(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】脂肪細胞分化およびインスリン抵抗性を阻害するための薬物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/17 20060101AFI20230214BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20230214BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20230214BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20230214BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20230214BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20230214BHJP
C07K 14/47 20060101ALN20230214BHJP
【FI】
A61K38/17 ZNA
A61P3/04
A61P3/06
A61P1/16
A61P3/10
C12N15/12
C07K14/47
(21)【出願番号】P 2020126891
(22)【出願日】2020-07-27
(62)【分割の表示】P 2017524040の分割
【原出願日】2015-11-03
【審査請求日】2020-08-26
(31)【優先権主張番号】201410610777.X
(32)【優先日】2014-11-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201510021469.8
(32)【優先日】2015-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】513322718
【氏名又は名称】清華大学
【氏名又は名称原語表記】TSINGHUA UNIVERSITY
(73)【特許権者】
【識別番号】513244292
【氏名又は名称】ベイジン プロトゲン リミテッド
【氏名又は名称原語表記】BEIJING PROTGEN LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100155631
【氏名又は名称】榎 保孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137497
【氏名又は名称】大森 未知子
(72)【発明者】
【氏名】ヨンチャン、ルオ
(72)【発明者】
【氏名】ホイ、ワン
(72)【発明者】
【氏名】ホイ、リー
(72)【発明者】
【氏名】シンアン、ルー
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、フー
(72)【発明者】
【氏名】シュンリ、ジャン
(72)【発明者】
【氏名】ダイフ、チョウ
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-502814(JP,A)
【文献】国際公開第2013/034116(WO,A1)
【文献】Experimental Biology and Medicine,2014年08月,Vol.239,No.8,pp.998-1006
【文献】化学物質による脂肪肝,日本臨床(別冊)新領域別症候群シリーズ13 肝・胆道系症候群(第2版) I 肝臓編(上) ,pp.196-201
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61P 1/00-43/00
C12N 15/00-15/90
C07K 14/00-14/825
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非アルコール性脂肪肝疾患またはインスリン抵抗性を治療するための薬剤であって、エンドスタチンまたはYH-16、003、007、Z101、009、S03、36、249、mES、mYH-16、m003、m007、mZ101、m009、mS03、m36およびm249からなる群から選択される機能的変異体を含んでなる、薬剤。
【請求項2】
肝臓における脂肪沈着を阻害することにより非アルコール性脂肪肝疾患を治療するための薬剤である、請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
前記機能的変異体が、S03、36、249、mS03、m36およびm249からなる群から選択される、請求項1または2に記載の薬剤。
【請求項4】
脂肪細胞分化を阻害するための薬剤であって、
エンドスタチンの機能的変異体を含んでなり、前記機能的変異体がS03、36、249、mS03、m36およびm249からなる群から選択され
る、薬剤。
【請求項5】
前記脂肪細胞分化の阻害が、前駆脂肪細胞へ直接作用することによるものである、請求項
4に記載の薬剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンドスタチンの新規な機能に関する。具体的には、本発明は、エンドスタチンが著しく脂肪細胞分化を阻害し、インスリン抵抗性を緩和することを開示する。本発明はまた、食事性肥満、非アルコール性脂肪肝疾患、インスリン抵抗性、ブドウ糖不耐症、およびその他の疾患の治療におけるエンドスタチンの新規な使用を提供する。
【背景技術】
【0002】
脂肪の蓄積は脂肪組織の拡大を招くことがあり、これは血管新生を伴う脂肪細胞の数および体積の増大を意味する(Cristancho AG et al., Nat Rev Mol Cell Biol 2011; 12:722-734; Daquinag AC et al., Trends Pharmacol Sci 2011; 32:300-307)。
【0003】
1997年に、Folkmanの研究室は、内因性の血管阻害剤であるエンドスタチン(ES)を発見し、これは血管内皮細胞を直接標的とすることができ、血管新生阻害活性および腫瘍治療活性を有する(O’Reilly MS et al., Cell 1997; 88:277-285; Boehm T. et al., Nature 197; 390:404-407)。
【0004】
YH-16は、ESのN末端に9個の付加的アミノ酸(MGGSHHHHH)を付加することによって得られるES変異体であり、非小細胞肺癌の治療のための2005年ナショナル・ファースト・イン・クラス新薬証明書(Fu Y et al., IUBMB Life 2009; 61:613-626; Wang J et al., Zhongguo fei ai za zhi 2005; 8:283-290; Han B et al., J Thorac Oncol 2011; 6(6):1104-1109)を取得した。PEG修飾ESおよびYH-16はそれぞれmESおよびmYH-16と呼称され、ESまたはYH-16分子を20kDaのモノメトキシポリエチレングリコールプロピオンアルデヒド(mPEG-ALD)で修飾することにより得られたものである。カップリング部位は、mPEG-ALDの活性化アルデヒド基とESまたはYH-16のN末端α-アミノ基であった。
【0005】
血管新生阻害剤は脂肪組織の血管新生を阻害することで肥満を阻害することができることが報告されている(Rupnick MA et al., Proc Natl Acad Sci U S A 2002; 99:10730-10735; Kim MY et al., Int J Obes (Lond). 2010; 34:820-830)。2002年、Folkmanの研究室は、ESを含む、マウスの遺伝性肥満を阻害することができる数種の異なる血管阻害剤を報告している(Rupnick MA et al., Proc Natl Acad Sci U S A 2002; 99:10730-10735)。
【0006】
脂肪細胞の数の増加は直接的に脂肪細胞分化に依存し(Cristancho AG et al., Nat Rev Mol Cell Biol 2011; 12:722-734)、これは極めて複雑な調節プロセスである。ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(PPARγ)は脂肪細胞分化の調節の中心的調節因子であることを示した研究があり(Tang QQ et al., Annu Rev Biochem 2012; 81:715-736)、これは下流の脂肪細胞表現型調節遺伝子(CD36、ap2、Glut4、LPLおよびLXRなどを含む)の発現を調節することによって脂肪細胞分化を調節することができる(Cristancho AG et al., Nat Rev Mol Cell Biol 2011; 12:722-734; Lee J et al., J Cell Biochem 2012; 113:2488-2499)。
【0007】
多くの疫学研究により、肥満は代謝障害を引き起こすことが示されており、代謝症候群の重要な臨床症状であるが、非アルコール性脂肪肝疾患、インスリン抵抗性、ブドウ糖不耐症、およびII型糖尿病を引き起こす重要なリスク因子でもある(Malik VS et al., Nat Rev Endocrinol 2013; 9:13-27)。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、既知の血管阻害剤タンパク質としてのエンドスタチン(ES)の新規な機能、すなわち、脂肪細胞分化の阻害における活性に関し、この新規な機能に基づいて、食事性肥満、非アルコール性脂肪肝疾患、インスリン抵抗性、およびブドウ糖不耐症などの代謝障害の治療におけるESの新規な使用を提供する。
【0009】
本発明者らは、ESが前駆脂肪細胞に直接作用して脂肪細胞分化における中心的調節因子としてのPPARγ1および/またはPPARγ2の発現を阻害することにより、脂肪細胞分化を阻害できることを発見した。
【0010】
本発明者らは、ESが、マウスにおいて高脂肪食により誘導された体重増加を、マウスにおける脂肪の蓄積を阻害することによって阻害できることを発見した。
【0011】
本発明者らは、ESが、マウスにおいて高脂肪食により誘導された肝臓重量および脂肪沈着の増加を阻害し、それにより、肝臓の脂肪浸潤を予防および治療できることを発見した。
【0012】
本発明者らはまた、ESが、マウスにおけるインスリン抵抗性およびブドウ糖不耐症を改善するために、Aktのリン酸化を増大させることによりマウスのインスリン応答を増強できることを発見した。
【0013】
本発明者らはまた、YH-16、003、007およびZ101などのES変異体が、上記の試験においてESに匹敵する活性を有することを発見した。ポリエチレングリコール(PEG)修飾ESおよびその変異体YH-16、003、007およびZ101(mES、mYH-16、m003、m007およびmZ101)は、非修飾タンパク質と同等の活性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A】
図1Aは、ESおよびその変異体YH-16は、マウスにおいて高脂肪食により誘導される体重増加を有意に阻害したことを示す。
***はP<0.001を意味する。
【
図1B】
図1Bは、ESおよびその変異体YH-16は、マウスにおいて高脂肪食により誘導される脂肪組織重量の増加を有意に阻害したことを示す。
*はP<0.05を意味し、
***はP<0.001を意味する。
【
図1C】
図1Cは、ESおよびその変異体YH-16は、高脂肪食のマウスにおける肺、心臓および腎臓の重量に影響を及ぼさなかったことを示す。
【
図2A】
図2Aは、ESおよびその変異体YH-16は、マウスにおいて高脂肪食により誘導される肝臓重量の増加を有意に阻害したことを示す。
*はP<0.05を意味し、
**はP<0.01を意味する。
【
図2B】
図2Bは、ESおよびその変異体YH-16処置群マウス肝臓組織切片を示す。
【
図2C】
図2Cは、ESおよびその変異体YH-16は、マウスにおいて高脂肪食により誘導される肝臓脂肪沈着を有意に阻害したことを示す。
***はP<0.001を意味する。
【
図3A】
図3Aは、ESおよびその変異体YH-16は、マウスにおいてインスリン抵抗性を有意に改善したことを示す。
***はP<0.001を意味する。
【
図3B】
図3Bは、ESおよびその変異体YH-16は、マウスにおいて糖耐性を有意に改善したことを示す。
***はP<0.001を意味する。
【
図3C】
図3Cは、ESはインスリンシグナル伝達経路の下流因子であるAktのリン酸化レベルを有意に増大させたことを示す。
【
図4A】
図4Aは、ESおよびその変異体YH-16、PEG修飾ESおよびその変異体YH-16(mESおよびmYH-16)は、脂肪細胞分化を直接的に阻害したことを示す。
【
図4B】
図4Bは、ESおよびその変異体YH-16、PEG修飾ESおよびその変異体YH-16(mESおよびmYH-16)による脂肪細胞分化の阻害の定量的統計結果を示す。
***はP<0.001を意味する。
【
図4C】
図4Cは、ESおよびその変異体YH-16、PEG修飾ESおよびその変異体YH-16(mESおよびmYH-16)は、脂肪細胞分化の中心的調節因子PPARγ1/2のタンパク質発現を有意に阻害したことを示す。
【
図4D】
図4Dは、ESは脂肪細胞分化の中心的調節因子PPARγ1/2のmRNA発現レベルを阻害したことを示す。
*はP<0.05を意味し、
***はP<0.001を意味する。
【
図5A】
図5Aは、PEG修飾ESおよびその変異体003、007(mES、m003、およびm007)は、マウスにおいて高脂肪食により誘導される体重増加を有意に阻害したことを示す。
***はP<0.001を意味する。
【
図5B】
図5Bは、PEG修飾ESおよびその変異体003、007(mES、m003、およびm007)は、マウスにおいて高脂肪食により誘導される脂肪組織重量の増加を有意に阻害したことを示す。
*はP<0.05を意味し、
***はP<0.001を意味する。
【
図5C】
図5Cは、PEG修飾ESおよびその変異体003、007(mES、m003、およびm007)は、高脂肪食マウスの肺、心臓および腎臓の重量に対して効果を持たなかったことを示す。
【
図6A】
図6Aは、PEG修飾ESおよびその変異体003、007(mES、m003、およびm007)は、マウスにおいて高脂肪食により誘導される肝臓重量の増加を有意に阻害したことを示す。
*はP<0.05を意味し、
**はをP<0.01意味する。
【
図6B】
図6Bは、PEG修飾ESおよびその変異体003、007(mES、m003、およびm007)処置群マウス肝臓組織切片を示す。
【
図6C】
図6Cは、PEG修飾ESおよびその変異体003、007(mES、m003、およびm007)は、マウスにおいて高脂肪食により誘導される肝臓脂肪沈着を有意に阻害したことを示す。
***はP<0.001を意味する。
【
図7A】
図7Aは、PEG修飾ESおよびその変異体003、007(mES、m003、およびm007)は、脂肪細胞分化を直接的に阻害したことを示す。
【
図7B】
図7Bは、PEG修飾ESおよびその変異体003、007(mES、m003、およびm007)による脂肪細胞分化の阻害の定量結果を示す。
***はP<0.001を意味する。
【
図8A】
図8Aは、PEG修飾ES変異体Z101(mZ101)は、マウスにおいて高脂肪食により誘導される体重増加を有意に阻害したことを示す。
**はP<0.01を意味し、
***はP<0.001を意味する。
【
図8B】
図8Bは、PEG修飾ES変異体Z101(mZ101)は、マウスにおいて高脂肪食により誘導される脂肪組織重量の増加を有意に阻害したことを示す。
***はP<0.001を意味する。
【
図8C】
図8Cは、PEG修飾ES変異体Z101(mZ101)は、マウスにおいて高脂肪食により誘導される肝臓重量の増加を有意に阻害したことを示す。
*はP<0.05を意味する。
【
図8D】
図8Dは、PEG修飾ES変異体Z101(mZ101)は、高脂肪食マウスの肺、心臓および腎臓の重量に対して効果を持たなかったことを示す。
【
図9A】
図9Aは、PEG修飾ES変異体Z101(mZ101)は、脂肪細胞分化を直接的に阻害したことを示す。
【
図9B】
図9Bは、PEG修飾ES変異体Z101(mZ101)による脂肪細胞分化の阻害の定量結果を示す。
***はP<0.001を意味する。
【
図10A】
図10Aは、PEG修飾ES変異体009およびS03(m009およびmS03)は、マウスにおいて高脂肪食により誘導される体重増加を有意に阻害したことを示す。
**はP<0.01を意味し、
***はP<0.001を意味する。
【
図10B】
図10Bは、PEG修飾ES変異体009およびS03(m009およびmS03)は、マウスにおいて高脂肪食により誘導される脂肪組織重量の増加を有意に阻害したことを示す。
***はP<0.001を意味する。
【
図10C】
図10Cは、PEG修飾ES変異体009およびS03(m009およびmS03)は、マウスにおいて高脂肪食により誘導される肝臓重量の増加を有意に阻害したことを示す。
*はP<0.05を意味する。
【
図10D】
図10Dは、PEG修飾ES変異体009およびS03(m009およびmS03)は、高脂肪食マウスの肺、心臓および腎臓の重量に対して効果を持たなかったことを示す。
【
図11A】
図11Aは、PEG修飾ES変異体009およびS03(m009およびmS03)は、肪細胞分化を直接的に阻害したことを示す。
【
図11B】
図11Bは、PEG修飾ES変異体009およびS03(m009およびmS03)による脂肪細胞分化の阻害の定量結果を示す。
***はP<0.001を意味する。
【
図12A】
図12Aは、PEG修飾ES変異体36および249(m36およびm249)は、マウスにおいて高脂肪食により誘導される体重増加を有意に阻害したことを示す。
**はP<0.01を意味し、
***はP<0.001を意味する。
【
図12B】
図12Bは、PEG修飾ES変異体36および249(m36およびm249)は、マウスにおいて高脂肪食により誘導される脂肪組織重量の増加を有意に阻害したことを示す。
*はP<0.05を意味し、
**はP<0.01を意味し、
*** はP<0.001を意味する。
【
図12C】
図12Cは、PEG修飾ES変異体36および249(m36およびm249)は、マウスにおいて高脂肪食により誘導される肝臓重量の増加を有意に阻害したことを示す。
*はP<0.05を意味し、
**はP<0.01を意味する。
【
図12D】
図12Dは、PEG修飾ES変異体36および249(m36およびm249)は、高脂肪食マウスの肺、心臓および腎臓の重量に対して効果を持たなかったことを示す。
【
図15】
図15は、ES変異体Z101のアミノ酸配列を示す。
【
図21】
図21は、ES変異体YH-16のアミノ酸配列を示す。
【
図22】
図22は、ES変異体381、57、114、および124のアミノ酸配列を示す。
【
図23】
図23は、ES変異体125、160、163、および119のアミノ酸配列を示す。
【発明の具体的説明】
【0015】
本発明は、食事性肥満、非アルコール性脂肪肝疾患、インスリン抵抗性またはブドウ糖不耐症を治療するための薬剤の調製におけるエンドスタチンまたはその機能的変異体の使用を提供する。
【0016】
本発明は、脂肪細胞分化の回避のための薬剤の調製におけるエンドスタチンまたはその機能的変異体の使用を提供する。
【0017】
いくつかの実施形態では、前記機能的変異体は、YH-16、003,007、Z101、ES006、ES008、ES011、S02、S09、Z006、Z008、ZN1、009、S03、36、249、381、57、114、124、125、160、163、119、mES、mYH-16、m003、m007、mZ101、mES006、mES008、mES011、mS02、mS09、mZ006、mZ008、mZN1、m009、mS03、m36、m249、m381、m57、m114、m124、m125、m160、m163、またはm119であり得る。本発明の好ましい実施形態では、前記機能的変異体は、YH-16、003、007、Z101、009、S03、36、249、mES、mYH-16、m003、m007、mZ101、m009、mS03、m36、またはm249であり得る。
【0018】
本明細書で使用する場合、用語「機能的変異体」には、アミノ酸配列に1以上の(例えば、1~5、1~10または1~15、具体的には、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12またはさらにはそれを越える)アミノ酸の置換、欠失または付加を有するエンドスタチン変異体、およびエンドスタチンまたはその変異体の化学的な修飾、例えば、PEG修飾により得られる誘導体を含む。これらの変異体および誘導体は、エンドスタチンと実質的に同じ脂肪細胞分化阻害活性を有する。例えば、PEG修飾ESおよびYH-16は、それぞれmESおよびmYH-16と呼称され、ESまたはYH-16の、20kDaモノメトキシポリエチレングリコールプロピオンアルデヒド(mPEG-ALD)による修飾によって得られる。カップリング部位は、mPEG-ALDの活性化アルデヒド基およびESまたはYH-16のN末端α-アミノ基である(他のES変異体およびその変異体のPEG修飾誘導体も同様に修飾され、呼称される)。例えば、本発明の実施形態では、YH-16、003、007、Z101、009、S03、36および249は、エンドスタチンの特に好ましい変異体であり;mES、mYH-16、m003、m007、mZ101、m009、mS03、m36およびm249は、それぞれES、YH-16、003、007、Z101、009、S03、36および249の好ましい誘導体である。PCT出願PCT/CN2012/081210(引用することによりその全内容が本明細書の一部とされる)は、ES006、ES008、ES011、S02、S09、Z006、Z008、およびZN1などのようなエンドスタチンの種々の変異体を提供する。本明細書で、用語「機能的変異体」、または「変異体」は、エンドスタチンの変異体および誘導体を包含する。
【0019】
本発明はまた、治療上有効な量のエンドスタチンまたはその機能的変異体を対象に投与することを含んでなる、食事性肥満、非アルコール性脂肪肝疾患、インスリン抵抗性またはブドウ糖不耐症を治療するための方法を提供する。
【0020】
本明細書で使用する場合、用語「治療上有効な量」は、対象において臨床家が望む生物学的または医学的応答を生じさせるのに十分な活性化合物の量を意味する。エンドスタチンまたはその機能的変異体の「治療上有効な量」は、投与経路、対象の体重、年齢および状態などの因子に応じて当業者により決定され得る。例えば、典型的な一日用量は、体重kg当たり0.01mg~100mgの有効成分の範囲であり得る。
【0021】
本発明で提供される薬剤は、散剤および注射などの臨床上許容可能な投与形に調製することができ、注射などの従来の手段によって投与することができる。
【0022】
本発明はまた、治療上有効な量のエンドスタチンまたはその機能的変異体を対象に投与することを含んでなる、脂肪細胞分化を阻害するための方法を提供する。
【0023】
本発明はまた、有効成分としてエンドスタチンまたはその機能的変異体を含む、食事性肥満、非アルコール性脂肪肝疾患、インスリン抵抗性またはブドウ糖不耐症の治療のための薬剤を提供する。
【0024】
食事性肥満は、食事中のカロリーが身体のエネルギー消費を越える場合に余剰カロリーが体内に脂肪の形で貯蓄されることによって引き起こされる肥満を意味する。
【0025】
非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)は、インスリン抵抗性および遺伝的感受性と密接に関連する代謝ストレス誘導性の肝障害を意味する。その病理表現型はアルコール性肝疾患(ALD)の場合と同じであるが、患者には過剰飲酒の履歴がない。
【0026】
インスリン抵抗性は、インスリン耐性とも呼ばれ、インスリンに対する身体の不感受性、従って、ブドウ糖の取り込みおよび利用に対するインスリンの促進効果が通常レベルを下回ることを意味する。言い換えれば、身体は、インスリンに応答するためにより高濃度のインスリンを必要とする。インスリン抵抗性は高レベルのインスリンを誘導し、血漿中の高ブドウ糖は通常、代謝症候群、痛風およびII型糖尿病をもたらす。
【0027】
ブドウ糖不耐症は、身体のブドウ糖代謝の低下による血糖値調節能の低下であり、ブドウ糖が多量に取り込まれた後に血糖値は適時に調節されて通常に戻ることができないということで現れる。ブドウ糖不耐症は、適時に介入されなければ糖尿病へと進展することがある。
【0028】
マウス体重の阻害率=(1-薬物処置群の体重増加/高脂肪食群の体重増加)×100%
【0029】
マウス脂肪貯蔵の阻害率=(1-薬物処置群の脂肪組織重量/高脂肪食群の脂肪組織重量)×100%
【0030】
マウス肝臓重量の阻害率=(1-薬物処置群の肝臓重量/高脂肪食群の肝臓重量)×100%
【0031】
マウス肝臓脂肪沈着の阻害率=(1-薬物処置群の肝細胞質液胞率/高脂肪食群の肝細胞質液胞率)×100%
【0032】
本発明は以下の通りである。
[1]食事性肥満、非アルコール性脂肪肝疾患、インスリン抵抗性またはブドウ糖不耐症を治療するための薬剤の調製における、エンドスタチンまたはその機能的変異体の使用。
[2]前記機能的変異体が、YH-16、003、007、Z101、ES006、ES008、ES011、S02、S09、Z006、Z008、ZN1、009、S03、36、249、381、57、114、124、125、160、163、119、mES、mYH-16、m003、m007、mZ101、mES006、mES008、mES011、mS02、mS09、mZ006、mZ008、mZN1、m009、mS03、m36、m249、m381、m57、m114、m124、m125、m160、m163、およびm119からなる群から選択される、上記[1]に記載の使用。
[3]前記機能的変異体が、YH-16、003、007、Z101、009、S03、36、249、mES、mYH-16、m003、m007、mZ101、m009、mS03、m36、およびm249からなる群から選択される、上記[1]に記載の使用。
[4]脂肪細胞分化を阻害するための薬剤の調製における、エンドスタチンまたはその機能的変異体の使用。
[5]前記機能的変異体が、YH-16、003、007、Z101、ES006、ES008、ES011、S02、S09、Z006、Z008、ZN1、009、S03、36、249、381、57、114、124、125、160、163、119、mES、mYH-16、m003、m007、mZ101、mES006、mES008、mES011、mS02、mS09、mZ006、mZ008、mZN1、m009、mS03、m36、m249、m381、m57、m114、m124、m125、m160、m163、およびm119からなる群から選択される、上記[4]に記載の使用。
[6]前記機能的変異体が、YH-16、003、007、Z101、009、S03、36、249、mES、mYH-16、m003、m007、mZ101、m009、mS03、m36、およびm249からなる群から選択される、上記[4]に記載の使用。
[7]治療上有効な量のエンドスタチンまたはその機能的変異体を対象に投与することを含んでなる、食事性肥満、非アルコール性脂肪肝疾患、インスリン抵抗性またはブドウ糖不耐症を治療するための方法。
[8]前記機能的変異体が、YH-16、003、007、Z101、ES006、ES008、ES011、S02、S09、Z006、Z008、ZN1、009、S03、36、249、381、57、114、124、125、160、163、119、mES、mYH-16、m003、m007、mZ101、mES006、mES008、mES011、mS02、mS09、mZ006、mZ008、mZN1、m009、mS03、m36、m249、m381、m57、m114、m124、m125、m160、m163、およびm119からなる群から選択される、上記[7]に記載の方法。
[9]前記機能的変異体が、YH-16、003、007、Z101、009、S03、36、249、mES、mYH-16、m003、m007、mZ101、m009、mS03、m36、およびm249からなる群から選択される、上記[7]に記載の方法。
[10]治療上有効な量のエンドスタチンまたはその機能的変異体を対象に投与することを含んでなる、脂肪細胞分化を阻害するための方法。
[11]前記機能的変異体が、YH-16、003、007、Z101、ES006、ES008、ES011、S02、S09、Z006、Z008、ZN1、009、S03、36、249、381、57、114、124、125、160、163、119、mES、mYH-16、m003、m007、mZ101、mES006、mES008、mES011、mS02、mS09、mZ006、mZ008、mZN1、m009、mS03、m36、m249、m381、m57、m114、m124、m125、m160、m163、およびm119からなる群から選択される、上記[10]に記載の方法。
[12]前記機能的変異体が、YH-16、003、007、Z101、009、S03、36、249、mES、mYH-16、m003、m007、mZ101、m009、mS03、m36、およびm249からなる群から選択される、上記[10]に記載の方法。
[13]エンドスタチンまたはその機能的変異体を有効成分として含んでなる、食事性肥満、非アルコール性脂肪肝疾患、インスリン抵抗性またはブドウ糖不耐症を治療するための薬剤。
[14]前記機能的変異体が、YH-16、003、007、Z101、ES006、ES008、ES011、S02、S09、Z006、Z008、ZN1、009、S03、36、249、381、57、114、124、125、160、163、119、mES、mYH-16、m003、m007、mZ101、mES006、mES008、mES011、mS02、mS09、mZ006、mZ008、mZN1、m009、mS03、m36、m249、m381、m57、m114、m124、m125、m160、m163、およびm119からなる群から選択される、上記[13]に記載の薬剤。
[15]前記機能的変異体が、YH-16、003、007、Z101、009、S03、36、249、mES、mYH-16、m003、m007、mZ101、m009、mS03、m36、およびm249からなる群から選択される、上記[13]に記載の薬剤。
本発明の実施例で使用されるESおよびその変異体は総てベイジン プロトゲン リミテッド(Beijing Protgen Ltd)により提供された。
【実施例】
【0033】
実施例1 ESおよびYH-16はマウスにおいて高脂肪食により誘導される体重増加を有意に阻害した
合計24個体の健康なC57BL/6マウス(7週齢、雄、Beijing Vital River Laboratory Animal Technology Companyから購入)を各群マウス8個体として4群に分け、次のように処置した:
第1群:通常食群;
第2群:高脂肪食群;
第3群:高脂肪食+ES処置群(薬物処置群);
第4群:高脂肪食+YH-16処置群(薬物処置群)。
【0034】
通常食群のマウスには、10%のカロリーが脂肪成分に由来する飼料(D12450J、Research Diets、USA)を与え、高脂肪食群マウスには、60%のカロリーが脂肪成分に由来する飼料(D12492J、Research Diets、USA)を与えた。
【0035】
投与経路:60日の注射期間で、第3群および第4群には、1日1回、ESまたはYH-16(Protgen)を12mg/kg/日の用量で腹膜内注射し、第2群には等量の生理食塩水を腹膜内注射し、第1群には注射しなかった。注射の初日を0日目とし、最後の投与は59日目に行った。マウスの体重を3日に1回測定し、最後の測定は60日目(すなわち、最終投与の翌日)に行い、体重曲線をプロットした(
図1A)。結果は、ESおよびYH-16は両方とも高脂肪食による体重増を有意に阻害し、その阻害率はそれぞれ37.5%、および30.6%であったことを示した(表1)。
【0036】
61日目に糖負荷試験の完了後、マウスを犠牲にし、総体脂肪組織を単離し、重量を測定した(
図1B、表1)。これらの結果は、ESまたはYH-16処置群のマウスの脂肪組織重量は、薬物処置無しの高脂肪食群よりも著しく低かったことを示した。マウスにおいて高脂肪食により誘導される脂肪蓄積に対するESおよびYH-16の阻害率は、それぞれ47.7%および42.2%であった(表1)。
【0037】
肺、心臓および腎臓をマウスから単離し、重量を測定した(
図1C、表1)。結果は、4群の総てでマウス間の肺、心臓および腎臓の重量に有意差は無かったことを示し、ESおよびYH-16はマウスの肺、心臓および腎臓に対して影響が無かったことを示唆する。
【0038】
実施例2 ESおよびYH-16はマウスにおいて高脂肪食により誘導される肝臓重量増加および脂肪沈着を有意に阻害した
実施例1のマウスから、61日目の糖負荷試験の完了後、肝臓組織を摘出し、重量を測定した(
図2A、表1)。ESおよびYH-16はマウスにおいて高脂肪食により誘導される肝臓重量の増加を阻害し、阻害率はそれぞれ23.8%および20.5%であった。
【0039】
肝臓組織を固定し、パラフィンに包埋した後、8μmの薄層切片とした。これらの肝臓組織サンプルをヘマトキシリンおよびエオジン(HE)で染色した。主な工程として、除パラフィンおよび再水和の後、切片をヘマトキシリンおよびエオジンで染色し、次いで、従来の脱水および封止を行い、その後、従来の光学顕微鏡(Olympus IX71顕微鏡)で観察し、写真撮影を行った(
図2B)。HE染色結果は、高脂肪食群のマウス由来の肝臓組織切片には肝細胞質液胞が存在したことを示し、高脂肪食が肝臓において脂肪沈着を引きおこし得たことを示唆し、一方、ESおよびYH-16処置群のマウス由来の肝臓の脂肪沈着は、薬物投与無しの高脂肪食群よりも有意に低く、阻害率はそれぞれ78.9%および75.2%であった(
図2C)。これはESおよびYH-16が非アルコール性脂肪肝疾患に対して有意な阻害効果を有することを示唆した。
【0040】
実施例3 ESおよびYH-16はマウスのインスリン抵抗性およびブドウ糖不耐症を有意に改善した
実施例1のマウスに、59日目の投与が完了して6時間後にインスリン負荷試験を行った。具体的な工程としては、マウスの尾を切り、血液を採取し、基本血糖値を測定し(ロッシュ手持ち血糖計)、モニタリング時間を0分に設定した。生合成ヒトインスリン(Novolin R、Novo Nordisk)を0.5U/kgで腹膜内注射し、インスリン注射後20分、40分、60分、80分に血液サンプルを採取し、血糖値を測定し、曲線をプロットした(
図3A)。インスリン注射後、通常食群マウスの血糖値は経時的に急速に低下したが、高脂肪食群マウスの血糖値はゆっくり低下したことが判明し、高脂肪食がインスリン抵抗性を引き起こし得たこと、ならびにESおよびYH-16が高脂肪食により引き起こされたインスリン抵抗性を有意に緩和し得たことが示唆された。
【0041】
実施例1のマウスを、60日目の体重測定後、一晩飢餓状態とし、61日目に糖負荷試験を行った。具体的な工程としては、マウスの尾を切り、血液を採取し、基本血糖値を測定し(ロッシュ手持ち血糖計)、モニタリング時間を0分に設定した。マウスに強制経口投与によってブドウ糖溶液(20mg/ml)を、各マウスの体重1グラム当たりブドウ糖1mgの用量で与えた。ブドウ糖の強制経口投与後20分、40分、60分、80分に血液サンプルを採取し、マウスの血糖値を測定し、曲線をプロットした(
図3B)。ブドウ糖の強制経口投与後、時間の経過とともに、マウスの血糖値は急速に増大し、通常食群に比べて高脂肪食群では回復速度が緩慢であったことが判明し、高脂肪食がマウスにおいてブドウ糖不耐症をもたらし得たが、ESおよびYH-16処置群のマウスのブドウ糖不耐症は有意に改善されたことが示唆された。
【0042】
61日目の糖負荷試験の完了後、マウスを犠牲にし、総体脂肪組織を単離した後、脂肪組織のAktのリン酸化レベルをウエスタンブロットにより検出した(
図3C)。結果は、通常食群に比べて、高脂肪食群ではAktのリン酸化レベルが低かったが、ES処置群のAktのリン酸化レベルは高脂肪食群よりも高かったことを示した。Akt経路は、インスリンの下流の重要な血糖調節経路である。インスリン抵抗性には多くの場合、Aktのリン酸化レベルの低下が伴う。このことは、ESがインスリン抵抗性およびブドウ糖不耐症を有効に改善し得たという事実と一致する。
【0043】
実施例4 ESおよびYH-16は前駆脂肪細胞の脂肪細胞への分化を有意に阻害した
良好な状態の3T3-L1前駆脂肪細胞を選択し、10%FBSを添加したDMEM培地に再懸濁させた後、6ウェルプレートに播種し、従来通りにインキュベーター内、37℃、5%CO2でインキュベートした。細胞を2日間増殖させた後、分化誘導を開始した:工程1 誘導のためにMDI誘導培地を添加し(この時を細胞分化1日目と定義);工程2 2日後に培地をインスリン誘導培地に変更し、さらに2日間培養を続け;工程3 培地を、10%FBSを添加したDMEM培地に変更し、8日目まで培養を続け、3T3-L1を脂肪細胞に分化させた。この実験を5群に分けた:
第1群:対照群;
第2群:ES処置群;
第3群:YH-16処置群;
第4群:mES処置群;
第5群:mYH-16処置群。
【0044】
それらのうち、薬物処置群には、誘導中(すなわち、1日目~8日目)に50μg/mlのES、YH-16、mESまたはmYH-16を添加し、対照群には等量のタンパク質バッファーを加えた。前記の薬物添加および対照処置は、各培地交換時に行った。
【0045】
MDI誘導培地は10%FBSを添加したDMEM培地に1μM デキサメタゾン、0.5mM 3-イソブチル-1-メチルキサンチンおよび10μg/ml ウシインスリンを加えることにより調製した。インスリン誘導培地は、10%FBSを添加したDMEM培地に10μg/mlウシインスリンを加えることにより調製した。
【0046】
誘導後、6ウェルプレートの培地を除去し、細胞を固定し、オイルレッドで10分間染色した。次いで、細胞を脱色し、PBSで3回すすいで余分な色素を除去した。脂肪細胞中の脂肪はオイルレッドにより識別でき、その後、赤く染まった。デジタルカメラで6ウェルプレートの写真を撮影し、また、倒立顕微鏡(Olympus IX71顕微鏡)を用いて観察および写真記録を行った(
図4A)。結果は、ES、YH-16、mESおよびmYH-16は総て、前駆脂肪細胞の脂肪細胞への分化を阻害し得たことを示した(
図4B)。
【0047】
誘導過程の6日目に細胞を採取し、培地を除去した。100μlの2×SDS電気泳動ローディングバッファーを加え、細胞を100℃で15分間加熱した。電気泳動およびフィルム転写後、各群からの全細胞溶解液中の、脂肪細胞分化の中心的制御因子であるPPARγ1およびPPARγ2の発現レベルを免疫ブロット法により検出した(
図4C)。脂肪細胞分化において、ES、YH-16、mESおよびmYH-16は総てPPARγ1およびPPARγ2のタンパク質発現レベルを阻害することができ、これらは両方とも脂肪細胞分化の中心的制御転写因子であることが判明した。
【0048】
PPARγ1およびPPARγ2 mRNA発現レベルの検出: 誘導前(0日目)および誘導6日目に、TRIZOL試薬(Invitrogenから購入)プロトコールの標準プロトコールに従って、3T3-L1の全RNAを抽出した。Fermentas逆転写キット(RevertAid(商標)First Stand cDNA合成キット)を標準プロトコールに従って逆転写に使用した。
【0049】
脂肪細胞分化の中心的制御因子であるPPARγ1/2は、Stratageneキット(Brilliant II SYBR(登録商標)Green QRT-PCR Master Mix)、蛍光定量的PCR装置としてのMX3000P(Stratageneから購入)、蛍光色素としてのSYBR Greenを用いる蛍光定量的リアルタイムPCRにより、PCR反応系20μl、および反応サイクル40回として検出した。
【0050】
PCR手順:95℃で10秒の変性;60℃で30秒のアニーリングおよび伸長;20μlの反応系、40回の反応サイクル;最後に75℃で5分の保持。GAPDHを内部参照として用いた。反応プライマーは次の通りであった:
PPARγ1フォワードプライマー(5’-3’):ACAAGATTTGAAAGAAGCGGTGA
PPARγ1リバースプライマー(5’-3’):GCTTGATGTCAAAGGAATGCGAAGGA
PPARγ2フォワードプライマー(5’-3’):CGCTGATGCACTGCCTATGAG
PPARγ2リバースプライマー(5’-3’):TGGGTCAGCTCTTGTGAATGGAA
GAPDHフォワードプライマー(5’-3’):CCAGCCTCGTCCCGTAGACA
GAPDHリバースプライマー(5’-3’):TGAATTTGCCGTGAGTGGAGTC
【0051】
内部参照としてGAPDHを用い、装置によって与えられた蛍光ダイアグラムに従ってΔCt値を得た後、相対的Δ(ΔCt)を計算し、その後、PPARγ1およびPPARγ2のmRNAレベルの相対的変化を計算した(
図4D)。ESは脂肪細胞分化の中心的制御転写因子であるPPARγ1およびPPARγ2のmRNA発現レベルを阻害し得たことが判明した。
【0052】
実施例5 PEG修飾ESおよびその変異体003および007(mES、m003、およびm007)はマウスにおいて高脂肪食により誘導される体重増加を有意に阻害した
合計40個体の健康なC57BL/6マウス(7週齢、雄、Beijing Vital River Laboratory Animal Technology Companyから購入)を各群マウス8個体として5群に分け、次のように処置した:
第1群:通常食群;
第2群:高脂肪食群;
第3群:高脂肪食+mES処置群(薬物処置群);
第4群:高脂肪食+m003処置群(薬物処置群);
第5群:高脂肪食+m007処置群(薬物処置群)。
【0053】
各群の食餌は実施例1と同様であった。
【0054】
投与経路: 8週間の期間で、第3群、第4群および第5群には、1週間に1回、50mg/kg/週の用量で尾静脈からmES、m003またはm007(Protgen)を注射し、第2群には等量の生理食塩水を注射し、第1群には注射しなかった。注射の初日を0週目とし、最後の投与は7週目に行った。マウスの体重を週に1回測定し、8週目の最後の測定の後に、体重曲線をプロットした(
図5A)。結果は、mES、m003、およびm007は高脂肪食による体重増加を有意に阻害し、その阻害率はそれぞれ33.7%、22.9%、および42.9%であったことを示した(表2)。
【0055】
8週目の最後のマウスの体重測定の後に、マウスを犠牲にし、総体脂肪組織を単離し、重量を測定した(
図5B、表2)。結果は、mES、m003、およびm007群のマウスの脂肪組織重量は、薬物処置無しの高脂肪食群よりも有意に低かったことを示した。マウスにおいて高脂肪食により誘導される脂肪蓄積に対するmES、m003、およびm007の阻害率はそれぞれ41.4%、31.9%、および40.5%であった(表2)。
【0056】
肺、心臓および腎臓をマウスから単離し、重量を測定した(
図5C、表2)。結果は、5群の総てでマウス間の肺、心臓および腎臓の重量に有意差は無かったことを示し、mES、m003、およびm007はマウスの肺、心臓および腎臓に対して影響が無かったことを示唆する。
【0057】
実施例6 PEG修飾ESおよびその変異体003および007(mES、m003、およびm007)はマウスにおいて高脂肪食により誘導される肝臓重量増加および脂肪沈着を有意に阻害した
実施例5のマウスから、8週目の最後のマウスの体重測定後に、肝臓組織を摘出し、重量を測定した(
図6A、表2)。結果は、mES、m003、およびm007は、マウスにおいて高脂肪食により誘導される肝臓重量の増加を阻害し、阻害率はそれぞれ21.3%、21.3%、および25.2%であったことを示す(表2)。
【0058】
実施例2のプロトコールに従い、肝臓組織を固定し、パラフィンに包埋し、HEで染色し、従来の光学顕微鏡(Olympus IX71顕微鏡)で観察し、記録した(
図6B)。HE染色結果は、mES、m003、およびm007処置群のマウス由来の肝臓の脂肪沈着は薬物投与無しの高脂肪食群よりも有意に低く、阻害率はそれぞれ70.6%、56.1%、および73.1%であったことを示した(
図6C)。このことはmES、m003、およびm007が非アルコール性脂肪肝疾患に対して有意な阻害効果を有することを示唆した。
【0059】
実施例7 PEG修飾ESおよびその変異体003および007(mES、m003、およびm007)は前駆脂肪細胞の脂肪細胞への分化を有意に阻害した
実施例4と同様に、3T3-L1前駆脂肪細胞を培養し、誘導を行った。実験は4群に分けた:
第1群:対照群;
第2群:mES処置群;
第3群:m003処置群;
第4群:m007処置群。
【0060】
それらのうち、薬物処置群には、誘導中(すなわち、1日目~8日目)に付加的な50μg/mlのmES、m003またはm007を添加し、対照群には等量のタンパク質バッファーを加えた。前記薬物添加および対照処置は、各培地交換時に行った。
【0061】
誘導後、実施例4の実験方法に従って、細胞をオイルレッドで染色した。デジタルカメラで6ウェルプレートの写真を撮り、また、倒立顕微鏡(Olympus IX71顕微鏡)を用いて観察および写真による記録を行った(
図7A)。結果は、mES、m003、およびm007は総て、前駆脂肪細胞の脂肪細胞への分化を直接阻害することができ、mESおよびm007はm003よりも良好な阻害効果を有していたことを示した(
図7B)。このことは実施例6の動物実験の結果と一致しており、なぜmESおよびm007が高脂肪食動物の体重増加の阻害においてm003よりも効果的であったかという理由も説明した。
【0062】
実施例8 PEG修飾ES変異体Z101(mZ101)はマウスにおいて高脂肪食により誘導される体重増加を有意に阻害した
実験マウスの準備(各群マウス8個体)、食餌(飼料)、投与経路、投与サイクルおよびマウスの体重測定は実施例5と同様であった。実験は次のように群を分けた:
第1群:通常食群;
第2群:高脂肪食群;
第3群:高脂肪食+mZ101処置群(薬物処置群)。
ここで、用量は12mg/kg/週であった。
【0063】
8週目の最後のマウスの体重測定後に、体重曲線をプロットした(
図8A)。結果は、mZ101は高脂肪食による体重増加を有意に阻害し、阻害率は31%であったことを示した(表3)。
【0064】
8週目の最後のマウスの体重測定の後に、マウスを犠牲にし、総体脂肪組織を単離し、重量を測定した(
図8BおよびC、表3)。結果は、mZ101群のマウスの脂肪組織重量は薬物処置無しの高脂肪食群よりも有意に低く、脂肪蓄積の阻害率は77.2%であったことを示した(表3)。mZ101はまたマウス肝臓重量の増加も阻害することができ、阻害率は21.5%であった(表3)。
【0065】
肺、心臓および腎臓をマウスから単離し、重量を測定した(
図8D、表3)。結果は、3群の間でマウスの肺、心臓および腎臓の重量に有意差は無いことを示し、mZ101はマウスの肺、心臓および腎臓に対して効果を持たなかったことを示唆した。
【0066】
実施例9 PEG修飾ES変異体Z101(mZ101)は前駆脂肪細胞の脂肪細胞への分化を有意に阻害した
実施例4と同様に、3T3-L1前駆脂肪細胞を培養し、誘導を行った。実験は2群に分けた:
第1群:対照群;
第2群:mZ101処置群。
【0067】
それらのうち、薬物処置群には、誘導中(すなわち、1日目~8日目)に付加的な50μg/mlのmZ101を添加し、対照群には等量のタンパク質バッファーを加えた。前記薬物添加および対照処置は、各培地交換時に行った。
【0068】
誘導後、実施例4の実験方法に従って、細胞をオイルレッドで染色した。デジタルカメラで6ウェルプレートの写真を撮り、また、倒立顕微鏡(Olympus IX71顕微鏡)を用いて観察および写真による記録を行った(
図9A)。結果は、mZ101は前駆脂肪細胞の脂肪細胞への分化を直接阻害し得たことを示した(
図9B)。
【0069】
実施例10 PEG修飾ES変異体009およびS03(m009およびmS03)はマウスにおいて高脂肪食により誘導される体重増加を有意に阻害し、mS03の阻害効果はm009よりも良好であった
実験マウスの準備(各群マウス8個体)、食餌(飼料)、投与経路、投与サイクルおよびマウスの体重測定は実施例5と同様であった。実験は次のように群に分けた:
第1群:通常食群;
第2群:高脂肪食群;
第3群:高脂肪食+m009処置群(薬物処置群);
第4群:高脂肪食+mS03処置群(薬物処置群)。
【0070】
ここで、用量を12mg/kg/週であった。
【0071】
8週目の最後のマウスの体重測定後に、体重曲線をプロットした(
図10A)。結果は、m009およびmS03は高脂肪食による体重増加を有意に阻害し、阻害率はそれぞれ10.6%、および19.0%であったことを示した(表4)。
【0072】
8週目の最後のマウスの体重測定後に、マウスを犠牲にし、総体脂肪組織を単離し、重量を測定した(
図10BおよびC、表4)。結果は、m009およびmS03群のマウスの脂肪組織の重量は薬物処置無しの高脂肪食群より有意に低く、脂肪蓄積の阻害率はそれぞれ45.7%および59.5%であったことを示した(表4)。m009およびmS03はまたマウスの肝臓重量の増加も阻害することができ、阻害率はそれぞれ16.7%および25.7%であった(表4)。
【0073】
肺、心臓および腎臓をマウスから単離し、重量を測定した(
図10D、表4)。結果は、4群間でマウスの肺、心臓および腎臓の重量に有意差は無かったことを示し、m009およびmS03はマウスの肺、心臓および腎臓に対して効果を持たなかったことを示唆した。
【0074】
実施例11 PEG修飾ES変異体009およびS03(m009およびmS03)は前駆脂肪細胞の脂肪細胞への分化を有意に阻害した
実施例4と同様に、3T3-L1前駆脂肪細胞を培養し、誘導を行った。実験を3群に分けた:
第1群:対照群;
第2群:m009処置群;
第3群3:mS03処置群。
【0075】
それらのうち、薬物処置群には、誘導中(すなわち、1日目~8日目)に付加的な50μg/mlのm009またはmS03を添加し、対照群には等量のタンパク質バッファーを加えた。前記薬物添加および対照処置は、各培地交換時に行った。
【0076】
誘導後、実施例4の実験方法に従って、細胞をオイルレッドで染色した。デジタルカメラで6ウェルプレートの写真を撮り、また、倒立顕微鏡(Olympus IX71顕微鏡)を用いて観察および写真による記録を行った(
図11A)。結果は、m009およびmS03は両方とも、前駆脂肪細胞の脂肪細胞への分化を直接阻害することができ、mS03はm009より良好な阻害効果を有していたことを示した(
図11B)。このことは実施例9の動物実験の結果と一致しており、なぜmS03が高脂肪食動物の体重増加の阻害においてm009よりも効果的であったかという理由も説明した。
【0077】
実施例12 PEG修飾ES変異体36および249(m36およびm249)はマウスにおいて高脂肪食により誘導される体重増加を有意に阻害した
実験マウスの準備(各群マウス8個体)、食餌(飼料)、投与経路、投与サイクルおよびマウスの体重測定は実施例5と同様であった。実験は次のように群に分けた:
第1群:通常食群;
第2群:高脂肪食群;
第3群:高脂肪食+m36(6mg/kg/週)処置群(薬物処置群);
第4群:高脂肪食+m36(12mg/kg/週)処置群(薬物処置群);
第5群:高脂肪食+m249(6mg/kg/週)処置群(薬物処置群);
第6群:高脂肪食+m249(12mg/kg/週)処置群(薬物処置群)。
【0078】
8週目の最後のマウスの体重測定後に、体重曲線をプロットした(
図12A)。結果は、低用量m36(6mg/kg/週)および高用量m249(12mg/kg/週)は高脂肪食による体重増加を有意に阻害し、阻害率はそれぞれ30.3%および50.3%であったことを示した(表5)。
【0079】
8週目の最後のマウスの体重測定後に、マウスを犠牲にし、総体脂肪組織を単離し、重量を測定した(
図12BおよびC、表5)。結果は、低用量m36(6mg/kg/週)群および高用量m249(12mg/kg/週)群のマウスの脂肪組織の重量は薬物処置無しの高脂肪食群よりも有意に低く、マウスにおいて高脂肪食により誘導される脂肪蓄積に対する低用量m36(6mg/kg/週)および高用量m249(12mg/kg/週)の阻害率はそれぞれ30%および38.4%であったことを示した(表5)。低用量m36(6mg/kg/週)および高用量m249(12mg/kg/週)はまたマウス肝臓重量の増加も阻害することができ、阻害率はそれぞれ18.4%および22.9%であった(表5)。
【0080】
肺、心臓および腎臓をマウスから単離し、重量を測定した(
図12D)。結果は、6群間で肺、心臓および腎臓の重量に有意差は無かったことが示され、m36およびm249はマウスの肺、心臓および腎臓に対して効果を持たなかったことを示唆した。
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
【配列表】