(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】情報機器を用いて作業を行う作業者の作業内容及び集中状態の推定方法
(51)【国際特許分類】
G06F 16/90 20190101AFI20230214BHJP
G06F 3/01 20060101ALI20230214BHJP
A61B 5/16 20060101ALI20230214BHJP
A61B 5/11 20060101ALI20230214BHJP
A61B 5/0245 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
G06F16/90
G06F3/01 510
A61B5/16 110
A61B5/11 100
A61B5/0245 Z
(21)【出願番号】P 2018215752
(22)【出願日】2018-11-16
【審査請求日】2021-11-12
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.刊行物に発表 発行者名:一般社団法人情報処理学会 刊行物名:情報処理学会第80回全国大会講演論文集 第663~664頁 発行年月日:平成30年3月13日 2.集会において発表 集会名:情報処理学会第80回全国大会 開催日:平成30年3月13日 3.刊行物に発表 発行者名:平成30年度電気関係学会東北支部連合大会実行委員会 刊行物名:平成30年度電気関係学会東北支部連合大会プログラム 講演番号2E11 発行年月日:平成30年9月6日 4.集会において発表 集会名:平成30年度電気関係学会東北支部連合大会 開催日:平成30年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
(73)【特許権者】
【識別番号】506429042
【氏名又は名称】日本ビジネスシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】石沢 千佳子
(72)【発明者】
【氏名】景山 陽一
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 雄基
(72)【発明者】
【氏名】白須 礎成
(72)【発明者】
【氏名】清水 剛
【審査官】松尾 真人
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-079645(JP,A)
【文献】特開2005-222155(JP,A)
【文献】特開2016-035365(JP,A)
【文献】特開2012-230534(JP,A)
【文献】松本 佳昭,心拍揺らぎによる精神的ストレス評価法に関する研究,ライフサポート,第22巻 第3号,ライフサポート学会,2010年,p.105-111,Internet<https://www.jstage.jst.go.jp/article/lifesupport/22/3/22_105/_article/-char/ja>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 16/00-16/958
G06F 3/01
A61B 5/16
A61B 5/11
A61B 5/0245
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報機器を使用して作業を行う作業者の集中状態
をコンピューターソフトウエアによる情報処理によって推定
する方法であって、
情報機器からアクティブウィンドウログ及び入力デバイス操作ログを取得する第1の工程と、
前記アクティブウィンドウログ及び前記入力デバイス操作ログを解析し、作業者の作業内容を推定する第2の工程と、
推定される作業内容ごとに予め入力デバイス操作ログ及び生体信号から選択される1以上の指標を選定しておき、第2の工程において推定された作業内容に従って作業者の集中状態の推定に使用する指標を決定する第3の工程と、
前記決定された指標についてデータを解析し、作業者の集中状態を推定する第4の工程と、
を有
し、
前記第2の工程において、アクティブウィンドウログ及び入力デバイス操作ログを解析して、連続して同じソフトウェアが所定時間以上操作対象となっている時間帯を抽出するとともに、一定の時間毎に有効操作数の集計を行い、ソフトウェアの種類と、ソフトウェアの種類によって定められた、連続操作時間帯において有効操作数が所定値以上となる時間帯の有無又は割合とに基づいて、作業内容を推定し、
前記第3の工程において決定される指標が、キーボード打鍵数、脈拍、又は体動であり、
前記第4の工程において、第3の工程において決定される指標がキーボード打鍵数の場合は所定時間毎に集計したキーボード打鍵数の分散値を、脈拍の場合にはローレンツプロット解析によるL/Tの値を、体動の場合は(移動頻度の割合)×(移動量の分散)の値を、当該指標を使用する一連の作業時間全体と、前記作業時間全体のうちの任意の時間とについて算出し、前記作業時間全体について算出した値と、前記任意の時間について算出した値とを比較することにより、作業者の集中状態の推定を行う、
集中状態の推定方法。
【請求項2】
前記情報機器が入力デバイスとしてマウス及びキーボードを備え、第1の工程において取得される前記入力デバイス操作ログがキーボードログ及びマウスログである請求項
1に記載の集中状態の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、情報機器を用いて作業を行う作業者の作業内容及び集中状態の推定方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピュータ(PC)などの情報機器を用いた業務や学習の機会が増加したことに伴い、作業者の作業状況、例えば順調に作業が進んでいるかどうかなどを把握したいという要望が増加している。これまでに、作業者の作業状況を把握する方法として、作業に要した時間とその時間内に行われたキーボード打鍵数から作業効率を推定する方法(特許文献1)、キーボードの打鍵間隔やマウスクリック間隔を用いて在席状況や多忙さを判定する方法(特許文献2)、キーボードとマウスを使用する頻度と椅子を動かす頻度を用いて集中度を推定する方法(特許文献3)、キーボード入力の入力ミスの割合からストレス量を推定する方法(非特許文献1)等が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4251373号公報
【文献】特開2005-332344号公報
【文献】特開平10-254851号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】鳥羽ら「PC操作ログの特徴量とオフィスワーカーのストレス量の相関分析」(電子情報通信学会論文誌,Vol.J95-D,No.4,pp.747-757,2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
情報機器で使用されるソフトウェアは多様であり、作業内容によっては殆どキー入力を行わない場合があるにもかかわらず、従来の作業状況を推定する方法においては、作業内容の違いについてはほとんど考慮されていない。作業者の集中状態の推定を正確に行うためには、例えば文書作成のようなキーボード操作が多く行われる作業と資料閲覧のようなキーボード操作が殆ど行われない作業とを区別し、作業内容に対応する適切な指標を用いて作業者の集中状態を推定する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、作業者の集中状態を推定するに際し、情報機器からログを取得して解析することにより、作業者が行う作業内容を推定することが可能であることを見出した。更に、推定した作業内容に応じて適切な指標を選択し、指標データの解析を行うことにより、作業者の集中状態を推定することが可能であることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0007】
上記課題を解決する本発明は、以下のとおりである。
〔1〕情報機器を使用して作業を行う作業者の作業内容の推定方法であって、情報機器からアクティブウィンドウログ及び入力デバイス操作ログを取得する第1の工程と、前記アクティブウィンドウログ及び前記入力デバイス操作ログを解析し、作業者の作業内容を推定する第2の工程と、を有する、作業内容の推定方法。
【0008】
〔2〕前記情報機器が入力デバイスとしてマウス及びキーボードを備え、前記入力デバイス操作ログとしてキーボードログ及びマウスログを取得する〔1〕に記載の作業内容の推定方法。
【0009】
〔3〕第2の工程が、前記アクティブウィンドウログに記録されているウィンドウハンドル又はウィンドウクラスから特定されるソフトウェアと、マウス及びキーボードの有効操作数とから作業者の作業内容を推定する〔2〕に記載の作業内容の推定方法。
【0010】
〔4〕情報機器を使用して作業を行う作業者の集中状態の推定方法であって、
情報機器からアクティブウィンドウログ及び入力デバイス操作ログを取得する第1の工程と、前記アクティブウィンドウログ及び前記入力デバイス操作ログを解析し、作業者の作業内容を推定する第2の工程と、推定される作業内容ごとに予め入力デバイス操作ログ及び生体信号から選択される1以上の指標を選定しておき、第2の工程において推定された作業内容に従って作業者の集中状態の推定に使用する指標を決定する第3の工程と、
前記決定された指標についてデータを解析し、作業者の集中状態を推定する第4の工程と、
を有する、集中状態の推定方法。
【0011】
〔5〕前記情報機器が入力デバイスとしてマウス及びキーボードを備え、第1の工程において取得される前記入力デバイス操作ログがキーボードログ及びマウスログである〔4〕に記載の集中状態の推定方法。
【0012】
〔6〕第3の工程において決定される指標が、キーボードログ、脈拍、又は体動である〔4〕又は〔5〕に記載の集中状態の推定方法。
【0013】
〔7〕第4の工程において、第3の工程において決定される指標がキーボードログの場合は所定時間毎に集計したキーボード打鍵数の分散値を、脈拍の場合にはローレンツプロット解析によるL/Tの値を、体動の場合は(移動頻度の割合)×(移動量の分散)の値を、当該指標を使用する一連の作業時間全体と、前記作業時間全体のうちの任意の時間とについて算出し、前記作業時間全体について算出した値と、前記任意の時間について算出した値とを比較することにより、作業者の集中状態の推定を行う〔6〕に記載の集中状態の推定方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、情報機器を使用して作業を行う作業者の作業内容を推定し、作業内容に応じて適切な指標を選択して集中状態の推定を行うので、キーボードの使用頻度に関わらず作業者の集中状態を精度良く推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】PCから取得するログの一例を示す図である。
【
図2】アクティブウィンドウログの解析の流れを示すフロー図である。
【
図3】マウスログ及びキーボードログの解析の流れを示すフロー図である。
【
図4】(A)は操作対象となっているウィンドウの経時変化を示す図であり、(B)はログの解析により算出した有効操作数の経時変化を示す図である。
【
図5】ウィンドウのクリック位置によりマウスログに記録されるウィンドウクラスの例を示す図である。
【
図6】本発明の集中状態の推定方法を示すフロー図である。
【
図7】(A)はキーボードログの解析により集中状態を判別する方法を示すフロー図であり、(B)はキーボード打鍵数の経時変化の例を示す図である。
【
図8】(A)は加速度データの解析により集中状態を判別する方法を示すフロー図であり、(B)は計測した加速度データの経時変化の例を示す図である。
【
図10】(A)は脈拍データのローレンツプロット解析により集中状態を判別する方法を示すフロー図であり、(B)は計測した脈拍データの経時変化の例を示す図である。
【
図11】(A)は試験例1において被験者Aが行った調査作業において操作対象となったウィンドウを示す図であり、(B)は被験者Bが同じ作業を行ったときの操作対象となったウィンドウを示す図である。
【
図12】試験例1において、被験者Aが操作したウィンドウと操作量との関係を示す図である。
【
図13】試験例2において、被験者Aが操作対象としたウィンドウの経時変化を示す図である。
【
図14】実施例1において、被験者が操作したウィンドウ、有効操作数、及び推定された作業内容を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔作業内容の推定方法〕
作業者の作業内容の推定は、情報機器からログを取得し、ログを解析することにより行う。情報機器としては、デスクトップ型PCの他、ノートPC、タブレット型端末等を挙げることができる。
【0017】
グラフィック表示による操作体系(GUI:Graphical User Interface)を採用するOS(Operating System)を搭載する情報機器の場合、例えばアクティブウィンドウ(操作対象となっているウィンドウ)などのウィンドウに関するログ、キーボード、マウスなどの入力デバイスの操作に関するログ等を取得することができる。通常、情報機器のOSにはAPI関数が用意されているので、API関数を用いることにより、情報機器からこれらのログを取得することが可能である。情報機器から得られるログの一例を、
図1に示す。
【0018】
アクティブウィンドウログは、操作対象となっているウィンドウに関するログであり、所定の間隔で、例えば1.5~2.0秒毎に記録される。
図1に示すように、アクティブウィンドウログには、時刻、ウィンドウの座標、ウィンドウサイズ、ウィンドウタイトル、ウィンドウハンドル、ウィンドウクラス等が記録されている。ウィンドウハンドルは、個々のウィンドウに割り当てられる固有の識別番号である。ウィンドウクラスは、ウィンドウの種類を示す識別子であり、ソフトウェア毎に固有の名称が定められている。
【0019】
キーボードログは、キーボードのキーを押下時に記録されるログであって、押下時の時刻、キーの種類、キー入力を行ったウィンドウに関する情報(ウィンドウハンドル、ウィンドウタイトル、ウィンドウクラス)等が記録されている。
【0020】
マウスログは、マウスのクリック時に記録されるログであって、操作した時刻、クリックの種類(左クリック、右クリック、クリックダウン、クリックアップ)、座標、ダブルクリックの有無、クリックを行ったウィンドウに関する情報(ウィンドウハンドル、ウィンドウタイトル、ウィンドウクラス)等が記録されている。
【0021】
アクティブウィンドウログの解析は、以下のようにして行う。最初に1件目のログを読み込み、ウィンドウハンドルを確認した後、1件目のログに記録されている時刻(開始時刻)を基準時刻に設定する。次いで、2件目のログを読み込み、
図2に記載の解析フローに従って処理を行う。2件目のログのウィンドウハンドルが1件目と同一か否かを判定し、ハンドルが同一と判断された場合は3件目のログの読み込みを行う。ハンドルが異なっていると判断された場合、2件目のログに記録されているウィンドウクラスを確認し、使用されたソフトウェアを判別する。2件目のログに記録されている時刻から1件目のログの時刻、即ち開始時刻を減算し、2件目のログの時刻を開始時刻からの経過時間を示す時刻に修正する。時刻修正後、3件目のログの読み込みを行う。3件目以降のログについても、2件目のログと同様の処理を繰り返し行い、全てのログについて処理が終了したときにアクティブウィンドウログの解析を終了する。
【0022】
マウスログ及びキーボードログの解析フローの一例を
図3に示す。最初にマウスログ又はキーボードログの1件目のログを読み込み、記録されている時刻をアクティブウィンドウログの開始時刻を基準とする時刻に修正する。修正された時刻に基づいて、アクティブウィンドウログを参照し、該時刻に起動中のアクティブウィンドウを判別する。マウスログの場合にはクリックの種類を判別した後、キーボードログの場合は押されたキーの種類を判別した後、マウスログ又はキーボードログに記録されているウィンドウハンドルとウィンドウクラスを確認する。ウィンドウハンドル、ウィンドウクラスを確認することにより、キーボード、マウスによる入力がどのウィンドウに対する入力かを判別することができるので、同一時間帯の同一ウィンドウへの入力操作を確認することが可能である。マウスログの場合、クリックダウンとクリックアップの操作それぞれがログに記録される。これらは1連の操作とみなすことができるので、1件目のログについてハンドル、クラス確認の処理を行った後、マウスログについては2件先のログ、即ち3件目のログを読み込む。キーボードログの場合は、2件目のログを読み込んで同様の処理を行う。全てのログについて処理が終了した時点で、マウスログ、キーボードログの解析を終了する。
【0023】
アクティブウィンドウログの解析により、使用されたソフトウェアやウィンドウの種類等の情報を得ることができるので、アクティブウィンドウログのみを解析した場合においても、ソフトウェアの使用目的の範囲内で、ある程度の作業内容は推定可能である。しかしながら、同じソフトウェアであっても、使用目的や作業内容により、入力に使用するデバイスの種類、入力の頻度が異なっていると考えられるので、アクティブウィンドウログと入力デバイス操作ログとを組み合わせて解析することにより、作業内容をより詳細かつ正確に推定することが可能となる。
【0024】
以下、本発明の作業内容の推定方法について、
図4を用いて具体的に説明する。
【0025】
図4は、ある作業者がブラウザとワープロソフト(Microsoft Word:登録商標)を使用して作業を行った場合に、本発明を用いて推定した作業内容を時系列で示した図である。
図4(A)は、ブラウザとWordが操作対象となっていた時間帯を示し、
図4(B)は、10秒毎に集計したキーボードとマウスの有効操作数を示している。
【0026】
(1)連続操作時間帯の抽出
アクティブウィンドウログの解析により、それぞれの時刻で作業者が使用しているソフトウェアの種類が判明するので、作業時間全体のうち、連続して同じソフトウェアが所定時間以上操作対象となっている時間帯、即ち連続操作時間帯を抽出する。ただし、
図4中、矢印aで示した時間帯のように、ソフトウェアの連続操作時間が所定時間に満たない場合、その時間帯は抽出の対象とはしない。この場合において、矢印b及びcで示す時間帯のように、当該時間帯の前後で同じソフトウェアを所定時間以上連続使用している場合は、当該時間帯とその前後の時間帯を、一連の連続操作時間帯とみなす。
図4中、I~IVは、抽出の基準を60秒以上の連続時間とした場合に抽出された連続操作時間帯を示す。
【0027】
(2)有効操作数の集計
作業時間内に行われたキーボード及びマウスの各操作について有効か否かを判定し、一定の時間毎に、例えば10秒毎に集計を行う。キーボード及びマウス操作が有効か否かの判定は、以下の基準で行う。キーボード操作については、アクティブウィンドウに対する入力を有効と判定する。マウスについては、アクティブウィンドウに対する操作であって、以下(i)~(v)のいずれかの操作を行っている場合に有効と判定する。
(i)リンクやタブのクリック(表示ページを切り替える操作に相当)
(ii)ウィンドウ内のメニューやツールバーなどのクリック
(iii)クリック中のポインタの移動(ドラッグ&ドロップ操作に相当)
(iv)右クリックまたはホイールボタンの押下
(v)入力位置の変更
【0028】
ブラウザとしてInternet Explorer(登録商標)を使用する場合に、ログに記録されるウィンドウクラスの例を
図5に示す。ウィンドウのクリック位置によってログに記録されるウィンドウクラスは異なるので、ウィンドウクラスを確認することによりアクティブウィンドウに対する上記(i)~(v)のいずれかのマウス操作か否かの判定を行うことができる。
【0029】
有効操作数の集計は、作業時間の長さに応じて1~30秒毎とすればよいが、例えば、30分程度の作業時間では5秒毎に行うことが好ましい。
【0030】
(3)作業内容の推定
Word使用中は、作業者が主として文書作成を行っていると考えられる。Wordの連続操作時間帯における有効操作数を参照し、一定の時間毎に集計した有効操作数が<値1>以上である時間の合計を求める。求めた合計時間の長さが、Wordの連続操作時間帯のうち一定の割合<値2>以上であれば、当該連続操作時間帯の作業内容を「文書作成」と推定する。一方、求めた合計時間の長さが<値2>に満たなければ「作業なし」と推定する。
ブラウザ使用中は、作業者が情報検索の他に、資料閲覧や動画閲覧といったサイト視聴を行い、情報検索を行う際は入力操作がサイト視聴に比較して多くなると考えられる。ブラウザの連続操作時間帯における有効操作数を参照し、一定の時間毎に集計した有効操作数が<値3>以上である時間帯が存在する場合、当該連続操作時間帯の作業内容を「情報検索」と推定する。一方、一定の時間毎に集計した有効操作数が何れも<値3>に満たない場合は「サイト視聴」と推定する。
文書作成と情報検索を合計で30分程度行い、有効操作数の集計を5秒毎とする場合は、例えば、<値1>を3回、<値2>を50%、<値3>を3回と設定することにより、作業内容の推定を行うことができる。
【0031】
(1)において連続操作時間帯として抽出対象とはならない時間帯のうち、短時間の時間帯が交互に存在する時間帯(
図4中、Xで示される時間帯)は、作業者が情報検索又はサイト視聴と文書作成を平行して行っていると考えられる。この場合は、交互に存在する短時間の時間帯を、同じソフトウェアについて連結し、連結した時間の長さが所定時間(例えば、60秒)以上となれば、交互に行われた作業内容が関連のあるものと判断し、上述した連続操作時間帯の場合と同様の方法を用いて作業内容を推定する。一方、同じソフトウェアについて連結した時間の長さが所定時間(60秒)未満の場合、そのソフトウェアについては作業内容の推定は行わない。
【0032】
短時間の時間帯が交互に存在する時間帯における作業内容の推定は、以下のように行う。
【0033】
はじめに、Wordの短時間操作時間帯を合計した時間帯について、上述した連続操作時間帯と同様の方法を用い、作業内容の仮推定を行う。各短時間操作時間帯の、一定の時間毎に集計した有効操作数が<値1>を超えた時間について合計し、合計時間が、Wordの短時間操作時間帯の合計時間のうち、一定の割合<値2>以上の場合、「文書作成」と仮推定し、<値2>に満たない場合には「作業なし」と仮推定する。ブラウザの短時間操作時間帯については、各短時間操作時間帯のそれぞれについて、一定の時間毎に集計した有効操作数が<値3>以上である時間帯が存在する場合は「情報検索」、存在しない場合は「サイト視聴」と仮推定する。ブラウザの短時間操作時間帯については、各短時間操作時間帯について推定を行うので、情報検索、サイト視聴のいずれかのみが推定される場合と、情報検索、サイト視聴の両方について推定される場合とがある。次に、Wordとブラウザの短時間操作時間帯について仮推定された結果を組み合わせ、「文書作成と情報検索」、「文書作成とサイト視聴」、「文書作成と情報検索とサイト視聴」、「情報検索」、「サイト視聴」、「情報検索とサイト視聴」のように推定する。短時間操作時間帯の作業内容の推定に使用する<値1>、<値2>、及び<値3>の値は、上述した連続操作時間帯と同じ値を使用する。
【0034】
図4に記載する作業内容は、<値1>を3回、<値2>を50%、<値3>を3回とし、上述した方法を用いて推定された各時間帯の作業内容を示している。Wordの連続使用時間帯であるII及びIVの時間帯は「文書作成」、ブラウザの連続使用時間帯であるI及びIIIの時間帯は「情報検索」、Wordとブラウザの操作時間帯が交互に存在するXの時間帯は、「情報検索及び文書作成」と推定されている。
【0035】
作業者の経験や慣れ等によって操作のくせ、偏り等が存在することが考えられるので、上記の<値1>~<値3>は、作業者ごとに適宜設定してもよい。
【0036】
以上、作業者がワープロソフトとブラウザを使用して作業する場合の作業内容の推定方法について説明したが、他のソフトウェア、例えば、表計算、データベース、グラフィック、電子メール等を作業者が使用する場合であっても、同様の方法、即ち同一のソフトウェアが操作対象になっている連続操作時間帯における有効操作量に基づいて、作業内容の推定を行うことができる。作業者が作業時間内に操作するソフトウェアの数は3以上であってもよいし、1であってもよい。また、1のソフトウェアについて推定される作業内容は1であってもよいし、3以上であってもよい。2以上のソフトウェアを短時間で切り替えながら作業を行っている場合等は、その時間帯において推定される作業内容は1であってもよいし、2又は3以上であってもよい。
【0037】
上述した方法により推定が可能となる作業内容としては、例えば文書作成、情報検索、サイト視聴、データ管理、グラフィック作成、メール作成、プログラムソースコーディング、ファイル検索等の作業内容のほか、作業の状態、例えば作業を行っていない「作業なし」の状態や、作業内容とは関係のない動画等を視聴しながら作業を行う、いわゆる「ながら作業」等についても推定が可能である。
【0038】
〔集中状態の推定方法〕
図6は、作業者の集中状態の推定方法の一例を示すフローチャートである。
本発明の集中状態の推定方法は、情報機器からウィンドウログ及び入力デバイス操作ログを取得するログ取得工程(第1の工程)S1と、ログ取得工程において取得したログを解析し、作業者の作業内容を推定する作業内容推定工程(第2の工程)S2と、作業内容推定工程において推定された作業内容に従って指標を決定する指標決定工程(第3の工程)S3と、前記指標についてデータを取得し、解析を行う集中状態推定工程(第4の工程)S4と、を有している。
【0039】
ログ取得工程S1において情報機器から取得するログは、アクティブウィンドウログ等のウィンドウログ、マウスログ、キーボードログ等の入力デバイス操作ログである。これらのログの取得方法及び工程S2におけるログの解析、作業内容の推定方法は、上述した方法と同様である。
【0040】
工程S3における指標の決定は、以下のようにして行う。工程S2において推定される作業内容毎に、予め集中状態の推定に使用する指標を選定しておき、この選定に従って集中状態の推定に使用する指標を決定する。文書作成、メール作成、プログラムソースコーディングなどのキーボード操作が多い作業の場合、集中状態の推定にはキーボードログを使用することが好ましく、情報検索、サイト視聴などのキーボード操作が少ない作業の場合は生体信号を指標とすることが好ましい。
【0041】
集中状態の推定に使用する生体信号としては、心拍、呼吸数、脈拍、体動、眼球運動、視線の変化、瞬き、脳波等を挙げることができる。データの取得が容易であることから、脈拍又は体動を使用することが好ましい。体動は、例えば作業者が作業時に使用する椅子の背もたれの背面に加速度計を取り付けることにより、脈拍は作業者が脈拍計を装着することにより計測が可能である。加速度計のセンサとしては、1軸、2軸、3軸のものをいずれも使用することができるが、3軸のセンサを備えた加速度計を使用して作業者の左右方向(水平方向)、上下方向(垂直方向)及び前後方向(奥行方向)の加速度についてのデータを取得することにより、より精度良く作業者の集中状態を推定することが可能である。
【0042】
集中状態の推定に使用する指標は、1つでもよいし、2以上を組み合わせて使用してもよい。2以上の指標を用いる場合、入力デバイス操作ログのみ、あるいは生体信号のみを指標として用いてもよいし、入力デバイス操作ログと生体信号とを組み合わせて用いてもよい。より正確に推定を行う観点から、入力デバイス操作ログと生体信号とを組み合わせて使用することが好ましい。
【0043】
作業内容により予め選定しておく指標は、異なる作業者間で同じ指標であってもよいし、異なる指標であってもよい。作業者によって、打鍵のくせ、作業の経験等により集中状態が反映される指標が異なると考えられることから、作業者毎に異なる指標を選定しておくことが好ましい。
【0044】
工程S4において、指標データの取得は、それぞれの指標に応じた公知の方法を採用することができる。指標データの取得は、それぞれの指標が集中状態の推定のために必要とされる時間帯についてのみ行えばよいが、集中状態の推定に使用する全ての指標について作業開始から作業終了まで連続してデータを取得し、必要な時間帯のデータのみ抽出して解析を行ってもよい。
【0045】
工程S4における指標データの解析は、例えば以下のようにして行う。
【0046】
指標としてキーボードログを使用する場合の解析の一例を
図7に示す。
図7(A)はキーボードログによる集中状態判別フロー、
図7(B)は5秒毎に集計した打鍵数の例である。最初にキーボードログを解析し、打鍵数を一定時間毎、例えば5秒毎に集計する。次いで、キーボードログを指標として用いる一連の作業時間全体における打鍵数の分散Aを算出する。キーボードログを指標として用いる一連の作業時間全体を、作業時間全体に対する20%~50%程度の任意の時間で分割し、各分割した時間帯について、打鍵数の分散Bを算出する。分散Bが分散Aより大きい場合に当該時間帯を集中状態と判定し、分散Bの値が分散Aの値以下の場合には当該時間帯を非集中状態と判定する。
【0047】
指標として体動を使用する場合の解析の一例を
図8に示す。
図8(A)は、体動による集中状態判別フロー、
図8(B)は、計測された加速度データの例である。
図8中、X方向は作業者の左右方向(水平方向)、Y方向は作業者の上下方向(垂直方向)、Z方向は作業者の前後方向(奥行方向)である。まず、X方向、Y方向、Z方向の移動量について加速度計のデータを取得し、体動を指標として用いる一連の作業時間全体における(移動頻度の割合)×(移動量の分散)の値Aを算出する。体動を指標として用いる一連の作業時間全体を、作業時間全体に対する20%~50%程度の任意の時間で分割し、各分割した時間について、(移動頻度の割合)×(移動量の分散)の値Bを算出する。値Bが値Aより小さい場合に集中状態と判定し、値Bが値A以上の場合には非集中状態と判定する。
【0048】
指標として脈拍を用いる場合、集中状態の推定はローレンツプロット解析により行う。ローレンツプロット解析は、心拍変動におけるRR間隔(RRI)の変動に着目した解析であって、交感神経の活動状態の指標として知られている。ローレンツプロット解析は、k番目のRRIをx座標、k+1番目のRRIをy座標としてx-y平面上にプロットしたときに得られる楕円の長軸L(y=xの線と平行)と短軸T(y=xの線に対し垂直)の比率L/Tを求めることにより行う。
【0049】
ローレンツプロットの一例を
図9に示す。ローレンツプロットは、一般的に楕円状に分布するが、広がりが小さいほどストレスがかかっている状態であることが知られている。L/Tはリラックス状態になるほど値が大きくなり、ストレス状態になるに従い値が小さくなる。本発明者は、後述する試験例3のように脈拍を用いたローレンツプロット解析を行ったところ、作業者の集中状態によりL/Tの値が変化することを見出した。従って、脈拍のデータをローレンツプロット解析してL/T値を算出することにより、作業者の集中状態を推定することが可能である。
【0050】
指標として脈拍を用い、ローレンツプロット解析を行う場合の解析の一例を
図10に示す。
図10(A)は、脈拍による集中状態判定フロー、
図10(B)は、脈拍データの例である。最初に、脈拍を指標として用いる一連の作業時間全体におけるローレンツプロットの長軸Lと短軸Tの比率(L/T値)Aを算出する。脈拍を指標として用いる一連の作業時間全体を、作業時間全体に対する20%~50%程度の任意の時間で分割し、各分割した時間帯のデータについて長軸と短軸の比率(L/T値)Bを算出する。比率Bが比率Aより小さい場合に集中状態にあると判定し、そうでない場合、即ち比率Bが比率A以上の場合は非集中状態と判定する。
【0051】
なお、上述した説明においては、作業時間全体のデータから算出される値Aを閾値とし、任意の時間帯のデータから算出した値Bを値Aと比較して集中状態の判定を行ったが、値Aを基準として、値Aとは異なる閾値を設定してもよい。集中状態の推定は、上述したように集中状態又は非集中状態の二段階で行っても良いし、閾値を複数設定して三段階以上の状態に段階的に分類して行ってもよい。
【実施例】
【0052】
試験例1
Microsoft Windows(登録商標)が搭載されたPCを使用し、被験者が設定されたテーマについてインターネットで調査を行い、調査結果をWordファイルにまとめる作業を行った。被験者は提示された6つのテーマの中から1つのテーマを選定し、30分間作業に従事した。行った作業内容及び作業に要した時間を被験者自らメモ用紙に記入し、さらにビデオカメラを用いて作業中の様子を撮影した。被験者は、PCを日常的に使用している20代の大学生及び大学院生10名(A~J)である。
【0053】
入力作業と作業内容の関連を検討するため、API関数を用い、ウィンドウログ、マウスログ、キーボードログを取得した。各ログに記録された情報を表1に示す。ウィンドウログは一定時間(1.6秒)毎に、マウスログはクリック時に、キーボードログはキーボード押下時に取得した。ウィンドウハンドル、タイトル、クラスは、操作対象のウィンドウに関する情報が記録された。マウスログでは、クリックされた位置に基づいてウィンドウハンドル、ウィンドウクラスが記録された。
【0054】
【0055】
同じテーマを選択した被験者A、Bのウィンドウ操作時間の例を
図11(A)、(B)に示す。さらに、被験者Aの操作時間と操作量の比較を
図12に示す。操作量は、操作が有効かどうか判断することなく、マウスのクリック回数及びキーボードの押下回数を合計した数である。
【0056】
図11(A)より、被験者Aでは主な操作対象ウィンドウ(一定時間以上連続して操作対象となるウィンドウ)が途中から切り替わっていることがわかる。一方、
図11(B)より、被験者Bは、主な操作対象ウィンドウが何度も切り替わっていることがわかる。以上の結果は、被験者による作業メモ及び撮影された映像においても同様に確認された。また、他の被験者においても被験者A、Bと同様の2種類の作業パターンが認められた。
【0057】
図12より、ブラウザ操作中には操作量が少なく、Word操作中には操作量が多いことがわかる。これは、Wordにおける作業が文字の入力であるためと考えられる。以上の結果は、他の被験者においても同様に認められた。従って、Word操作時間における操作量に着目することにより、文書作成の有無を把握可能であると考えられる。
【0058】
試験例2
被験者がインターネット上の動画を視聴しながら文書を作成する作業を行ったときのログを取得した。取得したログに記録された情報は、表1と同様である。文書を作成しながら動画を視聴してもらうために、動画の内容に関するアンケートを行うことを事前に被験者に伝え、試験終了後に動画に関するアンケート調査を行った。さらに、ビデオカメラを用いて作業中の様子を撮影した。被験者は、試験例1を行った被験者10名のうちの5名A~Eである。
【0059】
被験者Aのウィンドウ操作時間を
図13に示す。試験例1の調査作業の場合(
図11(A))と比較すると、「ながら作業」における主な操作対象ウィンドウはWordから切り替わらないことがわかる。この結果は、他の被験者においても同様であった。従って、「調査作業」と「ながら作業」におけるログのパターンは異なることが明らかとなった。
【0060】
<変更を加える操作の検討>
取得したマウスログの中には、ウィンドウ操作に影響しない操作のログも記録されている。作業内容の推定を行うためには、ウィンドウに対する操作に有意な操作を判別する必要があると考えられる。そこで、ウィンドウに変更を加えるマウス操作を判別する方法について検討を行い、ウィンドウに変更を加える操作を上述した(i)~(v)のように定義した。
【0061】
図5に示すように、マウスログでは、1つのウィンドウにおいてもクリックする位置によって取得されるウィンドウクラスが異なる。ウィンドウに有意な操作を判別するために、複数のログに着目する必要がある。例えば、ページ遷移の場合、ウィンドウログのタイトルが変化する直前のマウスログを参照することでマウス操作によってページ遷移が実行されたか否かを判別することが可能になる。ログについて解析を行い、ウィンドウに変更を加えるクリック操作の集計を行った。
【0062】
試験例1及び2において被験者が作業中に行ったクリック操作の総数と、ウィンドウに変更を加えるクリック操作数を表2及び3に示す。
【0063】
【0064】
【0065】
表2及び3を比較すると、「調査作業」と「ながら作業」でWordにおける変更操作の割合は被験者毎に1~7%だけ異なり、「ながら作業」と「調査作業」との間で大きな差異は認められない。一方、ブラウザにおける変更操作の割合は8~50%異なり、被験者によって大きな差異が認められる。「ながら作業」と「調査作業」では、ブラウザに対する操作が異なったためと推測される。従って、ブラウザに対する変更操作の割合を把握することは、「調査作業」と「ながら作業」の判別を可能にすると考えられる。
【0066】
試験例3
被験者が紙に書かれた4種類の文書の内容を順にWordファイルに入力する作業を30分間行ったときのPC操作ログと生体信号(脈拍、体動)を取得した。取得したログに記録された情報は、表1と同様である。脈拍の測定には腕時計型の脈拍計(EPSON:登録商標、PS-600B)を使用した。体動は、作業者が作業を行うときに使用する椅子の背もたれの後ろに3軸センサの加速度計(GRAPHTEC:登録商標、GL100-WL)を取り付け、椅子の動きから体動を計測した。
【0067】
集中時のPC操作ログの特徴や得られる特徴について検討するためには、被験者が作業を行った時間帯から集中していた時間帯を検出する必要がある。そこで、集中していた時間帯の確認に用いるため、ビデオカメラを用いて作業中の様子を撮影した。文書を1種類入力し終える度に、1分間の休憩時間を設けた。作業終了時には、被験者に集中していた時間帯について主観的に評価してもらった。被験者はPCを日常的に使用している20代の大学生及び大学院生23名(A~W)である。
【0068】
被験者による主観的評価とビデオカメラによる映像・成果物から被験者が集中していた時間帯を決定した。主観的評価では、集中していたと感じていたときに入力していた文章の位置や入力時の状態について回答してもらった。その結果、作業開始時は、「普段使用するキーボードと違い、操作に慣れない」、作業終了間際には、「疲れを感じた」などの回答を得た。また、多くの被験者が3つ目の文書の入力を行っている途中で終了時間になった。慣れや疲れによる影響が少ないと考えられる2つ目の文書の入力を行っていた時間帯に着目し、この間に「集中していた」と回答した時間帯を集中時と定義した。2つ目の文書入力作業中に集中時が存在する被験者15名を対象として、脈拍、体動、PC操作量と集中状態との関連について、検討を行った。
【0069】
<脈拍>
計測された脈拍データについてローレンツプロット解析を行った。楕円の長軸Lと短軸Tの比率L/Tを求めた。
【0070】
各被験者のL/Tの値を表4に示す。集中時のL/Tの値は、文書2全体よりも低くなる傾向が認められた。これは、集中時には交感神経の活動が活発になり、ストレスがかかったためと考えられる。
【0071】
【0072】
さらに、RRIの標準偏差と平均値の割合である変動係数(Coefficient of variation of R-R Interval、以下CV-RR)を算出した。CV-RRは、副交感神経活動の指標として用いられており、一般的にリラックス状態になるほど値が大きくなる。CV-RRの値を表5に示す。集中時のCV-RRの値は、文書2全体よりも低くなる傾向が認められた。
【0073】
【0074】
<体動>
集中度や関心が低い場合、体動の生起頻度は多くなることが知られている。作業に集中しているときは体動が少なくなると仮定し、加速度データの3軸方向の値を合成し、集中状態との関係を検討した。
【0075】
被験者における体動の多さおよび激しさに着目することで、集中の有無が判定可能であると仮定し、椅子を動かす頻度とその変化量を用いた特徴量を算出した。キーボード操作時には反動で体動が微小に動くと考えられるため、上記2種類のパラメータを用いて、操作時の体動であるかそれとも非集中時の体動であるかの判別を行い、評価が可能になると考えた。そこで、椅子を動かす頻度の割合と、変化量の分散値を掛け合わせた値を体動の特徴量として算出した。
【0076】
各被験者の特徴量を表6に示す。全体の時間と集中時における特徴量を比較すると、15名中10名の被験者において、集中時に特徴量が低くなる傾向が認められる。これは、「集中時に体動の変化が少なくなる」という仮定と一致している。従って、椅子を動かす頻度の割合と変化量の分散値を掛け合わせた特徴量を用いて、集中状態か否かの判別が可能になると考えられる。
【0077】
【0078】
<PC操作量>
取得したPC操作ログを解析し、操作量を算出した。この作業ではマウスのクリックはほとんど行われていなかったため、キーボードの押下回数のみを集計して操作量とした。
操作量を5秒毎、及び25秒毎にカウントし、分散値を算出した。算出した各被験者の操作量の分散値を表7及び8に示す。
【0079】
【0080】
【0081】
表7から、集中時には文書2の入力時間全体よりも操作量の分散値が高くなる傾向が認められる。表8においても同様の傾向が認められた。更に、集計時間を他の時間に変更した場合においても同様の傾向が認められた。これらの結果から、集中時の操作量は、全体時間と比較してばらつきが生じていることがわかる。従って、PC操作ログから解析される操作量のばらつきに着目することによって、集中状態の有無が判別できる可能性があると考えられる。
【0082】
脈拍を用いたローレンツプロット解析、体動の特徴量、及び打鍵数(操作量)の分散値について、被験者毎の結果を表9に示す。
【0083】
【0084】
打鍵数によって集中状態を推定可能と考えられる被験者は15名中11名、脈拍によって推定可能と考えられる被験者は15名中11名であり、これらの被験者のうち9名が一致した。打鍵数と脈拍の結果を組み合わせることにより、集中状態の推定結果の信頼性が向上すると推測される。
【0085】
表4に記載のように、L/Tについては被験者C、E、L、Nが他の被験者とは異なる結果を示した。また、体動については、表6に記載のように、被験者B、F、G、H、Kが異なる結果を示し、操作量では被験者L、M、Oが5秒毎、25秒毎ともに異なる結果を示した。ただし、被験者B、C、E、F、G、H、K、M、Oは、異なる結果を示した指標以外において、他の被験者と同様の傾向を示している。これは、癖や経験などによる個人差が存在することに起因していると考えられる。従って、1種類のみの指標を用いて集中状態の有無を判別するのではなく、複数の指標を用いて判別する方法が有効であると考えられる。
【0086】
実施例1
ブラウザとWordを使用し、被験者が行った作業についてPC操作ログを取得、解析して被験者が行った作業内容を推定した。
【0087】
図14は、被験者が操作したソフトウェアと、10秒毎に集計した有効操作数を時系列で示す図である。
【0088】
作業時間全体から、60秒以上連続して同じソフトウェアを操作している時間帯を抽出し、各時間帯について有効操作数を調査した。アクティブウィンドウログ、マウスログ、キーボードログの解析は、
図2及び3のフローに従って行い、作業内容は表10に示す条件により推定を行った。各時間帯について推定した作業内容は、作業者が実際に行った作業内容と一致するものであった。
【0089】