(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】歯科パターンレジン用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 6/60 20200101AFI20230214BHJP
【FI】
A61K6/60
(21)【出願番号】P 2018179914
(22)【出願日】2018-09-26
【審査請求日】2021-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】515279946
【氏名又は名称】株式会社ジーシー
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100099645
【氏名又は名称】山本 晃司
(72)【発明者】
【氏名】野村 美栄
(72)【発明者】
【氏名】小島 健嗣
(72)【発明者】
【氏名】藤本 達也
【審査官】福山 則明
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-001413(JP,A)
【文献】特開2013-100255(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/60
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液剤と粉剤とからなり、歯科鋳造の原型として埋没剤の中に埋没された後に焼却される歯科パターンレジン用組成物であって、
前記液剤は、重合可能な単官能(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレート、及び、重合促進剤を含有し、
前記粉剤は、該粉剤全体に対して5質量%より多くの(メタ)アクリル酸エステル共重合体、及び、ポリメチル(メタ)アクリレートを含む流動性改質剤を含有する、歯科パターンレジン用組成物。
【請求項2】
前記液剤の全体に対して、前記多官能(メタ)アクリレートが2質量%以上30質量%以下で含まれる請求項1に記載の歯科パターンレジン用組成物。
【請求項3】
前記多官能(メタ)アクリレートが、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート及びトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートの少なくとも一方である請求項1又は2に記載の歯科パターンレジン用組成物。
【請求項4】
前記重合促進剤は、前記液剤全体に対して3質量%以上10質量%以下で含まれる請求項1乃至3のいずれかに記載の歯科パターンレジン用組成物。
【請求項5】
前記重合促進剤がN,N’-ジメチルパラトルイジンである請求項1乃至4のいずれかに記載の歯科パターンレジン用組成物。
【請求項6】
前記粉剤全体に対して、
前記(メタ)アクリル酸エステル共重合体が5質量%より多く98質量%以下で含まれる請求項1乃至5のいずれかに記載の歯科パターンレジン用組成物。
【請求項7】
前記(メタ)アクリル酸エステル共重合体の体積中位粒径が40μm以上130μm以下である請求項1乃至6のいずれかに記載の歯科パターンレジン用組成物。
【請求項8】
前記(メタ)アクリル酸エステル共重合体がエチル(メタ)アクリレート及びメチル(メタ)アクリレートを含有してなる請求項1乃至
7のいずれかに記載の歯科パターンレジン用組成物。
【請求項9】
前記(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、前記エチル(メタ)アクリレートが20質量%以上90質量%以下であり、前記メチル(メタ)アクリレートが10質量%以上80質量%以下である請求項8に記載の歯科パターンレジン用組成物。
【請求項10】
前記流動性改質剤が、前記粉剤全体に対して0.1質量%以上20質量%以下で含まれる請求項1乃至9のいずれかに記載の歯科パターンレジン用組成物。
【請求項11】
前記流動性改質剤の体積中位粒径が0.05μm以上20μm以下である
請求項1乃至10のいずれかに記載の歯科パターンレジン用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科精密鋳造に用いられる歯科パターンレジン用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科パターン用材料は、いわゆるロストワックス法において用いられる蝋型作製用の材料であり、歯科精密鋳造の原型として埋没材(耐火材)の中に埋没された後に焼却される材料である。そしてこの焼却により形成された空洞に金属やレジンが充填される。このような歯科パターン用材料として従来はワックス(蝋)や、(メタ)アクリレートポリマーを充填材として配合した化学重合型レジンが用いられてきた。しかし、取扱い時に変形する及び操作性が悪いという欠点があった。
【0003】
そこで近年、例えば特許文献1のように、粉末成分と液体成分とからなる歯科パターン用材料(歯科パターンレジン用組成物)が提供されている。これによれば、粉末成分と液体成分とを用いるため上記のような問題を解決することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような従来の歯科パターンレジン用組成物では、硬化時において収縮が大きいため変形や模型から取り外しが難しくなる問題、及び、焼却のため加熱したときに大きく膨張することにより埋没材(耐火材)に破壊やひびが生じる問題があった。
一方で、これらの問題を解決する前提として、当該組成物による成形を行う際の操作性は維持する必要がある。
【0006】
そこで本発明は、操作性を維持しつつ、硬化時の収縮及び加熱時の膨張を合わせて抑えることができる歯科パターンレジン用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの態様は、液剤と粉剤とからなる歯科パターンレジン用組成物であって、液剤は、重合可能な単官能(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレート、及び、重合促進剤を含有し、粉剤は、粉剤全体に対して5質量%より多くの(メタ)アクリル酸エステル共重合体を含有する、歯科パターンレジン用組成物である。
【0008】
液剤の全体に対して、多官能(メタ)アクリレートが2質量%以上30質量%以下で含まれるように構成してもよい。
【0009】
多官能(メタ)アクリレートが、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート及びトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートの少なくとも一方とすることができる。
【0010】
重合促進剤は、液剤全体に対して3質量%以上10質量%以下で含まれるように構成できる。また、重合促進剤をN,N’-ジメチルパラトルイジンとしてもよい。
【0011】
粉剤全体に対して、(メタ)アクリル酸エステル共重合体が5質量%より多く98質量%以下で含まれてもよい。(メタ)アクリル酸エステル共重合体の体積中位粒径を40μm以上130μm以下とすることもできる。
【0012】
また、(メタ)アクリル酸エステル共重合体はエチル(メタ)アクリレート及びメチル(メタ)アクリレートを含有してなるものとしてもよい。このとき(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、エチル(メタ)アクリレートが20質量%以上90質量%以下、メチル(メタ)アクリレートが10質量%以上80質量%以下で含有させることもできる。
【0013】
粉剤には、さらに流動性改質剤を含むこともできる。このとき、粉剤全体に対して流動性改質剤を0.1質量%以上20質量%以下で含めてもよい。また流動性改質剤をポリメチル(メタ)アクリレートとすることもできる。また、流動性改質剤の体積中位粒径が0.05μm以上20μm以下であってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の歯科パターンレジン用組成物は、操作性を維持しつつ、硬化時の収縮及び加熱時の膨張を合わせて抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明を実施するための形態を説明する。
【0016】
本発明の1つの形態にかかる歯科パターンレジン用組成物は、液剤と粉剤とを有し、これらが混合されてなる。以下、それぞれについて説明する。なお、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。
【0017】
[液剤]
<単官能(メタ)アクリレートモノマー>
歯科パターンレジン用組成物の液剤は、重合性の炭素2重結合の官能基を1つ有する構造(単官能)である、単官能(メタ)アクリレートモノマーを含んでいる。その中でもラジカル重合が可能な単官能(メタ)アクリレートモノマーであることが好ましい。
【0018】
歯科パターンレジン用組成物の液剤中における単官能(メタ)アクリレートモノマーの含有割合は、65質量%以上97質量%以下であることが好ましい。このように単官能(メタ)アクリレートモノマーを主要な成分として(50質量%より多く。)含有することにより、重合硬化時の温度上昇が抑えられ、操作中のやけどの問題回避や気泡混入が抑制され、操作性の低下を防止することができる。より好ましくは75質量%以上である。一方、単官能(メタ)アクリレートモノマーの含有割合が97質量%より多いと、焼却時の加熱で歯科パターンレジン用組成物の膨張が大きくなり、埋没材(耐火材)が破壊されたり、亀裂が入ったりする虞がある。
【0019】
単官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、種々ものを用いることができるが、1種類を単独で用いてもよく、複数種類を合わせて用いてもよい。具体的な材料としては例えば、メチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2,3-ジブロモプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、エリトリトールモノ(メタ)アクリレート、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-(ジヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルピリジニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシデシルアンモニウムクロライド、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-1,3-ジメタクリロキシプロパン、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヘキシルエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、エチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0020】
その中でも、単官能(メタ)アクリレートモノマーとして、メチル(メタ)アクリレートモノマーを用いることが好ましい。これにより、気泡の発生が起こりにくく、より確実に良好な操作性が得られる。
【0021】
<多官能(メタ)アクリレートモノマー>
歯科パターンレジン用組成物の液剤は、重合性の炭素2重結合の官能基を2つ以上有する構造(多官能)である、多官能(メタ)アクリレートモノマーを含んでいる。その中でもラジカル重合が可能な多官能(メタ)アクリレートモノマーであることが好ましい。
【0022】
歯科パターンレジン用組成物の液剤中における多官能(メタ)アクリレートモノマーの含有割合は、2質量%以上30質量%以下であることが好ましい。これにより歯科パターンレジン用組成物を焼却して加熱する際にも、該組成物の膨張が抑制され、埋没材(耐火材)の破壊や亀裂の発生を防止することができる。これは多官能(メタ)アクリレートモノマーが重合により架橋構造が形成され、加熱時にも膨張が抑制されると考えられる。
多官能(メタ)アクリレートモノマーの含有割合が2質量%未満であると、当該膨張の抑制効果が不十分の虞がある。一方、多官能(メタ)アクリレートモノマーが30質量%より多いと上記した単官能(メタ)アクリレートモノマーが相対的に減ることになり、歯科パターンレジン用組成物の重合硬化時の温度上昇、気泡混入、操作性の低下が生じる可能性が高まる。より好ましくは15質量%以下である。
【0023】
多官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、種々ものを用いることができ、1種類を単独で用いてもよく、複数種類を合わせて用いてもよい。
【0024】
例えば2つの官能基を有する多官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス[4-〔3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン、2,2-ビス〔4-(2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル〕プロパン、1,2-ビス〔3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ〕エタン、ペンタエリトリトールジ(メタ)アクリレート、[2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)]ジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0025】
また3つ以上の官能基を有する多官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、N,N'-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラメタクリレート、1,7-ジアクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラアクリロイルオキシメチル-4-オキシヘプタン等が挙げられる。
【0026】
その中でも、2つの官能基を有する多官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートモノマーであることが好ましい。一方、3つの官能基を有する多官能メタクリレートとしては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートであることが好ましい。これにより、さらに良好な物性および操作性が得られる。
【0027】
2つの官能基を有する多官能(メタ)アクリレートモノマー及び3つの官能基を有する多官能(メタ)アクリレートモノマーは、いずれかのみであってもよく、両者を含んでもよい。焼却時の加熱による膨張抑制効果をより効果的に得る観点から、3つの官能基を有する多官能(メタ)アクリレートモノマーを含むことが好ましい。かかる観点から、多官能(メタ)アクリレートモノマー全体のうち、3つの官能基を有する多官能(メタ)アクリレートモノマーが占める割合は0質量%より大きく20質量%以下であることが好ましい。これが20質量%を超えると歯科パターンレジン用組成物の重合硬化時における収縮が大きくなり過ぎる傾向にある。
【0028】
<重合促進剤>
歯科パターンレジン用組成物の液剤は重合促進剤を含んでもよい。これにより、歯科パターンレジン用組成物を焼却するために加熱したときに、さらに膨張を抑制することができ、埋没材(耐火材)の破壊や亀裂の発生を防止することができる。これは、重合促進剤により重合がより確実に行われ、未重合のモノマーを減らすことができることによると考えられる。
【0029】
重合促進剤として具体的な材料は適宜選択することができるが、主に3級アミン等が使用できる。3級アミンとしては、例えば、N,N’-ジメチルパラトルイジン、N,N’-ジメチルアミノエチルメタクリレート、トリエタノールアミン、4-ジメチルアミノ安息香酸メチル、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル等が挙げられる。またその他、ベンゾイルパーオキサイド、スルフィン酸ソーダ誘導体、有機金属化合物等が挙げられる。これらは単独または2種以上を混合して使用することができる。
【0030】
その中でもN,N’-ジメチルパラトルイジンが好ましい。これにより、効率よく重合が促進され上記効果を大きくすることができる。
【0031】
歯科パターンレジン用組成物の液剤に対する重合促進剤の含有割合は、3質量%以上30質量%以下であることが好ましい。これにより上記効果をより確実に得ることができる。これが3質量%より少ないと重合促進剤としての効果が十分に得られない可能性がある。一方、30質量%より大きいと保存安定性が低下する傾向がある。
【0032】
<その他>
その他、必要に応じて紫外線吸収剤、着色剤、重合禁止剤を含めても良い。これらは公知のものを用いることができる。
【0033】
[粉剤]
<(メタ)アクリル酸エステル共重合体>
歯科パターンレジン用組成物の粉剤には、(メタ)アクリル酸エステル共重合体の粉末が含まれる。このような共重合体を粉剤全体に対して5質量%より多く含めることによりパターンレジンの重合時における収縮を抑制することができる。
(メタ)アクリル酸エステル共重合体の具体例は、エチル(メタ)アクリレートとメチル(メタ)アクリレートとの共重合体である。
【0034】
(メタ)アクリル酸エステル共重合体における、エチル(メタ)アクリレートとメチル(メタ)アクリレートとの組成の割合は、メチル(メタ)アクリレートが10質量%以上80質量%以下、エチル(メタ)アクリレートが20質量%以上90質量%以下である。
メチル(メタ)アクリレートが80質量%を超えて含まれると膨潤し難くなるため形がいびつになりやすく、エチル(メタ)アクリレートが90質量%を超えて含まれると流動性が高すぎて形を作り難くなる傾向にある。より好ましくはメチル(メタ)アクリレートが20質量%以上60質量%以下、エチル(メタ)アクリレートが30質量%以上80質量%以下、さらに好ましくは、メチル(メタ)アクリレートが20質量%以上40質量%以下、エチル(メタ)アクリレートが45質量%以上75質量%以下である。
【0035】
また、(メタ)アクリル酸エステル共重合体の体積中位粒径(平均粒径、D50)は、40μm以上130μm以下であることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル共重合体をこの範囲の粒子径で含有することにより、歯科パターンレジン用組成物を重合する際に、該組成物の収縮をより確実に抑え、形状の変形や模型からの取り外しが難しくなる不具合を防止することができる。体積中位粒径が40μmより小さいと、膨潤速度が上がり、硬化時間が短くなるとともに、筆積み法で一度に取れる量が減り、操作性が低下する傾向にある。一方、体積中位粒径が130μmより大きいと上記のような組成物の収縮を抑える効果が小さくなる虞がある。
より好ましくは、40μm以上100μm以下、歯科パターンレジン用組成物の重合硬化時における収縮をさらに抑える観点からは40μm以上80μm以下がさらに好ましい。
ここで、「体積中位粒径」は、平均粒径、D50と呼ばれることもあり、体積分率で計算した累積体積頻度が、粒径の小さい方から積算して50%になる粒径を意味する。このような体積中位粒径はレーザー回折散乱法により測定することができる。
【0036】
歯科パターンレジン用組成物の粉剤における(メタ)アクリル酸エステル共重合体が含有される割合は、5質量%より多く98質量%以下であることが好ましい。これにより確実にパターンレジンの重合時における収縮を抑制することが可能となる。より好ましくは、20質量%以上96質量%以下である。さらに好ましくは50質量%以上95質量%以下である。これにより操作性も高めることができる。
【0037】
<(メタ)アクリル酸エステル重合体>
歯科パターンレジン用組成物の粉剤には、メチル(メタ)アクリレートモノマーのみによる重合体であるポリメチル(メタ)アクリレートの粉末が含まれてもよい。
粉剤全体に対する当該重合体の粉末の含有割合は5質量%以上50質量%以下であることが好ましい。含有割合が50質量%を超えると操作性の低下が懸念される。
また当該重合体の粉末の粒子径は、体積中位粒径(平均粒径、D50)で40μm以上130μm以下であることが好ましい。粒子径が130μmを超えると歯科パターンレジン用組成物の重合硬化時における収縮が大きくなりすぎる傾向にある。
【0038】
<流動性改質剤>
歯科パターンレジン用組成物の粉剤には流動性改質剤の粉末が含まれてもよい。これにより粉剤の粉末が凝集することを防止することができる。
【0039】
流動性改質剤の材料は流動性改質の機能を有すれば特に限定されることはなく、例えばポリメチル(メタ)アクリレート微粒子や、含水二酸化ケイ素微粒子等が挙げられる。
【0040】
この中でも、ポリメチル(メタ)アクリレート微粒子であることが好ましい。流動性改質剤としてポリメチル(メタ)アクリレートを用いることで、歯科パターンレジン用組成物を焼却した後における残渣の発生を抑えることができる。残渣の発生は、歯科パターンレジン用組成物が焼失した後に形成された空間に対して義歯床材料を流し込んだときに、該義歯床材料にこの残渣が混濁することを意味し、不具合の発生の原因となる。
従って流動性改質剤としてポリメチル(メタ)アクリレートを用いることで、粉剤の凝集を防止するとともに、歯科パターンレジン用組成物の焼却後における残渣の発生防止も可能となる。
【0041】
ポリメチル(メタ)アクリレートの体積中位粒径(平均粒径、D50)は、0.05μm以上20μm以下であることが好ましい。体積中位粒径が0.05μmより小さいと粉剤が飛散しやすくなることによる取り扱い上の不便さが生じる虞がある。一方、体積中位粒径が20μmより大きいと他のポリマー周囲に吸着し凝集を防止することができなくなる虞がある。より好ましくは、0.1μm以上10μm以下である。
【0042】
また、粉剤におけるポリメチル(メタ)アクリレート微粒子の含有割合は0.05質量%以上20質量%以下であることが好ましい。含有割合が0.1質量%より少ないと流動性改質剤としての効果が低く、操作性および保存性が低下する虞がある。一方、含有割合が20質量%を超えると微粒子が飛散しやすくなり、操作性の低下の虞がある。特に粒子径が小さいポリメチル(メタ)アクリレート微粒子は高価であることも考慮すると、0.05質量%以上5質量%以下であることが好ましい。
【0043】
<重合開始剤>
歯科パターンレジン用組成物の液剤は重合開始剤を含んでもよい。重合開始剤の種類は重合させるモノマーの重合の態様によって適宜選択することができる。上記した好ましい態様のように、単官能(メタ)アクリレートモノマー、及び、多官能(メタ)アクリレートモノマーをラジカル重合させることが可能とする場合には、ラジカルを形成するような重合開始剤を用いることができる。
【0044】
重合開始剤はこのように適宜選択すればよいが、例えばカンファーキノン、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ベンジルジ(2-メトキシエチル)ケタール、4,4’-ジメチルベンジル-ジメチルケタール、アントラキノン、1-クロロアントラキノン、2-クロロアントラキノン、1,2-ベンズアントラキノン、1-ヒドロキシアントラキノン、1-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、1-ブロモアントラキノン、チオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2-ニトロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン、2-クロロ-7-トリフルオロメチルチオキサントン、チオキサントン-10,10-ジオキシド、チオキサントン-10-オキサイド、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、イソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾフェノン、ビス(4-ジメチルアミノフェニル)ケトン、4,4’-ビスジエチルアミノベンゾフェノン、(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ジフェニルフォスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキサイド、アジド基を含む化合物等が例示される。これらは単独または2種以上を混合して使用することができる。
【0045】
歯科パターンレジン用組成物の液剤に対する重合開始剤の含有割合は必要に応じて適宜調整することができるが、0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましい。0.1質量%に満たない場合には必要な硬化ができない可能性があり、5質量%を越えると硬化が速くなりすぎて操作時間に余裕がなくなる虞がある。
【0046】
[歯科パターンレジン用組成物の態様]
以上のような液剤と粉剤とが混ぜられていることにより、歯科パターンレジン用組成物とされている。
液剤と粉剤との配合割合は必要に応じて適宜設定することができるが、歯科パターンレジン用組成物全体に対して液剤が23質量%以上43質量%以下、粉剤が57質量%以上77質量%以下とする範囲で問題なく使用することができるように構成することが好ましい。液剤:粉剤=1ml:2gを目安とすることが多い。
【0047】
このような歯科パターンレジン用組成物により、歯科精密鋳造の過程において、成形、重合、焼却がなされる各過程の際に、成形のための操作性を維持したまま、重合における収縮、及び、焼却時の加熱時における膨張を防ぐことができる。従って、操作性及び精度の高い歯科パターンレジン用組成物とすることが可能となる。
特に、このような膨張を防ぐために液剤に多官能モノマーを含めることで重合時には収縮が大きくなる傾向にある。これに対して、適用する粉剤を上記のように構成することで収縮を防止することができ、総合的に機能の高い歯科パターンレジン用組成物となり得る。
【0048】
また、歯科パターンレジン用組成物に流動性改質剤が含まれ、これがポリメチル(メタ)アクリレートであれば、焼却後における残渣の発生も防止することが可能となる。
【0049】
[製造方法]
以上のような歯科パターンレジン用組成物は例えば次のように製造することができる。
粉剤については、原料を計量し、混合機、乳鉢、または袋などを用いて混合して攪拌する。このときには顔料を定着させるために有機溶媒などを入れても良い。また、攪拌効率をあげるために水やアルミナボールなどを入れることもできる。攪拌後には、得られた粉末は篩にかけても良い。流動性改質剤は事前に解砕する工程を入れても良い。
一方、液剤については、原料を計量して混合機などを用いて混合して攪拌する。
【実施例】
【0050】
以下、実施例について説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0051】
表1に実施例1~実施例3、比較例1~比較例4における粉剤および液剤の材料並びにその含有量を示した。ここで各材料については次の通りである。なお、表1における数値はいずれも質量%である。
【0052】
・粉剤の「(メタ)アクリル酸エステル共重合体」は、エチルメタクリレートとメチルメタクリレートとの共重合体であり、エチルメタクリレートとメチルメタクリレートとの組成の割合はエチルメタクリレートが70質量%、メチルメタクリレートが30質量%である。また体積中位粒径で60μmである。
・粉剤の「(メタ)アクリル酸エステル重合体」は、ポリメチルメタクリレートである。その体積中位粒径で90μmである。
・粉剤の「流動性改質剤」は、ポリメチルメタクリレートである。その体積中位粒径で0.5μmである。
【0053】
・液剤の「単官能(メタ)アクリレートモノマー」は、メチルメタクリレートである。
・液剤の「2官能(メタ)アクリレートモノマー」は、ジメタクリル酸エチレングリコールである。
・液剤の「3官能(メタ)アクリレートモノマー」は、トリメチロールプロパントリメタクリレートである。
・液剤の「重合促進剤」は3級アミンであり、より詳しくはN,N’-ジメチルパラトルイジンである。
【0054】
各例に対して操作性、重合収縮性、及び、加熱膨張性を評価した。各評価は次のように行った。
【0055】
操作性は、筆積みにより評価を行った。具体的には次の通りである。液剤に浸漬した筆を粉剤につけ、筆先に粉剤の塊を形成した。それを練和紙にとり、粉剤と液剤とが膨潤する速度、および筆から練和紙に移す際の筆離れのよさ、硬化物の形状を従来製品(ジーシーパターンレジン、株式会社ジーシー)と比較した。その結果、従来製品より操作性の良い場合は良、同等の場合は可、劣る場合は不可とした。
【0056】
重合収縮性は、粉剤:液剤を2:1で混合させ、混合物の硬化前後の寸法を測定し、硬化による収縮率を算出して評価した。結果を従来製品(ジーシーパターンレジン、株式会社ジーシー)と比較した。その結果、従来製品より収縮しない場合は良、同等の場合は可、収縮する場合は不可とした。
【0057】
加熱膨張性は、粉剤:液剤を2:1で混合させ、円盤状に成型し硬化させて評価した。それらを焼却した際の膨張の挙動を撮影し、従来製品(ジーシーパターンレジン、株式会社ジーシー)と比較した。その結果、従来製品より膨張しない場合は良、同等の場合は可、膨張する場合は不可とした。
【0058】
表1に、上記各例の材料と共に評価の結果も合わせて示した。
【0059】
【0060】
上記の他、実施例1の粉剤における(メタ)アクリル酸エステル共重合体の体積粒子径を135μmに変更した例についても試験した。他の成分や分量については実施例1と同じである。
その結果、いずれの評価も「良」となった。ただし、重合収縮性は実施例1に対して若干低下した。