(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】脊椎固定インプラント
(51)【国際特許分類】
A61B 17/70 20060101AFI20230214BHJP
A61B 17/86 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
A61B17/70
A61B17/86
(21)【出願番号】P 2019523475
(86)(22)【出願日】2018-05-30
(86)【国際出願番号】 JP2018020636
(87)【国際公開番号】W WO2018225588
(87)【国際公開日】2018-12-13
【審査請求日】2021-04-12
(31)【優先権主張番号】P 2017113495
(32)【優先日】2017-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】角谷 賢一朗
【審査官】北村 龍平
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2001/0047174(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0318968(US,A1)
【文献】韓国公開特許第2015-0067809(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0019633(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0082067(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/70
A61B 17/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣り合う椎体の相対位置を所定の範囲内に保つ脊椎固定インプラントであって、
椎体に固定される複数本のスクリューと、
背側面から腹側面へ向けて前記スクリューが挿入されるガイド孔が両端部に形成された、少なくとも2個のコネクションプレートと、
前記スクリューを介して椎体に固定された隣り合う前記コネクションプレート同士を連結するセンターロッドと、
を備え、
前記コネクションプレートは、椎間関節の凹形状部分に嵌合する凸形状部分を腹側面に有し、
前記凹形状部分は、
人体の頭部側から見たときの隣り合う2つの前記椎間関節の互いに対向する内側において、当該椎間関節
の凹状となっ
た部分であり、
前記隣り合う
2つの椎間関節の
背側端部よりも背側に孔中心が位置するように、前記センターロッドが摺動自在に挿入されるセンター孔が前記コネクションプレートの側面に形成されており、
前記コネクションプレートは、前記センターロッドを中心にして回旋可能である、脊椎固定インプラント。
【請求項2】
請求項
1に記載の脊椎固定インプラントにおいて、
前記センターロッドが、樹脂材料、または炭素繊維材料で形成されている、脊椎固定インプラント。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の脊椎固定インプラントにおいて、
前記スクリュー、前記コネクションプレート、および前記センターロッドが、樹脂材料、または炭素繊維材料で形成されている、脊椎固定インプラント。
【請求項4】
請求項
3に記載の脊椎固定インプラントにおいて、
前記センターロッドの側方に配置される、隣り合う前記コネクションプレート同士を連結するラテラルロッドをさらに備え、
前記ラテラルロッドが、樹脂材料、または炭素繊維材料で形成されている、脊椎固定インプラント。
【請求項5】
請求項1~
3のいずれかに記載の脊椎固定インプラントにおいて、
直列配置される3個以上の前記コネクションプレートを備え、
複数のコネクションプレート間のうちの一部のコネクションプレート間において、隣り合う前記コネクションプレート同士が、前記センターロッドの側方に配置されるラテラルロッドでさらに連結されている、脊椎固定インプラント。
【請求項6】
請求項1~
3のいずれかに記載の脊椎固定インプラントにおいて、
前記センターロッドの側方に配置される、隣り合う前記コネクションプレート同士を連結するラテラルロッドをさらに備え、
前記ラテラルロッドは、
取付部材を介して前記コネクションプレートに取り付けられており、
前記
取付部材は、
前記ラテラルロッドが差し込まれるリング状のロッド保持部と、
前記スクリューが差し込まれる脚部であって、前記コネクションプレートの前記背側面に当接される脚部と、を備える、
脊椎固定インプラント。
【請求項7】
請求項
6に記載の脊椎固定インプラントにおいて、
前記コネクションプレートの前記背側面の両端に、前記ロッド保持部の一部が嵌り込む凹部が形成されている、脊椎固定インプラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、隣り合う椎体の相対位置を所定の範囲内に保つ脊椎固定インプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術として、例えば、特許文献1に記載のものがある。特許文献1に記載の脊椎固定システムは、固定部材と称されている椎体に固定されるスクリューと、スクリュー同士を連結するロッドとを備える。特許文献1の例えば
図5に開示されているように、椎骨1個について2本のスクリューが、椎体に捩じ込み(刺入)固定される。そして、並列配置された計2組の、複数のスクリューおよびロッドで、隣り合う椎体の相対位置が固定される。また、椎体同士をより強固に固定するために、隣り合うロッドを横コネクタで連結してもよいことが文献に開示されている。
【0003】
なお、特許文献1の中には特に記載されていないが、上記したスクリュー、ロッド、および横コネクタは、チタンなどの金属材料で形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されているような従来の脊椎固定インプラントは、隣り合う椎体を完全固定するものである。完全固定された椎体同士は、その相対位置が全く変化しないため術後、患者は、腰の回旋範囲が狭まり、腰の回旋がしづらくなる。そのため、術後において患者の日常生活に障害が生じることもある。また、完全固定された椎体と、これに隣り合う固定されていない椎体との間で骨折が生じることもある。ちなみに、5個の腰椎(椎骨)で形成される腰椎の回旋角度は通常10度程度であるので、椎体1個あたりの回旋角度は約2度程度となる。
【0006】
また、特許文献1に記載されているような従来の脊椎固定インプラントには、次のような問題もある。術者が、スクリューを椎体に捩じ込む際、無視できない割合(5~10%程度の割合)でスクリューの誤捩じ込み(誤刺入)が発生している。ここで、椎骨を構成する椎体と椎弓との間の脊柱管には脊髄が通っている。また、椎体の腹側には、心臓、各種臓器、大動脈、および大静脈などが存在する。スクリューの誤捩じ込み(誤刺入)により、例えば、脊髄が傷つけられると、神経痛や麻痺症状発生の危険がある。また、大動脈などの大血管が傷つけられると、大量出血の危険がある。
【0007】
なお、椎体へのスクリューの誤捩じ込み(誤刺入)を防止するため、非常に高額な3次元モニタリングシステム(ナビゲーションシステム)を導入している病院もあるが、様々な事情により、全ての病院がこのようなシステムを導入できるわけではない。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、椎体の回旋性を温存でき、且つ、これに加えてスクリューの誤捩じ込み(誤刺入)をも防止することができる脊椎固定インプラントを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によって提供される脊椎固定インプラントは、隣り合う椎体の相対位置を所定の範囲内に保つ脊椎固定インプラントであって、椎体に固定される複数本のスクリューと、背側面から腹側面へ向けて前記スクリューが挿入されるガイド孔が両端部に形成された、少なくとも2個のコネクションプレートと、前記スクリューを介して椎体に固定された隣り合う前記コネクションプレート同士を連結するセンターロッドと、を備える。前記コネクションプレートは、椎間関節の凹形状部分に嵌合する凸形状部分を腹側面に有し、人体の頭部側から見たときの隣り合う椎間関節の前記凹形状部分の円弧状の外郭線上の中点同士を結ぶ仮想線よりも背側に孔中心が位置するように、前記センターロッドが摺動自在に挿入されるセンター孔が前記コネクションプレートの側面に形成されている。
【0010】
椎体の想定される回旋中心は、整形外科分野で著名なカパンディの「関節の生理学」にも示されているように、人体の頭部側から見たときの椎間関節の凹形状部分の円弧状の外郭線から推定される仮想円の中心に位置する。
ここで、センターロッドが摺動自在に挿入されるセンター孔の中心は、椎体の想定される回旋中心と必ずしも一致しないが、椎体の想定される回旋中心がある椎体の背側に位置する。そのため、椎体は、センターロッドを中心にしてコネクションプレートと一体的に回旋し得、椎体の回旋性は温存される。
また、上記したコネクションプレートは、椎間関節の凹形状部分に嵌合する凸形状部分を腹側面に有する。これによると、椎骨の背側にコネクションプレートを密着させることができる。その結果、スクリュー捩じ込み(刺入)の際のスクリューのがたつきやぶれを最小限に抑えることができる。また、コネクションプレートの凸形状部分を、椎間関節の凹形状部分に嵌め込むことで、スクリューの捩じ込み位置、および捩じ込み角度を確定させることができるという効果もある。これらの結果、スクリューの誤捩じ込み(誤刺入)を従来よりも防止することができる。なお、コネクションプレートが有する上記腹側面は、椎骨とコネクションプレートとの一体化に寄与するので、回旋性が温存された椎骨の骨折防止という効果も得られる。
【0011】
本発明の好適な実施の形態においては、前記センター孔が、前記外郭線から推定される仮想円の中心に位置するように形成されている。
【0012】
この構成によると、椎体の回旋性をより高めることができる。
【0013】
本発明の好適な実施の形態においては、立位のときの椎骨の連なりデータに基づいて前記センターロッドが湾曲させられている。
【0014】
この構成によると、立位のとき、特に術後患者の活動時における椎体の回旋性をより高めることができる。
【0015】
本発明の好適な実施の形態においては、前記外郭線から推定される仮想円の中心を、椎骨が連なる方向で結んでなる仮想の曲線に沿って、前記センターロッドが湾曲させられている。
【0016】
この構成によると、椎体の回旋性をより高めることができる。
【0017】
本発明の好適な実施の形態においては、前記ガイド孔の前記コネクションプレートにおける位置および角度が、椎体の内部に前記スクリューが収まるように、椎体毎に決定されている。
【0018】
この構成によると、脊髄、心臓、各種臓器、および大動脈などの大血管を、スクリューで傷つけてしまうことを防止することができ、スクリューのより安全な捩じ込み(刺入)が可能となる。
【0019】
本発明の好適な実施の形態においては、前記センターロッドが、樹脂材料、または炭素繊維材料で形成されている。
【0020】
樹脂材料、および炭素繊維材料は、いずれも、ある程度の柔軟性を有するので、この構成によると、椎体の回旋性を温存できることに加えて、椎体の屈曲性(前後屈性)も温存することができる。
【0021】
本発明の好適な実施の形態においては、前記スクリュー、前記コネクションプレート、および前記センターロッドが、樹脂材料、または炭素繊維材料で形成されている。
【0022】
この構成によると、椎体の回旋性温存および屈曲性温存という効果に加えて、金属製のインプラントの場合に問題となるアーチファクトの発生を防止することができる。
【0023】
本発明の好適な実施の形態においては、前記センターロッドの側方に配置される、隣り合う前記コネクションプレート同士を連結するラテラルロッドをさらに備え、前記ラテラルロッドが、樹脂材料、または炭素繊維材料で形成されている。
【0024】
この構成によると、椎体の回旋性を温存しつつ、椎体同士をしっかりと固定することができる。
【0025】
本発明の好適な実施の形態においては、直列配置される3個以上の前記コネクションプレートを備え、複数のコネクションプレート間のうちの一部のコネクションプレート間において、隣り合う前記コネクションプレート同士が、前記センターロッドの側方に配置されるラテラルロッドでさらに連結されている。
【0026】
この構成によると、椎体の回旋性温存箇所と、椎体の固定優先箇所とを併存させることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によると、椎体の回旋性を温存でき、且つ、これに加えてスクリューの誤捩じ込み(誤刺入)をも防止することができる脊椎固定インプラントを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る脊椎固定インプラントの斜視図である。
【
図2】
図1に示す脊椎固定インプラントの正面図であり、椎骨を合わせて図示している。
【
図3】
図1に示す脊椎固定インプラントの平面図である(椎骨は図示していない)。
【
図4】椎体の想定される回旋中心を説明するための図であって、棘突起および椎弓を取り除いた椎骨(腰椎)を人体の頭側から見たときの図である。
【
図5】脊柱を構成する立位のときの計5個の腰椎を横から見たときの図である。
【
図6】本発明の第2実施形態に係る脊椎固定インプラントの正面図であり、椎骨を合わせて図示している。
【
図7】
図6に示す脊椎固定インプラントの平面図である(椎骨は図示していない)。
【
図8】本発明の第3実施形態に係る脊椎固定インプラントの平面図である(椎骨は図示していない)。
【
図9】
図8に示す脊椎固定インプラントの試作品の写真である。
【
図10】PEEK樹脂製の脊椎固定インプラントを、背中を切開した豚の椎骨に取り付けた時点の写真である。
【
図11】
図10に示す脊椎固定インプラントが体内に埋設された状態の豚の背中部分のCT画像である。
【
図12】
図10に示す脊椎固定インプラントが体内に埋設された状態の豚の背中部分のMRI画像である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。
【0030】
(脊椎固定インプラントの構成)
図1~5に基づき、本発明の第1実施形態に係る脊椎固定インプラント101の構成について説明する。脊椎固定インプラント101は、隣り合う椎体51の相対位置を所定の範囲内に保つインプラントであって、椎体51に固定される複数本のスクリュー1、少なくとも2個のコネクションプレート3、および隣り合うコネクションプレート3同士を連結するセンターロッド4を、主要な構成部品とする。
【0031】
なお、「隣り合う椎体51の相対位置を所定の範囲内に保つ」というのは、本発明のインプラントは、従来の脊椎固定インプラントのような隣り合う椎体を完全固定するものではなく、椎体の可動性を温存できる脊椎固定インプラントである、ということを意味する。
【0032】
<スクリュー>
スクリュー1は、コネクションプレート3を椎体51に固定するための部品であり、先端側から順に、テーパーネジ部1a、円柱状部1b、平行ネジ部1c、および六角柱状部1dを有する。スクリュー1の材料は、樹脂(プラスチック)、炭素繊維、金属、または、これらの複合材料である(コネクションプレート3、センターロッド4、後述するラテラルロッド5についても同様)。樹脂材料としては、PEEK樹脂(ポリエーテルエーテルケトン樹脂)、PLA樹脂(ポリ乳酸樹脂)などが挙げられる。金属材料としては、チタン、チタン合金、コバルトクロム合金、ステンレスなどが挙げられる。
【0033】
<コネクションプレート>
コネクションプレート3は、スクリュー1を介して椎体51に固定された状態で、センターロッド4を介して隣り合う椎体51を連結するための部品である。コネクションプレート3の両端部には、背側面3aからその反対側の腹側面3bへ向けてスクリュー1が挿入されるガイド孔3cが形成されている。
【0034】
また、コネクションプレート3は、椎間関節53の凹形状部分に嵌合する凸形状部分8を腹側面3bに有する。なお、椎骨50は、椎体51、椎弓52、椎間関節53、横突起54、椎弓根55、および棘突起などで構成される。
図2に示す椎骨50は、棘突起が取り除かれた椎骨である。また、
図4に示す椎骨50は、棘突起および椎弓52が取り除かれた椎骨である。術者は、スクリュー1を椎体51に捩じ込む前に、コネクションプレート3の凸形状部分8を、椎間関節53の凹形状部分に嵌め込むことで、椎骨50の背側にコネクションプレート3を密着させることができる。これにより、その後のスクリュー捩じ込み(刺入)の際のスクリュー1のがたつきやぶれを最小限に抑えることができる。なお、腹側面3bにおける凸形状部分8の位置および大きさは、各椎骨50毎に決定されていることが好ましい。例えば、術前に、各椎骨50の形状および寸法を、CTまたはMRIにて3次元計測し、その計測結果から、各椎間関節53の凹形状部分に合うように、腹側面3bにおける凸形状部分8の位置および大きさを決定する。そして、各椎骨50毎にコネクションプレート3を製作する。
【0035】
また、ガイド孔3cのコネクションプレート3における位置および角度は、椎体51の内部にテーパーネジ部1a(スクリュー1)が収まるように(
図2参照)、各椎体51毎に決定されていることが好ましい。前記したように、例えば、術前に、各椎骨50の形状および寸法を、CTまたはMRIにて3次元計測し、その計測結果から、各椎体51の内部にテーパーネジ部1a(スクリュー1)が収まるように、コネクションプレート3におけるガイド孔3cの位置および角度を、各椎体毎に最適なものに決定する。こうすることで、脊髄、心臓、各種臓器、および大動脈などの大血管を、スクリュー1で傷つけてしまうことを防止することができ、スクリュー1のより安全な捩じ込み(刺入)が可能となる。
【0036】
コネクションプレート3の側面には、センター孔3dが形成されており、このセンター孔3dに、センターロッド4が摺動自在に挿入される。コネクションプレート3とセンターロッド4とは、完全固定されておらず、コネクションプレート3は、センターロッド4を中心にして回旋可能である。
【0037】
ここで、コネクションプレート3が固定される椎体51の想定される回旋中心について、
図4を参照しつつ説明する。椎体51の想定される回旋中心は、前述した「関節の生理学」に記載されているように、
図4に示すような仮想円Dの中心Oであることが知られている。
【0038】
この仮想円Dは、人体の頭部側から見たときの椎間関節53の凹形状部分の円弧状の外郭線Cを円周上の一部に含むように、当該外郭線Cから推定される円である。なお、椎間関節53の上記外郭線Cが、数学的に完全な円弧であることはまずない。そのため、円弧状の外郭線Cを円周上の一部に含む「ように」というように、円弧状の外郭線Cが、仮想円Dの円周上の円弧と完全に一致しない場合を許容し含める表現としている。
【0039】
ここで、椎体51の回旋性を温存すべく、センターロッド4が挿入されるセンター孔3dの孔中心は、コネクションプレート3が椎体51に固定された状態において、人体の頭部側から見たときの隣り合う椎間関節53の上記外郭線C上の中点同士を結ぶ仮想線L1よりも背側に位置するように、コネクションプレート3の側面に形成される。なお、円弧状の外郭線C上の中点とは、円弧状の外郭線Cの両端P1、P2から等しい距離のその曲線上の点P3のことである。
【0040】
上記した孔中心は、椎体51の想定される回旋中心(仮想円Dの中心O)と必ずしも一致しないが、仮想円Dの中心Oがある椎体の背側に位置する。そのため、椎体51は、センターロッド4を中心にしてコネクションプレート3と一体的に回旋し得、椎体51の回旋性は温存される。前記したように、例えば、腰椎を構成する椎骨1個あたりの回旋角度は、そもそも約2度程度という小さい角度であるので、センター孔3dの孔中心と、仮想円Dの中心Oとが完全に一致していなくても、椎体51は回旋し得、椎体51の回旋性は温存される。
【0041】
なお、椎体51の回旋性をより高めるには、コネクションプレート3が椎体51に固定された状態において、センターロッド4が挿入されるセンター孔3dが、椎体51の想定される回旋中心である仮想円Dの中心Oに位置するように(センター孔3dの中心と、仮想円Dの中心Oとが一致するように)、コネクションプレート3の側面に形成されていることである。
【0042】
術前に、各椎骨50の椎間関節53の形状および寸法を、CTまたはMRIにて3次元計測し、その計測結果から、各椎体51の想定される回旋中心を求める。コネクションプレート3が椎体51に固定された状態において、求めた回旋中心にセンター孔3dが位置するように、コネクションプレート3の側面に、センター孔3dを形成する。
【0043】
<センターロッド>
センターロッド4は、スクリュー1を介して椎体51に固定された隣り合うコネクションプレート3同士を連結するための部品である。
【0044】
椎体51の回旋性をより高めるため、センターロッド4は、立位のときの椎骨50の連なりデータに基づいて湾曲させられていることが好ましい。なお、立位のときの椎骨50の連なりデータは、例えば、レントゲン撮影により取得される。
【0045】
ここで、
図5は、脊柱を構成する立位のときの計5個の椎骨50(腰椎50a~50e)を横から見たときの図である。また、
図5中に示す仮想曲線L2は、
図4に示す仮想円Dの中心Oを、椎骨50が連なる方向で結んでなるものである。すなわち、仮想曲線L2は、椎体51の想定される回旋中心を、椎骨50が連なる方向で結んでなるものである。この仮想曲線L2に沿って、センターロッド4が湾曲させられていることが好ましい。なお、仮想曲線L2は棘突起を貫いて描かれているが、棘突起はコネクションプレート3を椎間関節53と勘合させるために、術中にて取り除かれる。
【0046】
前記したように、術前に、各椎骨50の椎間関節53の形状および寸法を、CTまたはMRIにて3次元計測し、その計測結果から、各椎体51の想定される回旋中心を求める。各椎体51の想定される回旋中心を、椎骨50が連なる方向で結んでなるものが仮想曲線L2である。
【0047】
なお、材料の観点では、センターロッド4は、PEEK樹脂などの樹脂(プラスチック)、炭素繊維といった、ある程度の柔軟性を有する材料から形成されていることが好ましい。これによると、椎体51の回旋性を温存できることに加えて、椎体51の屈曲性(前後屈性)も温存することができる。
【0048】
(脊椎固定インプラントの使用方法)
脊椎固定インプラント101の使用方法について説明する。術者は、まず、人体の背中を所定の長さ切開し、椎骨50を露出させる。そして、インプラントを取り付ける箇所の棘突起を、椎骨50から取り除く。なお、椎弓52に関しては、通常、残しておくが、必要に応じて、椎骨50から取り除く。
【0049】
次に、コネクションプレート3の凸形状部分8を、椎間関節53の凹形状部分に嵌め込むことで、椎骨50の背側にコネクションプレート3を密着させる。そして、コネクションプレート3のガイド孔3cにスクリュー1を挿入し、スクリュー1を椎体51の中へ捩じ込んでいく(刺入していく)。術者は、スクリュー1後端部の六角柱状部1dにボックスレンチを嵌め、ボックスレンチをゆっくり回しつつ、ガイド孔3cに沿わせてスクリュー1を椎体51の中へ捩じ込んでいく(刺入していく)。
【0050】
スクリュー1の捩じ込みが完了したら、スクリュー1の平行ネジ部1cに背側からナット6を螺合させて、コネクションプレート3を椎骨50に固定する。その後、隣り合うコネクションプレート3のセンター孔3dに、センターロッド4を通し、コネクションプレート3同士を連結する。
【0051】
なお、センターロッド4は、コネクションプレート3に固定されていないが、その軸方向の前後に位置する棘突起などの存在により、コネクションプレート3から抜け落ちる心配はほとんどない。
【0052】
(第2実施形態)
図6,7に基づき、本発明の第2実施形態に係る脊椎固定インプラント102の構成について説明する。なお、第2実施形態に係る脊椎固定インプラント102に関し、第1実施形態に係る脊椎固定インプラント101を構成する部品と同じ部品については、同一の符号を付している(後述する第3実施形態においても同様)。
【0053】
第2実施形態に係る脊椎固定インプラント102と、第1実施形態に係る脊椎固定インプラント101との相違点は、第2実施形態に係る脊椎固定インプラント102では、一部のコネクションプレート間が、センターロッド4に加えてラテラルロッド5で連結されている点である。
【0054】
脊椎固定インプラント102は、直列配置される3個のコネクションプレート3を備え、2つのコネクションプレート間のうちの一方のコネクションプレート間において、隣り合うコネクションプレート3同士が、センターロッド4の側方に配置されるラテラルロッド5でさらに連結されている。
【0055】
ラテラルロッド5が配置されるコネクションプレート間は、椎体51の固定が優先される箇所である。一方、ラテラルロッド5が配置されないコネクションプレート間は、椎体51の回旋性確保が優先される箇所である。このように、一部のコネクションプレート間が、センターロッド4に加えてラテラルロッド5で連結されることで、その部分の椎体51の固定力を大きくすることができる。このように、ラテラルロッド5を用いるか否かで、椎体51の固定力を変更することができ、椎体51の回旋性温存箇所と、椎体51の固定優先箇所とを併存させることができる。
【0056】
本実施形態では、コネクションプレート3の両端部にそれぞれラテラルロッド5が配置され、当該ラテラルロッド5は、ピン部材(取付部材)7を介してコネクションプレート3に取り付けられている。ピン部材7は、ラテラルロッド5が差し込まれるリング状のロッド保持部7aと、スクリュー1が差し込まれる脚部7bとで構成される。ロッド保持部7aにラテラルロッド5が差し込まれた状態、且つ、脚部7bにスクリュー1が差し込まれた状態で、背側からナット6を締め付けることで、脚部7bを弾性変形させ、これにより、ラテラルロッド5は、ロッド保持部7aで挟持される。
【0057】
なお、センターロッド4のコネクションプレート3への取付けのように、コネクションプレート3の両端部の側面に孔をあけ、この孔にラテラルロッド5を差し込んで、コネクションプレート3とラテラルロッド5とを連結してもよい。コネクションプレート3とラテラルロッド5とは、固定してもよいし、固定しなくてもよい(後述する第3実施形態においても同様)。
【0058】
(第3実施形態)
図8,9に基づき、本発明の第3実施形態に係る脊椎固定インプラント103の構成について説明する。
【0059】
第3実施形態に係る脊椎固定インプラント103と、第2実施形態に係る脊椎固定インプラント102との相違点は、第3実施形態に係る脊椎固定インプラント103では、全てのコネクションプレート間が、センターロッド4の側方に配置されるラテラルロッド5で連結されている点である。
【0060】
この構成の場合、椎体51の回旋性を温存すべく、少なくともコネクションプレート3、センターロッド4、およびラテラルロッド5は、PEEK樹脂などの樹脂(プラスチック)、炭素繊維といった、ある程度の柔軟性を有する材料から形成される。
図1などに示すラテラルロッド5が無い脊椎固定インプラント101に比べて、本実施形態の脊椎固定インプラント103は、椎体51の回旋性においては若干劣る。しかしながら、上記したようにその主要部品が、樹脂材料または炭素繊維材料で形成されることで、本実施形態の脊椎固定インプラント103によっても、椎体51の回旋性を温存することができる。
【0061】
本実施形態の脊椎固定インプラント103では、2本のスクリュー1、コネクションプレート3、および3本のロッド(センターロッド4、ラテラルロッド5)で、やぐらが組まれたような状態となるので、椎体51の回旋性を温存しつつも、椎体51の固定をしっかとしたものとすることができる。また、やぐらが組まれたような状態となることで、インプラントを構成する各部品にかかる負荷が分散されるという効果もある。
【0062】
なお、
図9に示す試作品の脊椎固定インプラント103は、スクリュー1、コネクションプレート3、センターロッド4、ラテラルロッド5、ナット6、およびピン部材7の全ての部品が、PEEK樹脂で形成されたインプラントである。ここで、金属製のインプラントで固定した脊椎の周辺には、MRIやCT撮影時においてアーチファクトが発生するため、脊椎腫瘍の状態把握や、移植骨の骨融合の状況把握が困難であるという問題がある。これに対して、本実施形態の脊椎固定インプラント103のように、部品の素材として、樹脂材料や炭素繊維材料を用いることで、アーチファクトの発生を防止することができる。
【0063】
本件の発明者らは、
図9に示す試作品の脊椎固定インプラント103を、豚の椎骨に取り付ける実験を行った。発明者らは、コネクションプレート3の凸形状部分8(
図2参照)を、豚の椎間関節の凹形状部分に密着させつつ、コネクションプレート3のガイド孔3cに沿って、スクリュー1を椎体51の中へ捩じ込んでいった(刺入していった)。これにより、誤捩じ込み(誤刺入)することなく、スクリュー1を椎体51に固定することができた。また、センターロッド4およびラテラルロッド5によるコネクションプレート3の連結を終えたあと、椎体の回旋性を温存し得ることを触手により確認した。
【0064】
また、
図10は、PEEK樹脂製の脊椎固定インプラント104を、背中を切開した豚の椎骨に取り付けた時点の写真である。また、
図11、
図12は、それぞれ、上記脊椎固定インプラント104が椎骨に取り付けられた状態(体内に埋設された状態)の豚の背中部分のCT像、MRI像である。
【0065】
なお、上記脊椎固定インプラント104は、3個のコネクションプレート3がセンターロッド4に加えてラテラルロッド5で連結され、1個のコネクションプレート3がセンターロッド4のみで連結されたものであり、
図7に示す脊椎固定インプラント102とは、ラテラルロッド5で連結されたコネクションプレート3の個数が異なっている。
【0066】
図11、
図12からわかるように、脊椎固定インプラント104がPEEK樹脂材料で形成されていることで、CT撮影、MRI撮影のいずれにおいてもアーチファクトは全く見られなかった。また、スクリュー1が椎弓根に正しく刺入できていることが、
図11、
図12からわかる。
【0067】
(変形例)
前記した実施形態では、3個または4個のコネクションプレート3とされているが、コネクションプレート3の数量は3個または4個に限定されるものではない。2個のコネクションプレート3であってもよいし、5個以上のコネクションプレート3であってもよい。
【0068】
図6~12に示す脊椎固定インプラント102、103、104では、センターロッド4の両側にラテラルロッド5が配置されているが、センターロッド4の片側のみにラテラルロッド5が配置されてもよい。
【0069】
以上、本発明の実施形態およびその変形について説明した。なお、その他に、当業者が想定できる範囲で種々の変更を行うことは可能である。
【符号の説明】
【0070】
1:スクリュー
3:コネクションプレート
3a:背側面
3b:腹側面
3c:ガイド孔
3d:センター孔
4:センターロッド
5:ラテラルロッド
8:凸形状部分
50:椎骨
51:椎体
53:椎間関節
C:椎間関節の凹形状部分の円弧状の外郭線
D:仮想円
O:仮想円の中心(回旋中心)
L1:仮想線
L2:仮想曲線
101、102、103、104:脊椎固定インプラント