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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】歯車の面取り方法
(51)【国際特許分類】
   B23F 19/10 20060101AFI20230214BHJP
   B23F 21/12 20060101ALI20230214BHJP
   B23C 3/12 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
B23F19/10
B23F21/12
B23C3/12 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022511475
(86)(22)【出願日】2020-04-03
(86)【国際出願番号】 JP2020015262
(87)【国際公開番号】W WO2021199417
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2021-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000103367
【氏名又は名称】オーエスジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】筒山 晃司
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-079558(JP,A)
【文献】特開2016-132048(JP,A)
【文献】特開2016-000453(JP,A)
【文献】特開2012-143821(JP,A)
【文献】特開2010-184320(JP,A)
【文献】特開平04-025318(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0067804(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0148360(US,A1)
【文献】韓国登録特許第10-2383289(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 5/16
B23F 19/10
B23F 21/12
B23C 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯車の軸回りに複数の歯を形成する歯車形成工程と、その歯車形成工程により形成された複数の前記歯を工具によって順次面取りする面取り工程と、を備え、前記工具は、前記工具の軸方向端部に形成され前記工具の軸回りに複数形成される底刃を備え、前記面取り工程において、前記歯車の軸に対して前記工具の軸を傾斜させた状態で前記歯車および前記工具を回転させることにより、前記歯の歯面のうち、前記歯車の回転方向前方側に位置する歯面と、歯すじ方向における前記歯の端面との交線部を前記底刃によって順次面取りする歯車の面取り方法であって、
複数の前記底刃のピッチは、複数の前記歯のピッチのM倍に設定され、
前記面取り工程では、前記底刃の周速を前記歯の周速よりも速くして前記交線部を面取りし、且つ複数の前記歯をN枚おきに面取りし、
M及びNの値は、M>1の関係と、M-1>N≧1の関係と、Nが整数であることと、を満たすことを特徴とする歯車の面取り方法。
【請求項6】
前記工具は、前記工具の回転方向における一方側を向く第1すくい面に形成される第1底刃と、前記工具の回転方向における他方側を向く第2すくい面に形成される第2底刃と、を備え、
前記面取り工程は、前記歯車の回転方向における一方側を向く前記歯面と、前記端面との前記交線部を前記第1底刃で面取りする第1工程と、その第1工程の後に前記歯車および前記工具の回転を反転させ、前記歯車の回転方向における他方側を向く前記歯面と、前記端面との前記交線部を前記第2底刃で面取りする第2工程と、を備えることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の歯車の面取り方法。
【請求項7】
前記工具は、前記第1底刃および前記第2底刃が形成される刃部を備え、
前記刃部は、前記工具の軸に沿う平面を対称面にして面対称に形成されることを特徴とする請求項6記載の歯車の面取り方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車の面取り方法に関し、特に、工具の寿命を向上できる歯車の面取り方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、歯車の歯の歯面と、歯すじ方向における端面(側面)との交線部を工具の底刃によって面取りする技術が記載されている。この技術のように、歯車の軸に対して工具の軸を傾斜させた状態で、歯車の歯と工具の底刃とを順次噛み合わせるようにして歯車および工具を回転させることにより、歯の歯面と端面との交線部を底刃によって面取りできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-000453号公報(例えば、段落0036~0044、図2,3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述したような面取りを行う従来の工具について、図9を参照して説明する。図9(a)は、従来の工具300の上面図であり、図9(b)は、歯車1の上面図(側面図)である。
【0005】
図9に示すように、従来の工具300は、中心に軸Oを有する円柱状のシャンク301と、そのシャンク301の軸O方向端部(図9(a)の紙面垂直方向奥側の端部)に形成される円盤状の円盤部302と、その円盤部302の外周面に形成される刃部303と、を備える。
【0006】
刃部303は、工具300の軸O回りに複数(図9(a)の例では、24枚)が等間隔に並べて設けられる。複数の刃部303は、それぞれ工具300の径方向外側に向けて突出して形成されており、刃部303の回転方向(時計回りの方向)前方側の面にすくい面330が形成される。
【0007】
このすくい面330と、刃部303の底逃げ面との交線部分に底刃331が形成されるが、底刃331のピッチPは、歯車1の歯2のピッチPaと同一に設定されている。
【0008】
このため、複数の歯2を底刃331によって順次面取りする場合には、底刃331の周速を歯2の周速と同一に設定する必要がある。つまり、従来の工具300では、底刃331の周速を歯2の周速よりも速くすることができないため、面取りを行う際の切削抵抗を低減することが難しく、工具300の寿命が低下し易いという問題点があった。
【0009】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、工具の寿命を向上できる歯車の面取り方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するために本発明の歯車の面取り方法は、歯車の軸回りに複数の歯を形成する歯車形成工程と、その歯車形成工程により形成された複数の前記歯を工具によって順次面取りする面取り工程と、を備え、前記工具は、前記工具の軸方向端部に形成され前記工具の軸回りに複数形成される底刃を備え、前記面取り工程において、前記歯車の軸に対して前記工具の軸を傾斜させた状態で前記歯車および前記工具を回転させることにより、前記歯の歯面のうち、前記歯車の回転方向前方側に位置する歯面と、歯すじ方向における前記歯の端面との交線部を前記底刃によって順次面取りする歯車の面取り方法であって、複数の前記底刃のピッチは、複数の前記歯のピッチのM倍に設定され、前記面取り工程では、前記底刃の周速を前記歯の周速よりも速くして前記交線部を面取りし、且つ複数の前記歯をN枚おきに面取りし、M及びNの値は、M>1の関係と、M-1>N≧1の関係と、Nが整数であることと、を満たす。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の歯車の面取り方法によれば、複数の底刃のピッチは、複数の歯のピッチのM倍に設定され、Mの値は、M>1の値を満たすので、歯の歯面と端面との交線部を面取りする面取り工程において、底刃の周速を歯の周速よりも速くすることができる。これにより、底刃と歯との周速差を利用して面取りできるので、その面取り時の切削抵抗を低減できる。よって、工具の寿命を向上できるという効果がある。
【0012】
また、請求項1記載の歯車の面取り方法によれば、面取り工程では、複数の歯をN枚おきに面取りし、Nの値は、N≧1を満たす整数であるので、工具の設計の自由度が向上する。即ち、底刃の周速(底刃のピッチ)は、工具の径や、底刃の刃数によって調節可能であるが、例えば、工具の径は、面取り形状(交線部の長さ等)によって制約が生じることがある。この場合、隣合う歯を連続して面取りする構成であると、底刃の周速を底刃の刃数で調節する必要があり、工具の設計の自由度が低下する。
【0013】
これに対して請求項1によれば、複数の歯をN枚おきに面取りし、Nの値は、N≧1を満たす整数であるため、そのNの値を変化させることで底刃の周速(底刃のピッチ)を調節することができる。これにより、底刃の周速を調節する際に底刃の刃数に制約が生じることを抑制できるので、工具の設計の自由度が向上するという効果がある。
【0014】
また、例えば、歯のピッチに対する底刃のピッチの倍率が2倍であり、複数の歯を1枚おきに面取りする構成の場合、即ち、「M-1=N」の関係を満たす場合、底刃の周速と歯の周速とが一致してしまう。これに対し、請求項1によれば、「M-1>N」の関係を満たすようにNの値が設定されるので、底刃の周速を歯の周速よりも速くすることができる。よって、工具の寿命を向上できるという効果がある。
【0015】
請求項2記載の歯車の面取り方法によれば、請求項1記載の歯車の面取り方法の奏する効果に加え、次の効果を奏する。複数の歯の総数をNaとした場合に、N+1の値とNaとが互いに素であるので、歯車および工具を所定回数回転させて複数の歯の交線部を順次面取りすることにより、全ての歯が面取りされた状態を形成できるという効果がある。
【0016】
請求項3記載の歯車の面取り方法によれば、請求項1記載の歯車の面取り方法の奏する効果に加え、次の効果を奏する。複数の歯の総数をNaとした場合に、N+1の値とNaとが2つ以上の公約数を持つので、歯車および工具を所定回数回転させて複数の歯の交線部を順次面取りすることにより、一部の歯のみが面取りされた状態を形成できる。つまり、複数の歯のうち、所望の歯のみを面取りできるという効果がある。
【0017】
請求項4記載の歯車の面取り方法によれば、請求項3記載の歯車の面取り方法の奏する効果に加え、次の効果を奏する。N+1の値がNaの約数であるので、歯車および工具を所定回数回転させて複数の歯の交線部を順次面取りすることにより、複数の歯がN枚おきに面取りされた状態を形成できるという効果がある。
【0018】
請求項5記載の歯車の面取り方法によれば、請求項1から4のいずれかに記載の歯車の面取り方法の奏する効果に加え、次の効果を奏する。面取り工程では、底刃の周速を歯の周速のM/(N+1)倍にして交線部を面取りするので、底刃の周速を歯の周速よりも速くしつつ、複数の歯をN枚(N≧1)おきに面取りできるという効果がある。
【0019】
請求項6記載の歯車の面取り方法によれば、請求項1から5のいずれかに記載の歯車の面取り方法の奏する効果に加え、次の効果を奏する。工具は、工具の回転方向における一方側を向く第1すくい面に形成される第1底刃と、工具の回転方向における他方側を向く第2すくい面に形成される第2底刃と、を備える。これにより、歯車の回転方向における一方側を向く歯面と、歯の端面との交線部を第1底刃で面取りした後、歯車および工具の回転を反転させることにより、歯車の回転方向における他方側を向く歯面と、歯の端面との交線部を第2底刃で面取りすることができる。即ち、歯車の回転方向おいて歯の両側に形成される一対の交線部のそれぞれを面取りする場合に、工具を交換する必要が無いので、加工時間を短縮できるという効果がある。
【0020】
請求項7記載の歯車の面取り方法によれば、請求項6記載の歯車の面取り方法の奏する効果に加え、次の効果を奏する。工具は、第1底刃および第2底刃が形成される刃部を備え、その刃部は、工具の軸に沿う平面を対称面にして面対称に形成されるので、第1底刃で面取りを行う場合と、第2底刃で面取りを行う場合とで刃部に加わる負荷を均一にできる。よって、刃部の強度設定を容易にできるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施の形態における歯車の面取り方法を示す歯車および工具の斜視図である。
図2】(a)は、工具の正面図であり、(b)は、図2(a)のIIb-IIb線における工具の部分拡大断面図である。
図3】(a)は、図2(a)の矢印IIIa方向視における工具の上面図であり、(b)は、図1の矢印IIIb方向視における歯車の上面図である。
図4】(a)は、図1の矢印IVa方向視における歯車および工具の上面図であり、(b)は、図4(a)の状態から歯車および工具を回転させた状態を示す歯車および工具の上面図である。
図5】(a)は、面取り方法の第1の変形例を示す歯車および工具の上面図であり、(b)は、面取り方法の第2の変形例を示す歯車および工具の上面図である。
図6】(a)は、面取り方法の第3の変形例を示す歯車および工具の上面図であり、(b)は、面取り方法の第4の変形例を示す歯車および工具の上面図である。
図7】(a)は、第2実施形態の面取り方法に用いられる工具の正面図であり、(b)は、図7(a)の矢印VIIb方向視における工具の上面図である。
図8】(a)は、歯の一方の交線部を面取りする様子を示す模式図であり、(b)は、歯の他方の交線部を面取りする様子を示す模式図である。
図9】(a)は、従来の工具の上面図であり、(b)は、歯車の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好ましい実施形態について、添付図面を参照して説明する。まず、図1~3を参照して、本発明の面取り方法が適用される歯車1と、その歯車1を面取りする工具100の構成について説明する。
【0023】
図1は、本発明の一実施の形態における歯車1の面取り方法を示す歯車1及び工具100の斜視図である。図2(a)は、工具100の正面図であり、図2(b)は、図2(a)のIIb-IIb線における工具100の部分拡大断面図である。図3(a)は、図2(a)の矢印IIIa方向視における工具100の上面図であり、図3(b)は、図1の矢印IIIb方向視における歯車1の上面(側面)図である。
【0024】
図1に示すように、本実施形態の面取り方法が適用される歯車1は、歯車1の軸Oaに向けて複数(本実施形態では、32枚)の歯2が突出する内歯歯車である。複数の歯2は、歯車1の軸Oa回りに等間隔に設けられる。
【0025】
図1の拡大部分に示すように、歯2のうち、歯2の突出先端部に形成される面が歯先面20、その歯先面20に軸Oa回りの方向で連なる一対の面(フランク)が歯面21、それら歯先面20及び歯面21のそれぞれに連なり歯2の歯すじ方向(軸Oa方向)端部に形成される面(側面)が端面22である。
【0026】
このような歯車1の歯2は、図示しない歯切装置や転造装置によって形成され(歯車形成工程)、その歯2の形成後に工具100による面取りが行われる(面取り工程)。本実施形態では、主に歯2の歯面21と端面22との交線部23が工具100によって面取りされるが、その面取り位置(面取りの始点)Aは、軸Oa回りの周方向における端面22の略中央であり、端面22が広範囲にわたって(図1の拡大部分の破線で示す部位が)面取りされる。
【0027】
この歯2の面取りを行う工具100は、中心に軸Obを有する円柱状のシャンク101と、そのシャンク101の軸Ob方向端部に形成される刃部102と、を備えるエンドミルである。シャンク101は、複合加工機等の工作機械(図示せず)に保持される部位である。工作機械からは、シャンク101の軸Ob回りに工具100を回転させる駆動力が伝達され、この工具100の回転により、歯2の交線部23が刃部102によって面取りされる。
【0028】
刃部102は、シャンク101の軸Ob回りに複数(本実施形態では、4枚)形成され、それら複数の刃部102は、軸Ob回りにおいて互いに回転対称(4回対称)の形状となっている。
【0029】
図2に示すように、刃部102は、シャンク101の外周面から軸Ob方向一端側(図2(a)の下側)に突出するように形成される。刃部102には、工具100の回転方向前方側(図2(b)の左側)を向くすくい面120が形成される。
【0030】
すくい面120と底逃げ面121(図2(b)参照)との交線部分には、径方向に延びる底刃122が形成される。また、すくい面120と外周逃げ面123(図2(a)参照)との交線部分には、軸Ob方向に延びる外周刃124が形成される。これらの底刃122及び外周刃124によって歯2の交線部23(図1の拡大部分参照)が面取りされる。
【0031】
図3に示すように、工具100の径(底刃122の各々の外周端を通る円の直径)は、歯車1の内径(歯2の内接円の直径)よりも小さく形成されている。また、工具100の複数の底刃122(外周刃124)のピッチPbは、歯車1の複数の歯2のピッチPaよりも大きく(本実施形態では、5倍)に設定される。このピッチPa,Pbの差により、歯2を面取りする際の底刃122の周速を歯2の周速よりも速くすることができる。この面取り方法の詳細について、図4を参照して説明する。
【0032】
図4(a)は、図1の矢印IVa方向視における歯車1及び工具100の上面図であり、図4(b)は、図4(a)の状態から歯車1及び工具100を回転させた状態を示す歯車1及び工具100の上面図である。図4では、工具100(刃部102)の外形を2点鎖線で模式的に図示している。
【0033】
なお、以下の説明においては、工具100の4つの底刃122に対し、工具100の回転方向とは反対回りの順に底刃122a、底刃122b、底刃122c及び底刃122dと符号を付して説明する。
【0034】
また、底刃122aによって最初(工具100の1回転目)に面取りされる歯2を歯2a1とし、2番目(工具100の2回転目)に面取りされるものを2a2・・・とし、底刃122b~122dによって面取りされる歯2についても同様に、歯2b1,2c1,2d1、歯2b2,2c2,2d2・・・と符号を付して説明する。但し、底刃122a~122dや、歯2a1,2b1,2c1,2d1・・・を区別しない場合には、単に底刃122や歯2と記載して説明する。
【0035】
図4に示すように、歯車1の面取りを行う面取り工程では、上述した通り、歯車1の軸Oaに対し、工具100の軸Obが所定角度(本実施形態では、15°)傾斜した状態で工作機械に固定される。この状態で歯車1と工具100とを互いに同一の方向(図4の例では、時計回り)に回転させることにより、歯2の端面22に対して底刃122が斜めに切り込むように回転する。これにより、歯2の回転方向前方側に位置する歯面21と端面22との交線部23を面取りすることができる。
【0036】
このような面取り行う場合、本実施形態では、底刃122のピッチが歯2のピッチの5倍に設定されているため、底刃122の周速を歯2の周速の5倍に設定する。これにより、底刃122aによって歯2a1が面取りされた後、その底刃122aによる面取り位置A(底刃122aが端面22に接触する位置)において、底刃122bによる歯2b1の面取りが行われる(図4(b)参照)。このような面取り位置Aでの歯2c1,2d1の面取りが底刃122c,122dによっても同様に繰り返されることにより、隣合う歯2a1、2b1、2c1、2d1、2a2、2b2、2c2、2d2・・・が連続的に面取りされ、32枚の全ての歯2が面取りされた状態になる。
【0037】
つまり、底刃122のピッチを歯2のピッチの5倍に設定し、隣合う歯2を連続して面取りすることにより、底刃122の周速を歯2の周速の5倍にすることができる。これにより、底刃122と歯2との周速差を利用して面取りできるので、その面取り時の切削抵抗を低減できる。よって、工具100の寿命を向上できる。更に、面取り時の切削抵抗を低減することにより、面取り部分の全長(交線部23の長さ)が長い面取りや、面取り深さが深い面取りを可能にできる。
【0038】
なお、上述した面取り位置Aでの歯2と底刃122と接触部分における任意の点を接触点とすると、その接触点の径方向位置における軸Oa回りの歯2の間隔が歯2のピッチPa(図3参照)である。また、かかる接触点の径方向位置における軸Ob回りの底刃122の間隔が底刃122のピッチPbである。
【0039】
ここで、歯2の面取りを底刃122によって順次行う場合、例えば、歯2b1を面取りした後の底刃122bが歯2a1に干渉するおそれがある。この干渉は、本実施形態のように底刃122の周速を歯2の周速よりも速くした場合に生じ易くなる(歯2a1が回転方向前方側に逃げる前に底刃122bが歯2a1に接触し易くなるため)。
【0040】
この干渉を抑制するためには、工具100の径(底刃122の回転半径)を小さくして底刃122の回転軌跡が歯2から逃げ易くなるように構成するか、若しくは、底刃122の周速を歯2に干渉しない程度の速度に設定する必要がある。
【0041】
この場合、底刃122の周速、即ち、底刃122のピッチは、工具の径に比例し、底刃122の刃数に反比例するものである。よって、上述したような底刃122と歯2との干渉を抑制しつつ、底刃122に所定以上の周速を与えるためには、工具100の径や底刃122の刃数を調節する必要がある。
【0042】
しかし、工具100の径は、交線部23の長さ等、面取り面の形状によって制約が生じることがあり、この場合には、底刃122の刃数によって底刃122のピッチ(底刃122の周速)を調節しなければならない。よって、工具100の設計の自由度が低下するという問題が生じる。この問題を解消する面取り方法について、図5(a)を参照して説明する。
【0043】
図5(a)は、面取り方法の第1の変形例を示す歯車1及び工具100の上面図である。なお、図5(a)は、図1の矢印IVa方向視における歯車1及び工具100の上面図に相当し、図5(a)では、工具100の外形を2点鎖線で模式的に図示している。
【0044】
図5(a)に示すように、面取り方法の第1の変形例では、歯車1の歯2を2枚おきに順次面取りするものである。なお、歯2をN枚おきに面取りする時には、歯2のピッチに対する底刃122のピッチの倍率をMとした場合に、底刃122の周速を歯2の周速のM/(N+1)倍に設定すれば良い。よって、本実施形態では、工具100の底刃122のピッチが歯2のピッチの5倍(M=5)に設定されているため、歯2を2枚(N=2)おきに面取りする場合には、底刃122の周速を歯2の周速の5/3倍(M/(N+1)倍)に設定する。
【0045】
これにより、底刃122a~122dによって歯2a1、2b1、2c1、2d1、2a2、2b2、2c2、2d2・・・2a8、2b8、2c8、2d8の順に面取りが行われ、全ての歯2を面取りすることができる。このように、歯2をN枚おきに面取りすることにより、隣合う歯2を連続して面取りする場合に比べ、底刃122の周速を1/(N+1)にする(図5(a)の例では、1/3にする)ことができる。つまり、底刃122と歯2との干渉を抑制できる程度に底刃122の周速を調節する場合に、底刃122の刃数を変化させるのではなく、Nの値を変化させることで底刃122の周速を調節できるので、工具100の設計の自由度が向上する。
【0046】
このように、歯2をN枚おきに面取りすることで全ての歯2を面取りするためには、N+1の値と歯2の総数Naとが互いに素となるようにNの値を設定すれば良い。例えば、本実施形態のように歯2の総数Naが32枚である場合には、N+1の値が3、5、7、9、13・・・になるように、即ち、歯2を2枚おき、4枚おき、6枚おき、8枚おき・・・に面取りすれば、工具100を所定回数回転させることで全ての歯2を面取りできる。
【0047】
但し、本実施形態のように歯2のピッチPaに対する底刃122のピッチPbの倍率が5倍(M=5)である場合、歯2を4枚(N=4)おきに面取りすると、底刃122の周速と歯2の周速とが一致してしまう。即ち、M-1=N(M=N+1)の関係にしてしまうと底刃122の周速と歯2の周速が同じ速度になるため、Nの値を増加させる場合には、「M-1>N(M>N+1)」の関係を満たすようにピッチの倍率Mも増加させれば良い。これにより、底刃122の周速を歯2の周速よりも速くすることができるので、工具100の寿命を向上できる。
【0048】
以上のように、工具100を所定回数回転させることにより、全ての歯2が面取りされた状態を形成することも可能であるが、歯2が飛ばし飛ばしで面取りされた状態を形成することも可能である。この面取り方法について、図5(b)及び図6を参照して説明する。
【0049】
図5(b)は、面取り方法の第2の変形例を示す歯車1及び工具100の上面図であり、図6(a)は、面取り方法の第3の変形例を示す歯車1及び工具100の上面図であり、図6(b)は、面取り方法の第4の変形例を示す歯車1及び工具100の上面図である。なお、図5(b)及び図6は、図1の矢印IVa方向視における歯車1及び工具100の上面図に相当し、図5(b)及び図6では、工具100の外形を2点鎖線で模式的に図示している。
【0050】
図5(b)に示すように、面取り方法の第2の変形例は、歯車1の歯2を1枚おきに順次面取りするものである。上述した通り、底刃122のピッチが歯2のピッチの5倍(M=5)に設定されているため、歯2を1枚(N=1)おきに面取りする場合には、底刃122の周速を歯2の周速の5/2倍(M/(N+1)倍)に設定する。
【0051】
これにより、底刃122a~122dによって歯2a1、2b1、2c1、2d1、2a2、2b2、2c2、2d2・・・2a4、2b4、2c4、2d4の順に面取りが行われるが、工具100を所定以上(例えば、5回以上)回転させた場合であっても、底刃122aで面取りした歯2a1を底刃122aが再度通過するため、歯2が1枚飛ばしで(1枚おきに)面取りされた状態になる。これは、歯2の総数が32枚(Na=32)であるのに対し、歯2を1枚(N=1)おきに面取りしており、N+1の値である2がNaの約数になっているためである。
【0052】
図6(a)に示すように、面取り方法の第3の変形例は、歯車1の歯2を3枚おきに順次面取りするものである。上述した通り、底刃122のピッチが歯2のピッチの5倍(M=5)に設定されているため、歯2を3枚(N=3)おきに面取り場合には、底刃122の周速を歯2の周速の5/4倍(M/(N+1)倍)に設定する。
【0053】
これにより、底刃122a~122dによって歯2a1、2b1、2c1、2d1、2a2、2b2、2c2、2d2の順に面取りが行われる。この場合においても、歯2の総数が32枚(Na=32)であるのに対し、歯2を3枚(N=1)おきに面取りしており、N+1の値である4がNaの約数になっている。よって、工具100を所定以上(例えば、3回以上)回転させた場合であっても、歯2が3枚飛ばしで面取りされた状態を形成できる。
【0054】
これら図5(b)及び図6(a)に示す第2,3の変形例のように、歯2をN枚おきに面取りする場合に、N+1の値をNaの約数とすることにより、歯2がN枚おきに面取りされた状態を形成できる。よって、Nの値を適宜設定することにより、所望の歯2のみを面取りできる。
【0055】
図6(b)に示すように、面取り方法の第4の変形例は、歯車1の歯2を5枚おきに順次面取りするものである。上述した通り、底刃122の周速を歯2の周速よりも速くするためには、「M-1>N(M>N+1)」の関係を満たす必要がある。よって、第4の変形例においては、底刃122のピッチが歯2のピッチの7倍に設定されているが、図6(b)では、工具100の外形を図6(a)等と同一にして図示している。
【0056】
このように、第4の変形例では、底刃122のピッチが歯2のピッチの7倍(M=7)に設定されているため、歯2を5枚(N=5)おきに面取りする場合には、底刃122の周速を歯2の周速の7/6倍(M/(N+1)倍)に設定する。
【0057】
これにより、底刃122a~122dによって歯2a1、2b1、2c1、2d1、2a2、2b2、2c2、2d2・・・2a4、2b4、2c4、2d4の順に面取りが行われる。この場合、歯2の総数が32枚(Na=32)であり、歯2を5枚(N=5)おきに面取りしており、N+1の値である6と、Naの値である32とが「1」及び「2」の2つ以上の公約数を持っている。このような構成においても、工具100を所定数(例えば、4回)回転させることにより、歯2が1枚飛ばしで面取りされた状態を形成できる。
【0058】
なお、図示は省略するが、例えば、歯2を9枚(N=9)おきに順次面取りした場合も同様に、N+1の値である10と、Naの値である32とが「1」及び「2」の2つ以上の公約数を持っているため、歯2が1枚飛ばしで面取りされた状態になる。
【0059】
以上の通り、第1~4の変形例によれば、複数の歯2をN枚(N≧1)おきに面取りするので、そのNの値を変化させることにより、所望の歯2のみが面取りされた状態を形成できる。また、複数の歯2をN枚(N≧1)おきに面取りする構成であるため、Nの値を変化させることにより、底刃122の刃数を変化させることなく、底刃122の周速を調節することができる。これにより、工具100の設計の自由度が向上する。
【0060】
次いで、図7を参照して、第2実施形態の面取り方法について説明する。なお、上述した第1実施形態と同一の部分には同一の符号を付してその説明を省略する。図7(a)は、第2実施形態の面取り方法に用いられる工具200の正面図であり、図7(b)は、図7(a)の矢印VIIb方向視における工具200の上面図である。
【0061】
図7に示すように、工具200は、シャンク101の軸Ob方向端部に形成される円盤状の円盤部203と、その円盤部203の外周面に形成される刃部204と、を備える歯車状の工具として構成される。刃部204は、円盤部203の外周面に複数(本実施形態では、12枚)形成されており、それら複数の刃部204は軸Ob回りにおいて互いに回転対称(12回対称)の形状となっている。
【0062】
刃部204は、円盤部203の外周面から径方向外側に突出するように形成され、刃部204は、軸Ob回りの円筒面で切断した断面形状が台形に形成される。刃部204には、工具200の回転方向前方側を向く第1すくい面240aと、工具200の回転方向後方側を向く第2すくい面240bとが形成される。
【0063】
刃部204の底面は、軸Obと直交する平面となっており、この刃部204の底面と、第1すくい面240a及び第2すくい面240bとの交線部分に第1底刃241a及び第2底刃241bが形成される。また、刃部204の外周面と、第1すくい面240a及び第2すくい面240bとの交線部分に第1外周刃242a及び第2外周刃242bが形成される。
【0064】
工具200の径(第1底刃241a及び第2底刃241bの各々の外周端を通る円の直径)は、歯車1(図3参照)の内径よりも小さく形成されている。また、刃部204の第1底刃241a(第1外周刃242a)のピッチPcや、第2底刃241b(第2外周刃242b)のピッチPcは、それぞれ歯2のピッチPa(図3参照)の2.5倍に設定されている。
【0065】
次いで、図8を参照して、工具200を用いた歯車1の面取り方法について説明する。図8(a)は、歯2の一方の交線部23を面取りする様子を示す模式図であり、図8(b)は、歯2の他方の交線部23を面取りする様子を示す模式図である。なお、図8では、工具200の1枚の刃部204のみを模式的に図示している。
【0066】
図8に示すように、工具200によって歯車1の歯2の面取りを行う面取り工程では、歯2の回転方向(図8の左右方向)における右側に位置する交線部23を面取りする第1工程と、左側に位置する交線部23を面取りする第2工程とが順に行われる。
【0067】
第1工程では、工具200の軸Obが、歯車1の軸Oaに対して所定の角度(本実施形態では、15°)傾斜した状態で工作機械に固定される。この状態で歯車1と工具200とを互いに同一の方向(図8(a)の例では、右側)に回転させることにより、歯2の一対の交線部23のうちの一方(図8の右側)に位置する交線部23を第1底刃241aによって面取りできる。
【0068】
次いで、第2工程では、歯車1の軸Oaに沿う平面であって第1底刃241aによる歯2の面取り位置Aを通る平面を挟んで第1工程の時とは反対側に工具200の軸Obを傾斜させる。なお、この第2工程における工具200の傾斜角度は、第1工程の時と同一(本実施形態では、15°)でも良いし、異なる角度でも良い。この状態で歯車1と工具200とを第1工程の時とは反対方向(図8(b)の例では、左側)に反転させることにより、歯2の一対の交線部23のうちの他方(図8の左側)に位置する交線部23を第2底刃241bによって面取りできる。
【0069】
このように、本実施形態の面取り方法によれば、1枚の歯2に形成される一対の交線部23のそれぞれを面取りする場合に、工具200を交換する必要が無いので、加工時間を短縮できる。
【0070】
また、第1すくい面240a及び第2すくい面240bは、各々の軸Ob方向および径方向のすくい角が同一に設定されており、刃部204は、軸Obに沿う平面を対称面にして面対称に形成されている。よって、第1底刃241aで面取りを行う場合と、第2底刃241bで面取りを行う場合とで刃部204に加わる負荷を均一にできる。よって、刃部204の強度設定を容易にできる。
【0071】
なお、図示は省略するが、第1工程および第2工程のそれぞれにおいては、隣合う歯2が連続的に面取りされる。即ち、上述した通り、第1底刃241a及び第2底刃241bのピッチが歯2のピッチの2.5倍(M=2.5)に設定されているが、第1工程および第2工程のそれぞれにおいて、第1底刃241a及び第2底刃241bの周速が歯2の周速の2.5倍に設定されているため、第1実施形態と同様、面取り時の切削抵抗を低減できる。よって、工具200の寿命を向上できる。
【0072】
以上、上記実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変形改良が可能であることは容易に推察できるものである。
【0073】
上記各実施形態では、歯車1が32枚の歯2からなる内歯歯車である場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、歯車1が外歯歯車等の他の種類の歯車である場合や、歯2が32枚未満または33枚以上である場合においても、上記各実施形態の面取り方法を適用できる。
【0074】
上記各実施形態では、工具100の底刃122の刃数が4枚であり、工具200の第1底刃241a及び第2底刃241bの刃数が12枚である場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、工具100の底刃122や、第1底刃241a及び第2底刃241bの刃数を適宜設定して刃のピッチ(周速)を調節することは当然可能である。
【0075】
上記各実施形態では、歯2の歯すじ方向(軸Oa方向)における一方側に位置する交線部23のみを面取りする場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、歯2の歯すじ方向における両側の交線部23を面取りする構成でも良い。
【0076】
上記第1実施形態では、歯2に形成される一対の交線部23のうち、一方の交線部23のみを面取りする場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、歯2に形成される一対の交線部23のそれぞれを面取りする構成でも良い。この場合には、工具100の軸Ob回りにおいて、すくい面120とは反対側を向くすくい面を有する工具を使用し、第2実施形態と同様の方法で面取りを行えば良い。
【0077】
上記第2実施形態では、隣合う歯2を工具200によって連続的に面取りする場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、第1実施形態で説明した面取り方法の第2~4の変形例のように、工具200によって歯2をN枚おきに面取りする構成でも良い。
【符号の説明】
【0078】
1 歯車
2 歯
21 歯面
22 端面
23 交線部
100,200 工具
122 底刃
204 刃部
240a 第1すくい面
240b 第2すくい面
241a 第1底刃(底刃)
241b 第2底刃(底刃)
Oa 歯車の軸
Ob 工具の軸
Pa 歯のピッチ
Pb,Pc 底刃のピッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9