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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】磁場測定システム
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/02 20060101AFI20230214BHJP
   G01R 33/10 20060101ALI20230214BHJP
   G01R 33/025 20060101ALI20230214BHJP
   A61B 5/05 20210101ALI20230214BHJP
【FI】
G01R33/02 X
G01R33/10
G01R33/025
G01R33/02 R
A61B5/05
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020519551
(86)(22)【出願日】2019-04-25
(86)【国際出願番号】 JP2019017557
(87)【国際公開番号】W WO2019220907
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2021-12-24
(31)【優先権主張番号】P 2018094469
(32)【優先日】2018-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519062764
【氏名又は名称】スピンセンシングファクトリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関根 孝二郎
【審査官】青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-167032(JP,A)
【文献】特開2012-081000(JP,A)
【文献】特表2016-540537(JP,A)
【文献】特開2009-045198(JP,A)
【文献】特開2002-272695(JP,A)
【文献】特開2018-007821(JP,A)
【文献】特開2012-152514(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/02
G01R 33/10
G01R 33/025
A61B 5/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物に対する位置が固定されるように前記測定対象物に装着可能な磁場測定ユニットであって、前記測定対象物からの磁場を測定する測定磁気センサーと、前記磁場測定ユニットの運動を検出する運動検出センサーとを一体に有した磁場測定ユニットと、
前記磁場測定ユニットが装着された前記測定対象物を含有する空間の環境磁場を測定する環境磁気センサーと、
前記測定磁気センサーによる測定磁場信号と、前記運動検出センサーによる運動検出信号と、前記環境磁気センサーによる環境磁場信号とに基づき、測定値を算出する演算装置を備え、
前記演算装置は、前記測定磁場信号の測定時の前記測定磁気センサーの位置と移動速度に応じた当該位置における環境磁場と誘導磁場を前記運動検出信号及び前記環境磁場信号に基づき推算し、同推算に係る環境磁場と誘導磁場を当該測定磁場信号から差し引いて測定値とする磁場測定システム。
【請求項2】
前記測定磁気センサーは、前記測定対象物からの磁場分布を測定する請求項1に記載の磁場測定システム
【請求項3】
前記測定磁気センサーと、前記運動検出センサーとが、同一半導体基板上に集積されるか又は同一回路基板上に実装されて一体化された請求項1又は2に記載の磁場測定システム
【請求項4】
測定対象物に対する位置が固定されるように前記測定対象物に装着可能な磁場測定ユニットであって、前記測定対象物からの磁場を測定する測定磁気センサーと、前記磁場測定ユニットの運動を検出する運動検出センサーとを一体に有した磁場測定ユニットと、
前記磁場測定ユニットが装着された前記測定対象物を含有する空間の環境磁場を測定する環境磁気センサーと、
前記測定磁気センサーによる測定磁場信号と、前記運動検出センサーによる運動検出信号と、前記環境磁気センサーによる環境磁場信号とに基づき、測定値を算出する演算装置を備え、
前記演算装置は、
前記測定磁気センサーから前記測定磁場信号を取得する第1ステップと、
前記運動検出センサーから前記運動検出信号を取得する第2ステップと、
前記環境磁気センサーから前記環境磁場信号を取得する第3ステップと、
前記第3ステップにおいて取得した前記環境磁場信号と、前記第2ステップにおいて取得した前記運動検出信号とに基づいて、前記第1ステップにおいて取得した前記測定磁場信号を補正して測定値とする第4ステップと、が実行可能にされ、
前記第1ステップにおける前記測定磁場信号の取得時の前記測定磁気センサーの位置及び移動速度を、前記第2ステップにおいて取得した前記運動検出信号に基づき算出する第8ステップと、
前記第8ステップにおいて算出した前記位置における環境磁場を、前記第3ステップにおいて取得した前記環境磁場信号に基づき推算する第9ステップと、
前記第8ステップにおいて算出した前記位置における誘導磁場を、前記第3ステップにおいて取得した前記環境磁場信号と、前記第8ステップにおいて算出した前記移動速度とに基づき推算する第10ステップと
前記第9ステップにおいて推算した前記環境磁場と、前記第10ステップにおいて推算した前記誘導磁場とを、前記第1ステップにおいて取得した前記測定磁場信号から差し引く第11ステップと、が前記第4ステップに含まれる磁場測定システム。
【請求項5】
前記測定磁気センサーは、前記測定対象物からの磁場分布を測定する請求項4に記載の磁場測定システム。
【請求項6】
前記測定磁気センサーと、前記運動検出センサーとが、同一半導体基板上に集積されるか又は同一回路基板上に実装されて一体化された請求項4又は5に記載の磁場測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁場測定に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気測定装置、特に測定対象物から発生する磁場の2次元又は3次元分布を測定する磁場分布測定装置は、異常箇所の検出性に優れ、非破壊検査や医学の分野において測定対象物の異常等の状態を診断することに役立つ。
測定対象物が人その他の生物である場合など、測定中における測定対象物の移動が避けられない場合がある。磁気センサーが固定された測定対象物が移動すると、磁気センサー自体も移動して測定点が変化するからその測定点における環境磁場の磁場強度も変化する。また、環境磁場中の移動によって誘導磁場が発生する。したがって、移動により変化し得る環境磁場と誘導磁場が磁気センサーによって測定されるため、測定対象物から発生する磁場成分を正確に評価することができない。
【0003】
特許文献1に記載の発明は、地磁気を測定対象とした携帯端末において、地磁気センサーの検出データの変化が、端末移動によるものか外部ノイズによるものかを、加速度センサーの検出データ、ジャイロスコープの検出データに基づき判断する。同発明においては、所定値以上の移動が検出されたときも、地磁気センサーの検出データには、地磁気センサーの移動によって変化し得る環境磁場及び誘導磁場が含まれたままである。
特許文献2に記載の生体磁気計測装置にあっては、生体磁場測定と前後して、被験体に付着される発振コイルからの磁場を測定して被験体の動きを検出し、被験体が動いたときの生体磁場データを破棄する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-29236号公報
【文献】特開平9-173313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上の従来技術にあっては、磁気センサーの移動によって変化し得る環境磁場や誘導磁場を、当該磁気センサーの測定信号から除くことはなかった。
しかしながら、磁気センサーの移動によって変化し得る環境磁場や誘導磁場が測定信号に含まれていると、測定対象物から発生する磁場成分を正確に評価することはできない。特に生体磁気測定においては、測定対象物から発生する磁場成分は非常に微弱であり、影響が大きい。
したがって、測定対象物が動き得る場合、特許文献2に記載のように測定対象物に動きがあった場合の測定データを破棄するほかなかった。
測定対象物が動かないように拘束する場合、測定対象物が人その他の生物である場合は、その生物に対する負担が大きく、また完全に動かないようにすることは困難であるという問題がある。
【0006】
本発明は以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであって、測定対象物に固定した磁気センサーにより当該測定対象物から発生する磁場を測定する構成において、測定対象物を拘束することなく、測定対象物及び磁気センサーの移動中の当該磁気センサーによる測定磁場信号に基づく測定も含めて、測定対象物から発生する磁場成分を精度よく測定することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するための請求項1記載の発明は、測定対象物に対する位置が固定されるように前記測定対象物に装着可能な磁場測定ユニットであって、前記測定対象物からの磁場を測定する測定磁気センサーと、前記磁場測定ユニットの運動を検出する運動検出センサーとを一体に有した磁場測定ユニットと、
前記磁場測定ユニットが装着された前記測定対象物を含有する空間の環境磁場を測定する環境磁気センサーと、
前記測定磁気センサーによる測定磁場信号と、前記運動検出センサーによる運動検出信号と、前記環境磁気センサーによる環境磁場信号とに基づき、測定値を算出する演算装置を備え、
前記演算装置は、前記測定磁場信号の測定時の前記測定磁気センサーの位置と移動速度に応じた当該位置における環境磁場と誘導磁場を前記運動検出信号及び前記環境磁場信号に基づき推算し、同推算に係る環境磁場と誘導磁場を当該測定磁場信号から差し引いて測定値とする磁場測定システムである。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載の磁場測定システムであり、
前記測定磁気センサーは、前記測定対象物からの磁場分布を測定する。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2に記載の磁場測定システムであり、
前記測定磁気センサーと、前記運動検出センサーとが、同一半導体基板上に集積されるか又は同一回路基板上に実装されて一体化された。
【0010】
請求項4記載の発明は、測定対象物に対する位置が固定されるように前記測定対象物に装着可能な磁場測定ユニットであって、前記測定対象物からの磁場を測定する測定磁気センサーと、前記磁場測定ユニットの運動を検出する運動検出センサーとを一体に有した磁場測定ユニットと、
前記磁場測定ユニットが装着された前記測定対象物を含有する空間の環境磁場を測定する環境磁気センサーと、
前記測定磁気センサーによる測定磁場信号と、前記運動検出センサーによる運動検出信号と、前記環境磁気センサーによる環境磁場信号とに基づき、測定値を算出する演算装置を備え、
前記演算装置は、
前記測定磁気センサーから前記測定磁場信号を取得する第1ステップと、
前記運動検出センサーから前記運動検出信号を取得する第2ステップと、
前記環境磁気センサーから前記環境磁場信号を取得する第3ステップと、
前記第3ステップにおいて取得した前記環境磁場信号と、前記第2ステップにおいて取得した前記運動検出信号とに基づいて、前記第1ステップにおいて取得した前記測定磁場信号を補正して測定値とする第4ステップと、が実行可能にされ、
前記第1ステップにおける前記測定磁場信号の取得時の前記測定磁気センサーの位置及び移動速度を、前記第2ステップにおいて取得した前記運動検出信号に基づき算出する第8ステップと、
前記第8ステップにおいて算出した前記位置における環境磁場を、前記第3ステップにおいて取得した前記環境磁場信号に基づき推算する第9ステップと、
前記第8ステップにおいて算出した前記位置における誘導磁場を、前記第3ステップにおいて取得した前記環境磁場信号と、前記第8ステップにおいて算出した前記移動速度とに基づき推算する第10ステップと
前記第9ステップにおいて推算した前記環境磁場と、前記第10ステップにおいて推算した前記誘導磁場とを、前記第1ステップにおいて取得した前記測定磁場信号から差し引く第11ステップと、が前記第4ステップに含まれる磁場測定システムである。
【0011】
請求項5記載の発明は、請求項4に記載の磁場測定システムであり、
前記測定磁気センサーは、前記測定対象物からの磁場分布を測定する
【0012】
請求項6記載の発明は、請求項4又は5に記載の磁場測定システムであり、
前記測定磁気センサーと、前記運動検出センサーとが、同一半導体基板上に集積されるか又は同一回路基板上に実装されて一体化された。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、測定対象物に固定した磁気センサーにより当該測定対象物から発生する磁場を測定する構成において、測定対象物を拘束することなく、測定対象物及び磁気センサーの移動中の当該磁気センサーによる測定磁場信号に基づく測定も含めて、測定対象物から発生する磁場成分を精度よく測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る磁場分布測定システムを示す斜視図である。
図2】本発明の一実施形態に係る磁場分布測定システムを示す平面模式図である。
図3】本発明の一実施形態に係る磁場分布測定システムを示す平面模式図であり、図2とは環境磁気センサーの設置数が異なる。
図4】本発明の一実施形態に係る磁場分布測定システムを示す平面模式図であり、図2及び図3とは環境磁気センサーの設置数が異なる。
図5】本発明の一実施形態に係る磁場分布測定システムを示す平面模式図である。
図6】本発明の一実施形態に係る磁場分布測定システムにおける演算内容を示すフローチャートである。
図7】サブルーチン(第4ステップ)の内容を示すフローチャートであり、移動速度が無い場合を示す。
図8】サブルーチン(第4ステップ)の内容を示すフローチャートであり、移動速度が有る場合を示す。
図9A】磁気シールド対策無しの測定空間を示す平面模式図である。
図9B】パッシブ磁気シールドを設けた測定空間を示す平面模式図である。
図9C】アクティブ磁気シールドを設けた測定空間を示す平面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の一実施形態につき図面を参照して説明する。以下は本発明の一実施形態であって本発明を限定するものではない。
図1に本実施形態の磁場分布測定システムの構成を示す。本実施形態の磁場分布測定システム1は、磁場分布測定ユニット10と、環境磁気センサー20と、演算装置30と備える。人体(被験者)2の頭部2aを測定対象物とする場合を例とする。測定対象物を含有する空間3における上下方向の座標をZとし、Z軸に垂直で互いに垂直な2軸をX,Yとする。図2にXY平面の模式図を示す。
磁場分布測定ユニット10は、頭部2aからの磁場分布を測定する測定磁気センサー11と、磁場測定ユニット10の運動を検出する運動検出センサー12とを一体に有する。測定磁気センサー11は、複数のセンサー素子を2次元又は3次元に配列させたセンサーアレイモジュールを含み、頭部2aの表面に沿った2次元、又は同2次元面に垂直な軸を加えた3次元の磁場分布を測定可能である。例えば、センサー素子としてトンネル磁気抵抗素子を適用することで実施可能である。なお、図面上は測定磁気センサー11を簡素に示しており、近接する頭部2aの表面に各センサー素子が対向するように配置したり、センサーアレイが頭部2aの表面の測定対象領域を覆うように配置したりする構成が適宜に設計される。演算装置30と、磁場分布測定ユニット10及び環境磁気センサー20との通信接続は、有線又は無線により行われる。被験者2の負担を軽減するために磁場分布測定ユニット10は無線接続とすることが好ましい。
【0018】
磁場分布測定ユニット10は、頭部2aに対する位置が固定されるように頭部2aに装着可能である。図1に示すように、磁場分布測定ユニット10を頭部2aに装着して頭部2aから発生する磁場を測定する。
【0019】
運動検出センサー12としては、現在位置と移動速度が算出可能なファクターを検出可能であれば足りる。ここでは加速度センサーを適用する。3軸方向の移動があり得るので、3軸方向の加速度が検出できるように加速度センサーが設けられる。磁場分布測定ユニット10を既知の座標に配置し、演算装置30に対してその座標を原点座標として記憶させるとともに、原点座標からのXYZ方向の各移動量をゼロにセットする。演算装置30は、加速度センサーの出力信号に基づき、移動後の現在位置と移動速度を演算する。
運動検出センサー12は、測定磁気センサー11の現在位置と移動速度を認識するために設けられる。そのため、運動検出センサー12は、測定磁気センサー11と一体にされ、できるだけ両者を近接して設けることが好ましい。測定磁気センサー11と、運動検出センサー12とが、同一半導体基板上に集積されたモノシリック半導体チップを構成して実施するとよい。また、測定磁気センサー11を構成した半導体チップと、運動検出センサー12を構成した半導体チップとを、同一回路基板上に互いに近接させて実装した構成を実施してもよい。
【0020】
環境磁気センサー20は、空間3の環境磁場Heを測定するためのものであり、空間3内に一つ又は複数が設置される。演算装置30は、測定磁気センサー11による測定磁場信号と、運動検出センサー12による運動検出信号と、環境磁気センサー20による環境磁場信号とに基づき、測定値を算出する。本実施形態では、脳磁図に相当する磁場分布データを算出する。
【0021】
空間3は、部屋内の空間とされる。空間3からの被験者2の逸脱、空間3への他者及び他の物の侵入を防ぐためである。空間3内の隅などに環境磁気センサー20が設置され、環境磁気センサー20は空間3の環境磁場(主には地磁気)を測定する。空間3の環境磁場分布を精度良く測定するために、環境磁気センサー20を1個(図2)、2個(図3)、4個(図4)と配置し、さらにZ方向にも2以上配置し、空間3の環境磁場を空間座標XYZを有した分布として取得することも可能である。環境磁場の均一性が高い空間3を確保できれば、環境磁気センサー20を1個(図2)とし、空間3内のいずれの位置でも環境磁気センサー20が測定した磁場強度と同じであると推定して処理して問題ない。環境磁気センサー20を複数設ける場合、2つの環境磁気センサー20間の環境磁場分布は線形的に変化すると推定して補間処理することができる。したがって、環境磁気センサー20の数を増やすほど精度は上がるが、コストも上がる。空間3の環境磁場の均一性を考慮して環境磁気センサー20の設置数を決定するとよい。
【0022】
図5において、異なる2つの測定点S1,S2における、移動速度ベクトル、頭部2a生体磁場、環境磁場、誘導磁場を、それぞれ順にv1,Hm1,He1,Hi1,v2,Hm2,He2,Hi2とする。
もし頭部2aが動いていなければ、環境磁気センサー20の環境磁場信号から推定される測定点(S1,S2)での環境磁場を、測定磁気センサー11が出力する測定磁場信号から差し引くことで頭部2aに由来する磁場分布を取得することが可能である。頭部2aが動いていない状況は、例えば測定点S1においてv1がゼロである状況である。この場合、v1がゼロであるため、誘導磁場Hi1もゼロとなり測定点S1での環境磁場He1を測定磁気センサー11が出力する測定磁場信号から差し引けばよいからである。
この場合、演算装置30は図6に示すように、まず、測定磁気センサー11から測定磁場信号を取得する第1ステップS11と、運動検出センサー12から運動検出信号を取得する第2ステップS12と、環境磁気センサー20から環境磁場信号を取得する第3ステップS13とを同時性を以って実行する。
次に、第3ステップS13において取得した環境磁場信号と、第2ステップS12において取得した運動検出信号とに基づいて、第1ステップS11において取得した測定磁場信号を補正して測定値とする第4ステップS14を実行する。
この第4ステップS14としては図7に示すように、第1ステップS11における測定磁場信号の取得時の測定磁気センサー11の位置(測定点(S1,S2))を、第2ステップS12において取得した運動検出信号に基づき算出する第5ステップS15と、第5ステップS15において算出した位置(測定点(S1,S2))における環境磁場(He1,He2)を、第3ステップS13において取得した環境磁場信号に基づき推算する第6ステップS16と、第6ステップS16において推算した環境磁場を、第1ステップS11において取得した測定磁場信号から差し引く第7ステップS17と、を実行する。
【0023】
ただし、本実施形態では頭部2aが動いている間も頭部2aからの磁場の分布を取得することを想定している。測定磁気センサー11は頭部2aと固定されているので頭部2aの動きと測定磁気センサー11の動きはほぼ同一となる。図5に示すように空間3内の環境磁場中に測定磁気センサー11が速度をもって動く場合(v1,v2がゼロでない場合)、センサー内に誘導電流、誘導磁場が発生し、測定磁気センサー11の出力信号に重畳される。その誘導磁場は「環境磁場」と「移動速度」から換算することが可能である。
なお、頭部2aが動いたとしても同時に測定磁気センサー11も同じ位置に同じ速度で動くため測定磁気センサーから見た頭部2aは動いていないものと想定でき、頭部2aからの磁場分布はずれることなくそのまま測定される。
頭部2aが右下の位置(測定点S1)に初期にいて左上(測定点S2)へ移動した場合、測定磁気センサー11(例えばトンネル磁気抵抗素子などであり、磁気抵抗効果を使っているので1つの電気回路と考えることができる。)の導体を横切る環境磁場(He1,He2)は空間位置が変化することでその方向、大きさ、相対的な方向が変わる。測定磁気センサー11の位置と移動速度は運動検出センサー12の運動検出信号からわかる。頭部2aの移動、従って測定磁気センサー11及び運動検出センサー12の移動に伴う環境磁場の変化量と移動速度とより誘導磁場(Hi1,Hi2)を計算することができる。
(測定磁気信号)=(生体磁気信号)+(環境磁場信号)+(誘導磁場信号)となり、環境磁場と誘導磁場を測定磁気信号から引くことで頭部2aからの生体磁場信号(Hm1,Hm2)のみを取り出すことができる。
【0024】
以上の思想に基づき演算装置30は図6に示すように、まず、測定磁気センサー11から測定磁場信号を取得する第1ステップS11と、運動検出センサー12から運動検出信号を取得する第2ステップS12と、環境磁気センサー20から環境磁場信号を取得する第3ステップS13とを同時性を以って実行する。
次に、第3ステップS13において取得した環境磁場信号と、第2ステップS12において取得した運動検出信号とに基づいて、第1ステップS11において取得した測定磁場信号を補正して測定値とする第4ステップS14を実行する。
この第4ステップS14としては図8に示すように、第1ステップS11における測定磁場信号の取得時の測定磁気センサー11の位置(測定点(S1,S2))及び移動速度(v1、v2)を、第2ステップS12において取得した運動検出信号に基づき算出する第8ステップS18と、第8ステップS18において算出した位置(測定点(S1,S2))における環境磁場(He1,He2)を、第3ステップS13において取得した環境磁場信号に基づき推算する第9ステップS19と、第8ステップS18において算出した位置(測定点(S1,S2))における誘導磁場(Hi1,Hi2)を、第3ステップS13において取得した環境磁場信号と、第8ステップS18において算出した移動速度(v1、v2)とに基づき推算する第10ステップS20と、第9ステップS19において推算した環境磁場と、第10ステップS20において推算した誘導磁場とを、第1ステップS11において取得した測定磁場信号から差し引く第11ステップS21と、を実行する。
【0025】
頭部2aが動くことにより発生する誘導磁場(Hi1,Hi2)は環境磁場(He1,He2)の強さと正の相関があるため、最初から環境磁場を低減することと組み合わせる又は組み合わせないことができる。その種類として、何もしない(図9A)、パッシブ磁気シールド(図9B)、アクティブ磁気シールド(図9C)が考えられる。
パッシブ磁気シールド(図9B)は、パーマロイ板のような軟磁性体の板4を周囲に敷き詰めた構成であり、地磁気などの環境磁場を低減できる。それでも完全に空間3内の環境磁場をゼロにすることは難しく、頭部2aが動いた場合の誘導磁場もゼロにすることは難しい。そのため、本磁場分布測定システム1を使うことで環境磁場も誘導磁場もソフトウエア的に打ち消すことができる。
アクティブ磁気シールド(図9C)は、アクティブ磁気シールド用の環境磁気センサー(本磁場分布測定システム1の環境磁気センサー20と別に設置しても兼ねてもよい)の出力に応じて、空間3の周囲に配置した磁場発生装置(コイルなど)5を駆動することにより空間3の環境磁場を打ち消し低減する構成である。こちらも完全に空間3内の環境磁場をゼロにすること難しく、頭部2aが動いた場合の誘導磁場もゼロにすることは難しい。そのため、本磁場分布測定システム1を使うことで環境磁場も誘導磁場もソフトウエア的に打ち消すことができる。
【0026】
以上の実施形態によれば、測定対象物(2a)に固定した磁気センサー(11)により当該測定対象物から発生する磁場を測定する構成において、測定対象物を拘束することなく、測定対象物及び磁気センサーの移動中の当該磁気センサーによる測定磁場信号に基づく測定も含めて、測定対象物から発生する磁場成分を精度よく測定することができる。
リアルタイムで算出し打ち消すことで測定対象物が動いていても良質な磁場分布信号を得ることができる。
被験者2に対して測定中に動いてはいけないという束縛がなくなるので人物に対する負担が格段に減少する。また、束縛が聞かない動物などを測定対象とする場合にも測定対象に対する負担が少なく、良質な磁場分布信号を得ることができる。
環境磁場を打ち消す技術(パッシブ磁気シールド、アクティブ磁気シールド)と組み合わせた場合でも測定位置の環境磁場を完全に除去することは難しく、本実施形態によれば残った環境磁場及び同環境磁場を起因とした誘導磁場を打ち消すことができるため、磁気測定の精度をさらに向上させることができる。
【0027】
以上の実施形態に拘わらず、磁場分布を測定せず、1点における磁場強度を測定する構成においても、本発明の環境磁場及び誘導磁場を打ち消す技術が有効であることは言うまでもない。
以上の実施形態にあっては、原点座標をセットするために磁場分布測定ユニット10を既知の座標に配置した。原点座標をセットする方法は、これに限らず他の方法でもよい。例として次の方法を挙げることができる。
頭部2aに非装着の磁場分布測定ユニット10を空間3内の任意の位置に置き、測定磁気センサー11により環境磁場のみを検出する状態とする。環境磁気センサー20は複数設けておく。かかる状態にて測定される測定磁気センサー11及び複数の環境磁気センサー20の磁場信号に基づき、測定磁気センサー11の空間3内における位置座標を推定する。上述したように複数の環境磁気センサー20に基づき空間3内の環境磁場分布を推定できるから、この推定した環境磁場分布を用いて、測定磁気センサー11が測定する環境磁場から測定磁気センサー11の位置を推定する(測定磁気センサー11の位置からその位置の環境磁場を推定する過程と逆を行う。)。以上により推定した測定磁気センサー11の空間3内における位置座標を原点座標とする。
また他の方法としては、演算装置30によって制御される位置検出用磁場発振器を複数用意し互いに離れた箇所に設置しておく。演算装置30が、あるタイミングで位置検出用磁場発振器に所定の位置検出用磁場信号を発信させ、測定磁気センサー11による測定磁場信号から位置検出用磁場信号を抽出し、位置検出用磁場信号の空間伝搬による時差や減衰率等を解析することで、各位置検出用磁場発振器から測定磁気センサー11までの距離を推定する。以上による複数の位置検出用磁場発振器に対する測定磁気センサー11の距離から、測定磁気センサー11の空間3内における位置座標を特定し、特定した位置座標を原点座標とする。また、測定磁気センサー11及び複数の環境磁気センサー20によって同時に位置検出用磁場信号を検出させることによって、複数の環境磁気センサー20に対する測定磁気センサー11の相対位置で解析してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、磁場測定ユニット及び磁場測定システムに利用することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 磁場分布測定システム
2 人体(被験者)
2a 頭部
3 空間
10 磁場分布測定ユニット
11 測定磁気センサー
12 運動検出センサー
20 環境磁気センサー
30 演算装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C