(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】1,3-ブタジエン製造触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 23/20 20060101AFI20230214BHJP
B01J 21/08 20060101ALI20230214BHJP
C07C 1/20 20060101ALI20230214BHJP
C07C 11/167 20060101ALI20230214BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230214BHJP
【FI】
B01J23/20 Z
B01J21/08 Z
C07C1/20
C07C11/167
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020198007
(22)【出願日】2020-11-30
(62)【分割の表示】P 2017072022の分割
【原出願日】2017-03-31
【審査請求日】2020-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】519355493
【氏名又は名称】日揮グローバル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲木 千津
(72)【発明者】
【氏名】本田 一規
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/009105(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C07C 1/00-409/44
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期表第4族および5族の元素(A)と、担体成分である二酸化ケイ素とを含み、担体成分である二酸化ケイ素の表面に周期表第4族および5族の元素(A)が担持され、前記元素(A)を前記二酸化ケイ素に固定化してなり、且つ前記元素(A)上の表面水酸基およびオキソ基の少なくとも一部が-O-Si基で置換された末端-(A)-O-Si基を含むことを特徴とする、エタノールを含む原料から1,3-ブタジエンを製造する1,3-ブタジエン製造触媒。
【請求項2】
末端-(A)-O-Si基は、前記元素(A)上の表面水酸基およびオキソ基と加水分解性基を有するケイ素化合物との反応物であり、加水分解性基を有するケイ素化合物中のケイ素と元素(A)のモル比(加水分解性基を有するケイ素化合物中のケイ素[mol]/元素(A)[mol])が0.1から100であることを特徴とする、請求項
1に記載の1,3-ブタジエン製造触媒。
【請求項3】
二酸化ケイ素上の元素(A)の密度が1~50個/nm
2の範囲であることを特徴とする、請求項1
または2に記載の1,3-ブタジエン製造触媒。
【請求項4】
元素(A)がジルコニウム、ハフニウムおよびタンタルから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1~
3のいずれか1項に記載の1,3-ブタジエン製造触媒。
【請求項5】
29Si-NMRのケミカルシフト値:-111ppm付近の極大値のシグナル強度を1とした場合に、ケミカルシフト値:-105ppmでのシグナル強度が0.55以上であることを特徴とする、請求項1~
4のいずれか1項に記載の1,3-ブタジエン製造触媒。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の1,3-ブタジエン製造触媒を用いて、エタノール単独またはエタノールとともにアセトアルデヒドを含む原料を、反応温度が300℃以上450℃以下、エタノールおよびアセトアルデヒドの分圧が0.1~1.0MPaA、重量空間速度が0.1~30g/g
-cat・hの範囲で、前記触媒と接触させることを特徴とする1,3-ブタジエンの製造方法。
【請求項7】
周期表第4族および5族の元素(A)および二酸化ケイ素の前駆体を混合する工程と、
混合物を、加熱、濃縮、水熱合成から選ばれる少なくとも1種の処理を施したのち、乾燥・焼成する工程と、
乾燥・焼成物の表面水酸基およびオキソ基の少なくとも一部を、加水分解性基を有するケイ素化合物と反応させ、前記表面水酸基および前記オキソ基の少なくとも一部を-O-Si基で置換する工程、
を含む、エタノールを含む原料から1,3-ブタジエンを製造する1,3-ブタジエン製造触媒の製造方法。
【請求項8】
周期表第4族および5族の元素(A)と、二酸化ケイ素とを含む物質を生成する工程と、
前記物質の表面水酸基およびオキソ基の少なくとも一部を、加水分解性基を有するケイ素化合物と反応させ、前記表面水酸基および前記オキソ基の少なくとも一部を-O-Si基で置換する工程と、
を備える、エタノールを含む原料から1,3-ブタジエンを製造する1,3-ブタジエン製造触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
エタノールから1,3-ブタジエンを製造する触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
エタノールからのブタジエン製造(ETB)は、過去に工業実績のある技術であるが、ナフサクラッカーより得られたC4留分からのブタジエン抽出蒸留技術の完成に伴い競争力を失ったため、一部の地域を除いて現在では使用されていない。しかしながら、近年、アジアを中心とした自動車普及台数の伸びとクラッカー原料の軽質化に伴う世界的なブタジエン需給ギャップの拡大が懸念されており、ブタジエンを単産できるETBプロセスへの関心が高まっている。
【0003】
ETBプロセスには、一段でエタノールをブタジエンに変換する一段法(Lebedev法)と、まずエタノールを脱水素してアセトアルデヒドを合成し、エタノールとアセトアルデヒドからブタジエンを合成する二段法(Ostromislensky法)がある。
・一段法
2CH3CH2OH→CH2=CH-CH=CH2+2H2O+H2
・二段法
CH3CH2OH→CH3CHO+H2
CH3CH2OH+CH3CHO→CH2=CH-CH=CH2+2H2O
【0004】
このような反応の際に使用されるETB触媒として、周期律表第4族および第5族の元素をシリカに担持した触媒が知られている。Ta2O5/SiO2触媒は古くから、1,3-ブタジエン合成触媒として知られていた(特許文献1,非特許文献1~2)。しかしながら、当時のブタジエン選択率は60%台で十分に高いとは言えなかった。
【0005】
近年、メソポーラスシリカにTaを担持した触媒(非特許文献3)やゼオライトにTaを担持したTa/SBA-15(非特許文献4)、ゼオライト骨格中にTaを挿入したTaBEA(非特許文献5)が1,3-ブタジエン合成触媒として報告されている。また、ZrO2/SiO2触媒、HfO2/SiO2触媒も古くから、1,3-ブタジエン合成触媒として知られており(非特許文献2)、近年はそれに脱水素能を有する金属を担持した一段触媒として、Ag-ZrO2-CeO2-SiO2(特許文献2)、ZnZrSiO2やCuZnZrSiO2(非特許文献6)、CuHfZnSiO2(非特許文献7)等が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第2524848号
【文献】日本国 特許第5864572号
【非特許文献】
【0007】
【文献】Industrial and Engineering Chemistry, vol.39, pp.120(1947)
【文献】Industrial and Engineering Chemistry, vol.42, pp.359(1950)
【文献】Chemical Engineering Journal, vol.278, pp.217(2015)
【文献】Applied Catalysis B, vol. 150-151, pp.596 (2014)
【文献】Catalysis Communication, vol. 77, pp.123 (2016)
【文献】Catalysis Science and Technology, vol. 1, pp.267(2011)
【文献】ACS Catalysis, vol.5, pp.3393(2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明では、実際的な運転条件でより効率的に1,3-ブタジエンを製造することのできる触媒および、その触媒を用いた1,3-ブタジエンの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような状況のもと、本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の構成により、本発明を完成するに至った。
[1]周期表第4族および5族の元素(A)と、担体成分である二酸化ケイ素とを含み、担体成分である二酸化ケイ素の表面に周期表第4族および5族の元素(A)が担持され、前記元素(A)を前記二酸化ケイ素に固定化してなり、且つ前記元素(A)上の表面水酸基およびオキソ基の少なくとも一部が-O-Si基で置換された末端-(A)-O-Si基を含むことを特徴とする、エタノールを含む原料から1,3-ブタジエンを製造する1,3-ブタジエン製造触媒。
[2]周期表第4族および5族の元素(A)と、担体成分である二酸化ケイ素とを含み、且つ前記元素(A)上の表面水酸基およびオキソ基の少なくとも一部が-O-Si基で置換された末端-(A)-O-Si基を含み、
前記末端-(A)-O-Si基は、前記元素(A)上にケイ素化合物のモノマーが結合した構造であることを特徴とする、エタノールを含む原料から1,3-ブタジエンを製造する1,3-ブタジエン製造触媒。
[3]加水分解性基を有するケイ素化合物中のケイ素と元素(A)のモル比(加水分解性基を有するケイ素化合物中のケイ素[mol]/元素(A)[mol])が0.1から100であることを特徴とする、[1]または[2]の1,3-ブタジエン製造触媒。
[4]二酸化ケイ素上の元素(A)の密度が1~50個/nm2の範囲であることを特徴とする、[1]~[3]の1,3-ブタジエン製造触媒。
[5]元素(A)がジルコニウム、ハフニウムおよびタンタルから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、[1]~[4]の1,3-ブタジエン製造触媒。
[6]29Si-NMRのケミカルシフト値:-111ppm付近の極大値のシグナル強度を1とした場合に、ケミカルシフト値:-105ppmでのシグナル強度が0.55以上であることを特徴とする、[1]~[5]の1,3-ブタジエン製造触媒。
[7][1]~[6]の1,3-ブタジエン製造触媒を用いて、エタノール単独またはエタノールとともにアセトアルデヒドを含む原料を、反応温度が300℃以上450℃以下、エタノールおよびアセトアルデヒドの分圧が0.1~1.0MPaA、重量空間速度が0.1~30g/g-cat・hの範囲で、前記触媒と接触させることを特徴とする1,3-ブタジエンの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の1,3-ブタジエン製造触媒ならびにこの触媒を使用した製造方法によれば、エタノールを含む原料ガスから1,3-ブタジエンをより効率的に製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例および比較例で調製した1,3-ブタジエン製造触媒の
29Si-MAS-NMRスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
[1,3-ブタジエン製造触媒]
本発明で使用される触媒は、周期表第4族および5族の元素(A)と担体成分である二酸化ケイ素を含む。触媒表面には、ケイ素や元素(A)の水酸化物ないし酸化物などに由来する水酸基(-OH)およびオキソ基(=O)が存在するが、本発明では表面水酸基およびオキソ基の少なくとも一部が加水分解性基を有するケイ素化合物と反応することによって、-O-Si基で置換されている。なおすべての水酸基およびオキソ基が置換されていてもよく、また一部が置換されていてもよい。
【0013】
元素(A)としては、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタルなどが挙げられ、1,3-ブタジエン選択率向上の点で、元素(A)がジルコニウム、ハフニウム、タンタルから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0014】
これらの元素(A)は、担体である二酸化ケイ素に、金属、酸化物、水酸化物、塩などの状態で固定される。二酸化ケイ素としては、アモルファスシリカ、シリカゾル、シリカゲル、コロイダルシリカなどが挙げられる。また、MCM-41、FSM-16、SBA-15などのメソポーラスシリカや、ゼオライトも使用可能である。
【0015】
元素(A)を二酸化ケイ素に固定化する方法としては、元素(A)を含む塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、燐酸塩、アルコキシドを水や有機溶媒に溶解させ、二酸化ケイ素の粉末や成形体からなる担体に含浸させたのち、加熱、乾燥・焼成することで調製できる。含浸方法としては、公知の手法が採用でき、元素(A)含む(水)溶液を噴霧法、コーティング法、またはポアフィリング法また選択吸着法などが挙げられる。また担体の二酸化ケイ素粉末の分散液に元素(A)を含む塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、燐酸塩、アルコキシドなどを溶解させてもよい。さらに、元素(A)を含む塩化物塩やアルコキシドを気化させて二酸化ケイ素担体の表面に吸着させたのちに、乾燥・焼成することによっても調製できる。
【0016】
また、元素(A)および二酸化ケイ素の前駆体を混合したのちに加熱や濃縮、水熱合成などの処理を施し、乾燥・焼成することで調製することもできる。元素(A)の前駆体としてはアルコキシドや塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、燐酸塩、金属酸化物ゾルなどが挙げられる。また、二酸化ケイ素担体の前駆体としては、アルコキシド、ポリシロキサン、ポリシラザンなどの有機珪素化合物、珪酸塩などの有機珪酸塩など他に、シリカゾルなども使
用できる。
【0017】
元素(A)を二酸化ケイ素に固定化した触媒は、加水分解性基を有するケイ素化合物によって処理される。加水分解性基を有するケイ素化合物とは、珪素原子に1~4個の加水分解性基が結合したものである。加水分解性基としては,例えば,水素,ハロゲン原子,アルコキシ基,アシルオキシ基,ケトキシメート基,アミノ基,アミド基,酸アミド基,アミノオキシ基,メルカプト基,アルケニルオキシ基などが挙げられる。 加水分解性基を有するケイ素化合物はたとえば下記式(1)で表される。
SiYnR(4-n) ・・・(1)
【0018】
式中、Yは、それぞれ独立に加水分解性基であり、Rは炭素数が1~20の置換又は非置換の炭化水素基である。nは、1~4の整数である。炭素数が1~20の置換又は非置換の炭化水素基は、特に限定されず、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などの炭素数が1~20のアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数7~20のアラルキル基などが挙げられる。なお2個以上のYまたはRが結合する場合、これらは互いに同一であっても相違してもよい。さらに加水分解性基を有するケイ素化合物は、少なくとも一部が重縮合した部分重縮合物であってもよい。
【0019】
処理は、水、有機溶媒などにこれらの加水分解性基を有するケイ素化合物を溶かし、元素(A)を二酸化ケイ素に固定化した物質を加えて処理を行っても良いし、加水分解性基を有するケイ素化合物を気化させて、元素(A)を二酸化ケイ素に固定化した物質の表面に吸着させて処理を行っても良い。これらの処理によって、元素(A)を二酸化ケイ素に固定化した物質の表面水酸基や、元素(A)が周期表第5族金属である場合には元素(A)上のオキソ基は、ケイ素化合物の加水分解性基と縮合反応し、元素(A)上やその周辺に-O-Si結合を生成すると考えられる。
【0020】
ゼオライト中の金属の配位状態がLewis酸性や反応性に影響を与えることが、近年明らかになってきている。Snを導入したゼオライト(SnBEA)では、2種類の活性サイト(-Si-O-)3Sn-OHとSn(-Si-O-)4が存在することが明らかとなっており、このうちの(-Si-O-)3Sn-OHのほうが強いLewis酸を有しており、過酸化水素によるアダマンタン酸化反応に寄与していると報告されている(Journal of Catalysis, vol.234, pp.111(2005))。また、Zrを導入したゼオライト(ZrBEA)でも同様に、2種類の活性サイトのうち(-Si-O-)3Zr-OHのほうが強いLewis酸を有しており、エタノールからの1,3-ブタジエン合成反応速度と(-Si-O-)3Zr-OH の数に相関が見られることが報告されている(ACS Catalysis, vol.5, pp.4833(2015), Journal of Physical Chemistry, vol.119, pp.17633(2015))。
【0021】
当該特許で記述する触媒は、ゼオライト構造を有していないが、二酸化ケイ素中に活性金属が存在しているという状態は先の報告と同様であり、活性金属周辺の配位状態(-OH基、-OSi基のどちらを有するか)が、触媒のLewis酸性や反応性に大きく寄与していると予想される。そのため、元素(A)上、または近辺に-O-Si結合を生成することによって触媒の活性・選択性が変化していると考えられる。
【0022】
本発明では、触媒の29Si-NMRのケミカルシフト値:-111ppm付近の極大値のシグナル強度を1とした場合の、ケミカルシフト値:-105ppmでのシグナル強度が0.55以上であることが好ましい。このようなケミカルシフト値のシグナル強度を有する触媒は、触媒活性が高い。
【0023】
加水分解性基を有するケイ素化合物中のケイ素と元素(A)のモル比(加水分解性基を有するケイ素化合物中のケイ素[mol]/元素(A)[mol])は、特に限定されないが、0.1から100の範囲が好ましい。加水分解性基を有するケイ素化合物中のケイ素と元素(A)のモル比が低すぎるとケイ素化合物処理による効果が十分得られない。加水分解性基を有するケイ素化合物中のケイ素と元素(A)のモル比が高すぎると、ケイ素が元素(A)を完全に覆ってしまい、触媒活性が低下することがあると考えられる。
【0024】
二酸化ケイ素上の元素(A)の密度は、特に限定されないが、1~50個/nm2の範囲が好ましい。元素(A)の密度が低すぎると触媒単位体積あたりの1,3-ブタジエン生成速度が遅くなる。元素(A)の密度が高すぎると、副反応が進行することにより1,3-ブタジエン選択率が低下する。
【0025】
触媒は、元素(A)および二酸化ケイ素のほかに、亜鉛、銀、銅、金などの金属や、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ランタノイド等を含んでいても構わない。
触媒の形状としては特に制限されるものではなく、粒状、円柱状、円筒状、ハニカム状など公知の形状であっても使用できる。
【0026】
[1,3-ブタジエンの製造方法]
本発明の1,3-ブタジエンの製造方法は、加熱下で、少なくともエタノールを含む原料を前記触媒に接触させることを特徴とする。エタノールとしては、特に限定されることが無く、例えば、サトウキビやトウモロコシなどのバイオマス由来のエタノールや、石油、石炭若しくは天然ガス由来のエタノールなどを挙げることができる。なお、バイオマス由来のエタノールを使用すれば、温室効果ガス削減に貢献することができる。
【0027】
本発明の原料は、エタノール単独でもよいが、エタノールと共にアセトアルデヒドを含有していてもよい。
アセトアルデヒドを含有する場合、エタノールとアセトアルデヒドのモル比(EtOH:AcH)は、95:5~40:60、好ましくは90:10~50:50、さらに好ましくは85:15~50:50の範囲にある。
【0028】
アセトアルデヒドはエタノールの脱水素反応により製造したものを使用することができる。エタノールの脱水素反応では、例えば、特開2005-342675号公報、特開2011-000532号公報公報などに開示された公知の銅触媒や銀触媒が使用される。具体的には、Cu系や、Ni、Pd、Pt等の元素周期表8族の金属等を好適に用いることができ、中でもCuを含有するものが更に好ましい。例えばCu単独あるいはこれにCr、Co、Ni、Fe、Mn等の遷移金属元素を加えた2成分の金属を含むものが挙げられ、CuとNiを含有するものが好ましく用いられる。更に3成分以上の金属を含むものも好ましく用いられる。またこれらをさらに二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、ゼオライト等に担持させたもの等も用いられる。
【0029】
反応条件としては特に制限されるものではなく、通常200~300℃程度の範囲で、所定のアセトアルデヒド生成量となるような条件で反応を行う。
かかる製造方法は、回分式、半回分式、連続式等の周知の方式を採用できる。連続式を採用すると、大量合成が可能であり、運転作業負荷が軽い上に、未反応原料を反応系に再利用することにより原料のエタノールの使用率を極めて高いレベルに向上させることができる。そのため、簡便且つ効率的に1,3-ブタジエンを分離、回収することができる連続式を採用することが好ましい。
【0030】
原料を上記触媒に接触させる方法としては、例えば、懸濁床方式、流動床方式、固定床方式等を挙げることができる。また、本発明は、気相法、液相法のいずれであってもよい
が、気相法を用いることが好ましい。
【0031】
気相で反応を行う場合、原料ガス(例えば、エタノールガス、好ましくはエタノールガスとアセトアルデヒドガスの混合物)は、希釈することなく反応器に供給してもよく、窒素、ヘリウム、アルゴン、水蒸気、などの不活性ガスにより適宜希釈して反応器に供給してもよい。
【0032】
反応時に、エタノールを含む原料にアセトアルデヒドを添加してもよく、エタノールとアセトアルデヒド(添加後の総量)のモル比(EtOH:AcH)が前記の比率となるようにすればよい。
【0033】
反応温度としては、例えば300℃以上450以下℃程度、好ましくは320~380℃の範囲にある。温度が高すぎると、1,3-ブタジエン選択率が低下する。一方、温度が低すぎるとブタジエン生成速度が十分でない。
【0034】
反応圧力は、常圧から高圧までの広い範囲で適宜設定できるが、製造効率や装置構成などの観点から、エタノールおよびアセトアルデヒドの分圧が0.1~1.0MPaAに設定することが好ましい。
【0035】
原料と触媒との接触時間は、原料の供給速度を調整することによりコントロールすることができ、単位触媒あたりの重量空間速度(WHSV)は0.1~30g-(EtOH+AcH)・g-cat
-1・h-1、好ましくは0.5~20g-(EtOH+AcH)・g-cat
-1・h-1の範囲が好ましい。WHSVが低すぎると反応器サイズが大きくなり設備費の点から好ましくない。一方、WHSVが高すぎるとブタジエン収率が低下する。
【0036】
反応終了後、反応生成物は、例えば、蒸留、抽出等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により、軽質ガス、C4留分、重質分、水、エタノール、アセトアルデヒド等に分離精製することができる。
本発明では、上述した触媒を用いて1,3-ブタジエンをより効率的に製造することができるため、産業上の利用可能性は高い。
【0037】
[実施例]
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
<触媒調製>
調製例1
タンタルエトキシド(99.98%、Sigma-Aldrich製)0.3gをエタノール(和光純薬工業(株)製)100mlに溶解させ、NIPGEL CX-200(東ソー・シリカ(株)製、比表面積392m2/g)10.0gを加えて2時間撹拌したのち、エバポレーターを用いてエタノールを蒸発させた。120℃乾燥後、空気流通下500℃で焼成し、Ta2O5/SiO2 (Ta2O5担持量:1.6重量%)触媒を得た。この触媒をTa2O5(1.6)/SiO2と表記する。この触媒の比表面積は335m2/gであり、担体SiO2上のTa原子密度は14.9個/nm2であった。
【0038】
調製例2
タンタルエトキシド0.06gをエタノール100mlに溶解させ、NIPGEL CX-200 10.0gを加えて2時間撹拌したのち、エバポレーターを用いてエタノールを蒸発させた。120℃乾燥後、空気流通下500℃で焼成し、Ta2O5/SiO2 (Ta2O5担持量:0.16重量%)触媒を得た。この触媒をTa2O5(0.16)/SiO2と表記する。この触媒の比表面積は357m2/gであり、担体SiO2上のTa原子密度は2.8個/nm2であった。
【0039】
調製例3
オキシ硝酸ジルコニウム二水和物0.22gを蒸留水50.0mlに溶解させ、NIPGEL CX-200 10.0gを加えて30分撹拌したのち、エバポレーターを用いて水を蒸発させた。120℃乾燥後、空気流通下500℃で焼成し、ZrO2/SiO2 (ZrO2担持量:1.0重量%)触媒を得た。この触媒をZrO2(1.0)/SiO2と表記する。この触媒の比表面積は341m2/gであり、担体SiO2上のZr原子密度は14.7個/nm2であった。
【0040】
調製例4
塩化ハフニウム0.27gを蒸留水50.0mlに溶解させ、NIPGEL CX-200 10.0gを加えて30分撹拌したのち、エバポレーターを用いて水を蒸発させた。120℃乾燥後、空気流通下500℃で焼成し、HfO2/SiO2 (HfO2担持量1.7重量%)触媒を得た。この触媒をHfO2(1.7)/SiO2と表記する。この触媒の比表面積は350m2/gであり、担体SiO2上のZr原子密度は14.3個/nm2であった。
【0041】
調製例5
調製例1で得られたTa2O5(1.6)/SiO2 3.0gにNH3水(pH=10.0) 15mlを加えて、そこに3-アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)製) 0.070gを滴下し、撹拌しながら60℃まで昇温して4時間保持した。その後、遠心分離で触媒を回収し、120℃乾燥後、空気流通下500℃で焼成した。このように得られた触媒をSi-Ta2O5(1.6)/SiO2と表記する。この触媒の比表面積は289m2/gであった。
【0042】
調製例6
ケイ酸エチル(和光純薬工業(株)製)12.5g、エタノール12.5ml、蒸留水1.1g、硝酸0.55g(和光純薬工業(株)製)を混合し、撹拌しながら76℃で3時間還流した。一方で、タンタルエトキシド0.3gをエタノール100mlに溶解させ、NIPGEL CX-200 10.0gを加えて室温で2時間撹拌した。これら2つの溶液を混合し、76℃で5時間還流した。その後、遠心分離で触媒を回収し、120℃乾燥後、空気流通下500℃で焼成した。このように得られた触媒をSi(TEOS)-Ta2O5(1.6)/SiO2と表記する。この触媒の比表面積は361m2/gであった。
【0043】
調製例7
調製例2で得られたTa2O5(0.16)/SiO2 3.0gにNH3水(pH=10.0)15mlを加えて、そこに3-アミノプロピルトリエトキシシラン0.026gを滴下し、撹拌しながら60℃まで昇温して4時間保持した。その後、遠心分離で触媒を回収し、120℃乾燥後、空気流通下500℃で焼成した。このように得られた触媒をSi-Ta2O5(0.16)/SiO2と表記する。この触媒の比表面積は314m2/gであった。
【0044】
調製例8
調製例3で得られたZrO2(1.0)/SiO2 3.0gにNH3水(pH=10.0) 15mlを加えて、そこに3-アミノプロピルトリエトキシシラン0.083gを滴下し、撹拌しながら60℃まで昇温して4時間保持した。その後、遠心分離で触媒を回収し、120℃乾燥後、空気流通下500℃で焼成した。このように得られた触媒をSi-ZrO2(1.0)/SiO2と表記する。この触媒の比表面積は305m2/gであった。
【0045】
調製例9
調製例4で得られたHfO2(1.7)/SiO2 3.0gにNH3水(pH=10.0)15mlを加えて、そこに3-アミノプロピルトリエトキシシラン0.083gを滴下し、撹拌しながら60℃まで昇温して4時間保持した。その後、遠心分離で触媒を回収し、120℃乾燥後、空気流通下500℃で焼成した。このように得られた触媒をSi-HfO2(1.7)/SiO2と表記する。この触媒の比表面積は307m2/gであった。
【0046】
比較例1~4、実施例1~5
<反応試験>
表1に記載の触媒 0.63g を固定床流通型反応器に充填し、以下の反応条件で実験を行った。
【0047】
反応器に窒素(6.8Nml/min)を流しながら350℃まで昇温し0.26MPaGまで昇圧した後、原料ガスとしてエタノール(11.0Nml/min)とアセトアルデヒド(4.4Nml/min)および窒素(6.8Nml/min)を混合して反応器に供給した(WHSV=3.0g-(EtOH+AcH)・g-cat
-1・h-1)。反応器出口ガス組成をガスクロマトグラフにより求めた。
転化率、選択率は以下の式により求めた。
【0048】
【0049】
【0050】
比較例1のTa2O5(1.6)/SiO2では1,3-ブタジエン選択率66.2C-mol%、1,3-ブタジエン収率32.3C-mol%であるのに対し、実施例1のSi-Ta2O5(1.6)/SiO2では1,3-ブタジエン選択率79.9C-mol%、1,3-ブタジエン収率39.5C-mol%、実施例2のSi(TEOS)-Ta2O5(1.6)/SiO2では1,3-ブタジエン選択率73.4C-mol%、1,3-ブタジエン収率36.8C-mol%と、ケイ素を含む物質により処理されることによって1,3-ブタジエン選択率、1,3-ブタジエン収率が向上した。処理によって転化率はほとんど変わらなかった。
【0051】
Ta担持量の異なるTa2O5(0.16)/SiO2でも、比較例2と比べてケイ素を含む化合物による処理を行った実施例3では、1,3-ブタジエン収率は16.2C-mol%から16.7C-mol%とやや向上し、1,3-ブタジエン選択率が66.3C-mol%から71.7C-mol%に向上した(それぞれ比較例2、実施例3)。
【0052】
同様に、ZrO2(1.0)/SiO2でも、比較例3に比べてケイ素を含む化合物による処理によって実施例4では、1,3-ブタジエン収率は32.3C-mol%から37.4C-mol%に、1,3-ブタジエン選択率は67.5C-mol%から77.3C-mol%に向上した(それぞれ比較例3、実施例4)。
【0053】
HfO2(1.7)/SiO2でも比較例4と実施例5とを対比すると、1,3-ブタジエン収率が37.0C-mol%から39.1C-mol%に、1,3-ブタジエン選択率が64.1C-mol%から68.0C-mol%に向上した(比較例3、実施例5)。
【0054】
<29Si-MAS-NMR測定>
29Si-MAS-NMR測定は以下の条件で実施した。
装置:Agilent社製VNMRS-600
パルスプログラム:シングルパルス
サンプル回転数:6 kHz
繰り返し時間:100 sec
パルス幅:90°
積算回数:512回
二次標準としてポリジメチルシロキサン(PDMS)を用いて-34.44ppmに調整
【0055】
比較例5
調製例1で得られたTa2O5(1.6)/SiO2の29Si-MAS-NMRを測定した。Q2(-91ppm付近)、Q3(-101ppm付近)、Q4(-111ppm付近)に帰属されるシグナルが検出された。ケミカルシフト値-111ppm付近の極大値のシグナル強度を1とした場合の、ケミカルシフト値-105ppmでのシグナル強度は0.48であった。
【0056】
実施例6
調製例6で得られたSi-Ta2O5(1.6)/SiO2の29Si-MAS-NMRを測定した。Q2(-91ppm付近)、Q3(-101ppm付近)、Q4(-111ppm付近)に帰属されるシグナルが検出された。ケミカルシフト値-111ppm付近の極大値のシグナル強度を1とした場合の、ケミカルシフト値-105ppmでのシグナル強度は0.68であった。
【0057】
実施例7
調製例7で得られたSi(TEOS)-Ta2O5(1.6)/SiO2の29Si-MAS-NMRを測定した。Q2(-91ppm付近)、Q3(-101ppm付近)、Q4(-111ppm付近)に帰属されるシグナルが検出された。ケミカルシフト値-111ppm付近の極大値のシグナル強度を1とした場合の、ケミカルシフト値-105ppmでのシグナル強度は0.58であった。