(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】加飾層を有する油性化粧料
(51)【国際特許分類】
A61K 8/02 20060101AFI20230214BHJP
A61K 8/19 20060101ALI20230214BHJP
A61K 8/29 20060101ALI20230214BHJP
A61K 8/31 20060101ALI20230214BHJP
A61K 8/37 20060101ALI20230214BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20230214BHJP
A61K 8/81 20060101ALI20230214BHJP
A61K 8/891 20060101ALI20230214BHJP
A61Q 1/02 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
A61K8/02
A61K8/19
A61K8/29
A61K8/31
A61K8/37
A61K8/73
A61K8/81
A61K8/891
A61Q1/02
(21)【出願番号】P 2018244017
(22)【出願日】2018-12-27
【審査請求日】2021-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100149294
【氏名又は名称】内田 直人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 希佳
(72)【発明者】
【氏名】老川 ひろみ
(72)【発明者】
【氏名】廣▲崎▼ 賢
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-068925(JP,A)
【文献】特開2005-239600(JP,A)
【文献】特開2011-032181(JP,A)
【文献】特開2005-089337(JP,A)
【文献】特開2010-099226(JP,A)
【文献】特開2014-162791(JP,A)
【文献】特許第3657148(JP,B2)
【文献】特開2010-105952(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)透明油性基剤と、(B)少なくとも1つの加飾層とを有する油性固形化粧料であって、
前記(A)透明油性基剤が(a1)増粘成分及び(a2)液状油分を含有し、
前記(B)加飾層が(b1)粉末成分を含有し、
前記(b1)粉末成分が、前記(a2)液状油分の屈折率より高い屈折率を有する粉末を含
み、
前記(A)透明油性基剤は、レオメーター(3mmφ、1.0mm針入、2Kレンジ、2cm/min)で25℃において測定した硬度が50~300であり、
前記(B)加飾層は、前記(A)透明油性基剤の底面及び/または内部に層状に設けられることを特徴とする、油性固形化粧料。
【請求項2】
前記(a2)液状油分より高い屈折率を有する粉末が、前記(a2)液状油分の屈折率より0.01以上高い屈折率を有する、請求項1に記載の油性固形化粧料。
【請求項3】
前記(a2)液状油分が1.42~1.52の屈折率を有する油からなる、請求項1又は2に記載の油性固形化粧料。
【請求項4】
前記(b1)粉末成分が、1.45より高い屈折率を有する粉末を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の油性固形化粧料。
【請求項5】
前記(b1)粉末成分を(b2)分散媒体中に分散させたインク組成物を用いて描画することにより(B)加飾層を形成する工程、及び
前記(A)透明油性基剤を容器内に充填する工程、
を含む、請求項1に記載の油性固形化粧料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加飾された油性化粧料に関する。より詳しくは、化粧料を構成する透明油性基剤の外部から視認可能に形成された加飾層を有し、審美性に優れた透明油性化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
ファンデーション等の固形粉末化粧料の表面を加飾して外観を美麗にすることが種々提案されている。例えば、特許文献1には、印刷技術を用いて化粧料の表面に文字や模様等を描画するための加飾用粉末組成物が開示され、シラン化合物やシラザン化合物で表面処理した粉末が、光沢を呈する模様や文字を繊細かつ鮮明に印刷できるとされている。
【0003】
一方、透明な油性化粧料に関しては、その透明性を維持しながら、のびの良さ、べたつきの抑制といった使用性の改善が盛んにおこなわれている。例えば、特許文献2には、12-ヒドロキシステアリン酸とデキストリン脂肪酸エステルとを組み合わせて配合することにより、塗布時にのびが重い等の使用性、経時での透明性低下といった問題を解決している。しかし、透明化粧料を加飾する試みは限られており、特許文献2においても、透明化粧料全体に顔料を分散した透明口紅等は記載されてものの実質的な加飾はされていない。
【0004】
透明化粧料の加飾の例として、特許文献3には、透明容器内に上面にすり鉢状凹部を有する透明化粧料層を形成し、その上に異なる色に着色された化粧料を積層することにより、透明容器外部から見たときにグラデーション模様となる多色化粧料が開示されている。特許文献4には、着色した内層部の周囲に透明な外層部を設けたスティック状油性固形化粧料が開示されている。さらに最近では、内部に花の模造品や金粉を封入した透明口紅も市販されている(商品名:カイリジュメイ ティントフラワーリップ)。
【0005】
しかしながら、上記の従来技術では一通りのデザインでしか加飾できない。特に上記の市販品は、化粧料成分以外で製造された模造品からなる加飾が封入されており、その製造に手間がかかるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO2017/073263号公報
【文献】特許3657148号公報
【文献】特許4926515号公報
【文献】特開2017-95452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
よって本発明における課題は、透明油性化粧料を加飾するに当たり、化粧料成分を用いて多様なデザインでの加飾が可能であり、なおかつ印刷技術等を利用して簡便に加飾できる新規な透明油性化粧料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、透明油性化粧料の加飾に使用する粉末成分に油性化粧料に含まれる液状油分より高い屈折率を持つ粉末を含めることにより上記課題を解決し、多種多様なデザインの加飾層を簡便に形成でき、化粧料外部から当該加飾層が明瞭に視認できる審美性に優れた化粧料が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(A)透明油性基剤と、(B)少なくとも1つの加飾層とを有する油性固形化粧料であって、
前記(A)透明油性基剤が(a1)増粘成分及び(a2)液状油分を含有し、
前記(B)加飾層が(b1)粉末成分を含有し、
前記(b1)粉末成分が、前記(a2)液状油分の屈折率より高い屈折率を有する粉末を少なくとも1種含むことを特徴とする、油性固形化粧料を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る油性固形化粧料(以下、単に「油性化粧料」ともいう)は、加飾層に含まれる粉末の屈折率を透明油性基剤の液状油分の屈折率より高く設定しているため、化粧料の外部から見たときに加飾層が明瞭に視認でき審美性に優れる。また、透明油性基剤及び加飾層を共に化粧料成分のみから構成することが可能であり、加飾層を含めた化粧料全体をそのまま使用することができる。さらには、既存の装置等を利用して簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】(A)本発明の油性化粧料の一例を示す上面図である。(B)前記上面図の線分X-X’に沿った断面図である。
【
図2】本発明の油性化粧料の別の例の外観を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の油性化粧料について詳述する。
図1は、本発明の油性化粧料の一例を示す模式図である。
図1(A)は上面図、(B)は断面図である。
図1に示す化粧料は、平皿容器1内に充填されており、透明油性基剤10と第1の加飾層11及び第2の加飾層12を有している。
【0013】
第1の加飾層11は、上面から見ると、直線上に互いに離間して配置された複数(
図1では3個)のハート形に形成された層からなり、当該複数の層は同一面(容器の底面)上に設けられている。
【0014】
第2の加飾層12は、上面から見ると、直線上に互いに離間して配置された複数(
図1では2個)の星型に形成された層からなり、当該複数の層は同一面(容器の底面及び化粧料の表面に接しない面)上に設けられている。
【0015】
図1に示す例の油性化粧料においては、第1の加飾層と第2の加飾層は異なる色で形成されている。
図1の油性化粧料における前記第1及び第2の加飾層以外の部分は、透明油性基剤10から構成されている。
【0016】
なお、
図1に示すのは本発明の油性化粧料の一例であって、本発明の範囲を何ら限定するものではない。本発明においては多種多様な変更が可能である。
例えば、加飾層の数は同一面上又は複数の異なる面上に1つ又は複数設けてよく、それらの形状、色、大きさ及び厚みは同一でも異なっていてもよい。また、加飾層は、
図1における第1の加飾層のように容器底面に設けても、透明基剤の表面に設けても、
図1における第2の加飾層のように透明油性基剤の内部に設けてもよい。
【0017】
本発明の油性化粧料は、加飾層に含まれる粉末の屈折率を透明油性基剤の液状油分の屈折率より高く設定しているので、化粧料の外部から加飾層の外縁が明瞭に視認できて審美性に優れる。さらに、
図1に示す例のように加飾層を透明油性基剤の内部に設けた場合、あるいは透明油性基剤の表面に設けた場合には、化粧料の上方から照射された光の一部が当該加飾層に吸収されて容器底面などに加飾層が投影され、その陰影も化粧料外部から視認できることから、加飾層自体の形状や色彩のみならず、光や影によっても演出された美しさを発揮する化粧料となる。
【0018】
(A)透明油性基剤
本発明の油性化粧料を構成する透明油性基剤は、(a1)増粘成分と、(a2)液状油分とを含む。
【0019】
(a1)増粘成分(又はゲル化成分)としては、液状油分に溶解する又は液状油分で膨潤することにより液状油分を増粘する作用を有する化粧料成分であれば特に限定されない。例えば、デキストリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリル脂肪酸エステル、アミノ酸系ゲル化剤、12-ヒドロキシステアリン酸等の脂肪酸又はその塩、及び有機変性粘土鉱物が挙げられる。本発明では、デキストリン脂肪酸エステル、中でもパルミチン酸デキストリンが好ましく使用される。
【0020】
デキストリン脂肪酸エステルは、下記式(1)で表されるものが好ましい。
【化1】
式(1)中、Aはデキストリンからn個の水酸基を除いた残基であり、Rは炭素数3~30の直鎖又は分岐鎖アルキル基であり、nは1以上の整数である。
【0021】
上記式(1)におけるRの具体例としては、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、ミリスチル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基などの直鎖アルキル基、2-エチルヘキシル基、2-ヘキシルデシル基、2-デシルミリスチル基、イソステアリル基、2,7-ジメチルヘキサデシル基などの分岐鎖アルキル基が挙げられる。
本発明で用いるデキストリン脂肪酸エステルの分子量は、特に限定されないが、好ましくは1000~300000であり、さらに好ましくは1000~100000である。
【0022】
一般式(1)で表されるデキストリン脂肪酸エステルに包含される具体的な化合物名としては、オクタン酸デキストリン、デカン酸デキストリン、ラウリン酸デキストリン、ミリスチン酸デキストリン、ステアリン酸デキストリン、ベヘニン酸デキストリン、ヤシ油脂肪酸デキストリン、パルミチン酸デキストリン、2-エチルヘキサン酸デキストリン、ミリスチン酸/パルミチン酸デキストリン等が挙げられる。
【0023】
ショ糖脂肪酸エステルは、その脂肪酸が直鎖状あるいは分岐鎖状の、飽和あるいは不飽和の、炭素数12~22のものを好ましく用いることができる。具体的には、ショ糖カプリル酸エステル、ショ糖カプリン酸エステル、ショ糖ラウリン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖オレイン酸エステル、ショ糖エルカ酸エステル等を挙げることができる。
【0024】
グリセリル脂肪酸エステルは、グリセリン、炭素数18~28の二塩基酸及び炭素数8~28の脂肪酸(ただし、二塩基酸を除く)を反応させることにより得られるエステル化反応生成物であり、化粧料に一般的に使用されているものであれば特に制限されず使用することができる。具体的には、(ベヘン酸/イソステアリン酸/エイコサン二酸)グリセリル、(ベヘン酸/エイコサン二酸)グリセリル、(ベヘン酸/エイコサン二酸)ポリグリセリル-10等を挙げることができる。
【0025】
アミノ酸系ゲル化剤は、ジブチルラウロイルグルタミド、ジブチルエチルヘキサノイルグルタミド、ポリアミド-8、ポリアミド-3等を挙げることができる。
【0026】
脂肪酸(常温で固形のもの)としては、例えば、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、12-ヒドロキシステアリン酸等を挙げることができる。また、脂肪酸の塩としては、これらのカルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩等を挙げることができる。
【0027】
有機変性粘土鉱物の代表例としては、ジメチルジステアルアンモニウムヘクトライト、ジメチルアルキルアンモニウムヘクトライト、ベンジルジメチルステアリルアンモニウムヘクトライト、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム処理ケイ酸アルミニウムマグネシウム等が挙げられる。市販品としては、ベントン27(ベンジルジメチルステアリルアンモニウムクロライド処理ヘクトライト:エレメンティスジャパン社製)およびベントン38(ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド処理ヘクトライト:エレメンティスジャパン社製)を挙げることができる。
【0028】
本発明の化粧料における(a1)増粘成分の配合量は、通常は、透明油性基剤全量に対して0.1~30質量%、好ましくは1~25質量%、さらに好ましくは5~20質量%である。配合量が0.1質量%未満では、透明油性基剤の硬度が極端に低くなって加飾層を支持するのが困難であり、30質量%を超えて配合すると容器に均一に充填することが難しくなる。
【0029】
(a2)液状油分
本発明に用いられる液状油分は、前記増粘成分によって増粘(ゲル化)されて透明油性基剤を形成できるものであれば特に限定されず、化粧料に通常配合される常温(25℃)で液状の油分から選択することができる。代表例としては、炭化水素油、エステル油、シリコーン油、及び液体油脂から選択される液状油分が好ましく使用される。以下に具体例を例示するが、これらに限定されない。
【0030】
炭化水素油としては、例えば、流動パラフィン、水添ポリデセン、スクワラン、プリスタン、パラフィン、スクワレン、トリエチルヘキサノイン、α-オレフィンオリゴマー、イソドデカン、イソヘキサデカン、軽質イソパラフィン等が挙げられる。
【0031】
エステル油としては、ミリスチン酸イソプロピル、オクタン酸セチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸ミリスチル、オレイン酸デシル、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル、乳酸セチル、乳酸ミリスチル、酢酸ラノリン、ステアリン酸イソセチル、イソステアリン酸イソセチル、12-ヒドロキシステアリン酸コレステリル、ジ-2-エチルヘキサン酸エチレングリコール、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル、モノイソステアリン酸N-アルキルグリコール、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、リンゴ酸ジイソステアリル、ジ-2-ヘプチルウンデカン酸グリセリン、トリ-2-エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、テトラ-2-エチルヘキサン酸ペンタエリスリトール、トリ-2-エチルヘキサン酸グリセリン、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、2-エチルヘキサン酸セチル、パルミチン酸2-エチルヘキシル、トリミリスチン酸グリセリン、トリ-2-ヘプチルウンデカン酸グリセライド、ヒマシ油脂肪酸メチルエステル、オレイン酸オレイル、アセトグリセライド、パルミチン酸2-ヘプチルウンデシル、アジピン酸ジイソブチル、N-ラウロイル-L-グルタミン酸-2-オクチルドデシルエステル、アジピン酸ジ-2-ヘプチルウンデシル、エチルラウレート、セバシン酸ジ-2-エチルヘキシル、ミリスチン酸2-ヘキシルデシル、パルミチン酸2-ヘキシルデシル、アジピン酸2-ヘキシルデシル、セバシン酸ジイソプロピル、ピバリン酸イソデシル、コハク酸2-エチルヘキシル、酢酸エチル、酢酸ブチル、クエン酸トリエチル、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル等が挙げられる。
【0032】
シリコーン油としては、例えば、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、ジフェニルシロキシフェニルトリメチコン等の鎖状ポリシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサンなどの環状ポリシロキサン等が挙げられる。
【0033】
液体油脂としては、例えば、アボカド油、ツバキ油、タートル油、マカデミアナッツ油、トウモロコシ油、ミンク油、オリーブ油、ナタネ油、卵黄油、ゴマ油、パーシック油、小麦胚芽油、サザンカ油、ヒマシ油、アマニ油、サフラワー油、綿実油、エノ油、大豆油、落花生油、茶実油、カヤ油、コメヌカ油、シナギリ油、日本キリ油、ホホバ油、胚芽油、トリグリセリン、トリオクタン酸グリセリン、トリイソパルミチン酸グリセリン等が挙げられる。
【0034】
(a2)液状油分は、1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、配合される各液状油分が持つ屈折率の加重平均値(この値を本発明における「液状油分の屈折率」と定義する)が1.4~1.6の範囲内となるように配合するのが好ましく、液状油分の屈折率を1.42~1.52となるようにするのが更に好ましい。
なお、本発明における油の屈折率としては、例えば、ガラス板上に油を2gとり、金ベラを用いて均一なスラリー状になるまで練り合わせたものを、精密アッベ屈折計(ATAGO社製 タイプ:3T)を用いて20℃で測定した値を用いることができる。
【0035】
(a2)液状油分の配合量は特に制限されないが、通常、透明油性基剤全量に対して20~99.5質量%、好ましくは50~90質量%の範囲で、目的とする化粧料の形態や硬度等に応じて適宜決定される。
【0036】
本発明の透明油性基剤は、上記(a1)増粘成分及び(a2)液状油分に加えて、他の任意成分を本発明の効果を阻害しない範囲内において配合することができる。他の任意成分としては、限定されないが、固形又は半固形の油分、保湿剤、水性成分、防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、高分子、界面活性剤、色素、染料、顔料、消泡剤剤(シメチコン等)、各種薬剤(トコフェロール等)、低級アルコール(炭素数6未満)、溶剤、香料などが例示される。
【0037】
固形又は半固形の油分は、化粧料に配合可能なものであれば特に限定されない。
固体油脂としては、例えば、カカオ脂、ヤシ油、馬油、硬化ヤシ油、パーム油、牛脂、羊脂、硬化牛脂、パーム核油、豚脂、牛骨脂、モクロウ核油、硬化油、牛脚脂、モクロウ、硬化ヒマシ油等が挙げられる。
【0038】
ロウ類としては、例えば、ミツロウ、カンデリラロウ、綿ロウ、カルナウバロウ、ベイベリーロウ、イボタロウ、鯨ロウ、モンタンロウ、ヌカロウ、ラノリン、カポックロウ、液状ラノリン、サトウキビロウ、ラノリン脂肪酸イソプロピル、還元ラノリン、ホホバロウ、硬質ラノリン、セラックロウ、POEラノリンアルコールエーテル、POEラノリンアルコールアセテート、POEコレステロールエーテル、ラノリン脂肪酸ポリエチレングリコール、 POE水素添加ラノリンアルコールエーテル等が挙げられる。
【0039】
炭化水素油(固形又は半固形)としては、例えば、オゾケライト、セレシン、ワセリン、マイクロクリスタリンワックス等が挙げられる。
【0040】
高級アルコールとしては、例えば、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、ミリスチルアルコール、オレイルアルコール、セトステアリルアルコール等の直鎖アルコール、モノステアリルグリセリンエーテル(バチルアルコール)、2-デシルテトラデシノール、ラノリンアルコール、コレステロール、フィトステロール、ヘキシルドデカノール、オクチルドデカノール等の分岐鎖アルコール等があげられる。
【0041】
保湿剤としては、多価アルコール及び糖アルコール等が挙げられ、具体例としては、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等のグリコール類、グリセリン、マンニトール、ソルビトール等が挙げられる。
【0042】
ここで、本発明における「透明」とは、化粧料の外部から加飾層を視認できる限り、化粧料の分野で一般的に用いられる意味での「透明」から「半透明」の範囲を包含する。例えば、油性基剤を光路長10mmのセルに充填し冷却固化させたものを25℃にて1時間放置した後、分光光度計で900nmの光の透過率が少なくとも50%以上のものを、本発明における「透明油性基剤」と定義してもよい。
【0043】
本発明における(A)透明油性基剤は、上記の「透明」という要件を満たすものであれば、油性成分のみからなる形態でも、水性成分を含む油中水型又は油中水中油型等の乳化形態でもよい。また、透明性が確保できる範囲内で、無色であっても着色されていてもよい。それらの油性基剤は、各形態の化粧料に汎用されている方法を用いて製造できる。
【0044】
本発明の(A)透明油性基剤は固形であることが好ましい。本発明における「固形」とは、常温(25℃)、常圧において流動性のない組成物を意味する。また、レオメータ―(3mmφ、1.0mm針入、2Kレンジ、2cm/min)で25℃において測定した硬度が50~300である組成物を、本発明における「固形」と定義してもよい。前記の硬度が50未満であると加飾層を支持することが困難になり、300を超えると容器に充填した際に均一に拡がらず、その表面に加飾層を形成し難くなる。
【0045】
(B)加飾層
本発明の油性化粧料における(B)加飾層は(b1)粉末成分を含有する。(b1)粉末成分は、上記(a2)油分の屈折率より高い屈折率を有する粉末を少なくとも1種含んでいる。
【0046】
(b1)粉末成分は、加飾層による加飾効果を発揮するために必須の成分であり、化粧料に配合可能な白色顔料、着色顔料、パール剤等の無機顔料及び有機粉末等から選択される粉末とするのが好ましい。
【0047】
配合可能な粉末の具体例としては、限定されないが、タルク、カオリン、雲母(マイカ)、絹雲母(セリサイト)、白雲母、黒雲母、金雲母、合成雲母、パーミキュライト、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸バリウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、タングステン酸金属塩、マグネシウム、シリカ、ゼオライト、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、硫酸バリウム、チタン酸バリウム、焼成硫酸カルシウム、焼セッコウ,リン酸カルシウム、フッ素アパタイト、ヒドロキシアパタイト、セラミックパウダー、金属石鹸(ミリスチン酸亜鉛、パルミチン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム等)の無機粉末;ポリアミド樹脂粉末(ナイロン粉末等)、ポリエチレン粉末、ポリメタクリル酸メチル粉末、ポリスチレン粉末、PMMA粉末、スチレン-アクリル酸共重合体樹脂粉末、べンゾグアナミン樹脂粉末、ポリ四フッ化エチレン粉末、セルロース粉末等の有機粉末;酸化チタン、酸化亜鉛等の無機白色系顔料;酸化鉄(べンガラ)、チタン酸鉄等の無機赤色系顔料;γ-酸化鉄等の無機褐色系顔料;黄酸化鉄、黄土等の無機黄色系顔料;黒酸化鉄、カーボン、低次酸化チタン等の無機黒色系顔料;マンゴバイオレット、コバルトバイオレット等の無機紫色系顔料;酸化クロム、水酸化クロム、チタン酸コバルト等の無機緑色系顔料、群青、紺青等の無機青色系顔料;酸化チタン被覆マイカ、酸化チタン被覆オキシ塩化ビスマス、酸化チタン被覆タルク、着色酸化チタン被覆マイカ、オキシ塩化ビスマス、魚鱗箔等のパール顔料;アルミニウムパウダー、カッパーパウダー等の金属粉末顔料;赤色202号、赤色205号、赤色220号、赤色228号、赤色405号、橙色203号、橙色204号、黄色205号、黄色401号、青色404号等の有機顔料;赤色3号、赤色104号、赤色227号、赤色401号、橙色205号、黄色4号、黄色202号、緑色3号、青色1号等のジルコニウム、バリウム、アルミニウムレーキ等の有機顔料;クロロフィル、β-カロチン等の天然色素が挙げられる。
【0048】
粉末は1種でも2種以上を混合して用いてもよい。但し、(b1)粉末成分は、前記(A)透明油性基剤に含まれる(a2)液状油分の屈折率より高い屈折率を持つ粉末(以下、「高屈折率粉末」ともいう)を少なくとも1種含有する。
【0049】
高屈折率粉末は、(a2)液状油分の屈折率より、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、さらに好ましくは0.1以上、最も好ましくは0.5以上高い屈折率を持つ粉末を選択する。
【0050】
高屈折率粉末は、特に限定されないが、屈折率が1.45以上の粉末から選択するのが好ましい。屈折率が1.45以上の粉末の具体例としては、酸化チタン(ルチル型、アナターゼ型)、チタン酸バリウム、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、オキシ塩化ビスマス、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、硫酸バリウム、ポリスチレン、カオリン、マイカ、タルク、ナイロン、PMMA、シリカが挙げられる。
【0051】
(b1)粉末成分は、少なくとも1種の高屈折率粉末を含んでいればよいが、(b1)粉末成分に占める高屈折率粉末の割合を、50質量%以上、70質量%以上、あるいは80質量%以上等とするのが好ましく、(b1)粉末成分を高屈折率粉末のみから構成してもよい。
【0052】
本発明においては、(b1)粉末成分を分散できる媒体(b2)中に粉末成分を分散させた分散物(以下「インク組成物」ともいう)を調製し、当該インク組成物を噴霧等することにより加飾層を形成するのが好ましい。
【0053】
インク組成物における(b2)分散媒体は、(b1)粉末成分を分散させることのできる流動性を有する媒体であれば特に限定されないが、加飾層形成時の乾燥速度を考慮すると、沸点の低い媒体、例えばエタノール等の炭素数3以下の低級アルコールが好ましい。また、前記の(A)透明油性基剤の表面に加飾層を形成することを考慮すると、(B)加飾層の滲みを防止するために、(A)透明油性基剤に配合されている油分との相溶性が低い媒体を選択するのが好ましい。
【0054】
インク組成物は、(b1)粉末成分及び(b2)分散媒体に加えて、加飾層において粉末同士を結合させるバインダー成分を含んでいるのが好ましい。また、グリセリン等の保湿剤、(ジメチルアクリルアミド/アクリロイルジメチルタウリンNa)クロスポリマー等の増粘剤を適宜含有してもよい。
【0055】
本発明の油性化粧料は、容器の底面や容器に充填した透明油性基剤の表面に加飾層を形成する工程を経て製造される。加飾層の形成に当たっては、前記のインク組成物を使用し、意図する形状/模様となるようにインク組成物を塗布、噴霧、又は印刷等で適用するのが簡便で好ましい。
【0056】
インク組成物を用いた加飾層の形成には、例えば、意図する形状/模様を切り抜いた型紙を使用して、型紙の上からインク組成物を塗布し、型紙を取り除くというステンシル技法を用いた方法、同様の型紙を用いてインク組成物を噴霧(スプレー)する方法、スクリーン印刷の技法を用いる方法、インクジェットプリンタを用いてインク組成物で描画する方法等が利用できる。
【0057】
上記のように加飾層の形成にインク組成物を使用し、噴霧やインクジェットプリンタ等のノズルを介してインク組成物を適用する場合を考慮すると、ノズルの詰まりを防止するという観点から、インク組成物の粘度を10000mPa・s以下、好ましくは8000mPa・s以下に抑えるのが好ましい。
【0058】
また、インク組成物における粉末成分(b1)の配合量は、特に限定されないが、好ましくは5~20質量%、より好ましくは7~15質量%である。さらに、ノズルの詰まり防止という観点から、(b1)に含まれる粉末の平均粒径は、200μm以下とするのが好ましく、より好ましくは100μm以下である。
【0059】
本発明の油性化粧料を、加飾層の形成にステンシルの技法を用いて製造する方法について、
図1を参照して以下に説明する。
【0060】
まず、平皿容器1の底面に、ステンシルの型紙(3つのハート形を切り抜いた型紙)を当て、第1の加飾層11を形成させるためのインク組成物(第1のインク組成物)を刷り込むことにより、第1の加飾層11を形成する。適宜乾燥させた後、透明油性基剤10を第2の加飾層12の底面の高さまで充填する。次いで、第2の加飾層12を形成させるためのインク組成物(第2のインク組成物)を、2つの星形を切り抜いた型紙を用いたステンシル技法により刷り込んで第2の加飾層12を形成する。適宜乾燥させた後、その上から透明油性基剤10を容器が満たされるまで充填する。
【0061】
前記のようにして、複数の加飾層を有する透明油性化粧料を製造することができる。加飾層の厚さは、特に限定されないが、通常は0.01~1mm程度である。
なお、
図1においては、前記の第1のインク組成物と第2のインク組成物は、互いに異なる色の粉末成分を含有している。
また、上記のステンシル技法を用いた製造方法は、スクリーン印刷装置又はインクジェット印刷装置等を用いて自動化した製造方法に変更することが可能である。
【0062】
図2は、上記の方法に従って製造した本発明の油性化粧料の別の例を示す写真である。この例の化粧料は、3種類の色で立体的に配置された蝶型の加飾層を有する。
図2の写真には明瞭に現れていないが、この油性化粧料の全体は透明であり、内部に複数の色の層状(膜状)の加飾層を有する特異な外観を持ち、化粧料表面から光を照射すると加飾層の下に陰影が形成されて加飾層が立体的に浮き上がって見えるといった視覚効果がある。
【0063】
本発明の油性化粧料は、上記のような独特の外観(審美性)を生かし、特にメーキャップ化粧料として提供するのに適している。特に限定されないが、口紅、下地、アイベース(アイシャドーの下地)等として提供するのが好ましい。
【実施例】
【0064】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明は実施例により限定されるものではない。なお、配合量は特記しない限り質量%で示す。
【0065】
下記の表1に示した組成の透明油性基剤と、表2に記載した組成の加飾層形成のためのインク組成物を用いて、加飾層を有する透明油性化粧料を製造した。
【0066】
【0067】
【0068】
表2に記載した例A及び例Bのインク組成物を用いて形成した加飾層を持つ透明油性化粧料(各々、実施例1及び2)は、配合する粉末成分が表面疎水化処理されていてもいなくても、鮮やかな赤色を呈する加飾層が化粧料の外部から明瞭に視認された。
しかし、表2の例Cに記載した組成のインク組成物を用いて容器底面に描画して加飾層を形成し、その上に表1の透明油性基剤を充填した場合(比較例1)では、加飾層が液状油分の屈折率より低い屈折率の粉末(シリカ)しか含んでいないため、加飾層の輪郭がぼやけて明瞭に視認できず、審美性に劣るものとなった(
図3参照)。