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特許7227256摺動性コーティング、それを用いた摺動要素及びそれの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】摺動性コーティング、それを用いた摺動要素及びそれの使用
(51)【国際特許分類】
   C09D 179/08 20060101AFI20230214BHJP
   F16C 33/20 20060101ALI20230214BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230214BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20230214BHJP
   C08K 3/30 20060101ALI20230214BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20230214BHJP
   C08K 3/28 20060101ALI20230214BHJP
   C08K 3/14 20060101ALI20230214BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20230214BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20230214BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20230214BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20230214BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20230214BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20230214BHJP
   C10M 125/22 20060101ALI20230214BHJP
   C10M 125/02 20060101ALI20230214BHJP
   C10M 125/26 20060101ALI20230214BHJP
   C10M 147/02 20060101ALI20230214BHJP
   C09D 163/00 20060101ALI20230214BHJP
   C09D 161/06 20060101ALI20230214BHJP
   C09D 179/04 20060101ALI20230214BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20230214BHJP
   C09D 167/03 20060101ALI20230214BHJP
   C09D 171/10 20060101ALI20230214BHJP
   C09D 181/06 20060101ALI20230214BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20230214BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20230214BHJP
   C10N 10/08 20060101ALN20230214BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20230214BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20230214BHJP
【FI】
C09D179/08 A
F16C33/20 A
C08L101/00
C08K3/22
C08K3/30
C08K3/38
C08K3/28
C08K3/14
C08K3/08
B05D7/14 P
B05D7/24 303A
B05D7/24 303B
B05D7/24 303C
B05D7/24 302X
B05D7/24 302V
B05D7/24 302R
B05D7/24 302U
B05D7/24 302S
B05D7/24 302Y
C09D5/00 Z
C09D7/61
C09D7/65
C10M125/22
C10M125/02
C10M125/26
C10M147/02
C09D179/08 B
C09D179/08 D
C09D179/08 Z
C09D163/00
C09D161/06
C09D179/04
C09D183/04
C09D167/03
C09D171/10
C09D181/06
C10N40:02
C10N10:12
C10N10:08
C10N10:04
C10N30:06
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2020535300
(86)(22)【出願日】2018-09-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-19
(86)【国際出願番号】 EP2018074101
(87)【国際公開番号】W WO2019052903
(87)【国際公開日】2019-03-21
【審査請求日】2021-05-11
(31)【優先権主張番号】102017216110.8
(32)【優先日】2017-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501014452
【氏名又は名称】フエデラル―モーグル・ウイースバーデン・ゲゼルシヤフト・ミト・ベシユレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】アダム・アヒム
(72)【発明者】
【氏名】シュリューター・ヨーアヒム
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/134981(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03023456(EP,A1)
【文献】特開平09-236125(JP,A)
【文献】特開昭60-258297(JP,A)
【文献】特表2012-514170(JP,A)
【文献】特表2017-509837(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D,F16C,C08L,C08K,B05D,C10M
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂マトリックスとしてのポリマー及び機能性フィラーを有する摺動性コーティングであって、
前記機能性フィラーが、混合相酸化物、任意選択的に及び更なる機能性フィラーを含
・前記混合相酸化物中に含まれる金属元素が、チタン、コバルト、アルミニウム、ニッケル、アンチモン、鉄または亜鉛のうちの少なくとも二種の元素であり、及び
・前記ポリマーが、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)及びポリエステルイミド、エポキシ樹脂(EP)、フェノール樹脂、ポリベンズイミダゾール(PBI)、シリコーン樹脂、ポリアリーレート、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)及びポリ(オキシ-1,4-フェニルスルホニル-1,4-フェニル)(PES)からなる群から選択される、
前記摺動性コーティング。
【請求項2】
前記混合相酸化物が、硬化摺動性コーティングを基準にして0.1~15体積%の割合で含まれていることを特徴とする、請求項1に記載の摺動性コーティング。
【請求項3】
記混合相酸化物が、チタンと、コバルト、アルミニウム、ニッケル、アンチモン、鉄または亜鉛のうちの少なくとも二種の元素とから形成されことを特徴とする、請求項1または2に記載の摺動性コーティング。
【請求項4】
前記混合相酸化物が、チタン、ニッケル及びアンチモンから形成されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一つに記載の摺動性コーティング。
【請求項5】
前記混合相酸化物が、ルチル、スピネルまたはヘマタイト構造の形で存在することを特徴とする、請求項1~4のいずれか一つに記載の摺動性コーティング。
【請求項6】
前記混合相酸化物が、0.05~2.0μmの範囲のD50値の形のメジアン粒径を有することを特徴とする、請求項1~のいずれか一つに記載の摺動性コーティング。
【請求項7】
更なる機能性フィラーが含まれ、前記フィラーは、固体潤滑剤、硬質材料、及び熱伝導性を改善する物質のうちの一つまたは複数の物質を含み、ここで、前記機能性フィラーの総割合が、硬化摺動性コーティングを基準にして75体積%を超えないことを特徴とする、請求項1~のいずれか一つに記載の摺動性コーティング。
【請求項8】
前記固体潤滑剤が、層構造を有する金属硫化物、グラファイト、六方晶系BN、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ZnS、BaSO及びこれらの混合物のうちの一つまたは複数の物質を含むことを特徴とする、請求項に記載の摺動性コーティング。
【請求項9】
前記硬質材料が、窒化物、炭化物、ホウ化物、酸化物のうちの一つまたは複数の物質を含み、ここで、前記硬質材料の割合が、硬化摺動性コーティングを基準にして10体積%以下であることを特徴とする、請求項またはに記載の摺動性コーティング。
【請求項10】
前記硬質材料が、SiC、Si 、B 、立方晶系BNまたはSiO のうちの一つまたは複数の物質を含む、請求項9に記載の摺動性コーティング。
【請求項11】
前記熱伝導性を改善する物質が、Ag、Pb、Au、Sn、Al、BiまたはCuからなる群からの一つまたは複数の金属粉末を含み、ここで、前記金属粉末の割合が、硬化摺動性コーティングを基準にして30体積%以下であることを特徴とする、請求項10のいずれか一つに記載の摺動性コーティング。
【請求項12】
金属製基材層と、その上に施与された、請求項1~11のいずれか一つに記載の少なくとも一つの摺動性コーティングからなる被膜とを有し、ここで前記金属製基材層が、鋼製支持層または金属製軸受け金属層、または鋼製支持層と金属製軸受け金属層、任意選択的に金属製中間層、任意選択的に及び摺動層を含み、及び前記基材層の露出された層上に前記被膜が施与されている、摺動要素。
【請求項13】
前記基材層の露出された層が、Cu合金、Al合金、Ni合金、Sn合金、Zn合金、Ag合金、Au合金、Bi合金またはFe合金から形成されている、請求項12に記載の摺動要素。
【請求項14】
前記摺動層が前記基材層の露出された層を形成し、その上に前記被膜が、カウンタ軸の状態調節のためのなじみ層としてまたは適応のためのなじみ層として形成されていることを特徴とする、請求項12または13に記載の摺動要素。
【請求項15】
前記摺動層がスパッタ層としてまたは電解めっき摺動層として形成されていることを特徴とする、請求項14に記載の摺動要素。
【請求項16】
軸受け金属層が、前記基材層の露出された層を形成し、その上に、前記被膜が長い耐用期間を有する摺動層として形成されていることを特徴とする、請求項12または13に記載の摺動要素。
【請求項17】
Sn、Ni、Ag、Cu、Feまたはそれらの合金からなる中間層が、前記基材層の露出された層を形成し、その上に前記被膜が形成されていることを特徴とする、請求項12または13に記載の摺動要素。
【請求項18】
前記被膜が、少なくとも二つの摺動性コーティングからなる多層系であり、そのうちの少なくと一つの摺動性コーティングが請求項1~11のいずれか一つに従い形成されており、ここで、カウンタ軸の状態調節のためのなじみ層としての上側の摺動性コーティング層が、長い耐用期間を有する摺動層としての下側の摺動性コーティング層の上に形成されているか、あるいは
前記被膜が、少なくとも二つの摺動性コーティングからなる多層系であり、そのうちの少なくとも一つの摺動性コーティングが請求項1~11のいずれか一つに従い形成されており、ここで、良好な滑り特性及び適応特性を有する摺動性コーティングとしての上側の摺動性コーティング層の下に、高い耐摩耗性を有する下側の摺動性コーティング層が形成されていることを特徴とする、請求項1217のいずれか一つに記載の摺動要素。
【請求項19】
前記被膜が、少なくとも二つの摺動性コーティングからなる多層系であり、そのうち少なくとも一つの摺動性コーティングが、請求項1~11のいずれか一つに従い形成されており、ここで、前記金属製基材層と、良好な滑り特性及び適応特性を有する摺動層としてまたは高い耐摩耗性を有する摺動層として形成された上側の摺動性コーティング層との間に、添加剤を僅かに含むかまたは全く含まない追加的な摺動性コーティング層が配置されていることを特徴とする、請求項1218のいずれか一つに記載の摺動要素。
【請求項20】
前記被膜が、少なくとも二つの摺動性コーティングからなる多層系であり、そのうちの少なくとも一つの摺動性コーティングが請求項1~11のいずれか一つに従い形成されており、ここで、前記少なくとの二つの摺動性コーティングが、少なくとも、混合相酸化物、固体潤滑剤、硬質材料、及び熱伝導性を改善する物質からなる群から選択される物質に関して、異なる割合を有するか、あるいは
前記被膜が、少なくとも二つの摺動性コーティングからなる勾配型層系であり、そのうちの少なくとも一つの摺動性コーティングが請求項1~11のいずれか一つに従い形成されており、ここで、前記勾配型層系が、層厚の少なくとも一部を考慮した場合に、混合相酸化物、固体潤滑剤、硬質材料、及び熱伝導性を改善する物質からなる群から選択される少なくとも一種の物質を、増加または減少する割合で含むことを特徴とする、請求項1219のいずれか一つに記載の摺動要素。
【請求項21】
内燃機関のためのピストン、ピストンリング、軸受けシェルまたはブッシュをコーティングするための、請求項1~11のいずれか一つに記載の摺動性コーティングの使用。
【請求項22】
摺動要素の製造方法であって、
i.金属製支持材層の提供、
ii.前記支持体層上への、請求項1~11のいずれか一つに記載の摺動性コーティングの施与、ここで前記摺動性コーティングは溶剤中に溶解されており、
iii.前記基材層上に被膜を形成しつつの前記摺動性コーティングの硬化、
を含む、前記方法。
【請求項23】
前記硬化ステップが、ポリマーの架橋及び溶剤の除去を含む、請求項22に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
エンジンの摺動要素は、大概は、滑り特性を最適化する特別に変性された表面を有する多層材料からなる。一般に、滑り軸受けの表面は、例えば鉛、錫又はアルミニウムをベースとする金属層であり、これらは、電解めっきプロセス、蒸着又は機械的めっきによって適用される。
【0002】
また、合成樹脂をベースとする非金属層、いわゆる摺動性コーティングも知られており、これらは、フィラーを添加することによって、それらの滑り特性、耐負荷性及び耐摩耗性の点で改良される。
【0003】
合成樹脂ベースの摺動性コーティングは、機械的構造において摩擦を低減するための手段として非常に一般に長年使用されてきた。原則として、金属、プラスチック及びゴム部品は被覆されており、これらは更なる潤滑なしに永久的に容易に稼働可能でなければならない。典型的な用途では、負荷はかなり低く、温度または媒体などの境界条件は重要ではない。
【0004】
エンジンにおける用途、例えばクランクシャフト軸受けのための用途も、例えばEP0984182A1(特許文献1)のような種々の特許出願及び市販されている最初の滑り軸受け製品から既に知られている。既知の種類の銅及びアルミニウム合金は通常は基材として称され、コーティングマトリックスは、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)、エポキシド及びフェノール樹脂、ポリベンズイミダゾール(PBI)またはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)からなる。一例として、文献EP1775487A1(特許文献2)を参照されたい。滑り特性及び耐負荷性を改善するために、マトリックスプラスチックには、例えば、固体潤滑剤、例えばMoS、WS、BN、PTFE、セラミック粉体、例えば酸化物、窒化物、炭化物、シリケート、金属、例えばAl、Cu、Ag、W、Ni、Auなどの機能性フィラーが充填される。例えばWO2004/002673A1(特許文献3)を参照されたい。ZnSまたはBaSOなどの他のフィラーもWO2015097159A1(特許文献4)に挙げられている。
【0005】
層の施与は、噴霧または印刷プロセス及びその後の熱硬化によって行われる。
【0006】
DE102013202123B3(特許文献5)からは、金属製支持層及び多孔性キャリア層を備えた金属/プラスチック滑り軸受け複合材料が知られている。前記キャリア層の細孔は、フッ素不含の熱可塑性樹脂をベースとする滑り層材料及び摩擦学的特性を向上するフィラーによって充填されている。
【0007】
それにもかかわらず、公知のコーティングは、高回転数の時の潤滑不足状態の場合に、この状態が頻繁に生じるときに層を完全に摩耗させるような摩耗速度を有する。特に、銅ベースの軸受け金属の場合に一般的にそうである、制限された滑り特性を有する基材材料では、これはフレッティング(Fressen)による軸受の完全な破損につながる可能性がある。
【0008】
WO2010076306(特許文献6)には、それに対抗するために、機能性フィラーとして鉄(III)酸化物の使用が提案されている。事実、微細な酸化物によって、向上した耐摩耗性を達成でき、これは、特に、スタート-ストップ運転でのエンジンの場合に、ベルトドライブによるクランクシャフトの追加的な荷重の場面で、及び比較的粗さが大きいシャフトにおいて有利である。しかし、高回転数、潤滑不足状態、並びに軸受け及びカウンタ軸の形状の幾何学的な狂いに基づいた適応要求、または傾斜位置による縁への荷重では、摩擦が原因のシャフトジャーナルの局所的な加熱を、そしてその後に、ポリマーマトリックスの熱的な弱化が起こる虞があり、これは、層の減損及び再び、基材材料上でのフレッティング(Fressen)を招き得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】EP0984182A1
【文献】EP1775487A1
【文献】WO2004/002673A1
【文献】WO2015097159A1
【文献】DE102013202123B3
【文献】WO2010076306
【文献】EP2563590A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
応じて、本発明の課題は、摩耗速度がより遅く、またそれにもかかわらず、臨界的な潤滑状態、適応要求及び高い回転数においても、十分な緊急走行特性を有し、それ故、層の局所的な機能不全が避けられる、摺動性コーティングを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、請求項1に記載の摺動性コーティング、請求項15に記載の摺動要素、請求項33に記載の摺動性コーティングの使用、及び請求項34に記載の方法によって解決される。
【0012】
本発明による摺動性コーティングは、樹脂マトリックスとしてのポリマー及び機能性フィラーを含み、ここで前記機能性フィラーは、混合相酸化物、任意選択的に及び更に別の機能性フィラーを含む。
【0013】
本発明による摺動要素は、金属製基材層、及びその上に施与された上述の特徴を有する少なくとも一つの摺動性コーティングからなる被膜を有する。
【0014】
それでもなお、本発明による摺動性コーティングは、好ましくは、金属製支持材層を備えた滑り軸受けのためのコーティングとして適している。特に好ましい用途の一つは、内燃機関中の軸受けシェルまたはブッシュ、特にクランクシャフトメイン軸受けまたはコンロッド軸受けとしての軸受けシェルまたはブッシュのコーティングである。この使用は、コーティング及び金属製基材の耐荷重性について特に高い要求を課す。
【0015】
更に、本発明は、摺動要素の製造方法に関する。該方法は、金属製基材層の提供、前記基材層上への、溶剤中に溶解した摺動性コーティングの施与、及び前記摺動性コーティングの硬化を含む。基材層上での摺動性コーティングの硬化によって、基材層上に被膜が形成する。
【0016】
摺動性コーティングの硬化は、好ましくは、ポリマーの架橋、及び(一般的には同時の)溶剤の除去を含む。特に、熱硬化可能な摺動性コーティングを使用できる。この時、前記硬化は、摺動性コーティングの加熱下に起き得る。一方では、摺動性コーティングに対して作用する熱を介して、溶剤の除去に対して影響を及ぼすことができる。他方で、熱の供給は、熱硬化可能な摺動性コーティングの架橋工程を促進し得る。
【0017】
「混合相酸化物」としては、微細な混合相酸化物のことと理解され、これは、混合相酸化物顔料とも称される。ここで、溶剤を含まない完成した硬化摺動性コーティングが、「摺動性コーティング」と称される。
【0018】
本発明者らは、鉄(III)酸化物が機能性フィラーとして使用されるケースの分析において、耐摩耗性が高すぎる場合には、それが不利に作用する場合がある、というのも、これは、適応プロセスの時間、それに伴う局所的な加熱の時間を長くするためであることを見出した。それ故、本発明は、摺動性コーティングの耐摩耗性を、より低程度の加熱にとって有利となるように若干より多い適応摩耗が可能なように改変することを企図するものである。
【0019】
EP2563590A1(特許文献7)は、フルオロポリマーベースのポリマー性摺動層材料、特にPTFEが含浸導入されている多孔性下部構造、例えばブロンズ製の下部構造を有する軸受け複合原材料の摺動層中での、多相酸化物顔料の使用を記載している。該摺動層材料は、少なくとも60体積%がフルオロポリマーからなり、そして更に少なくとも5%の六方晶系窒化ホウ素を含む。なじみ段階の後は、このような摺動層では、ブロンズが接触面で開放されて、担持表面を形成する。なじみ段階では、混合相酸化物顔料は、六方晶系窒化ホウ素と一緒に耐摩耗性を高めることが目的とされている。
【0020】
すなわち、これらの摺動層は、DE102013202123B3(特許文献5)から知られる層と同様に、摺動性コーティングから形成されない。これらは、主に、潤滑されていないまたは若干潤滑された用途に使用される。しかし、このような潤滑層を備えた軸受けは、上記の課題設定を解決できない、なぜならば、これらは、内燃機関中のクランクシャフトへの使用のためには一般的には適していないからである。この用途のためには、この多孔性基材は十分な耐疲労性を持たず、摺動材料は単独では十分な耐荷重性を有していない。それ故、該コーティングは、本発明による摺動要素において、多孔性焼結層上にではなく、好ましくは、密実金属製基材層、いわゆる密実原材料上に、または複合原材料の場合は、ロール圧延された、鋳造されたまたは電解めっきされたまたは物理的気相堆積法(PVD)を用いて堆積された金属製基材層上に堆積されている。
【0021】
本発明による摺動性コーティングにおける該混合相酸化物は、一方では、表面中に摩耗低減効果を達成するのに十分に硬質である。それ故、これらは、この目的に関して使用することが知られている鉄(III)酸化物を置き換えるのに適している。しかし、これらは、それほどは硬くなく、そのため機械的な相互作用によって、シャフト表面を加工できる、すなわち平滑化または削除でき、他方で、鉄(III)酸化物は、鋼の研磨にさえ適しているほど硬質である。それ故、本発明による摺動性コーティング中の混合相酸化物の硬度が比較的低いことにより、滑り軸受け及びカウンタ軸から構成されるシステム中には、例えば鉄(III)酸化物を使用した場合におけるような高い摩擦エネルギーは導入されず、そのため摺動性コーティング層は、確かに多少は耐摩耗性に劣るが、非常に高速の回転数の場合でさえ短い潤滑不足状態をより長い時間絶え得るということが考えられる。その結果、該混合相酸化物のロジワール粉砕硬度は、カウンタ軸へのエネルギー導入を最小限にするためには、鉄(III)酸化物の硬度未満、すなわち55未満であることが好ましい。
【0022】
クランクシャフト軸受けのピーク耐荷重性は、本発明による摺動性コーティングの使用時には、最大120MPaまで高めることができ、すなわち他の場合ではアルミニウムベースのスパッタ層でしか達成できない値にまで高め得ることが確定された。
【0023】
潤滑不足条件での耐用時間は、より硬質の酸化物を用いたコーティングに対して、三倍超となった。
【0024】
好ましくは、該混合相酸化物は、硬化摺動性コーティングを基準にして0.1~15体積%、特に好ましくは0.5~8体積%の割合で含まれる。
【0025】
「摺動性コーティング」と同様に、「硬化摺動性コーティング」または「硬化摺動性コーティング層」という用語は、本明細書では、溶剤は考慮せずに硬化後の摺動性コーティングまたはそれから形成された層を指す。
【0026】
0.1体積%よりも少ない割合では、耐摩耗性に関しての改善は確認できない。15体積%を超える割合は、該摺動性コーティングのマトリックスの弱化をまねく。特に好ましくは、これらの理由から、混合相酸化物は、硬化摺動性コーティングを基準として0.5~8体積%の割合で含まれる。
【0027】
混合相酸化物は、複数の酸化物の混合物ではなく、特定の結晶格子サイトが異なる金属イオンで占められている酸化物である。該混合相酸化物は、好ましくは、チタン、コバルト、アルミニウム、ニッケル、アンチモン、クロム、鉄または亜鉛のうちの少なくとも二種の元素を含む。
【0028】
特に好ましくは、該混合相酸化物は、チタンと、コバルト、アルミニウム、ニッケル、アンチモン、クロム、鉄または亜鉛のうちの少なくとも二種の元素とから形成される。
【0029】
非常に特に好ましいものは、次の混合相酸化物、すなわちCo-Al酸化物、Ni-Sb-Ti酸化物、Fe-Al酸化物及びCo-Ti-Ni-Zn酸化物である。
【0030】
該混合相酸化物は、好ましくはルチル構造、スピネル構造またはヘマタイト構造の形で存在する。特に、微細なルチル混合相酸化物は、耐摩耗性及びドライランに関しての要求を満たす、というのも、それらの硬度は、鋼の硬度よりも若干低いからであることが示される。
【0031】
該混合相酸化物が、0.05~2.0μm、特に好ましくは0.1~0.5μmの範囲のD50値の形のメジアン粒径を有する場合に特に有利であることが判明した。
【0032】
該摺動性コーティングの層の特性を、個々の用途における目的設定に適合させるためには、上記の更なる機能性フィラーが使用される。全ての機能性フィラー、特にすなわち混合相酸化物も、摺動性コーティング中にできるだけ均一に分散した状態で存在する。
【0033】
好ましくは、該機能性フィラーは、任意に、固体潤滑剤、硬質材料、及び熱伝導率を改善するかまたはコーティング表面の湿潤に影響を及ぼす物質のうちの一つまたは複数を含有する。
【0034】
固体潤滑剤の添加は、緊急運転特性、すなわち非流体力学的運転条件における挙動を改善する。少量の更なる硬質材料は、摩耗低減剤として、またはシャフトの状態調節のために使用され、熱伝導性を改善する物質は、摩擦熱の迅速な除去、従って持続耐荷重性に役立つ。
【0035】
固体潤滑剤としては、MoS、WS、SnSなどの層構造を有する金属硫化物、グラファイト、六方晶系BN、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)またはZnS/BaSO混合物が好ましく使用される。
【0036】
硬質材料としては、好ましくは窒化物、炭化物、ホウ化物、酸化物、例えばSiC、Si、B、立方晶系BN、またはSiOが使用される。
【0037】
熱伝導性を改善する物質としては、好ましくは、一種または複数の金属粉末、特にAg、Pb、Au、Sn、Al、BiまたはCuからなる金属粉末が含まれる。
【0038】
湿潤及び表面特性は、非常に微細なフィラー、例えばFeまたはTiOまたはこれらの混合酸化物によって影響され得る。
【0039】
混合相酸化物も含めて全ての機能性添加剤の上記の量は、硬化摺動性コーティングの総体積割合75%を超えないように選択するのがよい。この際、硬質材料の体積割合は、有利には10%を超えず、特に好ましくは5体積%を超えず、そして金属粉末の体積割合は30%を超えない。
【0040】
硬質材料の割合をより多くすると、滑り特性を劣化させ、シャフト走行面にアブラシブ効果を発揮するようになる。金属の割合をより多くすると、分散が困難となり、それ故、加工特性にとって悪い。
【0041】
このポリマーは、好ましくは、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)及びポリエステルイミド、エポキシ樹脂(EP)、フェノール樹脂、ポリベンズイミダゾール(PBI)、シリコーン樹脂、高融点熱可塑性樹脂、特に220℃を超える融点を有する高融点熱可塑性樹脂、ポリアリーレート、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)及びポリ(オキシ-1,4-フェニルスルホニル-1,4-フェニル)(PES)からなる群から選択される。特に好ましくは、その中でも、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエステルイミド、エポキシ樹脂(EP)、フェノール樹脂、ポリベンズイミダゾール(PBI)、シリコーン樹脂、高融点熱可塑性樹脂、特に220℃を超える融点を有する高融点熱可塑性樹脂、ポリアリーレート及びポリ(オキシ-1,4-フェニルスルホニル-1,4-フェニル)(PES)である。
【0042】
本発明による摺動要素は、金属基材層、及びその上に施与された上述のタイプの少なくとも一つの摺動性コーティングからなる被膜を有する。
【0043】
完成した摺動要素における架橋された摺動性コーティング層の厚さは、有利には1μmと50μmとの間である。この際、厚さは、摺動要素に通常のように、構成部材の大きさに適応され、すなわち、5~25μmの厚さが、130mmまでの直径を有する軸受けに特に好ましい。5μm未満では適応性が失われ、そして25μmを超えると、層の耐荷重性は大きく低下する。130mmを超える直径を有する大きな軸受けの場合、50μmまでの摺動性コーティング層の層厚は、幾何学的誤差またはより大きな許容範囲のために増加したなじみ摩耗(Einlaufverschleiss)が予想され得るので、依然として許容可能である。
【0044】
被膜が施された金属製基材層の露出表面は、好ましくはR=1~10μm、特に好ましくはR=3~8μmの粗さを有する。この領域では、一方では改善された付着性が見出され、他方では、粗い表面のために、被膜が部分的に摩耗する時に、先端、すなわち金属製基材層の表面の非常に小さい表面部分のみが最初に露出され、これは、金属製基材のより大きな露出領域のフレッティングされ易さを同時に有することなく、表面の積載力を高める。
【0045】
必要とされる粗さは、サンドブラストまたは研削のような機械的プロセスによって生成できるが、化学的にリン酸塩処理または付加物(Ansatz)によっても生成することができる。不規則な粗さの他に、規則的な基材構造も有利であり、これは、例えば、ドリル加工、リーミングまたはエンボス加工によって形成することができる。
【0046】
硬質粒子の射出が、特に有利であることが判明している。軸受け金属がコーティング層の適応効果及び他の引き起こされる摩擦によって局所的に露出される時、表面中の小さな粒子残留物により、耐摩耗性の更なる改善を達成できると考えられる。
【0047】
金属製基材層自体は、個々の金属層(密実原材料)からまたは複数の機能的に異なる金属層によって層複合体(複合原材料)からなることができる。従って、摺動性コーティングから被膜が塗布される基材層の各々の露出された層は、異なる金属または金属合金、特にCu、Al、Ni、Sn、Zn、Ag、Au、BiまたはFe合金から作ることができる。
【0048】
金属製基材層は、複合原材料の場合は、鋼製支持層、または金属製軸受け金属層、または鋼製支持層、及び金属製軸受け金属層、任意選択で金属製中間層、及び任意選択で(薄い)金属製カバーまたは摺動層を含むことができる。鋼製支持層も、軸受け金属層も、それぞれの要求される特性、特に強度に依存して、単独でまたは組み合わせで基材層中に存在するかまたは基材層を形成することができる。
【0049】
摺動層が基材層の露出層を形成する場合、摺動性コーティングの被膜は、好ましくは、シャフト材料のラジアル軸受けの場合、カウンタ軸(Gegenlaeufer)を適応させるまたは状態調節するためのなじみ層として設計される。
【0050】
「カウンタ軸の状態調節のためのなじみ層」とは、本教示の意味では、硬化摺動性コーティング層を基準にして少なくとも0.5重量%の硬質材料の添加を少なくとも必要とする。
【0051】
「適応のためのなじみ層」とは、本教示の意味において、実際の摺動性コーティングの組成に基づいた時に、例えば潤滑剤の含有率の増加またはバインダーの割合の減少によって、追加的な硬質材料は無しで得られる。
【0052】
両方のなじみ層は、好ましくは、1~5μmの層厚を有し、高荷重可能なスパッタ層、特にAlSnをベースとするスパッタ層に特に有利であり得る。しかし、電解めっきされた摺動層上においても、特にカウンタ軸の表面が格別フレッティング性である場合には、なじみ層は有利である。
【0053】
軸受け金属層が、摺動性コーティングから被膜が形成されている露出した金属層を形成する場合には、摺動性コーティングの被膜は、好ましくは、長い耐用期間を有する独立した摺動層として形成される。「長い耐用期間を有する摺動層」とは、本教示の意味では、5μmと25μmとの間の層厚を少なくとも必要とする。耐久層(Lebensdauerschicht)は、できるだけ長い期間持続するべきである。このためには、ある程度の耐摩耗性と十分な厚さが必要である。
【0054】
CuSn、CuNiSi、CuZn、CuSnZn、AlSn、AlSi、AlSnSi、AlZn軸受け金属合金上の摺動層としての被膜の使用が有利である。
【0055】
有利な発展形態の一つでは、該摺動要素の金属製基材層は、鋼製支持層上または存在する場合には軸受け金属層上に、中間層、好ましくはSn、Ni、Ag、Cu、Feまたはそれらの合金からなる中間層を有し、そしてその中間層の上には、カバー層または摺動層のいずれかが形成されるか、または該摺動性コーティングからの被膜が直接形成される。後者の場合には、中間層は、基材層の露出された層を形成する。NiまたはAg並びにそれらの合金からなる中間層が特に好ましい。
【0056】
中間層は任意であり、そして前記被膜並びに存在する場合には前記カバー及び摺動層が完全に摩耗される場合には、接合及び/または滑り特性の改善に役立つ。前記中間層自体は、一つまたは複数の個々の層から構成でき、例えばNi層とNiSn層との組み合わせから構成できる。
【0057】
本発明の特に好ましい実施形態の一つは、前記被膜は、少なくとも二つの摺動性コーティングからなる多層系であり、そのうちの少なくとも一つの摺動性コーティングは、上述の技術に従い形成され、ここで該摺動性コーティングは、上側の摺動性コーティング層が、長い耐用期間を持つ摺動層として形成される下側の摺動性コーティング層上に、カウンタ軸の状態調節のためのなじみ層として設計されるように形成される。
【0058】
本発明による代替的な多層系は、良好な滑り特性及び適応特性を持つ摺動層としての上側の摺動性コーティング層の下に、高い耐摩耗性を有する摺動層として下側の摺動性コーティング層が形成されるように構成される。
【0059】
「良好な摺動特性及び適応特性を有する摺動層」とは、本教示の意味において、硬化摺動性コーティング層を基準にして合計して30~60体積%の固体潤滑剤の添加及び1μmと10μmとの間の層厚を少なくとも必要とする。混合相酸化物の割合はむしろ少ないかまたは存在しない。要するに、まず第一に、滑り特性を最適化すること、すなわち摩擦を減少させ並びに適応性及び埋め込み性を高めて、その上で、機械的耐性も調節されることが重要である。
【0060】
「高い耐摩耗性を有する摺動層」は、本教示の意味では、摺動要素または軸受けが特に耐摩耗性に関して最適化され、そうして軸受け金属まで完全にすり減るのを遅らせることによって、摺動要素または軸受けの動作安定性を更に高めるという仕事を有する。この目的のために、これらは、混合相酸化物も含む。高い耐摩耗性を有する摺動層は、混合相酸化物の含有率に関して耐久層に類似しているが、後者は、その厚さにも依存し、それはまた、耐用期間を決定する。
【0061】
多層系は、追加的な摺動性コーティング層が耐久層の下に施与され、この追加的な摺動性コーティング層が、軸受けの稼働信頼性を、これが、特にそれの耐摩耗性に関して最適化され、そうして軸受け金属にまで完全にすり減ることを遅延させることによって更に高めるようにも構築することができる。このために、混合相酸化物を任意選択に混合することができる。
【0062】
本発明による多層システムを有する更なる摺動要素は、被膜が、少なくとも二つの摺動性コーティングからなり、そのうちの少なくとも1つの摺動性コーティングが、上記の技術に従い形成され、この際、添加剤を僅かに含むかまたは全く含まない追加的な下側の摺動性コーティング層が、金属製基材と、良好な滑り特性及び適応特性を有する摺動層としてまたは高い耐摩耗性を有する摺動層としてまたは長い耐用期間を有する摺動層として形成された上側の摺動性コーティング層との間に配置されることを企図する。
【0063】
添加剤を僅かに含むかまたは全く含まない摺動性コーティング層」は、本教示の意味では、以下の手段、すなわち機能性フィラーの割合が、硬化摺動性コーティングを基準にして0~25体積%であることを必要とする。この層は、基材への付着に関して最適化され、そしてプライマーと同様に、その上にある摺動性コーティング層の接合を改善する目的を有する。加えて、この添加剤を僅かに含むかまたは全く含まない摺動性コーティング層は、好ましくは、その上にある摺動性コーティング層よりも薄く、そして特に好ましくはわずか0.5~5μm厚である。
【0064】
従って、摺動要素の被膜は、好ましくは、少なくとも二つの摺動性コーティングからなる多層系であり、そのうち少なくとも一つの摺動性コーティングは、上述の技術に従い形成され、この際、前記摺動性コーティングは、少なくとも混合相酸化物、固体潤滑剤、硬質材料、及び熱伝導性を改善する物質からなる群から選択される物質に関して、用途に応じて異なる割合を有する。
【0065】
摺動性コーティング層の個別のレイヤーを有する多層系とは異なり、本発明の更なる発展形態の一つは、勾配型層系からなる被膜を有する摺動要素を企図する。勾配型層系は、少なくとも二つの摺動性コーティングからなり、そのうちの少なくとも一つの摺動性コーティングは、上記の技術に従い形成され、この際、層厚の少なくとも一部分について考慮した場合に、混合相酸化物、固体潤滑剤、硬質材料、及び熱伝導性を改善する物質からなる群から選択される少なくとも一種の物質は、用途に応じて増加または減少する割合を有する。
【0066】
特に好ましくは、滑り軸受けシェルまたはブッシュとして(コンロッド軸受けまたはクランクシャフト軸受けとして)形成される上述の摺動要素は、内燃機関に使用される。同様に、該摺動性コーティングは、直接的に内燃機関におけるコーティングとして、例えば、ピストンのためにはスカートコーティング(Hemdbeschichtung)として、またはピストンリングのためにはマイクロ溶接防止フランクコーティングとして適している。
【0067】
更なる特徴、利点及び用途は、図面を引き合いに出しつつ実施例に基づいて以下により詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0068】
図1図1は、本発明の第一の実施例に従う摺動要素の概略的な層構造を示す。
図2図2は、本発明の第二の実施例に従う摺動要素の概略的な層構造を示す。
図3図3は、本発明の第三の実施例に従う摺動要素の概略な層構造を示す。
図4図4は、本発明の第四の実施例に従う摺動要素の概略な層構造を示す。
図5図5は、本発明の第五の実施例に従う摺動要素の概略な層構造を示す。
【0069】
全ての実施例は、金属製基材層11、21、31、41、51、及び少なくとも一つの本発明による摺動性コーティングからなるその上に施与された被膜12、22、32、42、52を有し、ここで基材層及び/または被膜の内部構造は様々である。被膜の厚さは、1μmと50μmとの間であり、この際、これらの概略図は、実際の層厚の比率を正確に再現しているわけでも、比例的に正確に再現しているわけではなく、単に、層の順序を示すのに役立つに過ぎない。
【0070】
図1による摺動要素の金属製基材層11は、支持層13、通常は鋼製の支持層13、及び軸受け金14、大概はCuもしくはAl合金に基づく軸受け金属14、並びに中間層15を有し、中間層15自体は、一つまたは複数の個々の層から構成することができそして軸受け金属層と被膜12との間の接合の向上に役立つ。用途に応じて、前記中間層も、その上にある層が摩耗される時に、改善された滑り特性または緊急運転特性を有するように構成することもできる。被膜12は、この実施例では、本発明による摺動性コーティングの単一の層16からなる。
【0071】
基本的には、軸受け金属が十分な強度を有する場合は、この及び以下の実施例においては、鋼でできた支持層は省略できる。同様に、幾つかの使用条件では、基本的に軸受け金属層も不要の場合がある。以下の実施例の一部が示すように、中間層も同様に任意である。
【0072】
図2では、摺動要素の金属製基材層21は、この場合もまた、鋼製支持層23及び軸受け金属層24からなり、その上には、この例では、被膜22が、中間層なしに、再び本発明による摺動性コーティングの単一の層26の形で施与されている。
【0073】
図3に従う実施例は、金属製支持体層31を有し、これは、鋼製支持層33、軸受け金属層34、中間層35及びその上に施与された薄い金属製摺動またはカバー層37からなる。前記摺動またはカバー層37は、中間層35上にスパッタリングされるか、またはそこで電解めっきにより堆積される。この場合、中間層35は、軸受け金属層34に対する金属製摺動またはカバー層37の改善された接合に役立つ。被覆32は、本発明による摺動性コーティングの単一の層36の形で、摺動層37上に施与され、そしてなじみ層として役立つ。なじみ層としては、カウンタ軸の状態調節のために最適化されたコーティング組成物、並びに適応に関して最適化されたコーティング組成物の両方を使用することができる。
【0074】
図4は、金属製支持体層41を備え、この層41が、鋼製支持層43及び軸受け金属層44からなる、実施例を示す。その上には、少なくとも二つの摺動性コーティングからなる多層系の形の被膜42が配置され、これらのうちの少なくとも一つの摺動性コーティングは本発明に従い形成される。前記被膜42は、具体的には、なじみ層として形成された上側の摺動性コーティング層46と、その下の、金属層41と接触しそして高い耐用期間を有する摺動層として形成された摺動性コーティング層48とを含む。耐久コーティング層48は、混合相酸化物を用いた本発明による摺動性コーティングからなり、その上に施与されたなじみ層46はこれらを任意選択に含むことができる。この場合も、なじみ層としては、カウンタ軸の状態調節のために最適化されたコーティング組成物、または適応に関して最適化されたコーティング組成物も使用することができる。
【0075】
最後に、図5には、金属製支持材層51を備えた実施例が示され、これは、鋼製支持層53及び軸受け金属層54からなる。その上には、少なくとも二つの摺動性コーティングからなる多層系の形の被膜52が配置され、これらのうちの少なくとも一つの摺動性コーティングは本発明に従い形成されている。被膜52は、金属製基材51上に、下側の摺動性コーティング層58とその上に上側の摺動性コーティング層56を有する。上側の摺動性コーティング層56は、良好な滑り特性及び適応特性を有する摺動層または高い耐用期間を有する摺動層を形成し、そして該混合相酸化物を含む。下側の摺動性コーティング層は、基材への付着に関して最適化され、そしてプライマーと同様に、その上にある摺動性コーティング層の接合を改善する目的を有し、そして該混合相酸化物を任意選択に含むことができる。
【実施例
【0076】
以下の表1は、本発明による摺動性コーティングの幾つかの例示組成物を記載する。
【0077】
【表1】
基材の露出された層は、例えば、表2に記載の合金からなり、そして摺動要素中でそれぞれ割り当てられる機能を有する:
【0078】
【表2】
本願は特許請求の範囲に記載の発明に係るものであるが、本願の開示は以下も包含する:
1. 樹脂マトリックスとしてのポリマー及び機能性フィラーを有する摺動性コーティングであって、前記機能性フィラーが、混合相酸化物、任意選択的に及び更なる機能性フィラーを含む、前記摺動性コーティング。
2. 前記混合相酸化物が、硬化摺動性コーティングを基準にして0.1~15体積%、好ましくは0.5~8体積%の割合で含まれていることを特徴とする、前記1.に記載の摺動性コーティング。
3. 前記混合相酸化物が、チタン、コバルト、アルミニウム、ニッケル、アンチモン、クロム、鉄または亜鉛のうちの少なくとも二種の元素を含むことを特徴とする、前記1.または2.に記載の摺動性コーティング。
4. 前記混合相酸化物が、チタンと、コバルト、アルミニウム、ニッケル、アンチモン、クロム、鉄または亜鉛のうちの少なくとも二種の元素とから形成され、特に好ましくはチタン、ニッケル及びアンチモンから形成されることを特徴とする、前記3.に記載の摺動性コーティング。
5. 前記混合相酸化物が、ルチル、スピネルまたはヘマタイト構造の形で存在することを特徴とする、前記1.~4.のいずれか一つに記載の摺動性コーティング。
6. 前記混合相酸化物が、0.05~2.0μm、好ましくは0.1~0.5μmの範囲のD50値の形のメジアン粒径を有することを特徴とする、前記1.~5.のいずれか一つに記載の摺動性コーティング。
7. 前記機能性フィラーの総割合が、硬化摺動性コーティングを基準にして75体積%を超えないことを特徴とする、前記1.~6.のいずれか一つに記載の摺動性コーティング。
8. 更なる機能性フィラーが含まれ、前記フィラーは、固体潤滑剤、硬質材料、及び熱伝導性を改善する物質のうちの一つまたは複数の物質を含むことを特徴とする、前記1.~7.のいずれか一つに記載の摺動性コーティング。
9. 前記固体潤滑剤が、層構造を有する金属硫化物、特にMoS 、WS 、SnS ;グラファイト、六方晶系BN、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ZnS、BaSO 及びこれらの混合物のうちの一つまたは複数の物質を含むことを特徴とする、前記8.に記載の摺動性コーティング。
10. 前記硬質材料が、窒化物、炭化物、ホウ化物、酸化物、特にSiC、Si 、B 、立方晶系BNまたはSiO のうちの一つまたは複数の物質を含むことを特徴とする、前記8.または9.に記載の摺動性コーティング。
11. 前記熱伝導性を改善する物質が、Ag、Pb、Au、Sn、Al、BiまたはCuからなる群からの一つまたは複数の金属粉末を含むことを特徴とする、前記8.~10.のいずれか一つに記載の摺動性コーティング。
12. 前記金属粉末の割合が、硬化摺動性コーティングを基準にして30体積%以下であることを特徴とする、前記11.に記載の摺動性コーティング。
13. 前記硬質材料の割合が、硬化摺動性コーティングを基準にして10体積%以下、好ましくは5体積%以下であることを特徴とする、前記8.~12.のいずれか一つに記載の摺動性コーティング。
14. 前記ポリマーが、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)及びポリエステルイミド、エポキシ樹脂(EP)、フェノール樹脂、ポリベンズイミダゾール(PBI)、シリコーン樹脂、高融点熱可塑性樹脂、特に220℃を超える融点を有する高融点熱可塑性樹脂、ポリアリーレート、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)及びポリ(オキシ-1,4-フェニルスルホニル-1,4-フェニル)(PES)からなる群から選択されることを特徴とする、前記1.~13.のいずれか一つに記載の摺動性コーティング。
15. 金属製基材層と、その上に施与された、前記1.~14.のいずれか一つに記載の少なくとも一つの摺動性コーティングからなる被膜とを有する摺動要素。
16. 前記被膜の厚さが1μmと50μmとの間であることを特徴とする、前記15.に記載の摺動要素。
17. 最大130mmまでの直径を有するラジアル軸受けであり、ここで前記被膜の厚さが5μmと25μmとの間であることを特徴とする、前記15.または16.に記載の摺動要素。
18. 前記金属製基材層が、単一の金属層からなるかまたは複数の金属層の層複合体からなり、この際、前記基材層の露出された層の上に前記被膜が施与されていることを特徴とする、前記15.~17.のいずれか一つに記載の摺動要素。
19. 前記基材層の露出された層が、Cu合金、Al合金、Ni合金、Sn合金、Zn合金、Ag合金、Au合金、Bi合金またはFe合金から形成されていることを特徴とする、前記18.に記載の摺動要素。
20. 前記金属製基材層が、鋼製支持層または金属製軸受け金属層、または鋼製支持層と金属製軸受け金属層、任意選択的に金属製中間層、任意選択的に及び摺動層を含むことを特徴とする、前記18.または19.に記載の摺動要素。
21. 前記摺動層が前記基材層の露出された層を形成し、その上に前記被膜が、カウンタ軸の状態調節のためのなじみ層としてまたは適応のためのなじみ層として形成されていることを特徴とする、前記20.に記載の摺動要素。
22. 前記摺動層が任意選択的にスパッタ層として、特にAlSnからなるスパッタ層として、または電解めっき摺動層として形成されていることを特徴とする、前記21.に記載の摺動要素。
23. 軸受け金属層が、前記基材層の露出された層を形成し、その上に、前記被膜が長い耐用期間を有する摺動層として形成されていることを特徴とする、前記20.に記載の摺動要素。
24. 前記軸受け金属層が、CuSn軸受け金属合金、CuNiSi軸受け金属合金、CuZn軸受け金属合金、CuSnZn軸受け金属合金、AlSn軸受け金属合金、AlSi軸受け金属合金、AlSnSi軸受け金属合金またはAlZn軸受け金属合金をベースとする、前記20.~23.のいずれか一つに記載の摺動要素。
25. Sn、Ni、Ag、Cu、Feまたはそれらの合金からなる中間層が、前記基材層の露出された層を形成し、その上に前記被膜が形成されていることを特徴とする、前記20.に記載の摺動要素。
26. 前記被膜が、少なくとも二つの摺動性コーティングからなる多層系であり、そのうちの少なくとの一つの摺動性コーティングが前記1.~12.のいずれか一つに従い形成されており、ここで、カウンタ軸の状態調節のためのなじみ層としての上側の摺動性コーティング層が、長い耐用期間を有する摺動層としての下側の摺動性コーティング層の上に形成されていること特徴とする、前記15.~25.のいずれか一つに記載の摺動要素。
27. 前記被膜が、少なくとも二つの摺動性コーティングからなる多層系であり、そのうちの少なくとも一つの摺動性コーティングが前記1.~12.のいずれか一つに従い形成されており、ここで、良好な滑り特性及び適応特性を有する摺動性コーティングとしての上側の摺動性コーティング層の下に、高い耐摩耗性を有する下側の摺動性コーティング層が形成されていることを特徴とする、前記15.~26.のいずれか一つに記載の摺動要素。
28. 前記被膜が、少なくとも二つの摺動性コーティングからなる多層系であり、そのうち少なくとも一つの摺動性コーティングが、前記9.~18.のいずれか一つに従い形成されており、ここで、前記金属製基材層と、良好な滑り特性及び適応特性を有する摺動層としてまたは高い耐摩耗性を有する摺動層として形成された上側の摺動性コーティング層との間に、添加剤を僅かに含むかまたは全く含まない追加的な摺動性コーティング層が配置されていることを特徴とする、前記15.~27.のいずれか一つに記載の摺動要素。
29. 添加剤を僅かに含むかまたは全く含まない前記摺動性コーティング層が前記摺動層よりも薄く形成されていることを特徴とする、前記28.に記載の摺動要素。
30. 前記被膜が、少なくとも二つの摺動性コーティングからなる多層系であり、そのうちの少なくとも一つの摺動性コーティングが前記1.~12.のいずれか一つに従い形成されており、ここで、前記少なくとの二つの摺動性コーティングが、少なくとも、二官能性もしくは環化二官能性化合物、固体潤滑剤、硬質材料、及び熱伝導性を改善する物質からなる群から選択される物質に関して、異なる割合を有することを特徴とする、前記15.~29.のいずれか一つに記載の摺動要素。
31. 前記被膜が、少なくとも二つの摺動性コーティングからなる勾配型層系であり、そのうちの少なくとも一つの摺動性コーティングが前記1.~12.のいずれか一つに従い形成されており、ここで、前記勾配型層系が、層厚の少なくとも一部を考慮した場合に、二官能性もしくは環化二官能性化合物、固体潤滑剤、硬質材料、及び熱伝導性を改善する物質からなる群から選択される少なくとも一種の物質を、増加または減少する割合で含むことを特徴とする、前記15.~30.のいずれか一つに記載の摺動要素。
32. 滑り軸受けシェルまたはブッシュ、特に内燃機関のための滑り軸受けシェルまたはブッシュとして形成されている、前記15.~31.のいずれか一つに記載の摺動要素。
33. 内燃機関のためのピストン、ピストンリング、軸受けシェルまたはブッシュをコーティングするための、前記1.~14.のいずれか一つに記載の摺動性コーティングの使用。
34. 摺動要素の製造方法であって、
i.金属製支持材層の提供、
ii.前記支持体層上への、前記1.~14.のいずれか一つに記載の摺動性コーティングの施与、ここで前記摺動性コーティングは溶剤中に溶解されており、
iii.前記基材層上に被膜を形成しつつの前記摺動性コーティングの硬化、
を含む、前記方法。
35. 前記硬化ステップが、ポリマーの架橋及び溶剤の除去を含む、前記34.に記載の方法。
【符号の説明】
【0079】
11 金属製基材
12 被膜
13 鋼製支持層
14 軸受け金属層
15 中間層
16 摺動性コーティング層
21 金属製基材
22 被膜
23 鋼製支持層
24 軸受け金属層
26 摺動性コーティング層
31 金属製基材
32 被膜
33 鋼製支持層
34 軸受け金属層
35 中間層
36 摺動性コーティング層,なじみ層
37 金属製摺動-またはカバー層
41 金属製基材
42 被膜
43 鋼製支持層
44 軸受け金属層
46 摺動性コーティング層,なじみ層
48 摺動性コーティング層,耐久層
51 金属製基材
52 被膜
53 鋼製支持層
54 軸受け金属層
56 摺動性コーティング層,耐久層
58 摺動性コーティング層,プライマー
図1
図2
図3
図4
図5