQuantitationSetを用いて測定した。また、沈降した細胞群のDNA量も定量し、単位DNA量あたりのアルブミン生産量として算出した。生体適合性ポリマー組成物を含む細胞培養培地添加剤を加えないで培養した場合の成績を1とした場合の相対値で判定した。評価結果を表5に示す。
◎:1.2以上(非常に良好)
○:1以上~1.2未満(良好)
×:1未満(不良)
【0086】
<薬物代謝酵素活性の評価>
10%FBS-DMEM培地に生体適合性ポリマー組成物を含む細胞培養培地添加剤を表5に記載の濃度となるように添加し、攪拌をすることで培地組成物を調製した。ヒト肝がん細胞株HepG2細胞を250,000cells/mLとなるように、上記の生体適合性ポリマー組成物を含む細胞培養培地添加剤を添加した培地組成物を播種した後、96ウェルU底マイクロプレートのウェルに1ウェルあたり200μLになるように分注した。その後、本プレートをCO2インキュベーター(37℃、5%CO2)内にて静置状態で3日間培養した。3日間培養後、薬物代謝酵素の活性評価を実施した。薬物代謝酵素活性はP450-GloTMCYP3A4AssayKits(Promega製)を用いて評価し、基質としてLuciferin-IPAを用いた。基質を含む10%FBS-DMEM培地に入れ替え、4時間インキュベートした。インキュベート後の培地を発光測定用黒色プレートに移し、検出試薬(Luciferindetectionreagent)を加え、室温で20分間静置した。このプレートをプレートリーダー(Berthold製)にて発行量測定した。また、細胞群のDNA量も定量し、単位DNA量あたりの薬物代謝酵素活性値として算出した。生体適合性ポリマー組成物を含む細胞培養培地添加剤を加えないで培養した場合の成績を1とした場合の相対値で判定した。評価結果を表5に示す。
◎:1.2以上(非常に良好)
○:1.0以上1.2未満(良好)
×:1未満(不良)
【0087】
<qRT-PCR法による遺伝子発現解析>
10%FBS-DMEM培地に生体適合性ポリマー組成物を含む細胞培養培地添加剤を表5に記載の濃度となるように添加し、攪拌をすることで培地組成物を調製した。ヒト肝がん細胞株HepG2細胞を250,000cells/mLとなるように、上記の生体適合性ポリマー組成物を含む細胞培養培地添加剤を添加した培地組成物を播種した後、96ウェルU底マイクロプレートのウェルに1ウェルあたり200μLになるように分注した。その後、本プレートをCO2インキュベーター(37℃、5%CO2)内にて静置状態で3日間培養した。3日間培養後の肝細胞を含む培養液を回収し、遠心分離にすることで細胞を回収した。回収したHepG2細胞をRNeasyMicroKit(QIAGEN製)を用いてトータルRNAを抽出した。抽出した全RNAをReverTraAceqPCRRTMasterMix(TOYOBO製)を用いた逆転写反応によりcDNAを合成した。cDNAと目的遺伝子(CYP3A4とAlbumin)のTaqManprobe(LifeTechnologies製、CYP3A4:Hs00604506_m1,Albumin:Hs00609411_m1)を用いてqRT-PCRを実施した。リファレンス遺伝子にはGAPDH(LifeTechnologies製、Hs02786624_g1)を用いた。各遺伝子の相対発現量はGAPDHを基準に比較Ct法を用いて算出した。生体適合性ポリマー組成物を含む細胞培養培地添加剤を加えないで培養した場合の成績を1とした場合の相対値で判定した。評価結果を表5に示す。
◎:2以上(非常に良好)
○:1以上2未満(良好)
×:1未満(不良)
【0088】
<細胞の活性の評価>
【0089】
<ATP活性>
10%FBS-DMEM培地に生体適合性ポリマー組成物を含む細胞培養培地添加剤を表5に記載の濃度になるように添加し、攪拌をすることで培地組成物を調製した。ヒト肝がん細胞株HepG2細胞を100,000cells/mLとなるように、上記の生体適合性ポリマー組成物を含む細胞培養培地添加剤を添加した培地組成物を播種した後、96ウェルU底マイクロプレートのウェルに1ウェルあたり100μLになるように分注した。その後、本プレートをCO2インキュベーター(37℃、5%CO2)内にて静置状態で5日間培養した。
ATP活性は、1、5日後にATPアッセイを行うことによって評価した。具体的には、培養後のウェルに100μLのATP試薬(『塊』のATP測定試薬:東洋ビーネット社製)を添加、5回ピペッティングし、5分間室温で静置した後、100μLの試薬・細胞溶解液を別プレートに分取し1分間撹拌した。これをMithrasLB940(Berthold社製)を用いて発光量を測定した。評価結果を表5に示す。
ATP活性=(培養5日後の発光量)/(培養1日後の発光量)×100
◎:150%≦ATP活性、ATP活性がかなり高い。(非常に良好)
〇:100%≦ATP活性<150%ATP活性が高い。(良好)
△:50%≦ATP活性<100%ATP活性がやや高い。(可)
×:ATP活性<50%ATP活性が低い。(不良)
【0090】
【表5】
【0091】
表5の結果から、実施例4-1~4-22の細胞培養培地添加剤は、優れた抗体産生性やアルブミン産生性、薬物代謝酵素の活性を示すことが分かった。一方で、比較例4-1~4-4の添加剤は、抗体産生性、アルブミン産生性、ATP活性ともに実施例4-1~4-22の細胞培養培地添加剤に劣る結果となった。
【0092】
本発明の生体適合性ポリマー組成物は、タンパク質と共存させることで、タンパク質の機能を損なうことなく安定保管が可能な、タンパク質安定化剤として使用することができる。
また、ブロッキング剤として使用することで、感度よくウエスタンブロッティングや免疫組織染色、ELISA法、イムノクロマト法などの抗原抗体反応を利用した分析を行うことが可能になる。
更に、細胞培養培地に添加することにより、生理活性物質の生産量を増大させることができ、製造コストや手間を少なくすることができる点でも有用である。例えば、抗体医薬品等のバイオ医薬品の製造に関して、大量供給に大きく貢献することができる。
【要約】
【課題】本発明の目的は、タンパク質安定化能に優れたタンパク質安定化剤、増感効果に優れたブロッキング剤、並びに、抗体生産性及び細胞活性に優れた抗体産生細胞を培養能な細胞培養培地添加剤となる、ハンドリング性に優れた生体適合性ポリマー組成物を提供することにある。
【解決手段】アミンオキシド基を有し、かつ重量平均分子量が5,000以上であるビニル系ポリマー(A)及び水を含み、1%水溶液での25℃における表面張力が30~50dyn/cmである、生体適合性ポリマー組成物。
【選択図】なし