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特許7226968筆記具用水性インキ組成物とそれを内蔵したインキカートリッジ、およびこれらを用いた筆記具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】筆記具用水性インキ組成物とそれを内蔵したインキカートリッジ、およびこれらを用いた筆記具
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/16 20140101AFI20230214BHJP
   B43K 5/02 20060101ALI20230214BHJP
   B43K 5/14 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
C09D11/16
B43K5/02
B43K5/14
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018204245
(22)【出願日】2018-10-30
(65)【公開番号】P2019081899
(43)【公開日】2019-05-30
【審査請求日】2021-08-06
(31)【優先権主張番号】P 2017208854
(32)【優先日】2017-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】福嶋 梓
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-173890(JP,A)
【文献】特開昭63-273678(JP,A)
【文献】特開2017-014315(JP,A)
【文献】特開2001-287493(JP,A)
【文献】特開2012-097153(JP,A)
【文献】特開2006-265520(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-11/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、着色剤と、アセチレングリコール系界面活性剤またはアセチレンアルコール系界面活性剤とを少なくとも含み、ポリエチレンに対する接触角が40~100°であるとともにポリエチレンに対する転落角が10~65°であり、かつ、ポリメチルペンテンに対する接触角が45~90°であるとともにポリメチルペンテンに対する転落角が10~45°である筆記具用水性インキ組成物が内蔵され、筆記具に対して着脱可能に装着されるインキカートリッジであって、前記インキカートリッジは、ポリメチルペンテンを材質としてなるとともに、長手方向に対して直行する直交断面が円形状を有する有底筒状体であって、長手方向に40~80mmの長さと、2~8mmの直径とを内寸として有するインキカートリッジ。
【請求項2】
請求項1に記載のインキカートリッジを収容してなることを特徴とする筆記具。
【請求項3】
前記筆記具が、ペン先と、着脱可能なインキカートリッジと、多数の円盤体が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、前記円盤体を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝及び該溝より太幅の通気溝が設けられ、軸心にインキ貯蔵部からペン先へインキを誘導するためのインキ誘導芯が配置されてなるペン芯とを備える直液式筆記具である、請求項2に記載の筆記具。
【請求項4】
前記直液式筆記具が万年筆である、請求項3に記載の筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記具用水性インキ組成物とそれを内蔵したインキカートリッジに関するものである。さらに詳しくは、インキ移動性に優れる水性インキ組成物とそれを内蔵したインキカートリッジ、およびこれらを用いた直液式筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からインキ補充可能な筆記具が知られ、その補充方式として、インキが充填されたインキ貯蔵容器をインキ貯蔵部へ装着することでインキ補充を行う方式や、インキ吸入器を兼ねたインキ貯蔵容器をインキ貯蔵部に装着し、ペン先からインキを吸入してインキ貯蔵容器内にインキを充填することでインキ補充を行う方式が利用されている。このような筆記具はインキカートリッジと呼ばれるインキ貯蔵容器の他、多くの部品が合成樹脂で構成されており、用いられるインキにはこれらの構成品に対して濡れ性が高まるような添加剤が含まれている。(特許文献1)
【0003】
特許文献1には、サイクロデキストリンを含む水性インキ組成物が記載されている。このインキは、合成樹脂へのインキの濡れ性を高め、インキカートリッジ内におけるインキの移動(インキ移動性)が円滑に行われるようにしたものである。
【0004】
しかしながら、特許文献1のインキ組成物を用いてインキカートリッジを備えた万年筆に用いた際、インキカートリッジ内におけるインキ組成物の移動性が未だ十分ではなく、万年筆の向きに応じてインキカートリッジの向きが変化した際にインキ組成物が円滑に移動せず、ペン先へのインキ供給が不十分になり、インキ吐出性が低下することがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平5-140498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、インキカートリッジを装着してなる筆記具に用いた際に、保管時におけるペン先からのインキ漏れを抑制可能でありながらも、インキカートリッジ内を円滑に移動でき、良好なインキ吐出性を奏して発色性に優れた筆跡を形成可能な筆記具用水性インキ組成物とそれを内蔵したインキカートリッジ、およびこれらを用いた筆記具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するために、
「1.水と、着色剤と、アセチレングリコール系界面活性剤またはアセチレンアルコール系界面活性剤とを少なくとも含み、ポリエチレンに対する接触角が40~100°であるとともにポリエチレンに対する転落角が10~65°であり、かつ、ポリメチルペンテンに対する接触角が45~90°であるとともにポリメチルペンテンに対する転落角が10~45°である筆記具用水性インキ組成物が内蔵され、筆記具に対して着脱可能に装着されるインキカートリッジであって、前記インキカートリッジは、ポリメチルペンテンを材質としてなるとともに、長手方向に対して直行する直交断面が円形状を有する有底筒状体であって、長手方向に40~80mmの長さと、2~8mmの直径とを内寸として有するインキカートリッジ。
2.第1項に記載のインキカートリッジを収容してなることを特徴とする筆記具。
3.前記筆記具が、ペン先と、着脱可能なインキカートリッジと、多数の円盤体が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、前記円盤体を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝及び該溝より太幅の通気溝が設けられ、軸心にインキ貯蔵部からペン先へインキを誘導するためのインキ誘導芯が配置されてなるペン芯とを備える直液式筆記具である、第2項に記載の筆記具。
4.前記直液式筆記具が万年筆である、第3項に記載の筆記具。」とする。
【0008】
また、本発明によるインキカートリッジは、前記筆記具用水性インキ組成物を収容してなることを特徴とする。
【0009】
また、本発明による筆記具は、前記インキカートリッジを収容してなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
インキカートリッジを装着してなる筆記具に用いた際に、保管時におけるペン先からのインキ漏れを抑制可能でありながらも、インキカートリッジ内を円滑に移動でき、良好なインキ吐出性を奏して発色性に優れた筆跡を形成可能な筆記具用水性インキ組成物とそれを内蔵したインキカートリッジ、およびこれらを用いた筆記具が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本明細書において、配合を示す「部」、「%」、「比」などは特に断らない限り質量基準である。
【0012】
本発明による筆記具用水性インキ組成物(以下、場合により、「水性インキ組成物」または「組成物」と表すことがある。)は、水と、着色剤と、アセチレングリコール系界面活性剤またはアセチレンアルコール系界面活性剤とを少なくとも含んでなる。以下、本発明による筆記用水性インキ組成物を構成する各成分について説明する。
【0013】
(着色剤)
本発明に用いられる着色剤は、従来知られている顔料、染料から任意に選択することができ、好ましく用いることができる。顔料としては、アゾ系顔料、インジゴ系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、チオインジゴ系顔料、スレン系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、フタロン系顔料、ジオキサン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体系顔料、メチン・アゾメチン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料等の有機顔料などが挙げられる。
また、該顔料を溶媒に分散させ、顔料分散体としたものを用いることも可能である。本発明に用いられる顔料分散体としては、例えば、SPシリーズ(冨士色素株式会社製)、SANDYESUPERCOLOURシリーズ(山陽色素株式会社製)、EMACOLシリーズ(山陽色素株式会社製)、ルミコールシリーズ(日本蛍光化学株式会社製)MICROPIGMOシリーズ、(オリヱント化学工業株式会社製)、WAシリーズ(大日精化工業株式会社製)などが挙げられる。
なお、前記顔料は、顔料表面が酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、および酸化ジルコニウムなどの金属酸化物、二酸化ケイ素などの無機酸化物、および脂肪酸などで被覆処理されたものであってもよい。
染料としては、酸性染料、塩基性染料、直接染料、反応染料、バット染料、硫化染料、含金染料、カチオン染料、分散染料が挙げられる。
本発明の組成物は、上記の着色剤の中でも染料を用いることが好ましい。これは、顔料は沈降することによって、インキの吐出性や筆跡の発色性に影響がでやすいためである。
【0014】
本発明における着色剤の含有量は、インキ組成物全量に対して0.1~20質量%とすることが好ましく、1~10質量%とすることがより好ましい。着色剤の含有量を上記範囲内とした場合、良好な発色性を有する筆跡を形成することが可能となる。
【0015】
(界面活性剤)
本発明の水性インキ組成物には、界面活性剤として、アセチレングリコール系界面活性剤またはアセチレンアルコール系界面活性剤が必須である。本発明の組成物が前記界面活性剤を含むことによって、インキカートリッジに対する組成物の濡れ性や滑り性が向上してインキ組成物がインキカートリッジ内を円滑に移動できるようになるとともに、インキカートリッジからペン先へインキを誘導するインキ誘導芯に対してインキ組成物の濡れ性が良好となるため、インキ吐出性を良好とすることが可能となる。また、理由は定かではないが、本発明のインキ組成物を用いた筆記具は、インキ吐出性が良好でありながらも保管時におけるペン先からのインキ漏れが抑制された筆記具とすることができる。
なお、前記滑り性とは固体表面における液体の流れ易さを意味し、本発明においてはインキカートリッジ表面上でのインキ組成物の流れ易さを意味している。
このほか、アセチレングリコール系界面活性剤またはアセチレンアルコール系界面活性剤は、消泡性が優れるため、これを用いた本発明のインキ組成物は泡が消失しやすく、インキカートリッジ内のインキ組成物の視認性が良好になるという特徴を有する。
【0016】
(アセチレングリコール系界面活性剤)
本発明におけるアセチレングリコール系界面活性剤は、下記一般式(1)の構造を有する。
【化1】
ここで、R~Rは炭化水素基を示し、Rはエチレン基を示す。
m、pは0以上の整数である。
【0017】
本発明に用いられるアセチレングリコール系界面活性剤は、インキカートリッジに対する濡れ性や滑り性、およびインキ組成物への溶解安定性を考慮すると、(化1)におけるm+pが、0≦m+p≦30であることが好ましく、0≦m+p≦20であることがより好ましい。また、アセチレングリコール系界面活性剤のHLB値は、4~18の値を有することが好ましく、8~17の値を有することがより好ましく、12~16の値を有することが特に好ましい。
ここで、本実施形態において用いられる界面活性剤のHLB値は、グリフィンが提唱した化合物の親水性を評価する値であり、下記一般式(2)によって算出される値をいう。グリフィン法によるHLB値は、0~20の範囲内の値を示し、数値が大きい程、化合物が親水性であることを示す。
HLB値=20×(親水基の質量%)=20×(親水基の式量の総和/界面活性剤の分子量)・・・(2)
【0018】
具体的なアセチレングリコール系界面活性剤としては、オルフィンD-10A、オルフィンD-10PG、オルフィンE1004、オルフィンE1010、オルフィンE1020、オルフィンE1030W、オルフィンPD-001、オルフィンPD-002W、オルフィンPD-003、オルフィンPD-004、オルフィンPD-201、オルフィンPD-301、オルフィンEXP.4001、オルフィンEXP.4200、オルフィンEXP.4123、オルフィンEXP.4300、サーフィノール82、サーフィノール104E、サーフィノール104H、サーフィノール104A、サーフィノール104PA、サーフィノール104PG-50、サーフィノール104S、サーフィノール420、サーフィノール440、サーフィノール465、サーフィノール485、サーフィノール2502、ダイノール604、ダイノール607、以上日信化学工業株式会社製、アセチレノールE13T、アセチレノールEH、アセチレノールEL、アセチレノールE40、アセチレノールE60、アセチレノールE81、アセチレノールE100、アセチレノール85、以上川研ファインケミカル株式会社製、を挙げることが可能であり、1種または2種以上を好ましく用いることができる。上記の界面活性剤の中では、濡れ性、滑り性の向上効果、および消泡効果を考慮するとオルフィンE1010またはオルフィンPD-002Wが特に好ましい。
【0019】
(アセチレンアルコール系界面活性剤)
本発明におけるアセチレンアルコール系界面活性剤は、下記一般式(3)の構造を有する。
【化2】
ここで、R、Rは炭化水素基を示す。
【0020】
アセチレンアルコール系界面活性剤は、インキカートリッジに対する濡れ性や滑り性、およびインキ組成物への溶解安定性を考慮すると、HLB値が、4~10の値を有することが好ましく、5~9の値を有することがより好ましく、6~8の値を有することが特に好ましい。
前記HLB値は、前記グリフィン法により求められる数値である。
アセチレンアルコール系界面活性剤の具体例としては、サーフィノール61、オルフィンB、(以上日信化学工業株式会社製)、が挙げられ、1種または2種以上を好ましく用いることができる。
【0021】
本発明の水性インキ組成物における、アセチレングリコール系界面活性剤またはアセチレンアルコール系界面活性剤の含有量は、インキ組成物全量に対して0.005~1.5質量%とすることが好ましく、0.01~1.0質量%とすることがより好ましく、0.05~0.75質量%とすることが特に好ましい。
アセチレングリコール系界面活性剤またはアセチレンアルコール系界面活性剤の含有量を上記数値範囲内とすると、インキカートリッジにおけるインキ組成物の移動性がより向上し、筆記の際にペン先からのインキ吐出性がさらに良好となるとともに、保管時にペン先からのインキ漏れを抑制することが容易となる。
さらに、含有量が上記数値範囲内においては、筆跡の耐滲み性や耐裏移り性に優れたインキ組成物とすることも可能となる。
なお、アセチレングリコール系界面活性剤とアセチレンアルコール系界面活性剤とは併用しても良い。
上記界面活性剤を併用する場合は、その含有量を、前記数値範囲内とすることが好ましい。
【0022】
本発明の組成物には上記着色剤や界面活性剤のほか、少なくとも水が含まれるが、その含有量はインキ組成物全量に対して50~95質量%とすることが好ましく、70~90質量%とすることがより好ましい。
【0023】
(その他)
本発明のインキ組成物は、インキ組成物の接触角や転落角が前記数値範囲を超えない限りで、必要に応じて上記以外の物質を添加することも可能である。具体的には、防腐剤、カオリン、タルク、マイカ、クレー、ベントナイト、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、セリサイト、およびチタン酸カリウムなどの体質材、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ナイロン樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、およびフッ素樹脂などからなる樹脂粒子、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、アルキッド樹脂、スルフォアミド樹脂、マレイン酸樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、エチレン酢ビ樹脂、塩ビ-酢ビ樹脂、スチレンとマレイン酸エステルとの共重合体、スチレン-アクリロニトリル樹脂、シアネート変性ポリアルキレングリコール、エステルガム、キシレン樹脂、尿素樹脂、尿素アルデヒド樹脂、フェノール樹脂、アルキルフェノール樹脂、テルペンフェノール樹脂、ロジン系樹脂やその水添化合物、ロジンフェノール樹脂、ポリビニルアルキルエーテル、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂、シクロヘキサノン系樹脂などの定着剤、pH調整剤、消泡剤、剪断減粘性付与剤、粘度調整剤、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、およびサポニンなどの防錆剤、尿素、アニオン、カチオン系、ノニオン系、両性等の各種界面活性剤、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどの水溶性樹脂からなる顔料分散剤、還元又は非還元デンプン加水分解物、トレハロース等の二糖類、オリゴ糖、ショ糖、サイクロデキストリン、ぶどう糖、デキストリン、ソルビット、マンニット、およびピロリン酸ナトリウムなどの湿潤剤を挙げることができる。
【0024】
(インキ組成物)
本発明のインキ組成物は、インキカートリッジに対する濡れ性や滑り性を考慮して、ポリエチレンおよびポリメチルペンテンに対する接触角や転落角を所定の数値範囲内とすることが重要である。ここで接触角とは、静止液体の自由表面が固体壁に接する場所で液面と固体面とのなす角であって、液体の固体に対する濡れやすさの指標となる数値であり、転落角とは、表面に液体を着滴させた固体を地面に対して傾けた際に液体が固体表面上を滑り始めたときの、固体の地面に対する角度であって、固体表面における液体の滑りやすさの指標となる数値である。
本発明のインキ組成物における具体的な接触角および転落角は、ポリエチレンに対して接触角を40~100°とし、転落角を10~65°とすること、かつ、ポリメチルペンテンに対しては接触角を45~90°とし、転落角を10~45°とすることが挙げられる。接触角を上記数値範囲内としたインキ組成物は濡れ性が良好であり、また、転落角を前記数値範囲内としたインキ組成物は滑り性が良好となるため、このようなインキ組成物を後述する筆記具のインキカートリッジ内に用いると、インキ組成物がインキカートリッジ内を円滑に移動することが可能となり、筆記具に用いた際にインキ吐出性が良好となる。
【0025】
インキカートリッジに対するインキ組成物の濡れ性および滑り性をより考慮すれば、前記接触角の好ましい数値範囲は、ポリエチレンに対しては45~90°とすることであり、ポリメチルペンテンに対しては45~85°であり、より好ましい接触角は、ポリエチレンに対しては50~85°であり、ポリメチルペンテンに対しては55~80°である。
また、前記転落角の好ましい数値範囲はポリエチレンに対しては15~55°とすることであり、ポリメチルペンテンに対しては15~40°であり、より好ましい数値範囲はポリエチレンに対しては20~50°であり、ポリメチルペンテンに対しては25~35°である。
本発明における組成物の接触角および転落角の測定は、接触角計(CA-A型、協和界面科学株式会社製)用いて行う。
なお、接触角の測定操作については、前記接触角計の取扱説明書に記載の液摘法測定操作に基づいて行い、転落角の測定操作については、前記取扱説明書記載の転落法測定操作に基づいて行う。
【0026】
本発明のインキ組成物の表面張力は30~60mN/mとすることが好ましく、40~50mN/mとすることがより好ましい。
このような表面張力を有するインキ組成物は、前記インキ誘導芯に対する濡れ性が向上し、ペン先からのインキ吐出性をより良好とすることが可能になるだけでなく、筆記した際に筆跡の滲みや裏抜けが抑制された良好な筆跡を形成することが可能である。
表面張力は、20℃環境下において、協和界面科学株式会社製の表面張力計測器を用い、白金プレートを用いて、垂直平板法によって測定して求められる。
【0027】
本発明のインキ組成物の粘度は1~10mPa・sとすることが好ましい。より好ましい数値範囲は1~5mPa・sであり、1~2mPa・sとすることが特に好ましい。インキ組成物の粘度を上記数値範囲内とすると、インキカートリッジにおけるインキ組成物の移動がより円滑になり、ペン先からのインキ吐出性がより良好となって発色性に優れた筆跡を形成しやすくなる。なお、組成物の粘度の測定は、20℃において、EL型回転粘度計(RE-80L、コーン型ローター:標準型(1°34′×R24)、東機産業株式会社製)を用いて行うことができる。
【0028】
本発明の組成物は、インキ組成物の安定性を考慮して、そのpH値は6~11とすることが好ましく、8~10とすることがより好ましい。
【0029】
本発明による水性インキ組成物は、従来知られている任意の方法により製造することができる。具体的には、前記各成分を必要量配合し、プロペラ攪拌、ホモディスパー、またはホモミキサーなどの各種攪拌機やビーズミルなどの各種分散機などにて混合し、製造することができる。
【0030】
(筆記具)
前記インキ組成物は、ペン先と、着脱可能なインキカートリッジと、多数の円盤体が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、前記円盤体を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝及び該溝より太幅の通気溝が設けられ、軸心にインキ貯蔵部からペン先へインキを誘導するためのインキ誘導芯が配置されてなるペン芯とを備える直液式筆記具、より具体的には万年筆、マーキングペンおよびボールペンのインキ貯蔵部に充填して用いられる。
【0031】
ペン先としては、チップ構造を備えるものであって、チップのうち、マーキングペンチップとしては、例えば、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップ、毛筆等が適用でき、ボールペンチップとしては、金属製のパイプの先端近傍を外面より内方に押圧変形させたボール抱持部にボールを抱持してなるチップ、金属材料をドリル等による切削加工により形成したボール抱持部にボールを抱持してなるチップ、金属又はプラスチック製チップ内部に樹脂製のボール受け座を設けたチップ、或いは、前記チップに抱持するボールをバネ体により前方に付勢させたもの等が適用できる。尚、前記ボールは、超硬合金、ステンレス鋼、ルビー、セラミック、樹脂、ゴム等が適用でき、直径0.15mm~2.0mmの範囲のものが好適に用いられる。
【0032】
また、万年筆形態のチップ(ペン体)としては、ステンレス板、金合金板等の金属板を先細テーパー状に裁断し、屈曲又は湾曲したものや、ペン先形状に樹脂成形したもの等が適用できる。尚、前記ペン体には中心にスリットを設けたり、先端に玉部を設けることもできる。
【0033】
インキ貯蔵部は、前記ペン先の後方にペン芯を介して配設され、筆記具本体からインキカートリッジと呼ばれるインキ貯蔵容器を着脱可能に収容できる構造であれば特に制限はない。
【0034】
前記インキカートリッジとしては、筆記具本体に接続することで筆記具を構成する軸筒を兼ねたものや、筆記具本体に接続した後に軸筒(後軸)を被覆して保護するものが適用できる。これらのカートリッジは、筆記具接続前にあらかじめインキを充填されたものであっても良く、インキ未充填の状態で筆記具に接続した後、ペン先からインキを吸入してインキを充填する操作を要するもの、いわゆるコンバーターと呼ばれるものであっても良い。
【0035】
本発明に用いられるインキカートリッジは、インキ組成物がインキカートリッジ内を円滑に移動できるような材質や構造を有するものであれば特に制限はない。
具体的な材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ウレタン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂等の合成樹脂、アルミニウム、銅、鉄、ニッケルやチタンなどの金属、天然ゴム、ジエン系ゴム、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブタジエンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム等のゴム類、アルミナ、ジルコニア、窒化ケイ素、炭化ケイ素等のセラミック、ソーダガラス、カリガラス、鉛ガラス、石英ガラス、ハイブリッドガラス等のガラスを挙げることができる。
上記の中でインキカートリッジに好ましい材質は合成樹脂であり、ポリオレフィン樹脂がより好ましく、ポリエチレンもしくはポリメチルペンテンが特に好ましい。
ポリエチレンやポリメチルペンテンを材質とすると、本発明のインキ組成物の濡れ性や滑り性を良好としつつ、形状安定性に優れ、軽量としながらも強度に優れるインキカートリッジとすることが可能である。
【0036】
また、インキカートリッジの構造としては、長手方向に対して直交する直交断面が円形状を有する有底筒状体であって、長手方向に40~80mmの長さと、2~8mmの直径とを内寸として有する構造が挙げられる。前記有底筒状体としては、長手方向に45~70mmの長さと、2.5~7mmの直径とを内寸として有するものがより好ましい。
なお、筒状体とは中空の細長い棒状体を指すが、本発明に用いられるインキカートリッジは、内寸が上記数値範囲内であれば、筒状体の外面や内面がテーパー状に傾斜していても良く、また、段差を有していても良い。
本発明のインキカートリッジは上記のような材質、構造とすることで、前記インキ組成物がインキカートリッジ内を円滑に移動することが可能となるので重要である。
【0037】
インキ誘導芯としては、多数の円盤体を櫛溝状とした構造に射出成形できる合成樹脂であれば汎用のポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体等いずれを用いることもできるが、特に成形性が高く、ペン芯性能が得られやすい点からアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体が好適である。
【0038】
上記の機構を備えた筆記具は、前記インキ組成物を用いると、保管時におけるペン先からのインキ漏れが抑制可能でありながらも、インキ組成物がインキカートリッジ内を円滑に移動することが可能であり、筆記の際に良好なインキ吐出性が奏されて発色性に優れた筆跡を形成することが可能となる。
【0039】
以下に本発明の水性インキ組成物、それを用いたインキカートリッジ、筆記具の実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例
【0040】
(実施例1)
下記原材料および配合量にて、室温で1時間攪拌混合することにより、筆記具用水性インキ組成物を得た。得られた水性インキ組成物の接触角、転落角を接触角計(商品名:CA-A、協和界面科学株式会社製)を用いて測定したところ、接触角は、ポリエチレンに対して58°であり、ポリメチルペンテンに対しては68°であり、転落角は、ポリエチレンに対しては39°であり、ポリメチルペンテンに対しては23°であった。
また、EL型回転粘度計(RE-80L、コーン型ローター:標準型(1°34′×R24)、東機産業株式会社製)を用いてインキ組成物の粘度を測定したところ、20℃(回転速度100rpm)における粘度は1.2mPa・sであった。
さらに、pHメーター(商品名:pHメーターD-51、株式会社堀場製作所製)を用いて、20℃にて水性インキ組成物のpH値を測定した結果、pH値は9.6であった。
また、得られた水性インキ組成物の表面張力を、表面張力計測器(20℃環境下、垂直平板法、商品名:表面張力計DY-300、協和界面科学株式会社製)により測定したところ、39.3mN/mであった。
・着色剤ウォーターブラック191-L 10質量%
(染料:オリヱント化学工業株式会社製)
・アセチレングリコール系界面活性剤 0.1質量%
(商品名:オルフィンE1010、HLB値:13.3、日信化学工業株式会社製)
・トリエタノールアミン 0.3質量%
・防腐剤 ベンゾイソチアゾリン-3-オン 0.3質量%
(ロンザジャパン株式会社製、商品名:プロキセルXL-2)
・イオン交換水 89.3質量%
【0041】
(実施例2~7、比較例1~6)
実施例1に対して、配合する成分の種類や添加量を表1~2に示したとおりに変更して、実施例2~7、比較例1~6のインキ組成物を得た。
上記実施例で使用した材料の詳細は以下の通りである。
・着色剤(1)ウォーターブラック191-L(染料、オリヱント化学工業株式会社製)
・着色剤(2)フロキシン(染料、保土谷化学工業株式会社製)
・着色剤(3)ブリリアントブルーFCF(染料、保土谷化学工業株式会社製)
・界面活性剤(1)アセチレングリコール系界面活性剤(商品名:オルフィンE1010、HLB値13.3、日信化学工業株式会社製)
・界面活性剤(2)アセチレングリコール系界面活性剤(商品名:オルフィンPD-002W、HLB値9~10、日信化学工業株式会社製)
・界面活性剤(3)アセチレングリコール系界面活性剤(商品名:サーフィノール485、HLB値17、日信化学工業株式会社製)
・界面活性剤(4)アセチレングリコール系界面活性剤(商品名:オルフィンE1020、HLB値15~16、日信化学工業株式会社製)
・界面活性剤(5)アセチレングリコール系界面活性剤(商品名:オルフィンEXP.4300、HLB値10~13、日信化学工業株式会社製)
・界面活性剤(6)アセチレングリコール系界面活性剤(商品名:アセチレノールE60、HLB値11~12、川研ファインケミカル株式会社製)
・界面活性剤(7)アセチレンアルコール系界面活性剤(商品名:オルフィンB、日信化学工業株式会社製)
・界面活性剤(8)リン酸エステル系界面活性剤(商品名:プライサーフAL、第一工業製薬株式会社製)
・界面活性剤(9)シリコーン系界面活性剤(商品名:TSF-4440、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン株式会社製)
・界面活性剤(10)ドデシルベンゼンスルホン酸塩(商品名:ネオペレックスNo.6Fパウダー、花王株式会社製)
・トリエタノールアミン
・防腐剤 ベンゾイソチアゾリン-3-オン(商品名:プロキセルXL-2、ロンザジャパン株式会社製)
・イオン交換水
【0042】
調製した水性インキ組成物について、下記の通り、評価を行った。得られた結果は表1~3に記載したとおりであった。
また、評価試験で用いるインキカートリッジおよび筆記具は、以下のようなものを用いた。
インキカートリッジ(1):ポリエチレン製カートリッジ(株式会社パイロットコーポレーション製、商品名:IRF-5S、に用いられる有底筒状容器、内寸:長さ57.3mm、直径、最小部2.5mm、最大部7.5mm)
インキカートリッジ(2):ポリメチルペンテン製コンバーター(有底筒状容器、株式会社パイロットコーポレーション製、商品名:CON-70、内寸:長さ49mm、直径、最小部5mm、最大部6.4mm)
筆記具:万年筆(商品名:カクノ、株式会社パイロットコーポレーション製)
【0043】
(ポリエチレン製インキカートリッジに対するインキ移動性の評価)
以下の手順で行った。
1.ポリエチレン製インキカートリッジにインキ組成物を0.9ml注入し、インキカートリッジのインキ注入口に栓をした後、インキカートリッジ注入口を横向きにして50℃下72時間放置する。
2.インキカートリッジを室温に戻した後、インキカートリッジ注入口を上向きにしてインキを0.6ml抜き取り、インキ注入口に栓をし、24時間放置する。
3.インキカートリッジの向きを上下反転させた際の、インキの動きを目視で観察する。
○:インキ組成物は10秒以内に全てが滑らかに流下した。
×:インキはカートリッジ底部に留まり、流下しなかった。
(ポリメチルペンテン製インキカートリッジに対するインキ移動性の評価)
以下の手順で行った。
1.ポリメチルペンテン製コンバーターにインキ組成物を0.7ml注入し、ペン先を上に向けた状態の万年筆に前記コンバーターを装着する。
2.ペン先の地面に対する角度が60°になるように上記万年筆を反転させた際の、インキの動きを目視で観察する。
○:インキ組成物は10秒以内に全てが滑らかに流下した。
×:インキはカートリッジ底部に留まり、流下しなかった。
【0044】
(筆跡発色性の評価)
前記インキ移動性の評価で用いたインキカートリッジを上記筆記具に装着して筆記を行い、その際の筆跡の発色性を目視により観察した。なお、筆記試験紙としてJIS P3201Aに準拠した筆記用紙を用いた。
○:かすれがなく、筆跡が良好である。
×:かすれがあり、筆跡の認識が困難で、実用上懸念がある。
【0045】
(インキ漏出性の評価)
以下の手順で評価を行った。
1.インキ組成物0.9mlをポリエチレン製カートリッジに注入する。
2.万年筆に前記カートリッジを装着し、キャップを嵌め、0℃下に1時間以上放置する。
3.前記万年筆のキャップを外し、40℃下に1時間放置した際のペン先からのインキ組成物の漏出を目視で観察した。
○:ペン先からのインキ漏出は確認されなかった。
×:ペン先からインキが漏出した。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】