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特許7226728画像処理装置、画像処理方法、プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】画像処理装置、画像処理方法、プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/13 20060101AFI20230214BHJP
【FI】
A61B8/13 ZDM
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018157752
(22)【出願日】2018-08-24
(65)【公開番号】P2020028661
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-08-18
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「ワイドフィールド可視化システムのプロトタイプ開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(74)【代理人】
【識別番号】100125357
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100131532
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 浩一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155871
【弁理士】
【氏名又は名称】森廣 亮太
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(73)【特許権者】
【識別番号】520147108
【氏名又は名称】株式会社Luxonus
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梶田 大樹
(72)【発明者】
【氏名】今西 宣晶
(72)【発明者】
【氏名】相磯 貞和
(72)【発明者】
【氏名】浦野 萌美
(72)【発明者】
【氏名】長永 兼一
(72)【発明者】
【氏名】岡 一仁
【審査官】下村 一石
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-035469(JP,A)
【文献】FORBRICH, ALEX ET AL,Photoacoustic imaging of lymphatic pumping,JOURNAL OF BIOMEDICAL OPTICS,2017年10月,vol. 22, no. 10,106003
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00-8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体への光照射により前記被検体内から発生した光音響波に基づいて生成された画像データを処理する画像処理装置であって、
前記被検体内のリンパ管の領域を含む前記画像データに対する画像解析により、前記リンパ管の領域を複数の分割領域に分割し、各分割領域における画像値の時間変化に基づいて前記各分割領域の状態を判定することにより、前記リンパ管の状態を推定する状態推定手段を有する
ことを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
被検体への光照射により前記被検体内から発生した光音響波に基づいて生成された画像データを処理する画像処理装置であって、
前記被検体内の静脈とリンパ管の領域を含む前記画像データに対する画像解析により、前記静脈と前記リンパ管との距離を表示装置に表示させる表示制御手段を有する
ことを特徴とする画像処理装置。
【請求項3】
被検体への光照射により前記被検体内から発生した光音響波に基づいて画像データを生成し、
前記被検体内のリンパ管の領域を含む前記画像データに対する画像解析により、前記リンパ管の領域を複数の分割領域に分割し、各分割領域における画像値の時間変化に基づいて前記各分割領域の状態を判定することにより、前記リンパ管の状態を推定する
ことを特徴とする画像処理方法。
【請求項4】
被検体への光照射により前記被検体内から発生した光音響波に基づいて画像データを生成し、
前記被検体内の静脈とリンパ管の領域を含む前記画像データに対する画像解析により、前記静脈と前記リンパ管との距離を表示装置に表示させる
ことを特徴とする画像処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光音響イメージングにより生成された画像に対する画像処理に関する。
【背景技術】
【0002】
血管やリンパ管等の検査において、造影剤を利用した光音響イメージング(「光超音波イメージング」ともよぶ。)が知られている。特許文献1には、リンパ節やリンパ管などの造影のために用いられる造影剤を評価対象とし、その造影剤が吸収して光音響波を発生する波長の光を出射する光音響画像生成装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/002337号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の光音響イメージングでは、被検体内部の造影対象の構造(例えば、血管やリンパ管等の走行)が描出されるに過ぎず、その構造の状態を把握することが困難であることが考えられる。
【0005】
そこで本発明は、光音響イメージングによって造影対象の状態の把握を容易にするシステムに用いられる画像処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、
被検体への光照射により前記被検体内から発生した光音響波に基づいて生成された画像データを処理する画像処理装置であって、
前記被検体内のリンパ管の領域を含む前記画像データに対する画像解析により、前記リンパ管の領域を複数の分割領域に分割し、各分割領域における画像値の時間変化に基づいて前記各分割領域の状態を判定することにより、前記リンパ管の状態を推定する状態推定手段を有する
ことを特徴とする画像処理装置である。
また、本発明の第2の態様は、
被検体への光照射により前記被検体内から発生した光音響波に基づいて生成された画像データを処理する画像処理装置であって、
前記被検体内の静脈とリンパ管の領域を含む前記画像データに対する画像解析により、前記静脈と前記リンパ管との距離を表示装置に表示させる表示制御手段を有する
ことを特徴とする画像処理装置である。
また、本発明の第3の態様は、
被検体への光照射により前記被検体内から発生した光音響波に基づいて画像データを生成し、
前記被検体内のリンパ管の領域を含む前記画像データに対する画像解析により、前記リンパ管の領域を複数の分割領域に分割し、各分割領域における画像値の時間変化に基づいて前記各分割領域の状態を判定することにより、前記リンパ管の状態を推定する
ことを特徴とする画像処理方法である。
また、本発明の第4の態様は、
被検体への光照射により前記被検体内から発生した光音響波に基づいて画像データを生成し、
前記被検体内の静脈とリンパ管の領域を含む前記画像データに対する画像解析により、前記静脈と前記リンパ管との距離を表示装置に表示させる
ことを特徴とする画像処理方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、光音響イメージングによって造影対象の構造の状態の把握を容易にするシステムに用いられる画像処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係るシステムのブロック図
図2】本発明の一実施形態に係る画像処理装置とその周辺構成の具体例を示すブロック図
図3】本発明の一実施形態に係る光音響装置の詳細なブロック図
図4】本発明の一実施形態に係るプローブの模式図
図5】本発明の一実施形態に係る画像処理方法のフロー図
図6】実施例1に係る画像処理方法のフロー図
図7】波長の組み合わせを変化させたときの、造影剤に対応する式(1)の計算値の等高線グラフ
図8】ICGの濃度を変化させたときの、造影剤に対応する式(1)の計算値を示す折れ線グラフ
図9】オキシヘモグロビンとデオキシヘモグロビンのモラー吸収係数スペクトルを示すグラフ
図10】本発明の一実施形態に係るGUIを例示する図
図11】被検体の分光画像を例示する図
図12】リンパ管の状態による分類を例示する図
図13】存在数、面積比、体積比に応じたリンパ管の分類を例示する図
図14】静脈との距離に応じたリンパ管の分類を例示する図
図15】実施例2に係る画像処理方法のフロー図
図16】実施例2に係るGUIを例示する図
図17】実施例2に係るリンパ管の分類結果の表示例を示す図
図18】造影剤に対応する領域を抽出する処理を説明する図
図19】造影剤に対応する領域を抽出する処理を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に図面を参照しつつ、本発明の好適な実施の形態について説明する。ただし、以下に記載されている構成部品の寸法、材質、形状およびそれらの相対配置などは、発明が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものである。よって、この発明の範囲を以下の記載に限定する趣旨のものではない。
【0010】
本発明に係るシステムにより得られる光音響画像は、光エネルギーの吸収量や吸収率を反映している。光音響画像は、光音響波の発生音圧(初期音圧)、光吸収エネルギー密度、及び光吸収係数などの少なくとも1つの被検体情報の空間分布を表す画像である。光音響画像は、2次元の空間分布を表す画像であってもよいし、3次元の空間分布を表す画像(ボリュームデータ)であってもよい。本実施形態に係るシステムは、造影剤が導入された被検体を撮影することにより光音響画像を生成する。なお、造影対象の立体構造を把握するために、光音響画像は、被検体表面から深さ方向の2次元の空間分布を表す画像または3次元の空間分布を表す画像であってもよい。
【0011】
また、本発明に係るシステムは、複数の波長に対応する複数の光音響画像を用いて被検体の分光画像を生成することができる。本発明の分光画像は、被検体に互いに異なる複数の波長の光を照射することにより発生した光音響波に基づいた、複数の波長のそれぞれに対応する光音響信号を用いて生成された画像である。
なお、分光画像は、複数の波長のそれぞれに対応する光音響信号を用いて生成された、被検体中の特定物質の濃度を示す画像であってもよい。使用する造影剤の光吸収係数スペクトルと、特定物質の光吸収係数スペクトルとが異なる場合、分光画像中の造影剤の画像値と分光画像中の特定物質の画像値とは異なる。よって、分光画像の画像値に応じて造影剤の領域と特定物質の領域とを区別することができる。なお、特定物質としては、ヘモグロビン、グルコース、コラーゲン、メラニン、脂肪や水など、被検体を構成する物質が挙げられる。この場合にも、特定物質の光吸収係数スペクトルとは異なる光吸収スペクトルを有する造影剤を選択する必要がある。また、特定物質の種類に応じて、異なる算出方法で分光画像を算出してもよい。
【0012】
以下に述べる実施形態では、酸素飽和度の計算式(1)を用いて算出された画像を分光画像として説明する。本発明者らは、複数の波長のそれぞれに対応する光音響信号に基づいて血中ヘモグロビンの酸素飽和度(酸素飽和度に相関をもつ指標でもよい)を計算する式(1)に対し、光吸収係数の波長依存性がオキシヘモグロビンおよびデオキシヘモグロビンとは異なる傾向を示す造影剤で得られた光音響信号の計測値I(r)を代入した場合に、ヘモグロビンの酸素飽和度が取り得る数値範囲から大きくずれた計算値Is(r)が得られる、ということを見出した。それゆえ、この計算値Is(r)を画像値としてもつ分光画像を生成すれば、被検体内部におけるヘモグロビンの領域(血管領域)と造影剤の存在領域(例えばリンパ管に造影剤が導入された場合であればリンパ管の領域)とを画像
上で分離(区別)することが容易となる。
【数1】

ここで、Iλ (r)は第1波長λの光照射により発生した光音響波に基づいた計測値であり、Iλ (r)は第2波長λの光照射により発生した光音響波に基づいた計測値である。εHb λ は第1波長λに対応するデオキシヘモグロビンのモラー吸収係数[mm-1mol-1]であり、εHb λ は第2波長λに対応するデオキシヘモグロビンのモラー吸収係数[mm-1mol-1]である。εHbO λ は第1波長λに対応するオキシヘモグロビンのモラー吸収係数[mm-1mol-1]であり、εHbO λ は第2波長λに対応するオキシヘモグロビンのモラー吸収係数[mm-1mol-1]である。rは位置である。なお、計測値Iλ (r)、Iλ (r)としては、吸収係数μ λ (r)、μ λ (r)を用いてもよいし、初期音圧P λ (r)、P λ (r)を用いてもよい。
【0013】
ヘモグロビンの存在領域(血管領域)から発生した光音響波に基づいた計測値を式(1)に代入すると、計算値Is(r)として、ヘモグロビンの酸素飽和度(または酸素飽和度に相関をもつ指標)が得られる。一方、造影剤を導入した被検体において、造影剤の存在領域(例えばリンパ管領域)から発生した音響波に基づいた計測値を式(1)に代入すると、計算値Is(r)として、擬似的な造影剤の濃度分布が得られる。なお、造影剤の濃度分布を計算する場合でも、式(1)ではヘモグロビンのモラー吸収係数の数値をそのまま用いればよい。このようにして得られた分光画像Is(r)は、被検体内部のヘモグロビンの存在領域(血管)と造影剤の存在領域(例えばリンパ管)の両方が互いに分離可能(区別可能)な状態で描出された画像となる。
【0014】
なお、本実施形態では、酸素飽和度を計算する式(1)を用いて分光画像の画像値を計算するが、酸素飽和度以外の指標を分光画像の画像値として計算する場合には、式(1)以外の算出方法を用いればよい。指標およびその算出方法としては、公知のものを利用可能であるため、ここでは詳しい説明を割愛する。
【0015】
また、本発明に係るシステムは、第1波長λの光照射により発生した光音響波に基づいた第1光音響画像および第2波長λの光照射により発生した光音響波に基づいた第2光音響画像の比を示す画像を分光画像としてもよい。すなわち、第1波長λの光照射により発生した光音響波に基づいた第1光音響画像および第2波長λの光照射により発生した光音響波に基づいた第2光音響画像の比に基づいた画像を分光画像としてよい。なお、式(1)の変形式にしたがって生成される画像も、第1光音響画像および第2光音響画像の比によって表現できるため、第1光音響画像および第2光音響画像の比に基づいた画像(分光画像)といえる。
【0016】
なお、造影対象の立体構造を把握するために、分光画像は、被検体表面から深さ方向の2次元の空間分布を表す画像または3次元の空間分布を表す画像であってもよい。
以下、本実施形態のシステムの構成及び画像処理方法について説明する。
【0017】
図1を用いて本実施形態に係るシステムを説明する。図1は、本実施形態に係るシステ
ムの構成を示すブロック図である。本実施形態に係るシステムは、光音響装置1100、記憶装置1200、画像処理装置1300、表示装置1400、及び入力装置1500を備える。装置間のデータの送受信は有線で行われてもよいし、無線で行われてもよい。
【0018】
光音響装置1100は、造影剤が導入された被検体を撮影することにより光音響画像を生成し、記憶装置1200に出力する。光音響装置1100は、光照射により発生した光音響波を受信することにより得られる受信信号を用いて、被検体内の複数位置のそれぞれに対応する特性値の情報を生成する装置である。すなわち、光音響装置1100は、光音響波に由来した特性値情報の空間分布を医用画像データ(光音響画像)として生成する装置である。
【0019】
記憶装置1200は、ROM(Read only memory)、磁気ディスクやフラッシュメモリなどの記憶媒体であってもよい。また、記憶装置1200は、PACS(Picture Archiving and Communication System)等のネットワークを介した記憶サーバであってもよい。
【0020】
画像処理装置1300は、記憶装置1200に記憶された光音響画像や光音響画像の付帯情報等の情報を処理する装置である。
画像処理装置1300の演算機能を担うユニットは、CPUやGPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサ、FPGA(Field Programmable Gate Array)チップ等の演算回路で構成されることができる。これらのユニットは、単一のプロセッサや演算回路から構成されるだけでなく、複数のプロセッサや演算回路から構成されていてもよい。
【0021】
画像処理装置1300の記憶機能を担うユニットは、ROM(Read only memory)、磁気ディスクやフラッシュメモリなどの非一時記憶媒体で構成することができる。また、記憶機能を担うユニットは、RAM(Random Access Memory)などの揮発性の媒体であってもよい。なお、プログラムが格納される記憶媒体は、非一時記憶媒体である。なお、記憶機能を担うユニットは、1つの記憶媒体から構成されるだけでなく、複数の記憶媒体から構成されていてもよい。
【0022】
画像処理装置1300の制御機能を担うユニットは、CPUなどの演算素子で構成される。制御機能を担うユニットは、システムの各構成の動作を制御する。制御機能を担うユニットは、入力部からの測定開始などの各種操作による指示信号を受けて、システムの各構成を制御してもよい。また、制御機能を担うユニットは、コンピュータ150に格納されたプログラムコードを読み出し、システムの各構成の作動を制御してもよい。
【0023】
表示装置1400は、液晶ディスプレイや有機EL(Electro Luminescence)などのディスプレイである。また、表示装置1400は、画像や装置を操作するためのGUIを表示してもよい。
【0024】
入力装置1500としては、ユーザーが操作可能な、マウスやキーボードなどで構成される操作コンソールを採用することができる。また、表示装置1400をタッチパネルで構成し、表示装置1400を入力装置1500として利用してもよい。
【0025】
図2は、本実施形態に係る画像処理装置1300の具体的な構成例を示す。本実施形態に係る画像処理装置1300は、CPU1310、GPU1320、RAM1330、ROM1340、外部記憶装置1350から構成される。また、画像処理装置1300には、表示装置1400としての液晶ディスプレイ1410、入力装置1500としてのマウス1510、キーボード1520が接続されている。さらに、画像処理装置1300は、
PACS(Picture Archiving and Communication
System)などの記憶装置1200としての画像サーバ1210と接続されている。これにより、画像データを画像サーバ1210上に保存したり、画像サーバ1210上の画像データを液晶ディスプレイ1410に表示したりすることができる。
次に、本実施形態に係るシステムに含まれる装置の構成例を説明する。図3は、本実施形態に係るシステムに含まれる装置の概略ブロック図である。
【0026】
本実施形態に係る光音響装置1100は、駆動部130、信号収集部140、コンピュータ150、プローブ180、及び導入部190を有する。プローブ180は、光照射部110、及び受信部120を有する。図4は、本実施形態に係るプローブ180の模式図を示す。測定対象は、導入部190により造影剤が導入された被検体100である。駆動部130は、光照射部110と受信部120を駆動し、機械的な走査を行う。光照射部110が光を被検体100に照射し、被検体100内で音響波が発生する。光に起因して光音響効果により発生する音響波を光音響波とも呼ぶ。受信部120は、光音響波を受信することによりアナログ信号としての電気信号(光音響信号)を出力する。
【0027】
信号収集部140は、受信部120から出力されたアナログ信号をデジタル信号に変換し、コンピュータ150に出力する。コンピュータ150は、信号収集部140から出力されたデジタル信号を、光音響波に由来する信号データとして記憶する。信号データは、受信信号データの一例である。
【0028】
コンピュータ150は、記憶されたデジタル信号に対して信号処理を行うことにより、光音響画像を生成する。また、コンピュータ150は、得られた光音響画像に対して画像処理を施した後に、光音響画像を表示部160に出力する。表示部160は、光音響画像に基づいた画像を表示する。表示画像は、ユーザーやコンピュータ150からの保存指示に基づいて、コンピュータ150内のメモリや、モダリティとネットワークで接続されたデータ管理システムなどの記憶装置1200に保存される。
【0029】
また、コンピュータ150は、光音響装置に含まれる構成の駆動制御も行う。また、表示部160は、コンピュータ150で生成された画像の他にGUIなどを表示してもよい。入力部170は、ユーザーが情報を入力できるように構成されている。ユーザーは、入力部170を用いて測定開始や終了、作成画像の保存指示などの操作を行うことができる。
以下、本実施形態に係る光音響装置1100の各構成の詳細を説明する。
【0030】
(光照射部110)
光照射部110は、光を発する光源111と、光源111から射出された光を被検体100へ導く光学系112とを含む。なお、光は、いわゆる矩形波、三角波などのパルス光を含む。
【0031】
光源111が発する光のパルス幅としては、熱閉じ込め条件および応力封じ込め条件を考慮すると、100ns以下のパルス幅であることが好ましい。また、光の波長として400nmから1600nm程度の範囲の波長であってもよい。血管を高解像度でイメージングする場合は、血管での吸収が大きい波長(400nm以上、700nm以下)を用いてもよい。生体の深部をイメージングする場合には、生体の背景組織(水や脂肪など)において典型的に吸収が少ない波長(700nm以上、1100nm以下)の光を用いてもよい。
【0032】
光源111としては、レーザーや発光ダイオードを用いることができる。また、複数波長の光を用いて測定する際には、波長の変更が可能な光源であってもよい。なお、複数波
長を被検体に照射する場合、互いに異なる波長の光を発生する複数台の光源を用意し、それぞれの光源から交互に照射することも可能である。複数台の光源を用いた場合もそれらをまとめて光源として表現する。レーザーとしては、固体レーザー、ガスレーザー、色素レーザー、半導体レーザーなど様々なレーザーを使用することができる。例えば、Nd:YAGレーザーやアレキサンドライトレーザーなどのパルスレーザーを光源として用いてもよい。また、Nd:YAGレーザー光を励起光とするTi:saレーザーやOPO(Optical Parametric Oscillators)レーザーを光源として用いてもよい。また、光源111としてフラッシュランプや発光ダイオードを用いてもよい。また、光源111としてマイクロウェーブ源を用いてもよい。
【0033】
光学系112には、レンズ、ミラー、光ファイバ等の光学素子を用いることができる。乳房等を被検体100とする場合、パルス光のビーム径を広げて照射するために、光学系の光出射部は光を拡散させる拡散板等で構成されていてもよい。一方、光音響顕微鏡においては、解像度を上げるために、光学系112の光出射部はレンズ等で構成し、ビームをフォーカスして照射してもよい。
なお、光照射部110が光学系112を備えずに、光源111から直接被検体100に光を照射してもよい。
【0034】
(受信部120)
受信部120は、音響波を受信することにより電気信号を出力するトランスデューサ121と、トランスデューサ121を支持する支持体122とを含む。また、トランスデューサ121は、音響波を送信する送信手段としてもよい。受信手段としてのトランスデューサと送信手段としてのトランスデューサとは、単一(共通)のトランスデューサでもよいし、別々の構成であってもよい。
【0035】
トランスデューサ121を構成する部材としては、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)に代表される圧電セラミック材料や、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)に代表される高分子圧電膜材料などを用いることができる。また、圧電素子以外の素子を用いてもよい。例えば、静電容量型トランスデューサ(CMUT:Capacitive Micro-machined Ultrasonic Transducers)を用いたトランスデューサなどを用いることができる。なお、音響波を受信することにより電気信号を出力できる限り、いかなるトランスデューサを採用してもよい。また、トランスデューサにより得られる信号は時間分解信号である。つまり、トランスデューサにより得られる信号の振幅は、各時刻にトランスデューサで受信される音圧に基づく値(例えば、音圧に比例した値)を表したものである。
【0036】
光音響波を構成する周波数成分は、典型的には100KHzから100MHzであり、トランスデューサ121として、これらの周波数を検出することのできるものを採用してもよい。
【0037】
支持体122は、機械的強度が高い金属材料などから構成されていてもよい。照射光を被検体に多く入射させるために、支持体122の被検体100側の表面に、鏡面加工もしくは光散乱させる加工が行われていてもよい。本実施形態において支持体122は半球殻形状であり、半球殻上に複数のトランスデューサ121を支持できるように構成されている。この場合、支持体122に配置されたトランスデューサ121の指向軸は半球の曲率中心付近に集まる。そして、複数のトランスデューサ121から出力された信号を用いて画像化したときに曲率中心付近の画質が高くなる。なお、支持体122はトランスデューサ121を支持できる限り、いかなる構成であってもよい。支持体122は、1Dアレイ、1.5Dアレイ、1.75Dアレイ、2Dアレイと呼ばれるような平面又は曲面内に、複数のトランスデューサを並べて配置してもよい。複数のトランスデューサ121が複数
の受信手段に相当する。
【0038】
また、支持体122は音響マッチング材を貯留する容器として機能してもよい。すなわち、支持体122をトランスデューサ121と被検体100との間に音響マッチング材を配置するための容器としてもよい。
【0039】
また、受信部120が、トランスデューサ121から出力される時系列のアナログ信号を増幅する増幅器を備えてもよい。また、受信部120が、トランスデューサ121から出力される時系列のアナログ信号を時系列のデジタル信号に変換するA/D変換器を備えてもよい。すなわち、受信部120が後述する信号収集部140を備えてもよい。
【0040】
受信部120と被検体100との間の空間は、光音響波が伝播することができる媒質で満たす。この媒質には、音響波が伝搬でき、被検体100やトランスデューサ121との界面において音響特性が整合し、できるだけ光音響波の透過率が高い材料を採用する。例えば、この媒質には、水、超音波ジェルなどを採用することができる。
【0041】
図4は、プローブ180の側面図を示す。本実施形態に係るプローブ180は、開口を有する半球状の支持体122に複数のトランスデューサ121が3次元に配置された受信部120を有する。また、支持体122の底部には、光学系112の光射出部が配置されている。
【0042】
本実施形態においては、図4に示すように被検体100は、保持部200に接触することにより、その形状が保持される。
受信部120と保持部200の間の空間は、光音響波が伝播することができる媒質で満たされる。この媒質には、光音響波が伝搬でき、被検体100やトランスデューサ121との界面において音響特性が整合し、できるだけ光音響波の透過率が高い材料を採用する。例えば、この媒質には、水、超音波ジェルなどを採用することができる。
【0043】
保持手段としての保持部200は被検体100の形状を測定中に保持するために使用される。保持部200により被検体100を保持することによって、被検体100の動きの抑制および被検体100の位置を保持部200内に留めることができる。保持部200の材料には、ポリカーボネートやポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート等、樹脂材料を用いることができる。
【0044】
保持部200は、取り付け部201に取り付けられている。取り付け部201は、被検体の大きさに合わせて複数種類の保持部200を交換可能に構成されていてもよい。例えば、取り付け部201は、曲率半径や曲率中心などの異なる保持部に交換できるように構成されていてもよい。
【0045】
(駆動部130)
駆動部130は、被検体100と受信部120との相対位置を変更する部分である。駆動部130は、駆動力を発生させるステッピングモータなどのモータと、駆動力を伝達させる駆動機構と、受信部120の位置情報を検出する位置センサとを含む。駆動機構としては、リードスクリュー機構、リンク機構、ギア機構、油圧機構、などを用いることができる。また、位置センサとしては、エンコーダー、可変抵抗器、リニアスケール、磁気センサ、赤外線センサ、超音波センサなどを用いたポテンショメータなどを用いることができる。
なお、駆動部130は被検体100と受信部120との相対位置をXY方向(二次元)に変更させるものに限らず、一次元または三次元に変更させてもよい。
【0046】
なお、駆動部130は、被検体100と受信部120との相対的な位置を変更できれば、受信部120を固定し、被検体100を移動させてもよい。被検体100を移動させる場合は、被検体100を保持する保持部を動かすことで被検体100を移動させる構成などが考えられる。また、被検体100と受信部120の両方を移動させてもよい。
【0047】
駆動部130は、相対位置を連続的に移動させてもよいし、ステップアンドリピートによって移動させてもよい。駆動部130は、プログラムされた軌跡で移動させる電動ステージであってもよいし、手動ステージであってもよい。
【0048】
また、本実施形態では、駆動部130は光照射部110と受信部120を同時に駆動して走査を行っているが、光照射部110だけを駆動したり、受信部120だけを駆動したりしてもよい。
なお、プローブ180が、把持部が設けられたハンドヘルドタイプである場合、光音響装置1100は駆動部130を有していなくてもよい。
【0049】
(信号収集部140)
信号収集部140は、トランスデューサ121から出力されたアナログ信号である電気信号を増幅するアンプと、アンプから出力されたアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換器とを含む。信号収集部140から出力されるデジタル信号は、コンピュータ150に記憶される。信号収集部140は、Data Acquisition System(DAS)とも呼ばれる。本明細書において電気信号は、アナログ信号もデジタル信号も含む概念である。なお、フォトダイオードなどの光検出センサが、光照射部110から光射出を検出し、信号収集部140がこの検出結果をトリガーに同期して上記処理を開始してもよい。
【0050】
(コンピュータ150)
情報処理装置としてのコンピュータ150は、画像処理装置1300と同様のハードウェアで構成されている。すなわち、コンピュータ150の演算機能を担うユニットは、CPUやGPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサ、FPGA(Field Programmable Gate Array)チップ等の演算回路で構成されることができる。これらのユニットは、単一のプロセッサや演算回路から構成されるだけでなく、複数のプロセッサや演算回路から構成されていてもよい。
【0051】
コンピュータ150の記憶機能を担うユニットは、RAM(Random Access Memory)などの揮発性の媒体であってもよい。なお、プログラムが格納される記憶媒体は、非一時記憶媒体である。なお、コンピュータ150の記憶機能を担うユニットは、1つの記憶媒体から構成されるだけでなく、複数の記憶媒体から構成されていてもよい。
【0052】
コンピュータ150の制御機能を担うユニットは、CPUなどの演算素子で構成される。コンピュータ150の制御機能を担うユニットは、光音響装置の各構成の動作を制御する。コンピュータ150の制御機能を担うユニットは、入力部170からの測定開始などの各種操作による指示信号を受けて、光音響装置の各構成を制御してもよい。また、コンピュータ150の制御機能を担うユニットは、記憶機能を担うユニットに格納されたプログラムコードを読み出し、光音響装置の各構成の作動を制御する。すなわち、コンピュータ150は、本実施形態に係るシステムの制御装置として機能することができる。
【0053】
なお、コンピュータ150と画像処理装置1300は同じハードウェアで構成されていてもよい。1つのハードウェアがコンピュータ150と画像処理装置1300の両方の機能を担っていてもよい。すなわち、コンピュータ150が、画像処理装置1300の機能
を担ってもよい。また、画像処理装置1300が、情報処理装置としてのコンピュータ150の機能を担ってもよい。
【0054】
(表示部160)
表示部160は、液晶ディスプレイや有機EL(Electro Luminescence)などのディスプレイである。また、表示部160は、画像や装置を操作するためのGUIを表示してもよい。
【0055】
なお、表示部160と表示装置1400は同じディスプレイであってもよい。すなわち、1つのディスプレイが表示部160と表示装置1400の両方の機能を担っていてもよい。
【0056】
(入力部170)
入力部170としては、ユーザーが操作可能な、マウスやキーボードなどで構成される操作コンソールを採用することができる。また、表示部160をタッチパネルで構成し、表示部160を入力部170として利用してもよい。
【0057】
なお、入力部170と入力装置1500は同じ装置であってもよい。すなわち、1つの装置が入力部170と入力装置1500の両方の機能を担っていてもよい。
【0058】
(導入部190)
導入部190は、被検体100の外部から被検体100の内部へ造影剤を導入可能に構成されている。例えば、導入部190は造影剤の容器と被検体に刺す注射針とを含むことができる。しかしこれに限られず、導入部190は、造影剤を被検体100に導入することができる限り種々のものを適用可能である。導入部190は、この場合、例えば、公知のインジェクションシステムやインジェクタなどであってもよい。なお、制御装置としてのコンピュータ150が、導入部190の動作を制御することにより、被検体100に造影剤を導入してもよい。また、ユーザーが導入部190を操作することにより、被検体100に造影剤を導入してもよい。
【0059】
(被検体100)
被検体100はシステムを構成するものではないが、以下に説明する。本実施形態に係るシステムは、人や動物の悪性腫瘍や血管疾患などの診断や化学治療の経過観察などを目的として使用できる。よって、被検体100としては、生体、具体的には人体や動物の乳房や各臓器、血管網、頭部、頸部、腹部、手指または足指を含む四肢などの診断の対象部位が想定される。例えば、人体が測定対象であれば、オキシヘモグロビンあるいはデオキシヘモグロビンやそれらを含む多く含む血管あるいは腫瘍の近傍に形成される新生血管などを光吸収体の対象としてもよい。また、頸動脈壁のプラークなどを光吸収体の対象としてもよい。また、皮膚等に含まれるメラニン、コラーゲン、脂質などを光吸収体の対象としてもよい。さらに、被検体100に導入する造影剤を光吸収体とすることができる。光音響イメージングに用いる造影剤としては、インドシアニングリーン(ICG)、メチレンブルー(MB)などの色素、金微粒子、及びそれらの混合物、またはそれらを集積あるいは化学的に修飾した外部から導入した物質を採用してもよい。また、生体を模したファントムを被検体100としてもよい。
【0060】
なお、光音響装置の各構成はそれぞれ別の装置として構成されてもよいし、一体となった1つの装置として構成されてもよい。また、光音響装置の少なくとも一部の構成が一体となった1つの装置として構成されてもよい。
【0061】
なお、本実施形態に係るシステムを構成する各装置は、それぞれが別々のハードウェア
で構成されていてもよいし、全ての装置が1つのハードウェアで構成されていてもよい。本実施形態に係るシステムの機能は、いかなるハードウェアで構成されていてもよい。
【0062】
次に、図5に示すフローチャートを用いて、本実施形態に係る画像生成方法を説明する。
【0063】
(S400:照射光の波長を決定する工程)
波長決定手段としてのコンピュータ150は、造影剤に関する情報に基づいて、照射光の波長を決定する。本実施形態では、分光画像中の造影剤に対応する領域を識別しやすくように波長の組み合わせが決定される。なお、コンピュータ150は、例えば、医師等のユーザーが入力部170を用いて入力した、造影剤に関する情報を取得することができる。また、コンピュータ150は、あらかじめ複数の造影剤に関する情報を記憶しておき、その中からデフォルトで設定された造影剤に関する情報を取得してもよい。
【0064】
図10は、表示部160に表示されるGUIの例を示す。GUIのアイテム2500には、患者ID、検査ID、撮影日時などの検査オーダー情報が表示されている。アイテム2500は、HISやRISなどの外部装置から取得した検査オーダー情報を表示する表示機能や、ユーザーが入力部170を用いて検査オーダー情報を入力することのできる入力機能を備えていてもよい。GUIのアイテム2600には、造影剤の種類、造影剤の濃度などの造影剤に関する情報が表示されている。アイテム2600は、HISやRISなどの外部装置から取得した造影剤に関する情報を表示する表示機能や、ユーザーが入力部170を用いて造影剤に関する情報を入力することのできる入力機能を備えていてもよい。アイテム2600においては、造影剤の種類や濃度などの造影剤に関する情報を複数の選択肢の中からプルダウンなどの方法で入力できてもよい。なお、表示装置1400に図10に示すGUIを表示してもよい。
【0065】
なお、画像処理装置1300が、ユーザーから造影剤に関する情報の入力指示を受信しなかった場合に、複数の造影剤に関する情報の中からデフォルトで設定された造影剤に関する情報を取得してもよい。本実施形態の場合、造影剤の種類としてICG、造影剤の濃度として1.0mg/mLがデフォルトで設定されている場合を説明する。本実施形態では、GUIのアイテム2600にはデフォルトで設定されている造影剤の種類と濃度が表示されているが、造影剤に関する情報がデフォルトで設定されていなくてもよい。この場合、初期画面ではGUIのアイテム2600に造影剤に関する情報が表示されていなくてもよい。
【0066】
ここで、波長の組み合わせを変更したときの分光画像中の造影剤に対応する画像値の変化について説明する。図7は、2波長の組み合わせのそれぞれにおける、分光画像中の造影剤に対応する画像値(酸素飽和度値)のシミュレーション結果を示す。図7の縦軸と横軸はそれぞれ第1波長と第2波長を表す。図7には、分光画像中の造影剤に対応する画像値の等値線が示されている。図7(a)~図7(d)はそれぞれ、ICGの濃度が5.04μg/mL、50.4μg/mL、0.5mg/mL、1.0mg/mLのときの分光画像中の造影剤に対応する画像値を示す。図7に示すように、選択する波長の組み合わせによっては、分光画像中の造影剤に対応する画像値が60%~100%となってしまう場合がある。前述したように、このような波長の組み合わせを選択してしまうと、分光画像中の血管の領域と造影剤の領域とを識別することが困難となってしまう。そのため、図7に示す波長の組み合わせにおいて、分光画像中の造影剤に対応する画像値が60%より小さくなる、または、100%より大きくなるような波長の組み合わせを選択することが好ましい。さらには、図7に示す波長の組み合わせにおいて、分光画像中の造影剤に対応する画像値が負値となるような波長の組み合わせを選択することが好ましい。
【0067】
例えば、ここで第1波長として797nmを選択し、第2波長として835nmを選択した場合を考える。図8は、第1波長として797nmを選択し、第2波長として835nmを選択した場合に、ICGの濃度と分光画像中の造影剤に対応する画像値(酸素飽和度値)との関係を示すグラフである。図8によれば、第1波長として797nmを選択し、第2波長として835nmを選択した場合、5.04μg/mL~1.0mg/mLのいずれの濃度であっても、分光画像中の造影剤に対応する画像値は負値となる。そのため、このような波長の組み合わせにより生成された分光画像によれば、血管の酸素飽和度値は原理上負値をとることはないため、血管の領域と造影剤の領域とを明確に識別することができる。
【0068】
以下、血管が存在する領域を血管領域と称し、造影剤が存在する領域を造影剤領域とも称する。血管領域は、動脈または静脈に対応する領域であり、造影剤領域はリンパ管に対応する領域である。
【0069】
なお、これまで造影剤に関する情報に基づいて波長を決定することを説明したが、波長の決定においてヘモグロビンの吸収係数を考慮してもよい。図9は、オキシヘモグロビンのモラー吸収係数(破線)とデオキシヘモグロビンのモラー吸収係数(実線)のスペクトルを示す。図9に示す波長レンジにおいては、797nmを境にオキシヘモグロビンのモラー吸収係数とデオキシヘモグロビンのモラー吸収係数の大小関係が逆転している。すなわち、797nmよりも短い波長においては静脈を把握しやすく、797nmよりも長い波長においては動脈を把握しやすいといえる。ところで、リンパ浮腫の治療においては、リンパ管と静脈との間にバイパスを作製するリンパ管細静脈吻合術が利用されている。この術前検査のために、光音響イメージングによって静脈と造影剤が蓄積したリンパ管との両方を画像化することが考えられる。この場合に、複数の波長の少なくとも1つを797nmよりも小さい波長とすることにより、静脈をより明確に画像化することができる。また、複数の波長の少なくとも1つを、オキシヘモグロビンのモラー吸収係数よりもデオキシヘモグロビンのモラー吸収係数が大きくなる波長とすることが静脈を画像化するうえで有利である。また、2波長に対応する光音響画像から分光画像を生成する場合、2波長のいずれもオキシヘモグロビンのモラー吸収係数よりもデオキシヘモグロビンのモラー吸収係数が大きい波長とすることが、静脈を画像化するうえで有利である。これらの波長を選択することにより、リンパ管細静脈吻合術の術前検査において、造影剤が導入されたリンパ管と静脈との両方を精度良く画像化することができる。
【0070】
ところで、複数の波長のいずれも血液よりも造影剤の吸収係数が大きい波長であると、造影剤由来のアーチファクトにより血液の酸素飽和度精度が低下してしまう。そこで、造影剤由来のアーチファクトを低減するために、複数の波長の少なくとも1つの波長が、血液の吸収係数に対して造影剤の吸収係数が小さくなる波長であってもよい。
【0071】
ここでは、式(1)にしたがって分光画像を生成する場合の説明を行ったが、造影剤の条件や照射光の波長によって分光画像中の造影剤に対応する画像値が変化するような分光画像を生成する場合にも適用することができる。
【0072】
(S500:光を照射する工程)
光照射部110は、S400で決定された波長を光源111に設定する。光源111は、S400で決定された波長の光を発する。光源111から発生した光は、光学系112を介してパルス光として被検体100に照射される。そして、被検体100の内部でパルス光が吸収され、光音響効果により光音響波が生じる。このとき、導入された造影剤もパルス光を吸収し、光音響波を発生する。光照射部110はパルス光の伝送と併せて信号収集部140へ同期信号を送信してもよい。また、光照射部110は、複数の波長のそれぞれについて、同様に光照射を行う。
【0073】
ユーザーが、光照射部110の照射条件(照射光の繰り返し周波数や波長など)やプローブ180の位置などの制御パラメータを、入力部170を用いて指定してもよい。コンピュータ150は、ユーザーの指示に基づいて決定された制御パラメータを設定してもよい。また、コンピュータ150が、指定された制御パラメータに基づいて、駆動部130を制御することによりプローブ180を指定の位置へ移動させてもよい。複数位置での撮影が指定された場合には、駆動部130は、まずプローブ180を最初の指定位置へ移動させる。なお、駆動部130は、測定の開始指示がなされたときに、あらかじめプログラムされた位置にプローブ180を移動させてもよい。
【0074】
(S600:光音響波を受信する工程)
信号収集部140は、光照射部110から送信された同期信号を受信すると、信号収集の動作を開始する。すなわち、信号収集部140は、受信部120から出力された、光音響波に由来するアナログ電気信号を、増幅・AD変換することにより、増幅されたデジタル電気信号を生成し、コンピュータ150へ出力する。コンピュータ150は、信号収集部140から送信された信号を保存する。複数の走査位置での撮影を指定された場合には、指定された走査位置において、S500およびS600の工程を繰り返し実行し、パルス光の照射と音響波に由来するデジタル信号の生成を繰り返す。なお、コンピュータ150は、発光をトリガーとして、発光時の受信部120の位置情報を駆動部130の位置センサからの出力に基づいて取得し、記憶してもよい。
【0075】
なお、本実施形態では、複数の波長の光のそれぞれを時分割に照射する例を説明したが、複数の波長のそれぞれに対応する信号データを取得できる限り、光の照射方法はこれに限らない。例えば、光照射によって符号化を行う場合に、複数の波長の光がほぼ同時に照射されるタイミングが存在してもよい。
【0076】
(S700:光音響画像を生成する工程)
光音響画像取得手段としてのコンピュータ150は、記憶された信号データに基づいて、光音響画像を生成する。コンピュータ150は、生成された光音響画像を記憶装置1200に出力し、記憶させる。本実施形態では、被検体への1回の光照射で得られた光音響信号を用いた画像再構成により1つのボリュームデータが生成される。さらに、複数回の光照射を行い、それぞれの光照射ごとに画像再構成を行うことで、時系列の3次元のボリュームデータが取得される。
【0077】
信号データを2次元または3次元の空間分布に変換する再構成アルゴリズムとしては、タイムドメインでの逆投影法やフーリエドメインでの逆投影法などの解析的な再構成法やモデルベース法(繰り返し演算法)を採用することができる。例えば、タイムドメインでの逆投影法として、Universal back-projection(UBP)、Filtered back-projection(FBP)、または整相加算(Delay-and-Sum)などが挙げられる。
【0078】
本実施形態では、被検体への1回の光照射で得られた光音響信号を用いた画像再構成により1つの3次元の光音響画像(ボリュームデータ)が生成される。さらに、複数回の光照射を行い、それぞれの光照射ごとに画像再構成を行うことで、時系列の3次元画像データ(時系列のボリュームデータ)が取得される。複数回の光照射のそれぞれ光照射ごとに画像再構成して得られた3次元画像データを総称して、複数回の光照射に対応する3次元画像データと呼ぶ。なお、時系列に複数回の光照射が実行されるため、複数回の光照射に対応する3次元画像データが、時系列の3次元画像データを構成する。
【0079】
コンピュータ150は、信号データに対して再構成処理することにより、初期音圧分布
情報(複数の位置における発生音圧)を光音響画像として生成する。また、コンピュータ150は、被検体100に照射された光の被検体100の内部での光フルエンス分布を計算し、初期音圧分布を光フルエンス分布で除算することにより、吸収係数分布情報を光音響画像として取得してもよい。光フルエンス分布の計算手法については、公知の手法を適用することができる。また、コンピュータ150は、複数の波長の光のそれぞれに対応する光音響画像を生成することができる。具体的には、コンピュータ150は、第1波長の光照射により得られた信号データに対して再構成処理を行うことにより、第1波長に対応する第1光音響画像を生成することができる。また、コンピュータ150は、第2波長の光照射により得られた信号データに対して再構成処理を行うことにより、第2波長に対応する第2光音響画像を生成することができる。このように、コンピュータ150は、複数の波長の光に対応する複数の光音響画像を生成することができる。
【0080】
本実施形態では、コンピュータ150は、複数の波長の光のそれぞれに対応する吸収係数分布情報を光音響画像として取得する。第1波長に対応する吸収係数分布情報を第1光音響画像とし、第2波長に対応する吸収係数分布情報を第2光音響画像とする。
【0081】
なお、本実施形態では、システムが光音響画像を生成する光音響装置1100を含む例を説明したが、光音響装置1100を含まないシステムにも本発明は適用可能である。光音響画像取得手段としての画像処理装置1300が、光音響画像を取得できる限り、いかなるシステムであっても本発明を適用することができる。例えば、光音響装置1100を含まず、記憶装置1200と画像処理装置1300とを含むシステムであっても本発明を適用することができる。この場合、光音響画像取得手段としての画像処理装置1300は、記憶装置1200に予め記憶された光音響画像群の中から指定された光音響画像を読み出すことにより、光音響画像を取得することができる。
【0082】
(S800:分光画像を生成する工程)
分光画像取得手段としてのコンピュータ150は、複数の波長に対応する複数の光音響画像に基づいて、分光画像を生成する。コンピュータ150は、分光画像を記憶装置1200に出力し、記憶装置1200に記憶させる。前述したように、コンピュータ150は、グルコース濃度、コラーゲン濃度、メラニン濃度、脂肪や水の体積分率など、被検体を構成する物質の濃度に相当する情報を示す画像を分光画像として生成してもよい。また、コンピュータ150は、第1波長に対応する第1光音響画像と第2波長に対応する第2光音響画像との比を表す画像を分光画像として生成してもよい。本実施形態では、コンピュータ150が、第1光音響画像と第2光音響画像とを用いて、式(1)にしたがって酸素飽和度画像を分光画像として生成する例を説明する。
【0083】
なお、分光画像取得手段としての画像処理装置1300は、記憶装置1200に予め記憶された分光画像群の中から指定された分光画像を読み出すことにより、分光画像を取得してもよい。また、光音響画像取得手段としての画像処理装置1300は、記憶装置1200に予め記憶された光音響画像群の中から、読み出した分光画像の生成に用いられた複数の光音響画像の少なくとも一つを読み出すことにより、光音響画像を取得してもよい。
【0084】
複数回の光照射と、それに引き続く音響波受信と画像再構成が行われることにより、複数回の光照射に対応する時系列の3次元画像データが生成される。3次元画像データとしては光音響画像データや分光画像データが利用できる。ここでの光音響画像データは吸収係数等の分布を示す画像データを指し、分光画像データは複数の波長の光が被検体に照射されたときに、それぞれの波長に対応する光音響画像データに基づいて生成される濃度等を示す画像データを指す。
【0085】
(S1100:分光画像を表示する工程)
表示制御手段としての画像処理装置1300は、造影剤に関する情報に基づいて、造影剤に対応する領域とそれ以外の領域とを識別できるように分光画像を表示装置1400に表示させる。なお、レンダリング手法としては、最大値投影法(MIP:Maximum
Intensity Projection)、ボリュームレンダリング、及びサーフェイスレンダリングなどのあらゆる方法を採用することができる。ここで、三次元画像を二次元にレンダリングする際の表示領域や視線方向などの設定条件は、観察対象に合わせて任意に指定することができる。
【0086】
ここでは、S400で797nmと835nmを設定し、S800で式(1)にしたがって分光画像を生成する場合について説明する。図8で示したとおり、これらの2波長を選択した場合、ICGがいかなる濃度であっても、式(1)にしたがって生成される分光画像中の造影剤に対応する画像値は負値となる。
【0087】
なお、生体内の血管(動静脈)における酸素飽和度は、パーセント表示で概ね60%~100%の範囲に収まる。そのため、被検体に照射する光の波長(2波長)は、分光画像中の造影剤に対応する酸素飽和度値(式(1)の計算値)が60%より小さくなる、または、100%より大きくなるような波長とすることが好ましい。このようにすることで、分光画像において、動静脈に対応する像と、造影剤に対応する像の判別が容易になる。例えば、造影剤としてICGを用いる場合、700nm以上、820nmより小さい波長と、820nm以上、1020nm以下の波長の2波長を選択し、式(1)により分光画像を生成することにより、造影剤の領域と血管の領域とを良好に識別することができる。
【0088】
図10に示すように、画像処理装置1300は、分光画像の画像値と表示色との関係を示すカラースケールとしてのカラーバー2400をGUIに表示させる。画像処理装置1300は、造影剤に関する情報(例えば、造影剤の種類がICGであることを示す情報)と、照射光の波長を示す情報とに基づいて、カラースケールに割り当てる画像値の数値範囲を決定してもよい。例えば、画像処理装置1300は、動脈の酸素飽和度、静脈の酸素飽和度、および造影剤に対応する負値の画像値を含む数値範囲を決定してもよい。画像処理装置1300は、-100%~100%の数値範囲を決定し、青から赤に変化するカラーグラデーションに-100%~100%を割り当てたカラーバー2400を設定してもよい。このような表示方法により、動静脈の識別に加え、負値の造影剤に対応する領域も識別することができる。また、画像処理装置1300は、造影剤に関する情報と、照射光の波長を示す情報とに基づいて、造影剤に対応する画像値の数値範囲を示すインジケータ2410を表示させてもよい。ここでは、カラーバー2400において、ICGに対応する画像値の数値範囲として負値の領域をインジケータ2410で示している。このように造影剤に対応する表示色を識別できるようにカラースケールを表示することにより、分光画像中の造影剤に対応する領域を容易に識別することができる。
【0089】
領域決定手段としての画像処理装置1300は、造影剤に関する情報と、照射光の波長を示す情報とに基づいて、分光画像中の造影剤に対応する領域を決定してもよい。例えば、画像処理装置1300は、分光画像のうち、負値の画像値を有する領域を造影剤に対応する領域として決定してもよい。そして、画像処理装置1300は、造影剤に対応する領域とそれ以外の領域とを識別できるように分光画像を表示装置1400に表示させてもよい。画像処理装置1300は、造影剤に対応する領域とそれ以外の領域との表示色を異ならせる、造影剤に対応する領域を点滅させる、造影剤に対応する領域を示すインジケータ(例えば、枠)を表示させるなどの識別表示を採用することができる。
【0090】
なお、図10に示すGUIに表示されたICGの表示に対応するアイテム2730を指示することにより、ICGに対応する画像値を選択的に表示させる表示モードに切り替え可能であってもよい。例えば、ユーザーがICGの表示に対応するアイテム2730を選
択した場合に、画像処理装置1300が分光画像から画像値が負値のボクセルを選択し、選択されたボクセルを選択的にレンダリングすることにより、ICGの領域を選択的に表示してもよい。同様に、ユーザーが動脈の表示に対応するアイテム2710や静脈の表示に対応するアイテム2720を選択してもよい。ユーザーの指示に基づいて、画像処理装置1300が、動脈に対応する画像値(例えば、90%以上100%以下)や静脈に対応する画像値(例えば、60%以上90%未満)を選択的に表示させる表示モードに切り替えてもよい。動脈に対応する画像値や静脈に対応する画像値の数値範囲については、ユーザーの指示に基づいて変更可能であってもよい。
【0091】
なお、分光画像の画像値に色相、明度、および彩度の少なくとも一つを割り当て、光音響画像の画像値に色相、明度、および彩度の残りのパラメータを割り当てた画像を分光画像として表示させてもよい。例えば、分光画像の画像値に色相および彩度を割り当て、光音響画像の画像値に明度を割り当てた画像を分光画像として表示させてもよい。このとき、造影剤に対応する光音響画像の画像値が、血管に対応する光音響画像の画像値よりも大きい場合や小さい場合、光音響画像の画像値に明度を割り当てると、血管と造影剤の両方を視認することが困難な場合がある。そこで、分光画像の画像値によって、光音響画像の画像値から明度への変換テーブルを変更してもよい。例えば、分光画像の画像値が造影剤に対応する画像値の数値範囲に含まれる場合、光音響画像の画像値に対応する明度を、血管に対応するそれよりも小さくしてもよい。すなわち、造影剤の領域と血管の領域を比べたときに、光音響画像の画像値が同じであれば、血管の領域よりも造影剤の領域の明度を小さくしてもよい。ここで変換テーブルとは、複数の画像値のそれぞれに対応する明度を示すテーブルである。また、分光画像の画像値が造影剤に対応する画像値の数値範囲に含まれる場合、光音響画像の画像値に対応する明度を、血管に対応するそれよりも大きくしてもよい。すなわち、造影剤の領域と血管の領域を比べたときに、光音響画像の画像値が同じであれば、血管の領域よりも造影剤の領域の明度を大きくしてもよい。また、分光画像の画像値によって、光音響画像の画像値を明度に変換しない光音響画像の画像値の数値範囲が異なっていてもよい。
【0092】
変換テーブルは、造影剤の種類や濃度、また照射光の波長によって適したものに変更してもよい。そこで、画像処理装置1300は、造影剤に関する情報と、照射光の波長を示す情報とに基づいて、光音響画像の画像値から明度への変換テーブルを決定してもよい。画像処理装置1300は、造影剤に対応する光音響画像の画像値が血管に対応するそれよりも大きくなると推定される場合、造影剤に対応する光音響画像の画像値に対応する明度を血管に対応するそれよりも小さくしてもよい。反対に、画像処理装置1300は、造影剤に対応する光音響画像の画像値が血管に対応するそれよりも小さくなると推定される場合、造影剤に対応する光音響画像の画像値に対応する明度を血管に対応するそれよりも大きくしてもよい。
【0093】
図10に示すGUIは、波長797nmに対応する吸収係数画像(第1光音響画像)2100、波長835nmに対応する吸収係数画像(第2光音響画像)2200、酸素飽和度画像(分光画像)2300を表示する。それぞれの画像がいずれの波長の光によって生成された画像であるかをGUIに表示してもよい。本実施形態では、光音響画像と分光画像の両方を表示しているが、分光画像だけを表示してもよい。また、画像処理装置1300は、ユーザーの指示に基づいて、光音響画像の表示と分光画像の表示とを切り替えてもよい。
【0094】
なお、表示部160は動画像を表示可能であってもよい。例えば、画像処理装置1300が、第1光音響画像2100、第2光音響画像2200および分光画像2300の少なくともいずれかを時系列に生成し、生成された時系列の画像に基づいて動画像データを生成して表示部160に出力する構成としてもよい。なお、リンパの流れる回数が比較的少
ないことに鑑みて、ユーザーの判断時間を短縮するために、静止画または時間圧縮された動画像として表示することも好ましい。また、動画像表示において、リンパが流れる様子を繰り返し表示することもできる。動画像の速度は、予め規定された所定の速度やユーザーに指定された所定の速度であってもよい。
【0095】
また、動画像を表示可能な表示部160において、動画像のフレームレートを可変にすることも好ましい。フレームレートを可変にするために、図10のGUIに、ユーザーがフレームレートを手動で入力するためのウィンドウや、フレームレートを変更するためのスライドバーなどを追加してもよい。ここで、リンパ液はリンパ管内を間欠的に流れるため、取得された時系列のボリュームデータの中でも、リンパの流れの確認に利用できるのは一部だけである。そのため、リンパの流れの確認する際に実時間表示を行うと効率が低下する場合がある。そこで、表示部160に表示される動画像のフレームレートを可変にすることで、表示される動画像の早送り表示が可能になり、ユーザーがリンパ管内の流体の様子を短時間で確認できるようになる。
【0096】
また、表示部160は、所定の時間範囲内の動画像を繰り返し表示可能であってもよい。その際、繰り返し表示を行う範囲をユーザーが指定可能とするためのウィンドウやスライドバーなどのGUIを、図10に追加することも好ましい。これにより、例えばリンパ管内を流体が流れる様子をユーザーが把握しやすくなる。
【0097】
リンパ管内を流体が流れる様子は、リンパ管の領域における流れ情報として表示部160に表示される。リンパ管の領域における流れ情報の表示方法は、上記には限られない。例えば、表示制御手段としての画像処理装置1300は、リンパ管の領域における流れ情報を、リンパ管の領域と関連付けて、輝度表示、カラー表示、グラフ表示、および数値表示の少なくともいずれかの方法で、表示装置1400の同一画面に表示させてもよい。また、表示制御手段としての画像処理装置1300は、少なくとも1つのリンパ管の領域を強調表示してもよい。
【0098】
(S1200:リンパ管の分類結果を表示する工程)
S1200において、状態推定手段としての画像処理装置1300は、画像データを解析して自動でリンパ管の領域を抽出し、リンパ管を分類する。表示制御手段としての画像処理装置1300は、リンパ管の分類結果を表示装置1400に表示させる。
【0099】
状態推定手段としての画像処理装置1300は、S800で生成された分光画像の画像解析をすることにより、被検体内のリンパ管の領域を抽出する。分光画像において、例えば式(1)の計算値から被検体内のリンパ管と静脈とは区別することが可能であるため、画像処理装置1300は、被検体内のリンパ管の領域を抽出することができる。
【0100】
状態推定手段としての画像処理装置1300は、分光画像の解析により、抽出したリンパ管を分類する。画像処理装置1300は、例えば、リンパ管を複数の分割領域に分割し、各分割領域をShooting Star、収縮、滞留、停留、DBF(Dermal backflow)等の状態を判定して分類してもよい。Shooting Starは、リンパが流
星のように流れる健常な状態である。収縮は、リンパ管の特定部分の幅が変化し、リンパ(液)を送り出す状態である。滞留は、リンパの流れが見られない時間帯がある状態である。停滞は、リンパがほとんど流れない状態である。
【0101】
DBFは、皮膚に向かってリンパ液が逆流している状態である。DBFには、さらに、間質漏れおよびリンパ管拡張の状態が含まれる。間質漏れは、リンパ液が逆流して間質に漏れている状態である。リンパ管拡張は、逆流するリンパ液が拡張した毛細リンパ管や前集合リンパ管内に残留している状態である。
【0102】
画像処理装置1300は、リンパ管の状態に限られず、単位面積あたりのリンパ管の存在数、単位面積あたりのリンパ管の存在比、または単位体積あたりのリンパ管の存在比に基づいて、リンパ管を分類してもよい。単位面積あたりのリンパ管の存在数、単位面積あたりのリンパ管の存在比、および単位体積あたりのリンパ管の存在比は、以下、リンパ管の存在数、面積比および体積比とも称する。また、画像処理装置1300は、リンパ管と静脈との距離、または被検体の皮膚からの深さに基づいて、リンパ管を分類してもよい。
【0103】
なお、リンパ管の領域は、上述のように自動で分類されてもよく、手動で分類されてもよい。手動で分類される場合、特定手段としての画像処理装置1300は、リンパ管の領域の一部を特定し、特定された領域を、ユーザーの指示に応じて分類することができる。
【0104】
表示制御手段としての画像処理装置1300は、リンパ管の分類結果を表示装置1400に表示させる。画像処理装置1300は、例えば、リンパ管の領域を、各分割領域の状態に対応する色相により表示してもよい。また、画像処理装置1300は、被検体における単位面積ごとに、リンパ管の存在数、面積比、または体積比をユーザーが確認できるように表示してもよい。画像処理装置1300は、リンパ管と静脈との距離、リンパ管および静脈の皮膚からの深さを表示してもよい。
【0105】
保存制御手段としての画像処理装置1300は、リンパ管の分類結果を、解析した画像データ、患者の情報と紐付けて、記憶装置1200に記憶させる。画像処理装置1300は、画像データまたは患者の情報を表示装置1400に表示させる場合、対応するリンパ管の分類結果を記憶装置1200から取得して、画像データとともに表示することができる。
【0106】
以上説明したように、画像処理装置1300および情報処理装置としてのコンピュータ150の少なくとも1つは、分光画像取得手段、領域決定手段、光音響画像取得手段、状態推定手段、特定手段、表示制御手段および保存制御手段の少なくとも一つを有する装置として機能する。なお、それぞれの手段は、互いに異なるハードウェアで構成されていてもよいし、1つのハードウェアで構成されていてもよい。また、複数の手段が1つのハードウェアで構成されていてもよい。
【0107】
本実施形態では、造影剤に対応する画像値が負値となる波長を選択することにより、血管と造影剤とを識別できるようにしたが、造影剤に対応する画像値が血管と造影剤とを識別できる限り、造影剤に対応する画像値がいかなる値であってもよい。例えば、造影剤に対応する分光画像(酸素飽和度画像)の画像値が、60%より小さくなるまたは100%より大きくとなる場合などにも、本工程で説明した画像処理を適用することができる。
【0108】
(実施例1)
実施例1では、画像処理装置1300は、被検体への光照射により、被検体内から発生した光音響波の受信信号データに基づいて生成した画像データを解析することにより、自動でリンパ管を分類し、リンパ管の状態を推定する。画像処理装置1300は、分類結果を表示装置1400に表示させる。以下、図6に示すフローチャートを用いて、実施例1に係る画像処理方法を説明する。
【0109】
(S1211:リンパ管領域を抽出する工程)
状態推定手段としての画像処理装置1300は、画像データからリンパ管の領域を抽出する。リンパ管の領域を抽出するための画像データは、例えば、複数の波長に対応する複数の光音響画像を用いて生成された分光画像とすることができる。図11は、被検体の分光画像を例示する図である。図11に示す分光画像の取得方法は後述する。図11に例示
する分光画像では、造影剤が導入されたリンパ管A1と静脈A2との両方が画像化されている。リンパ管A1および静脈A2は、それぞれの画像値に対応する色相、明度、および彩度の少なくとも一つを割り当てることにより、区別して視認可能である。したがって、画像処理装置1300は、画像解析により、リンパ管の領域を抽出することができる。なお、リンパ管の領域を抽出するための画像データは、単波長由来の光音響画像であってもよい。単波長由来の光音響画像においても、リンパ管の画像化は可能であり、画像処理装置1300は、画像解析により、リンパ管の領域を抽出することができる。単波長由来の光音響画像を用いたリンパ管の抽出方法の一例を説明する。複数回の光照射のそれぞれに対応する画像データ群を含む画像のうち、所定の期間内での光音響画像における画像値の変化の大きい領域は、上述した間欠的なリンパ液の流れを反映していると考え、当該領域をリンパ管の領域とすることが可能である。このほか、三次元画像としての光音響画像において、深さや構造の太さに応じたヘモグロビンおよび造影剤由来の画像値の参照値をあらかじめコンピュータ150に保持しておくことでも、リンパ管か血管かを識別することが可能である。
【0110】
(S1212:リンパ管を分類する工程)
リンパ管は、リンパの流れの状態、静脈との距離といった各種の指標に基づいて分類される。これらの分類結果を確認することで、ユーザーは、リンパ管と静脈をつなぐ吻合手術において、吻合対象となるリンパ管を特定することができる。リンパ管を分類する方法を、以下に例示する。
【0111】
[リンパ管分類方法1]
図12を用いて、リンパ管の状態を指標として、リンパ管を分類する方法を説明する。ここでは、リンパ管の状態が、輝度値の時間変化に基づいて判定される例を示す。図12には、リンパ管A1および静脈A2が示される。画像処理装置1300は、リンパ管A1を所定の長さに分割し、分割領域A101、A102、A103を抽出する。分割領域A101、A102、A103は、例えば、Hesse行列、勾配ベクトルまたはHough変換によって近似され、それぞれ長軸方向および短軸方向が判定される。
【0112】
例えば、各分割領域のうち、輝度値のより高い部分が時間とともに長軸方向に移動する分割領域は、Shooting Starの状態であると判定することができる。また、輝度値のより高い部分が、短軸方向に狭くなったり広がったりする分割領域は、収縮の状態であると判定することができる。輝度値に変化のない時間帯がある分割領域は、滞留の状態であると判定することができる。輝度値が変化しない分割領域は、停留の状態であると判定することができる。
【0113】
分割領域が、DBFの状態である場合に、間質漏れであるか、リンパ管拡張であるかは、例えば、画像の空間周波数により判定することができる。画像の空間周波数が閾値より低い場合は、間質漏れの状態であり、閾値より高い場合は、リンパ管拡張の状態であると判定することができる。
【0114】
このように、リンパ管は、状態を指標として分類することが可能である。ユーザーは、リンパ管の状態に基づいてリンパ管の健常度を判断し、吻合対象のリンパ管を選択したり、吻合位置を決定したりすることができる。
【0115】
なお、本例では画像中の輝度値の時間変化を利用したが、輝度値以外にも上述した色相、明度、彩度などの画像値に対応する情報に基づいてリンパ管の状態を判定してもよい。すなわち、本例は、各分割領域における画像値の時間変化に基づいて各分割領域の状態を判定しているとも言える。
【0116】
[リンパ管分類方法2]
図13を用いて、単位面積あたりのリンパ管の存在数、面積比、体積比を指標として、リンパ管を分類する方法を説明する。図13には、3本のリンパ管A1a、リンパ管A1b、リンパ管A1cが示される。図13に示される正方形の各ブロックは、単位面積に相当する領域を示す。画像処理装置1300は、画像データを解析することにより、被検体の単位面積(例えば、2cm)ごとに、リンパ管の存在数、単位面積に占める面積比を算出する。画像データが3次元の空間分布を表す画像である場合には、画像処理装置1300は、単位面積に対する(単位体積に占める)リンパ管の体積比を算出することができる。
【0117】
図13の例では、各ブロックは、リンパ管の存在数に応じて色分けされている。すなわち、リンパ管が2本存在するブロックB1、リンパ管が1本存在するブロックB2、リンパ管が存在しないブロックB3は、それぞれ異なる色で示される。画像処理装置1300は、単位面積あたりのリンパ管の存在数に限られず、単位面積に対するリンパ管の面積比、または単位体積に対するリンパ管の体積比に応じて、各ブロックを色分けして表示してもよい。
【0118】
このように、リンパ管は、単位面積あたりの存在数、面積比、体積比を指標として、分類することができる。ユーザーは、リンパ管の存在数、面積比、体積比を考慮して、吻合対象のリンパ管を選択したり、吻合位置を決定したりすることができる。
【0119】
[リンパ管分類方法3]
図14を用いて、リンパ管と静脈との距離を指標として、リンパ管を分類する方法を説明する。画像処理装置1300は、画像データに表示されるリンパ管A1および静脈A2を抽出し、相互間の距離を算出する。画像処理装置1300は、図14に示すように、リンパ管A1と静脈A2との距離を表示することができる。なお、リンパ管A1と静脈A2との距離は、2次元の空間分布を表す画像における距離であってもよく、3次元の空間分布を表す画像における距離であってもよい。リンパ管A1と静脈A2との距離を表示する位置は、ユーザーによって指定されてもよい。また、リンパ管A1と静脈A2との距離は、リンパ管A1に沿って所定の間隔で表示されるようにしてもよい。この場合、画像処理装置1300は、リンパ管A1と静脈A2との距離が所定の閾値を超える位置では、距離を表示しないようにしてもよい。
【0120】
さらに、画像処理装置1300は、リンパ管A1と静脈A2とが平面視において交差する位置(図14のA111およびA112)を強調表示してもよい。また、3次元画像データにおいて算出したリンパ管A1と静脈A2との間の距離が短い位置を強調表示してもよい。また、リンパ管A1および静脈A2は、皮膚からの深さに応じた輝度を割り当てて表示されるようにしてもよい。このように、リンパ管は、静脈との距離、皮膚からの深さを指標として分類することも可能である。ユーザーは、リンパ管と静脈との距離または皮膚からの深さに基づいて、吻合対象のリンパ管を選択し、吻合位置を決定することができる。ユーザーは、関心領域の位置に応じて、上述の各指標を選択することができる。画像処理装置1300は、選択された指標によって分類されたリンパ管の領域を、表示装置1400に表示させることができる。また、3次元画像データにおいて算出したリンパ管と静脈との間の距離が近い位置を強調表示してもよい。
【0121】
(S1213:分類結果を表示する工程)
表示制御手段としての画像処理装置1300は、リンパ管の状態を指標として分類する場合(リンパ管分類方法1)、リンパ管の各分割領域を、状態に対応する色相で表示することができる。画像処理装置1300は、単位面積あたりのリンパ管の存在数、面積比、体積比を指標として分類する場合(リンパ管分類方法2)、単位面積を示す各ブロックを
、リンパ管の存在数、面積比または体積比の値に応じた色相で表示してもよい。画像処理装置1300は、リンパ管と静脈との距離を指標として分類する場合(リンパ管分類方法3)、リンパ管と静脈との距離を表示してもよい。画像処理装置1300は、リンパ管と静脈との距離を示す他、皮膚からの深さに応じた輝度値、色相、明度、および彩度の少なくとも一つを割り当てて表示させてもよい。このとき皮膚からの深さに関する情報に対して割り当てられる指標は、ほかの情報と識別可能な指標とすることが視認性の観点では好ましい。例えば、リンパ管の状態を示す情報に色相を割り当てる場合に、皮膚からの深さに関する情報には、色相以外の指標を割り当てる。つまり、リンパ管の領域の画像値に、リンパ管の状態に応じた輝度値、色相、明度、および彩度の少なくとも一つを割り当てるとともに、リンパ管の状態に割り当てたものを除く輝度値、色相、明度、および彩度の少なくとも一つを、被検体の皮膚からの深さに関する情報に割り当てる。
【0122】
また、画像処理装置1300は、リンパ管の状態、単位面積あたりの存在数等、静脈との距離、皮膚からの深さといった指標を評価し、吻合に適したリンパ管および静脈を強調表示するようにしてもよい。吻合に適したリンパ管は、好ましくは、リンパが流れて健常な状態(例えば、Shooting Starの状態)であって、静脈との距離がより短く、皮膚からの深さがより浅いリンパ管である。画像処理装置1300は、リンパ管の状態、単位面積あたりの存在数等、静脈との距離、皮膚からの深さといった指標が、所定の条件を満たすリンパ管を、吻合に適したリンパ管として特定することができる。画像処理装置1300は、さらに、リンパ管の上流および下流の領域での状態に基づいて、リンパ管が吻合に適しているか否かを評価してもよい。吻合に適したリンパ管が強調表示されることにより、ユーザーは、吻合により適したリンパ管を選択することができる。
【0123】
(S1214:データを保存する工程)
保存制御手段としての画像処理装置1300は、S1212でのリンパ管の分類結果を、解析した画像データおよび患者の情報と紐付けて、記憶装置1200に記憶させてもよい。この場合、画像処理装置1300は、記憶装置1200に記憶させたリンパ管の分類結果を、画像データとともに表示装置1400に表示することができる。画像処理装置1300は、ユーザーが選択した指標に応じた態様(例えば、図13図14)によって、リンパ管の分類結果を表示することができる。ユーザーは、患者の情報と紐付けられたリンパ管の分類結果を、繰り返し確認することが可能となる。患者の情報としては、上述の患者ID以外にも、患者に対して行われた理化学療法に関する情報が含まれていてもよい。これにより、ユーザーは、理化学療法に伴うリンパ管の状態の変化を把握することが容易になる。また、ユーザーがいずれの態様を採用するのかを選択できるようなインタフェースを図10図16に示すGUI上に追加してもよい。
【0124】
(分光画像の取得方法)
図11に示す分光画像の取得方法(第一の取得方法)を以下に説明する。
分光画像によって、体内に導入された造影剤が存在する領域を描出することができるため、造影剤が導入されたリンパ管を描出することができる。しかし、一枚の画像のみでは、リンパ管の位置を正しく示せない場合がある。これは、リンパ液の流れが血液のように一定ではないという理由による。
【0125】
血液は、心臓の拍動によって絶えず循環しているが、リンパ管にはポンプの役割をする共通の臓器は存在せず、リンパ管を構成するリンパ管壁に内在する平滑筋が収縮することで、リンパ液の輸送が行われる。数十秒から数分に1度の頻度で生じるリンパ管壁の平滑
筋の収縮に加え、リンパ液は、人の動きとともに起こる筋肉の収縮、弛緩によって生じる圧力、呼吸によって生じる圧力変化、外部からのマッサージ刺激などに起因して移動する。よって、リンパ液の移動タイミングは一定ではなく、例えば、数十秒~数分に一回といった不定期な感覚での間欠的な流れとなる。リンパ液が移動していないタイミングで分光
画像を取得しても、十分な量の造影剤がリンパ管内に存在しないため、リンパ管を描出することができないか、リンパ管の一部のみしか描出することができないことが懸念される。つまり、動画像中の1フレームの画像だけでは、リンパ管のうち、造影剤が存在している部分のみが描出された状態になり得る。
【0126】
そこで、本実施形態に係るシステムでは、所定の期間において、時系列に沿った複数の分光画像(複数の第一の画像データ)を取得し、取得した複数の分光画像に基づいて、リンパ管が存在する領域(すなわち、造影剤が通過する領域)を抽出する。本実施形態では、光音響装置1100が、ステップS500~S800の処理において、時系列に沿った複数の分光画像を取得し、記憶装置1200に記憶させる。なお、所定の期間は、リンパ液の移動が発生する周期より長いこと(例えば、40秒~2分程度よりも長いこと)が好ましい。
【0127】
ステップS800は、複数の分光画像に基づいて動画像を生成するステップである。
複数の分光画像を動画像として表示することで、装置のユーザーが、リンパ液が移動する様態を観察できるようになる。しかし、リンパ液はリンパ管内を間欠的に流れるため、時系列で取得された複数の分光画像の中でも、リンパ液の流れの確認に利用できるのは一部の分光画像だけとなる。すなわち、動画像のみによって分光画像を表示した場合、ユーザーは、リンパ液の移動が発生するまで画面を見続けなければならない。さらに、リンパ液(造影剤)の一回あたりの移動は短時間であるため、画面上において、リンパ管の位置をユーザーに正確に把握させることが難しい。
【0128】
そこで、本実施形態では、ステップS800を実行した後、画像処理装置1300が、複数の分光画像に基づいて、リンパ管の位置を示す静止画像(第二の画像データ)を生成する。このように特定されたリンパ管の位置を示しているのが図11の分光画像である。
【0129】
次に、ステップS800の処理が完了した後、画像処理装置1300は、記憶装置1200に記憶された複数の分光画像(複数フレームの分光画像)を取得し、リンパ管が存在する領域を表す画像を生成する。
【0130】
本ステップでは、まず、時系列で得られた複数の分光画像のそれぞれについて、画像値が所定の範囲にある領域を抽出する。前述した例では、式(1)の計算値である画像値が負値である画素の集合を抽出する。これにより、図18(A)に示したように、動画像のフレームごと、すなわち、動画像を構成する分光画像ごと、に領域(黒線で図示)が抽出される。抽出された領域は、各フレームにおいて造影剤が存在する領域である。なお、図18では、二次元画像を例示しているが、分光画像が三次元分光画像である場合、三次元空間内から領域を抽出してもよい。
【0131】
そして、フレームごとに得られた領域を重ね合わせ(合成し)、リンパ管に対応する領域を生成する。図18(A)に示した領域を重ね合わせると、図18(B)に示したような、リンパ管に対応する領域(符号1101)が得られる。
【0132】
画像処理装置1300は、このようにして生成された領域に基づいて、リンパ管の位置を表す画像(第二の画像データ)を生成し、出力する。なお、リンパ管の位置を表す画像を生成する際は、元の画像値(すなわち、分光画像の画像値)に応じた色相を与えてもよいし、固有のマーキングを施すことで強調表示してもよい。また、吸収係数に対応する輝度を与えてもよい。吸収係数は、分光画像を生成する際に使用した光音響画像から取得することができる。
【0133】
生成した画像は、図10に示したGUIと同一の画面に出力してもよいし、別の画面に
出力してもよい。第二の画像は、三次元画像であってもよいし、二次元画像であってもよい。また、上述のように生成された第二の画像データを画像サーバ1210や記憶装置1200等に保存するためのインタフェースを図10に示したGUIに追加してもよい。第二の画像データは、動画像である第一の画像データに比してデータ量が少ないため、処理能力の高くない端末を用いる場合であっても、リンパ管の位置を容易に把握することができる。
【0134】
分光画像の第一の取得方法によると、医師等のユーザーに対して、リンパ管の位置を表す静止画像を提供することが可能になる。リンパ液(造影剤)は周期的に移動するため、複数の分光画像を単純に加算(ないし平均化)した場合、リンパ管の位置を正確に提示することができない。一方、本実施形態では、画像値が所定の範囲にある領域を、分光画像の各フレームから抽出して合成するため、時間方向の情報が圧縮される。これにより、正確にリンパ管の位置を描出することができる。
【0135】
なお、例示した実施形態では、分光画像の画像値が所定の範囲にある領域を抽出したが、他の条件を併用して領域の抽出を行ってもよい。例えば、分光画像に対応する光音響画像(吸収係数を表す画像)を参照し、その輝度値が所定の閾値を下回る領域を除外してもよい。これは、分光画像の画像値が所定の範囲内にあっても、吸収係数が小さい領域はノイズである可能性が高いためである。また、フィルタリングを行うための輝度値の閾値は、ユーザーによって変更可能としてもよい。
【0136】
また、本実施形態では、血管領域に対応する画素の画像値が正になり、造影剤領域に対応する画素の画像値が負になるような照射光の波長(2波長)を選択したが、分光画像における双方の画像値の符号が逆になるような任意の2波長を選択してもよい。
【0137】
(分光画像を取得する別の方法)
図11に示す分光画像を取得する別の方法(第二の取得方法)を以下に説明する。
上に説明した方法では、ステップS800の後の工程において、時系列で取得した分光画像の各フレームに対してそれぞれ領域の抽出処理を行い、抽出した複数の領域を合成した。これに対し、時系列で取得した分光画像の複数のフレームを参照し、所定の期間内において条件を満たした領域を直接抽出することも考えられる。
【0138】
本例では、ステップS800の後の工程において、所定の期間内に含まれる複数の分光画像を選択し、当該所定の期間内において画像値が所定の範囲に入った領域(前述した例では、画像値が負値となった領域)を抽出する。所定の期間内において、画像値が所定の範囲に入った領域は、すなわち、造影剤が通過した領域であると言える。なお、所定の期間は、リンパ液の移動が発生する周期より長いこと(例えば、40秒~2分程度よりも長いこと)が好ましい。
【0139】
図19は、分光画像中のある画素P(x,y)における画像値の、所定の期間内における時間変化を例示した図である。図示した画素は、画像値が所定の範囲に入っているため、抽出の対象となる。
このように、造影剤領域は、所定の期間内において変化する画像値に基づいて抽出してもよい。なお、当該判定を行う際は、所定の期間内において光音響画像の画像値のピークホールドなどを行ってもよい。
【0140】
なお、ノイズ対策のため、第二の取得方法においても、第一の取得方法と同様に、吸収係数が所定の値を下回る領域を除外してもよい。すなわち、分光画像の画像値が所定の範囲内にあり、かつ、対応する光音響画像の輝度が閾値を上回っている領域を抽出対象としてもよい。
また、ノイズ対策のため、前述した条件を満たした状態で、一定の時間が経過した領域を抽出対象としてもよい。また、前述した一定の時間は、ユーザーが調整可能としてもよい。
【0141】
(実施例2)
実施例1では、画像処理装置1300は、リンパ管の領域を含む画像データに対する画像解析により、自動でリンパ管を分類し、リンパ管の状態を推定する。これに対し、実施例2では、ユーザーが、リンパ管の領域を含む画像データにおいて、リンパ管の領域の一部を特定し、特定した領域(以下、着目領域と称する)の状態を判定する。画像処理装置1300は、ユーザーが、着目領域に対する判定結果等の情報を入力するための入力インタフェースを、表示装置1400に表示する。ユーザーは、入力インタフェースを介して、着目領域の状態および着目領域に関する所見といった着目領域に関するデータを入力することができる。ユーザーが入力した情報は、画像データと関連付けて記憶装置1200に保存される。また、ユーザーが入力した情報は、対応する着目領域と関連付けて記憶装置1200に保存されてもよい。以下、図15に示すフローチャートを用いて、実施例2に係る画像処理方法を説明する。
【0142】
(S1221:リンパ管領域を特定する工程)
特定手段としての画像処理装置1300は、まず、実施例1におけるS1211の工程と同様に、画像データからリンパ管の領域を抽出する。画像処理装置1300は、抽出されたリンパ管の領域の一部を、着目領域として特定する。画像処理装置1300は、例えば、ユーザーが指定した位置を含む所定の長さの領域を、着目領域とすることができる。なお、画像処理装置1300は、図15に示す処理を繰り返すことにより、リンパ管の領域を複数の着目領域に分割し、各着目領域に対する情報の入力を受け付けることができる。
【0143】
画像処理装置1300は、ユーザーの指示に基づいて、着目領域を特定してもよい。ユーザーは、例えば、表示装置1400に表示された画像データにおいて、リンパ管の領域のうち特定したい領域を、マウス等のポインティングデバイスによって指し示すことで、着目領域の位置を指示することができる。例えば、画像処理装置1300は、ユーザーが指定した位置を含む所定の長さの領域を、着目領域として特定してもよい。また、画像処理装置1300は、ユーザーに始点と終点の位置を指定させて着目領域を特定してもよい。
【0144】
図16を用いて、ユーザーが着目領域の位置を指示するためのGUIについて説明する。アイテム3100には、解析対象となる画像データが表示される。図16の例では、アイテム3100には、リンパ管A1および静脈A2が表示されている。なお、アイテム3100に表示される画像データは、動画像であってもよい。
【0145】
ユーザーは、着目領域として特定したい位置を、マウスで指し示す。図16の例では、ユーザーが指した位置は、矢印3110によって示される。画像処理装置1300は、ユーザーが指した位置を中心とする正方形の領域、すなわち点線で囲まれた領域3120を、アイテム3200に拡大表示する。領域3120内に含まれるリンパ管の領域が、特定された着目領域である。着目領域の大きさ(特定されるリンパ管の長さ)は、ユーザーによって指定されてもよく、画像処理装置1300によって予め定められた大きさに決定されてもよい。ユーザーが指定した着目領域に、複数本のリンパ管が含まれる場合には、いずれかのリンパ管のみが含まれるように、画像処理装置1300が、着目領域を変更するようにしてもよい。なお、アイテム3200には、領域3120に対応する動画像を表示させてもよい。さらに、アイテム3100に示された画像が動画像である場合には、領域3120の動画像と同期した画像とすることで、ユーザーは同時刻における画像を観察す
ることができる。アイテム3300およびアイテム3400については、S1222の工程で説明する。
【0146】
(S1222:リンパ管の分類の入力を受け付ける工程)
表示制御手段としての画像処理装置1300は、S1221で特定された着目領域に対する入力を受付ける入力インタフェースを、表示装置1400に表示する。図16に例示するアイテム3300およびアイテム3400は、着目領域に対する入力を受付ける入力インタフェースに相当する。
【0147】
アイテム3300は、アイテム3200に表示された着目領域の状態を入力するための入力インタフェースである。アイテム3300は、「走行リンパ管」および「DBF」のタブを含む。図16は、「走行リンパ管」タブが選択された状態を示す。ユーザーは、アイテム3300において、着目領域の状態として、Shooting Star、収縮、滞留、停留のいずれかを選択することができる。また、「DBF」タブが選択された場合、例えば、間質漏れおよびリンパ管拡張の状態が選択肢として表示される。
【0148】
アイテム3400は、アイテム3200に表示された着目領域に対する所見を入力するための入力インタフェースである。入力インタフェースは、着目領域の状態および着目領域に対する所見に限られず、リンパ管細静脈吻合術における吻合位置としての適合度などの各種情報の入力を受け付けるものであってもよい。
【0149】
また、着目領域内に複数のリンパ管が含まれる場合には、ユーザーが入力するリンパ管の状態および所見の対象となるリンパ管を、アイテム3100あるいはアイテム3200内で特定することができるようなインタフェースとしてもよい。特定されたリンパ管の情報を、リンパ管の状態および所見情報とともに保存することで、後に観察する際にも、その評価がどのリンパ管を対象にしたものであるのかを容易に把握できるようになる。
【0150】
(S1223:分類結果を表示する工程)
表示制御手段としての画像処理装置1300は、リンパ管A1の分類結果として、アイテム3300で選択された状態に基づき、リンパ管A1を着目領域ごとに色分けをして、アイテム3100に表示することができる。
【0151】
図17を用いて、実施例2に係るリンパ管の分類結果の表示例を説明する。図17は、図16に示すGUIのアイテム3100に分類結果が表示された例を示す。アイテム3100には、リンパ管A1および静脈A2が表示される。図17の例は、リンパ管A1において、着目領域A121、着目領域A122および着目領域A123が特定された状態を示す。領域A124は、着目領域として特定されていない未分類のリンパ管の領域である。凡例で示されるように、着目領域A121はShooting Star、着目領域A122は滞留、着目領域A123は収縮の状態である。なお、未分類の領域A124は、例えば、点滅表示されてもよい。画像処理装置1300は、未分類の領域を点滅表示させることで、ユーザーにリンパ管の分類の指示をするように促すことができる。なお、着目領域として特定された領域と着目領域として特定されていない領域とを異なる態様で表示する手法は、点滅表示に限られない。例えば、未分類の領域を分類済みの領域に付与される色とは異なる色で表示させたり、当該領域を示す枠を表示させたりすることでも同様の効果が得られる。
【0152】
(S1224:データを保存する工程)
画像処理装置1300は、S1212でのリンパ管の分類結果を、解析した画像データおよび患者の情報と紐付けて、記憶装置1200に記憶させてもよい。画像処理装置1300は、記憶装置1200に記憶させたリンパ管の分類結果を、画像データとともに表示
装置1400に表示させることができる。画像データが動画像である場合、ユーザーは、動画像を再生しながら、自身の分類結果を確認することができる。
【0153】
図15に示すフローは、1つの着目領域に対して、状態または所見といった情報を入力する処理を例示する。未分類の領域に対して、図15に示すフローを繰り返すことで、リンパ管の領域は、複数の着目領域に分割され、それぞれの状態に応じて分類される。なお、分類結果を表示する工程(S1223)およびデータを保存する工程(S1224)は、図15に示すフローでは着目領域ごとに実行されるが、複数の着目領域に対する入力が完了した後に実行されてもよい。
【0154】
(その他の実施例)
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。
【符号の説明】
【0155】
1100 光音響装置
1300 画像処理装置
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