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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】自律走行システム
(51)【国際特許分類】
   G05D 1/02 20200101AFI20230214BHJP
   A01B 69/00 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
G05D1/02 N
A01B69/00 303M
G05D1/02 H
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019093355
(22)【出願日】2019-05-17
(65)【公開番号】P2020187669
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000006781
【氏名又は名称】ヤンマーパワーテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】中村 翔一
【審査官】臼井 卓巳
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-163507(JP,A)
【文献】特開平09-304079(JP,A)
【文献】特開平07-147804(JP,A)
【文献】特開2000-172337(JP,A)
【文献】特開2005-215742(JP,A)
【文献】特開2017-199107(JP,A)
【文献】特開2018-200611(JP,A)
【文献】特開2019-041590(JP,A)
【文献】米国特許第07400956(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/02
A01B 69/00
A01C 11/02-21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
衛星測位システムを用いて作業車両の位置を取得する位置取得部と、
前記作業車両の向きを検出する向き検出部と、
予め設定された走行経路に沿って前記作業車両を自律走行させる走行制御部と、
前記作業車両が所定方向に直進する初期化走行を行っている間の前記位置取得部の取得値に基づいて当該作業車両の向きを求めることで、前記向き検出部の初期化処理を行う初期化制御部と、
前記初期化処理の第1開始条件として前記作業車両の電源がオフからオンに切り替わったことが設定されており、前記初期化処理の第2開始条件として前記作業車両の電源がオンであるときに前記初期化処理を行う指示を受け付けたことが設定されている条件設定部と、
を備え
前記走行制御部は、前記初期化処理が完了しておらず、前記第1開始条件又は前記第2開始条件を満たし、かつ、走行許可条件を満たす場合に、前記作業車両を自律的に前記初期化走行させることを特徴とする自律走行システム。
【請求項2】
請求項1に記載の自律走行システムであって、
前記走行制御部は、前記位置取得部が前記作業車両の位置を所定の精度で取得できる場合に、前記作業車両を自律的に前記初期化走行させることを特徴とする自律走行システム。
【請求項3】
請求項1に記載の自律走行システムであって、
前記走行制御部は、前記位置取得部が前記作業車両の位置を所定の精度で取得できなくなった場合に、前記走行経路に沿った自律走行を停止させ、
前記初期化制御部は、前記位置取得部が前記作業車両の位置を所定の精度で取得できなくなった場合に、初期化完了状態をリセットし、
前記走行制御部は、前記位置取得部が前記作業車両の位置を所定の精度で取得できるようになり、前記第1開始条件又は前記第2開始条件を満たし、かつ、走行許可条件を満たす場合に、前記作業車両を自律的に前記初期化走行させることを特徴とする自律走行システム。
【請求項4】
請求項1からまでの何れか一項に記載の自律走行システムであって、
前記走行制御部は、前記位置取得部が前記作業車両の位置を所定の精度で取得できなくなって自律走行を停止させた位置を再開位置として設定し、前記初期化処理の完了後に、前記再開位置まで前記作業車両を自律走行させることを特徴とする自律走行システム。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載の自律走行システムであって、
前記初期化処理を行う指示は、前記作業車両とは別に設けられた無線通信端末から送信されることを特徴とする自律走行システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、作業車両を自律走行させる自律走行システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、GNSS衛星から受信した電波に基づいて作業車両の位置情報を取得し、予め設定された経路に沿って作業車両を自律的に走行させる自律走行システムが知られている。このような自律走行を実現するためには、作業車両の向きが、作業車両を自律走行させる自律走行制御部によって把握されていることが必要である。
【0003】
特許文献1では、GNSS衛星から電波を受信できる構成を作業車両が備えていることを利用し、作業車両を前進又は後進させるようにユーザに手動運転させ、このときの作業車両の位置の変化をGNSS衛星の電波に基づいて検出する。そして、作業車両の位置が変化した向き又はその反対向きを作業車両の向きとみなして、作業車両の向き(方位)を検出する。以下では、この処理を初期化処理と称する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-163507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、作業車両(トラクタ)の起動時において、所定条件を満たした場合に初期化処理を行うことが記載されている。しかし、特許文献1には、それ以外のタイミングで初期化処理を行うことは記載されていない。
【0006】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、初期化処理を簡単に行うことが可能な自律走行システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0008】
本発明の観点によれば、以下の構成の自律走行システムが提供される。即ち、この自律走行システムは、位置取得部と、向き検出部と、走行制御部と、初期化制御部と、条件設定部と、を備える。前記位置取得部は、衛星測位システムを用いて作業車両の位置を取得する。前記向き検出部は、前記作業車両の向きを検出する。前記走行制御部は、予め設定された走行経路に沿って前記作業車両を自律走行させる。前記初期化制御部は、前記作業車両が所定方向に直進する初期化走行を行っている間の前記位置取得部の取得値に基づいて当該作業車両の向きを求めることで、前記向き検出部の初期化処理を行う。前記条件設定部には、前記初期化処理の第1開始条件として前記作業車両の電源がオフからオンに切り替わったことが設定されており、前記初期化処理の第2開始条件として前記作業車両の電源がオンであるときに前記初期化処理を行う指示を受け付けたことが設定されている。前記走行制御部は、前記初期化処理が完了しておらず、前記第1開始条件又は前記第2開始条件を満たし、かつ、走行許可条件を満たす場合は、前記作業車両を自律的に前記初期化走行させる。
【0009】
これにより、作業車両の電源がオフからオンになった場合だけでなく、作業車両の電源がオンを維持している場合においても、別途指示を行うことで初期化処理を行わせることができる。従って、作業車両の電源をオフにする処理を行うことなく初期化処理を行うことが可能となるので、向き検出部の初期化処理を簡単に行うことができる。また、作業車両を自律走行させて初期化処理を行うことができるので、オペレータが手動で作業車両を走行させる場合と比較して、オペレータの手間を軽減できる。
【0010】
前記の自律走行システムにおいては、前記走行制御部は、前記位置取得部が前記作業車両の位置を所定の精度で取得できる状態にある時に、前記作業車両を自律的に前記初期化走行させることが好ましい。
【0012】
前記の自律走行システムにおいては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記走行制御部は、前記位置取得部が前記作業車両の位置を所定の精度で取得できなくなった場合に、前記走行経路に沿った自律走行を停止させる。前記初期化制御部は、前記位置取得部が前記作業車両の位置を所定の精度で取得できなくなった場合に、初期化完了状態をリセットする。前記走行制御部は、前記位置取得部が前記作業車両の位置を所定の精度で取得できるようになり、前記第1開始条件又は前記第2開始条件を満たし、かつ、走行許可条件を満たす場合に、前記作業車両を自律的に前記初期化走行させる。
【0013】
これにより、衛星測位等に失敗した場合であっても、作業車両を自律走行させて初期化処理を行うことができるので、オペレータの手間を軽減できる。
【0014】
前記の自律走行システムにおいては、前記走行制御部は、前記位置取得部が前記作業車両の位置を所定の精度で取得できなくなって自律走行を停止させた位置を再開位置として設定し、前記初期化処理の完了後に、前記再開位置まで前記作業車両を自律走行させることが好ましい。
【0015】
これにより、初期化走行によって位置が変化した後においても、初期化走行を行う前の再開位置から作業を再開できる。
【0016】
前記の自律走行システムにおいては、前記初期化処理を行う指示は、前記作業車両とは別に設けられた無線通信端末から送信されることが好ましい。
【0017】
これにより、遠隔で初期化処理を実行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る自律走行システムで用いられる田植機の全体的な構成を示す側面図。
図2】田植機の平面図。
図3】自律走行システムの主要な構成を示すブロック図。
図4】圃場に作成された走行経路を示す図。
図5】田植機の電源がオフからオンになった後に初期化処理を実行する処理を示すフローチャート。
図6】自律走行の準備中に初期化処理を実行する処理を示すフローチャート。
図7】自律走行の準備に関する画面が表示された無線通信端末を示す図。
図8】自律走行条件に関する画面が表示された無線通信端末を示す図。
図9】自律走行中に初期化処理を実行する処理を示すフローチャート。
図10】自律走行中の画面が表示された無線通信端末を示す図。
図11】自律走行中にGNSSの測位不良が生じたことを示す画面が表示された無線通信端末を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る自律走行システム100で用いられる田植機1の側面図である。図2は、田植機1の平面図である。図3は、田植機1及び無線通信端末7のブロック図である。
【0020】
本実施形態の自律走行システム100は、圃場内で田植え(苗の植付け)を行う田植機1に自律走行を行わせるためのシステムである。自律走行とは、田植機1が備える制御装置により走行に関する装置が制御されることで、予め定められた経路に沿うように少なくとも操舵が自律的に行われることを意味する。また、操舵に加え、車速又は作業機による作業等が自律的に行われる構成であってもよい。自律走行には、田植機1に人が乗っている場合と、田植機1に人が乗っていない場合が含まれる。なお、本発明における作業車両は、田植機1に限定されるものではなく、例えば、播種機、トラクタ、コンバイン等であってもよい。
【0021】
図1及び図2に示すように、田植機1は、車体部11と、前輪12と、後輪13と、植付部14と、を備えている。前輪12及び後輪13は、それぞれ、車体部11に対して左右1対で設けられている。
【0022】
車体部11は、ボンネット21を備えている。ボンネット21は、車体部11の前部に設けられている。ボンネット21の内部には、エンジン22が設けられている。
【0023】
エンジン22が発生させた動力は、ミッションケース23を介して前輪12及び後輪13に伝達される。この動力は、ミッションケース23と、車体部11の後部に配置されたPTO軸24と、を介して、植付部14にも伝達される。
【0024】
車体部11は、オペレータが座るための運転座席25と、複数の操作具と、を更に備えている。運転座席25は、車体部11の前後方向において前輪12と後輪13の間に配置されている。複数の操作具は、例えば、操舵ハンドル26及び変速操作ペダル27である。
【0025】
オペレータによって操舵ハンドル26が操作されることで、田植機1の進行方向が変更される。オペレータによって変速操作ペダル27が操作されることで、田植機1の走行速度(車速)が調節される。
【0026】
植付部14は、車体部11の後方に配置されている。植付部14は、昇降リンク機構31を介して車体部11に連結されている。昇降リンク機構31は、トップリンク31a及びロワーリンク31bを含む平行リンクにより構成されている。
【0027】
ロワーリンク31bには、昇降シリンダ32が連結されている。昇降シリンダ32が伸縮することによって、車体部11に対して植付部14が上下に昇降する。なお、昇降シリンダ32は、本実施形態においては油圧シリンダとしているが、電動シリンダとしてもよい。
【0028】
植付部14は、植付入力ケース部33と、複数の植付ユニット34と、苗載台35と、複数のフロート36と、予備苗台37と、を備えている。植付部14は、各植付ユニット34に対して苗載台35から苗を順次供給し、苗の植付けを連続的に行うことができる。
【0029】
各植付ユニット34は、植付伝動ケース部41と、回転ケース部42と、を有している。植付伝動ケース部41には、PTO軸24及び植付入力ケース部33を介して動力が伝達される。
【0030】
回転ケース部42は、植付伝動ケース部41に回転可能に取り付けられている。回転ケース部42は、植付伝動ケース部41の車幅方向の両側に配置されている。各回転ケース部42の一側には、2つの植付爪43が取り付けられている。
【0031】
2つの植付爪43は、田植機1の進行方向に並べられている。2つの植付爪43は、回転ケース部42の回転に伴い変位する。2つの植付爪43が変位することにより、1条分の苗の植付が行われる。
【0032】
苗載台35は、複数の植付ユニット34の前上方に配置されている。苗載台35は、苗マットを載置可能である。苗載台35は、当該苗載台35に載置された苗マットの苗を各植付ユニット34に対して供給できるように構成されている。
【0033】
具体的には、苗載台35は、車幅方向に往復するように横送り移動可能に(横方向にスライド可能に)構成されている。また、苗載台35は、当該苗載台35の往復移動端で苗マットを間欠的に下方に縦送り搬送可能に構成されている。
【0034】
フロート36は、植付部14の下部に揺動可能に設けられている。フロート36は、植付部14の植付姿勢を圃場表面に対して安定させるために、当該フロート36の下面を圃場表面に接触させることができる。
【0035】
予備苗台37は、車体部11に対して左右1対で設けられている。予備苗台37は、ボンネット21の車幅方向外側に配置されている。予備苗台37は、予備のマット苗を収容した苗箱を搭載可能である。
【0036】
左右1対の予備苗台37の上部同士は、上下方向及び車幅方向に延びる連結フレーム28によって連結されている。連結フレーム28の車幅方向の中央に、筐体29が設けられている。筐体29の内部には、測位アンテナ61と、慣性計測装置(IMU)62と、通信アンテナ63と、が設けられている。
【0037】
測位アンテナ61は、衛星測位システム(GNSS)を構成する測位衛星からの電波を受信することができる。この電波に基づいて公知の測位計算が行われることにより、田植機1の位置を取得することができる。
【0038】
慣性計測装置62は、3つのジャイロセンサ(角速度センサ)と、3つの加速度センサと、を有している。なお、慣性計測装置62が検出する情報の詳細、及び、慣性計測装置62の初期化処理については後述する。
【0039】
通信アンテナ63は、図3に示す無線通信端末7と無線通信を行うためのアンテナである。
【0040】
制御部50は、図示しない演算装置、記憶装置、及び入出力部等を備える。記憶装置には、各種のプログラム及びデータ等が記憶されている。演算装置は、各種のプログラムを記憶装置から読み出して実行することができる。上記のハードウェアとソフトウェアの協働により、制御部50を、走行制御部51、作業機制御部52、初期化制御部53、及び条件設定部54として動作させることができる。制御部50は、1つのハードウェアであってもよいし、互いに通信可能な複数のハードウェアであってもよい。また、制御部50には、上記の慣性計測装置62に加え、位置取得部64と、通信処理部65と、車速センサ66と、舵角センサ67と、が接続されている。
【0041】
位置取得部64は、測位衛星から測位アンテナ61が受信した電波に基づいて、移動局としての田植機1の測位情報を取得する。より詳細には、位置取得部64は、電波を受信した測位衛星のそれぞれについて、測位衛星から測位アンテナ61までの擬似距離と、電波が測位アンテナ61に到達したときの搬送波位相と、を取得する。この擬似距離は、測位衛星の内部時計と、位置取得部64の内部時計と、を用いて計測された信号伝搬時間に光速を乗じることにより得られる。また、搬送波位相は、測位アンテナ61で受信された搬送波の位相と、位置取得部64の内部発振器が出力する位相と、の差を測定することにより得られる。
【0042】
加えて、位置取得部64は、位置が既知の基準局120に関して、測位衛星から基準局120までの擬似距離と、基準局120に到達したときの搬送波位相と、に基づいて生成された測位補正情報を取得する。本実施形態では、基準局120と田植機1とが直接通信を行うことで、位置取得部64が測位補正情報を取得する。なお、位置取得部64は、インターネット及び無線通信端末7等を介して測位補正情報を取得してもよい。
【0043】
位置取得部64は、田植機1で得られた観測値である測位情報と、基準局120で生成された測位補正情報と、を用いて、公知のGNSS-RTK法による計算を行うことにより、移動局としての田植機1と、基準局120と、の間の基線解を連続的に算出する。これにより、田植機1の位置である測位解がリアルタイムで求められる。GNSS-RTK法では、田植機1と基準局120の双方でGNSS衛星からの電波の搬送波位相を検出して測位計算に用いるので、通常の単独測位よりも著しく高い精度で、田植機1の位置を取得することができる。なお、GNSS-RTK法に代えて、例えばディファレンシャルGNSSを用いた測位演算が行われてもよい。
【0044】
通信処理部65は、通信アンテナ63に電気的に接続されている。この通信処理部65は、適宜の方式で変調処理又は復調処理を行って、無線通信端末7との間でデータの送受信を行うことができる。
【0045】
車速センサ66は、田植機1の車速を検出する。車速センサ66は、田植機1の適宜の位置、例えば前輪12の車軸に設けられる。この場合、車速センサ66は、前輪12の車軸の回転に応じたパルスを発生させる。車速センサ66で得られた検出結果のデータは、制御部50へ出力される。
【0046】
舵角センサ67は、前輪12の舵角を検出する。舵角センサ67は、田植機1の適宜の位置、例えば前輪12に設けられた図示しないキングピンに設けられる。なお、舵角センサ67は、操舵ハンドル26に設けられてもよい。舵角センサ67で得られた検出結果のデータは、制御部50へ出力される。
【0047】
走行制御部51は、田植機1の走行に関する自動制御を行う。例えば、走行制御部51は、車速制御及び操舵制御を行うことができる。走行制御部51は、車速制御及び操舵制御の両方を同時に行ってもよいし、操舵制御のみを行うようにしてもよい。後者の場合、田植機1の車速は、オペレータが変速操作ペダル27を用いて操作する。
【0048】
車速制御では、予め定められた条件に基づいて田植機1の車速が調整される。車速制御は、具体的には、走行制御部51が、車速センサ66の検出結果により得られた現在の車速を目標の車速に近づける制御を行う。この制御は、ミッションケース23内の変速装置の変速比、及び、エンジン22の回転速度のうち、少なくとも一方を変更することにより実現される。なお、この車速制御は、田植機1が停止するように車速をゼロにする制御も含む。
【0049】
操舵制御とは、予め定められた条件に基づいて田植機1の舵角を調整する制御である。操舵制御は、具体的には、走行制御部51が、舵角センサ67の検出結果により得られた現在の舵角を目標の舵角に近づける制御を行う。この制御は、例えば、操舵ハンドル26の回転軸に設けられた操舵アクチュエータを駆動することにより実現される。なお、操舵制御に関しては、走行制御部51が、操舵ハンドル26の回動角度(ステアリング角度)ではなく、田植機1の前輪12の操舵角(車輪)を直接調整してもよい。
【0050】
作業機制御部52は、予め定められた条件に基づいて植付部14の動作(昇降動作又は植付作業等)を制御可能である。なお、初期化制御部53及び条件設定部54が行う処理は後述する。
【0051】
無線通信端末7は、タブレット端末であり、通信アンテナ71と、通信処理部72と、表示部73と、操作部74と、記憶部75と、演算部80と、を備える。なお、無線通信端末7はタブレット端末に限るものではなく、スマートフォン又はノートパソコンであってもよい。無線通信端末7は、田植機1の自律走行に関する様々な処理を行うが、これらの処理の少なくとも一部を田植機1の制御部50が行ってもよい。逆に、田植機1の制御部50が行う自律走行に関する様々な処理の少なくとも一部を無線通信端末7が行ってもよい。
【0052】
通信アンテナ71は、田植機1と無線通信を行うための近距離通信用のアンテナである。通信処理部72は、通信アンテナ71に電気的に接続されている。通信処理部72は、送信信号の変調処理又は受信信号の復調処理等を行う。また、田植機1又は無線通信端末7の何れか一方は、携帯電話回線及びインターネットを利用した通信を行うための携帯通信用アンテナを備える。これにより、例えば田植機1又は無線通信端末7に記憶される情報の一部を外部のサーバに記憶させたり、外部のサーバから情報を取得したりすることができる。
【0053】
表示部73は、液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイ等であり、画像を表示可能に構成されている。表示部73は、例えば、自律走行に関する情報、田植機1の設定に関する情報、各種センサの検出結果、及び警告情報等を表示することができる。
【0054】
操作部74は、タッチパネルと、ハードウェアキーと、を含んでいる。タッチパネルは、表示部73に重ねて配置されており、オペレータの指等による操作を検出可能である。ハードウェアキーは、無線通信端末7の筐体の側面又は表示部73の周囲等に配置されており、オペレータが押圧することで操作可能である。なお、無線通信端末7は、タッチパネルとハードウェアキーの何れか一方のみを備える構成であってもよい。
【0055】
記憶部75は、フラッシュメモリ又はハードディスク等の不揮発性メモリである。記憶部75には、例えば、自律走行に関する情報が記憶されている。
【0056】
演算部80は、CPU等の演算装置である。演算部80は、各種のプログラムを記憶部75から読み出して実行することができる。この上記のハードウェアとソフトウェアの協働により、演算部80を、表示制御部81及び初期化指示制御部82として動作させることができる。表示制御部81及び初期化指示制御部82が行う処理は後述する。
【0057】
次に、図4を参照して、圃場及び自律走行用の走行経路について説明する。圃場には、作業領域と枕地領域とが含まれている。作業領域は圃場の中央部に位置しており、作業を行うための領域である。枕地領域は、作業領域の外側に位置しており、作業領域で適切に作業を行うために使用される領域である。例えば、枕地領域は、圃場に進入した田植機1を作業領域での作業の開始位置に移動させるために用いられる。更に、枕地領域は、田植機1を旋回させるための領域としても用いられる。
【0058】
圃場の位置及び形状は、田植機1を圃場の外周に沿って走行させた際の位置情報の推移に基づいて作成されている。なお、田植機1を実際に走行させずに、例えば表示部73に表示された地図上でユーザが範囲を指定することで、圃場の位置及び形状が作成されてもよい。また、本実施形態では圃場に関する情報は無線通信端末7に記憶されているが、上述したサーバに記憶されていてもよい。この場合、無線通信端末7は、このサーバから圃場に関する情報を取得する。
【0059】
本実施形態では、田植機1を自律走行させるための走行経路91が作成される。走行経路91は、例えば演算部80によって作成される。図4に示すように、走行経路91は、複数の直線経路91a及び複数の旋回経路91bを含んで構成されている。また、走行経路91には、開始位置(図4のS)と、終了位置(図4のG)と、が設定される。なお、図4に示す走行経路91は一例であり、別の特徴を有する経路に沿って田植機1を自律走行させることもできる。
【0060】
次に、慣性計測装置62について更に詳細に説明する。
【0061】
慣性計測装置62は、田植機1の姿勢や加速度等を特定することが可能なセンサユニットである。具体的には、慣性計測装置62は、互いに直交する第1軸、第2軸、及び第3軸のそれぞれに対して、角速度センサと加速度センサとを取り付けたセンサ群を備える。
【0062】
詳述すると、慣性計測装置62は、第1軸方向の加速度を検出する第1加速度センサと、第2軸方向の加速度を検出する第2加速度センサと、第3軸方向の加速度を検出する第3加速度センサと、前記第1軸回りの角速度を検出する第1角速度センサと、前記第2軸回りの角速度を検出する第2角速度センサと、第3軸回りの角速度を検出する第3角速度センサと、を備えるものである。
【0063】
慣性計測装置62は、第1角速度センサが田植機1のロール角速度を、第2角速度センサが田植機1のピッチ角速度を、第3角速度センサが田植機1のヨー角速度を検出できるように、田植機1に対して方向が定められて、田植機1の重心位置に取り付けられている。言い換えれば、第1軸は、田植機1の前後方向と一致するように、即ちロール回転軸となるように配置される。第2軸は、田植機1の左右方向と一致するように、即ちピッチ回転軸となるように配置される。第3軸は、田植機1の上下方向と一致するように、即ちヨー回転軸となるように配置される。
【0064】
このような構成の慣性計測装置62の検出結果により、田植機1の姿勢変化の角速度(ロール角速度、ピッチ角速度、及びヨー角速度)、並びに、前後方向、左右方向、及び上下方向の加速度を特定できるようになっている。そして、得られた角速度を積分した結果が、田植機1の姿勢を取得するために用いられる。田植機1の姿勢に関する情報は制御部50に入力されて、位置取得部64が取得した位置情報を補正するのに用いたり、その他の制御に用いられたりする。
【0065】
また、慣性計測装置62で取得された田植機1の姿勢変化及び加速度に関する情報を用いて公知の慣性航法演算を行うことにより、GNSS衛星からの電波が一時的に途切れる等して位置情報を算出できなくなった場合に、その間の田植機1の位置を求めることができる。
【0066】
このような構成の田植機1に適切に自律走行を行わせるためには、田植機1の位置情報が制御部50によって正確に把握されているだけでは足りず、田植機1の向きが制御部50によって正確に把握されていることが必要である。この点、慣性計測装置62の角速度センサは、田植機1の向きの変化を検出することはできるが、田植機1の向きそのものを検出することはできない。特に、田植機1がどの方位を向いているかを示す角度(ヨー角)に関しては、重力加速度を手掛かりにしても求めることができない。
【0067】
そこで、本実施形態では、田植機1を所定方向(例えば前又は後)に実際に直進させるとともに、GNSS電波を用いてこのときの田植機1の位置変化を求め、当該位置変化が示す向きに基づいてヨー角を求めることとしている。このようにして田植機1が向く方位(ヨー角)を求める処理を初期化処理と称し、初期化処理を行うために田植機1を直進させることを初期化走行と称する。また、初期化走行を行うための車速及び走行距離は予め定められている。上述の初期化制御部53は、初期化処理に関する制御を行う。条件設定部54は、初期化処理を開始するための条件を設定する。
【0068】
なお、向き検出部は、少なくとも田植機1の向き(詳細には上下方向を回転中心とした向き)を検出可能であれば、本実施形態の慣性計測装置62とは異なる構成であってもよい。
【0069】
特許文献1には、トラクタの起動時のみに初期化処理を行うことが記載されている。また、特許文献1には、オペレータが手動で初期化走行を行うことが記載されている。そのため、特許文献1の構成において、初期化処理を行うためには、オペレータがトラクタに搭乗して電源をオフからオンにし、その後にオペレータがトラクタを操作して初期化走行を行う必要がある。この点、本実施形態では、田植機1の電源をオンにした状態を維持しつつ、オペレータが田植機1に近づくことなく遠隔で初期化処理を指示可能であり、初期化走行を手動ではなく自律的に行うことも可能である。以下、詳細に説明する。
【0070】
初めに、図5を参照して、田植機1の起動時に慣性計測装置62の初期化処理を行う流れについて説明する。
【0071】
本実施形態の自律走行システム100では、特許文献1と同様、田植機1の起動時にも初期化処理が行われる。田植機1の起動時とは、田植機1の電源がオフからオンに切り替わった時(厳密にはオンに切り替わった後に所定時間が経過するまで)を示す。
【0072】
初期化制御部53は、田植機1の電源がオフからオンに切り替わったか否か(即ち、田植機1が起動した直後であるか否か)を判定している。初期化制御部53は、田植機1の電源がオフからオンに切り替わったと判定した場合、GNSS-RTK測位が有効か否かを判定する(S102)。GNSS-RTK測位が有効とは、移動局としての田植機1の測位情報と、基準局120で生成された測位補正情報と、の両方を適切に受信して、GNSS-RTK法による計算を行うことができていることを指す。従って、GNSS-RTK測位が有効である場合、田植機1の位置を高い精度(所定の精度)で取得できる。一方、障害物等により田植機1の測位情報及び測位補正情報の何れかが取得できない場合、GNSS-RTKが有効ではないため、田植機1の位置を高い精度で取得できない。なお、単独測位による低い精度で(所定の精度以下で)田植機1の位置を取得できる可能性はある。
【0073】
GNSS-RTK測位が有効でない場合、初期化処理を適切に行うことができない。従って、初期化制御部53は、GNSS-RTK測位が有効であると判定した場合、初期化処理を行う(S103)。具体的には、初期化制御部53は走行制御部51に指示し、走行制御部51は、上述のステアリング角度をニュートラルにして、田植機1を直進(前進又は後進)させることで初期化走行を行う。このように、初期化走行は、走行制御部51が田植機1を自律的に走行させることが可能であるが、オペレータが手動で田植機1を走行させてもよい。また、初期化制御部53は、初期化走行中において、上述したように慣性計測装置62の初期化処理を行う。初期化処理で算出された値は制御部50等に記憶され、田植機1の位置及び向きの算出に用いられる。
【0074】
このように、条件設定部54は、初期化処理の第1開始条件として、電源がオフからオンになったことを設定している。また、本実施形態では、初期化処理を開始するための別の条件として、GNSS-RTK測位が有効であることも設定されている。なお、田植機1は、電源がオフになった後も一定時間は初期化処理で算出した値を記憶してもよい。この場合、田植機1の電源がオフの間に田植機1の向きが変化していないことが明らかである場合(例えば田植機1が再起動した場合)は、田植機1の電源がオフからオンになった場合でも、以前の初期化処理で算出した値を用いてもよい。
【0075】
次に、図6から図8を参照して、田植機1の電源がオンになった後であって、かつ、自律走行の開始前において、初期化処理を行う流れについて説明する。具体的な状況としては、自律走行の準備中に測位不良等が発生し、慣性計測装置62の初期化処理を再び行わないと田植機1の自律走行が実行できない状況を想定している。
【0076】
初期化制御部53は、初期化処理が完了済みか否かを判定する(S201)。初期化処理が完了済みである場合は、初期化処理を行う必要がないため、自律走行に関する処理(S206)を行う。
【0077】
初期化制御部53は、初期化処理が完了済みでない場合、ステップS102と同様に、GNSS-RTK測位が有効か否かを判定する(S202)。初期化制御部53は、GNSS-RTK測位が有効と判断した場合、無線通信端末7にその旨を伝達する。その結果、表示制御部81は、初期化処理開始ボタンの有効化を行う(S203)。
【0078】
初期化処理開始ボタンは、オペレータが初期化処理の開始を指示するためのボタンである。本実施形態では、初期化処理開始ボタンは、無線通信端末7の表示部73に表示されるGUI上のボタンである。以下、初期化処理の開始ボタンの表示について図7及び図8を参照して具体的に説明する。図7には、自律走行の準備中に無線通信端末7の表示部73に表示される画面が示されている。この画面には、自律走行の対象となる圃場を示す地図上に、田植機1の位置を示す作業車両アイコン101が表示されている。また、この画面には、更に、自律走行条件の判定結果を示す判定結果ボタン102と、自律走行を開始するための自律走行開始ボタン103と、が表示されている。
【0079】
判定結果ボタン102は、自律走行条件を満たすか否かを表示する。図7に示す例では、自律走行条件を満たさないため、「NG」と表示されている。自律走行開始ボタン103は、自律走行の開始を指示するためのボタンである。図7に示す例では、自律走行条件が満たされていないので、自律走行開始ボタン103が無効(グレーアウト)となっている。判定結果ボタン102を操作することで、図8に示す画面が表示される。
【0080】
図8の画面には、自律走行条件について詳細に示されている。本実施形態では、自律走行条件として、ステアリング角度がニュートラルであること、作業車両位置が走行経路の開始位置と一致していること、慣性計測装置62(IMU)の初期化処理が完了していることが含まれている。また、初期化処理が完了していない場合、その近傍に初期化処理開始ボタン104が表示される。なお、初期化処理開始ボタン104の表示位置、表示階層等は一例であり、例えば図7に示す画面に初期化処理開始ボタン104が表示されてもよい。
【0081】
本実施形態では、初期化処理開始ボタン104は、通常は非表示であり、ステップS203で有効化した場合に表示される。これに代えて、普段はグレーアウト等で表示されており、ステップS203で有効化した場合に操作可能となってもよい。また、本実施形態では、初期化処理開始ボタン104はGUI上のボタンであるが、無線通信端末7のハードウェアキーであってもよい。また、初期化処理開始ボタン104は、無線通信端末7ではなく、オペレータが所持する他の端末に設けられてもよいし、田植機1に設けられてもよい。
【0082】
初期化処理開始ボタン104が操作されることで、初期化処理の開始を指示する信号が演算部80(初期化指示制御部82)から制御部50(初期化制御部53)へ送信される。初期化制御部53は、この信号の受信の有無に基づいて、初期化処理開始ボタン104が操作されたか否かを判定する(S204)。初期化制御部53は、初期化処理開始ボタン104が操作されたと判定した場合、ステップS103と同様に初期化処理を行う(S205)。
【0083】
このように、本実施形態では、田植機1の電源をオフにすることなく初期化処理が可能であるため、再起動の時間が不要であるため、短い時間でかつ簡単に初期化処理を行うことができる。また、田植機1の電源をオフにすることで削除される設定がある場合は、このような設定の手間も軽減できる。
【0084】
自律走行システム100は、初期化走行を手動で行ってもよいし、自律的に行ってもよい。ただし、初期化走行を自律的に行うことで、オペレータの手間を軽減できる。特に、田植機1を無人で(運転座席25にオペレータが搭乗せずに)自律走行させる場合、オペレータが初期化走行のために田植機1まで移動する手間も低減できる。
【0085】
また、初期化走行を自律的に行う場合、走行許可条件を満たした場合にのみ、初期化走行が開始される。走行許可条件としては、例えば、(1)初期化走行で通過する領域に障害物がないこと、(2)初期化走行の開始を警告音等で報知したこと、(3)オペレータが運転座席25に搭乗する場合はオペレータが運転座席25に着座していることである。なお、(3)の条件については、運転座席25又はその下方に設けたシートスイッチ等で検出可能である。この走行許可条件は、田植機1の電源がオンの状態で行う初期化走行だけでなく、田植機1の電源がオフからオンに切り替わった時に行う初期化走行にも適用される。
【0086】
なお、当然であるが、初期化処理は、田植機1(制御部50)の電源がオンの状態で行われる必要がある。この点、本実施形態では、田植機1の電源がオンの場合でのみ、田植機1と無線通信端末7が通信可能である。つまり、田植機1の電源がオフのときに初期化処理開始ボタン104を操作しても、初期化処理が行われることはない。なお、初期化処理開始ボタン104が田植機1側に設けられる場合は、田植機1の電源がオンの場合にのみ、初期化処理開始ボタン104を有効にすればよい。
【0087】
初期化処理が行われることにより、自律走行条件のうちのIMU初期化条件が満たされることとなる。その他の自律走行条件を満たした場合、自律走行開始ボタン103が有効となる(グレーアウトが解除される)。そして、自律走行開始ボタン103が操作されたことを検出した場合、走行制御部51は、自律走行を開始する(S206)。
【0088】
このように、条件設定部54は、初期化処理の第2開始条件として、田植機1の電源がオンであるときに初期化処理を行う指示を受け付けたこと(信号を受信したこと)を設定している。また、本実施形態では、初期化処理を開始するための別の条件として、GNSS-RTK測位が有効であることも設定されている。
【0089】
次に、図9から図11を参照して、自律走行中に測位不良等により初期化処理が必要となり、当該初期化処理を行う流れについて説明する。
【0090】
図10には、自律走行中に表示部73に表示される画面が示されている。自律走行中では、圃場における田植機1の位置及び走行経路が示されている。また、自律走行開始ボタン103が表示されていた箇所には、代わりに、自律走行停止ボタン105が表示される。自律走行停止ボタン105を操作することで、自律走行が停止される。
【0091】
制御部50は、GNSS-RTK測位が有効か否かを検出している(S301)。以下の説明では、GNSS-RTK測位が有効でないことを単に「測位不良」等と称する。上述したように、測位不良が発生した場合、田植機1の位置を高い精度で取得できない。
【0092】
走行制御部51は、測位不良が発生した場合、自律走行を停止し、現在位置を再開位置として記憶する(S302)。再開位置とは、自律走行を再開するための位置である。即ち、初期化走行を行うことで田植機1が移動するため、作業が行われない領域が発生する。それを防止するために、自律走行システム100は、田植機1を再開位置に戻した後に自律走行を再開させるように構成されている。
【0093】
測位不良が発生した場合、以前に行った初期化処理で得られた値(設定値)は不要となる。従って、初期化制御部53は、この初期化処理の完了状態をリセットする(S303)。これにより、以前に行った初期化処理で得られた設定値が削除される。また、新たな初期化処理が行われるまでは、走行経路91に沿った田植機1の自律走行の再開が禁止される。
【0094】
また、測位不良により自律走行が停止したことは、無線通信端末7にも送信される。無線通信端末7の表示制御部81は、測位不良により自律走行を停止したことを制御部50から受信した後に、その旨のメッセージを表示部73に表示する(図11を参照)。このメッセージには、図11に示すように、初期化処理が必要であることを含めてもよい。更に、表示制御部81は、表示部73に初期化処理開始ボタン104を表示する。なお、測位不良が解消するまでは、図11に示すように、初期化処理開始ボタン104は有効化されない。
【0095】
その後、測位不良が解消したと判定した場合(S304)、表示制御部81は、初期化処理開始ボタン104のグレーアウトを解除する等して、初期化処理開始ボタン104を有効化する(S305)。また、初期化指示制御部82は、初期化処理開始ボタン104が操作された場合(S306)、初期化処理の開始を指示する信号を制御部50へ送信する。初期化制御部53は、この信号を受信したと判定した場合、ステップS205と同様に、初期化走行を行って慣性計測装置62の初期化処理を行う(S307)。なお、走行許可条件に関する点もステップS205と同じである。
【0096】
その後、自律走行条件を全て満たし、自律走行開始ボタン103が操作された場合、走行制御部51は田植機1を再開位置まで自律的に移動させるとともに、当該再開位置から自律走行を開始する(S308)。
【0097】
なお、自律走行の準備中と自律走行の停止中の両方において、初期化処理の第2開始条件は共通である。
【0098】
以上に説明したように、本実施形態の自律走行システム100は、位置取得部64と、慣性計測装置62と、走行制御部51と、初期化制御部53と、条件設定部54と、を備える。位置取得部64は、衛星測位システムを用いて田植機1の位置を取得する。慣性計測装置62は、田植機1の向きを検出する。走行制御部51は、予め設定された走行経路91に沿って田植機1を自律走行させる。初期化制御部53は、田植機1が所定方向に直進する初期化走行を行っている間の位置取得部64の取得値に基づいて当該田植機1の向きを求めることで、慣性計測装置62の初期化処理を行う。条件設定部54には、初期化処理の第1開始条件として田植機1の電源がオフからオンに切り替わったことが設定されており、初期化処理の第2開始条件として田植機1の電源がオンであるときに初期化処理を行う指示を受け付けたことが設定されている。
【0099】
これにより、田植機1の電源がオフからオンになった場合だけでなく、田植機1の電源がオンを維持している場合においても、別途指示を行うことで初期化処理を行わせることができる。従って、田植機1の電源をオフにする処理を行うことなく初期化処理を行うことが可能となるので、慣性計測装置62の初期化処理を簡単に行うことができる。
【0100】
また、本実施形態の自律走行システム100において、走行制御部51は、初期化処理が完了しておらず、第1開始条件又は第2開始条件を満たし、かつ、走行許可条件を満たす場合は、田植機1を自律的に初期化走行させる。
【0101】
これにより、田植機1を自律走行させて初期化処理を行うことができるので、オペレータが手動で田植機1を走行させる場合と比較して、オペレータの手間を軽減できる。
【0102】
また、本実施形態の自律走行システム100において、走行制御部51は、位置取得部64が田植機1の位置を所定の精度で取得できなくなった場合に、走行経路に沿った自律走行を停止させる。初期化制御部53は、位置取得部64が田植機1の位置を所定の精度で取得できなくなった場合に、初期化完了状態をリセットする。走行制御部51は、位置取得部64が田植機1の位置を所定の精度で取得できるようになり、第1開始条件又は第2開始条件を満たし、かつ、走行許可条件を満たす場合に、田植機1を自律的に初期化走行させる。
【0103】
これにより、衛星測位等に失敗した場合であっても、田植機1を自律走行させて初期化処理を行うことができるので、オペレータの手間を軽減できる。
【0104】
また、本実施形態の自律走行システム100において、走行制御部51は、位置取得部64が田植機1の位置を所定の精度で取得できなくなって自律走行を停止させた位置を再開位置として設定し、初期化処理の完了後に、再開位置まで田植機1を自律走行させる。
【0105】
これにより、初期化走行によって位置が変化した後においても、初期化走行を行う前の再開位置から作業を再開できる。
【0106】
また、本実施形態の自律走行システム100において、初期化処理を行う指示は、田植機1とは別に設けられた無線通信端末7から送信される。
【0107】
これにより、遠隔で初期化処理を実行させることができる。
【0108】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0109】
上記実施形態で示したフローチャートは一例であり、一部の処理を省略したり、一部の処理の内容を変更したり、新たな処理を追加したりしてもよい。例えば、初期化走行を自律的に行う場合に、その旨を表示部73に表示する処理を追加してもよい。また、初期化処理開始ボタンが操作された後に、GNSS-RTK測位が有効か否かを再び判定してもよい。
【0110】
上記実施形態では、初期化処理開始ボタン104の操作後に走行許可条件を満たすか否かを判定する。これに代えて、走行許可条件を満たした場合に初期化処理開始ボタン104を有効化してもよい。
【0111】
上記実施形態では、測位不良時に以前の初期化処理の完了状態を自動的にリセットするが、オペレータの指示を受けて当該完了状態をリセットする構成であってもよい。この場合、以前の初期化処理のリセットを指示するボタンと、新たな初期化処理の開始を指示するボタンと、を分けてもよい。あるいは、1つのボタンを操作することで、これらの2つの処理が行われる構成であってもよい。
【符号の説明】
【0112】
1 田植機(作業車両)
7 無線通信端末
50 制御部
51 走行制御部
52 作業機制御部
53 初期化制御部
54 条件設定部
64 位置取得部
62 慣性計測装置(向き検出部)
80 演算部
81 表示制御部
82 初期化指示制御部
100 自律走行システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11