(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】乾燥収縮ひずみ推定方法
(51)【国際特許分類】
G01B 11/16 20060101AFI20230214BHJP
G01N 33/38 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
G01B11/16 Z
G01N33/38
(21)【出願番号】P 2017227051
(22)【出願日】2017-11-27
【審査請求日】2020-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2017104420
(32)【優先日】2017-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141966
【氏名又は名称】新井 範彦
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【氏名又は名称】衡田 直行
(72)【発明者】
【氏名】大野 拓也
(72)【発明者】
【氏名】三谷 裕二
【審査官】眞岩 久恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-121321(JP,A)
【文献】特開2014-020866(JP,A)
【文献】特開平06-185964(JP,A)
【文献】鎌田矩夫,規格・規準の動向 新しく制定されたコンクリート関係JISの紹介,コンクリート工学,1976年01月,Vol.14, No.1,第97-103頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
G01N 33/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1個以上のレーザー変位計、(B)乾燥収縮ひずみ測定用の供試体を載置するための台座、および、(C)該供試体の位置決め治具、を少なくとも含み、前記位置決め治具は2本のピンであり、前記位置決め治具が、供試体に対し、一つのレーザー変位計とは反対側であって、かつ、一つのレーザー変位計から照射される光線に対して対称の位置に設置されている、乾燥収縮ひずみ測定装置を用いて、下記(D)の方法により測定した乾燥収縮ひずみの終局値に0.9を乗じて得た値を、JIS A 1129-1、JIS A 1129-2、または、JIS A 1129-3に準拠して測定した、乾燥期間6か月における乾燥ひずみの値として推定する、乾燥収縮ひずみ推定方法。
(D)前記乾燥収縮ひずみ測定装置の台座上に、円板状または四角板状の供試体を、該供試体の周囲の側面が位置決め治具と接触するように載置した後、 レーザー変位計を用いて供試体の周囲の側面にレーザーを照射して、レーザー変位計と供試体の周囲の側面の間の距離を測定することにより、供試体の乾燥収縮ひずみを測る方法。
【請求項2】
円板状の供試体を時計回りまたは反時計回りに回転して、該供試体の周囲の側面が位置決め治具と接触した状態で、レーザー変位計と該供試体の周囲の側面の間の距離を複数回測り、これらの距離の平均値を該供試体の乾燥収縮ひずみとして求める、請求項1に記載の乾燥収縮ひずみ推定方法。
【請求項3】
前記供試体の厚さが5~20mmである、請求項1または2に記載の乾燥収縮ひずみ推定方法。
【請求項4】
所定の乾燥期間が経過する度に、供試体を台座上に載置して乾燥収縮ひずみを測る、請求項1~3のいずれか1項に記載の乾燥収縮ひずみ推定方法。
【請求項5】
乾燥前の供試体と同じ形状および寸法を有する金属板
である基長板を台座上に載置して、レーザー変位計と該金属板の側面の間の距離(L
1)を測定した後、該金属板に代えて前記供試体を台座上に載置して、レーザー変位計と供試体の側面の間の距離(L
2)を測定し、L
1とL
2の差(L
1-L
2)を乾燥収縮ひずみとする、請求項1~4のいずれか1項に記載の乾燥収縮ひずみ推定方法。
【請求項6】
乾燥前の供試体と同じ形状および寸法を有する金属板
である基長板を台座上に載置して、レーザー変位計と該金属板の側面の間の距離を測定し該距離
の表示をゼロに設定した後、該金属板に代えて前記供試体を台座上に載置して、レーザー変位計と供試体の側面の間の距離を測定して乾燥収縮ひずみとする、請求項1~5のいずれか1項に記載の乾燥収縮ひずみ推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントペースト硬化体、コンクリート、およびモルタル(以下「セメント質硬化体」という。)の乾燥収縮ひずみの終局値を、早期に精度よく測定できる装置と、該装置を用いたセメント質硬化体の乾燥収縮ひずみを測定する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セメント質硬化体の乾燥収縮ひずみを測定する方法は、JIS A 1129-1に規定するコンパレータを用いる方法、JIS A 1129-2に規定するコンタクトゲージを用いる方法、およびJIS A 1129-3に規定するダイヤルゲージを用いる方法がある。しかし、これらの方法はいずれも、乾燥収縮ひずみの終局値を得るには乾燥期間が1年以上もの長期間を要するほか、所定の期間毎に、10cm×10cm×40cmの供試体(セメント質硬化体)の長さを測定しなければならず、測定作業に手間がかかった。
【0003】
そこで、特許文献1では、コンクリートの乾燥収縮ひずみを、早期に評価する方法が提案されている。該方法は、温度80℃における乾燥期間28日目の乾燥収縮ひずみの実測値と、温度20℃における最終乾燥収縮ひずみ値との関係式、または、温度80℃における最終乾燥収縮ひずみ値と、温度20℃における最終乾燥収縮ひずみ値との関係を、それぞれ一次式で近似した関係式を用いて、任意の長期材齢におけるコンクリートの乾燥収縮ひずみを早期に評価する方法である。しかし、この方法では、関係式を得るのに手間がかかるほか、温度80℃における最終乾燥収縮ひずみ値と、温度20℃における最終乾燥収縮ひずみ値との関係が線形でない場合は、評価の精度が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明はセメント質硬化体の乾燥収縮ひずみの終局値を、早期に精度よく測定できる装置と、該装置を用いたセメント質硬化体の乾燥収縮ひずみを測定する方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記目的にかなう乾燥収縮ひずみ測定装置を鋭意検討した結果、特定の形状の供試体(セメント質硬化体)の収縮を、レーザーを用いて測定すれば、前記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の構成を有する乾燥収縮ひずみ測定装置等である。
【0007】
[1](A)1個以上のレーザー変位計、(B)乾燥収縮ひずみ測定用の供試体を載置するための台座、および、(C)該供試体の位置決め治具、を少なくとも含み、前記位置決め治具は2本のピンであり、前記位置決め治具が、供試体に対し、一つのレーザー変位計とは反対側であって、かつ、一つのレーザー変位計から照射される光線に対して対称の位置に設置されている、乾燥収縮ひずみ測定装置を用いて、下記(D)の方法により測定した乾燥収縮ひずみの終局値に0.9を乗じて得た値を、JIS A 1129-1、JIS A 1129-2、または、JIS A 1129-3に準拠して測定した、乾燥期間6か月における乾燥ひずみの値として推定する、乾燥収縮ひずみ推定方法。
(D)前記乾燥収縮ひずみ測定装置の台座上に、円板状または四角板状の供試体を、該供試体の周囲の側面が位置決め治具と接触するように載置した後、 レーザー変位計を用いて供試体の周囲の側面にレーザーを照射して、レーザー変位計と供試体の周囲の側面の間の距離を測定することにより、供試体の乾燥収縮ひずみを測る方法。
[2]円板状の供試体を時計回りまたは反時計回りに回転して、該供試体の周囲の側面が位置決め治具と接触した状態で、レーザー変位計と該供試体の周囲の側面の間の距離を複数回測り、これらの距離の平均値を該供試体の乾燥収縮ひずみとして求める、前記[1]に記載の乾燥収縮ひずみ推定方法。
[3]前記供試体の厚さが5~20mmである、前記[1]または[2]に記載の乾燥収縮ひずみ推定方法。
[4]所定の乾燥期間が経過する度に、供試体を台座上に載置して乾燥収縮ひずみを測る、前記[1]~[3]のいずれかに記載の乾燥収縮ひずみ推定方法。
[5]乾燥前の供試体と同じ形状および寸法を有する金属板である基長板を台座上に載置して、レーザー変位計と該金属板の側面の間の距離(L1)を測定した後、該金属板に代えて前記供試体を台座上に載置して、レーザー変位計と供試体の側面の間の距離(L2)を測定し、L1とL2の差(L1-L2)を乾燥収縮ひずみとする、前記[1]~[4]のいずれかに記載の乾燥収縮ひずみ推定方法。
[6]乾燥前の供試体と同じ形状および寸法を有する金属板である基長板を台座上に載置して、レーザー変位計と該金属板の側面の間の距離を測定し該距離の表示をゼロに設定した後、該金属板に代えて前記供試体を台座上に載置して、レーザー変位計と供試体の側面の間の距離を測定して乾燥収縮ひずみとする、前記[1]~[5]のいずれかに記載の乾燥収縮ひずみ推定方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の乾燥収縮ひずみ測定装置および乾燥収縮ひずみ測定方法は、セメント質硬化体の乾燥収縮ひずみの終局値を、早期に精度よく測定できる。
また、本発明の乾燥収縮ひずみ推定方法は、前記JISの方法に準拠して測定したセメント質硬化体の乾燥期間6か月時点での乾燥収縮ひずみを、早期に精度よく推定できる。
さらに、本発明で用いる供試体は、JISの方法で用いる供試体に比べて小さくて軽く、供試体を動かすなどの作業が容易なため、JISの方法と比べて乾燥収縮ひずみの測定作業の手間を大幅に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】1個のレーザー変位計を有する本発明の乾燥収縮ひずみ測定装置の上に、供試体を載置した状態の一例を示す概略図であって、左の図は該測定装置の平面図、右の図は該測定装置の側面図である。
【
図2】2個のレーザー変位計を有する本発明の乾燥収縮ひずみ測定装置の上に、供試体を載置した状態の一例を示す概略図であって、左の図は該測定装置の平面図、右の図は該測定装置の側面図である。
【
図3】支持部材の下部の一部を、台座に埋め込んだ状態で設置してなる支持部材の上に、供試体を載置した状態の一例を示す概略図であって、左の図は該測定装置の平面図、右の図は該測定装置の側面図である。ただし、
図3では、レーザー変位計の記載は省略した。
【
図4】各種のセメントを用いて作製した供試体の乾燥収縮ひずみの経時変化を示す図であり、(A)は普通ポルトランドセメント、(B)は高炉セメントB種、(C)は中庸熱ポルトランドセメント、および(D)は低熱ポルトランドセメントを用いた供試体の乾燥収縮ひずみを示す。
【
図5】収縮低減剤を含むコンクリートEと膨張材を含むコンクリートFの乾燥収縮ひずみを示す図であり、(A)はコンクリートE、(B)はコンクリートFの乾燥収縮ひずみを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、前記のとおりの乾燥収縮ひずみ測定装置、乾燥収縮ひずみ測定方法、および乾燥収縮ひずみ推定方法である。以下、本発明について、乾燥収縮ひずみ測定装置、乾燥収縮ひずみ測定方法、および乾燥収縮ひずみの推定方法に分けて詳細に説明する。
【0011】
1.乾燥収縮ひずみ測定装置
(A) レーザー変位計
本発明で用いるレーザー変位計4は、特に制限されず、反射型や透過型等の市販のレーザー変位計が挙げられる。
本発明では、レーザー変位計の数を増やせばデータ数が増え、その分、測定精度が向上するが、装置はコスト高になるため、レーザー変位計の数は、好ましくは1~4個、より好ましくは1~2個である。
前記レーザー変位計は、台座上に載置した円板状または四角板状の供試体1の中心に向けてレーザーを照射できるように設置する。レーザー変位計の設置位置は、例えば、
図1や
図2に示す位置が挙げられる。
【0012】
(B)台座
本発明で用いる台座2は、乾燥収縮ひずみ測定用の供試体を載置するために用いる。台座の形状は、特に限定されず、例えば、
図1や
図2に示す正方形の板状や、円板状である。また、測定精度の向上のために、台座は水平に保たれていることが好ましい。
さらに、当該台座は、熱や衝撃による変形を防止するため、好ましくはインバー鋼材を用いて製造する。
【0013】
さらに、台座は、乾燥収縮ひずみ測定用の供試体を支持するための支持部材5を設置してもよい。支持部材を設置すると、乾燥収縮ひずみ測定用の供試体と台座の間の熱の移動を低減できるため、乾燥収縮ひずみの測定精度が向上する。
支持部材の形状は、特に制限されず、
図3に示すような球状(
図3では、支持部材の下部の一部が、台座に埋め込まれている。)や、柱状等が挙げられる。なお、支持部材を柱状にする場合は、上部を半球状にすることが好ましい。
支持部材の数は、3点以上あれば供試体を安定して載置できるから好ましいが、支持部材を多くすると装置の製造に手間がかかる。そのため、支持部材の数は3~4が好ましい。また、前記支持部材は、供試体を安定して載置するためには、正三角形または正方形を形成するように設置するのが好ましい。
図3は、支持部材が正方形を形成するように設置されている例である。
さらに、支持部材は、熱や衝撃による変形を防止するため、好ましくはインバー鋼材を用いて製造する。
【0014】
(C)位置決め治具
本発明で用いる位置決め治具3は、供試体の乾燥収縮ひずみを測定する際に、供試体の載置位置を決めて固定するために用いるもので、例えば、
図1や
図2に示すように、台座上に倒立した状態で設置してなる2本のピン等が挙げられる。
図1や
図2では、乾燥期間が0(ゼロ)日の時点で、円板状の供試体を台座に載置した場合、円板状の供試体の中心と台座の中心が一致するように、位置決め治具が円板状の供試体の周囲の側面と接触する位置に設置されている。なお、当該位置決め治具は、台座上のほかに台座の外側に設置しても良い。
さらに、当該位置決め治具は、熱や衝撃による変形を防止するため、好ましくはインバー鋼材を用いて製造する。
【0015】
また、本発明の乾燥収縮ひずみ測定装置は、レーザー変位計、台座、および位置決め治具を、基盤を用いて一体化して構成することが好ましい。この場合、レーザー変位計、台座、および位置決め治具を設置するために用いる基盤は、熱や衝撃による変形を防止するため、好ましくはインバー鋼材を用いて製造する。
【0016】
2.乾燥収縮ひずみ測定方法
本発明の乾燥収縮ひずみ測定方法は、前記乾燥収縮ひずみ測定装置の台座上に、円板状または四角板状の供試体を、該供試体の周囲の側面が位置決め治具と接触するように載置した後、レーザー変位計を用いて供試体の周囲の側面にレーザーを照射して、レーザー変位計と供試体の周囲の側面の間の距離を測定することにより、供試体の乾燥収縮ひずみを測る方法である。
供試体が円板状の場合、供試体の直径は、10~30cmであれば、供試体の製造は容易で、また供試体の乾燥が速くなり好ましい。なお、供試体の直径は、より好ましくは10~20cmである。また、供試体の厚さは、5~20mmであれば供試体は割れ難く、また供試体の乾燥がさらに速くなるため好ましい。なお、供試体の厚さは、より好ましくは6~18mm、さらに好ましくは7~15mm、特に好ましくは8~12mmである。
また、供試体が四角板状の場合、四角板の1辺の長さは、好ましくは10~30cm、より好ましくは10~20cmであり、さらに好ましくは、1辺の長さが10~30cmの正方形、特に好ましくは、1辺の長さが10~20cmの正方形である。1辺の長さが10~30cmであれば、供試体の製造は容易で、また供試体の乾燥が速くなる。また、四角板状の供試体の厚さは、好ましくは5~20mm、より好ましくは6~18mm、さらに好ましくは7~15mm、特に好ましくは8~12mmである。供試体の厚さが5~20mmであれば、供試体は割れ難く、また供試体の乾燥はさらに速くなる。
なお、本発明の乾燥収縮ひずみ測定装置の台座に支持部材が設置されている場合、該支持部材上に、円板状または四角板状の供試体の周囲の側面が位置決め治具と接触するように、該供試体を載置する。
【0017】
本発明の測定方法では、所定の乾燥期間毎に、供試体を台座上に載置して乾燥収縮ひずみを測る方法である。そして、乾燥収縮ひずみの測定精度を向上させるため、好ましくは、供試体は円板状であり、該供試体を時計回りまたは反時計回りに回転して、該供試体の周囲の側面が位置決め治具と接触した状態で、レーザー変位計と供試体の周囲の側面の間の距離を、複数回、好ましくは3~5回測る。例えば、
図1に示す供試体の点aを測定した後、供試体を時計回りに90°回転して点bを測定し、さらに時計回りに90°回転して点cを測定して、3点の平均値を乾燥収縮ひずみとして求める。
本発明の測定方法では、乾燥収縮ひずみの測定間隔は任意であるが、乾燥収縮ひずみの終局値を早期に得るためや、測定の手間を低減するためには、好ましくは乾燥期間1~10日毎、より好ましくは乾燥期間1~7日毎である。
【0018】
また、本発明の測定方法は、乾燥収縮ひずみをより正確に測定するために、乾燥前の供試体と同じ形状および寸法を有する金属板(基長板)を台座上に載置して、レーザー変位計と該金属板の側面の間の距離(L1)を測定した後、該金属板に代えて前記供試体を台座上に載置して、レーザー変位計と供試体の側面の間の距離(L2)を測定し、L1とL2の差(L1-L2)を乾燥収縮ひずみとする方法である。
また、前記測定した距離が画面上に表示される測定装置を用いる場合、本発明の測定方法は、乾燥前の供試体と同じ形状および寸法を有する金属板(基長板)を台座上に載置して、レーザー変位計と該金属板の側面の間の距離を測定し、該距離(の表示)をゼロに設定した後、該金属板に代えて前記供試体を台座上に載置して、レーザー変位計と供試体の側面の間の距離を測定して乾燥収縮ひずみとする方法である。
前記金属板(基長板)は、温度の変化による長さの変化が同じになるよう、好ましくは台座と同じ材質の金属であり、熱や衝撃による変形を防止するため、より好ましくは、インバー鋼材である。
【0019】
3.乾燥収縮ひずみ推定方法
本発明の乾燥収縮ひずみ推定方法は、前記いずれかの乾燥収縮ひずみ測定方法を用いて測定した乾燥収縮ひずみの終局値に0.9を乗じて得た値を、前記JISの方法に準拠して測定した、乾燥期間6か月における乾燥ひずみの値として推定する方法である。
本発明の前記推定方法によれば、後述する実施例に示すとおり、JISの方法に準拠して測定した乾燥期間6か月におけるセメント質硬化体の乾燥収縮ひずみの値、特に、圧縮強度が18N/mm
2以上のセメント質硬化体の乾燥収縮ひずみの値を、100日以内という短期間で精度よく推定できる。なお、本発明が適用できるセメント質硬化体の種類は、特に限定されず、普通コンクリートのほか、収縮低減剤または膨張材を含むコンクリート(
図5参照)、速硬型コンクリート、軽量コンクリート、および高強度コンクリート等のセメント質硬化体にも適用できる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
1.使用材料
(1)セメント(太平洋セメント社製)
(i)普通ポルトランドセメント(略号:NC)
(ii)高炉セメントB種(略号:BB)
(iii)中庸熱ポルトランドセメント(略号:MC)
(iv)低熱ポルトランドセメント(略号:LC)
(2)細骨材(略号:S):山砂(表乾密度2.56g/cm3)
(3)粗骨材:砂岩砕石(略号:G):表乾密度2.61g/cm3
(4)水(略号:W):水道水
(5)AE減水剤:リグニンスルホン酸系AE減水剤(略号:LS):商品名 ポゾリスNo.70[登録商標](BASF社製)
(6)AE剤:商品名 マスターエア404[登録商標](BASF社製)
(7)収縮低減剤(略号:SR):テトラガードAS21(太平洋マテリアル社製)
(8)膨張材(略号:EX):太平洋ハイパーエクスパン(太平洋マテリアル社製)
【0021】
2.乾燥収縮ひずみ測定用の供試体の作製
表1に示す配合に従い、前記の各材料を容量50リッターのパン型ミキサに一括して投入し、2分間混練した後、混練物を内径10cm、高さ20cmの型枠に打設して成形してコンクリートを得た。次に、該コンクリートを20℃で1日間湿空養生した後に脱型し、さらに20℃で7日間水中養生した。水中養生した後、コンクリートの高さ方向の中央部付近を切断して、直径10cm、厚さ1cmの乾燥収縮ひずみ測定用の供試体を各3個作製した。
なお、JIS A 1108「コンクリートの圧縮強度試験」に準拠して測定したコンクリートA、D、Fの材齢28日の圧縮強度は、それぞれ47N/mm2、40N/mm2および46N/mm2であった。
【0022】
【0023】
3.供試体の乾燥収縮ひずみの測定
前記乾燥収縮ひずみ測定用の供試体1を、室温20±2℃、相対湿度60±5%の条件で乾燥した。そして、乾燥期間7日毎に、乾燥収縮ひずみ測定用の供試体を、該供試体の周囲の側面が、
図1に示す乾燥収縮ひずみ測定装置の位置決め治具3と接触するように台座2に載置した後、レーザー変位計4を用いて、レーザー変位計と供試体の周囲の側面の間の距離を測定した。なお、本実施例では、1個の供試体に対して3箇所(
図1の点a、点b、および点c)でレーザー変位計と供試体の周囲の側面の間の距離を測定して、この平均値を当該供試体の乾燥収縮ひずみとして算出し、さらに、この3個の供試体の乾燥収縮ひずみ(平均値)を平均して、全体の乾燥収縮ひずみを算出した。その結果を
図4、5と表2に示す。ただし、
図4では乾燥期間56日以降のデータの一部の記載を省略した。また、
図5では乾燥期間28日以降のデータの一部の記載を省略した。
また、比較のため、JIS A 1129-2「モルタル及びコンクリートの長さ変化測定方法 第2部:コンタクトゲージ方法」(以下「JIS法」という。)に準拠して、前記コンクリートA~Fの乾燥収縮ひずみを測定した。JIS法に準拠して測定した乾燥期間300日までの乾燥収縮ひずみの測定値を
図4、5に併記した。また、JIS法に準拠して測定した乾燥収縮ひずみの終局値、および乾燥期間6ヶ月の乾燥収縮ひずみを表2に併記した。
【0024】
【0025】
図4、5および表2に示すように、いずれのコンクリートも、乾燥収縮ひずみの終局値は、JIS法では乾燥期間が1年以上経過しなければ得られないのに対し、本発明によれば、供試体の乾燥速度が大きいため、乾燥収縮ひずみの終局値は、乾燥期間が100日以内という早期に精度よく得られる。
また、表2に示すように、本発明を用いて得た乾燥収縮ひずみの終局値に0.9を乗じるだけで、JIS法に準拠して測定した乾燥期間6か月の乾燥収縮ひずみの値を、誤差が3.1%以下という高い精度で早期に推定できる。
【符号の説明】
【0026】
1 供試体
2 台座
3 位置決め治具
4 レーザー変位計(ただし、黒色の矢印はレーザーを示す。)
5 支持部材