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特許7227017避雷装置の故障判定方法および避雷装置の故障判定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】避雷装置の故障判定方法および避雷装置の故障判定装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/00 20060101AFI20230214BHJP
【FI】
G01R31/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019013375
(22)【出願日】2019-01-29
(65)【公開番号】P2020122671
(43)【公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-12-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 一般社団法人電気学会、電気学会研究会資料 放電/開閉保護/高電圧合同研究会(IWHV2018)、平成30年11月2日 放電/開閉保護/高電圧合同研究会(IWHV2018)、平成30年11月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000242644
【氏名又は名称】北陸電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002712
【氏名又は名称】弁理士法人みなみ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川村 裕直
(72)【発明者】
【氏名】板本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】新庄 一雄
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-013164(JP,A)
【文献】特開平09-178798(JP,A)
【文献】特開平08-330905(JP,A)
【文献】特開2012-004265(JP,A)
【文献】特開平06-005407(JP,A)
【文献】特開2017-005803(JP,A)
【文献】特開平11-044715(JP,A)
【文献】特開2017-129402(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 31/00-31/01、
31/24-31/25、
27/00-27/32、
H01C 7/02-7/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
避雷素子を直列接続して外管に納めた避雷装置について正常品であるか故障品であるかを判定する故障判定方法であって、
避雷装置の等価回路を表す理論式から避雷装置の等価直列抵抗の周波数特性を求めて基準値とする基準値算出過程と、
判定対象である対象避雷装置の等価直列抵抗の周波数特性を測定して対象値とする対象値測定過程と、
基準値と対象値とを比較する比較過程と、
比較の結果、基準値と対象値の差異が閾値を超えた場合に対象避雷装置を故障品と判定する判定過程を備えるものであり、
避雷装置の等価回路を表す理論式は式(3)で表されるものであることを特徴とする避雷装置の故障判定方法。
ただし、避雷装置は、避雷素子をn個直列に接続してあり、隣り合う避雷素子の間に仕切板を挟んであり、1つの仕切板に替えてスペーサを設けてあり、並んだ避雷素子の一方の端部に押圧部材を設けてあり、並んだ避雷素子および押圧部材の両端に端子を設けてあり、このように並んで設けられた避雷素子、仕切板、スペーサ、押圧部材および端子が、それらが丁度納まる大きさの外管に納められているものであり、
避雷装置の等価回路は、避雷素子、仕切板、スペーサおよび押圧部材が直列接続され、それらと外管が並列接続され、その両端にそれぞれ端子が直列接続されたものであり、避雷素子は、抵抗(抵抗値r)とコンデンサ(静電容量値c)を並列接続したものとして表され、仕切板は、その個数を避雷素子と同じn個として、抵抗(抵抗値r )として表され、スペーサは、抵抗(抵抗値r )として表され、押圧部材は、抵抗(抵抗値r )と誘導子(インダクタンス値L )を直列接続したものとして表され、端子は、抵抗(抵抗値r )として表され、外管は、コンデンサ(静電容量値c )として表されるものであり、
避雷素子、仕切板、スペーサおよび押圧部材が直列接続された回路について、等価直列抵抗R と等価直列リアクタンスX からなる等価直列回路R +jX に置き換えられ、R とX は次の式(1)で表されるものであり、
【数1】
式(1)で表される回路と外管が並列接続された回路について、等価直列抵抗R と等価直列リアクタンスX からなる等価直列回路R +jX に置き換えられ、R とX は次の式(2)で表されるものであり、
【数2】
式(2)で表される回路と端子が直列接続された回路について、等価直列抵抗R と等価直列リアクタンスX からなる等価直列回路R +jX に置き換えられ、R とX は次の式(3)で表されるものである。
【数3】
【請求項2】
対象値を平滑化する平滑化過程を含むことを特徴とする請求項1記載の避雷装置の故障判定方法。
【請求項3】
請求項1または記載の避雷装置の故障判定方法に基づき、避雷素子を直列接続して外管に納めた避雷装置について正常品であるか故障品であるかを判定する故障判定装置であって、
判定対象である対象避雷装置の等価直列抵抗の周波数特性を測定して対象値とする対象値測定手段と、
予め記憶された基準値と測定された対象値とを比較する比較手段と、
比較の結果、基準値と対象値の差異が閾値を超えた場合に対象避雷装置を故障品と判定する判定手段を備えることを特徴とする避雷装置の故障判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に架空送電設備において用いられる避雷装置の故障判定方法および故障判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
架空送電設備の故障原因として最も多いのが雷によるものであり、そのために、多くの送電線に避雷装置が導入されている。一般的な避雷装置は、酸化亜鉛(ZnO)からなる避雷素子を直列に接続して外管に納めた構造のものであり、これが送電線の碍子装置に設置されている。鉄塔や電線に落雷があると、避雷装置が雷電流だけを通過させてAC続流を遮断することで、碍子装置のフラッシオーバーを防いで、停電を防止する。
【0003】
ところで、このような避雷装置は、落雷の大電流により故障する場合がある。故障した避雷装置は当初の性能を有しておらず、そのままでは停電のリスクが増大することになるので、点検により故障品を発見して交換する必要がある。しかし、故障品の避雷装置であっても、外管には異常がなく、内部の避雷素子だけが損傷していることもあり、その場合、外観上では故障しているか否か判断できない。そこで、特許文献1および2に示すように、判定対象である対象避雷装置の等価直列抵抗の周波数特性を測定し、その測定値を正常品の避雷装置の同測定値と比較することで、対象避雷装置が正常品であるか故障品(全部の避雷素子が故障した完全故障品と、一部の避雷素子が故障した部分故障品がある)であるかを判定する故障判定方法が提案されている。
【0004】
より詳しくは、特許文献1の方法は、対象の測定値と正常品の測定値を比較した結果、1kHz以下で所定の閾値以上の差が確認された場合には対象を完全故障品と判定し、1kHz以下では差が確認されずかつ100kHz以上で差が確認された場合には部分故障品と判定するものである。また、特許文献2の方法は、予め完全故障品の等価直列抵抗の周波数特性と正常品の等価直列抵抗の周波数特性の交点を求めておき、対象の測定値と正常品の測定値を比較した結果、交点を超える周波数帯域で所定の閾値以上の差が確認された場合には故障品と判定し、さらにその中で交点を下回る周波数帯域で差が確認された場合には完全故障品と判定し、それ以外は部分故障品と判定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-202956号公報
【文献】特開2014-13164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらの従来の方法では、判定の基準として、正常品の避雷装置の等価直列抵抗の周波数特性の測定値を用いていた。しかしながら、測定値はバラツキが大きく、判定の基準が安定しないことから、故障判定の精度が低下するおそれがあった。
【0007】
本発明は、このような事情を鑑みたものであり、安定した判定基準に基づく精度の高い避雷装置の故障判定方法および避雷装置の故障判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のうち請求項1の発明は、避雷素子を直列接続して外管に納めた避雷装置について正常品であるか故障品であるかを判定する故障判定方法であって、避雷装置の等価回路を表す理論式から避雷装置の等価直列抵抗の周波数特性を求めて基準値とする基準値算出過程と、判定対象である対象避雷装置の等価直列抵抗の周波数特性を測定して対象値とする対象値測定過程と、基準値と対象値とを比較する比較過程と、比較の結果、基準値と対象値の差異が閾値を超えた場合に対象避雷装置を故障品と判定する判定過程を備えるものであり、避雷装置の等価回路を表す理論式は式(3)で表されるものであることを特徴とする。ただし、避雷装置は、避雷素子をn個直列に接続してあり、隣り合う避雷素子の間に仕切板を挟んであり、1つの仕切板に替えてスペーサを設けてあり、並んだ避雷素子の一方の端部に押圧部材を設けてあり、並んだ避雷素子および押圧部材の両端に端子を設けてあり、このように並んで設けられた避雷素子、仕切板、スペーサ、押圧部材および端子が、それらが丁度納まる大きさの外管に納められているものであり、避雷装置の等価回路は、避雷素子、仕切板、スペーサおよび押圧部材が直列接続され、それらと外管が並列接続され、その両端にそれぞれ端子が直列接続されたものであり、避雷素子は、抵抗(抵抗値r)とコンデンサ(静電容量値c)を並列接続したものとして表され、仕切板は、その個数を避雷素子と同じn個として、抵抗(抵抗値r )として表され、スペーサは、抵抗(抵抗値r )として表され、押圧部材は、抵抗(抵抗値r )と誘導子(インダクタンス値L )を直列接続したものとして表され、端子は、抵抗(抵抗値r )として表され、外管は、コンデンサ(静電容量値c )として表されるものであり、避雷素子、仕切板、スペーサおよび押圧部材が直列接続された回路について、等価直列抵抗R と等価直列リアクタンスX からなる等価直列回路R +jX に置き換えられ、R とX は次の式(1)で表されるものであり、
【数1】
式(1)で表される回路と外管が並列接続された回路について、等価直列抵抗R と等価直列リアクタンスX からなる等価直列回路R +jX に置き換えられ、R とX は次の式(2)で表されるものであり、
【数2】
式(2)で表される回路と端子が直列接続された回路について、等価直列抵抗R と等価直列リアクタンスX からなる等価直列回路R +jX に置き換えられ、R とX は次の式(3)で表されるものである。
【数3】
【0010】
本発明のうち請求項の発明は、対象値を平滑化する平滑化過程を含むことを特徴とする。平滑化とは、周波数ごとの値の中で、他の値よりも大きく乖離している値を、平均化したり除去したりすることで、全体的に突出した値がない状態にすることである。対象値を平滑化する手法としては、ローパスフィルタを通す方法のほか、既知の種々の手法を用いることができる。
【0011】
本発明のうち請求項の発明は、請求項1または記載の避雷装置の故障判定方法に基づき、避雷素子を直列接続して外管に納めた避雷装置について正常品であるか故障品であるかを判定する故障判定装置であって、判定対象である対象避雷装置の等価直列抵抗の周波数特性を測定して対象値とする対象値測定手段と、予め記憶された基準値と測定された対象値とを比較する比較手段と、比較の結果、基準値と対象値の差異が閾値を超えた場合に対象避雷装置を故障品と判定する判定手段を備えることを特徴とする。なお、対象値を平滑化する平滑化手段を含むものであってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のうち請求項1の発明によれば、避雷素子を直列接続して外管に納めた避雷装置の等価回路を表す理論式から避雷装置の等価直列抵抗の周波数特性を求めたものを故障判定の基準値としており、従来基準値としていた正常品の避雷装置の等価直列抵抗の周波数特性の測定値と比較して値にバラツキがないので、故障判定の精度が向上する。
【0014】
本発明のうち請求項の発明によれば、これまでの測定結果から、対象避雷装置が正常品に近いほど(避雷素子の故障比率が小さいほど)、対象値のバラツキが大きいことが得られており、バラツキにより正常品を故障品と判定するおそれがあるところ、測定値を平滑化することで、より故障判定の精度が向上する。
【0015】
本発明のうち請求項の発明によれば、判定対象である対象避雷装置の等価直列抵抗の周波数特性を測定するだけで、請求項1またはの方法により、対象が正常品であるか故障品であるかを容易かつ高い精度で判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】避雷装置の構造を示す模式図である。
図2】避雷装置の等価回路を示す回路図である。
図3】避雷装置の等価回路を表す理論式から求めた基準値を示すグラフである。
図4】基準値と3つの対象避雷装置の対象値を併せて示すグラフである。
図5】平滑化前後の対象値を示すグラフである。
図6】基準値と対象値の差異(対象値/基準値)を示すグラフである。
図7】避雷装置の故障判定装置の構成を示すブロック図である。
図8】正常品の避雷装置の等価直列抵抗の測定値とその近似曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の具体的な内容について説明する。本発明の故障判定方法は、避雷素子を直列接続して外管に納めた避雷装置について、正常品であるか故障品であるかを判定するものである。そして、本発明の第一実施形態は、避雷装置の等価回路を表す理論式から避雷装置の等価直列抵抗の周波数特性を求めて基準値とする基準値算出過程と、判定対象である対象避雷装置の等価直列抵抗の周波数特性を測定して対象値とする対象値測定過程と、対象値を平滑化する平滑化過程と、基準値と対象値とを比較する比較過程と、比較の結果、基準値と対象値の差異が閾値を超えた場合に対象避雷装置を故障品と判定する判定過程を備えるものである。
【0018】
まず、対象となる避雷装置の構造について説明する。図1に示すように、この避雷装置1は、酸化亜鉛(ZnO)からなる略円柱形状の避雷素子11を複数個(本例では10個)直列に接続してある。隣り合う避雷素子11の間には、アルミ製で円板形状の仕切板12を挟んであり、さらに並んだ避雷素子11の中央部(端から5番目の避雷素子11と6番目の避雷素子11の間)には、仕切板12に替えてアルミ製で円柱形状のスペーサ13を設けてある。また、並んだ避雷素子11の一方の端部には、コイルバネからなる押圧部材14を設けてある。そして、並んだ避雷素子11(および押圧部材14)の両端に、端子15を設けてある。端子15は、円柱形状の基部151と、基部151の端面から基部151の中心軸方向に延びる接続部152を有しており、並んだ避雷素子11の一方の端部においては、端子15の基部151が押圧部材14と接続しており、他方の端部においては、端子15の基部151が避雷素子11と接続している。なお、コイルバネからなる押圧部材14は、圧縮された状態で避雷素子11と端子15の基部151とに挟まれており、直列に接続された避雷素子11を押圧している。また、避雷素子11、仕切板12、スペーサ13および端子15の基部151は、直径が略同一であって、同一軸上に位置している。そして、このように並んで設けられた避雷素子11、仕切板12、スペーサ13、押圧部材14および端子15が、外管16に納められている。ただし、端子15は基部151のみが外管16に納まっており、接続部152は外管16から外側に突出している。外管16は、繊維強化プラスチック製で円筒形状である。外管16の内径は、避雷素子11、仕切板12、スペーサ13、押圧部材14および端子15の基部151が丁度納まる大きさである。また、外管16の外周面には、全面にわたって、耐汚損性能を高めるための突起161が形成されている。
【0019】
次に、このような構造の避雷装置1の等価回路について説明する。図2に示すように、等価回路は、避雷装置1の各構成要素を回路素子に置き換えたものである。より詳しくは、避雷素子11は、その個数をn個として、抵抗(抵抗値r,・・・,r)とコンデンサ(静電容量値c,・・・,c)を並列接続したものとして表される。仕切板12は、その個数を避雷素子11と同じn個として、抵抗(抵抗値rb1,・・・,rbn)として表される。スペーサ13は、抵抗(抵抗値r)として表される。押圧部材14は、抵抗(抵抗値r)と誘導子(インダクタンス値L)を直列接続したものとして表される。端子15は、抵抗(抵抗値r)として表される。外管16は、コンデンサ(静電容量値c)として表される。そして、避雷素子11、仕切板12、スペーサ13および押圧部材14が直列接続され、それらと外管16が並列接続されており、さらにその両端にそれぞれ端子15が直列接続されている。
【0020】
さらに、この避雷装置1の等価回路は、等価直列抵抗と等価直列リアクタンスからなる等価直列回路に置き換えられるものであって、以下のような理論式により表される。まず、避雷素子11、仕切板12、スペーサ13および押圧部材14が直列接続された回路(図2の一点鎖線で囲まれた部分)について、等価直列抵抗Rと等価直列リアクタンスXからなる等価直列回路R+jXに置き換えられ、RとX上記の式(1)で表される。ただし、避雷素子11の抵抗値と静電容量値はすべて同一の値とし、それぞれr(=r=・・・=r),c(=c=・・・=c)とした。また、仕切板12の抵抗値もすべて同一の値とし、r(=rb1=・・・=rbn)とした。
次に、式(1)で表される回路と外管16が並列接続された回路(図2の二点鎖線で囲まれた部分)について、等価直列抵抗Rと等価直列リアクタンスXからなる等価直列回路R+jXに置き換えられ、RとX上記の式(2)で表される。
次に、式(2)で表される回路と端子15が直列接続された回路(図2の全体)、すなわち避雷装置1の等価回路について、等価直列抵抗Rと等価直列リアクタンスXからなる等価直列回路R+jXに置き換えられ、RとX上記の式(3)で表される。
【0021】
このようにして求められる避雷装置の等価回路の等価直列抵抗Rの理論式に基づき、基準値算出過程が実行される。基準値算出過程では、正常品の避雷装置の各構成要素について、抵抗値、静電容量値、インダクタンス値といったパラメータ(周波数特性)を広帯域(たとえば、1kHz~1MHz)にわたって実測し、その値を上記の各式に代入して、避雷装置の等価回路の等価直列抵抗の周波数特性を求め、これを基準値とする。図3に示すのは、こうして求めた基準値を表すグラフであり、横軸を周波数[Hz]、縦軸を等価直列抵抗[Ω]とした両対数グラフとなっている。このように、避雷装置の等価回路を表す理論式から求めた基準値は、両対数グラフ上において、右下がりの直線に近い線で表される。なお、このグラフには、参考として正常品の避雷装置を実測して得られた等価直列抵抗の測定値も示してある。ただし、この測定値は、複数(サンプル数12)の避雷装置についての測定値の平均値である。このように、測定値は、複数の値を平均したものであっても、なおバラツキが大きいものであることがわかる。
【0022】
続いて、対象値測定過程が実行される。対象値測定過程では、判定対象である対象避雷装置について、等価直列抵抗の周波数特性を実測して、これを対象値とする。測定は、インピーダンスアナライザにより、広帯域(たとえば、1kHz~1MHz)にわたって行われるものである。図4に示すのは、基準値と対象値を併せて示したグラフである。対象値として3つの値が表示されているが、それぞれ10%の避雷素子が故障した対象避雷装置、50%の避雷素子が故障した対象避雷装置、100%の避雷素子が故障した対象避雷装置を示している。
【0023】
続いて、平滑化過程が実行される。平滑化過程では、対象値測定過程において得られた対象値を平滑化する。これまでの測定結果から、等価直列抵抗の周波数特性の測定値(対象値)は、図4に示すように、対象避雷装置が正常品に近いほど(避雷素子の故障比率が小さいほど)、バラツキが大きいことが得られている。これは、正常な避雷素子の特性によるものである。そして、このバラツキにより、正常品を故障品と判定するおそれがある。そこで、対象値を、ローパスフィルタを通して平滑化する。図5に示すのは、このような平滑化の効果を示すグラフである。このグラフは2つの正常品の避雷装置についての対象値(平滑化前と平滑化後)を示すものであるが、平滑化により、極端なバラツキが低減されていることがわかる。
【0024】
続いて、比較過程が実行される。比較過程では、上記のようにして得られた基準値と対象値とを、広帯域にわたって比較する。比較の方法として、ここでは、対象値を基準値で割った値(対象値/基準値)を算出し、これを基準値と対象値の差異とする。
【0025】
続いて、判定過程が実行される。判定過程では、比較の結果を受けて、基準値と対象値の差異が閾値を超えた場合に、対象避雷装置を故障品と判定する。ここでは、閾値の値を3とし、広帯域(1kHz~1MHzとする)において、基準値と対象値の差異が閾値を超える点が1点でもあれば、その対象避雷装置を故障品と判定し、基準値と対象値の差異が閾値を超える点がなければ、その対象避雷装置を正常品と判定するものとする。図6に示すのは、複数の対象避雷装置(図4に示したものとは異なる)についての基準値と対象値の差異(対象値/基準値)の値を、閾値とともに表したグラフであり、この判定を視覚的に表している。三角印で表されるのは、閾値のラインを超える点があるので故障品と判定された対象避雷装置であり、丸印で表されるのは、閾値のラインを超える点がないので正常品と判定された対象避雷装置である。
【0026】
なお、理論上は、対象避雷装置が正常品であれば、基準値と対象値は同じ値、すなわち、基準値と対象値の差異(対象値/基準値)の値は1になるはずである。しかしながら、等価直列抵抗の周波数特性の測定値(対象値)は、ローパスフィルタを通して平滑化してもバラツキが残っているため、差異の値は周波数によって1より大きい値となるところもある。このように、バラツキが原因で差異の値が1より大きい値となる場合に、その対象避雷装置を故障品と判定しないように、閾値を用いるものであり、この閾値は、正常品の等価直列抵抗の周波数特性の測定値(対象値)のバラツキが吸収されるような最小限の値として、種々の実験・実証に基づき経験的に定められるものである。
【0027】
このような本発明の避雷装置の故障判定方法の第一実施形態によれば、避雷装置の等価回路を表す理論式から避雷装置の等価直列抵抗の周波数特性を求めたものを故障判定の基準値としており、従来基準値としていた正常品の避雷装置の等価直列抵抗の周波数特性の測定値と比較して、値にバラツキがない。これは、図3に示すグラフからも明らかである。そして、このように値にバラツキがない基準値を用いることにより、故障判定の精度が向上するものである。
【0028】
ここで、実際に従来の故障判定方法と本発明の故障判定方法を実行して、その精度を比較した結果を示す。試験的に故障させた対象避雷装置(サンプル数17)について、両方の方法で判定を行った。その結果、従来の故障判定方法では、故障判定率は76%(13/17)であったのに対し、本発明の故障判定方法では、故障判定率は100%(17/17)であった。このように、本発明の故障判定方法により、故障判定の精度が向上することが確認された。
【0029】
なお、本発明の故障判定方法は、対象避雷装置が正常品であるか故障品であるかを判定するものであって、故障品が、全部の避雷素子が故障した完全故障品であるか、一部の避雷素子が故障した部分故障品があるかについては判定しないものであるが、実用上はそれで差し支えない。なぜなら、完全故障品であれば、ほとんどの場合、避雷素子だけでなく外管も損傷しているので、本発明の故障判定方法を用いるまでもないのであり、外管には損傷がない場合において、内部の避雷素子が損傷しているもの(=部分故障品)であるか損傷していないもの(=正常品)であるかを判定できれば十分だからである。
【0030】
次に、本発明の避雷装置の故障判定装置について説明する。本発明の故障判定装置は、上記のような避雷装置の故障判定方法に基づき、避雷素子を直列接続して外管に納めた避雷装置について正常品であるか故障品であるかを判定するものである。図7に示すように、この故障判定装置2は、基準値算出手段21と、対象値測定手段22と、平滑化手段23と、プロット手段24と、比較手段25と、判定手段26を備える。ただし、基準値算出手段21、プロット手段24、比較手段25および判定手段26については、1台のコンピュータCがそれぞれの手段として機能するものである。
【0031】
コンピュータCは、キーボードやマウス等からなる入力装置、ディスプレイ等からなる出力装置、プログラムの命令を順番に実行するCPU、プログラムやプログラムの実行に必要なデータおよび計算結果等を保存しておく記憶装置Mを構成要素とする標準的なものである(記憶装置M以外の構成要素は図示省略する)。
【0032】
対象値測定手段22は、インピーダンスアナライザにより構成されるものであって、対象避雷装置1aの端子に接続するプローブを有しており、出力端が、平滑化手段23に接続されている。そして、対象値測定手段22は、対象避雷装置1aの等価直列抵抗の周波数特性を測定して対象値とし、対象値のデータを平滑化手段23へと出力するものである。
【0033】
平滑化手段23は、ローパスフィルタにより構成されるものであって、入力端が、対象値測定手段22に接続されており、出力端が、コンピュータCに接続されている。そして、平滑化手段23は、入力された対象値のデータについて、高周波成分をカットして平滑化し、コンピュータCへと出力するものである。
【0034】
以上が、本発明の避雷装置の故障判定装置の構成である。そして、コンピュータCにおいて、避雷装置の故障判定プログラムを実行させることにより、装置が動作して、本発明の避雷装置の故障判定方法に基づき、避雷素子を直列接続して外管に納めた避雷装置について正常品であるか故障品であるかを判定するものである。
【0035】
より詳しくは、このプログラムをコンピュータCに実行させた場合、各ステップ(基準値算出ステップ、対象値測定ステップ、平滑化ステップ、プロットステップ、比較ステップ、判定ステップ)が実行されることで、コンピュータCが各種の手段(基準値算出手段21、プロット手段24、比較手段25、判定手段26)として機能し、その他の手段(対象値測定手段22、平滑化手段23)とともに故障判定を行う。
【0036】
このプログラムを実行すると、まず基準値算出ステップが実行され、コンピュータCが、基準値算出手段21として機能する。基準値算出手段21は、正常品の避雷装置の各構成要素のパラメータ(周波数特性)の測定値の入力を受け付ける。入力は、コンピュータCに接続された測定器(インピーダンスアナライザなど)により測定されたデータが取り込まれるものであってもよいし、別途測定され記憶媒体に保存されたデータが読み込まれるものであってもよいし、別途測定されたデータが入力装置により手入力されるものであってもよい。入力された測定値は、記憶装置Mに保存される。そして、基準値算出手段21は、記憶装置Mから、測定値および予め保存された式(1)~(3)を読み込み、測定値を各式に代入して、避雷装置の等価回路の等価直列抵抗の周波数特性を求め、これを基準値とする。基準値は、記憶装置Mに保存される。
【0037】
次に、対象値測定ステップおよび平滑化ステップが実行され、コンピュータCが、対象値測定手段22により測定される対象値のデータの入力を受け付ける。ただし、対象値のデータは、平滑化手段23により平滑化されたものが入力される。入力された対象値は、記憶装置Mに保存される。なお、平滑化手段23としてのローパスフィルタは、コンピュータC上にソフトウェアとして実装されたものであってもよく、その場合、対象値のデータがコンピュータCに入力された後、平滑化ステップが実行されて対象値のデータが平滑化される。
【0038】
次に、プロットステップが実行され、コンピュータCが、プロット手段24として機能する。プロット手段24は、記憶装置Mから、基準値および対象値を読み込み、コンピュータCの出力装置(ディスプレイ)にグラフとして表示する。
【0039】
次に、比較ステップが実行され、コンピュータCが、比較手段25として機能する。比較手段25は、記憶装置Mから、基準値および対象値を読み込み、データがある周波数ごとに、対象値を基準値で割った値(対象値/基準値)を算出し、これを基準値と対象値の差異として、記憶装置Mに保存する。
【0040】
次に、判定ステップが実行され、コンピュータCが、判定手段26として機能する。判定手段26は、記憶装置Mから、基準値と対象値の差異を読み込み、広帯域において、基準値と対象値の差異が予め定められた閾値を超える点が1点でもあれば、その対象避雷装置を故障品と判定し、基準値と対象値の差異が閾値を超える点がなければ、その対象避雷装置を正常品と判定する。判定結果は、記憶装置Mに保存されるとともに、コンピュータCの出力装置に表示される。以上で、プログラムが終了し、故障判定装置による故障判定が完了する。
【0041】
なお、算出された基準値は、同じ型式の避雷装置については共通して用いることができるものであるから、過去に基準値を算出済みの型式の避雷装置について故障判定を行う場合には、基準値算出ステップを省略して、対象値測定ステップ以降を実行すればよい。
【0042】
また、この避雷装置の故障判定プログラムは、専用のソフトウェアとして実行されるものであっても、汎用の表計算ソフトウェアなどの上で実行されるものであってもよいし、別のプログラムやシステムに組み込まれたものであってもよい。
【0043】
このように、本発明の避雷装置の故障判定装置によれば、判定対象である対象避雷装置の等価直列抵抗の周波数特性を測定するだけで、上記の避雷装置の故障判定方法により、対象が正常品であるか故障品であるかを容易かつ高い精度で判定できる。
【0044】
次に、本発明の避雷装置の故障判定方法の第二実施形態について説明する。第二実施形態も、避雷素子を直列接続して外管に納めた避雷装置について正常品であるか故障品であるかを判定するものであるが、第一実施形態と比較して、基準値の求め方が異なる。すなわち、第一実施形態は、避雷装置の等価回路を表す理論式から避雷装置の等価直列抵抗の周波数特性を求めて基準値とする基準値算出過程を有するものであるが、第二実施形態は、この基準値算出過程に替えて、正常品の避雷装置の等価直列抵抗の周波数特性を測定し、測定値の近似曲線を求めて基準値とする基準値測定過程を有するものである。第二実施形態において、基準値測定過程以降の、対象値測定過程、比較過程および判定過程については、第一実施形態と同じである。よって、以下においては、第一実施形態と異なる基準値測定過程についてのみ説明する。
【0045】
第二実施形態において実行される基準値測定過程では、正常品の避雷装置の等価直列抵抗の周波数特性を測定し、測定値の近似曲線を求めて基準値とする。測定は、インピーダンスアナライザにより、広帯域(たとえば、1kHz~1MHz)にわたって行われるものである。また、近似曲線は、最小二乗法により求める。図3に示すように、等価直列抵抗の周波数特性は、両対数グラフ上において右下がりの直線に近いものとなっており、すなわち、累乗近似が最も相関が高く、近似曲線はy=axの形となる。係数a,bは、各測定点と近似曲線の差の二乗和が最小になるように定められる。ただし、測定値(y)に精度の悪い測定結果であるマイナス値が含まれていると、y=axの形で表せないので、その場合は、マイナスの測定値yと対応する周波数xを除外して、近似曲線を求める。図8に示すのは、正常品の避雷装置の等価直列抵抗の周波数特性の測定値と、その測定値について上記方法により求めた近似曲線(基準値)を示すグラフである。
【0046】
このようにして求めた基準値により、後は第一実施形態と同様に故障判定が行われる。そして、このような本発明の避雷装置の故障判定方法の第二実施形態によれば、正常品の避雷装置の等価直列抵抗の周波数特性を測定し、測定値の近似曲線を求めたものを故障判定の基準値としており、従来基準値としていた正常品の避雷装置の等価直列抵抗の周波数特性の測定値と比較して、値にバラツキがないので、故障判定の精度が向上する。
【0047】
また、このような故障判定方法の第二実施形態についても、第一実施形態と同様に、故障判定装置により、その方法が実行されるものであって、さらにその際には、コンピュータにおいて故障判定プログラムが実行される。装置およびプログラムにおいても、第一実施形態における場合と異なるのは、基準値の求め方の部分のみであり、その差異は、方法における差異と同様のものであるから、説明は省略する。
【0048】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨の範囲内で適宜変更できる。たとえば、故障判定の対象となる避雷装置は、上記の構造のものに限られず、一部の構成要素がないものであってもよい。その場合、第一実施形態では、式(1)~(3)において、対応するパラメータの値を0にすればよい。また、上記実施形態では、判定過程において、広帯域で基準値と対象値の差異が閾値を超える点があるか否かで判定しているが、それに替えて、特定の周波数または周波数帯域で差異が閾値を超える点があるか否かで判定してもよいし、数点または全点の差異の合計値が閾値を超えるか否かで判定してもよい。さらに、第二実施形態において、測定値の近似曲線を求める手法としては、既知の種々の手法を用いることができる。
【符号の説明】
【0049】
1 避雷装置
11 避雷素子
12 仕切板
13 スペーサ
14 押圧部材
15 端子
151 基部
152 接続部
16 外管
161 突起
2 故障判定装置
21 基準値算出手段
22 対象値測定手段
23 平滑化手段
24 プロット手段
25 比較手段
26 判定手段

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8