(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】評価方法及び評価装置
(51)【国際特許分類】
G01N 33/22 20060101AFI20230214BHJP
G01N 25/16 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
G01N33/22 A
G01N25/16 Z
(21)【出願番号】P 2019050332
(22)【出願日】2019-03-18
【審査請求日】2021-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000198318
【氏名又は名称】株式会社IHI検査計測
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】知恵 賢二郎
(72)【発明者】
【氏名】茂田 潤一
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-156228(JP,A)
【文献】特開2004-361368(JP,A)
【文献】特開2012-037221(JP,A)
【文献】米国特許第04976549(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/22
G01N 25/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粉炭を燃料として用いる微粉炭ボイラにおける燃焼灰の伝熱管面付着性を評価する評価方法であって、
前記微粉炭が亜瀝青炭を含み、
前記
燃焼灰の固形試料の加熱前の体積と、前記固形試料の加熱後の体積との相関に基づいて伝熱管面付着性を評価
し、
前記相関は、前記固形試料の前記加熱前の体積と前記固形試料の加熱後の体積との体積比率であり、
前記体積比率が所定の範囲外の場合に、膠着度を計測する膠着度計測工程を備えることを特徴とする評価方法。
【請求項2】
前記体積比率を算出する体積比率算出工程と、
前記体積比率に基づいて前記微粉炭の膠着度を推定する膠着度推定工程と
を備えることを特徴とする請求項1記載の評価方法。
【請求項3】
前記相関が既知でありかつ伝熱管面付着性が既知の微粉炭である比較炭の前記相関と、評価対象の微粉炭の前記相関とを比較することにより、伝熱管面付着性を評価することを特徴とする
請求項1記載の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、評価方法及び評価装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、石炭の燃焼灰の膠着度を測定することにより、伝熱管面付着性を評価する評価方法が開示されている。膠着度は、ラトラ試験機を用いて、焼結灰を回転させ、回転前の重量と回転後の重量とを比較することで求められる付着性の指標の一種である。このような特許文献1の伝熱管面付着性の評価方法は、一般に、瀝青炭に対して適用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、現在、ボイラ等においては、燃料として亜瀝青炭を用いることが考えられている。亜瀝青炭は、瀝青炭と比較して水分が多く、燃焼灰の付着性が高い傾向があり、付着性について選定時に評価する必要がある。しかしながら、従来の付着性の評価方法は、複雑な手順や特殊な装置を用いる必要があり、燃焼灰の付着性が高い亜瀝青炭について、簡易に付着性を評価する方法が存在せず、亜瀝青炭の選定に時間や手間がかかる。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、亜瀝青炭の付着性を容易に評価することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するための評価方法に係る第1の手段として、微粉炭を燃料として用いる微粉炭ボイラにおける燃焼灰の伝熱管面付着性を評価する評価方法であって、前記微粉炭が亜瀝青炭を含み、前記微粉炭の固形試料の加熱前の体積と、前記固形試料の加熱後の体積との相関に基づいて伝熱管面付着性を評価する、という構成を採用する。
【0007】
評価方法に係る第2の手段として、上記第1の手段において、前記相関は、前記固形試料の前記加熱前の体積と前記固形試料の加熱後の体積との体積比率である、という構成を採用する。
【0008】
評価方法に係る第3の手段として、上記第2の手段において、前記体積比率を算出する体積比率算出工程と、前記体積比率に基づいて前記微粉炭の膠着度を推定する膠着度推定工程とを備える、という構成を採用する。
【0009】
評価方法に係る第4の手段として、上記第2または第3の手段において、前記体積比率が所定の範囲外の場合に、膠着度を計測する膠着度計測工程を備える、という構成を採用する。
【0010】
評価方法に係る第5の手段として、上記第1または2の手段において、前記相関が既知でありかつ伝熱管面付着性が既知の微粉炭である比較炭の前記相関と、評価対象の微粉炭の前記相関とを比較することにより、伝熱管面付着性を評価する、という構成を採用する。
【0011】
評価装置に係る第1の手段として、微粉炭を燃料として用いる微粉炭ボイラにおける燃焼灰の伝熱管面付着性を評価する評価装置であって、前記微粉炭が亜瀝青炭を含み、前記微粉炭の固形試料の加熱前の体積と、前記固形試料の加熱後の体積との相関に基づいて伝熱管面付着性を評価する、という構成を採用する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、亜瀝青炭の固形試料について、加熱前と加熱後との体積の変化量に基づいて付着性を評価することが可能である。したがって、亜瀝青炭の選定時において、煩雑な試験や、専門的な装置を用いた試験を行うことなく、付着性を容易に評価可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る体積比率及び膠着度の温度ごとの変化を示すグラフである。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る評価装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係る評価方法を示すフローチャートである。
【
図4】本発明の第2実施形態に係る評価方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明に係る評価方法の一実施形態について説明する。
【0015】
本発明に係る評価方法は、微粉炭を燃焼させる微粉炭ボイラにおいて、燃焼時に発生した燃焼灰のボイラ内伝熱管面への付着のしやすさ(伝熱管面付着性)を予備的に評価する。このような評価方法は、微粉炭の原料である亜瀝青炭の選定時の基準として用いられる。
【0016】
まず、微粉炭の燃焼灰の付着性と、膠着度及び体積比率との相関について説明する。下表1は、付着性と膠着度と体積比率との相関を示す表である。
【0017】
【0018】
付着性は、表1に示すように、一般的に4段階に分類される。最も付着性が小さいものがNotであり、実際のボイラにおいて、伝熱管面に付着することが少なく、粒子の細かいパウダー状の灰となる性質を有している。次に付着性が小さいものがLowであり、実際のボイラにおいて、伝熱管面に付着するものの、容易に剥落する性質を有している。次に付着性が小さいものがMediumであり、実際のボイラにおいて、伝熱管面に付着すると共に作業者の手で崩すことが可能な性質を有している。そして、最も付着性が大きいものがHighであり、実際のボイラにおいて、伝熱管面に付着すると除去が難しい性質を有している。このうち、ボイラの燃料として使用に適しているのは、付着性がMedium以下の微粉炭である。すなわち、付着性がHighの微粉炭は、ボイラの燃料として適していない。なお、微粉炭の灰は、燃焼温度が高くなるほどに付着性が上昇する傾向が見られる。
【0019】
膠着度は、ラトラ試験を応用して焼結灰(石炭灰を一度所定の温度(1000,1050、1100、1150、1200℃など)で焼結して形成される試料)の固さを定量化した無次元数である。具体的には、焼結灰をラトラ試験機により回転し、ラトラ試験機に残留した焼結灰の重量を測定する。そして、回転後の焼結灰の残留重量を回転前の焼結灰の重量により除することで、膠着度が算出される。付着性は、特許第4244713号等に詳細に開示されているように、膠着度と相関性を有しており、回転後の焼結灰の残留重量が大きいほど高くなる。すなわち、膠着度は、値が大きいほど付着性が高く、値が小さいほど付着性が小さいことを示す指標である。このような膠着度は、例えば、0.2未満が付着性におけるNot、0.2~0.4が付着性におけるLow、0.4~0.8が付着性におけるMedium、0.8超過が付着性におけるHighと対応している。
【0020】
体積比率(相関)は、焼結灰の加熱前の体積と加熱後の体積との比率を示しており、加熱後の体積が小さいほど値が小さくなる無次元数である。このような体積比率は、
図1に示すように、温度が上昇するほど低下し、すなわち、膠着度が上昇するほど低下する傾向を示している。そして、膠着度が既知の複数の試料の体積比率の平均は、表1に示すように、膠着度0.2のときに0.98、膠着度0.4のときに0.96、膠着度0.6のときに0.94、膠着度0.8のときに0.91程度となる。すなわち、体積比率を測定することにより、膠着度の傾向を推定することが可能である。
【0021】
[第1実施形態]
続いて、本発明の第1実施形態に係る評価方法を実行する評価装置1について説明する。
評価装置1は、
図2に示すように、画像認識部2と、体積算出部3と、体積比率算出部4と、膠着度推定部5と、付着性判定部6とを備えている。なお、評価装置1は、例えばコンピュータの一機能として実装されており、CPU、メモリ、記憶媒体、ディスプレイ及び入力装置等が連携されることにより機能する。
【0022】
画像認識部2は、加熱前と加熱後に撮像された立方体形状の石炭灰の固形試料の画像を取得し、二値化等の画像処理を行うことにより、石炭灰の固形試料の輪郭を認識する。
【0023】
体積算出部3は、画像認識部2により取得された石炭灰の固形試料の輪郭から、立方体の各辺における長さを計測し、加熱前と加熱後とのそれぞれについて、石炭灰の固形試料の体積を算出する。
【0024】
体積比率算出部4は、体積算出部3において算出された加熱前と加熱後との石炭灰の体積から、体積比率を算出する。なお、体積比率は、加熱後の体積/加熱前の体積により算出される。
【0025】
膠着度推定部5は、算出された体積比率から、膠着度を推定する。膠着度推定部5は、具体的には、予め記憶された温度と体積比率と膠着度との相関マップに基づいて、例えば、1150℃のときの体積比率が0.98であれば膠着度が0.1~0.3の範囲というように、体積比率に対応する膠着度範囲を推定する。
【0026】
付着性判定部6は、膠着度推定部5により推定された膠着度に基づいて、付着性を判定する。付着性判定部6は、予め記憶されたマップに基づいて、推定された膠着度に対応する付着性を判定し、モニタに表示させる。
【0027】
このような評価装置1を用いた評価方法について、
図3を参照して説明する。
まず、作業者が立方体形状に成形された石炭灰の画像を撮像する(ステップS1)。そして、作業者が石炭灰を加熱炉にて加熱し(ステップS2)、加熱後の石炭灰を撮像する(ステップS3)。
【0028】
続いて、画像認識部2が撮像された画像から、加熱前の石炭灰の輪郭を抽出する。さらに、体積算出部3により、抽出された石炭灰の輪郭から、加熱前の石炭灰の体積を算出する(ステップS4)。
そして、ステップS3と同様の手順により、画像認識部2が加熱後の石炭灰の輪郭を抽出し、体積算出部3が加熱後の石炭灰の体積を算出する(ステップS5)。
【0029】
次に、体積比率算出部4が算出された加熱前の体積と加熱後の体積との体積比率を算出する(体積比率算出工程)(ステップS6)。そして、膠着度推定部5が、体積比率に基づいて膠着度の範囲を推定する(膠着度推定工程)(ステップS7)。次に、付着性判定部6は、推定された膠着度に基づいて、付着性を判定し、モニタへと表示する(ステップS8)。
【0030】
このとき、付着性判定部6は、推定される付着性の範囲が、HighまたはMediumの範囲(所定範囲)内であるか否かを判定する(ステップS9)。付着性が所定範囲内である場合、すなわちステップS9の判定がYESの場合には、付着性判定部6は、膠着度を計測する指示をモニタに表示させる(ステップS10)。この場合、作業者は、指示に従って焼結灰の膠着度を実際に計測し、膠着度に基づいて、付着性を再評価する(膠着度計測工程)。なお、付着性が所定範囲外である場合には、ステップS10を行わない。
【0031】
このような本実施形態に係る評価方法によれば、体積比率を算出することにより、付着性を判定することが可能である。したがって、亜瀝青炭の選定時に毎回膠着度の計測を行う必要がなく、簡易な方法で付着性の評価が可能である。
【0032】
また、本実施形態に係る評価方法によれば、付着性の評価が悪い(付着性がHighまたはMedium)場合に、膠着度試験を行うことで、より正確に亜瀝青炭の付着性を評価することが可能である。
【0033】
[第2実施形態]
上記第1実施形態の変形例について、第2実施形態として説明する。なお、第1実施形態と同一の構成については符号を同一とし、説明を省略する。
【0034】
本実施形態に係る評価装置1は、膠着度推定部5を有していない。また、評価装置1には、膠着度が0.6程度かつ付着性がMediumの亜瀝青炭(比較炭)の体積比率が予め記憶されている。そして、付着性判定部6は、体積比率を取得し、比較炭の体積比率との比較を行う。
【0035】
このような本実施形態に係る評価方法について
図4を参照して説明する。
まず、作業者が立方体形状に成形された石炭灰の画像を撮像する(ステップS11)。そして、作業者が石炭灰を加熱炉にて加熱し(ステップS12)、加熱後の石炭灰を撮像する(ステップS13)。
【0036】
続いて、画像認識部2が撮像された画像から、加熱前の石炭灰の輪郭を抽出する。さらに、体積算出部3により、抽出された石炭灰の輪郭から、加熱前の焼結灰の体積を算出する(ステップS14)。
【0037】
そして、ステップS3と同様の手順により、画像認識部2が加熱後の石炭灰の輪郭を抽出し、体積算出部3が加熱後の石炭灰の体積を算出する(ステップS15)。次に、体積比率算出部4が算出された加熱前の体積と加熱後の体積との体積比率を算出する(ステップS16)。
【0038】
さらに、付着性判定部6は、体積比率が予め記憶された比較炭の収縮率以上であるか否かを判定する(ステップS17)。体積比率が比較炭以下の場合、すなわちステップS17の判定がYESの場合、付着性判定部6は、膠着度を計測する指示をモニタに表示させる(ステップS18)。この場合、作業者は、指示に従って石炭灰の焼結灰の膠着度を実際に計測し、膠着度に基づいて、付着性を再評価する。また、付着性判定部6は、比較炭よりも体積比率が大きい場合、当該亜瀝青炭を使用可と判定する(ステップS19)。
【0039】
本実施形態に係る評価装置1は、付着性判定部6が比較炭との比較によって評価対象の亜瀝青炭の付着性を評価する。したがって、評価装置1は、膠着度の推定を行わず、使用可あるいは要再検討の簡易的な判定を行う。すなわち、比較炭以上に体積収縮が大きく、付着性が高い可能性のあるものについては再検討とし、比較炭よりも体積収縮が小さく、付着性の低い可能性のあるものについては使用可能であると評価している。この場合、処理フローが簡易となり、判定が容易である。
【0040】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0041】
上記実施形態においては、評価装置1を用いて評価を行うものとしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、本発明に係る評価方法は、全て作業者が手作業により実行するものとしてもよい。
【0042】
上記実施形態においては、体積比率に基づいて付着性を評価するものとしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、加熱前の体積と加熱後の体積との差分と膠着度との相関に基づいて付着性を評価するものとしてもよい。この場合においても、加熱前後における体積の変化量に基づいて付着性を評価可能である。
【0043】
上記実施形態においては、付着性が高い場合に、膠着度を実際に計測するものとしたが、本発明はこれに限定されない。付着性判定部6は、付着性が高い場合に、HighまたはMediumと表示するのみとしてもよい。または、付着性判定部6は、付着性が高い場合に、他の付着性評価方法を用いることを推奨するものとしてもよい。
【0044】
また、上記実施形態においては、画像認識により、石炭灰の体積を算出するものとしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、3Dカメラや、3Dスキャン等により、石炭灰の試料の形状を取得し、体積を算出するものとしてもよい。この場合、より正確な石炭灰の試料の体積を算出することが可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 評価装置
2 画像認識部
3 体積算出部
4 体積比率算出部
5 膠着度推定部
6 付着性判定部