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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-14
(45)【発行日】2023-02-22
(54)【発明の名称】ラフィングエンドミル
(51)【国際特許分類】
   B23C 5/10 20060101AFI20230215BHJP
【FI】
B23C5/10 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019058623
(22)【出願日】2019-03-26
(65)【公開番号】P2020157413
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】細川 真靖
(72)【発明者】
【氏名】坂口 光太郎
(72)【発明者】
【氏名】松林 優衣
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-233910(JP,A)
【文献】特開昭60-094212(JP,A)
【文献】実開平05-078421(JP,U)
【文献】実開平06-061410(JP,U)
【文献】特開2009-262317(JP,A)
【文献】特開2015-093350(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0089728(US,A1)
【文献】特開平04-217415(JP,A)
【文献】特開2005-279886(JP,A)
【文献】特開2010-269437(JP,A)
【文献】特開2020-157413(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 1/00-9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線回りに回転されるエンドミル本体の先端部外周に、後端側に向けて延びる切屑排出溝が周方向に間隔をあけて複数条形成され、これらの切屑排出溝のエンドミル回転方向を向く壁面の外周側辺稜部に、上記エンドミル本体の先端から後端側に向けて内周側と外周側とに凹凸する波形外周刃が、複数条の切屑排出溝ごとに上記波形外周刃の位相をずらして形成されたラフィングエンドミルであって、
個々の上記波形外周刃においては、上記エンドミル本体の先端から後端側に向けて複数の波形ごとに、上記軸線方向に隣接する波形の上記エンドミル本体の内周側の谷底間のピッチが異なる大きさとされているとともに、
位相がずらされた上記波形外周刃同士では、上記軸線回りの回転軌跡の該軸線に沿った断面が互いに等しい形状で、上記ピッチの等しい上記谷底の位相が上記軸線方向に等間隔にずらされており、
上記波形外周刃の上記エンドミル本体の内周側の谷底間のピッチは、上記エンドミル本体の先端から後端側に向けて複数の波形ごとに漸次大きくなることを特徴とするラフィングエンドミル。
【請求項2】
上記波形外周刃の上記エンドミル本体の内周側の谷底間のピッチは、上記エンドミル本体の先端から後端側に向けて複数の波形ごとに等しい大きさで漸次大きくなることを特徴とする請求項に記載のラフィングエンドミル。
【請求項3】
上記波形外周刃の上記エンドミル本体の内周側の谷底間のピッチは、上記エンドミル本体の先端から後端側に向けて複数の波形ごとに0.2mm未満の範囲内の大きさで漸次大きくなることを特徴とする請求項または請求項に記載のラフィングエンドミル。
【請求項4】
軸線回りに回転されるエンドミル本体の先端部外周に、後端側に向けて延びる切屑排出溝が周方向に間隔をあけて複数条形成され、これらの切屑排出溝のエンドミル回転方向を向く壁面の外周側辺稜部に、上記エンドミル本体の先端から後端側に向けて内周側と外周側とに凹凸する波形外周刃が、複数条の切屑排出溝ごとに上記波形外周刃の位相をずらして形成されたラフィングエンドミルであって、
個々の上記波形外周刃においては、上記エンドミル本体の先端から後端側に向けて複数の波形ごとに、上記軸線方向に隣接する波形の上記エンドミル本体の内周側の谷底間のピッチが異なる大きさとされているとともに、
位相がずらされた上記波形外周刃同士では、上記軸線回りの回転軌跡の該軸線に沿った断面が互いに等しい形状で、上記ピッチの等しい上記谷底の位相が上記軸線方向に等間隔にずらされており、
上記波形外周刃の上記エンドミル本体の内周側の谷底間のピッチは、上記エンドミル本体の先端から後端側に向けて上記軸線方向に等しい波形の数ごとに異なる大きさとされていることを特徴とするラフィングエンドミル。
【請求項5】
上記波形外周刃の少なくとも一群の上記複数の波形は、上記エンドミル本体の外周側の山頂部に、上記軸線回りの回転軌跡の該軸線に沿った断面が上記軸線に平行な直線状に延びる直線部を備えていることを特徴とする請求項1から請求項のうちいずれか一項に記載のラフィングエンドミル。
【請求項6】
上記波形外周刃の少なくとも一群の上記複数の波形は、上記軸線回りの回転軌跡の該軸線に沿った断面において、上記エンドミル本体の内周の谷底から後端側に向かうに従い、外周側に漸次突出した後に上記エンドミル本体の外周側の山頂部を経て上記エンドミル本体の内周側に漸次凹んでいることを特徴とする請求項1から請求項のうちいずれか一項に記載のラフィングエンドミル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸線回りに回転されるエンドミル本体の先端部外周に、後端側に向けて延びる切屑排出溝が周方向に間隔をあけて複数条形成され、これらの切屑排出溝のエンドミル回転方向を向く壁面の外周側辺稜部に、エンドミル本体の先端から後端側に向けて内周側と外周側とに凹凸する波形外周刃が、複数条の切屑排出溝ごとに波形外周刃の位相をずらして形成されたラフィングエンドミルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
このようなラフィングエンドミルとして、例えば特許文献1には、工具の外周刃の径方向に山部と谷部を繰り返す複数の波形状外周刃を有するエンドミルにおいて、ある波形状外周刃を基準形状外周刃としたときに、その他の少なくとも一刃の波形状外周刃の位相の工具軸方向へのずれ量が、波ピッチを刃数で割った値で等間隔に並んだ基準形状外周刃のそれぞれの位相から波ピッチの0%を含まない5%以下の幅で工具軸方向にずれているものが記載されている。
【0003】
また、この特許文献1には、工具の外周刃の径方向に切り屑を分断させる複数のニックを有するエンドミルにおいて、ある外周刃を基準形状外周刃としたときに、その他の少なくとも一刃のニックの位相の工具軸方向へのずれ量が、ニックのピッチを刃数で割った値で等間隔に並んだ基準形状外周刃のそれぞれの位相からニックのピッチの0%を含まない5%以下の幅で工具軸方向にずれているものも記載されている。
【0004】
このような、ニック付きのエンドミルも含めた特許文献1に記載されたラフィングエンドミルでは、各外周刃の1刃当たりの切削量が僅かずつ異なるため、切削抵抗が分散されてビビリ振動を抑制できるとともに、ずれ量が波ピッチやニックのピッチを刃数で割った値で等間隔に並んだ基準形状外周刃のそれぞれの位相から波ピッチやニックのピッチの5%以下であるので、欠損やチッピングを防止することができると、当該特許文献1には記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-269437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この特許文献1に記載されたラフィングエンドミルでは、ずれ量が基準形状外周刃のそれぞれの位相から波ピッチやニックのピッチの5%以下であるとしても、特定の外周刃の取り代が大きくなることは避けられない。そして、この特定の外周刃は、切削加工中は大きな取り代で切削し続けることになるので、長期の切削加工行ううちには特定の外周刃だけの摩耗や欠損、チッピング等によってエンドミル全体が寿命となってしまう。
【0007】
また、特許文献1に記載されたラフィングエンドミルでは、外周刃の刃数によって波ピッチやニックピッチをずらすことができるバリエーションが限定されるとともに、基準形状外周刃の1ピッチの範囲内でしかずれ量を設定することができない。このため、切削抵抗の分散によるビビリ振動の抑制効果も限定的とならざるを得ない。
【0008】
本発明は、このような背景の下になされたもので、特定の外周刃の取り代が大きくなるのを防いで、この特定の外周刃だけの摩耗や欠損、チッピング等によってエンドミル全体が寿命となるのを避けることができるとともに、位相のずれのバリエーションを幅広くして優れた制振効果を得ることが可能なラフィングエンドミルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、軸線回りに回転されるエンドミル本体の先端部外周に、後端側に向けて延びる切屑排出溝が周方向に間隔をあけて複数条形成され、これらの切屑排出溝のエンドミル回転方向を向く壁面の外周側辺稜部に、上記エンドミル本体の先端から後端側に向けて内周側と外周側とに凹凸する波形外周刃が、複数条の切屑排出溝ごとに上記波形外周刃の位相をずらして形成されたラフィングエンドミルであって、個々の上記波形外周刃においては、上記エンドミル本体の先端から後端側に向けて複数の波形ごとに、上記軸線方向に隣接する波形の上記エンドミル本体の内周側の谷底間のピッチが異なる大きさとされているとともに、位相がずらされた上記波形外周刃同士では、上記軸線回りの回転軌跡の該軸線に沿った断面が互いに等しい形状で、上記ピッチの等しい上記谷底の位相が上記軸線方向に等間隔にずらされており、上記波形外周刃の上記エンドミル本体の内周側の谷底間のピッチは、上記エンドミル本体の先端から後端側に向けて複数の波形ごとに漸次大きくなることを特徴とする。
また本発明は、軸線回りに回転されるエンドミル本体の先端部外周に、後端側に向けて延びる切屑排出溝が周方向に間隔をあけて複数条形成され、これらの切屑排出溝のエンドミル回転方向を向く壁面の外周側辺稜部に、上記エンドミル本体の先端から後端側に向けて内周側と外周側とに凹凸する波形外周刃が、複数条の切屑排出溝ごとに上記波形外周刃の位相をずらして形成されたラフィングエンドミルであって、個々の上記波形外周刃においては、上記エンドミル本体の先端から後端側に向けて複数の波形ごとに、上記軸線方向に隣接する波形の上記エンドミル本体の内周側の谷底間のピッチが異なる大きさとされているとともに、位相がずらされた上記波形外周刃同士では、上記軸線回りの回転軌跡の該軸線に沿った断面が互いに等しい形状で、上記ピッチの等しい上記谷底の位相が上記軸線方向に等間隔にずらされており、上記波形外周刃の上記エンドミル本体の内周側の谷底間のピッチは、上記エンドミル本体の先端から後端側に向けて上記軸線方向に等しい波形の数ごとに異なる大きさとされていることを特徴とする。
【0010】
このように構成されたラフィングエンドミルにおいては、位相がずらされた波形外周刃同士では、上記軸線回りの回転軌跡の該軸線に沿った断面が互いに等しい形状で、ピッチの等しい谷底の位相は軸線方向に等間隔にずらされているので、特定の波形外周刃の取り代が大きくなることはなく、各波形外周刃の取り代は均一となる。このため、特定の波形外周刃において摩耗が著しく進行したり、欠損やチッピングが発生し易くなったりするようなこともなく、エンドミルの寿命を延長することができる。
【0011】
また、上記構成のラフィングエンドミルでは、個々の波形外周刃において、エンドミル本体の先端から後端側に向けて複数の波形ごとに、軸線方向に隣接する波形のエンドミル本体の内周側の谷底間のピッチが異なる大きさとされており、この谷底間のピッチが異なる複数ずつの波形の間では作用する切削負荷も異なるものとなる。これにより、切削負荷による振動が打ち消し合うので、ビビリ振動を抑制することができる。しかも、波形外周刃の刃数によって異なるピッチの大きさが限定されるようなこともなく、発生する振動に応じて幅広いバリエーションでピッチを異なる大きさとすることができるので、優れた制振効果を得ることが可能となる。
【0012】
ここで、上記波形外周刃の上記エンドミル本体の内周側の谷底間のピッチは、上記エンドミル本体の先端から後端側に向けて複数の波形ごとに漸次大きくなる。これにより、エンドミル本体後端部のシャンク部から離れているために剛性を確保することが困難なエンドミル本体の先端部では、波形外周刃の個々の波形の取り代を小さくして切削負荷を低減することができるので、ビビリ振動の発生を一層確実に抑制することができる。
【0013】
なお、この場合には、上記波形外周刃の上記エンドミル本体の内周側の谷底間のピッチは、上記エンドミル本体の先端から後端側に向けて複数の波形ごとに等しい大きさで漸次大きくなることが望ましく、また0.2mm未満の範囲内の大きさで漸次大きくなることが望ましい。これにより、波形外周刃の個々の波形の取り代がエンドミル本体の後端側に向かう間で極端に大きくなって欠損やチッピングが発生し易くなるのを防止することができる。
【0014】
また、上記波形外周刃の上記エンドミル本体の内周側の谷底間のピッチは、上記エンドミル本体の先端から後端側に向けて上記軸線方向に等しい波形の数ごとに異なる大きさとされている。これによっても、剛性を確保することが困難なエンドミル本体の先端部における波形外周刃の個々の波形の取り代が大きくなるのを防ぐことができ、先端部の切削負荷を低減することができるので、ビビリ振動の発生を確実に抑制することができる。
【0015】
なお、上記波形外周刃の少なくとも一群の上記複数の波形は、上記エンドミル本体の外周側の山頂部に、上記軸線回りの回転軌跡の該軸線に沿った断面が上記軸線に平行な直線状に延びる直線部を備えていて、ニック付きのラフィングエンドミルのような切刃形状とされていてもよい。
【0016】
また、上記波形外周刃の少なくとも一群の上記複数の波形は、上記軸線回りの回転軌跡の該軸線に沿った断面において、上記エンドミル本体の内周の谷底から後端側に向かうに従い、外周側に漸次突出した後に上記エンドミル本体の外周側の山頂部を経て上記エンドミル本体の内周側に漸次凹んでいてもよい。
【発明の効果】
【0017】
以上、説明したように、本発明によれば、特定の外周刃だけに摩耗や欠損、チッピング等が生じてエンドミル全体が短期に寿命となるのを避けることができるとともに、位相のずれのバリエーションを幅広くすることができ、ビビリ振動に対して優れた制振効果を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態を示す斜視図である。
図2図1に示す実施形態の正面図である。
図3図1に示す実施形態の側面図である。
図4図1に示す実施形態の複数条の波形外周刃の軸線回りの回転軌跡における該軸線に沿った断面図である。
図5図1に示す実施形態の変形例の1つの波形外周刃の軸線回りの回転軌跡における該軸線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1図4は、本発明のラフィングエンドミルの一実施形態を示すものである。本実施形態のラフィングエンドミルは、そのエンドミル本体1が超硬合金等の硬質材料により軸線Oを中心とした概略円柱状に形成され、後端側(図3において右側)の部分は円柱状のままのシャンク部2とされるとともに、先端側(図3図5において左側)の部分は切刃部3とされる。このようなラフィングエンドミルは、シャンク部2が工作機械の主軸に把持されて、軸線O回りにエンドミル回転方向Tに回転されつつ、通常は軸線Oに垂直な方向に送り出されて、切刃部3により被削材に粗加工を施す。
【0020】
切刃部3には、エンドミル本体1の先端から後端側に向かうに従いエンドミル回転方向Tとは反対側に捩れる切屑排出溝4が複数条(本実施形態では5条)、周方向に間隔をあけて形成されている。これらの切屑排出溝4の先端部には、切屑排出溝4のエンドミル回転方向Tを向く壁面に沿って凹溝状のギャッシュ5が形成されており、このギャッシュ5のエンドミル回転方向Tを向く壁面とエンドミル本体1の先端面(先端逃げ面)との交差稜線部には、軸線Oに対する半径方向に延びる底刃6が形成されている。
【0021】
また、切屑排出溝4のエンドミル回転方向Tを向く壁面の外周側辺稜部には、エンドミル本体1の先端の上記底刃6の外周端から後端側に向けて内周側と外周側とに凹凸する波形外周刃7が、複数条の切屑排出溝4ごとに上記波形外周刃7の波形の位相をずらして形成されている。これらの波形外周刃7は、位相がずらされたもの同士では、軸線O回りの回転軌跡の軸線Oに沿った断面が互いに等しい形状とされている。なお、このような波形外周刃7は、例えば波形外周刃7のエンドミル回転方向Tとは反対側に連なる外周逃げ面8を研削砥石によって研削することによって形成される。
【0022】
そして、これらの波形外周刃7は、個々の波形外周刃7においては、エンドミル本体1の先端から後端側に向けて複数の波形ごとに、軸線O回りの回転軌跡の軸線Oに沿った断面において図4に示すように、軸線O方向に隣接する波形のエンドミル本体1の内周側の谷底A間のピッチが異なる大きさとされている。ここで、これらの波形外周刃7同士の上記複数の波形の谷底Aの位相は、このうちエンドミル本体1の先端側の谷底Aの位相が、軸線O方向に隣接する2つの谷底Aのピッチを刃数(5刃)で除した間隔で、軸線O方向に等間隔にずらされている。本実施形態では、上記複数の波形のエンドミル本体1先端側の谷底Aの位相は、エンドミル回転方向Tとは反対側に向かうに従いエンドミル本体1の先端側に向けて上記間隔で等間隔にずらされている。
【0023】
また、本実施形態では、このような波形外周刃7のエンドミル本体1の内周側の谷底A間のピッチが、図4に示すように、エンドミル本体1の先端から後端側に向けて複数の波形ごとに漸次大きくなるように形成されるとともに、エンドミル本体1の先端から後端側に向けて複数の波形ごとに等しい大きさで漸次大きくなるように形成され、さらに複数の波形ごとに0.2mm未満の範囲内の等しい大きさで漸次大きくなるように形成されている。さらにまた、この波形外周刃7のエンドミル本体1の内周側の谷底A間のピッチは、エンドミル本体1の先端から後端側に向けて軸線O方向に等しい波形の数(本実施形態では5波)ごとに異なる大きさとされている。
【0024】
例えば、本実施形態では、エンドミル本体1の最も先端側の第1の複数の波形C1における谷底A間のピッチP1は1.5mmとされ、次の第2の複数の波形C2における谷底A間のピッチP2は1.6mmとされ、またその次の第3の複数の波形C3における谷底A間のピッチP3は1.7mmとされ、さらにその次の最も後端側の第4の複数の波形C4における谷底A間のピッチP4は1.8mmとされて、各ピッチP1~P4は0.1mmずつの等しい大きさで大きくなるようにされている。
【0025】
さらにまた、この波形外周刃7のエンドミル本体1の内周側の谷底A間のピッチは、エンドミル本体1の最も先端側の複数の波形C1を除いて、エンドミル本体1の先端から後端側に向けて軸線O方向に等しい略間隔ごとに異なる大きさとされている。例えば、波形外周刃7の直径(軸線O方向に隣接する谷底A間のエンドミル本体1外周側に突出した山頂部Bが軸線O回りになす円の直径)が10mm以上のラフィングエンドミルにおいては、谷底A間のピッチが波形外周刃7の先端(底刃6の外周端)から約10mmずつの間隔で大きくなるように形成されている。具体的には、この間隔は、10mmに最も近い谷底A間のピッチの長さの倍数になるようにされており、最も先端側の第1の複数の波形C1は9mm、第2の複数の波形C2は9.6mm、第3の複数の波形C3は10.2mmである。
【0026】
ただし、エンドミル本体1の最先端の第1の複数の波形C1は、底刃6が形成されることによって軸線O方向の長さが制限されることにより、軸線O方向後端側に隣接する第2の複数の波形C2のエンドミル本体1先端側の谷底Aまでの間隔が異なるものとなる。また、複数条の波形外周刃7の後端の軸線O方向の位置を揃えた場合には、最も後端側の第4の複数の波形C4の間隔も複数条の波形外周刃7同士で異なるものとなる。なお、この最も後端側の第4の複数の波形C4は、10mmを越える範囲で延びていてもよい。
【0027】
さらに、本実施形態では、これらの波形外周刃7の少なくとも一群の複数の波形は、エンドミル本体1の外周側の山頂部Bに、軸線O回りの回転軌跡の軸線Oに沿った断面が軸線Oに平行な直線状に延びる直線部7aを備えている。すなわち、本実施形態のラフィングエンドミルは、ニック付きのラフィングエンドミルとされている。
【0028】
具体的に、本実施形態では、波形外周刃7の個々の波形の軸線O回りの回転軌跡の軸線Oに沿った断面は図4に示すように、エンドミル本体1の先端側から後端側に向かうに従い、谷底A部分でエンドミル本体1の内周側に凹む凹曲線状をなしているとともに、山頂部B側では、谷底A部分に接してエンドミル本体1の外周側に凸となる凸曲線状とされ、次いで軸線Oに平行な直線部7aとされた後、再びエンドミル本体1の外周側に凸となる凸曲線状とされて、次の凹曲線状の谷底A部分に接するように形成されており、直線部7aの軸線O方向の長さが調整されることにより、複数の波形ごとに、軸線O方向に隣接する波形の谷底A間のピッチが異なる大きさとされている。
【0029】
このように構成されたラフィングエンドミルでは、位相がずらされた波形外周刃7同士は、軸線O回りの回転軌跡の軸線Oに沿った断面が互いに等しい形状で、各波形C1~C4のピッチの等しい谷底Aの位相はエンドミル本体1の最も先端側の谷底Aにおいて軸線O方向に等間隔にずらされているので、この先端側の谷底Aに連なる波形C1~C4で特定の波形外周刃7の取り代が大きくなることがない。従って、このような特定の波形外周刃7において摩耗が著しく進行したり、欠損やチッピングが発生し易くなったりするようなこともないので、エンドミルの寿命を延長することができる。
【0030】
そして、上記構成のラフィングエンドミルでは、個々の波形外周刃7において、エンドミル本体1の先端から後端側に向けて複数の波形ごとに、軸線O方向に隣接する波形のエンドミル本体1の内周側の谷底A間のピッチが異なる大きさとされており、この谷底A間のピッチが異なる複数ずつの波形の間では作用する切削負荷も異なるものとなるので、切削負荷による振動を打ち消し合わせることができ、ビビリ振動を抑制することができる。しかも、波形外周刃7の刃数によって異なるピッチの大きさが限定されるようなこともないので、発生する振動に応じて幅広いバリエーションでピッチを異なる大きさとすることができ、優れた制振効果を得ることが可能となる。
【0031】
また、本実施形態においては、波形外周刃7のエンドミル本体1の内周側の谷底A間のピッチが、エンドミル本体1の先端から後端側に向けて複数の波形ごとに漸次大きくなっている。このため、エンドミル本体1後端部のシャンク部2から離れているために剛性を確保することが困難なエンドミル本体1の先端部では、波形外周刃7の個々の波形の取り代を小さくすることができて切削負荷を低減することが可能となるので、ビビリ振動の発生を一層確実に抑制することができる。
【0032】
さらに、このように波形外周刃7のエンドミル本体1の内周側の谷底A間のピッチが、エンドミル本体1の先端から後端側に向けて複数の波形ごとに漸次大きくなっているのに併せて、本実施形態では、波形外周刃7のエンドミル本体1の内周側の谷底A間のピッチが、エンドミル本体1の先端から後端側に向けて複数の波形ごとに等しい大きさで漸次大きくなっている。しかも、このピッチが大きくなる等しい大きさは、0.2mm未満の範囲内の0.1mmとされている。このため、波形外周刃7の個々の波形の取り代がエンドミル本体1の後端側に向かう間で極端に大きくなるのを防ぐことができ、欠損やチッピングを一層確実に防止することができる。
【0033】
さらにまた、本実施形態では、波形外周刃7のエンドミル本体1の内周側の谷底A間のピッチは、エンドミル本体1の最も先端側の複数の波形C1を除いて、エンドミル本体1の先端から後端側に向けて軸線O方向に等しい波形の数(5波)ごとに異なる大きさとされている。これによっても、剛性を確保することが困難なエンドミル本体1の先端部における波形外周刃7の個々の波形の取り代が大きくなるのを防ぐことができるので、先端部の切削負荷を低減することができ、ビビリ振動を確実に抑制することが可能となる。
【0034】
ただし、このように波形外周刃7の谷底A間のピッチは、エンドミル本体1の先端から後端側に向けて軸線O方向に等しい波形の数(5波)ごとに異なる大きさとされていなくてもよく、また略等しい間隔ごとに異なる大きさとされていなくてもよい。例えば、エンドミル本体1の先端から20.0mmまでの範囲の第1の複数の波形C1は谷底A間のピッチP1が1.5mmで、その後端側の10.0mmまでの範囲の第2の複数の波形C2は谷底A間のピッチP2が1.65mmであり、さらにその後端側の第3の複数の波形C3は谷底A間のピッチP3が1.8mmであってもよい。
【0035】
また、本実施形態では、波形外周刃7の少なくとも一群の複数の波形は、エンドミル本体1の外周側の山頂部Bに、軸線O回りの回転軌跡の軸線Oに沿った断面が軸線Oに平行な直線状に延びる直線部7aを備えている。このため、上記波形外周刃7を、上述のように波形外周刃7のエンドミル回転方向Tとは反対側に連なる外周逃げ面8を研削砥石によって研削することによって形成する場合に、1つの研削砥石を用いることで形成することができる。
【0036】
ただし、このような直線部7aを山頂部Bに備えることなく、たとえば図5に示す変形例のように、波形外周刃7の少なくとも一群の複数の波形C1~C4が、軸線O回りの回転軌跡の軸線Oに沿った断面において、エンドミル本体1の内周の谷底Aから後端側に向かうに従い、外周側に漸次突出した後にエンドミル本体1の外周側の山頂部Bを経てエンドミル本体1の内周側に漸次凹んでいて、山頂部Bが、谷底A部分がなす凹曲線に接する凸曲線状とされていてもよい。また、このような凸曲線状の山頂部Bを有する波形と、上述した直線部7aを有する山頂部Bを有する波形とが、複数の波形ごとに混在していてもよい。
【符号の説明】
【0037】
1 エンドミル本体
2 シャンク部
3 切刃部
4 切屑排出溝
5 ギャッシュ
6 底刃
7(7A~7E) 波形外周刃
7a 直線部
8 外周逃げ面
O エンドミル本体1の軸線
T エンドミル回転方向
A 軸線O回りの回転軌跡の軸線Oに沿った断面における波形外周刃7の谷底
B 軸線O回りの回転軌跡の軸線Oに沿った断面における波形外周刃7の山頂部
C1~C4 複数の波形
P1~P4 複数の波形C1~C4の軸線O方向に隣接する波形の谷底A間のピッチ
図1
図2
図3
図4
図5