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特許7226655エレクトレット繊維シートおよび積層シート、エアフィルター、エレクトレット繊維シートの製造方法
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  • 特許-エレクトレット繊維シートおよび積層シート、エアフィルター、エレクトレット繊維シートの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】エレクトレット繊維シートおよび積層シート、エアフィルター、エレクトレット繊維シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/16 20060101AFI20230214BHJP
   B01D 39/14 20060101ALI20230214BHJP
   B03C 3/28 20060101ALI20230214BHJP
   D04H 3/007 20120101ALI20230214BHJP
   D06M 10/02 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
B01D39/16 A
B01D39/14 E
B03C3/28
B01D39/16 E
D04H3/007
D06M10/02 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022536717
(86)(22)【出願日】2022-05-20
(86)【国際出願番号】 JP2022020937
【審査請求日】2022-09-12
(31)【優先権主張番号】P 2021110485
(32)【優先日】2021-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】林 晋吾
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 智雄
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正士
【審査官】瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-093367(JP,A)
【文献】特開2009-062667(JP,A)
【文献】国際公開第2019/159654(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/022260(WO,A1)
【文献】特開2014-176775(JP,A)
【文献】特開2021-137723(JP,A)
【文献】特開2021-115521(JP,A)
【文献】国際公開第2021/153296(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/00-41/04、46/00-46/90
D04H 3/00-3/16
B03C 3/28
D06M 10/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶核剤を含有するポリオレフィン系樹脂組成物からなるポリオレフィン系樹脂繊維で構成されるエレクトレット繊維シートであって、前記ポリオレフィン系樹脂組成物における結晶核剤の質量割合が、ポリオレフィン系樹脂組成物の合計質量に対し、0.005質量%以上5質量%以下であり、前記ポリオレフィン系樹脂組成物における低結晶性ポリオレフィン樹脂の質量割合が、ポリオレフィン系樹脂組成物の合計質量に対し、0.1質量%以上3質量%以下であり、サイクルDSCにおける降温結晶化温度が110℃以上130℃以下であり、2nd昇温時の融解熱量ΔHmが110J/g以上130J/g以下である、エレクトレット繊維シート。
【請求項2】
前記ポリオレフィン系樹脂繊維の平均単繊維径が0.1μm以上5.0μm以下である、請求項1に記載のエレクトレット繊維シート。
【請求項3】
前記結晶核剤がトリアミノベンゼン誘導体からなる、請求項1に記載のエレクトレット繊維シート。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のエレクトレット繊維シートを少なくとも1層含有してなる、積層シート。
【請求項5】
請求項1~3のいずれかに記載のエレクトレット繊維シートを含む、エアフィルター。
【請求項6】
結晶核剤を含有するポリオレフィン系樹脂組成物からなるポリオレフィン系樹脂繊維で構成される不織布をエレクトレット加工してなる、結晶核剤を含有するポリオレフィン系樹脂組成物からなるポリオレフィン系樹脂繊維で構成されるエレクトレット繊維シートであって、前記ポリオレフィン系樹脂組成物における結晶核剤の質量割合が、ポリオレフィン系樹脂組成物の合計質量に対し、0.005質量%以上5質量%以下であり、サイクルDSCにおける降温結晶化温度が110℃以上130℃以下であり、2nd昇温時の融解熱量ΔHmが110J/g以上130J/g以下であるエレクトレット繊維シートの製造方法であって、前記ポリオレフィン系樹脂組成物中に低結晶性ポリオレフィン樹脂を含ませ、前記低結晶性ポリオレフィン樹脂の質量割合が、前記ポリオレフィン系樹脂組成物の合計質量に対し、0.1質量%以上3質量%以下である、エレクトレット繊維シートの製造方法。
【請求項7】
前記ポリオレフィン系樹脂繊維の平均単繊維径が0.1μm以上5.0μm以下である、請求項6に記載のエレクトレット繊維シートの製造方法。
【請求項8】
前記結晶核剤がトリアミノベンゼン誘導体からなる、請求項6に記載のエレクトレット繊維シートの製造方法。
【請求項9】
前記エレクトレット加工における帯電方法がハイドロチャージ法である、請求項6に記載のエレクトレット繊維シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトレット繊維シートおよび積層シート、エアフィルター、エレクトレット繊維シートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、気体中の花粉や塵等を除去するためにエアフィルターが使用されており、そのエアフィルターの濾材として不織布が多く用いられている。
【0003】
一般に、不織布を用いたフィルターにおいて、捕集効率を高くしつつ、圧力損失を低くすることが困難であることから、不織布をエレクトレット加工してエレクトレット繊維シートとし、物理的作用に加えて静電気的作用を利用することにより、フィルターの構成要素として用いた場合に好適な不織布を得る試みがなされている。
【0004】
例えば、アース電極上に不織布を接触させた状態で、このアース電極と不織布を共に移動させながら、非接触型印加電極で高圧印加を行なって、連続的にエレクトレット繊維シートとするエレクトレット不織布の製造方法が提案されている(特許文献1参照)。その他に、水を繊維に接触させて帯電させる方法として、不織布に対して水の噴流もしくは水滴流を、不織布内部まで水が浸透するのに十分な圧力で噴霧させてエレクトレット繊維シートとし、正極性と負極性の電荷を均一に混在させる方法(特許文献2参照)や、不織布をスリット状のノズル上を通過させ、ノズルで水を吸引することにより繊維シートに水を浸透させて、正極性と負極性の電荷を均一に混在させる方法(特許文献3参照)のような、いわゆるハイドロチャージ法が提案されている。
【0005】
また、これらとは別に、不織布を構成する繊維の高分子重合体に対してヒンダードアミン系、含窒素ヒンダードフェノール系、金属塩ヒンダードフェノール系あるいはフェノール系の安定剤から選ばれた少なくとも1種の安定剤を配合し、かつ100℃以上の温度における熱刺激脱分極電流からのトラップ電荷量が2.0×10-10クーロン/cm以上であるという耐熱性エレクトレット材料が提案されている(特許文献4参照)。
【0006】
さらに、熱可塑性樹脂に対して芳香族トリアミド化合物を0.005~0.5wt%、ヒドロキシフェニルアルキルホスホン酸エステルまたはモノエステルおよびヒンダードアミン光安定剤からなる群から選択される添加剤を含有させることで、熱安定性と電荷安定性を備えたエレクトレット材料が提案されている(特許文献5参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭61-289177号公報
【文献】米国特許第6119691号明細書
【文献】特開2003-3367号公報
【文献】特開昭63-280408号公報
【文献】米国特許第8415416号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の特許文献1~5に記載された提案のように、不織布をエレクトレット繊維シートとすることによって、捕集性能はある程度向上させることはできるものの、例えばエアフィルターとして使用する際においては、さらなる捕集性能の向上が求められている。また、安定剤を加えることで、熱安定性(高温下での帯電安定性)はある程度向上させることはできるものの、さらなる熱安定性の向上が求められている。
【0009】
そこで本発明の課題は、上記のような問題点に着目し、従来のエレクトレット技術の課題に鑑み、より高い捕集性能と高い熱安定性を有するエレクトレット繊維シートならびにこれを含む積層シート、エアフィルターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、ポリオレフィン系樹脂からなる繊維中に結晶核剤を含有させ、かつ、サイクルDSC(示差走査熱量計)における降温結晶化温度と2nd昇温時の融解熱量ΔHmを特定の範囲とすることで、ポリオレフィン系樹脂繊維からなるエレクトレット繊維シートの強度を保持したまま、結晶化度を向上させることができることを見出した。さらに、エレクトレット繊維シートの結晶化度を向上させることで、エレクトレット繊維シートの帯電特性を向上させ、エアフィルターとして使用した際の捕集性能を向上できるだけでなく、さらに高温下での帯電安定性にも優れるという知見を得た。
【0011】
本発明は、これら知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1] 結晶核剤を含有するポリオレフィン系樹脂組成物からなるポリオレフィン系樹脂繊維で構成されるエレクトレット繊維シートであって、前記ポリオレフィン系樹脂組成物における結晶核剤の質量割合が、ポリオレフィン系樹脂組成物の合計質量に対し、0.005質量%以上5質量%以下であり、サイクルDSCにおける降温結晶化温度が110℃以上130℃以下であり、2nd昇温時の融解熱量ΔHmが110J/g以上130J/g以下である、エレクトレット繊維シート。
[2] 前記ポリオレフィン系樹脂繊維の平均単繊維径が0.1μm以上5.0μm以下である、前記[1]に記載のエレクトレット繊維シート。
[3] 前記結晶核剤がトリアミノベンゼン誘導体からなる、前記[1]または[2]に記載のエレクトレット繊維シート。
[4] 前記[1]~[3]のいずれかに記載のエレクトレット繊維シートを少なくとも1層含有してなる、積層シート。
[5] 前記[1]~[3]のいずれかに記載のエレクトレット繊維シートを含む、エアフィルター。
[6] 結晶核剤を含有するポリオレフィン系樹脂組成物からなるポリオレフィン系樹脂繊維で構成される不織布をエレクトレット加工してなる、前記[1]~[3]のいずれかに記載のエレクトレット繊維シートの製造方法であって、前記ポリオレフィン系樹脂組成物中に低結晶性ポリオレフィン樹脂を含ませる、エレクトレット繊維シートの製造方法。
[7] 前記結晶核剤がトリアミノベンゼン誘導体からなる、前記[6]に記載のエレクトレット繊維シートの製造方法。
[8] 前記低結晶性ポリオレフィン樹脂の質量割合が、前記ポリオレフィン系樹脂組成物の合計質量に対し、0.1質量%以上3質量%以下である、前記[6]または[7]に記載のエレクトレット繊維シートの製造方法。
[9] 前記エレクトレット加工における帯電方法がハイドロチャージ法である、前記[6]~[8]のいずれかに記載のエレクトレット繊維シートの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ポリオレフィン系樹脂からなる繊維中に結晶核剤を規定量含有させ、かつ、サイクルDSCにおける降温結晶化温度と2nd昇温時の融解熱量ΔHmを特定の範囲とするエレクトレット繊維シートとすることで、これまでにない高い捕集性能と高い熱安定性を有するエレクトレット繊維シート、および積層シート、エアフィルターを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、捕集効率および圧力損失を測定する装置を例示する概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(エレクトレット繊維シート)
本発明は結晶核剤を含有するポリオレフィン系樹脂組成物からなるポリオレフィン系樹脂繊維で構成されるエレクトレット繊維シートであって、前記ポリオレフィン系樹脂組成物における結晶核剤の質量割合が、ポリオレフィン系樹脂組成物の合計質量に対し、0.005質量%以上5質量%以下であり、サイクルDSCにおける降温結晶化温度が110℃以上130℃以下であり、2nd昇温時の融解熱量ΔHmが110J/g以上130J/g以下であることを特徴とするエレクトレット繊維シートである。
【0015】
以下に、その構成要素について詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する範囲に何ら限定されるものではない。
【0016】
まず、本発明のエレクトレット繊維シートは、結晶核剤を含有するポリオレフィン系樹脂組成物からなるポリオレフィン系樹脂繊維で構成される。体積抵抗率が高く、吸水性が低いポリオレフィン系樹脂組成物からなる繊維を、エレクトレット繊維シートを構成する繊維として用いることで、繊維シートをエレクトレット加工した際の帯電性および電荷保持性を強くすることができ、これらの効果によって高い捕集効率を達成することができる。
【0017】
本発明において、ポリオレフィン系樹脂組成物としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンおよびポリメチルペンテン等のホモポリマーなどが挙げられる。また、これらのホモポリマーに異なる成分を共重合したコポリマーや、異なる2種以上のポリマーブレンド品等の樹脂を用いることもできる。これらの中でも、帯電保持性の観点から、ポリプロピレン系樹脂およびポリメチルペンテン系樹脂が好ましく用いられる。特に、安価に利用できること、繊維径を容易に細くできることから、ポリプロピレン系樹脂が好ましく用いられる。なお、本発明において、「ポリプロピレン系樹脂」あるいは「ポリエチレン系樹脂」などと称する樹脂とは、ポリプロピレン(あるいは、ポリエチレン)のホモポリマー、他成分との共重合体(コポリマー)および異種樹脂とのポリマーブレンドなどの樹脂のうち、ポリプロピレンホモポリマー(ポリエチレンホモポリマー)およびプロピレン単位(エチレン単位)が80質量%以上含有する樹脂のことを指す。他のポリオレフィン系樹脂についても同様である。
【0018】
本発明におけるポリオレフィン系樹脂組成物は、JIS K7210-1:2014「プラスチック-熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の求め方-第1部:標準的試験方法」の「8 A法:質量測定法」に基づいて、温度230℃、荷重2.16kg、測定時間10分の条件下で測定したメルトフローレート(MFR)が50g/10分以上2500g/10分以下であることが好ましい。ポリオレフィン系樹脂組成物のメルトフローレートを好ましくは50g/10分以上、より好ましくは150g/10分以上とすることで、エレクトレット繊維シートを構成する繊維の繊維径を容易に細くできる。一方、ポリオレフィン樹脂系樹脂組成物のメルトフローレートを好ましくは2500g/10分以下、より好ましくは2000g/10分以下とすることで、繊維シートの強度を向上させることができる。
【0019】
発明のポリオレフィン系樹脂組成物には結晶核剤を含有する。結晶核剤を含有することにより、ポリオレフィン系樹脂組成物の降温結晶化温度が上昇し、紡糸された繊維の固化が早く進むことによって繊維同士の融着が減少し、エレクトレット繊維シートの通気性が向上する。さらに結晶核剤を含有することにより、エレクトレット繊維シートの融解熱量ΔHmが上昇し、結晶化度が向上する。結晶化度が向上することで、帯電特性を向上させ、エアフィルターとして使用した際の捕集性能を向上できるだけでなく、さらに高温下での帯電安定性に優れるエレクトレット繊維シートを得ることができる。
【0020】
結晶核剤としては、例えば、ソルビトール系核剤、ノニトール系核剤、キリシトール系核剤、リン酸系核剤、トリアミノベンゼン誘導体核剤、およびカルボン酸金属塩核剤などが挙げられる。
【0021】
ソルビトール系核剤には、ジベンジリデンソルビトール(DBS)、モノメチルジベンジリデンソルビトール(例えば、1,3:2,4-ビス(p-メチルベンジリデン)ソルビトール(p-MDBS))、ジメチルジベンジリデンソルビトール(例えば、1,3:2,4-ビス(3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトール(3,4-DMDBS))などが含まれ、“Millad”(登録商標) 3988(ミリケン・ジャパン株式会社製)、および“ゲルオール”(登録商標)E-200(新日本理化株式会社製)などが挙げられる。
【0022】
ノニトール系核剤には、例えば、1,2,3-トリデオキシ-4,6:5,7-ビス-[(4-プロピルフェニル)メチレン]-ノニトールなどが含まれ、“Millad”(登録商標)NX8000(ミリケン・ジャパン株式会社製)などが挙げられる。
【0023】
キシリトール系核剤には、例えば、ビス-1,3:2,4-(5’,6’,7’,8’-テトラヒドロ-2-ナフトアルデヒドベンジリデン)1-アリルキシリトールなどが含まれる。また、リン酸系核剤には、例えば、アルミニウム-ビス(4,4’,6,6’-テトラ-tert-ブチル-2,2’-メチレンジフェニル-ホスファート)-ヒドロキシドなどが含まれ、“アデカスタブ”(登録商標)NA-11(株式会社ADEKA製)や、“アデカスタブ”(登録商標)NA-21(株式会社ADEKA製)などが挙げられる。
【0024】
トリアミノベンゼン誘導体核剤には、例えば、1,3,5-トリス(2,2-ジメチルプロパンアミノ)ベンゼンなどが含まれ、“Irgaclear”(登録商標)XT386”(BASFジャパン株式会社製)などが挙げられる。さらに、カルボン酸金属塩核剤には、例えば、安息香酸ナトリウムや、1,2-シクロヘキサンジカルボキシル酸カルシウム塩などが含まれる。
【0025】
これらの中でも後述する低結晶性ポリオレフィン樹脂と併せて用いた場合のエレクトレット繊維シートの捕集性能向上効果や、高温下での帯電安定性に優れるという観点から、結晶核剤としては、トリアミノベンゼン誘導体核剤が好ましい。
【0026】
本発明のポリオレフィン系樹脂組成物に含まれる結晶核剤は、ポリオレフィン樹脂組成物の合計質量に対して0.005質量%以上5質量%以下含有する。さらに好ましくは0.01質量%以上0.5質量%以下である。結晶核剤の含有量を上記の範囲とすることで、エレクトレット繊維シートの通気性と帯電特性をより向上させることができる。結晶核剤の含有量が0.005質量%未満では、降温結晶化温度と融解熱量の上昇が小さく、通気性と捕集性能向上効果が低下する。5質量%を越えると融解熱量はさらに上昇させることができるものの、降温結晶化温度が大きく上昇してしまうため、繊維同士の融着が大きく減少し、エレクトレット繊維シートの強度が大きく低下する。
【0027】
さらに、ここでいう結晶核剤の含有量は、例えば、次のようにして求めることができる。不織布をメタノール/クロロホルム混合溶液でソックスレー抽出後、その抽出物についてHPLC分取を繰り返し、各分取物についてIR測定、GC測定、GC/MS測定、MALDI-MS測定、H-NMR測定、および13C-NMR測定で構造を確認する。該結晶核剤の含まれる分取物の質量を合計し、不織布全体に対する割合を求め、これを結晶核剤の含有量とする。
【0028】
本発明のポリオレフィン系樹脂組成物は、上記の結晶核剤の他に、エレクトレット繊維シートのエレクトレット性能をより良好にするという観点から、ヒンダードアミン系添加剤または/およびトリアジン系添加剤を少なくとも1種類含有させることができる。
【0029】
ヒンダードアミン系化合物としては、例えば、ポリ[(6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)イミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)((2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ)ヘキサメチレン((2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ)](BASF・ジャパン株式会社製、“キマソーブ”(登録商標)944LD)、コハク酸ジメチル-1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン重縮合物(BASFジャパン株式会社製、“チヌビン”(登録商標)622LD)、および2-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2-n-ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)(BASFジャパン株式会社製、“チヌビン”(登録商標)144)などが挙げられる。
【0030】
また、トリアジン系添加剤としては、例えば、ポリ[(6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)イミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)((2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ)ヘキサメチレン((2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ)](BASFジャパン株式会社製、“キマソーブ”(登録商標)944LD)、および2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-((ヘキシル)オキシ)-フェノール(BASFジャパン株式会社製、“チヌビン”(登録商標)1577FF)などを挙げることができる。
【0031】
上記のヒンダードアミン系添加剤および/またはトリアジン系添加剤の添加量は、ポリオレフィン系樹脂組成物の合計質量に対して、好ましくは0.5質量%以上5質量%以下であり、より好ましくは0.7質量%以上3質量%以下である。添加量をこの範囲とすることにより、塵埃捕集特性に優れるエレクトレット繊維シートが得られやすくなる。
【0032】
ヒンダードアミン系添加剤および/またはトリアジン系添加剤の含有量は、例えば、次のようにして求めることができる。すなわち、繊維シートをメタノール/クロロホルム混合溶液でソックスレー抽出後、その抽出物についてHPLC分取を繰り返し、各分取物についてIR測定、GC測定、GC/MS測定、MALDI-MS測定、H-NMR測定、および13C-NMR測定で構造を確認する。該添加剤の含まれる分取物の質量を合計し、繊維シート全体に対する割合を求め、これをヒンダードアミン系添加剤および/またはトリアジン系添加剤の含有量とする。
【0033】
本発明に用いられるポリオレフィン系樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない限り、ポリオレフィン系樹脂繊維中に熱安定剤、耐候剤および重合禁止剤等の添加剤を添加することができる。
【0034】
本発明のエレクトレット繊維シートに用いられるポリオレフィン系樹脂繊維は、前記のポリオレフィン系樹脂組成物からなる複合繊維であってもよく、例えば、芯鞘型、偏心芯鞘型、サイドバイサイド型、分割型、海島型、アロイ型などの複合繊維の形態をとってもよい。
【0035】
また、ポリオレフィン系樹脂繊維はその平均単繊維径が0.1μm以上5.0μm以下であることが好ましい。平均単繊維径を好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.3μm以上、さらに好ましくは0.5μm以上とすることで、繊維シートの強度を向上させることができる。一方、5.0μm以下、より好ましくは4.0μm以下、さらに好ましくは3.0μm以下とすることで、エレクトレット繊維シートの捕集効率を向上させることができる。
【0036】
なお、本発明におけるエレクトレット繊維シートに用いられるポリオレフィン系樹脂繊維の平均単繊維径は、繊維シートの幅方向3点(側端部2点と中央1点)、それを長手方向5cmおきに5点、合計15点から、3mm×3mmの測定サンプルを15個採取し、走査型電子顕微鏡(例えば、株式会社キーエンス社製「VHX-D500」など)で倍率を3000倍に調節して、採取した測定サンプルから繊維表面写真を各1枚ずつ、計15枚を撮影した。写真の中の繊維直径(単繊維径)がはっきり確認できる繊維について単繊維径を測定し、平均した値の小数点以下第2位を四捨五入して得られる値のことを指すこととする。
【0037】
本発明のエレクトレット繊維シートは、その目付が3g/m以上100g/m以下であることが好ましい。エレクトレット繊維シートの目付を3g/m以上、より好ましくは5g/m以上、さらに好ましくは10g/m以上とすることにより、エレクトレット繊維シートの捕集効率を向上させることができる。一方、100g/m以下、より好ましくは、70g/m以下、さらに好ましくは50g/m以下とすることにより、エレクトレット繊維シートをエアフィルターユニットとしてプリーツ成型を施した際のプリーツ山の潰れを抑制することができる。
【0038】
なお、本発明におけるエレクトレット繊維シートの目付は、エレクトレット繊維シートから、タテ×ヨコ=15cm×15cmのサンプルを採取し、そのサンプルの質量を測定して得られた値を1m当たりの値に換算し、小数点以下第1位を四捨五入して、繊維シートの目付(g/m)を算出することとする。
【0039】
本発明のエレクトレット繊維シートは、サイクルDSCによって測定される降温結晶化温度が110℃以上130℃以下である。降温結晶化温度を上記の範囲とすることで、紡糸された繊維の固化が早く進むことによって繊維同士の融着が減少し、エレクトレット繊維シートの通気性が向上する。降温結晶化温度が110℃未満の場合は、通気性の向上効果が低下する。130℃を越えると繊維同士の融着が大きく減少し、エレクトレット繊維シートの強度が大きく低下し、工程通過性などエレクトレット繊維シートの取り扱いに問題が発生する。
【0040】
本発明のエレクトレット繊維シートは、サイクルDSCによって測定される2回目の昇温時(2nd昇温)の融解熱量ΔHmが110J/g以上130J/g以下である。2nd昇温の融解熱量ΔHmを110J/g以上とすることにより、エレクトレット繊維シートの結晶化度を上昇させ、捕集性能および高温下での帯電安定性を向上させることができる。一方、130J/gを越えるとエレクトレット繊維シートが脆くなり、工程通過性などエレクトレット繊維シートの取り扱いに問題が発生する。
【0041】
なお、このサイクルDSCによって測定される1回目の昇温時(1st昇温時)の融解熱量ではなく、2nd昇温時の融解熱量ΔHmを評価するのは、繊維シートを得る際の製造条件に大きく影響されることなく、ポリオレフィン系樹脂組成物の組成の影響によるエレクトレット繊維シートの結晶化度をより正確に評価することができるためである。
【0042】
なお、本発明のエレクトレット繊維シートの降温結晶化温度(℃)と2nd昇温のΔHm融解熱量(J/g)は以下のように測定することができる。示差走査熱量計(TA Instruments社製Q100)を用いて、下記の条件で1st昇温(1回目の昇温)→降温(冷却)→2nd昇温(2回目の昇温)を行い、降温過程における発熱ピーク頂点温度をエレクトレット繊維シートの降温結晶化温度、2nd昇温時の融解吸熱カーブから算出される融解熱量を2nd昇温のΔHm融解熱量(J/g)とすることができる。
・測定雰囲気:窒素流(50ml/分)
・温度範囲:-50~230℃
・昇温速度:10℃/分
・降温速度:10℃/分
・試料量:5mg。
【0043】
本発明のエレクトレット繊維シートは、上記の構成を取ることによって、高い捕集効率と低い圧力損失とを両立する。これらの捕集性能の指標として、QF値(Pa-1)がある。QF値は、以下の式で表されるように、捕集効率と圧力損失との関係を示し、QF値が高い程、捕集効率が高く、圧力損失が低いことを示している。
QF値(Pa-1)=-[ln(1-(捕集効率(%))/100)]/(圧力損失(Pa))。
【0044】
ここで、本発明におけるエレクトレット繊維シートの捕集効率と圧力損失の測定方法は以下の手順で測定し、算出される値である。
(1)繊維シートの幅方向5カ所で、タテ×ヨコ=15cm×15cmの測定サンプルMをそれぞれ1つずつ(計5つ)採取する。
(2)図1の概略側面図に示す捕集効率測定装置を準備する。この捕集効率測定装置は、測定サンプルMをセットするサンプルホルダー1の上流側に、ダスト収納箱2を連結し、下流側に流量計3、流量調整バルブ4およびブロワ5を連結している。また、サンプルホルダー1にパーティクルカウンター6を使用し、切替コック7を介して、測定サンプルMの上流側のダスト個数と下流側のダスト個数とをそれぞれ測定することができるものである。
(3)ポリスチレン粒子の10%水溶液(例えば、ThermoScientific社製「OptiBind、品番:9100079710290」)を蒸留水で200倍まで希釈し、ダスト収納箱2に充填する。
(4)測定サンプルMを、サンプルホルダー1にセットし、風量をフィルター通過速度が4.5m/分になるように、流量調整バルブ4で調整し、ダスト濃度を1万~4万個/2.83×10-4(0.01ft)の範囲で安定させる。
(5)測定サンプルMの上流のダスト個数Dおよび下流のダスト個数dをパーティクルカウンター6(例えば、リオン株式会社製「KC-01D」など)で1個の測定サンプル当り3回測定し、JIS K0901:1991の「気体中のダスト試料捕集用ろ過材の形状、寸法並びに性能試験方法」に基づいて、下記の計算式を用いて、0.3~0.5μm粒子の捕集効率(%)を求める。
捕集効率(%)=〔1-(d/D)〕×100
(ただし、dは下流ダストの3回測定トータル個数を表し、Dは上流のダストの3回測定トータル個数を表す。)
(6)併せて、測定サンプルMの上流と下流の静圧差を圧力計8で読み取り、測定サンプルMの圧力損失(Pa)を求める。
(7)5つの測定サンプルMについての捕集効率(%)の平均値を算出し、小数点第4位を四捨五入して得られる値をそのエレクトレット繊維シートの捕集効率(%)とする。
(8)5つの測定サンプルMについての圧力損失(Pa)の平均値を算出し、小数点第2位を四捨五入して得られる値をそのエレクトレット繊維シートの圧力損失(Pa)とする。
【0045】
(エレクトレット繊維シートの製造方法)
続いて、本発明のエレクトレット繊維シートの製造方法を説明する。
【0046】
本発明のエレクトレット繊維シートの製造方法の好ましい態様は、結晶核剤を含有するポリオレフィン系樹脂組成物からなるポリオレフィン系樹脂繊維で構成される不織布をエレクトレット加工してなる、エレクトレット繊維シートの製造方法であって、前記ポリオレフィン系樹脂組成物中に低結晶性ポリオレフィン樹脂を含ませることを特徴とする。
【0047】
(1) ポリオレフィン系樹脂組成物の調製
本発明のエレクトレット繊維シートは結晶核剤を規定量含有するものであり、結晶核剤を低結晶性ポリオレフィン樹脂と併せて用いた場合にエレクトレット繊維シートの捕集性能向上効果や、高温下での帯電安定性を奏する。
【0048】
本発明のエレクトレット繊維シートを構成するポリオレフィン系樹脂組成物の調製は、高結晶性ポリオレフィン樹脂、低結晶性ポリオレフィン樹脂、および結晶核剤を一度に混合する方法や、高結晶性ポリオレフィン樹脂と後述するポリオレフィン系樹脂組成物A(結晶核剤を含む)とを混合する方法などを用いることができる。
【0049】
例えば、高結晶性ポリオレフィン樹脂、低結晶性ポリオレフィン樹脂、および結晶核剤を一度に混合する方法では、ポリオレフィン系樹脂組成物における低結晶性ポリオレフィン樹脂の質量割合は、ポリオレフィン系樹脂組成物の合計質量に対し、好ましくは0.1質量%以上3質量%以下、結晶核剤の質量割合は、ポリオレフィン系樹脂組成物の合計質量に対し0.005質量%以上5質量%以下となるように、高結晶性ポリオレフィン樹脂、低結晶性ポリオレフィン樹脂および結晶核剤の混合物を、二軸押出機などを使用して押し出す方法がある。
【0050】
一方、高結晶性ポリオレフィン樹脂と後述するポリオレフィン系樹脂組成物Aとを混合する方法においては、例えば、マスターバッチを用いてチップブレンドを作成した後に押し出す方法がある。これは、規定量の高結晶性ポリオレフィン樹脂、低結晶性ポリオレフィン樹脂の混合物に結晶核剤を練り込んでなるポリオレフィン系樹脂組成物Aのマスターバッチを準備し、これに高結晶性ポリオレフィン樹脂をチップブレンドしてポリオレフィン系樹脂組成物の合計質量に対し、好ましくは低結晶性ポリオレフィン樹脂が0.1質量%以上3質量%以下、結晶核剤が0.005質量%以上5質量%以下となるようにし、押出機内で練り込んでポリオレフィン系樹脂組成物を調製する方法である。
【0051】
ポリオレフィン系樹脂組成物は、前記のように、高結晶性ポリオレフィン樹脂と低結晶性ポリオレフィン樹脂とを含有する。本発明において、低結晶性ポリオレフィン樹脂とは、メソペンタッド分率(mmmm)が60モル%以下、より好ましくは30モル%以上60モル%以下を示すものであり、高結晶性ポリオレフィン樹脂は融点が155℃以上の汎用ポリオレフィンを示す。
【0052】
本発明のポリオレフィン系樹脂組成物における低結晶性ポリオレフィン樹脂の質量割合は、例えば後述するメルトフローレート(MFR)等、低結晶性ポリオレフィン樹脂の諸特性にも依るが、ポリオレフィン系樹脂組成物の合計質量に対し、0.1質量%以上3質量%以下含有することが好ましい。本発明のポリオレフィン系樹脂組成物における低結晶性ポリオレフィン樹脂の質量割合を、好ましくは0.1質量%以上3質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上2質量%以下とすることで、エレクトレット繊維シートの融解熱量ΔHmが上昇し、結晶化度が向上する。そして、結晶化度が向上することで、帯電特性を向上させ、エアフィルターとして使用した際の捕集性能を向上できるだけでなく、さらに高温下での帯電安定性に優れるエレクトレット繊維シートを得ることができる。
【0053】
一方、低結晶性ポリオレフィン樹脂の質量割合が0.1質量%未満では、融解熱量ΔHmの上昇効果が小さい場合があり、捕集性能および高温下での帯電安定性の向上効果が小さくなる場合がある。また、低結晶性ポリオレフィン樹脂の質量割合が3質量%を越えると、逆に融解熱量ΔHmが低下する場合があり、捕集性能および高温下での帯電安定性が低下する場合がある。
【0054】
本発明のポリオレフィン樹脂組成物における高結晶性ポリオレフィン樹脂と低結晶性ポリオレフィン樹脂の質量比は、エレクトレット繊維シートから分析可能である。例えばエレクトレット繊維シートを溶媒に溶解させ、得られた抽出液の13C-NMR測定を行い、メソペンタッド分率から判断する方法が挙げられる。また、示差走査熱量計(DSC)にて測定し、得られた融解熱量ピークの熱量差から算出する方法が挙げられる。
【0055】
また、本発明において、低結晶性ポリオレフィン樹脂は、前記のメソペンタッド分率の条件を満たす限り特に限定されないが、さらに、JIS K7210-1:2014「プラスチック-熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の求め方-第1部:標準的試験方法」の「8 A法:質量測定法」に基づいて、温度230℃、荷重2.16kg、測定時間10分の条件下で測定したメルトフローレート(MFR)が300g/10分以上3000g/10分以下である低結晶性ポリオレフィン樹脂が好ましい。このような低結晶性ポリオレフィン樹脂は、例えば、出光興産株式会社製 低結晶性ポリプロピレン“L-MODU”(登録商標)S400、S600などがある。
【0056】
(2) 繊維シートの形成
続いて、得られたポリオレフィン系樹脂組成物から繊維シートを形成する。繊維シートの製造方法は特定の方法に限定されず、メルトブロー法、スパンボンド法、エレクトロスピニング法などがあるが、これらの中でも、複雑な工程を必要とせず、エレクトレット繊維シートの強度と捕集効率の向上に好適な、平均単繊維径が0.1μm以上5.0μm以下のポリオレフィン系樹脂繊維を容易に紡糸・製造することができるという観点から、メルトブロー法を用いることが好ましい。
【0057】
メルトブロー法は、所定の孔径を有するメルトブロー用ノズルからポリオレフィン系樹脂組成物を吐出させながら、糸条を形成し、その吐出部に対して一定の角度から熱風を噴射することで糸条をより細いものとし、その糸条を捕集部に体積させることで繊維シートを形成する方法である。
【0058】
(3) エレクトレット加工
さらに、得られた繊維シートをエレクトレット加工する。本発明に係る繊維シートをエレクトレット化する方法としては、例えば、アース電極上に繊維シートを接触させた状態で、このアース電極と繊維シートを共に移動させながら、非接触型印加電極で高圧印加を行なって連続的にエレクトレット化する方法、繊維シートに対して水の噴流もしくは水滴流を繊維シートの内部まで水が浸透するのに十分な圧力で噴霧させてエレクトレット化し、正極性と負極性の電荷を均一に混在させる方法、あるいは、繊維シートをスリット状のノズル上を通過させ、ノズルで水を吸引することにより繊維シートに水を浸透させて、正極性と負極性の電荷を均一に混在させる方法(ハイドロチャージ法)などを用いることができる。これらの方法のうち、エレクトレット化した際の捕集性能および高温下での帯電安定性に優れるという観点から、ハイドロチャージ法を用いることが好ましい。
【0059】
(積層シート、エアフィルター)
本発明のエレクトレット繊維シートは、上記のような特性を有することから、これを少なくとも1層含有してなる、エアフィルターとして好適に用いることができる。そして、本発明のエレクトレット繊維シートあるいは積層シートを含むエアフィルター濾材は、特に前記の高い捕集効率であることを活かすことができるため、好ましい態様の1つである。
【0060】
本発明のエレクトレット繊維シートから、エアフィルター濾材を得る方法としては、エレクトレット繊維シートと、それよりも剛性の高い骨材シートとを、スプレー法で湿気硬化型ウレタン樹脂などを散布して貼り合わせる方法や、熱可塑性樹脂、熱融着繊維を散布し熱路を通して貼り合わせる方法などを用いることができる。
【0061】
この骨材シートは、比較的大きいダストを捕集するとともに、エレクトレット繊維シートに接合されて濾材として必要な剛性を得られるようにするためのものである。骨材シートとしては、例えば、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、レーヨン繊維、ガラス繊維および天然パルプ等からなる不織布、織編物等を用いることができる。
【0062】
前記のフィルター濾材は、シート状のまま枠材に組み込んでフィルターユニットとして使用することができる。また、このフィルター濾材を山折と谷折を繰り返してプリーツ加工を施して、枠材にセットしたプリーツ状のフィルターユニットとして使用することもできる。
【0063】
以上の理由から、本発明のエアフィルターは、前記のエレクトレット繊維シートを含むことが好ましい。より好ましくは、このエアフィルターが空調用フィルター、空気清浄機用フィルター、あるいは自動車キャビンフィルターであることである。すなわち、本発明のエレクトレット繊維シートは、これら高性能用途のエアフィルターに好適に用いることができる。
【実施例
【0064】
次に、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各物性の測定において、特段の記載がないものは、前記の方法に基づいて測定を行ったものである。
【0065】
[測定方法]
(1)ポリオレフィン樹脂の融点:
DSC(使用装置:TA Instruments社製Q100)にて測定した。-50℃から10℃/分で昇温しながらDSC曲線を得て、吸熱ピークの現れる温度とした。
【0066】
(2)エレクトレット繊維シートの目付:
上記の方法によって測定を行った。
【0067】
(3)ポリオレフィン系樹脂繊維の平均単繊維径:
走査型電子顕微鏡として、株式会社キーエンス社製「VHX-D500」を用い、測定した。
【0068】
(4)エレクトレット繊維シートの降温結晶化温度:
サイクルDSC(使用装置:TA Instruments社製Q100)にて測定した。
【0069】
(5)エレクトレット繊維シートの2nd昇温のΔHm融解熱量:
サイクルDSC(使用装置:TA Instruments社製Q100)を用い、測定した。
【0070】
(6)エレクトレット繊維シートの捕集効率、圧力損失、QF値:
ポリスチレン粒子の10%水溶液は、ThermoScientific社製「OptiBind、品番:9100079710290」を用いた。また、捕集効率測定装置のパーティクルカウンターには、リオン株式会社製「KC-01D」を用いた。
【0071】
(7)熱処理前後の捕集効率変化率(高温下における帯電安定性の評価):
エレクトレット繊維シートをタテ×ヨコ=15cm×15cmにカットし、それぞれのサンプルについて、130℃に設定した熱風乾燥機(エスペック株式会社「TABAI PHH-100」)の中に吊り下げた状態で5分間熱処理した。熱処理したサンプルの捕集効率を前記(4)の方法によって測定し、5個の測定サンプルの平均値を下記の計算式を用いて、熱処理前後の捕集効率変化率を計算した。
捕集効率変化率(%)=(熱処理後の捕集効率-熱処理前の捕集効率)/熱処理前の捕集効率×100。
【0072】
[ポリオレフィン系樹脂組成物]
実施例1~3および比較例1~4において、ポリオレフィン系樹脂組成物の原料として使用した樹脂および化合物は以下の通りである。
・高結晶性ポリオレフィン樹脂:ポリプロピレン(MFR:1100g/10分)
・低結晶性ポリオレフィン樹脂A:出光興産株式会社製、“L-MODU”(登録商標) S600(MFR:390g/10分)
・低結晶性ポリオレフィン樹脂B:出光興産株式会社製、“L-MODU”(登録商標) S400(MFR:2600g/10分)
・結晶核剤:BASFジャパン株式会社製、“Irgaclear”(登録商標)XT386(表1~2では、「IrgaclearXT386」と記載した)
・ヒンダードアミン系化合物:BASFジャパン株式会社製、“キマソーブ”(登録商標)944LD(表1~2では、「chimassorb944」と記載した)。
【0073】
[実施例1]
ポリオレフィン系樹脂組成物の合計重量に対して、高結晶性ポリオレフィン樹脂を97.97質量%、結晶核剤を0.03質量%、低結晶性ポリオレフィン樹脂Aを1質量%、ヒンダードアミン系化合物を1質量%となるように混合して、チップブレンドを得た。次いで、このチップブレンドを押出機の原料ホッパーに投入し、押出機で溶融、混練しながらギアポンプへ供給した。ギアポンプで計量したポリオレフィン系樹脂組成物を、直径が0.4mmの吐出孔が一直線上に配置した口金を用いて、メルトブロー法により、吐出量が23.6g/分、ノズル温度が260℃、エア圧力が0.07MPaの条件で噴射し、捕集コンベア速度を調整することによって、目付が20g/mの繊維シートを得た。続いて、得られた繊維シートをスリット状のノズル上を通過させ、ノズルで水を吸引することにより繊維シートに水を浸透させてエレクトレット加工を施しエレクトレット繊維シートを得た。得られたエレクトレット繊維シートについて、表1に示す。
【0074】
[実施例2]
ポリオレフィン系樹脂組成物の合計重量に対して、高結晶性ポリオレフィン樹脂を95.97質量%、結晶核剤を0.03質量%、低結晶性ポリオレフィン樹脂Aを3質量%、ヒンダードアミン系化合物を1質量%となるように混合した以外は、実施例1と同様の方法によりエレクトレット繊維シートを得た。得られたエレクトレット繊維シートについて、表1に示す。
【0075】
[実施例3]
ポリオレフィン系樹脂組成物の合計重量に対して、高結晶性ポリオレフィン樹脂を95.97質量%、結晶核剤を0.03質量%、低結晶性ポリオレフィン樹脂Bを3質量%、ヒンダードアミン系化合物を1質量%となるように混合した以外は、実施例1と同様の方法によりエレクトレット繊維シートを得た。得られたエレクトレット繊維シートについて、表1に示す。
【0076】
[比較例1]
ポリオレフィン系樹脂組成物の合計重量に対して、高結晶性ポリオレフィン樹脂を99質量%、ヒンダードアミン系化合物を1質量%となるように混合した以外は、実施例1と同様の方法によりエレクトレット繊維シートを得た。得られたエレクトレット繊維シートについて、表2に示す。
【0077】
[比較例2]
ポリオレフィン系樹脂組成物の合計重量に対して、高結晶性ポリオレフィン樹脂を97.999質量%、結晶核剤を0.001質量%、低結晶性ポリオレフィン樹脂Aを1質量%、ヒンダードアミン系化合物を1質量%となるように混合した以外は、実施例1と同様の方法によりエレクトレット繊維シートを得た。得られたエレクトレット繊維シートについて、表2に示す。
【0078】
[比較例3]
ポリオレフィン系樹脂組成物の合計重量に対して、高結晶性ポリオレフィン樹脂を90質量%、結晶核剤を6質量%、低結晶性ポリオレフィン樹脂Aを3質量%、ヒンダードアミン系化合物を1質量%となるように混合した以外は、実施例1と同様の方法によりエレクトレット繊維シートを得た。
【0079】
得られたエレクトレット繊維シートについて、表2に示す。
【0080】
[比較例4]
ポリオレフィン系樹脂組成物の合計重量に対して、高結晶性ポリオレフィン樹脂を88.97質量%、結晶核剤を0.03質量%、低結晶性ポリオレフィン樹脂Aを10質量%、ヒンダードアミン系化合物を1質量%となるように混合した以外は、実施例1と同様の方法によりエレクトレット繊維シートを得た。
【0081】
得られたエレクトレット繊維シートについて、表2に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
表1~2から明らかなように、結晶核剤を規定量含有し、サイクルDSCにおける降温結晶化温度と2nd昇温時の融解熱量ΔHmが所定の範囲を満たす、本発明の実施例1~3に記載のエレクトレット繊維シートは低い圧力損失でありながらも高い捕集効率を達成しており、優れた捕集性能を有しており、エレクトレット熱安定性に優れていることが分かる。
【0085】
これに対し、結晶核剤を含有せず、製造時に低結晶性ポリオレフィン樹脂を用いなかった比較例1に記載のエレクトレット繊維シートは、サイクルDSCにおける降温結晶化温度と2nd昇温時の融解熱量ΔHmが所定の範囲を外れ、実施例1~3に記載のエレクトレット繊維シートに対して、捕集効率が低く、エレクトレット熱安定性も劣る結果であった。
【0086】
また、結晶核剤を規定量含有していない比較例2に記載のエレクトレット繊維シートは、サイクルDSCにおける降温結晶化温度と2nd昇温時の融解熱量ΔHmが所定の範囲を外れ、実施例1~3に記載のエレクトレット繊維シートに対して、捕集効率が低く、エレクトレット熱安定性も劣る結果であった。
【0087】
さらに、結晶核剤の含有量が規定量を超える比較例3に記載のエレクトレット繊維シートは、繊維同士の融着が弱く、繊維シートの製造過程で破断してしまい、エレクトレット繊維シートが得られなかった。
【0088】
そして、低結晶性ポリオレフィン樹脂を多く用いた比較例4に記載のエレクトレット繊維シートは、サイクルDSCにおける降温結晶化温度と2nd昇温時の融解熱量ΔHmが所定の範囲を外れ、実施例1~3に記載のエレクトレット繊維シートに対して、捕集効率が低く、エレクトレット熱安定性も劣る結果であった。
【0089】
以上のように本発明によれば、結晶核剤を規定量添加して降温結晶化温度と2nd昇温時の融解熱量を規定の範囲とすることで、これまでにない高い捕集性能を有し、高温下でのエレクトレット熱安定性に優れるエレクトレット繊維シートが得られる。そして、このエレクトレット繊維シートは、フィルター濾材ならびに、エアフィルター全般、中でも空調用フィルター、空気清浄機用フィルター、および自動車キャビンフィルターの高性能用途に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0090】
1:サンプルホルダー
2:ダスト収納箱
3:流量計
4:流量調整バルブ
5:ブロワ
6:パーティクルカウンター
7:切替コック
8:圧力計
M:測定サンプル
【要約】
本発明の目的は、エアフィルター等に好適に用いられる、高い捕集性能と高い熱安定性を有するエレクトレット繊維シートを提供することである。本発明は、結晶核剤を含有するポリオレフィン系樹脂組成物からなるポリオレフィン系樹脂繊維で構成されるエレクトレット繊維シートであって、前記ポリオレフィン系樹脂組成物における結晶核剤の質量割合が、ポリオレフィン系樹脂組成物の合計質量に対し、0.005質量%以上5質量%以下であり、サイクルDSCにおける降温結晶化温度が110℃以上130℃以下であり、2nd昇温時の融解熱量ΔHmが110J/g以上130J/g以下であることを特徴とするエレクトレット繊維シートである。
図1