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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】建設機械
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/22 20060101AFI20230214BHJP
   F04B 49/12 20060101ALI20230214BHJP
   E02F 9/20 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
E02F9/22 R
F04B49/12
E02F9/20 N
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020030107
(22)【出願日】2020-02-26
(65)【公開番号】P2021134516
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 哲平
(72)【発明者】
【氏名】清水 自由理
(72)【発明者】
【氏名】平工 賢二
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-052697(JP,A)
【文献】特開2013-256988(JP,A)
【文献】特開平09-088902(JP,A)
【文献】特開平02-291435(JP,A)
【文献】特開昭62-033946(JP,A)
【文献】特開昭57-041484(JP,A)
【文献】特開2009-243425(JP,A)
【文献】特開昭61-197853(JP,A)
【文献】実開平03-069752(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/22
F04B 49/12
E02F 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
斜板の角度である傾転角に応じて作動油の吐出方向および吐出流量を調整可能な両傾転ポンプと、
前記傾転角を調整可能なレギュレータと、
油圧アクチュエータと、
前記両傾転ポンプの一方の入出力ポートと前記油圧アクチュエータの一方の油室とを接続する第1流路と、
前記両傾転ポンプの他方の入出力ポートと前記油圧アクチュエータの他方の油室とを接続する第2流路と、
前記第1流路および前記第2流路の流通と遮断とを切換可能な切換弁と、
前記油圧アクチュエータの動作を指示するための操作レバーと、
前記操作レバーの操作量に応じて前記切換弁および前記レギュレータを制御するコントローラとを備え、
前記レギュレータは、前記斜板に連結されたサーボピストンと、前記コントローラからの制御信号に応じて前記サーボピストンの操作圧を生成する電磁弁とを有する建設機械において、
前記サーボピストンの操作圧を検出する第1圧力センサを備え、
前記コントローラは、前記操作レバーの操作量を基に前記傾転角の目標値である傾転角目標値を算出し、前記第1圧力センサで検出した前記サーボピストンの操作圧と前記サーボピストンに作用する摩擦力とに基づいて前記傾転角の推定値である傾転角推定値を算出し、前記傾転角推定値と前記傾転角目標値との差分が小さくなるように前記電磁弁への制御信号を制御する
ことを特徴とする建設機械。
【請求項2】
請求項1に記載の建設機械において、
前記両傾転ポンプの吐出圧を検出する第2圧力センサを備え、
前記コントローラは、前記第1圧力センサで検出した前記サーボピストンの操作圧と前記サーボピストンに作用する摩擦力と前記第2圧力センサで検出した前記両傾転ポンプの吐出圧とに基づいて前記傾転角推定値を算出する
ことを特徴とする建設機械。
【請求項3】
請求項1に記載の建設機械において、
前記コントローラは、前記操作レバーが中立位置に操作されてから前記傾転角推定値が所定の閾値以下となるまでの間、前記切換弁を開状態とする制御信号を出力する
ことを特徴とする建設機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧アクチュエータを駆動するための油圧駆動装置を搭載した油圧ショベルなどの建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、油圧ショベルやホイールローダなどの建設機械において、省エネ化が重要な開発項目になっている。建設機械の省エネ化には油圧システム自体の省エネ化が重要であり、油圧ポンプにより油圧アクチュエータを閉回路接続して直接に制御する油圧閉回路システムの適用が検討されている。このシステムは、制御弁による圧損がなく、必要な流量のみをポンプが吐出するため、流量損失が小さい。また、アクチュエータの位置エネルギや減速時のエネルギを回生することもできる。このため省エネ化が可能となる。
【0003】
油圧閉回路を組み合わせた建設機械の背景技術として特許文献1がある。特許文献1には、複数の可変容積油圧ポンプをそれぞれ複数の油圧アクチュエータに電磁切換弁(以下、切換弁)を介して油圧閉回路を構成するよう分岐接続することで、アクチュエータの複合動作と高速動作を可能にした構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015―048899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の油圧閉回路では、作動油の吐出方向を切換え可能な可変容積型の両傾転ポンプが使用されている。運転者のレバー操作に応じて、両傾転ポンプ1台に、いずれか1つのアクチュエータを流路で接続し駆動するよう、切換弁がコントローラにより開閉制御される。レバーの非操作時は切換弁を閉じることでアクチュエータを停止保持させる。この時、両傾転ポンプは吐出流量がゼロになるように制御される。
【0006】
両傾転ポンプは、吐出流量を制御するため、1回転当たりの吐出流量である押しのけ容積を制御する機構としてレギュレータを備える。レギュレータは、両傾転ポンプの斜板に連結されたサーボピストンと、サーボピストンの操作圧を生成する電磁弁とで構成される。電磁弁がコントローラからの制御信号に応じてサーボピストンの操作圧を生成し、サーボピストンが両傾転ポンプの斜板の角度(傾転角)を調整することにより、両傾転ポンプの押しのけ容積が変化する。しかしながら、コントローラが両傾転ポンプの傾転角をゼロとする制御信号を電磁弁へ出力しても、サーボピストンや斜板の摩擦によって傾転角はゼロにはならず、微小の吐出流量が発生する。この時、切換弁が閉じており、両傾転ポンプから吐出された作動油の行き場がないため、両傾転ポンプの吐出圧力が上昇し、騒音や燃費が悪化するという課題がある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、両傾転ポンプの傾転角の制御精度を向上させ、操作レバーが中立位置にある時に両傾転ポンプの吐出流量をゼロに近づけることにより、両傾転ポンプの吐出圧上昇に伴う騒音および燃費低下を抑制することが可能な建設機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、斜板の角度である傾転角に応じて作動油の吐出方向および吐出流量を調整可能な両傾転ポンプと、前記傾転角を調整可能なレギュレータと、油圧アクチュエータと、前記両傾転ポンプの一方の入出力ポートと前記油圧アクチュエータの一方の油室とを接続する第1流路と、前記両傾転ポンプの他方の入出力ポートと前記油圧アクチュエータの他方の油室とを接続する第2流路と、前記第1流路および前記第2流路の流通と遮断とを切換可能な切換弁と、前記油圧アクチュエータの動作を指示するための操作レバーと、前記操作レバーの操作に応じて前記切換弁および前記レギュレータを制御するコントローラとを備え、前記レギュレータは、前記斜板に連結されたサーボピストンと、前記コントローラからの制御信号に応じて前記サーボピストンの操作圧を生成する電磁弁とを有する建設機械において、前記サーボピストンの操作圧を検出する第1圧力センサを備え、前記コントローラは、前記操作レバーの操作量を基に前記傾転角の目標値である傾転角目標値を算出し、前記第1圧力センサで検出した前記サーボピストンの操作圧と前記サーボピストンに作用する摩擦力とに基づいて前記傾転角の推定値である傾転角推定値を算出し、前記傾転角推定値と前記傾転角目標値との差分が小さくなるように前記電磁弁への制御信号を制御するものとする。
【0009】
以上のように構成した本発明によれば、サーボピストンの操作圧とサーボピストンに作用する摩擦力とに基づいて傾転角推定値が算出され、操作レバーの操作量を基に算出された傾転角目標値と前記傾転角推定値との差分が小さくなるようにサーボピストンの操作圧が調整される。これにより、サーボピストンや両傾転ポンプの斜板の摩擦に関わらず、サーボピストンの停止位置と目標位置との差分(残差)が小さくなる。その結果、操作レバーが中立位置にある時に両傾転ポンプの吐出流量をよりゼロに近づけることができるため、閉回路内での圧力上昇が抑制され、騒音や燃費低下を抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る建設機械によれば、両傾転ポンプの傾転角の制御精度を向上させ、操作レバーが中立位置にある時に両傾転ポンプの吐出流量をゼロに近づけることにより、両傾転ポンプの吐出圧上昇に伴う騒音および燃費低下を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1の実施例に係る油圧ショベルを示す側面図である。
図2】本発明の第1の実施例における油圧駆動装置の概略図である。
図3】本発明の第1の実施例におけるコントローラの機能ブロック図である。
図4】本発明の第1の実施例におけるレギュレータの構成図である。
図5】本発明の第2の実施例におけるコントローラの処理を示すフローチャートである。
図6】本発明の第2の実施例における油圧駆動装置の概略図である。
図7】本発明の第2の実施例におけるコントローラの機能ブロック図である。
図8】本発明の第2の実施例におけるコントローラの処理を示すフローチャートである。
図9】本発明の第3の実施例におけるコントローラの機能ブロック図である。
図10】本発明の第3の実施例におけるコントローラの処理を示すフローチャートである。
図11】本発明の第3の実施例における油圧駆動装置の動作を第1の実施例と比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、建設機械として大型の油圧ショベルを例に挙げ、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。なお、各図中、同等の部材には同一の符号を付し、重複した説明は適宜省略する。
【実施例1】
【0013】
図1は、本発明の第1の実施例に係る油圧ショベルを示す側面図である。
【0014】
(油圧ショベル)
図1において、油圧ショベル100は、走行モータ101によって駆動されるクローラ式の走行装置を装備した下部走行体102と、下部走行体102上に旋回可能に取り付けられ、旋回モータ103によって駆動される上部旋回体104と、上部旋回体104の前部に上下方向に回動可能に取り付けられた作業装置105とを備えている。上部旋回体104上には、オペレータが搭乗するキャブ106が設けられている。
【0015】
作業装置105は、上部旋回体104の前部に上下方向に回動可能に取り付けられたブーム107と、ブーム107の先端部に上下または前後方向に回動可能に連結された作業部材としてのアーム108と、アーム108の先端部に上下または前後方向に回動可能に連結された作業部材としてのバケット109と、ブーム107を駆動する油圧アクチュエータであるブームシリンダ4と、アーム108を駆動する油圧アクチュエータであるアームシリンダ110と、バケット109を駆動する油圧アクチュエータであるバケットシリンダ111とを備えている。
【0016】
(油圧駆動装置)
図2は、油圧ショベル100に搭載された油圧駆動装置の一例を示す概略図である。図2において、油圧駆動装置200は、油圧アクチュエータであるブームシリンダ4を閉回路で駆動する。なお、図2では、ブームシリンダ4以外の油圧アクチュエータの駆動に関わる部分は省略している。
【0017】
(両傾転ポンプ)
両傾転ポンプ2は、エンジン1から動力をから受けて駆動される。両傾転ポンプ2は一対の入出力ポート2a,2bを持つ傾転斜板機構、および斜板2cの角度(傾斜角)を調整して1回転当たりの吐出流量(押しのけ容積)を調整するレギュレータ3を備えている。レギュレータ3は、コントローラ6から制御信号線を介して受信した制御信号に従い、両傾転ポンプ2の吐出方向および吐出流量を制御する。
【0018】
(切換弁)
両傾転ポンプ2の2つ入出力ポートは、流路14,15を介して切換弁5に接続されている。切換弁5は、流路16,17を介してブームシリンダ4に接続されている。切換弁5は、コントローラ6から受信した制御信号により開閉制御され、流路14,16および流路16,17を流通状態または遮断状態に切り換える。切換弁5が開状態のときは、両傾転ポンプ2の一方の入出力ポート2aが流路14,16を介してブームシリンダ4のボトム側油室4aと連通し、他方の入出力ポート2bが流路15,17を介してブームシリンダ4のロッド側油室4bと連通する。これにより、両傾転ポンプ2とブームシリンダ4とが閉回路状に接続される。
【0019】
(コントローラ)
コントローラ6は、各機器との間で信号を入出力する入出力インターフェースと、中央演算処理装置(CPU)およびその周辺回路等で構成され、所定のプログラムに従って各種演算を行う演算装置とを備え、ブームシリンダ4の駆動指示を与える操作レバー7と信号線で接続され、レギュレータ3および切換弁5と制御信号線で接続されている。コントローラ6は、演算装置が所定のプログラムを実行することにより、操作量演算部6a、傾転角推定部6b、傾転角制御部6c、ポンプ制御部6d、および切換弁制御部6eの各機能を実現する。
【0020】
図3に、コントローラ6の機能ブロック図を示す。
【0021】
操作量演算部6aは操作レバー7の信号を受信し、レバー操作量に変換する。操作量演算部6aは、レバー操作量を基に両傾転ポンプ2とブームシリンダ4とを接続するか否か(切換弁5の閉じるか否か)を決定する。例えば、操作レバー7が中立位置から操作された場合(レバー操作量がゼロでなくなった場合)、両傾転ポンプ2をブームシリンダ4に接続するため、切換弁5の制御指令値を「開」に設定する。操作量演算部6aは、レバー操作量を基に両傾転ポンプ2の傾転角目標値Doを設定する。両傾転ポンプ2の吐出方向は、操作レバー7の操作方向(レバー操作量の符号)に応じて定まる。傾転角推定部6bと傾転角制御部6cについては後述する。
【0022】
ポンプ制御部6dは、傾転角制御部6cが設定したレギュレータ3の制御指令値を基にレギュレータ3(後述する電磁弁3a,3b)へ制御信号を出力し、両傾転ポンプ2の吐出方向および吐出流量を制御する。切換弁制御部6eは、操作量演算部6aが設定した切換弁5の制御指令値を基に切換弁5へ制御信号を出力し、切換弁5を開閉制御する。
【0023】
(その他)
図2に戻り、ブームシリンダ4に接続された流路16,17は、フラッシング弁8を介してタンク9に接続されている。フラッシング弁8は、流路16,17の低圧側をタンク9に連通させ、閉回路内の作動油の過不足を解消する。また、両傾転ポンプ2に接続された流路14,15は、リリーフ弁10a,10bを介してタンク9に接続されている。リリーフ弁10a,10bは、両傾転ポンプ2の吐出圧が一定以上の高圧に達した際に開き、両傾転ポンプ2から吐出された高圧の作動油をタンク9へ排出する。すなわち、リリーフ弁10a,10bは、安全弁としての機能を有する。
【0024】
(レギュレータ)
レギュレータ3の構成を図4に示す。レギュレータ3は、両傾転ポンプ2の斜板2cに連結されたサーボピストン3cと、電磁弁3a,3bと、油圧源3dとを備える。電磁弁3a,3bは、コントローラ6からの制御信号に応じて油圧源3dからの圧力を減圧し、サーボピストン3cの油室3e,3fに作用させる。電磁弁3a,3bはそれぞれ操作レバー7の操作方向に対応して駆動される。サーボピストン3cは電磁弁3a,3bから出力された圧力で駆動され、油室3e,3fに設置されたバネ3g,3hとの釣り合い位置で停止する。サーボピストン3cの移動に連動して斜板2cの角度(傾転角)が変化することにより、両傾転ポンプ2の吐出方向および吐出流量が変化する。
【0025】
(本発明に関わる構成)
次に、本実施例における本発明に関わる構成について説明する。
【0026】
(レギュレータ内の圧力センサ)
レギュレータ3内の、電磁弁3a,3bとサーボピストン3cの油室3e,3fとを接続する流路上には、圧力センサ12a,12bがそれぞれ設けられている。圧力センサ12a,12bの検出信号は、信号線を介してコントローラ6へ入力される。
【0027】
(コントローラ6)
図3に示す傾転角推定部6bは、圧力センサ12a,12bからの信号を圧力値に変換し、これら圧力値を基に両傾転ポンプ2の傾転角推定値Deを算出する。ここで、両傾転ポンプ2の傾転角はサーボピストン3cの位置(中立位置からの移動距離)によって定まるため、本実施例では、サーボピストン3cの位置の推定値を傾転角推定値Deとして算出する。傾転角推定値Deの算出方法の一例を以下に説明する。
【0028】
図4において、圧力センサ12a,12bで検出した油室3e,3fの差圧ΔPにサーボピストン3cの受圧面積Aを掛けて得られるサーボピストン3cの駆動力ΔP・Aは、サーボピストン3cの位置にバネ係数Kを掛けて得られるバネ力とサーボピストン3cに作用する摩擦力Fcとの合力と釣り合うことから、次式を用いて傾転角推定値Deを算出できる。
【0029】
【数1】
【0030】
ここで、摩擦力Fcは、サーボピストン3cや両傾転ポンプ2の斜板2cの摩擦に起因してサーボピストン3cの駆動方向と反対方向に作用する力であり、例えば実験データを基に同定した値を使用する。
【0031】
図3に戻り、傾転角制御部6cは、傾転角推定値Deと操作量演算部6aから算出された傾転角目標値Doとの差分ΔDがゼロになるように(すなわち、両傾転ポンプ2の傾転角推定値Deが傾転角目標値Doと一致するように)レギュレータ3(電磁弁3a,3b)の制御指令値を算出する。
【0032】
図5は、コントローラ6の処理を示すフローチャートである。以下、各ステップを順に説明する。
【0033】
コントローラ6は、まず、操作レバー7の操作量(レバー操作量)を基に、両傾転ポンプ2の傾転角目標値Doを算出する(ステップS101)。具体的には、操作量演算部6aが操作レバー7からの入力信号をレバー操作量に変換し、傾転角制御部6cがレバー操作量を傾転角目標値Doに変換する。
【0034】
ステップS101に続き、コントローラ6の傾転角推定部6bは、圧力センサ12a,12bで検出した差圧ΔPを基に、両傾転ポンプ2の傾転角推定値Deを算出する(ステップS102)。
【0035】
ステップS102に続き、コントローラ6の傾転角制御部6cは、傾転角目標値Doから傾転角推定値Deを差し引いた差分ΔDを算出し(ステップS103)、差分ΔDに対してPID演算を行うことによりレギュレータ3の制御指令値Dcを算出する(ステップS104)。
【0036】
ステップS104に続き、コントローラ6のポンプ制御部6dは、制御指令値Dcに応じた制御信号をレギュレータ3(電磁弁3a,3b)へ出力し(ステップS105)、ステップS101へ処理を戻す。
【0037】
(動作)
ブームシリンダ4を停止保持するために操作レバー7が中立位置に操作されると、コントローラ6の操作量演算部6aは両傾転ポンプ2の傾転角目標値Doをゼロに設定すると共に、切換弁5の制御指令値を「閉」に設定する。傾転角推定部6bは、圧力センサ12a,12bで検出した圧力差ΔPとサーボピストン3cに作用する摩擦力Fcとに基づいて傾転角推定値Deを算出する。傾転角制御部6cは、傾転角目標値Doと傾転角推定値Deとの差分ΔDがゼロとなるように(この場合は、傾転角推定値Deがゼロとなるように)レギュレータ3の制御指令値Dcを算出する。ポンプ制御部6dは、制御指令値Dcに応じた制御信号をレギュレータ3(電磁弁3a,3b)へ出力する。切換弁制御部6eは、切換弁5を閉状態とする制御信号を切換弁5へ出力する。
【0038】
(効果)
本実施例では、斜板2cの角度である傾転角に応じて作動油の吐出方向および吐出流量を調整可能な両傾転ポンプ2と、前記傾転角を調整可能なレギュレータ3と、油圧アクチュエータ4と、両傾転ポンプ2の一方の入出力ポート2aと油圧アクチュエータ4の一方の油室4aとを接続する第1流路14,16と、両傾転ポンプ2の他方の入出力ポート2bと油圧アクチュエータの他方の油室4bとを接続する第2流路15,17と、第1流路14,16および第2流路15,17の流通と遮断とを切換可能な切換弁5と、油圧アクチュエータ4の動作を指示するための操作レバー7と、操作レバー7の操作量に応じて切換弁5およびレギュレータ3を制御するコントローラ6とを備え、レギュレータ3は、斜板2cに連結されたサーボピストン3cと、コントローラ6からの制御信号に応じてサーボピストン3cの操作圧を生成する電磁弁3a,3bとを有する建設機械100において、サーボピストン3cの操作圧を検出する第1圧力センサ12a,12bを備え、コントローラ6は、操作レバー7の操作量を基に前記傾転角の目標値である傾転角目標値Doを算出し、第1圧力センサ12a,12bで検出したサーボピストン3cの操作圧とサーボピストン3cに作用する摩擦力Pcとに基づいて前記傾転角の推定値である傾転角推定値Deを算出し、傾転角目標値Doと傾転角推定値Deとの差分ΔDが小さくなるように電磁弁3a,3bへの制御信号を制御する。
【0039】
以上のように構成した本実施例によれば、サーボピストン3cの操作圧とサーボピストン3cに作用する摩擦力Fcとに基づいて傾転角推定値Deが算出され、操作レバー7の操作量を基に算出された傾転角目標値Doと傾転角推定値Deとの差分ΔDが小さくなるようにサーボピストン3cの操作圧が調整される。これにより、サーボピストン3cや両傾転ポンプ2の斜板2cの摩擦に関わらず、サーボピストン3cの停止位置と目標位置との差分(残差)が小さくなる。その結果、操作レバー7が中立位置にある時に両傾転ポンプ2の吐出流量をゼロに近づけることができるため、両傾転ポンプ2の吐出圧上昇を防ぐことができ、騒音や燃費低下を抑制することが可能となる。
【実施例2】
【0040】
本発明の第2の実施例について、第1の実施例との相違点を中心に説明する。
【0041】
両傾転ポンプ2のような斜板式の可変容量ポンプでは、一方の入出力ポートに高圧が作用した時に、斜板が高圧油で押されることにより、式(1)で算出した傾転角推定値Deの誤差が大きくなる。傾転角推定値Deに大きな誤差が生じると、傾転角制御部6cで算出した制御指令値通りにポンプ制御部6dがレギュレータ3へ制御信号を出力しても、両傾転ポンプ2の傾転角はゼロにならず、吐出流量が生じることになる。その結果、操作レバー7が中立位置にある時に、切換弁5が閉じることで両傾転ポンプ2の吐出圧が上昇し、騒音や燃費を悪化させる。
【0042】
本実施例では、両傾転ポンプ2の斜板2cに作用している負荷に関わらず、操作レバーが中立位置にある時に両傾転ポンプの吐出流量をゼロに近づけることにより、両傾転ポンプ2の吐出圧上昇に伴う騒音および燃費低下を抑制する。
【0043】
図6は、本実施例における油圧駆動装置200の概略図である。
【0044】
図6において、両傾転ポンプ2に接続された流路15,16には、それぞれ圧力センサ13a,13bが設けられている。圧力センサ13a,13bは信号線を介してコントローラ6へ接続される。コントローラ6の傾転角推定部6bは、圧力センサ12a,12bの圧力値と圧力圧センサ13a,13bの圧力値とに基づいて傾転角推定値Deを算出する。
【0045】
図7は、本実施例におけるコントローラ6の機能ブロック図である。
【0046】
本実施例における傾転角推定部6bは、圧力センサ12a,12bで検出した油室3e,3fの圧力差ΔPと圧力センサ13a,13bで検出した入出力ポート2a,2bの圧力差ΔPdとに基づいて傾転角推定値Deを算出する。
【0047】
図8は、本実施例におけるコントローラ6の処理を示すフローチャートである。
【0048】
本実施例におけるステップS102では、コントローラ6の傾転角推定部6bは、圧力センサ12a,12bで検出した油室3e,3fの圧力差ΔPと圧力センサ13a,13bで検出した入出力ポート2a,2bの圧力差ΔPdとに基づき、例えば次式を用いて傾転角推定値Deを算出する。
【0049】
【数2】
【0050】
ここで、Cは係数であり、例えば、設計値に基づくシミュレーションや実験から算出した値を用いる。
【0051】
(効果)
本実施例に係る油圧ショベル100は、両傾転ポンプ2の吐出圧を検出する第2圧力センサ13a,13bを備え、コントローラ6は、第1圧力センサ12a,12bで検出したサーボピストン3cの操作圧とサーボピストン3cに作用する摩擦力Fcと第2圧力センサ13a,13bで検出した両傾転ポンプ2の吐出圧とに基づいて傾転角推定値Deを算出する。
【0052】
以上のように構成した本実施例によれば、サーボピストン3cの操作圧とサーボピストン3cに作用する摩擦力Fcと両傾転ポンプ2の吐出圧とに基づいて傾転角推定値Deが算出され、操作レバー7の操作量を基に算出された傾転角目標値Doと傾転角推定値Deとの差分ΔDが小さくなるようにサーボピストン3cの操作圧が調整される。これにより、サーボピストン3cや両傾転ポンプ2の斜板2cの摩擦、および両傾転ポンプ2の斜板2cに作用する負荷に関わらず、サーボピストン3cの停止位置と目標位置との差分(残差)が小さくなる。その結果、操作レバー7が中立位置にある時に両傾転ポンプ2の吐出流量をゼロに近づけることできるため、両傾転ポンプの吐出圧上昇に伴う騒音および燃費低下を抑制することが可能となる。
【実施例3】
【0053】
本発明の第3の実施例について、第1の実施例との相違点を中心に説明する。
【0054】
図9は、本実施例におけるコントローラ6の機能ブロック図である。
【0055】
本実施例における切換弁制御部6eは、操作量演算部6aからのレバー操作量と傾転角推定部6bからの傾転角推定値Deとに基づいて切換弁5の制御指令値Dcを算出し、この制御指令値Dcに応じた制御信号を切換弁5へ出力する。
【0056】
図10は、本実施例におけるコントローラ6の処理を示すフローチャートである。
【0057】
本実施例では、ステップS105に続き、コントローラ6の切換弁制御部6eは、傾転角推定値Deが所定の閾値よりも小さいか否かを判定する(ステップS106)。ここでいう閾値は、両傾転ポンプ2の吐出流量が十分小さくなるときの傾転角(具体的には、切換弁5を閉じたときに両傾転ポンプ2の吐出圧がリリーフ弁10a,10bの設定圧を超えない傾転角)よりも小さい値に設定される。
【0058】
ステップS106でYesと判定した場合は切換弁5へ閉信号を出力し(ステップS107)、ステップS101へ処理を戻す。一方、ステップS106でNoと判定された場合は切換弁5へ開信号を出力し(ステップS108)、ステップS101へ処理を戻す。これにより、操作レバー7が非操作状態になってから傾転角推定値Deが閾値以下となるまでの間、切換弁5は開状態に維持される。
【0059】
(動作)
図11は、本実施例における油圧駆動装置の動作を第1の実施例と比較して示す図である。
【0060】
第1の実施例では、操作レバー7の操作量がゼロになると、両傾転ポンプ2の吐出流量はレバー操作量に遅れてゼロになる。一方、切換弁5はレバー操作量がゼロになったタイミングで閉じる。そのため、切換弁5を閉じた直後は、両傾転ポンプ2から吐出された作動油の行き場がなくなり、両傾転ポンプ2の吐出圧がリリーフ弁10a,10bの設定圧まで上昇し、騒音や燃費が悪化する。
【0061】
一方、本実施例では、レバー操作量がゼロになってから両傾転ポンプ2の傾転角推定値Deが閾値を下回るまで(両傾転ポンプ2の吐出流量が十分小さくなるまで)は、切換弁5が開状態に維持される。これにより、レバー操作量がゼロになってから両傾転ポンプ2の傾転角が十分に小さくなるまでの間、両傾転ポンプ2から吐出された作動油の行き場が確保されるため、両傾転ポンプ2の吐出圧上昇が抑えられる。
【0062】
(効果)
本実施例におけるコントローラ6は、操作レバー7が中立位置に操作されてから両傾転ポンプ2の傾転角推定値Deが所定の閾値以下となるまでの間、切換弁5を開状態とする制御信号を出力する。
【0063】
以上のように構成した本実施例によれば、操作レバー7が中立位置に操作されてから両傾転ポンプ2の吐出流量が十分小さくなるまでの間、切換弁5が開状態に維持されるため、両傾転ポンプ2の吐出圧上昇を防ぐことができ、騒音や燃費悪化を抑制することが可能となる。
【0064】
(その他、全般に関して)
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は、上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は、油圧ショベルに本発明を適用したものであるが、本発明は、閉回路ポンプで油圧アクチュエータを駆動する建設機械であれば、油圧ショベルに限らず適用可能である。また、上記した実施例は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。さらに、ある実施例の構成に他の実施例の構成の一部を加えることも可能であり、ある実施例の構成の一部を削除し、あるいは、他の実施例の一部と置き換えることも可能である。
【符号の説明】
【0065】
1…エンジン、2…両傾転ポンプ、2a,2b…入出力ポート、2c…斜板、3…レギュレータ、3a,3b…電磁弁、3c…サーボピストン、3d…油圧源、3e,3f…油室、3g,3h…バネ、4…ブームシリンダ(油圧アクチュエータ)、4a…ボトム側油室、4b…ロッド側油室、5…切換弁、6…コントローラ、6a…操作量演算部、6b…傾転角推定部、6c…傾転角制御部、6d…ポンプ制御部、6e…切換弁制御部、7…操作レバー、8…フラッシング弁、9…タンク、10a,10b…リリーフ弁、12a,12b…圧力センサ(第1圧力センサ)、13a,13b…圧力センサ(第2圧力センサ)、14,16…流路(第1流路)、15,17…流路(第2流路)、100…油圧ショベル(建設機械)、101…走行モータ(油圧アクチュエータ)、102…下部走行体、103…旋回モータ(油圧アクチュエータ)、104…上部旋回体、105…作業装置、106…キャブ、107…ブーム、108…アーム、109…バケット、110…アームシリンダ(油圧アクチュエータ)、111…バケットシリンダ(油圧アクチュエータ)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11