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  • 特許-石炭の地下ガス化方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-14
(45)【発行日】2023-02-22
(54)【発明の名称】石炭の地下ガス化方法
(51)【国際特許分類】
   C10J 3/02 20060101AFI20230215BHJP
   E21B 43/295 20060101ALI20230215BHJP
【FI】
C10J3/02 H
E21B43/295
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019055826
(22)【出願日】2019-03-25
(65)【公開番号】P2020158549
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】504193837
【氏名又は名称】国立大学法人室蘭工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】板倉 賢一
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 邦夫
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-504950(JP,A)
【文献】国際公開第2016/063308(WO,A1)
【文献】特開2017-088693(JP,A)
【文献】特開2017-190441(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102562025(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10J 3/00
E21B 43/295
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地上から炭層に達する送風孔を介して、前記炭層の石炭にガス化剤を送り込み、前記石炭をガス化し、前記石炭のガス化により生成したガスを、前記炭層から前記地上に達する排出孔を介して排出させる、石炭の地下ガス化方法であって、
前記送風孔を介して、前記炭層にシリカ含有組成物を送り込むことを特徴とする、石炭の地下ガス化方法。
【請求項2】
前記シリカ含有組成物が、シリカと、有機物とを含有する、請求項1に記載の石炭の地下ガス化方法。
【請求項3】
前記シリカ含有組成物が、コケ植物、シダ植物およびイネ科植物からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1または2に記載の石炭の地下ガス化方法。
【請求項4】
前記シリカ含有組成物が、籾殻である、請求項1~3のいずれか1項に記載の石炭の地下ガス化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭の地下ガス化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭の地下ガス化(UCG:Underground Coal Gasification)は、石炭を、採炭して地上に取り出すことなく、地下の炭層にあるままでガス化する技術である(特許文献1を参照)。
【0003】
UCGの一般的な方法としては、例えば、まず、地上から炭層に達する2本のボーリング孔(送風孔および排出孔)を穿ち、両者を炭層内で連結させる。こうして、送風孔から、炭層内を経由して、排出孔にガスが流れるようにする。
送風孔から空気を不足ぎみに送りながら、炭層内の石炭を点火すると、この石炭は、発熱しながら二酸化炭素を発生させる。発生した二酸化炭素は、更に、加熱された石炭と反応して一酸化炭素となる。空気の代わりに酸素を用いれば、より熱量の高いガスが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭57-212295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
UCGの進行に伴い、炭層内の空洞の周辺(炭層、岩盤など)に亀裂が出現する場合がある。UCGを、例えば、深度が0~400m程度の浅部にある炭層に適用する場合、この亀裂によって、地上にガスが漏洩したり、地下水が汚染したり、地盤が沈下したりするおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、石炭の地下ガス化の進行に伴い炭層や岩盤に出現する亀裂を補修できる、石炭の地下ガス化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した。その結果、地球の表層の約60%を占めるシリカ(SiO)が、石炭のガス化の進行に伴い出現する亀裂の発達を防止する(すなわち、亀裂を補修する)ことを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[4]を提供する。
[1]地上から炭層に達する送風孔を介して、上記炭層の石炭にガス化剤を送り込み、上記石炭をガス化し、上記石炭のガス化により生成したガスを、上記炭層から上記地上に達する排出孔を介して排出させる、石炭の地下ガス化方法であって、上記送風孔を介して、上記炭層にシリカ含有組成物を送り込むことを特徴とする、石炭の地下ガス化方法。
[2]上記シリカ含有組成物が、シリカと、有機物とを含有する、上記[1]に記載の石炭の地下ガス化方法。
[3]上記シリカ含有組成物が、コケ植物、シダ植物およびイネ科植物からなる群から選ばれる少なくとも1種である、上記[1]または[2]に記載の石炭の地下ガス化方法。
[4]上記シリカ含有組成物が、籾殻である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の石炭の地下ガス化方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、石炭の地下ガス化の進行に伴い炭層や岩盤に出現する亀裂を補修できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】UCGの一例を示す概略図である。
図2】UCGの変形例を示す概略図である。
図3】UCGの別の変形例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
まず、図1図3に基づいて、石炭の地下ガス化(UCG)を説明する。
【0012】
図1は、UCGの一例を示す概略図である。
図1において、地下には、地上1に近い順に、土層2、岩石層である岩盤3、および、石炭の層である炭層4が配置されている。
UCGでは、まず、地上1から炭層4に達する2本のボーリング孔を穿ち、送風孔5および排出孔6とする。送風孔5および排出孔6は、それぞれ、管7および管8により構成される。
送風孔5と排出孔6とは、炭層4の内部で連結させる。図1においては、炭層4の内部に形成された空洞9によって、送風孔5と排出孔6とが連結している。
こうして、図1中に白抜き矢印で示すように、地上1から送風孔5を介して炭層4の内部の空洞9にガスを送り込むこと、および、空洞9から排出孔6を介して地上1にガスを排出させることができる。
【0013】
図2は、UCGの変形例を示す概略図である。
図2において、図1と同一の部分(同一の機能を有する部分)は、同一の符号で示し、説明も省略する。
図2においては、管7および管8が、いわゆる二重管になっている。すなわち、送風孔5を構成する管7が内管になっており、排出孔6を構成する管8が外管になっている。この場合、1本のボーリング孔を穿つだけでよいため、経済的である。
図2においても、図2中に白抜き矢印で示すように、地上1から送風孔5を介して炭層4の内部の空洞9にガスを送り込むこと、および、空洞9から排出孔6を介して地上1にガスを排出させることができる。
【0014】
図3は、UCGの別の変形例を示す概略図である。
図3において、図1および図2と同一の部分(同一の機能を有する部分)は、同一の符号で示し、説明も省略する。
図3においては、管7および管8により構成される二重管が、炭層4の内部で屈曲し、炭層4に沿う方向に延びている。図3においても、図3中に白抜き矢印で示すように、地上1から送風孔5を介して炭層4の内部の空洞9にガスを送り込むこと、および、空洞9から排出孔6を介して地上1にガスを排出させることができる。
【0015】
このような構成(図1図3)において、炭層4の石炭をガス化する。
まず、地上1から炭層4に達する送風孔5を介して、水蒸気、酸素、空気などを含有するガス化剤を、炭層4の石炭(より詳細には、空洞9の周囲にある石炭)に送り込みつつ、この石炭を加熱(点火)する。これにより、石炭がガス化して、一酸化炭素、水素などを含有する生成ガスが生成する。
そして、生成ガスを、炭層4から地上1に達する排出孔6を介して排出させる。排出孔6から地上1に排出した生成ガスは、適宜回収して、各種用途に使用する。
【0016】
石炭のガス化の基本的な反応式の一例を、以下に示す。
(1)石炭 → H+C+C
(2)C+O → CO
(3)C+1/2O → CO
(4)C+CO → 2CO
(5)C+HO → CO+H
(6)C+2HO → CO+2H
(7)CO+HO → CO+H
(8)C+2H → CH
【0017】
上記式(1)は、石炭の熱分解反応である。
上記式(2)および(3)は、酸素との反応であり、燃焼および部分燃焼を示しており、ガス化に必要な反応熱を供給する。
上記式(4)および(5)は、主となるガス化反応であり、吸熱反応である。
これらの反応に伴い、上記式(6)~(8)に示す反応も行なわれる。
【0018】
石炭のガス化は、百数十℃から始まり、仮に断熱性を有する耐火物を内張りした炉内で行なう場合は、約1500℃になると考えられる。
【0019】
以上がUCGの概要である。
UCGは、周期表で有名なロシアのメンデレーエフが1888年に構想を発表して以来、多くの国で研究開発が進められ、1956年にソ連で実用化された。オーストラリアやアメリカ等でも開発が進められている。
UCGの利点としては、例えば、危険な坑内作業を大幅に軽減できる。炭層4が極端に薄すぎる場合や、低品位である等の理由で一般の採炭法では経済的でない場合であっても、経済性が出てくる可能性がある。
【0020】
ところで、UCGの進行に伴い、図1図3に示すように、空洞9の周辺にある石炭のガス化が進行している炭層4や岩盤3などに亀裂10が出現する場合がある。
例えば、炭層4の厚さが約1~3mである場合、炭層4に出現する亀裂10の全長は、最大で約3mとなる。
通常は、全長が数センチメートルの表面積が小さい(規模が小さい)亀裂10が何十万個も出現し、そのほかに、全長が数メートルの亀裂10も出現する。
【0021】
このような亀裂10の出現によって、空洞9のガスが、亀裂10を通じて地上1に漏洩するおそれがある。また、地下水が汚染するおそれもある。更に、亀裂10によって、土層2、岩盤3および炭層4などが崩れて、地盤沈下するおそれがある。
これらの問題は、UCGを浅部の炭層4に適用する場合に、特に起こりやすい。
【0022】
そこで、本実施形態においては、少なくともシリカ(SiO)を含有するシリカ含有組成物を、例えば、ガス化剤と共に送風孔5に投入する。
これにより、送風孔5を介して、炭層4における石炭のガス化が進行している箇所(図1図3においては、空洞9の周辺の石炭)に、シリカ含有組成物を送り込む。
【0023】
送り込まれたシリカ含有組成物は、亀裂10の中に入り込む。
上述したガス化の反応によって、空洞9の内圧は相対的に高圧であることから、シリカ含有組成物は、亀裂10の中に入り込みやすい。
ガスが亀裂10を通じて漏洩している場合(ガス流れができている場合)は、特に、シリカ含有組成物は、亀裂10の中に入り込みやすい。必要に応じて、ガス化剤の流量調整などにより空洞9の圧力を変動させて、ガス流れを亀裂10に導いてもよい。
亀裂10の中に入り込んだシリカ含有組成物は、亀裂10の内壁などに付着する。
【0024】
ここで、上述したように、炭層4における石炭のガス化は高温で行なわれているため、亀裂10の中も同様に高温状態である。
この高温状態によって、亀裂10の中で、シリカ含有組成物に含まれるシリカ(非晶質シリカ)どうしが重合し、亀裂10が塞がれる。こうして、亀裂10が補修される。すなわち、亀裂10の発達を防止できる。シリカは、地殻を形成する物質の1つであり、地球の表層の約60%を占める物質であるため、亀裂10の補修が可能となる。
【0025】
亀裂10の発生状況の監視(センシング)できれば、適切なタイミングで、シリカ含有組成物を送風孔5に投入できるため、より効果的である。
亀裂10をセンシングする方法としては、例えば、破壊音(AE:Acoustic Emission)または微小地震を計測する方法が挙げられる。この計測により、亀裂10の発生数、規模、発生場所、モード(引張か剪断か)などを検知する。
【0026】
なお、送風孔5から投入したシリカ含有組成物が、炭層4にて使用されずに、生成ガスと共に排出孔6から排出されてもよい。この場合、例えば、排出孔6の出側にサイクロンなどの捕集部を設けて、排出孔6から排出されるシリカ含有組成物を捕集し、捕集したシリカ含有組成物を、再び送風孔5に投入してもよい。
【0027】
本実施形態に用いるシリカ含有組成物は、シリカのほかに、更に、有機物を含有することが好ましい。有機物としては、例えば、セルロース、ヘミセルロース、リグニンなどの炭水化物が挙げられる。有機物がガス化剤と共に送風孔5に投入されることにより、有機物が燃焼してガス化が進行しやすくなり、生成ガス量が増える。
【0028】
このようなシリカ含有組成物としては、シリカおよび有機物を含有する組成物であれば特に限定されない。
もっとも、ボーリング孔を穿つためには多大なコストがかかるため、使用するシリカ含有組成物に関しても、経済性の観点を考慮することが好ましい。
したがって、シリカ含有組成物としては、経済性の観点からは、シリカを含有する植物が好ましく、その具体例としては、コケ植物、シダ植物およびイネ科植物からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0029】
コケ植物としては、例えば、スギゴケ、ミズゴケ、クロゴケ、ヒカリゴケ、チョウチンゴケ、タチゴケ、ゼニゴケ、ジャゴケ、ウロコゴケ、ハタケゴケ、コマチゴケ、ウキゴケ、ツノゴケなどが挙げられる。
【0030】
シダ植物としては、例えば、イヌワラビ、ワラビ、スギナ、ゼンマイ、ヘゴ、ミズニラ、ヒカゲノカズラ、トクサなどが挙げられる。
【0031】
イネ科植物としては、例えば、小麦、デュラム小麦、ライ麦、ライ小麦、大麦、オーツ麦、はと麦、トウモロコシ、イネ、ヒエ、アワ、キビなどが挙げられる。
イネ科植物としては、イネ科植物種子が用いてもよい。
イネ科植物種子としては、例えば、イネ科植物種子そのもの;イネ科植物種子を切断、粉砕または粉末化したもの;イネ科植物種子を乾燥したもの;イネ科植物種子を乾燥した後に粉砕または粉末化したもの;等が挙げられる。
イネ科植物種子そのものとしては、例えば、種子外皮が挙げられ、その具体例としては、籾殻(もみがら)が好適に挙げられる。
【0032】
籾殻は、籾(籾米)の最も外側にある皮の部分であり、脱穀によって得られる。
籾殻は、世界各地で発生し、年間の総発生量は約8,000万トンであり、日本国内の発生量は年間200万トンである。
籾殻は、農業廃棄物の1つであり、比較的安価で入手できることから、シリカ含有組成物として籾殻を使用することは、経済性にも非常に優れる。
【0033】
籾殻の組成は、約70質量%がセルロース、ヘミセルロース、リグニン等の炭水化物であり、約15~20質量%がシリカであり、残部の大半が水分で、不純物としてアルカリ金属をわずかに含む。
高温状態(例えば約800℃以上)では、籾殻中のセルロース等の炭水化物がガス化して消失し、シリカ(非晶質シリカ)が重合する。
また、籾殻は燃えやすく、しかも、籾殻を一旦燃焼させると、燃焼速度が早く急激に燃焼し、ガス化が良好に進む(籾殻は約3,000kcal/kgの熱量がある)という利点もある。
【0034】
なお、以上の説明では、シリカ含有組成物によって、空洞9の周囲にある亀裂10を塞ぐ例を説明したが、シリカ含有組成物によって空洞9そのものを塞いでもよい。
UCGが終了した炭層4の空洞9は、通常、塞がれることなく放置され、例えば、二酸化炭素の貯留などに使用してもよい。
ところで、UCG終了時点で亀裂10が現れていない場合であっても、経年により、炭層4や岩盤3が崩れて、地盤沈下する可能性もある。
そこで、UCGが終了した炭層4の空洞9に、シリカ含有組成物を送り込む。この場合、空洞9の容積は、亀裂10の容積も大きいため、亀裂10を補修する場合よりも、トータルで、多量のシリカ含有組成物を送り込む。また、UCGが終了しているため、シリカを重合させるために、別途、空洞9を高温状態にする。こうして、空洞9においてシリカを重合させて、空洞9を塞ぐ。
【符号の説明】
【0035】
1:地上
2:土層
3:岩盤
4:炭層
5:送風孔
6:排出孔
7:管
8:管
9:空洞
10:亀裂
図1
図2
図3