(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】発泡性熱可塑性樹脂粒子
(51)【国際特許分類】
C08J 9/16 20060101AFI20230214BHJP
C08J 9/228 20060101ALI20230214BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20230214BHJP
C08K 5/01 20060101ALI20230214BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
C08J9/16 CET
C08J9/228 CET
C08L101/00
C08K5/01
C08K3/04
(21)【出願番号】P 2020513449
(86)(22)【出願日】2019-04-11
(86)【国際出願番号】 JP2019015776
(87)【国際公開番号】W WO2019198790
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2022-03-09
(31)【優先権主張番号】P 2018076193
(32)【優先日】2018-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】坂本 遼平
(72)【発明者】
【氏名】沓水 竜太
(72)【発明者】
【氏名】丸橋 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】矢野 義仁
(72)【発明者】
【氏名】根岩 祐貴
【審査官】福井 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-525537(JP,A)
【文献】国際公開第2017/043618(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/137363(WO,A1)
【文献】特開2014-148661(JP,A)
【文献】特開2015-101702(JP,A)
【文献】特開2013-123851(JP,A)
【文献】特開2013-121998(JP,A)
【文献】特開2010-222546(JP,A)
【文献】特表2013-514397(JP,A)
【文献】特表2018-502204(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0353701(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0175765(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00-9/42
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08K 5/01
B29C 44/00-44/60
B29C 67/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラファイト、熱可塑性樹脂および発泡剤を含有する発泡性熱可塑性樹脂粒子であって、
前記グラファイトの含有量が前記発泡性熱可塑性樹脂粒子100重量%において2.0重量%以上10.0重量%以下であり、
前記発泡性熱可塑性樹脂粒子中の前記グラファイトの平均粒径が0.5μm以上2.5μm未満であり、
下記式(1)で表される前記発泡性熱可塑性樹脂粒子中の前記グラファイトの粒度分布の幅を示すスパン「S」が4.0以下である、発泡性熱可塑性樹脂粒子。
S=(D90-D10)/D50・・・式(1)
(前記式(1)において、Sは前記グラファイトの粒度分布の幅を示すスパン、D90は90%体積累積粒径、D10は10%体積累積粒径、D50は50%体積累積粒径(平均粒径)を示す。)
【請求項2】
前記発泡性熱可塑性樹脂粒子中のグラファイト単位溶液濃度あたりのレーザー散乱強度が10{%/(mg/ml)}/重量%以上である、請求項1に記載の発泡性熱可塑性樹脂粒子。
【請求項3】
グラファイト、熱可塑性樹脂および発泡剤を含有する発泡性熱可塑性樹脂粒子であって、
前記グラファイトの含有量が前記発泡性熱可塑性樹脂粒子100重量%において2.0重量%以上10.0重量%以下であり、
前記発泡性熱可塑性樹脂粒子中の前記グラファイトの平均粒径が0.5μm以上2.5μm未満であり、
下記式(1)で表される前記発泡性熱可塑性樹脂粒子中の前記グラファイトの粒度分布の幅を示すスパン「S」が4.0以下であり、
前記発泡性熱可塑性樹脂粒子中のグラファイト単位溶液濃度あたりのレーザー散乱強度が11{%/(mg/ml)}/重量%以上である、発泡性熱可塑性樹脂粒子。
S=(D90-D10)/D50・・・式(1)
(前記式(1)において、Sは前記グラファイトの粒度分布の幅を示すスパン、D90は90%体積累積粒径、D10は10%体積累積粒径、D50は50%体積累積粒径(平均粒径)を示す。)
【請求項4】
グラファイト、熱可塑性樹脂および発泡剤を含有する発泡性熱可塑性樹脂粒子であって、
前記グラファイトの含有量が前記発泡性熱可塑性樹脂粒子100重量%において2.0重量%以上10.0重量%以下であり、
前記発泡性熱可塑性樹脂粒子中の前記グラファイトの平均粒径が0.5μm以上2.5μm未満であり、
下記式(1)で表される前記発泡性熱可塑性樹脂粒子中の前記グラファイトの粒度分布の幅を示すスパン「S」が4.0以下であり、
前記発泡性熱可塑性樹脂粒子を発泡倍率50倍の熱可塑性樹脂発泡成形体に成形した場合に、前記熱可塑性樹脂発泡成形体を50℃温度下で30日間静置し、さらに23℃の温度下にて24時間静置した後、JIS A9511:2006Rに準拠して測定した中心温度23℃での熱伝導率が、0.0310W/mK以下である、発泡性熱可塑性樹脂粒子。
S=(D90-D10)/D50・・・式(1)
(前記式(1)において、Sは前記グラファイトの粒度分布の幅を示すスパン、D90は90%体積累積粒径、D10は10%体積累積粒径、D50は50%体積累積粒径(平均粒径)を示す。)
【請求項5】
前記発泡性熱可塑性樹脂粒子中のグラファイト単位溶液濃度あたりのレーザー散乱強度が10{%/(mg/ml)}/重量%以上である、請求項4に記載の発泡性熱可塑性樹脂粒子。
【請求項6】
前記発泡性熱可塑性樹脂粒子中のグラファイト単位溶液濃度あたりのレーザー散乱強度が11{%/(mg/ml)}/重量%以上である、請求項4または5に記載の発泡性熱可塑性樹脂粒子。
【請求項7】
前記発泡性熱可塑性樹脂粒子中の前記グラファイトのD90を、混練前のグラファイトのD90で除した値が2.0以下である、請求項1
~6のいずれか1項に記載の発泡性熱可塑性樹脂粒子。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂がスチレン系樹脂を含む、請求項1
~7のいずれか1項に記載の発泡性熱可塑性樹脂粒子。
【請求項9】
前記発泡剤が、炭素数4~6の炭化水素の群から選択される少なくとも2種を含み、少なくとも2種のうち1種が炭素数4または5の炭化水素である、請求項1~
8のいずれか1項に記載の発泡性熱可塑性樹脂粒子。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか1項に記載の前記発泡性熱可塑性樹脂粒子を予備発泡した熱可塑性樹脂の予備発泡粒子。
【請求項11】
請求項
10に記載の前記熱可塑性樹脂の予備発泡粒子を成形した熱可塑性樹脂発泡成形体。
【請求項12】
発泡倍率が50倍(cm
3/g)以上である、請求項
11に記載の熱可塑性樹脂発泡成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラファイトを含有する発泡性熱可塑性樹脂粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
発泡性熱可塑性樹脂粒子を用いて得られる熱可塑性樹脂発泡成形体は、軽量性、断熱性、及び緩衝性等を有するバランスに優れた発泡体であり、従来から食品容器箱、保冷箱、緩衝材、及び住宅等の断熱材として広く利用されている。
【0003】
近年、地球温暖化等の諸問題を背景として、断熱性能向上による省エネルギー化の志向が、住宅等建築物のほか、自動車にまで及びつつある。特に自動車に用いる断熱材においては、断熱材が重いとかえって燃費が低下し省エネルギーとならないため、軽量性と断熱性を両立する必要がある。
【0004】
一般に、発泡倍率が40倍以上の熱可塑性樹脂発泡成形体は、発泡倍率が大きくなるほど熱伝導率が大きくなり断熱性が悪化してしまう。したがって、高い断熱性と軽量性とを両立するために、熱可塑性樹脂発泡成形体の熱伝導率をより低減することが望まれている。
【0005】
熱伝導率を低減する方法として、スチレン系樹脂発泡成形体にグラファイト等の輻射伝熱抑制剤を使用する方法が知られている(例えば、特許文献1~4)。輻射伝熱抑制剤は、発泡成形体中を伝わる伝熱機構のうち輻射伝熱を抑制することができる物質であって、樹脂、発泡剤、セル構造、及び密度が同一である無添加系の発泡成形体と比較して、熱伝導率を低くすることができる効果を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開番号WO2017/043618
【文献】特開2013-75941号
【文献】特開2005-2268号
【文献】特表2005-506390号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述のような従来技術は、発泡性及び断熱性について、さらなる改善の余地があった。特に、本発明者らは、平均粒径2.5μm未満(小粒径)のグラファイトを使用した場合について、さらなる改善の余地があることを見出した。
【0008】
従って、本発明の目的は、高い断熱性及び高い発泡性を両立し得る、平均粒径2.5μm未満のグラファイトを含有する発泡性熱可塑性樹脂粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者らが検討を重ねたところ、発泡性熱可塑性樹脂粒子中におけるグラファイトの粒度分布を制御することによって、(a)得られる発泡性熱可塑性樹脂粒子は低い熱伝導率、すなわち高い断熱性を有し、さらに、(b)高い発泡性を有するため、得られる発泡性熱可塑性樹脂粒子の予備発泡直後の予備発泡粒子は収縮が低減される、ことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明の一実施形態は、グラファイト、熱可塑性樹脂及び発泡剤を含有する発泡性熱可塑性樹脂粒子であって、前記グラファイトの含有量が前記発泡性熱可塑性樹脂粒子100重量%において2.0重量%以上10.0重量%以下であり、前記発泡性熱可塑性樹脂粒子中の前記グラファイトの平均粒径が0.5μm以上2.5μm未満であり、下記式(1)で表される前記発泡性熱可塑性樹脂粒子中の前記グラファイトの粒度分布の幅を示すスパン「S」が4.0以下である、発泡性熱可塑性樹脂粒子、に関する。
S=(D90-D10)/D50・・・式(1)
(前記式(1)において、Sは前記グラファイトの粒度分布の幅を示すスパン、D90は90%体積累積粒径、D10は10%体積累積粒径、D50は50%体積累積粒径(平均粒径)を示す。)。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施形態によれば、平均粒径2.5μm未満のグラファイトを使用しても、高い発泡倍率、及び、低い熱伝導率すなわち高い断熱性を両立する熱可塑性樹脂発泡成形体を与えうる発泡性熱可塑性樹脂粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】比較例1で作製した発泡成形体のプレス品の一断面のSEM観察画像であり、当該一断面におけるグラファイトの断面を映し出しているSEM観察画像である。
【
図2】実施例1で作製した発泡成形体のプレス品の一断面のSEM観察画像であり、当該一断面におけるグラファイトの断面を映し出しているSEM観察画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。また、異なる実施形態または実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態または実施例についても、本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。なお、本明細書中に記載された学術文献及び特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意図する。
【0014】
[1.本発明の一実施形態の技術的思想]
本発明者らは、特許文献1に示されるように、平均粒径2.5~9μmのグラファイトを使用し、かつ、グラファイトの単位溶液濃度あたりのレーザー散乱強度が6{%/(mg/ml)}/重量%以上にすることにより、高断熱性及び高発泡倍率を両立する発泡性スチレン系樹脂粒子を開発した。上記レーザー散乱強度が高い場合には樹脂中でのグラファイトの粒子数が多い状態と考えられることから、当該レーザー散乱強度が特定値以上であれば、グラファイトの分散性は高い状態であると推測される。しかしながら、平均粒径2.5μm未満(小粒径)のグラファイトを使用した場合については、さらなる改善の余地があった。
【0015】
また、特許文献2~4では、平均粒径2.5μm未満のグラファイトを使用して発泡性樹脂粒子を製造すること自体が開示されていない。
【0016】
このように、平均粒径が2.5μm未満のグラファイトを用いた場合に、高い断熱性と高い発泡性とを両立可能な発泡性熱可塑性樹脂粒子は未だ提案されていない。
【0017】
本発明の一実施形態は、前記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、平均粒径2.5μm未満のグラファイトを含有し、かつ、高い断熱性及び高い発泡性を両立し得る、新規の発泡性熱可塑性樹脂粒子を提供することである。本発明の一実施形態に係る目的は、平均粒径2.5μm未満のグラファイトを含有し、かつ、高い断熱性及び高い発泡倍率を両立する熱可塑性樹脂予備発泡粒子及び熱可塑性樹脂発泡成形体を提供し得る、新規の発泡性熱可塑性樹脂粒子を提供すること、ともいえる。
【0018】
以下、本発明の発泡性熱可塑性樹脂粒子及びその製造方法の実施形態を詳しく説明する。
【0019】
[2.発泡性熱可塑性樹脂粒子]
本発明の一実施形態にかかる発泡性熱可塑性樹脂粒子は、平均粒径0.5μm以上2.5μm未満のグラファイトを含有し、その含有量は発泡性熱可塑性樹脂粒子100重量%において2.0~10.0重量%であって、発泡性熱可塑性樹脂粒子中のグラファイトの粒度分布の幅のスパン「S」が4.0以下であることを特徴とする。
ここで、前記スパン「S」は、次の式(1)から求められる。
S=(D90-D10)/D50・・・式(1)
(前記式(1)において、D90は90%体積累積粒径を、D10は10%体積累積粒径を、D50は50%体積累積粒径すなわち平均粒径を、示す。)。
【0020】
本発明の一実施形態にかかる発泡性熱可塑性樹脂粒子は、グラファイト、熱可塑性樹脂および発泡剤を含有する発泡性熱可塑性樹脂粒子であって、前記グラファイトの含有量が前記発泡性熱可塑性樹脂粒子100重量%において2.0重量%以上10.0重量%以下であり、前記発泡性熱可塑性樹脂粒子中の前記グラファイトの平均粒径が0.5μm以上2.5μm未満であり、下記式(1)で表される前記発泡性熱可塑性樹脂粒子中の前記グラファイトの粒度分布の幅を示すスパン「S」が4.0以下である、ともいえる。ここで、前記スパン「S」は、上記式(1)から求められる。本明細書において、「本発明の一実施形態にかかる発泡性熱可塑性樹脂粒子」を「本発泡性熱可塑性樹脂粒子」と称する場合もある。
【0021】
本発泡性熱可塑性樹脂粒子は、前記構成を有するため、高い断熱性及び高い発泡性を両立することができる。本発泡性熱可塑性樹脂粒子が高い断熱性を有するとは、具体的には、本発泡性熱可塑性樹脂粒子が低い熱伝導率を有する、ことを意味する。本発泡性熱可塑性樹脂粒子は高い断熱性を有するため、高い断熱性を有する、具体的には低い熱伝導率を有する熱可塑性樹脂発泡成形体を提供できる。本発泡性熱可塑性樹脂粒子は高い発泡性を有するため、高い発泡倍率を有する熱可塑性樹脂予備発泡粒子及び熱可塑性樹脂発泡成形体を提供できる。また、本発泡性熱可塑性樹脂粒子は高い発泡性を有するため、高い発泡性を有する熱可塑性樹脂予備発泡粒子を提供できる、ともいえる。高い発泡性を有する熱可塑性樹脂予備発泡粒子は、高い発泡倍率を有する熱可塑性樹脂発泡成形体を提供できる。高い発泡倍率を有する熱可塑性樹脂予備発泡粒子及び熱可塑性樹脂発泡成形体は、軽量であるという利点を有する。本明細書において、「熱可塑性樹脂予備発泡粒子」を「予備発泡粒子」と称する場合もあり、「熱可塑性樹脂発泡成形体」を「発泡成形体」と称する場合もある。
【0022】
本発明の一実施形態において、発泡性熱可塑性樹脂粒子には、熱可塑性樹脂及びグラファイト以外の成分として、一般的な発泡性熱可塑性樹脂粒子に含有される成分を同様に含有することができる。具体的には、本発泡性熱可塑性樹脂粒子は、熱可塑性樹脂、グラファイト及び発泡剤を含有し、必要に応じて、グラファイト以外の輻射伝熱抑制剤、難燃剤、熱安定剤、ラジカル発生剤、及びその他の添加剤よりなる任意成分の群から選ばれる少なくとも1種の任意成分を含有できる。本発泡性熱可塑性樹脂粒子は、好ましくは、熱可塑性樹脂、グラファイト、発泡剤及び難燃剤を含有し、さらに、難燃剤を除く前述の任意成分の群から選ばれる少なくとも1種を含有してもよく、より好ましくは、熱可塑性樹脂、グラファイト、発泡剤、難燃剤及び熱安定剤を含有し、さらに、難燃剤及び熱安定剤を除く前述の任意成分の群から選ばれる少なくとも1種を含有してもよく、さらに好ましくは、熱可塑性樹脂、グラファイト、発泡剤、難燃剤、熱安定剤及び造核剤を含有し、さらに難燃剤、熱安定剤及び造核剤を除く前述の任意成分の群から選ばれる少なくとも1種を含有してもよい。
【0023】
(2-1.熱可塑性樹脂)
本発明の一実施形態で用いられる熱可塑性樹脂には、特に限定されるものではないが、例えば、(a)ポリスチレン(PS)、スチレン-アクリロニトリル共重合体(AS)、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体(耐熱PS)、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体(HIPS)、N-フェニルマレイミド-スチレン-無水マレイン酸の三次元共重合体及び、それとASとのアロイ(IP)などのスチレン系樹脂;(b)ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂などのビニル系樹脂;(c)ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン3元共重合体、シクロオレフィン系(共)重合体などのポリオレフィン系樹脂及びこれらに分岐構造、架橋構造を導入してレオロジーがコントロールされたポリオレフィン系樹脂;(d)ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、MXDナイロンなどのポリアミド系樹脂;(e)ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート及びポリカーボネートなどのポリエステル系樹脂、並びにポリ乳酸、などの脂肪族ポリエステル系樹脂;(f)ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE)、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂(変性PPE)、ポリオキシメチレン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、芳香族ポリエーテル系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂などのエンジニアリングプラスチック、などが挙げられる。これらは1種を単独で使用しても良いし、2種以上を混合して使用しても良い。これらの中でも、安価で、且つ、発泡成形が容易な発泡性熱可塑性樹脂粒子が得られる点から、スチレン系樹脂が好ましい。
【0024】
前記スチレン系樹脂は、スチレン単独重合体(ポリスチレンホモポリマー)のみならず、本発明の一実施形態に係る効果を損なわない範囲で、(a)スチレン、及び、(b)スチレンと共重合可能な他の単量体又はその誘導体(以下、単に「他の単量体又はその誘導体」と称する。)、が共重合されている、共重合体であっても良い。ただし、本明細書における「熱可塑性樹脂」から、後述する臭素化スチレン・ブタジエン共重合体は除く。
【0025】
前記「他の単量体又はその誘導体」としては、例えば、(a)メチルスチレン、ジメチルスチレン、エチルスチレン、ジエチルスチレン、イソプロピルスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、トリブロモスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、及びトリクロロスチレン等のスチレン誘導体;(b)ジビニルベンゼン等の多官能性ビニル化合物;(c)アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、及びメタクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル化合物;(d)(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;(e)ブタジエン等のジエン系化合物又はその誘導体;(f)無水マレイン酸、及び無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸無水物;N-メチルマレイミド、N-ブチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-(2)-クロロフェニルマレイミド、N-(4)-ブロモフェニルマレイミド、及びN-(1)-ナフチルマレイミド等のN-アルキル置換マレイミド化合物等があげられる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0026】
本発明の一実施形態に用いられるスチレン系樹脂は、前述のスチレン単独重合体、及び/又は、スチレンと他の単量体もしくはその誘導体との共重合体に限らず、本発明の一実施形態に係る効果を損なわない範囲で、(a)スチレン単独重合体、並びに/又は、スチレンと他の単量体もしくはその誘導体との共重合体と、(b)前述の他の単量体もしくは誘導体の単独重合体、又はそれらの共重合体と、のブレンド物であっても良い。
【0027】
本発明の一実施形態において、熱可塑性樹脂は、スチレン系樹脂を含むことが好ましい。
【0028】
本発明の一実施形態に用いられる熱可塑性樹脂には、主としてスチレン系樹脂が含まれることが好ましく、スチレン系樹脂に、例えば、ジエン系ゴム強化ポリスチレン、アクリル系ゴム強化ポリスチレン、及び/又はポリフェニレンエーテル系樹脂等をブレンドすることもできる。ここで、「主として」とは、具体的には熱可塑性樹脂100重量%において50重量%以上であることが好ましく、60重量%以上が好ましく、80重量%以上がさらに好ましい。リサイクル性の点から、好ましい上限は100重量%以下であるが、その他樹脂を併用することを除くものではない。
【0029】
スチレン系樹脂の中では、比較的安価で、特殊な方法を用いずに低圧の水蒸気等で発泡成形ができ、断熱性、難燃性及び緩衝性のバランスに優れることから、スチレンホモポリマー、スチレン-アクリロニトリル共重合体、又はスチレン-アクリル酸ブチル共重合体が好ましい。
【0030】
(2-2.グラファイト)
本発明の一実施形態に用いられるグラファイトが、輻射伝熱抑制剤としてグラファイトを発泡性熱可塑性樹脂粒子に含有されることにより、得られる発泡性熱可塑性樹脂粒子は、高い断熱性を有する予備発泡粒子及び熱可塑性樹脂発泡成形体を提供できる。前記「輻射伝熱抑制剤」とは、赤外領域(例えば、0.8μm~100μm程度の波長域)の光を反射、散乱又は吸収する特性を有する物質をいう。
【0031】
本発明の一実施形態に用いられるグラファイトとしては、公知のグラファイトを使用でき、例えば、鱗片状黒鉛、土状黒鉛、球状黒鉛、又は人造黒鉛等が挙げられる。なお、本明細書において、「鱗片状」という用語は、鱗状、薄片状又は板状のものをも包含する。これらの黒鉛は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。これらの中でも、発泡成形体に使用する場合に輻射伝熱抑制効果が高い点から、鱗片状黒鉛を主成分とする黒鉛混合物が好ましく、鱗片状黒鉛がより好ましい。
【0032】
本発明の一実施形態に係る発泡性熱可塑性樹脂粒子に用いられるグラファイトは、平均粒径が0.5μm以上2.5μm未満である。発泡性熱可塑性樹脂粒子の予備発泡直後の予備発泡粒子の収縮の軽減、ビーズライフの長期化、及び更なる高発泡倍率化の観点から、0.5μm以上2.0μm未満であることが好ましく、0.5μm以上1.5μm未満であることがより好ましい。本明細書において、グラファイトの平均粒径は、ISO13320:2009,及びJIS Z8825:2013に準拠したMie理論に基づくレーザー回折散乱法により粒度分布を測定・解析し、全粒子の体積に対する累積体積が50%になるときの粒径D50(すなわち50%体積累積粒径)を平均粒径とする。
【0033】
発泡性熱可塑性樹脂粒子の予備発泡直後の予備発泡粒子の収縮が軽減されることは、予備発泡粒子の発泡倍率を高めることに寄与する。発泡性熱可塑性樹脂粒子の予備発泡直後の予備発泡粒子の収縮が軽減され得る発泡性熱可塑性樹脂粒子は、高い発泡性を有するともいえる。平均粒径が0.5μm以上2.5μm未満であるグラファイトを含有することにより、得られる発泡性熱可塑性樹脂粒子は、高い発泡性を有するともいえる。本明細書において、「発泡性熱可塑性樹脂粒子の予備発泡直後の予備発泡粒子の収縮が軽減される効果」を、「収縮軽減効果」と称する場合もある。
【0034】
また、上述の特許文献1に開示されるように、レーザー散乱強度はグラファイトの分散度を示す指標にでき、2.5μm以上のグラファイトを使用する発泡性熱可塑性樹脂粒子であれば、レーザー散乱強度が特定値のとき、グラファイトの分散性が高いと見込まれる。一方、平均粒径2.5μm未満のグラファイトを使用する発泡性熱可塑性樹脂粒子に対しては、前記同様の傾向があるわけではない。
【0035】
すなわち、平均粒径2.5μm未満のグラファイトを使用する発泡性熱可塑性樹脂粒子においては、当該レーザー散乱強度が上記特定値を満たした場合であっても、グラファイトの分散性が必ずしも高い状態にあるとはいえず、グラファイトの分散性が低いこともあり得る。
【0036】
そこで、本発明者らが、発泡性熱可塑性樹脂粒子中におけるグラファイトの分散状態を検討したところ、発泡性熱可塑性樹脂粒子中に存在しているグラファイトの粒度分布の状態が、平均粒径2.5μm以上のグラファイトを使用する形態と異なっていることを独自に発見した。具体的には、
図1に示されるように、混練前には存在していなかった凝集体が混練により発生しており、発泡性熱可塑性樹脂粒子中のグラファイトのD90が混練前よりも混練後に増大することを発見した。このような混練時における凝集体の発生は、平均粒径2.5μm未満のグラファイトを使用する実施形態において顕著に現れる現象である。本発明者は、平均粒径2.5μm未満のグラファイトを使用する場合には、混練時に凝集体が発生することがあり、その結果として、グラファイトの本来の熱伝導率低減効果が奏されないことを独自に見出した。なお、混練前のグラファイトとは、例えば、原料のグラファイトを挙げることができる。
【0037】
また、グラファイトは異物として高発泡倍率化を阻害する要因ともなり得るため、小粒径(例えば平均粒径2.5μm未満)のグラファイトの使用が高発泡倍率化には有効であると考えられる。しかし、小粒径のグラファイトを使用したにもかかわらず、混練によって凝集体が発生することによって、予備発泡直後の予備発泡粒子の収縮が顕著となることを、本発明者は独自に発見した。
【0038】
前記凝集体はグラファイトが複数個集合して生じたものである。そのため、凝集体の発生は、輻射の吸収及び放射に重要なグラファイトの表面積を減少させてしまい、その結果、グラファイトの本来の熱伝導率低減効果が得られなくなると推定される。また、凝集体は単一のグラファイトよりも厚い。そのため、凝集体が発泡時のセル膜の伸長を阻害することにより高い発泡倍率の予備発泡粒子及び発泡成形体が得られない。これは、凝集体がセル膜の挫屈及び破断の起点となって予備発泡直後の予備発泡粒子の収縮を助長させる原因になると考えられる。
【0039】
なお、本発明は、上述した推定及び理論などによって、限定されるものではない。
【0040】
本発明の一実施形態に係る発泡性熱可塑性樹脂粒子は、発泡性熱可塑性樹脂粒子中におけるグラファイトの粒度分布の幅を示すスパン「S」が4.0以下であることによって、
図2に示されるように、発泡性熱可塑性樹脂粒子中におけるグラファイトの凝集体が減少し、発泡成形体としたときに高い熱伝導率低減効果及び予備発泡直後の予備発泡粒子の収縮軽減効果が発揮される。すなわち、得られる発泡成形体は、高発泡倍率、及び、低い熱伝導率すなわち高い断熱性を奏することができる。スパン「S」が4.0以下であることは、平均粒径2.5μm未満のグラファイトを用いる場合において、混練前のグラファイトには存在しなかった大きな凝集体の発生が抑えられていることを指す。スパン「S」が3.0以下であると、安定的に高い断熱性及び収縮軽減効果を得ることができ、スパン「S」が2.0以下であると、より安定的に高い断熱性及び収縮軽減効果を奏することができる。
【0041】
前記スパン「S」は、前記発泡性熱可塑性樹脂粒子中のグラファイトの平均粒径(50%体積累積粒径)D50、10%体積累積粒径D10、90%体積累積粒径D90を用いて、次の式(1)により算出される。
S=(D90-D10)/D50・・・式(1)
ここで、前記式(1)において、D10及びD90は、前述の粒径D50と同様に測定される。
【0042】
本発明の一実施形態に係る発泡性熱可塑性樹脂粒子において、(i)グラファイトによる熱伝導率低減効果が効率的に得られること、及び(ii)安定的に収縮軽減効果が得られることから、発泡性熱可塑性樹脂粒子中のグラファイトのD90を、混練前のグラファイトのD90で除した値が2.0以下であることが好ましく、1.0以下がより好ましい。
【0043】
本発明の一実施形態において、グラファイトの凝集体を減少させ、かつスパン「S」を所望の値まで低減する方法は、例えば、撹拌機及び押出機のスクリューの選定等による混練性能の向上、並びに熱可塑性樹脂とグラファイトとの親和性の向上等であってもよい。熱可塑性樹脂とグラファイトとの親和性の向上手段の具体例としては、グラファイトの表面処理、及び適切な分散剤の添加等であってもよい。また、予めグラファイトを十分に熱可塑性樹脂と混練して、グラファイト含有マスターバッチを調製して、グラファイトとして当該マスターバッチを使用することが好ましい。
【0044】
本発明の一実施形態に係る発泡性熱可塑性系樹脂粒子は、グラファイトの含有量が、予備発泡粒子および発泡成形体の発泡倍率の制御が容易である点、並びに、熱伝導率低減効果等のバランスの点から、発泡性熱可塑性樹脂粒子100重量%において2.0重量%以上10.0重量%以下である。グラファイト含有量が2.0重量%以上では、熱伝導率低減効果が十分となる傾向があり、一方、10.0重量%以下では、発泡性熱可塑性樹脂粒子から、予備発泡粒子及び発泡成形体を製造するときに、セル膜が破れにくくなるため、高発泡化が容易であり、発泡倍率の制御が容易になる傾向がある。好ましくは3.0重量%以上8.0重量%以下である。グラファイトの含有量が3.0重量%以上であることにより、得られる発泡成形体は熱伝導率が低くなり従ってより高い断熱性を得ることができる。また、グラファイトの含有量が8.0重量%以下であることにより、得られる発泡性熱可塑性系樹脂粒子の発泡性が良好となり、かつ得られる発泡成形体の表面美麗性が良好となる。
【0045】
(2-3.レーザー散乱強度)
本発明の一実施形態に係る発泡性熱可塑性樹脂粒子は、発泡性熱可塑性樹脂粒子中のグラファイト単位溶液濃度あたりのレーザー散乱強度が10{%/(mg/ml)}/重量%以上であることが好ましい。前記レーザー散乱強度が10{%/(mg/ml)}/重量%以上である場合、グラファイトの分散性が高い傾向にある。その結果、得られる発泡性熱可塑性樹脂粒子を発泡成形体にしたときにグラファイトの含有量に対して高い熱伝導率低減効果を得やすくなる。すなわち、得られる発泡性熱可塑性樹脂粒子を発泡成形体にしたときに、高発泡倍率、及び、低い熱伝導率すなわち高い断熱性を有する発泡成形体を得やすくなる。
【0046】
本発明の一実施形態に係る発泡性熱可塑性樹脂粒子は、発泡性熱可塑性樹脂粒子中のグラファイト単位溶液濃度あたりのレーザー散乱強度が11{%/(mg/ml)}/重量%以上であることがより好ましい。前記レーザー散乱強度が11{%/(mg/ml)}/重量%以上である場合、得られる発泡性熱可塑性樹脂粒子を発泡成形体にしたときに、より十分な熱伝導率低減効果を得やすくなる。すなわち、得られる発泡性熱可塑性樹脂粒子を発泡成形体にしたときに、さらに低い熱伝導率、すなわちさらに高い断熱性を有する発泡成形体を得やすくなる。
【0047】
ここで、前記グラファイトの単位溶液濃度あたりの前記レーザー散乱強度[{%/(mg/ml)}/重量%]は、レーザー散乱強度Ob(%)を単位溶液濃度(mg/ml)で除し、その商を、前記発泡性スチレン系樹脂粒子における前記グラファイトの前記含有量(重量%)でさらに除すことにより算定され、ここで、前記レーザー散乱強度Ob(%)は、以下の式(2)によって算定される:
Ob(%)=(1-Ls/Lb)×100・・・式(2)、
ここで、Lsは、波長632.8nmのレーザー光を用いるレーザー回折散乱法により測定された、前記発泡性熱可塑性樹脂粒子および溶媒を含有する溶液の透過光強度であり、Lbは、前記レーザー回折散乱法により測定された、前記溶媒の透過光強度であり、かつ、ここで、前記単位溶液濃度は、前記溶媒における前記発泡性熱可塑性樹脂粒子の濃度である。前記溶媒は、例えばトルエンである。
【0048】
本発明の一実施形態におけるグラファイト単位溶液濃度あたりのレーザー散乱強度は、より具体的には、以下のようにして求められる。まず、測定対象(発泡性熱可塑性系樹脂粒子、混練前のグラファイトまたは熱可塑性樹脂)を含有しない溶媒(例えば、トルエン)に波長632.8nmのHe-Neレーザー光を照射したときの透過光の強度Lbと、測定対象を前記溶媒に所定重量分散させた溶液に波長632.8nmのHe-Neレーザー光を照射したときの透過光の強度Lsとから、レーザー散乱強度Ob(%)を次の式(2)に基づき求める。
Ob(%)=(1-Ls/Lb)×100・・・式(2)
次に、前記式(2)により求めたレーザー散乱強度Ob(%)から測定対象の単位溶液濃度あたりのレーザー散乱強度{%/(mg/ml)}を求める。そして、求めた単位溶液濃度あたりのレーザー散乱強度{%/(mg/ml)}を所定重量の測定対象内のグラファイトの含有量(重量%)で割って算出されるレーザー散乱強度が、グラファイト単位溶液濃度あたりのレーザー散乱強度[{%/(mg/ml)}/重量%]である。なお、溶媒は、発泡性熱可塑性樹脂粒子における樹脂がスチレン樹脂である場合はトルエンが好ましい。また、その他の樹脂である場合は、該樹脂を溶解できる溶媒であれば特に制限されない。
【0049】
(2-4.発泡剤)
本発明の一実施形態で用いられる発泡剤としては、特に限定されないが、発泡性と製品ライフとのバランスが良く、実際に使用するときに高倍率化しやすい観点から、揮発性発泡剤が好ましく、炭素数4~6の炭化水素がより好ましい。発泡剤の炭素数が4以上であると揮発性が低くなり、発泡性熱可塑性樹脂粒子から発泡剤が逸散しにくくなる。そのため、実際に使用するときに発泡工程で発泡性熱可塑性樹脂粒子に発泡剤が十分に残り、十分な発泡力を得ることが可能となり、高倍率化が容易となる。また、発泡剤の炭素数が6以下であると、発泡剤の沸点が高すぎないため、予備発泡時の加熱で十分な発泡力を得やすく、高発泡化が易しい傾向となる。炭素数4~6の炭化水素としては、例えばノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、シクロペンタン、ノルマルヘキサン、又はシクロヘキサン等の炭化水素が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。中でも、炭素数4の炭化水素および/または炭素数5の炭化水素が含まれることがさらに好ましい。特に高倍率化が容易であることから、本発泡性熱可塑性樹脂粒子において、発泡剤は、炭素数4~6の炭化水素の群から選択される少なくとも2種を含み、少なくとも2種のうち1種が炭素数4または5の炭化水素であることが好ましい。
【0050】
本発明の一実施形態において、発泡剤の添加量は、発泡性熱可塑性樹脂粒子を構成する成分総量(ただし、発泡剤を除く)、つまり発泡剤を含まない熱可塑性樹脂、グラファイト、およびその他添加剤からなる混合物100重量部に対して、4~10重量部であることが好ましい。発泡剤の添加量が前記範囲であれば、発泡速度と発泡力とのバランスが良く、安定して高倍率化しやすい、という効果を奏する。発泡剤の添加量が4重量部以上では、発泡に必要な発泡力が十分であるから、高発泡化が容易となり、50倍以上の高発泡倍率の予備発泡粒子及び発泡成形体を製造し易くなる傾向がある。また、発泡剤の量が10重量部以下であると、難燃性能が良好となると共に、予備発泡粒子及び発泡成形体を製造するときの製造時間(成形サイクル)が短くなるため、製造コストが低くなる傾向がある。なお、本発明の一実施形態において、発泡剤の添加量は、より好ましくは4.5~9重量部であり、さらに好ましくは5~8重量部である。
【0051】
(2-5.難燃剤)
本発明の一実施形態に係る発泡性熱可塑性樹脂粒子で用いられる難燃剤としては、特に限定されず、従来から発泡性熱可塑性樹脂粒子に用いられる難燃剤をいずれも使用できる。その中でも、難燃性付与効果が高い臭素系難燃剤が好ましい。臭素系難燃剤としては、例えば、2,2-ビス[4-(2,3-ジブロモ-2-メチルプロポキシ)-3,5-ジブロモフェニル]プロパン(別名:テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピルエーテル))、又は2,2-ビス[4-(2,3-ジブロモプロポキシ)-3,5-ジブロモフェニル]プロパン(別名:テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル))等の臭素化ビスフェノール系化合物、テトラブロモシクロオクタン、トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレート、臭素化スチレン・ブタジエンブロック共重合体、臭素化ランダムスチレン・ブタジエン共重合体、又は臭素化スチレン・ブタジエングラフト共重合体等の臭素化ブタジエン・ビニル芳香族炭化水素共重合体(例えば、特表2009-516019号公報に開示されている)等が挙げられる。これら臭素系難燃剤は1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0052】
臭素系難燃剤は、目的とする発泡倍率に制御しやすいと共に、グラファイト添加時の難燃性等のバランスの点から、発泡性熱可塑性樹脂粒子全量(100重量%)に対して、臭素含有量は0.8重量%以上であることが好ましく、5.0重量%以下であることがより好ましい。臭素含有量が0.8重量%以上であると、難燃性付与効果が大きくなる傾向にあり、5.0重量%以下であると、得られる発泡性熱可塑性樹脂粒子が提供する予備発泡粒子及び発泡成形体の強度が増加しやすい。発泡性熱可塑性樹脂粒子全量に対する臭素含有量が、好ましくは0.8重量%~5.0重量%、より好ましくは1.0重量%~3.5重量%になるように、臭素系難燃剤は発泡性熱可塑性樹脂粒子に配合される。
【0053】
(2-6.熱安定剤)
本発明の一実施形態に係る発泡性熱可塑性樹脂粒子においては、さらに、熱安定剤を併用することによって、製造工程における臭素系難燃剤の分解による難燃性の悪化及び発泡性熱可塑性樹脂粒子の劣化を抑制することができる。
【0054】
前記熱安定剤は、用いられる熱可塑性樹脂の種類、発泡剤の種類及び含有量、輻射伝熱抑止剤の種類及び含有量、並びに臭素系難燃剤の種類及び含有量等に応じて、適宜組み合わせて用いることができる。
【0055】
前記熱安定剤としては、臭素系難燃剤含有混合物の熱重量分析における1%重量減少温度を任意に制御できる点から、ヒンダードアミン化合物、リン系化合物、又はエポキシ化合物が好ましい。熱安定剤は1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、これらの熱安定剤は、後述するように耐光性安定剤としても使用できる。
【0056】
(2-7.ラジカル発生剤)
本発明の一実施形態に係る発泡性熱可塑性樹脂粒子は、ラジカル発生剤をさらに含有することにより、例えば臭素系難燃剤とラジカル発生剤とを併用することによって、高い難燃性能を発現することができる。
【0057】
前記ラジカル発生剤は、用いる熱可塑性樹脂の種類、発泡剤の種類及び含有量、輻射伝熱抑止剤の種類及び含有量、並びに臭素系難燃剤の種類及び含有量に応じて適宜組み合わせて用いることができる。
【0058】
前記ラジカル発生剤としては、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタン、又はポリ-1,4-イソプロピルベンゼン等が挙げられる。ラジカル発生剤は1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0059】
(2-8.その他の添加剤)
本発明の一実施形態に係る発泡性熱可塑性樹脂粒子は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、輻射伝熱抑制剤、加工助剤、耐光性安定剤、造核剤、発泡助剤、帯電防止剤、及び顔料等の着色剤よりなる群から選ばれる1種以上のその他添加剤を含有していてもよい。
【0060】
前記加工助剤としては、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸バリウム、又は流動パラフィン等が挙げられる。
【0061】
前記耐光性安定剤としては、前述したヒンダードアミン類、リン系安定剤、エポキシ化合物の他、フェノール系抗酸化剤、窒素系安定剤、イオウ系安定剤、又はベンゾトリアゾール類等が挙げられる。
【0062】
前記造核剤としては、シリカ、ケイ酸カルシウム、ワラストナイト、カオリン、クレイ、マイカ、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、もしくはタルク等の無機化合物、メタクリル酸メチル系共重合体、もしくはエチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂等の高分子化合物、ポリエチレンワックス等のオレフィン系ワックス、又はメチレンビスステアリルアマイド、エチレンビスステアリルアマイド、ヘキサメチレンビスパルミチン酸アマイド、もしくはエチレンビスオレイン酸アマイド等の脂肪酸ビスアマイド等が挙げられる。
【0063】
前記発泡助剤としては、大気圧下での沸点が200℃以下である溶剤を望ましく使用でき、例えば、スチレン、トルエン、エチルベンゼン、もしくはキシレン等の芳香族炭化水素、シクロヘキサン、もしくはメチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素、又は酢酸エチル、もしくは酢酸ブチル等の酢酸エステル等が挙げられる。
【0064】
なお、前記輻射伝熱抑制剤、前記帯電防止剤及び前記着色剤としては、各種樹脂組成物に用いられるものを特に限定なく使用できる。これらの他の添加剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0065】
[3.発泡性熱可塑性樹脂粒子の製造方法]
本発明の一実施形態に係る発泡性熱可塑性樹脂粒子は、押出機を用いてグラファイト、熱可塑性樹脂と各種成分とを溶融混練した後、粒子状に切断する溶融混練法で製造されることが好ましい。溶融混練法には、以下の第1の溶融混練法及び第2の溶融混練法の2つが挙げられる。
【0066】
第1の溶融混練法としては、熱可塑性樹脂およびグラファイト、必要に応じて難燃剤、ラジカル発生剤、熱安定剤などの添加剤を押出機で溶融混練し、発泡剤を前記押出機、または、押出機以降に設けられた混合設備によって溶融混練物に溶解及び分散させ、押出機以降に取り付けられた小孔を多数有するダイスを通じて加圧循環水で満たされたカッターチャンバー内に溶融混練物を押出し、押出直後から回転カッターにより溶融混練物を切断すると共に、加圧循環水により冷却固化する方法がある。このとき、押出機による溶融混練は、単独の押出機を使用する場合、押出機を複数連結する場合、及び、押出機、スタティックミキサーおよびスクリューを有さない撹拌機など第2の混練装置を併用する場合があり、適宜選択することができる。
【0067】
第2の溶融混練法としては、熱可塑性樹脂およびグラファイト、並びに必要に応じて、難燃剤、ラジカル発生剤、熱安定剤等の添加剤を押出機で溶融混練し、小孔を多数有するダイスを通じて押出した後カッターで切断することにより熱可塑性樹脂粒子を得た後(コールドカット法又はホットカット法)、該樹脂粒子を水中に懸濁させると共に、該樹脂粒子に発泡剤を含有させる方法がある。
【0068】
本発明の一実施形態において、グラファイトの凝集体を減少させる手段としては、例えば撹拌機および押出機のスクリューの選定等により混練性能を向上させる方法、熱可塑性樹脂とグラファイトとの親和性を向上させる方法が挙げられる。熱可塑性樹脂とグラファイトとの親和性の向上手段の具体例としては、グラファイトの表面処理、適切な分散剤の添加等が挙げられる。
【0069】
すなわち、本発明の一実施形態において、上述したグラファイトの凝集体を減少させる手段を用いることにより、後述するようにグラファイトをマスターバッチ化しない場合であっても、得られる発泡性熱可塑性樹脂粒子におけるグラファイトの所望スパンを達成でき、本発明の一実施形態に係る効果を享受できる。
【0070】
中でも、本発明の一実施形態においては、予め熱可塑性樹脂およびグラファイトを含有する混合物を二軸の撹拌機を備えた混練装置により混練を行い、グラファイトをマスターバッチ化したうえで、これを発泡性熱可塑性樹脂粒子の製造においてグラファイトの原料として用いることが好ましい。
【0071】
グラファイトのマスターバッチ調製用の混合物には、上述の熱可塑性樹脂およびグラファイトの他に、添加剤を配合してもよい。例えば、離型剤、可塑剤、分散剤、滑剤等が挙げられる。とくに、二軸の撹拌機を備えた混練装置からの離型のしやすさ等の理由で、エチレンビスステアリン酸アミド等を加えても良い。
【0072】
二軸の撹拌機を備えた混練装置としては、公知の混練装置を使用できる。例えば、インテンシブミキサー、インターナルミキサー、又はバンバリーミキサー等が挙げられる。中でも、荷重の負荷による混合性向上の観点から、インターナルミキサー、又はバンバリーミキサーが好ましい。
【0073】
二軸の撹拌機を備えた混練装置による、熱可塑性樹脂及びグラファイトを含有する混合物の混練においては、グラファイトの含有量、荷重、混練時間、樹脂温度、二軸の撹拌機のブレードとケーシングとのクリアランス、ブレード形状等を適宜調整することにより、マスターバッチ中におけるグラファイトの分散性を向上させることができる。すなわち、各個の二軸の撹拌機に適した条件調整を施すことにより、マスターバッチにおけるグラファイトのスパンを所望の値以下に制御することができる。その結果、発泡性熱可塑性樹脂粒子に製造された際においてもグラファイトの所望スパンが維持されてグラファイトの凝集体の発生が抑えられる。そして、グラファイトの輻射伝熱抑制性能を高くすることができ、発泡成形体に使用した場合に熱伝導率が低減する。さらには、凝集体の発生が抑えられることで、セル膜の強度が向上してセル膜が挫屈しにくくなり、予備発泡直後の予備発泡粒子の収縮が軽減する。また、混練において、凝集体を含むグラファイトの分散以外にも、グラファイトの微細化及び剥離が複合的に生じ、グラファイトの粒子数が増えているものと推測される。
【0074】
本発明の一実施形態に係る発泡性熱可塑性樹脂粒子において、マスターバッチが熱可塑性樹脂(新たな熱可塑性樹脂)と混練されて得られる場合には、マスターバッチに含まれる熱可塑性樹脂と、新たな熱可塑性樹脂とは、同一であってもよいし、異なっていても良い。グラファイトの分散性、及び発泡成形性の観点から、マスターバッチに含まれる熱可塑性樹脂と、新たな熱可塑性樹脂とは、互いに相溶性に優れるものであることが好ましい。
【0075】
第1および第2の溶融混練法における押出機の溶融混練部の設定温度は、100℃~250℃が好ましい。また、押出機に樹脂及び各種成分を供給してから溶融混練終了までの押出機内滞留時間が10分以下であることが好ましい。
【0076】
押出機の溶融混練部での設定温度が250℃以下の場合、及び/又は、溶融混練終了までの押出機内滞留時間が10分以下の場合には、臭素系難燃剤の分解が起こりにくく、所望の難燃性を得ることが可能となり、所望の難燃性を付与するために難燃剤を過剰に添加する必要がないという効果を奏する。
【0077】
一方、押出機の溶融混練部での設定温度が100℃以上の場合には、押出機の負荷が小さくなって押出が安定となる。
【0078】
ここで、押出機の溶融混練部とは、単軸又は二軸スクリューを有する押出機から構成される場合、フィード部以降から下流側最終押出機先端までを意味する。第1の押出機に付随してスタティックミキサーおよびスクリューを有さない撹拌機など第2の混練装置を併用する場合は第1の押出機のフィード部から第2の混練装置の先端までを意味する。
【0079】
第1および第2の溶融混練法において使用される押出機は、公知の押出機を使用でき、単軸押出機であってもよいし、二軸押出機であってもよいし、単軸押出機および/または二軸押出機を組み合わせたタンデム型の構成であってもよい。グラファイト及び熱可塑性樹脂を含む混合物を押出機で溶融混練する工程においては、二軸押出機を使用することがグラファイトの分散の観点から好ましい。単軸押出機ではグラファイトの分散不良が生じることがあるが、単軸押出機の後にスタティックミキサーを設置する等で混練性能を改善することにより、グラファイトを十分に分散できる場合がある。
【0080】
第1および第2の溶融混練法で用いられるダイスは特に限定されないが、例えば、好ましくは直径0.3mm~2.0mm、より好ましくは0.4mm~1.0mmの小孔を有するものが挙げられる。
【0081】
第1の溶融混練法では、押出機中にて熱可塑性樹脂中に発泡剤、グラファイト、必要に応じて、臭素系難燃剤、熱安定剤、及び造核剤等のその他添加剤が溶解又は均一分散される。そして、必要に応じて適切な温度まで冷却された溶融樹脂(溶融混練物)は、複数の小孔を有するダイスから、加圧された冷却水中に押出される。
【0082】
第1の溶融混練法において、ダイスより押出される直前の溶融樹脂の温度は、発泡剤を含まない状態での熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTgとすると、Tg+40℃以上であることが好ましく、Tg+40℃~Tg+100℃であることがより好ましく、Tg+50℃~Tg+70℃であることがさらに好ましい。
【0083】
ダイスより押出される直前の溶融樹脂の温度がTg+40℃以上の場合は、押出された溶融樹脂の粘度が低くなり、小孔が詰まることが少なくなり、実質小孔開口率の低下のために得られる樹脂粒子が変形しにくくなる。一方で、ダイスより押出される直前の溶融樹脂の温度がTg+100℃以下の場合は、押出された溶融樹脂が固化しやすくなり、発泡してしまうことが抑制される。また、押出された溶融樹脂の粘度が低くなりすぎず、回転カッターにより安定的に切断されることが可能となり、押出された溶融樹脂が回転カッターに巻き付きにくくなる。
【0084】
第1の溶融混練法における循環加圧冷却水に押出された溶融樹脂を切断する切断装置としては、特に限定されないが、例えば、ダイスリップに接触する回転カッターで切断されて小球化され、加圧循環冷却水中を発泡することなく、遠心脱水機まで移送されて脱水・集約される装置、等が挙げられる。
【0085】
本発明の一実施形態に係る発泡性熱可塑性樹脂は、一般的な発泡性熱可塑性樹脂粒子の製造に使用されるシード重合によっても製造できる。具体的には、熱可塑性樹脂及びグラファイトを押出機で溶融混練し、小孔を有するダイスを通じて押出して、カッターで切断することにより、グラファイト含有樹脂種粒子を得た後、該グラファイト含有樹脂種粒子を水中に懸濁させ、樹脂単量体、開始剤、必要に応じて、臭素系難燃剤、造核剤などのその他添加剤を供給してシード重合を行い、重合前及び/又は重合中及び/又は重合後に発泡剤を含浸させる方法が挙げられる。グラファイト含有樹脂種粒子を得る工程における条件等は、上述の第2の溶融押出法の条件等が同様に適用可能である。また、シード重合および発泡剤の含浸の製造条件は、使用する成分等に応じて適宜設定すればよい。
【0086】
本発明の一実施形態にかかる発泡性熱可塑性樹脂粒子の製造方法は、特に限定されないが、例えば以下の方法が挙げられる:
(i)発泡性熱可塑性樹脂粒子の製造方法であって、熱可塑性樹脂、グラファイト及び発泡剤を溶融混練する混練工程を含み前記グラファイトの含有量が前記発泡性熱可塑性樹脂粒子100重量%において2.0重量%以上10.0重量%以下であり、前記発泡性熱可塑性樹脂粒子中の前記グラファイトの平均粒径が0.5μm以上2.5μm未満であり、下記式(1)で表される前記発泡性熱可塑性樹脂粒子中の前記グラファイトの粒度分布の幅を示すスパン「S」が4.0以下であり、前記発泡性熱可塑性樹脂粒子中の前記グラファイトのD90を、前記混練工程において溶融混練される前の前記グラファイトのD90で除した値が2.0以下である、発泡性熱可塑性樹脂粒子の製造方法:
S=(D90-D10)/D50・・・式(1)
(前記式(1)において、D90は90%体積累積粒径、D10は10%体積累積粒径、D50は50%体積累積粒径(平均粒径)を示す。);または
(ii)発泡性熱可塑性樹脂粒子の製造方法であって、熱可塑性樹脂およびグラファイトを溶融混練する第1の混練工程と、前記第1の混練工程にて得られた溶融混練物、新たな熱可塑性樹脂および発泡剤を溶融混練する第2の混練工程と、を含み、前記グラファイトの含有量が前記発泡性熱可塑性樹脂粒子100重量%において2.0重量%以上10.0重量%以下であり、前記発泡性熱可塑性樹脂粒子中の前記グラファイトの平均粒径が0.5μm以上2.5μm未満であり、下記式(1)で表される前記発泡性熱可塑性樹脂粒子中の前記グラファイトの粒度分布の幅を示すスパン「S」が4.0以下であり、前記発泡性熱可塑性樹脂粒子中の前記グラファイトのD90を、前記第1の混練工程において溶融混練される前の前記グラファイトのD90で除した値が2.0以下である、発泡性熱可塑性樹脂粒子の製造方法:
S=(D90-D10)/D50・・・式(1)
(前記式(1)において、D90は90%体積累積粒径、D10は10%体積累積粒径、D50は50%体積累積粒径(平均粒径)を示す。)。
【0087】
上述した製造方法であれば、溶融混練時における凝集体の発生を抑えることができる。そのため、高い断熱性及び高い発泡性を両立する発泡性熱可塑性樹脂粒子を得ることができる。
【0088】
前記(i)の製造方法の混練工程、または前記(ii)の製造方法の第2の混練工程では、二軸の攪拌機を備えた押出機を使用し、必要に応じて難燃剤、およびその他の添加剤を混合してもよい。前記(i)の製造方法では、混練工程において得られた混練物を必要に応じて所定の温度に冷却した後、例えば、小孔を有するダイスを通じて、加圧循環水で満たされたカッターチャンバー内に押出し、押出直後から回転カッターにより切断することにより、発泡性熱可塑性樹脂粒子を得ることができる。また、前記(ii)の製造方法では、第2の混練工程において得られた混練物を必要に応じて所定の温度に冷却した後、例えば、小孔を有するダイスを通じて、加圧循環水で満たされたカッターチャンバー内に押出し、押出直後から回転カッターにより切断することにより、発泡性熱可塑性樹脂粒子を得ることができる。
【0089】
前記(i)および(ii)の製造方法において、押出機の設定温度は、100℃~250℃が好ましい。当該構成であれば、押出機の負荷が小さくなるため、押出しが安定するという効果を奏する。
【0090】
また、前記(i)および(ii)の製造方法において、押出機に各種成分を供給してから混合終了までの押出機内の滞留時間が10分以下であることが好ましい。当該構成であれば、難燃剤の分解が起こりにくく、また、難燃剤を過剰に添加する必要がないという効果を奏する。
【0091】
前記(ii)の製造方法の第1の混練工程において得られる溶融混練物は、マスターバッチであり得る。すなわち、前記第1の混練工程は、マスターバッチを得る工程ともいえる。
【0092】
前記(ii)の製造方法の第2の混練工程は、前記第1の混練工程にて得られたマスターバッチ及び新たな熱可塑性樹脂を溶融混練する工程であってもよい。また、第2の溶融混練工程において「新たな熱可塑性樹脂」とは、前記マスターバッチにさらに加えられる熱可塑性樹脂を意図しており、「新たな樹脂」との表現は、マスターバッチに既に含まれている樹脂とマスターバッチに更に加えられる樹脂とを区別するために用いられる。マスターバッチに既に含まれている熱可塑性樹脂と、マスターバッチに更に加えられる熱可塑性樹脂と、は同じ熱可塑性樹脂であってもよく、異なる熱可塑性樹脂であってもよい。
【0093】
[4.予備発泡粒子および発泡成形体]
本発明の一実施形態に係る予備発泡粒子は、前記発泡性熱可塑性樹脂粒子を予備発泡した熱可塑性樹脂の予備発泡粒子であることが好ましい。
【0094】
本発明の一実施形態に係る予備発泡粒子は、前記構成を有するため、予備発泡直後の収縮が軽減されるものである。そのため、本発明の一実施形態に係る予備発泡粒子は、高い発泡倍率を有することができ、高い発泡倍率を有する発泡成形体、すなわち軽量である発泡成形体を提供できる。また、本発明の一実施形態に係る予備発泡粒子は、前記構成を有するため、発泡成形体としたとき、当該発泡成形体に低い熱伝導率を発現させ得る。すなわち、本発明の一実施形態に係る予備発泡粒子は、低い熱伝導率を有する、換言すれば高い断熱性を有する発泡成形体を提供できる。
【0095】
本発明の一実施形態に係る発泡性熱可塑性樹脂粒子は、従来公知の予備発泡工程、例えば、加熱水蒸気によって10~110倍に発泡させて予備発泡樹脂粒子とし、必要に応じて一定時間養生させた後、成形に使用される。得られた予備発泡樹脂粒子は、従来公知の成形機を用い、水蒸気によって成形(例えば型内成形)されて発泡成形体が作製される。使用される金型の形状により、複雑な形の型物成形体およびブロック状の成形体を得ることができる。
【0096】
本発明の一実施形態に係る発泡性熱可塑性樹脂粒子において、前記発泡性熱可塑性樹脂粒子を発泡倍率50倍の熱可塑性樹脂発泡成形体に成形した場合に、前記熱可塑性樹脂発泡成形体を50℃温度下で30日間静置し、さらに23℃の温度下にて24時間静置した後、JIS A9511:2006Rに準拠して測定した中心温度23℃での熱伝導率が、0.0310W/mK以下であることが好ましい。当該構成であれば、長期にわたって非常に低い熱伝導率、ひいては高い断熱性を維持する熱可塑性樹脂発泡成形体を得ることができる。
【0097】
また、本発明の一実施形態に係る発泡性熱可塑性樹脂粒子は、発泡成形体の発泡倍率が80倍(cm3/g)の高倍率であっても、非常に低い熱伝導性を有することができる。具体的には、後述の、発泡倍率80倍における熱伝導率Aが0.0310W/mK以下の非常に低い熱伝導率を示すことが好ましい。さらに50℃という発泡剤が揮散し易い温度下で30日保存後の、後述の発泡倍率80倍における熱伝導率Bが0.0324W/mK以下と非常に低いことが好ましく、この場合長期にわたって非常に低い熱伝導率ひいては高い断熱性を維持することができる。なお、発泡倍率50倍においては、熱伝導率Aは0.0284W/mK以下、熱伝導率Bは0.0310W/mK以下を示すことが好ましい。
【0098】
さらに、発泡成形体は発泡倍率が高いほど原料である発泡性熱可塑性樹脂粒子の使用量が少なくなることから、本発明の一実施形態によれば、高い発泡倍率の発泡成形体を安価に製造することができる。
【0099】
本発明の一実施形態に係る発泡成形体は、低い熱伝導率を有すると共に、自己消火性を有し、かつ酸素指数26以上に調整することが可能であり、その場合には建築用断熱材として特に好適に使用できる。
【0100】
本発明の一実施形態に係る熱可塑性樹脂発泡成形体において、発泡倍率が50倍(cm3/g)以上であることが好ましい。さらに、発泡成形体の発泡倍率は、より好ましくは70倍(cm3/g)以上、さらに好ましくは80倍(cm3/g)以上である。当該構成によれば、80倍以上の発泡成形体とした場合でも低い熱伝導率を達成できるため、製造コストが安く、軽量性でも有利な、より高発泡の発泡成形体としても高性能な断熱性を発現できる。
【0101】
なお、本明細書において、発泡倍率を「倍」又は「cm3/g」という単位で示すがこれらは互いに同じ意味である。
【0102】
本発明の一実施形態に係る発泡性熱可塑性樹脂粒子は、予備発泡粒子の予備発泡直後の収縮を軽減することが出来る。予備発泡粒子の収縮率は、予備発泡粒子の予備発泡直後のかさ倍率と養生後のかさ倍率から後述の式を用いて算出され、好ましくは0~10%以下、より好ましくは0~8%以下、さらに好ましくは0~6%である。予備発泡粒子の収縮率が低いと、さらなる高発泡倍率化に有利であったり、安定的に高発泡倍率を得られたり、養生サイロ内での予備発泡粒子の管理が容易となる等の利点がある。
【0103】
発泡成形体の平均セル径は、好ましくは70~250μm、より好ましくは90~200μm、さらに好ましくは100~180μmである。平均セル径が前述の範囲にあることによって、断熱性が高い発泡成形体となる。平均セル径が70μm以上では、発泡成形体の独立気泡率が増加し、また、平均セル径が250μm以下では、熱伝導率が低下する。平均セル径は、例えば、造核剤の量を適宜選択することにより調整できる。
【0104】
本発明の一実施形態に係る熱可塑性樹脂発泡成形体は、前記熱可塑性樹脂の予備発泡粒子を成形した熱可塑性樹脂発泡成形体であることが好ましい。
【0105】
本発明の一実施形態に係る熱可塑性樹脂発泡成形体は、前記構成を有するため、高い発泡倍率を有することができ、すなわち軽量となり得る。また、本発明の一実施形態に係る熱可塑性樹脂発泡成形体は、前記構成を有するため、低い熱伝導率を有し、すなわち高い断熱性を有する。
【0106】
[5.熱可塑性樹脂発泡成形体の製造方法]
以下に本発明の一実施形態に係る熱可塑性樹脂発泡成形体の製造方法の、構成及び特徴について詳細に説明する。
【0107】
本発明の一実施形態に係る熱可塑性樹脂発泡成形体の製造方法は、前述した各実施形態の何れかに係る発泡性熱可塑性樹脂粒子を予備発泡させて得られた熱可塑性樹脂の予備発泡樹脂粒子を、成形する工程を備えることが好ましい。
【0108】
また、本発明の一実施形態に係る熱可塑性樹脂発泡成形体の製造方法は、前述した各実施形態に係る発泡性熱可塑性樹脂粒子の製造方法によって作製した発泡性熱可塑性樹脂粒子を予備発泡させて得られた予備発泡樹脂粒子を、成形する工程を備えることが好ましい。
【0109】
また、本発明の一実施形態に係る熱可塑性樹脂発泡成形体の製造方法は、前述した一実施形態に係る予備発泡粒子を成形する工程を備えることが好ましい。
【0110】
また、本発明の一実施形態に係る熱可塑性樹脂発泡成形体の製造方法は、前述した一実施形態に係る熱可塑性樹脂発泡成形体を作製するために使用されてもよい。
【0111】
本発明の一実施形態に係る熱可塑性樹脂発泡成形体の製造方法によって得られる熱可塑性樹脂発泡成形体は、[4.予備発泡粒子および発泡成形体]に記載された各構成及び物性を備えることが好ましく、本発明の一実施形態に係る熱可塑性樹脂発泡成形体の各構成及び物性を備えることがより好ましい。
【0112】
本発明の一実施形態に係る熱可塑性樹脂発泡成形体の製造方法は、所定の予備発泡工程と、成形工程とを含むことが好ましい。本製造方法は、予備発泡機の缶内に入れた発泡性熱可塑性樹脂粒子に水蒸気を投入して予備発泡粒子を得る予備発泡工程と、予備発泡粒子を型内成形する成形工程とを含み、かつ、予備発泡工程における水蒸気投入時間を50~500秒とするものであることが好ましい。
【0113】
本発明の一実施形態に係る熱可塑性樹脂発泡成形体の製造方法は、所定の成形工程を含むことが好ましい。具体的には、本製造方法は、予備発泡粒子を型内成形する成形工程を含むことが好ましい。
【0114】
(5-1.予備発泡工程)
予備発泡工程は、予備発泡機を用い、従来の発泡性熱可塑性樹脂粒子の予備発泡と同様にして実施できる。
【0115】
(5-2.成形工程)
成形工程では、予備発泡粒子を用いる以外は、従来の発泡成形法と同様にして、熱可塑性樹脂発泡成形体を得ることができる。成形工程における予備発泡粒子は、前述の予備発泡工程で得られた予備発泡粒子であってもよく、本発明の一実施形態に係る予備発泡粒子であってもよい。
【0116】
また、本発明の一実施形態では、予備発泡粒子、及び熱可塑性樹脂発泡成形体の独立気泡率をそれぞれ95~100%に調整することが好ましい。予備発泡粒子の独立気泡率が95%以上では、発泡倍率を高くしやすく、かつ、これを用いて得られる熱可塑性樹脂発泡成形体の表面美麗性が増加する傾向がある。また、熱可塑性樹脂発泡成形体の独立気泡率が95%以上では、その熱伝導率が低下する傾向がある。独立気泡率は、例えば、缶内又は成形金型内に水蒸気と空気との混合物を導入し、該混合物における水蒸気の割合を適宜選択することにより、調整できる。
【0117】
発泡倍率の高い予備発泡粒子を得る技術として、二段発泡法が知られている。二段発泡法とは、発泡性熱可塑性樹脂粒子に一段目の予備発泡を施して発泡倍率をある程度高めた予備発泡粒子を得、これを養生してその内部に空気を導入した後、二段目の予備発泡により発泡倍率をさらに高めた予備発泡粒子を得る方法である。二段発泡法には、一段目の予備発泡終了後に、得られた予備発泡粒子を予備発泡機の缶内で養生する方法と、得られた予備発泡粒子を一旦予備発泡機から取り出して養生した後、再度予備発泡機に投入する方法とがある。当該構成であれば、熱伝導率が低い熱可塑性樹脂発泡成形体を提供することができる。
【0118】
[6.用途]
本発明の一実施形態に係る発泡性熱可塑性樹脂粒子を用いて得られる発泡成形体は、長期間経過後の熱伝導率を低くすることができるため、(i)床、壁、屋根等に用いられる建築用断熱材、自動車用断熱材、(ii)魚等の水産物を輸送する箱、および野菜等の農産物を輸送する箱などの農水産箱、(iii)浴室用断熱材及び貯湯タンク断熱材のような各種用途に使用できる。
【0119】
本発明の一実施形態は、以下の構成を有するものであってもよい。
【0120】
〔1〕グラファイト、熱可塑性樹脂および発泡剤を含有する発泡性熱可塑性樹脂粒子であって、前記グラファイトの含有量が前記発泡性熱可塑性樹脂粒子100重量%において2.0重量%以上10.0重量%以下であり、前記発泡性熱可塑性樹脂粒子中の前記グラファイトの平均粒径が0.5μm以上2.5μm未満であり、下記式(1)で表される前記発泡性熱可塑性樹脂粒子中の前記グラファイトの粒度分布の幅を示すスパン「S」が4.0以下である、発泡性熱可塑性樹脂粒子。
S=(D90-D10)/D50・・・式(1)
(前記式(1)において、Sは前記グラファイトの粒度分布の幅を示すスパン、D90は90%体積累積粒径、D10は10%体積累積粒径、D50は50%体積累積粒径(平均粒径)を示す。)
〔2〕前記発泡性熱可塑性樹脂粒子中の前記グラファイトのD90を、混練前のグラファイトのD90で除した値が2.0以下である、〔1〕に記載の発泡性熱可塑性樹脂粒子。
【0121】
〔3〕前記熱可塑性樹脂がスチレン系樹脂を含む、〔1〕または〔2〕に記載の発泡性熱可塑性樹脂粒子。
【0122】
〔4〕前記発泡性熱可塑性樹脂粒子中のグラファイト単位溶液濃度あたりのレーザー散乱強度が10{%/(mg/ml)}/重量%以上である、〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載の発泡性熱可塑性樹脂粒子。
【0123】
〔5〕前記発泡性熱可塑性樹脂粒子中のグラファイト単位溶液濃度あたりのレーザー散乱強度が11{%/(mg/ml)}/重量%以上である、〔1〕~〔4〕のいずれか1つに記載の発泡性熱可塑性樹脂粒子。
【0124】
〔6〕前記発泡剤が、炭素数4~6の炭化水素の群から選択される少なくとも2種を含み、少なくとも2種のうち1種が炭素数4または5の炭化水素である、〔1〕~〔5〕のいずれか1つに記載の発泡性熱可塑性樹脂粒子。
【0125】
〔7〕前記発泡性熱可塑性樹脂粒子を発泡倍率50倍の熱可塑性樹脂発泡成形体に成形した場合に、前記熱可塑性樹脂発泡成形体を50℃温度下で30日間静置し、さらに23℃の温度下にて24時間静置した後、JIS A9511:2006Rに準拠して測定した中心温度23℃での熱伝導率が、0.0310W/mK以下である、〔1〕~〔6〕のいずれか1つに記載の発泡性熱可塑性樹脂粒子。
【0126】
〔8〕〔1〕~〔7〕のいずれか1つに記載の前記発泡性熱可塑性樹脂粒子を予備発泡した熱可塑性樹脂の予備発泡粒子。
【0127】
〔9〕〔8〕に記載の前記熱可塑性樹脂の予備発泡粒子を成形した熱可塑性樹脂発泡成形体。
【0128】
〔10〕発泡倍率が50倍(cm3/g)以上である、〔9〕に記載の熱可塑性樹脂発泡成形体。
【実施例】
【0129】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明の一実施形態を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0130】
また、以下の実施例および比較例では、熱可塑性樹脂の一例として、スチレン系樹脂を使用した。使用したスチレン系樹脂の詳細については、後述する。
【0131】
なお、以下の実施例及び比較例における測定方法及び評価方法は、以下のとおりである。
【0132】
[発泡成形体の熱伝導率Aの測定]
一般的に熱伝導率の測定平均温度が大きい方が熱伝導率の値は大きくなることが知られており、断熱性を比較するためには測定平均温度を定める必要がある。本明細書では発泡プラスチック保温材の規格であるJIS A9511:2006Rで定められた23℃を基準に採用した。
【0133】
以下の実施例及び比較例では、熱伝導率Aは、発泡成形体から熱伝導率測定サンプルを切り出し、サンプルを50℃温度下で48時間静置し、さらに、23℃の温度下にて24時間静置した後に測定した。
【0134】
より詳しくは、発泡成形体から、長さ300mm×幅300mm×厚さ25mmのサンプルを切り出した。厚さ方向は発泡成形体の厚さ25mmをそのまま使用した。従ってサンプルの長さ300mm×幅300mmの2面は発泡成形体の成形されたときの表面のままである。このような、成形されたときの表面を一般的に「表面スキン」と呼んでおり、該明細書中では「表層」と定義する。サンプルを50℃温度下にて48時間静置し、さらに、23℃温度下にて24時間静置した後、熱伝導率測定装置(英弘精機(株)製、HC-074)を用いて、JIS A1412-2:1999に準拠して熱流計法にて平均温度23℃、温度差20℃で熱伝導率Aを測定した。
【0135】
[アニーリング後の発泡成形体の熱伝導率Bの測定]
長期間後において発泡剤が空気に置き換わった場合の熱伝導率Bを評価するために、発泡成形体から熱伝導率測定サンプルを切り出し、サンプルを50℃温度下で30日間静置し、さらに23℃の温度下にて24時間静置した後、熱伝導率Bを測定した。
【0136】
50℃で30日間乾燥(アニーリング)することにより、発泡成形体中に含有されるブタン、ペンタン等の炭化水素系発泡剤の含有量は0.5%以下となっており、熱伝導率に与える影響は軽微となり、発泡成形体を常温で長期間使用した場合の熱伝導率Bをほぼ正確に評価することができる。
【0137】
より詳しくは、発泡成形体から、熱伝導率Aの測定と同様に長さ300mm×幅300mm×厚さ25mmのサンプルを切り出した。サンプルを50℃温度下にて30日間静置し、さらに、23℃温度下にて24時間静置した後、熱伝導率測定装置(英弘精機(株)製、HC-074)を用いて、JIS A1412-2:1999に準拠して熱流計法にて平均温度23℃、温度差20℃で熱伝導率Bを測定した。
【0138】
[グラファイト含有量の測定]
実施例および比較例で得られた発泡性熱可塑性樹脂粒子(発泡性スチレン系樹脂粒子)を約10mg採取しサンプルとした。このサンプルを、熱分析システム:EXSTAR6000を備えた熱重量測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製、TG/DTA 220U)を用いて、下記I~IIIを連続で実施し、IIIにおける重量減少量をグラファイト重量とし、サンプル重量に対するパーセントで表した。
I. 200mL/分の窒素気流下で40℃から600℃まで20℃/分で昇温した後600℃で10分保持、
II. 200mL/分の窒素気流下で600℃から400℃まで10℃/分で降温した後400℃で5分保持、
III.200mL/分の空気気流下で400℃から800℃まで20℃/分で昇温した後800℃で15分保持。
【0139】
[グラファイトの体積累積粒径(D50、D10、D90(μm))及びレーザー散乱強度(%)の測定]
(1)試料溶液調整条件
(a)測定対象が、発泡性スチレン系樹脂粒子の場合
発泡性スチレン系樹脂粒子500mgを0.1%(w/w)スパン80トルエン溶液20mLに溶解及び分散させる。
【0140】
(b)測定対象が、混練前のグラファイト、即ち原材料のグラファイト自体の場合
グラファイト20mg及びスチレン系樹脂(A)480mgを0.1%(w/w)スパン80トルエン溶液20mLに溶解及び分散させる。
【0141】
(a)及び(b)において、0.1%(w/w)スパン80トルエン溶液は、測定対象を溶解及び分散させる溶媒であり、分散媒体とも称する。(a)及び(b)において、分散とは、樹脂が溶解して、グラファイトが分散している状態のことをいう。0.1%(w/w)スパン80トルエン溶液は、界面活性剤であるスパン80(東京化成工業(株)製)をトルエンに0.1%(w/w)加えたものを指す。
【0142】
次いで、超音波洗浄器にて、前記の試料溶液に超音波を照射し、グラファイトの凝集を緩和させる。
【0143】
(2)超音波照射条件
使用装置 :アズワン株式会社製 超音波洗浄器 型番USM
発振周波数:42kHz
照射時間 :10分
温度 :室温。
【0144】
(3)粒径測定条件
測定装置 :マルバーン社製 レーザー回折式粒度分布測定装置 マスターサイザー3000
光源 :632.8nm赤色He-Neレーザー及び470nm青色LED
分散ユニット:湿式分散ユニット Hydro MV
以下の設定で分析を実施し、ISO13320:2009、JIS Z8825:2013に準拠したMie理論に基づくレーザー回折・散乱法による測定・解析により、体積分布を求め、サンプル中のグラファイトの平均粒径(50%体積累積粒径)D50、10%体積累積粒径D10、90%体積累積粒径D90を算出した。
【0145】
粒子の種類 :非球形
グラファイト屈折率 :2.42
グラファイト吸収率 :1.0
分散媒体 :0.1%(w/w)スパン80トルエン溶液
分散媒体の屈折率 :1.49
分散ユニット中の撹拌数:2500rpm
解析モデル :汎用、単一モードを維持
測定温度 :室温。
【0146】
(4)測定手順
0.1%(w/w)スパン80トルエン溶液120mLを分散ユニットに注入し、2500rpmで撹拌し、安定化させた。測定セルに試料溶液サンプルが存在せず、分散媒体のみの状態で632.8nm赤色He-Neレーザー光を照射したときの中央検出器で測定された光の強度を、分散媒体(溶媒)の透過光強度Lbとした。次いで、超音波処理した試料溶液を2mL採取し、分散ユニットに追加した。試料溶液を追加して1分後の632.8nm赤色He-Neレーザー光を照射したときの中央検出器で測定された光の強度を、試料溶液の透過光強度Lsとした。得られたLs及びLbより、以下の式(2)で試料溶液のレーザー散乱強度Ob(%)を算出した。
【0147】
Ob(%)=(1-Ls/Lb)×100・・・式(2)
中央検出器はレーザー光の出力に対して対向した正面に位置する検出部であり、ここで検出される光が散乱に使用されなかった透過光の尺度である。レーザー散乱強度とは、試料中で解析装置のレーザーを散乱させたときに失われるレーザー光の量の尺度である。
【0148】
また、Ls,Lbと同時にD50、D10、D90を測定し、これらを用いてグラファイトの粒度分布の幅を示すスパン「S」を以下の式(1)より算出した。
【0149】
S=(D90-D10)/D50・・・式(1)
スパンが大きいことはグラファイトの粒度分布が広いことを指す。とくに平均粒径2.5μm未満のグラファイトを用いるときにスパンが大きい場合には、混練前のグラファイト(すなわち原料のグラファイト)には存在しなかった大きな凝集体の発生がある可能性が高いことを指している。
【0150】
(5)発泡性スチレン系樹脂粒子単位溶液濃度あたりのレーザー散乱強度の算出
以下の式(3)にて、発泡性スチレン系樹脂粒子単位溶液濃度あたりのレーザー散乱強度を算出した。
【0151】
発泡性スチレン系樹脂粒子単位溶液濃度あたりのレーザー散乱強度(%/(mg/ml))=レーザー散乱強度(Ob)(%)/{サンプル重量(500mg)/トルエン量(20mL)×試料注入量(2mL)/分散ユニット内の全トルエン量(120mL+2mL)}・・・式(3)。
【0152】
単位溶液濃度あたりのレーザー散乱強度とは、測定したレーザー散乱強度をトルエン中のサンプル濃度で割った値である。この測定装置は溶液で測定する必要のある装置であるため、トルエン溶液中のサンプル濃度を一定とし、一定のサンプル量における測定値を得ている。
【0153】
(6)発泡性スチレン系樹脂粒子中のグラファイト単位溶液濃度あたりのレーザー散乱強度の算出
以下の式(4)にて、発泡性スチレン系樹脂粒子中に含有されるグラファイト単位溶液濃度あたりのレーザー散乱強度を算出した。
【0154】
発泡性スチレン系樹脂粒子中のグラファイト単位溶液濃度あたりのレーザー散乱強度{%/(mg/ml)}/重量%=発泡性スチレン系樹脂粒子単位溶液濃度あたりのレーザー散乱強度(%/(mg/ml))/発泡性スチレン系樹脂粒子のグラファイト含有量(重量%)・・・式(4)。
【0155】
同じ重量のグラファイトであっても発泡性スチレン系樹脂粒子に含有されるグラファイトの状態、即ち分散されている濃度を調節することによって断熱性を向上できることが本発明の一実施形態の本質である。前記グラファイト単位溶液濃度あたりのレーザー散乱強度を用いることによって本発明の一実施形態を表現することができる。
【0156】
(7)混練前のグラファイトとスチレン系樹脂との混合物の単位溶液濃度あたりのレーザー散乱強度の算出
以下の式(5)にて、混練前のグラファイトとスチレン系樹脂との混合物の単位溶液濃度あたりのレーザー散乱強度を算出した。
【0157】
混練前のグラファイトとスチレン系樹脂との混合物の単位溶液濃度あたりのレーザー散乱強度{%/(mg/ml)}=レーザー散乱強度(Ob)(%)/[{グラファイト重量(20mg)+スチレン系樹脂(480mg)}/トルエン量(20mL)×試料注入量(2mL)/分散ユニット内の全トルエン量(120mL+2mL)]・・・式(5)。
【0158】
(8)混練前のグラファイト単位溶液濃度あたりのレーザー散乱強度
以下の式(6)にて、混練前のグラファイト、即ち原材料グラファイト単位溶液濃度あたりのレーザー散乱強度を算出した。
【0159】
混練前のグラファイト単位溶液濃度あたりのレーザー散乱強度{%/(mg/ml)}/重量%=混練前のグラファイトとスチレン系樹脂との混合物の単位溶液濃度あたりのレーザー散乱強度(%/(mg/ml))/混練前のグラファイトとスチレン系樹脂との混合物中のグラファイト含有量(20/500×100=4重量%)・・・式(6)。
【0160】
[臭素含有量の測定]
臭素の含有量は、酸素フラスコ燃焼法を行った後、イオンクロマト法(以下、IC法と称する)により、臭素の定量分析を行って求めた。
【0161】
(1)酸素フラスコ燃焼法
導火部を有する濾紙の中央に、試料(発泡成形体5mg)を置き、導火部を固定したまま濾紙を縦方向に三つ折りした。その後、濾紙を横方向に三つ折りにし、試料を包含した濾紙を、500mlの燃焼フラスコの共栓部(ガラス栓)に取り付けた白金バスケットに入れた。他方、燃焼フラスコの三角フラスコには、25mlの吸収液(飽水ヒドラジン1滴を滴下した超純水)を入れ、さらに酸素を満たしておいた。
【0162】
濾紙の導火部に点火し、濾紙が固定された白金バスケットを三角フラスコに挿入し、三角フラスコ内部で試料を燃焼させた。燃焼終了後に、燃焼フラスコを傾斜させて2分間振盪し、その後1時間放置することにより、燃焼により発生した臭素を吸収液に吸収させた。
【0163】
(2)IC法
酸素フラスコ燃焼法により得られた吸収液に対して、IC法により臭素イオン量を測定
した。
【0164】
使用装置 :ダイオネクス社製、ICS-2000
カラム :IonPac AG18、AS18(4mmφ×250mm)
溶離液 :KOHグラジエント(溶離液ジェネレータ使用)
容離液流量:1.0ml/分
試料注入量:50μl
検出器 :電気伝導度検出器
試料中の臭素濃度は、以下の式(7)を用いて算出した。
【0165】
試料中の臭素濃度(%)=[{スチレン系樹脂発泡成形体のIC測定結果(mg/l)-バックグラウンド試験結果(mg/l)}×25(ml)×1000]/{試料採取量(mg)×10000}・・・式(7)。
【0166】
[予備発泡粒子のかさ倍率、収縮率の測定方法]
予備発泡粒子を各々測定試料としてW(g)採取し、この測定試料をメスシリンダー内に自然落下させた後にメスシリンダーをたたき試料の見掛け体積V(cm3)を一定とし、その質量(g)と体積(cm3)を測定し、以下の式(8)に基づき、かさ倍率を測定した。
【0167】
かさ倍率(cm3/g)=測定試料の体積(V)/測定試料の重量(W)・・・式(8)。
【0168】
予備発泡粒子において、予備発泡機から予備発泡粒子が排出された後5~10分以内に測定したかさ倍率を予備発泡後に収縮が生じた、予備発泡直後のかさ倍率と定義する。
【0169】
予備発泡粒子において、収縮後に30℃で24時間養生した後に測定したかさ倍率を養生後のかさ倍率と定義する。
【0170】
さらに、以下の式(9)を用いて、予備発泡粒子の収縮率を評価した。
【0171】
収縮率(%)=100-予備発泡直後のかさ倍率/養生後のかさ倍率×100・・・式(9)。
【0172】
[発泡倍率の測定並びに発泡性能及び成形性能の評価]
発泡成形体から、熱伝導率の測定の場合と同様に、長さ300mm×幅300mm×厚さ25mmのサンプルを切り出した。サンプルの重量(g)を測定すると共に、ノギスを用いて、縦寸法、横寸法、厚さ寸法を測定した。測定された各寸法からサンプルの体積(cm3)を計算し、下記の式(10)に従って発泡倍率を算出した。
【0173】
発泡倍率(cm3/g)=サンプル体積(cm3)/サンプル重量(g)・・・式(10)。
【0174】
なお、前述したように、発泡成形体の発泡倍率「倍」は慣習的に「cm3/g」でも表されている。
【0175】
さらに、得られた発泡倍率80倍の発泡成形体の表面を観察し、粒子間の空隙が少ないものを表面美麗性が良い、空隙が目立つものを表面美麗性が悪いと判定した。
【0176】
測定した発泡倍率及び成形体表面の美麗性に基づいて、スチレン系樹脂発泡成形体の発泡性能及び成形性能について評価した。発泡性能及び成形性能は、次の基準により評価した。
○:80倍発泡可能で美麗な成形体が得られた。
△:80倍発泡可能であるが、美麗な成形体が得られなかった。
×:80倍発泡不可能であった。
【0177】
[難燃性の評価]
作製された発泡成形体に対して、60℃温度下にて48時間静置し、さらに23℃温度下にて24時間静置した後、JIS K7201に準じて、酸素指数を測定した。
【0178】
[発泡成形体プレス品の一断面のSEM観察]
本発明では、試料として発泡成形体を溶融及び圧縮することでフィルム状のプレス品を作製し、グラファイトをプレスした面に平行に配向させた。次に、作製したフィルム状のプレス品から試料切片を切り出した。試料切片の断面の観察によりグラファイトを側面から観察でき、グラファイトの分散状態を把握できる。以下にその詳細を示す。
【0179】
(1)プレス品の作製
実施例1および比較例1で製造された発泡成形体(発泡倍率50倍)をプレス品とする試料に用いた。試料の重量は0.2gとした。均一な厚さのプレス品を得るために、ステンレス製の50μm厚スペーサーを使用した。試料を前記スペーサーとともに、150mm×150mm×0.2mmのポリイミド製フィルム2枚で挟み、これを上板200℃/下板205℃で十分予熱されたプレス機に置いて、プレス機の上板と下板との間隔を2mmとした状態で2分間保持し、試料を十分溶融及び脱泡した。次にプレスにより50kgf/cm2まで加圧し、2分間保持することでフィルム状のプレス品を得た。ここでプレス品において、プレス機の上板側の面を表、下板側の面を裏と称する。次にプレス品をポリイミド製フィルムで挟んだまま、前記プレス機とは別の室温のプレス機で50kgf/cm2まで加圧し、室温まで冷却した。ここで室温は10~30℃を目安とし、室温までの冷却に要する時間の目安は5分である。冷却したプレス品をポリイミド製フィルムから剥がし、以下の(2)に進んだ。
【0180】
(2)SEM観察用試料の作製
SEM観察用試料を以下の手順に沿って作製した。
・前記プレス品の中心を含むように5mm×5mmで切り出して試料切片を得た。
・前記試料切片の表裏に保護剤としてエポキシ樹脂を塗布した。
・90℃にて30分以上加熱し、エポキシ樹脂を固化させた。
・前記試料切片の断面をサンドペーパー(#2000)にて鏡面研磨した(以後、この断面を「研磨断面」と称する。)。
・前記研磨断面の仕上げを行うため、装置としてGatan製Ilion+もしくはこれに準じるものを用い、液体窒素冷却をしながら加速電圧6kVにて前記研磨断面をブロードイオンビーム加工した。
・最後に白金の蒸着にて前記研磨断面に導電性処理を施し、SEM観察用試料とした。
【0181】
(3)SEM観察
前記研磨断面を電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)にて観察し、SEM観察画像を得た。装置にはZeiss製UltraPlusもしくはこれに準じる解像度をもつものを用いた。観察条件は、加速電圧5kV、SE2検出器、観察倍率5000倍とし、このときSEM観察画像1枚あたりに写る前記研磨断面の大きさは23μm×16μmであった。観察領域は、前記研磨断面内において、プレス品の厚さ方向中央の位置からプレス品の表裏の方向にそれぞれ20μm以内の領域とした。
【0182】
前記の方法に従って、後述する比較例1、実施例1について発泡成形体のプレス品の一断面のSEM観察画像を撮影し、それぞれ
図1、
図2とした。これらSEM観察画像には、発泡成形体のプレス品の一断面におけるグラファイトの断面が映し出されている。
【0183】
以下に、実施例及び比較例で用いた原材料を示す。
【0184】
(スチレン系樹脂)
(A)スチレンホモポリマー[PSジャパン(株)製、680]。
【0185】
(グラファイト)
(B1)グラファイト[(株)中越黒鉛工業所製、BF-1AT]
平均粒径D50:1.7μm
グラファイト単位溶液濃度あたりのレーザー散乱強度:9.1{%/(mg/ml)}/重量%
(B2)グラファイト[(株)丸豊鋳材製作所製、SGP-40B]
平均粒径D50:5.8μm
グラファイト単位溶液濃度あたりのレーザー散乱強度:4.0{%/(mg/ml)}/重量%
(B3)グラファイト[日本黒鉛工業(株)製、UP-5N]
平均粒径D50:5.2μm
グラファイト単位溶液濃度あたりのレーザー散乱強度:4.8{%/(mg/ml)}/重量%。
【0186】
(臭素系難燃剤)
(C1)2,2-ビス[4-(2,3-ジブロモ-2-メチルプロポキシ)-3,5-ジブロモフェニル]プロパン[第一工業製薬(株)製、SR-130、臭素含有量=66重量%]。
【0187】
(熱安定剤)
(D1)テトラキス(2,2,6,6-テトラメチルピペリジルオキシカルボニル)ブタン[(株)ADEKA製 LA-57]
(D2)ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト[(株)ADEKA製 PEP-36]。
【0188】
(発泡剤)
(E1)ノルマルペンタン[和光純薬工業(株)製、試薬品]
(E2)イソペンタン[和光純薬工業(株)製、試薬品]
(E3)イソブタン[三井化学(株)]。
【0189】
(その他添加剤)
(F)エチレンビスステアリン酸アミド[日油(株)製、アルフローH-50S]。
【0190】
(グラファイトマスターバッチ)
(I1)バンバリーミキサーに、スチレン系樹脂(A)69重量%、グラファイト(B1)30重量%、エチレンビスステアリン酸アミド(F)1重量%の全重量(A+B1+F)が100重量%となる様に原料投入して、7kgf/cm2の荷重をかけた状態で加温冷却を行わずに40分間溶融混練した。このとき、樹脂温度を測定したところ170℃であった。溶融混練物をルーダーに供給して、先端に取り付けられた小穴を有するダイスを通して溶融混練物を押出し、押出されたストランド状の樹脂(溶融混練物)を水槽で冷却固化させた後、切断してマスターバッチ(I1)を得た。
【0191】
(I2)スチレン系樹脂(A)を49重量%、グラファイト(B1)を(B2)50重量%、バンバリーミキサーにおける荷重が5kgf/cm2、混練時間が20分間、樹脂温度が180℃であったこと以外は(I1)と同様の手法により、グラファイトマスターバッチ(I2)を得た。
【0192】
(臭素系難燃剤と熱安定剤との混合物のマスターバッチ)
(J1)二軸押出機に、スチレン系樹脂(A)を供給して溶融混練した後、押出機途中より臭素系難燃剤(C1)、安定剤(D1)及び(D2)の混合物を供給して、さらに溶融混練した。ただし、各材料の重量比率は、(A):(C1):(D1):(D2)=70:28.5:0.6:0.9、(A)+(C1)+(D1)+(D2)=100重量%とした。押出機先端に取り付けられた小穴を有するダイスを通して溶融混練物を押出し、吐出300kg/hrで押出されたストランド状の樹脂(溶融混練物)を20℃の水槽で冷却固化させた後、切断して臭素系難燃剤と熱安定剤との混合物のマスターバッチを得た。このとき押出機の設定温度は170℃で実施した。マスターバッチ中の臭素含有量は18.8重量%であった。
【0193】
(実施例1)
[発泡性熱可塑性樹脂粒子の作製]
スチレン系樹脂(A)、マスターバッチ(J1)、及びグラファイトマスターバッチ(I1)を、それぞれブレンダーに投入して、10分間ブレンドし、樹脂混合物を得た。該樹脂混合物における各材料の重量比は、(A):(J1):(I1)=78.35:8.35:13.30、(A)+(J1)+(I1)=100重量%であった。
【0194】
得られた樹脂混合物を口径40mmの同方向二軸押出機(第1の押出機)と口径90mmの単軸押出機(第2の押出機)とを直列に連結したタンデム型二段押出機へ供給し、口径40mm押出機の設定温度190℃、回転数150rpmにて溶融混練した。口径40mm押出機(第1の押出機)の途中から、前記樹脂混合物100重量部に対して、混合ペンタン[ノルマルペンタン(E1)80重量%とイソペンタン(E2)20重量%の混合物]を4.3重量部、イソブタン(E3)を2.2重量部の割合で圧入した。その後、200℃に設定された継続管を通じて、口径90mm押出機(第2の押出機)に樹脂混合物を供給した。
【0195】
口径90mm押出機(第2の押出機)にて樹脂温度が160℃になるまで溶融混練物を冷却した後、250℃に設定した第2の押出機の先端に取り付けられた直径0.65mm、ランド長3.0mmの小孔を60個有するダイスから、吐出量50kg/時間で、温度60℃及び0.8MPaの加圧循環水中に溶融混練物を押出した。押出された溶融混練物は、ダイスに接触する10枚の刃を有する回転カッターを用いて、1500rpmの条件にて切断及び小粒化され、遠心脱水機に移送された。以上の操作により、発泡性熱可塑性樹脂粒子として、発泡性スチレン系樹脂粒子を得た。このとき、第1の押出機内滞留時間2分、第2の押出機の滞留時間は5分であった。
【0196】
得られた発泡性スチレン系樹脂粒子100重量部に対して、ステアリン酸亜鉛0.08重量部をドライブレンドした後、15℃で保管した。
【0197】
[予備発泡粒子の作製]
発泡性スチレン系樹脂粒子を作製し、15℃で保管してから2週間後に発泡性スチレン系樹脂粒子を予備発泡機[大開工業株式会社製、BHP-300]に投入し、0.08MPaの水蒸気を予備発泡機に導入して発泡させ、発泡倍率80倍の予備発泡粒子を得た。
【0198】
前記と同様にして発泡倍率50倍の予備発泡粒子を得た。
【0199】
[発泡成形体の作製]
得られた発泡倍率80倍の予備発泡粒子を、発泡スチロール用成形機[ダイセン工業(株)製、KR-57]に取り付けた型内成形用金型(長さ450mm×幅310mm×厚さ25mm)内に充填して、0.06MPaの水蒸気を導入して型内発泡させた後、金型に水を3秒間噴霧して冷却した。スチレン系樹脂発泡成形体が金型を押す圧力が0.015MPa(ゲージ圧力)なるまでスチレン系樹脂発泡成形体を金型内に保持した後に、スチレン系樹脂発泡成形体取り出して、直方体状のスチレン系樹脂発泡成形体を得た。発泡倍率は80倍であった。
【0200】
得られた発泡倍率50倍の予備発泡粒子を用い前記と同様にして発泡倍率50倍のスチレン系樹脂発泡成形体を得た。
【0201】
(実施例2)
実施例1の[発泡性熱可塑性樹脂粒子の作製]において、スチレン系樹脂(A)73.35重量%、グラファイトマスターバッチ(I1)18.30重量%に変更して樹脂混合物を作製した以外は、実施例1と同様の処理によりスチレン系樹脂発泡成形体を作製した。
【0202】
(実施例3)
実施例1の[発泡性熱可塑性樹脂粒子の作製]において、スチレン系樹脂(A)69.32重量%、グラファイトマスターバッチ(I1)22.33重量%に変更して樹脂混合物を作製した以外は、実施例1と同様の処理によりスチレン系樹脂発泡成形体を作製した。
【0203】
(比較例1)
実施例1の[発泡性熱可塑性樹脂粒子の作製]において、スチレン系樹脂(A)を87.65重量%、グラファイトマスターバッチ(I1)をグラファイト(B1)4.00重量%に変更して樹脂混合物を作製した以外は、実施例1と同様の処理によりスチレン系樹脂発泡成形体を作製した。
【0204】
(比較例2)
実施例1の[発泡性熱可塑性樹脂粒子の作製]において、スチレン系樹脂(A)85.98重量%、グラファイトマスターバッチ(I1)5.67重量%に変更して樹脂混合物を作製した以外は、実施例1と同様の処理によりスチレン系樹脂発泡成形体を作製した。
【0205】
(参考例1)
実施例1の[発泡性熱可塑性樹脂粒子の作製]において、スチレン系樹脂(A)83.65重量%、グラファイトマスターバッチ(I2)8.00重量%に変更して樹脂混合物を作製した以外は、実施例1と同様の処理によりスチレン系樹脂発泡成形体を作製した。
【0206】
(参考例2)
実施例1の[発泡性熱可塑性樹脂粒子の作製]において、スチレン系樹脂(A)を87.65重量%、グラファイトマスターバッチ(I1)をグラファイト(B3)4.00重量%に変更して樹脂混合物を作製した以外は、実施例1と同様の処理によりスチレン系樹脂発泡成形体を作製した。
【0207】
実施例1~3、比較例1,2、参考例1,2で得られた発泡性熱可塑性樹脂粒子、予備発泡粒子及び発泡成形体について、上述の測定方法に従って、各種物性を測定した。その結果を表1に示す。
【表1】
【0208】
【表2】
表1に示されるとおり、実施例1~3は、発泡倍率50倍のとき、熱伝導率Bは0.0297W/mK~0.0301W/mKであり、比較例1および2と比較して低い熱伝導率が得られた。また、実施例1~3は、発泡倍率80倍のとき、熱伝導率Bは0.0314W/mK~0.0319W/mKであり、比較例1および2と比較して低い熱伝導率が得られた。したがって、グラファイト、熱可塑性樹脂および発泡剤を含有する発泡性熱可塑性樹脂粒子であって、発泡性熱可塑性樹脂粒子中の前記グラファイトの含有量が前記発泡性熱可塑性樹脂粒子100重量%において2.0重量%以上10.0重量%以下であり、発泡性熱可塑性樹脂粒子中の前記グラファイトの平均粒径が0.5μm以上2.5μm未満であり、発泡性熱可塑性樹脂粒子中の前記グラファイトの粒度分布の幅を示すスパン「S」が4.0以下である、発泡性熱可塑性樹脂粒子、該発泡性熱可塑性樹脂の予備発泡粒子、及び熱可塑性樹脂発泡成形体は、高い発泡性および高い断熱性を有することが明らかになった。
【0209】
平均粒径が2.5μmよりも大きいグラファイトを使用した形態である参考例1および2は、原料グラファイトのスパン「S」と、発泡性樹脂粒子中のグラファイトのスパン「S」とがほぼ同一であり、樹脂混合物の混練時における凝集体の発生が見られなかったことがわかる。
【0210】
一方、平均粒径が2.5μm未満のグラファイトを使用する形態である比較例1の発泡性熱可塑性樹脂粒子は、低スパンの原料グラファイトを使用しているにもかかわらず、発泡性熱可塑性樹脂粒子中のグラファイトのスパンおよびD90が増大し、樹脂混合物の混練時における凝集体が発生していることがわかる。その結果、比較例1の発泡性熱可塑性樹脂粒子は、平均粒径が小さいグラファイトを使用しているにもかかわらず、参考例1および2の発泡性熱可塑性樹脂粒子に比べて、予備発泡粒子の収縮率が上昇し、断熱性も悪化してしまっていると推測される。
【0211】
実施例1~3と比較例1との比較から、実施例の発泡性熱可塑性樹脂粒子は、本発明のスパン「S」値を満たすことにより、グラファイトの平均粒径が0.5μm以上2.5μm未満であっても、参考例1の発泡成形体と同等もしくはそれ以下の低い熱伝導率を奏していることが明らかである。
【0212】
さらに、実施例1~3の発泡性熱可塑性樹脂粒子においては、参考例2と同等以下の低収縮率の発泡性熱可塑性樹脂粒子が得られており、平均粒径2.5μm未満のグラファイトに本来期待されていた高い発泡性を発現できることがわかる。
【0213】
また、実施例1~3において、平均粒径が0.5μm以上2.5μm未満の小粒径のグラファイトを使用し、かつ、発泡性熱可塑性樹脂粒子中のグラファイトが小さい粒度分布であることから、ビーズライフの長期化、更なる高発泡倍率化を奏することができる。このように本発明の発泡性熱可塑性樹脂粒子によれば、高い発泡性及び高い断熱性を両立した発泡成形体を製造できることがわかる。
【0214】
図1は、比較例1で作製した発泡成形体のプレス品の一断面のSEM観察画像を示し、当該画像では、前記一断面におけるグラファイトの断面が映し出されている。
図2は、実施例1で作製した発泡成形体のプレス品の一断面のSEM観察画像を示し、当該画像では、前記一断面におけるグラファイトの断面が映し出されている。
図1より、比較例1では、混練後の発泡性熱可塑性樹脂粒子において、グラファイトの大きな凝集体が発生していたことが分かる。一方で、
図2より、実施例1では、混練後の発泡性熱可塑性樹脂粒子において、グラファイトの大きな凝集体が発生していなかったことがわかる。したがって、実施例1では、平均粒径2.5μm未満のグラファイトを用いた場合でも、混練前のグラファイトには存在しなかった大きな凝集体の発生が抑えられていることが明らかである。
【0215】
以上述べた実施形態は全て本発明の一実施形態を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明の一実施形態は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の一実施形態の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【産業上の利用可能性】
【0216】
本発明の一実施形態に係る、発泡性熱可塑性樹脂粒子は高い発泡性及び高い断熱性を有し、本発明の一実施形態に係る、熱可塑性樹脂予備発泡粒子及び熱可塑性樹脂発泡成形体は、高い発泡倍率及び高い断熱性を有する。そのため、本発明の一実施形態は、熱伝導率の経時的な上昇が顕著に抑制され、かつ、断熱性が長期的に高い。従って、本発明の一実施形態は、食品容器箱、保冷箱、緩衝材、及び住宅等の断熱材に好適に使用できる。