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特許7226736グレア知覚検査装置及びグレア知覚検査方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】グレア知覚検査装置及びグレア知覚検査方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/06 20060101AFI20230214BHJP
   A61B 5/377 20210101ALI20230214BHJP
【FI】
A61B3/06
A61B5/377
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019027664
(22)【出願日】2019-02-19
(65)【公開番号】P2020130581
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2022-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(73)【特許権者】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(73)【特許権者】
【識別番号】500550980
【氏名又は名称】株式会社中京メディカル
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 秀顕
(72)【発明者】
【氏名】中内 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 芳樹
【審査官】高松 大
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-017853(JP,A)
【文献】国際公開第2018/012334(WO,A1)
【文献】特開2018-108534(JP,A)
【文献】特開2015-211719(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/06
A61B 5/377
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の色を背景色とする表示パターンであって、前記背景色の輝度よりも予め設定された輝度だけ高くした第1色で形成された第1パッチと、前記背景色の輝度よりも前記予め設定された輝度だけ低くした第2色で形成された第2パッチと、をランダムに配置し、且つ、前記表示パターン内において前記第1パッチの合計面積と前記第2パッチの合計面積とが互いに等しくなるように配置して構成される表示パターンを作成する表示パターン作成部と、
前記表示パターンを表示画面に表示する表示制御部と、
を備えるグレア知覚検査装置。
【請求項2】
前記背景色は、グレースケールを構成する色の中から選択された色である請求項1に記載のグレア知覚検査装置。
【請求項3】
前記表示パターン作成部は、前記表示パターン毎に前記予め設定された輝度を変更する請求項1又は2に記載のグレア知覚検査装置。
【請求項4】
前記表示画面を見たユーザの脳波を、前記ユーザの頭部に付設した検出電極により電気信号として取得する脳波信号取得部と、
前記脳波信号取得部により取得された電気信号を周波数解析により解析する解析部と、
前記解析部による解析結果に基づいて前記ユーザのグレア知覚を評価する評価部と、
を備える請求項1から3のいずれか一項に記載のグレア知覚検査装置。
【請求項5】
前記解析部は、前記電気信号を解析して定常性視覚誘発電位信号を取得し、
前記評価部は、前記第1色及び前記第2色の夫々の輝度から算定されるマイケルソンコントラストの値が0.1である前記表示パターンを前記表示画面に表示して取得された電気信号に基づく前記定常性視覚誘発電位信号のピーク値が、前記マイケルソンコントラストの値が0.05である前記表示パターンを前記表示画面に表示して取得された電気信号に基づく前記定常性視覚誘発電位信号のピーク値に対して3倍以上である場合に、当該電気信号が取得されたユーザが光感受性障害者であるとして評価する請求項4に記載のグレア知覚検査装置。
【請求項6】
前記解析部は、前記電気信号を解析して定常性視覚誘発電位信号を取得し、
前記評価部は、前記第1色及び前記第2色の夫々の輝度から算定されるマイケルソンコントラストの値が夫々0.1以上1以下の前記表示パターンを前記表示画面に表示して取得された電気信号に基づく前記定常性視覚誘発電位信号のピーク値が、前記マイケルソンコントラストの値が0.05である前記表示パターンを前記表示画面に表示して取得された電気信号に基づく前記定常性視覚誘発電位信号のピーク値に対して4倍以下である場合に、当該電気信号が取得されたユーザが光感受性障害者でないとして評価する請求項4又は5に記載のグレア知覚検査装置。
【請求項7】
所定の色を背景色とする表示パターンであって、前記背景色の輝度よりも予め設定された輝度だけ高くした第1色で形成された第1パッチと、前記背景色の輝度よりも前記予め設定された輝度だけ低くした第2色で形成された第2パッチと、をランダムに、且つ、前記表示パターン内において前記第1パッチの合計面積と前記第2パッチの合計面積とが互いに等しくなるように配置して構成される表示パターンを作成する表示パターン作成ステップと、
前記表示パターンを表示画面に表示する表示制御ステップと、
前記表示画面を見たユーザの脳波を、前記ユーザの頭部に付設した検出電極により電気信号として取得する脳波信号取得ステップと、
前記脳波信号取得ステップにより取得された電気信号を周波数解析により解析する解析ステップと、
前記解析ステップによる解析結果に基づいて前記ユーザのグレア知覚を評価する評価ステップと、
を備えるグレア知覚検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザのグレア知覚を検査するグレア知覚検査装置、及びユーザのグレア知覚を検査するグレア知覚検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば同じものを見た場合であっても、人によって、夫々見え方や感じ方が異なることがある。このような人によって異なるものとして「眩しさ」がある。視野内に不適切な輝度分布や極端な輝度対比がある場合に催される「眩しさ」を示す用語として「グレア」が用いられている。グレアは、生理的に視覚機能が損なわれた不能グレア又は減能グレアと、心理的に不快感が引き起こされた不快グレアの2つに大別できるが、それらの間の境界は曖昧である。
【0003】
ある光の状態がグレアとなり得るかは、光源とユーザの関係によって決まる。例えば、同じ照明環境下においても、高齢者では、若年者よりもグレアを感じやすいことが知られている。これは、高齢者の眼球にあっては、水晶体の白濁化等に応じて、光散乱度が増加することに起因している。グレアは、単にものを視認し辛いといっただけでなく、眼精疲労やストレス、頭痛等の二次的弊害をも起こし得る。また、重篤な場合には、文字や数字が読み難くなるため、読み書きや学習障害の原因にもなり得る。日常生活において、これらのリスクを低減するために、グレアを抑制できる照明や、グレアの評価方法が検討されてきた(例えば非特許文献1)。
【0004】
非特許文献1には、国際照明委員会により提案された、照明や背景の輝度、サイズ、位置に基づいて、グレア評価値を算出できるUGR(Unified Glare Rating)法が開示されている。UGR法は、人が室内照明から感じる不快グレアを数値化できる評価法であって、過去に提案されてきたグレア評価法の特徴を包含したものである。不快グレアの程度に影響をおよぼす光源の輝度、大きさ、位置、背景の輝度を変数とした計算式(下記(1)式)から、不快グレアを精度良く評価でき、室内照明による不快グレアの評価基準として広く利用されている。
【0005】
【数1】
ここで、Lは背景の輝度(cd/m)、Lは照明の輝度(cd/m)、ωは照明の立体角(sr)、Pは照明の位置指数である。
【0006】
上記UGR法では、(1)式によるUGR値が25を超える照明環境では、人は強い不快グレアを感じ、UGR値が16程度である場合では、不快グレアを感じるものの、さほど気にならない、また、UGR値が7以下である場合では、不快グレアは感じないと判定される。
【0007】
これまでに、このUGR法を用いてグレア知覚を評価する技術(例えば特許文献1及び2)や、UGR方法に拘らず、ユーザのグレア知覚を評価する技術(例えば特許文献3-5)が検討されてきた。
【0008】
特許文献1には、複雑な輝度分布を有する現実の光環境の不快グレアや眩しさを正確に評価できるグレア評価装置に関して開示されている。このグレア評価装置は、明るさ画像に視点を設定する設定手段と、明るさ画像のうち視点の周囲に位置する画素から視点への明るさの寄与に基づいて、視点におけるグレア評価値を算出する算出手段とを備えている。
【0009】
また、特許文献2には、適切に不快グレアを評価できる不快グレア評価方法が開示されている。この不快グレア評価方法では、情報入手工程と算出工程とを含み、情報入手工程では、照明器具の発光部の平均輝度に関する平均輝度情報と、発光部の輝度均斉度に関する輝度均斉度情報と、発光部の大きさに関する発光部大きさ情報と、照明器具の背景輝度に関する背景輝度情報とを入手する。算出工程は、情報入手工程で入手した平均輝度と、輝度均斉度と、発光部大きさと、背景輝度に基づいて平均輝度に基づく値と、輝度均斉度に基づく値と、発行部大きさに基づく値との積を、背景輝度に基づく値で除した評価パラメータ値を算出する。
【0010】
また、特許文献3には、グレア(眩しさ)の度合を直接的に測定することにより、被検者(患者)のグレア障害の発生状況やその改善度を数値化して把握するグレア検査装置が開示されている。このグレア検査装置は、主に運搬台に載置された箱状の本体部と、本体部から被検眼まで所定距離離れて椅子に座った被検者が着用するサングラスとから構成される。本体部は、箱体表面の中央部に固定して配置される単一の中央発光体と、中央発光体を被検眼で見たときの光の広がりを読み取るための複数の指標とを有する。
【0011】
また、特許文献4には、グレアテスト時の電力消費の増大を招くことを防止することができ、且つ、新たな色が付された視標を検査装置全体の大型化を招くことなく容易に組み込むことができる検眼装置が開示されている。この検眼装置は、照明用光源により発光する液晶表示板の輝度よりも高い輝度を有するグレア光発生手段を備え、制御回路はグレア光発生手段を用いてグレア光を発生させる。また、照明用光源により照明された液晶表示板に対するコントラスト比の値がそれぞれ異なる色が付された複数の視標を示す視標データがメモリ部に記憶され、制御回路は指示内容に示されたコントラスト比に対応する色が付された視標に対応する視標データをメモリ部から抽出し、抽出した視標データが示す視標を液晶表示板に表示する旨の制御信号を視標呈示装置に出力する。
【0012】
また、特許文献5には、複数の視標を同時に呈示しつつ、それぞれの視標によるグレア検査を同等の条件で行う視機能検査装置が開示されている。この視機能検査装置は、視標呈示部と、第1光源部と、第2光源部とを備えている。視標呈示部は、第1方向に沿って配列された視標群を呈示する。第1光源部は当該視標群のうち一端側に配置された第1視標から第1方向に沿って所定距離だけ離れた位置から被検眼に向けて第1グレア光を照射する。第2光源部は当該視標群のうち他端側に配置された第2視標から第1方向に沿って上記所定距離だけ離れた位置から被検眼に向けて第2グレア光を照射する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2007-292665号公報
【文献】特開2013-51188号公報
【文献】特開2007-68925号公報
【文献】特開2008-284264号公報
【文献】特開2015-211719号公報
【非特許文献】
【0014】
【文献】CIE Technical Report 117-1995:Discomfort Glare In Interior Lighting
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1及び2に記載の技術は、ユーザのグレア知覚を一切考慮しないため、特定のユーザに適合した環境を作る目的では有用であるとは言い難い。
また、特許文献3-5に記載の技術は、ユーザの視野中央部に、視標(ランドルト環、文字、縞模様、等)と一定光量/パターンの光とを同時に呈示した状態で、視力或いはコントラスト感度を調べる技術である。指標に重ねた光の影響による視力或いはコントラスト感度の変化から、観察者個人のグレア知覚を明らかにしようとしている。ユーザに視標の見え方を回答することを求めた場合、どの様に“眩しさ”を感じているかを尋ねることは無い。このため、これらの技術は、ユーザ個々のグレア知覚を、間接的・状況証拠的に類推するものに過ぎない。したがって、グレアを誘発しようとした光に対して、ユーザが主観的に強い不快グレアを感じた結果生じたものなのか、あるいは、弱いと感じた結果なのかを特定することはできない。
【0016】
そこで、定量的にユーザのグレア知覚を検査することが可能なグレア知覚検査装置、及びそのようなグレア知覚検査方法が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に係るグレア知覚検査装置の特徴構成は、所定の色を背景色とする表示パターンであって、前記背景色の輝度よりも予め設定された輝度だけ高くした第1色で形成された第1パッチと、前記背景色の輝度よりも前記予め設定された輝度だけ低くした第2色で形成された第2パッチと、をランダムに配置し、且つ、前記表示パターン内において前記第1パッチの合計面積と前記第2パッチの合計面積とが互いに等しくなるように配置して構成される表示パターンを作成する表示パターン作成部と、前記表示パターンを表示画面に表示する表示制御部と、を備えている点にある。
【0018】
このような特徴構成とすれば、ユーザに表示パターンを呈示し、惹起された脳波信号に基づきグレア知覚の検査を客観的、且つ、定量的に行うことが可能となる。
【0019】
また、前記背景色は、グレースケールを構成する色の中から選択された色であると好適である。
【0020】
脳の中には、色度情報を専ら処理する神経回路と、輝度情報を専ら処理する神経回路とが共存している。そこで本構成のように背景色をグレースケールを構成する色の中から選択された色とすると、脳の中で、輝度情報を処理する神経回路のみを選択的に賦活させることができることから、グレア知覚を検査するのに適している。
【0021】
また、前記表示パターン作成部は、前記表示パターン毎に前記予め設定された輝度を変更すると好適である。
【0022】
輝度の異なる表示パターンをユーザに呈示すると、ユーザのグレア知覚に応じて、脳波信号が異なることが本発明者により見出された。そこで、上記構成とすれば、輝度の異なる表示パターンを呈示して取得された脳波信号に基づき、ユーザのグレア知覚の検査を適切に行うことが可能となる。
【0023】
また、前記グレア知覚検査装置は、更に、前記表示画面を見たユーザの脳波を、前記ユーザの頭部に付設した検出電極により電気信号として取得する脳波信号取得部と、前記脳波信号取得部により取得された電気信号を周波数解析により解析する解析部と、前記解析部による解析結果に基づいて前記ユーザのグレア知覚を評価する評価部と、を備えて構成すると好適である。
【0024】
このような構成とすれば、表示パターンが呈示されたユーザから脳波信号を適切に取得し、取得された脳波信号に基づき、定量的にグレア知覚を検査することが可能となる。
【0025】
また、前記解析部は、前記電気信号を解析して定常性視覚誘発電位信号を取得し、前記評価部は、前記第1色及び前記第2色の夫々の輝度から算定されるマイケルソンコントラストの値が0.1である前記表示パターンを前記表示画面に表示して取得された電気信号に基づく前記定常性視覚誘発電位信号のピーク値が、前記マイケルソンコントラストの値が0.05である前記表示パターンを前記表示画面に表示して取得された電気信号に基づく前記定常性視覚誘発電位信号のピーク値に対して3倍以上である場合に、当該電気信号が取得されたユーザが光感受性障害者であるとして評価すると好適である。
【0026】
現在、不快なグレアを感じていないユーザにおけるマイケルソンコントラスト値が0.1である表示パターンに対する定常性視覚誘発電位信号のピーク値は、マイケルソンコントラスト値が0.05である表示パターンに対する定常性視覚誘発電位信号のピークの3倍未満であるが、不快なグレアを日常的に感じるユーザにおけるマイケルソンコントラスト値が0.1である表示パターンに対する定常性視覚誘発電位信号のピーク値は、マイケルソンコントラスト値が0.05である表示パターンに対する定常性視覚誘発電位信号のピークの3倍以上であることが、本発明者により見出された。そこで、上記構成とすれば、ユーザが、日常的に眩しいと感じやすい者であるか否かを適切に評価することが可能となる。
【0027】
また、前記解析部は、前記電気信号を解析して定常性視覚誘発電位信号を取得し、前記評価部は、前記第1色及び前記第2色の夫々の輝度から算定されるマイケルソンコントラストの値が夫々0.1以上1以下の前記表示パターンを前記表示画面に表示して取得された電気信号に基づく前記定常性視覚誘発電位信号のピーク値が、前記マイケルソンコントラストの値が0.05である前記表示パターンを前記表示画面に表示して取得された電気信号に基づく前記定常性視覚誘発電位信号のピーク値に対して4倍以下である場合に、当該電気信号が取得されたユーザが光感受性障害者でないとして評価する好適である。
【0028】
これまでに不快なグレアを感じていないユーザにおけるマイケルソンコントラスト値が0.1-1の範囲の表示パターンに対する定常性視覚誘発電位信号のピーク値は、マイケルソンコントラスト値が0.05である表示パターンに対する定常性視覚誘発電位信号のピークの4倍以下であるが、これまでに不快なグレアを感じたことかある、或いは現在感じているユーザにおけるマイケルソンコントラスト値が0.1-1の範囲の表示パターンに対する定常性視覚誘発電位信号のピーク値は、マイケルソンコントラスト値が0.05である表示パターンに対する定常性視覚誘発電位信号のピークの4倍より大きいものであることが本発明者により見出された。そこで、上記構成とすれば、ユーザが、眩しいと感じ易い者でないことや、これまでに眩しいと感じたことがある者でないことを適切に評価することが可能となる。
【0029】
また、本発明に係るグレア知覚検査方法の特徴構成は、所定の色を背景色とする表示パターンであって、前記背景色の輝度よりも予め設定された輝度だけ高くした第1色で形成された第1パッチと、前記背景色の輝度よりも前記予め設定された輝度だけ低くした第2色で形成された第2パッチと、をランダムに、且つ、前記表示パターン内において前記第1パッチの合計面積と前記第2パッチの合計面積とが互いに等しくなるように配置して構成される表示パターンを作成する表示パターン作成ステップと、前記表示パターンを表示画面に表示する表示制御ステップと、前記表示画面を見たユーザの脳波を、前記ユーザの頭部に付設した検出電極により電気信号として取得する脳波信号取得ステップと、前記脳波信号取得ステップにより取得された電気信号を周波数解析により解析する解析ステップと、前記解析ステップによる解析結果に基づいて前記ユーザのグレア知覚を評価する評価ステップと、を備える点にある。
【0030】
このようなグレア知覚検査方法であっても、上述したグレア知覚検査装置と実質的に差異はなく、グレア知覚検査装置と同様の効果を奏することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】グレア知覚検査装置の構成を示すブロック図である。
図2】グレア知覚の検査に用いる表示パターンの一例である。
図3】表示制御部による表示のフローを示す図である。
図4】表示制御部による表示のフローを示す図である。
図5】取得された電気信号及び周波数解析結果の一例を示す図である。
図6】グレア知覚の検査に用いる表示パターンを示す図である。
図7】周波数解析結果の一例を示す図である。
図8】グレア知覚の検査結果について示す図である。
図9】遮光眼鏡を装着した場合のグレア知覚の検査結果の一例を示す図である。
図10】複数の被験者から取得したグレア知覚の検査結果の分布を示す分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明に係るグレア知覚検査装置は、定量的にユーザのグレア知覚を検査することができるように構成される。以下、本実施形態のグレア知覚検査装置1について説明する。
【0033】
図1は、本実施形態のグレア知覚検査装置1の構成を模式的に示した図である。図1に示されるように、グレア知覚検査装置1は、表示パターン作成部10、表示制御部20、脳波信号取得部30、解析部40、評価部50の各機能部を備えて構成され、これらの機能部はグレア知覚の検査に係る処理を行うために、CPUを中核部材としてハードウェア又はソフトウェア或いはその両方で構築されている。
【0034】
表示パターン作成部10は、グレア知覚の評価に用いる表示パターンを作成する。グレア知覚とは、ユーザ3が眩しいと感じる知覚である。表示パターンとは、ユーザ3の視覚を刺激するために呈示されることから視覚刺激と称される。
【0035】
図2には、表示パターン(視覚刺激)の一例が示される。表示パターンは、所定の色(本実施形態ではグレースケールを構成する色の中から選択された所定の色)を背景色としている。グレースケールとは、白色と黒色との間を互いに濃淡が異なる灰色基調の色を並べて構成されたものである。本実施形態では、灰色基調の色とは、灰色(Gray)を基準として作成された色をいう。したがって、色名称をRGB値で示した場合に(128,128,128)に限らず、例えば(220,220,220)や、(211,211,211)や、(192,192,192)や、(169,169,169)や、(128,128,128)や、(105,105,105)等の色が相当する。表示パターンの背景色は、このような灰色基調の色中から選択された色が用いられる。
【0036】
図2に示されるように、視覚刺激は、中央部に後述する第1パッチ及び第2パッチが配置される中央領域Cと、当該中央領域Cの外側であって、上述した背景色が付された外側領域Sとから構成される。本実施形態では、表示パターン作成部10は、表示パターン毎に予め設定された輝度を変更して複数の表示パターンを作成する。
【0037】
視覚刺激は、大きさが見かけで10度となるように設定され、形状はモザイクパッチ構造を有する円形で設定される。モザイクパッチ構造とは、円形状のパッチを複数配置して、一つの円形状を構成した構造である。各パッチの大きさは見かけで0.2度~0.5度の範囲内でランダムに設定され、配置は互いのパッチが重ならないようにランダムに決定される。
【0038】
パッチは、上述した中央領域Cに、第1パッチと第2パッチとして配置される。第1パッチは、グレースケールを構成する色のうち背景色の輝度よりも予め設定された輝度だけ高くした第1色で形成される。また、第2パッチは、グレースケールを構成する色のうち背景色の輝度よりも予め設定された輝度だけ低くした第2色で形成される。第1パッチは、中央領域Cに配置されたパッチのうちの半分のパッチであって、背景色の輝度よりも予め設定された輝度だけ高い輝度の色を付して構成され、第2パッチは、中央領域Cに配置されたパッチのうちの残りの半分のパッチであって、背景色の輝度よりも予め設定された輝度だけ低い輝度の色を付して構成される。したがって、第1パッチの合計面積と第2パッチの合計面積とは、表示パターン内において互いに等しくなるように配置される。
【0039】
各視覚刺激は固有の輝度コントラスト値を持つものように構成される。輝度コントラスト値は、例えば公知のマイケルソンコントラストの値(以下「MC値」とする)を用いることが可能である。MC値をMCVとすると、次の(2)式で示される。
【0040】
【数2】
Lmaxは評価対象領域の最大輝度値であり、Lminは評価対象領域の最小輝度値である。
【0041】
図2の例では、(A)はMC値が0.1であり、(B)のMC値は0.5、(C)のMC値は1.0である。各視覚刺激のMC値は互いに異なるが、視覚刺激全体を平均したとき、輝度は同じになるようにする。また、視覚刺激における全体の平均輝度は、背景の輝度と同じになるようにする。すなわち、グレアの評価過程における表示装置2の表示画面Gの全体の輝度は常に一定になるようにする。更に、視覚刺激を構成する各パッチの輝度は、一定時間間隔で、交互に入れ替わるようにし、その間隔はフリッカ周波数として4Hzが適切である。
【0042】
このような所定の色を背景色とする表示パターンであって、背景色の輝度よりも予め設定された輝度だけ高くした第1色で形成された第1パッチと、背景色の輝度よりも予め設定された輝度だけ低くした第2色で形成された第2パッチと、をランダムに、且つ、表示パターン内において第1パッチの合計面積と第2パッチの合計面積とが互いに等しくなるように配置して構成される表示パターンを作成する工程は、グレア知覚検査方法における表示パターン作成ステップと称される。
【0043】
図1に戻り、表示制御部20は、表示パターンを表示装置2の表示画面Gに表示する。表示パターンは、上述した表示パターン作成部10から伝達される。
【0044】
ここで、図3及び図4には、表示パターン(視覚刺激)の表示に係るフローが示される。図3はメインルーチンであり、図4はサブルーチンである。メインルーチンは図3に示されるように、2つのセッション(セッション1~セッション2)で構成される。セッション1は、MC値が、0.05、0.1、0.25に設定され、セッション2は、MC値が、0.5、0.75、1.0に設定される。
【0045】
各セッションは、30回の標準試行で構成される。30回の標準試行は、夫々の視覚刺激を呈示する試行が10回ずつとなるように行う。この時に表示画面Gを見たユーザ3の脳波が後述する脳波信号取得部30により取得される。このような30回の標準試行が実行される順序はランダムで設定される。
【0046】
図4に示されるように、標準試行は、準備期間表示、固視期間表示、刺激期間表示から構成される。準備期間表示とは、表示画面Gには何も表示されず、ユーザ3の色覚を所定の色(例えば灰色)に順応させ、外乱の影響を打ち消すことを目的としたものである。この期間は2秒間設けられる。固視期間表示とは、表示画面Gに固視点(画面中央に表示される十字型のオブジェクト)を表示するものであり、ユーザ3に対して画面中央への注視を促すことを目的としたものである。この期間は1秒間設けられる。刺激期間表示とは、表示画面Gの中央部に、上述した視覚刺激を表示するものであり、この期間は5秒間設けられる。なお、このとき、ユーザ3には極力瞬きをさせないようにすると良い。
【0047】
このような表示パターンを表示装置2の表示画面Gに表示する工程は、グレア知覚検査方法における表示制御ステップと称される。
【0048】
図1に戻り、脳波信号取得部30は、表示画面Gを見たユーザ3の脳波を、当該ユーザ3の頭部に付設した検出電極60により電気信号として取得する。表示画面Gには、上述した視覚刺激が表示される。表示画面Gを見たユーザ3の脳波とは、表示制御部20により表示画面Gに表示された一連の視覚刺激を見た際のユーザ3の脳波をいう。本実施形態では、このような脳波を検出するために、検出電極60がユーザ3の後頭部に付設される。これにより、大脳の一次視覚野からの脳波を電気信号として取得する。一次視覚野は大脳の最尾側に分布する。一次視覚野は、網膜が感覚した光情報を、最初に受ける脳部位である。一次視覚野に内在する神経細胞は、視覚対象の輝度、色度や傾きといったパラメータに連関して活動を変化させることが知られている。そこで、検出電極60は、一次視覚野の位置に相当する後頭部の頭皮上に設置される。本実施形態では、検出電極60は、ユーザ3の後頭部における大脳の一次視覚野の位置に相当する2箇所(国際10-20法によるPO、O)に付設される。検出電極60は、ユーザ3が視覚刺激を見た際に視覚野から発せられる脳波を検出し易いように、後頭部に付設される。また、ユーザ3の耳朶にGND電極61とREF電極62も付設される。これらの検出電極60は、ユーザ3の後頭部を後方から挟持する上面視がU字状のヘッドセットを用いると好適である。U字状の部分でユーザ3の頭部を挟み込むことにより、検出電極60を容易にユーザ3の後頭部に付設することが可能となる。
【0049】
ここで、脳波信号は信号の大きさが数μVレベルである。そこで、信号処理を行い易くするために、脳波信号取得部30により取得された脳波信号は生体アンプを用いて信号増幅される。増幅後の脳波信号は、所定のサンプリング周波数でアナログ-デジタル変換して記録される。このような脳波信号の取得及び処理は、表示制御部20による表示と同期して行われる。
【0050】
図5の(A)には、所定の1つのセッションにおいて取得された電気信号の一例が示される。図5の(A)に示される電気信号は、セッション毎に取得される。このような脳波信号取得部30により取得された電気信号は解析部40に伝達される。
【0051】
このような表示画面Gを見たユーザ3の脳波を、ユーザ3の頭部に付設した検出電極60により電気信号として取得する工程は、グレア知覚検査方法における脳波信号取得ステップと称される。
【0052】
解析部40は、脳波信号取得部30により取得された電気信号を周波数解析により解析する。解析部40は、脳波信号取得部30から伝達された電気信号から、前処理部によって、信号中に含まれるアーチファクトが除去される。アーチファクトとは、ユーザ3の頭部の動きに起因する運動ノイズ、外来電波に起因する電気ノイズ、検出電極60とユーザ3の頭皮との接触状態が変化したことに起因する電気ノイズ等である。解析部40は、前処理が行われた電気信号から、視覚刺激呈示中の信号のみを抽出し、周波数解析を行う。
【0053】
周波数解析としては、例えば公知のフーリエ変換を用いることが可能である。ここで窓関数は矩形窓を用いると好適である。これにより、図5の(B)に示されるような平均周波数-パワースペクトル密度波形が取得される。横軸は電気信号の周波数、縦軸はパワースペクトル密度(PSD:Power spectral density)である。図5の(B)に示されるような信号は、定常性視覚誘発電位(SSVEP: Steady State Visual Evoked Potential)信号と称される。
【0054】
ここで、定常性視覚誘発電位信号は、各視覚刺激について取得される。定常性視覚誘発電位は、一次視覚野を主発生源とする脳波信号の一種である。定常性視覚誘発電位は、ユーザ3が、一定フリッカ周波数(1-90Hz)で周期的に変化する視覚刺激を注視しているときに限って現れる事象関連電位である。これは、脳波信号中における、視覚刺激のフリッカ周波数と等しい基底周波数成分とハーモニクス周波数(基底周波数の整数倍)成分の増強として観察できる。図5の(A)は、所定の被験者に対してMC値が0.75である視覚刺激(フリッカ周波数 f=4Hz)を呈示した前後の脳波信号の一例である。視覚刺激の呈示期間中においては、脳波信号の振幅増大と位相同期が起こっている。図5の(B)は、視覚刺激呈示期間中の脳波信号を周波数解析した結果である。パワースペクトル密度分布中の8Hzと16Hzとに、鋭いピークが現れている。これらの結果は、視覚刺激への注視により、ユーザ3の一次視覚野に、そのフリッカ周波数に連関した神経興奮が惹起されたことを示している。一般に、パワースペクトル密度分布中の8Hzと16Hzとに現れたピークは、それぞれ定常性視覚誘発電位の第2次ハーモニクス周波数成分(以下「2F成分」)、第4次ハーモニクス周波数成分と呼称される。本例が示す通り、上記の視覚刺激条件では、2F成分が特に大きくなる性質がある。そこで、本実施形態では、視覚刺激に応じた定常性視覚誘発電位の2F成分の振幅変化を、ユーザ3のグレア知覚の検査材料として利用することにした。
【0055】
このような脳波信号取得ステップにより取得された電気信号を周波数解析により解析する工程は、グレア知覚検査方法における解析ステップと称される。
【0056】
図1に戻り、評価部50は、解析部40による解析結果に基づいてユーザ3のグレア知覚を評価する。ここで、本実施形態では、図3及び図4で示したようにユーザ3に複数の視覚刺激が呈示される。図6には、図3において示したMC値が、0.05、0.1、0.25、0.5、0.75、1.0である視覚刺激が示される。図6の(A)の視覚刺激における第1パッチは42cd/mとし、第2パッチは38cd/mとした。図6の(B)の視覚刺激における第1パッチは44cd/mとし、第2パッチは36cd/mとした。図6の(C)の視覚刺激における第1パッチは50cd/mとし、第2パッチは30cd/mとした。図6の(D)の視覚刺激における第1パッチは60cd/mとし、第2パッチは20cd/mとした。図6の(E)の視覚刺激における第1パッチは70cd/mとし、第2パッチは10cd/mとした。図6の(F)の視覚刺激における第1パッチは80cd/mとし、第2パッチは0cd/mとした。また、各視覚刺激の全体の平均輝度は互いに等しく40cd/mとし、背景色は無彩色で、視覚刺激の平均輝度と等しい40cd/mとした。これら視覚刺激は、フリッカ周波数4Hzで輝度が反転するようにした。
【0057】
これらの視覚刺激は、図3及び図4のフローに沿って呈示した。なお、呈示順序はランダムとし、各視覚刺激を構成するパッチの並びも試行毎に変わるようにした。このように呈示した際の脳波に基づく電気信号を脳波信号取得部30により取得し、定常性視覚誘発電位を解析部40により取得した。
【0058】
図7には、ある被験者が裸眼状態にて、図6の(A)-(F)の視覚刺激が呈示された際に取得した電気信号に基づく定常性視覚誘発電位が示される。図7の(A)-(F)は夫々、図6の(A)-(F)の視覚刺激が呈示された際に取得した電気信号に基づく定常性視覚誘発電位である。図7の(A)-(F)に示されるように、定常性視覚誘発電位の2F成分の振幅が大きく変化している。
【0059】
図6の(A)-(F)の視覚刺激を実験協力者に呈示し、定常性視覚誘発電位の2F成分の振幅変化を調べ、この振幅変化を実験協力者間で比較した。この比較結果が図8に示される。図8の縦軸は、MC値が5の時の定常性視覚誘発電位のピーク値を基準として正規化したもの(各定常性視覚誘発電位のピーク値を、MC値が0.05の時の定常性視覚誘発電位のピーク値で除した値である)である。横軸は、呈示した視覚刺激のMC値である。黒丸は定常性視覚誘発電位の振幅の平均値を示し、誤差棒は標準誤差を示している。なお、以下では、「定常性視覚誘発電位の振幅の平均値」を単に、「定常性視覚誘発電位の振幅」と称して説明する。
【0060】
図8の(A)及び(B)は、不快なグレアを日常的に感じると予め判っている2名のユーザ3から取得されたデータである。図8の(C)及び(D)は、現在は不快なグレアを感じないが、これまでに不快なグレアを感じた経験があった2名のユーザ3から取得されたデータである。図8の(E)及び(F)は、これまで不快なグレアを感じたことがない2名のユーザ3から取得されたデータである。
【0061】
図8の(A)及び(B)と、図8の(C)-(F)とを比較すると、MC値が0.1である視覚刺激に対する振幅に関し、現在、不快なグレアを感じていないユーザ3のデータ(図8の(C)-(F))では正規化された定常性視覚誘発電位の振幅は1-3の範囲に収まるが、不快なグレアを日常的に感じるユーザ3のデータ(図8の(A)及び(B))では正規化された定常性視覚誘発電位の振幅は夫々3.5と4であった。すなわち、現在、不快なグレアを感じていないユーザ3におけるMC値が0.1である視覚刺激に対するピーク値は、MC値が0.05である視覚刺激に対するピークの3倍未満であるが、不快なグレアを日常的に感じるユーザ3におけるMC値が0.1である視覚刺激に対するピーク値は、MC値が0.05である視覚刺激に対するピークの3倍以上であった。
【0062】
そこで、本グレア知覚検査装置1では、評価部50は第1色及び第2色の夫々の輝度から算定されるMC値が0.1である表示パターンを表示画面Gに表示して取得された電気信号に基づく定常性視覚誘発電位信号のピーク値が、MC値が0.05である表示パターンを表示画面Gに表示して取得された電気信号に基づく定常性視覚誘発電位信号のピーク値に対して3倍以上である場合に、当該電気信号が取得されたユーザ3が光感受性障害者であるとして評価する。これにより、不快なグレアを日常的に感じるユーザ3を定量的に検査することが可能となる。
【0063】
また、図8の(A)-(D)と、図8の(E)及び(F)とを比較すると、MC値が0.1-1.0の範囲の視覚刺激に対する振幅に関し、これまで不快なグレアを感じたことがない2名のユーザ3のデータ(図8の(E)及び(F))では正規化された定常性視覚誘発電位の振幅は1-4の範囲に収まるが、これまでに不快なグレアを感じた経験があった2名のユーザ3及び現在、不快なグレアを日常的に感じるユーザ3のデータ(図8の(A)-(D))では正規化された定常性視覚誘発電位の振幅は、MC値が0.1-1の範囲の何れかの時に4より大きくなる。すなわち、現在、これまでに不快なグレアを感じていないユーザ3におけるMC値が0.1-1.0の範囲の視覚刺激に対するピーク値は、MC値が0.05である視覚刺激に対するピークの4倍以下であるが、これまでに不快なグレアを感じたことかある、或いは現在感じているユーザ3におけるMC値が0.1-1.0の範囲の視覚刺激に対するピーク値は、MC値が0.05である視覚刺激に対するピークの4倍より大きいものであった。
【0064】
そこで、本グレア知覚検査装置1では、評価部50は第1色及び第2色の夫々の輝度から算定されるMC値が夫々0.1以上1以下の表示パターンを表示画面Gに表示して取得された電気信号に基づく定常性視覚誘発電位信号のピーク値が、MC値が0.05である表示パターンを表示画面Gに表示して取得された電気信号に基づく定常性視覚誘発電位信号のピーク値に対して4倍以下である場合に、当該電気信号が取得されたユーザ3が光感受性障害者でないとして評価する。これにより、不快なグレアをこれまでに感じたことがないユーザ3を定量的に検査することが可能となる。
【0065】
このような解析ステップによる解析結果に基づいてユーザ3のグレア知覚を評価する工程は、グレア知覚検査方法における評価ステップと称される。
【0066】
ここで、図8の(A)及び(B)が取得された不快なグレアを日常的に感じるユーザ3に、遮光眼鏡を装着してもらい、改めて本グレア知覚検査装置1によってグレア知覚の検査を行った。図9には、遮光眼鏡装着条件下において、図8の(A)及び(B)が取得された不快なグレアを日常的に感じるユーザ3から取得された定常性視覚誘発電位の2F成分の振幅変化が示される。図8の(A)及び(B)のデータと比較して、MC値が0.1である視覚刺激に対する振幅が小さくなっていることが判る。裸眼条件(図8の(A)及び(B)のデータ)では、夫々3.5及び4であった定常性視覚誘発電位の振幅が、夫々2.9及び1.5に低下している。また、視覚刺激に対する定常性視覚誘発電位のピーク値にも変化が見られた。図9の(A)のデータが取得されたユーザ3では、MC値が0.25以上の場合に定常性視覚誘発電位の振幅はプラトーを迎え、MC値が0.25の時にピークとなった。また、図9の(B)のデータが取得されたユーザ3では、MC値が0.75の時にピークとなった。裸眼条件と比べて、遮光眼鏡装着条件では定常性視覚誘発電位の振幅はより小さくなる傾向が見られた。
【0067】
図10は、複数のユーザ3の定常性視覚誘発電位の振幅変化の特徴をまとめた散布図である。図10の横軸は、MC値が0.1である視覚刺激に対する定常性視覚誘発電位の振幅であり、縦軸は、視覚刺激群に対する定常性視覚誘発電位の振幅のピーク値である。図10に示されるデータの内訳は、不快なグレアを日常的に感じるユーザ3の裸眼状態におけるデータ、不快なグレアを日常的に感じるユーザ3の遮光眼鏡装着状態におけるデータ、現在は不快なグレアを感じないが、これまでに不快なグレアを感じた経験があったユーザ3のデータ、これまで不快なグレアを感じたことがないユーザ3のデータである。
【0068】
このような散布図を作成することで、ユーザ3のグレア知覚の評価に有効利用することができる。例えば、MC値が0.1である視覚刺激は、図6の(B)に示されるように、輝度変化に乏しく、明瞭に視認できるものではない。しかしながら、不快なグレアを日常的に感じるユーザ3は、現在は不快なグレアを感じないが、これまでに不快なグレアを感じた経験があったユーザ3や、これまで不快なグレアを感じたことがないユーザ3の約2倍の定常性視覚誘発電位の振幅があった。また、視覚刺激群に対する定常性視覚誘発電位のピーク値が高い領域に、不快なグレアを日常的に感じるユーザ3のデータが局在していた。
【0069】
これらの結果から、例えば視覚刺激群に対する定常性視覚誘発電位のピーク値が高い領域(例えば4倍以上の領域)にデータが存在するユーザ3は、不快なグレアを日常的に感じるユーザ3であると評価することが可能である。
【0070】
〔その他の実施形態〕
上記実施形態では、グレア知覚検査装置1及びグレア知覚検査方法について説明したが、例えばグレア知覚検査を行うコンピュータに実行させるためのグレア知覚検査プログラムに適用することも可能である。
【0071】
係る場合、グレア知覚検査を行うコンピュータに実行させるためのグレア知覚検査プログラムは、所定の色を背景色とする表示パターンであって、前記背景色の輝度よりも予め設定された輝度だけ高くした第1色で形成された第1パッチと、前記背景色の輝度よりも前記予め設定された輝度だけ低くした第2色で形成された第2パッチと、をランダムに配置し、且つ、前記表示パターン内において前記第1パッチの合計面積と前記第2パッチの合計面積とが互いに等しくなるように配置して構成される表示パターンを作成する表示パターン作成処理と、前記表示パターンを表示画面に表示する表示制御処理と、前記表示画面を見たユーザの脳波を、前記ユーザの頭部に付設した検出電極により電気信号として取得する脳波信号取得処理と、前記脳波信号取得処理により取得された電気信号を周波数解析により解析する解析処理と、前記解析処理による解析結果に基づいて前記ユーザのグレア知覚を評価する評価処理と、を備えると良い。
【0072】
このようなグレア知覚検査プログラムは、上述したグレア知覚検査装置1と実質的に差異はなく、グレア知覚検査装置1と同様の効果を奏することが可能である。
【0073】
上記実施形態では、評価部50は第1色及び第2色の夫々の輝度から算定されるMC値が0.1である表示パターンを表示画面Gに表示して取得された電気信号に基づく定常性視覚誘発電位信号のピーク値が、MC値が0.05である表示パターンを表示画面Gに表示して取得された電気信号に基づく定常性視覚誘発電位信号のピーク値に対して3倍以上である場合に、当該電気信号が取得されたユーザ3が光感受性障害者であるとして評価するとして説明した。しかしながら、図8に示されるように、評価部50は第1色及び第2色の夫々の輝度から算定されるMC値が0.1である表示パターンを表示画面Gに表示して取得された電気信号に基づく定常性視覚誘発電位信号のピーク値が、MC値が0.05である表示パターンを表示画面Gに表示して取得された電気信号に基づく定常性視覚誘発電位信号のピーク値に対して2.5倍以上である場合に、当該電気信号が取得されたユーザ3が光感受性障害者であるとして評価することも可能であるし、更には、3倍に代えて、2.5~3.5のうちのいずれかの値を用いることも可能である。
【0074】
上記実施形態では、評価部50は第1色及び第2色の夫々の輝度から算定されるMC値が夫々0.1以上1以下の表示パターンを表示画面Gに表示して取得された電気信号に基づく定常性視覚誘発電位信号のピーク値が、MC値が0.05である表示パターンを表示画面Gに表示して取得された電気信号に基づく定常性視覚誘発電位信号のピーク値に対して4倍以下である場合に、当該電気信号が取得されたユーザ3が光感受性障害者でないとして評価するとして説明した。しかしながら、図8に示されるように、評価部50は第1色及び第2色の夫々の輝度から算定されるMC値が夫々0.1以上1以下の表示パターンを表示画面Gに表示して取得された電気信号に基づく定常性視覚誘発電位信号のピーク値が、MC値が0.05である表示パターンを表示画面Gに表示して取得された電気信号に基づく定常性視覚誘発電位信号のピーク値に対して3.5倍以下である場合に、当該電気信号が取得されたユーザ3が光感受性障害者でないとして評価することも可能であるし、更には、4倍に代えて、3.5~4のうちのいずれかの値を用いることも可能である。
【0075】
上記実施形態では、表示パターンの第1色と第2色と背景色がグレースケールを構成する色の中から選択された色であるとして説明したが、特定の色がついた光に対するグレア知覚を検査する目的では、表示パターンの第1色と第2色と背景色はグレースケールを構成する色以外の色を使っても良い。
【0076】
上記実施形態では、グレア知覚検査装置1が、評価部50を備えているとして説明したが、グレア知覚検査装置1は、評価部50を備えずに構成することも可能である。
【0077】
本発明は、ユーザのグレア知覚を検査するグレア知覚検査装置、及びユーザのグレア知覚を検査するグレア知覚検査方法に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0078】
1:グレア知覚検査装置
3:ユーザ
10:表示パターン作成部
20:表示制御部
30:脳波信号取得部
40:解析部
50:評価部
60:検出電極
G:表示画面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
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図10