(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】浄水カートリッジの前処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/28 20230101AFI20230214BHJP
C02F 1/44 20230101ALI20230214BHJP
C02F 1/42 20230101ALI20230214BHJP
【FI】
C02F1/28 G
C02F1/44 B
C02F1/44 D
C02F1/42 A
(21)【出願番号】P 2019068203
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2022-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】504346204
【氏名又は名称】三菱ケミカル・クリンスイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】田阪 広
【審査官】富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-230358(JP,A)
【文献】特開2011-212519(JP,A)
【文献】実開平05-067388(JP,U)
【文献】特開2018-023942(JP,A)
【文献】特開2015-013289(JP,A)
【文献】国際公開第2014/050860(WO,A1)
【文献】登録実用新案第3191001(JP,U)
【文献】特開2004-230335(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00-71/82
C02F 1/28
C02F 1/44
C02F 1/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒状濾材と、該粒状濾材の下側に配された多孔質濾過膜とを有し、前記粒状濾材と多孔質濾過膜との間で通水可能な
、自重濾過式の浄水カートリッジの前処理方法であって、
少なくとも前記粒状濾材の上端以下の水位を保って、前記粒状濾材から前記多孔質濾過膜に向けて水を流し、前記多孔質濾過膜を含水させる工程を備えたことを特徴とする浄水カートリッジの前処理方法。
【請求項2】
前記粒状濾材に対する給水量は、前記多孔質濾過膜の細孔の総体積以上であることを特徴とする請求項1記載の浄水カートリッジの前処理方法。
【請求項3】
粒状濾材と、該粒状濾材の下側に配された多孔質濾過膜とを有し、前記粒状濾材と多孔質濾過膜との間で通水可能な
、自重濾過式の浄水カートリッジの前処理方法であって、
前記多孔質濾過膜が上側になるように前記浄水カートリッジを倒立させた状態で、前記粒状濾材に含水させる工程と、前記粒状濾材が上側になるように前記浄水カートリッジを正立させて、前記粒状濾材に含水されている水を前記多孔質濾過膜に向けて流し、前記多孔質濾過膜を含水させる工程と、を備えたことを特徴とする浄水カートリッジの前処理方法。
【請求項4】
粒状濾材と、該粒状濾材の下側に配された多孔質濾過膜とを有し、前記粒状濾材と多孔質濾過膜との間で通水可能な
、自重濾過式の浄水カートリッジの前処理方法であって、
前記多孔質濾過膜の全体に水が浸透し、かつ、前記浄水カートリッジから水が流出しない水量の水を前記浄水カートリッジ内に流入させ、前記多孔質濾過膜を含水させる工程を備えたことを特徴とする浄水カートリッジの前処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質濾過膜および粒状濾材を有する浄水カートリッジの使用開始に先立って行う浄水カートリッジの前処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、水道水などの原水から、有機塩素化合物や雑菌を取り除く浄化手段として、浄水カートリッジが知られている。こうした浄水カートリッジは、例えば、家庭用のピッチャー型の浄水器などに用いられている。ピッチャー型の浄水器は、着脱交換可能な浄水カートリッジを備え、例えば、1~2リットル程度の原水を一度に浄化することができるとともに、そのまま冷蔵庫等に保管でき、カップへの注ぎ口が形成されているため、冷却した浄水を容易に使用することができる。
【0003】
こうしたピッチャー型の浄水器などに用いられる浄水カートリッジは、原水の流入側から流出側に向かって、粒状濾材と多孔質濾過膜とが設けられている。粒状濾材は、トリハロメタンなど有機塩素化合物を除去するためのものであり、例えば、粒状の活性炭が用いられる。また、多孔質濾過膜は、雑菌や濁り等を除去するためのものであり、例えば、複数の中空糸をU字状にして束ねた中空糸膜束が用いられる。
【0004】
このような浄水カートリッジは、未使用の状態から新たに使用を開始する際に、予め前処理を行う必要がある。即ち、多孔質濾過膜を予め含水させて、多孔質濾過膜の細孔にある空気を取り除いておく必要がある。
【0005】
多孔質濾過膜、例えば中空糸膜束は通水抵抗が大きく、浄水カートリッジの最大濾過流量は、中空糸膜束の通水量に大きく左右される。水道水圧がかかる蛇口直結型浄水器に用いる浄水カートリッジにおいてはこうした濾過流量は問題にならないが、ピッチャー型の浄水器に代表される自重濾過式浄水器においては、浄水カートリッジに加わる水圧は、粒状濾材の上方に貯められる原水の質量だけである。このため、中空糸膜束の細孔に気泡が残留していると、この気泡部分は通水が行われずに通水抵抗が生じ、濾過流量が不安定になったり、単位時間当たりの原水の濾過量が低下する。
【0006】
従来、こうした浄水カートリッジの前処理方法として、水の流出側から流入側に向けて中空糸膜束を含水させる中空糸膜モジュールを用いた前処理方法が開示されている(例えば、特許文献1を参照)。こうした前処理方法によれば、水の流出側から流入側に向けて中空糸膜束を含水させることで、中空糸膜束の細孔の空気が中空糸膜束の外側に押し出され、中空糸膜束の細孔内に残留する気泡を少なくすることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の発明では、中空糸膜束の中空部分の開口端面側から水中に浸漬するため、中空糸膜端面に対して水深に応じた水頭圧が加わる。しかしながら、中空糸膜束の細孔分布幅や、中空糸膜束の外側の密集度の変動によって、中空糸膜束膜の含水速度にはムラがあることも多く、相当に低速で中空糸膜束を開口端面部から水中に浸漬しない限り、水が透過しやすい部分、即ち細孔の目の粗い部分から優先的に水が透過するため、目の細かい細孔は空気が抜け切れる前に気泡として液封されてしまう。このため、気泡が液封された細孔は水が透過しない状態になり、所定の通水性能が得られないことも多いという課題があった。
【0009】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、浄水カートリッジの多孔質濾過膜に残留する気泡を抑制して、所定の通水量を維持することを可能にする浄水カートリッジの前処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
即ち、本発明の浄水カートリッジの前処理方法は、粒状濾材と、該粒状濾材の下側に配された多孔質濾過膜とを有し、前記粒状濾材と多孔質濾過膜との間で通水可能な、自重濾過式の浄水カートリッジの前処理方法であって、少なくとも前記粒状濾材の上端以下の水位を保って、前記粒状濾材から前記多孔質濾過膜に向けて水を流し、前記多孔質濾過膜を含水させる工程を備えたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明では、前記粒状濾材に対する給水量は、前記多孔質濾過膜の細孔の総体積以上であってもよい。
【0012】
また、本発明の浄水カートリッジの前処理方法は、粒状濾材と、該粒状濾材の下側に配された多孔質濾過膜とを有し、前記粒状濾材と多孔質濾過膜との間で通水可能な、自重濾過式の浄水カートリッジの前処理方法であって、前記多孔質濾過膜が上側になるように前記浄水カートリッジを倒立させた状態で、前記粒状濾材に含水させる工程と、前記粒状濾材が上側になるように前記浄水カートリッジを正立させて、前記粒状濾材に含水されている水を前記多孔質濾過膜に向けて流し、前記多孔質濾過膜を含水させる工程と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の浄水カートリッジの前処理方法は、粒状濾材と、該粒状濾材の下側に配された多孔質濾過膜とを有し、前記粒状濾材と多孔質濾過膜との間で通水可能な、自重濾過式の浄水カートリッジの前処理方法であって、前記多孔質濾過膜の全体に水が浸透し、かつ、前記浄水カートリッジから水が流出しない水量の水を前記浄水カートリッジ内に流入させ、前記多孔質濾過膜を含水させる工程を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、浄水カートリッジの多孔質濾過膜に残留する気泡を抑制して、所定の通水量を維持することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に用いられる浄水カートリッジを備えたピッチャー型浄水器を示す断面図である。
【
図2】本発明に用いられる浄水カートリッジを示す一部破断図である。
【
図4】第1実施形態の浄水カートリッジの前処理方法を示す模式図である。
【
図5】第2実施形態の浄水カートリッジの前処理方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態の浄水カートリッジの前処理方法について説明する。なお、以下に示す実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0017】
(浄水カートリッジ、浄水器)
まず最初に、本発明の浄水カートリッジの前処理方法に用いる浄水カートリッジを備えた浄水器の一例として、ピッチャー型浄水器の構成を説明する。
図1は、本発明の浄水カートリッジの前処理方法に用いる浄水カートリッジの適用例であるピッチャー型浄水器を示す断面図である。
ピッチャー型の浄水器10は自重濾過式浄水器の一例であり、浄水貯留部12aを有する外容器12と、この外容器12の内部に配置されるとともに原水貯留部13aを有する内容器13と、内容器13の底壁部13bに挿嵌された状態で着脱可能に装着される略円筒状の浄水カートリッジ14と、を備えている。
【0018】
外容器12は、上方が開口し、浄水器10を把持する取っ手17及び生成した浄水を注ぐ注ぎ口18が一体に成形されている。また、外容器12には、外容器12の開口端を塞ぐための容器蓋15が着脱可能に設けられている。この容器蓋15には、外容器12の注ぎ口18を覆う部分に、外容器12の内部から注出される浄水の水圧によって、外容器12の外側に向けて開く注ぎ部15aがヒンジを中心に回動して注ぎ口18を開閉可能としている。
【0019】
内容器13は、上端縁に段部(図示省略)が形成されており、この段部を外容器12の上端開口縁に載置、係合させて外容器12内に収納される。この内容器13の内部が上記の原水貯留部13aを構成し、また、外容器12の下半部分が浄水貯留部12aを構成している。
【0020】
内容器13の底壁部13bの中央には円形の底部開口部13cが形成されており、この底部開口部13cに浄水カートリッジ14のメインケース26を液密に嵌合させた状態で底壁部13bに対して上方から着脱可能に装着されている。
【0021】
図2は、浄水カートリッジを示す一部破断図である。
浄水カートリッジ14は、容器軸Oに沿って中空部分が延びる有底筒状のメインケース26を備える。このメインケース26の内部には、上部に粒状濾材20、及び下部に中空糸膜束(多孔質濾過膜)21が収容されている。
即ち、浄水カートリッジ14は、正立状態(使用状態)においては、有底筒状のメインケース26の上側に粒状濾材20が、また下側に中空糸膜束(多孔質濾過膜)21がそれぞれ配置されている。
【0022】
また、メインケース26の容器軸Oの上端部26a側には、複数の原水導入口25が形成されている。原水導入口25は、
図1に示す原水貯留部13aに貯留される原水が浄水カートリッジ14のメインケース26内に流入する部分となる。
【0023】
本実施形態の浄水カートリッジ14は、粒状濾材20と中空糸膜束(多孔質濾過膜)21とが仕切り部材などを介さずに収容されており、粒状濾材20と中空糸膜束(多孔質濾過膜)21との間で互いに通水可能になっている。
【0024】
図3は中空糸膜束を示す要部拡大外観図である。
本実施形態で多孔質濾過膜として用いられる中空糸膜束(多孔質濾過膜)21は、長さ方向に沿って延びる中空部を有する管状の中空糸膜31をU字状に屈曲させたものを複数本、長手方向に沿って円筒状に束ねたものである。中空糸膜束21の中心部分には空洞部32が形成されている。本実施形態では、それぞれの中空糸膜31がU字状に屈曲している側が粒状濾材20に接するように、メインケース26に収容される。
【0025】
なお、中空糸膜束21の形状は円筒状には限定されるものではなく、例えば、楕円筒状、角筒状などであってもよい。また、中空糸膜束21は、本実施形態のように中心部分に空洞部32を形成せず、簡易な円筒状に形成してもよい。
【0026】
中空糸膜束21は、微生物及び細菌を含む例えば0.1μm以上の粒状体の濾過、除去に好適に使用される。中空糸膜31には、種々の多孔質かつ管状の中空糸膜が使用でき、例えば、セルロース系、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン)系、ポリビニルアルコール系、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリエーテル系、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)系、ポリスルフォン系、ポリアクリロニトリル系、ポリ四弗化エチレン系、ポリビニリデンフロライド(PVDF)系、ポリカーボネイト系、ポリエステル系、ポリアミド系、芳香族ポリアミド系、等の各種材料からなるものが使用できる。特に、中空糸膜束21の取扱性や加工特性等を考慮すると、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系の中空糸膜が好ましい。
【0027】
粒状濾材20は、正立時においては、メインケース26内で中空糸膜束(多孔質濾過膜)21よりも上側まで充填された状態になるように配置される。粒状濾材20は、活性炭、イオン交換樹脂、またはイオン交換樹脂と活性炭の混合物を使用し、吸着剤の活性炭の割合が例えば10~90%であることが好ましく、20~80%であることがより好ましい。
【0028】
粒状濾材20としては、粉末状吸着剤を造粒した粒状吸着剤、繊維状吸着剤などが挙げられる。このような吸着剤としては、例えば、天然物系吸着剤(天然ゼオライト、銀ゼオライト、酸性白土等)、合成物系吸着剤(合成ゼオライト、細菌吸着ポリマー、ヒドロキシアパタイト、モレキュラーシーブ、シリカゲル、シリカアルミナゲル系吸着剤、多孔質ガラス、ケイ酸チタニウム等)などの無機質吸着剤;粉末状活性炭、粒状活性炭、繊維状活性炭、ブロック状活性炭、押出成形活性炭、成形活性炭、分子吸着樹脂、合成物系粒状活性炭、合成物系繊維状活性炭、イオン交換樹脂(カチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂)、イオン交換繊維、キレート樹脂、キレート繊維、高吸収性樹脂、高吸水性繊維、吸油性樹脂、吸油剤などの有機系吸着剤等、公知のものが挙げられる。中でも、抗菌性のある銀添着活性炭を有することが望ましい。
【0029】
粒状濾材20の粒度分布は、例えば200~1700μm程度が好ましい。粒度が小さすぎると粒状濾材の通水抵抗が大きくなり、流速が低下する懸念がある。また、粒度が大きすぎると、表面積が小さくなり濾過性能が低下する懸念がある。
【0030】
なお、粒状濾材20は、袋材などに収容された状態でメインケース26に配置されていてもよい。この場合に用いる袋材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド、等の各種材料からなるものが使用できる。
【0031】
以上のような構成の浄水カートリッジ14を備えた浄水器10は、その使用時においては、内容器13の内部(原水貯留部13a)に原水を供給すると、原水は内容器13の底壁部13bに取り付けられた浄水カートリッジ14の原水導入口25から浄水カートリッジ14の内部へと導入される。そして粒状濾材20によって塩素やトリハロメタン、農薬などの化学物質、さらには鉛・銅・亜鉛・ヒ素を始めとする重金属が吸着除去された後、さらに下部(下流側)に配された中空糸膜束21によって、細菌や微生物、濁質、粒子状鉛等が濾過され、メインケース26の底部に形成された浄水出口26cから外容器12の浄水貯留部12aに濾過後の浄水が導出される。
【0032】
(浄水カートリッジの前処理方法:第1実施形態)
次に、本発明の第1実施形態の浄水カートリッジの前処理方法を説明する。
図4は、第1実施形態の浄水カートリッジの前処理方法を示す模式図である。
浄水カートリッジ14は、新規に使用する際に、予め中空糸膜束(多孔質濾過膜)21を含水させる前処理を行う必要がある。この時、所定の通水量を確保するために、中空糸膜束21の細孔の内部を水に置換する、即ち、中空糸膜束21の細孔に気泡が残留しないようにすることが重要である。そのため、第1実施形態の浄水カートリッジの前処理方法は、以下のように行う。
【0033】
なお、第1実施形態においては、粒状濾材20の充填部分の上端は、メインケース26内において、内容器13の底壁部13bとほぼ同じ位置にあるものとする。
【0034】
まず、新たに使用を開始する乾燥状態の浄水カートリッジ14を、浄水器10の原水貯留部13aを有する内容器13の底部開口部13cに挿入し、液密に嵌合させる。次に、内容器13の原水貯留部13aに所定量の水を給水する。給水された水は、浄水カートリッジ14の原水導入口25から粒状濾材20に流入する。
【0035】
この時、原水貯留部13a給水する水の量は、常に粒状濾材20の上端以下となる水位を保つようにする。例えば、メインケース26に収容された粒状濾材20の上端とほぼ同一の高さに位置する内容器13の底壁部13bに水が溜ることが無いように給水量を調節しつつ原水貯留部13aに給水する。これにより、粒状濾材20の上端以下の水位を保って、下部に配された中空糸膜束(多孔質濾過膜)21に向けて水を流すことができる。また、粒状濾材20に供給する給水量の全量は、中空糸膜束21の細孔の総体積以上にすることが好ましい。
【0036】
粒状濾材20から中空糸膜束21に向かって流出した水は、中空糸膜束21の外部から内部に向かって流入する。この時、粒状濾材20の上端以下の水位を保って粒状濾材20に給水することで、粒状濾材20を経て中空糸膜束(多孔質濾過膜)21に流入する水の自重による水圧を低く保つことができる。これにより、中空糸膜束21の外部の表面に加わる水圧を最小限にとどめた状態で、ムラなく中空糸膜束21に接水させることが可能になる。即ち、中空糸膜束21の細孔への水の浸透力を、細孔の毛細管現象による浸透力だけにすることができる。
【0037】
このように、中空糸膜束21に加わる水の自重による水圧を低減して、中空糸膜束21の細孔に浸透する水を毛細管現象による浸透力だけで浸透(含水)させることにより、中空糸膜束21の目の細かい細孔から優先的に含水させることが可能となる。
【0038】
従来のように貯留した水に中空糸膜束を浸漬するなどの、中空糸膜束の内部から外部に向かって含水させる方法では、中空糸膜束に高い水圧が加わり、中空糸膜束の目の粗い細孔が優先的に含水され、目の細かい細孔に気泡が閉じ込められて残留する懸念があったが、本発明の浄水カートリッジの前処理方法では、中空糸膜束21の目の細かい細孔が優先的に含水されるので、中空糸膜束21の目の細かい細孔に気泡が閉じ込められにくい。よって、浄水器10の使用時において、中空糸膜束21の目の細かい細孔に残留した気泡によって単位時間当たりの通水量(濾過速度)が低下することがなく、浄水カートリッジ14の所定の通水性能(理論上の通水性能)を確実に維持することができる。
【0039】
(浄水カートリッジの前処理方法:第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態の浄水カートリッジの前処理方法を説明する。
図5は、第2実施形態の浄水カートリッジの前処理方法を示す模式図である。
まず、新たに使用を開始する乾燥状態の浄水カートリッジ14を、正立時(使用状態)と逆になるように倒立させ、粒状濾材20が下側になるようにする。本実施形態では、この時、粒状濾材20が、倒立により下側となったメインケース26の上端部26aの内面に接する位置まで落下する。
【0040】
次に、浄水カートリッジ14を、任意の容器Fに貯留された水に浸漬する。この時、容器Fに貯留する水の水位は、粒状濾材20が水没する程度にして、中空糸膜束21には接水しないようにする。これにより、粒状濾材20だけに含水させる。
【0041】
次に、浄水カートリッジ14を、使用状態、即ち中空糸膜束21が下側になるように正立させる。粒状濾材20は、自重によって中空糸膜束21に接する位置まで落下する。そして、粒状濾材20に保水されていた水は、自重によって中空糸膜束21に向けて流出する。
【0042】
このように中空糸膜束21に給水することで、粒状濾材20を経て中空糸膜束(多孔質濾過膜)21に流入する水は、粒状濾材20に保水されていた水量に限られ、中空糸膜束21に加わる水の自重による水圧を低く保つことができる。これにより、中空糸膜束21の表面に加わる水圧を最小限にとどめた状態で、ムラなく中空糸膜束21に接水させることが可能になる。即ち、中空糸膜束21の細孔への水の浸透力を、細孔の毛細管現象による浸透力だけにすることができる。
【0043】
このように、中空糸膜束21に加わる水の自重による水圧を低減して、中空糸膜束21の細孔に浸透する水を毛細管現象による浸透力だけで浸透(含水)させることにより、中空糸膜束21の目の細かい細孔を優先的に含水させることが可能となる。
【0044】
また、第2実施形態の浄水カートリッジの前処理方法では、粒状濾材20に給水する水を予め計量するなどの手間が掛からず、浄水カートリッジ14を正立時(使用状態)とは逆に倒立させてから粒状濾材20だけを水に浸すだけで、最低限の水量の水を中空糸膜束21に給水させることができる。
【0045】
なお、第2実施形態の浄水カートリッジの前処理方法では、浄水カートリッジ14の倒立時に粒状濾材20が下方に落下して中空糸膜束21に対して離間しているが、浄水カートリッジ14の倒立時においても粒状濾材20が中空糸膜束21に接している構成であっても良い。
【0046】
(浄水カートリッジの前処理方法:他の実施形態)
本発明の他の実施形態の浄水カートリッジの前処理方法としては、
図2に示す浄水カートリッジ14を正立させた状態で、中空糸膜束(多孔質濾過膜)21の全体に水が浸透し、かつ、浄水カートリッジ14から水が流出しない水量の水を浄水カートリッジ14内に流入させることにより、中空糸膜束(多孔質濾過膜)21を含水させる。
【0047】
こうした実施形態でも、中空糸膜束21に加わる水の自重による水圧を低減して、中空糸膜束21の細孔に浸透する水を毛細管現象による浸透力だけで浸透(含水)し、これにより、浄水器10の使用時において、中空糸膜束21の目の細かい細孔に残留した気泡によって単位時間当たりの通水量(濾過速度)が低下することがなく、浄水カートリッジ14の所定の通水性能(理論上の通水性能)を確実に維持することができる。
【0048】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これら実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例】
【0049】
三菱ケミカル・クリンスイ株式会社製ポット型浄水器、品番CP002、及び三菱ケミカル・クリンスイ株式会社製の浄水カートリッジ、品番CPC5を用い、JIS S 3201:2010 6.1 C) 1)に準拠して濾過流量を測定した。
使用した浄水カートリッジの粒状濾材の充填部分の空隙体積は68ml、多孔質フィルタの細孔総体積は9mlであった。
【0050】
本発明の効果をより明確に示すため、本発明の浄水カートリッジの前処理方法によって浄水カートリッジの前処理を行った後、浄水カートリッジを水没させて吸引通水することで、強制的に浄水カートリッジ内のエア抜きを実施し、再度、濾過流量を測定した。ここで、エア抜き実施後の濾過流量に対するエア抜き前の濾過流量の比を到達率として計算した。即ち、前処理における浄水カートリッジ内のエア抜きの効率を到達率として計算し、前処理により浄水カートリッジ内のエア抜きが効率よく行われていれば、到達率は100%に近くなる。
【0051】
強制的なエア抜き操作については、浄水カートリッジ全体を水没、振とうさせた後、浄水カートリッジを水没させたまま吸引通水することで、浄水カートリッジ内のエア抜きを実施した。
【0052】
(実施例1)
前処理時の給水量を30mlとして、前述した第1実施形態によって未使用の浄水カートリッジの前処理方法を実施し、通水6回目までの濾過流量及び通水1回目と通水6回目の濾過流量達成率を算出した。
(実施例2)
未使用の浄水カートリッジに対して前述した第2実施形態に示す前処理方法を実施し、通水6回目までの濾過流量及び通水1回目と通水6回目の濾過流量達成率を算出した。浄水カートリッジ内に含水された水量は粒状濾材に保持された水量であり、46mlであった。
(比較例)
未使用の浄水カートリッジを中空糸膜束全体が水没するように水に浸漬させて、20分間放置したものを用いて、通水6回目までの濾過流量及び通水1回目と通水6回目の濾過流量達成率を算出した。
こうした検証結果を表1に示す。
【0053】
【0054】
表1に示す結果によれば、本発明の前処理方法である実施例1、実施例2のいずれも、従来の前処理方法である比較例に対して、優れて濾過流量を示している。また実施例1、実施例2のいずれも、濾過流量達成率が比較例に対して高く、本発明の前処理方法によって、浄水カートリッジの多孔質濾過膜を効率的にエア抜きを行なえることが確認できた。
【符号の説明】
【0055】
10…浄水器
14…浄水カートリッジ
20…粒状濾材
21…中空糸膜束(多孔質濾過膜)