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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】ガス吸着剤
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/10 20060101AFI20230214BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20230214BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20230214BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20230214BHJP
   A61L 9/014 20060101ALI20230214BHJP
   C01B 33/32 20060101ALI20230214BHJP
   C01B 33/20 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
B01J20/10 C
A61L9/01 B
B01J20/28 Z
B01J20/30
A61L9/014
C01B33/32
C01B33/20
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019004073
(22)【出願日】2019-01-15
(65)【公開番号】P2020110767
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2021-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】597006300
【氏名又は名称】愛知珪曹工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080816
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 朝道
(74)【代理人】
【識別番号】100098648
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 潔人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 洋
【審査官】谷本 怜美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/098461(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/34
A61L 9/00- 9/22
C01B 33/32
C01B 33/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式〔1〕で示される固体からなることを特徴とする吸着剤。
xAO・yCuO・SiO・zSO ・wHO 〔1〕
(式〔1〕において、Aはナトリウムおよび/またはカリウムであり、x、y、zおよびwはモル比を示し、xは0.0001~0.003であり、yは0.01~0.07であり、zは0.0001~0.001であり、wは0.005~0.2である。)
【請求項2】
xは0.0001~0.002である、請求項1に記載の吸着剤。
【請求項3】
xは0.001~0.002である、請求項1に記載の吸着剤。
【請求項4】
zは0.0005~0.001である請求項1~3のいずれか1項に記載の吸着剤。
【請求項5】
yは0.015~0.06または、0.02~0.04である請求項1~4のいずれか1項に記載の吸着剤。
【請求項6】
メチルメルカプタンの吸着容量が25mL/g以上である請求項1~5のいずれか1項に記載の吸着剤。
【請求項7】
珪酸塩として、アルカリ酸化物に対する酸化珪素のモル比3以上の水ガラスを用い、 銅塩水溶液、珪酸塩水溶液および硫酸を配合して生成した固形物を含有する水のpHを5.0~6.5に調整した後、ろ過工程を経て乾燥して得られた請求項1~6のいずれか1項に記載の吸着剤。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載の吸着剤を含有する吸着性加工品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の組成の固体からなる吸着剤及びそれを用いた吸着性加工品に関する。更に詳しくは、メチルメルカプタンに対して優れた吸着性能を有する吸着剤及びそれを用いた吸着性加工品に関する。
【背景技術】
【0002】
快適な環境の要求や健康志向の高まりにより、日常生活における空気環境への関心が近年強まっている。たとえば、空気環境の改善のため、悪臭又は有害ガスを低減できる室内置き型消臭剤や空気清浄機などのガス吸着性加工品が製品化されている。また、壁紙、カーテン、カーペット、マット、ソファ、マスク又は衣類等に吸着効果を付与した様々な加工品も製品化されている。これらの吸着性加工品には、対象とするガス成分がまちまちなため、ガス種類に応じた吸着剤が用いられている。
【0003】
従来から吸着剤には活性炭が多用されてきたが、色調が黒色であることや、物理吸着であることから、活性炭を汎用的に使用することには限界がある。物理吸着の欠点は、ガス成分であれば何でも吸着することから、開放空間では悪臭以外のガスも常時吸着し続けることで直ぐに飽和してしまうことがあげられる。さらに、使用している物理吸着剤の吸着量が飽和域に近づくか環境温度が上がることで、一旦吸着したガスを環境に放出してしまい物理吸着剤自体が悪臭源となってしまうことにより、吸着効果が低下したらすぐに取り替えが可能な製品にしか使用できないという課題もある。
【0004】
そこで、白色又は淡色の様々な化学吸着剤が開発、実用化されている。化学吸着剤は、一旦吸着したガス成分を放出することなく、吸着効果が低下しても悪臭源にならないため、取り換えが容易でない製品にも使用が可能である。ただし、化学吸着剤は、対象ガス成分と反応することにより吸着するため、吸着できるガス成分種類は限定される。ガス成分のなかでも腐敗臭、排せつ臭、汗臭、靴臭、タバコ臭、ペット臭などに含まれるメチルメルカプタンを対象とした化学吸着剤が開発されている。特に、メチルメルカプタン、硫化水素等の硫黄元素を含む化合物を主成分とする硫黄系悪臭は強い不快感を与えるものとして嫌われており、これらの硫黄系悪臭に有効な吸着剤が望まれている。
【0005】
これに対し、メチルメルカプタンの吸着性に優れる各種吸着剤が開発されており、例えば、特許文献1には珪酸ゲル構造の内部に金属塩を包含せしめてなる悪臭ガス吸着剤が提案されている。また、特許文献2には、特定の金属塩と珪酸塩との無定形複合体であり、細孔容積が0.3~0.5ml/gである硫黄系ガス吸着剤が提案されており、吸着剤を製造するときの金属塩と珪酸塩のモル比は0.29以上で0.5未満であることが記載されている。更に、特許文献3には、銅、亜鉛、マンガン、コバルト、ニッケルから選ばれる少なくとも1種の金属とケイ素の元素組成(モル)比が、金属/ケイ素=0.60~0.80の範囲であり、圧壊強度が1~3Nの範囲である非晶質金属珪酸塩からなる硫黄系ガス吸着剤が提案されている。特許文献4には、xNaO・yCuO・SiO・zHO(xは0.002~0.040の正数であり、yは0.07~0.48の正数であり、zは0.02~0.30の正数である。)で示される非晶質珪酸銅からなることを特徴とする吸着剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平4-290546号公報
【文献】特開2005-87630号公報
【文献】特開2011-104274号公報
【文献】再公表2016-098461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1~4に開示された吸着剤は、硫黄系悪臭に対する吸着効果に優れる銅を多量に用いているため、樹脂に練り込み加工した際には銅イオンによる青色の着色に加え、銅イオンが原因で樹脂の劣化が生じることから樹脂加工品の変色や異臭発生があり、用途や加工条件が制限されるという問題がある。この銅イオンによる樹脂の劣化は、いわゆる銅害といわれるものであり、加熱を伴う加工の際に顕著に表れ、銅含有吸着剤を10%配合し220℃で溶融成形したプレートでは、濃緑色で異臭を放ったものとなることがある。
【0008】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、メチルメルカプタンに対して優れた吸着効果を維持しつつ、樹脂に練り込み加工した際の着色や樹脂劣化を抑制することができる吸着剤およびそれを用いた吸着性加工品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は鋭意検討した結果、銅含有量の少ない特定の組成を有する固体が、メチルメルカプタンに対し優れた吸着性能を発現し、しかも着色や樹脂劣化も抑制できることを見いだし、本発明を完成するに至った。即ち、本発明の第1の視点において、以下の通りの吸着剤が提供される。
1.下記式〔1〕で示される固体からなることを特徴とする吸着剤。
xAO・yCuO・SiO・zSO ・wHO 〔1〕
式〔1〕において、Aはナトリウムおよび/またはカリウムであり、x、y、zおよびwはモル比を示し、xは0.0001~0.003であり、yは0.01~0.07であり、zは0.0001~0.001であり、wは0.005~0.2である。
2.メチルメルカプタンの吸着容量が25mL/g以上である上記1に記載の吸着剤。
3.珪酸塩として、アルカリ酸化物に対する酸化珪素のモル比3以上の水ガラスを用い、銅塩水溶液、珪酸塩水溶液および硫酸を配合して生成した固形物を含有する水のpHを5.0~6.5に調整した後、ろ過工程を経て乾燥して得られた上記1および2に記載の吸着剤。
本発明の第2の視点において、上記1~3に記載の吸着剤を含有する吸着性加工品が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、メチルメルカプタンに対して優れた吸着性能を有する吸着剤を提供することができる。また、メチルメルカプタンに対する吸着効果を維持しつつ、樹脂に練り込み加工した際の樹脂劣化を抑制することができる吸着剤及びそれを用いた吸着性加工品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態について説明すると以下の通りであるが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、%は質量%であり、部は質量部を示す。
【0012】
本発明の吸着剤は、メチルメルカプタンの吸着効果が高いため、排泄臭、生活臭、及び生ゴミ臭など生活環境で発生する硫黄系臭気濃度を低減することができる。
本発明の第1の視点における吸着剤は、下記式〔1〕で示される固体からなる吸着剤である。
xAO・yCuO・SiO・zSO ・wHO 〔1〕
式〔1〕において、Aはナトリウムおよび/またはカリウムであり、x、y、zおよびwはモル比を示し、xは0.0001~0.003であり、yは0.01~0.07であり、zは0.0001~0.001であり、wは0.005~0.2である。
【0013】
モル比x、y、zおよびwの好ましい範囲は以下のとおりである。
xの値はメチルメルカプタンの吸着性能と樹脂の劣化に影響を与えることがあり、0.003を超えると吸着性能が低下するうえ、樹脂の劣化が著しく進むことで吸着性加工品の外観等に影響を及ぼす。一方、xの値が0.0001未満では吸着性能の向上も樹脂劣化の抑制の効果も得られない。好ましいxの範囲は0.0001~0.002であり、より好ましくは0.001~0.002ないし0.0005~0.001である。
yの値はメチルメルカプタン吸着効果、着色および樹脂劣化に影響を与え、0.01未満では十分な吸着効果が得られない。一方、0.07を超えると吸着効果は向上するものの、吸着剤の色調である青い着色が強くなり、樹脂の劣化が著しく進行する。好ましいyの値は、0.015~0.06であり、より好ましくは0.02~0.04である。
zの値はメチルメルカプタンの吸着性能と樹脂の劣化に影響を与えることがあり、0.001を超えると吸着性能が低下するうえ、樹脂の劣化が進むことで吸着性加工品の外観等に影響を及ぼす。一方、zの値が0.00001未満では十分な吸着性能が得られない。好ましいの範囲は0.0005~0.001である。
wの値は樹脂劣化に影響を与えることがあり、0.005未満では吸湿し易く取り扱いが困難である。一方、0.2を超えると樹脂成型の際に発泡やシルバーストリークなどの成形不良を生じやすい。好ましいwの範囲は、0.001~0.15であり、より好ましくは0.005~0.1である。
【0014】
本発明の吸着剤は固体であり、塊状、板状、砂状、粉末状など形状に制限はないが、好ましくは粉末状である。吸着剤の粒径は、使用用途により選定すればよく、数cmの塊状から粉砕することで1μm程度の粉末まで得ることが可能である。粒径はレーザー回折式の粒度分布測定でのd50平均粒径が参考となり、様々な加工製品に配合する観点から、好ましい平均粒径は1~20μm、より好ましくは2~10μmである。吸着剤の最大粒径は、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下である。最大粒径が100μm以下であれば、樹脂加工成形品に配合する場合の加工性が良好で、吸着性成形品等の外観に不具合が生じることもない。
【0015】
本発明の吸着剤は、銅塩と珪酸塩の無定形複合体であり、外観色彩が水色を呈した固体である。外観色彩が濃ければ加工品にした際の色彩変化に影響を及ぼすので、外観色彩は薄いほうが好ましい。具体的な色彩は、Lab表示でL値85以上、a値-12以上、b値-13以上であることが好ましい。
【0016】
本発明の吸着剤のBET比表面積は、300m/gを超える高比表面積である。BET比表面積が大きいことは、吸着剤の吸着性能を高めるには重要な要件であり、好ましくは350~1000m/g、より好ましくは400~900mgである。
【0017】
本発明の吸着剤の吸着性能は、メチルメルカプタンに対する吸着容量で示すことができる。本発明の吸着剤の吸着容量は、吸着剤1gあたりのメチルメルカプタン吸着量で好ましくは25mL以上であり、より好ましくは30mL以上、さらに好ましくは35mL以上である。吸着容量が25mL未満では多量に吸着剤を使用しなければ十分な吸着効果が得られない。この吸着容量は、吸着剤が吸収又は吸着できる特定のガス成分の最大量であり、実用上は物理吸着と化学吸着の両吸着機構で吸着した吸着容量を区別していない場合が多い。物理吸着は高温では吸着しなくなるため、吸着剤の化学吸着容量は、吸着試験温度を40℃以上の高温にして測定することで測定ができる。具体的な化学吸着容量の測定方法は以下のとおりである。
対象ガスが吸着し難く、かつ、空気を通さない材質であるビニルアルコール系ポリマー又はポリエステル等の試験袋に吸着剤を入れて密封し、この密封された試験袋に対象ガスを注入後、40℃~60℃の恒温器で保存する。対象ガス注入直後及び一定時間経過後に、試験袋中に残存する対象ガス濃度を測定する。このとき、一定時間経過後の残存ガス濃度が吸着剤を入れていない比較対象試験袋のガス濃度の減少速度と同等となった時点を吸着性能が飽和した点とし、このときの吸着剤有無の試験袋内の残存ガス濃度の差を試験袋内ガス容量で乗じた値を吸着剤が吸収した吸着ガス量とする。吸着ガス量を試験に用いた吸着剤重量で除した値が吸着容量mL/gである。
【0018】
本発明の吸着剤は、公知の技術を応用するなどして製造可能であり、原料、製法や設備等に制約はない。一般的には、水中で各原料化合物を所定成分比に混合した後に副生成物を水洗ろ別した固形物を加熱乾燥することにより得られる。
本発明の吸着剤は、銅塩と珪酸塩とのモル比(y)を0.01~0.07とすることにより、製造することができる。銅塩の原料には、硫酸銅、塩化銅、酢酸銅などが使用でき、好ましくは硫酸銅である。珪酸塩の原料には水ガラス、粉末珪酸アルカリやコロイダルシリカが使用でき、好ましくは水ガラスである。水ガラスはアルカリ酸化物と酸化珪素のモル比の異なる様々なものが得られるが、メチルメルカプタンの吸着性に優れるものが得やすいことから、好ましくはモル比3以上、より好ましくはモル比3.5以上のアルカリ成分が少ないものである。銅塩水溶液と珪酸塩水溶液を混合した液に硫酸を適量配合して生成した固形物を含有する水のpHを5.0~6.5に調整した後にろ過する必要がある。pHが、5.0~6.5の範囲に調整されることで、より少ない銅含有量でメチルメルカプタンの吸着性能が得られる吸着剤が得られる。調整するpHの好ましい範囲は5.3~6.3であり、更に好ましくは5.5~6.0である。pHが5.0より低いと銅がろ過工程でろ液に溶出してしまい吸着剤に含有される銅が少なくなるため本発明の吸着剤が得られない恐れがある。一方、6.5より高いと本発明と同様の組成の吸着剤が得られるが、メチルメルカプタン吸着性能が低下したり、吸着剤を樹脂に配合した場合に樹脂が劣化しやすくなる。
【0019】
本発明の吸着剤を製造するときの温度は、5~80℃の範囲が好ましく、より好ましくは20~60℃である。銅塩、珪酸塩と硫酸を水中で混合してから、ろ過工程までの時間に制限はないが、水中で均一な固形物とするため、撹拌または静置で数分から10日間程度保管することが好ましい。
【0020】
本発明の吸着剤を製造する際には副生成物の塩が生じる。この塩が吸着剤に多量に残っていると、吸着性能が低下したり吸着剤を樹脂に配合した場合に樹脂が劣化しやすくなるため、水洗により取り除く必要がある。そのため、水洗後のろ液の電気伝導度が50~1000μS/cm、好ましくは100~500μS/cmとなるまで水洗することが好ましい。ろ過後のケーキ状固形物は、80~300℃で乾燥し、得られた固体の吸着剤は必要に応じ粉砕することが可能である。
【0021】
本発明の吸着剤は、他の吸着剤や非吸着剤と混合、希釈等してもよい。複合型悪臭を効率的に除去するために、本発明の吸着剤と塩基性ガス、酸性ガス、脂肪酸ガス、硫黄系ガス、アルデヒドガスなどの他のガス吸着剤とを併用して吸着剤組成物として使用することも可能である。他の吸着剤としては、活性炭、けい酸アルミニウム、けい酸ナトリウム、けい酸カリウム、ハイドロタルサイト、ゼオライト、シリカゲル、含水酸化ジルコニウム、リン酸ジルコニウム、リン酸チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、セピオライト、ジヒドラジド化合物等が挙げられる。
【0022】
本発明の吸着剤は、樹脂に配合した際の樹脂劣化を抑制できることが大きな特徴である。その樹脂劣化を更に抑制するためには、金属不活性剤を併用することが有効である。金属不活性剤には、メチルベンゾトリアゾールカリウム塩、メチルベンゾトリアゾール、1ヒドロキシベンゾトリアゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾイックアシッド2ヒドロキシル2ホルミルヒドラジン、イミダゾール、トリアゾール類が例示され、特にメチルベンゾトリアゾール及びベンゾトリアゾールが好ましい。これら金属不活性剤の添加量は、本発明の吸着剤100質量部に対し0.05~10質量部であることが好ましく、特に0.1~5質量部であることがより好ましい。
【0023】
本発明の吸着剤を用いた吸着性樹脂成型品を製造するための成型方法としては、射出成型、押出成型、インフレーション成型、真空成型など一般の樹脂成型方法が使用できる。
本発明の吸着剤又は吸着剤組成物を使用した吸着性樹脂成型品は、吸着性を必要とする各種の分野で利用可能であり、例えば、空気清浄器、冷蔵庫などの家電製品、ゴミ箱、水切りなどの一般家庭用品、ポータブルトイレ等の各種介護用品、及び日常品等がある。
【0024】
本発明の吸着剤を紙、繊維、樹脂などの他の材料と組み合わされて吸着性加工品とすることについて説明する。吸着剤を添加した吸着性加工品の加工方法には原料樹脂に練り込み加工する方法と、既に加工品の形状等になった成形品表面にバインダーなどを用いて後加工により吸着剤を展着する方法がある。
【0025】
練り込み加工は液状樹脂の溶融物又は溶解や熱溶融した樹脂に、本発明の吸着剤を配合し、得られた吸着剤含有樹脂組成物を成形機で成形することにより得ることができる。なお、吸着剤を高濃度で含有したマスターバッチと呼ばれるペレット状樹脂を予め調製し、これを主樹脂と混合後、成形機により成形することも可能である。吸着剤含有樹脂組成物には、物性を改善するために、必要に応じて、分散剤、顔料、染料、酸化防止剤、耐光安定剤、帯電防止剤、抗菌剤、発泡剤、耐衝撃強化剤、ガラス繊維、防湿剤及び増量剤等の添加剤を配合することもできる。上記の樹脂成形品を製造するための成形方法としては、乾式紡糸、湿式紡糸、溶融紡糸、射出成形、押出成形、インフレーション成形、真空成形、発泡成形等の一般の紡糸や樹脂成形方法を適用することができる。適用する樹脂は、特に限定されず、公知の合成、半合成、天然樹脂を使用することができ、これらの樹脂は、単独重合体であっても共重合体であってもよい。好ましい樹脂は、ポリエステル、ポリカーボネイト、ポリアミド、アクリル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニリデン、ポリウレタン、ポリスチレン、ABS、AS,およびセルロース等である。練り込み加工の場合の吸着剤含有量は特に限定されないが、樹脂100質量部に対して好ましくは0.1~20質量部であり、より好ましくは0.5~10質量部である。吸着剤の含有量を増やせば吸着性を強力に発揮させ、長期間持続させることができるが、過度に多く含有させても吸着効果に大きな差が生じず、成形品が着色したり強度が低下するなどの不具合も生じることがある。
【0026】
加工品の表面に吸着剤を後加工する方法は、吸着剤およびバインダー樹脂を含有した水系あるいは有機溶剤系懸濁液からなる吸着剤含有液体組成物からなる加工液を、噴霧塗布、コーティング塗布やディッピング等の方法で加工製品表面に展着させ、溶剤等の媒体を除去することにより得ることができる。吸着剤含有加工液を製造する際に使用するバインダー成分は特に限定されず、天然植物油、天然樹脂、半合成樹脂及び合成樹脂のいずれであってもよい。使用できる油脂及び樹脂としては、例えば、あまに油、しなきり油、大豆油等の乾性油又は半乾性油、ロジン、ニトロセルロース、エチルセルロース、酢酸酪酸セルロース、ベンジルセルロース、ノボラック型又はレゾール型のフェノール樹脂、アルキド樹脂、アミノアルキド樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂及びポリ塩化ビニリデン樹脂等が挙げられる。これら吸着剤加工液は、いかなる機構により硬化するタイプでもよく、塗膜を硬化させる場合には、酸化重合型、湿気重合型、加熱硬化型、触媒硬化型、紫外線硬化型、及びポリオール硬化型等とすることができる。
【0027】
吸着剤加工液に含まれる本発明の吸着剤の割合は、特に限定されない。一般に、吸着剤の含有量を増やせば、吸着性を強力に発揮させ、長期間持続させることができるが、ある程度以上に含有させると、吸着効果が向上せず、展着加工面の光沢がなくなったり、割れが生じたりする。従って、展着加工の場合の吸着剤の含有割合は、加工表面積1m当たり0.1g~10gの付着量が適量であり、併用するバインダーは吸着剤100部に対しバインダー中の固形分が10部~1000部、好ましくは30部~500部が適量である。また、加工液に配合される顔料、分散剤その他の添加剤は、本発明の吸着剤と化学的反応を起す可能性のあるものを除けば、特に制限はない。この吸着剤含有加工液は、容易に調製することができ、具体的には、例えば、ボールミル、ロールミル、デイスパーやミキサー等の一般的な混合装置を用いて、吸着剤、バインダー、溶剤等の原料成分を十分に分散、混合すればよい。
【0028】
本発明の吸着剤を用いた有用な吸着性加工品には、消臭繊維が挙げられる。消臭繊維は、吸着剤を繊維原料樹脂に練り込み加工することも、既に繊維、綿、不織布、編み物または織物などとなった繊維加工品にバインダーなどを用いて後加工により展着することも可能である。後加工する繊維種類としては、合成繊維だけでなく木綿やウールなどの天然繊維でもよい。本発明の吸着剤を含む消臭繊維の用途は、肌着、靴下、タイツ、エプロン、紡糸、スポーツウェア等の衣類、介護用衣類、布団、座布団、毛布、じゅうたん、ソファ、エアーフィルター、布団カバー、カーテン、カーシート、カーマット等が例示され、後述する消臭シートにも使用することができる。
【0029】
本発明の吸着剤の用途には、消臭シートや消臭フィルムも好ましい例として挙げられる。加工前の原料シートは、特に限定されず、その材質、微細構造等も、用途等に応じたものとすることができる。原料シートの好ましい材質は、樹脂、紙等の有機材料、無機材料、あるいはこれらの複合物である。具体例としては、和紙、合成紙、不織布、樹脂フィルム等が挙げられ、特に好ましい原料シートは、不織布または天然パルプおよび/または合成パルプからなる紙である。本発明の吸着剤を備える消臭シートは、例えば、医療用包装紙、食品用包装紙、電気機器用梱包紙、介護用紙製品、鮮度保持紙、紙製衣料、空気清浄フィルター、壁紙、ティッシュペーパー、トイレットペーパー等として用いることができる。
【実施例
【0030】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、かかる実施例に限定されるものではない。なお、「%」は他に断りない限り質量%である。
【0031】
吸着剤の分析方法、評価方法および吸着性加工製品である樹脂成型品の評価方法は以下のとおりである。
(1)吸着剤の組成分析
吸着剤を蛍光X線分析装置によりNa2O、K2O、SiO2、Cu及びSO 3 含有量を定量した。また、150℃の2時間における乾燥減分量からH2O含有量を定量し、Na2O、 2 O、SiO2、Cu、S 3 及びH2Oのモル比を算出した。
【0032】
(2)色彩
色彩は、ポリオレフィン製透明ラップフィルムで包んだ吸着剤粉末を色彩色差計を用いて測定し、Lab色空間表示で示した。
【0033】
(3)吸着剤粉末の平均粒径(d50)
吸着剤粉末を、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定し、平均粒径d50の結果を体積基準で解析した。なお、粒度分布の含有率%は、この解析方法から全粒子中の体積%であるが、測定粉末の密度が一定であるので、質量%と同じ意味を持つ。
【0034】
(4)吸着剤のメチルメルカプタン吸着容量
乾燥した吸着剤粉末0.01gをビニルアルコール系ポリマーフィルム製の試験袋に入れ、ここに140ppmのメチルメルカプタン含有空気を3L注入し、45℃で1時間保存後の試験袋中の残存ガス濃度をメチルメルカプタン用ガス検知管で測定した。吸着剤未使用の試験袋内の残存ガス濃度との差から吸着剤粉末0.01gでの吸着ガス量とする。メチルメルカプタン吸着容量は、吸着剤粉末1g当たりのメチルメルカプタン吸着容量mL/gで示した。
【0035】
(5)成型樹脂プレートの樹脂劣化による色彩
吸着剤をポリプロピレン樹脂に対し5%ドライブレンド配合し、成型温度220℃と240℃で厚さ2mmの射出成型プレートを作製した。成型温度の異なる樹脂プレートを色差計を用いて測定した、Lab色空間表示における値の差Δaで示した。
【0036】
(6)成型樹脂プレートの吸着性能
縦5cm×横5cm×厚さ2mmのプレート4枚をビニルアルコール系ポリマーフィルム製の試験袋に入れ、ここにメチルメルカプタン8ppmの空気を3L注入し、24時間後の試験袋中の残存ガス濃度をガス検知管で測定した。測定結果からプレート1枚当たりの吸着ガス量で示した。
【0037】
<実施例1>
珪酸ソーダ4号30gとイオン交換水30gを撹拌しながら25℃に調整した溶液に、硫酸銅5水和物0.15gをイオン交換水30gに溶解させた溶液を混合後、その中に78%硫酸を滴下しpHが5.7となるように調整した。その後、25℃に保ったまま1時間撹拌を続けて水色の固形物含有水を得た。この固形物をイオン交換水を用いて洗浄を行った後に150℃で乾燥した。乾燥固形分を粉砕することで得られた吸着剤粉末の組成分析の結果を表1、色彩、平均粒径、メチルメルカプタン吸着容量を測定した結果を表2に記載した。また、射出成型プレートの樹脂変化による色彩Δa値および成型温度220℃で成型した樹脂プレートのメチルメルカプタンに対する消臭率を測定した結果を表2に示した。
【0038】
<実施例2>
硫酸銅5水和物を0.05g使用し、pHを5.5とした以外は実施例1と同様の操作を行い得られた吸着剤粉末の組成分析の結果を表1、色彩、平均粒径、メチルメルカプタン吸着容量、成型温度の異なる2種類の射出成型プレートのΔa及び成型樹脂プレートのメチルメルカプタンに対する消臭率を測定した結果を表2に記載した。
【0039】
<実施例3>
珪酸ソーダ4号に代えて珪酸カリウムを30g使用し、pHを6.0とした以外は実施例1と同様の操作を行い得られた吸着剤粉末の組成分析の結果を表1、色彩、平均粒径、メチルメルカプタン吸着容量、成型温度の異なる2種類の射出成型プレートのΔa及び成型樹脂プレートのメチルメルカプタンに対する消臭率を測定した結果を表2に記載した。
【0040】
<比較例1>
珪酸ソーダ4号に代えて珪酸ソーダ2号を使用し、硫酸銅5水和物3gを使用し、pHを7.0とした以外は実施例1と同様の操作を行い得られた吸着剤粉末の組成分析の結果を表1、色彩、平均粒径、メチルメルカプタン吸着容量、成型温度の異なる2種類の射出成型プレートのΔa及び成型樹脂プレートのメチルメルカプタンに対する消臭率を測定した結果を表2に記載した。
【0041】
<比較例2>
珪酸ソーダ4号に代えて珪酸ソーダ2号を使用し、硫酸銅5水和物0.3gを使用し、pHを5.0とした以外は実施例1と同様の操作を行い得られた吸着剤粉末の組成分析の結果を表1、色彩、平均粒径、メチルメルカプタン吸着容量、成型温度の異なる2種類の射出成型プレートのΔa及び成型樹脂プレートのメチルメルカプタンに対する消臭率を測定した結果を表2に記載した。
【0042】
<比較例3>
珪酸ソーダ4号に代えて珪酸ソーダ1号を使用し、硫酸銅5水和物0.7gを用い、pHを8.0とした以外は実施例1と同様の操作を行い得られた吸着剤粉末の組成分析の結果を表1、色彩、平均粒径、メチルメルカプタン吸着容量、成型温度の異なる2種類の射出成型プレートのΔa及び成型樹脂プレートのメチルメルカプタンに対する消臭率を測定した結果を表2に記載した。
【0043】

【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
上記の結果から、本発明の吸着剤である実施例1~3は、粉末色彩が良好であり成型温度の異なる2種類の射出成型プレートのΔa値も大きく増えない傾向であり、さらにメチルメルカプタンに対する吸着容量が高く、樹脂成型してもメチルメルカプタンに対する吸着性能に優れることがわかる。一方、比較例1はメチルメルカプタンに対する吸着容量が高く、樹脂成型してもメチルメルカプタンに対する吸着性能に優れているが、粉末色彩の青味が強く、成型温度の異なる2種類の射出成型プレートのΔa値が増加し樹脂劣化が進行しているのがわかる。また、比較例2および比較例3はメチルメルカプタンに対する吸着容量が低く、樹脂成型してもメチルメルカプタンに対する吸着性能に劣り、成型温度の異なる2種類の射出成型プレートのΔa値が増加し樹脂劣化が進行しているのがわかる。
【0046】
以上の実施例から、本発明の吸着剤は、メチルメルカプタンに対する吸着性能に優れ、加工品の加工後にも吸着容量が高く維持されており、練り込み加工などにより得られた樹脂加工品の樹脂劣化に伴う変色が少ないことが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の吸着剤はメチルメルカプタンに対する吸着性能に優れている。また、樹脂成型品に加工した際に樹脂劣化を伴う変色等の発生が抑制されており、不具合を生じない。このことから、本発明の吸着剤を利用することにより、繊維、塗料、シート及び樹脂成型品等に優れた吸着性を付与でき、吸着性加工品として用いることができる。
【0048】
なお、引用した上記の特許文献の各開示は、本書に引用をもって繰り込むものとする。本発明の全開示(請求の範囲を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態ないし実施例の変更・調整が可能である。また、本発明の開示の枠内において種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施形態ないし実施例の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせ、ないし選択(非選択を含む)が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。特に、本書に記載した数値範囲については、当該範囲内に含まれる任意の数値ないし小範囲が、別段の記載のない場合でも具体的に記載されているものと解釈されるべきである。