IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東海理化電機製作所の特許一覧

特許7227091タッチセンサ、制御装置、およびコンピュータプログラム
<>
  • 特許-タッチセンサ、制御装置、およびコンピュータプログラム 図1
  • 特許-タッチセンサ、制御装置、およびコンピュータプログラム 図2
  • 特許-タッチセンサ、制御装置、およびコンピュータプログラム 図3
  • 特許-タッチセンサ、制御装置、およびコンピュータプログラム 図4
  • 特許-タッチセンサ、制御装置、およびコンピュータプログラム 図5
  • 特許-タッチセンサ、制御装置、およびコンピュータプログラム 図6
  • 特許-タッチセンサ、制御装置、およびコンピュータプログラム 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】タッチセンサ、制御装置、およびコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   H03K 17/955 20060101AFI20230214BHJP
   H01H 36/00 20060101ALI20230214BHJP
   G01V 3/08 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
H03K17/955 Z
H01H36/00 E
G01V3/08 D
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019121770
(22)【出願日】2019-06-28
(65)【公開番号】P2021010066
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2021-11-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003551
【氏名又は名称】株式会社東海理化電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 紀博
(72)【発明者】
【氏名】福原 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】後呂 洋平
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 羊平
【審査官】工藤 一光
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-142755(JP,A)
【文献】特開2015-210811(JP,A)
【文献】特開2018-116630(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03K17/955-17/96
H01H36/00
G06F3/041-3/047
G01V3/08-3/11
G01R27/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極と、
前記電極と対象物との間の静電容量を検出する静電容量検出部と、
前記静電容量検出部により検出された前記静電容量に基づいて、前記対象物に対する操作の有無の判断を行なう制御部と、
を備えており、
前記制御部は、動作停止状態から復帰すると、
前記静電容量検出部に前記静電容量を検出させ、
検出された前記静電容量と基準値との差異を取得し、
前記差異が規定された閾値未満になるまで前記判断を保留する、
タッチセンサ。
【請求項2】
前記基準値は、前記制御部が前記動作停止状態に入る直前に検出された前記静電容量に対応している、
請求項1に記載のタッチセンサ。
【請求項3】
前記差異は、複数回にわたって検出された前記静電容量を統計処理することによって取得される、
請求項1または2に記載のタッチセンサ。
【請求項4】
前記制御部は、前記判断の保留が解除されたときの前記静電容量の値で前記基準値を更新する、
請求項1から3のいずれか一項に記載のタッチセンサ。
【請求項5】
電極と、
前記電極と対象物との間の静電容量を検出する静電容量検出部と、
電源と電気的に接続されるように構成されており、前記静電容量検出部により検出された前記静電容量に基づいて、前記対象物に対する操作の有無の判断を行なう制御部と、
を備えており、
前記制御部は、動作停止状態から復帰すると、前記電源から供給される電圧と接地電圧の電圧差が規定された閾値未満になるまで前記判断を保留する、
タッチセンサ。
【請求項6】
前記対象物は、車両の一部である、
請求項1から5のいずれか一項に記載のタッチセンサ。
【請求項7】
電極と対象物との間の静電容量を検出する静電容量検出部の動作を制御する制御装置であって、
前記静電容量検出部により検出された前記静電容量に基づいて、当該対象物に対する操作の有無の判断を行ない、
動作停止状態から復帰すると、
前記静電容量検出部に前記静電容量を検出させ、
検出された前記静電容量と基準値との差異を取得し、
前記差異が規定された閾値未満になるまで前記判断を保留する、
制御装置。
【請求項8】
電源と電気的に接続されるように構成されており、電極と対象物との間の静電容量を検出する静電容量検出部の動作を制御する制御装置であって、
前記静電容量検出部により検出された前記静電容量に基づいて、当該対象物に対する操作の有無の判断を行ない、
動作停止状態から復帰すると、前記電源から供給される電圧と接地電圧の電圧差が規定された閾値未満になるまで前記判断を保留する、
制御装置。
【請求項9】
電極と対象物との間の静電容量を検出する静電容量検出部の動作を制御装置に制御させるコンピュータプログラムであって、
前記コンピュータプログラムが実行されることにより、前記制御装置に、
前記静電容量検出部により検出された対象物の静電容量に基づいて、当該対象物に対する操作の有無の判断を行なわせ、
前記制御装置が動作停止状態から復帰すると、
前記静電容量検出部に前記静電容量を検出させ、
検出された前記静電容量と基準値との差異を取得させ、
前記差異が規定された閾値未満になるまで前記判断を保留させる、
コンピュータプログラム。
【請求項10】
電源と電気的に接続されて電極と対象物との間の静電容量を検出する静電容量検出部の動作を、電源と電気的に接続された制御装置に制御させるコンピュータプログラムであって、
前記コンピュータプログラムが実行されることにより、前記制御装置に、
前記静電容量検出部により検出された対象物の静電容量に基づいて、当該対象物に対する操作の有無の判断を行なわせ、
前記制御装置が動作停止状態から復帰すると、前記電源から供給される電圧と接地電圧の電圧差が規定された閾値未満になるまで前記判断を保留させる、
コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タッチセンサに関連する。本発明は、当該タッチセンサに搭載されうる制御装置、および当該制御装置に所定の動作を実行させるコンピュータプログラムにも関連する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、静電容量方式のタッチセンサを開示している。当該タッチセンサにおいては、電極により生成される電界内に位置する対象物にユーザの指などが近づくことによって疑似的なコンデンサが形成され、当該電極自体の容量が増加する。この容量の増加が検知されることにより、ユーザによる対象物への操作がなされたかが判別される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-210811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、ノイズ環境下においても正確に対象物への操作を判別可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するための一態様は、タッチセンサであって、
電極と、
前記電極と対象物との間の静電容量を検出する静電容量検出部と、
前記静電容量検出部により検出された前記静電容量に基づいて、前記対象物に対する操作の有無の判断を行なう制御部と、
を備えており、
前記制御部は、動作停止状態から復帰すると、
前記静電容量検出部に前記静電容量を検出させ、
検出された前記静電容量と基準値との差異を取得し、
前記差異が規定された閾値未満になるまで前記判断を保留する。
【0006】
上記の目的を達成するための一態様は、電極と対象物との間の静電容量を検出する静電容量検出部の動作を制御する制御装置であって、
前記静電容量検出部により検出された前記静電容量に基づいて、当該対象物に対する操作の有無の判断を行ない、
動作停止状態から復帰すると、
前記静電容量検出部に前記静電容量を検出させ、
検出された前記静電容量と基準値との差異を取得し、
前記差異が規定された閾値未満になるまで前記判断を保留する。
【0007】
上記の目的を達成するための一態様は、電極と対象物との間の静電容量を検出する静電容量検出部の動作を制御装置に制御させるコンピュータプログラムであって、
前記コンピュータプログラムが実行されることにより、前記制御装置に、
前記静電容量検出部により検出された対象物の静電容量に基づいて、当該対象物に対する操作の有無の判断を行なわせ、
前記制御装置が動作停止状態から復帰すると、
前記静電容量検出部に前記静電容量を検出させ、
検出された前記静電容量と基準値との差異を取得させ、
前記差異が規定された閾値未満になるまで前記判断を保留させる。
【0008】
上記の各態様によれば、制御部の動作停止状態からの復帰に伴って電極と対象物の間の静電容量が然るべき値(基準値との差異が閾値未満となるような値)に復帰するまでは、対象物に対する操作の有無の判断を行なわせないようにできる。すなわち、動作停止状態からの復帰時に検出される一般的に低い静電容量を基準にしての対象物に対する操作の有無の判断が行なわれないようにできる。したがって、環境ノイズなどに起因して生じうる制御部の動作停止状態からの復帰時においても、検出される静電容量の増加に伴う対象物に対する操作ありとの誤判定を防止できる。換言すると、ノイズ環境下においても、正確に対象物に対する操作を判別可能にできる。
【0009】
上記の目的を達成するための一態様は、タッチセンサであって、
電極と、
前記電極と対象物との間の静電容量を検出する静電容量検出部と、
電源と電気的に接続されるように構成されており、前記静電容量検出部により検出された前記静電容量に基づいて、前記対象物に対する操作の有無の判断を行なう制御部と、
を備えており、
前記制御部は、動作停止状態から復帰すると、前記電源から供給される電圧と接地電圧の電圧差が規定された閾値未満になるまで前記判断を保留する。
【0010】
上記の目的を達成するための一態様は、電源と電気的に接続されるように構成されており、電極と対象物との間の静電容量を検出する静電容量検出部の動作を制御する制御装置であって、
前記静電容量検出部により検出された前記静電容量に基づいて、当該対象物に対する操作の有無の判断を行ない、
動作停止状態から復帰すると、前記電源から供給される電圧と接地電圧の電圧差が規定された閾値未満になるまで前記判断を保留する。
【0011】
上記の目的を達成するための一態様は、電源と電気的に接続されて電極と対象物との間の静電容量を検出する静電容量検出部の動作を、電源と電気的に接続された制御装置に制御させるコンピュータプログラムであって、
前記コンピュータプログラムが実行されることにより、前記制御装置に、
前記静電容量検出部により検出された対象物の静電容量に基づいて、当該対象物に対する操作の有無の判断を行なわせ、
前記制御装置が動作停止状態から復帰すると、前記電源から供給される電圧と接地電圧の電圧差が規定された閾値未満になるまで前記判断を保留させる。
【0012】
上記の各態様によれば、制御部の動作停止状態からの復帰に伴って電源から供給される電圧と接地電圧の電圧差が然るべき値に復帰するまでは、対象物に対する操作の有無の判断を行なわせないようにできる。すなわち、動作停止状態からの復帰時に検出される一般的に低い静電容量を基準にしての対象物に対する操作の有無の判断が行なわれないようにできる。したがって、環境ノイズなどに起因して生じうる制御部の動作停止状態からの復帰時においても、検出される静電容量の増加に伴う対象物への操作ありとの誤判定を防止できる。換言すると、ノイズ環境下においても、正確にタッチ操作を判別可能にできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ノイズ環境下においても正確に対象物に対する操作を判別可能にできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態に係るタッチセンサの機能構成を例示している。
図2】上記のタッチセンサの動作原理を示している。
図3】上記のタッチセンサの動作の流れの一例を示している。
図4】上記のタッチセンサの動作を例示している。
図5】上記のタッチセンサの動作の流れの一例を示している。
図6】上記のタッチセンサの動作の流れの別例を示している。
図7】上記のタッチセンサの動作の流れの別例を示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
添付の図面を参照しつつ、実施形態の例について以下詳細に説明する。図1は、一実施形態に係るタッチセンサ1の機能構成を例示している。
【0016】
タッチセンサ1は、電極11を備えている。電極11は、ユーザの身体の一部(指Fなど)がタッチ操作を行ないうる対象物2と対向するように配置されている。対象物2は、誘電体である。本明細書で用いられる「タッチ操作」という語は、対象物2に対するユーザの身体の一部の接近または接触を伴う操作を意味する。
【0017】
タッチセンサ1は、静電容量検出部12を備えている。静電容量検出部12は、電極11と対象物2の間の静電容量を検出するための充放電回路121を備えている。
【0018】
充放電回路121は、電極11と電気的に接続されている。充放電回路121は、充電動作と放電動作を行ないうる。充電動作時の充放電回路121は、不図示の電源から供給される電流を電極11へ供給する。放電動作時の充放電回路121は、電極11から電流を放出させる。
【0019】
電極11に供給された電流により、対象物2の周囲に電界が発生する。ユーザの指Fなどがこの電界に近づくと、電極11との間に疑似的なコンデンサが形成される。これにより、電極11と対象物2の間の静電容量が増加する。静電容量が増加すると、放電動作時における電極11から放出される電流が増加する。
【0020】
タッチセンサ1は、制御装置13を備えている。制御装置13は、制御部131を備えている。制御部131は、充放電回路121の動作を制御する機能を有している。制御部131は、規定された周波数で充放電回路121を動作させる。本明細書で用いられる「規定された周波数で充放電回路を動作させる」という表現は、規定された周波数で充放電回路に充電動作と放電動作を繰り返させることを意味する。
【0021】
静電容量検出部12は、変換回路122を備えている。電極11から放出された電流は、変換回路122に入力される。変換回路122は、入力された電流量に応じて発信周波数が変化する回路、および当該回路から出力されるパルスを計数するカウンタを含んでいる。すなわち、変換回路122は、検出された静電容量に対応する電流量に応じた数値を有するデータを出力する。
【0022】
当該データは、制御部131に入力される。制御部131は、当該データが示す数値に基づいて、電極11と対象物2の間の静電容量を取得できる。このようにして、制御部131は、電極11と対象物2の間の静電容量を、静電容量検出部12に検出させる。
【0023】
図2に例示されるように、制御部131は、静電容量検出部12に検出させた静電容量に基づいて、対象物2にタッチ操作が行なわれたかを判断する機能も有している。具体的には、制御部131は、電極11と対象物2の間の静電容量を、規定された周期Tで静電容量検出部12に繰り返し検出させる。周期Tは、例えば20ミリ秒である。
【0024】
ユーザの指Fなどが対象物2に接近すると、前述の通り、電極11と対象物2の間の静電容量が増加する。制御部131は、タッチ操作が行なわれていないときの静電容量に対応する基準値Crからの増加量が規定された閾値Cthを超えると、対象物2にタッチ操作が行なわれたと判断する。図示の例においては、時刻t1から時刻t2までの間、タッチ操作が行なわれたと判断される。
【0025】
図1に示されるように、制御装置13は、記憶部132を備えている。記憶部132は、基準値Crに対応するデータが格納されている。制御部131は、検出された静電容量に対応する変換回路122から入力されたデータと記憶部132に格納されているデータとを比較することにより、上記のタッチ操作が行なわれたかの判断を行なう。
【0026】
図2には基準値Crが一定値をとるかのように記載されている。しかしながら、基準値Crは、タッチ操作が行なわれていない状態で検出された静電容量の値で更新される。図3を参照しつつ、制御部131による上記の一連の処理の流れを説明する。
【0027】
制御部131は、電極11と対象物2の間の静電容量Cを取得する(STEP11)。具体的には、静電容量Cに対応する数値データを、変換回路122から受け付ける。
【0028】
続いて、制御部131は、対象物2に対してタッチ操作が行なわれたかを判断する(STEP12)。具体的には、変換回路122から入力されたデータと記憶部132に格納されているデータとを比較することにより、静電容量Cの基準値Crからの増加量が規定された閾値Cth以下であるかが判断される。
【0029】
静電容量Cの基準値Crからの増加量が規定された閾値Cth以下であると判断されると(STEP12においてYES)、制御部131は、対象物2に対してタッチ操作が行なわれていないと判断する。この場合、制御部131は、検出された静電容量Cに対応する数値データで記憶部132に格納されている基準値Crに対応する数値データを更新する(STEP13)。すなわち、検出された静電容量Cが、新たな基準値Crになる。
【0030】
静電容量Cの基準値Crからの増加量が規定された閾値Cthを上回ると判断されると(STEP12においてNO)、制御部131は、対象物2に対してタッチ操作が行なわれたと判断する(STEP14)。
【0031】
制御部131は、不図示の電源から供給される電源電圧により動作している。制御部131と電源は、共通のアースと電気的に接続されている。本明細書においては、アースにより提供される基準電圧を、便宜上「接地電圧」と称する。環境ノイズなどの影響により、制御部131に供給される電源電圧と接地電圧の電圧差Vdは変動する。具体的には、電源電圧が低下したり、接地電圧が上昇したりすることによって、電源電圧と接地電圧の電圧差Vdが増減する。
【0032】
図4の(A)は、このような状況で起こりうる不具合を説明するための参考例を示している。参考例に係る制御部131Aが動作するためには、電圧差Vdが、規定された閾値Vth以上であることが求められる(いわゆる動作保証電圧)。図示の例においては、時刻t1において制御部131Aの電源電圧と接地電圧の電圧差Vdが閾値Vthを下回っている。これにより、制御部131Aは、動作を停止する。
【0033】
時刻t1以前においては、対象物2に対するタッチ操作が行なわれていないと判断されている状況が示されている。検出された静電容量Cは、値C1の近傍を推移している。したがって、値C1に増加量に係る閾値Cthを加えた値C2程度の静電容量Cが検出されると、制御部131Aは、対象物2に対してタッチ操作が行なわれたと判断しうる。
【0034】
図示の例においては、時刻t2において制御部131Aの電源電圧と接地電圧の電圧差Vdが閾値Vth以上に復帰している。これにより、制御部131Aは、動作停止状態から復帰する。制御部131Aは、動作停止状態から復帰するとキャリブレーション処理を実行するように構成されている。キャリブレーション処理は、静電容量検出部12の初期化や記憶部132に格納されている基準値Crに対応するデータのリセットを含む。
【0035】
制御部131Aの動作停止によって電極11に電力が供給されないので、電極11と対象物2の間の静電容量は低下する。したがって、キャリブレーション処理が終了する時刻t3において検出される静電容量Cは、動作停止前よりも低い値C3を有する。制御部131Aは、この値C3で基準値Crを更新してしまう。
【0036】
制御部131Aの電源電圧と接地電圧の電圧差Vdが元の状態に復帰するにつれて、検出される静電容量Cも増加する。例えば時刻t4で検出された静電容量Cと時刻t5で検出された静電容量Cのように、その過程で静電容量の増加量が閾値Cthを超える場合が起こりうる。時刻t5で検出された静電容量Cは、本来タッチ操作が行なわれたと判断されうる値C2よりも低い。しかしながら、制御部131Aは、閾値Cthを超えたという事実に基づいて、対象物2にタッチ操作が行なわれたと判断してしまう。
【0037】
このような不具合を避けるために、本実施形態に係る制御部131は、図4の(B)と図5に例示される動作を実行するように構成されている。
【0038】
参考例に係る制御部131Aと同様に、制御部131が動作するためには、電圧差Vdが、規定された閾値Vth以上であることが求められる。図4の(B)に示される例においては、時刻t1において制御部131の電源電圧と接地電圧の電圧差が閾値Vthを下回っている。これにより、制御部131は、動作を停止する。本例においても、時刻t2において制御部131の電源電圧と接地電圧の電圧差が閾値Vth以上に復帰している。制御部131は、電圧差Vdのこの状態を検出し、動作停止状態から復帰する(図5のSTEP21)。
【0039】
図4の(B)における時刻t3において静電容量検出部12の初期化などが完了すると、制御部131は、電極11と対象物2の間の静電容量Cを取得する(図5のSTEP22)。具体的には、制御部131は、電極11と対象物2の間の静電容量Cを、静電容量検出部12に検出させる。制御部131は、静電容量検出部12により検出された静電容量Cに対応する数値データを、変換回路122から受け付ける。
【0040】
続いて、制御部131は、検出された静電容量Cに対応する数値データを、記憶部132に格納されている静電容量の基準値Crに対応する数値データと比較することにより、両者の差異が規定された閾値未満であるかを判断する(STEP23)。この時点において記憶部132に格納されている基準値Crに対応するデータは、図4の(B)における時刻t0において取得されたものである。換言すると、この時点において記憶部132に格納されている基準値Crに対応するデータは、制御部131が動作停止状態に入る直前に検出された静電容量Cに対応している。
【0041】
検出された静電容量Cと基準値Crの差異が閾値未満であると判断されると(図5のSTEP23においてYES)、処理は、図3におけるSTEP11へ移行する。すなわち、対象物2に対するタッチ操作が行なわれたかを判断するための通常動作へ移行する。図4の(B)では、時刻t6において静電容量Cと基準値Crの差異が閾値未満であると判断された例が示されている。
【0042】
検出された静電容量Cと基準値Crの差異が閾値以上であると判断されると(図5のSTEP23においてNO)、制御部131は、STEP22の処理とSTEP23の処理を繰り返す。すなわち、制御部131は、電極11と対象物2の間の静電容量Cを静電容量検出部12に検出させ、検出された静電容量Cと基準値Crの差異が閾値未満であるかを判断する。したがって、検出された静電容量Cと基準値Crの差異が閾値未満であると判断されるまでの間、対象物2に対するタッチ操作が行なわれたかの判断が保留される。
【0043】
例えば、図4の(B)に例示される時刻t4において検出された静電容量Cと時刻t5において検出された静電容量Cの間には、タッチ操作の判断に係る閾値Cthに相当する差異がある。しかしながら、時刻t6に先立つこの時点では、検出された静電容量Cと基準値Crの差異が閾値未満であると判断されていないので、タッチ操作が行なわれたかの判断は保留される。
【0044】
他方、時刻t6において検出された静電容量Cと時刻t7において検出された静電容量Cの間にも、タッチ操作の判断に係る閾値Cthに相当する差異がある。検出された静電容量Cと基準値Crの差異が閾値未満であると判断された後のこの時点では、対象物2に対してタッチ操作が行なわれたとの判断がなされうる(図3のSTEP14に対応)。
【0045】
上記のような構成によれば、制御部131の動作停止状態からの復帰に伴って電極11と対象物2の間の静電容量Cが然るべき値(基準値Crとの差異が閾値未満となるような値)に復帰するまでは、対象物2に対してタッチ操作がなされたかの判断を行なわせないようにできる。すなわち、図4の(A)に例示されるような、動作停止状態からの復帰時に検出される一般的に低い静電容量を基準にしてのタッチ操作の判断が行なわれないようにできる。したがって、環境ノイズなどに起因して生じうる制御部131の動作停止状態からの復帰時においても、検出される静電容量Cの増加に伴うタッチ操作の誤判定を防止できる。換言すると、ノイズ環境下においても、正確にタッチ操作を判別可能にできる。
【0046】
特に、判断保留の解除に利用される基準値Crが、制御部131が動作停止状態に入る直前に検出された静電容量Cに対応しているので、制御部131が動作停止状態に入る前の動作環境に即した判断基準を提供できる。これにより、検出される静電容量Cの増加に伴うタッチ操作の誤判定を、より正確に防止できる。
【0047】
図6は、タッチ操作が行なわれたかの判断の保留に関して制御部131により実行される動作の流れの別例を示している。図5に例示された処理と実質的に同じ処理については、同一の参照符号を付与し、繰り返しとなる説明は省略する。
【0048】
本例においては、複数回にわたって検出された電極11と対象物2の間の静電容量Cを統計処理することによって、基準値Crとの差異の取得がなされる。具体的には、制御部131は、検出された静電容量CをSTEP22において取得した後、規定された回数の静電容量Cの取得がなされたかを判断する(STEP24)。規定された回数は、例えば5回である。
【0049】
規定された回数の静電容量Cの取得がなされていないと判断されると(STEP24においてNO)、制御部131は、STEP22の処理とSTEP24の処理を繰り返す。すなわち、制御部131は、検出された静電容量Cの取得を再度行ない、規定された回数の取得がなされたかの判断を行なう。
【0050】
規定された回数の静電容量Cの取得がなされたと判断されると(STEP24においてYES)、制御部131は、取得された複数個の静電容量Cについて統計値を取得する(STEP25)。統計値の例としては、平均値、中央値、最頻値などが挙げられる。
【0051】
続いて、制御部131は、取得された静電容量Cの統計値に対応する数値データを、記憶部132に格納されている静電容量の基準値Crに対応する数値データと比較することにより、両者の差異が規定された閾値未満であるかを判断する(STEP26)。
【0052】
統計値と基準値Crの差異が閾値未満であると判断されると(STEP26においてYES)、処理は、図3におけるSTEP11へ移行する。すなわち、対象物2に対するタッチ操作が行なわれたかを判断するための通常動作へ移行する。
【0053】
統計値と基準値Crの差異が閾値以上であると判断されると(図6のSTEP26においてNO)、制御部131は、STEP22からSTEP26に至る一連の処理を繰り返す。すなわち、制御部131は、規定された個数の静電容量Cを静電容量検出部12に検出させ、検出された複数個の静電容量Cの統計値を取得し、当該統計値と基準値Crの差異が閾値未満であるかを判断する。したがって、統計値と基準値Crの差異が閾値未満であると判断されるまでの間、対象物2に対するタッチ操作が行なわれたかの判断が保留される。
【0054】
このような構成によれば、複数の時点で検出された静電容量Cの統計値が基準値Crとの比較に供される。したがって、環境ノイズなどに起因して突発的に増大した静電容量Cが偶然に基準値Crとの差異に係る条件を満足してしまい、タッチ操作に係る判断の保留が意図せず解除されてしまう事態を回避しやすくなる。
【0055】
図5に例示されるように、制御部131は、タッチ操作に係る判断の保留が解除されたときに検出された静電容量Cの値で、基準値Crを更新しうる。具体的には、検出された静電容量Cと基準値Crの差異が閾値未満であると判断されると(STEP23においてYES)、制御部131は、その時点で検出された静電容量Cに対応する数値データで、記憶部132に格納されている基準値Crに対応する数値データを更新する(STEP27)。
【0056】
制御部131が動作停止状態に入る前に記憶部132に格納された基準値Crと、タッチ操作に係る判断の保留が解除されたときに検出された静電容量Cとは相違する場合がある。上記のような構成によれば、その後で行なわれるタッチ操作が行なわれたかの判断を、より近い時点の動作環境に即した基準値Crに基づいて行なうことができる。したがって、検出される静電容量Cの増加に伴うタッチ操作の誤判定を、より正確に防止できる。
【0057】
STEP27に係る処理は、図6を参照して説明した例にも適用可能である。この場合、制御部131は、タッチ操作に係る判断の保留が解除されたときに取得された静電容量の統計値で、基準値Crを更新する。タッチ操作に係る判断の保留が解除されたときに取得された静電容量の統計値は、タッチ操作に係る判断の保留が解除されたときに検出された静電容量の一例である。
【0058】
上記のような構成を有するタッチセンサ1は、例えば車両の一部であるドアハンドルに内蔵されうる。ドアハンドルは、対象物の一例である。この場合、ユーザの指Fなどがドアハンドルに触れる操作が行なわれたと判断されると、制御装置13から検出信号Sが出力される。検出信号Sは、例えば車両のドアの施錠装置に送信されうる。施錠装置は、検出信号Sに応じてドアの施錠動作や解錠動作を遂行しうる。
【0059】
上述した制御部131の機能は、上述した処理を実現するコンピュータプログラムを実行可能なマイクロコントローラ、ASIC、FPGAなどの専用集積回路によって実現されうる。制御部131は、汎用メモリと協働して動作する汎用マイクロプロセッサにより実現されてもよい。汎用マイクロプロセッサとしては、CPU、MPU、GPUが例示されうる。汎用メモリとしては、ROMやRAMが例示されうる。この場合、ROMには、上述した処理を実行するコンピュータプログラムが記憶されうる。汎用マイクロプロセッサは、ROM上に記憶されたプログラムの少なくとも一部を指定してRAM上に展開し、RAMと協働して上述した処理を実行する。制御部131は、汎用マイクロプロセッサと専用集積回路の組合せによって実現されてもよい。
【0060】
上述した記憶部132の機能は、半導体メモリやハードディスク装置などの記憶装置により実現されうる。上述した汎用メモリの少なくとも一部が、記憶部132として使用されてもよい。制御部131と記憶部132は、互いに独立した複数の素子として提供されてもよいし、単一の素子にパッケージされていてもよい。
【0061】
上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするための例示にすぎない。上記の実施形態に係る構成は、本発明の趣旨を逸脱しなければ、適宜に変更・改良されうる。
【0062】
上記の実施形態においては、制御部131が動作停止状態に入る直前に検出された静電容量Cが基準値Crとして使用されている。しかしながら、制御部131の動作停止状態からの復帰時においては、通常動作時において定期的に更新される基準値Crとは別に規定された一定の基準値が、タッチ操作の判断保留に係る比較に使用されてもよい。
【0063】
上記の実施形態においては、制御部131の電源電圧と接地電圧の電圧差Vdに相関する値として電極11と対象物2の間の静電容量Cを検出し、動作停止状態からの復帰後におけるタッチ操作の判断保留に係る比較に使用している。このような構成によれば、タッチセンサ1の本来の機能構成に特別な要素を追加することなく前述の処理を遂行できる。しかしながら、制御部131の電源電圧と接地電圧の電圧差Vdが不適当である場合に問題の動作停止状態が引き起こされるという事実に鑑みると、当該電圧差を直接的にモニタしてタッチ操作の判断保留に係る比較に使用する構成も採用されうる。
【0064】
図7は、このような場合に制御部131により実行される処理の一例を示している。制御部131は、電源電圧と接地電圧の電圧差Vdが閾値Vth以上に復帰している状態を検出すると、動作停止状態から復帰する(STEP31)。静電容量検出部12の初期化などが完了すると、制御部131は、電源電圧と接地電圧の電圧差Vdに対応する数値データを取得する(STEP32)。
【0065】
続いて、制御部131は、取得された電圧差Vdに対応する数値データを、記憶部132に格納されている電圧差Vdの基準値Vrに対応する数値データと比較することにより、両者の差異が規定された閾値未満であるかを判断する(STEP33)。図4の(B)に例示されるように、基準値Vrは、基準値Crに相当する静電容量Cが電極11と対象物2の間に検出されうる程度の値として定められうる。
【0066】
検出された電圧差Vdと基準値Vrの差異が閾値未満であると判断されると(図7のSTEP33においてYES)、処理は、図3におけるSTEP11へ移行する。すなわち、対象物2に対するタッチ操作が行なわれたかを判断するための通常動作へ移行する。図4の(B)では、時刻t6において検出された電圧差Vdと基準値Vrの差異が閾値未満であると判断された例が示されている。
【0067】
取得された電圧差Vdと基準値Vrの差異が閾値以上であると判断されると(図7のSTEP33においてNO)、制御部131は、STEP32の処理とSTEP33の処理を繰り返す。すなわち、制御部131は、電源電圧と接地電圧の電圧差Vdを取得し、取得された電圧差Vdと基準値Vrの差異が閾値未満であるかを判断する。したがって、取得された電圧差Vdと基準値Vrの差異が閾値未満であると判断されるまでの間、対象物2に対するタッチ操作が行なわれたかの判断が保留される。
【0068】
このような構成によっても、制御部131の動作停止状態からの復帰に伴って電源電圧と接地電圧の電圧差Vdが然るべき値に復帰するまでは、対象物2に対してタッチ操作がなされたかの判断を行なわせないようにできる。すなわち、図4の(A)に例示されるような、動作停止状態からの復帰時に検出される一般的に低い静電容量を基準にしてのタッチ操作の判断が行なわれないようにできる。したがって、環境ノイズなどに起因して生じうる制御部131の動作停止状態からの復帰時においても、検出される静電容量Cの増加に伴うタッチ操作の誤判定を防止できる。換言すると、ノイズ環境下においても、正確にタッチ操作を判別可能にできる。
【0069】
タッチセンサ1は、車両におけるドアハンドル以外の箇所にも配置されうる。タッチセンサ1により検出されるタッチ操作は、必ずしもユーザの指Fにより行なわれることを要しない。掌、肘、膝、足先などの身体部位によるタッチ操作も検出されうる。
【0070】
タッチセンサ1は、ユーザによるタッチ操作の検出が必要とされる適宜のユーザインターフェースに使用されうる。そのようなユーザインターフェースを備えた装置の例としては、建物の空調設備、建物の調光設備、室内あるいは室外で使用される音響映像機器、調理機器、空調機器、玩具などが挙げられる。
【符号の説明】
【0071】
1:タッチセンサ、2:対象物、11:電極、12:静電容量検出部、13:制御装置、131:制御部、C:検出された静電容量、Cr:静電容量の基準値、Vd:電源電圧と接地電圧の電圧差、Vr:電圧差の基準値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7