(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】養殖管理装置、養殖管理方法及び給餌ロボット
(51)【国際特許分類】
A01K 61/80 20170101AFI20230214BHJP
A01K 61/60 20170101ALI20230214BHJP
【FI】
A01K61/80
A01K61/60 321
(21)【出願番号】P 2020039766
(22)【出願日】2020-03-09
【審査請求日】2021-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】西谷 明彦
【審査官】吉原 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-160025(JP,A)
【文献】特開2019-104420(JP,A)
【文献】実開昭51-092890(JP,U)
【文献】実開平04-090491(JP,U)
【文献】特開昭63-273427(JP,A)
【文献】特開平05-276849(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0206078(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/00 - 63/10
B63C 1/00 - 15/00
B63G 1/00 - 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海中に配置された生簀内で生物を養殖するための養殖管理装置であって、
前記生簀の位置を含む所定範囲内における潮流に関する潮流情報を受信する受信部と、
前記潮流情報に基づいて、給餌を開始するための給餌開始位置を決定する決定部と、
前記海中を移動して前記生物に給餌するロボットに、
前記給餌開始位置に移動させた後に、前記給餌開始位置において前記生物に対する給餌を開始させるための給餌指示を送信する送信部と、
を有する、養殖管理装置。
【請求項2】
前記決定部は、前記生簀の位置を基準として前記潮流の上流側の位置を、前記給餌開始位置として決定する、
請求項1に記載の養殖管理装置。
【請求項3】
前記決定部は、前記生簀の位置を基準として前記潮流の上流側であって、前記生簀の位置から
、予め定められた潮流の強さと距離との関係において前記
潮流情報が示す潮流の強さに
関連付けられた距離にある位置を、前記給餌開始位置として決定する、
請求項2に記載の養殖管理装置。
【請求項4】
前記決定部は、前記生簀の位置を基準として前記潮流の上流側であって、
前記生簀の位置から、予め定められた餌の種類と距離との関係において前記ロボットが給餌する餌の種類に
関連付けられた距離にある位置を、前記給餌開始位置として決定する、
請求項2又は3に記載の養殖管理装置。
【請求項5】
前記受信部は、前記生簀内における生物群の位置を示す情報を受信し、
前記決定部は、前記生簀内における前記生物群の位置を基準として前記潮流の上流側の位置を、前記給餌開始位置として決定する、
請求項1から4のいずれか一項に記載の養殖管理装置。
【請求項6】
前記生物が餌を食べる兆候を示す兆候情報を記憶する記憶部と、
前記兆候情報に基づいて、前記生簀を撮像した撮像画像において前記兆候を検出する検出部と、
をさらに有し、
前記送信部は、前記検出部が前記兆候を検出したことを条件として、前記ロボットに前記給餌指示を送信する、
請求項1から5のいずれか一項に記載の養殖管理装置。
【請求項7】
前記生簀を撮像した撮像画像において前記生物が餌を食べる速度と、前記生物が餌を食べ残した量との少なくとも一方を検出する検出部をさらに有し、
前記送信部は、前記検出部が検出した前記速度及び前記量の少なくとも一方を、情報端末に送信する、
請求項1から5のいずれか一項に記載の養殖管理装置。
【請求項8】
前記受信部は、前記生簀が発した音及び光の少なくとも一方を受信し、
前記送信部は、前記受信部が前記音及び前記光の少なくとも一方を受信したことを条件として、前記ロボットに前記給餌指示を送信する、
請求項1から7のいずれか一項に記載の養殖管理装置。
【請求項9】
海中に配置された生簀内で生物を養殖するための養殖管理装置であって、
前記生簀の位置を含む所定範囲内における潮流に関する潮流情報を受信する受信部と、
前記潮流情報に基づいて、給餌を開始するための給餌開始位置を決定する決定部と、
前記生物が餌を食べる兆候を示す兆候情報を記憶する記憶部と、
前記兆候情報に基づいて、前記生簀を撮像した撮像画像において前記兆候を検出する検出部と、
前記検出部が前記兆候を検出したことを条件として、前記海中を移動して前記生物に給餌するロボットに、前記給餌開始位置において前記生物に対する給餌を開始させるための給餌指示を送信する送信部と、
を有する、養殖管理装置。
【請求項10】
海中に配置された生簀内で生物を養殖するための養殖管理装置であって、
前記生簀の位置を含む所定範囲内における潮流に関する潮流情報を受信する受信部と、
前記潮流情報に基づいて、給餌を開始するための給餌開始位置を決定する決定部と、
前記海中を移動して前記生物に給餌するロボットに、前記給餌開始位置において前記生物に対する給餌を開始させるための給餌指示を送信する送信部と、
前記生簀を撮像した撮像画像において前記生物が餌を食べる速度と、前記生物が餌を食べ残した量との少なくとも一方を検出する検出部と、
を有し、
前記送信部は、前記検出部が検出した前記速度及び前記量の少なくとも一方を、情報端末に送信する、
養殖管理装置。
【請求項11】
海中に配置された生簀内で生物を養殖するための養殖管理装置であって、
前記生簀の位置を含む所定範囲内における潮流に関する潮流情報を受信するとともに、前記生簀が発した音及び光の少なくとも一方を受信する受信部と、
前記潮流情報に基づいて、給餌を開始するための給餌開始位置を決定する決定部と、
前記受信部が前記音及び前記光の少なくとも一方を受信したことを条件として、前記海中を移動して前記生物に給餌するロボットに、前記給餌開始位置において前記生物に対する給餌を開始させるための給餌指示を送信する送信部と、
を有する、養殖管理装置。
【請求項12】
プロセッサが実行する、
海中に配置された生簀の位置を含む所定範囲内における潮流に関する潮流情報を取得するステップと、
前記潮流情報に基づいて、給餌を開始するための給餌開始位置を決定するステップと、
前記海中を移動して前記生簀内の生物に給餌するロボットに、
前記給餌開始位置に移動させた後に、前記給餌開始位置において前記生物に対する給餌を開始させるための給餌指示を送信する送信部と、
を有する、養殖管理方法。
【請求項13】
海中に配置された生簀内で生物を養殖するための給餌ロボットであって、
前記生簀の位置を含む所定範囲内における潮流に関する潮流情報を取得する取得部と、
前記潮流情報に基づいて、給餌を開始するための給餌開始位置を決定する決定部と、
前記給餌ロボットを前記給餌開始位置に移動させるための駆動部と、
前記給餌ロボットが前記給餌開始位置に移動した後に、前記給餌開始位置において前記生物に対する給餌を開始する給餌部と、
を有する、給餌ロボット。
【請求項14】
前記生物が餌を食べる兆候を示す兆候情報を記憶する記憶部と、
前記生簀を撮像して撮像画像を取得する撮像部と、
前記兆候情報に基づいて、前記撮像画像において前記兆候を検出する検出部と、
をさらに有し、
前記給餌部は、前記検出部が前記兆候を検出したことを条件として、前記給餌開始位置において前記生物に対する給餌を開始する、
請求項
13に記載の給餌ロボット。
【請求項15】
前記取得部は、前記生簀が発した音及び光の少なくとも一方を受信し、
前記駆動部は、前記取得部が前記音及び前記光の少なくとも一方を受信したことを条件として、前記給餌ロボットを前記給餌開始位置に移動させる、
請求項
13又は
14に記載の給餌ロボット。
【請求項16】
前記給餌部は、前記生物に対する給餌を開始した後に、前記生簀内に残存した餌を回収する、
請求項
13から
15のいずれか一項に記載の給餌ロボット。
【請求項17】
海中に配置された生簀内で生物を養殖するための給餌ロボットであって、
前記生簀の位置を含む所定範囲内における潮流に関する潮流情報を取得する取得部と、
前記潮流情報に基づいて、給餌を開始するための給餌開始位置を決定する決定部と、
前記給餌ロボットを前記給餌開始位置に移動させるための駆動部と、
前記生物が餌を食べる兆候を示す兆候情報を記憶する記憶部と、
前記生簀を撮像して撮像画像を取得する撮像部と、
前記兆候情報に基づいて、前記撮像画像において前記兆候を検出する検出部と、
前記検出部が前記兆候を検出したことを条件として、前記給餌開始位置において前記生物に対する給餌を開始する給餌部と、
を有する、給餌ロボット。
【請求項18】
海中に配置された生簀内で生物を養殖するための給餌ロボットであって、
前記生簀の位置を含む所定範囲内における潮流に関する潮流情報を取得するとともに、前記生簀が発した音及び光の少なくとも一方を受信する取得部と、
前記潮流情報に基づいて、給餌を開始するための給餌開始位置を決定する決定部と、
記取得部が前記音及び前記光の少なくとも一方を受信したことを条件として、前記給餌ロボットを前記給餌開始位置に移動させるための駆動部と、
前記給餌開始位置において前記生物に対する給餌を開始する給餌部と、
を有する、給餌ロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海中に配置された生簀内で生物を養殖するための養殖管理装置、養殖管理方法及び給餌ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
魚、貝、蟹等の生物を本来の生息域と近い環境で養殖するために、海中に沈めた生簀内で生物を養殖する技術が知られている。特許文献1には、陸上から海中の生簀まで輸送管を敷設し、輸送管を通じて生簀に餌を供給する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
海中には不規則な潮流があるため、海上から餌を撒くだけでは潮流によって餌が移動してしまい、海中の生簀に十分な量の餌を届けられないという問題があった。一方、特許文献1に記載された技術では、生簀ごとに輸送管を敷設する必要がある。そのため、生簀を追加又は移設する度に、輸送管を新設又は移設するためのコストが掛かる。また、水深百メートル以上の深海に生簀を設置する場合には、長大な輸送管が必要になるためさらに大きなコストが掛かる。
【0005】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものであり、海中に配置された生簀に給餌するためのコストを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様の養殖管理装置は、海中に配置された生簀内で生物を養殖するための養殖管理装置であって、前記生簀の位置を含む所定範囲内における潮流に関する潮流情報を受信する受信部と、前記潮流情報に基づいて、給餌を開始するための給餌開始位置を決定する決定部と、前記海中を移動して前記生物に給餌するロボットに、前記給餌開始位置において前記生物に対する給餌を開始させるための給餌指示を送信する送信部と、を有する。
【0007】
前記決定部は、前記生簀の位置を基準として前記潮流の上流側の位置を、前記給餌開始位置として決定してもよい。
【0008】
前記決定部は、前記生簀の位置を基準として前記潮流の上流側であって、前記生簀の位置から前記潮流の強さに対応する距離にある位置を、前記給餌開始位置として決定してもよい。
【0009】
前記決定部は、前記生簀の位置を基準として前記潮流の上流側であって、餌の種類に対応する距離にある位置を、前記給餌開始位置として決定してもよい。
【0010】
前記受信部は、前記生簀内における生物群の位置を示す情報を受信し、前記決定部は、前記生簀内における前記生物群の位置を基準として前記潮流の上流側の位置を、前記給餌開始位置として決定してもよい。
【0011】
前記養殖管理装置は、前記生物が餌を食べる兆候を示す兆候情報を記憶する記憶部と、前記兆候情報に基づいて、前記生簀を撮像した撮像画像において前記兆候を検出する検出部と、をさらに有し、前記送信部は、前記検出部が前記兆候を検出したことを条件として、前記ロボットに前記給餌指示を送信してもよい。
【0012】
前記養殖管理装置は、前記生簀を撮像した撮像画像において前記生物が餌を食べる速度と、前記生物が餌を食べ残した量との少なくとも一方を検出する検出部をさらに有し、前記送信部は、前記検出部が検出した前記速度及び前記量の少なくとも一方を、情報端末に送信してもよい。
【0013】
前記受信部は、前記生簀が発した音及び光の少なくとも一方を受信し、前記送信部は、前記受信部が前記音及び前記光の少なくとも一方を受信したことを条件として、前記ロボットに前記給餌指示を送信してもよい。
【0014】
本発明の第2の態様の養殖管理方法は、プロセッサが実行する、海中に配置された生簀の位置を含む所定範囲内における潮流に関する潮流情報を取得するステップと、前記潮流情報に基づいて、給餌を開始するための給餌開始位置を決定するステップと、前記海中を移動して前記生簀内の生物に給餌するロボットに、前記給餌開始位置において前記生物に対する給餌を開始させるための給餌指示を送信する送信部と、を有する。
【0015】
本発明の第3の態様の給餌ロボットは、海中に配置された生簀内で生物を養殖するための給餌ロボットであって、前記生簀の位置を含む所定範囲内における潮流に関する潮流情報を取得する取得部と、前記潮流情報に基づいて、給餌を開始するための給餌開始位置を決定する決定部と、前記給餌ロボットを前記給餌開始位置に移動させるための駆動部と、前記給餌開始位置において前記生物に対する給餌を開始する給餌部と、を有する。
【0016】
前記給餌ロボットは、前記生物が餌を食べる兆候を示す兆候情報を記憶する記憶部と、前記生簀を撮像して撮像画像を取得する撮像部と、前記兆候情報に基づいて、前記撮像画像において前記兆候を検出する検出部と、をさらに有し、前記給餌部は、前記検出部が前記兆候を検出したことを条件として、前記給餌開始位置において前記生物に対する給餌を開始してもよい。
【0017】
前記取得部は、前記生簀が発した音及び光の少なくとも一方を受信し、前記駆動部は、前記取得部が前記音及び前記光の少なくとも一方を受信したことを条件として、前記給餌ロボットを前記給餌開始位置に移動させてもよい。
【0018】
前記給餌部は、前記生物に対する給餌を開始した後に、前記生簀内に残存した餌を回収してもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、海中に配置された生簀に給餌するためのコストを抑制できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施形態に係る養殖管理システムの模式図である。
【
図2】実施形態に係る養殖管理システムのブロック図である。
【
図3】実施形態に係る給餌ロボットの構成を説明するための模式図である。
【
図4】検出部が食餌の兆候に基づいて開始条件を判定する方法を説明するための模式図である。
【
図5】決定部が決定する給餌開始位置を説明するための模式図である。
【
図6】送信部が送信する給餌指示を説明するための模式図である。
【
図7】実施形態に係る養殖管理システムが実行する養殖管理方法のシーケンス図である。
【
図8】変形例に係る養殖管理システムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[養殖管理システムSの概要]
図1は、本実施形態に係る養殖管理システムSの模式図である。養殖管理システムSは、養殖管理装置1と、給餌ロボット2と、生簀3と、情報端末4とを含む。給餌ロボット2、生簀3及び情報端末4は、それぞれ複数設けられてもよい。養殖管理システムSは、その他のサーバ、端末等の機器を含んでもよい。
【0022】
養殖管理装置1は、生簀3に関する情報に基づいて、給餌ロボット2に対して給餌に関する指示をするコンピュータである。養殖管理装置1は、海上又は陸上に配置される。養殖管理装置1は、給餌ロボット2、生簀3及び情報端末4と通信可能である。
【0023】
給餌ロボット2は、内蔵しているバッテリの電力又は燃料機関を用いて海中(水中)を移動可能な無人移動装置である。給餌ロボット2は、養殖管理装置1が送信した情報に従って、所定の待機場所(ステーション)と生簀3の近傍との間で移動する。また、給餌ロボット2は、餌を保持しており、養殖管理装置1が送信した情報に従って、餌を放出することによって生簀3内の生物に対して給餌をする。給餌ロボット2は、養殖管理装置1との間で音及び光の少なくとも一方を授受すること(すなわち、水中音響無線通信又は水中光無線通信)によって、養殖管理装置1と通信可能である。また、給餌ロボット2は、海上に配置された中継器との間で音及び光の少なくとも一方を授受し、中継器を介して養殖管理装置1と通信してもよい。
【0024】
生簀3は、海中に配置された生簀(生け簀)である。生簀3は、海上に浮かんでいるフロートに接続されることによって、又は海底に接続されることによって、海中の所定の水深(例えば、数十メートル~数千メートル)に配置される。生簀3は、例えば、いかり、重り又は索によって、海底に接続される。生簀3は、例えば、全面を網で覆われた柱状又は球状の構造を有し、当該構造の内部には生物を保持するための空間を有している。生簀3を覆う網は、生物が通過不可能であり、かつ海水及び餌が通過可能な大きさの網目を有する。これにより、給餌ロボット2は、生簀3の近傍で餌を放出することによって、生簀3内の生物に給餌をすることができる。生簀内3で養殖される生物は、例えば深海に生息する魚、貝、蟹等の海洋生物である。
【0025】
生簀3は、コンピュータと、生簀3の内部を撮像する撮像部(カメラ)と、生簀3周辺の海水に関する情報を測定する測定部(センサ)とを有してもよい。この場合に、生簀3(すなわち、生簀3が有するコンピュータ)は、撮像部が撮像した撮像画像及び測定部が測定した情報を、養殖管理装置1及び給餌ロボット2の少なくとも一方に送信する。生簀3は、養殖管理装置1又は給餌ロボット2との間で音及び光の少なくとも一方を授受することによって、養殖管理装置1又は給餌ロボット2と通信可能である。また、生簀3は、海上に配置された中継器との間で音及び光の少なくとも一方を授受し、中継器を介して養殖管理装置1と通信してもよい。また、生簀3は、撮像、測定及び通信に関する機能を有さず、生物を保持する機能のみを有してもよい。
【0026】
情報端末4は、ユーザが利用するコンピュータである。ユーザは、例えば養殖管理装置1、給餌ロボット2又は生簀3の管理者である。情報端末4は、養殖管理装置1が送信した情報を表示する。情報端末4は、ユーザによる入力を受け付け可能なキーボードやタッチパネル等の入力部と、情報を表示可能な液晶ディスプレイ等の表示部とを有する。情報端末4は、衛星通信や移動体通信によって、養殖管理装置1と通信可能である。
【0027】
本実施形態に係る養殖管理システムSが実行する処理の概要を以下に説明する。養殖管理装置1は、生簀3の位置を含む所定範囲内における潮流に関する潮流情報を受信する。潮流は、生簀3周辺の海水の流れであり、流れの向き及び強さによって表される。養殖管理装置1は、給餌ロボット2又は生簀3から潮流情報を受信する(a)。養殖管理装置1は、受信した潮流情報に基づいて、給餌を開始するための給餌開始位置を決定する(b)。養殖管理装置1は、例えば、生簀3の位置を基準として潮流の上流側の位置を、給餌開始位置として決定する。
【0028】
養殖管理装置1は、給餌ロボット2に、決定した給餌開始位置において生簀3内の生物に対する給餌を開始させるための給餌指示を送信する(c)。給餌ロボット2は、養殖管理装置が送信した給餌指示に従って、給餌開始位置に移動した後、給餌開始位置において餌を放出することによって、生物に対する給餌を開始する(d)。
【0029】
このように本実施形態に係る養殖管理システムSにおいて、養殖管理装置1は、生簀3周辺の潮流に応じて適切な給餌開始位置を決定し、決定した給餌開始位置に給餌ロボット2を移動させて給餌を開始させる。そのため、給餌ロボット2は、海中の潮流によって餌が移動する状況下で、生簀3に十分かつ効率的に給餌することができる。また、複数の生簀3が配置される場合や、生簀3の位置が変更される場合であっても、給餌ロボット2が海中を移動して給餌できるため、生簀3に給餌するためのコストを抑制できる。
【0030】
[養殖管理システムSの構成]
図2は、本実施形態に係る養殖管理システムSのブロック図である。
図2において、矢印は主なデータの流れを示しており、
図2に示したもの以外のデータの流れがあってよい。
図2において、各ブロックはハードウェア(装置)単位の構成ではなく、機能単位の構成を示している。そのため、
図2に示すブロックは単一の装置内に実装されてよく、あるいは複数の装置内に分かれて実装されてよい。ブロック間のデータの授受は、データバス、ネットワーク、可搬記憶媒体等、任意の手段を介して行われてよい。
【0031】
養殖管理装置1は、制御部11と、記憶部12とを有する。制御部11は、受信部111と、検出部112と、決定部113と、送信部114とを有する。制御部11は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサであり、記憶部12に記憶されたプログラムを実行することにより、受信部111、検出部112、決定部113及び送信部114として機能する。
【0032】
受信部111は、給餌ロボット2又は生簀3から、生簀3を撮像した撮像画像と、生簀3に関する環境情報とを受信する。環境情報は、例えば、生簀3周辺の潮流、水温、気圧、海況、水質等を示す情報である。検出部112は、生簀3を撮像した撮像画像から、生物が餌を食べる行動に関する情報を検出する。生物が餌を食べる行動に関する情報は、例えば、生物が餌を食べる兆候、生物が餌を食べる速度、生物が餌を食べ残した量等である。決定部113は、潮流情報に基づいて、給餌を開始するための給餌開始位置を決定する。送信部114は、給餌ロボット2に、給餌開始位置において生物に対する給餌を開始させるための給餌指示を送信する。また、送信部114は、給餌ロボット2又は生簀3から受信した情報の少なくとも一部を情報端末4に送信する。
【0033】
制御部11の機能の少なくとも一部は電気回路によって実行されてもよい。また、制御部11の機能の少なくとも一部は、制御部11がネットワーク経由で実行されるプログラムを実行することによって実現されてもよい。
【0034】
記憶部12は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、ハードディスクドライブ等を含む記憶媒体である。記憶部12は、制御部11が実行するプログラムを予め記憶している。記憶部12は、養殖管理装置1の外部に設けられてもよく、その場合にネットワークを介して制御部11との間でデータの授受を行ってもよい。
【0035】
給餌ロボット2は、制御部21と、記憶部22と、給餌部23と、駆動部24と、撮像部25と、測定部26とを有する。制御部21は、受信部211と、駆動制御部212と、給餌制御部213と、送信部214とを有する。制御部21は、例えばCPU等のプロセッサであり、記憶部22に記憶されたプログラムを実行することにより、受信部211、駆動制御部212、給餌制御部213及び送信部214として機能する。
【0036】
受信部211は、養殖管理装置1が送信した情報を受信する。駆動制御部212は、給餌ロボット2を移動させるように駆動部24を制御する。給餌制御部213は、給餌を開始又は終了するように給餌部23を制御する。送信部214は、撮像部25が撮像した撮像画像及び測定部26が測定した情報を養殖管理装置1に送信する。
【0037】
制御部21の機能の少なくとも一部は電気回路によって実行されてもよい。また、制御部21の機能の少なくとも一部は、制御部21がネットワーク経由で実行されるプログラムを実行することによって実現されてもよい。
【0038】
記憶部22は、ROM、RAM、ハードディスクドライブ等を含む記憶媒体である。記憶部22は、制御部21が実行するプログラムを予め記憶している。記憶部22は、給餌ロボット2の外部に設けられてもよく、その場合にネットワークを介して制御部21との間でデータの授受を行ってもよい。
【0039】
給餌部23は、生物の餌を保持し、給餌ロボット2の外部に餌を放出することによって生物に対して給餌をする機構である。駆動部24は、給餌ロボット2を海中で移動させる機構である。給餌部23及び駆動部24の構成については、
図3を用いて後述する。
【0040】
撮像部25は、所定の撮像範囲を撮像する撮像装置(カメラ)を含む。また、撮像部25は、音波によって撮像するソナーを含んでもよい。測定部26は、生簀3に関する環境情報を測定する測定装置(センサ)を含む。測定部26は、環境情報として、潮流、水温、気圧(水圧)、海況(クロロフィル濃度等)及び水質(塩分濃度、水素イオン濃度、濁度等)を測定するセンサを備える。測定部26は、ここに示したセンサに限られず、測定対象の情報の種類に応じてその他のセンサを有してもよい。
【0041】
本実施形態に係る養殖管理システムSは、
図2に示す具体的な構成に限定されない。養殖管理装置1、給餌ロボット2、生簀3及び情報端末4は、それぞれ2つ以上の物理的に分離した装置が有線又は無線で接続されることにより構成されてもよい。また、養殖管理装置1は、コンピュータ資源の集合であるクラウドによって構成されてもよい。
【0042】
[給餌ロボット2の構成]
図3は、本実施形態に係る給餌ロボット2の構成を説明するための模式図である。給餌ロボット2において、給餌部23は、ボックス231と、蓋232と、パイプ233と、取水口234と、フィルタ235と、ポンプ236とを含む。ボックス231は、餌を格納する格納部である。蓋232は、ボックス231に対して開閉可能な蓋状体である。
【0043】
パイプ233は、ボックス231の餌が外部に放出される際に通過する管状体である。パイプ233は、伸縮可能であり、蓋232が開いた状態で伸びることによって、餌が放出される位置を調整できる。
【0044】
取水口234は、ボックス231の内部空間と外部(海水)との間を連通させる開口部である。ボックス231内部において取水口234に通じる部分にはフィルタ235が設けられている。フィルタ235は、餌がボックス231から取水口234を通って外部に出ることを防ぐ。ポンプ236は、液体を輸送する機構を含む。ポンプ236は、ボックス231内の海水を、パイプ233を介して排出する。
【0045】
駆動部24は、モータ、アクチュエータ等の駆動機構を含み、駆動機構の動力を用いてプロペラを回転させることによって、給餌ロボット2を移動させる。また、駆動部24は、ウォータジェット等のその他の方式で給餌ロボット2を移動させてもよい。また、駆動部24は、舵を調節することによって、給餌ロボット2の向きを変更する。駆動制御部212は、駆動部24の駆動をすることによって、給餌ロボット2を給餌開始位置に移動させることができる。
【0046】
[養殖管理方法の説明]
以下、養殖管理システムSが実行する養殖管理方法を詳細に説明する。まず、養殖管理装置1は、給餌の開始条件が満たされたか否かを判定する。開始条件を判定するために、受信部111は、給餌ロボット2又は生簀3から、生簀3を撮像した撮像画像と、生簀3に関する環境情報とを受信する。
【0047】
撮像画像は、給餌ロボット2が生簀3周辺を巡回して生簀3を撮像すること、又は生簀3の撮像部が生簀3の内部を撮像することによって取得される。撮像画像は、静止画像又は動画像である。環境情報(潮流、水温、気圧、海況及び水質)は、給餌ロボット2が生簀3周辺を巡回して測定すること、又は生簀3の測定部が生簀3の内部を測定することによって取得される。
【0048】
図4は、検出部112が食餌の兆候に基づいて開始条件を判定する方法を説明するための模式図である。
図4は、例示的な生簀3を撮像した撮像画像IMを表している。記憶部12は、生物が餌を食べる前の生物又は生物周辺の環境の兆候を示す兆候情報(兆候モデル)を予め記憶している。兆候は、例えば、生物が特定の動きをしたことや、生物周辺の水温が所定値以上であることである。兆候情報は、生物が餌を食べる前に発生する生物の動きを示す情報と、生物が餌を食べる前の生物周辺の環境の情報とのうち少なくとも一方によって表される。
【0049】
検出部112は、予め記憶部12に記憶された兆候情報に基づいて、生簀3を撮像した撮像画像IMと、生簀3に関する環境情報との少なくとも一方において食餌の兆候を検出する。検出部112は、例えば、撮像画像IM(複数の静止画像、又は動画像)に対して既知の画像解析処理を行うことによって、生物の動きを抽出する。そして検出部112は、撮像画像IMから抽出した動きが、兆候情報が示す動きと一致又は類似している場合に、兆候を検出する。
【0050】
また、検出部112は、例えば、環境情報(水温等)が、兆候情報が示す生物周辺の環境と一致又は類似している場合に、兆候を検出する。検出部112は、ここに示した具体的な兆候に限られず、生物が餌を食べる前のその他の兆候を検出してもよい。検出部112は、食餌の兆候を検出した場合に、開始条件が満たされたと判定する。このように養殖管理システムSは、食餌の兆候を検出することによって、生物が餌を食べる傾向にあるタイミングで給餌をし、生簀3に供給した餌が無駄になることを抑制できる。
【0051】
また、検出部112は、時刻に基づいて、給餌の開始条件が満たされたか否かを判定してもよい。検出部112は、例えば、現在時刻が予め定められた給餌時刻に到達した場合、又は前回の給餌から所定時間経過した場合に、開始条件が満たされたと判定する。また、検出部112は、情報端末4においてユーザにより所定の開始指示が入力された場合に、開始条件が満たされたと判定してもよい。
【0052】
養殖管理装置1に代えて、給餌ロボット2又は生簀3が、給餌の開始条件が満たされたか否かを判定してもよい。この場合に、給餌ロボット2又は生簀3(すなわち、生簀3が有するコンピュータ)は、上述の兆候又は時刻に基づいて、給餌の開始条件が満たされたか否かを判定する。給餌ロボット2又は生簀3は、給餌の開始条件が満たされたと判定した場合に、所定の音及び光の少なくとも一方を、養殖管理装置1に対して発する。
【0053】
養殖管理装置1において、受信部111は、給餌ロボット2又は生簀3が発した所定の音及び光の少なくとも一方を受信する。検出部112は、受信部111が所定の音及び光の少なくとも一方を受信した場合に、開始条件が満たされたと判定する。これにより、給餌ロボット2又は生簀3は、自律的に給餌の開始条件を判定できるため、撮像画像及び環境情報を養殖管理装置1に常時送信する必要がなく、通信容量を削減できる。さらに、生簀3が音又は光を発することによって、養殖管理装置1及び給餌ロボット2は、複数の生簀3が配置されている場合であっても、給餌対象の生簀3を確実に特定することができる。
【0054】
養殖管理装置1は、開始条件が満たされたと検出部112が判定したことを条件として、以降の処理を実行する。受信部111は、給餌ロボット2又は生簀3から、生簀3に関する環境情報を受信する。受信部111は、開始条件を判定する際に受信した環境情報を用いてもよく、改めて環境情報を受信してもよい。環境情報は、生簀3の位置を含む所定範囲内(例えば生簀3の位置から100メートル以内)における潮流に関する潮流情報を含む。潮流情報は、潮流の向き及び強さを表す情報である。
【0055】
また、受信部111は、生簀3内における生物群の位置を示す情報を受信してもよい。この場合に、受信部111は、例えば、給餌ロボット2又は生簀3から受信した生簀3内の撮像画像に対して既知の画像認識処理を行うことによって生簀3内における生物群の位置を取得する。また、受信部111は、魚群探知機(ソナー)によって取得された音波探知情報を受信し、音波探知情報に基づいて生簀3内における生物群の位置を取得してもよい。
【0056】
決定部113は、受信部111が受信した環境情報が含む潮流情報に基づいて、給餌を開始するための給餌開始位置を決定する。
図5は、決定部113が決定する給餌開始位置Pを説明するための模式図である。
図5は、生簀3の位置と給餌開始位置Pとの間の相対的な位置関係を表している。
【0057】
決定部113は、生簀3の位置を基準として潮流の上流側の位置を、給餌開始位置Pとして決定する。潮流の上流側とは、1つの向きの潮流において海水が流れてくる側をいう。餌は重力によって下方に落ちるため、決定部113は、生簀3の位置を基準として潮流の上流側の位置において、生簀3よりも重力方向に沿って上方の位置を、給餌開始位置Pとして決定することが望ましい。これにより、養殖管理システムSは、海中の潮流によって餌が移動する状況下であっても、生簀3に十分かつ効率的に給餌することができる。
【0058】
また、決定部113は、生簀3内における生物群の位置を基準として潮流の上流側の位置を、給餌開始位置Pとして決定してもよい。この場合に、決定部113は、受信部111が取得した生物群の位置を用いて、給餌開始位置Pを決定する。生簀3内の生物の位置は偏っていることが多いため、養殖管理システムSは、生簀3の生物群の上流の位置から給餌を開始することによって、餌が生物に到達する確率を高めることができる。
【0059】
また、決定部113は、生簀3の位置を基準として潮流の上流側であって、生簀3の位置から潮流の強さ(例えば、流れの速さ)に対応する距離Dにある位置を、給餌開始位置Pとして決定してもよい。この場合に、決定部113は、予め定義された潮流の強さと距離との間の関係(関係式や関係テーブル等)に基づいて、潮流の強さに対応する距離Dを決定する。潮流の強さによって餌の移動速度が異なるため、養殖管理システムSは、潮流の強さに応じた位置から給餌を開始することによって、餌が生簀3に入る確率を高めることができる。
【0060】
また、決定部113は、生簀3の位置を基準として潮流の上流側であって、餌の種類に対応する距離Dにある位置を、給餌開始位置Pとして決定してもよい。この場合に、決定部113は、例えば、情報端末4においてユーザから餌の種類の入力を受け付ける。決定部113は、予め定義された餌の種類と距離との間の関係(関係式や関係テーブル等)に基づいて、潮流の強さに対応する距離Dを決定する。餌の種類によって海中の移動速度や沈降速度が異なるため、養殖管理システムSは、餌の種類に応じた位置から給餌を開始することによって、餌が生簀3に入る確率を高めることができる。さらに決定部113は、生物群の位置、潮流の強さ及び餌の種類のうち2つ以上を用いて、給餌開始位置Pを決定してもよい。
【0061】
表1は、例示的な潮流の強さ及び餌の種類と距離Dとの間の関係を示す表である。決定部113は、このような表1を用いて、潮流の強さ及び餌の種類に対応する距離Dを決定する。また、決定部113は、潮流の強さ及び餌の種類のうち一方のみと距離Dとの間の関係を示す表を用いて距離Dを決定してもよい。
【0062】
【0063】
送信部114は、決定部113が決定した給餌開始位置において生物に対する給餌を開始させるための給餌指示を、給餌ロボット2に送信する。
図6は、送信部114が送信する給餌指示を説明するための模式図である。給餌指示は、給餌開始位置(例えば、給餌開始位置の3次元座標)を含む情報である。さらに、給餌指示は、給餌ロボット2が給餌開始位置に移動するための経路を含んでもよい。この場合に、送信部114は、給餌ロボット2の現在位置を取得し、取得した現在位置から給餌開始位置までの経路を、既知の経路決定処理を用いて決定する。さらに、また、給餌指示は、給餌を開始する時刻を含んでもよい。
【0064】
給餌ロボット2において、受信部211は、養殖管理装置1が送信した給餌指示を受信する。駆動制御部212は、受信部211が受信した給餌指示が含む給餌開始位置に給餌ロボット2を移動させるように駆動部24を駆動させる。駆動制御部212は、例えば、GPS(Global Positioning System)、音響測位、ジャイロセンサ等を用いて給餌ロボット2の現在位置を測定することによって、給餌指示が含む給餌位置(3次元座標)に到達するように、駆動部24を駆動させる。給餌指示が経路を含む場合に、駆動制御部212は、給餌指示が含む経路に従って給餌ロボット2が移動するように駆動部24を駆動させてもよい。
【0065】
給餌ロボット2が給餌開始位置に到達した後、給餌制御部213は、給餌開始位置において生物に対する給餌を開始するように、給餌部23を制御する。給餌制御部213は、給餌指示が含む時刻に給餌を開始するように給餌部23を制御してもよい。
【0066】
例えば
図3に示す構成の給餌部23において、給餌制御部213は、蓋232を開放し、パイプ233を伸ばす。これにより、ボックス231の内部空間は海水で満たされる。そして給餌制御部213は、ポンプ236を駆動することによって、ボックス231内の餌を、海水とともにパイプ233を介して外部に放出する。給餌制御部213は、給餌を終了する際に、パイプ233を縮め、蓋232を閉鎖する。
【0067】
給餌中に、駆動制御部212は、給餌ロボット2を給餌開始位置にホバリングさせるように駆動部24を駆動させてもよく、給餌ロボット2を給餌開始位置周辺で旋回させるように駆動部24を駆動させてもよい。
【0068】
その後、給餌制御部213は、生物に対する給餌を終了するように、給餌部23を制御する。給餌制御部213は、給餌開始から所定時間経過した場合や、給餌量を検出して所定量の餌が給餌された場合等の所定のタイミングで給餌を終了する。
【0069】
例えば
図3に示す構成の給餌部23において、給餌制御部213は、餌を放出した際とは逆にポンプ236を駆動することによって、パイプ233を介して外部の海水をボックス231内に取り込む。海水に含まれる餌は、フィルタ235に濾し取られることにより、ボックス231内に回収される。これにより、養殖管理システムSは、余分な餌が海水に残留することを抑制し、また餌を再利用できる。その後、給餌制御部213は、パイプ233を縮め、蓋232を閉鎖する。
【0070】
給餌前、給餌中又は給餌後の所定のタイミングにおいて、給餌ロボット2は、撮像部25を用いて生簀3を撮像するとともに、測定部26を用いて生簀3周辺の環境情報を測定する。送信部214は、撮像画像及び環境情報を、養殖管理装置1に送信する。また、生簀3が撮像画像及び環境情報を取得し、養殖管理装置1に送信してもよい。
【0071】
養殖管理装置1において、受信部111は、給餌ロボット2又は生簀3が送信した撮像画像及び環境情報を受信する。送信部114は、受信部111が受信した環境情報の少なくとも一部を、情報端末4に送信する。これにより、情報端末4のユーザは、生簀3周辺の潮流、水温、気圧、海況、水質等の環境情報を確認することができる。
【0072】
さらに検出部112は、給餌中の撮像画像に対して既知の画像認識処理を行うことによって、生物が餌を食べる速度と、生物が餌を食べ残した量との少なくとも一方を検出する。送信部114は、検出部112が検出した速度及び量の少なくとも一方を、情報端末4に送信する。これにより、情報端末4のユーザは、給餌ロボット2が給餌した量が適切か否かを確認し、次回以降の給餌量を調整することができる。
【0073】
[養殖管理方法のシーケンス]
図7は、本実施形態に係る養殖管理システムSが実行する養殖管理方法のシーケンス図である。養殖管理装置1において、受信部111は、給餌ロボット2又は生簀3から、生簀3を撮像した撮像画像と、生簀3に関する環境情報とを受信する。環境情報は、例えば、潮流、水温、気圧、海況及び水質を含む。
【0074】
検出部112は、予め記憶部12に記憶された兆候情報に基づいて、生簀3を撮像した撮像画像と、生簀3に関する環境情報との少なくとも一方において食餌の兆候を検出する。検出部112は、食餌の兆候を検出した場合に、開始条件が満たされたと判定する(S11)。また、検出部112は、時刻に基づいて、給餌の開始条件が満たされたか否かを判定してもよい。また、検出部112は、情報端末4においてユーザにより所定の開始指示が入力された場合に、開始条件が満たされたと判定してもよい。また、検出部112は、受信部111が給餌ロボット2又は生簀3が発した所定の音及び光の少なくとも一方を受信した場合に、開始条件が満たされたと判定してもよい。
【0075】
養殖管理装置1は、開始条件が満たされたと検出部112が判定したことを条件として、以降の処理を実行する。受信部111は、給餌ロボット2又は生簀3から、生簀3の位置を含む所定範囲内における潮流に関する潮流情報を含む環境情報を受信する(S12)。
【0076】
決定部113は、受信部111が受信した環境情報が含む潮流情報に基づいて、給餌を開始するための給餌開始位置を決定する(S13)。決定部113は、例えば、生簀3の位置を基準として潮流の上流側の位置を、給餌開始位置として決定する。また、決定部113は、生簀3内における生物群の位置、潮流の強さ、又は餌の種類を考慮して、給餌開始位置を決定してもよい。
【0077】
送信部114は、決定部113が決定した給餌開始位置において生物に対する給餌を開始させるための給餌指示を、給餌ロボット2に送信する(S14)。給餌ロボット2において、受信部211は、養殖管理装置1が送信した給餌指示を受信する。駆動制御部212は、受信部211が受信した給餌指示が含む給餌開始位置に給餌ロボット2を移動させるように駆動部24を駆動させる(S15)。
【0078】
給餌ロボット2が給餌開始位置に到達した後、給餌制御部213は、給餌開始位置において生物に対する給餌を開始するように、給餌部23を制御する(S16)。その後、給餌制御部213は、生物に対する給餌を終了するように、給餌部23を制御する(S17)。給餌制御部213は、給餌開始から所定時間経過した場合や、給餌量を検出して所定量の餌が給餌された場合等の所定のタイミングで給餌を終了する。
【0079】
給餌前、給餌中又は給餌後の所定のタイミングにおいて、給餌ロボット2は、撮像部25を用いて生簀3を撮像するとともに、測定部26を用いて生簀3周辺の環境情報を測定する。送信部214は、撮像画像及び環境情報を、養殖管理装置1に送信する(S18)。養殖管理装置1において、受信部111は、給餌ロボット2又は生簀3が送信した撮像画像及び環境情報を受信する。送信部114は、受信部111が受信した環境情報の少なくとも一部を、情報端末4に送信する(S19)。
【0080】
[実施形態の効果]
本実施形態に係る養殖管理システムSによれば、養殖管理装置1は、生簀3周辺の潮流に応じて適切な給餌開始位置を決定し、決定した給餌開始位置に給餌ロボット2を移動させて給餌を開始させる。そのため、給餌ロボット2は、海中の潮流によって餌が移動する状況下で、生簀3に十分かつ効率的に給餌することができる。また、複数の生簀3が配置される場合や、生簀3の位置が変更される場合であっても、給餌ロボット2が海中を移動して給餌できるため、生簀3に給餌するためのコストを抑制できる。
【0081】
[変形例]
上述の実施形態では養殖管理装置1が給餌開始位置を決定するが、本変形例では給餌ロボット2が給餌開始位置を決定する。
図8は、本変形例に係る養殖管理システムSのブロック図である。以下、
図2の構成とは異なる点を主に説明する。
【0082】
給餌ロボット2の制御部21は、取得部215と、検出部216と、決定部217とを有する。一方、養殖管理装置1の制御部11は、検出部112及び決定部113を有さない。取得部215は、測定部26が測定した環境情報が含む、生簀3の位置を含む所定範囲内における潮流に関する潮流情報を取得する。決定部217は、決定部113と同様の方法で、給餌を開始するための給餌開始位置を決定する。駆動制御部212は、決定部217が決定した給餌開始位置に給餌ロボット2を移動させるように駆動部24を駆動させる。給餌制御部213は、決定部217が決定した給餌開始位置において生物に対する給餌を開始するように、給餌部23を制御する。これにより、給餌ロボット2は、自律的に給餌開始位置を決定し、給餌開始位置において給餌を開始できる。
【0083】
また、記憶部22は、生物が餌を食べる前の生物又は生物周辺の環境の兆候を示す兆候情報(兆候モデル)を予め記憶している。検出部216は、検出部112と同様の方法で、撮像部25が生簀3を撮像した撮像画像と、測定部26が測定した生簀3に関する環境情報との少なくとも一方において食餌の兆候を検出する。給餌制御部213は、検出部216が兆候を検出したことを条件として、給餌を開始するように給餌部23を制御する。これにより、給餌ロボット2は、自律的に、生物が餌を食べる傾向にあるタイミングで給餌を開始できる。
【0084】
また、取得部215は、生簀3が発した所定の音及び光の少なくとも一方を受信してもよい。駆動制御部212は、生簀3が発した所定の音及び光の少なくとも一方を取得部215が受信したことを条件として、決定部217が決定した給餌開始位置に給餌ロボット2を移動させるように駆動部24を駆動させる。これにより、給餌ロボット2は、複数の生簀3が配置されている場合であっても、給餌対象の生簀3を確実に特定することができる。
【0085】
本変形例に係る養殖管理システムSにおいても、海中に配置された生簀に給餌するためのコストを抑制する効果を得ることができる。さらに、給餌ロボット2が自律的に給餌開始位置を決定することにより、給餌ロボット2と養殖管理装置1との間で授受が必要なデータ容量を削減することができる。
【0086】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【0087】
養殖管理装置1及び給餌ロボット2のプロセッサは、
図7に示す養殖管理方法に含まれる各ステップ(工程)の主体となる。すなわち、養殖管理装置1及び給餌ロボット2のプロセッサのプロセッサは、
図7に示す養殖管理方法を実行するためのプログラムを記憶部から読み出し、当該プログラムを実行して養殖管理システムSの各部を制御することによって、
図7に示す養殖管理方法を実行する。
図7に示す養殖管理方法に含まれるステップは一部省略されてもよく、ステップ間の順番が変更されてもよく、複数のステップが並行して行われてもよい。
【符号の説明】
【0088】
S 養殖管理システム
1 養殖管理装置
11 制御部
111 受信部
112 検出部
113 決定部
114 送信部
12 記憶部
2 給餌ロボット
21 制御部
211 受信部
212 駆動制御部
213 給餌制御部
214 送信部
215 取得部
216 検出部
217 決定部
22 記憶部
23 給餌部
24 駆動部
25 撮像部
26 測定部
3 生簀