(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】PC鋼材に対するメス部材及びオス部材の固定方法
(51)【国際特許分類】
E04G 21/12 20060101AFI20230214BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20230214BHJP
E01D 24/00 20060101ALI20230214BHJP
E01D 1/00 20060101ALI20230214BHJP
E21D 11/08 20060101ALN20230214BHJP
【FI】
E04G21/12 104C
E01D22/00
E01D24/00
E01D1/00 D
E21D11/08
(21)【出願番号】P 2019018304
(22)【出願日】2019-02-04
【審査請求日】2022-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000163110
【氏名又は名称】極東鋼弦コンクリート振興株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】板谷 英克
(72)【発明者】
【氏名】山本 圭一郎
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-184894(JP,A)
【文献】特開2001-323659(JP,A)
【文献】特開2017-186814(JP,A)
【文献】特開2008-126544(JP,A)
【文献】特開2001-317161(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/12
E01D 24/00
E01D 22/00
E01D 1/00
E04C 5/00-5/20
E21D 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メス部材にオス部材を圧入することにより、PC鋼材に対してオス部材及びメス部材を固定する固定方法であって、
ジャッキ本体と、
前記ジャッキ本体に収容され、前記ジャッキ本体の内部を2つの空間に仕切るピストンと、前記ピストンに接続されて前記ジャッキ本体から突出する複数のピストンロッドと、前記複数のピストンロッドの先端に固定された支持部材と、を備えるジャッキを用いて、
前記ジャッキ本体及び前記支持部材の間に形成されたスペースに前記メス部材及び前記オス部材を位置させた状態において、
前記ピストンによって仕切られた一方の前記空間への作動油の供給によって、前記支持部材及び前記ジャッキ本体が互いに近づく方向に前記複数のピストンロッドを移動させることにより、前記メス部材及び前記オス部材を互いに近づく方向に移動させて前記メス部材に前記オス部材を圧入させることを特徴とする固定方法。
【請求項2】
前記複数のピストンロッドを、前記PC鋼材の軸方向と直交する方向において、前記メス部材及び前記オス部材を挟む位置に配置することを特徴とする請求項1に記載の固定方法。
【請求項3】
メス部材にオス部材を圧入することにより、PC鋼材に対してオス部材及びメス部材を固定する固定方法で用いられるジャッキであって、
ジャッキ本体と、
前記ジャッキ本体に収容され、前記ジャッキ本体の内部を2つの空間に仕切るピストンと、
前記ピストンに接続されて前記ジャッキ本体から突出する複数のピストンロッドと、
前記複数のピストンロッドの先端に固定された支持部材と、を備え、
前記ジャッキ本体及び前記支持部材の間に形成されたスペースに前記メス部材及び前記オス部材を位置させた状態において、前記ピストンによって仕切られた一方の前記空間への作動油の供給によって、前記支持部材及び前記ジャッキ本体が互いに近づく方向に前記複数のピストンロッドを移動させることにより、前記メス部材及び前記オス部材を互いに近づく方向に移動させて前記メス部材に前記オス部材を圧入させることを特徴とするジャッキ。
【請求項4】
前記複数のピストンロッドは、前記PC鋼材の軸方向と直交する方向において、前記メス部材及び前記オス部材を挟む位置に配置されることを特徴とする請求項3に記載のジャッキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オス部材をメス部材に圧入することにより、PC鋼材に対してメス部材及びオス部材を固定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PC(プレストレストコンクリート)構造物では、コンクリート躯体の内部にPC鋼材を緊張させた状態で埋設し、両端を定着装置でコンクリート躯体に固定することにより、コンクリート躯体にプレストレス(圧縮力)を与えている。
【0003】
既設のPC構造物を部分的に解体する場合には、コンクリート躯体の残置部にプレストレスを残存させなければならないため、中間定着工法が用いられる。中間定着工法では、PC構造物の中間部においてPC鋼材を切断前にはつり出し、露出させたPC鋼材を中間定着装置により残置部に定着している。
【0004】
ここで、
図8を用いて従来の中間定着工法について説明する。中間定着工法では、PC構造物のコンクリート躯体2’をはつることではつり部を形成する。はつり部は、中間定着装置50’を設置するための作業空間である。中間定着装置50’は、PC鋼材1’に装着される。具体的に、中間定着装置50’は、メス部材51’とオス部材52’とを備える。メス部材51’及びオス部材52’は、PC鋼材1’を挿通させるとともに、互いに嵌合する。これにより、中間定着装置50’は、PC鋼材1’に装着される。
【0005】
反力台40’は、はつり部におけるコンクリート躯体2’の一方の端面と、メス部材51’の間に設置される。このとき、反力台40’は、はつり部におけるコンクリート躯体2’の一方の端面とメス部材51’の間のスペースを埋めるように設置される。支圧板70’は、はつり部におけるコンクリート躯体2’の一方の端面に接触するように設置され、支圧板71’は、オス部材52’及びジャッキ60’の間に設置される。ジャッキ60’は、支圧板70’と支圧板71’の間に設置される。このとき、ジャッキ60’は、支圧板70’と支圧板71’の間のスペースを埋めるように設置され、ジャッキ60’のピストンロッド63’の先端に支圧板70’が設置される。
【0006】
そして、ジャッキ60’のピストンロッド63’を押し出すと、オス部材52’がPC鋼材1’の軸方向に沿って解体部側から残置部側(
図8における矢印D’の方向)に押圧され、オス部材52’がメス部材51’の穴部に圧入される。このとき、反力台40’は、メス部材51’を介してジャッキ60’から押圧力を受け、メス部材51’を支える。すなわち、反力台40’とジャッキ60’で中間定着装置50’を挟み込むことで、中間定着装置50’がPC鋼材1’に装着される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平6-248886号公報
【文献】特開昭58-191868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の中間定着工法では、はつり部におけるコンクリート躯体2’の2つの端面(支圧板70’と接触する端面と、反力台40’と接触する端面)を利用することにより、オス部材52’をメス部材51’の穴部に圧入している。これらの端面は、反力受けとして利用される。ここで、メス部材51’の穴部に対してオス部材52’を圧入させるためには、コンクリート躯体2’の2つの端面のそれぞれを、PC鋼材1’の軸方向と直交する平面で構成しなければならない。
【0009】
そこで本発明は、はつり部の端面に依存することなく、PC鋼材に対してオス部材及びメス部材を固定することができる固定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明は、メス部材にオス部材を圧入することにより、PC鋼材に対してオス部材及びメス部材を固定する固定方法である。この固定方法で用いられるジャッキは、ジャッキ本体と、ジャッキ本体から突出する複数のピストンロッドと、複数のピストンロッドの先端に固定された支持部材と、を備える。ジャッキ本体及び支持部材の間に形成されたスペースにメス部材及びオス部材を位置させた状態において、支持部材及びジャッキ本体が互いに近づく方向に複数のピストンロッドを移動させることにより、メス部材及びオス部材を互いに近づく方向に移動させてメス部材にオス部材を圧入させる。
【0011】
(2)上記(1)の固定方法において、複数のピストンロッドを、PC鋼材の軸方向と直交する方向において、メス部材及びオス部材を挟む位置に配置する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の固定方法によれば、ジャッキの動作だけでオス部材をメス部材に圧入することができ、はつり部の端面に依存することなく、PC鋼材に対してオス部材及びメス部材を固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】本実施形態のメス部材を設置する工程を示す斜視図である。
【
図3】本実施形態のオス部材を設置する工程を示す斜視図である。
【
図5】本実施形態のジャッキを使用する工程を示す斜視図である。
【
図6】オス部材をメス部材の穴部に圧入させた状態を示す斜視図である。
【
図7】本実施形態のジャッキの内部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、PC構造物の内部を概略的に示す断面図である。既設のPC構造物100は、例えば、T桁橋やI桁橋等である。PC鋼材1は、PC構造物100の幅方向(
図1の左右方向)に配置され、緊張した状態でコンクリート躯体2に埋設されている。PC鋼材1は、例えばPC鋼線、PC鋼棒、PC鋼より線などである。
【0015】
PC鋼材1の両端は、コンクリート躯体2の幅方向両端において、定着装置1A,1Bで定着されている。定着装置1A,1Bとしては、公知の定着装置が用いられる。これにより、コンクリート躯体2にPC鋼材1の復元力、すなわち、プレストレスが作用し、コンクリート躯体2はひび割れ耐性を得ることができる。また、
図1に示すPC構造物100では、PC鋼材1を上下方向に曲げながらコンクリート躯体2に埋設している。
【0016】
PC構造物100において、解体部R2(一点鎖線枠内の領域)のみを解体する場合、PC鋼材1を切断する必要がある。PC鋼材1によってコンクリート躯体2に与えられているプレストレスに悪影響を与えずに解体部R2のみを解体するためには、PC鋼材1を切断する前に、残置部R1(点線枠内の領域)と解体部R2の境界を含む所定の中間部M(実線枠内の領域)において、中間定着を施す必要がある。中間定着では、中間部Mにおいてコンクリート躯体2の一部をはつり、このはつり出したPC鋼材1に対して、解体部R2側の定着装置1Bに代わってPC鋼材1の緊張力を受け替えるための中間定着装置が設置される。中間定着装置は、残置部R1に固定される。これにより、残置部R1にPC鋼材1の緊張に伴うプレストレスを残存させつつ、解体部R2のみを解体することができる。
【0017】
本実施形態の中間定着工法では、中間定着装置として、互いに嵌合するメス部材とオス部材が用いられる。そして、中間定着装置に対して解体部R2側の位置でPC鋼材1を切断することで、中間定着を施すことができる。本実施形態の中間定着工法は、後述する工程A~Eの順で行われる。以下、本実施形態の中間定着工法について説明する。なお、各図(
図2,
図3,
図5,
図6)では、PC鋼材1の軸方向に沿う矢印D1により、
図1における残置部R1と解体部R2の位置を示している。
【0018】
図2は、本実施形態のメス部材(いわゆるスリーブ)51を設置する工程を示す斜視図である。
図2に示す工程Aでは、中間部Mにおいてコンクリート躯体2の一部をはつることにより、PC鋼材1の一部を露出させる。これにより、中間定着装置50を設置するための作業空間として、はつり部が形成される。ここで、PC構造物100では、PC鋼材1の周囲にシース(不図示)が配置されているとともに、PC鋼材1及びシースの間にグラウトが充填されているため、PC鋼材1を露出させるために、シースやグラウトが取り除かれる。
【0019】
メス部材51には、穴部511が設けられている。穴部511は、PC鋼材1を挿通させつつ、後述するオス部材52を嵌合させるためのスペースである。ここで、メス部材51は、複数に分割されたブロックから構成されており、連結部材512でブロックどうしを連結することによって組み立てられる。これにより、穴部511が形成される。例えば、連結部材512は、ボルトやナットである。
図2に示すように、工程Aでは、PC鋼材1が穴部511を挿通するように、メス部材51が組み立てられる。
【0020】
穴部511は、後述するオス部材52に対応する形状に形成されている。具体的に、穴部511の壁面は、PC鋼材1の軸方向に対して傾斜するテーパ面であり、オス部材52のテーパ面に沿う。
【0021】
図3は、本実施形態のオス部材52を設置する工程を示す斜視図である。オス部材52は、PC鋼材1を把持しつつ、メス部材51に嵌合するウェッジである。オス部材52は、穴部511の壁面に沿う曲率で形成されたテーパ面を有する。したがって、オス部材52は、穴部511の壁面に沿って接触することができる。また、オス部材52は、PC鋼材1の周面に沿う曲率で形成された穴部を有する。したがって、オス部材52の穴部は、PC鋼材1の周面に沿って接触することができる。オス部材52は、PC鋼材1の周面に沿って接触することで、PC鋼材1の径方向(PC鋼材1の軸方向と直交する方向)からPC鋼材1を把持することができる。
【0022】
図3に示すように、工程Bでは、メス部材51に対してオス部材52が挿入される。具体的に、オス部材52は、PC鋼材1の軸方向に沿って解体部R2側から穴部511に挿入される。これにより、オス部材52は、穴部511の内部において、穴部511の壁面とPC鋼材1によって形成されるスペースに配置される。このようにして、メス部材51とオス部材52により、中間定着装置50が構成される。
【0023】
ここで、オス部材52は、後述する工程Cで穴部511に圧入される。したがって、工程Bでは、穴部511に挿入されたオス部材52の一部が穴部511から突出している。工程Bでは、オス部材52が穴部511から外れないように穴部511に挿入されていればよい。また、オス部材52は、複数に分割されたブロックから構成されている。オス部材52を構成する複数のブロックがPC鋼材1の周方向で並ぶことにより、オス部材52が構成される。オス部材52のうち、PC鋼材1と接触する面には、凹凸形状の歯を設けることができる。
【0024】
図4は、本実施形態のジャッキ60を示す斜視図である。ジャッキ60は、穴部511にオス部材52を圧入し、オス部材52を穴部511に圧入させるために用いられる。ジャッキ60は、油圧式のジャッキである。ジャッキ60は、ジャッキ本体61と、支持部材62と、一対のピストンロッド63と、持ち手部64とを有する。ジャッキ本体61及び支持部材62には、それぞれ、PC鋼材1を挿通させるための溝61a,62aが設けられている。溝61aは、ジャッキ本体61において、各ピストンロッド63の間に形成されており、ジャッキ本体61の一側面から一対のピストンロッド63が並ぶ方向と直交する方向に沿って凹状に設けられている。同様に、溝62aは、支持部材62において、各ピストンロッド63の間に形成されており、ジャッキ本体61の一側面から一対のピストンロッド63が並ぶ方向と直交する方向に沿って凹状に設けられている。
【0025】
各ピストンロッド63は、ジャッキ本体61から突出しており、一対のピストンロッド63の先端に支持部材62が接続されている。ピストンロッド63は、ジャッキ本体61と支持部材62の間隔を調整することができる。具体的に、ピストンロッド63は、支持部材62をジャッキ本体61に近づく方向に移動させたり、支持部材62をジャッキ本体61から遠ざかる方向に移動させたりすることができる。ピストンロッド63がジャッキ本体61の内部に移動すると、ジャッキ本体61に支持部材62が近づく。ピストンロッド63がジャッキ本体61から押し出されると、ジャッキ本体61から支持部材62が遠ざかる。持ち手部64は、ジャッキ60を扱うときに作業者によって握られる持ち手である。持ち手部64は、ジャッキ本体61に接続されている。なお、持ち手部64は、支持部材62に接続されていてもよい。
【0026】
図5は、本実施形態のジャッキ60を使用する工程を示す斜視図である。
図5に示す工程Cでは、ジャッキ本体61と支持部材62の間に中間定着装置50が位置するようにジャッキ60が設置される。ここで、中間定着装置50は、一対のピストンロッド63の間に位置する。まず、ジャッキ本体61と支持部材62の間隔は、ピストンロッド63を移動させることによって、PC鋼材1の軸方向における中間定着装置60の最大寸法よりも広い間隔に調整される。そして、ジャッキ本体61は、PC鋼材1の軸方向において、メス部材51に対して残置部R1側のスペースに配置される。支持部材62は、PC鋼材1の軸方向において、オス部材52に対して解体部R2側のスペースに配置される。このとき、ジャッキ本体61及び支持部材62にそれぞれ設けられた溝61a,62aにPC鋼材1を挿通させると、ジャッキ60を配置することができる。
【0027】
その後、ピストンロッド63を移動させて、ジャッキ本体61と支持部材62とを互いに近づけると、PC鋼材1の軸方向において、ジャッキ本体61がメス部材51に接触し、支持部材62がオス部材52に接触する。このようにして、ジャッキ60は、ジャッキ本体61と支持部材62とで中間定着装置50を挟むことができる。
【0028】
更にピストンロッド63を移動させてジャッキ本体61と支持部材62を互いに近づけると、ジャッキ本体61がメス部材51を押圧し、支持部材62がオス部材52を押圧する。これにより、オス部材52が穴部511に圧入される。すなわち、ジャッキ本体61と支持部材62によって、オス部材52を穴部511に圧入させる方向に移動させると、オス部材52を穴部511に圧入させることができる。
図6は、オス部材52をメス部材51の穴部511に圧入させた状態を示す斜視図である。すなわち、工程Cでジャッキ60によってオス部材52が穴部511に圧入させると、
図6に示す状態となる。このようにして、中間定着装置50は、PC鋼材1に固定される。
【0029】
なお、PC鋼材1の軸方向において、オス部材52に対して解体部R2側にジャッキ本体61を配置し、メス部材51に対して残置部R1側に支持部材62を配置してもよい。すなわち、ジャッキ本体61及び支持部材62がPC鋼材1の軸方向において中間定着装置50を挟む位置になるように、ジャッキ60を配置すればよい。この場合、ピストンロッド63を移動させてジャッキ本体61と支持部材62が互いに近づくと、ジャッキ本体61がオス部材52を押圧し、支持部材62がメス部材51を押圧する。これにより、オス部材52が穴部511に圧入される(嵌合する)。
【0030】
本実施形態では、ジャッキ本体61及び支持部材62を互いに近づく方向に移動させることにより、メス部材51及びオス部材52を互いに近づく方向(言い換えれば、圧入方向)に移動させている。これにより、オス部材52をメス部材51の穴部511に挿入させる力だけでなく、メス部材51をオス部材52に引き寄せる力も発生する。これらの力を併用することにより、オス部材52を穴部511に圧入しやすくなるとともに、オス部材52をPC鋼材1に密接させることができる。
【0031】
なお、支持部材62とオス部材52又はメス部材51の間に、支圧板を介在させてもよい。すなわち、支持部材62とオス部材52又はメス部材51を接触させなくてもよい。なお、ピストンロッド63は、上述した例に限らず、3個以上設けられていてもよい。この場合、穴部511に圧入させるための力を、ジャッキ60からオス部材52に均等に作用させることができるように、3個以上のピストンロッド63を配置すればよい。
【0032】
工程D(不図示)では、ピストンロッド63によってジャッキ本体61と支持部材62を遠ざけることで、メス部材51及びオス部材52(すなわち、中間定着装置50)に対する圧力を解除する。その後、ジャッキ60は撤去される。
【0033】
工程E(不図示)では、中間定着装置50よりも残置部R1側の空間がコンクリートで埋め戻される。そして、中間定着装置60に対して解体部R2側でPC鋼材1を切断することにより、中間定着が施される。PC鋼材1の切断によって、PC鋼材1の緊張力が中間定着装置60に作用することにより、オス部材52がPC鋼材1に密接するとともに、オス部材52が穴部511に密接する。このようにして、解体部R2側の定着装置1B(
図1参照)に代わり、中間定着装置60がPC鋼材1の緊張力を維持することができる。言い換えると、定着装置1Bに代わり、中間定着装置60が残置部R1のコンクリート躯体2にプレストレス(解体部R2から残置部R1に向かう方向の力)を与えることができる。なお、コンクリート躯体2をはつることで形成されたはつり部を全て埋め戻した後に、解体部R2側で、コンクリート躯体2とともにPC鋼材1を切断してもよい。
【0034】
以上の工程により、PC鋼材1は、定着装置1A(
図1参照)及び中間定着装置60によって残置部R1のコンクリート躯体2に定着される。したがって、解体部R2を解体することができる。
【0035】
ここで、
図7を参照して本実施形態のジャッキ60について説明する。
図7は、本実施形態のジャッキ60の内部を示す断面図である。ジャッキ本体61の内部には、ピストン611が収容されている。ピストン611は、ジャッキ本体61の内部の空間を第1室612と第2室613の2つの空間に区切っている。そして、ピストン611のうち、第1室612を区画する壁面には、ピストンロッド63の基端が接続されている。また、ジャッキ本体61には、第1室612に繋がる穴部612aと、第2室613に繋がる穴部613aとが設けられている(
図4~
図6において省略している)。また、第1室612と第2室613には、ピストンロッド63を作動させるための油(以下、作動油という)が満たされている。
【0036】
ピストンロッド63は、ジャッキ本体61の内部を流動する作動油によって作動する。具体的に、穴部612aから第1室612に作動油が供給されると、ピストン611が第1室612内の作動油に押圧され、第2室613側に移動する。このとき、第2室613内の作動油は、穴部613aから流出する。これに伴い、ピストン611に接続されたピストンロッド63が作動し、ピストンロッド63の先端に接続された支持部材62がジャッキ本体61に近づく。したがって、第1室612に作動油を供給すると、工程C(
図5及び
図6)で説明したようにオス部材52を穴部511に圧入することができる。
【0037】
また、穴部613aから第2室613に作動油が供給されると、ピストン611が第2室613内の作動油に押圧され、第1室612側に移動する。このとき、第1室612内の作動油は、穴部612aから流出する。これに伴い、ピストン611に接続されたピストンロッド63が作動し、ピストンロッド63の先端に接続された支持部材62がジャッキ本体61から遠ざかる。したがって、第2室613に作動油を供給すると、工程Dで説明したように、中間定着装置50に対する圧力を解除することができる。
【0038】
本実施形態では、ジャッキ本体61と支持部材62によってメス部材51とオス部材52をPC鋼材1の軸方向における両側から挟むことで、オス部材52をメス部材(穴部511)に圧入している。ジャッキ60は、オス部材52を穴部511に圧入させるだけの力を発生させることができればよく、過度の力を発生させる必要が無いため、ピストンロッド63の径を小さくすることができる。
【0039】
ここで、ピストンロッド63は、第1室612側でピストン611に接続されているため、第1室612において、作動油と接触するピストン611の面積は、第2室613において、作動油と接触するピストン611の面積よりも小さくなる。本実施形態によれば、上述した理由により、ピストンロッド63の径を小さくすることができるため、第1室612において、作動油と接触するピストン611の面積を確保しやすくなる。すなわち、ピストンロッド63の径を小さくすることによって、第1室612において、作動油及びピストン611の接触面積のロスを減らすことができる。これにより、作動油の流動によるピストンロッド63の移動を効率良く行うことができる。
【0040】
なお、上記説明ではジャッキ60を油圧式のジャッキとして説明したが、ジャッキ60は、ネジ式のジャッキであってもよい。この場合、ネジを緩めたり締めたりすることによってジャッキ本体61と支持部材62を互いに近づけたり遠ざけたりすることができればよい。
【0041】
本実施形態では、ピストンロッド63をPC鋼材1の軸方向に沿って移動させて、ジャッキ本体61と支持部材62を互いに近づけることだけによって、メス部材51にオス部材52を圧入させているため、従来の中間定着工法(
図8)のように、メス部材51にオス部材52を圧入させるために、はつり部におけるコンクリート躯体2の端面を利用する必要が無くなる。
【0042】
また、従来の中間定着工法では、オス部材52’をPC鋼材1’の軸方向に沿って解体部側から残置部側に向かって押圧する。このとき、反力台40’は、はつり部において、コンクリート躯体2’の残置部側の端面と接触する面で、残置部に向かう力を受ける。このため、残置部に向かう力を受ける反力台40’が不安定にならないように、反力台40’と接触するコンクリート躯体2’の残置部側の端面をPC鋼材1’の軸方向と直交する平らな面に整える必要がある。したがって、従来の中間定着工法では、はつり部におけるコンクリート躯体2’の端面を整える手間がかかる。一方、本実施形態では、上述したように、はつり部の端面を利用することなく、メス部材51にオス部材52を圧入させることができるため、はつり部の端面を整える必要がない。このため、コンクリート躯体2をはつるときの手間を低減することができる。
【0043】
本実施形態では、PC鋼材1に中間定着装置50を固定する方法(中間定着工法)について説明したが、これに限るものではない。すなわち、オス部材52をメス部材51の穴部511に圧入して、PC鋼材1にオス部材52及びメス部材51を固定するものであれば、本発明を適用することができる。例えば、PC鋼材1を緊張する前に、オス部材52及びメス部材51をPC鋼材1に予め固定する場合において、本発明を適用することができる。
【0044】
一方、防錆等のために被覆されたPC鋼材(被覆PC鋼材)1を用いる場合、オス部材52をPC鋼材1に十分にめり込ませておかないと、PC鋼材1に緊張力が作用したときに、オス部材52を構成する複数のブロックの間でズレが発生し、オス部材52がPC鋼材1に正常にめり込まないおそれがある。本実施形態によれば、オス部材52をメス部材51の穴部511に挿入させる力と、メス部材51をオス部材52に引き寄せる力とを併用することにより、オス部材52をPC鋼材1に十分にめり込ませることができる。これにより、PC鋼材1に緊張力が作用したときにも、PC鋼材1に対してオス部材52を正常にめり込ませることができる。
【符号の説明】
【0045】
1:PC鋼材、2:コンクリート躯体、100:PC構造物、
50:中間定着装置、51:メス部材、52:オス部材、60:ジャッキ、
61:ジャッキ本体、62:支持部材、63:ピストンロッド、64:持ち手部
M:中間部、R1:残置部、R2:解体部