(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-14
(45)【発行日】2023-02-22
(54)【発明の名称】放出装置
(51)【国際特許分類】
A61M 11/02 20060101AFI20230215BHJP
【FI】
A61M11/02 Z
(21)【出願番号】P 2022017840
(22)【出願日】2022-02-08
【審査請求日】2022-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2021020488
(32)【優先日】2021-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新井 潤一郎
(72)【発明者】
【氏名】武田 信明
(72)【発明者】
【氏名】小沢 智
【審査官】菊地 牧子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/166795(WO,A1)
【文献】米国特許第04710887(US,A)
【文献】中国特許出願公開第110974703(CN,A)
【文献】特開2004-053102(JP,A)
【文献】国際公開第2017/149684(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 11/00
A61M 13/00
A61M 15/00
A61M 16/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者(T)が存在する空間(S)に有用物質(U)を放出する放出部(30)と、
前記対象者(T)の
サーカディアンリズムに基づいて前記放出部(30)を制御する制御装置(80)とを備え、
前記制御装置(80)は、前記対象者(T)の自律神経系が交感神経および副交感神経のうちどちらが優位な状態かを判断し、該判断結果から自律神経系における
サーカディアンリズムを推定し、推定した前記
サーカディアンリズムに基づいて前記有用物質(U)の放出を開始する放出開始時刻を決定し、前記放出開始時刻になったときに前記放出部(30)から前記有用物質(U)を放出させる
放出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の放出装置において、
前記制御装置(80)は、前記放出部(30)から前記有用物質(U)が放出される時間の累計が、1日のうちで1時間以上となるように前記放出部(30)から前記有用物質(U)を放出させる
放出装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の放出装置において、
前記対象者(T)に供給される前記有用物質(U)の濃度を測定する濃度センサ(53)を更に備え、
前記制御装置(80)は、前記濃度センサ(53)の出力に基づいて前記有用物質(U)の放出量を調整する
放出装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つに記載の放出装置において、
前記対象者(T)の生体情報を取得する生体センサ(60)を更に備え、
前記制御装置(80)は、前記生体センサ(60)で取得した生体情報に基づいて前記放出部(30)から前記有用物質(U)を放出させる
放出装置。
【請求項5】
請求項4に記載の放出装置において、
前記生体センサ(60)は、前記生体情報として前記対象者(T)の心拍又は体温を検出し、
前記制御装置(80)は、前記生体センサ(60)で検出した心拍又は体温から前記対象者(T)の
前記サーカディアンリズムを推定し、推定した前記サーカディアンリズムに基づいて前記放出部(30)から前記有用物質(U)を放出させる
放出装置。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の放出装置において、
前記生体センサ(60)は、前記生体情報として前記対象者(T)の呼吸周期を検出し、
前記制御装置(80)は、前記対象者(T)が空気を吸い込むときにあわせて前記放出部(30)から前記有用物質(U)を放出させる
放出装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1つに記載の放出装置において、
前記放出部(30)は、渦輪状の気流を放出する渦輪生成部(31)を含む
放出装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1つに記載の放出装置において、
前記放出部(30)は、静電噴霧式の噴霧部(38)を含む
放出装置。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1つに記載の放出装置において、
前記空間(S)の環境状態を調整する環境調整部(90)と、
前記有用物質(U)と該有用物質(U)に対応する環境状態とを含むデータを記憶する記憶部(82)とを更に備え、
前記制御装置(80)は、前記記憶部(82)に記憶されたデータに基づき、前記放出部(30)から放出する前記有用物質(U)に対する環境状態を取得し、該環境状態を満たすように前記環境調整部(90)を制御する
放出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、放出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、呼吸器系に薬剤を投与するための吸入器が開示されている。特許文献1の吸入器は、圧電素子によりノズル板を振動させることで吸入剤を噴霧する。噴霧された吸入剤は、使用者の鼻と口とを覆うマスク型の吸入部を介して、使用者の呼吸器に届けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、人は、概日リズムなどの生体リズムを備えている。概日リズムでは、約24時間の周期で体温やホルモンバランス等の生理現象が変化する。このような生体リズムを研究する時間生物学という分野がある。この時間生物学において、人の生体リズムに応じて、病気の症状が出やすいタイミングや、体内で有用物質が吸収されやすいタイミングがあることがわかってきている。
【0005】
特許文献1の吸入器は、病院や自宅での治療の際に使用されるため、通院等のタイミングによっては必ずしも対象者にとって効率よく有用物質が投与されていない場合があった。
【0006】
本開示の目的は、対象者に効率よく有用物質を投与することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1の態様は、
対象者(T)が存在する空間(S)に有用物質(U)を放出する放出部(30)と、
時間生物学的情報に基づいて前記放出部(30)を制御する制御装置(80)とを備えている放出装置である。
【0008】
第1の態様では、制御装置(80)が時間生物学的情報に基づいて放出部(30)を制御するので、対象者にとって必要なタイミングに合わせて、有用物質(U)を放出できる。これにより、効果の高いタイミングで対象者に効率よく有用物質(U)を投与できる。
【0009】
本開示の第2の態様は、第1の態様の放出装置において、
前記制御装置(80)は、前記放出部(30)から前記有用物質(U)が放出される時間の累計が、1日のうちで1時間以上となるように前記放出部(30)から前記有用物質(U)を放出させる。
【0010】
人にとって有用物質の効果を高く得られるのは、体内の有用物質の濃度を長時間に亘って有効な濃度に保つことである。第2の態様では、対象者(T)に対して長時間に亘って有用物質(U)を投与できる。
【0011】
本開示の第3の態様は、第1又は第2の態様の放出装置において、
前記対象者(T)に供給される前記有用物質(U)の濃度を測定する濃度センサ(53)を更に備え、
前記制御装置(80)は、前記濃度センサ(53)の出力に基づいて前記有用物質(U)の放出量を調整する。
【0012】
第3の態様では、濃度センサ(53)により、対象者(T)に供給される有用物質(U)の濃度を適切な濃度に保つことができる。
【0013】
本開示の第4の態様は、第1~第3の態様のいずれか1つの放出装置において、
前記対象者(T)の生体情報を取得する生体センサ(60)を更に備え、
前記制御装置(80)は、前記生体センサ(60)で取得した生体情報に基づいて前記放出部(30)から前記有用物質(U)を放出させる。
【0014】
第4の態様では、生体センサ(60)により、対象者(T)の生体情報に基づいて有用物質(U)を放出できる。
【0015】
本開示の第5の態様は、第4の態様の放出装置において、
前記生体センサ(60)は、前記生体情報として前記対象者(T)の心拍又は体温を検出し、
前記制御装置(80)は、前記生体センサ(60)で検出した心拍又は体温から前記対象者(T)のサーカディアンリズムを推定し、推定した前記サーカディアンリズムに基づいて前記放出部(30)から前記有用物質(U)を放出させる。
【0016】
第5の態様では、制御装置(80)が生体センサ(60)で検出した心拍又は体温から対象者(T)のサーカディアンリズムを推定する。推定したサーカディアンリズムに基づいて放出部(30)から有用物質(U)が放出される。これにより、対象者(T)の状態に合わせた最適なタイミングで対象者(T)に有用物質を投与できる。
【0017】
本開示の第6の態様は、第4又は5の態様の放出装置において、
前記生体センサ(60)は、前記生体情報として前記対象者(T)の呼吸周期を検出し、
前記制御装置(80)は、前記対象者(T)が空気を吸い込むときにあわせて前記放出部(30)から前記有用物質(U)を放出させる。
【0018】
第6の態様では、制御装置(80)が対象者(T)の吸気に合わせて有用物質(U)を放出させるので、使用する有用物質(U)の量を低減できる。
【0019】
本開示の第7の態様は、第1~第6の態様のいずれか1つの放出装置において、
前記放出部(30)は、渦輪状の気流を放出する渦輪生成部(31)を含む。
【0020】
第7の態様では、渦輪生成部(31)により、指向性の高い渦輪(R)を放出するので、渦輪(R)に有用物質(U)を付与することで、効率よく対象者(T)に有用物質(U)を投与できる。
【0021】
本開示の第8の態様は、第1~第7の態様のいずれか1つの放出装置において、
前記放出部(30)は、静電噴霧式の噴霧部(38)を含む。
【0022】
第8の態様では、静電噴霧式の噴霧部(38)により、放出する有用物質(U)を微粒化できる。
【0023】
本開示の第9の態様は、第1~第8の態様のいずれか1つの放出装置において、
前記空間(S)の環境状態を調整する環境調整部(90)と、
前記有用物質(U)と該有用物質(U)に対応する環境状態とを含むデータを記憶する記憶部(82)とを更に備え、
前記制御装置(80)は、前記記憶部(82)に記憶されたデータに基づき、前記放出部(30)から放出する前記有用物質(U)に対する環境状態を取得し、該環境状態を満たすように前記環境調整部(90)を制御する。
【0024】
第9の態様では、制御装置(80)が、記憶部(82)に記憶されたデータに基づいて有用物質(U)に対する環境状態を満たすように環境調整部(90)を制御する。これにより、有用物質(U)が対象者(T)に効率よく作用する環境状態の情報を記憶部(82)に記憶させることができ、対象者(T)に有用物質(U)を効率よく投与できる環境を整えられる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、実施形態1の放出装置の概略の全体構成図である。
【
図3】
図3は、放出装置の概略のブロック図である。
【
図4】
図4は、放出装置の時間生物学的情報に基づく制御のフローチャートである。
【
図9】
図9は、実施形態2の放出装置における概略の全体構成図である。
【
図10】
図10は、実施形態3の放出装置における概略の全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本開示の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0027】
《実施形態1》
実施形態1について説明する。
【0028】
図1に示すように、実施形態1の放出装置(10)は、対象者(T)が存在する室内空間(S)に配置される。対象者(T)は、例えば室内空間(S)において、ベッドなどの寝具(B)の上で就寝する。本例では、対象者(T)は、喘息の呼吸器疾患があり、咳発作の症状がある。対象者(T)の呼吸器疾患は、咳発作の症状が生じる慢性閉塞性肺疾患(COPD)や、気管支炎でもよい。
【0029】
実施形態1の放出装置(10)は、対象者(T)に対して有用物質(U)を放出する装置である。具体的には、放出装置(10)は、対象者(T)の対象部位に向けて有用物質(U)を放出する。本例における対象者(T)の対象部位は、口及び鼻である。
【0030】
本例の有用物質(U)は、シネオール、メントール、及びテルピネン-4-オールを含む。なお、有用物質(U)に含まれる成分の配合量は、対象者(T)の症状や、上記成分の他に配合される成分などに応じて適宜選択されるものであり、特に限定されるものではない。
【0031】
-放出装置-
図1に示すように、放出装置(10)は、空調部(20)と、放出部(30)と、温度センサ(51)と、湿度センサ(52)と、濃度センサ(53)と、接触センサ(54)と、カメラ(55)と、制御装置(80)とを備えている。
【0032】
〈空調部〉
空調部(20)は、室内空間(S)の空調を行う。
図1に示すように、空調部(20)は、例えば、壁掛け式の室内ユニット(21)を有する。室内ユニット(21)は、図示を省略した室外ユニットと冷媒配管によって連結される。空調部(20)は、冷凍サイクルを行う冷媒によって、室内空気を冷却又は加熱する。これにより、室内空間(S)の空気の温度が調整される。空調部(20)は、室内空気の温度に加えて、該室内空気の湿度を調整する。空調部(20)は、室内空間(S)の環境状態である温度と湿度とを調整する環境調整部(90)を構成する。
【0033】
〈放出部〉
図1に示すように、放出部(30)は、例えば室内空間(S)の棚(P)の上に置かれている。放出部(30)は、室内空間(S)に有用物質(U)を放出する。
図2に示すように、放出部(30)は、渦輪生成部(31)と物質供給部(32)とを含む。渦輪生成部(31)は、渦輪状の気流(渦輪(R))を放出する。物質供給部(32)は、有用物質(U)を気流(渦輪(R))に供給する。
【0034】
放出部(30)は、有用物質(U)を渦輪(R)に含ませて、有用物質(U)を含んだ渦輪(R)を対象者(T)の対象部位に向かって供給する。有用物質(U)は、気体、液体、及び固体のいずれであってもよく、液体又は固体である場合には、微粒子状であることが好ましい。本例の渦輪生成部(31)は、室内空間(S)の環境状態である気流を調整する環境調整部(90)を構成する。
【0035】
(渦輪生成部)
図2に示すように、渦輪生成部(31)は、ケーシング(40)と、押出機構(45)と、可動ノズル(46)とを備えている。ケーシング(40)は、ケーシング本体(41)と、前板(42)と、周壁(43)とを有する。ケーシング本体(41)は、前側が開放された箱状に形成されている。前板(42)は、ケーシング本体(41)の前側の開放面を塞ぐ略板状に形成されている。前板(42)の中央部には、円形の放出口(44)が前後に貫通して形成される。周壁(43)は、前板の後面に連続して略筒状に形成されている。周壁(43)は、前側に向かうにつれて縮径するテーパ状に形成される。
【0036】
押出機構(45)は、ケーシング(40)内の後方寄りに配置される。押出機構(45)は、振動板(45a)と、該振動板(45a)を駆動するリニアアクチュエータ(45b)とを有する。リニアアクチュエータ(45b)は、振動板(45a)を前後に変位させる。リニアアクチュエータ(45b)の基端(後端)は、ケーシング本体(41)の後壁に支持される。リニアアクチュエータ(45b)の先端(前端)は、振動板(45a)の中央に連結している。
【0037】
ケーシング(40)の内部には、振動板(45a)から放出口(44)に亘って、空気が流れる空気通路(C)が形成される。渦輪生成部(31)では、押出機構(45)によって押し出された空気通路(C)の空気が、放出口(44)から渦輪(R)となって放出される。
【0038】
前板(42)の中央部には、可動ノズル(46)が設けられている。可動ノズル(46)の先端は、円形状に形成される。可動ノズル(46)は、回転軸を介してモータ(図示省略)と連結する。モータによって回転軸が回転駆動されると、可動ノズル(46)の向きが調節される。可動ノズル(46)は、室内空間(S)に向かっている。可動ノズル(46)の向きが調節されることによって、気流(渦輪(R))の向きが変化する。これにより、対象者(T)の対象部位に向けて、渦輪(R)を放出できる。
【0039】
(物質供給部、通路形成部、物質供給口)
物質供給部(32)は、所定の有用物質(U)を気流(渦輪(R))に付与するための装置である。物質供給部(32)は、有用物質(U)が貯留されたタンクと、該タンクの有用物質(U)を搬送する搬送部とを含む(図示省略)。搬送部は、例えば空気ポンプで構成される。物質供給部(32)は、有用物質を気化させる気化式の物質発生部を含んでもよい。
【0040】
放出部(30)は、通路形成部(33)と、物質供給口(34)とを更に含む。通路形成部(33)は、ケーシング(40)の周壁(43)の後側に配置される。通路形成部(33)は、周壁(43)の内周面に沿うような略筒状に形成される。通路形成部(33)は、前側に向かうにつれて縮径するテーパ状に形成される。
【0041】
ケーシング本体(41)の内壁と、周壁(43)と、通路形成部(33)との間には、有用物質(U)が一時的に貯留される貯留室(35)が区画される。貯留室(35)は、通路形成部(33)の周囲に形成される略筒状の空間である。貯留室(35)には、所定の濃度に調整された有用物質(U)が物質供給部(32)から適宜供給される。
【0042】
放出部(30)は、物質供給口(34)を有する。物質供給口(34)は、有用物質(U)を空気通路(C)に供給するための開口である。物質供給口(34)は、放出口(44)の近傍に配置される。具体的には、物質供給口(34)は、通路形成部(33)の筒軸方向の下流端部と、放出口(44)の内周縁部との間に形成される。これにより、空気通路(C)の下流端の周囲に円環状の物質供給口(34)が形成される。有用物質(U)は、物質供給部(32)からケーシング(40)内に区画された貯留室(35)へ供給され、物質供給口(34)を介して、空気通路(C)に供給される。
【0043】
〈温度センサ、湿度センサ〉
温度センサ(51)は、室内空間(S)の温度を測定する。湿度センサ(52)は、室内空間(S)の湿度を測定する。本例の温度センサ(51)及び湿度センサ(52)は、空調部(20)の室内ユニット(21)に取り付けられている。なお、温度センサ(51)及び湿度センサ(52)は、放出部(30)に取り付けられてもよく、空調部(20)及び放出部(30)と独立して室内空間(S)に設けられてもよい。
【0044】
〈濃度センサ〉
濃度センサ(53)は、対象者(T)に供給される有用物質(U)の濃度を測定する。本例の濃度センサ(53)は、対象者(T)の頭部の横に置かれている。本例の濃度センサ(53)は、室内空間(S)の有用物質(U)の濃度を検出する。濃度センサ(53)は、放出部(30)又は空調部(20)に設けられてもよく、対象者(T)の対象部位に貼り付けられていてもよい。
【0045】
〈接触センサ、カメラ〉
接触センサ(54)は、腕時計と一体に構成されるウェアラブルセンサである。本例の接触センサ(54)は、対象者(T)の腕に装着される。接触センサ(54)は、対象者(T)の心拍及び体温の基となる信号を検出する。言い換えると、接触センサ(54)は、対象者(T)の生体情報を取得する生体センサ(60)を構成する。
【0046】
カメラ(55)は、放出部(30)に取り付けられ、室内空間(S)を撮像する。カメラ(55)は、対象者(T)の呼吸の様子を撮像することによって、対象者(T)の呼吸の周期を検出する。言い換えると、カメラ(55)は、生体センサ(60)を構成する。
【0047】
加えて、カメラ(55)は、対象者(T)の対象部位(口及び鼻)の位置を検出する。言い換えると、カメラ(55)は、対象者(T)の対象部位の位置情報を特定する位置センサ(70)を兼ねている。
【0048】
〈制御装置〉
制御装置(80)は、制御基板上に搭載されたマイクロコンピュータと、該マイクロコンピュータを動作させるためのソフトウエアを格納するメモリディバイス(具体的には、半導体メモリ)とを含む。制御装置(80)は、記憶部(82)と、設定部(81)とを含む。なお、制御装置(80)は、制御基板とは別体の記憶部(82)を備えてもよい。
【0049】
記憶部(82)は、複数種の有用物質(U)と、各有用物質(U)に対応する環境状態とを含むデータを記憶する。有用物質(U)に対応する環境状態とは、有用物質(U)が対象者(T)に効率よく作用する環境状態のことである。ここでいう環境状態は、室内空間(S)の温度及び湿度、対象部位(気流の向き)である。
【0050】
記憶部(82)に記憶された有用物質(U)は、単一の物質で構成されてもよいし、複数の物質が混合された混合物質でもよい。混合物質は、他の混合物質と含まれる物質の混合比が異なっていてもよい。
【0051】
記憶部(82)には、各有用物質(U)に対応する環境状態の他に、各有用物質(U)に対応する症状又は疾患、有用物質(U)の濃度、及び有用物質(U)の放出時間のデータが記憶されている。
【0052】
設定部(81)は、対象者(T)によって選択された症状又は疾患が設定される。設定部(81)に症状又は疾患が設定されると、制御装置(80)は、設定された症状又は疾患に基づいて、記憶部(82)に記憶された症状又は疾患に対応する所定の有用物質(U)を選択する。
【0053】
図3に示すように、制御装置(80)は、放出部(30)、環境調整部(90)、温度センサ(51)、湿度センサ(52)、濃度センサ(53)、生体センサ(60)、及び位置センサ(70)と有線又は無線により接続され、これらと信号の授受が可能に構成されている。
【0054】
制御装置(80)は、時間生物学的情報に基づいて放出部(30)を制御する。言い換えると、制御装置(80)は、対象者(T)の症状が出やすいタイミング又は対象者(T)に有用物質(U)が作用しやすいタイミングに、放出部(30)から有用物質(U)が放出されるように制御する。時間生物学的情報については、後述する。
【0055】
制御装置(80)は、生体センサ(60)で検出した生体情報(心拍及び体温の情報)に基づいて、渦輪生成部(31)の押出機構(45)を制御する。これにより、放出部(30)の渦輪生成部(31)から有用物質(U)を含む渦輪(R)が放出される。加えて、制御装置(80)は、生体センサ(60)で検出した呼吸周期に基づいて、対象者(T)が空気を吸い込むときに合わせて、放出部(30)から有用物質(U)を放出させる。
【0056】
制御装置(80)は、記憶部(82)に記憶されたデータに基づき、放出部(30)から放出する有用物質(U)に対する環境状態を取得し、該環境状態を満たすように環境調整部(90)を制御する。具体的には、制御装置(80)は、記憶部(82)に記憶された対象部位のデータに基づいて、渦輪生成部(31)から渦輪(R)を放出する。その際、制御装置(80)は、記憶部(82)に記憶された対象部位のデータに基づいて、放出部(30)の可動ノズル(46)の向きを調整する。これにより、対象者(T)の対象部位に向けて渦輪(R)が放出される。更に、制御装置(80)は、記憶部(82)に記憶された温度及び湿度のデータに基づいて、室内空間(S)が所定の温度及び湿度となるように、空調部(20)を制御する。
【0057】
制御装置(80)は、濃度センサ(53)の出力に基づいて、放出部(30)から放出される有用物質(U)の量を調整する。具体的には、制御装置(80)は、濃度センサ(53)から出力される室内空間(S)の有用物質(U)の濃度から、濃度センサ(53)と対象者(T)の対象部位との距離に基づいて、対象部位での有用物質(U)の濃度を推定する。制御装置(80)は、この推定濃度が記憶部(82)に記憶された所定濃度になるように、有用物質(U)の放出量を調整する。これにより、対象者(T)に供給される有用物質(U)の濃度を所定濃度に保つことができる。
【0058】
制御装置(80)は、放出部(30)から有用物質(U)が放出される時間の累計が、1日のうちで1時間以上となるように、放出部(30)から有用物質を放出させる。これにより、対象者(T)に長時間に亘って有用物質(U)を投与できる。
【0059】
制御装置(80)は、放出部(30)に設けられてもよいし、放出部(30)と別体であってもよい。例えば、制御装置(80)は、空調部(20)の制御ユニットやリモコンに設けられてもよい。制御装置(80)は、ローカルネットワーク又はインターネットなどに接続するサーバ装置や、各種の通信端末(携帯端末、パソコンなど)に設けられてもよい。
【0060】
-時間生物学的情報-
次に、時間生物学的情報について説明する。
【0061】
時間生物学的情報とは、生物に内在する生体リズム(体内時計)を研究する時間生物学において得られた情報のことである。時間生物学では、太陽や月が作り出す1日、1年、潮汐などに適応するサーカリズム(circa-rhythm)を主な研究対象としている。
【0062】
時間生物学で扱う生物の持つリズム(周期)としては、ウルトラディアンリズム(数十分から数時間)、概潮汐リズム(約12.4時間)、概日リズム(約24時間、サーカディアンリズムともいう)、サーカビディアンリズム(約2日)、概月リズム(約1か月)、概年リズム(約1年)等がある。
【0063】
時間生物学における研究では、上記のような生体リズムに基づいて、人が特定の症状を発症しやすいタイミングや、人にとって有用物質を吸収しやすい又は有用物質が代謝されやすいタイミングがあることが分かってきている。
【0064】
ここで、時間生物学によると、本例における咳発作の症状は、概日リズムに基づくホルモンバランスの変化によって、発症しやすいタイミングがあることが分かっている。具体的には、咳発作は、睡眠時における副交感神経が優位の状態で発症しやすい。詳細には、夕方から明け方にかけて、体内において内因性ステロイドホルモンが減少するため、咳発作を発症しやすい。特に明け方の時間帯は、咳発作が起きやすい。なお、内因性ステロイドホルモンは、日中に体内で分泌されて咳発作を抑制する作用がある。
【0065】
また、人にとって有用物質の効果を高く得られるのは、人の体内において長時間に亘って有用物質が有効な濃度で作用しているときであることが分かっている。このことから、有用物質(U)の効果を高く得るためには、対象者(T)に対して長時間に亘って有効な濃度の有用物質(U)を投与するのが望ましい。
【0066】
-運転動作-
放出装置(10)の運転動作について、
図1~
図8を参照しながら説明する。
【0067】
〈渦輪生成部の放出動作〉
図2に示すように、制御装置(80)が渦輪生成部(31)に信号を送ると、押出機構(45)の振動板(45a)がリニアアクチュエータ(45b)によって駆動される。振動板(45a)が前後に移動すると、空気通路(C)の空気が放出口(44)に向かって押し出される。
【0068】
空気通路(C)の流出端には、物質供給口(34)が形成されている。空気通路(C)の流出端の空気は、空気通路(C)のうちで最も流速が大きいため、最も圧力が低くなる。このため、圧力が低い空気が物質供給口(34)を通過すると、この空気の圧力と貯留室(35)の圧力との差により、貯留室(35)の有用物質(U)が空気通路(C)に吸引される。このようにして有用物質(U)を含んだ空気は、直ぐに放出口(44)に到達する。
【0069】
放出口(44)を通過する空気の流速は比較的大きな流速であるのに対し、その周囲の空気は静止している。このため、両者の空気の不連続面では、空気に剪断力が作用し、放出口(44)の外周縁部付近で渦流が発生する。この渦流により、放出口(44)から前進する渦輪状の気流(渦輪(R))が形成される。
【0070】
図1及び
図2では、この渦輪(R)を模式的に図示している。放出口(44)から放出された渦輪(R)は、有用物質(U)を含んだ状態で対象者(T)に向かって流れ、対象者(T)の対象部位(口及び鼻)に当たる。渦輪(R)は、拡散しにくく指向性が高い性質を有する。このため、有用物質(U)を含んだ渦輪(R)を対象者(T)の対象部位に確実に当てることができる。
【0071】
放出部(30)の放出口(44)からは、振動板(45a)の振動周期に応じて周期的又は間欠的に渦輪(R)が放出される。加えて、振動板(45a)の変位量に応じて、渦輪(R)の流速が変わる。制御装置(80)は、振動板(45a)の振動周期及び変位量を変更することにより、渦輪(R)の放出周期や放出速度を変更してもよい。
【0072】
〈時間生物学的情報に基づく制御〉
対象者(T)が自身の症状又は疾患を選択すると、制御装置(80)の設定部(81)には、選択された症状又は疾患が設定され、放出装置(10)の運転動作が開始される。本例では、対象者(T)は、疾患として喘息を選択する。
【0073】
図4に示すように、疾患が喘息である場合、放出装置(10)が運転状態になると、制御装置(80)は、対象者(T)の副交感神経が優位か否かを判定する(ステップST1)。具体的には、制御装置(80)は、接触センサ(54)における生体センサ(60)から心拍のRR間隔の情報を取得することで、対象者(T)の副交感神経が優位か否かを判定する。
【0074】
対象者(T)の副交感神経が優位だった場合(ステップST1のYES)、制御装置(80)は、対象者(T)が睡眠中か否かを判定する(ステップST2)。具体的には、制御装置(80)は、接触センサ(54)における生体センサ(60)からの心拍及び体温の情報を取得することで、対象者(T)が睡眠中か否かを判定する。これにより、時間生物学的情報に基づいて、睡眠中で副交感神経が優位な状態の対象者(T)は、咳発作が発症しやすい状態であると判断できる。
【0075】
対象者(T)が睡眠中であった場合(ステップST2のYES)、制御装置(80)は、現在時刻が所定時刻を過ぎているかを判定する(ステップST3)。本例では、所定時刻は深夜0時である。これにより、明け方(例えば午前4時頃)に咳発作を発症しやすい対象者(T)に対して、咳発作の発症前に有用物質(U)の投与できる。なお、本例では、所定時刻を深夜0時としたが、所定時刻は対象者(T)の症状に応じて他の時刻としてもよい。
【0076】
現在時刻が所定時刻を過ぎていた場合(ステップST3のYES)、制御装置(80)は、環境調整部(90)を制御する(ステップST4)。具体的には、制御装置(80)は、記憶部(82)に記憶されたデータに基づき、所定の有用物質(U)に対する環境状態を取得し、該環境状態を満たすように環境調整部(90)を制御する。
【0077】
これにより、所定の有用物質(U)が対象者(T)に効率よく作用する環境状態の情報を記憶部(82)に記憶させることで、所定の有用物質(U)を効率よく対象者(T)に投与できる環境を整えられる。環境調整部(90)の制御の詳細については、後述する。
【0078】
次に、制御装置(80)は、濃度センサ(53)の出力に基づいて、所定の有用物質(U)の放出量を調整する(ステップST5)。本例における有用物質(U)の濃度は、0.1ppb~1000ppbである。濃度センサ(53)の出力に基づく濃度制御についても、後述する。
【0079】
次に、制御装置(80)は、対象者(T)の呼吸の周期を検出する(ステップST6)。具体的には、制御装置(80)は、カメラ(55)における生体センサ(60)の情報を取得することで、対象者(T)の呼吸の周期を検出する。
【0080】
次に、制御装置(80)は、対象者(T)の呼吸の周期に合わせて、放出部(30)から対象者(T)の対象部位に向けて所定の有用物質(U)を放出させる(ステップST7)。具体的には、制御装置(80)は、放出部(30)の渦輪生成部(31)から対象者(T)の口及び鼻に向けて気流(渦輪(R))を発生させる。
【0081】
このように、対象者(T)の口及び鼻に所定の有用物質(U)を放出することで、所定の有用物質(U)が対象者(T)の鼻粘膜や気道粘膜に作用して体内に吸収される。これにより、血中の有用物質(U)の濃度が上昇する。その結果、対象者(T)の咳発作の症状が抑えられる。また、呼吸の周期に合わせて渦輪(R)を放出するので、有用物質(U)の使用量を低減できる。
【0082】
次に、制御装置(80)は、放出部(30)から所定の有用物質(U)が放出される時間の累計が、1日のうちで所定時間以上か否かを判定する(ステップST8)。本例における所定時間は、4時間である。これにより、長時間(1時間以上)に亘って、対象者(T)に所定の有用物質(U)を投与できる。なお、本例では、所定時間を4時間としたが、所定時間は対象者(T)の症状に応じて他の長さにしてもよい。
【0083】
ここで、放出部(30)から有用物質(U)が放出される時間の累計とは、放出部(30)の放出動作が行なわれている時間の累計ことである。例えば、対象者(T)が放出装置(10)の運転中に目覚めたことによって放出部(30)の放出動作が停止した場合であっても、目覚める前に行われていた放出動作時間と、再び就寝した後に行われた放出動作時間との合計が累計の時間となる。
【0084】
放出部(30)から所定の有用物質(U)が放出される時間の累計が、1日のうちで所定時間以上であった場合(ステップST8のYES)、制御装置(80)は、放出装置(10)の運転を停止させる。放出部(30)から所定の有用物質(U)が放出される時間の累計が、1日のうちで所定時間未満であった場合(ステップST8のNO)、制御装置(80)は、再びステップST1に戻る。
【0085】
〈環境調整部の制御〉
図4のステップST4の環境調整部(90)の制御について、
図5~
図7を参照しながら説明する。環境調整部(90)の制御では、室内空間(S)の温度制御、湿度制御、及び気流制御の少なくとも1つを行う。温度制御、湿度制御及び気流制御のうち複数の制御を行う場合は、どのような順序で行われてもよい。
【0086】
(温度制御)
図5に示すように、制御装置(80)は、記憶部(82)に記憶されたデータに基づき、所定の有用物質(U)に対応する所定温度を取得する(ステップST11)。次に、制御装置(80)は、温度センサ(51)の出力に基づき、室内空間(S)の温度を検出する(ステップST12)。次に、制御装置(80)は、記憶部(82)のデータから取得した所定温度と室内空間(S)の温度とを比較する(ステップST13)。
【0087】
次に、制御装置(80)は、ステップST13で比較した結果に基づき、室内空間(S)の温度が所定温度となるように環境調整部(90)を制御する(ステップST14)。具体的には、制御装置(80)は、空調部(20)に室内空間(S)の空気の温度が所定温度となるように調整させる。これにより、室内空間(S)の温度を、対象者(T)が所定の有用物質(U)を吸収しやすい温度に調整できる。
【0088】
(湿度制御)
図6に示すように、制御装置(80)は、記憶部(82)に記憶されたデータに基づき、所定の有用物質(U)に対応する所定湿度を取得する(ステップST21)。次に、制御装置(80)は、湿度センサ(52)の出力に基づき、室内空間(S)の湿度を検出する(ステップST22)。次に、制御装置(80)は、記憶部(82)のデータから取得した所定湿度と室内空間(S)の湿度とを比較する(ステップST23)。
【0089】
次に、制御装置(80)は、ステップST23で比較した結果に基づいて、室内空間(S)の湿度が所定湿度となるように環境調整部(90)を制御する(ステップST24)。具体的には、制御装置(80)は、空調部(20)に室内空間(S)の湿度が所定湿度となるように調整させる。これにより、室内空間(S)の湿度を、対象者(T)が所定の有用物質(U)を吸収しやすい湿度に調整できる。
【0090】
(気流制御)
図7に示すように、制御装置(80)は、記憶部(82)に記憶されたデータに基づき、所定の有用物質(U)に対応する対象部位を取得する(ステップST31)。次に、制御装置(80)は、位置センサ(70)によって対象者(T)の対象部位の位置を検出する(ステップST32)。具体的には、制御装置(80)は、カメラ(55)の情報から対象者(T)の口及び鼻の位置を検出する。
【0091】
次に、制御装置(80)は、対象者(T)の対象部位に向かって所定の有用物質(U)が放出されるように、渦輪生成部(31)の可動ノズル(46)の向きを調整する(ステップST33)。本例では、可動ノズル(46)は、対象者(T)の口及び鼻に向くように調整される。これにより、寝返り等により対象者(T)の姿勢が変化しても、可動ノズル(46)が対象部位の移動に追従できる。
【0092】
〈濃度センサの出力に基づく濃度制御〉
図4のステップST5の濃度センサ(53)の出力に基づく濃度制御について、
図8を参照しながら説明する。
【0093】
図8に示すように、制御装置(80)は、記憶部(82)に記憶されたデータに基づき、所定の有用物質(U)に対応する所定濃度を取得する(ステップST41)。次に、制御装置(80)は、濃度センサ(53)の出力に基づき、該濃度センサ(53)の位置における室内空間(S)の濃度を検出する(ステップST42)。次に、制御装置(80)は、検出された室内空間(S)の濃度に基づき、対象者(T)の対象部位における有用物質(U)の濃度を推定する(ステップST43)。次に、制御装置(80)は、記憶部(82)のデータから取得した所定濃度と推定した対象部位における濃度とを比較する(ステップST44)。
【0094】
次に、制御装置(80)は、ステップST44で比較した結果に基づいて、推定した濃度が所定濃度となるように、物質供給部(32)から供給される有用物質(U)の量を調整する(ステップST45)。これにより、対象者(T)に供給される有用物質(U)の濃度を所定濃度に保つことができる。加えて、対象者(T)に必要な量の有用物質(U)を調整して供給できるので、有用物質(U)の使用量を低減できる。
【0095】
-実施形態1の特徴-
本実施形態の特徴(1)は、放出装置(10)が、時間生物学的情報に基づいて放出部(30)を制御する制御装置(80)を備えていることである。
【0096】
この構成によれば、対象者(T)の症状が出やすいタイミング又は対象者(T)に有用物質(U)が作用しやすいタイミングなどの対象者(T)にとって最適なタイミングで、有用物質(U)を放出できる。これにより、効果の高いタイミングで対象者(T)に効率よく有用物質(U)を投与できる。
【0097】
本実施形態の特徴(2)は、制御装置(80)が、放出部(30)から有用物質(U)が放出される時間の累計が、1日のうちで1時間以上となるように放出部(30)から有用物質(U)を放出させる。
【0098】
ここで、呼吸器疾患等の投薬に使用される吸入器では、既存の経口薬に関する投与の概念を用いて、有用物質の濃度、噴霧量、噴霧時間、及び吸入回数等が決定されている。特に、噴霧時間に関しては、数分から数十分程度の短い時間での噴霧が行われている。これに対して、人にとって有用物質の効果を高く得られるのは、体内の有用物質の濃度が長時間に亘って有効な濃度に保たれているときである。従って、従来の吸入器では、対象者(T)に対して効率よく有用物質(U)を投与できないことがあった。この構成によれば、対象者(T)に対して長時間に亘って有用物質(U)を投与できるため、効率よく対象者(T)に有用物質(U)を投与できる。
【0099】
加えて、長時間に亘って対象者(T)に有用物質(U)を投与できるので、有用物質(U)の種類によっては、短時間の投与に比べて、低濃度の有用物質(U)を投与できる。これにより、有用物質(U)による副作用を低減できる。
【0100】
本実施形態の特徴(3)は、制御装置(80)は、濃度センサ(53)の出力に基づいて有用物質(U)の放出量を調整する。
【0101】
この構成によれば、対象者(T)に供給される有用物質(U)の濃度を所定濃度に保つことができる。加えて、対象者(T)に必要な量の有用物質(U)を調整して供給できるので、有用物質(U)の使用量を低減できる。
【0102】
本実施形態の特徴(4)は、制御装置(80)が、生体センサ(60)で取得した生体情報に基づいて放出部(30)から有用物質(U)を放出させる。
【0103】
この構成によれば、制御装置(80)は、対象者(T)の生体情報に基づいて対象者(T)の状態を判定して、最適なタイミングで対象者(T)に有用物質(U)を放出できる。
【0104】
本実施形態の特徴(5)は、生体センサ(60)が対象者(T)の呼吸周期を検出し、制御装置(80)が、対象者(T)が空気を吸い込むときに合わせて放出部(30)から有用物質(U)を放出させる。
【0105】
この構成によれば、対象者(T)が空気を吸い込むときに合わせて有用物質(U)が放出されるので、有用物質(U)の使用量を低減できる。
【0106】
本実施形態の特徴(6)は、放出部(30)が渦輪状の気流を放出する渦輪生成部(31)を含むことである。
【0107】
この構成によれば、渦輪生成部(31)によって生成された渦輪(R)に有用物質(U)を供給することで、効率よく対象者(T)に有用物質(U)を投与できる。また、渦輪(R)は、空気が拡散しにくく指向性が高いため、有用物質(U)を対象者(T)に確実に投与できる。
【0108】
さらに、室内空間(S)に複数の人が存在していても、対象者(T)にのみ有用物質(U)を投与できる。これにより、対象者(T)以外の人への有用物質(U)の投与がされないため、対象者(T)以外の人の負担も軽減される。
【0109】
また、対象者(T)の対象部位の周辺にのみ有用物質(U)が放出されることにより、壁や衣類へ有用物質(U)が付着することを抑制でき、着色を抑制できる。
【0110】
本実施形態の特徴(7)は、制御装置(80)は、記憶部(82)に記憶されたデータに基づき、放出部(30)から放出する有用物質(U)に対する環境状態を取得し、該環境状態を満たすように放出部(30)及び空調部(20)を制御する。
【0111】
この構成によれば、所定の有用物質(U)が対象者(T)に効率よく作用する環境状態の情報を記憶部(82)に記憶させることで、有用物質(U)を効率よく対象者(T)に投与できる環境を整えられる。
【0112】
本実施形態の特徴(8)は、制御装置(80)は、対象者(T)の就寝中に放出部(30)から有用物質(U)を放出させる。この構成によれば、対象者(T)は、通常の生活の中で自然に有用物質(U)を摂取できる。従って、対象者(T)の負担を軽減できる。
【0113】
ここで、就寝中の副交感神経が優位な状態では、対象者(T)の筋肉が緩み血管が広がっているため、血液が流れやすく、栄養や酸素等が全身に送られやすい。制御装置(80)は、対象者(T)の就寝中に放出部(30)から有用物質(U)を放出させるので、対象者(T)の血中に取り込まれた有用物質(U)が対象者(T)に吸収及び代謝されやすい。
【0114】
-実施形態1の変形例-
上述した実施形態1は、以下のような変形例の構成としてもよい。なお、以下の変形例で説明する構成は、詳細を後述する実施形態2~4においても適用できる。
【0115】
〈変形例1〉
本実施形態の放出装置(10)では、喘息の疾患における所定の有用物質(U)をサルブタモール(短時間作用性β2刺激剤)としてもよい。
【0116】
本変形例において記憶部(82)に記憶される有用物質(U)の濃度は、0.01%である。また、本変形例で記憶部(82)に記憶される室内空間(S)の所定温度は、23℃以上であり、室内空間(S)の所定湿度は、65%RH以上である。
【0117】
本変形例においても、時間生物学的情報に基づく制御によって放出装置(10)の運転動作を行うことができる。その場合、環境調整部(90)の制御における温度制御では、ステップST14において、制御装置(80)は、空調部(20)に室内空間(S)の空気の温度が23℃以上となるように調整させる。環境調整部(90)の制御における湿度制御では、ステップST24において、制御装置(80)は、空調部(20)に室内空間(S)の空気の湿度が65%RH以上となるように調整させる。
【0118】
濃度センサ(53)の出力に基づく制御では、ステップST45において、推定した濃度が0.01%となるように、物質供給部(32)から供給される有用物質(U)の量を調整する。これにより、実施形態1と同様の効果を得ることができる。
【0119】
〈変形例2〉
本実施形態の放出装置(10)では、対象者(T)の疾患は、睡眠障害でもよい。
【0120】
本変形例では、放出装置(10)の接触センサ(54)は、対象者(T)の頭部に装着される。接触センサ(54)は、脳波及び心拍の基となる信号を検出する。制御装置(80)は、接触センサ(54)から検出された脳波及び心拍の情報に基づいて、放出部(30)から対象者(T)の対象部位に向けて有用物質(U)を含む渦輪(R)を放出させる。本変形例における対象部位は、口及び鼻である。
【0121】
また、本変形例における有用物質(U)は、ラベンダー精油と、セドロール(シダーウッド)精油とを含む。有用物質の濃度は、0.1ppb~1000ppbである。
【0122】
ここで、本変形例における睡眠障害は、ウルトラディアンリズムの一種である睡眠周期の乱れが関連している場合がある。睡眠周期とは、人の睡眠において観察されるレム睡眠とノンレム睡眠との繰り返しの周期である。この睡眠周期は、約90分の周期で繰り返される。レム睡眠は、身体を休める睡眠状態であり、覚醒に近い浅い眠りの状態である。ノンレム睡眠は、脳を休める睡眠状態であり、深い眠りの状態である。
【0123】
(時間生物学的情報に基づく制御)
放出装置(10)が運転状態になると、制御装置(80)は、対象者(T)がレム睡眠の状態にあるか否かを判定する。具体的には、制御装置(80)は、接触センサ(54)から脳波及び心拍から睡眠深度の情報を取得することで、対象者(T)がレム睡眠の状態であるか否かを判定する。対象者(T)がレム睡眠の状態の場合、制御装置(80)は、環境調整部(90)を制御する(ステップST4)。ステップST4以降の動作は、実施形態1と同様に行われる。
【0124】
制御装置(80)は、対象者(T)がレム睡眠の状態のときに放出部(30)から有用物質(U)を放出させるので、対象者(T)は最適なタイミングで有用物質(U)を体内に取り入れることができる。対象者(T)がレム睡眠の状態において、所定の有用物質(U)を対象者(T)の口及び鼻に当てることで、有用物質(U)が対象者(T)の鼻粘膜や気道粘膜に作用し、有用物質(U)の血中濃度が上昇する。これにより、対象者(T)の深い睡眠が誘導される。対象者(T)は深い睡眠状態になることで、睡眠障害が改善されるとともに記憶の定着や、成長の促進、美肌効果を得ることができる。
【0125】
〈変形例3〉
本実施形態の放出装置(10)では、対象者(T)の疾患は、月経前症候群(PMS)でもよい。
【0126】
本変形例では、放出装置(10)の接触センサ(54)は、対象者(T)の腕に装着される。接触センサ(54)は、心拍及び体温の基となる信号を検出する。制御装置(80)は、接触センサ(54)から検出された心拍及び体温の情報に基づいて、放出部(30)から対象者(T)の対象部位に向けて有用物質(U)を含む渦輪(R)を放出させる。
【0127】
本変形例における有用物質(U)は、レモングラス精油、及びゼラニウム精油を含む。有用物質の濃度は、0.1ppb~1000ppbである。
【0128】
ここで、本変形例における月経前症候群は、月経周期の後期である月経開始3日前から10日前の間に発症し、月経開始とともに消失する。月経前症候群は、身体的及び精神的症状の集まりである。月経前症候群は、約1か月の周期である概月リズムに基づくホルモンバランスの変化によって発症する。
【0129】
(時間生物学的情報に基づく制御)
放出装置(10)が運転状態になると、制御装置(80)は、対象者(T)が月経開始所定日前であるか否かを判定する。本変形例では、所定日は5日である。具体的には、制御装置(80)は、接触センサ(54)から体温の情報を取得し、直近1か月の体温周期の情報を取得する。制御装置(80)は、取得した体温周期から月経周期を推定することで、対象者(T)が月経開始5日前であるか否かを判定する。なお、本変形例では、所定日を5日としたが、対象者(T)の状態に応じて別の日数であってもよい。
【0130】
対象者(T)が月経開始所定日前であった場合、制御装置(80)は、対象者(T)が安静状態であるか否かを判定する。具体的には、制御装置(80)は、接触センサ(54)の心拍の情報を取得することで、対象者(T)が安静状態であるか否かを判定する。ここで、安静状態とは、激しい運動をしていない状態のことであり、例えば就寝中やデスクワーク中の状態のことである。
【0131】
対象者(T)が安静状態の場合、制御装置(80)は、環境調整部(90)を制御する(ステップST4)。ステップST4以降の動作は、実施形態1と同様に行われる。
【0132】
このように、制御装置(80)は、対象者(T)が月経前症候群を発症する前の最適なタイミングで放出部(30)から所定の有用物質(U)を放出する。これにより、月経前症候群の症状を緩和することができる。
【0133】
〈変形例4〉
本実施形態の放出装置(10)では、対象者(T)の疾患は、早朝高血圧症でもよい。
【0134】
本変形例における放出装置(10)の構成は、上記実施形態と同様の構成である。本変形例における対象部位は、口及び鼻である。本変形例における有用物質(U)は、マジョラム精油、ゼラニウム精油、ラベンダー精油、レモン精油、プチグレン精油、及びユーカリレモン精油を含む。有用物質(U)の濃度は、0.1ppb~1000ppbである。なお、本変形例の有用物質(U)の濃度は、病院で吸引する際の有用物質(U)の濃度に比べて低い。
【0135】
ここで、本変形例における早朝高血圧症では、概日リズムに基づくホルモンバランスの変化によって早朝に血圧が高くなる。一般に、就寝中では人は副交感神経が優位になっているため血圧が低い。明け方になると、自律神経が副交感神経から交感神経に入れ替わり、副腎皮質ホルモンが血管を収縮させて、血圧が上がっていく。早朝高血圧症では、この明け方の血圧の上昇が極端になる。
【0136】
(時間生物学的情報に基づく制御)
放出装置(10)が運転状態になると、制御装置(80)は、制御装置(80)は、対象者(T)が睡眠中であるか否かを判定する。対象者(T)が睡眠中であった場合、制御装置(80)は、現在時刻が所定時刻を過ぎているかを判定する。本例における所定時刻は、深夜0時である。なお、本例では、所定時刻を深夜0時としたが、対象者(T)の症状に応じて別の時刻であってもよい。
【0137】
現在時刻が所定時刻を過ぎていた場合、制御装置(80)は、環境調整部(90)を制御する(ステップST4)。ステップST4以降の動作は、実施形態1と同様に行われる。
【0138】
このように、明け方に高血圧症を発症しやすい対象者(T)に対して、発症前の最適なタイミングに有用物質(U)の投与できる。加えて、対象者(T)に長時間に亘って有用物質(U)を投与できる。これにより、早朝高血圧症の症状を抑制できる。
【0139】
《実施形態2》
実施形態2について説明する。本実施形態の放出装置(10)は、実施形態1の放出装置(10)において、放出部(30)と空調部(20)とが一体に構成されている。ここでは、本実施形態の放出装置(10)について、実施形態1の放出装置(10)と異なる点を説明する。
【0140】
図9に示すように、対象者(T)は、例えば室内空間(S)の椅子に座っている。放出装置(10)の放出部(30)は、空調部(20)の室内ユニット(21)の内部に設けられている。具体的には、室内ユニット(21)の内部には、渦輪生成部(31)と物質供給部(32)とが設けられている。渦輪生成部(31)の放出口(44)は、室内ユニット(21)の吹出口に設けられている。
【0141】
室内ユニット(21)の吹出口から渦輪生成部(31)で生成された渦輪(R)が対象者(T)の対象部位に向かって放出される。言い換えると、空調部(20)は、放出部(30)であり、環境調整部(90)でもある。
【0142】
空調部(20)は、室内空間(S)の環境状態を調整する。具体的には、空調部(20)は、室内空間(S)の空気の温度、湿度、及び気流の向きを調整する。制御装置(80)は、記憶部(82)に記憶された有用物質(U)に対応する環境状態(温度、湿度、及び気流の向き)を取得して、該環境状態を満たすように空調部(20)を制御する。
【0143】
生体センサであるカメラ(55)は、室内ユニット(21)に取り付けられる。カメラ(55)は、室内空間(S)を向いて、室内空間(S)を撮像する。濃度センサ(53)は、対象者(T)が座る椅子の上部に配置されている。
【0144】
本例においても、制御装置(80)は、時間生物学的情報に基づいて放出部(30)を制御するので、対象者(T)の症状が出やすいタイミング又は対象者(T)に有用物質(U)が作用しやすいタイミングなどの対象者(T)にとって最適なタイミングで、有用物質(U)を放出できる。これにより、効果の高いタイミングで対象者(T)に効率よく有用物質(U)を投与できる。
【0145】
《実施形態3》
実施形態3について説明する。本実施形態の放出装置(10)は、実施形態1の放出装置(10)において、放出部(30)は、渦輪生成部(31)に代えて、静電噴霧式の噴霧部(38)を含む。ここでは、本実施形態の放出装置(10)について、実施形態1の放出装置(10)と異なる点を説明する。
【0146】
図10に示すように、対象者(T)は、例えば室内空間(S)の椅子に座っている。放出装置(10)は、対象者(T)の前に置かれた机(D)の上に配置されている。放出装置(10)の放出部(30)は、静電噴霧式の噴霧部(38)を含む。噴霧部(38)は、噴霧ノズルと、対向電極とを有する。対向電極は、噴霧ノズルの周囲に配置される。本例では、物質供給部(32)には、液体の有用物質(U)が貯留されている。
【0147】
本例において、噴霧ノズルと外部に高電圧を印加すると、噴霧ノズルの先端では、電荷を帯びた液体と対向電極との間に電位差が生じ、電界が発生する。噴霧ノズルの先端の液体は、電界に引っ張られて、液糸状態で噴出される。その後、液糸状態で噴出された液体は、微細な液滴に分裂する。液体には電荷が付与されているため、分裂によって互いに斥力が生じて液滴は拡散し噴霧される。
【0148】
この構成によれば、静電噴霧式の噴霧部(38)によって、放出装置(10)から放出される有用物質(U)を微粒化できる。これにより、対象者(T)に有用物質(U)を効率よく投与できる。加えて、静電噴霧式の噴霧部(38)から放出される有用物質(U)は、電荷を帯びているため、グランドとなる対象者(T)の対象部位に誘引される。これにより、対象者(T)の対象部位に集中して有用物質(U)を噴霧できる。
【0149】
本例においても、制御装置(80)は、時間生物学的情報に基づいて放出部(30)を制御するので、対象者(T)の症状が出やすいタイミング又は対象者(T)に有用物質(U)が作用しやすいタイミングなどの対象者(T)にとって最適なタイミングで、有用物質(U)を放出できる。これにより、効果の高いタイミングで対象者(T)に効率よく有用物質(U)を投与できる。
【0150】
《実施形態4》
実施形態4について説明する。本実施形態の放出装置(10)は、実施形態1の放出装置(10)において、制御装置(80)の構成を変更したものである。ここでは、本実施形態の放出装置(10)について、実施形態1の放出装置(10)と異なる点を説明する。
【0151】
図11に示すように、制御装置(80)は、設定部(81)と、記憶部(82)と、推定部(83)とを含む。記憶部(82)には、実施形態1において記憶されたデータの他に、サーカディアンリズムにおける各有用物質(U)の最適な放出タイミングが記憶されている。
【0152】
推定部(83)は、接触センサ(54)で検出した心拍から対象者(T)のサーカディアンリズムを推定する。具体的には、推定部(83)は、接触センサ(54)で検出した心拍からRR間隔の情報を取得し、RR間隔の変化から対象者(T)の自律神経系が交感神経および副交感神経のどちらが優位な状態かを判断する。
【0153】
ここで、催眠作用のあるホルモンであるメラトニンは、副交感神経が優位な時には体内で多く分泌される一方、交感神経が優位な時には体内での分泌が抑制される。このように、体内でのメラトニンの分泌量と自律神経系の状態には相関関係がある。
【0154】
更に、このメラトニンは、体内での分泌量が約24時間の周期で変化する。具体的には、メラトニンは、入眠中の最も多く分泌され、目覚めた後にその分泌が抑制される。言い換えると、メラトニンの分泌量の変化は、サーカディアンリズムに即している。このことから、推定部(83)は、対象者(T)の自律神経系の状態から体内でのメラトニンの分泌量の変化を介して、対象者(T)のサーカディアンリズムを推定することができる。
【0155】
次に、本実施形態における時間生物学的情報に基づく制御について説明する。対象者(T)が自身の症状又は疾患を選択すると、制御装置(80)の設定部(81)には、選択された症状又は疾患が設定され、放出装置(10)の運転動作が開始される。本例では、対象者(T)は、疾患として睡眠障害を選択する。
【0156】
図12に示すように、放出装置(10)が運転状態になると、制御装置(80)は、接触センサ(54)から心拍の情報を取得する(ステップST51)。次に、ステップST52において、制御装置(80)の推定部(83)は、心拍の情報から対象者(T)のサーカディアンリズムを推定する。
【0157】
次に、ステップST53において、制御装置(80)は、記憶部(82)に記憶されたデータに基づいて有用物質(U)を放出する最適なタイミングの情報を取得し、推定部(83)で推定した対象者(T)のサーカディアンリズムにおいて、有用物質(U)の放出を開始する時刻を算出する。
【0158】
ステップST54において、制御装置(80)は、算出された放出開始時刻になったか否かを判定する。放出開始時刻になった場合(ステップST54のYES)、制御装置(80)は、環境調整部(90)を制御する(ステップST55)。ステップST55以降の動作(ステップST55~ステップST59の動作)は、実施形態1におけるステップST4~ステップST8と同様である。
【0159】
このように、本実施形態では、制御装置(80)が生体センサ(60)で検出した心拍から対象者(T)のサーカディアンリズムを推定し、推定したサーカディアンリズムに基づいて放出部(30)から有用物質(U)が放出される。これにより、対象者(T)の状態に合わせた最適なタイミングで対象者(T)に有用物質を投与できる。
【0160】
-実施形態4の変形例-
本実施形態の制御装置(80)の推定部(83)は、接触センサ(54)で検出した体温(皮膚温度)から対象者(T)のサーカディアンリズムを推定してもよい。具体的には、推定部(83)は、接触センサ(54)で検出した皮膚温度の情報を取得し、該皮膚温度の変化から対象者(T)の深部体温の変化を推定する。
【0161】
ここで、深部体温とは、体の中心部の体温のことである。深部体温は、通常37℃前後であり、皮膚温度よりも高い。この深部体温は約24時間の周期で変化する。具体的には、深部体温は、午後に最も高くなる一方、明け方に最も低くなる。言い換えると、深部体温の変化は、サーカディアンリズムに即している。このことから、推定部(83)は、対象者(T)の皮膚温の変化から、深部体温の変化を介して、対象者(T)のサーカディアンリズムを推定することができる。深部体温の変化に伴う体の変化としては、深部体温が最も高い状態から下降するに従って眠気が現れる一方、深部体温が最も低い状態から上昇する従って体が目覚めて体内の活動が活発になる。
【0162】
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0163】
上記実施形態1及び3の放出装置(10)の放出部(30)は、室内の家具(棚、机)の上に設定されたが、床面に設置される床置き式であってもよいし、壁面に設置される壁掛け式でもあってもよい。さらに、上記実施形態1及び3の放出装置(10)は、天井に設置されてもよい。
【0164】
上記各実施形態の空調部(20)は、室内空気の清浄を行う空気清浄機、室内空間を加湿する加湿器であってもよい。
【0165】
上記各実施形態の放出装置(10)において、放出部(30)は、渦輪生成部(31)及び噴霧部(38)を含んでもよい。
【0166】
上記実施形態3の放出部(30)は、空調部(20)と一体に構成されてもよい。
【0167】
上記実施形態1の放出部(30)の渦輪生成部(31)において、押出機構(45)は必ずしもリニアアクチュエータ(45b)及び振動板(45a)を有する構成でなくてもよい。例えば、押出機構(45)は、空気通路(C)において空気を搬送するように往復するピストンであってもよい。
【0168】
上記各実施形態の放出装置(10)において、環境調整部(90)による気流の調整は、渦輪生成部(31)以外で行ってもよい。例えば、室内ユニットの風向を調整することにより室内空間(S)の気流を調整してもよい。
【0169】
上記各実施形態の制御装置(80)は、対象者(T)が就寝中やデスクワーク中に有用物質(U)を放出させたが、対象者(T)の症状に応じて、効率よく有用物質(U)を投与できる時間帯(例えば、映画鑑賞中、読書中、食事中など)に有用物質(U)を放出すればよい。
【0170】
上記各実施形態の制御装置(80)は、口及び鼻に向かって有用物質(U)を放出したが、対象者(T)の疾患又は症状に応じて、別の部位に向けて放出してもよい。他の対象部位としては、例えば、皮膚、頭部(頭皮、毛根)、目(角膜、結膜)等である。
【0171】
上記各実施形態の接触センサ(54)は、症状に応じて体温及び心拍以外の生体情報(例えば、血圧、血糖、皮膚水分、体動等)を検出してもよい。
【0172】
上記各実施形態のカメラ(55)は、症状に応じて対象者(T)の呼吸の周期以外の生体情報(例えば、心拍、脈波、顔色等)を検出してもよい。
【0173】
以上、実施形態および変形例を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。また、以上の実施形態、変形例、及びその他の実施形態は、本開示の対象の機能を損なわない限り、適宜組み合わせたり、置換したりしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0174】
以上説明したように、本開示は、放出装置について有用である。
【符号の説明】
【0175】
10 放出装置
30 放出部
31 渦輪生成部
38 噴霧部
53 濃度センサ
60 生体センサ
80 制御装置
82 記憶部
90 環境調整部
T 対象者
S 室内空間(空間)
U 有用物質