IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ランダム ウォーク イメージング アーベーの特許一覧

特許7227438核磁気共鳴測定により試料に関する情報を抽出する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-14
(45)【発行日】2023-02-22
(54)【発明の名称】核磁気共鳴測定により試料に関する情報を抽出する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 24/08 20060101AFI20230215BHJP
【FI】
G01N24/08 510L
G01N24/08 510P
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018532460
(86)(22)【出願日】2016-12-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-03-14
(86)【国際出願番号】 SE2016051311
(87)【国際公開番号】W WO2017116300
(87)【国際公開日】2017-07-06
【審査請求日】2019-10-07
(31)【優先権主張番号】1551719-6
(32)【優先日】2015-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】522437360
【氏名又は名称】ランダム ウォーク イメージング アーベー
【氏名又は名称原語表記】RANDOM WALK IMAGING AB
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】トップガルド、ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ラシック、サモ
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/119569(WO,A1)
【文献】特開平07-151715(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0234220(US,A1)
【文献】米国特許第05696448(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0153433(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0112743(US,A1)
【文献】BERNIN, Diana,NMR diffusion and relaxation correlation methods: New insights in heterogeneous materials,Current Opinion in Colloid & Interface Science,2013年,Vol.18,pp.166-172
【文献】ERIKSSON, Stefanie,NMR diffusion-encoding with axial symmetry and variable anisotropy: Distinguishing between prolate and oblate microscopic diffusion tensors with unknown orientation distribution,THE JOURNAL OF CHEMICAL PHYSICS,Vol.142 No.104201,2015年03月09日,pp.104201-1~104201-11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 24/00-24/14
A61B 5/055
G01R 33/28-33/64
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料について複数の磁気共鳴測定(402-1,402n)を実施する工程であって、各測定が、前記試料を符号化シーケンスにかける工程を含んでなり、前記シーケンスの少なくとも1部が、核緩和及び拡散に起因する磁気共鳴信号の減衰を符号化するように適合され、
勾配パルス・シーケンスのうちの少なくとも1つのパラメータを、前記複数の測定のうちの少なくとも1つの部分集合の間で変更し、前記部分集合に対する少なくとも1つの測定が、1つより多くの非ゼロの固有値を有する拡散符号化テンソル表記を有する勾配パルス・シーケンスを含み、
前記複数の測定のうちの少なくとも1つの部分集合が、核緩和に起因する異なるレベルの磁気共鳴信号の減衰について符号化する工程を含んでなる、複数の磁気共鳴測定を実施する工程と、
前記複数の磁気共鳴測定からもたらされる信号から前記試料に関する情報を抽出する工程(404)であって、前記情報が前記試料についての核緩和特性及び拡散特性を含む、情報を抽出する工程と、を備え、
前記情報を抽出する工程(404)は、前記試料における核緩和特性と拡散特性の特定の組合せを見つける確率を示す確率分布を推定する工程を含んでなり、前記組合せは、横緩和率及び縦緩和率のうちの少なくとも一方と、等方拡散性、異方拡散性及び拡散テンソルの方位のうちの1つ以上との組合せであり、
前記確率分布は、複数の測定からもたらされるエコー信号を、カーネルと前記確率分布の積と関係づける式に対する解を決定することによって推定され、前記カーネルの構成成分は、拡散特性又は緩和特性と、前記複数の測定のそれぞれの測定の前記符号化シーケンスの取得パラメータとに基づくものであり、前記取得パラメータは前記測定の緩和又は拡散符号化に起因する信号の減衰のレベルを制御する、
試料に関する情報を抽出する方法。
【請求項2】
前記試料における異なる拡散符号化を提供するために、勾配パルス・シーケンスの前記少なくとも1つのパラメータを複数の測定の間で変更する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
異なるレベルの信号の減衰について符号化するために、勾配パルス・シーケンスの前記少なくとも1つのパラメータを複数の測定の間で変更する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
勾配パルス・シーケンスの変調、最大の勾配の大きさ、及び前記拡散符号化の方位のうちの少なくとも1つ又はこれらの組合せを複数の測定の間で変更する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記複数の測定の少なくとも1つの部分集合が、横緩和及び縦緩和のうちの少なくとも一方に起因する異なるレベルの信号の減衰についての符号化を含んでなる、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記抽出した情報の前記核緩和特性が、前記試料についての横緩和率及び縦緩和率のうちの少なくとも一方の推定を含んでなる、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記抽出した情報の前記拡散特性が前記試料における構成成分についての拡散を表す拡散テンソルDの要素の推定を含んでなる、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の概念は、核磁気共鳴測定により試料に関する情報を抽出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核磁気共鳴(NMR)法は、岩石、木材、及び脳組織といった、多岐にわたる不均一な多孔質材料において液体の性質の非侵襲的な特定を可能にするための特有の能力を有する。オフセット周波数、縦緩和率R、及び横緩和率RなどのNMR観測可能量は、細孔液の化学成分及び細孔液と多孔質マトリクスとの間の相互作用に依存する。磁場勾配の印可を通して、NMR信号の位相及び大きさを、細孔液の空間位置に関する情報及び並進移動に関する情報で符号化することができ1、2、後者はしばしば自己拡散係数Dと流速vとに分離される。空間情報は、磁気共鳴画像形成(MRI)にとっての基礎をなす。
【0003】
細孔液にとって複数の微視的環境が存在することによって、NMR観測可能量について唯一の値があるのではなく、分布が生じる。細孔液の明瞭な占有率からの信号の寄与を信頼性高く分離するために、観測可能量における本質的な差異が必要である
【0004】
異方性多孔質構造によって、対応する細孔液の並進移動の異方性が生じる。観測されるDの値の方向依存性は、拡散テンソルDに取り込まれ、これは、印可される磁場勾配の方向を変えて一連の測定を実施することによって、定量化することができる5、6。MRIの拡散テンソル画像形成6、7(DTI)バージョンによって、生きている人間の脳にわたる神経繊維の経路をたどること、ならびに、腫瘍及び脱髄10などの病理状態を検出することが可能になる。単純な細孔形状では、観測されるDの形及び方位は、比較的容易に、下にある細孔構造に関連づけることができる。調査される体積要素が、異なる異方性及び/又は方位を有する複数の環境を含むときは、解釈上の曖昧さが生じる。巨視的なスケールで等方性となる、ランダムな方向を向いた材料の場合であっても、たとえば、一連の離散的な11~17、又は方向を連続的に変えた18~22拡散符号化を使用して、微視的拡散異方性の存在を確認し、その大きさ、たとえば、微視的部分の異方性μFA20、23又は拡散異方性パラメータDΔ 24を、定量化することができる。適切に設計された取得プロトコル及び分析方法を通して、微視的異方性及び細孔方位の効果について、混交状態を解くこと20、ならびに明瞭な等方拡散性Disoの値を有する構成成分の異方性を個別に特性化すること25が今や可能である。これらの実験の結果は、2D分布P(Diso、DΔ)として報告することができる。微視的異方性がわかると、細孔方位は、2D方位分布関数P(θ、φ)26として定量化することができ、ここで、θとφは、それぞれ、研究室の基準系における極角及び方位角である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】D.G.Cory, A.N.Garroway, and J.B.Miller, Polymer Prepr. 31, 149(1990)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
不均一な異方性材料の特性化におけるこれらの最近の進歩にもかかわらず、たとえば構成成分が同様のDiso又はDΔの値を有するとき、データ分析が困難な場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の概念の目的は、試料の拡散成分の性質を探査するという観点から、解像力を改善することを可能にする、試料に関する情報を抽出する方法を提供することである。さらなる、又は代替の目的を、以下から理解することができる。
【0008】
本発明の概念の態様によれば、試料に関する情報を抽出する方法が提供され、方法は、
試料について複数の磁気共鳴測定を実施する工程であって、各測定が、試料を符号化シーケンスにかける工程を含んでなり、シーケンスの少なくとも1部が、核緩和及び拡散に起因する磁気共鳴信号の減衰を符号化することに適切であり、
符号化シーケンスの勾配パルス・シーケンスのうちの少なくとも1つのパラメータを、複数の測定のうちの少なくとも1つの部分集合のうちで変更し、部分集合の少なくとも1つの測定が、1つより多くの非ゼロの固有値を有する拡散符号化テンソル表記を有する勾配パルス・シーケンスを含み、
複数の測定のうちの少なくとも1つの部分集合が、核緩和に起因する異なるレベルの磁気共鳴信号の減衰について符号化する工程を含む、複数の磁気共鳴測定を実施する工程と、
複数の磁気共鳴測定からもたらされる信号から試料に関する情報を抽出する工程であって、情報が試料についての核緩和特性及び拡散特性を含む、情報を抽出する工程とを備える。
【0009】
本発明の概念は、不均一な異方性材料を特性化することを可能にする従来技術のプロトコルが、核緩和に起因する異なるレベル(すなわち、異なる程度)の磁気共鳴信号の減衰についての符号化の測定によって拡張できるという洞察に基づく。それにより、拡散特性を、試料内の核スピン・システムの核緩和の特性と相関させることができる。方法は、したがって、試料中の拡散成分の核緩和特性を解像する手段を提供する。これは、構成成分の等方性又は異方性の拡散中に、微妙な差異のみが存在する場合でさえ、達成することができる。こうして、拡散成分の性質を特性化する、すなわち識別する能力を改善することができる。
【0010】
構成成分とは、明瞭な等方及び/又は異方拡散性などの、明瞭な拡散特性を有する試料の構成成分をいうことができる。
勾配パルス・シーケンスの拡散符号化テンソル表記とは、磁気共鳴測定(たとえば、磁気共鳴測定iの勾配パルス・シーケンスGのテンソル表記bといった)の磁気勾配パルス・シーケンスGの拡散符号化テンソル表記bということもでき、bは
【0011】
【数1】
【0012】
で与えられ、上式で、q(t)は、(
【0013】
【数2】
【0014】
に比例する)時間依存性脱相ベクトルであり、tは、エコー形成の時間である。したがって、勾配パルス・シーケンスの拡散符号化テンソル表記bが1つより多くの非ゼロの固有値を提示するように、部分集合の少なくとも1つの測定の勾配パルス・シーケンスを生成することができる。
【0015】
勾配パルス・シーケンスの少なくとも1つのパラメータが変えられ、1つより多くの非ゼロの固有値を有する拡散符号化テンソル表記を有する勾配パルス・シーケンスを含む少なくとも1つの測定を含んでいる、複数の測定のうちの少なくとも1つの部分集合を、複数の測定のうちの第1の部分集合ということができる。
【0016】
核緩和に起因する、異なるレベルの磁気共鳴信号の減衰についての符号化を含む複数の測定のうちの少なくとも1つの部分集合を、複数の測定のうちの第2の部分集合ということもできる。
【0017】
第1の部分集合及び第2の部分集合は、完全に重複する(すなわち、第1の部分集合と第2の部分集合が同じ部分集合ということができる)場合、部分的に重複する場合、又は重複しない場合がある。
【0018】
したがって、複数の磁気共鳴測定のうちの各々1つは、拡散符号化と核緩和符号化のそれぞれの組合せを使用して実施することができる。核緩和及び拡散に起因する磁気共鳴信号の減衰の符号化を制御する符号化シーケンスのパラメータは、取得パラメータの組ということができる。複数の磁気共鳴測定のうちの少なくとも1つの部分集合は、取得パラメータの異なる組を使用して実施することができる。
【0019】
1つの実施形態によれば、試料における異なる拡散符号化を提供するために、勾配パルス・シーケンスの少なくとも1つのパラメータが、(たとえば、第1の部分集合の)測定の間で変えられる。異なるレベルの信号の減衰について符号化するために、勾配パルス・シーケンスの少なくとも1つのパラメータを測定間で変えることができる。勾配パルス・シーケンスの変調、最大の勾配の大きさ、及び/又は拡散符号化の方位のうちの少なくとも1つ又は組合せを、測定間で変えることができる。
【0020】
1つの実施形態によれば、複数の測定のうちの少なくとも1つの部分集合(たとえば、第2の部分集合)は、横緩和及び/又は縦緩和に起因する異なるレベルの信号の減衰について符号化する工程を含む。
【0021】
1つの実施形態によれば、情報を抽出する工程は、試料における核緩和特性と拡散特性の特定の組合せを見つける確率を示す確率分布の表記を推定する工程を含む。
確率分布は、こうして、核緩和特性と拡散特性の特定の組合せが試料に存在する確率又は尤度の(たとえば、0と1の間の数としての)推定を示すことができる。
【0022】
確率分布は、核緩和特性と拡散特性の複数の異なる組合せのうちの各々1つについて、それぞれの確率を示すことができる。
核緩和特性と拡散特性の組合せは、縦及び/又は横緩和率と、等方性拡散、異方性拡散、及び拡散テンソルの方位のうちの1つ以上との組合せを含むことができる。
【0023】
確率分布は、複数の測定からもたらされるエコー信号とカーネル及び確率分布に関係する式に基づいて推定することができ、カーネルの構成成分は、取得パラメータ及び拡散特性又は緩和特性に基づく。確率分布は、式に対する解を決定することによって推定することができる。式は、複数の測定からもたらされる信号を、カーネルと確率分布の積と関係づけることができる。
【0024】
核緩和特性及び拡散特性は、確率分布を使用して推定することができる。
抽出した情報の核緩和特性は、横緩和率及び/又は縦緩和率の推定を含むことができる。抽出した情報は、試料の各構成成分について、横緩和率及び/又は縦緩和率のそれぞれの推定を含むことができる。
【0025】
抽出した情報の拡散特性は、等方拡散性の推定を含むことができる。抽出した情報の拡散特性は、試料の各構成成分について、等方拡散性のそれぞれの推定を含むことができる。
【0026】
抽出した情報の拡散特性は、異方拡散性の推定を含むことができる。抽出した情報の拡散特性は、試料の各構成成分について、異方拡散性のそれぞれの推定を含むことができる。
【0027】
抽出した情報の拡散特性は、試料における構成成分についての拡散を表す拡散テンソルDの方位の推定を含むことができる。抽出した情報の拡散特性は、試料の各構成成分について、構成成分についての拡散を表す拡散テンソルDの方位のそれぞれの推定を含むことができる。
【0028】
抽出した情報の拡散特性は、試料における構成成分についての拡散を表す拡散テンソルDの要素の推定を含むことができる。抽出した情報の拡散特性は、試料中の各構成成分について、構成成分についての拡散を表す拡散テンソルDの要素の推定を含むことができる。
【0029】
1つの実施形態によれば、各測定の符号化シーケンスの少なくとも1部は、試料中の流れに起因する磁気共鳴信号の位相ばらつきをさらに符号化するように適合される。
方法は、流れの特性を含む試料に関する情報を抽出する工程をさらに含むことができる。
【0030】
抽出した情報の核緩和特性、拡散特性及び/又は流れの特性は、試料のMRI画像中にコントラストを生成するのに使用することができる。
上記ならびに本発明の概念のさらなる目的、特徴、及び利点は、添付図面を参照し、本発明の概念の好適な実施形態の、以下の例示的で非限定的な詳細な記載を通して、よりよく理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】NMR測定シーケンスの例を概略的に示す図。
図2a】試料に関する情報を抽出するために使用できる取得プロトコルの例を示す図。
図2b】試料に関する情報を抽出するために使用できる取得プロトコルの例を示す図。
図2c】試料に関する情報を抽出するために使用できる取得プロトコルの例を示す図。
図2d】試料に関する情報を抽出するために使用できる取得プロトコルの例を示す図。
図3a】試料及び関連する実験結果に関する情報を抽出するために使用できるランダム取得プロトコルの例を示す図。
図3b】試料及び関連する実験結果に関する情報を抽出するために使用できるランダム取得プロトコルの例を示す図。
図3c】試料及び関連する実験結果に関する情報を抽出するために使用できるランダム取得プロトコルの例を示す図。
図4】試料に関する情報を抽出する方法のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(好適な実施形態の詳細な記載)
本発明の概念の理解を促進するために、ここで、いくつかの理論上の概念の議論を、図面を参照して提供することとする。
【0033】
(理論)
緩和及び拡散NMR実験は、通常、図1a中の一般的パルス・シーケンス及び図1b中の具体的な実装で描かれるような、信号検出を有するブロックの前の、緩和及び拡散符号化を有するブロックを含むパルス・シーケンスで実施される。したがって、図1aは、緩和率及び拡散テンソルの値にしたがってNMR信号を変調する「符号化ブロック」と、(たとえば、スペクトル又は画像として)NMR信号が読み出される「検出ブロック」とを示す。図1bは、90°及び180°の無線周波数パルス(細い縦線及び太い縦線)、3つの直交方向の変調した勾配(実線、破線、及び点線)、及び検出信号(太い実線)を有するNMRパルス・シーケンスを描く。以下で詳細に記載されるように、信号は、それぞれ、[1-exp(-τ)]、exp(-τ)、及びexp(-b:D)という係数の、縦復元、横緩和、及び拡散によって変調される。
【0034】
複素横方向磁化mxyがゼロに等しい初期状態から開始し、第1の90°RFパルスが、縦方向磁化mを横平面へと反転させる。継続時間τを有する時間遅延の期間に、縦方向磁化は、縦緩和率Rで、熱平衡値mへと復元する。第2の90°パルスが、復元した磁化を横平面へと反転させ、そこで、磁化は、時間期間τの間、横緩和率Rでゼロへと減衰し、その後検出される。τの期間の間に、時間依存性磁場勾配、G(t)=[G(t)G(t)G(t)]が印可される。均質で異方性の媒体では、局所磁化密度の発展は、ブロッホ-トーリー(Bloch-Torrey)の式により与えられる27、1、2
【0035】
【数3】
【0036】
及び
【0037】
【数4】
【0038】
式(1)及び(2)では、Dは拡散テンソルである。検出期間の開始時点の磁化は、式(1)と(2)を積分することによって得ることができ、次式となる。
【0039】
【数5】
【0040】
式(3)の微分では、拡散に加えて、移動符号化勾配の印可にわたって一定を保つ速度vで分子が流れることが仮定されている(コヒーレントな流れ)。並進移動についての符号化は、速度符号化ベクトルaと拡散符号化テンソルbへと分割される24。b:Dという表記は、一般化したスカラー積を意味し、これは、明示的に下記のように書かれる1、2
【0041】
【数6】
【0042】
上式で、i、j∈{x、y、z}である。テンソルbは、下記の積分によって与えられる。
【0043】
【数7】
【0044】
上式で、q(t)は、下記の時間依存性脱相ベクトルである。
【0045】
【数8】
【0046】
また、tは、エコー形成の時間である。すなわち、ここで、q(t)=0である。ベクトルaは、次式にしたがう勾配の第1のモーメントと等しい。
【0047】
【数9】
【0048】
検出信号Sは、次式の体積積分に比例する。
【0049】
【数10】
【0050】
巨視的に不均一な試料の体積では、信号は、縦緩和係数(
【0051】
【数11】
【0052】
)、横緩和係数(
【0053】
【数12】
【0054】
)、及び並進移動係数(T)の集合平均として書くことができる。
【0055】
【数13】
【0056】
上式でSは、実験が、上で述べた緩和及び並進移動効果の影響を受けずに行われる場合に得られることになる信号である。信号は、次式として明示的に書くことができる。
【0057】
【数14】
【0058】
上式で、<・>は、R、R、D、及びvの明瞭な値を有する微視的環境にわたる集合平均を意味する。初期強度Sは、τ=∞、τ=0、ならびにb及びaのすべての要素がゼロに等しいときに得られる信号である。多次元確率分布Pに関して、信号は次式で表すことができる。
【0059】
【数15】
【0060】
これは、次式により与えられるカーネルK(…)が、11次元(11D)確率分布P(R、R2、11、D12、D13、D22、D23、D33、v、v、v)を11D信号にマッピングする積分変換である。
【0061】
【数16】
【0062】
速度符号化ベクトルa及び拡散符号化テンソルbの要素を変えることによって、3つの独立な速度成分及び6つの独立な拡散テンソル成分を測定できることに留意されたい。拡散テンソル・サイズ、形、方位、流速、ならびに縦緩和率及び横緩和率についての混交状態にされた情報は、本発明の方法にしたがって、取得パラメータを制御すること及び上の多次元信号Sを取得することによって混交状態を解くことができるという事実を、式(11)及び(11’)は反映している。空間的又は時間的なインコヒーレントな流れの効果、イントラ・ボクセル・インコヒーレント運動(IVIM:intra voxel incoherent motion)は、上の拡散テンソル成分中で考慮されていることに留意されたい(式(11)及び(11’)を参照)。パルス・シーケンス(図1)は、実験者がカーネル(11’)中の取得パラメータを制御するように変調される。
【0063】
bテンソルの主軸系では、固有値bXX、bYY、及びbZZが対角上に位置し、一方、対角以外のすべての要素はゼロである。
【0064】
【数17】
【0065】
簡単にするために、以下の分析では、bとDの両方が軸対称である特定の場合に当てはまる。bテンソルが軸対称であるとき、bXX=bYYであり、次式のように書くことができる。
【0066】
【数18】
【0067】
上式で、b||=bZZ、及びb=bXX=bYYは、それぞれ、軸固有値及び径固有値である。従来の拡散方法がただ1つの非ゼロの固有値を有するbテンソルに基づく一方で、微視的拡散異方性を調べるための最近の方法は、拡散テンソルの大きさ、形、及び方位に関する情報で信号を符号化するために、いくつかの非ゼロの固有値のばらつきに依拠する18~20、28、24、21、22、17。テンソルbが軸対称であるとき、トレースb、異方性bΔ、及び方位(Θ、Φ)でパラメータ化することができる24。b及びbΔの値は、
【0068】
【数19】
【0069】
及び
【0070】
【数20】
【0071】
によって、軸固有値b||及び径固有値bによって与えられる。
ステイスカル-タナー(Stejskal-Tanner)パルス・シーケンスに基づく拡散NMR及びMRI方法は、値bΔ=1に限られ、b||が唯一の非ゼロの固有値であることを意味する。等方性拡散符号化29、18は、bΔ=0と等価であり、すべての固有値が非ゼロで等しく、b||=bであることを意味する。
【0072】
式(14)及び(15)と類似して、軸対称の拡散テンソルは、等方性平均Diso、異方性DΔ、及び方位(θ、φ)でパラメータ化することができ、これは、
【0073】
【数21】
【0074】
及び
【0075】
【数22】
【0076】
によって軸固有値D||及び径固有値Dと関係づけられる24
このパラメータ化で、式(10)中のテンソル・スカラー積は、次式のように好都合に表すことができる。
【0077】
【数23】
【0078】
上式で、βは、bテンソルとDテンソルの主対称軸間の角度である。基本的な3角法によって、次式を示すことができる。
【0079】
【数24】
【0080】
式(18)中のbの後の係数は、有効拡散係数Dとして解釈することができ、これは、次式として明示的に書くことができる。
【0081】
【数25】
【0082】
式(20)から、bΔ=1で、従来のステイスカル-タナー(Stejskal-Tanner)方法で測定された拡散性は、bテンソルとDテンソルの性質の自明でない組合せであることが明らかである。
【0083】
コヒーレントな流れがないこと、v=0、及びbとDの両方が軸対称であることを仮定すると、式(10)は、次式のように書き直すことができる。
【0084】
【数26】
【0085】
これは、次式により与えられるカーネルK(…)が、6次元(6D)確率分布P(R、R、Diso、DΔ、θ、φ)を6D信号S(τ、τ、b、bΔ、Θ、Φ)にマッピングする積分変換である。
【0086】
【数27】
【0087】
式(21)及び(22)は、拡散テンソル・サイズ、形、方位、ならびに縦緩和率及び横緩和率についての混交状態にされた情報を反映している。本発明の方法にしたがって、この情報は、取得パラメータを制御すること及び上の多次元信号Sを取得することによって混交状態を解くことができる。空間的又は時間的なインコヒーレントな流れの効果は、拡散テンソル中に含まれていることに留意されたい。パルス・シーケンス(図1)は、実験者がカーネル(22)中の取得パラメータを制御するように変調される。
【0088】
拡散は、次式で正規化される。
【0089】
【数28】
【0090】
拡散に関する情報は、(τ、τ、b、bΔ、Θ、Φ)の関数としての信号を取得すること、及び式(21)を反転することによって得ることができる。データ分析のために、式(21)を次式のように行列形式へと書き直すことができる。
【0091】
【数29】
【0092】
上式で、sは、(τ、τ、b、bΔ、Θ、Φ)のN個の異なる組合せについて取得された信号のベクトルであり、pは、M個の離散した構成成分(R,、R、Diso、DΔ、θ、φ)の大きさのベクトルであり、Kは、式(22)により与えられる要素を有するM×N行列である。
【0093】
Δ=0のとき、式(18)は次式へと単純化される。
【0094】
【数30】
【0095】
これは、拡散テンソル異方性DΔ及び方位(θ、φ)とは独立である24。この場合、式(21)は、次式へと簡略化することができる。
【0096】
【数31】
【0097】
カーネルK(…)はここで次式で与えられる。
【0098】
【数32】
【0099】
また上式で、P(R、R、Diso)は、値R、R、及びDisoを有する拡散テンソル成分を見つける3D確率分布である。
(取得プロトコル)
上記に鑑みて、例示的な連続測定は、1つではなくbΔでの測定、ならびに、1つより多くの値での時間期間τとτのうちの少なくとも一方のサンプリング、それによって、拡散成分の等方的に平均化した拡散性、拡散異方性、及び核緩和ならびにそれらの相関関係に関する情報を与えることを含むことができる。そのようなプロトコルの例が図2に表示される。一般的に、パルス・シーケンスは、(式(22)により与えられる)カーネル中の取得パラメータを制御できるように変えられる。図では、サンプリングされたデータ点が、縦復元時間τ、横脱相時間τ、bテンソルの大きさb、bテンソルの異方性bΔ、及びbテンソルの方位(Θ、Φ)といった次元を有する6D取得空間の、すべての可能な2D投影にプロットされる。図2aは、横緩和率R、等方拡散性Diso、拡散テンソル異方性DΔ、及び拡散テンソル方位(θ、φ)の5D相関関係の推定を可能にする。図2bは、縦緩和率R、等方拡散性Diso、拡散テンソル異方性DΔ、及び拡散テンソル方位(θ、φ)の5D相関関係の推定を可能にする。図2cは、縦緩和率R、横緩和率R、等方拡散性Diso、拡散テンソル異方性DΔ、及び拡散テンソル方位(θ、φ)の6D相関関係の推定を可能にする。図2dは図2cと同様であるが、6D取得空間の擬似ランダム・サンプリングを行う。図2a及び図2b中に示される例は、それぞれ、拡散テンソル・パラメータ(Diso、DΔ、θ、φ)と緩和率R又はRとの間の相関関係の推定を可能にする一方、図2c及び図2d中のサンプリング方式は、(Diso、DΔ、θ、φ)と、緩和率R及びRの両方との間の相関関係の推定を可能にする。6D取得空間(τ、τ、b、bΔ、Θ、Φ)は、図1b中のパルス・シーケンスでサンプリングすることができる。他のオプションとしては、bΔ次元の連続サンプリングを可能にするため、トップガード(Topgaard)17により導入され、エリクソン(Eriksson)ら24によりさらに修正されたパルス・シーケンスが挙げられる。最初の90°パルス及びその後の復元遅延τをこのエリクソン(Eriksson)らのシーケンスに加えることによって、完全な6D取得空間がアクセス可能になる。これらの異なるプロトコルは異なるシナリオでの利益を提供することができるが、全体的な発明の概念の基盤となる発明のアイデアでは、取得パラメータ空間の探査を可能にする任意のパルス・シーケンスを使用できることに留意されたい。好ましくは、実験の測定間で、取得パラメータ/変数(τ、τ、b、bΔ、Θ、Φ)のばらつきを可能にするパルス・シーケンスを使用することができる。
【0100】
異方性bΔがbΔ=1に限られる場合、DΔが非ゼロでありθ及びφの値がわからないときに曖昧な結果が得られることが、式(20)からわかる。Disoが興味がある主なパラメータである場合、式(20)の第2の項がゼロになり、したがって拡散テンソル異方性及び方位の効果が信号Sからなくなることになる、bΔ=0で測定を実行するのが有益である。本発明の方法のより一般的な実装形態を含む式(11)及び式(11’)によれば、軸対称性及び研究室の基準系における方位がないテンソルを含む拡散テンソルDのすべての要素に関する情報、流速、縦緩和、及び横緩和に関する情報を、混交状態を解いて相関させることができる。
【0101】
(実験例)
以下では、原理証明実験の例、ならびにその結果を記載することになる。
(試料準備)
10mlの小ビンの中で、ナトリウム1,4-ビス(2-エチルヘキソキシ)-1,4-ジオキソブタン-2-スルホネート(38wt%)と2,2,4-トリメチルペンタン(14wt%)と水(48wt%)を混合することによって、逆6方晶リオトロピック液晶が調製された。混合物を均質にするための広範囲にわたる手作業での混合及び遠心分離の後、0.5mlが5mmNMRチューブに移された。逆6方晶相は、25℃で熱力学的に安定であり31、温度を上げると逆ミセル相へと溶解する。試料は、逆6方晶と逆ミセル相が共存する29℃で調べられた。
【0102】
(NMRデータ取得)
NMR実験は、500.13MHz H共鳴周波数で動作するBruker AVII-500スペクトロメータ上で実施された。スペクトロメータは、3つの直交方向に、大きさ3T/mを有する磁場勾配を送出することが可能なMIC-5マイクロイメージング・プローブを装着した11.7Tのウルトラシールドした磁石を装備する。液晶試料は、トップガード(Topgaard)17により導入され、ここでは、上述の理論セクションで記載されたような、変数(τ、τ、b、bΔ、Θ、Φ)のすべてを用いた信号符号化を可能にする、3重刺激エコー・パルス・シーケンスの変調バージョンで調べられた。図2dに描かれるような、ランダム・サンプリングの手法を使用して、6D取得空間の1024点を選択した。取得変数の実際の値は、図3a~図3bに示される。パルス・シーケンス・ブロックの後に緩和及び拡散符号化が続き、信号は、自由誘導減衰(FID:free induction decay)として検出され、フーリエ変換して高解像度NMRスペクトルが得られた。水共鳴線は、さらなる分析のために組み込まれて記録された。
【0103】
(データ分析及び視覚化)
6D分布は、非負最小自乗(NNLS:non negative least squares)法34を使用した、式(21)の数値的逆積分変換によって推定された。
【0104】
6次元(6D)確率分布P(R、R、Diso、DΔ、θ、φ)の離散した構成成分を可視化するために、構成成分は、ガウス・カーネルと畳み込まれ、グリッドにマッピングされた。D||/Dの選択された構成成分を使用して、方位分布関数(ODF:orientation distribution function)、P(θ、φ)を計算し、これが、P(θ、φ)の方向依存値によってスケーリングされた半径で球状のメッシュとして表示された。
【0105】
速度符号化ならびに式(11)及び式(11’)にしたがうすべての拡散テンソル要素についての符号化を含むとき、同様の手順を使用することができる。
図3(c)中の結果を得るための例)
6D分布P(R、R、Diso、DΔ、θ、φ)は、以下のようなブートストラップ手順で推定された。
1)N=1024のカラム・ベクトルとして、信号S及び取得変数(τ、τ、b、bΔ、Θ、Φ)を構成する。
2)置換とランダム・サンプリングを使用して、取得したデータ点の完全な組から、信号ベクトルsの「ブートストラップ・リサンプル」33を作る。
3)-1≦log(R)≦1、-0.3≦log(R)≦2.7、-11≦log(D||)≦-8.3、-11≦log(D)≦-8.3、-1≦cos(θ)≦1、及び0≦φ≦2πという制限内で、6D[log(R)、log(R)、log(D||)、log(D)、cos(θ)、φ]空間中のランダムな点を選択することにより、M=500の「構成成分」を作る。
4)log(R)、log(R)、log(D||)、log(D)、及びcos(θ)をR、R、D||、D、及びθに変換する。
5)式(16)及び式(17)で、D||及びDをDiso及びDΔに変換する。
6)M個の要素(R、R、Diso、DΔ、θ、φ)及びN個の要素(τ、τ、b、bΔ、Θ、Φ)を有するベクトルをM×N行列へと展開する。
7)(R、R、Diso、DΔ、θ、φ)及び(τ、τ、b、bΔ、Θ、Φ)行列を式(22)に代入することによって、カーネルKでM×N行列を計算する。
8)NNLS方法を使用して、M=500のカラム・ベクトルpについて式(24)を解く。(非限定の例として、Matlab R201532のIsqnonnegルーチンを使用することができる34。)
9)ベクトルp中の非ゼロの値を有する構成成分を選択し、他の値を破棄する。
10)(R、R、D||、D)の値に0.9と1.1の間のランダムな数を乗算すること、及び角度(θ、φ)に-2°と+2°の間のランダムな数を加算することによって、工程9)からの構成成分を「変異」させる。
11)工程3)を繰り返す。
12)工程11)からの構成成分を、工程9)からの非ゼロの構成成分及び工程10)での変異した構成成分で置換する。
13)工程4)~工程12)を10回繰り返し、得られたベクトルpを記憶する。
14)工程2)~工程13)を10回繰り返し、10個のベクトルpの組を作る。
15)10個のベクトルp中の非ゼロの大きさを有する構成成分を選択する。
16)工程15)からの離散した構成成分の、log(R)、log(R)、log(Diso)、及びlog(D||/D)空間中の100×100の矩形グリッドへのガウス畳み込みによって、P(R、R、Diso、DΔ)の、すべての可能な1D及び2D投影を計算する。
17)等高線プロット及びトレースとして、2D及び1D分布を表示する。
18)D||/D>10で構成成分を選択する。
19)10個のノードでの、工程19)からの離散した構成成分の球状のメッシュへのガウス畳み込みによって、方位分布関数P(θ、φ)を計算する。
20)P(θ、φ)の対応する値によってスケーリングされた各メッシュ点についての半径を有する球状のメッシュとして分布P(θ、φ)を表示する。
【0106】
(結果)
図3a~図3bは、取得数の関数としての、信号Sならびにτ、τ、b、bΔ、Θ、及びΦの値としての取得プロトコルを示す。推定される分布P(R、R、Diso、DΔ、θ、φ)の投影が図3cに表示される。図は、パラメータR、R、Diso、及びD||/Dの各対についての2D投影(等高線プロット)ならびに1D投影(トレース)を示す。分布及び残差(S-Sfit)から計算された信号Sfit図3aにプロットされる。(S-Sfit)の値は、τ=∞、τ=0、及びb=0で取得したデータ点についての信号対雑音比を示す。調べた試料は逆ミセル相及び逆6方晶相を含むために、逆ミセルからの1つの等方性成分と1に近いDΔの値を有する1つの成分といった、拡散異方性の明瞭な値を有する2つの水成分が予想される。P(R)、P(R)、P(Diso)、及びP(D||/D)といった1D投影で開始すると、2つの構成成分は、R次元及びD||/D次元でのみ分解することができる一方、それらは、R次元及びDiso次元では区別できないことがわかる。ピーク幅は、適合不確実性からの寄与を含み、ブートストラップ・リサンプルの各々からの構成成分のわずかに異なる位置を生じさせる。R次元における解像によって、2D投影P(R、Diso)中のDisoのわずかな差異を検出し、両方の構成成分が、2D投影P(R、R)において同一のRを有することを検証することが可能になる。図3cへの代入で、P(θ、φ)の方向依存値によってスケーリングされた半径を有する球状のメッシュとして、log(D||/D)>1を有する構成成分についての、2D方位分布関数(ODF:orientation distribution function)P(θ、φ)を示す。関数は、逆6方晶相の晶子が、主要磁場と一致する、研究室基準系のz方向に整合されることを示す。
【0107】
(実施形態の記載)
図4は、試料に関する情報を抽出する方法の一般的なフローチャートを描く。試料は、たとえば、脳組織又は任意の臓器の細胞の(懸濁液)の生体検査試料など、水を含む生物学的試料であってよい。より一般的には、試料は、その性質を磁気共鳴技法によって測定できる核スピン系を含む。
【0108】
方法は、現況技術のNMRスペクトロメータ又はMRIデバイスを使用して実施することができる。当技術分野でよく知られているように、そのようなデバイスは、デバイスの動作、とりわけ、磁気勾配パルス・シーケンスの生成、信号の取得、ならびに取得した信号を表すデータを形成するため測定信号をサンプリング及びデジタル化することを制御するための1つ以上のプロセッサを含むことができる。緩和符号化シーケンス及び拡散符号化磁気勾配パルス・シーケンスの生成は、コンピュータ可読媒体(たとえば、非一時的コンピュータ可読記憶媒体)に記憶されて、デバイスの1つ以上のプロセッサによって実行することができるソフトウェア命令を使用して実施することができる。ソフトウェア命令は、たとえば、デバイスの1つ以上のプロセッサがアクセスするデバイスのメモリのプログラム/制御セクションに記憶することができる。測定値を表す集めたデータは、デバイスの、又はデバイスに接続できるコンピュータなどのデータ・メモリに記憶することができる。
【0109】
方法の部分をなす、情報抽出及び計算は、処理デバイスによって実施することができる。動作は、非一時的コンピュータ可読媒体上に記憶又は具体化され、処理デバイスが実行できるソフトウェア命令の組に実装することができる。たとえば、ソフトウェア命令を、NMRスペクトロメータ/MRIデバイスのメモリのプログラム/制御セクションに記憶して、スペクトロメータ/デバイスの1つ以上のプロセッサ・ユニットが実行することができる。しかし、NMRスペクトロメータ又はMRIデバイスとは別個のデバイス、たとえばコンピュータ上で計算を実行することが等しく可能である。デバイス及びコンピュータは、たとえば、LAN/WLANなどの通信ネットワーク、又は何らかの他のシリアルもしくはパラレル通信インターフェースを介して通信するように構成することができる。ソフトウェア命令を使用する代わりに、方法の動作は、いくつかの例を挙げると、1つ以上の集積回路、1つ以上の特定用途向け集積回路(ASIC)、又はフィールド・プログラム可能ゲート・アレイ(FPGA)などで、デバイス/コンピュータの専用回路の形で処理デバイス中に実装できることにさらに留意されたい。
【0110】
図4を参照すると、方法は、試料上で複数の磁気共鳴測定を実施する工程を含む(工程402-1~工程402-n)。各測定は、試料(すなわち、試料の核スピン系)を符号化シーケンス又は符号化ブロックにかける工程を含む。各測定の符号化シーケンスの少なくとも1部は、試料内の核緩和と拡散の両方に起因する、磁気共鳴信号減衰Sを符号化するように適合される。複数の測定は、測定が順に1つずつ実施されるシーケンスで実施することができる。
【0111】
各測定の符号化シーケンスは、試料中の特定の緩和感度を符号化するRF信号シーケンスを含む。各測定の符号化シーケンスは、試料中の拡散符号化を提供する勾配パルス・シーケンスをさらに含む。前に議論した図1は、RF信号シーケンス及び勾配パルス・シーケンスを含む符号化ブロックの1つの可能な例を描く。しかし、他のタイプの符号化ブロックが、等しく可能である。
【0112】
一般的に、スピン・エコー符号化と刺激エコー符号化の両方を使用することができる。両方の場合で、RF信号シーケンスは、縦緩和だけ、横緩和だけ、又は縦緩和と横緩和の両方に起因する減衰について符号化することができる。1つの例示のシーケンスは、単一の90°パルス及び単一の180°パルスを含むことができる。180°パルスに対する勾配パルス・シーケンスのタイミングを変えることができる。たとえば、勾配パルス・シーケンスは、180°パルスの前、又は後に実施することができる。いくつかのそのようなシーケンスを、取得/検出の前に繰り返すことができる。刺激エコー・シーケンスの例では、第1の90°パルス、第2の90°パルス、及び第3の90°パルスを含むことができる。勾配パルス・シーケンスは、第1の90°パルスと第2の90°パルスの間、及び/又は第3の90°パルスの後に(すなわち、検出ブロックの前に)実施することができる。これらの例示のシーケンスは、しかし、単に説明のための例として提供されており、他のシーケンスも可能である。
【0113】
横緩和及び/又は縦緩和に起因する異なるレベルの信号減衰を符号化するのは、RF信号シーケンスのRFパルスの相対的なタイミングを変えることによって達成することができる。たとえば、図1に示される例示的なシーケンスでは、測定の少なくとも1つの部分集合の間でτを変えることによって、横緩和に起因する異なる減衰を達成することができる。測定の少なくとも部分集合のうちでτを変えることによって、縦緩和に起因する異なる減衰を達成することができる。
【0114】
複数の測定のうちの各測定が、緩和感度符号化及び拡散符号化のそれぞれの組合せを提供する符号化ブロックを含むことができる。緩和感度を制御する符号化ブロック及び各測定の拡散符号化のパラメータを、取得パラメータの組ということができる。図2を参照すると、各組合せ又は組は、描かれた取得空間中の特定の点に対応することができる。したがって、複数の測定のうちの第1(又はi番目)の測定は、核緩和及び第1(又はi番目)の拡散符号化に起因する、第1(又はi番目)のレベルの信号減衰を提供する符号化シーケンスを含むことができる。複数の測定のうちの第2(又はi+1番目)の測定は、核緩和及び第2(又はi+1番目)の拡散符号化に起因する、第2(又はi+1番目)のレベルの信号減衰を提供する符号化シーケンスを含むことができる。核緩和に起因する第2(又はi+1番目)のレベルの信号減衰は、核緩和に起因する第1(又はi番目)のレベルの信号減衰と異なる場合があり、又は等しい場合がある。第2(又はi+1番目)の拡散符号化は、第1(又はi番目)の拡散符号化と異なる場合があり、又は等しい場合がある。測定は、たとえば、各連続した測定について、1つのパラメータが測定間で変えられ、他のパラメータが固定のままとなる、連続測定の組を実施することによって、秩序だったやり方で取得することができる。上記の実験例セクションで開示したように、興味のある取得空間内でパラメータの組合せをランダムに選択して、測定を実施することも可能である。
【0115】
複数の測定のうちの少なくとも1つは、1つより多くの非ゼロの固有値を有する拡散符号化テンソル表記bを有する勾配パルス・シーケンスを含む符号化ブロックを含む。複数の測定のうちの少なくとも1つの、各々1つの勾配パルス・シーケンスは、3つの直交方向に、変調した磁場勾配を含む。理論セクションからわかるように、このことによって、2次元以上で(すなわち、幾何学的垂直軸に沿って)、(3つの非ゼロで等しい固有値を有するbテンソルを意味する)試料中の等方性拡散符号化、又は試料中の異方性拡散符号化が可能になる。
【0116】
1つより多くの非ゼロの固有値を有する拡散符号化テンソル表記bを有する勾配パルス・シーケンスを含む少なくとも1つの測定以外の測定は、等方性拡散、異方性拡散を符号化するための勾配パルス・シーケンス、及び/又は1次元拡散符号化を提供するための勾配パルス・シーケンス(すなわち、「スティック」拡散符号化シーケンス)を含むことができる。有利には、複数の測定のうちの1つより多くが、1つより多くの非ゼロの固有値を有するそれぞれの符号化テンソル表記bを有する勾配パルス・シーケンスを含むことができる。それによって、1つより多くの測定についての試料で、異なる程度の等方性拡散符号化ならびに/又は異なる程度及び/もしくは方位の異方性拡散符号化を得ることができる。
【0117】
本方法によれば、試料における異なる拡散符号化を提供するために、勾配パルス・シーケンスの少なくとも1つのパラメータが、複数の測定のうちの少なくとも部分集合のうちで変えられる。たとえば、試料の異なる方向における拡散を符号化するために、勾配パルス・シーケンスの方位を測定間で変えることができる。上記の理論セクション及び実験例セクションを参照すると、勾配パルス・シーケンスの少なくとも1つのパラメータは、複数の測定のうちの1つの部分集合の間で変えることができる、パラメータΘ及び/又はΦを含むことができる。
【0118】
拡散に起因する異なるレベルの信号減衰を符号化するために、勾配パルス・シーケンスの少なくとも1つのパラメータを測定間で変えることができる。たとえば、勾配の最大の大きさ、及び/又は勾配パルス・シーケンスの変調を、測定間で変えることができる。上記の理論セクション及び実験例セクションを参照すると、勾配パルス・シーケンスの少なくとも1つのパラメータは、パラメータb及び/又はbΔを含むことができる。
【0119】
各測定402-1、…、402-nが検出ブロックを含むことができ(図1参照)、ここで、符号化シーケンスの後のエコー減衰信号を記録することができる。複数の測定からもたらされる信号をデータとして記録することができる。データは、さらなるデータ処理のために記憶することができる。データは、たとえば、デバイスの、又はデバイスに接続できるコンピュータなどのデータ・メモリに記憶することができる。上記の理論セクション及び実験例セクションを参照すると、データを信号ベクトルs中に記録することができる。
【0120】
方法の工程404では、複数の磁気共鳴測定402-1、…、402-nからもたらされる信号から、試料に関する情報が抽出される。工程404で抽出した情報は、試料についての核緩和特性及び拡散特性を含む。試料における核緩和特性及び拡散特性の特定の組合せを見つける確率を示す確率分布を推定することができる。
【0121】
確率分布は、複数の測定からもたらされるエコー信号とカーネル及び確率分布に関係する式に基づいて推定することができ、カーネルの構成成分は、取得パラメータ及び拡散特性又は緩和特性に基づく。式及びカーネルは、たとえば、理論セクション中に提示される式11及び式11’、又は式21及び式22によって得ることができる。処理デバイスは、たとえば、式11又は式21の数値的逆積分変換を実施することによって、確率分布を推定するための数値アルゴリズムを実施することができる。
【0122】
確率分布は、試料の拡散成分の核緩和特性及び拡散特性に関する情報を提供する。たとえば、核緩和特性及び拡散特性の特定の組合せは、この特定の組合せについてのかなりの確率(たとえば、所定の閾値確率を超える確率)を確率分布が示す場合、試料中に存在すると決定することができる。
【0123】
抽出した情報(確率分布及び/又は試料中に存在すると決定された核緩和特性と拡散特性の1つもしくは複数の組合せなど)を表すデータを、処理デバイスが出力して、データ・メモリ中に記憶することができる。上記の理論セクション及び実験例セクションを参照すると、核緩和特性は、試料中の各構成成分についての、横緩和率R及び/又は縦緩和率Rの推定を含むことができる。
【0124】
抽出した情報の拡散特性は、試料中の各構成成分について、等方拡散性の推定を含むことができる。等方拡散性の推定は、たとえば、理論セクションで規定されたようなパラメータDisoによって定量化することができる。
【0125】
抽出した情報の拡散特性は、試料中の各構成成分について、異方拡散性の推定を含むことができる。異方拡散性の推定は、たとえば、理論セクションで式で規定されたようなDΔによって定量化することができる。
【0126】
抽出した情報の拡散特性は、試料における各構成成分についての拡散を表す拡散テンソルDの方位の推定を含むことができる。方位は、たとえば、理論セクションで規定されたようなθ、φによって定量化することができる。
【0127】
抽出した情報の拡散特性は、試料における各構成成分についての拡散を表す拡散テンソルDの要素又は構成成分の推定を含むことができる。拡散テンソルDの要素は、理論セクションで規定されたようなD11、D12、D13、D22、D23、D33を含むことができる。
【0128】
本方法によれば、各測定の符号化シーケンスの少なくとも1部は、試料中の流れに起因する磁気共鳴信号の位相ばらつきを符号化するようにさらに適合される。流れの感度は、理論セクション中の式7で規定されたような、速度符号化ベクトルaを制御することによって符号化することができる。たとえば、複数の測定402-1、…、402-nのうちの少なくとも1つの部分集合の測定の間で、速度符号化ベクトルaを変えることができる。したがって、方法は、流れの特性に関する情報を抽出する工程をさらに含むことができる。
【0129】
上記では、本発明の概念は、主に、限られた数の例を参照して記載されてきた。しかし、当業者ならば容易に理解するように、添付の請求項により規定されるような本発明の概念の範囲内で、上記のもの以外の他の例が等しく可能である。たとえば、図4に関して議論した方法をNMR方法として実施することができ、測定信号は、試料の特性の分布を反映する。方法は、代わりに、MRI方法の一部として実施することができる。その場合、それ自体が当技術分野で知られている方法で、空間符号化を試料に適用することができる。それによって、信号Sを、試料の各ピクセル/ボクセルについて取得することができ、上で議論した核緩和特性及び拡散特性を含む情報を、ピクセル/ボクセル・ベースで抽出することができる。したがって、抽出した情報を使用して、MRI画像でコントラストを生成することができる。
【0130】
<参考資料のリスト>
上記の開示において、上付で示した1つ以上の番号は、以下の参考資料のリストの対応する番号で表示した文書を引用する。
【0131】
【表1】
図1
図2a
図2b
図2c
図2d
図3a
図3b
図3c
図4