IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-無方向性電磁鋼板およびその製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】無方向性電磁鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/00 20060101AFI20230214BHJP
   C21D 8/12 20060101ALI20230214BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
C23C22/00 B
C21D8/12 A
H01F1/147 183
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022548549
(86)(22)【出願日】2022-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2022015953
【審査請求日】2022-08-09
(31)【優先権主張番号】P 2021057776
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】藤井 浩康
(72)【発明者】
【氏名】真木 純
(72)【発明者】
【氏名】竹田 和年
(72)【発明者】
【氏名】赤木 陽
(72)【発明者】
【氏名】藤井 裕也
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/054451(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/154139(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00
C21D 8/12
H01F 1/147
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材鋼板と、
前記母材鋼板の表面に形成された、Zn含有リン酸塩と有機樹脂との複合皮膜と、
を備える無方向性電磁鋼板であって、
前記複合皮膜を広角X線回折法で測定した時に、ICDD番号01-074-3256に帰属する回折線を示す結晶性リン酸アルミニウムを含む、
無方向性電磁鋼板。
【請求項2】
複数の前記無方向性電磁鋼板を接触面積9cmで積層し、面圧40kgf/cmで加圧し、温度50℃、湿度90%の雰囲気中に56日間保持した後、室温にて測定される垂直剥離力が1000g以下である、
請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項3】
前記複合皮膜が、さらにMgおよびCaからなる群から選択される一種以上を含む、
請求項1または請求項2に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項4】
前記有機樹脂が、アクリル樹脂、スチレン樹脂、アクリル-スチレン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、およびウレタン樹脂からなる群から選択される一種以上を含む、
請求項1から請求項3までのいずれかに記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項5】
Zn含有リン酸塩と有機樹脂とδ-Alとを含む塗布液を、母材鋼板の表面に塗布する工程と、
前記塗布液を空気比1.8以下の雰囲気中で、最大到達温度が250~450℃の範囲で焼き付け、複合皮膜を形成する工程と、を備える、
無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記塗布液が、さらに、Al、Mg、およびCaからなる群から選択される一種以上を含有する、
請求項5に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記有機樹脂が、アクリル樹脂、スチレン樹脂、アクリル-スチレン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、およびウレタン樹脂からなる群から選択される一種以上である、
請求項5または請求項6に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無方向性電磁鋼板は回転機用鉄芯材料として、鋼板を多数枚積層して構成された、いわゆる積層体の形で使用される。回転機用鉄芯として無方向性電磁鋼板が使用される際、積層した鋼板板面に対し、法線方向に渦電流と呼ばれる電流が誘起されると、回転機としての効率が低下してしまう。そこで、渦電流の発生を防止するために、無方向性電磁鋼板表面には、絶縁性の皮膜が形成されることが一般的である。
【0003】
この絶縁性皮膜は、渦電流発生防止の他に、鉄主体の元素で構成された無方向性電磁鋼板自体を発錆、すなわち、腐食から守る機能も持ち合わせている。そのため、腐食防止作用の強いクロム酸塩系の皮膜を無方向性電磁鋼板の表面に形成することがこれまで一般的であった。
【0004】
しかし近年、環境意識の高まりとともに、クロム酸塩系化合物を使用しない絶縁皮膜が多数提案されてきた。その中で、絶縁皮膜の材料となる塗布液中の金属成分の一つを「Zn」とする技術が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1では、無機物質としてリン酸Al、リン酸Ca、リン酸Znの1種または2種以上を含む皮膜剤を用いることが開示されている。特許文献2では、被膜中の無機化合物として用いるリン酸Al、リン酸Ca、リン酸Znについて、それぞれ、Al/HPOモル比率、CaO/HPOモル比率、ZnO/HPOモル比率を規定することが開示されている。
【0006】
また、特許文献3では、第一リン酸AlとAl、Mg、Ca、Znの有機酸塩とを用いることが開示されている。さらに、特許文献4~6では、Zn成分を含むリン酸金属塩を用いることが開示されている。上述の「Zn」を用いる技術を適用して無方向性電磁鋼板上に絶縁皮膜を形成すれば、ある程度の耐食性を確保することができる。
【0007】
ところで、近年、無方向性電磁鋼板が、東南アジア諸国等の高温多湿な地域に輸送され、現地において加工されるケースが増加している。当該地域へ輸送する際には、大型船舶が使用され、輸送船舶は赤道を通過することもある。そのため、無方向性電磁鋼板は、輸送中および加工工場内の双方において、高温多湿な環境に長期間晒されることになる。
【0008】
加えて、無方向性電磁鋼板は、コイル状に巻き取られ、コイルの軸心方向が水平を向く状態で保管される。そのため、コイルの自重により、無方向性電磁鋼板の皮膜面同士に、大きな面圧が付与されることとなる。
【0009】
そのため、高温多湿環境下において、長期間にわたって皮膜面同士に大きな面圧が付与されることとなると、鋼板間に侵入した水分の影響によって皮膜面同士が癒着する、いわゆるブロッキングの問題が懸念される。
【0010】
皮膜面同士のブロッキング現象を防止する技術として、特許文献7では、表面積の大きな酸化物粉末を皮膜形成用塗布液に混合する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開平07-041913号公報
【文献】特開平07-166365号公報
【文献】特開平11-131250号公報
【文献】特開平11-080971号公報
【文献】特開2001-129455号公報
【文献】特開2002-069657号公報
【文献】国際公開第2009/154139号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献7に記載の発明によれば、過酷な環境下で1週間保管されたとしても優れた耐ブロッキング性を発揮する無方向性電磁鋼板が得られる。しかしながら、特許文献7では重リン酸アルミニウムが採用されており、Zn含有リン酸塩を含む皮膜面同士でのブロッキング現象については十分な検討がなされていない。また、近年、過酷な環境下での2か月に及ぶような長期間の保管においても、皮膜面同士のブロッキング現象を防止することが可能な無方向性電磁鋼板が求められている。
【0013】
本発明は上述の問題点を解決し、クロム酸塩系化合物という環境負荷物質に代わり、亜鉛成分により優れた耐食性を有する皮膜において、皮膜面同士の耐ブロッキング性に優れる無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、以下の無方向性電磁鋼板およびその製造方法を要旨とする。
【0015】
(1)本発明の一実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、母材鋼板と、前記母材鋼板の表面に形成された、Zn含有リン酸塩と有機樹脂との複合皮膜と、を備える無方向性電磁鋼板であって、前記複合皮膜を広角X線回折法で測定した時に、ICDD番号01-074-3256に帰属する回折線を示す結晶性リン酸アルミニウムを含む。
【0016】
(2)上記(1)に記載の無方向性電磁鋼板では、複数の前記無方向性電磁鋼板を接触面積9cmで積層し、面圧40kgf/cmで加圧し、温度50℃、湿度90%の雰囲気中に56日間保持した後、室温にて測定される垂直剥離力が1000g以下である。
【0017】
(3)上記(1)または(2)に記載の無方向性電磁鋼板では、前記複合皮膜が、さらにMgおよびCaからなる群から選択される一種以上を含んでもよい。
【0018】
(4)上記(1)から(3)までのいずれかに記載の無方向性電磁鋼板では、前記有機樹脂が、アクリル樹脂、スチレン樹脂、アクリル-スチレン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、およびウレタン樹脂からなる群から選択される一種以上を含んでもよい。
【0019】
(5)本発明の他の実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法は、Zn含有リン酸塩と有機樹脂とδ-Alとを含む塗布液を、母材鋼板の表面に塗布する工程と、前記塗布液を空気比1.8以下の雰囲気中で、最大到達温度が250~450℃の範囲で焼き付け、複合皮膜を形成する工程と、を備える。
【0020】
(6)上記(5)に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法では、前記塗布液が、さらに、前記Zn含有リン酸塩の金属成分として、Al、Mg、およびCaからなる群から選択される一種以上を含有してもよい。
【0021】
(7)上記(5)または(6)に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法では、前記有機樹脂が、アクリル樹脂、スチレン樹脂、アクリル-スチレン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、およびウレタン樹脂からなる群から選択される一種以上であってもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、クロム酸塩系化合物という環境負荷物質に代わり、亜鉛成分により優れた耐食性を有する皮膜において、皮膜面同士の耐ブロッキング性にも優れる無方向性電磁鋼板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】広角X線回折チャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明者らは、Zn含有リン酸塩を含む皮膜面の耐ブロッキング性を改善する方法について、鋭意検討を行った結果、以下の知見を得るに至った。
【0025】
リン酸塩を含む塗布液を鋼板に焼き付ける際、リン酸は脱水縮合反応を起こしながら網目状のネットワークを形成し、皮膜を形成していく。その際、一部は共存している亜鉛等の金属成分とも結合する。この時、ネットワークを形成せず、金属成分と結合していない、いわゆる、フリーリン酸が生成する。
【0026】
このフリーリン酸は水分との反応性が高いため、高温多湿環境に晒されると、容易に水分と反応し、ブロッキングが生じる要因となる。本発明者らは、特許文献7によって得られた知見に基づいて、Zn含有リン酸塩に比表面積の大きな酸化物粉末を添加することで、フリーリン酸の固定化を試みた。しかし、種々の実験を重ねた結果、比表面積が同等であっても、耐ブロッキング性にバラツキが生じることを知見した。
【0027】
そこで、本発明者らは酸化物の中でも入手が比較的容易なアルミナ(Al)に注目し、耐ブロッキング性のバラツキの原因を調査した。
【0028】
その結果、皮膜形成用塗布液に添加するAlの種類および焼き付け時の雰囲気が耐ブロッキング性に大きく影響していることを見出した。そして、Alの比表面積ではなく、種類を適切に選択することでフリーリン酸を結晶性リン酸アルミニウムとして効率的に固定することができ、加えて、焼き付け雰囲気における空気比を制御することで、優れた耐ブロッキング性を有する無方向性電磁鋼板を安定的に得ることが可能となった。
【0029】
本発明は上記の知見に基づいてなされたものである。以下に本発明の各要件について説明する。
【0030】
1.無方向性電磁鋼板
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、母材鋼板と、母材鋼板の表面に形成された複合皮膜とを備える。一般的に、無方向性電磁鋼板の絶縁皮膜を大別すると、全有機皮膜(皮膜全てが有機物で構成されたもの)、無機皮膜(皮膜全てが無機物で構成されたもの)、および複合皮膜(皮膜が有機物および無機物の組み合わせで構成されたものであり、半有機皮膜とも称される)の3種類がある。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の絶縁皮膜は、複合皮膜である。
【0031】
また、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、優れた耐ブロッキング性を有する。本発明においては、耐ブロッキング性は以下の方法で評価するものとする。まず、複数の無方向性電磁鋼板を接触面積9cmで積層し、面圧40kgf/cmで加圧する。続いて、温度50℃、湿度90%の雰囲気中に56日間(8週間)保持する。
【0032】
上述のように、Zn含有リン酸塩を含む皮膜面同士では、特に2か月に及ぶような長期間の保管においてブロッキング現象が起こりやすくなる。そのため、本発明においては、高温多湿環境下での保持期間を56日間とした。
【0033】
その後、室温にて上記の複数の無方向性電磁鋼板を垂直方向に剥離する際の垂直剥離力を測定する。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板においては、上記の方法で測定される垂直剥離力が1000g以下である。垂直剥離力は800g以下であるのが好ましく、500g以下であるのがより好ましい。
【0034】
2.複合皮膜
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板において、複合皮膜に無機物としてリン酸塩を含有する。本発明においては、Zn成分を溶出させることで耐食性を改善させるという技術思想に基づいているため、Zn含有リン酸塩を必須とする。すなわち、本発明において、複合皮膜は、Zn含有リン酸塩と有機樹脂とを含む。
【0035】
複合皮膜中の、全金属成分に占めるZnのモル比率については特に制限はない。しかし、Zn成分の溶出による耐食性の改善効果を十分に得るためには、全金属成分に占めるZnのモル比率は10モル%以上であるのが好ましく、20モル%以上であるのがより好ましく、30モル%以上であるのがさらに好ましい。
【0036】
また、上述のように、フリーリン酸が皮膜面同士のブロッキングの原因となるため、フリーリン酸を結晶性リン酸アルミニウムとして固定する。そのため、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板においては、複合皮膜を広角X線回折法で測定した時に、ICDD番号01-074-3256に帰属する回折線を示す結晶性リン酸アルミニウムを含む。
【0037】
図1は、(a)δ-Alを含まない塗布液を用いて形成した複合皮膜、および(b)δ-Alを含む塗布液を用いて形成した複合皮膜において測定された、広角X線回折チャートを示す図(X線源:CoKα)である。図1(b)の黒矢印で示すピークが、ICDD番号01-074-3256に帰属する回折線である。一方、図1(a)、(b)の白矢印で示すピークは、下地鋼板の鉄に起因するものである。このことから、塗布液中にδ-Alを添加した場合にのみ、フリーリン酸が結晶性リン酸アルミニウムとして固定されていることが分かる。なお、広角X線回折法においては、皮膜成分による回折線が得やすい薄膜法で測定することとする。
【0038】
なお、分析に際しては、バックグラウンド強度を差し引いたピーク強度が、ノイズ幅の2倍以上であればピークが存在すると判断し、結晶性リン酸アルミニウムに帰属する回折線が3本以上確認されたら、結晶性リン酸アルミニウムが含まれていると判断する。
【0039】
以上のように、母材鋼板の表面に形成された複合皮膜中には、金属成分としてZnおよびAlを含む。Znは、原則的にZn含有リン酸塩に由来するものであるが、その他の成分に由来するものであってもよい。また、Alは結晶性リン酸アルミニウムとして含有されるもののほかに、非晶質のリン酸アルミニウム、Alとして含有されていてもよい。
【0040】
金属成分の残部を構成する元素として、MgおよびCaからなる群から選択される一種以上を例示することができるが、これに限定されない。なお、環境負荷を考慮すると、複合皮膜はクロム酸系化合物、およびこれに由来する物質を含むことは好ましくない。クロム酸系化合物、およびこれに由来する物質の含有量は、環境基準に適合するように可能な限り低減すべきであり、好ましくは0質量%である。
【0041】
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の複合皮膜の厚さも特に限定されず、無方向性電磁鋼板用の絶縁皮膜に適用される通常の厚さとすればよい。ただし、複合皮膜が厚いほどブロッキング現象の問題が顕在化しやすくなる。加えて、渦電流の発生を防止するという観点から、無方向性電磁鋼板の複合皮膜の通常の厚さは、例えば0.2μm以上、0.3μm以上、または0.5μm以上であることが好ましい。
【0042】
また、有機樹脂の種類についても特に限定されず、無方向性電磁鋼板の絶縁皮膜を構成する有機樹脂として公知のものとすればよい。有機樹脂としては、アクリル樹脂、スチレン樹脂、アクリル-スチレン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、およびウレタン樹脂からなる群から選択される一種以上が例示される。
【0043】
3.母材鋼板
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の母材鋼板は特に限定されない。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の課題の一つである耐食性向上は、絶縁皮膜中にZnを含有することによって達成されるからである。母材鋼板は、無方向性電磁鋼板の母材鋼板として用いられる通常の鋼板から適宜選択することができる。
【0044】
4.製造方法
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、塗布液を母材鋼板の表面に塗布する工程と、その後、塗布液を焼き付けることにより母材鋼板上に複合皮膜を形成する工程とを備える製造方法により製造することができる。
【0045】
4-1.塗布液
母材鋼板の表面に塗布する塗布液は、リン酸塩水溶液と有機樹脂水分散液とδ-Alとを含む。また、リン酸塩水溶液における金属成分にはZn成分を含有させる。リン酸塩として存在するZn以外の金属成分としては、原料価格および入手し易さ等を考えると、Al、Mg、およびCa等が挙げられるが、これに限定されない。
【0046】
有機樹脂の種類は特に限定されない。リン酸塩水溶液と混合した時に粗大な凝集物を形成しないものであれば、種類を問わず使用することができる。好ましい有機樹脂としては、アクリル樹脂、スチレン樹脂、アクリル-スチレン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、およびウレタン樹脂等からなる群から選択される一種以上が挙げられる。
【0047】
リン酸塩水溶液と有機樹脂水分散液との比率は任意に選択することができる。有機樹脂水分散液を含有しない塗布液を用いて絶縁皮膜を形成した無方向性電磁鋼板は、その打ち抜き性が劣る傾向にある。そのため、有機樹脂水分散液を塗布液に含有させた方がよい。リン酸塩水溶液と有機樹脂水分散液の配合比率は、それぞれの固形分濃度を考慮し、決めればよい。
【0048】
例えば、リン酸塩固形分に対する有機樹脂固形分の比率が3質量%以上である場合、最終的に得られる無方向性電磁鋼板の打ち抜き性が一層向上するので好ましい。一方、リン酸塩固形分に対する有機樹脂固形分の比率が25質量%以下である場合、原材料コストを抑制することができるので好ましい。したがって、リン酸塩固形分に対する有機樹脂固形分の比率を3~25質量%と規定してもよい。鋼板の塗れ性に問題がある時は、界面活性剤を塗布液に追加添加してもよい。
【0049】
なお、環境負荷軽減の観点からは、上記混合液にクロム酸塩系化合物を含めることは好ましくない。
【0050】
また、本発明においては、フリーリン酸を固定し、耐ブロッキング性を向上させるため、塗布液中にδ-Alを含む。上述のように、フリーリン酸を効率的に固定するためには、Alの種類が重要となる。Alには、α-Al、γ-Al、δ-Al、θ-Alが存在するが、一般的には最も安価なα-Alが用いられる。しかし、本発明者らの検討の結果、Alの種類に応じてフリーリン酸を固定する能力が異なり、α-Alに比べて高価であるため、使用されることが少ないδ-Alが最も固定能に優れていることを見出した。
【0051】
例えば、α-Alは比較的高い温度で焼成することで得られ、強固に結合した構造を有する。そのため、リン酸との反応性に乏しく、フリーリン酸を効率的に固定することができないと考えられる。そのため、塗布液中に、α-Alを添加することで無方向性電磁鋼板を製造した場合には、優れた耐ブロッキング性を発揮することができない。
【0052】
一方、δ-Alは比較的低い温度で焼成することで得られ、緩く結合した構造を有する。緩い構造を有することから、リン酸との反応性が高く、リン酸の脱水縮合反応で生じたフリーリン酸を効率的に固定できるものと推察される。そして、δ-Alがフリーリン酸と結合することで、結晶性リン酸アルミニウムが形成される。
【0053】
塗布液中に添加するδ-Alの量については、特に制限はないが、0.1g以上であるのが好ましく、0.5g以上であるのがより好ましい。ただし、上記の方法で測定される垂直剥離力を800g以下とするためには、δ-Alの添加量は、リン酸塩100gに対して1.0g以上とすることが好ましく、垂直剥離力を500g以下とするためには、添加量は2.0g以上とすることが好ましい。一方、過剰に添加しても効果が飽和するため、δ-Alの添加量は、リン酸塩100gに対して40g以下とすることが好ましく、30g以下とすることがより好ましい。
【0054】
塗布液中に添加するδ-Alの粒径については特に制限はない。しかし、粒径が10μmを超えると、無方向性電磁鋼板における占積率が低下し、ひいては積層体コアとしての磁気特性も劣化するおそれがある。そのため、粒径は10μm以下であるのが好ましい。
【0055】
加えて、δ-Alの粒径は小さいほど、フリーリン酸の固定能も向上する傾向にある。上記の方法で測定される垂直剥離力を800g以下とするためには、粒径は0.5μm以下であるのが好ましく、500g以下とするためには、粒径は0.05μm未満であるのが好ましい。
【0056】
なお、δ-Alの粒径は、無機物粒子の粒径測定において、最も一般的な「レーザー散乱・回折法」で測定すればよい。当該手法による測定から、累積分布50%点の粒径を粒径と判定することができる。ただし、粒径が50nm以下のδ-Alの場合には、「動的光散乱法」のような、より粒径の小さい粒子径測定に適した粒径測定法を併せて採用し、分析精度の確保に留意する必要がある。
【0057】
また、δ-Alは、空気中の水分を吸収して、その一部が水酸化アルミニウム(Al(OH))に変質する場合がある。δ-Alの一部がAl(OH)に変質しても、フリーリン酸の固定能が消失してしまうわけではないが、わずかに低下する。そのため、塗布液中に、δ-Al、または水和反応によって生じたAl(OH)として添加するAlの総量のうち、Al(OH)としてのAlの割合は、モル分率で30%以下であるのが好ましく、20%以下であるのがより好ましく、10%以下であるのがさらに好ましい。
【0058】
δ-Alの粒径が1μmを超える場合は、粒子同士の凝集は起こり難いため、δ-Alを塗布液中に直接添加してもよい。一方、δ-Alの粒径が1μm以下の場合は、δ-Alを一旦、水に分散させ、水分散液の状態に調製した後に、塗布液に添加するのがよい。水分散する場合はδ-Alの固形分量を調整すればよい。
【0059】
4-2.焼き付け条件
上述のように、調製した塗布液を焼き付ける際には、雰囲気の制御が重要となる。本発明者らが行った研究の結果、δ-Alによってフリーリン酸を固定できていたとしても、焼き付け後の皮膜の表面性状が劣化している場合には、ブロッキング現象が生じてしまう場合があることが分かった。そして、皮膜の表面性状に焼き付け雰囲気中の空気比が大きく影響を与えていることを見出した。
【0060】
通常、塗布液の焼き付けは、連続ラインによって行われる。焼き付けには、輻射炉または熱風炉が用いられる場合が多いが、本発明では、この際、連続ライン上の少なくとも一部において、直火加熱式バーナーを採用する。直火加熱式バーナーでは、燃料と空気とを一定の割合で混合して着火し、火炎状態にした上で熱処理設備に導入する。ここに、表面に塗布液を塗布した無方向性電磁鋼板を通し、水分を蒸発させ、温度を高めることで、鋼板上に皮膜を焼き付ける。なお、同じ連続ライン上で間接加熱式バーナーを併用してもよい。
【0061】
焼き付け雰囲気中の空気比が高すぎる場合、皮膜中の有機樹脂成分が燃焼し、膨れまたは爆裂によって、皮膜表面が凹凸の激しい形態となってしまう。表面の凹凸が激しいということは、すなわち表面積が大きいことを意味する。その結果、無方向性電磁鋼板が湿潤雰囲気下に晒された際に、多くの水分子と接触することになり、べたつき易くなる。そして、長期間にわたって皮膜面同士に大きな面圧が付与された場合には、ブロッキングが生じてしまう。
【0062】
一方、空気比が低すぎる場合、火炎中に未燃焼の炭素煤塵が生成し、皮膜外観が劣化する。そのため、焼き付け雰囲気中の空気比は1.1~1.8とし、1.7以下とするのが好ましく、1.6以下とするのがより好ましい。
【0063】
なお、本発明における空気比mとは、直火加熱式バーナーにおける、理論空気量Aと実際の空気量A0から下記式に基づいて算出されるものであり、雰囲気中の酸素濃度から算出されるものではない。
m=A/A0
【0064】
また、焼き付け時の最高到達温度が低すぎると焼き付けが不十分となり、べとつきが発生する。一方、最高到達温度が高すぎる場合、酸化層の形成を抑制することが困難になり、切断面の耐食性が劣化する。そのため、焼き付け時の最高到達温度は250~450℃の範囲内とする。
【0065】
調製した塗布液を焼き付ける時間は、特に制限されないが、例えば5~120秒の範囲内とすることが好ましい。焼付時間が5秒よりも短いと、絶縁皮膜にべたつきが生じるおそれがある。一方、焼付時間が120秒よりも長いと、絶縁皮膜中の樹脂成分が消失してしまい、無方向性電磁鋼板の打ち抜き性が劣化する可能性がある。焼付時間は10~60秒の範囲内とすることがより好ましい。
【0066】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0067】
(実施例1)空気比
複合皮膜を形成する前であって、焼鈍済みの板厚0.5mmの無方向性電磁鋼板(すなわち母材鋼板)を用意した。この母材鋼板に対し、リン酸Alおよびリン酸Znの混合物でZnモル比率を20%に調整した、固形分濃度が50%のリン酸塩水溶液200g(リン酸塩100g)と、濃度が40%のアクリル-スチレン樹脂水分散液40gと、粒径15nmのδ-Al粉末2.0gとの混合液を塗布した。そして、直火加熱式バーナーにおいて、最高到達温度を340℃として、種々の空気比で複合皮膜を形成した。
【0068】
複合皮膜量は片面当たり1.5g/mになるようにした。また、複合皮膜は母材鋼板の両面に設け、複合皮膜量および成分は両面において実質的に同一とした。
【0069】
ここで、空気比が1.1未満の試験No.1-1では、火炎中に未燃焼の炭素煤塵が生成し、皮膜外観が劣化する結果となった。そのため、この鋼板については以降の測定には供しなかった。
【0070】
続いて、複合皮膜に対して、広角X線回折法による測定を行った。測定には株式会社リガク製RINT-2500H/PCを用い、X線源はCoKα(30kV、100mA)とした。測定の結果、いずれの無方向性電磁鋼板においても、ICDD番号01-074-3256に帰属する回折線を示す結晶性リン酸アルミニウムを含むことが確認された。
【0071】
次いで、複合皮膜を有する無方向性電磁鋼板を、せん断機で、30mm×40mm寸法に切断し、切断時に発生したかえりは除去した。この無方向性電磁鋼板13枚を長辺(40mm)と短辺(30mm)が交互になるように積層した。すなわち、接触面積は9cmである。この積層体を面圧40kgf/cm(3.92MPa)で加圧した状態で固定化した。
【0072】
そして固定器具ごと、温度50℃、湿度90%に設定した恒温恒湿槽に8週間(56日間)設置した。8週間経過後、恒温恒湿槽から取り出し、室温状態において、最上部の試料から順番に、ゴム製の吸盤を使って1枚ずつ垂直方向に引きはがし、剥離力を12回測定した。そして、最大値と最小値とを捨て、10回の平均値を算出し、「垂直剥離力」とした。耐ブロッキング性の良否は、次のとおり、水準分けした。判定がAまたはBの場合を合格とした。
【0073】
(耐ブロッキング性評価の判定基準)
・垂直剥離力が500g以下の場合 : A
・垂直剥離力が500g超1000g以下の場合 : B
・垂直剥離力が1000g超1500g以下の場合: C
・垂直剥離力が1500g超の場合 : D
【0074】
以上の結果を表1に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
表1から、焼き付け雰囲気中の空気比が1.8以下の範囲内である場合に、耐ブロッキング性が良好であることが分かる。
【0077】
(実施例2)δ-Al
複合皮膜を形成する前であって、焼鈍済みの板厚0.5mmの無方向性電磁鋼板(すなわち母材鋼板)を用意した。この母材鋼板に対し、リン酸Alおよびリン酸Znの混合物でZnモル比率を20%に調整した、固形分濃度が50%のリン酸塩水溶液200g(リン酸塩100g)と、濃度が40%のアクリル-スチレン樹脂水分散液20gと、表2に示す添加量の粒径100nmのα-Al粉末または粒径10nmのδ-Al粉末との混合液を塗布した。なお、表2に示す試験No.2-1については、いずれのAl粉末も添加しなかった。そして、直火加熱式バーナーにおいて、最高到達温度を340℃、空気比を1.5として複合皮膜を形成した。
【0078】
複合皮膜量は片面当たり2.5g/mになるようにした。また、複合皮膜は母材鋼板の両面に設け、複合皮膜量および成分は両面において実質的に同一とした。
【0079】
複合皮膜に対して、広角X線回折法による測定を実施例1と同様に行った結果、試験No.2-1および2-2においては、ICDD番号01-074-3256に帰属する回折線は観測されなかった。一方、試験No.2-3~2~9の無方向性電磁鋼板においては、ICDD番号01-074-3256に帰属する回折線を示す結晶性リン酸アルミニウムを含むことが確認された。
【0080】
続いて、垂直剥離力の測定および評価を、実施例1と同じ基準で行った。結果を表2に示す。
【0081】
【表2】
【0082】
表2から、塗布液中にδ-Alを添加した場合に、耐ブロッキング性が良好であることが分かる。
【0083】
(実施例3)リン酸Zn/Mg
複合皮膜を形成する前であって、焼鈍済みの板厚0.5mmの無方向性電磁鋼板(すなわち母材鋼板)を用意した。この母材鋼板に対し、リン酸Mgおよびリン酸Znの混合物でZnモル比率を40%に調整した、固形分濃度が50%のリン酸塩水溶液200g(リン酸塩100g)と、濃度が40%のアクリル-スチレン樹脂水分散液20gと、粒径20nmのδ-Al粉末30gとの混合液を塗布した。そして、直火加熱式バーナーにおいて、最高到達温度を340℃、空気比を1.5として複合皮膜を形成した。
【0084】
複合皮膜量は片面当たり1.5g/mになるようにした。また、複合皮膜は母材鋼板の両面に設け、複合皮膜量および成分は両面において実質的に同一とした。
【0085】
複合皮膜に対して、広角X線回折法による測定を実施例1と同様に行った結果、ICDD番号01-074-3256に帰属する回折線を示す結晶性リン酸アルミニウムを含むことが確認された。
【0086】
続いて、垂直剥離力の測定および評価を、実施例1と同じ基準で行った。結果を表3に示す。
【0087】
【表3】
【0088】
表3から、塗布液中にδ-Alを添加し、かつ焼き付け条件が適切であれば、リン酸塩の金属成分がZn/Mg系であっても、耐ブロッキング性が良好であることが分かる。
【0089】
(実施例4)リン酸Zn/Ca
複合皮膜を形成する前であって、焼鈍済みの板厚0.35mmの無方向性電磁鋼板(すなわち母材鋼板)を用意した。これらの母材鋼板に対し、リン酸Caおよびリン酸Znの混合物でZnモル比率を30%に調整した、固形分濃度が50%のリン酸塩水溶液200g(リン酸塩100g)と、濃度が40%のアクリル-スチレン樹脂水分散液10gと、粒径40nmのδ-Al粉末20gとの混合液を塗布した。そして、直火加熱式バーナーにおいて、最高到達温度を340℃、空気比を1.2として複合皮膜を形成した。
【0090】
複合皮膜量は片面当たり1.0g/mになるようにした。また、複合皮膜は母材鋼板の両面に設け、複合皮膜量および成分は両面において実質的に同一とした。
【0091】
複合皮膜に対して、広角X線回折法による測定を実施例1と同様に行った結果、ICDD番号01-074-3256に帰属する回折線を示す結晶性リン酸アルミニウムを含むことが確認された。
【0092】
続いて、垂直剥離力の測定および評価を、実施例1と同じ基準で行った。結果を表4に示す。
【0093】
【表4】
【0094】
表4から、塗布液中にδ-Alを添加し、かつ焼き付け条件が適切であれば、リン酸塩の金属成分がZn/Ca系であっても、耐ブロッキング性が良好であることが分かる。
【0095】
(実施例5)有機樹脂
複合皮膜を形成する前であって、焼鈍済みの板厚0.5mmの無方向性電磁鋼板(すなわち母材鋼板)を用意した。これらの母材鋼板に対し、リン酸Alおよびリン酸Znの混合物でZnモル比率を40%に調整した、固形分濃度が50%のリン酸塩水溶液200g(リン酸塩100g)と、濃度が40%で表5に示す種々の有機樹脂水分散液30gと、粒径15nmのδ-Al粉末10gとの混合液を塗布した。そして、直火加熱式バーナーにおいて、最高到達温度を340℃、空気比を1.5として複合皮膜を形成した。
【0096】
複合皮膜量は片面当たり2.0g/mになるようにした。また、複合皮膜は母材鋼板の両面に設け、複合皮膜量および成分は両面において実質的に同一とした。
【0097】
複合皮膜に対して、広角X線回折法による測定を実施例1と同様に行った結果、いずれの無方向性電磁鋼板においても、ICDD番号01-074-3256に帰属する回折線を示す結晶性リン酸アルミニウムを含むことが確認された。
【0098】
続いて、垂直剥離力の測定および評価を、実施例1と同じ基準で行った。結果を表5に示す。
【0099】
【表5】
【0100】
表5から、塗布液中にδ-Alを添加し、かつ焼き付け条件が適切であれば、いずれの有機樹脂を用いていても、耐ブロッキング性が良好であることが分かる。
【0101】
(実施例6)焼き付け温度
複合皮膜を形成する前であって、焼鈍済みの板厚0.5mmの無方向性電磁鋼板(すなわち母材鋼板)を用意した。この母材鋼板に対し、リン酸Alおよびリン酸Znの混合物でZnモル比率を20%に調整した、固形分濃度が50%のリン酸塩水溶液200g(リン酸塩100g)と、濃度が40%のアクリル-スチレン樹脂水分散液20gと、粒径30nmのδ-Al粉末20gとの混合液を塗布した。そして、直火加熱式バーナーにおいて、空気比を1.5として、表6に示す種々の最高到達温度で複合皮膜を形成した。
【0102】
複合皮膜量は片面当たり4.5g/mになるようにした。また、複合皮膜は母材鋼板の両面に設け、複合皮膜量および成分は両面において実質的に同一とした。
【0103】
ここで、最高到達温度が200℃の条件で作製した試験No.6-1の複合皮膜では、母材鋼板への焼き付けが不十分でべとつきが発生し、また、最高到達温度が500℃の条件で作製した試験No.6-6の複合皮膜では、皮膜が剥離した。そのため、これらの鋼板については以降の測定には供しなかった。
【0104】
残りの鋼板の複合皮膜に対して、広角X線回折法による測定を実施例1と同様に行った結果、いずれの無方向性電磁鋼板においても、ICDD番号01-074-3256に帰属する回折線を示す結晶性リン酸アルミニウムを含むことが確認された。
【0105】
続いて、垂直剥離力の測定および評価を、実施例1と同じ基準で行った。結果を表6に示す。
【0106】
【表6】
【0107】
表6から、最高到達温度が250℃から450℃であれば、耐ブロッキング性が良好であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明によれば、クロム酸塩系化合物という環境負荷物質に代わり、亜鉛成分により優れた耐食性を有する皮膜において、皮膜面同士の耐ブロッキング性にも優れる無方向性電磁鋼板を得ることができる。そのため、本発明に係る無方向性電磁鋼板は、高温多湿環境下において、長期間積層された状態で保管されても、皮膜面同士のブロッキング現象の発生を抑制できる。

【要約】
本発明の一実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、母材鋼板と、前記母材鋼板の表面に形成された、Zn含有リン酸塩と有機樹脂との複合皮膜と、を備える無方向性電磁鋼板であって、前記複合皮膜を広角X線回折法で測定した時に、ICDD番号01-074-3256に帰属する回折線を示す結晶性リン酸アルミニウムを含む。

図1