(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 25/22 20060101AFI20230214BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20230214BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20230214BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20230214BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20230214BHJP
【FI】
H02P25/22
B62D6/00
B62D5/04
B62D101:00
B62D119:00
(21)【出願番号】P 2019065739
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2022-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】300052246
【氏名又は名称】日本電産エレシス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100138689
【氏名又は名称】梶原 慶
(74)【代理人】
【識別番号】100176692
【氏名又は名称】岡崎 ▲廣▼志
(72)【発明者】
【氏名】大島 忠介
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-001216(JP,A)
【文献】特開2013-179723(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 25/22
B62D 6/00
B62D 5/04
B62D 101/00
B62D 119/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の制御系統からなり該制御系統ごとに設けた中央制御部によって電動モータを駆動するモータ制御装置であって、
前記複数の制御系統の第1の制御系統と第2の制御系統間において、車両等のイグニッションスイッチを介したイグニッション電圧の供給経路の入力側と出力側を電気的に絶縁する絶縁手段と、
前記第1の制御系統のイグニッション電圧値を検出する第1のIG電圧値検出手段と、
前記第2の制御系統のイグニッション電圧値を検出する第2のIG電圧値検出手段と、
前記第1の制御系統の駆動電源となるバッテリの電圧値を検出する第1のバッテリ電圧値検出手段と、
前記第2の制御系統の駆動電源となるバッテリの電圧値を検出する第2のバッテリ電圧値検出手段と、
前記絶縁手段からの出力電圧値と前記第2のバッテリ電圧値とに基づいて前記第2の制御系統のイグニッション電圧値を演算するIG電圧値演算手段と、
を備え、
前記第2の制御系統の中央制御部は前記演算されたイグニッション電圧値をもとに該第2の制御系統におけるイグニッション信号のON/OFF状態を判断することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記IG電圧値演算手段は、前記絶縁手段の出力側の電圧値が所定値以上の場合、前記第2のバッテリ電圧値検出手段で検出したバッテリ電圧を補正し、前記出力側の電圧値を前記補正した電圧値で置き換える演算を行うことを特徴とする請求項1のモータ制御装置。
【請求項3】
前記絶縁手段はフォトカプラであり、該フォトカプラの出力電圧値が前記所定値以上の場合、前記第2の制御系統におけるイグニッション信号がON状態と判断して前記置き換えの演算を行うことを特徴とする請求項2のモータ制御装置。
【請求項4】
前記絶縁手段はフォトカプラであり、該フォトカプラの出力電圧値が前記所定値より小さい場合、前記第2の制御系統におけるイグニッション信号がOFF状態と判断して前記置き換えの演算を行わないことを特徴とする請求項2のモータ制御装置。
【請求項5】
前記第1の制御系統のイグニッション電圧値と前記第2の制御系統のイグニッション電圧値とを比較する比較手段と、
CAN(Controller Area Network)通信による受信データを前記制御系統の中央制御部で診断するCAN診断部と、をさらに備え、
前記比較手段による比較の結果、前記第1および第2の制御系統のイグニッション電圧値が所定値以上であれば、前記CAN診断部は前記制御系統が正常とのCAN診断を行い、
前記比較手段による比較の結果、前記第1および第2の制御系統のイグニッション電圧値が所定値よりも小さい場合、前記CAN診断部は電動モータの駆動を停止するCAN診断を行い、
前記比較手段による比較の結果、前記第1および第2の制御系統のいずれか一方のイグニッション電圧値が所定値以上で、かつ、他方のイグニッション電圧値が所定値よりも小さい場合、前記CAN診断部は前記制御系統が異常とのCAN診断を行い、
前記CAN診断部により前記正常とのCAN診断が行われた場合、前記第1および第2の制御系統による前記電動モータの駆動を継続することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記CAN診断部によって前記異常とのCAN診断が行われた場合、前記第1および第2の制御系統のうち、イグニッション電圧値が前記所定値よりも小さい制御系統による前記電動モータの駆動を停止し、イグニッション電圧値が前記所定値以上の制御系統による前記電動モータの駆動を継続することを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
前記所定値は5~7Vであることを特徴とする請求項2~6のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項8】
複数の制御系統ごとに設けた中央制御部を有し、車両等の運転者のハンドル操作をアシストする電動パワーステアリング装置であって、
前記運転者の操舵を補助する電動モータと、
請求項1~7のいずれか1項に記載のモータ制御装置により前記電動モータを駆動制御する手段と、
を備えることを特徴とする電動パワーステアリング用モータ制御装置。
【請求項9】
請求項8に記載の電動パワーステアリング用モータ制御装置を備えたことを特徴とする電動パワーステアリングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、複数系統のモータ制御回路からなる冗長構成を有する電動パワーステアリング用のモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動パワーステアリング装置において、モータに設けた2組のコイル巻線を独立して駆動する2組のインバータ回路を備え、インバータ回路以外の制御回路を二重系にして、異常時(故障時)において、正常に動作している系によってモータ制御を継続するという冗長構成が従来より知られている。
【0003】
このような冗長構成には、単一の制御部(CPU)を使用して冗長制御を行う構成、あるいは、特許文献1の電動パワーステアリング装置のように、複数の制御部(2個のCPU)を使用して、第1の制御系と第2の制御系という二重の冗長制御系で制御を行う構成がある。
【0004】
また、上記のように二重の冗長制御系で構成された電動パワーステアリング装置において、系統間にフォトカプラ(Isolationフォトカプラ)を備えることで、系統間の電気的な絶縁を図る構成も知られている。
【0005】
なお、フォトカプラを配置した構成例として、特許文献2には、フォトカプラを介して伝達されたON/OFF指令に応じて、モータ駆動用のインバータを構成する複数のスイッチング素子にゲート駆動回路よりON/OFF信号を出力して、これらのスイッチング素子のON/OFF状態を切り替える技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】再公表特許WO2017/122329
【文献】特許第6282331号公報(特開2018-74786号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ECU(Electronic Control Unit)内に二重の冗長制御系を有し、系統間がIsolationフォトカプラで絶縁された電動パワーステアリング装置において、両系統のIG電圧値を比較すると、IG電圧が直接入力された系統と、Isolationフォトカプラからの出力をIG電圧とする系統とでは、IG電圧値が異なるという問題がある。
【0008】
したがって、Isolationフォトカプラからの出力を検出して得たIG電圧値をそのまま使用すると、両系統において互いのIG電圧値が異なるため制御動作も異なる。両系統の動作が異なる状態でバッテリ電圧低下したときにIGがONとなった場合、一方の系統においてIG-OFFを判定できず、初期診断を継続したままとなって、シーケンス停止診断を誤検出するという問題が発生する。
【0009】
また、フォトカプラは、その温度特性、動作速度等から、特許文献2に記載されているような信号のON/OFFの判定という用途での使用が一般的である。そのため、上述した二重の冗長制御系の一方系統において、フォトカプラでの検出値をそのまま用いてIG電圧を判定すると、温度特性等によってフォトカプラの出力値が異なることに起因して、システムの起動時等に正確なIG判定ができないという問題がある。
【0010】
さらには、車両の各種情報を授受する車載ネットワーク(CAN)に接続されたCAN信号線を介したCAN診断では、IG電圧が正常な場合を想定している。そのため、系統間でIG電圧が異なる場合、正常なCAN診断を行えず、CANの診断を誤検出する可能性があるという点も問題となる。
【0011】
一方、上記のような問題に対し、特許文献1の電動パワーステアリング装置のように2系統を有し、CPU間通信を行う構成とすれば、一方の系統で検出したIG電圧値をCPU間通信によって他系統で受け取り、そのIG電圧値をIGの状態判定に用いることができる。
【0012】
この方法によれば、実IG値を使用して故障診断の実施条件を決定できるので、CANの妥当性の判断精度が向上する。しかしながら、IG電圧が直接入力された系統が故障した場合には、Isolationフォトカプラからの出力をIG電圧とする系統のIG電圧値をIGの状態判定に使用できず、故障診断が機能しないという問題がある。
【0013】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、電気的に絶縁された第1および第2の複数系統からなる冗長構成をとるモータ制御装置であって、これら複数系統へ単一のIG信号が送信されるモータ制御装置において、Isolationフォトカプラからの出力をIG電圧とする系統のIG状態を正確に判定できるモータ制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成し、上述した課題を解決する一手段として以下の構成を備える。すなわち、本願の例示的な第1の発明は、複数の制御系統からなり該制御系統ごとに設けた中央制御部によって電動モータを駆動するモータ制御装置であって、前記複数の制御系統の第1の制御系統と第2の制御系統間において、車両等のイグニッションスイッチを介したイグニッション電圧の供給経路の入力側と出力側を電気的に絶縁する絶縁手段と、前記第1の制御系統のイグニッション電圧値を検出する第1のIG電圧値検出手段と、前記第2の制御系統のイグニッション電圧値を検出する第2のIG電圧値検出手段と、前記第1の制御系統の駆動電源となるバッテリの電圧値を検出する第1のバッテリ電圧値検出手段と、前記第2の制御系統の駆動電源となるバッテリの電圧値を検出する第2のバッテリ電圧値検出手段と、
前記絶縁手段からの出力電圧値と前記第2のバッテリ電圧値とに基づいて前記第2の制御系統のイグニッション電圧値を演算するIG電圧値演算手段とを備え、前記第2の制御系統の中央制御部は前記演算されたイグニッション電圧値をもとに該第2の制御系統におけるイグニッション信号のON/OFF状態を判断することを特徴とする。
【0015】
本願の例示的な第2の発明は、複数の制御系統ごとに設けた中央制御部を有し、車両等の運転者のハンドル操作をアシストする電動パワーステアリング装置であって、前記運転者の操舵を補助する電動モータと、上記例示的な第1の発明に係るモータ制御装置により前記電動モータを駆動制御する手段とを備えることを特徴とする。
【0016】
本願の例示的な第3の発明は、電動パワーステアリングシステムであって、上記例示的な第2の発明に係る電動パワーステアリング用モータ制御装置を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、イグニッション電圧の供給経路が第1の制御系統から電気的に絶縁された第2の制御系統においてIG信号のON/OFF状態を正確に判定できるだけでなく、IG電圧値の判定精度が向上するので、CAN通信により複数の制御系統で高精度のCAN診断を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング用のモータ制御装置を含む電動パワーステアリングシステムの概略構成を示す図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係るモータ制御装置の構成を示す図である。
【
図3】
図3は、フォトカプラの周囲温度に対する入出力特性の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、第2系統のモータ制御装置におけるIG電圧値の生成を説明するための図である。
【
図5】
図5は、第2系統のモータ制御装置におけるIG状態の判定処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング用のモータ制御装置を含む電動パワーステアリングシステムの概略構成である。
図1において、電動パワーステアリングシステム10は、電子制御ユニット(Electronic Control Unit: ECU)としてのモータ制御装置1a,1b、操舵部材であるステアリングハンドル2、ステアリングハンドル2に接続された回転軸3、ピニオンギア6、ラック軸7等を備える。
【0020】
回転軸3は、その先端に設けられたピニオンギア6に噛み合っている。ピニオンギア6により、回転軸3の回転運動がラック軸7の直線運動に変換され、ラック軸7の変位量に応じた角度に、そのラック軸7の両端に設けられた一対の車輪5a,5bが操舵される。
【0021】
回転軸3には、ステアリングハンドル2が操作された際の操舵トルクを検出するトルクセンサ9a,9bが設けられており、検出された操舵トルクはモータ制御装置1a,1bへ送られる。モータ制御装置1a,1bは、トルクセンサ9a,9bより取得した操舵トルク、車速センサ(不図示)からの車速等の信号に基づくモータ駆動信号を生成し、その信号を電動モータ15に出力する。
【0022】
モータ駆動信号が入力された電動モータ15からは、ステアリングハンドル2の操舵を補助するための補助トルクが出力され、その補助トルクが減速ギア4を介して回転軸3に伝達される。その結果、電動モータ15で発生したトルクによって回転軸3の回転がアシストされることで、運転者のハンドル操作を補助する。
【0023】
次に、本実施形態に係るモータ制御装置について説明する。本実施形態に係るモータ制御装置は、
図2に示すように、所定部分を除いて同一の構成要素を備えた複数のモータ制御系統からなる冗長構成を有する。ここでは、2系統からなる冗長構成を有するモータ制御装置を例に挙げて説明するが、さらに、3系統、4系統といった多系統からなる冗長構成への展開も可能である。
【0024】
本実施形態に係るモータ制御装置は、それぞれが制御部(CPU)12a,12bを有する、互いに独立した2つの系統からなるモータ制御装置1a,1bで構成される。モータ制御装置1a,1bは、2組の3相巻線(Ua,Va,Wa)15aと3相巻線(Ub,Vb,Wb)15bを備える電動モータ15と、これら2組の3相巻線それぞれに駆動電流を供給する2組のインバータ回路14a,14bとからなるダブルインバータ構成となっている。電動モータ15は、例えば3相ブラシレスDCモータである。
【0025】
以降の説明では、モータ制御装置1aと3相巻線15aを含む構成部分を第1系統、モータ制御装置1bと3相巻線15bを含む構成部分を第2系統とする。
【0026】
第1系統を構成するモータ制御装置1aは、その装置全体の制御を司る、例えばマイクロプロセッサからなる制御部(CPU)12a、CPU12aからの制御信号よりモータ駆動信号を生成し、FET駆動回路として機能するインバータ制御部13a、電動モータ15の3相巻線(Ua,Va,Wa)15aに駆動電流を供給するモータ駆動部であるインバータ回路14aを備える。
【0027】
第2系統を構成するモータ制御装置1bは、モータ制御装置1aと同様、その装置全体の制御を司る制御部(CPU)12b、CPU12bからの制御信号よりモータ駆動信号を生成し、FET駆動回路として機能するインバータ制御部13b、電動モータ15の3相巻線(Ub,Vb,Wb)15bに所定の駆動電流を供給するインバータ回路14bを備える。
【0028】
インバータ回路14aには、フィルタ16aと電源リレー17aを介して外部バッテリBTよりモータ駆動用の電源が供給され、インバータ回路14bには、フィルタ16bおよび電源リレー17bを介して、外部バッテリBTよりモータ駆動用の電源が供給される。なお、フィルタ16a,16bは、それぞれインバータ回路14a,14bに包含させてもよい。
【0029】
フィルタ16a,16bは、不図示の電解コンデンサとコイルからなり、供給電源に含まれるノイズ等を吸収して、電源電圧を平滑する。電源リレー17a,17bは、例えば機械式リレーあるいは半導体リレーで構成され、バッテリBTからの電力を遮断可能に構成されている。
【0030】
インバータ回路14aは、電動モータ15の3相巻線(Ua,Va,Wa)15a各々に対応した半導体スイッチング素子(FET)からなるFETブリッジ回路である。同様に、インバータ回路14bは、電動モータ15の3相巻線(Ub,Vb,Wb)15b各々に対応した半導体スイッチング素子(FET)からなるFETブリッジ回路である。
【0031】
なお、これらのスイッチング素子(FET)はパワー素子とも呼ばれ、例えば、MOSFET(Metal-Oxide Semiconductor Field-Effect Transistor)、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等の半導体スイッチング素子を用いる。
【0032】
イグニッションスイッチ(IG-SW)31は、その一端がバッテリBTに接続され、他端はフォトカプラ33の入力端子(IN)に接続されている。フォトカプラ33は、第1系統から第2系統に至るイグニッション電圧の供給経路の入力側と出力側を電気的に絶縁する。フォトカプラ33は、例えば、図示しない発光ダイオードとフォトトランジスタからなる。
【0033】
フォトカプラ33の出力端子(OUT)は、第2系統を構成するモータ制御装置1bの電源管理部21bに接続されるとともに、IG電圧検出部24bに接続されている。IG電圧検出部24bは、フォトカプラ33からの出力であるイグニッション(IG)電圧値をAD変換し、変換後のデジタル電圧値を、第2系統におけるIG電圧の実電圧値としてCPU12bのIG状態判定部35に入力する。なお、IG電圧検出部24bは、CPU12b内に配置してもよい。
【0034】
モータ制御装置1bのバッテリ(BT)電圧検出部29は、バッテリBTのバッテリ電圧(+B)を入力してAD変換し、変換後のデジタル電圧値をバッテリ(BT)電圧値としてCPU12bのIG状態判定部35に入力する。また、バッテリ(BT)電圧検出部29は、バッテリ電圧値が規定電圧値以上か否かを判定する。
【0035】
なお、バッテリ電圧の規定電圧値は、あらかじめ決めた値を使用してもよいし、あるいは、第1系統のIG電圧検出部24aで検知した電圧を、第2系統のCPU12bが第1系統のCPU12aとの相互通信によって取得し、それをもとに規定電圧値を決定してもよい。
【0036】
電源部20a,20bは、バッテリBTより供給されたバッテリ電圧+Bを、所定の電圧(例えば、ロジックレベルの電圧)に変換し、それを制御部(CPU)12a,12b、インバータ制御部13a,13b等の制御回路の動作電源として供給する。なお、電源管理部21a,21bは、イグニッションスイッチ(IG-SW)31のON/OFFに関わらず、電源部20a,20bを起動する。
【0037】
モータ制御装置1a,1bのCPU12a,12bは、リアルタイムの相互通信が可能に構成されている。また、モータ制御装置1a,1bは、車両の各種情報を授受する車載ネットワーク(CAN)に接続されたCAN信号線(CAN通信バス)27H,27Lを介して、他の制御ユニット(ECU)との間でCANプロトコルによるデータ通信を行う。
【0038】
CAN信号線27H,27Lは、第1系統を構成するCAN-Hライン27Ha,CAN-Lライン27Laと、第2系統を構成するCAN-Hライン27Hb,CAN-Lライン27Lbからなる各々2線式の通信線である。
【0039】
電動モータ15には、3相巻線15a,15bそれぞれに対応させて、モータの回転子(ロータ)の回転位置を検出する角度センサ(レゾルバ)11a,11bが搭載されている。角度センサ(レゾルバ)11aからの出力信号は、回転情報として、入力I/F18aを介してCPU12aへ送信され、角度センサ(レゾルバ)11bからの出力信号は、入力I/F18bを介してCPU12bへ送信される。
【0040】
次に、本実施形態に係るモータ制御装置における、イグニッションスイッチ(IG-SW)のON/OFF状態の判定動作を含むモータ制御装置の動作について説明する。
【0041】
第1系統を構成するモータ制御装置1aにおいて、操舵トルクを検出するトルクセンサ9a等のセンサ類で検出された信号は、入力I/F18aを介して制御部(CPU)12aへ入力され、車両の走行速度は、CAN信号としてCANI/F19aを介して制御部(CPU)12aに入力される。制御部(CPU)12aは、入力されたこれらの検出信号等に基づいて、電動モータ15を駆動する制御指令を演算する。
【0042】
同様に、第2系統を構成するモータ制御装置1bの制御部(CPU)12bは、入力I/F18bを介して入力された、トルクセンサ9b等のセンサ類で検出された信号、CAN信号としてCANI/F19bを介して入力された車両の走行速度等に基づいて、電動モータ15を駆動する制御指令を演算する。
【0043】
上述したように、
図2に示す第1系統と第2系統という二重の冗長制御系を有するモータ制御装置では、イグニッションスイッチ(IG-SW)31からのIG電圧が直接入力される第1系統と、第1系統と電気的な絶縁を施すためにフォトカプラ33を配置し、そのフォトカプラ33からの出力としてのIG電圧が入力される第2系統は、フォトカプラ33の温度特性等によりIG電圧値が異なる。
【0044】
図3は、周囲温度が変わったときのフォトカプラの入出力特性の一例である。
図3の横軸は入力電圧(
図2のフォトカプラ33の入力端子(IN)に入力されるIG電圧値に相当)、縦軸は出力(
図2のフォトカプラ33の出力端子(OUT)から出力されるIG電圧値に相当)であって、ここでは、フォトカプラの開放電圧V
OCである。
【0045】
図3の入出力特性から、同一の入力電圧に対して、温度によってフォトカプラの出力値が大きく異なることが分かる。また、フォトカプラの開放電圧V
OCは、入力であるIG電圧値(実IG電圧値ともいう)への追随性が低いことも分かる。これらが、上述した第1系統と第2系統においてIG電圧値が異なる要因となる。
【0046】
そこで、本実施形態に係るモータ制御装置では、IG判定精度を向上させるため、第2系統におけるIG電圧値に基づくイグニッションスイッチ(IG-SW)のON/OFF状態の判定動作において、バッテリ電圧値を併用してIG電圧値を生成(演算)する。
【0047】
図4は、第2系統におけるIG電圧値の生成を説明するための図であり、第1系統および第2系統ごとの動作モードの相違を示している。例えば、第1系統の制御部(CPU)12aは、IG電圧検出部24aからの出力値をもとに、
図4の符号41で示すようにIG電圧値が10~48VのときにIG-ON状態にあり、IG電圧値が10Vよりも小さいときには、IG-OFF状態にあると判定する。第1系統の制御部(CPU)12aは、IG-OFFと判定した場合、システムの停止処理(電動モータの駆動停止等)を行う。
【0048】
上述したようにフォトカプラからの出力値に基づく第2系統のIG電圧値は、第1系統のIG電圧値と異なる。そのため、第1系統のIG電圧値と同じ電圧値の範囲を基準として第2系統のIG電圧値を判定できない。
【0049】
図4の符号43は、第2系統における温度別のフォトカプラの出力状態(開放電圧)を示している。例えば、
図3に示す特性から、フォトカプラの入力電圧10~48Vの範囲における温度-40℃でのフォトカプラ開放電圧V
OCは、おおよそ11~12V(これを出力電圧範囲Aと呼ぶ)であり、温度25℃でのフォトカプラ開放電圧V
OCは、おおよそ9~10V(これを出力電圧範囲Bという)、そして、温度105℃でのフォトカプラ開放電圧V
OCは、おおよそ6~7V(これを出力電圧範囲Cという)である。
【0050】
これらのフォトカプラ開放電圧V
OCを第2系統のIG状態に対応させると、温度-40℃では、
図4の符号43aで示すように、出力電圧範囲AのときにIG-ON状態となり、他の電圧範囲ではIG-OFF状態となる。同様に、温度25℃では、
図4の符号43bで示すように、出力電圧範囲BのときにIG-ON状態、他の電圧範囲ではIG-OFF状態となり、温度105℃では、
図4の符号43cで示すように、出力電圧範囲CのときにIG-ON状態、他の電圧範囲ではIG-OFF状態となる。
【0051】
このようにフォトカプラ開放電圧VOCは、ON/OFFを判断できる程度の指標であり、これをもとに第2系統のIG-ON状態を判定するには、その出力電圧範囲が非常に狭小である。そのため、フォトカプラ開放電圧VOCをそのまま使用した第2系統のIG状態の判定は困難となり、判定精度も低くなる。
【0052】
よって、本実施形態に係るモータ制御装置では、第2系統におけるフォトカプラの開放電圧値とバッテリ電圧値とを併用して、第2系統のIG状態を判定する。
【0053】
図5は、モータ制御装置1bの制御部(CPU)12bにおいて、第2系統のIG状態の判定処理を示すフローチャートである。制御部(CPU)12bのIG状態判定部35は、
図5のステップS11において、バッテリ(BT)電圧検出部29で検出されたモータ制御装置1bのバッテリ電圧(+B)を取得する。
【0054】
IG状態判定部35は、続くステップS13で、IG電圧検出部24bで検出されたフォトカプラ33の開放電圧値V
OCを取得する。そして、ステップS15において、フォトカプラの開放電圧値V
OCが所定範囲内(例えば、
図4の規定電圧範囲D:5~13V、より好ましくは5~7V)か否かを判断する。
【0055】
フォトカプラ開放電圧値VOCが所定範囲内にあれば、ステップS19で、IG状態判定部35内のバッテリ電圧補正部37において、先にステップS11で取得したバッテリ電圧値を補正する。これは、例えば、バッテリ(BT)からの電源供給ラインにおける電圧降下に起因して、バッテリ電圧値が規定値よりも低くなる場合等において、その電圧値を補う処理である。
【0056】
すなわち、ステップS19の処理は、フォトカプラの開放電圧値VOCをバッテリ電圧を用いて補正することを意味する。よって、バッテリ電圧の補正を行った場合には、ステップS21において、フォトカプラ開放電圧値VOCを補正後のBT電圧値で置き換えることになる。
【0057】
ステップS23では、上述した置き換え演算後のIG電圧値が所定電圧値以上か否かを判定する。ここでは、例えば、
図4の符号45で示す第2系統のIG状態のように所定電圧値を10Vにして、置き換え演算後のIG電圧値が10V以上であれば、IG状態判定部35は、そのIG電圧値がIG-ON相当の電圧であるとして、ステップS25において、第2系統のIG状態はIG-ON状態にあると判定する。
【0058】
これに対して、ステップS23において、置き換え演算後のIG電圧値が所定電圧値よりも低い(例えば、10Vよりも小さい)と判断された場合には、その演算で得たIG電圧値がIG-OFF相当の電圧であるとして、IG状態判定部35は、ステップS35において、第2系統のIG状態がIG-OFF状態にあると判定する。
【0059】
なお、ステップS23におけるIG電圧値が所定電圧値以上か否かの判定は、上記置き換え演算後に限らず、後述するように、フォトカプラの開放電圧値VOCを第2系統のIG電圧値とする場合においても、そのIG電圧値が所定電圧値以上か否かが判定される。
【0060】
第2系統のIG状態を判定する所定電圧値は、上記の10Vに限定されず、フォトカプラ33の特性等に対応する可変閾値としてもよい。例えば、フォトカプラの開放電圧を考慮した電圧を閾値とすることで、フォトカプラからの出力電圧値をバッテリ電圧値で置き換える演算と、IG信号のON/OFF判定の精度が向上する。
【0061】
一方、上記のステップS15において、フォトカプラの開放電圧値VOCが所定範囲内にないと判断された場合、IG状態判定部35は、ステップS31で、フォトカプラの開放電圧値VOCが5Vよりも小さいか否かを判定する。
【0062】
フォトカプラの開放電圧値VOCが5Vよりも小さければ、IG状態判定部35は、ステップS33において、上記のステップS13で取得したフォトカプラの開放電圧値VOCを第2系統におけるIG電圧値とする。
【0063】
IG状態判定部35は、ステップS23において、上記のフォトカプラの開放電圧値VOC、すなわち第2系統のIG電圧値が所定電圧値以上か否かを判定する。第2系統のIG電圧値が所定電圧値よりも小さい場合、IG状態判定部35は、ステップS35において、第2系統のIG状態がIG-OFF状態にあると判定する。
【0064】
よって、モータ制御装置1bの制御部(CPU)12bは、上記のように第2系統のIG状態がIG-OFF状態にあるときには、ステップS37で、システム停止処理(電動モータの駆動停止等)を行う。
【0065】
なお、上記のステップS15において、フォトカプラの開放電圧値VOCが所定範囲内にあるか否かを判断したが、フォトカプラの開放電圧値VOCが規定電圧値(例えば、5V)以上か否かを判定するようにしてもよい。
【0066】
また、ステップS37におけるシステム停止処理は、初期診断状態が一定時間、例えば10分間、継続している場合、診断シーケンスに異常があると判断して、システム停止するようにしてもよい。これにより、初期診断を継続したままとなって、シーケンス停止診断を誤検出することを回避できる。
【0067】
以上説明したように、本実施形態に係るモータ制御装置は、複数系統(例えば2系統)を有する冗長構成とし、第1系統と第2系統間のイグニッション(IG)電圧の供給経路に設けたフォトカプラの出力電圧値と、第2系統で検出したバッテリ電圧値とに基づいて第2系統のイグニッション(IG)電圧値を演算する。
【0068】
これにより、第2系統の中央制御部は、演算で得たイグニッション電圧値をもとに第2系統におけるイグニッション信号のON/OFF状態を判断することができるので、第2系統においてIG電圧値の判定精度が向上し、IGの入力状態を正確に判定可能となる。
【0069】
さらには、第2系統において正常なIG電圧を得ることで、CAN通信により複数の制御系統に対して高精度のCAN診断を行うことができ、複数の制御系統からなる冗長系の信頼性が向上する。加えて、第1系統と第2系統とでIG電圧値が相違することによる、システム起動停止の動作モードが異なる不具合等を回避できる。
【0070】
また、モータ制御装置を、複数系統を有する冗長構成としたことで、これら複数の制御系統のうちの一系統に故障等が発生しても、他系統による電動モータの駆動により、少なくとも全制御系統が正常時の50%の出力トルクによるモータ駆動を継続できる。
【0071】
例えば、電動パワーステアリング用モータ制御装置において、上述したモータ制御装置により電動モータを駆動制御する構成とすることで、イグニッション電圧の供給経路が第1系統から電気的に絶縁された第2系統においてIG電圧値の判定精度が向上し、IGの入力状態を正確に判定できる。それにより、電動モータを駆動した操舵アシストの継続が可能となる。
【0072】
また、上記の電動パワーステアリング用モータ制御装置を備えた電動パワーステアリングシステムにおいても、同様の技術的効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0073】
1a,1b モータ制御装置
2 ステアリングハンドル
3 回転軸
4 減速ギア
6 ピニオンギア
7 ラック軸
9a,9b トルクセンサ
10 電動パワーステアリングシステム
11a,11b 角度センサ
12a,12b 制御部(CPU)
13a,13b インバータ制御部
14a,14b インバータ回路
15 電動モータ
15a,15b 3相巻線
16a,16b フィルタ
17a,17b 電源リレー
18a,18b 入力I/F
19a,19b CANI/F
20a,20b 電源部
21a,21b 電源管理部
24a,24b IG電圧検出部
27H,27L CAN信号線
27Ha,27Hb CAN-Hライン
27La,27Lb CAN-Lライン
29 バッテリ(BT)電圧検出部
31 イグニッションスイッチ(IG-SW)
33 フォトカプラ
35 IG状態判定部
37 バッテリ電圧補正部
41 第1系統のIG状態
43,43a~43c フォトカプラの出力状態
45 第2系統のIG状態
BT バッテリ