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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】細胞濃縮用容器
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/26 20060101AFI20230214BHJP
   C12M 1/10 20060101ALI20230214BHJP
   C12Q 1/24 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
C12M1/26
C12M1/10
C12Q1/24
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019064476
(22)【出願日】2019-03-28
(65)【公開番号】P2020162447
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-06-25
(73)【特許権者】
【識別番号】504177284
【氏名又は名称】国立大学法人滋賀医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】300061835
【氏名又は名称】公益財団法人神戸医療産業都市推進機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000136354
【氏名又は名称】株式会社フコク
(74)【代理人】
【識別番号】100082876
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 一幸
(74)【代理人】
【識別番号】100086807
【弁理士】
【氏名又は名称】柿本 恭成
(74)【代理人】
【識別番号】100178906
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 充和
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 義久
(72)【発明者】
【氏名】尾前 薫
(72)【発明者】
【氏名】井川 博史
【審査官】白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-057287(JP,A)
【文献】特表2012-510272(JP,A)
【文献】国際公開第2012/017663(WO,A1)
【文献】特開2012-044876(JP,A)
【文献】特開2009-189280(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAPLUS/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性の容器本体の一端部に排出部を有し、目的細胞を含有する細胞懸濁液が密封状態で収容されて遠心分離されることで、一端側に前記目的細胞が沈降して細胞濃縮液が生成される細胞濃縮用容器であって、
前記容器本体は、第1収容部と、前記第1収容部の前記一端側の底部に該第1収容部と連通して設けられて前記細胞濃縮液が貯留される第2収容部と、を有し、
前記第1収容部の一端側には、該第1収容部の軸に沿って幅が縮小する縮小部が設けられることで前記底部前記第2収容部側に向けて下り勾配に形成され、
前記第2収容部は、クリップにより外側から圧迫して密封可能であるとともに閉塞されないように曲げることが可能な可撓性チューブにより形成され、接合部を介して前記第1収容部の前記縮小部の端部に接合され、
前記接合部は、成形体からなり、前記第1収容部の内側に収容されて気密に接合されるとともに前記第1収容部の軸方向に突出した筒部に前記第2収容部が外嵌して気密に接合され、
前記排出部は、前記第2収容部の前記一端部に流路を有する硬質部材を備えていて、前記流路が抜取具を貫通させて前記細胞濃縮液を抜き取り可能な弾性部材により閉塞されている、細胞濃縮用容器。
【請求項2】
前記排出部は、前記弾性部材を貫通した前記抜取具の先端開口が前記弾性部材の隣接位置に配置されるように、前記抜取具を当接させて該抜取具の挿入位置を規制可能に構成されている、請求項1に記載の細胞濃縮用容器。
【請求項3】
前記目的細胞が単核球である、請求項1に記載の細胞濃縮用容器。
【請求項4】
前記弾性部材にスリットが設けられている、請求項1に記載の細胞濃縮用容器。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の細胞濃縮用容器を用いた細胞濃縮方法であって、
前記細胞濃縮用容器に細胞懸濁液を収容して密封し、
前記第1収容部の側周面を支持する内周面と、前記第1収容部の前記縮小部を支持する傾斜面と、前記第2収容部及び前記排出部を配置する内部配置部と、を有するアダプタに、前記第2収容部を巻回するように曲げた状態で収容するとともに前記細胞濃縮用容器を支持させて遠心分離機に装着し、
遠心分離を行って前記第2収容部に細胞濃縮液を生成させ、
前記抜取具の先端開口を前記弾性部材の隣接位置に配置して前記第2収容部内の細胞濃縮液を抜き取ることで細胞濃縮液を得る、細胞濃縮方法。
【請求項6】
前記目的細胞が単核球であって、単核球を含有する細胞懸濁液から単核球を濃縮する、請求項5に記載の細胞濃縮方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞懸濁液を収容して遠心分離により濃縮する細胞濃縮用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞懸濁液を収容して遠心分離する必要があることから、強度が得やすい硬質容器が多用されていたが、可撓性容器を用いて遠心分離する技術も知られている。
例えば下記特許文献1では、一部又は全部が可撓性を有する容器本体に、大きな容積の第1の収容部と、遠心沈殿物を収容するための小さな容積の第2の収容部とを設けた遠心分離用容器が提案されている。この遠心分離用容器では、第1の収容部の上部にポート部が設けられていて、遠心分離後に第1の収容部と第2の収容部との境界部分の容器壁を外側から密着させることで、ポート部と第2の収容部を非連通状態にして、第2の収容部の細胞を分離したり洗浄したりしていた。
このような容器では、第2の収容部に収容された分離後の目的細胞を第2の収容部から回収するような場合に、容器に変形等が生じると、手間を要するものであった。
【0003】
下記特許文献2では、有核細胞と不要細胞とを含む細胞含有液から不要細胞を分離して回収バッグに有核細胞を回収し、または濃縮することが行われていた。この文献では、高遠心力で遠心分離するとともにフィルタによるろ過を用いて分離した後でコニカルチューブなどに移し、さらに遠心分離して単核球が回収されていた。そのため容器の移し替えなどに手間を要していた。
【0004】
下記特許文献3では、血液の血漿成分、白血球、赤血球等の分離精度を高めるために遠心分離器にかける血液バッグにおいて、容器の上端や下端、更には中腹にチューブを接続して各成分を分離して各チューブから流出させていた。そのため少量の成分の場合には、容器内や回収するまでの経路などに残留して無駄が生じ易かった。
【0005】
さらに、下記特許文献4では、容量部Aと容量部Bからなり、容量部Aの下部に容量部Bがあり、容量がA>Bで、容量部Aと容量部Bが容易に分離又は分断可能に設けられた遠心分離用容器が提案されている。しかしながら、この遠心分離容器をバッグから分離した容量部Bの細胞をシリンジ等で取り出すようにしているため、分離後の細胞を回収するのに手間を要していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-125813号公報
【文献】国際公開WO2005/035737号公報
【文献】特開平08-82621号公報
【文献】特開2008-220319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように、上記何れの技術であっても、可撓性を有する容器を用いて遠心分離により沈降する細胞を回収したり濃縮したりする従来のシステムでは、容器の移し替えなどの際に手間を要したり、無駄が生じたりし易かった。
【0008】
そこで本発明では、簡易な構造で閉鎖系を保ちつつ細胞濃縮を行うことができるとともに、細胞濃縮液を容易に無駄なく抜き取りし易い細胞濃縮用容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明の細胞濃縮用容器は、可撓性の容器本体の一端部に排出部を有し、目的細胞を含有する細胞懸濁液が密封状態で収容されて遠心分離されることで、一端側に目的細胞が沈降して細胞濃縮液が生成される細胞濃縮用容器であって、容器本体は、第1収容部と、第1収容部の一端側の底部に第1収容部と連通して設けられて細胞濃縮液が貯留される第2収容部と、を有し、第1収容部の一端側には、第1収容部の軸に沿って幅が縮小する縮小部が設けられることで底部第2収容部側に向けて下り勾配に形成され、第2収容部は、クリップにより外側から圧迫して密封可能であるとともに閉塞されないように曲げることが可能な可撓性チューブにより形成され、接合部を介して第1収容部の縮小部の端部に接合され、接合部は、成形体からなり、第1収容部の内側に収容されて気密に接合されるとともに第1収容部の軸方向に突出した筒部に第2収容部が外嵌して気密に接合され、排出部は、第2収容部の一端部に流路を有する硬質部材を備えていて、流路が抜取具を貫通させて細胞濃縮液を抜き取り可能な弾性部材により閉塞されていることを特徴としている。
本発明では、排出部は、弾性部材を貫通した抜取具の先端開口が弾性部材の隣接位置に配置されるように、抜取具を当接させて抜取具の挿入位置を規制可能に構成されていてもよい。
本発明では、目的細胞が単核球であって、該単核球を含有する細胞懸濁液から単核球を濃縮する細胞濃縮用容器であってもよい。
【0010】
本発明の細胞濃縮用容器は、弾性部材にスリットが設けられているのが好適である。
上記目的を達成する本発明の細胞濃縮方法は、上記の細胞濃縮用容器を用いた細胞濃縮方法であって、細胞濃縮用容器に細胞懸濁液を収容して密封し、第1収容部の側周面を支持する内周面と、第1収容部の縮小部を支持する傾斜面と、第2収容部及び排出部を配置する内部配置部と、を有するアダプタに細胞濃縮用容器を支持させて遠心分離機に装着し、遠心分離を行って第2収容部に細胞濃縮液を生成させ、第2収容部内の細胞濃縮液を抜取具の先端開口を弾性部材の隣接位置に配置して抜き取ることで細胞濃縮液を得ることを特徴としている。
本発明の細胞濃縮方法では、目的細胞が単核球であって、この単核球を含有する細胞懸濁液から単核球を濃縮してもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の細胞濃縮用容器によれば、容器本体が可撓性を有するので、密封状態で容積を増減でき、簡易な構造で閉鎖系を保ちつつ細胞濃縮のための各操作を行うことができる。
そして、容器本体には、第1収容部の一端側の底部に第2収容部が連通して設けられ、第1収容部の一端側の底部が第2収容部側に下り勾配で形成され、さらに第2収容部の一端部に排出部が設けられて先端から細胞濃縮液を抜き取り可能に閉塞されている。
そのため、遠心分離により目的細胞が一端側に沈降して集まることで、第2収容部における排出部の先端から抜き取り易い位置に細胞濃縮液が生成される。従って、この細胞濃縮液を直接無駄なく抜き取ることができる。しかも、細胞濃縮液を第2収容部、すなわち、細胞濃縮液の集積部位の先端から抜き取るため、可撓性で変形し易い容器本体であっても変形を抑えて抜き取り操作を行い易い。
よって、本発明にあっては、簡易な構造で閉鎖系を保ちつつ細胞濃縮を行うことができるとともに、細胞濃縮液を容易に無駄なく確実に抜き取ることが可能な細胞濃縮用容器を提供することができる。
【0012】
本発明の細胞濃縮用容器において、目的細胞が単核球であって、単核球を含有する細胞懸濁液から単核球を濃縮すれば、細胞濃縮液を無駄なく抜き取って有効に使用することができる。
本発明の細胞濃縮用容器において、第2収容部が可撓性チューブにより形成され、排出部が第2収容部を外側から加圧して閉塞する構成であれば、外側から第2収容部を容易に開閉して細胞濃縮液を抜き取ることができ、操作性がよい。
【0013】
本発明の細胞濃縮用容器において、排出部が先端に流路を有する硬質部材を備え、抜取具を貫通させることができる弾性部材により流路が閉塞されていれば、抜取具を貫通させることで容易に細胞濃縮液を抜き取ることができ、しかも抜取具を貫通させる際に硬質部材を支持して操作することができるため操作性がよい。また、硬質部材の内径に弾性部材を装着するため、嵌合代、すなわち、硬質部材の内径に対する弾性部材の封止力をコントロールすることが容易となり、確実な封止を行うことができる。なお、弾性部材にスリットが設けられていれば、抜取具が太くても弾性部材を貫通させることができ、細胞濃縮液をより大径の流路から抜き取ることができ、抜き取る際に細胞に損傷等を与えることを防止できる。よって、確実な封止力を得ながら、細胞濃縮液の抜き取りを容易に行うことができる。
さらに、弾性部材を貫通した抜取具の先端開口を弾性部材の隣接位置に配置可能に構成していれば、細胞濃縮液を抜取具により抜き取る際、内部に細胞濃縮液が残留し難く、無駄なく抜き取ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る細胞濃縮用容器の正面図である。
図2】本発明の実施形態に係る細胞濃縮用容器の排出部の構成を説明する図である。
図3】本発明の実施形態に係る細胞濃縮用容器を遠心分離機に装着する際に使用するアダプタを示し、(a)は断面図、(b)は底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図を用いて詳細に説明する。
本実施形態の遠心分離用容器は、目的細胞を含有する細胞懸濁液を密封状態で収容して遠心分離することで、目的細胞が一端側に沈降して濃縮されて細胞濃縮液が生成される容器である。
【0016】
本実施形態の細胞懸濁液は、生体から採取されて目的細胞を含有する懸濁液であり、生体から採取された液、又は、生体から採取された液を遠心分離、濾過等の各種の方法で分離して得られた一部の成分からなる液やその希釈液などである。本実施形態では、髄液や末梢血などから赤血球が分離されて目的細胞としての単核球が含有された液である。
【0017】
本実施形態の細胞濃縮用容器10は、図1に示すように、可撓性の容器本体11と、容器本体11の一端部に設けられた細胞濃縮液の排出部12と、他端部に接続された連結チューブ13と、他端部に設けられた懸垂部15とを備えている。
【0018】
容器本体11は、第1収容部17と、第1収容部17の一端側の底部19に第1収容部17と連通して設けられ、遠心分離時に細胞濃縮液が生成して集積される第2収容部21と、を有している。本実施形態では、第1収容部17と第2収容部21とが接合部23を介して接合されている。
【0019】
第1収容部17は可撓性フィルムが互いに対向して周囲で密封されることでバッグ状に形成されている。第1収容部17の一端側には、第1収容部17の軸Lに沿って幅が縮小する縮小部25が設けられている。縮小部25の端部には接合部23を介して第2収容部21が接合されていて、第1収容部17の底部19が第2収容部21側に向けて下り勾配に形成されている。
【0020】
第1収容部17の他端部側には、細胞懸濁液を第1収容部17内に供給したり、分離液や洗浄液等を排出したりするために他の器具と連結可能な複数の連結チューブ13が連結されるともに、細胞濃縮用容器10を他の部材に安定して吊り下げるための懸垂部15が設けられて密封されている。
【0021】
第2収容部21は、可撓性チューブにより形成されていて、接合部23を介して第1収容部17に接合され、第1収容部17から軸Lに沿って一端側へ延びている。
接合部23は、成形体からなり、外周面が第1収容部17における縮小部25の内側に収容されて気密に接合され、軸L方向に突出した筒部27に第2収容部21が外嵌して気密に接合されている。
接合部23の内部には第2収容部21の一部を構成する貫通孔が軸L方向に設けられていて、第2収容部21が第1収容部17と連通している。すなわち、接合部23、筒部27の内部容積を含めて、第2収容部21と見做すこともできる。
【0022】
排出部12は、第2収容部21の一端部に設けられ、第2収容部21の一端部を気密に閉塞するとともに、先端29から細胞濃縮液を抜き取り可能に構成されている。
この排出部12は、図2に示すように、可撓性チューブ状の第2収容部21が外嵌して気密に接合されるとともに、内部に第2収容部21の内部と連通する流路31を有する成形体からなる硬質部材33と、流路31を気密に閉塞する弾性部材35と、弾性部材35及び硬質部材33の先端を外側から囲んで加圧したうえで閉塞可能なキャップ37と、硬質部材33の近接位置で第2収容部21を外側から圧迫して密封するクレンメ等のクリップ39と、を有する。硬質部材33は少なくとも第1収容部17及び第2収容部21よりも硬質に形成されている。
【0023】
本実施形態では、弾性部材35はシリンジの針管や筒先など、各種の抜取具41が貫通可能に形成されている。この弾性部材35には、軸L方向にスリット43が設けられることで、より太い抜取具41が貫通し易くされている。この弾性部材35は、硬質部材33の流路31に配置された状態で、キャップ37が締め込まれることで硬質部材33を介して外周側から加圧圧縮されて密封されるように構成されている。
【0024】
本実施形態の排出部12は、遠心分離時に閉塞状態を維持するために、クリップ39により第2収容部21の下端を外側から加圧して閉鎖するとともに、第2収容部21の端部でキャップ37を締め込むことにより、外側から加圧して流路31を密封している。
【0025】
また本実施形態の排出部12は、抜取具41を排出部12に貫通させた際、抜取具41が硬質部材33やキャップ37等に当接して第2収容部21内への挿入位置が規制されており、抜取具41の先端開口41aが第2収容部21の内部における弾性部材35の隣接位置、すなわち、本実施形態においては、第2収容部21の下方内壁を構成する弾性部材35の第2収容部21内部への露出面近傍に配置することが可能となっている。
【0026】
本実施形態の細胞濃縮用容器10では、第1収容部17、接合部23、第2収容部21、及び硬質部材33がそれぞれ同一の樹脂又は互いに熱溶着可能な樹脂であって、収容される細胞懸濁液及び細胞濃縮液に対してより安全な樹脂により構成されており、各接合部分が熱溶着されている。
【0027】
本実施形態において、より具体的には、第1収容部17は、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂フィルムから袋状に形成し、接合部23は、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂成形体等から形成し、第2収容部21は、主として、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂製チューブ等から略管状に形成し、硬質部材33は、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂成形体等から構成される。上記の他、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン-プロピレン共重合樹脂、ポリブタジエン樹脂、スチレン-ブタジエン共重合樹脂およびそれらの水素添加樹脂、ポリウレタン樹脂、ならびにそれらの樹脂の混合物などが用途に合わせて使用可能であるが、密着性、熱溶着性を考慮して適用する。密閉性、無菌状態維持、揮発性ガスの発生などを考慮すれば、熱溶着による接合が好ましく、熱溶着性のよい同一素材によって形成することが好ましい。
【0028】
このような細胞濃縮用容器10を用いて細胞懸濁液中の目的細胞を濃縮して細胞濃縮液を得るには、予め細胞濃縮用容器10を連結チューブ13及び排出部12を閉塞した状態で滅菌しておき、連結チューブ13から細胞濃縮液と、適宜混合する成分や液と、をシリンジ等の抜取具41を用いて収容して密封する。
【0029】
この細胞濃縮用容器10を、例えば図3(a)(b)に示すようなアダプタ45を用いて遠心分離機に装着する。アダプタ45は、遠心分離機の収容位置に設けられた治具46に細胞濃縮用容器10を安定して配置するもので、治具46の内面に対応した外周面47を有し、内側には第1収容部17の側周部を支持する内周面48aと、第1収容部17の一端側の縮小部25を支持する傾斜面48bとを有する。傾斜面48bの一端側には、軸方向に貫通して第2収容部21及び排出部12を安定して配置可能な内部配置部49が設けられている。内部配置部49は、第1収容部19の筒部27が配置される小径部49aと、第2収容部21が閉塞されないように例えば巻回するように曲げて収容される大径部49bと、を備えている。
【0030】
このアダプタ45を用いて細胞濃縮用容器10を遠心分離機に装着した状態で、遠心分離を行う。
これにより目的細胞が沈降し、順次第2収容部21の排出部12側に集積され、細胞濃縮液が生成される。細胞濃縮液の生成量が第2収容部21の容積より多い場合には、第1収容部17の縮小部25等にも細胞濃縮液が収容されてもよい。後述するクランプ51などで第1収容部17と第2収容部21を仕切る場合には、生成される細胞濃縮液の全量が収まる大きさの第2収容部21を用意して、第2収容部21に収容することが望ましい。
【0031】
所定時間の遠心分離が終了した後、沈殿した細胞が散らないよう注意し、懸垂部15を利用して細胞濃縮用容器10を吊り下げ、図1中に仮想線で示すように、第1収容部17又は第2収容部21の外側からクランプ51で横断する位置を挟むことで、第1収容部17の内部と第2収容部21の内部とを液密に仕切る。
連結チューブ13からクランプ51より第1収容部17の他端部に収容された上清液を抜き取って排出する。
このとき予め容器本体11の側面に、懸垂部15で吊り下げたときの液面の位置を測定する目盛を設けておけば、この目盛りを基準にしてクランプ51により仕切ることで、排出する液量を調整することが可能である。
その後、必要に応じて、他の連結チューブ13から生理食塩水を添加し、同様に懸濁及び遠心分離してクランプ51で仕切って上清液を抜き取ることにより、細胞洗浄を行ってもよい。
【0032】
最終の遠心分離を行った後、クランプ51を外して濃縮細胞をタッピング等で外部から解して懸濁させる。
この状態で、シリンジ等の抜取具41を排出部12の先端から挿入して弾性部材35を貫通させ、抜取具41の先端開口41aを第2収容部21の内部における弾性部材35の隣接位置に配置し、第2収容部21内の液を抜き取ることで細胞濃縮液を得ることができる。
【0033】
以上のような本実施形態の細胞濃縮用容器10によれば、容器本体11が可撓性を有するので、密封状態で容積を増減でき、簡易な構造で閉鎖系を保ちつつ細胞濃縮のための各操作を行うことができる。
【0034】
本実施形態の細胞濃縮用容器10では、容器本体11には、第1収容部17の一端側の底部19に第2収容部21が連通して設けられ、第1収容部17の一端側の底部19が第2収容部21側に下り勾配で設けられ、さらに第2収容部21の一端部に排出部12が設けられて先端29から細胞濃縮液を抜き取り可能に閉塞している。
【0035】
そのため、遠心分離により目的細胞が一端側に沈降して集まることで、第2収容部21における排出部12の先端29から抜き取り易い位置に細胞濃縮液が生成する。よって、この細胞濃縮液を短い距離で容易に且つ無駄なく抜き取ることができる。しかも細胞濃縮液を先端29から直接抜き取るため、可撓性で変形し易い容器本体11であってもこの変形に影響されずに抜き取り操作を行うことができる。
従って、本実施形態の細胞濃縮用容器10によれば、簡易な構造で閉鎖系を保ちつつ細胞濃縮を行うことができるとともに、細胞濃縮液を容易に無駄なく確実に抜き取ることが可能である。
【0036】
本実施形態では、細胞濃縮用容器10で多量の細胞懸濁液から少量の細胞濃縮液を生成するため、可撓性の容器本体11が大きくて取り扱う際に各種の変形が生じ易く、その一方で第2収容部21が小さく形成されている。そのため、第2収容部21の一端部に設けられた排出部12の先端29から、抜取具41により細胞濃縮液を抜き取ることで、大きく変形し易い第1収容部17に関係なく、細胞濃縮液を抜き取り操作することができ、細胞濃縮液を容易に無駄なく抜き取ることが可能である。ここでは目的細胞が単核球であり、単核球が濃縮された細胞濃縮液を無駄なく抜き取って有効に使用することができる。
【0037】
本実施形態の細胞濃縮用容器10によれば、第2収容部21が可撓性チューブにより形成され、排出部12が第2収容部21を外側から加圧して閉塞する構成であれば、外側から第2収容部21を容易に開閉して細胞濃縮液を抜き取ることができ、操作性がよい。
【0038】
本実施形態の細胞濃縮用容器10によれば、排出部12が先端29に流路31を有する硬質部材33を備え、抜取具41が貫通可能な弾性部材35により流路31が閉塞されている。そのため、抜取具41を弾性部材35に貫通させることで容易に細胞濃縮液を抜き取ることができ、その際、硬質部材33を支持して操作することができるので、操作性を向上できる。
また、硬質部材33の内径からなる流路31に弾性部材35を装着しているので、嵌合代、すなわち、硬質部材33の内径に対する弾性部材35の封止力をコントロールすることが容易であり、確実な封止を行うことができる。これにより排出部12に高い遠心力がかかる場合にも確実な封止が可能である。
【0039】
本実施形態の細胞濃縮用容器10では、弾性部材35にスリット43が設けられているため、抜取具41が太くても弾性部材35を貫通させることができ、細胞濃縮液をより大径の流路31から抜き取ることができ、抜き取る際に細胞に損傷等を与えることを防止できる。
【0040】
本実施形態の細胞濃縮用容器10によれば、弾性部材35を貫通した抜取具41の先端開口41aが弾性部材35の隣接位置に配置可能に構成されている。そのため細胞濃縮液を抜取具41により抜き取る際、第2収容部21の細胞濃縮液を底まで抜き取ることができ、細胞濃縮液が内部に残留し難く、無駄なく抜き取ることができる。
【0041】
なお上記実施形態は、本発明の範囲内において適宜変更可能である。
上記実施形態では、目的細胞の例として単核球の例について説明したが、細胞懸濁液を遠心分離することで、沈降して細胞濃縮可能な細胞であれば特に限定されない。例えば浮遊系の細胞であっても接着性細胞であってもよく、また各種の手法により培養された培養細胞であっても、各種の細胞スフェロイド等であってもよい。
また上記実施形態では、細胞濃縮用容器10の容器本体11として、第1収容部17が可撓性フィルムからなるバッグにより構成され、第2収容部21がチューブにより構成され、両者が接合された例について説明したが、第1収容部17及び第2収容部21が連続した可撓性フィルムにより一体に形成された容器であってよい。例えば第1収容部17の一端側に縮小部25が設けられるとともに、縮小部25の下端に第1収容部17より幅狭の第2収容部21が設けられた連続したフィルムからなる容器本体11を構成することも可能である。その場合、第2収容部21の一方側の端部に、例えば硬質部材33を気密に接合して貫通流路31を第2収容部21の内部と連通させてもよい。
【0042】
さらに上記実施形態では、排出部12として、硬質部材33の流路31を弾性部材35で閉塞してキャップ37で密封した構造と、クレンメ等のクリップ39で第2収容部21の端部を加圧して閉鎖した構造と、との両方を設けた例について説明したが、何れか一方の構造のみを設けることも可能である。
また排出部12は開閉可能な構成としてもよく、例えばスクリューキャップによる開閉機構、針通栓、閉塞栓付コネクタなどとし、排出部12と第2収容部21との間で外側から閉塞する構成とすることも可能である。その場合、排出部からの漏れを確実に防止することができ、排出部12に高い遠心力がかかる場合に有効である。
さらに、上記実施形態では、第2収容部21の長さが比較的短いものについて説明したが、第2収容部21を主として可撓性チューブで構成する場合、第2収容部21として、より長い可撓性チューブを採用することも可能である。遠心分離機にセットするときには、可撓性チューブからなる第2収容部21が閉塞されないように曲げて、排出部12を容器の上方や遠心分離時の回転中心側の位置に保持し、その状態で遠心分離するようにしても良い。この場合、排出部12が容器上方や遠心分離時の回転中心方向に位置するので、排出部12に掛かる遠心力を緩和することができる。
【実施例
【0043】
次に、本発明の実施例について説明する。
図1に示すような細胞濃縮用容器10を用い、末梢血から単核球を濃縮及び回収した。
細胞濃縮用容器10は、第1収容部17がエチレン酢酸ビニル共重合体のフィルムからなり、第2収容部21がポリ塩化ビニルのチューブからなり、接合部23がポリエチレンの成形体からなる。この細胞濃縮用容器10は予めガンマ線照射により滅菌した。
【0044】
針21GセーフタッチPSVセット(商標)を用いて、CPDA液入り血液バッグに120mL末梢血を採取した。なお、CPDA液入り血液バッグには、CPDA液16.8mLが入っていた。
末梢血5mLをサンプリングして血液成分測定を行い、白血球数、リンパ球数、単球数を測定した。白血球数、リンパ球数から末梢血110mL中の総単核球数を計算したところ、有核細胞数は6700cells/μLで、120mL中では804cells×10/120mLであった。また単核球数は2770cells/μLで、120mL中で332.4cells×10/120mLであった。
【0045】
CPDA液入り血液バッグのCPDA液含有末梢血136.8mLから、120mLを遠心分離機(SEPAX2、商標)の分離に用いることから、遠心分離機(SEPAX2、商標)での分離前の末梢血110mLに含まれる細胞数は、それぞれ有核細胞数が646.5cells×10/110mLで、単核球数が267.3 cells×10/110mLとなった。
【0046】
遠心分離機(SEPAX2、商標)により単核球の分離及び回収を行った。
CPDA液含有末梢血120mL(末梢血量は110mL)、ヒトリンパ球分離用媒体(Ficoll-Paque PREMIUM 1.073、GEヘルスケア社製、商標)100 mL、生理食塩水1000mLを用いて、遠心分離機(SEPAX2、商標)にセットし、単核球の分離の工程プログラムを実行して、回収用バッグに45mLの単核球懸濁液を回収した。
【0047】
詳細には、ヒトリンパ球分離用媒体91mLを遠心チャンバーへ導入し、CPDA液含有末梢血を遠心チャンバーに導入し、合計量211mLとし、15分間、所定の遠心力を印加し、遠心分離を行った。バフィーコート及び血漿を退避用バッグへ一時退避させて、赤血球を廃棄した。
【0048】
その後、生理食塩水で遠心チャンバーを洗浄した後、退避用バッグからバフィーコート及び血漿を遠心チャンバーへ戻して生理食塩水を加えて遠心分離し、上清みを廃棄した。遠心チャンバーの洗浄及び生理食塩水を加えた遠心分離の操作を2回繰り返した。
生成物に生理食塩水を加えて45mLにして回収用バッグに収容した。
回収用バッグからシリンジで細胞懸濁液45mLを回収し、細胞懸濁液2mLを無菌試験用容器にサンプリングして無菌試験に供した。その結果、菌の検出は認められなかった。
【0049】
また細胞懸濁液1mLをサンプリングし、多項目自動血球分析装置(XN-Series、シメックス社製、商標)で血液成分測定を行い、リンパ球数、単球数を測定した。上記データを用いて細胞回収率を算出し、トリパンブルー試薬を用いて細胞生存率を計測した。
その結果、有核細胞数は4208cells/μLで、45mL中では189.4cells×10/45mLであった。単核球数は3970cells/μLで、45mL中では178.7cells×10/45mL、42mL中では166.7cells×10/42mLであった。
【0050】
細胞回収率を計算すると(178.7 cells×10)/(267.3cells×10)×100で66.8%となった。また生存率は99.5%であった。
なお細胞懸濁液45mLの一部を無菌試験用容器にサンプリングして無菌試験に供したところ、菌の検出は認められなかった。
【0051】
次に、図1に示すような細胞濃縮用容器10を用いて細胞濃縮を行った。
細胞懸濁液42mLを収容した細胞濃縮用容器10に83mLの生理食塩水を注入し、全量125mLとした。細胞濃縮用容器10を図3に示す形状保持アダプタを装着してテーブルトップ冷却遠心機 5500(株式会社久保田製作所製)にセットし、20度に設定したうえで、650Gで10分間遠心分離して細胞濃縮を行った。細胞濃縮後に液漏れがないことを確認した。
【0052】
細胞濃縮後、沈殿した細胞が散らないよう注意し、懸垂部15を利用して細胞濃縮用容器10を吊り下げ、第1収容部17の外側からクランプ51で図1に仮想線で示すように横断する位置を挟むことで、第1収容部17の内部と第2収容部21の内部とを液密に仕切り、第2収容部21に細胞濃縮液を収容した。
このときクランプ51から排出部12までの第2収容部21に収容される細胞濃縮液の液量が4mL以下になるようにした。
【0053】
第1収容部17の他端部に設けられた連結チューブ13からクランプ51上部の上清みを抜き取った。
この上清みからエンドトキシン測定用サンプルを回収し、エンドトキシン測定システム(Endosafe(R)-PTS (PTS100)、登録商標、和研薬株式会社製)によりエンドトキシン量を測定したところ、測定値が0.05 EU/mL未満であり、日本薬局方の髄腔に投与する医薬品の基準のエンドトキシン値を満足するものであった。なおSample RT CVは0%、Spike RT CVは10.6%、Spike Recoveryは92%であった。
【0054】
その後、クランプ51を外して濃縮細胞をタッピング等で外部から解して懸濁させた。
シリンジを排出部12の先端から挿入して弾性部材35を貫通させ、シリンジの先端開口41aを第2収容部21の内部における弾性部材35の隣接位置に配置し、細胞懸濁液をシリンジで抜き取った。シリンジ内の細胞懸濁液の体積を測定したところ、採取量は4mLであった。
【0055】
得られた細胞濃縮液の単核球数を測定した。
シリンジ内の細胞懸濁液の一部をサンプリングし、多項目自動血球分析装置(XN-Series、シメックス社製、商標)で血液成分測定を行い、リンパ球数、単球数を測定した。上記データを用いて単核球の細胞回収率を算出し、トリパンブルー試薬を用いて細胞生存率を計測した。
その結果、有核細胞数は40304cells/μLで、4mL中では161.2cells×10/4mLであった。単核球数は37851cells/μLで、4mL中では151.4cells×10/4mLであった。
【0056】
細胞回収率を計算すると、(151.4cells×10)/(166.7cells×10)×100=90.8%となった。また生存率は99%であった。
なお、シリンジ内の細胞濃縮液の一部を無菌試験用容器にサンプリングして無菌試験に供したところ、菌の検出は認められなかった。
【0057】
以上における各工程での細胞数と細胞回収率と細胞生存率とを表1にまとめた。
【表1】
【0058】
またエンドトキシン測定量及び無菌試験結果を表2にまとめた。
【表2】
【0059】
表1から明らかなように、末梢血から遠心分離機(SEPAX2、商標)で単核球懸濁液を回収し、細胞濃縮用容器10により単核球濃縮液の回収を行ったところ、4mL以下で回収することができ、細胞回収率は90.8%と高回収率であった。
末梢血採取後、遠心分離機(SEPAX2、商標)での細胞分離、細胞濃縮用容器10での細胞濃縮、最終製品であるシリンジへの充填において、安全性の確認として、エンドトキシン測定、無菌試験を実施したが、特に問題となる結果は無かった。
【符号の説明】
【0060】
10 細胞濃縮用容器
11 容器本体
12 排出部
13 連結チューブ
15 懸垂部
17 第1収容部
19 底部
21 第2収容部
23 接合部
25 縮小部
27 筒部
29 先端
31 流路
33 硬質部材
35 弾性部材
37 キャップ
39 クリップ
41 抜取具
41a 先端開口
43 スリット
45 アダプタ
47 外周面
48 傾斜面
49 内部配置部
51 クランプ
図1
図2
図3