(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】ベンズイミダゾール誘導体及びその使用
(51)【国際特許分類】
C07D 401/14 20060101AFI20230214BHJP
A61K 31/4545 20060101ALI20230214BHJP
A61K 31/506 20060101ALI20230214BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20230214BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20230214BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20230214BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20230214BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230214BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20230214BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20230214BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20230214BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230214BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
C07D401/14 CSP
A61K31/4545
A61K31/506
A61P3/10
A61P9/04
A61P9/10
A61P9/12
A61P11/00
A61P13/12
A61P21/00
A61P31/04
A61P35/00
A61P43/00 111
(21)【出願番号】P 2021559275
(86)(22)【出願日】2020-04-10
(86)【国際出願番号】 US2020027624
(87)【国際公開番号】W WO2020210597
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-12-08
(32)【優先日】2019-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503369495
【氏名又は名称】帝人ファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(72)【発明者】
【氏名】チャッカ,ナガスリー
(72)【発明者】
【氏名】ガオ,ホア
(72)【発明者】
【氏名】ガズマン-ペレス,エンジェル
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン,ブレット マイケル
(72)【発明者】
【氏名】キーファー,マデリーン
(72)【発明者】
【氏名】マリノフスキ,ジャスティン
(72)【発明者】
【氏名】シェンケル,ローリー
【審査官】土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/028308(WO,A1)
【文献】特表2015-500345(JP,A)
【文献】特表2013-521250(JP,A)
【文献】国際公開第2019/079578(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 401/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(3R,4R)-4-フルオロ-1-(5-フルオロ-1-((5-フルオロ-2-ピリジニル)メチル)-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-3-ピペリジンアミン;
(3R)-1-(5,7-ジフルオロ-1-((5-フルオロ-2-ピリジニル)メチル)-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-4,4-ジフルオロ-3-ピペリジンアミン;
(3R,4R)-4-フルオロ-1-(6-フルオロ-1-((5-フルオロ-2-ピリミジニル)メチル)-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-3-ピペリジンアミン;
(3R,4R)-4-フルオロ-1-(6-フルオロ-1-((5-フルオロ-2-ピリジニル)メチル)-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-3-ピペリジンアミン;
(3R,4R)-1-(1-((5-クロロ-2-ピリジニル)メチル)-5-フルオロ-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-4-フルオロ-3-ピペリジンアミン;
(3R)-1-(1-((5-クロロ-2-ピリミジニル)メチル)-6-フルオロ-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-4,4-ジフルオロ-3-ピペリジンアミン;
(3R)-4,4-ジフルオロ-1-(6-フルオロ-1-((5-フルオロ-2-ピリジニル)メチル)-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-3-ピペリジンアミン;
(3R,4R)-1-(5,6-ジフルオロ-1-((5-メチル-2-ピリジニル)メチル)-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-4-フルオロ-3-ピペリジンアミン;
(3R,4R)-1-(4,6-ジフルオロ-1-((5-メトキシ-2-ピリミジニル)メチル)-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-4-フルオロ-3-ピペリジンアミン;
(3R)-1-(1-((5-クロロピリジン-2-イル)メチル)-6-フルオロ-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-4,4-ジフルオロピペリジン-3-アミン;
(3R,4R)-4-フルオロ-1-(5-フルオロ-1-((5-フルオロ-2-ピリミジニル)メチル)-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-3-ピペリジンアミン;
(3R,4R)-1-(1-((5-クロロ-2-ピリジニル)メチル)-6-フルオロ-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-4-フルオロ-3-ピペリジンアミン;
2-((3R)-3-アミノ-4,4-ジフルオロ-1-ピペリジニル)-1-((5-クロロ-2-ピリジニル)メチル)-1H-ベンズイミダゾール-6-カルボニトリル;
(3R)-1-(1-((5-クロロ-2-ピリミジニル)メチル)-4,6-ジフルオロ-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-4,4-ジフルオロ-3-ピペリジンアミン;
2-((3R,4R)-3-アミノ-4-フルオロ-1-ピペリジニル)-6-フルオロ-1-((5-フルオロ-2-ピリジニル)メチル)-1H-ベンズイミダゾール-4-カルボニトリル;
(3R)-1-(1-((5-クロロ-2-ピリジニル)メチル)-5,6-ジフルオロ-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-4,4-ジフルオロ-3-ピペリジンアミン;
(3R)-1-(1-((5-クロロ-2-ピリミジニル)メチル)-5,6-ジフルオロ-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-4,4-ジフルオロ-3-ピペリジンアミン;
(3R,4R)-1-(1-((5-クロロ-2-ピリミジニル)メチル)-5,6-ジフルオロ-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-4-フルオロ-3-ピペリジンアミン;
(3R,4R)-1-(5,6-ジフルオロ-1-((5-メトキシ-2-ピリミジニル)メチル)-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-4-フルオロ-3-ピペリジンアミン;
6-((2-((3R,4R)-3-アミノ-4-フルオロ-1-ピペリジニル)-5,6-ジフルオロ-1H-ベンズイミダゾル-1-イル)メチル)-2-ピリジンカルボニトリル;及び
(3R,4R)-1-(1-((5-クロロピリミジン-2-イル)メチル)-4-フルオロ-6-メトキシ-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-4-フルオロピペリジン-3-アミン
から選択される化合物又はその
医薬的に許容可能な塩。
【請求項2】
医薬的に許容可能な賦形剤
又は担体
と、少なくとも1つの請求項1に記載の化合物
又はその医薬的に許容可能な塩とを含む医薬組成物。
【請求項3】
TRPC6活性を
阻害するための
、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
ネフローゼ症候群、微小変化型疾患、巣状分節状糸球体硬化症、虚脱性糸球体症、膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎、IGA腎症、急性腎不全、慢性腎不全、糖尿病性腎症、敗血症、肺高血圧、急性肺障害、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、心不全、脳卒中、悪性腫瘍、及び筋ジストロフィーを治療するための
、請求項2に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、一過性受容体電位型カノニカル(Transient Receptor Potential Canonical:TRPC)チャネルタンパク質に関し、より具体的には、一過性受容体電位型チャネル6(Transient Receptor Potential Channel 6:TRPC6)タンパク質活性の阻害剤、斯かる阻害剤を含む医薬組成物、及び、斯かる阻害剤を用いる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一過性受容体電位型(TRP)ファミリーの一員であるTRPC6チャネルは、非選択的陽イオン透過性チャネルであって、ホスホリパーゼCの活性化により産生されるジアシルグリセロール等によって活性化され、生理学的及び病態生理学的作用を発揮する。TRPC6は、例えば心筋の病理学的肥大及び線維症、筋ジストロフィーにおける心筋障害の進行、急性肺血管収縮、慢性低酸素症誘発性肺高血圧の病理学的な進行、アレルギー性気道応答、好中球等の細胞遊走、炎症時の内皮細胞の漏洩増加、有足細胞の病理学的扁平化及び糸球体の損傷の進行、及び悪性腫瘍の増殖又は浸潤等の作用を有し、脳、心臓、肺、腎臓、胎盤、子宮、脾臓等に広範に分布する(例えばJ. Clin. Invest. 116:3114-3126, 2006; Dev. Cell. 23:705-715, 2012; Circ. Res. 114:823-832, 2014; Proc. Natl. Acd. Sci. USA 103:19093-19098, 2006; J. Cardiovasc. Pharmacol. 57:140-147, 2011; Hypertension 63:173-80, 2014; Clin. Exp. Allergy 38:1548-1558, 2008; Acta. Physiol. 195:3-11, 2009; J. Exp. Med. 209:1953-1968, 2011; Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 33:2121-2129, 2013; PLoS ONE 5: e12859, 2010; Expert. Opin. Ther. Targets. 14:513-27, 2010; and BMC Cancer 13:116, 2013等参照)。家族性巣状分節状糸球体硬化症(familial focal segmental glomerulosclerosis:FSGS)、TRPC6の機能獲得性変異体(gain-of-function mutants)が同定されており、ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群又は特発性肺動脈高血圧の患者では、TRPC6のmRNA発現を増強するプロモーター領域に単一ヌクレオチド多型が同定されている (例えばPediatr Res. 2013 Nov;74(5):511-6 and Circulation. 2009 May 5;119(17):2313-2322等参照)。従って、TRPC6の機能亢進及び発現増加は、ネフローゼ症候群、肺高血圧等の病理学的な進行に寄与していると考えられる(例えばScience 308:1801-1804, 2005; Nat. Genet. 37:739-744, 2005; PLoS One 4: e7771, 2009; Clin. J. Am. Soc. Nephrol. 6:1139-1148, 2011; Mol. Biol. Cell. 22:1824-1835, 2011; BMC Nephrol. 14:104, 2013; Pediatr. Res. 74:511-516, 2013; and Nephrol. Dial. Transplant. 28:1830-1838, 2013等参照)。更に、微小変化型ネフローゼ症候群、膜性腎症、及び糖尿病性腎症において、TRPC6の発現増加が報告されている(例えばCirculation 119:2313-2322, 2009; J. Am. Soc. Nephrol. 18:29-36, 2007; and Nephrol. Dial. Transplant. 27:921-929, 2012等参照)。
【0003】
ネフローゼ症候群、微小変化型疾患、巣状分節状糸球体硬化症、虚脱性糸球体症、膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎、IGA腎症、急性腎不全、慢性腎不全、糖尿病性腎症、敗血症、肺高血圧、急性肺障害、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、心不全、脳卒中、悪性腫瘍、及び筋ジストロフィーの予防及び/又は治療において、TRPC6活性を調節し、より具体的にはTRPC6活性を抑制する、新たなアプローチが求められている。異なる作用機序を利用した医薬であって、症状の緩和、安全性、及び患者の死亡率の観点から、短期及び長期において、より優れた結果をもたらしうる医薬が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、TRPCタンパク質を阻害し、より具体的にはTRPC6タンパク質を阻害する化合物を提供する。本発明は、一側面によれば、TRPC6活性を阻害するベンズイミダゾール化合物を提供する。TRPC6活性の阻害は、ネフローゼ症候群、巣状分節状糸球体硬化症、膜性腎症、糖尿病性腎症、心不全、脳卒中、急性肺損傷、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、及び急性腎不全等の種々の疾患の治療又は予防において、特に望ましい可能性がある。
【0005】
本発明は、一側面によれば、TRPC6の活性を調節する置換ベンズイミダゾール化合物を提供する。好ましくは、本発明の置換ベンズイミダゾール化合物は、TRPC6阻害剤である。
【0006】
更に提供されるのは、医薬的に許容可能な賦形剤、担体、又はアジュバントと、以下の詳細な説明に開示される少なくとも1つの置換ベンズイミダゾール化合物とを含む医薬組成物である。本発明により提供される医薬組成物は、TRPC6活性により調節される疾患の治療における使用に適している。ある側面によれば、本発明の医薬組成物は、前記の治療、例えばネフローゼ症候群、微小変化型疾患、巣状分節状糸球体硬化症、虚脱性糸球体症、膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎、IGA腎症、急性腎不全、慢性腎不全、糖尿病性腎症、敗血症、肺高血圧、急性肺障害、心不全、脳卒中、悪性腫瘍、又は筋ジストロフィー等の治療における使用に適している。
【0007】
更に提供されるのは、医薬的に許容可能な賦形剤、担体、又はアジュバントと、以下の詳細な説明に開示される少なくとも1つの置換ベンズイミダゾール化合物とを含む医薬組成物、及び、TRPC6活性により媒介される疾患の患者を治療するために、 或いはより具体的には、ネフローゼ症候群、微小変化型疾患、巣状分節状糸球体硬化症、虚脱性糸球体症、膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎、IGA腎症、急性腎不全、慢性腎不全、糖尿病性腎症、敗血症、肺高血圧、急性肺障害、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、心不全、脳卒中、悪性腫瘍、又は筋ジストロフィーの患者を治療するために、前記組成物を用いるための指示書を含む、包装された医薬組成物である。ある例によれば、前記患者は、ネフローゼ症候群、膜性腎症、及び急性腎不全の患者である。
【0008】
更に提供されるのは、哺乳類において疾患を治療又は予防する方法であって、以下の詳細な説明に開示される少なくとも1つの置換ベンズイミダゾール化合物、或いは、医薬的に許容可能な賦形剤、担体、又はアジュバントと、以下の詳細な説明に開示される少なくとも1つの置換ベンズイミダゾール化合物とを含む医薬組成物の治療有効量を、それを必要とする哺乳類に投与する方法である。
【0009】
更に提供されるのは、哺乳類においてTRPC6活性を調節する方法であって、以下の詳細な説明に開示される少なくとも1つの置換ベンズイミダゾール化合物、或いは、医薬的に許容可能な賦形剤、担体、又はアジュバントと、以下の詳細な説明に開示される少なくとも1つの置換ベンズイミダゾール化合物とを含む医薬組成物の治療有効量を、それを必要とする哺乳類に投与することを含む方法である。本発明の他の側面は、TRPC6媒介性疾患又は障害を治療する方法であって、本発明のTRPC6阻害剤を、治療を必要とする患者に投与することを含む方法に関する。ある側面によれば、前記TRPC6媒介性疾患又は障害は、ネフローゼ症候群、微小変化型疾患、巣状分節状糸球体硬化症、虚脱性糸球体症、膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎、IGA腎症、急性腎不全、慢性腎不全、糖尿病性腎症、敗血症、肺高血圧、急性肺障害、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、心不全、脳卒中、悪性腫瘍、又は筋ジストロフィーから選択される。ある例によれば、前記患者は、ネフローゼ症候群、膜性腎症、及び急性腎不全の患者である。
【0010】
更に提供されるのは、TRPC6活性により媒介される疾患を治療又は予防するための薬剤の製造における、以下の詳細な説明に開示される少なくとも1つの置換ベンズイミダゾール化合物の使用である。
【0011】
他の側面及び態様は、以下の詳細な説明から、当業者には明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は概して、以下の詳細な説明に開示される置換ベンズイミダゾール化合物、並びにそれらの塩及び互変異性体であって、TRPCタンパク質活性を阻害する、より具体的にはTRPC6タンパク質活性を阻害する化合物に関する。特に、本発明は、TRPC6タンパク質活性を選択的に阻害する化合物に関する。
【0013】
第1の態様によれば、本発明は、
(3R,4R)-4-フルオロ-1-(5-フルオロ-1-((5-フルオロ-2-ピリジニル)メチル)-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-3-ピペリジンアミン;
(3R)-1-(5,7-ジフルオロ-1-((5-フルオロ-2-ピリジニル)メチル)-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-4,4-ジフルオロ-3-ピペリジンアミン;
(3R,4R)-4-フルオロ-1-(6-フルオロ-1-((5-フルオロ-2-ピリミジニル)メチル)-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-3-ピペリジンアミン;
(3R,4R)-4-フルオロ-1-(6-フルオロ-1-((5-フルオロ-2-ピリジニル)メチル)-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-3-ピペリジンアミン;
(3R,4R)-1-(1-((5-クロロ-2-ピリジニル)メチル)-5-フルオロ-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-4-フルオロ-3-ピペリジンアミン;
(3R)-1-(1-((5-クロロ-2-ピリミジニル)メチル)-6-フルオロ-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-4,4-ジフルオロ-3-ピペリジンアミン;
(3R)-4,4-ジフルオロ-1-(6-フルオロ-1-((5-フルオロ-2-ピリジニル)メチル)-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-3-ピペリジンアミン;
(3R,4R)-1-(5,6-ジフルオロ-1-((5-メチル-2-ピリジニル)メチル)-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-4-フルオロ-3-ピペリジンアミン;
(3R,4R)-1-(4,6-ジフルオロ-1-((5-メトキシ-2-ピリミジニル)メチル)-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-4-フルオロ-3-ピペリジンアミン;
(3R)-1-(1-((5-クロロピリジン-2-イル)メチル)-6-フルオロ-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-4,4-ジフルオロピペリジン-3-アミン;
(3R,4R)-4-フルオロ-1-(5-フルオロ-1-((5-フルオロ-2-ピリミジニル)メチル)-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-3-ピペリジンアミン;
(3R,4R)-1-(1-((5-クロロ-2-ピリジニル)メチル)-6-フルオロ-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-4-フルオロ-3-ピペリジンアミン;
2-((3R)-3-アミノ-4,4-ジフルオロ-1-ピペリジニル)-1-((5-クロロ-2-ピリジニル)メチル)-1H-ベンズイミダゾール-6-カルボニトリル;
(3R)-1-(1-((5-クロロ-2-ピリミジニル)メチル)-4,6-ジフルオロ-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-4,4-ジフルオロ-3-ピペリジンアミン;
2-((3R,4R)-3-アミノ-4-フルオロ-1-ピペリジニル)-6-フルオロ-1-((5-フルオロ-2-ピリジニル)メチル)-1H-ベンズイミダゾール-4-カルボニトリル;
(3R)-1-(1-((5-クロロ-2-ピリジニル)メチル)-5,6-ジフルオロ-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-4,4-ジフルオロ-3-ピペリジンアミン;
(3R)-1-(1-((5-クロロ-2-ピリミジニル)メチル)-5,6-ジフルオロ-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-4,4-ジフルオロ-3-ピペリジンアミン;
(3R,4R)-1-(1-((5-クロロ-2-ピリミジニル)メチル)-5,6-ジフルオロ-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-4-フルオロ-3-ピペリジンアミン;
(3R,4R)-1-(5,6-ジフルオロ-1-((5-メトキシ-2-ピリミジニル)メチル)-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-4-フルオロ-3-ピペリジンアミン;
6-((2-((3R,4R)-3-アミノ-4-フルオロ-1-ピペリジニル)-5,6-ジフルオロ-1H-ベンズイミダゾル-1-イル)メチル)-2-ピリジンカルボニトリル;及び
(3R,4R)-1-(1-((5-クロロピリミジン-2-イル)メチル)-4-フルオロ-6-メトキシ-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-4-フルオロピペリジン-3-アミン
からなる群より選択される、化合物又はその医薬的に許容可能な塩を提供する。
【0014】
第2の態様によれば、前記第1の態様の化合物であって、
(3R,4R)-4-フルオロ-1-(5-フルオロ-1-((5-フルオロ-2-ピリジニル)メチル)-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-3-ピペリジンアミン;
(3R)-1-(5,7-ジフルオロ-1-((5-フルオロ-2-ピリジニル)メチル)-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-4,4-ジフルオロ-3-ピペリジンアミン;
(3R,4R)-4-フルオロ-1-(6-フルオロ-1-((5-フルオロ-2-ピリミジニル)メチル)-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-3-ピペリジンアミン;
(3R,4R)-4-フルオロ-1-(6-フルオロ-1-((5-フルオロ-2-ピリジニル)メチル)-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-3-ピペリジンアミン;及び
(3R,4R)-1-(1-((5-クロロ-2-ピリジニル)メチル)-5-フルオロ-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-4-フルオロ-3-ピペリジンアミン、又はその医薬的に許容可能な塩
からなる群より選択される化合物が提供される。
【0015】
第3の態様によれば、前記第1の態様の化合物であって、
(3R)-1-(1-((5-クロロ-2-ピリミジニル)メチル)-6-フルオロ-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-4,4-ジフルオロ-3-ピペリジンアミン;
(3R)-4,4-ジフルオロ-1-(6-フルオロ-1-((5-フルオロ-2-ピリジニル)メチル)-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-3-ピペリジンアミン;
(3R,4R)-1-(5,6-ジフルオロ-1-((5-メチル-2-ピリジニル)メチル)-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-4-フルオロ-3-ピペリジンアミン;
(3R,4R)-1-(4,6-ジフルオロ-1-((5-メトキシ-2-ピリミジニル)メチル)-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-4-フルオロ-3-ピペリジンアミン;及び
(3R)-1-(1-((5-クロロピリジン-2-イル)メチル)-6-フルオロ-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-4,4-ジフルオロピペリジン-3-アミン、又はその医薬的に許容可能な塩
からなる群より選択される化合物が提供される。
【0016】
第4の態様によれば、前記第1の態様の化合物であって、
(3R,4R)-4-フルオロ-1-(5-フルオロ-1-((5-フルオロ-2-ピリミジニル)メチル)-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-3-ピペリジンアミン;
(3R,4R)-1-(1-((5-クロロ-2-ピリジニル)メチル)-6-フルオロ-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-4-フルオロ-3-ピペリジンアミン;
2-((3R)-3-アミノ-4,4-ジフルオロ-1-ピペリジニル)-1-((5-クロロ-2-ピリジニル)メチル)-1H-ベンズイミダゾール-6-カルボニトリル;
(3R)-1-(1-((5-クロロ-2-ピリミジニル)メチル)-4,6-ジフルオロ-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-4,4-ジフルオロ-3-ピペリジンアミン;及び
2-((3R,4R)-3-アミノ-4-フルオロ-1-ピペリジニル)-6-フルオロ-1-((5-フルオロ-2-ピリジニル)メチル)-1H-ベンズイミダゾール-4-カルボニトリル、又はその医薬的に許容可能な塩
からなる群より選択される化合物が提供される。
【0017】
第5の態様によれば、前記第1の態様の化合物であって、
(3R)-1-(1-((5-クロロ-2-ピリジニル)メチル)-5,6-ジフルオロ-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-4,4-ジフルオロ-3-ピペリジンアミン;
(3R)-1-(1-((5-クロロ-2-ピリミジニル)メチル)-5,6-ジフルオロ-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-4,4-ジフルオロ-3-ピペリジンアミン;
(3R,4R)-1-(1-((5-クロロ-2-ピリミジニル)メチル)-5,6-ジフルオロ-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-4-フルオロ-3-ピペリジンアミン;
(3R,4R)-1-(5,6-ジフルオロ-1-((5-メトキシ-2-ピリミジニル)メチル)-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-4-フルオロ-3-ピペリジンアミン;
6-((2-((3R,4R)-3-アミノ-4-フルオロ-1-ピペリジニル)-5,6-ジフルオロ-1H-ベンズイミダゾル-1-イル)メチル)-2-ピリジンカルボニトリル;及び
(3R,4R)-1-(1-((5-クロロピリミジン-2-イル)メチル)-4-フルオロ-6-メトキシ-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-4-フルオロピペリジン-3-アミン、又はその医薬的に許容可能な塩
からなる群より選択される化合物が提供される。
【0018】
更なる態様によれば、本明細書に開示される化合物が各々、医薬的に許容可能な塩の形態で提供される。
【0019】
第6の態様によれば、前記第1~第5の態様の各々において提供される化合物及びその医薬的に許容可能な塩は、TRPC6活性により媒介される疾患の治療に使用される薬剤の調合に使用されてもよい。ある側面によれば、前記第1~第5の態様において提供される化合物、又はその医薬的に許容可能な塩は、ネフローゼ症候群、微小変化型疾患、巣状分節状糸球体硬化症、虚脱性糸球体症、膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎、IGA腎症、急性腎不全、慢性腎不全、糖尿病性腎症、敗血症、肺高血圧、急性肺障害、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、心不全、脳卒中、悪性腫瘍、又は筋ジストロフィーから選択される疾患又は障害の治療に使用される薬剤の調合に使用されてもよい。更に他の側面によれば、前記第1~第5の態様の化合物、又はその医薬的に許容可能な塩は、ネフローゼ症候群、膜性腎症、及び急性腎不全の治療に使用される薬剤の調合に使用されてもよい。
【0020】
第7の態様によれば、疾患又は障害の治療を、それを必要とする患者において行う方法であって、前記第1~第5の態様の何れか一つの化合物、又はその医薬的に許容可能な塩を含む、医薬的に許容可能な組成物を投与することを含む方法が提供される。ここで、前記疾患又は障害は、ネフローゼ症候群、微小変化型疾患、巣状分節状糸球体硬化症、虚脱性糸球体症、膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎、IGA腎症、急性腎不全、慢性腎不全、糖尿病性腎症、敗血症、肺高血圧、急性肺障害、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、心不全、脳卒中、悪性腫瘍、又は筋ジストロフィーから選択される。記第6の態様のある側面によれば、前前記疾患又は障害は、ネフローゼ症候群、膜性腎症、及び急性腎不全から選択される。
【0021】
他の態様によれば、1又は2以上の医薬的に許容可能な担体と、前記第1~第5の態様の何れか一つの化合物の治療有効量とを含む医薬組成物が提供される。ある側面によれば、前記組成物は、注射用液剤、エアロゾル、錠剤、丸剤、カプセル、シロップ、クリーム、ゲル、及び経皮パッチからなる群より選択される剤形に処方される。
【0022】
他の態様によれば、前記第1~第5の態様の何れか一つの化合物の治療有効量を含む組み合わせ、特に医薬の組み合わせが提供される。
【0023】
他の態様によれば、対象においてTRPCタンパク質活性を調節する方法であって、前記第1~第5の態様の何れか一つの化合物の治療有効量を前記対象に投与することを含む方法が提供される。前記態様の好ましい側面によれば、対象においてTRPC6活性を阻害する方法であって、前記第1~第5の態様の何れか一つの化合物の治療有効量を前記対象に投与することを含む方法が提供される。前記態様のある側面によれば、対象においてTRPC6活性を阻害する方法であって、前記第1~第5の態様の何れか一つの化合物の治療有効量を前記対象に投与することを含む方法が提供される。
【0024】
更に他の態様によれば、対象においてTRPCタンパク質活性により媒介される障害又は疾患を治療する方法が提供され、特にTRPC6タンパク質活性により媒介される疾患又は障害を治療する方法が提供される。当該方法は、前記第1~第5の態様の何れか一つの化合物の治療有効量を前記対象に投与することを含む。
【0025】
他の態様によれば、疾患又は障害を治療又は予防する方法であって、前記疾患又は障害 が、ネフローゼ症候群、微小変化型疾患、巣状分節状糸球体硬化症、虚脱性糸球体症、膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎、IGA腎症、急性腎不全、慢性腎不全、糖尿病性腎症、敗血症、肺高血圧、急性肺障害、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、心不全、脳卒中、悪性腫瘍、又は筋ジストロフィーから選択されると共に、前記方法が、前記第1~第5の態様の何れか一つの化合物の治療有効量を、治療を必要とする対象に投与する工程を含む方法が提供される。この態様のある側面によれば、前記方法は、ネフローゼ症候群、微小変化型疾患、巣状分節状糸球体硬化症、虚脱性糸球体症、膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎、IGA腎症、急性腎不全、慢性腎不全、糖尿病性腎症、敗血症、肺高血圧、急性肺障害、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、心不全、脳卒中、悪性腫瘍、又は筋ジストロフィーから選択される疾患又は障害を治療することを含む。ある例によれば、前記の治療方法及び/又は予防方法は、ネフローゼ症候群、膜性腎症、及び急性腎不全の治療及び/又は予防に適している。
【0026】
他の側面によれば、本発明は、対象におけるTRPCタンパク質活性により媒介される障害又は疾患の治療のための薬剤の調合又は薬剤の製造に使用される、前記第1~第5の態様の何れか一つの化合物を提供する。他の側面によれば、本発明は、ネフローゼ症候群、微小変化型疾患、巣状分節状糸球体硬化症、虚脱性糸球体症、膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎、IGA腎症、急性腎不全、慢性腎不全、糖尿病性腎症、敗血症、肺高血圧、急性肺障害、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、心不全、脳卒中、悪性腫瘍、又は筋ジストロフィーの治療における、前記第1~第5の態様の何れか一つの化合物の使用を提供する。ある例によれば、本発明は、ネフローゼ症候群、膜性腎症、及び急性腎不全から選択される疾患又は障害を対象において治療するための薬剤の調合又は薬剤の製造に使用される、前記第1~第5の態様の何れか一つの化合物を提供する。
【0027】
本明細書を解釈するために、以下の定義が適用される。また、適切な場合は常に、単数形で使用されている語は複数形も包含し、その逆も真であるものとする。
【0028】
本明細書において、「異性体」(isomers)という語は、分子式は同一であるが、原子の配列や立体配置が異なる異なる複数の化合物を指すものとする。また、本明細書において、「光学異性体」(an optical isomer)又は「立体異性体」(a stereoisomer)という語は、本発明の所定の化合物について存在し得る種々の立体異性体配置の何れかを指し、幾何学的異性体も含むものとする。置換基は、炭素原子のキラル中心に結合していてもよいと解すべきである。従って、本発明は、前記化合物のエナンチオマー、ジアステレオ異性体、又はラセミ体を含む。「エナンチオマー」(enantiomers)とは、互いに重ね合わせ不可能な鏡像の関係にある一対の立体異性体をいう。一対のエナンチオマーの1:1の混合物が「ラセミ」(racemic)混合物である。この用語は、必要に応じてラセミ混合物を指定するために使用される。「rel」という語を使用する場合は、ジアステレオ異性体の向きは分かっているものの、絶対立体化学は不明であることを示す。絶対立体化学が決定されていない場合は、光学回転及び/又はキラルクロマトグラフィー条件によって、何れの異性体が存在するかが示される。
【0029】
「ジアステレオ異性体」(diastereomers)とは、少なくとも2つの不斉原子を有するが、互いに鏡像の関係にはない立体異性体をいう。その絶対立体化学は、Cahn-Ingold-Prelog R-S系に基づいて規定される。化合物が純粋なエナンチオマーである場合、各キラル炭素における立体化学は、R又はSの何れかで指定される。絶対配置が不明な光学分割済み化合物は、ナトリウムD線の波長の平面偏光を回転させる方向(右旋性又は左旋性)や、キラルクロマトグラフィー分離の保持時間に応じて、(+)又は(-)の何れかで指定される。本明細書に記載される化合物の一部は、1又は2以上の不斉中心又は不斉軸を含む結果、エナンチオマー、ジアステレオ異性体、及びその他の立体異性体を有する可能性があるところ、これらは絶対立体化学の観点から、(R)-又は(S)-の記号により、或いは(+)又は(-)の記号により規定される。本発明は、ラセミ混合物、光学的に純粋な形態、及びこれらの任意の混合物を含む、可能な異性体の全てを含むことが意図される。光学活性(R)異性体及び(S)異性体は、キラル合成剤やキラル試薬を用いて調製してもよいし、従来の技術で光学分割してもよい。化合物が二重結合を含む場合、その置換基はE配置でもZ配置でもよい。化合物が二置換のシクロアルキルを含む場合、シクロアルキルの置換基はシス配置でもトランス配置でもよい。
【0030】
前記第1~第5の態様の何れかの化合物又はそれらの何れかの塩を含む、本明細書で提供される任意の化合物について、当該化合物は、単一のエナンチオマー、ジアステレオ異性体、又は互変異性体、或いは、1又は2以上のエナンチオマー、ジアステレオ異性体、及び互変異性体の任意の比率の混合物等、任意の立体化学的形態で存在していてよいものと解すべきである。
【0031】
本明細書において、「塩」(“salt”又は“salts”)という用語は、本発明の化合物の酸付加塩又は塩基付加塩を指す。「塩」には、特に「医薬的に許容される塩」が含まれる。「医薬的に許容される塩」とは、本発明の化合物の生物学的有効性及び特性を保持すると共に、通常は生物学的又はその他の点で不所望な性質を有さない塩を指す。多くの場合、本発明の化合物は、アミノ基及び/又はカルボキシル基、或いはそれらに類似した基の存在により、酸及び/又は塩基の塩を形成することができる。
【0032】
医薬的に許容可能な酸付加塩は、無機酸によって形成してもよく、有機酸によって形成してもよい。
【0033】
塩を得るのに利用可能な無機酸としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等が挙げられる。
【0034】
塩を得るのに利用可能な有機酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、シュウ酸、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、スルホサリチル酸等が挙げられる。
【0035】
医薬的に許容可能な塩基付加塩は、無機塩基によって形成してもよく、有機塩基によって形成してもよい。
【0036】
塩を得るのに利用可能な無機塩基としては、例えば、アンモニウム塩や、周期表のI列からXII列までの金属等が挙げられる。ある実施形態によれば、塩は、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、銀、亜鉛、及び銅から得られる。他の実施形態によれば、塩は、アンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩から選択される。
【0037】
塩を得るのに利用可能な有機塩基としては、例えば、第一級、第二級、第三級アミン、天然の置換アミンを含む置換アミン、環状アミン、塩基性イオン交換樹脂等が挙げられる。有機アミンとしては、イソプロピルアミン、ベンザチン、コリン酸塩、ジエタノールアミン、ジエチルアミン、リシン、メグルミン、ピペラジン、トロメタミン等が挙げられる。
【0038】
他の側面によれば、本発明は、本明細書に開示される化合物を、酢酸塩、アスコルビン酸塩、アジピン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベシル酸塩、臭化物/臭化水素酸塩、重炭酸塩/炭酸塩、重硫酸塩/硫酸塩。カンファースルホン酸塩、カプリン酸塩、塩化物・塩酸塩、クロルテオフィロン酸塩、クエン酸塩、エタンスルホン酸塩、フマル酸塩、グルセプ酸塩、グルコン酸塩、グルクロン酸塩、グルタミン酸塩、グルタル酸塩、グリコール酸塩、ヒプリン酸塩、ヨウ化水素酸塩・ヨウ化物、イセチオン酸塩、乳酸塩、ラクトビオン酸塩、ラウリル硫酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、マンデル酸塩、メシル酸塩、メチル硫酸塩、ムク酸塩、ナフトール酸塩、ナプシル酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、オクタデカン酸塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩、リン酸塩/リン酸水素/リン酸二水素、ポリガラクツロン酸塩、プロピオン酸塩、セバシン酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、スルホサリチル酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、トシル酸塩、トリフェニル酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、又はキシナホ酸塩の形態で提供する。更に側面によれば、本発明は、本明細書に開示される化合物を、C1-C4アルキルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、又はモノ-、ジ-若しくはトリ-C1-C4アルキル置換ベンゼンスルホン酸の付加塩の形態で提供する。
【0039】
本明細書に記載の所与の化学式又は化合物は、非標識型及び同位体標識型の何れの化合物も表すことが意図される。同位体標識化合物は、本明細書に記載の化合物又は化学式によって表される構造を有する化合物において、1又は2以上の原子が所定の原子質量又は質量数を有する原子に置換されている化合物である。本発明の化合物に組み込むことが可能な同位体の例としては、水素、炭素、窒素、酸素、リン、フッ素、及び塩素の同位体が挙げられる。それぞれ具体例としては2H、3H、11C、13C、14C、15N、18F、31P、32P、35S、36Cl、124I、125I等が挙げられる。本発明には、本明細書で定義した様々な同位体標識化合物、例えば3H、13C、14C等の放射性同位体を有する化合物が含まれる。このような同位体標識化合物は、代謝研究(14Cによる)、反応速度研究(例えば2H又は3Hによる)、薬物又は基質の組織分布アッセイを含む陽電子放出断層撮影法(PET)又は単一光子放出コンピュータ断層撮影法(SPECT)等の検出又はイメージング技術、或いは患者の放射性治療等に有用である。中でも18F標識された化合物は、PET又はSPECT研究にとりわけ好ましい場合がある。本発明の同位体標識化合物及びその塩は、一般的には、後述のスキームや実施例及び調製例に開示された手順において、非同位体標識試薬の代わりに、容易に入手可能な同位体標識試薬を用いて実施することにより、調製することが可能である。
【0040】
更には、より重い同位体、特に重水素(即ち2H又はD)で置換することにより、代謝安定性の向上、例えば生体内半減期の増加、投与量の削減、又は治療指数の向上等に起因する、所定の治療上の利点が得られる可能性がある。ここでいう重水素は、本発明の第1の実施形態の化合物の置換基と見做されるものと理解される。このようなより重い同位体(特に重水素)の濃度は、例えば同位体濃縮係数によって定義される。本明細書において「同位体濃縮係数」(isotopic enrichment factor)という用語は、特定の同位体の自然存在量に対する同位体存在量の比を意味する。本発明の化合物のある置換基が重水素と表記されている場合、斯かる化合物は、各所定の重水素原子について、少なくとも50%の重水素の取り込み率、60%の重水素の取り込み率、少なくとも75%の重水素の取り込み率、少なくとも90%の重水素の取り込み率、少なくとも95%の重水素の取り込み率、少なくとも99%の重水素の取り込み率、又は少なくとも99.5%の重水素の取り込み率を有する。
【0041】
本発明の化合物はその性質上、又は設計により、溶媒(水を含む)と溶媒和物を形成していてもよい。即ち、本発明は、溶媒和物及び非溶媒和物の双方を包含することを意図するものとする。「溶媒和物」(solvate)という語は、本発明の化合物(その塩を含む)と1又は2以上の溶媒分子との分子複合体を意味する。斯かる溶媒分子としては、医薬分野で一般に使用される分子であって、受容者にとって無害であることが知られている分子、例えば水、エタノール、ジメチルスルホキシド、アセトン、その他の一般的な有機溶媒が挙げられる。「水和物」(hydrate)という語は、本発明の化合物と水を含む分子複合体を意味する。本発明に係る医薬的に許容可能な溶媒和物には、結晶化溶媒が同位体的に置換されているもの、例えばD2O、d6-アセトン、d6-DMSO等が含まれる。
【0042】
本発明の化合物の「治療有効量」(a therapeutically effective amount)とは、対象の生物学的又は医学的な反応、例えば酵素若しくはタンパク質活性の低下若しくは阻害、又は、症状の改善、状態の緩和、疾患の進行の遅延化、若しくは疾患の予防等を誘導しうる本発明の化合物の量を意味する。非限定的な一態様によれば、「治療有効量」という語は、本発明の化合物を対象者に投与した場合に、(1)TRPC6活性により媒介される、又はTRPC6活性に関連する、状態、障害、若しくは疾患、又は生物学的プロセスを、少なくとも部分的に緩和、抑制、予防、及び/又は改善するのに有効な、或いは、(2)TRPC6の活性を阻害するのに有効な、本発明の化合物の量を意味する。他の非限定的な態様によれば、「治療有効量」という語は、本発明の化合物を細胞、組織、若しくは非細胞生物材料、又は培地に投与した場合に、TRPC6の活性を少なくとも部分的に阻害するのに有効な本発明の化合物の量を意味する。
【0043】
本明細書において「対象」(subject)という語は、動物を意味する。動物は通常は哺乳類である。また、対象は、例えば霊長類(例えばヒト)、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、マウス、魚、鳥等も意味する。ある実施形態によれば、対象は霊長類である。更に他の実施形態によれば、対象者はヒトである。
【0044】
本明細書において「阻害する」(inhibit)、「阻害」(inhibition)、又は「阻害すること」(inhibiting)という語は、所定の状態、症状、障害、又は疾患の軽減又は抑制、或いは、生物学的活性又はプロセスのベースライン活性の著しい低下を意味する。
【0045】
本明細書において、ある疾患又は障害に関して「治療する」(treat)、「治療」(treatment)、又は「治療すること」(treating)という語は、一実施形態によれば、疾患又は障害を改善すること(即ち、疾患又はその臨床症状の少なくとも1つの発症を遅らせ、阻止し、又は軽減すること)を意味する。別の実施形態によれば、「治療する」、「治療」、又は「治療すること」という語は、患者が自覚できない場合も含めて、少なくとも1つの物理的パラメータを緩和又は改善することを意味する。更に別の実施形態によれば、「治療する」、「治療」、又は「治療すること」という語は、疾患又は障害を、物理的に(例えば識別可能な症状の安定化)、生理学的に(例えば物理的パラメータの安定化)、又はその両方において、調節することを意味する。
【0046】
本明細書において、ある疾患又は障害に関して「予防する」(prevent)、「予防」(prevention)、又は「予防すること」(preventing)という語は、一実施形態によれば、疾患又は障害の発症の遅延又は回避(即ち、疾患又は障害の発症の可能性がある患者において、疾患又は障害の発症を遅延又は防止すること)を意味する。
【0047】
本明細書において、対象者がある治療を「必要とする」(in need of)とは、斯かる治療によって生物学的、医学的、又は生活の質の面で恩恵を受けることを意味する。
【0048】
本明細書において、本発明との関連で(特に特許請求の範囲との関連で)使用される「ある」(“a”又は“an”)、「前記」(“the”)、及び同様の語は、本明細書で別段の指示がない限り、或いは文脈上明らかに矛盾しない限り、単数形及び複数形の双方を包含する意味に解すべきである。
【0049】
本発明の(1又は2以上の)化合物の任意の不斉原子(例えば炭素等)は、ラセミ体で存在していても、エナンチオマー的に濃縮された状態で存在していてもよく、例えば(R)-、(S)-、又は(R,S)-配置の何れであってもよい。ある実施形態によれば、各不斉原子は、(R)-又は(S)-配置について、少なくとも50%のエナンチオマー過剰、少なくとも60%のエナンチオマー過剰、少なくとも70%のエナンチオマー過剰、少なくとも80%のエナンチオマー過剰、少なくとも90%のエナンチオマー過剰、少なくとも95%のエナンチオマー過剰、又は少なくとも99%のエナンチオマー過剰である。不飽和結合を有する原子の置換基は、可能な限りで、シス-(Z)-又はトランス-(E)-の何れの形で存在していてもよい。
【0050】
従って、本明細書において、本発明の化合物は、可能な異性体、回転異性体、アトロプ異性体、互変異性体、又はそれらの混合物の何れの形態であってもよく、例えば、実質的に純粋な幾何学的(シス又はトランス)異性体、ジアステレオ異性体、光学異性体(対掌体)、ラセミ体、又はそれらの混合物の何れの形態であってもよい。
【0051】
得られた任意の異性体の混合物は、成分の物理化学的な違いに基づいて、例えばクロマトグラフィーや分別結晶化によって、純粋又は実質的に純粋な幾何学的又は光学的異性体、ジアステレオ異性体、ラセミ体等に分離することができる。
【0052】
得られた任意の最終生成物や中間体のラセミ体は、公知の方法、例えば光学活性な酸又は塩基で得られるそのジアステレオ異性体塩を分離し、光学活性な酸性化合物又は塩基性化合物を遊離させる手法等により、光学的対掌体に分割することができる。特に、塩基性部分を採用し、本発明の化合物をその光学的対掌体に分解するには、例えば光学活性な酸、例えば酒石酸、ジベンゾイル酒石酸、ジアセチル酒石酸、ジ-O,O’-p-トルオイル酒石酸、マンデル酸、リンゴ酸、又はショウノウ-10-スルホン酸等により形成された塩の分別結晶化を行えばよい。また、ラセミ体の分割は、キラル吸着剤を用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)や超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)等のキラルクロマトグラフィーによっても行うことができる。
【0053】
本発明により得られる異性体の混合物は、当業者に公知の方法により、個々の異性体に分離することができる。例えば、ジアステレオ異性体の分離は、多相溶媒混合物間での分配、再結晶、及び/又は、シリカゲル等を用いたクロマトグラフィー分離、又は逆相カラム等を用いた中圧液体クロマトグラフィー等により行うことができる。また、ラセミ体の分離は、例えば光学的に純粋な塩形成試薬を用いた塩形成により得られたジアステレオ異性体の混合物を、分画結晶化等に供することにより、或いは光学的に活性なカラム材料を用いたクロマトグラフィーに供することにより、行うことができる。
【0054】
本明細書の範囲内では、文脈上明らかに異なる場合を除き、本発明の化合物の特定の所望の最終生成物の構成要素ではない、容易に除去可能な基のみを「保護基」(protective group)と呼ぶものとする。斯かる保護基による官能基の保護、保護基自体、及びその脱離反応は、標準的な参考文献等、例えばJ. F. W. McOmie, "Protective Groups in Organic Chemistry", Plenum Press, London and New York 1973, in T. W. Greene and P. G. M. Wuts, "Protective Groups in Organic Synthesis", Third edition, Wiley, New York 1999, in "The Peptides"; Volume 3 (editors: E. Gross and J. Meienhofer), Academic Press, London and New York 1981, in "Methoden der organischen Chemie" (Methods of Organic Chemistry), Houben Weyl, 4th edition, Volume 15/I, Georg Thieme Verlag, Stuttgart 1974, in H.-D. Jakubke and H. Jeschkeit, "Aminosauren, Peptide, Proteine" (Amino acids, Peptides, Proteins), Verlag Chemie, Weinheim, Deerfield Beach, and Basel 1982, and in Jochen Lehmann, "Chemie der Kohlenhydrate: Monosaccharide and Derivate" (Chemistry of Carbohydrates: Monosaccharides and Derivatives), Georg Thieme Verlag, Stuttgart 1974等に記載されている。保護基の特徴は、例えば、溶媒分解、還元、光分解、又は生理学的条件等により(例えば酵素切断等により)容易に(不所望の二次反応を伴うことなく)除去できることである。
【0055】
中間体及び最終生成物は、標準的な方法、例えばクロマトグラフィー法、分配法、(再)結晶化法等を用いて、加工及び/又は精製することができる。
【0056】
本明細書に記載されている全ての方法は、本明細書において別段の指示がない限り、或いは文脈上明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で実行することができる。本明細書において提供される任意のあらゆる例、或いは例示的な語(例えば「等」(such as))の使用は、単に本発明をより分かりやすくすることを意図するものにすぎず、特許請求の範囲において別途規定される本発明の範囲に制限を加えるものではない。
【0057】
本明細書に開示される任意の製法工程は、具体的に記載されているものを含め、当業者に公知の任意の反応条件で実施することができる。例えば、反応は溶媒又は希釈剤の不在化で行ってもよいが、通例では溶媒又は希釈剤の存在下で、例えば使用する試薬に対して不活性であると共に、それらを溶解する溶媒又は希釈剤の存在下で行ってもよい。また、反応及び/又は反応剤の性質に応じて、触媒、縮合剤、中和剤、カチオン交換体等のイオン交換体、例えばH+形態のイオン交換体等の不在下で行ってもよく、存在下で行ってもよい。また、反応は低温、常温、又は高温の何れで行ってもよく、例えば約-100℃から約250℃の温度範囲で、例えば約-80℃から約250℃の温度範囲で、例えば-80から-60℃の温度範囲で、室温で、-20から40℃の温度範囲で、または還流温度で行ってもよい。また、反応は大気圧下で行っても、又は密閉容器内で行ってもよく、必要に応じて加圧下で、及び/又は、不活性雰囲気下、例えばアルゴン又は窒素雰囲気下で行ってもよい。
【0058】
ある特定の反応に適した溶媒の選択肢としては、具体的に記載された溶媒や、例えば以下の溶媒が挙げられる。水;エステル類、例えば低級アルキル-低級アルカノエート、例えば酢酸エチル等;エーテル類、例えば脂肪族エーテル等、例えばジエチルエーテル等、又は環状エーテル、例えばテトラヒドロフランやジオキサン等;液状芳香族炭化水素、例えばベンゼンやトルエン等;アルコール類、例えばメタノール、エタノール、1-又は2-プロパノール等;ニトリル類、例えばアセトニトリル等;ハロゲン化炭化水素類、例えば塩化メチレンやクロロホルム等;酸アミド類、例えばジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミド等;塩基類、例えば複素環式窒素塩基、例えばピリジンやN-メチルピロリジン-2-オン等;カルボン酸無水物類、例えば低級アルカン酸無水物、例えば無水酢酸等;環状、直鎖状、分岐状の炭化水素、例えばシクロヘキサン、ヘキサン、イソペンタン、メチルシクロヘキサン等;又はそれらの混合物、例えば水溶液等。但し、製法の説明で特に示されている場合はその限りではない。これらの溶媒の混合物は、例えばクロマトグラフィーや分画化等の作業に使用することもできる。
【0059】
他の側面によれば、本発明は、本発明の化合物、又はその医薬的に許容可能な塩と、医薬的に許容可能な担体とを含む医薬組成物を提供する。更なる態様によれば、前記組成物は、少なくとも2つの医薬的に許容可能な担体、例えば本明細書に記載のものを含む。本発明の目的において、特に指定のない限り、溶媒和物及び水和物は総じて組成物と見做すものとする。医薬的に許容可能な担体は、無菌であることが好ましい。本医薬組成物は、経口投与、非経口投与、直腸内投与等の特定の投与経路に合わせて製剤化することができる。更に、本医薬組成物は、固体剤形(例えばカプセル剤、錠剤、丸剤、顆粒剤、粉剤、坐剤等が挙げられるが、限定されない)として製剤してもよく、液体剤形(例えば溶液、懸濁液、乳剤等が挙げられるが、限定されない)として製剤してもよい。本医薬組成物は、殺菌等の従来の製薬処理に供してもよく、及び/又は、従来の不活性な希釈剤、潤滑剤、又は緩衝剤や、防腐剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、緩衝剤等のアジュバントを含有させてもよい。
【0060】
本明細書において、「医薬的に許容可能な担体」という語には、当業者に公知のもののような、任意のあらゆる溶媒、分散媒体、被覆剤、界面活性剤、酸化防止剤、防腐剤(例えば、抗菌剤、抗真菌剤)、等張剤、吸収遅延剤、塩、防腐剤、薬剤、薬剤安定剤、結合剤、賦形剤、崩壊剤、潤滑剤、甘味料、香味料、染料等、及びそれらの組み合わせが含まれるものとする(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th Ed. Mack Printing Company, 1990, pp. 1289-1329を参照)。従来の担体は、前記活性成分と適合しない場合を除き、前記の治療用又は医薬組成物に使用することが想定される。
【0061】
典型的には、前記医薬組成物は、前記活性成分を以下の1種又は2種以上と共に含む錠剤又はゼラチンカプセル剤である。a)希釈剤、例えばラクトース、デキストロース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロース、及び/又はグリシン等;b)潤滑剤、例えばシリカ、タルカム、ステアリン酸、そのマグネシウム塩若しくはカルシウム塩、及び/又はポリエチレングリコール等;c)結合剤、例えば珪酸アルミニウムマグネシウム、デンプンペースト、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、及び/又はポリビニルピロリドン等;必要に応じてd)崩壊剤、例えばデンプン、寒天、アルギン酸若しくはそのナトリウム塩、又は発泡性混合物等;及びe)吸収剤、着色料、香料、及び甘味料。錠剤は、本技術分野で公知の方法に従ってフィルムコーティング又は腸溶性コーティングされていてもよい。経口投与に適した組成物としては、有効量の本発明の化合物を含む、錠剤、トローチ、水性若しくは油性の懸濁剤、分散可能な粉末剤若しくは顆粒剤、エマルジョン剤、ハードカプセル若しくはソフトカプセル剤、又はシロップ若しくはエリキシル剤の形態の組成物が挙げられる。経口投与を意図した組成物は、医薬組成物の製造方法として本技術分野で公知の任意の方法に従って調製することができる。また、医薬的に精緻且つ口当たりの良い製剤として提供するために、斯かる組成物には、甘味料、香味料、着色料、及び保存料からなる群から選択される1種又は2種以上の剤を含めてもよい。錠剤は、例えば前記の活性成分を、錠剤の製造に適した非毒性の医薬的に許容可能な賦形剤と混和された状態で含有する。賦形剤としては、例えば炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、乳糖、リン酸カルシウム、リン酸ナトリウム等の不活性希釈剤;コーンスターチ、アルギン酸等の造粒・崩壊剤;デンプン、ゼラチン、アカシア等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、タルク等の滑沢剤等が挙げられる。錠剤は、未コーティングでもよいが、公知の技術でコーティングされてもよい。これにより消化管での崩壊と吸収を遅らせ、より長期間に亘って持続的な作用を供することが可能となる。例として、モノステアリン酸グリセリルやジステアリン酸グリセリル等の時間遅延物質を採用することができる。経口用製剤は、例えば前記の活性成分を不活性固体希釈剤(炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、カオリン等)と混合したハードゼラチンカプセルとして提供してもよく、或いは前記の活性成分を水又は油媒体(ピーナッツ油、流動パラフィン、オリーブ油等)と混合したソフトゼラチンカプセルとして提供してもよい。注射用組成物の例としては水性等張性溶液又は懸濁液が挙げられ、坐薬の場合は脂肪性乳化液または懸濁液から調製するのが有利である。前記組成物は殺菌されていてもよく、及び/又は、保存剤、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、溶液促進剤、浸透圧調整用塩、緩衝剤等のアジュバントを含んでいてもよい。更に、治療上価値のある他の物質を含んでいてもよい。前記組成物は、それぞれ従来の混合法、造粒法、コーティング法に従って調製され、前記の有効成分を約0.1~75%含むか、又は約1~50%含む。経皮投与に適した組成物は、有効量の本発明の化合物を適切な担体と共に含有する。経皮投与に適した担体としては、宿主の皮膚への浸透を促進するべく、吸収性の薬理学的に許容可能な溶媒が挙げられる。例として、経皮吸収型デバイスは、裏地部材と、化合物を任意により担体と共に含むリザーバーとを有する帯具状の剤形であって、任意により、化合物を長期間にわたって制御された所定の速度で皮膚に送達するための速度制御バリアーと、当該デバイスを皮膚に固定する手段とを有していてもよい。局所投与、例えば皮膚や目への投与に適した組成物としては、水溶液、懸濁液、軟膏、クリーム、ゲル、又は噴霧可能な製剤、例えばエアロゾル等による送達のための製剤が挙げられる。斯かる局所送達系は、特に皮膚への投与、例えば皮膚がんの治療、例えば日焼け止めクリーム、ローション、スプレー等の予防的使用に適している。そのため、本技術分野で周知の化粧品を含む局所的な製剤としての使用にとりわけ適している。これらは、可溶化剤、安定剤、張性強化剤、緩衝剤、保存剤等を含んでいてもよい。本明細書において、局所投与とは、吸入又は鼻腔内投与に関するものであってもよい。これらは便宜上、例えば乾燥粉末(単独でもよいが、例えばラクトースとの乾式混合物等の混合物でもよく、或いは例えばリン脂質との乾式混合成分粒子でもよい)の形態として、乾燥粉末吸入器から送達してもよく、或いは噴霧剤の形態で、加圧容器、ポンプ、スプレー、アトマイザー、又はネブライザーから、適切な推進剤を使用して、或いは使用せずに送達してもよい。
【0062】
本発明は更に、本発明の化合物を有効成分として含む、無水の医薬組成物及び剤形を提供する。これは、水が特定の化合物の分解を促進する可能性があるためである。
【0063】
本発明の無水の医薬組成物及び剤形は、無水又は低水分含有成分を用いて、低水分又は低湿度条件下で調製することができる。無水の医薬組成物は、その無水の性質が維持されるように調製及び保存すればよい。従って、無水組成物は、適切な処方キットに含めることができるように、水への暴露を防ぐことが知られている材料を用いて包装される。適切な包装の例としては、これらに限定されるものではないが、密封された箔、プラスチック、単位用量容器(例えばバイアル)、ブリスターパック、ストリップパック等が挙げられる。
【0064】
本発明は更に、有効成分としての本発明の化合物の分解速度を低下させる1種又は2種以上の剤を含む医薬組成物及び投与形態を提供する。斯かる剤を本明細書では「安定剤」と呼ぶ。例としては、これらに限定されるものではないが、アスコルビン酸等の酸化防止剤、pH緩衝剤、又は塩緩衝剤等が挙げられる。
【0065】
予防的及び治療的な使用
本明細書に開示される化合物は、遊離形態又は医薬的に許容可能な塩の形態で、有用な薬理学的特性、例えば次項目において提供されるインビトロ及びインビボの試験で示されるようなTRPCタンパク質の調節特性、特にTRPC6タンパク質の活性の阻害を示すことから、治療に適応される。
【0066】
本発明は、TRPC6タンパク質活性に関連する疾患又は障害を治療する方法であって、本明細書に開示される化合物の有効量を、それを必要とする対象者に投与することを含む方法を提供する。ある側面によれば、本発明の化合物の投与による治療に適した疾患又は障害としては、これらに限定されるものではないが、ネフローゼ症候群、微小変化型疾患、巣状分節状糸球体硬化症、虚脱性糸球体症、膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎、IGA腎症、急性腎不全、慢性腎不全、糖尿病性腎症、敗血症、肺高血圧、急性肺障害、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、心不全、脳卒中、悪性腫瘍、又は筋ジストロフィーが挙げられる。ある例によれば、前記の患者は、ネフローゼ症候群、膜性腎症、及び急性腎不全の患者である。
【0067】
ある特定の態様によれば、本発明は、腎疾患を治療又は予防する方法であって、それを必要とする対象者に、本明細書に開示された化合物の有効量を投与することを含む方法を提供する。ある態様によれば、現在は無症候性であるが、腎疾患を発症するリスクを有する患者が、本発明の化合物の投与に適している。腎疾患を治療又は予防する方法としては、これらに限定されるものではないが、ネフローゼ症候群、膜性腎症、急性腎不全、敗血症、慢性腎不全及び糖尿病性腎症を治療又は予防する方法が挙げられる。
【0068】
本発明の医薬組成物又は組み合わせは、約50~70kgの対象に対して、約1~1000mgの有効成分、又は約1~500mg、約1~250mg、約1~150mg、又は約0.5~100mg、又は約1~50mgの有効成分を含む単位投与量とすることができる。化合物、医薬組成物、又はそれらの組み合わせの治療上有効な投与量は、対象者の種、体重、年齢、個々の状態、治療される障害や疾患、又はその重症度に依存する。通常の技術を有する医師、臨床医、又は獣医師であれば、障害や疾患の予防、治療、進行の抑制に必要な前記有効成分の各々の有効量を決定することができる。
【0069】
上述の投与特性は、インビトロ及びインビボ試験により、好適には哺乳動物、例えばマウス、ラット、イヌ、サル、又はそれらの単離された器官、組織、及び調製物を用いて、実証することが可能である。本発明の化合物は、インビトロでは溶液、例えば水溶液の形態で、インビボでは経腸的、非経口的、有利には経静脈的に、例えば懸濁液又は水溶液の形態で適用することができる。インビトロでの投与量は、例えば約10-3モル濃度から10-9モル濃度の範囲とすることが出来る。インビボでの治療有効量は、投与経路に応じて、約0.1~500mg/kg、又は約1~100mg/kgの範囲とすることができる。
【0070】
本発明に係る化合物の活性は、後述の実施例に記載されているようなインビトロ及びインビボの方法で評価することができる。
【0071】
本発明の化合物は、1又は2以上の他の治療剤と同時に、或いはその前又は後に投与してもよい。本発明の化合物は、他の薬剤と個別に、同一又は異なる投与経路で投与してもよいし、単一の医薬組成物として一緒に投与してもよい。
【0072】
一態様によれば、本発明は、本明細書に開示された化合物を、少なくとも1種の他の治療剤と共に、同時、別個、又は逐次的使用のための組み合わせ製剤として含む、治療用の製品を提供する。一態様によれば、前記治療は、TRPCタンパク質活性によって媒介される疾患又は状態の治療である。好ましい側面では、前記治療は、ネフローゼ症候群、微小変化型疾患、巣状分節状糸球体硬化症、虚脱性糸球体症、膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎、IGA腎症、急性腎不全、慢性腎不全、糖尿病性腎症、敗血症、肺高血圧、急性肺障害、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、心不全、脳卒中、悪性腫瘍、又は筋ジストロフィーの治療である。
【0073】
組み合わせ調製物として提供される製品としては、本明細書で開示されている化合物と他の治療剤を一緒に単一の医薬組成物に含有させた組成物や、本明細書で開示されている化合物と他の治療剤とを別々の形態で含む製品、例えばキットの形態の製品等が挙げられる。
【0074】
一態様によれば、本発明は、本明細書に開示された化合物と、(1種又は2種以上の)他の治療剤とを含む医薬組成物を提供する。任意により、前記医薬組成物は、上述のような医薬的に許容可能な担体を含んでもよい。
【0075】
一態様によれば、本発明は、2以上の別個の医薬組成物を含むキットであって、そのうちの少なくとも1の医薬組成物が本明細書に開示された化合物を含むキットを提供する。一態様によれば、斯かるキットは、容器、分離型ボトル、又は分離型フォイルパケット等、前記2以上の組成物を別々に保持するための手段を備える。斯かるキットの例としては、錠剤、カプセル等の包装として典型的に使用されるブリスターパックが挙げられる。
【0076】
本発明のキットは、例えば、経口と非経口等の複数の異なる剤形を投与するために、複数の個別の組成物を異なる投与間隔で投与するために、或いは、複数の個別の組成物を互いに滴定するために使用することができる。服薬遵守を補助するために、本発明のキットは、通常は投与のための指示を含む。
【0077】
本発明の組合せ治療薬によれば、本発明の化合物と他の治療薬とは、同一の製造者が製造及び/又は製剤したものであってもよく、異なる製造者が製造及び/又は製剤したものであってもよい。また、本発明の化合物と他の治療薬を組み合わせた組合せ治療薬は、(i)斯かる組合せ治療薬を医師に提供する前に調合しておいてもよく(例えば、本発明の化合物と他の治療薬とを含むキットの場合)、(ii)投与直前に医師が自ら(又は医師の指導の下で)調合してもよく、(iii)患者自身が、例えば本発明の化合物と他の治療薬を順次投与することにより調合してもよい。
【0078】
従って、本発明は、TRPCタンパク質活性により媒介される疾患又は状態を治療するための本明細書に開示される化合物の使用であって、前記化合物が他の治療剤と共に投与されるように調製されてなる使用を提供する。また、本発明は、前記TRPCタンパク質活性により媒介される疾患又は状態を治療するための他の治療剤の使用であって、前記薬剤が本明細書に開示される化合物と共に投与されるように調製されてなる、使用も提供する。他の側面によれば、本発明は、ネフローゼ症候群、微小変化型疾患、巣状分節状糸球体硬化症、虚脱性糸球体症、膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎、IGA腎症、急性腎不全、慢性腎不全、糖尿病性腎症、敗血症、肺高血圧、急性肺障害、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、心不全、脳卒中、悪性腫瘍、又は、筋ジストロフィーから選択される疾患又は障害を治療するための本明細書に開示される化合物の使用であって、前記化合物が他の治療剤と共に投与されるように調製されてなる使用を提供する。また、本発明は、ネフローゼ症候群、微小変化型疾患、巣状分節状糸球体硬化症、虚脱性糸球体症、膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎、IGA腎症、急性腎不全、慢性腎不全、糖尿病性腎症、敗血症、肺高血圧、急性肺障害、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、心不全、脳卒中、悪性腫瘍、又は筋ジストロフィーから選択される疾患又は障害を治療するための他の治療剤の使用であって、前記薬剤が本明細書に開示される化合物と共に投与されるように調製されてなる、使用も提供する。
【0079】
また、本発明は、TRPCタンパク質活性により媒介される疾患又は状態を治療する方法に使用される、本明細書に開示される化合物であって、他の治療剤と共に投与するように調製される化合物も提供する。また、本発明は、TRPCタンパク質活性により媒介される疾患又は状態を治療する方法に使用される、他の治療剤であって、本明細書に開示される化合物と共に投与するように調製される他の治療剤も提供する。また、本発明は、TRPCタンパク質活性により媒介される疾患又は状態を治療する方法に使用される、本明細書に開示される化合物であって、他の治療剤と一緒に投与される化合物も提供する。また、本発明は、TRPCタンパク質活性により媒介される疾患又は状態を治療する方法に使用される、他の治療剤であって、本明細書に開示される化合物と一緒に投与される他の治療剤も提供する。
【0080】
また、本発明は、TRPCタンパク質活性により媒介される疾患又は状態を治療するための、本明細書に開示される化合物の使用であって、患者はそれ以前に(例えば24時間以内に)他の治療剤による処置を受けた患者である、使用も提供する。また、本発明は、TRPCタンパク質活性により媒介される疾患又は状態を治療するための、他の治療剤の使用であって、患者はそれ以前に(例えば24時間以内に)本明細書に開示される化合物による処置を受けた患者である、使用も提供する。
【0081】
本医薬組成物は、単独で、又は、有益な効果を有することが知られている他の分子と組み合わせて、腎臓病の治療のために、より具体的には、FSGS、ネフローゼ症候群、微小変化型疾患、又は糖尿病性腎臓疾患の治療のために、投与することが可能である。併用療法のレジメンは、相加的なものであってもよいが、相乗的な結果(例えば、2種の薬剤の併用により期待される以上の腎機能の改善)をもたらすものであってもよい。ある態様によれば、本発明は、腎臓病の予防及び/又は治療のための、より具体的には、FSGS、ネフローゼ症候群、微小変化型疾患、又は糖尿病性腎臓疾患の予防及び/又は治療のための併用療法であって、本発明の化合物と、ACE/ARB(カプトプリル、リジノプリル、ロサルタン等)、ステロイド療法(プレドニゾン等)、免疫調整剤(ミコフェノール酸モフェチル、タクロリムス、シクロスポリンA等)、副腎皮質刺激ホルモンアナログ(アクチャルゲル等)、抗CD20抗体(リツキシマブ等)、カルシウムチャネル遮断薬(アムロジピン等)、利尿剤(ヒドロクロロチアジド等)、抗血小板剤(ジピリダモール等)、抗凝固剤(ヘパリン等)、DPP-4阻害剤(シタグリプチン等)、SGLT2阻害剤(ダパグリフロジン等)、抗高脂血症薬(ロスバスタチン等)、貧血治療薬(ダルベポエチンアルファ)、又は抗高尿酸血症薬(フェブキソスタット)からなる群から選択される第2の治療薬との併用療法を提供する。
【0082】
一態様によれば、本発明は、対象において、TRPCタンパク質の活性を阻害する方法、或いは、より好ましくは、TRPC6タンパク質の活性を阻害する方法であって、本発明の化合物の治療有効量を前記対象に投与することを含む方法を提供する。本発明は更に、対象において、TRPCタンパク質の活性を阻害する方法、或いは、より好ましくは、TRPC6タンパク質の活性を阻害する方法であって、本明細書に開示される化合物、本明細書に開示される化合物の治療有効量を前記対象に投与することによる方法を提供する。
【0083】
一態様によれば、本発明は、薬剤として使用するための、本明細書に開示される化合物を提供する。
【0084】
一態様によれば、本発明は、対象における障害又は疾患であって、TRPCタンパク質の活性、或いは、より好ましくは、TRPC6タンパク質の活性により特徴付けられる障害又は疾患の治療のための、本明細書に開示される化合物の使用を提供する。特に、本発明は、TRPCタンパク質の活性により媒介される障害又は疾患、或いは、より好ましくは、TRPC6タンパク質の活性により媒介される障害又は疾患の治療のための、例えば、ネフローゼ症候群、微小変化型疾患、巣状分節状糸球体硬化症、虚脱性糸球体症、膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎、IGA腎症、急性腎不全、慢性腎不全、糖尿病性腎症、敗血症、肺高血圧、急性肺障害、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、心不全、脳卒中、悪性腫瘍、又は筋ジストロフィーの治療のための、本明細書に開示される化合物の使用を提供する。ある好ましい側面において、本発明は、TRPC6タンパク質の活性により媒介される障害又は疾患であって、ネフローゼ症候群、膜性腎症、及び急性腎不全から選択される障害又は疾患の治療のための、本明細書に開示される化合物の使用を提供する。
【0085】
一態様によれば、本発明は、対象における障害又は疾患であって、TRPCタンパク質の活性、或いは、より好ましくは、TRPC6タンパク質の活性により特徴付けられる障害又は疾患の治療のための薬剤の製造における、本明細書に開示される化合物の使用を提供する。より具体的には、対象における障害又は疾患であって、TRPCタンパク質の活性、或いは、より好ましくは、TRPC6タンパク質の活性により特徴付けられる障害又は疾患、例えば、ネフローゼ症候群、微小変化型疾患、巣状分節状糸球体硬化症、虚脱性糸球体症、膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎、IGA腎症、急性腎不全、慢性腎不全、糖尿病性腎症、敗血症、肺高血圧、急性肺障害、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、心不全、脳卒中、悪性腫瘍、又は筋ジストロフィーの治療のための薬剤の製造における、本明細書に開示される化合物の使用を提供する。ある好ましい側面において、本発明は、ネフローゼ症候群、膜性腎症、及び急性腎不全の治療のための薬剤の製造における、本明細書に開示される化合物の使用を提供する。
【0086】
一態様によれば、本発明は、対象における障害又は疾患であって、TRPCタンパク質の活性、或いは、より好ましくは、TRPC6タンパク質の活性により特徴付けられる障害又は疾患の治療ための、本明細書に開示される化合物の使用を提供する。より具体的には、本発明は、対象における障害又は疾患であって、TRPCタンパク質の活性、或いは、より好ましくは、TRPC6タンパク質の活性により特徴付けられる障害又は疾患であって、例えば、ネフローゼ症候群、微小変化型疾患、巣状分節状糸球体硬化症、虚脱性糸球体症、膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎、IGA腎症、急性腎不全、慢性腎不全、糖尿病性腎症、敗血症、肺高血圧、急性肺障害、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、心不全、脳卒中、悪性腫瘍、又は筋ジストロフィーの治療ための、本明細書に開示される化合物の使用を提供する。ある側面によれば、本明細書に開示される化合物の使用は、ネフローゼ症候群、膜性腎症、及び急性腎不全から選択される疾患又は障害の使用である。
【0087】
ある特定の態様によれば、本発明は、ネフローゼ症候群、膜性腎症、急性腎不全、敗血症、慢性腎不全、糖尿病性腎症、肺高血圧、急性肺障害、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、心不全、脳卒中、悪性腫瘍、又は筋ジストロフィーの治療又は予防のための、本発明の化合物の使用を提供する。ある側面によれば、現在は無症候であるが、症候性のネフローゼ症候群、膜性腎症、急性腎不全、敗血症、慢性腎不全、糖尿病性腎症、肺高血圧、急性肺障害、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、心不全、脳卒中、悪性腫瘍、又は筋ジストロフィーを発症するリスクを有する患者が、本発明の化合物の投与に適している。ネフローゼ症候群、膜性腎症、急性腎不全、敗血症、慢性腎不全、糖尿病性腎症、肺高血圧、急性肺障害、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、心不全、脳卒中、悪性腫瘍、又は筋ジストロフィーの治療又は予防における使用としては、これらに限定されるものではないが、ネフローゼ症候群、膜性腎症、急性腎不全、敗血症、慢性腎不全、糖尿病性腎症、肺高血圧、急性肺障害、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、心不全、脳卒中、悪性腫瘍、又は筋ジストロフィーのうち1又は2以上の症状又は側面の治療又は予防における使用が挙げられる。
【0088】
本発明は更に、本発明に係る方法の任意の変形例であって、本発明に係る方法の任意の段階で得られる中間生成物を出発物質として使用し、残りの工程を実施する方法、或いは、出発物質が反応条件下でその場で形成される方法、或いは、反応成分がその塩又は光学的に純粋な物質の形で使用される方法を含む。
【0089】
以下の実施例は、本発明を例証することを意図するものであり、本発明を制限するものと解してはならない。温度は摂氏(℃)で示す。特に記載のない限り、蒸発は何れも減圧下で、通常は約15mmHg~100mmHg(=20~133mbar)の圧力下で実施する。最終生成物、中間生成物、及び出発物質の構造は、標準的な分析方法、例えば微量分析や分光特性、例えばMS、IR、NMR等で確認される。使用される略語は、何れも本技術分野において周知のものである。
【0090】
また、本発明は、前記方法の任意の段階で中間体として得られる化合物を出発物質として使用し、残りの方法の工程を実施する態様、或いは、出発物質を反応条件下で形成するか、誘導体の形態で、例えば保護された形態で、又は塩の形態で使用する態様、或いは、本発明に係る方法で得られる化合物を前記方法の条件下で製造し、更にその場で処理する態様にも関する。
【0091】
本発明の化合物を合成するために使用される出発物質、構成材料、試薬、酸、塩基、脱水剤、溶媒、触媒は、何れも市販されているか、或いは当業者に公知の有機合成法によって製造することが可能である。
【実施例】
【0092】
特に断りのない限り、材料は何れも市販の業者から入手し、更なる精製は行わずに使用した。特に断りのない限り、「部」は何れも質量を基準とし、温度は摂氏で示す。マイクロ波支援反応は何れも、Biotage社のSmith Synthesizerを用いて行った。質量分析データはエレクトロスプレーイオン化法で決定した。何れの例も、高速液体クロマトグラフィーによって純度>95%まで精製した。特に記載のない限り、反応は室温で行った。
【0093】
市販の材料は、Sigma Aldrich、HDH Pharma、Pharmablock、Alfa Aesar、Enovation Chemicals、及びCombi-Blocksから購入した。
【0094】
本願に記載の化合物の化合物名、即ちIUPAC名は、ChemDraw化合物命名ソフトウェアにより生成した。
【0095】
【0096】
一般的な調製方法
本明細書に記載されている化合物は、当業者に公知の技術を用いて、スキーム1に示す反応順序により、或いは他の方法により調製される。なお、以下のスキームでは、特定の酸、塩基、試薬、カップリング剤、溶媒等を示しているが、他の適切な酸、塩基、試薬、カップリング剤、溶媒等を用いてもよく、これらも本発明の範囲に含まれると理解される。
【0097】
選択された本発明の化合物を、スキーム1の記載に従って合成した。
【0098】
目的のビスアニリンをCDIカップリングすることにより、対応するベンズイミダゾロンを得た。POCl3で還流することにより、クロロベンズイミダゾールを得た。これらの中間体を塩基及び求核剤と共に加熱することにより、SnAr生成物を得た。種々の求電子剤でアルキル化した後、酸でBocを脱保護することで、最終的な化合物を得た。
【0099】
【0100】
【0101】
中間体I-1:tert-ブチル((3R,4R)-1-(4,6-ジフルオロ-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-4-フルオロピペリジン-3-イル)カルバメート
【化3】
【0102】
工程1.4,6-ジフルオロ-1,3-ジヒドロ-2H-ベンズイミダゾル-2-オン
【化4】
【0103】
3,5-ジフルオロベンゼン-1,2-ジアミン(210.0g、1.457mol、1.0当量)及びCDI(236.0g、1.457mol、1.0当量)を無水THF(2.5L、11.9mL/g)に溶解し、室温で12時間撹拌した。LCMSにより反応の完了を確認した。反応混合物を水(6.0L)で希釈し、酢酸エチル(2×6.0L)で抽出した。合わせた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮することにより、粗体の4,6-ジフルオロ-1,3-ジヒドロ-2H-ベンズイミダゾール-2-オン(180.0g、1.058mol、収率72.6%)を黒色固体として得た。これをさらに精製することなく次の工程に使用した。MS(ESI、陽イオン)m/z:171.0[M+1]
【0104】
工程2.2-クロロ-4,6-ジフルオロ-1H-ベンズイミダゾール
【化5】
【0105】
粗体の4,6-ジフルオロ-1,3-ジヒドロ-2H-ベンズイミダゾール-2-オン(180.0g、1.058mol、1.0当量)をPOCl3(2.0L)に懸濁し、110℃で2時間撹拌下で加熱した。LCMSにより反応の完了を確認した。反応物を減圧下で濃縮し、残渣をアセトニトリル(1.0L)及び飽和炭酸ナトリウム水溶液(1.0L)で希釈し、酢酸エチル(2×4.0L)で抽出した。合わせた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮することにより、2-クロロ-4,6-ジフルオロ-1H-ベンズイミダゾール(105.0g、557.0mmol、収率52.6%)を褐色固体として得た。これをさらに精製することなく次の工程に使用した。MS(ESI、陽イオン)m/z:189.0[M+1]
【0106】
工程 3.tert-ブチル((3R,4R)-1-(4,6-ジフルオロ-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)-4-フルオロピペリジン-3-イル)カルバメート (中間体 I-1)
【化6】
【0107】
8mLバイアルに、tert-ブチル-[(3R,4R)-4-フルオロピペリジン-3-イル]カルバメート(0.631mL、2.92mmol、1.1当量)、2-クロロ-4,6-ジフルオロ-1H-ベンズイミダゾール(500mg、2.65mmol、1.0当量)及び1,1’-ジメチルトリエチルアミン(0.695mL、3.98mmol、1.5当量)をジメチルスルホキシド(3mL)に溶解させた。この溶液を130℃で一晩加熱した。反応混合物を室温まで冷却し、酢酸エチル(20mL)で希釈し、水(100mL)に注いだ。層分離後、水相をEtOAc(2×20mL)で抽出した。合わせた有機抽出液をNa2SO4で乾燥させた。溶液を濾過し、減圧下で濃縮することにより、粗体のtert-ブチル((3R,4R)-1-(4,6-ジフルオロ-1H-ベンズイミダゾール-2-イル)-4-フルオロピペリジン-3-イル)カルバメート(I-1、714mg、2.46mmol、収率93%)を褐色の固体として得た。この粗生成物をさらに精製することなく使用した。(ESI、陽イオン)m/z:371.2[M+1]
【0108】
以下の中間体は、中間体I-1及び一般スキーム2について上述した手順と同様の手順で合成した。
【0109】
【0110】
スキーム3.SnAr中間体から最終生成物への進行
【化7】
【0111】
実施例1:(3R,4R)-4-フルオロ-1-(5-フルオロ-1-((5-フルオロピリジン-2-イル)メチル)-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)ピペリジン-3-アミン
【化8】
【0112】
工程1.tert-ブチル((3R,4R)-4-フルオロ-1-(5-フルオロ-1-((5-フルオロピリジン-2-イル)メチル)-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)ピペリジン-3-イル)カルバメート
【化9】
【0113】
フラスコに、アセトニトリル(56.8mL)及びCs2CO3(11.10g、34.1mmol)中、I-1(4g、11.35mmol)及び2-(ブロモメチル)-5-フルオロピリジン臭化水素酸塩(4.00g、14.76mmol)を入れ、常温で16時間撹拌した。反応混合物を水(150mL)で希釈し、EtOAc(2×200mL)で抽出した。有機層を水(100mL)で洗浄し、無水Na2SO4で乾燥させ、濃縮することにより、薄茶色の固体を得た。これをBiotageNP(100g)カラムにより、ヘプタン中EtOAcで溶出して精製した。純粋な画分を集めることにより、tert-ブチル((3R,4R)-4-フルオロ-1-(5-フルオロ-1-((5-フルオロピリジン-2-イル)メチル)-1H-ベンズイミダゾール-2-イル)ピペリジン-3-イル)カルバメート(4.4g,9.53mmol,収率84%,異性体の混合物)を得た。異性体の分離は、ChiralcelOZ-H、2×25cm + ChiralcelOZ-H、2×25cm + ChiralcelOZ-H、2×15cm、5μmカラムを用いたSFCにより、15%エタノール及び0.2%ジエチルアミンを移動相として、流速70mL/分で実施することにより、1400mgのピーク1をee99%以上で得た。(ESI、陽イオン)m/z:462.0[M+1]
【0114】
工程2.(3R,4R)-4-フルオロ-1-(5-フルオロ-1-((5-フルオロピリジン-2-イル)メチル)-1H-ベンズイミダゾル-2-イル)ピペリジン-3-アミン(実施例1)
【化10】
【0115】
Tert-ブチル((3R,4R)-4-フルオロ-1-(5-フルオロ-1-((5-フルオロピリジン-2-イル)メチル)-1H-ベンズイミダゾール-2-イル)ピペリジン-3-イル)カルバメート(1400mg、3.03mmol)を、TFA(10当量)/DCM(10mL)混合溶媒に溶解した。この反応物を、LCMS分析で反応完了が確認されるまでRTで撹拌した。揮発成分を減圧下で除去し、残留物を逆相条件(ACN中0.1%NH4OH及び水を移動相とした)で精製することにより、表題化合物を白色固体として得た(998mg、収率91%)。1H NMR (600 MHz, DMSO-d6) δ 8.50 (d, J=2.88 Hz, 1 H) 7.73 (td, J=8.72, 2.96 Hz, 1 H) 7.42 (dd, J=8.68, 4.87 Hz, 1 H) 7.34 (dd, J=8.72, 4.28 Hz, 1 H) 7.07 (dd, J=9.26, 2.49 Hz, 1 H) 6.92 (ddd, J=10.06, 8.66, 2.53 Hz, 1 H) 5.40 (s, 2 H) 4.32 - 4.45 (m, 1 H) 3.38 - 3.56 (m, 2 H) 2.90 - 3.09 (m, 2 H) 2.78 (dd, J=12.46, 8.64 Hz, 1 H) 1.98 - 2.14 (m, 1 H) 1.70 - 1.80 (m, 1 H). (ESI、陽イオン)m/z:362.2[M+1]
【0116】
以下の実施例は、上記の実施例1及び一般スキーム3について上述した手順と同様の手順で合成した。
【0117】
【表2A-1】
【表2A-2】
【表2A-3】
【表2A-4】
【表2A-5】
【表2A-6】
【0118】
【表2B-1】
【表2B-2】
【表2B-3】
【表2B-4】
【表2B-5】
【0119】
生物学的実施例1:TRPC6 カルシウムフラックスアッセイ
TRPC6(Transient receptor potential channel family C6)阻害剤の効力は、FLIPRテトラシステム(BD PBX Calcium Assay Kit;BD Biosciences、San Jose CA)を用いて,ヒトTRPC6を安定的にトランスフェクトしたHEK293細胞に対するOAG(1-Oleoyl-2-acetyl-sn-glycerol、Millipore Sigma、O6754)刺激によるカルシウム流入を阻害することで測定した。細胞は、以下の選択試薬(ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)高グルコース、10%ウシ胎児血清、1×PSGlu(ペニシリン-ストレプトマイシン-グルタミン)、1×NEAA(非必須アミノ酸)、1×ピルビン酸Na及び200ug/mLハイグロマイシン)を含む成長培地を用いて、5%CO2下、37℃の加湿環境下で成長させた。培地を除去した後、カルシウムとマグネシウムを含まないPBS(リン酸緩衝生理食塩水)で2回軽く洗浄した。トリプシン(3mL)を37℃で5分間作用させた。フラスコを手のひらでたたくようにして細胞を取り出し、7mLの増殖培地を加えてトリプシンを失活させ、細胞を再び懸濁させた。通常の分割スケジュールは、2~3日ごとに1:5で行った。
【0120】
アッセイ前日に細胞をプレーティングした。プレーティングの細胞密度は、ポリ-D-リジン(PDL)で被覆した384ウェルプレートに、1.0~1.5×104/25μl/ウェルで、マルチチャンネルピペット又はマルチドロップを用いて行った。これらの細胞をまず、PDL被覆384ウェルブラックプレート上で一晩培養した後、室温で90~120分間、蛍光色素と共にインキュベートした(色素ローディングバッファー10mlの例:アッセイバッファー9mL、1mL、10×PBXシグナルエンハンサー、10μLカルシウムインジケーター)。細胞をTRPC6アゴニストOAGで刺激する前に、ある用量の化合物と共に25分間インキュベートした。OAG溶液は、アッセイバッファー(Caリンガー溶液ベース)にOAGを加えて調製した。10mM HEPES(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazine-ethanesulfonic acid)、4mM MgCl2、120mM NaCl、5mM KCl、pH=7.2@25℃)+0.1%BSA + 2mM CaCl2)に、OAGを0.2mM/2% DMSOの濃度で添加してOAG溶液を調製し、最終的に細胞に作用する濃度を50μM/0.5% DMSOに調整した。12.5μLのOAG混合液を加え、FLIPRテトラシステムを用いて細胞内のカルシウムレベルの変化に基づきTRPC6チャネルの活性化を測定した。
【0121】
データの取得は、180秒の撮像フレームの間、バックグラウンドから差し引かれた蛍光ピーク信号を測定して行った。各データポイントは、OAG誘導信号の対緩衝液比率を100%として正規化される。表3に各化合物のIC50を示す。このデータはピークシグナルを化合物用量に対してプロットすることで得られる値である。
【0122】
【0123】
以上の内容は単に本発明の例示として共するものであり、本発明を開示された化合物に限定することを意図したものではない。当業者には自明の種々の変形や変更も、添付の特許請求の範囲に規定される本発明の範囲及び主旨に含まれることが意図される。
【0124】
以上の説明から、当業者であれば、本発明の本質的な特徴を容易に把握することが可能であり、且つ、その主旨及び範囲を逸脱することなく、本発明を様々な用途や条件に適合させるべく、様々な変更や修正を加えることが可能である。