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特許7227487画像処理プログラム、画像処理装置および画像処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-14
(45)【発行日】2023-02-22
(54)【発明の名称】画像処理プログラム、画像処理装置および画像処理方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/03 20060101AFI20230215BHJP
   G06T 7/70 20170101ALI20230215BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20230215BHJP
【FI】
A61B6/03 360J
A61B6/03 360G
G06T7/70 A
G06T7/00 612
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019089444
(22)【出願日】2019-05-10
(65)【公開番号】P2020185031
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002918
【氏名又は名称】弁理士法人扶桑国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鄭 明燮
(72)【発明者】
【氏名】石原 正樹
(72)【発明者】
【氏名】森脇 康貴
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 信浩
(72)【発明者】
【氏名】武部 浩明
(72)【発明者】
【氏名】馬場 孝之
【審査官】蔵田 真彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-23606(JP,A)
【文献】米国特許第7206462(US,B1)
【文献】特開2003-6661(JP,A)
【文献】特開2006-110069(JP,A)
【文献】特開平8-335271(JP,A)
【文献】富田稔啓他,モデル情報と最小値投影法による胸部CT像の肺野領域抽出,MEDICAL IMAGING TECHNOLOGY,1997年,Vol. 15, No. 2,164-174
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00-6/14
G06T 1/00-19/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータに、
人体の胸部の内部を撮影した1以上の断面画像に基づいて生成される、前記胸部のコロナル断面を示す2値化画像から、輪郭線を抽出し、
前記人体における左右両方の外側から上方向に前記輪郭線を辿ることで前記輪郭線における凸状頂点を探索し、探索された前記凸状頂点の位置を肺野領域の上端として特定する、
処理を実行させる画像処理プログラム。
【請求項2】
前記コンピュータに、
前記1以上の断面画像として前記胸部のアキシャル断面を示す複数のアキシャル断面画像を用い、前記複数のアキシャル断面画像のそれぞれにおける前後方向の画素群の最小値を正面に投影することで投影画像を生成し、前記投影画像を2値化することで前記2値化画像を生成する、
処理をさらに実行させる請求項1記載の画像処理プログラム。
【請求項3】
前記コンピュータに、
前記肺野領域の上端の特定結果に基づいて、前記複数のアキシャル断面画像から前記肺野領域を撮影範囲に含む画像を特定する、
処理をさらに実行させる請求項2記載の画像処理プログラム。
【請求項4】
前記凸状頂点の探索では、前記2値化画像を複数の分割領域に分割し、前記複数の分割領域のうち前記輪郭線を含む第1の分割領域のそれぞれについて、前記輪郭線の両端を結ぶ第1の直線の傾きを計算し、前記輪郭線の左右両方の外側から上方向に前記第1の分割領域を順に辿っていったときに、隣接する前記第1の分割領域において前記第1の直線の傾きの正負が変化する位置に基づいて、前記凸状頂点を特定する、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の画像処理プログラム。
【請求項5】
前記凸状頂点の探索では、前記第1の分割領域のうち前記第1の直線の傾きの正負が変化した隣接する2つの第2の分割領域について、さらに複数の第3の分割領域に分割し、前記第3の分割領域のうち前記輪郭線を含む第4の分割領域のそれぞれについて前記輪郭線の両端を結ぶ第2の直線の傾きを計算し、隣接する前記第4の分割領域において前記第2の直線の傾きの正負が変化する位置に基づいて、前記凸状頂点を特定する、
請求項4記載の画像処理プログラム。
【請求項6】
前記凸状頂点の探索では、前記第1の分割領域のうち前記第1の直線の傾きの正負が変化した隣接する2つの第2の分割領域における、前記輪郭線の上端位置に基づいて、前記凸状頂点を特定する、
請求項4記載の画像処理プログラム。
【請求項7】
人体の胸部の内部を撮影した1以上の断面画像に基づいて生成される、前記胸部のコロナル断面を示す2値化画像から、輪郭線を抽出する輪郭線抽出部と、
前記人体における左右両方の外側から上方向に前記輪郭線を辿ることで前記輪郭線における凸状頂点を探索し、探索された前記凸状頂点の位置を肺野領域の上端として特定する領域特定部と、
を有する画像処理装置。
【請求項8】
コンピュータが、
人体の胸部の内部を撮影した1以上の断面画像に基づいて生成される、前記胸部のコロナル断面を示す2値化画像から、輪郭線を抽出し、
前記人体における左右両方の外側から上方向に前記輪郭線を辿ることで前記輪郭線における凸状頂点を探索し、探索された前記凸状頂点の位置を肺野領域の上端として特定する、
画像処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理プログラム、画像処理装置および画像処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肺疾患の診断には、CT(Computed Tomography)画像などの医用画像が広く用いられている。医用画像を用いた画像診断では、医師は多数の画像を読影しなければならず、医師の負担が大きい。そのため、医師の診断作業をコンピュータによって何らかの形で支援する技術が求められている。
【0003】
例えば、医用画像から読影すべき領域を特定する、あるいは読影すべき医用画像を絞り込むために、医用画像を基に肺野領域を特定する技術が提案されている。その一例として、複数のCT画像を基に最小値投影法によって胸部の内部状況を正面に投影した投影画像を生成し、この投影画像から肺野領域を抽出する技術が提案されている。また、別の一例として、3次元医用画像の画素値を基に肺野底部領域における頭部側頂点位置を検出することで、肺気腫の診断に必要な横隔膜上端におけるアキシャル面の画像を特定する技術が提案されている。
【0004】
また、関連技術として、胸部X線画像に基づく合計値プロファイルを用いることで、この画像における肺野領域の端部を特定する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-096025号公報
【文献】特開2017-104277号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】富田稔啓、外7名、「モデル情報と最小値投影法による胸部CT像の肺野領域抽出」、MEDICAL IMAGING TECHNOLOGY Vol.15 No.2、1997年3月、164~174頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、肺野領域の上端付近では、右肺と左肺との間に気管が存在している。コロナル断面画像や最小値投影法を用いた上記の投影画像においては、この気管の領域と肺野領域との区別がつきにくいため、肺野領域の上端を正確に検出することが難しいという問題がある。
【0008】
1つの側面では、本発明は、医用画像に基づいて肺野領域の上端を高精度に検出可能な画像処理プログラム、画像処理装置および画像処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
1つの案では、コンピュータに、人体の胸部の内部を撮影した1以上の断面画像に基づいて生成される、胸部のコロナル断面を示す2値化画像から、輪郭線を抽出し、人体における左右両方の外側から上方向に輪郭線を辿ることで輪郭線における凸状頂点を探索し、探索された凸状頂点の位置を肺野領域の上端として特定する、処理を実行させる画像処理プログラムが提供される。
【0010】
また、1つの案では、人体の胸部の内部を撮影した1以上の断面画像に基づいて生成される、胸部のコロナル断面を示す2値化画像から、輪郭線を抽出する輪郭線抽出部と、人体における左右両方の外側から上方向に輪郭線を辿ることで輪郭線における凸状頂点を探索し、探索された凸状頂点の位置を肺野領域の上端として特定する領域特定部と、を有する画像処理装置が提供される。
【0011】
さらに、1つの案では、上記画像処理プログラムに基づく処理と同様の処理をコンピュータが実行する画像処理方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
1つの側面では、医用画像に基づいて肺野領域の上端を高精度に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1の実施の形態に係る画像処理装置の構成例および処理例を示す図である。
図2】第2の実施の形態に係る画像処理システムの構成例を示す図である。
図3】胸部の臓器配置を示す図である。
図4】画像処理装置が備える処理機能の構成例を示すブロック図である。
図5】正面投影画像の生成処理を説明するための図である。
図6】凸状頂点検出部の内部構成例を示す図である。
図7】領域上端抽出部の処理例を示す第1の図である。
図8】領域上端抽出部の処理例を示す第2の図である。
図9】領域上端抽出部の処理例を示す第3の図である。
図10】画像処理装置による全体の処理を示すフローチャートの例である。
図11】肺野領域上端抽出処理を示すフローチャートの例である。
図12】頂点検出処理を示すフローチャートの例である。
図13】変形例における凸状頂点検出部の内部構成例を示す図である。
図14】最大値検出部の処理例を示す図である。
図15】変形例における頂点検出処理を示すフローチャートの例である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
〔第1の実施の形態〕
図1は、第1の実施の形態に係る画像処理装置の構成例および処理例を示す図である。図1に示す画像処理装置10は、輪郭線抽出部11と領域特定部12を備える。輪郭線抽出部11と領域特定部12の処理は、例えば、画像処理装置10が備える図示しないプロセッサが所定のプログラムを実行することで実現される。
【0015】
輪郭線抽出部11には、人体の胸部のコロナル断面を示す2値化画像1aが入力される。この2値化画像1aは、胸部の内部を撮影した1以上の断面画像に基づいて生成される画像である。例えば、このような断面画像として、胸部領域におけるアキシャル断面画像(例えば、アキシャル断面のCTスライス画像)が複数枚撮影される。この場合、例えば、これらの各アキシャル断面画像における前後方向の画素群の最小値を正面に投影することで投影画像が生成され、投影画像が2値化されることで2値化画像1aが生成される。この場合の投影画像は、人体の特定位置のコロナル断面の状況を示す画像ではなく、コロナル断面における肺や気管の最大領域を示す画像となる。
【0016】
あるいは、複数枚撮影されたアキシャル断面画像に基づいてコロナル断面画像が複数生成され、生成されたコロナル断面画像の中から選択された画像が2値化されることで、2値化画像1aが生成されてもよい。この場合、例えば、コロナル断面画像の中から空気領域の幅または面積が最大の画像が選択されて2値化される。また、複数枚撮影された胸部領域のコロナル断面画像の中から、同様の手順で選択された画像が2値化されることで、2値化画像1aが生成されてもよい。
【0017】
輪郭線抽出部11は、2値化画像1aから輪郭線2を抽出する。図1では、2値化画像1aにおける輪郭線2をわかりやすく表示した画像1bを示している。画像1bにおいては、輪郭線2を太線によって示している。
【0018】
領域特定部12は、抽出された輪郭線2に基づいて、肺野領域の上端の位置を特定する。この特定では、領域特定部12は、輪郭線2を人体の左右両方の外側から上方向に辿ることで、輪郭線2における凸状頂点を探索する。領域特定部12は、探索された凸状頂点を肺野領域の上端として特定する。
【0019】
図1に示す画像1cでは、画像1bにおける輪郭線2のうち、左右両方の外側に位置する輪郭線のみを太線によって示している。領域特定部12は、例えば、輪郭線2における向かって左の外側の位置から矢印3aのように輪郭線2を辿ることで、凸状頂点4aを検出する。領域特定部12は、検出された凸状頂点4aの位置を右肺の領域の上端として特定する。また、領域特定部12は、輪郭線2における向かって右の外側の位置から矢印3bのように輪郭線2を辿ることで、凸状頂点4bを検出する。領域特定部12は、検出された凸状頂点4bの位置を左肺の領域の上端として特定する。
【0020】
ここで、右肺、左肺のそれぞれの上端は、釣鐘形状における凸部のような凸状の形状を有している。また、肺野領域の上端領域では、右肺の凸状の上端部と左肺の凸状の上端部との間に気管が配置されている。このような解剖学的な構造から、輪郭線2を左の外側から上方向に辿った場合、気管の領域に達する前に右肺の凸状の上端部に達する。同様に、輪郭線2を右の外側から上方向に辿った場合、気管の領域に達する前に左肺の凸状の上端部に達する。
【0021】
したがって、領域特定部12は、輪郭線2を左の外側から上方向に辿って凸状頂点4aを探索することで、右肺の上端を正確に検出できる。また、領域特定部12は、輪郭線2を右の外側から上方向に辿って凸状頂点4bを探索することで、左肺の上端を正確に検出できる。このように、本実施の形態に係る画像処理装置10は、医用画像に基づいて肺野領域の上端を高精度に検出できる。
【0022】
〔第2の実施の形態〕
図2は、第2の実施の形態に係る画像処理システムの構成例を示す図である。図2に示す画像処理システムは、CT装置50と画像処理装置100を含む。なお、画像処理装置100は、図1に示した画像処理装置10の一例である。
【0023】
CT装置50は、人体のX線CT画像を撮影する。本実施の形態では、CT装置50は、胸部領域におけるアキシャル断面のCTスライス画像を、人体の高さ方向(アキシャル断面に垂直な方向)に対する位置を所定間隔で変えながら所定枚数撮影する。
【0024】
画像処理装置100は、CT装置50によって撮影された複数のCTスライス画像を基に、肺野領域の画像を抽出する。これにより、画像処理装置100は、CTスライス画像を用いた医師の画像診断作業、特に肺疾患の診断作業を支援する。
【0025】
この抽出処理において、画像処理装置100は、複数のCTスライス画像を基に肺野領域の上端と下端とを検出し、この検出結果に基づいて複数のCTスライス画像の中から肺野領域が写り込んでいるCTスライス画像を絞り込む。そして、画像処理装置100は、絞り込まれたCTスライス画像を用いて、機械学習によって肺野領域を特定し、特定された肺野領域の画像を抽出する。
【0026】
この画像処理装置100は、例えば、次のようなハードウェア構成を有する。図2に示すように、画像処理装置100は、プロセッサ101、RAM(Random Access Memory)102、HDD(Hard Disk Drive)103、グラフィックインタフェース(I/F)104、入力インタフェース(I/F)105、読み取り装置106および通信インタフェース(I/F)107を有する。
【0027】
プロセッサ101は、画像処理装置100全体を統括的に制御する。プロセッサ101は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)またはPLD(Programmable Logic Device)である。また、プロセッサ101は、CPU、MPU、DSP、ASIC、PLDのうちの2以上の要素の組み合わせであってもよい。
【0028】
RAM102は、画像処理装置100の主記憶装置として使用される。RAM102には、プロセッサ101に実行させるOS(Operating System)プログラムやアプリケーションプログラムの少なくとも一部が一時的に格納される。また、RAM102には、プロセッサ101による処理に必要な各種データが格納される。
【0029】
HDD103は、画像処理装置100の補助記憶装置として使用される。HDD103には、OSプログラム、アプリケーションプログラム、および各種データが格納される。なお、補助記憶装置としては、SSD(Solid State Drive)などの他の種類の不揮発性記憶装置を使用することもできる。
【0030】
グラフィックインタフェース104には、表示装置104aが接続されている。グラフィックインタフェース104は、プロセッサ101からの命令にしたがって、画像を表示装置104aに表示させる。表示装置としては、液晶ディスプレイや有機EL(Electroluminescence)ディスプレイなどがある。
【0031】
入力インタフェース105には、入力装置105aが接続されている。入力インタフェース105は、入力装置105aから出力される信号をプロセッサ101に送信する。入力装置105aとしては、キーボードやポインティングデバイスなどがある。ポインティングデバイスとしては、マウス、タッチパネル、タブレット、タッチパッド、トラックボールなどがある。
【0032】
読み取り装置106には、可搬型記録媒体106aが脱着される。読み取り装置106は、可搬型記録媒体106aに記録されたデータを読み取ってプロセッサ101に送信する。可搬型記録媒体106aとしては、光ディスク、光磁気ディスク、半導体メモリなどがある。
【0033】
通信インタフェース107は、ネットワークを介して、CT装置50などの他の装置との間でデータの送受信を行う。
以上のようなハードウェア構成によって、画像処理装置100の処理機能を実現することができる。
【0034】
ところで、CT画像を用いた画像診断では、撮影装置の高度化によって読影対象の画像枚数が増加しているため、医師の負担が増大している。特に、びまん性肺疾患と呼ばれる疾患群では、病変が肺の広い範囲に分布する。このため、医師による読影対象の画像枚数が非常に多くなり、またその診断には豊富な知識や経験が必要で、診断の難易度が高い。このような症例を診断する際に、医師は、診断結果が確定された過去の類似症例を参考にして、病名の候補を絞り込んでいる。しかし、過去の類似症例を探す作業には時間と手間がかかるため、このような類似症例を検索する技術が求められている。
【0035】
びまん性肺疾患のように病変が広い範囲に分布する症例では、現在の患者についての1枚のCTスライス画像と、過去の患者についての1枚のCTスライス画像とが類似していたとしても、立体的に見ると病変の分布状況が類似しているとは限らない。そのため、正確な診断のためには、肺の全体における病変の分布状況の類似性を判断することが重要となる。したがって、類似症例の検索精度向上のためには、肺の一部領域でなく全体の領域についてのCTスライス画像を用いて類似性を判断する必要がある。
【0036】
そこで、胸部領域を撮影したすべてのCTスライス画像(アキシャル断面画像)を用いて、機械学習により、肺野領域を特定し、特定された肺野領域から病変に対応する異常陰影を認識する方法が開発されている。しかし、この方法では、肺野領域が写っていないCTスライス画像を肺野領域が写っている画像と誤認識して、そこから異常陰影を誤認識してしまう場合がある。このため、CTスライス画像の中から肺野領域の上端と下端との間の領域を撮影したCTスライス画像だけを特定して、特定されたCT画像を用いて機械学習を行うことができれば、肺野領域の認識精度や肺野領域内の異常陰影の認識精度を向上させることができると考えられる。
【0037】
このような背景から、本実施の形態の画像処理装置100は、機械学習を行う前の段階において、撮影されたCTスライス画像を基に肺野領域を抽出し、肺野領域が写っているCTスライス画像を特定し、特定されたCTスライス画像だけを用いて機械学習を行う。
【0038】
ここで、図3は、胸部の臓器配置を示す図である。
画像処理装置100は、胸部領域を撮影した複数のCTスライス画像(アキシャル断面画像)を基に、胸部のコロナル断面を示す2値化画像を生成する。具体的には、後述するように、画像処理装置100は、各CTスライス画像を基に最小値投影法によって正面投影画像を生成し、正面投影画像を2値化することで2値化画像を生成する。そして、画像処理装置100は、このような2値化画像に基づいて肺野領域を抽出する。
【0039】
しかし、このような2値化画像を用いた場合、肺野領域の上端を正確に特定することが難しいという問題がある。これは、図3に示すように、右肺201の上部領域と左肺202の上部領域との間に気管203が隣接して存在しているからである。CTスライス画像では、肺野領域のCT濃度値と気管203の領域のCT濃度値との差が小さい。このため、2値化画像においては右肺201、左肺202、気管203の各領域が同じ画素値を持ってしまい、これらの区別がつかないために、右肺201、左肺202の各上端を正確に特定できなくなる。
【0040】
ここで、図3からもわかるように、右肺201、左肺202の各上端付近は、釣鐘形状における凸部のような凸状の形状を有しており、凸状の頂点が右肺201、左肺202の各上端を形成している。そこで、本実施の形態の画像処理装置100は、上記の2値化画像から臓器の輪郭線を抽出し、輪郭線を左右の外側から上方向に順に辿って凸状の頂点を検出することで、右肺201、左肺202の各上端の位置を正確に特定する。
【0041】
図4は、画像処理装置が備える処理機能の構成例を示すブロック図である。図4に示すうように、画像処理装置100は、画像入力部111、投影画像生成部112、領域上端抽出部113、領域下端抽出部114、スライス選定部115および肺野領域抽出部116を備える。画像入力部111、投影画像生成部112、領域上端抽出部113、領域下端抽出部114、スライス選定部115および肺野領域抽出部116の処理は、例えば、プロセッサ101が所定のプログラムを実行することで実現される。
【0042】
画像入力部111は、CT装置50によって撮像された所定枚数のCTスライス画像を受け付け、投影画像生成部112および領域下端抽出部114に出力する。前述のように、これらのCTスライス画像は、胸部におけるアキシャル断面画像である。また、これらのCTスライス画像は、人体の高さ方向に対して一定間隔を空けて撮影された画像であるので、各CTスライス画像は、画像上の座標(X座標、Y座標)に加えて高さ方向の座標(Z座標)も有している。
【0043】
投影画像生成部112は、画像入力部111からの所定枚数のCTスライス画像を基に、最小値投影法によって胸部の内部状況を正面に投影した正面投影画像を生成する。
領域上端抽出部113は、生成された正面投影画像を基に肺野領域の上端を抽出する。この領域上端抽出部113は、輪郭線抽出部121と凸状頂点検出部122を備える。輪郭線抽出部121は、正面投影画像を2値化して2値化画像を生成し、2値化画像から輪郭線を抽出する。凸状頂点検出部122は、輪郭線から凸状頂点を検出することで、右肺、左肺の各上端位置を検出する。
【0044】
領域下端抽出部114は、画像入力部111からの所定枚数のCTスライス画像を基に、肺野領域の下端(右肺の下端、左肺の下端)を抽出する。
スライス選定部115は、領域上端抽出部113および領域下端抽出部114による肺野領域の上端、下端の検出結果に基づいて、画像入力部111が受け付けたCTスライス画像の中から、上端と下端との間の領域を撮影対象としているCTスライス画像を選定する。
【0045】
肺野領域抽出部116は、機械学習による学習結果に基づき、スライス選定部115によって選定されたCTスライス画像から肺野領域の画像領域を抽出し、その抽出結果を出力する。また、肺野領域抽出部116は、機械学習による学習結果に基づき、抽出された画像領域から異常陰影を認識してもよい。さらに、肺野領域抽出部116は、スライス選定部115によって選定されたCTスライス画像を、機械学習のための学習データとして出力して、この学習データを既存の学習データに加えて肺野領域の抽出および異常陰影の認識のための機械学習を実行してもよい。
【0046】
次に、図5図9を用いて肺野領域の上端抽出処理を説明する。
まず、図5は、正面投影画像の生成処理を説明するための図である。図5に示すCTスライス画像群211は、画像入力部111から投影画像生成部112に出力される所定枚数のCTスライス画像を含む。図5では、人体の左右方向をX軸、奥行き方向をY軸、高さ方向をZ軸としている。各CTスライス画像は、X-Y平面(すなわちアキシャル断面)における人体内部の像を示している。
【0047】
投影画像生成部112は、次のような最小値投影法を用いることで正面投影画像を生成する。投影画像生成部112は、CTスライス画像ごとに次のような処理を実行する。投影画像生成部112は、CTスライス画像からY軸に沿った画素列を選択し、画素列におけるCT濃度値の最小値をX軸およびZ軸に沿った投影平面(X-Z平面)に投影する。投影画像生成部112は、CTスライス画像の各画素列についてCT濃度値の最小値を投影する。これにより、投影平面には1つのCTスライス画像からX軸に沿った画素列が形成される。そして、このような投影処理が各CTスライス画像について実行されることで、投影平面にはCTスライス画像の枚数分の画素列が形成される。
【0048】
投影画像生成部112は、例えば、投影平面に形成された、X軸に沿った画素列を基に、Z軸方向に対して補間演算を行うことで、正面投影画像212を生成する。このような最小値投影法により、正面投影画像212には、CTスライス画像群211から生成されるコロナル画像上の臓器の領域(少なくとも肺および気管の領域)のうち、最大の領域が投影される。
【0049】
なお、上記のCTスライス画像群211に加えて、胸部についての複数枚のコロナル断面画像がCT装置50によって撮影された場合、投影画像はこれらのコロナル断面画像を用いて生成されてもよい。この場合、各コロナル断面画像における同一画素のCT濃度値の最小値が投影平面に投影されることで、正面投影画像が生成される。
【0050】
次に、領域上端抽出部113の処理について説明する。
まず、図6は、凸状頂点検出部の内部構成例を示す図である。図6に示すように、凸状頂点検出部122は、輪郭線分割部131、転換点検出部132および頂点検出部133を備える。
【0051】
輪郭線分割部131は、正面投影画像を2値化した2値化画像を、同一サイズのブロックに分割する。これにより、2値化画像から抽出された輪郭線がブロックごとに分割される。
【0052】
転換点検出部132は、輪郭線を含むブロックについて、輪郭線の両端を結ぶ直線の傾きを算出する。転換点検出部132は、輪郭線を左端から上方向に辿っていき、ともに輪郭線を含む隣接するブロックの間で直線の傾きの正負が逆転する転換点を検出する。また、転換点検出部132は、輪郭線を右端から上方向に辿っていき、ともに輪郭線を含む隣接するブロックの間で直線の傾きの正負が逆転する転換点を検出する。
【0053】
頂点検出部133は、検出された転換点を挟む両側のブロックについてさらに小さいブロックに再分割し、再分割されたブロックのうち輪郭線を含むブロックについて、輪郭線の両端を結ぶ直線の傾きを算出する。頂点検出部133は、ブロック間で直線の傾きの正負が逆転する位置に基づいて、右肺の凸状頂点と左肺の凸状頂点を検出し、検出された各頂点の位置を右肺、左肺の各領域の上端として特定する。
【0054】
図7は、領域上端抽出部の処理例を示す第1の図である。
領域上端抽出部113の輪郭線抽出部121は、投影画像生成部112によって生成された正面投影画像を2値化することで2値化画像221を生成する。例えば、CT濃度値の最小値が-1000HU、最大値が1000HUとすると、輪郭線抽出部121は、正面投影画像におけるCT濃度値500HU未満の画素を0(黒)、500HU以上の画素を1(白)とすることで2値化画像221を生成する。
【0055】
次に、輪郭線抽出部121は、生成された2値化画像221から輪郭線222aを抽出する。輪郭線222aは、画素値が異なる領域の境界線となる。ただし、2値化画像221においては肺野領域は中央領域に存在すると推定される。このため、輪郭線抽出部121は、例えば、中央領域における輪郭線のみを抽出し、それより外側に存在する別の輪郭線の抽出をキャンセルする。図7において、画像222は、2値化画像221から太線で示す輪郭線222aが抽出された状態を示している。
【0056】
次に、凸状頂点検出部122の輪郭線分割部131は、輪郭線222aが抽出された画像222を、同一サイズのブロックに分割する。ここでは、輪郭線分割部131は、画像222を横方向、縦方向にそれぞれ等間隔で配置した分割線によって分割することで、画像222を分割する。図7において、画像223は、画像222がブロックに分割された状態を示している。
【0057】
なお、分割されるブロックの高さと幅は、気管の幅より小さいことが望ましい。この条件により、右肺、左肺の凸状頂点を正確に検出できる可能性が高まる。
次に、凸状頂点検出部122の転換点検出部132は、輪郭線を含むブロックについて、輪郭線の両端を結ぶ直線の傾きを算出する。転換点検出部132は、直線の傾きに基づき、傾きの正負が逆転する転換点を検出する。凸状頂点検出部122の頂点検出部133は、検出された転換点を挟む両側のブロックを検証することで、肺野領域の上端を抽出する。以下、図8図9を用いて転換点検出部132および頂点検出部133の処理例を説明する。
【0058】
図8は、領域上端抽出部の処理例を示す第2の図である。この図8では、右肺の凸状頂点を検出する処理例を示す。
転換点検出部132は、画像223上の輪郭線を左端から上方向に辿っていき、ともに輪郭線を含む隣接するブロックの間で直線の傾きの正負が逆転する転換点を検出する。図8の例では、ブロックB1に輪郭線の左端が含まれている。転換点検出部132は、まず、ブロックB1における輪郭線の両端を結ぶ直線の傾きを算出する。次に、転換点検出部132は、輪郭線を上側に辿り、ブロックB1に隣接するブロックB2について、輪郭線の両端を結ぶ直線の傾きを算出する。そして、転換点検出部132は、ブロックB1とブロックB2との間で直線の傾きの正負が逆転したかを判定する。図8の例では直線の傾きは正のままであるので、転換点検出部132は次に、輪郭線を上側に辿り、ブロックB2に隣接するブロックB3について、輪郭線の両端を結ぶ直線の傾きを算出する。そして、転換点検出部132は、ブロックB2とブロックB3との間で直線の傾きの正負が逆転したかを判定する。
【0059】
転換点検出部132は、このような判定を輪郭線を辿りながら順に繰り返していく。そして、図8の例では、ブロックB11とブロックB12との間で直線の傾きの正負が逆転したとする。すなわち、ブロックB11の直線L1の傾きは正であったが、ブロックB12の直線L2の傾きは負であったとする。この場合、ブロックB11とブロックB12との境界において輪郭線が通る点P1が、転換点として検出される。この転換点は、右肺の上端に位置する凸状頂点の近傍に位置していると推定される。したがって、画像223内のブロックの中から、右肺の上端が存在するブロックの候補として、検出された転換点を挟む両側のブロックB11,B12が絞り込まれる。
【0060】
次に、頂点検出部133は、ブロックB11,B12をさらに小さなブロックに再分割する。そして、頂点検出部133は、再分割されたブロックのうち輪郭線を含むブロックについて、輪郭線の両端を結ぶ直線の傾きを算出する。頂点検出部133は、隣接するブロック間で直線の傾きの正負が逆転する位置を検出する。図8の例では、ブロックB12aとブロックB12bとの間で直線の傾きの正負が逆転したとする。すなわち、ブロックB12aの直線L2aの傾きは正であったが、ブロックB12bの直線L2bの傾きは負であったとする。この場合、ブロックB12aとブロックB12bとの境界において輪郭線が通る点P2が、転換点として検出される。なお、頂点検出部133は、ブロックB12の中から転換点が複数検出された場合、その中で高さ方向の座標が最大の転換点を選択して処理を続ける。
【0061】
頂点検出部133は、検出された転換点を挟む両側のブロックB12a,B12bについて、さらに小さなブロックに再分割し、上記と同様の手順で直線の傾きの正負が逆転する転換点を検出する。頂点検出部133は、転換点が検出されなくなるまでこのような処理を繰り返す。そして、頂点検出部133は、最後に検出された転換点を、右肺の上端に位置する凸状頂点として検出する。検出された凸状頂点の高さ方向の座標(Z座標)が、右肺の領域の上端の座標を示す。
【0062】
このような処理により、右肺の上端を高精度に抽出できる。すなわち、図3に示したように、右肺の上端は釣鐘形状における凸部のような凸状の形状を有しており、なおかつ、気管はこの凸状形状の位置より右側に存在する。このような構造のため、図8に示したように輪郭線を左端から上方向に辿っていくことで、気管の領域に達する前に右肺の凸状の上端部に達する。したがって、右肺の上端の位置を精度よく抽出できる。
【0063】
図9は、領域上端抽出部の処理例を示す第3の図である。この図9では、左肺の凸状頂点を検出する処理例を示す。
転換点検出部132および頂点検出部133は、左肺についても、図8で説明した処理を左右逆転させて実行する。すなわち、転換点検出部132は、画像223上の輪郭線を右端から上方向に辿っていき、ともに輪郭線を含む隣接するブロックの間で直線の傾きの正負が逆転する転換点を検出する。図9の例では、ブロックB21に輪郭線の右端が含まれている。転換点検出部132は、まず、ブロックB21における輪郭線の両端を結ぶ直線の傾きを算出し、次に、ブロックB22における輪郭線の両端を結ぶ直線の傾きを算出する。そして、転換点検出部132は、ブロックB21とブロックB22との間で直線の傾きの正負が逆転したかを判定する。図9の例では直線の傾きは正のままであるので、転換点検出部132は次に、ブロックB23における輪郭線の両端を結ぶ直線の傾きを算出し、ブロックB22とブロックB23との間で直線の傾きの正負が逆転したかを判定する。
【0064】
このようにして、図9ではブロックB31とブロックB32との間で直線の傾きの正負が逆転したとする。すなわち、ブロックB31の直線L11の傾きは負であったが、ブロックB32の直線L12の傾きは正であったとする。この場合、ブロックB31とブロックB32との境界において輪郭線が通る点P11が、転換点として検出される。
【0065】
次に、頂点検出部133は、転換点(点P11)を挟む両側のブロックB31,B32をさらにブロックに再分割し、図8と同様の手順で直線の傾きの正負が逆転する転換点を検出する。図9の例では、ブロックB32aとブロックB32bとの間で直線の傾きの正負が逆転したとする。すなわち、ブロックB32aの直線L12aの傾きは負であったが、ブロックB32bの直線L12bの傾きは正であったとする。この場合、ブロックB32aとブロックB32bとの境界において輪郭線が通る点P12が、転換点として検出される。
【0066】
頂点検出部133は、検出された転換点を挟む両側のブロックB32a,B32bについて、さらに小さなブロックに再分割し、上記と同様の手順で直線の傾きの正負が逆転する転換点を検出する。頂点検出部133は、転換点が検出されなくなるまでこのような処理を繰り返す。そして、頂点検出部133は、最後に検出された転換点を、左肺の上端に位置する凸状頂点として検出する。検出された凸状頂点の高さ方向の座標(Z座標)が、左肺の領域の上端の座標を示す。
【0067】
このような処理により、左肺の上端を高精度に抽出できる。すなわち、図3に示したように、左肺の上端は釣鐘形状における凸部のような凸状の形状を有しており、なおかつ、気管はこの凸状形状の位置より左側に存在する。このような構造のため、図9に示したように輪郭線を右端から上方向に辿っていくことで、気管の領域に達する前に左肺の凸状の上端部に達する。したがって、左肺の上端の位置を精度よく抽出できる。
【0068】
次に、画像処理装置100の処理についてフローチャートを用いて説明する。
図10は、画像処理装置による全体の処理を示すフローチャートの例である。
[ステップS11]画像入力部111は、CT装置50によって撮像された所定枚数のCTスライス画像を受け付け、投影画像生成部112および領域下端抽出部114に出力する。
【0069】
[ステップS12]画像入力部111から出力されたCTスライス画像を用いて、投影画像生成部112および領域上端抽出部113によって肺野領域上端抽出処理が実行される。これにより、肺野領域の上端(右肺の上端、左肺の上端)が抽出される。
【0070】
[ステップS13]領域下端抽出部114は、画像入力部111から出力された所定枚数のCTスライス画像を基に、肺野領域の下端(右肺の下端、左肺の下端)を抽出する。
[ステップS14]スライス選定部115は、画像入力部111が受け付けたCTスライス画像の中から、ステップS12で抽出された上端より上側の領域を撮影した画像を除外する。さらにスライス選定部115は、除外後の残りのCTスライス画像の中から、ステップS13で抽出された下端より下側の領域を撮影した画像を除外する。これにより、画像入力部111が受け付けたCTスライス画像の中から、肺野領域を撮影したCTスライス画像が、肺野領域の抽出対象のCTスライス画像として選定される。
【0071】
[ステップS15]肺野領域抽出部116は、機械学習による学習結果に基づき、ステップS14で選定されたCTスライス画像から肺野領域の画像領域を抽出し、その抽出結果を出力する。ステップS14で選定されたCTスライス画像のみが抽出対象として使用されることで、肺野領域を精度よく抽出できる。
【0072】
また、肺野領域抽出部116は、機械学習による学習結果に基づき、抽出された画像領域から異常陰影を認識してもよい。この処理でも、ステップS14で選定されたCTスライス画像のみが使用されることで、異常陰影の誤検出が少なくなり、その検出精度を向上させることができる。
【0073】
図11は、肺野領域上端抽出処理を示すフローチャートの例である。この図11の処理は、図10のステップS12の処理に対応する。
[ステップS21]投影画像生成部112は、画像入力部111から出力された所定枚数のCTスライス画像を基に、最小値投影法により正面投影画像を生成する。
【0074】
[ステップS22]輪郭線抽出部121は、生成された正面投影画像を2値化して、2値化画像を生成する。
[ステップS23]輪郭線抽出部121は、生成された2値化画像から輪郭線を抽出する。
【0075】
[ステップS24]輪郭線分割部131は、輪郭線が抽出された画像を同一サイズのブロックに分割することで、輪郭線を分割する。
[ステップS25]分割された輪郭線に基づいて、画像内の左側の肺(右肺)の凸状頂点を検出する左側頂点検出処理が実行される。
【0076】
[ステップS26]分割された輪郭線に基づいて、画像内の右側の肺(左肺)の凸状頂点を検出する右側頂点検出処理が実行される。
[ステップS27]頂点検出部133は、ステップS25,S26の検出結果から、肺野領域の上端位置(高さ)を出力する。すなわち、右肺の凸状頂点の高さ(Z座標)が右肺の上端位置として出力され、左肺の凸状頂点の高さ(Z座標)が左肺の上端位置として出力される。
【0077】
図12は、頂点検出処理を示すフローチャートの例である。この図12の処理は、図11のステップS25,S26の処理に対応する。ステップS25,S26の処理は左右の関係が逆になるだけで基本的に同一である。そのため、ここでは主としてステップS25の左側頂点検出処理について説明し、ステップS26の右側頂点検出処理については適宜説明を補足する。また、以下の説明において、「分割曲線」とはブロックによって分割された輪郭線を指す。
【0078】
[ステップS31]転換点検出部132は、画像上の左端の分割曲線を特定する。この処理は、輪郭線の左端を含むブロックが選択され、そのブロックに含まれる輪郭線(分割曲線)が特定される。転換点検出部132は、分割曲線の両端の座標を算出する。なお、右側頂点検出処理では、画像上の右端の分割曲線が特定される。
【0079】
[ステップS32]転換点検出部132は、ステップS31で算出された座標に基づいて、分割曲線の両端を結ぶ直線の傾きを算出する。
[ステップS33]転換点検出部132は、輪郭線を上方向に辿ることにより、次の分割曲線を特定する。輪郭線を上方向に辿れなくなった場合には、輪郭線を右方向に辿ることで次の分割曲線が特定される。転換点検出部132は、分割曲線の両端の座標を算出する。なお、右側頂点検出処理では、同様に輪郭線を上方向に辿ることで次の分割曲線が特定され、上方向に辿れなくなった場合には輪郭線を左方向に辿ることで次の分割曲線が特定される。
【0080】
[ステップS34]転換点検出部132は、ステップS33で算出された座標に基づいて、分割曲線の両端を結ぶ直線の傾きを算出する。
[ステップS35]転換点検出部132は、ステップS34で算出された直線の傾き(第1の傾き)と、ステップS32で算出された、または前回のステップS34の実行により算出された直線の傾き(第2の傾き)とを比較して、傾きの正負の転換点が検出されたかを判定する。第1の傾きと第2の傾きの両方の角度が0以上の場合、または両方の角度が0未満の場合には、傾きの正負が逆転しておらず、転換点は検出されない。一方、第1の傾きと第2の傾きのうちの一方の角度が0以上であり、他方の角度が0未満の場合には、傾きの正負が逆転したと判定される。この場合、2つの直線の接点(すなわち、各直線を含む2つのブロックの境界における、輪郭線の通過点)が転換点として検出される。
【0081】
転換点検出部132は、転換点が検出されなかった場合、ステップS33の処理を再度実行し、転換点が検出された場合、ステップS36の処理を実行する。
[ステップS36]ステップS36の初回実行時では、頂点検出部133は、ステップS35で検出された転換点の座標をRAM102に記録する。ステップS36の2回目以降の実行時では、頂点検出部133は、前回のステップS40の実行により検出された転換点の座標をRAM102に記録する。なお、後者の場合、前回のステップS36の実行により記録された転換点の座標は破棄される。
【0082】
[ステップS37]頂点検出部133は、座標が記録された転換点を挟む両側のブロックを、より小さなサイズのブロックに再分割する。これにより、各ブロック内の輪郭線はさらに短い分割曲線に再分割される。
【0083】
[ステップS38]頂点検出部133は、再分割された分割曲線のそれぞれについて、両端の座標を算出する。
[ステップS39]頂点検出部133は、再分割された分割曲線のそれぞれについて、ステップS38で算出された座標に基づき、両端を結ぶ直線の傾きを算出する。
【0084】
[ステップS40]頂点検出部133は、ステップS39で算出された各直線の傾きに基づき、傾きの正負の転換点が検出されたかを判定する。具体的には、頂点検出部133は、隣接する直線の組み合わせのそれぞれについて、各直線の傾きを比較する。ステップS35での判定と同様に、両方の傾きの角度が0以上の場合、または0未満の場合には、各直線の接点は転換点ではない。一方、一方の傾きの角度が0以上であり、他方の傾きの角度が0未満である場合には、各直線の接点が転換点として検出される。
【0085】
転換点検出部132は、転換点が検出されなかった場合、ステップS41の処理を実行する。一方、転換点検出部132は、転換点が1つ以上検出された場合、ステップS36の処理を再度実行する。なお、後者のケースにおいて、転換点が複数検出された場合には、それらのうち高さ(Z座標)が最大の転換点が選択されて、その座標がステップS36で記録される。
【0086】
[ステップS41]頂点検出部133は、ステップS36で記録された転換点の座標を読み出し、この座標を左側の凸状頂点の座標、すなわち右肺の上端の座標として出力する。なお、右側頂点検出処理では、読み出された座標が右側の凸状頂点の座標、すなわち左肺の上端の座標として出力される。
【0087】
以上説明した第2の実施の形態の画像処理装置100によれば、胸部を撮影したCTスライス画像に基づく正面投影画像から肺野領域の上端を精度よく抽出できる。このため、CTスライス画像の中から肺野領域を写した画像を正確に選定でき、選定された画像を用いて機械学習の学習結果に基づく肺野領域の抽出処理を精度よく実行できる。また、選定された画像を用いて、機械学習の学習結果に基づく異常陰影の認識処理を精度よく実行できる。
【0088】
<第2の実施の形態の変形例>
次に、第2の実施の形態における処理の一部を変更した変形例について説明する。なお、変形例の説明では、第2の実施の形態と同じ構成要素や同じ内容の処理ステップには同じ符号を用いる。
【0089】
図13は、変形例における凸状頂点検出部の内部構成例を示す図である。変形例では、画像処理装置100は、図6に示した凸状頂点検出部122の代わりに図13に示す凸状頂点検出部122aを備える。
【0090】
凸状頂点検出部122aは、図6に示した輪郭線分割部131と転換点検出部132を備える。また、凸状頂点検出部122aは、図6に示した頂点検出部133の代わりに最大値検出部134を備える。最大値検出部134は、転換点検出部132によって検出された転換点を挟む両側のブロックから、輪郭線上の高さ(Z座標)が最大となる点を検出することで、凸状頂点を検出する。
【0091】
図14は、最大値検出部の処理例を示す図である。図14では、図8図9と同様の画像223を示している。また、転換点検出部132による図8で説明した処理によって、左側の輪郭線から転換点として点P1が検出されている。さらに、転換点検出部132による図9で説明した処理によって、右側の輪郭線から転換点として点P11が検出されている。
【0092】
最大値検出部134は、転換点(点P1)を挟む両側のブロックB11,B12を特定する。最大値検出部134は、ブロックB11,B12の内部の分割曲線(輪郭線)における高さ(Z座標)の最大値を検出し、最大値が検出された画素P21の位置を右肺の凸状頂点、すなわち右肺の上端として検出する。
【0093】
同様に、最大値検出部134は、転換点(点P11)を挟む両側のブロックB31,B32を特定する。最大値検出部134は、ブロックB31,B32の内部の分割曲線(輪郭線)における高さ(Z座標)の最大値を検出し、最大値が検出された画素P22の位置を左肺の凸状頂点、すなわち左肺の上端として検出する。
【0094】
このように、変形例では、第2の実施の形態と同様に、輪郭線を左端および右端からそれぞれ上方向に辿ることで、右肺の上端が存在するブロックB11,B12が絞り込まれ、左肺の上端が存在するブロックB31,B32が絞り込まれる。その後、第2の実施の形態とは異なり、ブロックB11,B12における輪郭線の座標に基づいて右肺の凸状頂点が検出され、ブロックB31,B32における輪郭線の座標に基づいて左肺の凸状頂点が検出される。これにより、右肺、左肺のそれぞれの上端を高精度に検出できる。
【0095】
図15は、変形例における頂点検出処理を示すフローチャートの例である。この図15の処理は、図11のステップS25,S26の処理に対応する。また、図12と同じ内容の処理ステップには同じ符号を付して示しており、その説明を省略する。
【0096】
図15に示すように、変形例では、図12のステップS31~S35が実行された後、ステップS51~S53の処理が実行される。なお、ここでは図12と同様に、主としてステップS25の左側頂点検出処理について説明し、ステップS26の右側頂点検出処理については適宜説明を補足する。
【0097】
[ステップS51]最大値検出部134は、ステップS35で検出された転換点を挟む両側のブロックを特定する。
[ステップS52]最大値検出部134は、特定された2つのブロックに含まれる分割曲線(輪郭線)から、高さ(Z座標)の最大値を検出する。
【0098】
[ステップS53]最大値検出部134は、最大値が検出された画素の位置を左側の凸状頂点の座標、すなわち右肺の上端の座標として出力する。なお、右側頂点検出処理では、最大値が検出された画素の位置が右側の凸状頂点の座標、すなわち左肺の上端の座標として出力される。
【0099】
なお、以上の第2の実施の形態、およびその変形例において画像処理装置100が備えている処理機能の少なくとも一部は、CT装置50に搭載されていてもよい。また、画像処理装置100が備えている処理機能が、複数のコンピュータ装置に分散されて搭載されていてもよい。
【0100】
また、上記の各実施の形態に示した装置(例えば、画像処理装置10,100)の処理機能は、コンピュータによって実現することができる。その場合、各装置が有すべき機能の処理内容を記述したプログラムが提供され、そのプログラムをコンピュータで実行することにより、上記処理機能がコンピュータ上で実現される。処理内容を記述したプログラムは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録しておくことができる。コンピュータで読み取り可能な記録媒体としては、磁気記憶装置、光ディスク、光磁気記録媒体、半導体メモリなどがある。磁気記憶装置には、ハードディスク装置(HDD)、磁気テープなどがある。光ディスクには、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、ブルーレイディスク(Blu-ray Disc:BD、登録商標)などがある。光磁気記録媒体には、MO(Magneto-Optical disk)などがある。
【0101】
プログラムを流通させる場合には、例えば、そのプログラムが記録されたDVD、CDなどの可搬型記録媒体が販売される。また、プログラムをサーバコンピュータの記憶装置に格納しておき、ネットワークを介して、サーバコンピュータから他のコンピュータにそのプログラムを転送することもできる。
【0102】
プログラムを実行するコンピュータは、例えば、可搬型記録媒体に記録されたプログラムまたはサーバコンピュータから転送されたプログラムを、自己の記憶装置に格納する。そして、コンピュータは、自己の記憶装置からプログラムを読み取り、プログラムにしたがった処理を実行する。なお、コンピュータは、可搬型記録媒体から直接プログラムを読み取り、そのプログラムにしたがった処理を実行することもできる。また、コンピュータは、ネットワークを介して接続されたサーバコンピュータからプログラムが転送されるごとに、逐次、受け取ったプログラムにしたがった処理を実行することもできる。
【符号の説明】
【0103】
1a 2値化画像
1b,1c 画像
2 輪郭線
3a,3b 矢印
4a,4b 凸状頂点
10 画像処理装置
11 輪郭線抽出部
12 領域特定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15