(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-14
(45)【発行日】2023-02-22
(54)【発明の名称】耐圧防水鉄蓋の設置方法
(51)【国際特許分類】
E02D 29/14 20060101AFI20230215BHJP
E02D 29/12 20060101ALI20230215BHJP
【FI】
E02D29/14 Z
E02D29/12 C
(21)【出願番号】P 2019114862
(22)【出願日】2019-06-20
【審査請求日】2022-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000227593
【氏名又は名称】日之出水道機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久野 道広
(72)【発明者】
【氏名】三明 宏志
(72)【発明者】
【氏名】井手 裕太
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】実開平02-029938(JP,U)
【文献】実開昭54-097056(JP,U)
【文献】特開平04-176916(JP,A)
【文献】特開2002-364010(JP,A)
【文献】特開2012-061456(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0020458(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 29/14
E02D 29/12
E03F 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下構造物用の蓋本体と受枠とをボルトで固定する耐圧防水鉄蓋の設置方法であって、
高さ調整具を介して前記地下構造物の上面に対して空間を隔てて前記受枠を設置する工程と、
前記空間を内周側および外周側から覆うように型枠を設置する工程と、
前記空間にモルタルを充填する工程と、を含み、
前記型枠を設置する工程は、前記充填する工程の後に前記受枠の下面の内周縁全周に沿って空隙部が形成されるように、空隙部形成用型枠を設置する工程を含み、
前記充填する工程の後に、前記空隙部に弾性シーリング材を充填する工程をさらに含む、耐圧防水鉄蓋の設置方法。
【請求項2】
前記型枠は、前記空間を内周側から覆う内型枠と、前記空間を外周側から覆う外型枠とを含み、
前記内型枠は、前記空隙部形成用型枠と一体に形成されている、請求項1に記載の耐圧防水鉄蓋の設置方法。
【請求項3】
前記弾性シーリング材がシリコーン系弾性シーリング材である、請求項1または2に記載の耐圧防水鉄蓋の設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐圧防水鉄蓋の設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
耐圧防水鉄蓋は地下構造物用蓋の一種であり、例えば下水道のマンホールにおいて、大口径管の合流点に設置されるマンホールや、集中豪雨時に管内の圧力が高まり地下構造物用蓋に大きな圧力が加わるマンホール等、高い耐圧防水性が必要な地下構造物の上側開口部に設置される。このように耐圧防水鉄蓋には高い耐圧防水性が必要であることから、蓋本体と受枠とをボルトで固定して内圧0.2MPa程度の耐圧防水性を確保するようにしている。
【0003】
ところで、地下構造物用蓋を道路に設置する場合、その受枠の上面が路面と一致するように、高さ調整具を介して地下構造物の上面に対して空間を隔てて受枠を設置し、その受枠の下面と地下構造物の上面との間の空間にモルタルを充填する設置方法が、道路勾配が急な場所であっても容易に設置することが可能であることから一般的に行われている(例えば特許文献1、2参照)。
【0004】
しかし、このような設置方法で耐圧防水鉄蓋を設置した場合、地下構造物内に、耐圧防水鉄蓋が耐えることの可能な0.2MPa程度の非常に高い内圧が作用すると、異材質である受枠とモルタルとの接触面が剥離して隙間が生じ、その隙間から漏水(溢水)するという問題があった。
また、耐圧防水鉄蓋では上述のとおり蓋本体と受枠とをボルトで固定することから、閉蓋のボルト締めの際のトルクにより受枠に捩れ(変形)が発生し、その結果、受枠とモルタルとの接触面が剥離して上述の隙間が生じやすくなるという問題もあった。
そのため、0.2MPa程度の高い耐圧防水性が必要である耐圧防水鉄蓋を設置する場合は、上述の高さ調整具やモルタルを使用せずに、別途、地下構造物と同材質であるコンクリート製またはレジンコンクリート製の高さ調整リングを複数個積み重ね、地下構造物と高さ調整リングとを、さらに、高さ調整リング同士を、接着剤やシーリング材を塗布して強固に固定しながら受枠の高さを調整した上で、異材質である受枠と高さ調整リングとの接触面が剥離しないように、接触面の全面に接着剤やシーリング材を塗布して強固に固定を行わなければならない状況であった。
【0005】
しかしながら、高さ調整リングを使用する受枠の高さ調整は、高さ調整具およびモルタルを使用する場合に比べ、受枠の高さを調整する作業に手間がかかるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平4-176916号公報
【文献】特開平5-1426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、道路勾配にあわせて受枠を設置する際に高さを調整する作業が容易で、かつ高い耐圧防水性を確保することのできる耐圧防水鉄蓋の設置方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、地下構造物用の蓋本体と受枠とをボルトで固定する耐圧防水鉄蓋の設置方法である。この設置方法は、高さ調整具を介して地下構造物の上面に対して空間を隔てて受枠を設置する工程と、前記空間を内周側および外周側から覆うように型枠を設置する工程と、前記空間にモルタルを充填する工程と、を含み、前記型枠を設置する工程は、前記充填する工程の後に前記受枠の下面の内周縁全周に沿って空隙部が形成されるように、空隙部形成用型枠を設置する工程を含み、前記充填する工程の後に、前記空隙部に弾性シーリング材を充填する工程をさらに含む。
【0009】
このように、モルタルを充填する工程の後に、受枠の下面の内周縁全周に沿って形成した空隙部に弾性シーリング材を充填することで、剥離や隙間が生じやすい受枠の下面の内周縁部とモルタルとの界面部分に弾性シーリング材が存在することになるので、地下構造物内に高い内圧が作用しても、この弾性シーリング材の弾性的な作用と、受枠の下面とモルタルの双方に対する接着性により剥離や隙間が生じにくくなり、高い耐圧防水性を確保することができる。また、空隙部は地下構造物内から目視可能な位置に形成されるのでモルタルを充填する工程の後に容易に弾性シーリング材を充填することができる。さらに、受枠は地下構造物の上面上に高さ調整具を介して設置することから、道路勾配にあわせて受枠を設置する際に高さを調整する作業が容易である。
【0010】
この設置方法において型枠は、前記空間を内周側から覆う内型枠と、前記空間を外周側から覆う外型枠とを含むことができ、この場合、内型枠は、空隙部形成用型枠と一体に形成することができる。一方で、内型枠と空隙部形成用型枠とは別体とすることもできる。
【0011】
この設置方法において弾性シーリング材はシリコーン系弾性シーリング材であることが好ましい。シリコーン系弾性シーリング材は、金属(受枠)、モルタルの双方に対して接着性に優れ、さらに硫酸や塩酸等の耐薬品性を有しており、下水道環境下における耐久性にも優れているからである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、道路勾配にあわせて受枠を設置する際に高さを調整する作業が容易で、かつ高い耐圧防水性を確保することのできる耐圧防水鉄蓋の設置方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】耐圧防水鉄蓋の一例を示し、(a)は平面図、(b)は(a)のA-A断面図。
【
図2】本発明の一実施形態である耐圧防水鉄蓋の設置方法を示す要部の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に、耐圧防水鉄蓋の一例を示している。
この耐圧防水鉄蓋10は、例えば下水道のマンホールにおいて、高い耐圧防水性が必要な地下構造物の上側開口部に設置されるもので、丸型の蓋本体11と受枠12とを3本のボルト13で固定している。具体的には3本のボルト13を、受枠12側に設けている3個のナット14にそれぞれ締め込むことで蓋本体11と受枠12とを固定し、内圧0.2MPa程度の耐圧防水性を確保するようにしている。
一方、受枠12のフランジ部12aには、後述する高さ調整具を装着するための長円状の貫通孔12bが、その周方向に等間隔で6箇所に設けられている。
【0015】
次に、本発明の一実施形態である耐圧防水鉄蓋の設置方法について、
図2を参照しつつ説明する。
【0016】
まず、
図2(a)に示すように、受枠12の上面が路面と一致するように、高さ調整具20を介してマンホール等の地下構造物30の上面に対して空間40を隔てて受枠12を設置する。なお、地下構造物の上面とは、地下構造物の本体(躯体)の上面のほかに、地下構造物の本体(躯体)の上面に設置される高さ調整リング等の上面も含むものである。
この実施形態で使用している高さ調整具20は、地下構造物30の上面から立ち上がり、受枠12のフランジ部12aに設けた貫通孔12bを貫通するアンカーボルト21と、アンカーボルト21に沿って螺合しながら上下動可能であり、受枠12のフランジ部12aの下面に当接して受枠12の高さを調整するための高さ調整部材22と、アンカーボルト21に螺合し、受枠12のフランジ部12aの上面に当接して受枠12を固定するための固定用ナット23とを備える。ただし本発明では、この高さ調整具20以外の公知の高さ調整具を使用することもできる。
【0017】
次に、
図2(b)に示すように、空間40を内周側および外周側から覆うように型枠を設置する。
この実施形態において型枠は、空間40を内周側から覆う内型枠51と、空間40を外周側から覆う外型枠52と、後述するように、受枠12のフランジ部12aの下面の内周縁全周に沿って空隙部80(
図2(d)参照)を形成するための空隙部形成用型枠53とを含み、内型枠51と空隙部形成用型枠53とは別体に形成されている。したがって、この実施形態では、内型枠51と空隙部形成用型枠53とは別々に設置する。例えば、空隙部形成用型枠53を受枠12のフランジ部12aの下面の内周縁全周に沿って設置した後、内型枠51を、空間40を内周側から覆うように設置する。
一方、内型枠51と空隙部形成用型枠53とは一体に形成しておくこともできる。この場合、内型枠51を、空間40を内周側から覆うように設置することで、空隙部形成用型枠53も所定の位置(受枠12のフランジ部12aの下面の内周縁全周)に設置される。
なお、
図2(b)では、地下構造物30の上面にモルタル70との水密性を高めるためにシーリング材60を塗布しているが、このシーリング材60は塗布しなくてもよい。
【0018】
型枠(内型枠51、外型枠52および空隙部形成用型枠53)を設置した後、これら型枠で覆われた空間40に、
図2(c)に示すようにモルタル70を充填する。この空間40へのモルタル70の充填は、高さ調整具20を装着していない貫通孔12bより行うことができる。また、モルタル70としては、従前より受枠の高さ調整用に使用されている無収縮モルタル等を使用することができる。
【0019】
モルタル70が固化した後、型枠(内型枠51、外型枠52および空隙部形成用型枠53)を撤去する。そうすると、
図2(d)に示すように、空隙部形成用型枠53を撤去した後に、受枠12のフランジ部12aの下面の内周縁全周に沿って空隙部80が形成される。
【0020】
次に、この空隙部80に、
図2(e)に示すように弾性シーリング材90を充填する。弾性シーリング材90としては、シリコーン系弾性シーリング材、変成シリコーン系弾性シーリング材、ウレタン系弾性シーリング材、アクリル系弾性シーリング材、ポリサルファイド系弾性シーリング材等を使用することができるが、安価で入手もし易く、金属(受枠)、モルタルの双方に対して接着性に優れ、さらに硫酸や塩酸等の耐薬品性を有しており、下水道環境下における耐久性にも優れている点から、シリコーン系弾性シーリング材を使用することが好ましい。なお、空隙部80への充填および仕上げ作業のしやすさ、受枠12のフランジ部12aの下面およびモルタル70への接着性から、液ダレしない粘性(JIS A 5758に基づくスランプ試験(50℃)において0mm)を有する弾性シーリング材90を使用することが好ましい。
【0021】
このようにこの実施形態では、モルタル70を充填する工程の後に、受枠12のフランジ部12aの下面の内周縁全周に沿って形成した空隙部80に弾性シーリング材90を充填する。これにより、剥離や隙間が生じやすい受枠12のフランジ部12aの下面の内周縁部とモルタル70との界面部分に弾性シーリング材90が存在することになるので、地下構造物内に高い内圧が作用しても、この弾性シーリング材90の弾性的な作用と、受枠12のフランジ部12aの下面とモルタル70の双方に対する接着性により剥離や隙間が生じにくくなり、高い耐圧防水性を確保することができる。また、空隙部80は地下構造物内から目視可能な位置に形成されるのでモルタル70を充填する工程の後に容易に弾性シーリング材90を充填することができる。さらに、受枠12は地下構造物30の上面上に高さ調整具20を介して設置することから、道路勾配にあわせて受枠12を設置する際に高さを調整する作業が容易である。
【0022】
なお、この実施形態では丸型の耐圧防水鉄蓋を設置しているが、角型の耐圧防水鉄蓋も同様の設置方法により設置できる。
【0023】
また、この実施形態において空隙部形成用型枠53の断面形状は、高さ8mm×幅(奥行)10mmの矩形であるが、空隙部形成用型枠53の断面形状は矩形には限定されず、例えば楕円形等であってもよい。ただし、空隙部形成用型枠53の設置のしやすさや、空隙部形成用型枠53を撤去した後の空隙部80への弾性シーリング材90の充填のしやすさ等を考慮すると、空隙部形成用型枠53の断面形状は実質的に矩形であることが好ましい。
【0024】
また、空隙部形成用型枠53の断面形状の寸法は、大きすぎると耐圧防水鉄蓋10の上を通過する車両の荷重を支える力が低下し、モルタル70の亀裂や破壊につながる恐れがあり、一方で、小さすぎると受枠12のフランジ部12aの下面の内周縁部とモルタル70との界面部分に剥離や隙間が生じてしまう。したがって、空隙部形成用型枠53を撤去した後の空隙部80に充填する弾性シーリング材90による弾性的な作用と受枠12のフランジ部12aの下面とモルタル70の双方に対する接着性とをバランスよく発揮する点から、高さ、幅(奥行)共に5~15mm程度であることが好ましい。
【実施例】
【0025】
図2に示した設置方法により設置した耐圧防水鉄蓋(本発明例)と、
図2に示した設置方法において空隙部形成用型枠53を使用せずに設置した耐圧防水鉄蓋、すなわち、受枠12のフランジ部12aの下面の内周縁部とモルタル70との界面部分に弾性シーリング材90が存在せず、空隙部80にもモルタル70が充填された耐圧防水鉄蓋(比較例)について、耐圧防水性を評価する試験を実施した。この試験では、内圧試験機を使用し、耐圧防水鉄蓋の内側から水圧を掛け、水漏れの有無を確認した。
【0026】
試験の結果、本発明例の耐圧防水鉄蓋では、0.2MPaの水圧を掛けても水漏れは発生しなかった。
一方、比較例の耐圧防水鉄蓋では、0.1MPaに満たない水圧で水漏れが発生した。
【符号の説明】
【0027】
10 耐圧防水鉄蓋
11 蓋本体
12 受枠
12a フランジ部
12b 貫通孔
13 ボルト
14 ナット
20 高さ調整具
21 アンカーボルト
22 高さ調整部材
23 固定用ナット
30 地下構造物
40 空間
51 内型枠
52 外型枠
53 空隙部形成用型枠
60 シーリング材
70 モルタル
80 空隙部
90 弾性シーリング材