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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】無段変速機の変速制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20230214BHJP
   F16H 59/14 20060101ALI20230214BHJP
   F16H 61/66 20060101ALI20230214BHJP
   F16H 59/04 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
F16H61/02
F16H59/14
F16H61/66
F16H59/04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019045404
(22)【出願日】2019-03-13
(65)【公開番号】P2020148243
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100122770
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】山本 宇紘
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 旭
(72)【発明者】
【氏名】和田 幸生
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 朋宏
(72)【発明者】
【氏名】黒田 恭亮
【審査官】稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-047447(JP,A)
【文献】特開昭62-166119(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者によるアクセルの操作量を検出するアクセル操作量検出手段と、
車両の速度を検出する車速検出手段と、
前記アクセル操作量に応じて、運転者の要求トルクを取得する要求トルク取得手段と、
前記アクセル操作量又は要求トルク、及び、前記車両の速度又は入力回転数に基づいて、目標変速比を設定して、変速比を制御する変速制御手段と、を備え、
前記変速制御手段は、前記要求トルクの変化値を求め、該要求トルクの変化値が無段変速機から異音が発生し得る第1しきい値以上の場合に、該第1しきい値未満の場合と比較して、変速速度がより緩やかになるように目標変速比を設定することを特徴とする無段変速機の変速制御装置。
【請求項2】
無段変速機の変速比を取得する変速比取得手段と、
運転者によるアクセルの操作量を検出するアクセル操作量検出手段と、
車両の速度を検出する車速検出手段と、
前記アクセル操作量に応じて、運転者の要求トルクを取得する要求トルク取得手段と、
前記アクセル操作量又は要求トルク、及び、前記車両の速度又は入力回転数に基づいて、目標変速比を設定して、変速比を制御する変速制御手段と、を備え、
前記変速制御手段は、前記変速比の変化値を求め、該変速比の変化値が前記無段変速機から異音が発生し得る第2しきい値以上の場合に、該第2しきい値未満の場合と比較して、変速速度がより緩やかになるように目標変速比を設定することを特徴とする無段変速機の変速制御装置。
【請求項3】
無段変速機の変速比を取得する変速比取得手段と、
運転者によるアクセルの操作量を検出するアクセル操作量検出手段と、
車両の速度を検出する車速検出手段と、
前記アクセル操作量に応じて、運転者の要求トルクを取得する要求トルク取得手段と、
前記アクセル操作量又は要求トルク、及び、前記車両の速度又は入力回転数に基づいて、目標変速比を設定して、変速比を制御する変速制御手段と、を備え、
前記変速制御手段は、前記要求トルクの変化値及び前記変速比の変化値を求め、前記要求トルクの変化値が前記無段変速機から異音が発生し得る第1しきい値以上であり、かつ、前記変速比の変化値が前記無段変速機から異音が発生し得る第2しきい値以上の場合に、変速速度がより緩やかになるように目標変速比を設定することを特徴とする無段変速機の変速制御装置。
【請求項4】
前記変速制御手段は、変速速度がより緩やかになるように目標変速比を設定する際に、アクセル操作量又は要求トルクと、車速又は入力回転数と、目標変速比との関係が定められた目標変速比マップを、通常制御時の目標変速比マップから、変速速度がより緩やかになるように設定された目標変速比マップに切り替えることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の無段変速機の変速制御装置。
【請求項5】
前記変速制御手段は、前記車両の速度が所定速度以上の場合には、判断条件が満足されたとしても、変速速度がより緩やかになるように目標変速比を設定することを禁止することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の無段変速機の変速制御装置。
【請求項6】
前記変速制御手段は、運転者の手動変速操作に応じて変速比を変更するマニュアルシフトモードが選択されているときには、判断条件が満足されたとしても、変速速度がより緩やかになるように目標変速比を設定することを禁止することを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の無段変速機の変速制御装置。
【請求項7】
前記変速制御手段は、無段変速機の油温に応じて、前記第1しきい値、及び/又は、前記第2しきい値を補正することを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の無段変速機の変速制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される無段変速機の変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の自動変速機として、変速比を無段階に変更でき、変速ショックがなく、かつ燃費を改善することができるベルト式の無段変速機(CVT)が広く実用化されている(例えば、特許文献1参照)。ここで、ベルト式の無段変速機は、入力軸に設けられるプライマリプーリ(ドライブプーリ)と、出力軸に設けられるセカンダリプーリ(ドリブンプーリ)と、これらのプーリに掛け渡されるベルトとを有し、それぞれのプーリの溝幅を変化させてベルトの巻き掛け径を変化させることによって、変速比を無段階に変化させている。なお、ベルトには、例えば、チェーン、金属ベルト、及び、乾式複合ベルト等を含む。このような無段変速機では、例えば、アクセル開度と車速(又はエンジン回転数)などの車両の運転状態を示すパラメータに応じて目標変速比が設定され、変速比が制御される。
【0003】
また、ベルト式の無段変速機では、エンジンで発生された駆動力がベルトを介してプライマリプーリからセカンダリプーリへ伝達される。ここで、プライマリプーリとセカンダリプーリとに付与されるプーリ側圧(クランプ力)は、ベルトにより伝達されるエンジントルクに応じて制御される(例えば、特許文献2参照)。その際に、プーリ側圧が不足すると、ベルトが滑って動力伝達に支障をきたすとともに、ベルトの耐久性劣化を招いてしまう。逆に、プーリ側圧が過剰になると油圧源側の負荷の増大を招き、ひいては車両の燃費を悪化させる要因となる。そのため、無段変速機のプーリ側圧は、ベルトの滑りを生じさせることなく、かつ過剰とならないように制御する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-125072号公報
【文献】特開2001-208183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、無段変速機では、特定の運転領域において異音が発生することがある。そのため、ドライバビリティを悪化させることなく、特定の運転領域で発生し得る異音の発生を防止することが望まれていた。
【0006】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、特定の運転領域で発生し得る異音の発生防止と、ドライバビリティとを両立することが可能な無段変速機の変速制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者達は、上記の問題点につき鋭意検討を重ねた結果、上記異音は、例えば、伝達トルクが大きく、かつ、変速速度が速い運転領域において、バリエータのチェーンを構成するロッカピンとプーリコーン面との間で微小な滑りが発生し、それが起振力となってチェーンやプーリを振動させるため、異音(ノイズ)が発生するとの知見を得た。また、発明者達は、プーリの剛性、伝達トルク、ロッカピンの端面角、クランプ力(油圧)、変速速度、オイルの特性などが異音発生に影響を与える因子であるとの知見を得た。
【0008】
そこで、本発明に係る無段変速機の変速制御装置は、運転者によるアクセルの操作量を検出するアクセル操作量検出手段と、車両の速度を検出する車速検出手段と、アクセル操作量に応じて、運転者の要求トルクを取得する要求トルク取得手段と、アクセル操作量又は要求トルク、及び、車両の速度又は入力回転数に基づいて、目標変速比を設定して、変速比を制御する変速制御手段とを備え、変速制御手段が、要求トルクの変化値を求め、該要求トルクの変化値が第1しきい値以上の場合に、該第1しきい値未満の場合と比較して、変速速度がより緩やかになるように目標変速比を設定することを特徴とする。
【0009】
本発明に係る無段変速機の変速制御装置によれば、要求トルクの変化値が求められ、該要求トルクの変化値が第1しきい値以上の場合に、該第1しきい値未満の場合と比較して、変速速度がより緩やかになるように目標変速比が設定される。そのため、異音が発生し得る運転領域(要求トルクの変化値が大きい領域)では、変速速度が緩やかにされることにより、異音の発生が防止される。一方、異音が発生しない運転領域では変速速度が緩やかにされない、すなわち変速速度が変わらないため、ドライバビリティの悪化を抑制することができる。その結果、特定の運転領域で発生し得る異音の発生防止と、ドライバビリティとを両立することが可能となる。
【0010】
本発明に係る無段変速機の変速制御装置は、無段変速機の変速比を取得する変速比取得手段と、運転者によるアクセルの操作量を検出するアクセル操作量検出手段と、車両の速度を検出する車速検出手段と、アクセル操作量に応じて、運転者の要求トルクを取得する要求トルク取得手段と、アクセル操作量又は要求トルク、及び、車両の速度又は入力回転数に基づいて、目標変速比を設定して、変速比を制御する変速制御手段とを備え、変速制御手段が、変速比の変化値を求め、該変速比の変化値が第2しきい値以上の場合に、該第2しきい値未満の場合と比較して、変速速度がより緩やかになるように目標変速比を設定することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る無段変速機の変速制御装置によれば、変速比の変化値が求められ、該変速比の変化値が第2しきい値以上の場合に、該第2しきい値未満の場合と比較して、変速速度がより緩やかになるように目標変速比が設定される。そのため、異音が発生し得る運転領域(変速比の変化値が大きい領域)では、変速速度が緩やかにされることにより、異音の発生が防止される。一方、異音が発生しない運転領域では変速速度が緩やかにされない、すなわち変速速度が変わらないため、ドライバビリティの悪化を抑制することができる。その結果、特定の運転領域で発生し得る異音の発生防止と、ドライバビリティとを両立することが可能となる。
【0012】
本発明に係る無段変速機の変速制御装置は、無段変速機の変速比を取得する変速比取得手段と、運転者によるアクセルの操作量を検出するアクセル操作量検出手段と、車両の速度を検出する車速検出手段と、アクセル操作量に応じて、運転者の要求トルクを取得する要求トルク取得手段と、アクセル操作量又は要求トルク、及び、車両の速度又は入力回転数に基づいて、目標変速比を設定して、変速比を制御する変速制御手段とを備え、変速制御手段が、要求トルクの変化値及び変速比の変化値を求め、要求トルクの変化値が第1しきい値以上であり、かつ、変速比の変化値が第2しきい値以上の場合に、変速速度がより緩やかになるように目標変速比を設定することを特徴とする。
【0013】
本発明に係る無段変速機の変速制御装置によれば、要求トルクの変化値及び変速比の変化値が求められ、要求トルクの変化値が第1しきい値以上であり、かつ、変速比の変化値が第2しきい値以上の場合に、変速速度がより緩やかになるように目標変速比が設定される。そのため、異音が発生し得る運転領域(要求トルクの変化値が大きく、かつ、変速比の変化値が大きい領域)では、変速速度が緩やかにされることにより、異音の発生が防止される。一方、異音が発生しない運転領域では変速速度が緩やかにされない、すなわち変速速度が変わらないため、ドライバビリティの悪化を抑制することができる。特に、この場合、異音の発生条件をより限定することができるため、変速速度が緩やかにされる運転領域をより限定することができる。その結果、特定の運転領域で発生し得る異音の発生防止と、ドライバビリティとをより高いレベルで両立することが可能となる。
【0014】
本発明に係る無段変速機の変速制御装置では、変速制御手段が、変速速度がより緩やかになるように目標変速比を設定する際に、アクセル操作量又は要求トルクと、車速又は入力回転数と、目標変速比との関係が定められた目標変速比マップを、通常制御時の目標変速比マップから、変速速度がより緩やかになるように設定された目標変速比マップに切り替えることが好ましい。
【0015】
このようにすれば、アクセル操作量又は要求トルクと、車速又は入力回転数と、目標変速比との関係が定められた目標変速比マップを、通常制御時の目標変速比マップから、変速速度がより緩やかになるように設定された目標変速比マップに切り替えることにより、変速速度がより緩やかになるように目標変速比を設定することができる。
【0016】
本発明に係る無段変速機の変速制御装置では、変速制御手段が、車両の速度が所定速度以上の場合には、判断条件(異音発生判断条件すなわち変速速度を緩やかにするか否かの判断条件)が満足されたとしても、変速速度がより緩やかになるように目標変速比を設定することを禁止することが好ましい。
【0017】
ところで、車速が高くなるほど、ロードノイズやエンジンノイズ等のノイズが大きくなる。すなわち、車速が所定速度以上の高車速領域では、ロードノイズやエンジンノイズ等が大きくなり、上記異音に対する違和感が相対的に低下する。よって、車速が高く、ロードノイズ等が大きくなる領域では、変速速度が緩やかになるように目標変速比を設定することを禁止する(実行しない)ことにより、変速速度の低下(すなわちドライバビリティの悪化)を回避することができる。
【0018】
本発明に係る無段変速機の変速制御装置では、変速制御手段が、運転者の手動変速操作に応じて変速比を変更するマニュアルシフトモードが選択されているときには、判断条件(異音発生判断条件すなわち変速速度を緩やかにするか否かの判断条件)が満足されたとしても、変速速度がより緩やかになるように目標変速比を設定することを禁止することが好ましい。
【0019】
ところで、運転者の手動変速操作に応じて変速比を変更するマニュアルシフトモードが選択されているときには、運転者が求める動力性能の確保を優先することが好ましい。よって、マニュアルシフトモードが選択されているときには、判断条件が満足されたとしても、変速速度が緩やかになるように目標変速比を設定することを禁止する(実行しない)ことにより、変速速度の低下(すなわちドライバビリティの悪化)を回避することができる。
【0020】
本発明に係る無段変速機の変速制御装置では、変速制御手段が、無段変速機の油温に応じて、第1しきい値、及び/又は、第2しきい値を補正することが好ましい。
【0021】
ところで、異音の発生条件は、無段変速機の油温、すなわち、潤滑状態の影響を受け得る。そこで、無段変速機の油温に応じて、第1しきい値、及び/又は、第2しきい値を補正することにより、より適切に異音の発生条件を判定することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、特定の運転領域で発生し得る異音の発生防止と、ドライバビリティとを両立することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施形態に係る無段変速機の変速制御装置の構成を、無段変速機の構成と共に示すブロック図である。
図2】実施形態に係る無段変速機の変速比設定を示す図である。
図3】通常制御時の変速線(目標変速比の遷移)、及び、異音発生判断条件が満足されたときの変速線(目標変速比の遷移)を示す図である。
図4】異音防止用目標変速比マップの概要を示す図である。
図5】実施形態に係る無段変速機の変速制御装置による変速制御(異音防止目標変速比設定処理)の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図中、同一又は相当部分には同一符号を用いることとする。また、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0025】
まず、図1を用いて、実施形態に係る無段変速機の変速制御装置1の構成について説明する。図1は、無段変速機の変速制御装置1、及び、該変速制御装置1が適用された無段変速機30の構成を示すブロック図である。
【0026】
無段変速機30は、車両の運転状態に応じて変速比を自動的かつ無段階に変速する無段変速機である。無段変速機30は、エンジン10の出力軸15に接続され、エンジン10からの駆動力を変換して出力する。
【0027】
無段変速機30は、クラッチ機能とトルク増幅機能を持つトルクコンバータ20及びリダクションギヤ31を介してエンジン10の出力軸15と接続されるプライマリ軸32と、該プライマリ軸32と平行に配設されたセカンダリ軸37とを有している。
【0028】
プライマリ軸32には、プライマリプーリ34が設けられている。プライマリプーリ34は、プライマリ軸32に接合された固定プーリ34aと、該固定プーリ34aに対向して、プライマリ軸32の軸方向に摺動自在に装着された可動プーリ34bとを有し、それぞれのプーリ34a,34bのコーン面間隔、すなわちプーリ溝幅を変更できるように構成されている。一方、セカンダリ軸37には、セカンダリプーリ35が設けられている。セカンダリプーリ35は、セカンダリ軸37に接合された固定プーリ35aと、該固定プーリ35aに対向して、セカンダリ軸37の軸方向に摺動自在に装着された可動プーリ35bとを有し、プーリ溝幅を変更できるように構成されている。
【0029】
プライマリプーリ34とセカンダリプーリ35との間には駆動力を伝達するチェーン36が掛け渡されている。プライマリプーリ34及びセカンダリプーリ35の溝幅を変化させて、各プーリ34,35に対するチェーン36の巻き掛け径の比率(プーリ比)を変化させることにより、変速比が無段階に変更される。ここで、チェーン36のプライマリプーリ34に対する巻き掛け径をRpとし、セカンダリプーリ35に対する巻き掛け径をRsとすると、変速比iは、i=Rs/Rpで表される。よって、変速比iは、プライマリプーリ回転数Npをセカンダリプーリ回転数Nsで除算する(i=Np/Ns)ことにより求められる。
【0030】
ここでプライマリプーリ34(可動プーリ34b)には油圧室34cが形成されている。一方、セカンダリプーリ35(可動プーリ35b)には油圧室35cが形成されている。プライマリプーリ34、セカンダリプーリ35それぞれの溝幅は、プライマリプーリ34の油圧室34cに導入されるプライマリ油圧と、セカンダリプーリ35の油圧室35cに導入されるセカンダリ油圧とを調節することにより設定・変更される。
【0031】
無段変速機30を変速させるための油圧、すなわち、上述したプライマリ油圧及びセカンダリ油圧は、バルブボディ(コントロールバルブ)50によってコントロールされる。バルブボディ50は、スプールバルブと該スプールバルブを動かすソレノイドバルブ(電磁弁)を用いてバルブボディ50内に形成された油路を開閉することで、オイルポンプから吐出された油圧を調整して、プライマリプーリ34の油圧室34c及びセカンダリプーリ35の油圧室35cに供給する。また、バルブボディ50は、例えば、車両の前進/後進を切替える前後進切替機構等にも油圧を供給する。
【0032】
無段変速機30の変速制御は、トランスミッション制御装置(以下「TCU」という)40によって実行される。すなわち、TCU40は、上述したバルブボディ50を構成するソレノイドバルブ(電磁弁)の駆動を制御することにより、プライマリプーリ34の油圧室34c及びセカンダリプーリ35の油圧室35cに供給する油圧を調節して、無段変速機30の変速比を変更する。
【0033】
ここで、TCU40には、例えばCAN(Controller Area Network)100を通して、エンジン10を総合的に制御するエンジン制御装置(以下「ECU」という)60等と相互に通信可能に接続されている。
【0034】
ECU60には、アクセルペダルの踏み込み量(操作量)すなわちアクセルペダルの開度を検出するアクセルペダルセンサ62(特許請求の範囲に記載のアクセル操作量検出手段に相当)が接続されている。また、ECU60には、クランクシャフトの回転位置を検出するクランク角センサ12、吸入空気量を検出するエアフローメータ、エンジンの冷却水の温度を検出する水温センサ、空燃比センサ等の各種センサも接続されている。
【0035】
ここで、ECU60では、カム角センサの出力から気筒が判別され、クランク角センサ12の出力からエンジン回転数が求められる。また、ECU60では、上述した各種センサから入力される検出信号に基づいて、吸入空気量、アクセル開度、混合気の空燃比、及びエンジンの水温等の各種情報が取得される。そして、ECU60は、取得したこれらの各種情報に基づいて、燃料噴射量や点火時期、電子制御式スロットルバルブ等の各種デバイスを制御することによりエンジン10を総合的に制御する。また、ECU60では、アクセル開度に応じて運転者の要求トルクが取得される。すなわち、ECU60は、特許請求の範囲に記載の要求トルク取得手段として機能する。ECU60は、エンジン回転数や、アクセル開度、要求トルク等の情報を、CAN100を介してTCU40に送信する。なお、上述した要求トルクの演算はTCU40側で行ってもよい。
【0036】
一方、TCU40には、無段変速機30の出力軸(セカンダリ軸37)近傍に取り付けられ、該出力軸の回転数を検出する出力軸回転センサ58、プライマリプーリ34の回転数を検出するプライマリプーリ回転数センサ57、トルクコンバータ20のタービン回転数を検出するタービン回転数センサ56等が接続されている。
【0037】
ここで、車両のフロア等には、運転者による、自動変速モード(「D」レンジ)と手動変速モード(「M」レンジ)とを択一的に切り換える操作を受付けるシフトレバー(セレクトレバー)51が設けられている。シフトレバー51には、シフトレバー51と連動して動くように接続され、該シフトレバー51の選択位置を検出するレンジスイッチ59が取り付けられている。レンジスイッチ59は、TCU40に接続されており、検出されたシフトレバー51の選択位置が、TCU40に読み込まれる。なお、シフトレバー51では、「D」レンジ、「M」レンジの他、パーキング「P」レンジ、リバース「R」レンジ、ニュートラル「N」レンジを選択的に切り換えることができる。
【0038】
シフトレバー51には、該シフトレバー51が「M」レンジ側に位置するとき、すなわち運転者の変速操作に従って変速比が切り替えられる手動変速モードが選択されたときにオンになり、シフトレバー51が「D」レンジ側に位置するとき、すなわち車両の運転状態に応じて変速比が自動的に変更される自動変速モードが選択されたときにオフになるMレンジスイッチ52が組み込まれている。Mレンジスイッチ52もTCU40に接続されている。
【0039】
一方、ステアリングホイール53の後側には、手動変速モード時に、運転者による変速操作(変速要求)を受付けるためのプラス(+)パドルスイッチ54及びマイナス(-)パドルスイッチ55が設けられている(以下、プラスパドルスイッチ54及びマイナスパドルスイッチ55を総称して「パドルスイッチ54,55」ということもある)。プラスパドルスイッチ54は手動でアップシフトする際に用いられ、マイナスパドルスイッチ55は手動でダウンシフトする際に用いられる。プラスパドルスイッチ54及びマイナスパドルスイッチ55は、TCU40に接続されており、パドルスイッチ54,55から出力された、該パドルスイッチ54,55のスイッチ信号はTCU40に読み込まれる。
【0040】
TCU40は、演算を行うマイクロプロセッサ、該マイクロプロセッサに各処理を実行させるためのプログラムや変速マップ(目標変速比マップ)等を記憶するEEPROM、演算結果などの各種データを記憶するRAM、バッテリによってその記憶内容が保持されるバックアップRAM、及び入出力I/F等を有して構成されている。
【0041】
TCU40は、自動変速モードが選択されているときには、変速マップに従い、車両の運転状態、例えば、スロットル開度(又は要求トルク)や車速(又は入力回転数:エンジン回転数、タービン回転数)等に応じて自動で変速比を無段階に変速する。なお、自動変速モードに対応する変速マップはTCU40内のEEPROMに格納されている。ここで、エンジン回転数と車速との関係を示す変速特性線図を図2に示す。図2において、横軸は車速(km/h)であり、縦軸はエンジン回転数(rpm)である。なお、8本の実線それぞれは、変速比を一定にした場合のエンジン回転数と車速との関係(すなわち、手動変速モード時の変速比特性)を示す。自動変速モードでは、図2に示された第1速(ロー)と第8速(オーバードライブ)との間(図2において破線で画成された領域)の任意の変速比が車両の運転状態に応じて自動的に設定される。一方、TCU40は、手動変速モードが選択されているときには、パドルスイッチ54,55により受け付けられた変速操作に基づいて、変速比を制御する。
【0042】
特に、TCU40は、特定の運転領域、例えば、伝達トルクが大きく、かつ、変速速度が速い運転領域で発生し得る異音の発生防止と、ドライバビリティ(変速速度)とを両立する機能を有している。そのため、TCU40は、制御パラメータ取得部41、及び、変速制御部42を機能的に有している。TCU40では、EEPROMに記憶されているプログラムがマイクロプロセッサによって実行されることにより、制御パラメータ取得部41、及び、変速制御部42の各機能が実現される。
【0043】
制御パラメータ取得部41は、出力軸回転数センサ58の検出信号から出力軸回転数(車速)を取得する。すなわち、出力軸回転数センサ58及び制御パラメータ取得部41は、特許請求の範囲に記載の車速検出手段として機能する。なお、車速は、車輪に取り付けられた車輪速センサから取得する構成としてもよい。また、制御パラメータ取得部41は、プライマリプーリ回転数、セカンダリプーリ回転数(出力軸回転数)から変速比を取得する。すなわち、制御パラメータ取得部41は、特許請求の範囲に記載の変速比取得手段としても機能する。さらに、制御パラメータ取得部41は、ECU60から送信されたアクセル開度および要求トルクを、CAN100を介して読み込む。取得された各種制御パラメータは、変速制御部42に出力される。
【0044】
変速制御部42は、アクセル開度(又は要求トルク)、及び、車速(又は入力回転数:エンジン回転数、タービン回転数)に基づいて、無段変速機30の目標変速比を設定して、変速比を制御する。すなわち、変速制御部42は、特許請求の範囲に記載の変速制御手段として機能する。特に、変速制御部42は、特定の運転領域、例えば、伝達トルクが大きく、かつ、変速速度が速い運転領域で発生し得る異音の発生を防止するために、要求トルクの変化値(微分値、すなわち単位時間当たりの変化量)、及び、変速比の変化値(微分値、すなわち単位時間当たりの変化量)を求め、要求トルクの変化値(微分値)が第1しきい値以上であり、かつ、変速比の変化値(微分値)が第2しきい値以上の場合、すなわち、異音発生判断条件が満足された場合に、通常時よりも変速速度がより緩やかになるように目標変速比を設定する。一方、変速制御部42は、要求トルクの変化値(微分値)が第1しきい値未満の場合、及び/又は、変速比の変化値(微分値)が第2しきい値未満の場合には、通常の変速速度となるように、目標変速比を設定する。
【0045】
ここで、通常時の変速線(目標変速比の遷移)、及び、異音発生判断条件が満足されたときの変速線(目標変速比の遷移)を図3に示す。図3の横軸は時間であり、縦軸は変速比である。また、図3では、通常時の変速線(目標変速比の遷移)を破線で示し、異音発生判断条件が満足されたときの変速線(目標変速比の遷移)を実線で示した。図3に示されるように、異音発生判断条件が満足されたときには、通常時(異音発生判断条件が満足されていないとき)と比較して、ローに保持される時間(変速されない時間)が長くされ、及び/又は、変速比が変化する傾き(変速速度)が緩やかにされる。
【0046】
変速制御部42は、変速速度がより緩やかになるように目標変速比を設定する際に、アクセル開度(又は要求トルク)と、車速(又はエンジン回転数)と、目標変速比との関係が定められた目標変速比マップを、通常制御時の目標変速比マップから、変速速度がより緩やかになるように目標変速比が設定された異音防止用目標変速比マップに切り替える。ここで、異音防止用目標変速比マップの概要を図4示す。図4において、横軸は車速(km/h)(又はエンジン回転数(rpm))であり、縦軸はアクセル開度(deg)(又は要求トルク(Nm))である。異音防止用目標変速比マップでは、アクセル開度(又は要求トルク)と車速(又はエンジン回転数)との組み合わせ(格子点)毎に目標変速比が与えられている。この異音防止用目標変速比マップでは、通常時に用いる目標変速比マップと比較して、変速速度がより緩やかになるように目標変速比が設定されている。なお、変速制御部42では、アクセル開度(又は要求トルク)と車速(又はエンジン回転数)とに基づいてこの異音防止用目標変速比マップが検索されることにより無段変速機30の目標変速比が取得される。
【0047】
ただし、変速制御部42は、車速が所定速度以上の場合、すなわち、ロードノイズやエンジンノイズ等が大きくなり、異音に対する違和感が相対的に低下する場合には、上述した異音発生判断条件が満足されたとしても、変速速度がより緩やかになるように目標変速比を設定することを禁止する。よって、通常の変速速度で変速比が変更される。
【0048】
また、変速制御部42は、運転者の手動変速操作に応じて変速比を変更するマニュアルシフトモードが選択されているとき、すなわち、運転者が求める動力性能の確保を優先することが好ましいときには、異音発生判断条件が満足されたとしても、変速速度がより緩やかになるように目標変速比を設定することを禁止する。よって、通常の変速速度で変速比が変更される。
【0049】
なお、変速制御部42は、無段変速機30の油温に応じて(油温を考慮して)、上述した第1しきい値、及び/又は、第2しきい値を補正する(変更する)ことが好ましい。
【0050】
次に、図5を参照しつつ、無段変速機の変速制御装置1の動作について説明する。図5は、無段変速機の変速制御装置1による変速制御(異音防止目標変速比設定処理)の処理手順を示すフローチャートである。本処理は、TCU40において、所定時間毎(例えば10ms毎)に繰り返して実行される。
【0051】
まず、ステップS100では、出力軸回転数センサ58の検出信号から出力軸回転数(車速)が取得される。また、プライマリプーリ回転数、セカンダリプーリ回転数(出力軸回転数)から変速比が取得される。さらに、ECU60から送信されたアクセル開度および要求トルクが、CAN100を介して読み込まれる。
【0052】
次に、ステップS102では、運転者の手動変速操作に応じて変速比が変更されるマニュアルシフトモードが選択されているか否かについての判断が行われる。ここで、マニュアルシフトモードが選択されている場合には、ステップS110に処理が移行する。一方、マニュアルシフトモードが選択されていないときには、ステップS104に処理が移行する。
【0053】
ステップS104では、車速が所定速度以上か否かについての判断が行われる。ここで、車速が所定速度以上の場合には、ステップS110に処理が移行する。一方、車速が所定速度未満のときには、ステップS106に処理が移行する。
【0054】
ステップS106では、要求トルクの変化値(微分値dT/dt)、及び、変速比の変化値(微分値di/dt)が算出される。そして、続くステップS108において、要求トルクの変化値(微分値)が第1しきい値以上であり、かつ、変速比の変化値(微分値)が第2しきい値以上であるか否かについての判断、すなわち、異音発生判断条件が満足されているか否かについての判断が行われる。ここで、要求トルクの変化値(微分値)が第1しきい値以上であり、かつ、変速比の変化値(微分値)が第2しきい値以上である場合には、ステップS112に処理が移行する。一方、要求トルクの変化値(微分値)が第1しきい値未満のとき、及び/又は、変速比の変化値(微分値)が第2しきい値未満のときには、ステップS110に処理が移行する。
【0055】
ステップS110では、通常の目標変速比マップが選択され、通常の変速速度となるように、目標変速比が設定される。そのため、図3に破線で示されるように変速比が遷移する。その後、本処理から抜ける。
【0056】
一方、異音発生判断条件が満足された場合に、ステップS112では、変速速度がより緩やかになるように目標変速比が設定された異音防止用目標変速比マップが選択され、通常時よりも変速速度がより緩やかになるように目標変速比が設定される。そのため、図3に実線で示されるように変速比が遷移する。その後、本処理から抜ける。
【0057】
以上、詳細に説明したように、本実施形態によれば、要求トルクの変化値(微分値)が第1しきい値以上であり、かつ、変速比の変化値(微分値)が第2しきい値以上の場合に、変速速度がより緩やかになるように目標変速比が設定される。そのため、異音が発生し得る運転領域(要求トルクの変化値が大きく、かつ、変速比の変化値が大きい領域)では、変速速度が緩やかにされることにより、異音の発生が防止される。一方、異音が発生しない運転領域では変速速度が緩やかにされない、すなわち変速速度が変わらないため、ドライバビリティの悪化を抑制することができる。特に、この場合、異音の発生条件をより限定することができるため、変速速度が緩やかにされる運転領域をより限定することができる。その結果、特定の運転領域で発生し得る異音の発生防止と、ドライバビリティとを両立することが可能となる。
【0058】
本実施形態によれば、異音が発生し得る運転領域では、アクセル操作量(又は要求トルク)と、車速(又はエンジン回転数)と、目標変速比との関係が定められた目標変速比マップが、通常制御時の目標変速比マップから、変速速度がより緩やかになるように設定された異音防止用目標変速比マップに切り替えられるため、変速速度がより緩やかになるように目標変速比を設定することができる。
【0059】
本実施形態によれば、車速が高くロードノイズ等が大きくなる領域(すなわち、異音に対する違和感が相対的に低下する領域)では、異音発生判断条件が満足されたとしても、変速速度が緩やかになるように目標変速比を設定することが禁止されるため、変速速度の低下(すなわちドライバビリティの悪化)を回避することができる。
【0060】
また、本実施形態によれば、マニュアルシフトモードが選択されているとき(すなわち、運転者が求める動力性能の確保を優先することが好ましいとき)には、異音発生判断条件が満足されたとしても、変速速度が緩やかになるように目標変速比を設定することが禁止されるため、変速速度の低下(すなわちドライバビリティの悪化)を回避することができる。
【0061】
本実施形態によれば、無段変速機30の油温に応じて(油温を考慮して)、第1しきい値、及び/又は、第2しきい値が補正される(変更される)ため、より適切に異音の発生条件を判定することができる。
【0062】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、本発明をチェーン式の無段変速機(CVT)に適用したが、チェーン式の無段変速機に代えて、例えば、金属ベルト式の無段変速機等にも適用することができる。
【0063】
また、上記実施形態では、要求トルクの変化値(微分値)が第1しきい値以上であり、かつ、変速比の変化値(微分値)が第2しきい値以上の場合に、変速速度がより緩やかになるように目標変速比を設定する構成としたが、要求トルクの変化値が第1しきい値以上の場合に、変速速度がより緩やかになるように目標変速比を設定する構成としてもよい。同様に、変速比の変化値が第2しきい値以上の場合に、変速速度がより緩やかになるように目標変速比を設定する構成としてもよい。
【0064】
なお、上記実施形態では、要求トルクをECU60側で算出し、CAN100を介して受信する構成としたが、TCU40側で算出する構成としてもよい。また、上記実施形態では、無段変速機30を制御するTCU40とエンジン10を制御するECU60とを別々のハードウェアで構成したが、一体のハードウェアで構成してもよい。
【符号の説明】
【0065】
1 無段変速機の変速制御装置
10 エンジン
12 クランク角センサ
20 トルクコンバータ
30 無段変速機
34 プライマリプーリ
35 セカンダリプーリ
36 チェーン
40 TCU
41 制御パラメータ取得部
42 変速制御部
52 Mレンジスイッチ
54 プラスパドルスイッチ
55 マイナスパドルスイッチ
56 タービン回転数センサ
57 プライマリプーリ回転数センサ
58 出力軸回転数センサ
59 レンジスイッチ
60 ECU
62 アクセルペダルセンサ
100 CAN
図1
図2
図3
図4
図5