(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-14
(45)【発行日】2023-02-22
(54)【発明の名称】血液透析装置における補液通路の閉塞検出装置
(51)【国際特許分類】
A61M 1/34 20060101AFI20230215BHJP
A61M 1/16 20060101ALI20230215BHJP
【FI】
A61M1/34 125
A61M1/16 135
(21)【出願番号】P 2018219647
(22)【出願日】2018-11-22
【審査請求日】2021-10-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000253019
【氏名又は名称】澁谷工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156199
【氏名又は名称】神崎 真
(72)【発明者】
【氏名】竹村 秀夫
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-161060(JP,A)
【文献】特開2017-113285(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/34
A61M 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイアフラムによって供給室と回収室とに区画された透析液チャンバと、上記供給室と透析器とを接続する透析液供給通路と、上記透析器と回収室とを接続する透析液回収通路と、上記透析液回収通路に設けられた透析液ポンプと、上記透析器に接続された血液回路と、
上記透析液供給通路と血液回路とに接続された補液通路と、上記補液通路に設けられた補液ポンプと、上記透析液ポンプおよび補液ポンプを制御する制御手段とを備えた血液透析装置において、
上記制御手段は、
上記透析液ポンプを所定の設定流量で作動して上記供給室内に充満させた透析液がなくなるまでの全量排出時間を得る第1動作と、
上記補液ポンプにより上記供給室内に充満された透析液の一部を排出する第2動作と、
上記透析液ポンプを所定の設定流量で作動して、上記第2動作の終了後に上記供給室内に残存した残存透析液がなくなるまでの残量排出時間を得る第3動作と、
さらに、上記残量排出時間と全量排出時間との差が所要の許容誤差範囲内である時に、上記補液通路が閉塞していると判定する第4動作と、を実行することを特徴とする血液透析装置における補液通路の閉塞検出装置。
【請求項2】
上記第1動作における全量排出時間は、実際に上記透析液ポンプが所定の設定流量で作動されて、上記供給室内に充満させた透析液がなくなるまでの時間が計測されることによって得られることを特徴とする請求項1に記載の血液透析装置における補液通路の閉塞検出装置。
【請求項3】
上記補液ポンプにより上記供給室内から排出される透析液量は、上記供給室内に充満される透析液量の約半分であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の血液透析装置における補液通路の閉塞検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は血液透析装置に用いられる補液通路に関し、より詳しくは、当該補液通路の閉塞の有無を検出する閉塞検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血液透析装置として補液通路を備えたものが知られている(特許文献1、特許文献2)。
特許文献1に記載された血液透析装置は、ダイアフラムによって供給室と回収室とに区画された透析液チャンバと、上記供給室と透析器とを接続する透析液供給通路と、上記透析器と回収室とを接続する透析液回収通路と、上記透析液回収通路に設けられた透析液ポンプと、上記透析器に接続された血液回路と、上記透析液通路と血液回路とに接続された補液通路と、上記補液通路に設けられた補液ポンプと、上記透析液ポンプおよび補液ポンプを制御する制御手段とを備えている。
特許文献2に記載された血液透析装置においては血液回路側での圧力上昇を検知することにより、上記補液通路の閉塞の有無を検出するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5858868号公報
【文献】特開2106-129646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記補液通路は、透析治療の準備段階では鉗子などの開閉手段で閉じられており、補液通路を開放してから透析治療が開始されるようになっている。
しかしながら、補液通路を開放するのが忘れられたまま透析治療が開始されることがあり、この場合には血液回路中に補液を行うことができないことになる。
このため上記特許文献2には、補液通路が閉塞されたまま透析が行われた場合の問題点と、血液回路側での圧力上昇を検知することによりその問題点を解決するようにした解決手段が開示されている。
本願発明は、特許文献2とは異なる手段により補液通路の閉塞の有無を検出できるようにした閉塞検出装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明は、ダイアフラムによって供給室と回収室とに区画された透析液チャンバと、上記供給室と透析器とを接続する透析液供給通路と、上記透析器と回収室とを接続する透析液回収通路と、上記透析液回収通路に設けられた透析液ポンプと、上記透析器に接続された血液回路と、上記透析液供給通路と血液回路とに接続された補液通路と、上記補液通路に設けられた補液ポンプと、上記透析液ポンプおよび補液ポンプを制御する制御手段とを備えた血液透析装置において、
上記制御手段は、
上記透析液ポンプを所定の設定流量で作動して上記供給室内に充満させた透析液がなくなるまでの全量排出時間を得る第1動作と、
上記補液ポンプにより上記供給室内に充満された透析液の一部を排出する第2動作と、
上記透析液ポンプを所定の設定流量で作動して、上記第2動作の終了後に上記供給室内に残存した残存透析液がなくなるまでの残量排出時間を得る第3動作と、
さらに、上記残量排出時間と全量排出時間との差が所要の許容誤差範囲内である時に、上記補液通路が閉塞していると判定する第4動作と、を実行することを特徴とするものである。
上記第1動作における全量排出時間は、請求項2の発明のように、実際に上記透析液ポンプが所定の設定流量で作動されて、上記供給室内に充満させた透析液がなくなるまでの時間が計測されることによって得ることができる。
また、第2動作における、上記補液ポンプにより上記供給室内から排出される透析液量は、請求項3の発明のように、上記供給室内に充満される透析液量の約半分であることが望ましい。補液ポンプにより上記供給室内から排出される排出量が少ないと残量排出時間と全量排出時間との差が小さくなり、また排出量が多いと、一般に補液ポンプの設定流量は透析液ポンプの設定流量より小さく設定されるので、補液通路の閉塞検出に要する時間が長くなるからである。
【発明の効果】
【0006】
上記構成によれば、先ず第1動作により、上記透析液ポンプを所定の設定流量で作動した際の、上記供給室内に充満させた透析液がなくなるまでの全量排出時間を得ることができる。
次に第2動作により、補液ポンプを作動して、上記供給室内に充満された透析液の一部を排出することができる。このとき、上記補液通路が閉塞されていなければ、実際に透析液の一部を供給室内から外部に排出させているはずである。他方、上記補液通路が完全に閉塞されていたとしたら、補液ポンプを作動しても供給室内の透析液を外部に排出することができず、供給室内の透析液量は供給室内に充満されたままの全量となる。
そして第3動作により、上記第2動作後に供給室内に残存している残存透析液の全てを透析液ポンプによって排出させることができ、その際には排出に要する残量排出時間を計測するようになる。上述したように、仮に上記補液通路が完全に閉塞されていたとしたら、第2動作後の供給室内の透析液量は供給室内に充満されたままの全量となっているので、第3動作における残量排出時間は、第1動作による全量排出時間に一致するはずである。
したがって第4動作により、制御手段は上記残量排出時間と全量排出時間との差が所要の許容誤差範囲内である時に、上記補液通路が閉塞していると判定することができる。
そして本発明においては、従来の血液透析装置の構成をそのまま使用することが可能なので、安価に製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】透析液ポンプ27により供給室21a内の透析液を回収室21bに排出させる第1動作および第3動作を説明する回路図
【
図3】補液ポンプ19により供給室21a内の透析液を補液通路6を介して血液回路3に排出させる第2動作を説明する回路図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図示実施例について本発明を説明すると、
図1において、血液透析を行うための血液透析装置1は、血液透析を行う透析器2と、当該透析器2に接続された血液回路3と、上記透析器2に接続された透析液回路4とを備えている。
本実施例の血液透析装置1は、新鮮な透析液を上記血液回路3を介して患者に供給するオンラインHDF、HFを行うことが可能となっており、上記血液回路3から分岐するとともに上記透析液回路4に接続される補液通路6を備えている。
【0009】
上記血液回路3は、患者の動脈に接続されるとともに上記透析器2の一端に接続された動脈側通路11と、静脈に接続されるとともに上記透析器2の他端に接続された静脈側通路12とを備え、上記補液通路6は図示実施例では上記動脈側通路11から分岐するように接続されている。なお、
図1の点線で示すように、上記補液通路6は静脈側通路12から分岐するように接続してもよい。
上記動脈側通路11には、患者に穿刺される穿刺針11aと、動脈側通路11を開閉するクランプ手段13Aと、血液凝固防止剤を収容したシリンジ14と、血液を送液するチューブポンプ(ペリスタルティックポンプ)からなる血液ポンプ15と、血液から空気を排除するドリップチャンバ16Aとが設けられており、上記ドリップチャンバ16Aには圧力計17Aが設けられている。
上記シリンジ14のプランジャ14aには、図示しないがこれを押圧する押圧手段が設けられており、該押圧手段がプランジャ14aを押圧することにより、ヘパリン等の血液凝固防止剤を動脈側通路11に供給することができるようになっている。
上記静脈側通路12には、血液から空気を排除するドリップチャンバ16Bと、静脈側通路12を開閉するクランプ手段13Bと、患者に穿刺される穿刺針12aとが設けられており、上記ドリップチャンバ16Bには圧力計17Bが設けられている。
【0010】
上述したように補液通路6は、上記動脈側通路11におけるドリップチャンバ16Aに接続されており、この補液通路6は上記透析器2や血液回路3とともに、透析治療を行うたびに交換されるようになっている。
また補液通路6の上流側端部には後述する置換液ポート31に接続するためのカプラ6aが設けられており、さらに補液通路6には上記血液ポンプ15と同様なチューブポンプからなる補液ポンプ19と、補液通路6を開閉する鉗子、クレンメ、又はロバートクランプ等の開閉手段20とが設けられている。
なお上述したように、上記補液通路6は、担当する医師の判断によって上記静脈側通路12におけるドリップチャンバ16Bに接続することも可能である。また、上記開閉手段20は図示位置に設けることに限られるものではなく、補液通路6上であればどこの位置に設けてもよい。
【0011】
上記透析液回路4は、透析液を給排する同形の第1、第2透析液チャンバ21、22と、上記第1、第2透析液チャンバ21、22に新鮮な透析液を給液する給液通路23と、第1、第2透析液チャンバ21、22から新鮮な透析液を透析器2に供給する透析液供給通路24と、透析器2を通過した使用済み透析液を第1、第2透析液チャンバ21、22に回収する透析液回収通路25と、使用済みの透析液を第1、第2透析液チャンバ21、22から図示しない排液タンクへと排出する排液通路26とを備えている。
本実施例において、上記透析液回路4を構成する以下に述べるポンプや開閉弁は、上記透析液回路4に透析液を流通させる透析液流通手段を構成しており、これらは制御手段Cによって制御されるようになっている。
【0012】
上記第1透析液チャンバ21および第2透析液チャンバ22の内部は1枚のダイアフラムDによってそれぞれ2室に区画され、新鮮な透析液が収容される供給室21a,22aと使用済み透析液が収容される回収室21b、22bとが区画形成されている。
上記給液通路23には新鮮な透析液を送液する図示しない給液ポンプが設けられており、下流部分は2方向に分岐して上記第1、第2透析液チャンバ21、22の上記供給室21a、22aに接続されている。また上記分岐部分にはそれぞれ給液弁V1、V2が設けられている。
上記透析液供給通路24の上流部分は2方向に分岐してそれぞれ上記第1、第2透析液チャンバ21、22の供給室21a、22aに接続され、下流端には透析器2に接続されるカプラ24aが設けられている。また上記分岐部分にはそれぞれ供給弁V3,V4が設けられ、上記分岐部分よりも下流側に透析液の流通の有無を検出するフロースイッチ28が設けられている。
【0013】
上記透析液回収通路25の上流端には透析器2に接続されるカプラ25aが設けられ、下流部分は2方向に分岐してそれぞれ上記第1、第2透析液チャンバ21、22の回収室21b、22bに接続されている。
また透析液回収通路25における上記分岐部分よりも上流側には透析液を送液する透析液ポンプ27が設けられるとともに、上記分岐部分にはそれぞれ回収弁V5、V6が設けられている。
上記排液通路26の上流部分は2方向に分岐してそれぞれ上記第1、第2透析液チャンバ21、22の回収室21b、22bに接続され、下流部分は図示しない廃液タンクに接続されている。また上記分岐部分にはそれぞれ排液弁V7、V8が設けられている。
【0014】
さらに、上記透析液供給通路24には、上記フロースイッチ28よりも下流側に、透析液の有害成分を除去する第1透析液フィルターF1と、所定の間隔を空けて設けた第1、第2開閉弁V11、V12とが設けられている。
上記第1透析液フィルターF1は半透膜によって上流室と下流室とに区画されており、透析液が上流室から半透膜を通過して下流室へ透過する際に有害成分を除去するようになっている。
この第1透析液フィルターF1の上流室には、上記透析液供給通路24と透析液回収通路25とを連通させる第1バイパス通路29が接続され、この第1バイパス通路29には第3開閉弁V13が設けられている。
また上記第1、第2開閉弁V11、V12の間には、透析液供給通路24と透析液回収通路25とを連通させる第2バイパス通路30が接続され、この第2バイパス通路30には、上流側から順に、第2透析液フィルターF2と、上記補液通路6の接続される上述した置換液ポート31と、第4開閉弁V14とが設けられている。
上記第2透析液フィルターF2も上記第1透析液フィルターF1と同様、半透膜によって上流室と下流室とに区画されており、上流室には第2バイパス通路30を介して上記透析液供給通路24と透析液回収通路25とを連通させる第3バイパス通路32が接続され、この第3バイパス通路32には第5開閉弁V15が設けられている。
上記置換液ポート31には、透析治療時には上記補液通路6のカプラ6aが接続されて該補液通路6に透析液を供給することができるようにしてあり、また透析治療の準備を行う際には上記補液通路6は接続されず、上記透析液をそのまま上記第1バイパス通路29へと流通させるようになっている。
【0015】
他方、上記透析液回収通路25には、上記透析器2側から順に、第6開閉弁V16と、圧力を測定する圧力センサ33と、透析液を送液する透析液ポンプ27と、透析液中の空気を除去する除気槽34とが設けられている。
上記第1バイパス通路29の下流側の端部は上記圧力センサ33の上流側に隣接した位置に接続され、上記第2バイパス通路30の下流側の端部は上記第6開閉弁V16の下流側に隣接した位置に接続され、上記第3バイパス通路32の下流側の端部はこれら第1バイパス通路29と第2バイパス通路30との間に接続されている。
上記除気槽34には透析液回収通路25と排液通路26とを連通させる第4バイパス通路35が設けられており、当該第4バイパス通路35には第7開閉弁V17が設けられている。
さらに上記除気槽34よりも下流側には、上記透析液回収通路25と排液通路26とを連通させる第5バイパス通路36が設けられており、この第5バイパス通路36には透析治療時に除水を行うための除水ポンプ37が設けられている。
【0016】
以上の構成において、制御手段Cに透析治療の開始が指令される直前の状態では、上記血液回路3の穿刺針11a、12aは患者に接続されており、また制御手段Cにより上記給液通路23の給液ポンプおよび透析液回収通路25の透析液ポンプ27が作動されるとともに、上述した各種弁の開閉が制御されている。また手作業により開閉手段20が開放されて補液通路6が開放されている。この時、透析液ポンプ27は制御手段Cにより透析治療に必要な所定の流量で、例えば100ml/minという設定流量で運転されているが、除水ポンプ37および補液ポンプ19は停止されている。
上記給液通路23の給液ポンプおよび透析液ポンプ27が作動されている状態では、一方の透析液チャンバ21の供給室21a内に透析液が充満されてその容積が最大となった際には、ダイアフラムDは
図1の左方端に移動されるので該透析液チャンバ21の回収室21bの容積は零となっている。この際には、他方の透析液チャンバ22の供給室22aの容積が零となり、かつ該透析液チャンバ22の回収室22bの容積が最大となっている(
図1の状態)。
この瞬間には透析液回路4の透析液の流通は停止しており、したがってフロースイッチ28はオフの状態となる。フロースイッチ28がオフとなると、制御手段Cは第1透析液チャンバ21側の供給弁V3と回収弁V5とを開放し、給液弁V1と排液弁V7とを閉鎖する。すると透析液ポンプ27により回収室21bに透析器2を流通した使用済みの透析液が給送されるようになり、これに伴ってダイアフラムDが変形して供給室21aの容積が減少することから、当該供給室21aに収容された新鮮な透析液が透析液供給通路24を流通して透析器2に供給されるようになる。
このようにして透析液回路4に透析液が流通すると、フロースイッチ28がオンの状態となる。
【0017】
上述したように、制御手段Cは、上記第1透析液チャンバ21側の供給弁V3と回収弁V5とを開放し、給液弁V1と排液弁V7とを閉鎖するのと同時に、他方の第2透析液チャンバ22側については、給液弁V2と排液弁V8とを開放し、供給弁V4と回収弁V6とを閉鎖する。これにより上記給液通路23から新鮮な透析液が供給室22aに流入し、これによりダイアフラムDが変形して回収室22bの容積が減少することから、当該回収室22bに収容された使用済みの透析液が排液通路26を介して外部へ排出される。
上記第1透析液チャンバ21の回収室21bが使用済みの透析液で充満され、かつ供給室21aの容積が零となると、透析液回路4の透析液の流通が零となるので、フロースイッチ28はオフの状態となる。
上記給液通路23に設けた図示しない給液ポンプの透析液の給送量は、透析液回収通路25の透析液ポンプ27の透析液の給送量よりも大きく設定してあるので、上記第1透析液チャンバ21の回収室21bが使用済みの透析液で満たされ、かつ供給室21aの容積が零となる以前に、他方の第2透析液チャンバ22の供給室22aは新鮮な透析液で満たされており、したがって回収室22bの容積は零となっている。
これにより、上記フロースイッチ28がオフの状態となると、上記制御手段Cは、上記給液弁V1,V2、供給弁V3,V4、回収弁V5,V6、排液弁V7,V8を切換えて、上記第2透析液チャンバ22の供給室22aから透析器2に新鮮な透析液を供給するとともに、使用済みの透析液を回収室22bで回収するようになり、また供給通路23から第1透析液チャンバ21の供給室21aに新鮮な透析液を供給するとともに、回収室21bから使用済み透析液を排液通路26から外部に排出するようになる。
このようにして、上記制御手段Cはフロースイッチ28がオフとなる毎に、上記給液弁V1,V2、供給弁V3,V4、回収弁V5,V6、排液弁V7,V8を交互に開閉することで、第1、第2透析液チャンバ21、22から新鮮な透析液を透析液供給通路24を介して透析器2へ連続的に供給するとともに、透析器2を通過した使用済みの透析液を透析液回収通路25を介して第1、第2透析液チャンバ21、22に回収することにより、透析液の流通を維持するようになっている。
【0018】
(透析治療の開始)
上述した透析治療の準備状態から制御手段Cに透析治療の開始が指令されると、該制御手段Cはいずれか一方の供給室21aまたは22a内が透析液で満たされるのを待って、透析治療を開始する。
この透析治療では、制御手段Cは除水ポンプ37の運転を開始させ、所定の流量で透析液回路4から使用済み透析液をその外部の排液通路26に排出するようになる。この除水ポンプ37による排出量は、透析器2を介して血液中から外部に排出される老廃物を含んだ水分の量であり、すなわち除水量となる。
【0019】
(補液通路6の閉塞検出作業)
上述した透析治療中に、制御手段Cに例えば50ml/minの流量で30分間補液を実行せよという補液の指令が与えられると、制御手段Cは先ず補液通路6の閉塞の有無を検出する。例えば補液通路6を閉鎖する鉗子、クレンメ、又はロバートクランプ等の開閉手段20を取り外したり操作したりすることが忘れられて、補液通路6が閉鎖されたままとなっているか否かが検出される。
【0020】
(第1動作:全量排出時間の計測)
上記制御手段Cは、適宜のタイミングで、フロースイッチ28がオンとなった瞬間から該フロースイッチ28がオフとなった瞬間までの時間、すなわち供給室21a又は22a内に充満されていた透析液の全量が回収室21b又は22b側に排出されるまでの全量排出時間を計測してそれを記憶する。
このとき制御手段Cは、例えば供給室21aが満杯となってフロースイッチ28がオフとなったら、
図2に示すように供給弁V3、回収弁V5、開閉弁V15を開くとともに、開閉弁V12、V14、V16を閉じ、供給室21a内の透析液の全量を透析器2を経由することなく、第2バイパス通路30および第3バイパス通路32を介して回収室21bに給送するようになる。またこの際、制御手段Cは除水ポンプ37の運転を停止させる。
これにより供給室21a内の透析液が透析液ポンプ27によって100ml/minの給送量で給送が開始されると、フロースイッチ28はオンとなるので、制御手段Cはこの瞬間から供給室21a内の透析液がなくなってフロースイッチ28がオフとなる瞬間までの全量排出時間を計測する。例えば計測した全量排出時間が1分であった場合には、これを全量排出時間として記憶する。
【0021】
(透析液ポンプ27の校正作業)
ところで、供給室21aの最大容積が100mlであるとした場合、上記全量排出時間が1分であれば、透析液ポンプ27の実質流量は100ml/minと演算することができる。この数値は制御手段Cによる透析液ポンプ27の上述した設定流量に一致しているので、透析液ポンプ27は正しい設定流量で作動していると判断することができる。なお、上記2つの供給室21a、22aの容積は予め実質的に同一となるように製造されているので、いずれか一方の供給室側から透析液を供給した際の排出時間を計測すればよいが、製造誤差等により透析液チャンバ21、22の容積が設計上の容積と異なっている場合があるため、それぞれの正確な容積を計測して制御手段Cに入力するとともに、制御手段Cによってどちらの供給室が用いられているのかを管理すればよい。
この際、仮に全量排出時間が仮に61秒であった場合には、透析液ポンプ27の実質流量は98.4ml/minと算出されるので、設定流量との間に誤差があると判定することができる。この際には、制御手段Cは透析液ポンプ27の回転数や電圧などを調整して実際の透析液の流量が設定流量である100ml/minとなるように校正する。
これとは逆に、全量排出時間が仮に59秒であった場合には、透析液ポンプ27の実質流量は101.7ml/minとなるので、この場合にも制御手段Cは実際の透析液の流量が設定流量に一致するように校正する。
このように、本実施例では計測した全量排出時間に基づいて透析液ポンプ27の流量を校正しているので、以下に述べる全量排出時間は校正後の排出時間である1分が採用されることになる。
【0022】
なお、上記実施例では制御手段Cに補液指令が与えられた直後に、第1動作と透析液ポンプ27の校正作業とを実行するようにしているが、血液透析装置によっては透析治療中に第1動作と透析液ポンプ27の校正作業とを実行していることがある。
すなわち血液透析装置によっては、透析治療中に、供給室21a又は22aから回収室21b又は22bに透析液の全量を送る動作ごとに、上記第1動作の実行と透析液ポンプ27の校正作業とを実行するものがある(透析液ポンプ27のフィードバック制御)。
この場合には、補液指令が与えられた直後の上述した第1動作と透析液ポンプ27の校正作業との実行を省略し、透析治療中の最後に実行した第1動作と透析液ポンプ27の校正作業とを利用して、直ちに次に述べる補液ポンプ19による排出作業を実行することができる。
【0023】
(補液ポンプ19による排出)
上記第1動作が終了したら、制御手段Cは引き続き、いずれか一方の供給室21a又は22a内が透析液で満たされるのを待ってから、例えば供給室21a内が透析液で満たされて該供給室21a内から透析液供給通路24への透析液の供給が開始されるのと同時に、
図3に示すように、今まで開いていた開閉弁V12、V15を閉じ、かつ補液の指令条件に基づいて設定流量である50ml/minの流量で補液ポンプ19の運転を開始する。
上記補液ポンプ19が作動されると、供給室21a内の透析液は透析液供給通路24から補液通路6を介して血液回路3に供給されるようになり、これによりフロースイッチ28に流れが生じるようになる。フロースイッチ28は、これに最低作動流量以上の流量が流れることによってオンとなるので、仮に当該フロースイッチ28の最低作動流量が上記50ml/min以下であれば、上記補液の指令条件である50ml/minの流量が流れることによってフロースイッチ28はオンとなる。この場合には、フロースイッチ28がオンとなるか否かによって、補液通路6が閉塞しているか否かを判定することができる。
しかしながら、フロースイッチ28の最低作動流量が50ml/min以上である場合には、上記補液ポンプ19が作動されてフロースイッチ28に透析液が流されても該フロースイッチ28がオンとなることはない。あるいはフロースイッチ28の最低作動流量が50ml/min以下であっても、補液指令による指令流量が当該最低作動流量未満に設定された場合にも、フロースイッチ28がオンとなることはない。
このような事情を考慮して、本実施例では以下に述べるようにして補液通路6の閉塞の有無を確実に検出できるようにしている。
【0024】
(第2動作)
すなわち、上記制御手段Cは上述したように補液の指令が与えられると、先ず、上記供給室21a内に透析液を充満させた状態で、上記補液ポンプ19を所定の設定流量で所定時間だけ作動することにより、上記供給室21a内に充満された透析液の一部を上記補液通路6を介して血液回路3に排出させる第2動作を実行する。
より具体的には、例えば補液ポンプ19を50ml/minの設定流量で1分間運転させることにより、供給室21a内から50mlと想定される想定量の透析液を排出させる。これにより上記供給室21a内に残存する想定の残存透析液量は半分の50ml分となる。
このとき、実際に上記供給室21a内の容積が50ml分だけ減少した際には、回収室21b内の容積は50ml分だけ増大するようになり、回収室21b内の容積が増大すると透析器2内が陰圧となるので、血液中から50mlの老廃物を含んだ水分がろ過される。
なお、上記想定という用語を用いたのは、仮に補液通路6が開閉手段20により完全に閉塞されていた場合には、実際の排出量は零となり、必ずしも確実に排出されるわけではないからである。
また、上記補液ポンプ19により上記供給室21a内から排出される透析液量は、供給室内に充満される透析液量の約半分であることが望ましい。これは、補液ポンプ19により上記供給室21a内から排出される排出量が少ないと残量排出時間と全量排出時間との差が小さくなるからであり、また排出量が多いと、一般に補液ポンプの設定流量は透析液ポンプの設定流量より小さく設定されるので、補液通路の閉塞検出に要する時間が長くなるからである。
【0025】
(第3動作:残量排出時間の計測)
上記制御手段Cは上記1分が経過したら、すなわち上記第2動作が終了したら、再び
図2で示す回路に切換えて、上記透析液ポンプ27により供給室21a内に残存した残存透析液がなくなるまで回収室21bに排出して、その残量排出時間を計測する第3動作を実行する。
すなわち制御手段Cは、上記1分が経過したら開閉弁V16を閉鎖するとともに開閉弁V15を開放して供給室21a内の残りの透析液を回収室21b側に給送するようになる。この際には、供給室21a内の残存透析液は透析液ポンプ27によって100ml/minの給送量で給送されるので、フロースイッチ28は確実にオン状態となる。そして制御手段Cは、この瞬間から供給室21aの透析液量が零となってフロースイッチ28がオフとなる瞬間までの残量排出時間を計測する。
このとき、上記残量排出時間が1分と検出された場合には、この残量排出時間は第1動作における全量排出時間と一致することになり、したがってこの場合には、上記第2作動により供給室21aから50mlの透析液が排出されていたはずであるが、実際には全く排出されていなかったことになる。
他方、残量排出時間が30秒と検出された場合には、透析液ポンプ27の設定流量は100ml/minであるので、供給室21a内に残存していた実質残存透析液量は50mlと演算できる。仮に上記補液ポンプ19を1分間運転した際に補液通路6が閉塞されていなければ、供給室21a内の想定残存透析液は50mlとなっているはずなので、この場合には補液通路6が閉塞されていないと判定することができる。
【0026】
(第4動作:補液通路の閉塞の有無を判定する判定動作)
上述したように、制御手段Cは、上記第1動作において計測した全量排出時間と、上記第3動作における残量排出時間とを比較して、両者の差が許容誤差範囲内となった時に上記補液通路6が閉塞していると判定することになる。
この第4動作により、制御手段Cは上記補液通路6が閉塞していると判断した場合には、その旨を表示や音声により警告するとともに、血液透析装置1を上述した透析治療の開始が指令される直前の状態に維持することになる。
ところで、上記補液通路6の開放が不完全な場合が想定される。例えば残量排出時間が45秒と検出された場合には、完全な閉塞と完全な開放との間の不完全な開放状態となる。どの程度の不完全な開放を「開放」と判断するか「閉塞」と判断するかは諸般の事情を考慮して設定されることになるが、仮に残量排出時間が45秒と検出された場合を「開放」に含ませる場合には、上記許容誤差範囲は残量排出時間が45秒と検出された場合を含むことになる。
すなわち、上記許容誤差範囲は、上記透析液ポンプ27の校正作動を行わずに設定流量で作動した際の実際の流量との誤差や、補液ポンプ19を設定流量で作動した際の実際の流量との誤差を含むものであり、また補液通路6が完全に開放されていなくてもほぼ開放されていると判断できる場合をも含むものである。
また制御手段Cは、上記補液通路6が閉塞していると判断した場合でも開閉手段20が手作業により開放されて再び補液の指令が与えられた際には、再び上述した作動を繰り返して補液通路6の閉塞の有無を判定することになる。
【0027】
(補液ポンプ19の校正動作)
上記制御手段Cは、補液通路6が閉塞していないと判断した場合には、閉塞のない時の上記残量排出時間を用いて補液ポンプ19の流量校正動作を行うことになる。
すなわち補液ポンプ19の校正動作においては、上記第3動作における透析液ポンプ27の設定流量と残量排出時間とから補液ポンプ19の実質流量を演算し、当該補液ポンプ19の設定流量と実質流量との間に誤差がある場合に当該誤差が零となるように補液ポンプの設定流量を校正することになる。
より具体的には、上記第3動作における透析液ポンプ27の設定流量が100ml/minで残量排出時間が30秒の場合、供給室21aに残存した実質残存透析液量は50mlと演算することができ、したがって上記第2動作における補液ポンプ19による排出量は50mlと演算できる。この場合には、第2動作における補液ポンプ19は50ml/minの設定流量で1分間運転されているので、透析液ポンプ27の設定流量は正確に50ml/minで運転されていることになり、校正は不要となる。
【0028】
これに対し、上記第3動作における透析液ポンプ27の設定流量が100ml/minで仮に残量排出時間が31秒と検出された場合には、供給室21aに残存した実質残存透析液量は51.7mlと演算することができ、したがって上記第2動作における補液ポンプ19による排出量は48.3mlで、該補液ポンプ19の実質流量は48.3ml/minと演算することができる。
この場合制御手段Cは、補液ポンプ19の設定流量である50ml/minと実質流量である48.3ml/minとの間に誤差があるので、実質流量が設定流量に一致するように、補液ポンプ19の回転数や電圧などを校正する。
上記第2動作における透析液ポンプ27の排出時間が30秒よりも短く検出された場合にも、制御手段Cは実質流量が設定流量に一致するように補液ポンプ19の回転数や電圧などを校正することになる。
【0029】
上述のようにして補液ポンプ19の校正動作が完了したら、制御手段Cは実際に上述した補液の指令、すなわち50ml/minの流量で30分間補液を実行せよという指令を実行することになる。
この際には、血液透析装置1は上述した透析治療を実行する状態に復帰されるとともに、校正後の補液ポンプ19の運転が継続されて30分間の補液が実行されることになる。
そして所定時間の補水が終了したら、補液ポンプ19の運転が停止されて、通常の透析治療に復帰されるようになる。
【0030】
なお、上記実施例において、供給室21a内の容積が最大となる、供給室21a内の容積が零となる、あるいは供給室21a内の透析液がなくなるといった用語は、ある程度の透析液量の誤差を含む用語である。上述したように、フロースイッチ28はこれに最低作動流量以上の流量が流れるか否かによってオンオフしており、流量が完全に零となるか否かによってオンオフしているのではないからである。
また、上記実施例では計測した全量排出時間に基づいて透析液ポンプ27の流量を校正しているが、必ずしも透析液ポンプ27の流量を校正しなくてもよい。すなわち上述した実施例では、校正前の透析液ポンプ27の全量排出時間である61秒や59秒といった時間をそのまま全量排出時間として採用し、この全量排出時間と第3動作の残量排出時間との比較によって補液通路6の閉塞の有無を判断することができる。
そして透析液ポンプ27の流量を校正しなくても、透析液ポンプ27の実質流量を上記全量排出時間から98.4ml/minや101.7ml/minと演算することができるので、補液ポンプ19の校正動作時に、透析液ポンプ27の設定流量として上記実質流量を用いることにより、補液ポンプ19の流量を正確に校正することが可能となる。
また上記実施例では、補液の指令が与えられた際に補液ポンプ19の流量を校正しているが、補液ポンプ19の流量校正は適宜のタイミングで複数回行うことができる。補液通路6は透析治療を行うたびに交換されるが、該補液通路6を構成するチューブの柔軟性などが刻々と変化するため、補液の最中に複数回行うことが望ましい。
あるいは、透析液ポンプ27の校正も補液ポンプ19の校正も省略する場合には、上記全量排出時間は、演算によって、上記供給室21a、22aの最大容量と透析液ポンプ27の設定流量とから得るようにしてもよい。
さらに上記実施例では時間の計測にフロースイッチ28を用いているが、フロースイッチ28を用いることに限定されるものではなく、時間が計測できれば如何なる計測手段を用いてもよい。
また上記実施例では透析液チャンバ21、22はダイアフラムDによって供給室21a、22aと回収室21b、22bとの2室に区画されているが、これに限定されるわけではない。特許文献1の
図9に示されているように、透析液チャンバの室内を2枚のダイアフラムDによって3室に区画し、供給室と回収室との間に可変容積室を形成した血液透析装置にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 血液透析装置 2 透析器
3 血液回路 4 透析液回路
6 補液通路 19 補液ポンプ
21、22 透析液チャンバ 21a、22a 供給室
21b、22b 回収室 24 透析液供給通路
25 透析液回収通路 27 透析液ポンプ
28 フロースイッチ C 制御手段
D ダイアフラム