(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】系統的な探索、成熟化および伸長プロセスにより同定した、タンパク質に対する特異的ペプチドバインダー
(51)【国際特許分類】
C07K 7/06 20060101AFI20230214BHJP
C07K 7/08 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
C07K7/06 ZNA
C07K7/08
(21)【出願番号】P 2020211014
(22)【出願日】2020-12-21
(62)【分割の表示】P 2017554505の分割
【原出願日】2016-04-18
【審査請求日】2020-12-21
(32)【優先日】2015-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ エージー.
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100196243
【氏名又は名称】運 敬太
(72)【発明者】
【氏名】アルバート,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】リアミチェフ,ヴィクター
(72)【発明者】
【氏名】パテル,ジガー
(72)【発明者】
【氏名】サリヴァン,エリック
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-141995(JP,A)
【文献】米国特許第05965698(US,A)
【文献】国際公開第2004/111636(WO,A2)
【文献】PROTEIN AND PEPTIDE LETTERS,2002, Vol.9, No.5, pp.379-385
【文献】PROTEIN ENGINEERING,1993,Vol.6, No.1, pp.109-122
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 7/06
C07K 7/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストレプトアビジンと結合したペプチドバインダー複合体であって、前記ペプチドバインダーが、少なくとも5個であって最大20個のアミノ酸を有し、ストレプトアビジンに対する特異的アフィニティーを備えたものであり、FDEWL(SEQ ID NO:2)、PAWAH(SEQ ID NO:3)
、DYLGEYHGG(SEQ ID NO:6)、NSFDEWLQK(SEQ ID NO:8)、NSFDEWLAN(SEQ ID NO:9)、PAPAWAHGG(SEQ ID NO:10)、RAPAWAHGG(SEQ ID NO:11)、AFPDYLAEYHGG(SEQ ID NO:241)、およびRDPAPAWAHGGG(SEQ ID NO:243)からなる群から選択される配列を含む、前記複合体。
【請求項2】
ストレプトアビジンと結合したペプチドバインダー複合体であって、前記ペプチドバインダーが、ストレプトアビジンに対する特異的アフィニティーを備えたものであり、ペプチドバインダーの配列が、FDEWL(SEQ ID NO:2)、PAWAH(SEQ ID NO:3)、およびDPFGW(SEQ ID NO:4)からなる群から選択される、
前記複合体。
【請求項3】
ペプチドバインダーの配列が、DYLGEYHGG(SEQ ID NO:6)、NSFDEWLQK(SEQ ID NO:8)、NSFDEWLAN(SEQ ID NO:9)、PAPAWAHGG(SEQ ID NO:10)、およびRAPAWAHGG(SEQ ID NO:11)からなる群から選択される、請求項1に記載の複合体。
【請求項4】
ペプチドバインダーの配列が、AFPDYLAEYHGG(SEQ ID NO:241)、およびRDPAPAWAHGGG(SEQ ID NO:243)からなる群から選択される、請求項1に記載の複合体。
【請求項5】
ストレプトアビジンに結合したペプチドバインダーが、10マイクロモル濃度(μM)未満の平衡解離定数(K
D)を有する、請求項4に記載の複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストレプトアビジン(SA)、Taqポリメラーゼ、および幾つかのヒトタンパク質:前立腺特異的抗原(PSA)、トロンビン、腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)、およびウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター(uPA)に対する新規ペプチドバインダーを提供する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質-タンパク質相互作用を理解することは、基礎研究ならびに種々の生物医学的用途および他の実際の用途にとって重要である。この種の例には、ペプチドフラグメントまたはエピトープと抗体との結合、タンパク質と他のタンパク質の短いフラグメントとの相互作用、たとえばMDM2とp53トランス活性化ドメインとの、Bcl-xLとBakペプチドとの相互作用、ならびにアプタマーと呼ばれるペプチドとそれらのターゲットタンパク質との結合が含まれる。タンパク質に対するペプチドバインダーを同定する簡単で信頼性のある方法の開発は、タンパク質-タンパク質相互作用のメカニズムを理解するのを補助し、薬物探索のための新たな機会を開くであろう。
【0003】
最新のインシリコ ペプチド探索はX線結晶構造により導かれ、既存の構造情報に依存している。そのような方法をペプチドバインダーのデノボ探索に適用するには限界がある。今日まで、実験による方法がペプチド探索のための最も効果的なアプローチを提供してきた。タンパク質に対するバインダーを同定するためのアプローチの1つは、コンビナトリアルペプチドライブラリーに依存するディスプレイ技術であり、その場合、ペプチドはそれらをコードするDNAまたはRNA分子に結合している。そのライブラリーを、固定されたターゲットタンパク質に対して選別し、少数の豊富な配列またはいわゆる“勝者(winner)”を同定する。選択操作は数ラウンド実施される。各ラウンドの後、選択されたペプチドの配列をコード核酸配列のPCR増幅により演繹する。このアプローチの種々のバリエーションが開発され、ペプチド探索への適用に成功している;最も一般的に用いられているのはファージディスプレイ、リボソームディスプレイ、およびmRNA-ディスプレイ法である。これらの方法がペプチドバインダーの同定に成功しているのは確かであるにもかかわらず、それらは経費が高く、時間がかかり、かつコンタミネーションを生じやすい。さらに、既存の方法は、上位に選択されたペプチドバインダーが実際に最良かつ最も特異的なバインダーであること、またそれらを改善できるかどうかを保証するものではない。第1に、ディスプレイ法において特異的バインダーと非特異的なものを識別するメカニズムはない。第2に、わずかな“勝者”のみを選択することは、選択プロセスにおいて不利であった可能性のある他の潜在的に強力なバインダーをディスプレイ法により同定する妨げとなる。第3に、ディスプレイ法は各ターゲットタンパク質について選択条件を慎重に最適化する必要がある。現在、特定のターゲットに対する最適バインダーを選択できる系統的アプローチはない。代わりに、労力を要する試行錯誤の最適化手法が用いられている。本発明は、多様なターゲットタンパク質に対する多数の特異的バインダーを迅速かつ信頼性をもって探索するための系統的アプローチを提供することによりこのニーズに対処する。
【0004】
ペプチド-タンパク質相互作用を研究するためにディスプレイ法に代わるものは、ペプチドアレイである。ペプチドアレイは、固相ペプチド合成を用いて合成し、次いで固体支持体に固定したペプチドで作製することができ、あるいはイン-サイチュ合成法で直接作製できる。ペプチドアレイは市販されているが、比較的低い密度および高い製造コストによってそれらの適用は限られている。これらの問題は両方ともマスクレス光指向技術(mas
kless light-directed technology)により対処できる;参照:(Pellois, Zhou et al. (2002) Individually addressable parallel peptide synthesis on microchips)およびU.S. Pat. No. 6,375,903。マイクロアレイは、一般に光を用いてアレイ上の特定の位置にどのオリゴヌクレオチドまたはペプチドを合成するかを指令することにより合成され、これらの位置はフィーチャー(feature)と呼ばれる。MASベースのマイクロアレイ合成技術は、数百万のユニークなオリゴヌクレオチドまたはペプチドのフィーチャーを標準顕微鏡スライド上のきわめて小さい領域で並行合成できる。
【0005】
特異的ペプチドバインダーは、医療診断、薬物探索およびバイオテクノロジーを含む多数の用途をもつ。本発明は、高特異的ペプチドバインダーを迅速に信頼性をもって探索する新たな方法により同定された、生物関連ターゲットタンパク質に対する一連のバインダーを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】U.S. Pat. No. 6,375,903
【非特許文献】
【0007】
【文献】Pellois, Zhou et al. (2002) Individually addressable parallel peptide synthesis on microchips
【発明の概要】
【0008】
本開示は、マイクロアレイ上に固定した包括的ペプチド集団内の小分子ペプチドへのターゲットタンパク質の重複した結合を同定し、次いで単離されたコアヒットペプチドの1ラウンド以上の成熟化、続いて成熟ペプチドの1ラウンド以上のN末端およびC末端伸長を実施することを含む方法により同定した、生物関連タンパク質に対する一連のペプチドバインダーを提供する。
【0009】
本発明は、ストレプトアビジン(SA)、Taqポリメラーゼ、および幾つかのヒトタンパク質:前立腺特異的抗原(PSA)、トロンビン、腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)、およびウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター(uPA)に対する新規ペプチドバインダーを提供する。
【0010】
一態様において、本発明は下記の工程を含む方法により同定された、ストレプトアビジン(SA)、Taqポリメラーゼ、ヒト前立腺特異的抗原(PSA)、ヒトトロンビン、ヒト腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)、およびヒトウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター(uPA)から選択されるタンパク質に対するペプチドバインダーである:第1集団のペプチドバインダーを含むアレイにタンパク質を曝露し、それによってタンパク質はその集団を構成する少なくとも1つのペプチドバインダーに結合する;タンパク質を結合する集団を構成するペプチドバインダー配列における重複を同定し、それによってコアバインダー配列を決定する;コアバインダー配列を構成するアミノ酸の単一アミノ酸置換、二重アミノ酸置換、アミノ酸欠失、およびアミノ酸挿入から選択される少なくとも1つの改変を実施し、それによって第2集団のコアバインダー配列を作製する;第2集団をタンパク質に曝露し、それによってタンパク質は第2集団の少なくとも1つのペプチド配列に結合する;タンパク質に対して強い結合特性を示す第2集団の1以上の配列を同定し、それによって成熟コアバインダー配列を決定する;工程eで決定した成熟コアバインダー配列の少なくとも1つのN末端およびC末端伸長を実施し、それによって、伸長した成熟ペプチドバインダーの集団を作製する;成熟ペプチドバインダーの集団を含むアレイにタンパク質を曝露する;そして成熟ペプチドバインダーの集団を構成するペプチドのN末端またはC末端ペプチドバインダー配列における重複を同定し、それによって、伸長し
た成熟コアペプチドバインダー配列を、表1および2中の配列から選択される配列を含むストレプトアビジンバインダー;または表3中の配列から選択される配列を含むTaqポリメラーゼバインダー;または表4中の配列から選択される配列を含む、前立腺特異的抗原(PSA)に対するバインダー;または表5中の配列から選択される配列を含むトロンビンバインダー;または表6中の配列から選択される配列を含む、腫瘍壊死因子に対するバインダー;または表7中の配列から選択される配列を含む、ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター(uPA)に対するバインダーとして決定する。
【0011】
ある態様において、本発明は、表1から選択される配列(LGEYH(SEQ ID NO:1)、FDEWL(SEQ ID NO:2)、PAWAH(SEQ ID NO:3)、DPFGW(SEQ ID NO:4)、およびRPGWK(SEQ ID NO:5))を含むか、あるいは表2から選択される配列(DYLGEYHGG(SEQ ID NO:6)、NSFDEWLNQ(SEQ ID NO:7)、NSFDEWLQK(SEQ ID NO:8)、NSFDEWLAN(SEQ ID NO:9)、PAPAWAHGG(SEQ ID NO:10)、RAPAWAHGG(SEQ ID NO:11)、SGDPFGWST(SEQ ID NO:12)、RPGWKLW(SEQ ID NO:13))からなる、ストレプトアビジンに対する人工ペプチドバインダーである。
【0012】
ある態様において、本発明は、表3から選択される配列(HEFSF(SEQ ID NO:14)、HYFEF(SEQ ID NO:19)、WKAEK(SEQ ID NO:26)、WDWDW(SEQ ID NO:29)、WKEDW(SEQ ID NO:32)、WTKVK(SEQ ID NO:35))、あるいは表3から選択される配列(FQQHEFSFAQQ(SEQ ID NO:17)、GQHEFSFGPAI(SEQ ID NO:18)、AQGHYFEFEKQ(SEQ ID NO:23)、QGEHYFTFQQP(SEQ ID NO:24)、GEHYFTFEPAG(SEQ ID NO:25)、FGWKTEKFNS(SEQ ID NO:28)、RSWDWDWKKT(SEQ ID NO:31)、FGKWKEDNKW(SEQ ID NO:34)、YEWTKYKNY(SEQ ID NO:38)、YSWNKYKDY(SEQ ID NO:39))からなる、請求項1に記載のTaqポリメラーゼに対する人工ペプチドバインダーである。
【0013】
ある態様において、本発明は、表4から選択される配列(FEVYL(SEQ ID NO:40)、WTVYA(SEQ ID NO:45)、WEVHL(SEQ ID NO:51)、RSILY(SEQ ID NO:54))を含むか、あるいは表4から選択される配列(GQFEVYIPGA(SEQ ID NO:43)、TDFEVYFPKT(SEQ ID NO:44)、ASEWTVYAGN(SEQ ID NO:48)、AGDWTVYAGLG(SEQ ID NO:49)、ALDWQVYAGFG(SEQ ID NO:50)、GTGWEVHLGK(SEQ ID NO:53)、QSCRSILYGD(SEQ ID NO:56))からなる、請求項1に記載の前立腺特異的抗原(PSA)に対する人工ペプチドバインダーである。
【0014】
ある態様において、本発明は、表5から選択される配列(PINLG(SEQ ID NO:57)、VPIRL(SEQ ID NO:60)、WPINL(SEQ ID NO:62)、APVRL(SEQ ID NO:65)、RQIFL(SEQ ID NO:67)、PIRLK(SEQ ID NO:69)、PVGSR(SEQ ID NO:72)、RDPGR(SEQ ID NO:75))を含むか、あるいは表5から選択される配列(WAPINLGQR(SEQ ID NO:58)、PAPINLGNR(SEQ ID NO:59)、YAVPIRLGA(SEQ ID NO:61)、RYWPINLGK(SEQ ID NO:63)、YRWPINLGK(SEQ ID
NO:64)、KYAPVRLGS(SEQ ID NO:66)、DGRQIFLQK(SEQ ID NO:68)、NWPIRLKPA(SEQ ID NO:70)、YAPIRLKPQ(SEQ ID NO:71)、GWPVGSRQY(SEQ ID
NO:73)、YGPVGSRGF(SEQ ID NO:74)、ENRDPGRSF(SEQ ID NO:76))からなる、請求項1に記載のトロンビンに対する人工ペプチドバインダーである。
【0015】
ある態様において、本発明は、表6から選択される配列(AIAIF(SEQ ID NO:77)、TAVFV(SEQ ID NO:83)、ALYLF(SEQ ID NO:88)、VTVYV(SEQ ID NO:91))を含むか、あるいは表6から選択される配列(GPAVAIFGG(SEQ ID NO:80)、EAAVAIFGG(SEQ ID NO:81)、QAAVAIFGD(SEQ ID NO:82)、GGTAVFVVNT(SEQ ID NO:86)、DSTAVFVNT(SEQ ID NO:87)、QGALYLFGD(SEQ ID NO:90)、TSVTVWVNN(SEQ ID NO:94)、QSVSVYVNT(SEQ ID NO:95))からなる、請求項1に記載の腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)に対する人工ペプチドバインダーである。
【0016】
ある態様において、本発明は、表7から選択される配列(NAYFS(SEQ ID NO:96)、NDKFS(SEQ ID NO:100)、YNDKF(SEQ ID
NO:101)、HETAR(SEQ ID NO:105)、RSEKF(SEQ ID NO:108))を含むか、あるいは表7から選択される配列(YENAYFSGSG(SEQ ID NO:98)、QENAYFSGNG(SEQ ID NO:99)、WGVQNDKFSGS(SEQ ID NO:103)、VVWNDKFSGN(SEQ ID NO:104)、CAHETARNW(SEQ ID NO:107)、EGYGRSEKFT(SEQ ID NO:111)、WGTGRSEKFT(SEQ ID NO:112))からなる、請求項1に記載のウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター(uPA)に対する人工ペプチドバインダーである。
【0017】
ある態様において、本発明は、ペプチドRDPAPAWAHGGG(SEQ ID NO:243)に対して少なくとも80%の配列同一性を有するペプチドを含む組成物である。そのペプチドとストレプトアビジンの分子との複合体は10マイクロモル濃度(μM)未満の平衡解離定数(KD)を有する。
【0018】
ある態様において、本発明は、ペプチドAFPDYLAEYHGG(SEQ ID NO:241)に対して少なくとも80%の配列同一性を有するペプチドを含む組成物である。そのペプチドとストレプトアビジンの分子との複合体は100マイクロモル濃度(μM)未満の平衡解離定数(KD)を有する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本開示に従ってその上にペプチドプローブを含むアレイを描いた模式図である。
【
図2】
図2は、本開示の方法の態様を模式的に描いたものである。
【
図3】
図3は、本開示に従ってその上にペプチドプローブを含むアレイの他の態様を描いた模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
I.ペプチド
本開示の種々の態様によれば、新規ペプチド(“ペプチドバインダー”)が開示される
。各ペプチドはライフサイエンスおよびヘルスケアの分野に用途をもつ。本明細書に記載する例には線状のペプチドを示す。しかし、たとえばU.S. Application Ser. No. 14/577,334, 2014年12月19日出願に開示されるようにN末端とC末端を反応させることによりペプチドを環状に変換できることを当業者は直ちに認識するであろう。したがって、本発明の態様は環状バインダーペプチドと線状バインダーペプチドの両方を含む。
【0021】
本明細書中で用いる用語“ペプチド”、“オリゴペプチド”または“ペプチドバインダー”は、アミノ酸から構成される有機化合物を表わし、それは直鎖(隣接アミノ酸残基のカルボニル基とアミノ基の間のペプチド結合により互いに連結したもの)、環状(内部部位を使って環化したもの)、または構造規制形態(constrained)(たとえば、“頭-尾(head-to-tail)環化形態のマクロサイクル”)のいずれかにアレンジされている可能性がある。用語“ペプチド”または“オリゴペプチド”は、比較的短いポリペプチド、すなわち50未満のアミノ酸残基から構成される有機化合物をも表わす。本明細書中で用いるマクロサイクル(または構造規制ペプチド)はそれの慣用される意味で、環状小分子、たとえば約500ダルトン~約2,000ダルトンのペプチドを記述するために用いられる。
【0022】
用語“天然アミノ酸”は、一般にタンパク質中にみられ、タンパク質生合成に使われる20種類のアミノ酸のうちの1つ、および翻訳に際してタンパク質に取り込まれる可能性のある他のアミノ酸(ピロリジンおよびセレノシステインを含む)を表わす。20種類の天然アミノ酸には、ヒスチジン、アラニン、バリン、グリシン、ロイシン、イソロイシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、グルタミン、アスパラギン、トレオニン、アルギニン、プロリン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、システイン、メチオニン、およびリジンが含まれる。用語“20種類のアミノ酸すべて”は、上記に挙げた20種類の天然アミノ酸を表わす。
【0023】
用語“非天然アミノ酸”は、標準的遺伝子コードによりコードされるものまたは翻訳に際してタンパク質に取り込まれるものには含まれない有機化合物を表わす。したがって、非天然アミノ酸には下記のアミノ酸またはアミノ酸アナログが含まれるが、それらに限定されない:D-立体異性体(D-isostereomer)のアミノ酸、アミノ酸のベータ-アミノ-アナログ、シトルリン、ホモシトルリン、ホモアルギニン、ヒドロキシプロリン、ホモプロリン、オルニチン、4-アミノ-フェニルアラニン、シクロヘキシルアラニン、α-アミノイソ酪酸、N-メチル-アラニン、N-メチル-グリシン、ノルロイシン、N-メチル-グルタミン酸、tert-ブチルグリシン、α-アミノ酪酸、tert-ブチルアラニン、2-アミノイソ酪酸、α-アミノイソ酪酸、2-アミノインダン-2-カルボン酸、セレノメチオニン、デヒドロアラニン、ランチオニン(lanthionine)、γ-アミノ酪酸、
およびその誘導体であってアミン窒素がモノ-またはジ-アルキル化されたもの。
【0024】
本開示の態様によれば、候補ペプチドバインダーを支持体表面(たとえば、マイクロアレイ)上に固定して提示する。本明細書に開示するバインダーを得るために、最初に選択されたペプチドバインダーに、場合により1ラウンド以上の伸長および成熟化プロセスを施す。
【0025】
II.マイクロアレイ
本明細書に開示するペプチドバインダーは、オリゴペプチドマイクロアレイを用いて作製される。本明細書中で用いる用語“マイクロアレイ”は、固体または半固体支持体の表面におけるフィーチャーの二次元配置を表わす。単一マイクロアレイ、またはある場合には多重マイクロアレイ(たとえば、3、4、5、またはそれ以上のマイクロアレイ)が1つの固体支持体上に存在することができる。一定寸法をもつ固体支持体について、マイクロアレイのサイズは固体支持体上のマイクロアレイの数に依存する。すなわち、固体支持体当たりのマイクロアレイの数が多いほど、より小さいアレイを固体支持体上に当てはめ
なければならない。アレイはいかなる形状にも設計できるが、好ましくはそれらは正方形または長方形として設計される。既製品は固体または半固体支持体(マイクロアレイ用スライド)上のオリゴペプチドマイクロアレイである。
【0026】
用語“ペプチドマイクロアレイ”または“オリゴペプチドマイクロアレイ”または“ペプチドチップ”、または“ペプチドエピトープマイクロアレイ”は、マイクロアレイ、すなわち固体表面、たとえばガラス、炭素複合材料またはプラスチックのアレイ、スライドまたはチップ上にディスプレイされた、ペプチドの集団または集合体を表わす。
【0027】
用語“フィーチャー(feature)”は、マイクロアレイの表面上の規定領域を表わす。フ
ィーチャーは、生体分子、たとえばペプチド、核酸、炭水化物などを含む。1つのフィーチャーが、他のフィーチャーと比較して異なる特性、たとえば異なる配列または配向をもつ生体分子を収容することができる。フィーチャーのサイズは2つの要因により決定される:i)アレイ上のフィーチャーの数:アレイ上のフィーチャーの数が多いほど、それぞれの単一フィーチャーはより小さくなる;ii)1つのフィーチャーの照射に用いる個別アドレス指定可能なアルミニウムミラー素子の数:1つのフィーチャーの照射に用いるミラー素子の数が多いほど、単一フィーチャーそれぞれはより大きくなる。アレイ上のフィーチャーの数は、マイクロミラーデバイスに存在するミラー素子(ピクセル)の数により制限される可能性がある。たとえば、Texas Instruments、Inc.(テキサス州ダラス)からの最新のマイクロミラーデバイスは現在4200万のミラー素子(ピクセル)を収容し、よってそのような代表的なマイクロアレイ内のフィーチャーの数はしたがってこの数により制限される。しかし、他のマイクロミラーデバイスを用いると、より高密度のアレイが可能である。
【0028】
用語“固体または半固体支持体”は、有機分子を結合形成により付着させるかあるいは電気的または静電相互作用により吸収することができる表面領域をもつ、いずれかの固体材料を表わす;たとえば、特定の官能基による共有結合または複合体形成。支持体はガラス上のプラスチック、ガラス上の炭素など、材料の組合わせであってもよい。機能性表面は単純な有機分子であってもよいが、コポリマー、デンドリマー(dendrimer)、分子ブラ
シ(molecular brush)などを含むこともできる。
【0029】
用語“プラスチック”は、合成材料、たとえば有機構築ブロック(モノマー)のホモポリマーまたはヘテロ-コポリマーを表わし、それらは有機分子を共有結合形成により付着させるかあるいは電子または静電相互作用により吸収することができる(たとえば、官能基による結合形成により)ように機能化された表面を備えている。好ましくは、用語“プラスチック”は、オレフィンの重合により誘導されるポリマーであるポリオレフィンを表わす(たとえば、エチレンプロピレンジエンモノマーのポリマー、ポリイソブチレン)。最も好ましくは、プラスチックは規定の光学特性を備えたポリオレフィンである;たとえば、TOPAS(登録商標)(TOPAS Advanced Polymers,Inc.,ケンタッキー州フローレンス)またはZEONOR/EX(登録商標)(ZEON
Chem.,ケンタッキー州ルイビル)。
【0030】
用語“官能基”は、化学分子の一部を形成する元素の多数の組合わせのいずれかであって、それ自体で特徴的な反応を行ない、その分子の残部の反応性に影響を及ぼすものを表わす。代表的な官能基にはヒドロキシル、カルボキシル、アルデヒド、カルボニル、アミノ、アジド、アルキニル、チオール、およびニトリルが含まれるが、これらに限定されない。潜在的に反応性である官能基には、たとえばアミン、カルボン酸、アルコール類、二重結合などが含まれる。好ましい官能基は、アミノ酸の潜在的に反応性である官能基、たとえばアミノ基またはカルボキシル基である。
【0031】
オリゴペプチドマイクロアレイを製造するための種々の方法が当技術分野で知られている。たとえば、予め製造したペプチドをスポットすること、または試薬を膜上にスポットすることによるイン-サイチュ合成が既知方法の例である。より高密度のペプチドアレイを作製するために用いられる他の既知方法は、いわゆるフォトリソグラフィー法であり、その場合、希望する生体高分子の合成設計は、電磁線、たとえば光に曝露された際にそれぞれ次の構成要素(アミノ酸、オリゴヌクレオチド)のための連結部位を放出する適切な光分解性保護基(photolabile protecting group)(PLPG)により制御される(Fodor et al., (1993) Nature 364:555-556; Fodor et al., (1991) Science 251:767-773)。2
つの異なるフォトリソグラフィー法が最新技術分野で知られている。第1は、合成表面の特定領域へ光線を向けて限局されたPLPG脱保護を行なうために用いられるフォトリソグラフィーマスクである。“マスク付き(masked)”方法にはマウント(たとえば、“マスク”)を用いるポリマー合成が含まれ、マウントは基材とかみ合って基材とマウントの間に反応空間を提供する。そのような“マスク付き”アレイ合成の代表的態様は、たとえばU.S. Patent Nos. 5,143,854および5,445,934に記載されており、その開示内容を本明細
書に援用する。しかし、この手法の潜在的欠点には、多数のマスキング工程を必要とし、その結果、比較的低い全収率および高いコストになることが含まれる;たとえば、わずか6アミノ酸の長さのペプチドを合成するのに100を超えるマスクが必要である。第2のフォトリソグラフィー法は、いわゆるマスクレスフォトリソグラフィーであり、その場合、光はデジタル投射技術、たとえばマイクロミラーデバイスによって、限局されたPLPG脱保護を行なう合成表面の特定の領域へ向けられる(Singh-Gasson et al., Nature Biotechn. 17 (1999) 974-978)。よって、そのような“マスクレス”アレイ合成により、時間および経費のかかる露光マスク製造の必要性が除かれる。本明細書に開示するシステムおよび方法の態様は上記の種々のアレイ合成法をいずれも包含または利用できることを理解すべきである。
【0032】
フォトリソグラフィーベースのオリゴペプチドマイクロアレイ合成の基礎を提供するPLPG(光分解性保護基)の使用は当技術分野で周知である。フォトリソグラフィーベースの生体高分子合成のために一般に用いられるPLPGは、たとえばα-メチル-6-ニトロピペロニル-オキシカルボニル(MeNPOC)(Pease et al., Proc. Natl. Acad.
Sci. USA (1994) 91:5022-5026)、2-(2-ニトロフェニル)-プロポキシカルボニル(NPPOC)(Hasan et al. (1997) Tetrahedron 53: 4247-4264)、ニトロベラトリル
オキシカルボニル(NVOC)(Fodor et al. (1991) Science 251:767-773)、および2
-ニトロベンジルオキシカルボニル(NBOC)である。
【0033】
光分解性アミノ保護基としてのNPPOCで保護されたアミノ酸がオリゴペプチドマイクロアレイのフォトリソグラフィー固相ペプチド合成に導入され、その際、ガラススライドが支持体として用いられた(U.S. App. Pub. No. 20050101763)。NPPOC保護されたアミノ酸を用いる方法は、光で照射した際のすべての(1つを除く)保護されたアミノ酸の半減期が特定条件下でおおよそ2~3分であるのに対し、NPPOC保護されたチロシンは同じ条件下でほぼ10分の半減期を示すという欠点をもつ。合成プロセス全体の速度は最も遅いサブプロセスに依存するので、この現象は合成プロセスの時間を3~4倍増大させる。同時に、生長しつつあるオリゴマーに対する光発生したラジカルイオンによる損傷の程度は光要求量の増大および過剰度に伴って増大する。
【0034】
当業者が理解するように、ペプチドマイクロアレイは数千(または本開示の場合は数百万)のペプチド(ある態様においては多重コピーで提示される)を固体支持体(ある態様においては、ガラス、炭素複合材料またはプラスチックのチップまたはスライドを含む)の表面に連結または固定するアッセイ原理を含む。
【0035】
ある態様において、着目するタンパク質に曝露されたペプチドマイクロアレイは1回以
上の洗浄工程を受け、次いで検出プロセスを施される。ある態様において、着目するタンパク質をターゲティングする抗体(たとえば、抗IgGヒト/マウスまたは抗ホスホチロシンまたは抗myc)にアレイを曝露する。通常は、蛍光スキャナーで検出できる蛍光標識により二次抗体をタグ付けする。他の検出法は化学発光、比色法、またはオートラジオグラフィーである。他の態様において、着目するタンパク質をビオチニル化し、次いで発蛍光団にコンジュゲートしたストレプトアビジンにより検出する。さらに他の態様において、着目するタンパク質を特異的タグ、たとえばHisタグ、Flagタグ、mycタグなどでタグ付けし、そのタグに特異的な発蛍光団コンジュゲート抗体で検出する。
【0036】
マイクロアレイスライドをスキャンした後、スキャナーは20ビット、16ビットまたは8ビットの数値イメージをタグ付きイメージファイルフォーマット(tagged image file
format)(*tif)で記録する。tif-イメージにより、スキャンしたマイクロアレイスライド上のそれぞれの蛍光スポットの解釈および定量が可能になる。この定量データは、測定したマイクロアレイスライド上の結合事象またはペプチド修飾について統計解析を実施するための基礎である。検出した信号の評価および解釈のためには、ペプチドスポット(イメージ中に目視できるもの)および対応するペプチド配列の割付けを実施しなければならない。
【0037】
ペプチドマイクロアレイは、ペプチドがその上にスポットされたかまたはイン-サイチュ合成によりその表面で直接アセンブリングされたスライドである。相互作用プロファイリングのために、理想的にはペプチドを選択的化学結合により共有結合させて、同じ配向をもつペプチドにする。別法には非特異的的共有結合および接着固定が含まれる。
【0038】
本開示の特定の一態様によれば、特異的ペプチドバインダーは基材上でのペプチドバインダープローブの作製に際してマスクレスアレイ合成を用いて同定される。そのような態様によれば、用いたマスクレスアレイ合成によって最大290万のユニークペプチドの超高密度ペプチド合成が可能になる。290万/領域のフィーチャーそれぞれが、全長ペプチドを生成できる最大107の反応部位をもつ。より小さいアレイを設計することもできる。たとえば、システインを除いた19種類の天然アミノ酸を用いたすべての可能な5-merペプチドの包括的リストに相当するアレイは2,476,099のペプチドをもつであろう。他の例において、アレイは天然アミノ酸のほかに非天然アミノ酸を含むことができる。システインおよびメチオニンを除いた18種類の天然アミノ酸のすべての組合わせを用いた5-merペプチドのアレイも使用できる。さらに、アレイは他のアミノ酸またはアミノ酸二量体を除外できる。ある態様において、いずれかの二量体、または同じアミノ酸のより長いリピート、ならびにHR、RH、HK、KH、RK、KR、HPおよびPQ配列を含むいずれかのペプチドを除外するように設計して、1,360,732のユニークペプチドのライブラリーを作製することができる。より小さいアレイは、アレイデータから得られる結論の信頼性を高めるために同じアレイ上に各ペプチドの複製を含むことができる。
【0039】
種々の態様において、本明細書に記載するペプチドアレイは、ペプチドアレイの固体支持体に付着した少なくとも1.6×105のペプチド、もしくは最大で約1.0×108のペプチド、またはその間のいずれかの数のペプチドを含むことができる。本明細書に記載する、特定数のペプチドを含むペプチドアレイとは、単一固体支持体上の単一ペプチドアレイを意味することができ、あるいはペプチドを分割して1より多い固体支持体に付着させて、本明細書に記載する数のペプチドを得ることができる。
【0040】
そのような態様に従って合成するアレイは、ペプチドバインダー探索のために線状または環状で(本明細書中に明記するように)、N-メチルその他の翻訳後修飾などの修飾付きおよび修飾なしで設計することができる。アレイは、潜在的バインダーのさらなる伸長
のために、ブロック法を用いて潜在的ヒットのN末端およびC末端について反復スクリーニングを実施することにより設計することもできる(本明細書中にさらに詳述するように)。理想的アフィニティーをもつヒットが見出されると、成熟化アレイ(本明細書中にさらに記載する)の組合わせを用いてそれをさらに成熟化することができ、それにより天然および非天然の両方のアミノ酸のコンビナトリアル挿入、欠失および置換分析が可能になる。
【0041】
本開示のペプチドアレイは、本発明の特異的バインダーを同定するために、またバインダーの成熟化および伸長のために用いられる。
III.ペプチドバインダー探索
新規バインダーの探索は、本開示に従って達成できる(
図2,本方法を一般的に200として表わす)。本開示のある特定の態様によれば、数百、数千、数万、数十万、さらには数百万のペプチドを含むペプチドアレイを設計できる。
図1を参照すると、ある態様において、ペプチドの集団110は着目するタンパク質、遺伝子、染色体の全体、またはさらにはゲノム全体(たとえば、ヒトプロテオーム)を表わすようにそれらのペプチドを構成できる。さらに、ペプチドを特定の基準に従って構成し、それによって特定のアミノ酸またはモチーフを除外することができる。さらに、各ペプチドが同一長さを含むようにペプチドを構成することができる。たとえば、ある態様において、アレイ112上に固定されたペプチド110の集団はすべて、3-、4-、5-、6-、7-、8-、9-、10-、11-またはさらには12-mer、またはそれ以上を含むことができる。ある態様において、ペプチドはそれぞれN末端またはC末端配列(たとえば、106および106’)を含むこともでき、その際、各ペプチドは両方が特定の同一長さ(たとえば、3-、4-、5-、6-、7-またはさらには8-、またはそれ以上のペプチド)であるN末端およびC末端ペプチド配列を含む。
【0042】
ある態様によれば、最大290万のペプチド110の集団を含むペプチドアレイ100を設計し、それはその290万のペプチドがゲノムの可能な限りすべての5-merペプチド108の包括的リストをアレイ112上に固定したものであるように構成される。あるそのような態様において、5-merペプチド108(290万ペプチドのアレイを含む)は、20種類のアミノ酸のうち1以上を除外することができる。たとえば、ペプチドの異常なフォールディングの制御を補助するために、システイン(C)を除外することができる。メチオニン(M)は、プロテオーム内の稀なアミノ酸として除外できる。他の任意選択的除外は、2以上の同一アミノ酸のアミノ酸リピート(帯電および疎水性相互作用などの非特異的相互作用の制御を補助するために);または特定のアミノ酸モチーフ、たとえばストレプトアビジンバインダーの場合はヒスチジン(H)-プロリン(P)-グルタミン(Q)配列からなるもの(それは既知のストレプトアビジン結合モチーフである)である。ある具体的態様(
図1)において、5-merペプチド108は上記に挙げた除外のうち1以上を除外することができる。本発明の一態様には、ヒトゲノム全体を表わす最大290万の5-merペプチド110の集団を含むペプチドアレイであって、5-merペプチド108はアミノ酸CおよびMをいずれも含まず、2以上のアミノ酸のアミノ酸リピートを含まず、かつアミノ酸モチーフHPQを含まないものが含まれる。本発明の他の態様には、ヒトゲノム全体によりコードされるタンパク質含有物を表わす最大290万の5-merペプチドを含むペプチドアレイであって、5-merペプチドはアミノ酸CおよびMをいずれも含まず、2以上のアミノ酸のアミノ酸リピートを含まないものが含まれる。
【0043】
アレイ上の特定位置のペプチドの配列は分かっていることを理解すべきである。
さらなる態様によれば、アレイ100の最大290万のペプチド110の集団を構成する各5-merペプチド108は、N末端またはC末端それぞれにおける5サイクルのゆらぎ合成(参照:たとえば106および106’,
図1)を伴う状態で合成できる。本明
細書中で用いる“ゆらぎ合成(wobble synthesis)”は、着目する5-merペプチド108のN末端またはC末端に位置するペプチドの配列(一定またはランダムのいずれか)の合成(本明細書に開示するいずれかの手段による)を表わす。
図1に示すように、N末端またはC末端のいずれかにおけるゆらぎ合成を構成する特定のアミノ酸を“Z”により表示する。種々の態様によれば、ゆらぎ合成は、N末端またはC末端における任意数のペプチド、たとえば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10またはそれ以上、さらにはたとえば15または20のペプチドを含むことができる。さらに、ゆらぎ合成は同一または異なる数のゆらぎ合成アミノ酸をもつN末端およびC末端を構成することができる。
【0044】
種々の態様によれば、ゆらぎオリゴペプチド構成体106、106’はアミノ酸組成に関して、およびアミノ酸の比率/濃度に関して、フレキシブルである。たとえば、ゆらぎオリゴペプチド構成体は2以上のアミノ酸の混合物を含むことができる。そのようなフレキシブルゆらぎミックスの具体的態様には、3:1の比率のグリシン(G)およびセリン(S)のゆらぎオリゴペプチド構成体106、106’が含まれる。フレキシブルゆらぎ混合物の他の例には、等濃度(たとえば、等比率)のアミノ酸G、S、アデニン(A)、バリン(V)、アスパラギン酸(D)、プロリン(P)、グルタミン酸(E)、ロイシン(L)、トレオニン(T)、および/または等濃度(たとえば、等比率)のアミノ酸L、A、D、リジン(K)、T、グルタミン(Q)、P、F、V、チロシン(Y)が含まれる。他の例には、20種類の既知アミノ酸のいずれかを等濃度で含むゆらぎオリゴペプチド構成体106、106’が含まれる。
【0045】
本明細書に開示するように、種々の態様のゆらぎオリゴペプチド合成により、ランダムおよび指向性合成アミノ酸の組合わせをもつペプチドをアレイ上に作製することが可能になる。たとえば、アレイ上のオリゴペプチドプローブは、下記のフォーマットのペプチド配列をもつ組合わせ15merペプチドを含むことができる:ZZZZZ-5mer-ZZZZZ;ここで、Zは特定のゆらぎオリゴペプチド混合物からのアミノ酸である。
【0046】
ある態様において、フィーチャーは107のペプチドを収容することができる。あるそのような態様において、各フィーチャーについての集団複雑度はゆらぎ混合物の複雑度に応じて異なる可能性がある。本明細書に開示するように、準指向性合成でのゆらぎ合成を用いてそのような複雑度を形成することにより、アレイ当たり最大1012の多様度をもつペプチドを用いてアレイ上のバインダーをスクリーニングすることが可能になる。ストレプトアビジンおよびPSAについてのバインダースクリーニングの例を下記に述べる(ここに述べる方法およびシステムによれば、さらに他のタンパク質ターゲット、たとえばuPAまたはTNFも可能である)。
【0047】
リンカー106(
図1)は長さを変更できかつ任意選択的であることがさらに見出された。ある態様において、5Zリンカーの代わりに3Zまたは1Zリンカーを使用できる。そのような態様において、Zは20種類のアミノ酸すべてのランダム混合物を用いて合成できる。1Zリンカーを用いた場合、またはリンカーを用いない場合、同じターゲットによってさらに他の5-merバインダー配列が得られる可能性のあることを見出した。リンカーの長さの変更または排除により、たとえば元の5Zリンカーを用いて見出せなかったさらに他のペプチドバインダーが同定されることを見出した。
【0048】
実際には、
図1を参照すると、ペプチド110の集団(たとえば、ヒトプロテオーム全体を表わす集団)がそれに固定された反応性表面104(たとえば、反応性アミン層)をもつ固体支持体102を含む、アレイ100が提供される。そのような態様によるペプチド110の集団を構成する代表的な5-merペプチドは、アミノ酸CおよびMをいずれも含まず、2以上のアミノ酸のアミノ酸リピートを含まず、かつアミノ酸モチーフHPQを含まない。そのような具体的態様によれば、ヒトプロテオーム全体を表わすそのような
ペプチド110の集団は、集団110を構成する1,360,732の個々のペプチドを含むであろう。ある態様において、同じアレイ上に重複(duplicate)またはリピート(repeat)を配置してもよい。たとえば、単一重複を含む集団110は2,721,464の個々のペプチドを含むであろう。さらに、ペプチド110の集団はそれぞれN末端およびC末端ゆらぎ合成オリゴペプチド106、106’を含み、それらはたとえばそれぞれ3:1の比率のアミノ酸グリシンおよびセリンからなる5つのアミノ酸からなる。ゆらぎオリゴペプチド106、106’は排除でき、あるいは20種類のアミノ酸すべてのランダム混合物、非天然アミノ酸、たとえば6-アミノ-ヘキサン酸から選択される単一アミノ酸で置き換えることができる。ある態様は、非アミノ酸部分、たとえばポリエチレングリコール(PEG)を含むことができる。
【0049】
ここで一般的に
図2のプロセス200の工程202について述べると、代表的アレイ(たとえば、
図1に示す100)を、着目する濃縮、精製したタンパク質に曝露し(標準マイクロアレイ実施と同様に)、それによってそのタンパク質は集団を構成する他のペプチドと関係なくペプチド集団(たとえば、
図1に示す100)のいずれかに結合する可能性がある。着目するタンパク質に曝露した後、たとえばレポート可能な標識(たとえば、ペルオキシダーゼ)がそれに付着した抗体(そのタンパク質に対して特異的なもの)にアレイを曝露することにより、ペプチドバインダーへの着目するタンパク質の結合をアッセイする。アレイ上のそれぞれの位置の各5-merのペプチド配列は分かっているので、特異的5-merペプチド配列へのそのタンパク質の結合のシーケンス(および結合強度)を図表化、または定量、または比較および対比することが可能である。集団を構成するペプチドへのタンパク質の結合を比較するそのような1方法は、たとえば、Standardizing and Simplifying Analysis of Peptide Library Data, Andrew D White et al, J Chem Inf Model, 2013, 53(2), pp 493-499に記載され、本明細書中で説明する、principled analysis distribution-based clustering(分布ベースのクラスタリングの原則に基づく分析)で結合を調べることである。本明細書に例示するように、タンパク質-5-merの結合(あるいは“ヒット(hit)”)のクラスタリング(principled analysis distribution-based clusteringにおいて示されるもの)は、重複したペプチド配列をもつ5-merの指標となる。より詳細に後記に示すように、重複したペプチド配列(各クラスターの)から、“コアヒット(core hit)”ペプチド配列(たとえば、そのアレイの目立つタンパク質-ペプチド結合事象が共有するペプチド配列)を同定し、あるいはさらなる評価のために少なくとも仮定して構築することができる。(注釈:本明細書に例示するアレイは1より多い“コアヒット”ペプチド配列を同定する可能性があることを理解すべきである。さらに、principled analysis distribution-based clusteringに際しては重複した隣接配列を同定する可能性があるため、“コアヒット”ペプチド配列がたとえばペプチドの集団を構成する5-merペプチドバインダーより多いアミノ酸を含む可能性があることを理解すべきである)。
【0050】
IV.ペプチド成熟化
図2のプロセス200の工程204について以下に述べると、コアヒットペプチド配列が同定されると(本明細書に開示、記載および例示するペプチドバインダー探索202のプロセスにより)、“ペプチド成熟化”204のプロセスを実施し、それによって、適正なコアヒット配列をさらに最適化/保証するためにコアヒットペプチドの各位置においてコアヒットペプチド配列を種々の方法で変化させる(アミノ酸の置換、欠失および挿入による)。たとえば、ある態様(たとえば、コアヒットペプチド配列が、ある数の、たとえば7個のアミノ酸を含む場合)に従って、成熟アレイを製造する。本開示によれば、成熟アレイは、それに固定された状態で、コアヒットペプチド中の各アミノ酸が各位置でアミノ酸置換を受けたコアヒットペプチド集団を含むことができる。
【0051】
ヒット成熟化204のプロセスをさらに記載するために、例/仮定コアヒットペプチド
がアミノ酸配列-M1M2M3M4M5-をもつ5-merペプチドからなるものとして記載する。本開示によれば、ヒット成熟化204は位置1、2、3、4および5におけるアミノ酸の置換、欠失および挿入のいずれか、またはそのいずれかの組合わせ、またはすべてを伴うことができる。たとえば、仮定コアヒットペプチド-M1M2M3M4M5-に関して、本開示の態様は、位置1のアミノ酸Mが他の19のアミノ酸で置換されたもの(たとえば、A1M2M3M4M5-、P1M2M3M4M5-、V1M2M3M4M5-、Q1M2M3M4M5-など)を含むことができる。それぞれの位置(2、3、4および5)も、他の19のアミノ酸で置換されたアミノ酸Mをもつであろう(たとえば位置2について、置換は同様であろう;M1A2M3M4M5-、M1Q2M3M4M5-、M1P2M3M4M5-、M1N2M3M4M5-など)。コアヒットペプチドの置換および/または欠失および/または挿入配列を含むペプチド(アレイ上に固定されたもの)が作製されることを理解すべきである。
【0052】
本開示によるヒット成熟化204のある態様において、二重アミノ酸置換を実施できる。二重アミノ酸置換には、所定の位置のアミノ酸を変化させ(たとえば位置1において、たとえばM→P置換)、次いで位置2のアミノ酸を他の19のアミノ酸で置換する(位置2のアミノ酸)。位置1および2のすべての可能な組合わせが結合するまでこのプロセスを繰り返す。例として、アミノ酸配列-M1M2M3M4M5-の5-merペプチドをもつ仮定コアヒットペプチドに戻ると、位置1および2に関する二重アミノ酸置換は下記のものを含むことができる:たとえば位置1におけるM→P置換、次いで位置2における20種類すべてのアミノ酸の置換(たとえば、-P1A2M3M4M5-、-P1F2M3M4M5-、-P1V2M3M4M5-、-P1E2M3M4M5-など)、位置1におけるM→V置換、次いで位置2における20種類すべてのアミノ酸の置換(たとえば、-V1A2M3M4M5-、-V1F2M3M4M5-、-P1V2M3M4M5-、-V1E2M3M4M5-など)、位置1におけるM→A置換、次いで位置2における20種類すべてのアミノ酸の置換(たとえば、-A1A2M3M4M5-、-A1F2M3M4M5-、-A1V2M3M4M5-、-A1E2M3M4M5-など)。
【0053】
本開示によるヒット成熟化204のある態様において、コアヒットペプチドの各アミノ酸位置におけるアミノ酸欠失を実施できる。アミノ酸欠失には、コアヒットペプチド配列を含むけれどもコアヒットペプチド配列から単一アミノ酸を欠失したペプチドの作製が含まれる(したがって、各ペプチドにおいてアミノ酸が欠失したペプチドが作製される)。例として、アミノ酸配列-M1M2M3M4M5-の5-merペプチドをもつ仮定コアヒットペプチドに戻ると、アミノ酸欠失は下記の配列をもつ一連のペプチドの作製を含むであろう:-M2M3M4M5-;-M1M3M4M5-;-M1M2M4M5-;-M1M2M3M5-;および-M1M2M3M4-。仮定5-merのアミノ酸欠失に伴って5つの新たな4-merが作製されることを留意すべきである。本開示のある態様によれば、作製された新たな4-merについてアミノ酸置換または二重アミノ酸置換のスキャンを実施できる。
【0054】
上記のアミノ酸欠失スキャンと同様に、本明細書に開示するヒット成熟化204のある態様はアミノ酸挿入スキャンを含むことができ、それによって20種類のアミノ酸それぞれをコアヒットペプチドの各位置の前および後に挿入できる。例として、アミノ酸配列-M1M2M3M4M5-の5-merペプチドをもつ仮定コアヒットペプチドに戻ると、アミノ酸挿入スキャンは下記の配列を含むであろう:-XM1M2M3M4M5-;-M1XM2M3M4M5-;-M1M2XM3M4M5-;-M1M2M3XM4M5-;-M1M2M3M4XM5-;および-M1M2M3M4M5X-(これらにおいて、Xは20種類の既知アミノ酸または特定の規定されたサブセットのアミノ酸を表わし、それによって20種類または規定されたサブセットのアミノ酸それぞれについてペプチド複製体(replicate)が作製されるであろう)。
【0055】
前記のアミノ酸置換ペプチド、二重アミノ酸置換ペプチド、アミノ酸欠失スキャンペプチドおよびアミノ酸挿入スキャンペプチドがN末端およびC末端ゆらぎアミノ酸配列のうち一方または両方を含む可能性があることも理解すべきである(
図1の106、106’で記載したと同様)。
図1に記載したN末端およびC末端ゆらぎアミノ酸配列と同様に、N末端およびC末端ゆらぎアミノ酸配列は1つという少数のアミノ酸、および15または20という多数のアミノ酸を含むことができ、かつN末端ゆらぎアミノ酸配列はC末端ゆらぎアミノ酸配列と同じ長さ、それより長いかまたは短い長さであってもよく、あるいは全部を排除してもよい。さらに、N末端およびC末端ゆらぎアミノ酸配列は、いずれか特定グループのアミノ酸をいずれか一定の比率で含むことができる(たとえば、グリシンとセリンを3:1の比率で、または20種類のアミノ酸すべてのランダム混合物である)。
【0056】
図4に記載したヒット成熟化204の特定の態様において、7アミノ酸のコアヒットペプチド(424)は、徹底的な単一および二重アミノ酸スクリーニングを受け、N末端およびC末端ゆらぎアミノ酸配列426および426’の両方を含む。この例において、末端配列は3アミノ酸を含む(すべてグリシン)。他の態様において、成熟化プロセスに際して異なるアミノ酸混合物を用いて異なる末端配列を付加することができる。いずか単一のアミノ酸、または2以上のアミノ酸からなるいずれかの“混合物を使用できる。さらに他の態様において、グリシン(G)とセリン(S)の比率3G:1Sの混合物を使用する。他の態様において、20種類のアミノ酸すべてのランダム混合物からなる“ランダムミックス”を使用する。ある態様において、非天然アミノ酸、たとえば6-アミノ-ヘキサン酸を使用する。ある態様は非アミノ酸部分、たとえばポリエチレングリコール(PEG)を含むことができる。
【0057】
コアヒットペプチドの種々の置換、欠失および挿入バリエーションが製造されると(たとえば、固体支持体に固定された様式、たとえばマイクロアレイで)、精製、濃縮されたターゲットタンパク質の結合強度をアッセイする。後記の実施例に示すように、ヒット成熟化のプロセスによりコアヒットペプチドを改良して、ターゲットタンパク質を最高のアフィニティーでの結合するために最も好ましいアミノ酸配列を示すアミノ酸配列にすることができる。
【0058】
V.ペプチド伸長(N末端およびC-末端)
5-merアレイ実験において同定したモチーフが最適タンパク質バインダーの短いバージョンであるにすぎない可能性がある。本発明者らは、5-merアレイ実験から選択された配列のN末端およびC末端の一方または両方から1以上のアミノ酸を伸長することによって、より長いモチーフを同定する戦略を開発した。選択されたペプチドから出発し、各末端に1以上のアミノ酸を付加することにより、さらなる選択のための伸長ライブラリーを作製できる。たとえば、単一ペプチドから出発し、20種類の天然アミノ酸すべてを用いて、160,000のユニークペプチドの伸長ライブラリーを作製できる。ある態様において、伸長ペプチドそれぞれが複製体で合成される。
【0059】
図2の工程206について述べると、コアヒットペプチドが成熟化(したがって、ターゲットタンパク質の結合についてより最適なコアヒットペプチドアミノ酸配列が同定される)した時点で、N末端および/またはC末端位置が伸長工程を受け、それによってターゲットペプチドに対する特異性およびアフィニティーを増大させるために成熟コアヒットペプチドの長さがさらに伸長される。
【0060】
図3を参照した本開示のN末端伸長の種々の態様によれば、成熟化プロセス(
図2の204)により成熟コアヒットペプチド配列312が同定されると、ペプチドバインダー探索工程からの集団の特異的ペプチドプローブそれぞれ(102,
図1)が成熟コアヒットペプチド312のN末端に付加される(またはその上に合成される)。こうして、各ペプチド配列(108,
図1)の大部分のC末端アミノ酸が成熟コアヒットペプチド312の大部分のN末端アミノ酸に隣接して付加される。
【0061】
同様に、
図3を参照した本開示のN末端伸長の種々の態様によれば、成熟化プロセス(
図2の204)により成熟コアヒットペプチド配列312が同定されると、ペプチドバインダー探索工程からの集団の特異的ペプチドプローブそれぞれ(102,
図1)が成熟コアヒットペプチド312のC末端に付加される(またはその上に合成される)。こうして、各ペプチド配列(108,
図1)の大部分のN末端アミノ酸が成熟コアヒットペプチド312の大部分のC末端アミノ酸に隣接して付加される。
【0062】
本開示のある態様によれば(
図3)、C末端伸長およびN末端伸長に用いた成熟コアヒットペプチドのうち一方または両方が、N末端およびC末端ゆらぎアミノ酸配列(
図1の106,106’)のうち一方または両方を含むこともできる。
図1に記載したN末端およびC末端ゆらぎアミノ酸配列と同様に、N末端およびC末端ゆらぎアミノ酸配列は1つという少数のアミノ酸、および15または20(またはそれ以上)という多数のアミノ酸を含むことができ、かつN末端ゆらぎアミノ酸配列はC末端ゆらぎアミノ酸配列と同じ長さ、それより長いかまたは短い長さであってもよい。さらに、N末端およびC末端ゆらぎアミノ酸配列は種々のアミノ酸混合物を用いて成熟化プロセスに際して付加することができる。いずれか単一のアミノ酸、または2以上のアミノ酸からなるいずれかの“ゆらぎミックス”を使用できる。さらに他の態様において、グリシン(G)およびセリン(S)比率3G:1Sの混合物からなる“フレキシブルゆらぎミックス”を使用する。他の態様において、20種類のアミノ酸すべてのランダム混合物からなる“ランダムゆらぎミックス”を使用する。ある態様におい非天然アミノ酸、たとえば6-アミノ-ヘキサン酸も使用できる。ある態様は、非アミノ酸部分、たとえばポリエチレングリコール(PEG)を含むことができる。
【0063】
図3には、N末端伸長についてのペプチド集団314およびC末端伸長についてのペプチド集団316をもつ、ペプチド伸長アレイ300を示す。ペプチド314、316の各集団は、ペプチドアレイ100からのペプチド110の全集団(ペプチドバインダー探索204の工程で用いたもの)を含むことができる。さらに図示したように、ペプチド314、316の両集団の各ペプチドは、それぞれ異なるペプチドプローブ308をもつ同じ成熟コアペプチド312を含むことができる(
図1,ペプチドバインダー探索工程102からのプローブの集団のもの)。
図3に示すように、集団314、316の各ペプチドはN末端およびC末端ゆらぎアミノ酸配列を含む。
【0064】
ある態様において、伸長アレイ300(集団314および316を含む)を濃縮、精製された着目するタンパク質に曝露し(プロセス200のペプチドバインダー探索工程201のように)、それによってタンパク質は、集団314、316を構成する他のペプチドと関係なく、集団314、316のいずれかのペプチドに結合する可能性がある。着目するタンパク質に曝露した後、たとえば集団314、316の個々のペプチドとタンパク質との複合体をレポート可能な標識(たとえば、ペルオキシダーゼ)がそれに付着した抗体(そのタンパク質に対して特異的なもの)に曝露することにより、集団314、316への着目するタンパク質の結合をアッセイする。他の態様において、着目するタンパク質をレポーター分子で直接標識することができる。アレイ上の各位置についてのペプチドプローブ配列308(各5-merの)は分かっているので、成熟コアヒットペプチド312を各ペプチドプローブ308と共に含む特異的プローブへのタンパク質の結合のシーケンス(および結合強度)を図表化/定量/比較/対比することが可能である。成熟コアヒットペプチド312-ペプチドプローブ308の組合わせ(集団314または316のいずれかを含む)へのタンパク質(着目するもの)結合を比較する代表的方法は、Standardizing and Simplifying Analysis of Peptide Library Data, Andrew D. White et al., J Chem Inf Model, 2013, 53(2), pp 493-499に記載され、本明細書中で説明する、principled analysis distribution-based clustering(分布ベースのクラスタリングの原則に基づく分析)で結合強度を調べるものである。本明細書に例示するように、principled analysis distribution-based clusteringにおいて示される各プローブ(集団314、316の)へのタンパク質の結合のクラスタリングは、重複したペプチド配列をもつペプチドプローブ5-mer308の指標となる。より詳細に後記に示すように、重複したペプチド配列(各クラスターの)から、伸長した成熟コアヒットペプチド配列を同定し、あるいはさらなる評価のために少なくとも仮定して構築することができる。本出願のある態様において、伸長した成熟コアヒットペプチドは成熟化プロセスを受ける(本明細書に記載および例示し、
図2の工程204に示すように)。
【0065】
伸長したペプチドバインダーの追加ラウンドの最適化も可能である。たとえば、第3ラウンドのバインダー最適化は、グリシン(G)アミノ酸を用いた伸長アレイ実験で同定した配列の伸長を含むことができる。他の最適化は、基準配列、すなわち先のいずれかの工程で最適化および選択したペプチドバインダーの、可能なすべての単一および二重置換/欠失バリアントを含む二重置換/欠失ライブラリーの作製を含むことができる。
【0066】
VI.伸長した成熟コアヒットペプチドバインダーの特異性分析
伸長した成熟コアヒットペプチドを同定した後、ペプチドのアフィニティーおよび特異性を測定するいずれか当技術分野で得られる方法により特異性分析を実施することができる。特異性分析の一例には、ターゲットに対する分子相互作用特異性、反応速度(“オン”、結合、および“オフ”、解離の)およびアフィニティー(結合強度)に関して分子を特性分析するために用いられる“BIACORE(商標)”システム分析が含まれる。BIACORE(商標)はGeneral Electric Companyの商標であり、企業ウェブサイトを介して入手できる。
【0067】
図4は、新規なペプチドバインダー同定(たとえば、
図2のプロセス200)の簡単な模式的外観図である。示されるように、ペプチドバインダー探索402は、アレイ401上にペプチドの集団を作製する(たとえば、マスクレスアレイ合成による)ことにより実施される。図示されるように、各ペプチドは5“サイクル”のN末端ゆらぎ合成406’およびC末端ゆらぎ合成406を含む(たとえば、N末端およびC末端ゆらぎ合成は両方とも5つのアミノ酸を含む)。CおよびN末端のゆらぎ合成は前記のようにいずれかの組成(たとえば、アミノ酸GおよびSのみを3:1[G:S]の比率で、または20種類のアミノ酸すべてのランダム混合物)を含むことができるのを理解すべきである。各ペプチドも5-merペプチドバインダー404を含むものとして示され、それは前記のようにヒトプロテオーム全体が表わされるような最大290万の異なるペプチド配列を含むことができる。さらに、特定の“ルール”(たとえば、Cアミノ酸を含まない、もしくはMアミノ酸を含まない、連続した同一アミノ酸のリピートを含まない、またはターゲットタンパク質を結合することが既知であるモチーフ、たとえばストレプトアビジンに対するHPQアミノ酸モチーフを含まない)に従って異なるペプチドバインダー404を合成できることを留意すべきである。前記のように、着目するタンパク質ターゲット(たとえば、精製および濃縮した形態のもの)をペプチドバインダー404に曝露し、結合を採点し(たとえば、principled clustering analysis(原則に基づくクラスタリング分析)による)、それによって重複した結合モチーフに基づいて“コアヒットペプチド”配列を同定する。
【0068】
ある態様において、コアヒットペプチド配列が同定されると、徹底的な成熟化プロセス420を行なうことができる。ある態様において、N末端およびC末端両方のゆらぎを備えたコアヒットペプチド(7-merである424として例示)をアレイ401上で合成
する(工程420に3サイクルのグリシン(G)アミノ酸のみのN末端およびC末端ゆらぎとして示す例;ただし、ゆらぎアミノ酸は前記のように変更できる)。ある徹底的な成熟化の態様において、コアヒットペプチド424の各アミノ酸位置が他の19のアミノ酸それぞれで置換されたペプチドをアレイ401上で合成し、あるいは二重アミノ酸置換体(前記)をアレイ401上で合成し、あるいはアミノ酸欠失スキャンをアレイ401上で合成し、あるいはアミノ酸挿入スキャンをアレイ401上で合成する。ある場合には、上記の成熟化プロセスすべてを実施する(そしてアミノ酸の欠失および挿入スキャンの結果として生成した新たなペプチドについて上記に従って繰り返す)。種々のペプチドを含む成熟アレイ420(本明細書に記載する置換、欠失および挿入を含む)が合成されると、ターゲットタンパク質を成熟アレイ420上のこの改変されたコアヒットペプチド424に曝露し、結合強度をアッセイし、それによって“成熟コアヒットペプチド”配列を同定する。
【0069】
さらなる態様において、“成熟コアヒットペプチド”配列を同定した後、N末端およびC末端伸長の一方または両方を実施することができる(430にN末端伸長432およびC末端伸長431の両方を含むものとして示す)。N末端およびC末端伸長は、N末端またはC末端それぞれにおいて合成されたペプチドバインダー404(この例では5-mers)の集団をもつ成熟コアヒットペプチドの合成を伴う。431に示すように、C末端伸長は5ラウンドのゆらぎ合成436を伴って5-merペプチドバインダー434の集団が成熟コアヒットペプチド438のC末端で合成され、次いで別の5サイクルのゆらぎ合成436’がN末端で行なわれる。同様に、432に示すように、N末端伸長は5ラウンドのゆらぎ合成(上記に従う)を伴って436が成熟コアヒットペプチド438のC末端で合成され、次いで5-merペプチドバインダー434の集団および別の5サイクルのゆらぎ合成436’がN末端(成熟コアヒットペプチド438の)において合成される。種々の伸長ペプチド(C末端およびN末端伸長ペプチドを含む)を含む伸長アレイ430が合成されると、伸長アレイ430上に合成されたC末端およびN末端伸長ペプチド集団431、432にターゲットタンパク質を曝露し、結合を採点し(たとえば、principled clustering analysis(原則に基づくクラスタリング分析)による)、それによってC末端、N末端伸長した成熟コアヒットペプチド配列が同定される。矢印440により示されるように、伸長の後、成熟コアヒットペプチドを同定し、伸長した成熟コアヒットペプチドについて成熟化プロセス420を繰り返し、次いでそれから得られた変化したいずれかのペプチド配列について伸長プロセスも繰り返すことができる。
【0070】
VII.特異的ターゲットに対するバインダーペプチドの同定
本開示の態様によれば、ペプチドマイクロアレイをターゲットタンパク質含有試料と共にインキュベートして、ストレプトアビジン(SA)、Taqポリメラーゼ、ならびにヒトタンパク質:前立腺特異的抗原(PSA)、トロンビン、腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)、およびウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター(uPA)に対して特異的なバインダーを得る。
【0071】
本発明は、ペプチドバインダーの種々の使用を提供する。各タイプのバインダーに関して以下に示す特定の使用のほかに、幾つかの使用がすべてのバインダーに共通である。たとえば、以下に挙げるターゲットのそれぞれについて、本発明のペプチドバインダーをアフィニティー精製またはエンリッチメント試薬として使用できる。そのような態様において、ペプチドバインダーの特異的結合はターゲットタンパク質の精製またはエンリッチメントを補助するであろう;たとえば、患者試料から診断分析のために、または生合成反応器からターゲット分子をそれの純粋な形態で得るために。ある態様において、同一ターゲットに対する2以上の多数のバインダーをリンカーにより連結することができる。連結したバインダーはアビディティー(avidity)ベースのターゲティングに影響を及ぼすことができる;アビディティーは多数のアフィニティーの累積強度である。
【0072】
さらに他の態様において、本発明のバインダーは療法薬として使用できる。そのような態様において、ペプチドバインダーは、生理的条件下でのそれらのターゲットに対する最適結合、および無毒性を得るために、進化および選択した配列を含む。
【0073】
A.ストレプトアビジン(SA)バインダー
ある態様において、本発明はストレプトアビジン(SA)に対する特異的アフィニティーを備えた単離された人工ペプチドである。この態様において、本発明は表1に挙げる配列からなるペプチドを含む。本発明はさらに、表1に挙げる配列を含むペプチド、たとえば表2に挙げる配列からなるペプチドを含む。表2に挙げる例のほかに、表1に挙げる配列を含む、より短い、またはより長いペプチド(たとえば、5、6、7、8、9、および最大20のアミノ酸)も本発明の一部である。
【0074】
【0075】
【0076】
ストレプトアビジンに対して特異的なこれらの新規ペプチドバインダーは、ストレプトアビジン、ストレプトアビジンのフラグメント、またはストレプトアビジン-ビオチン複合体の検出または捕獲が必要ないずれかの用途に使用できる。アッセイには、マイクロアレイ、免疫組織化学、クロマトグラフィー、酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)、イン・サイチュ-ハイブリダイゼーション、および新規ペプチドバインダーに連結した1以上のヌクレオチドを含むアッセイが含まれる。
【0077】
たとえば、本発明のストレプトアビジン結合ペプチドは、StrepタグII配列を含むターゲット分子のアフィニティーキャプチャーに使用できる;参照:David S. Wilson et al., (2001) The use of mRNA display to select high-affinity protein-binding peptides PNAS vol. 98, no. 7, 3750-3755。
【0078】
ある態様において、本開示は本明細書に開示するストレプトアビジンに対して特異的な1以上の新規ペプチドバインダーを含むキットを開示する。そのようなキットは、表1~2に挙げるグループから選択される1以上のペプチドバインダー、または表1~2に挙げるグループから選択されるいずれかの配列を含むペプチドバインダーを含むことができる。
【0079】
Taqポリメラーゼバインダー
ある態様において、本発明はTaqポリメラーゼに対する特異的アフィニティーを備えた単離された人工ペプチドである。この態様において、本発明は表3、カラム1に挙げる5-mer配列からなるペプチドを含む。本発明はさらに、表3、カラム1に挙げる5-mer配列を含むペプチド、たとえば表3、カラム2および3に挙げる配列からなるペプチドを含む。表3、カラム2および3に挙げる例のほかに、表3、カラム1に挙げる配列を含む、より短い、またはより長いペプチド(たとえば、5、6、7、8、9、および最大20のアミノ酸)も本発明の一部である。
【0080】
【0081】
表3、カラム1に挙げる5-mer配列を含む、Taqポリメラーゼに対するさらに他のペプチドバインダーは、Taqポリメラーゼの存在下にプライマー伸長アッセイで候補ペプチドを試験することにより選択できる。周囲温度ではプライマー伸長を阻害するけれども一般的なPCR伸長温度(65~75℃)では阻害しない候補が選択されるであろう。そのような周囲温度でのプライマー伸長阻害(“ホットスタート(hot start)”)によって、非特異的的なプライマーアニーリングおよび伸長が起きる可能性がある場合に、より低い温度でのDNAの非特異的的増幅が避けられる。より高い温度では、特異的な(実質的に相補的な)プライマーのみをポリメラーゼによって伸長できる。そのようなより高い温度では、特異的ペプチドバインダーがポリメラーゼの阻害を解除して、特異的プライマー伸長が起きるのを可能にする。
【0082】
ある態様において、本発明は表3に挙げる配列を含む1以上のペプチドの存在下でポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により核酸を増幅する方法である。
B.前立腺特異的抗原(PSA)バインダー
ある態様において、本発明はヒト前立腺特異的抗原(SA)に対する特異的アフィニティーを備えた単離された人工ペプチドである。この態様において、本発明は表4、カラム1に挙げる配列からなるペプチドを含む。本発明はさらに、表4、カラム1に挙げる配列を含むペプチド、たとえば表4、カラム2および3に挙げる配列からなるペプチドを含む。表4、カラム2および3に挙げる例のほかに、表4、カラム1に挙げる配列を含む、より短い、またはより長いペプチド(たとえば、5、6、7、8、9、および最大20のアミノ酸)も本発明の一部である。
【0083】
【0084】
PSAに対して特異的なこれらの新規ペプチドバインダーはいずれか多数の診断アッセイに使用できることを理解すべきである;それにはマイクロアレイ、免疫組織化学(immuno-histochemistry)(IHC)、クロマトグラフィー、酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)、イン・サイチュ-ハイブリダイゼーション、および新規ペプチドバインダーに連結した1以上のヌクレオチドを含むアッセイが含まれるが、これらに限定されない。したがって、本明細書に開示するこれらの新規ペプチドバインダーは患者の前立腺癌を診断する際に使用できる。
【0085】
さらに、本明細書に開示する新規PSAバインダーそれぞれを1以上のさらに他のペプチドバインダーと組み合わせて、たとえばペプチドバインダーのパネルを形成できる(たとえば、マルチプレックス診断アッセイ(multiplexed diagnostic assay)の場合のように)。さらに他のバインダーはPSAまたは他の診断関連ペプチドをターゲティングすることができる。そのようなパネルは、前立腺癌の診断または前立腺癌と良性前立腺肥大の鑑別を補助することができる。ある態様において、PSAをターゲティングする2以上の多数のバインダーをリンカーにより連結することができる。それらの連結したバインダーはアビディティーによって増大したアフィニティーをもつ。
【0086】
本発明のPSAバインダーは、患者試料中にみられるPSAをいずれか後続の定量または定性分析用にエンリッチするために使用できる。
ある態様において、本発明は、検査試料を入手し、本明細書に開示する1以上の新規ペプチドバインダーでその試料をPSAについてアッセイすることにより、被験体を前立腺癌について診断評価する方法である。ある態様において、前立腺癌の存在を判定するために被験体の検査試料中のPSAを定量する。検査試料には、体液、たとえば血液、血漿、血清、尿、前立腺組織、および前立腺液(すなわち、前立腺周囲の体液)が含まれる。検査試料にはさらに、たとえば生検により得られた固形組織または臓器試料が含まれる。遠心またはセルソーティングなどの分離法により、体液または組織もしくは臓器から分離細胞を得ることができる。試料は凍結されたもの、新鮮なもの、固定されたもの(たとえば、ホルマリン固定されたもの)、または包埋されたもの(たとえば、パラフィン包埋されたもの)であってもよい。試料中のマーカーの量を査定するために、試料に多様な周知の採取後調製法および貯蔵法を施すことができる。
【0087】
一態様において、本発明は、被験体からの検査試料中のPSAの存在または量を測定することにより被験体の前立腺癌を診断するための方法である。ある態様は、試料中のPSAの量が基準濃度より多ければ前立腺癌の診断を提示することを含む。
【0088】
C.トロンビンバインダー
ある態様において、本発明はヒトトロンビンに対する特異的アフィニティーを備えた単離された人工ペプチドである。この態様において、本発明は表5、カラム1に挙げる配列からなるペプチドを含む。本発明はさらに、表5、カラム1に挙げる配列を含むペプチド、たとえば表5、カラム2および3に挙げる配列からなるペプチドを含む。表5、カラム2および3に挙げる例のほかに、表5、カラム1に挙げる配列を含む、より短い、またはより長いペプチド(たとえば、5、6、7、8、9、および最大20のアミノ酸)も本発明の一部である。
【0089】
【0090】
トロンビンは凝固経路において鍵となる構成要素である。この多因子チモーゲン活性化経路はトロンビンの生成において最高に達し、それが次いでそれらのトロンビン受容体を介してフィブリノーゲンを開裂してフィブリンを生成し、血小板を活性化する。トロンビンは凝固因子V、VIIIおよびXIIIをも活性化して、フィブリンに凝血塊を形成させる。トロンビンのレベル上昇は、心臓発作、卒中、ならびに肺および静脈塞栓症をもたらす血栓症の原因である。(参照:Esmon, C.T. (2000) Regulation of blood coagulation, Biochim. Biophys. Acta 1477:349.)。トロンビンまたはトロンビンレベルの迅速検出の臨床適用のひとつは、患者をこれらの状態のリスクについてモニタリングすることである。
【0091】
ある態様において、本発明は、本明細書に開示する1以上のトロンビン結合ペプチドを用いてヒト試料中のトロンビンを検出し、あるいはトロンビンレベルを測定する方法を含む。他の態様において、本発明は、本明細書に開示する1以上のトロンビン結合ペプチドを用いて患者の試料中のトロンビンを検出し、あるいはトロンビンレベルを測定することにより、血栓塞栓症について患者をモニタリングする方法である。ある態様において、本発明は、ヒト試料中のトロンビンを検出し、あるいはトロンビンレベルを測定するためのキット、すなわち本明細書に開示する1以上のトロンビン結合ペプチドを含むキットである。
【0092】
さらに他の態様において、本明細書に開示するトロンビン結合ペプチドを用いて患者に
おいてトロンビンを結合および阻害する。直接トロンビン阻害薬(Direct thrombin inhibitor)(DTI)および凝血を阻止するためのそれらの使用は当技術分野で知られている。ビバリルジン(Bivalirudin)(Angiomax)は、医療用ヒル(Hirudo medicinalis)の唾液中に発見された天然ペプチドであるヒルジンに関連する合成トロンビン結合ペプチドである。本発明は、既存のインビボでのトロンビン遮断能力を改善または補足するための新規トロンビン結合ペプチドを作製する方法を提供する。この態様において、本方法は、生理的条件下でのトロンビンに対する最適結合、および無毒性を得るために、本明細書に開示する1以上のトロンビン結合ペプチドをさらに進化させ、選択することを含む。
【0093】
D.腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)バインダー
ある態様において、本発明は腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)に対する特異的アフィニティーを備えた単離された人工ペプチドである。この態様において、本発明は表6、カラム1に挙げる配列からなるペプチドを含む。本発明はさらに、表6、カラム1に挙げる配列を含むペプチド、たとえば表6、カラム2および3に挙げる配列からなるペプチドを含む。表6、カラム2および3に挙げる例のほかに、表6、カラム1に挙げる配列を含む、より短い、またはより長いペプチド(たとえば、5、6、7、8、9、および最大20のアミノ酸)も本発明の一部である。
【0094】
【0095】
TNF-αは、感染および炎症に対する免疫応答において中心的役割を果たす。それは微生物、特に細胞内微生物に対する宿主抵抗性を仲介するサイトカインであるが、自己免疫疾患、たとえば関節リウマチ(RA)において鍵となる役割を果たすとも考えられている。抗TNF-α抗体を用いる療法薬(たとえば、インフィキシマブ(infiximab),商品
名RemicadeまたはCentocor)がRAの治療用として承認された(参照:Haerter, G. et al. Clin Infect Dis. (2004) 39(9): e88-e94)。
【0096】
ある態様において、本発明は、本明細書に開示する1以上のTNF-α結合ペプチドを用いてヒト試料中のTNF-αを検出し、あるいはTNF-αのレベルを測定する方法を含む。この態様のバリエーションにおいて、患者は感染症または自己免疫性の疾患もしくは状態に罹患している。ある態様において、本発明は、ヒト試料中のTNF-αを検出し、あるいはTNF-αのレベルを測定するためのキット、すなわち本明細書に開示する1以上のトロンビン結合ペプチドを含むキットである。
【0097】
さらに他の態様において、本明細書に開示する1以上のTNF-α結合ペプチドを用いて、感染症または自己免疫性の疾患もしくは状態に罹患している患者におけるTNF-αを結合および阻害する。この態様において、本方法は、生理的条件下での膜結合形態または可溶性形態のTNF-αに対する最適結合、および無毒性を得るために、本明細書に開
示する1以上のTNF-α結合ペプチドをさらに進化させ、選択することを含む。
【0098】
E.ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター(uPA)
ある態様において、本発明はヒトウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター(uPA)に対する特異的アフィニティーを備えた単離された人工ペプチドである。この態様において、本発明は表6、カラム1に挙げる配列からなるペプチドを含む。本発明はさらに、表7、カラム1に挙げる配列を含むペプチド、たとえば表7、カラム2および3に挙げる配列からなるペプチドを含む。表7、カラム2および3に挙げる例のほかに、表7、カラム1に挙げる配列を含む、より短い、またはより長いペプチド(たとえば、5、6、7、8、9、および最大20のアミノ酸)も本発明の一部である。
【0099】
【0100】
ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター(uPA)は、線維素溶解プロセスにおいて主要な役割を果たすセリンプロテアーゼであり、その際、それはプラスミノーゲンをプラスミンに変換する。それは組織炎症および創傷治癒プロセスの鍵となる調節物質である。参照:Sugioka, K. et al. (2014) Invest. Ophthalmol. Sci. 55:5338。uPAは、線維素溶解系におけるそれの周知の機能のほかに、炎症組織への白血球の血管外漏出を調節することによる炎症応答の重要な構成要素としての認識が高まっている。これらのプロセスは急性および慢性の心血管疾患に関連する。参照:Reichel C. et al. (2012) Trends in Cardiovascular Med. 22:192。uPAは、多様な腫瘍タイプの腫瘍の浸潤および進行においても重要な役割を果たす。参照:Fuessel, S. et al. BMC Cancer 2014, 14:974。uPAのレベルは多様な疾患または状態について診断上の価値をもつ。高特異的uPA阻害薬の使用は、腫瘍および心血管病態の予防および治療のための戦略である。
【0101】
ある態様において、本発明は、本明細書に開示する1以上のuPA結合ペプチドを用いてヒト試料中のuPAを検出し、あるいはuPAのレベルを測定する方法を含む。この態様のバリエーションにおいて、患者は腫瘍または心血管の疾患もしくは状態に罹患している。ある態様において、本発明は、ヒト試料中のuPAを検出し、あるいはuPAのレベルを測定するためのキット、すなわち本明細書に開示する1以上のuPA結合ペプチドを含むキットである。
【0102】
さらに他の態様において、本明細書に開示する1以上のuPA結合ペプチドを用いて、腫瘍または心血管の疾患もしくは状態に罹患している患者におけるuPAを結合および阻害し、よってuPA経路を阻害する。この態様において、本方法は、生理的条件下での膜結合形態または可溶性形態のuPAに対する最適結合、および無毒性を得るために、本明細書に開示する1以上のuPA結合ペプチドをさらに進化させ、選択することを含む。
【実施例】
【0103】
実施例1.ストレプトアビジンバインダー
ライブラリー合成
ペプチドのライブラリーを作製するために、CysおよびMet、2以上の同一アミノ酸のリピート、ならびにHR、RH、HK、KH、RK、KR、HPおよびPQ配列を含むいずれかのペプチドを除いた、18種類の天然アミノ酸を含む5-merペプチドのアレイを合成して、既知のHPQ-およびHPM様モチーフ以外のストレプトアビジンバインダーを同定した。Zリンカー(ZはGlyとSerの3:1混合物を用いて合成された)またはJリンカー(Jは20種類の天然アミノ酸すべての等モル混合物を用いて合成された)を備えたアレイを合成し、1%のアルカリ可溶性カゼインを含む結合用1×TE緩衝液中の0.3μg/ml Cy5-標識ストレプトアビジンに、0.05% Tween 20の存在下で4℃において一夜、結合させた。表8は種々のリンカーを用いて合成された5-merライブラリーへのストレプトアビジン結合の結果を示す。
【0104】
【0105】
伸長ライブラリー
バインダー最適化戦略の第2工程は、5-merライブラリーで同定したコアモチーフを、20種類の天然アミノ酸すべてを用いてN末端およびC末端の両方から2アミノ酸、伸長させることを含む。伸長のために、上記の表8に示したものと同じライブラリーを3Zリンカー付きまたはリンカーなしで作製して用いた。表9は、2つの異なるリンカーを含むそれぞれの伸長ライブラリーXXFDEWLXX(SEQ ID NO:121)およびXXPAWAHXX(SEQ ID NO:125)について同定した上位3つのバインダーを示す。
【0106】
【0107】
両タイプのリンカーについて幾つかの選択された配列が同定されたが、表9に示した伸長ライブラリーについてのデータは、選択経路がライブラリー状況によって影響される可能性があることを明瞭に立証する。
【0108】
実施例2.前立腺特異的抗原(PSA)バインダー
5Zリンカーを含む5-merアレイライブラリーおよび前記の3Zリンカーを含む伸長アレイについてのデータを用い、より広範な置換/欠失実験を実施することにより、PSAに対するペプチドバインダーの配列を最適化した。結果を表10に示す。
【0109】
【0110】
実施例3.トロンビンバインダー
3Zリンカーを含む5-merアレイライブラリー、次いで3Zリンカーを含む伸長アレイ、および置換/欠失ライブラリーを用いて、表11に示すようにトロンビンに対するペプチドバインダーを同定した。成熟化実験は進行中である。
【0111】
【0112】
実施例4.TNFαバインダー
5Zリンカーを含む5-merアレイライブラリー、次いで3Zリンカーを含む伸長アレイ、および置換/欠失ライブラリーを用いて、表12に示すようにTNFαに対するペプチドバインダーを同定した。
【0113】
【0114】
実施例5.Taqポリメラーゼバインダー
5Zリンカーを含む5-merアレイライブラリー、次いで3Zリンカーを含む伸長アレイ、および置換/欠失ライブラリーを用いて、表13に示すようにTaqPolに対するペプチドバインダーを同定した。
【0115】
【0116】
実施例6.ウロキナーゼ様プラスミノーゲンアクチベーター(uPA)バインダー
5Zリンカーを含む5-merアレイライブラリー、次いで3Zリンカーを含む伸長アレイ、および置換/欠失ライブラリーを用いて、表14に示すようにuPAに対するペプチドバインダーを同定した。
【0117】
【0118】
5-merライブラリーを用いて、リンカーがバインダー選択に及ぼす影響も調べた。5Zライブラリーの代わりに“無リンカー”5-merライブラリーを用いた結果、下記のパターンを共有する大グループのペプチドが選択されることを見出した:XNDK[FY](SEQ ID NO:231)およびXSEKFX(SEQ ID NO:232);これらにおいてXは20種類の天然アミノ酸のいずれかである。5Z 5-merライブラリーから選択されたNDKFS(SEQ ID NO:100)およびRSEKF(SEQ ID NO:108)モチーフは同じ2グループに属する。しかし、NAYFS(SEQ ID NO:96)およびHETAR(SEQ ID NO:105)モチーフは、低い信号のため“無リンカー”ライブラリー中には検出されない。
【0119】
実施例7.選択されたストレプトアビジンバインダーの特性分析
表15に挙げる選択されたストレプトアビジンペプチドバインダーは、標準的なカラム
ベースの合成法を用いて、UW Biotechnology center(ワイオミング州マディソン)またはPeptide2.0(バージニア州シャンティリー)により98~99%の純度で合成された。Strep-tag IIペプチド NH2-SAWSHPQFEK-COOHはIBA GmbH(ドイツ、ゲッチンゲン)から購入された。特に、ペプチドは表15に示すようにC末端アミドまたはカルボン酸(-COOH)部分のいずれかを備えたものとして製造された。合成されたペプチドを次いで表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance)(SPR)により特性分析して、結合速度定数(ka)、解離速度定数(kd)、および平衡解離速度定数(kd/ka=KD)を含めた結合特性を同定した。一側面において、SPR実験はBiacore X100計測器(GE Healthcare)を用いて実施された。予め、10mM酢酸ナトリウム,pH5.0中の100μg/mlのストレプトアビジン60μlを、Amine Coupling Kit(アミンカップリングキット)(GE Healthcare)を用いて20℃で6分間、センサーチップ CM5(GE Healthcare)のフローセル2(Fc2)に固定した。ペプチド原液を水中に5または10mM濃度で調製し、SPR実験前にHBS-EP+(GE Healthcare)緩衝液中に希釈した。HBS-EP+をランニング緩衝液として用い、0.2M NaCl、10mM NaOHまたは10mM HCl-グリシン,pH1.7を再生緩衝液として用いて、ペプチド結合を多重動態モード(multiple kinetics mode)で実施した。Biacore X100ソフトウェアで結合動態パラメーターを計算した。得られたデータを表15に示す。
【0120】
【0121】
表15に挙げたストレプトアビジンに対するペプチドバインダーは、本明細書に記載するペプチドバインダー同定方法(たとえば、コアモチーフ探索、成熟化、伸長)を用いて同定された。一側面において、ペプチドSAWSHPQFEK(SEQ ID NO:233)は、本開示によるアレイベースのペプチドバインダー同定方法を用いて同定されなかったが、工学作製されたストレプトアビジンタンパク質に結合できる既知のStrep-Tag II融合タグ配列(NOVAGEN)である。このStrep-Tag IIペプチド(SEQ ID NO:233)を、表15に挙げた残りのペプチドとの比較のためのベンチマークとして用いた。他の側面において、このStrep-Tag IIペプチド(SEQ ID NO:233)を本開示の方法を用いて成熟化および伸長して、ペプチドWTHPQFEQK(SEQ ID NO:234)、WTHPQFEQPKA(SEQ ID NO:235)、およびEWVHPQFEQKAK(SEQ ID NO:236)が同定され、それらはそれぞれStrep-Tag IIペプチド(SEQ ID NO:233)と比較して低下したKDを示した。
【0122】
表15に挙げたさらに他のグループのペプチドには下記のものが含まれる:i)NSFDDWLAKGG(SEQ ID NO:237)およびGNSFDDWLASKG(SEQ ID NO:238)、ii)ADYLAEYHGG(SEQ ID NO:239)、AFDYLAQYHGG(SEQ ID NO:240)、およびAFPDYLAEYHGG(SEQ ID NO:241)、ならびにiii)DPAPAWAHGG(SEQ ID NO:242)およびRDPAPAWAHGGG(SEQ ID NO:243)。各グループについて、各グループ分けの最初に挙げたペプチド配列(親ペプチド)に、さらに成熟化、伸長、またはその組合わせを施し、それによって一般に、より低い平衡解離定数(KD)をもつペプチドバインダーが得られた。一側面において、ペプチドGNSFDDWLASKG(SEQ ID NO:238)は、親ペプチドNSFDDWLAKGG(SEQ ID NO:237)と比較して不可逆的結合を示した。他の側面において、ペプチドAFPDYLAEYHGG(SEQ ID NO:241)は表15中のストレプトアビジンペプチドバインダーそれぞれのうち最低のKDを示した。さらに他の側面において、ペプチドDPAPAWAHGG(SEQ ID NO:242)のN末端およびC末端それぞれに対する単一アミノ酸による伸長によってペプチドRDPAPAWAHGGG(SEQ ID NO:243)が得られ、それは親ペプチドと比較して少なくとも100倍のKD変化を生じた。
【0123】
表15中のペプチドのうち1以上を単独または他の種との組合わせで用いて、タンパク質ストレプトアビジンの分子との複合体を形成することができ、その際、複合体は約10マイクロモル濃度(μM)未満のKDをもつ。一側面において、ペプチドバインダーと会合する種は、他のペプチドまたはタンパク質、固体表面をもつ構成要素、たとえばビーズまたはチップ、小分子、核酸(たとえば、DNA、RNA)など、およびその組合わせであってもよい。たとえば、ペプチドバインダーはタンパク質に付加されたN末端またはC末端タグであってもよい。他の例において、ペプチドを磁性ビーズに共有結合(または他の様式)により付着させることができる。他の側面において、ペプチド(単独、または前記の他の種との組合わせ)はストレプトアビジンとの複合体を形成することができる。一例において、ペプチド-ストレプトアビジン複合体は約100μM未満のKDをもつ。他の例において、ペプチド-ストレプトアビジン複合体は約10μM未満のKDをもつ。さらに他の例において、ペプチド-ストレプトアビジン複合体は約1μM未満のKDをもつ。さらに他の例において、ペプチド-ストレプトアビジン複合体は約0.1μM未満のKDをもつ。表15に挙げたように、ペプチドAFPDYLAEYHGG(SEQ ID NO:241)は0.043μM(すなわち、約0.1μM未満)のKD測定値を示した。他の例において、ペプチドRDPAPAWAHGGG(SEQ ID NO:243)は約4.66μM(すなわち、約10μM未満)のKDを示した。さらに他の側面において、ペプチドADYLAEYHGG(SEQ ID NO:239)は約96μM(すなわち、約100μM未満)のKDを示した。さらに他のペプチドバインダー、およびストレプトアビジンと形成された複合体に付随するKDを表15に挙げる。
【配列表】