(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-14
(45)【発行日】2023-02-22
(54)【発明の名称】定温養生装置及び車両
(51)【国際特許分類】
E02D 1/04 20060101AFI20230215BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20230215BHJP
E02D 5/34 20060101ALI20230215BHJP
【FI】
E02D1/04
G01N1/28 E
E02D5/34 Z
(21)【出願番号】P 2018139603
(22)【出願日】2018-07-25
【審査請求日】2021-05-21
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515277300
【氏名又は名称】ジャパンパイル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【氏名又は名称】飯野 茂
(72)【発明者】
【氏名】細田 光美
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3006334(JP,U)
【文献】実開平05-043070(JP,U)
【文献】特開2004-042870(JP,A)
【文献】特開2011-027422(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103101109(CN,A)
【文献】特開2018-052546(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 1/04
G01N 1/28
E02D 5/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
仕切壁により、液密に仕切られた2槽を有し、それぞれ流体を収容する保温槽と、
この保温槽の各槽それぞれの側壁面、底板、及び前記仕切壁に設けられた面状の発熱体と、
前記保温槽内にセメントを含む供試体を保持する保持部と、
前記保温槽の各槽それぞれの中央部に配置され前記流体の温度を測定する温度センサと、
この温度センサの出力値に基づいて、前記発熱体の温度制御を行う制御部と、を備え、
前記流体の温度を所定の温度で保持する定温養生装置。
【請求項2】
仕切壁により、液密に仕切られた2槽を有し、それぞれ流体を収容する保温槽と、
この保温槽の各槽それぞれの壁面、及び前記仕切壁に設けられた面状の発熱体と、
前記保温槽内にセメントを含む供試体を保持する保持部と、
前記保温槽の各槽それぞれに配置され前記流体の温度を測定する温度センサと、
この温度センサの出力値に基づいて、前記発熱体の温度制御を行う制御部と、を備え、
前記流体の温度を所定の温度で保持する定温養生装置。
【請求項3】
仕切壁により、液密に仕切られた2槽を有し、それぞれ流体を収容する保温槽と、
この保温槽の各槽それぞれの壁面に設けられた面状の発熱体と、
前記仕切壁として形成された面状のペルチェ素子と、
前記保温槽内にセメントを含む供試体を保持する保持部と、
前記保温槽の各槽それぞれに配置され前記流体の温度を測定する温度センサと、
この温度センサの出力値に基づいて、前記発熱体及び前記ペルチェ素子の温度制御を行う制御部と、を備え、
前記流体の温度を所定の温度で保持する定温養生装置。
【請求項4】
前記保持部は、振動防止手段を備えている、
請求項1-3のいずれか1項に記載の定温養生装置。
【請求項5】
前記保温槽は、振動防止手段を有する脚部を備えている、
請求項1-3のいずれか1項に記載の定温養生装置。
【請求項6】
前記保温槽内には前記流体を撹拌する撹拌機が設けられている、
請求項1-3のいずれか1項に記載の定温養生装置。
【請求項7】
請求項1~
請求項6のいずれか1項に記載の定温養生装置を備える車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持地盤等に形成されるソイルセメントの強度推定方法に用いられる定温養生装置及び車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
既製杭を埋設して杭基礎を構築する場合、根固め部や杭周部の強度が、杭基礎の支持力に大きな影響を与えることが知られている。この杭基礎の構築において、地盤を掘削して形成した杭穴内にセメント系固化剤を注入し、掘削土砂と攪拌混合してソイルセメントからなる根固め部や杭周部を築造していた。
【0003】
このような根固め部の強度を確認する手段として、充填物が固化した後に、地下数十mの地中まで穴を空けてボーリングによりソイルセメント等の試料を採取することがなされていた。このボーリングによる方法では、時間・費用などの面で負担が多いことから、固化前の試料から強度推定する方法が行われている(例えば、特許文献1参照。)。この方法は、未固結の試料を杭穴内から採取して供試体を作製し、地上の定温養生装置内で一定温度・湿度等の条件下で固化させる。その後、圧縮試験によって供試体の強度確認を行い、地下の根固め部の強度を推定することがなされている。この強度推定方法では、定温養生装置内で28日経過した供試体の強度、いわゆる標準養生における材令28日強度で判断する方法が採用されている。
【0004】
一方、この方法では、セメント系固化剤の注入から試験まで最低でも28日を要することから、支持地盤から採取した試料に対して、固化を促進する特殊促進養生(例えば、実際の温度よりも高温とした条件下で養生する)を施し、この特殊促進養生後の供試体に対して圧縮試験を行うことで、材令28日強度と同等の強度を短期間(例えば、1~7日間)で推定し、強度不足であればセメント系固化剤の配合比率や注入量を変更する方法が採られている。
【0005】
このような標準養生や特殊促進養生を行う場合、温度管理を行うため、様々な養生方法が開発されている(例えば、特許文献2参照。)。また、供試体を恒温槽に載置する方法も知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-73360号公報
【文献】特開2000-346768号公報
【文献】実開平5-43070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した定温養生装置には、次のような問題があった。建設現場内で携帯可能な定温養生装置なので、温度を管理する機構が簡素である。このため、所望の温度を高精度に安定させて保持することが難しかった。そして、管理された温度にばらつきがある供試体では、材令強度等を正確に評価することが難しかった。
【0008】
そこで、本発明は、供試体を所定の温度で高精度に安定させて保持することが可能な定温養生装置及び車両を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載された定温養生装置は、仕切壁により、液密に仕切られた2槽を有し、それぞれ流体を収容する保温槽と、この保温槽の各槽それぞれの側壁面、底板、及び前記仕切壁に設けられた面状の発熱体と、前記保温槽内にセメントを含む供試体を保持する保持部と、前記保温槽の各槽それぞれの中央部に設けられ前記流体の温度を測定する温度センサと、この温度センサの出力値に基づいて、前記発熱体の温度制御を行う制御部と、を備え、前記流体の温度を所定の温度で保持する。
請求項2に記載された定温養生装置は、仕切壁により、液密に仕切られた2槽を有し、それぞれ流体を収容する保温槽と、この保温槽の各槽それぞれの壁面、及び前記仕切壁に設けられた面状の発熱体と、前記保温槽内にセメントを含む供試体を保持する保持部と、前記保温槽の各槽それぞれに配置され前記流体の温度を測定する温度センサと、この温度センサの出力値に基づいて、前記発熱体の温度制御を行う制御部と、を備え、前記流体の温度を所定の温度で保持する。
請求項3に記載された定温養生装置は、仕切壁により、液密に仕切られた2槽を有し、それぞれ流体を収容する保温槽と、この保温槽の各槽それぞれの壁面に設けられた面状の発熱体と、前記仕切壁として形成された面状のペルチェ素子と、前記保温槽内にセメントを含む供試体を保持する保持部と、前記保温槽の各槽それぞれに配置され前記流体の温度を測定する温度センサと、この温度センサの出力値に基づいて、前記発熱体及び前記ペルチェ素子の温度制御を行う制御部と、を備え、前記流体の温度を所定の温度で保持する。
【0012】
上記構成により、保温槽内の流体は面状の発熱体によって均一に加熱され、且つ制御部によって流体全体の温度を一定に維持するため、ソイルセメント、セメントミルク等のセメントを含む供試体を安定した温度の環境下で養生することができる。したがって、圧縮試験時に正確な強度を発現可能な供試体を提供することができる。このため、所定日数経過後の強度評価を正確に行うことができる。また、仕切壁によって異なる養生環境を複数形成することができるため、複数の条件下で供試体を一度に養生することができる。
【0013】
請求項4に記載された定温養生装置は、前記保持部が振動防止手段を備えている。これにより、外部からの振動に対する養生への影響を最小限に抑えることができる。
【0014】
請求項5に記載された定温養生装置は、前記保温槽が振動防止手段を有する脚部を備えている。これにより、外部からの振動に対する養生への影響を最小限に抑えることができる。
【0016】
請求項6に記載された定温養生装置の前記保温槽内には前記流体を撹拌する撹拌機が設けられている。これにより、保温槽内の流体は均一化されるため、ソイルセメント、セメントミルク等のセメントを含む供試体を安定した環境下で養生することができる。このため、所定日数経過後の強度評価を正確に行うことができる。
【0017】
請求項7に記載された車両は、定温養生装置を有する。これにより、ソイルセメント又はセメントミルクの採取場所の近くで養生を開始することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、供試体を所定の温度で高精度に安定させて保持することが可能な定温養生装置及び車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る温水養生装置が用いられる強度推定を示す説明図。
【
図3】同温水養生装置が用いられる強度推定方法の手順を示す説明図。
【
図4】同温水養生装置の変形例を模式的に示す説明図。
【
図5】本発明の第2の実施の形態に係る定温養生装置を模式的に示す説明図。
【
図6】本発明の第3の実施の形態に係る温水養生装置を模式的に示す説明図。
【
図7】同温水養生装置が用いられる強度推定方法の手順を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を図示する実施形態に基づいて説明する。この実施形態は、既製杭等の根固め部におけるソイルセメントの強度推定方法に適用した例である。
図1は本発明の第1の実施の形態に係る温水養生装置10が用いられる強度推定を示す説明図、
図2は温水養生装置10を模式的に示す断面図、
図3は温水養生装置10が用いられる強度推定方法の手順を示す説明図である。なお、図中Sはソイルセメントの供試体、Lは水、Mは空気、Gは地面、Qは掘削孔、Vは車両を示している。供試体Sは、例えば、直径5cm、高さ15cm程度の管体や袋体に収容されている。
【0021】
図1中1はボーリング装置、2は延長ロッド、3は採取装置、4は一軸圧縮試験機、10は温水養生装置(定温養生装置)を示している。
【0022】
温水養生装置10は、保温槽20を備えている。保温槽20は、ゴム等の脚部21によって地面G等に載置されている。また、保温槽20は、断熱材等で形成された側壁面22、底板23、天板24が設けられている。側壁面22、底板23には面状のヒータ25が設けられている。
【0023】
保温槽20内部には、底板23上に設けられた弾性体からなる支持部27と、この供試体Sを載置するテーブル(保持部)28を備えている。テーブル28は、例えば24個の供試体Sを載置できる大きさに形成されている。
【0024】
側壁面22に設けられるヒータ25は、当該ヒータ25の下端が底板23の上面とほぼ同じ高さ位置に配置されている。また、当該ヒータ25の上端は、供試体Sの上端面よりも高い位置に配置されている。高さの異なる供試体Sを用いる場合には、最も高い供試体Sの上端面よりも高くなるように配置される。
【0025】
底板23に設けられるヒータ25は、当該ヒータ25の側壁面22側縁部がテーブル28の外周縁よりも側壁面22側に位置するように配置される。
【0026】
ヒータ25は天板24には設けられない。温められた水Lが熱の対流によって上方に移動するため、天板24付近を加熱する必要はない。
【0027】
すなわち、ヒータ25は、供試体Sが載置されるテーブル28を、上方を除いて覆うように配置されている。
【0028】
そして、ヒータ25は、水Lに接する面内において均一の温度を発現することができる。
【0029】
各ヒータ25は後述する制御部30に接続されている。天板24は開閉可能に構成されており、閉じた場合には液密に閉じることができる。保温槽20の内部には温度センサ26が設けられている。
【0030】
側壁面22に設けられるヒータ25の側方の水Lは温められると、密度が小さくなり軽くなるため上方へ移動する。上方へ移動する際に、テーブル28上の供試体Sを温める。
【0031】
また、底板23に設けられるヒータ25の上方の水Lも温められると、上方へ移動するとともに、テーブル28上の供試体Sを温める。
【0032】
底板23に設けられるヒータ25によって温められて上方へ移動した水Lは、側壁面22側からの温められた水Lと合流して、熱源の無い上部中央へ移動する。水中の上部中央には、温められた水Lが集まるために、水中の中央部には下方へ向かう流れが生じて水Lの循環、すなわち対流が生じる。
【0033】
この下方へ向かう流れが生じる位置に温度センサ26は配置されている。具体的には、テーブル28上の中央部に設けられている。
【0034】
底板23外部には各ヒータ25を制御する制御部30と、バッテリ31が設けられている。制御部30は上述した温度センサ26からの温度出力値に基づいて、ヒータ25への通電のON/OFFを行う。なお、温度制御については温度出力値の他、温度変化率に基づいて制御しても良い。
【0035】
また、所定の温度に到達したら、側壁面22側のヒータ25の通電を停止して底板23側のヒータ25のみを作動させても良いし、底板23側のヒータ25の通電を停止して側壁面22側のヒータ25のみを作動させても良い。
【0036】
制御部30は、商用電源等の外部電力に接続され、ヒータ25への電力供給や制御を行っている。また、制御部30内部にタイマや記憶部を有しており、温度変化のログを記録することができる。制御部30は、商用電源の他、発電機等に接続するようにしてもよい。また、バッテリ31に対しても電力を供給している。さらに、商用電源や発電機を一時的に使用できない場合には、バッテリ31に蓄電された電力を用いても良い。
【0037】
このように構成された温水養生装置10は、次のようにして用いる。手順については
図3に示す。まず、攪拌混合装置で現位置地盤土とセメント系固化剤とを攪拌混合する工法により根固めや地盤改良工事を行う。次に、ボーリング装置1によって、セメント系固化剤を注入した根固め部等から未固結の試料を採取する。次に、採取した未固結の試料を管体あるいは袋体に所定量注入し、供試体Sを作製する。そして、供試体Sをテーブル28上に並べる。次に水温20℃前後の水Lを注入する。そして、標準養生を開始する。なお、セメント系固化剤の注入から標準養生を開始するまでの時間は前置き養生であり、養生時間に算入する。この前置き養生は例えば2.5~3.5時間である。
【0038】
次に、水温が20℃±2℃の範囲が維持されるように制御部30によってヒータ25を制御する。ヒータ25は面状で、且つ同一面上は均一の温度を発現できるため、水Lは均等に熱せられる。また、ヒータ25を側壁面22及び底板23に設けたことにより、対流によって、保温槽20内の水温はほぼ20℃前後に均一化される。
【0039】
なお、本実施形態では、供試体Sをテーブル28に載置した後に、水Lを注入する場合について説明したが、この順番に限定されるものではなく、予め20℃前後に制御された水L内に供試体Sを載置してもよい。
【0040】
所定の時間(例えば、27日20~21時間)が経過した後、供試体Sを保温槽20から取り出し、所定の大きさ(例えば、直径5cm、高さ10cm)に切断する。そして、一軸圧縮試験機4にセットする。保温槽20内からの取り出しからの時間は後置き養生であり、養生時間に算入する。この後置き養生は例えば0.5時間である。そして、一軸圧縮試験機4を作動させて、供試体Sの強度を測定し、根固め部の強度を評価する。一軸圧縮試験はJISA1216(土の一軸圧縮試験方法)またはJISA1108(コンクリートの圧縮試験方法)に準じて行うことが好ましい。
【0041】
なお、脚部21及び支持部27にゴム等の弾性体を用いているため、外部から伝達される振動による養生への影響を最小限に抑えることができ、さらに正確な強度評価を行わせることが可能となる。
【0042】
このように本実施形態に係る温水養生装置10によれば、供試体Sを安定した環境下で養生することができるため、正確な強度評価を行わせることが可能となる。この時、制御部30において温度記録がされているため、供試体Sの養生が正しく行えている事を確認できる。また、供試体Sは水L内に浸漬されているため、供試体Sからの水分の流出を抑えることができる。更に、温度センサ26が、水中の下方へ向かう流れが生じている箇所に配置されるため、水中全体が所定温度に到達したか否かを正確に把握することができる。すなわち、下方へ向かう流れが生じている箇所の温度測定値が所定温度であれば、水中全体が所定温度であると判断することができる。
【0043】
なお、ヒータ25の代わりにペルチェ素子を用いてもよい。ペルチェ素子を用いた場合、加熱の他、冷却も可能となる。
【0044】
なお、この実施形態においては、標準養生について説明したが、特殊促進養生に用いてもよい。この場合、温度を例えば55℃±2℃、養生期間を3日に設定する。
【0045】
また、この実施形態においては、温度センサ26を保温槽20の中央部に設ける場合について説明したが、この位置に限定されるものではない。例えば、テーブル28上の複数の温度センサ26を設けてもよい。この場合、全ての温度測定値の平均値を採用することとしてもよい。
【0046】
温水養生装置10をトラック等の荷台に設置することで、温水養生機能を有する車両Vとすることも可能である。ボーリング装置1によって試料を採取する場所は各所の建設現場であり、常に一軸圧縮試験機4が設置されている試験場の近隣にあるわけではない。このため、車両Vに温水養生装置10を搭載しておけば、試料の採取場所近くで養生を開始し、一軸圧縮試験機4が設置されている試験場まで運搬して養生を終了することが可能となる。この場合、前置き養生や後置き養生の時間を正確に取ることができ、高精度な強度評価が可能となる。
【0047】
車両Vに搭載される温水養生装置10は、電源は車両Vに搭載された発電機やバッテリ等から供給するようにしてもよい。
【0048】
図4は変形例に係る温水養生装置10Aを模式的に示す説明図である。なお、
図4において、
図2と同一機能部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0049】
温水養生装置10Aには、上述した支持部27及びテーブル28の代わりに、吊り下げユニット40が設けられている。吊り下げユニット40は、ゴム等の弾性体からなる一対の支持部41と、これら一対の支持部41上にそれぞれ設けられた一対の柱体42と、これら柱体42間に掛け渡されたワイヤ43を備えている。ワイヤ43には例えば24個の供試体Sが吊り下げられている。
【0050】
このように構成された温水養生装置10Aにおいても、上述した温水養生装置10と同様の効果を得ることができると共に、供試体Sを全体にわたって水Lで覆うことができるため、供試体S内部での温度変化を最小限に抑えることができる。さらに、脚部21及び支持部41にゴム等の弾性体を用い、さらにワイヤ43によって吊り下げられているため、外部から伝達される振動を吸収することができ、養生への影響を最小限に抑え、さらに正確な強度評価を行わせることが可能となる。
【0051】
図5は本発明の第2の実施の形態に係る定温養生装置50を模式的に示す説明図である。なお、
図5において、
図2と同一機能部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0052】
定温養生装置50には、保温槽20内に水Lの代わりに、空気Mで満たされている。空気Mを用いた場合には、槽内の温度ムラが発生しやすいため、槽内の空気Mを循環させて均一化させるための循環ファン51が例えば天板24に設置されている。
【0053】
このように構成された定温養生装置50においても、上述した温水養生装置10と同様の効果を得ることができる。なお、この場合、管体あるいは袋体に供試体Sを気密封入することで乾燥を防ぐことができる。
【0054】
図6は本発明の第3の実施の形態に係る温水養生装置(定温養生装置)60を模式的に示す説明図、
図7は温水養生装置60が用いられる強度推定方法の手順を示す説明図である。
【0055】
温水養生装置60は、保温槽70を備えている。保温槽70は、上槽70A及び下槽70Bの二槽を有している。保温槽70は、ゴム等の脚部71によって地面G等に載置されている。また、保温槽70は、断熱材等で形成された側壁面72、底板73、天板74、仕切壁75が設けられている。側壁面72、底板73には面状のヒータ76が設けられている。各ヒータ76は後述する制御部80に接続されている。側壁面72及び天板74は開閉可能に構成されており、閉じた場合には液密に閉じることができる。保温槽70の内部には温度センサ77が設けられている。仕切壁75にはペルチェ素子78が設けられている。ペルチェ素子78は一方の面を冷却、他方の面を加熱するように制御部80によって制御される。
【0056】
保温槽70の上槽70Aにおいては、供試体Sが仕切壁75に設けられたテーブル79上に載置されている。保温槽70の下槽70Bにおいては、供試体Sが底板73上に設けられたテーブル79上に載置されている。
【0057】
底板73外部には各ヒータ76を制御する制御部80と、バッテリ81が設けられている。制御部80は上述した温度センサ77からの温度出力値に基づいて、ヒータ76への通電のON/OFFを行う。なお、温度制御については温度出力値の他、温度変化率に基づいて制御しても良い。
【0058】
制御部80は、商用電源等の外部電力に接続され、ヒータ76への電力供給や制御を行っている。また、制御部80内部にタイマや記憶部を有しており、温度変化のログを記録することができる。制御部80は、商用電源の他、発電機等に接続するようにしてもよい。また、制御部80は、バッテリ81に対しても商用電源の交流電流を直流電流に変換する等して充電用電力を供給している。さらに、商用電源や発電機を一時的に使用できない場合には、バッテリ81に蓄電された電力を用いることもできる。
【0059】
このように構成された温水養生装置60は、次のようにして用いる。手順については
図7に示す。まず、攪拌混合装置で現位置地盤土とセメント系固化剤とを攪拌混合する工法によりや根固めや地盤改良工事を行う。次に、ボーリング装置1によって、セメント系固化剤を注入した根固め部等から未固結の試料を採取する。次に、採取した未固結の試料を管体あるいは袋体に所定量注入し、供試体Sを作製する。そして、供試体Sを仕切壁75及びテーブル79上に並べる。次に水温55℃前後の水Lを上槽70Aに、水温20℃前後の水Lを下槽70Bに注入する。そして、特殊促進養生及び標準養生を同時に開始する。なお、固化剤の注入から標準養生・特殊促進養生を開始するまでの時間は前置き養生であり、養生時間に算入する。この前置き養生は例えば2.5~3.5時間である。
【0060】
次に、上槽70Aにおいて水温が55℃±2℃の範囲が維持されるように制御部80によってヒータ76を制御する。ヒータ76は面状であるため、水Lは均等に熱せられ、また対流によって、上槽70A内の水温はほぼ55℃前後に均一化される。一方、下槽70Bにおいて水温が20℃±2℃の範囲が維持されるように制御部80によってヒータ76を制御する。ヒータ76は面状であるため、水Lは均等に熱せられ、また対流によって、下槽70B内の水温も同様にほぼ20℃前後に均一化される。
【0061】
所定の時間(例えば、2日20~21時間)が経過した後、供試体Sを上槽70Aから取り出し、所定の大きさ(例えば、直径5cm、高さ10cm)に切断する。そして、一軸圧縮試験機4にセットする。槽内からの取り出しからの時間は後置き養生であり、養生時間に算入する。この後置き養生は例えば0.5時間である。そして、一軸圧縮試験機4を作動させて、供試体Sの強度を測定し、根固め部の強度を評価する。一軸圧縮試験はJISA1216(土の一軸圧縮試験方法)またはJISA1108(コンクリートの圧縮試験方法)に準じて行うことが好ましい。
【0062】
同様にして所定の時間(例えば、27日20~21時間)が経過した後、供試体Sを下槽70Bから取り出し、所定の大きさ(例えば、直径5cm、高さ10cm)に切断する。そして、一軸圧縮試験機4にセットする。槽内からの取り出しからの時間は後置き養生であり、養生時間に算入する。この後置き養生は例えば0.5時間である。そして、一軸圧縮試験機4を作動させて、供試体Sの強度を測定し、根固め部の強度を評価する。
【0063】
なお、保温槽70は、脚部71にゴム等の弾性体を用いているため、外部から伝達される振動による影響を最小限に抑えることができる。
【0064】
上述した制御部80においては、上槽70Aと下槽70Bの水温調節についてペルチェ素子78を用いて、例えば、上槽70Aを加熱、下槽70Bを冷却のようにヒータ76とは異なる調整方法で行うことができる。ペルチェ素子78の両面を有効に利用することができると共に、消費電力を低減することもできる。
【0065】
このように本実施形態に係る温水養生装置60によれば、供試体Sを上槽70Aで特殊促進養生させ、下槽70Bで標準養生させることができるので、単一の装置で温度のみ異なる2種類の養生が可能となる。また、安定した環境下で養生することができるため、正確な強度評価を行わせることが可能となる。さらに、また、制御部80において温度記録がされているため、供試体Sの養生が正しく行えている事を確認できる。また、供試体Sは水Lに浸漬されているため、供試体Sからの水分の流出を抑えることができる。なお、ヒータ76の代わりにペルチェ素子を用いてもよい。ペルチェ素子を用いた場合、加熱の他、冷却も可能となる。
【0066】
なお、上述した各実施形態においては、温度センサを保温槽内に設けたが、各供試体Sに取り付けても良い。さらに流体として水L以外に水よりも比熱の大きいオイル等を用いても良い。
【0067】
また、上述した各実施形態における定温養生装置及び車両においては、養生対象をソイルセメントとして説明したが、これに限定されるものではない。すなわち、ソイルセメントのほか、セメントミルクを養生する場合にも用いることができる。セメントミルクを養生する場合は、セメントミルクプラント等からセメントミルクを採取する。次に、管体あるいは袋体に所定量の採取した未固結の試料を注入し、供試体Sを作製し、温水養生装置10又は定温養生装置50にセットする。セメントミルクを供試体Sとした場合であっても、上述した各実施形態と同様の効果が得られる。
【0068】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
以下、本願の出願当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]
流体を収容する保温槽と、
この保温槽の壁面に設けられた面状の発熱体と、
前記保温槽内にセメントを含む供試体を保持する保持部と、
前記保温槽に配置され前記流体の温度を測定する温度センサと、
この温度センサの出力値に基づいて、前記発熱体の温度制御を行う制御部とを備え、
前記流体の温度を所定の温度で保持する定温養生装置。
[2]
仕切壁により、液密に仕切られた2槽を有し、それぞれ流体を収容する保温槽と、
この保温槽の各槽それぞれの壁面に設けられた面状の発熱体と、
前記仕切壁として形成された面状のペルチェ素子と、
前記保温槽内にセメントを含む供試体を保持する保持部と、
前記保温槽の各槽それぞれに配置され前記流体の温度を測定する温度センサと、
この温度センサの出力値に基づいて、前記発熱体及び前記ペルチェ素子の温度制御を行う制御部とを備え、
前記流体の温度を所定の温度で保持する定温養生装置。
[3]
前記保持部は、振動防止手段を備えている[1]又は[2]に記載の定温養生装置。
[4]
前記保温槽は、振動防止手段を有する脚部を備えている[1]又は[2]に記載の定温養生装置。
[5]
前記発熱体はペルチェ素子である[1]に記載の定温養生装置。
[6]
前記保温槽内には前記流体を撹拌する撹拌機が設けられている[1]又は[2]に記載の定温養生装置。
[7]
[1]~[6]のいずれか1つに記載の定温養生装置を備える車両。
【符号の説明】
【0069】
1…ボーリング装置、4…一軸圧縮試験機、10,10A…温水養生装置、20…保温槽、21…脚部、22…側壁面、23…底板、24…天板、25…ヒータ(発熱体)、26…温度センサ、27…支持部、28…テーブル(保持部)、30…制御部、31…バッテリ、40…吊り下げユニット、41…支持部、42…柱体、43…ワイヤ、50…定温養生装置、51…循環ファン、60…温水養生装置(定温養生装置)、70…保温槽、70A…上槽、70B…下槽、71…脚部、72…側壁面、73…底板、74…天板、75…仕切壁、76…ヒータ(発熱体)、77…温度センサ、78…ペルチェ素子、79…テーブル(保持部)、80…制御部、81…バッテリ、S…供試体、L…水、M…空気、G…地面、Q…掘削孔、V…車両。