(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-14
(45)【発行日】2023-02-22
(54)【発明の名称】インビボ条件下で分析物の濃度を測定するための電極系及び酵素電極用拡散障壁として使用するためのブロックコポリマー
(51)【国際特許分類】
A61B 5/1486 20060101AFI20230215BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20230215BHJP
A61L 27/22 20060101ALI20230215BHJP
A61L 27/40 20060101ALI20230215BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20230215BHJP
G01N 27/30 20060101ALI20230215BHJP
【FI】
A61B5/1486
A61L27/16
A61L27/22
A61L27/40
A61L27/50
G01N27/30 A
(21)【出願番号】P 2020544191
(86)(22)【出願日】2019-05-02
(86)【国際出願番号】 EP2019061177
(87)【国際公開番号】W WO2019211348
(87)【国際公開日】2019-11-07
【審査請求日】2020-08-20
(32)【優先日】2018-05-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ エージー.
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー シュテック
(72)【発明者】
【氏名】アンゲーリカ フュルスト
(72)【発明者】
【氏名】グレーゴール オクビルク
(72)【発明者】
【氏名】ユルゲン ベーレ
【審査官】北島 拓馬
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-515305(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0213110(US,A1)
【文献】特開2002-100404(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0034972(US,A1)
【文献】国際公開第2010/028708(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/130841(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/06 - 5/22
B01D 61/00 -71/82
C12Q 1/00 - 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インビボ条件下で分析物の濃度を測定するための電極系であって、固定化された酵素分子を有する電極と、前記電極系の外側から前記酵素分子への前記分析物の拡散を制御する拡散障壁とを備え、
前記拡散障壁が、少なくとも1つの親水性ブロックと少なくとも1つの疎水性ブロックとを有する
単一のブロックコポリマーを含み、前記ブロックコポリマーが、乾燥状態での前記ブロックコポリマーの全量(mol)に基づき、75~95mol%の少なくとも1つの親水性ブロックと5~25mol%の少なくとも1つの疎水性ブロックとを含み、前記少なくとも1つの疎水性ブロックのガラス転移温度
が-80℃
~0℃の範囲にあることを特徴とする、電極系。
【請求項2】
前記ブロックコポリマーが、ジブロックコポリマーまたはトリブロックコポリマーである、請求項1に記載の電極系。
【請求項3】
(i)前記ブロックコポリマーの親水性ブロックが、150~900もしくは200~800、特に175~450もしくは300~600の単量体単位の鎖長を有し、および/または
(ii)前記ブロックコポリマーの疎水性ブロックが、20~300もしくは50~250、特に50~100もしくは50~150の単量体単位の鎖長を有する、請求項1または2に記載の電極系。
【請求項4】
前記親水性ブロックの前記鎖長と前記疎水性ブロックの前記鎖長の相対的な比が、2:1~20:1の範囲、または3:1~10:1の範
囲にある、請求項3に記載の電極系。
【請求項5】
前記親水性ブロックの前記鎖長と前記疎水性ブロックの前記鎖長の相対的な比が、4:1~8:1の範囲にある、請求項4に記載の電極系。
【請求項6】
疎水性ブロックが、疎水性(メタ)アクリルエステルまたはその組み合わせから選択され
る単量体単位から構成される、請求項1~
5のいずれか一項に記載の電極系。
【請求項7】
疎水性ブロックが、
アクリル酸エチル(EA)、
アクリル酸n-プロピルまたはアクリル酸i-プロピル、
アクリル酸n/sec-ブチルまたはアクリル酸i-ブチル(n-BuA/sec-BuAまたはi-BuA)、
アクリル酸3-ペンチル、
アクリル酸n-ペンチル、
アクリル酸n-ヘキシル、
メタクリル酸n-ヘキシル、
アクリル酸2-エチルヘキシル、
メタクリル酸2-エチルヘキシル、
アクリル酸n-ヘプチル、
メタクリル酸n-ヘプチル、
アクリル酸n-オクチル、
メタクリル酸n-オクチル、
アクリル酸n-ノニル、
メタクリル酸n-ノニル、
メタクリル酸n/イソ-デシル、
メタクリル酸n-ドデシル、
アクリル酸n-ドデシル
およびこれらの組み合わせ
から選択される単量体単位から構成される、請求項6に記載の電極系。
【請求項8】
前記疎水性ブロックが、単一の疎水性単量体単位のホモポリマーからなる、請求項1~
7のいずれか一項に記載の電極系。
【請求項9】
前記疎水性ブロックが
、19000g/molまたはそれを下回
る重量平均分子量(M
w)を有する、請求項1~
8のいずれか一項に記載の電極系。
【請求項10】
前記疎水性ブロックが、5000g/mol~16000g/molの範囲の重量平均分子量(M
w
)を有する、請求項9に記載の電極系。
【請求項11】
親水性ブロックが、極性
基を有する親水性(メタ)アクリルエステル、親水性(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸またはこれらの組み合わせから選択され
る親水性単量体単位から構成される、請求項1~
10のいずれか一項に記載の電極系。
【請求項12】
前記極性基が、OHおよび/またはOCH
3
基である、請求項11に記載の電極系。
【請求項13】
親水性ブロックが、
アクリル酸2-ヒドロキシエチル、
メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)、
アクリル酸2-メトキシエチル、
メタクリル酸2-メトキシエチル、
アクリル酸2-ヒドロキシプロピルまたはアクリル酸3-ヒドロキシプロピル、
メタクリル酸2-ヒドロキシプロピルまたはメタクリル酸3-ヒドロキシプロピル(2-HPMAまたは3-HPMA)、
アクリル酸2-メトキシプロピルまたはアクリル酸3-メトキシプロピル、
メタクリル酸2-メトキシプロピルまたはメタクリル酸3-メトキシプロピル、
アクリル酸1-グリセロールまたはアクリル酸2-グリセロール、
メタクリル酸1-グリセロールまたはメタクリル酸2-グリセロール、
アクリルアミド、
メタクリルアミド、
N-アルキルアクリルアミドまたはN,N-ジアルキルアクリルアミドおよび
N-アルキルメタクリルアミドまたはN,N-ジアルキルメタクリルアミド、ここで、アルキルは、炭素原子1つを含み、
アクリル酸(アクリレート)、
メタクリル酸(メタクリレート)、
メタクリル酸2-(2-メトキシエトキシ)エチル、
アクリル酸2-(2-メトキシエトキシ)エチル、
アクリル酸2-(2-ヒドロキシエトキシ)エチル、
メタクリル酸2-(2-ヒドロキシエトキシ)エチル、
およびこれらの組み合わせ
から選択される親水性単量体単位から構成される、請求項11に記載の電極系。
【請求項14】
前記親水性ブロックが
、24000g/molまたはそれを上回
る重量平均分子量(M
w)を有する、請求項1~
13のいずれか一項に記載の電極系。
【請求項15】
前記親水性ブロックが、24000g/mol~90000g/molの範囲の重量平均分子量(M
w
)を有する、請求項14に記載の電極系。
【請求項16】
前記親水性ブロックが
、100℃またはそれを上回
るガラス転移温度を有する、請求項1~
15のいずれか一項に記載の電極系。
【請求項17】
前記親水性ブロックが、105℃~140℃または110℃~120℃のガラス転移温度を有する、請求項16に記載の電極系。
【請求項18】
親水性ブロック:疎水性ブロックのモル比が、>75mol%(親水性):<25mol%(疎水性)~95mol%(親水性):5mol%(疎水性)の範
囲にある、請求項1~
17のいずれか一項に記載の電極系。
【請求項19】
親水性ブロック:疎水性ブロックのモル比が、80mol%(親水性):20mol%(疎水性)~90mol%(親水性):10mol%(疎水性)の範囲にある、請求項18に記載の電極系。
【請求項20】
親水性ブロック:疎水性ブロックのモル比が、84mol%(親水性):16mol%(疎水性)~86mol%(親水性):14mol%(疎水性)の範囲にある、請求項18に記載の電極系。
【請求項21】
前記ブロックコポリマーが、20~200kDaの範
囲の数平均分子量(M
n)を有する、請求項1~
20のいずれか一項に記載の電極系。
【請求項22】
前記ブロックコポリマーが、25~95kDaの範囲の数平均分子量(M
n
)を有する、請求項21に記載の電極系。
【請求項23】
請求項1~
22のいずれか一項に記載の電極系を備える、体内に挿入可能または移植可能であるセンサー。
【請求項24】
グルコースの測定用の請求項
23に記載のセンサー。
【請求項25】
酵素電極用拡散障壁として使用するための、少なくとも1つの親水性ブロックと少なくとも1つの疎水性ブロックとを有するブロックコポリマー
であって、前記ブロックコポリマーが、乾燥状態での前記ブロックコポリマーの全量(mol)に基づき、75~95mol%の少なくとも1つの親水性ブロックと5~25mol%の少なくとも1つの疎水性ブロックとを含み、前記少なくとも1つの疎水性ブロックのガラス転移温度
が-80℃
~0℃の範囲にある、ブロックコポリマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インビボ条件下で分析物の濃度を測定するための電極系であって、固定化された酵素分子を有する電極と、前記電極系を取り囲む体液(body fluid)から前記酵素分子への前記分析物の拡散を調節する拡散障壁とを備える、電極系に関する。
【背景技術】
【0002】
移植可能なまたは挿入可能な電極系を有するセンサーは、例えば、患者の体内のラクテートまたはグルコースなどの生理学的に重要な分析物の測定を容易にする。この種の系の作用電極は、分析物分子の触媒的転換によって電荷担体を放出する酵素分子がその中に結合されている導電性酵素層を有する。この過程において、その振幅が分析物濃度に相関する測定信号として電流が生成される。
【0003】
このような電極系は、例えば国際公開第2007/147475号パンフレット、国際公開第2010/028708号パンフレットおよび国際公開第2012/130841号パンフレットから公知であり、これらの内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0004】
電極系の作用電極には、電極系を取り囲む体液または組織から酵素層中に固定化されている酵素分子への、測定されるべき分析物の拡散を調節する拡散障壁が設けられている。
【0005】
国際公開第2007/147475号パンフレットは、双性イオン構造を有するポリマーから作製された拡散障壁を開示する。このようなポリマーの例は、ポリ(2-メタクリロイルオキシエチル-ホスホリルコリン-コ-n-ブチルメタクリレート)である。双性イオンポリマーは、別のポリマー、例えばポリウレタンと混合され得る。
【0006】
国際公開第2010/028708号パンフレットによれば、電極系の拡散障壁は、少なくとも2つの異なる統計的アクリレートポリマーの混合物から形成されている。これらのポリマーは、コポリマー、例えば、メタクリル酸メチルとメタクリル酸ヒドロキシエチルのコポリマーまたはメタクリル酸ブチルとメタクリル酸ヒドロキシエチルのコポリマーであり得る。
【0007】
しかしながら、ポリマーまたはコポリマー混合物の使用は、混合物の調製およびセンサーへのその適用が面倒で、問題を生じる可能性があるという欠点を有する。通常、混合されるべきポリマーは個別に溶解され、その後、得られた溶液は所望の比率で混合される。しかしながら、これは、成分の1つの沈殿をもたらし得、その結果、例えば噴霧過程において動作上の問題をもたらし得る。混合物がイオン的性質を有するポリマーを含むとき、すなわち、混合されるべきポリマーの1つが陰イオン性または陽イオン性の基を有するモノマーを含むときに、困難が増大する。しかしながら、このような帯電した基の存在は、溶解度に対して強い効果を有しており、帯電したポリマーと帯電していないポリマーの両方に対して適した溶媒を見出すことが困難である。
【0008】
国際公開第2012/130841号パンフレットは、ブロックコポリマー、例えば、少なくとも1つの親水性ブロックと少なくとも1つの疎水性ブロックとを有する単一のブロックコポリマーを含む電極系の拡散障壁を開示する。疎水性ブロックは、40~80℃の範囲のガラス転移温度を有する。親水性ブロックと疎水性ブロックは、ポリマー分子内で互いに共有結合されている。
【0009】
国際公開第2006/058779号パンフレットは、少なくとも1つのポリマー材料と酵素を運搬する粒子とを含み、粒子がポリマー材料中に分散されている一体化された拡散および酵素層を有する、酵素ベースのセンサーを開示する。ポリマーは、親水性および疎水性ポリマー鎖配列を含み得、例えば、ポリマーは、高い水取り込みまたは低い水取り込みポリエーテル-ポリウレタンコポリマーであり得る。少なくとも1つの親水性ブロックと少なくとも1つの疎水性ブロックとを有するブロックコポリマーの、拡散層としての使用は開示されていない。
【0010】
欧州特許出願公開第2,163,190号明細書は、インビボでの分析物濃度の測定のための電極系であって、電気伝導体を有する対電極と、固定化された酵素分子を含む酵素層がその上に局在化されている電気伝導体を有する作用電極とを備える、電極系を記載する。拡散障壁は、周囲の体液から酵素分子への分析物の拡散を調節する。拡散障壁は、4,4’-メチレン-ビス-(シクロヘキシルイソシアネート)とポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコールであり得るジオール混合物との重縮合によって取得可能な親水化されたポリウレタンを含み得る。親水性ポリウレタン層は、スペーサー、例えばメタクリル酸ブチルと2-メタクリロイルオキシエチル-ホスホリルコリンのコポリマーで被覆され得る。少なくとも1つの親水性ブロックと少なくとも1つの疎水性ブロックとを有するブロックコポリマーの、拡散層としての使用は開示されていない。
【0011】
米国特許出願公開第2008/0034972号明細書は、密接に関連する親水性および疎水性ポリマーから構成される膜を備える移植可能なグルコースセンサーを記載する。親水性ポリマーと疎水性ポリマーの密接な関連は、相互貫入型ポリマーネットワークまたはポリマー混和物の形態である。親水性ポリマーと疎水性ポリマーは、互いに直接連結されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
改善された物理化学的特徴を与え、容易に製造することができる、酵素的インビボセンサーの電極系上の拡散障壁を提供することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この課題は、少なくとも1つの親水性ブロックと少なくとも1つの疎水性ブロックとを有するブロックコポリマーを含む拡散障壁であって、前記ブロックコポリマーが、乾燥状態での前記ブロックコポリマーの全量(mol)を基準として、75~95mol%の少なくとも1つの親水性ブロックと5~25mol%の少なくとも1つの疎水性ブロックとを含む、拡散障壁を提供することによって達成される。ブロックコポリマー中の親水性ブロックと疎水性ブロックのmol%は、核磁気共鳴(NMR)によって決定することができる。一実施形態において、NMR測定(1H NMR測定)は、溶媒として、疎水性ブロックに対しては重水素化されたクロロホルムを、ブロックコポリマーに対しては重水素化されたピリジンまたは重水素化されたジメチルホルムアミド/重水素化されたメタノール(80/20)(v/v)を用い、および20~30mg/mlの試料濃度を用いて、Bruker DRX 300を使用して行われる。
【0014】
親水性ブロックと疎水性ブロックは、互いに共有結合されている。好ましくは、親水性ブロックと疎水性ブロックは、(メタ)アクリレート単量体単位から構成されている。特定の実施形態において、親水性ブロックはメタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)単量体単位を含み、疎水性ブロックはアクリル酸n-ブチル(n-BuA)単量体単位を含む。
【0015】
ブロックコポリマーをベースとする拡散障壁は、以下のように、優れた物理化学的特徴を提供する:
(i)測定されるべき分析物に対する拡散障壁の透過性、
(ii)電極の短期挙動(湿潤性)および長期挙動(センサードリフト)に適した、拡散障壁の透過性特性、
(iii)広範囲にわたる複数の電極を有するインビボセンサーの製造を可能にする、拡散障壁の機械的柔軟性;
(iv)拡散層中へのイオン性基の効率的な取り込み、すなわちポリマー内の陽イオン性または陰イオン性電荷の密度は、効率的に調整することが可能であり、これは、帯電した分析物の反発もしくは誘因および/または細胞接着の、例えば、周囲の体液または組織由来の単球の調節に適している。
【0016】
特に、本発明は、優れた機械的安定性および柔軟性ならびに電極の短期挙動(湿潤性)および長期挙動(センサードリフト)に関して好ましい透過性特性を有する拡散障壁を提供する。分析物に対する拡散障壁の高い透過性は、特に小さなセンサーの製造を可能にする。さらに、体温より大幅に低いガラス転移温度(Tg)を有する、すなわち、約0℃またはそれを下回るTg、例えば、体温より少なくとも約80℃低いTgを有する疎水性ブロックを使用すると、ブロックコポリマーはゴム状であり、室温および体温において柔らかく、柔軟である。
【0017】
本発明の主題は、インビボ条件下で分析物の濃度を測定するための電極系であって、固定化された酵素分子を有する電極と、前記電極系の外側から前記酵素分子への前記分析物の拡散を調節する拡散障壁とを備え、前記拡散障壁が少なくとも1つの親水性ブロックと少なくとも1つの疎水性ブロックとを有するブロックコポリマーを含み、前記ブロックコポリマーが、乾燥状態での前記ブロックコポリマーの全量(mol)を基準として、75~95mol%の少なくとも1つの親水性ブロックと5~25mol%の少なくとも1つの疎水性ブロックとを含み、前記少なくとも1つの疎水性ブロックのガラス転移温度が約-80℃~約0℃の範囲にあることを特徴とする電極系である。
【0018】
本発明の文脈において、「乾燥状態」は、ブロックコポリマーが2重量%未満の水、一実施形態では、1重量%未満の水、一実施形態では、0.5重量%未満の水を含むことを意味し、ここで、重量百分率は、ブロックコポリマーと含まれている水との総重量を基準とする。
【0019】
本発明のさらなる主題は、インビボ条件下で分析物の濃度を測定するための電極系であって、固定化された酵素分子を有する電極と、前記電極系の外側から前記酵素分子への前記分析物の拡散を調節する拡散障壁とを備え、前記拡散障壁が少なくとも1つの親水性ブロックと少なくとも1つの疎水性ブロックとを有するブロックコポリマーを含み、前記ブロックコポリマーが、乾燥状態での前記ブロックコポリマーの全量(mol)を基準として、75~95mol%の少なくともポリ(メタクリル酸2-ヒドロキシエチル)(ポリHEMA)ブロックと5~25mol%の少なくともポリ-n-ブチルアクリレート(ポリ(n-BuA))ブロックとを含むことを特徴とする、電極系である。
【0020】
好ましくは、拡散障壁は、単一の、すなわち、少なくとも1つの親水性ブロックと少なくとも1つの疎水性ブロックとを有するただ1つのブロックコポリマーを含む、すなわち、さらなるポリマーまたはコポリマーが存在しない。より好ましくは、拡散障壁は、少なくとも1つの親水性ブロックと少なくとも1つの疎水性ブロックとを有する単一のブロックコポリマーからなる。
【0021】
さらなる好ましい実施形態において、拡散障壁のブロックコポリマーは、ジブロックコポリマーまたはトリブロックコポリマーである。本発明のブロックコポリマーがジブロックコポリマーである場合には、1つの親水性ブロックと1つの疎水性ブロックから構成される。本発明のブロックコポリマーがトリブロックコポリマーである場合には、2つの親水性ブロックと1つの疎水性ブロックまたは1つの親水性ブロックと2つの疎水性ブロックから構成される。
【0022】
一実施形態において、本発明という意味でのブロックコポリマー中で、構成要素である高分子では、隣接するブロックは構造上異なる、すなわち、隣接するブロックは、異なる種の単量体に由来するまたは同じ種であるが、異なる組成または配列分布の構造上の単位を有する単量体に由来する構造上の単位を含む。
【0023】
さらなる実施形態において、ブロックコポリマーは、線形配置のブロックがその中に存在する分子を含むポリマーであり、ブロックとは、単量体単位が、隣接部分に存在しない少なくとも1つの構造上または形態上の特徴を有するポリマー分子の部分として定義される。
【0024】
本発明の電極系は、身体、例えば、ヒトの身体などの哺乳動物の身体内に挿入または移植するのに適している。電極系は、体液および/または身体の組織中、例えば、細胞外間隙(間質)中、血液もしくはリンパ管中または細胞透過間隙中の所望の分析物を測定するために適合される。
【0025】
挿入されたまたは移植された電極系は、短期適用、例えば3~14日、または長期適用、例えば6~12ヶ月に適している。挿入または移植期間の間に、所望の分析物は、連続的または非連続的測定によって決定され得る。
【0026】
本発明の電極系は、好ましくは、酵素的非流体(ENF)センサーの一部であり、ここで分析物の酵素的転換が決定される。好ましくは、センサーは、電気的信号の生成をもたらす分析物の転換のための固定化された酵素分子を有する作用電極を備える。酵素は、電極を覆う層中に存在し得る。さらに、酸化還元媒介物質および/または電解触媒ならびに導電性粒子および細孔形成剤が存在し得る。この種の電極系は、例えば国際公開第2007/147475号パンフレットおよび国際公開第2010/028708号パンフレットに記載されており、これらの内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0027】
作用電極の領域は、センサーの感応領域である。この感応領域には、外側、例えば、電極系を取り囲む体液および/または組織から酵素分子への分析物の拡散を調節する拡散障壁が設けられている。拡散障壁は、例えば、酵素層を被覆する被覆層、すなわち、無酵素層であり得る。しかしながら、拡散障壁としての役割を果たすために、拡散調節粒子が酵素層中に取り込まれていることも同様に実行可能である。例えば、酵素層の細孔は、分析物分子の拡散を調節するポリマーで満たすことができる。拡散障壁の厚さは、通常、約5~60μmまたは約10~50μm、例えば、約10~15μm、または約10~20μm、特に約10~25μmまたは約10~15μm(乾燥状態で)である。
【0028】
本発明の電極系の拡散障壁は、少なくとも1つの親水性ブロックと少なくとも1つの疎水性ブロックとを有するブロックコポリマー、好ましくは単一のブロックコポリマーを含み、前記ブロックコポリマーは、乾燥状態での前記ブロックコポリマーの全量を基準として、75~95mol%の少なくとも1つの親水性ブロックと5~25mol%の少なくとも1つの疎水性ブロックとを含む。本発明によれば、少なくとも1つの疎水性ブロックのガラス転移温度は、約-80℃~約0℃の範囲にある。
【0029】
ブロックの数に対応して、1つのブロックコポリマーに対して、数個のガラス転移温度が特定され得ることに注目すべきである。本発明のブロックコポリマーにおいて、疎水性ブロックのガラス転移温度と親水性ブロックのガラス転移温度は、以下に記載されているように個別に決定され得る。
【0030】
ブロックコポリマーは、ブロックの交互配列を含み得る、すなわち、親水性ブロックが疎水性ブロックに連結される。親水性ブロックと疎水性ブロックは、ポリマー分子内で互いに共有結合されている。ブロックコポリマーは、好ましくは、ジブロックコポリマーまたはトリブロックコポリマーである。
【0031】
ブロックコポリマーの数平均分子量(Mn)(重量による)は、通常、20~200kDaの範囲、特に、25~95kDaの範囲、より具体的には、30~70kDaの範囲である。数平均分子量は、好ましくは、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)を標準物質として使用するサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を用いて決定される。
【0032】
疎水性ポリマーの数平均分子量(Mn)は、好ましくは、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒として使用するSECを用いて決定される。ブロックコポリマーの数平均分子量(Mn)は、ジメチルホルムアミド+3g/LのLiClを溶媒として使用して決定される。一実施形態において、ブロックコポリマーの数平均分子量は、NMR測定と組み合わせた、THF中での疎水性ブロックのSECを用いて決定される。
【0033】
ブロックコポリマー中の親水性部分対疎水性部分のモル比は、通常、約75mol%(親水性):25mol%(疎水性)~約95mol%(親水性):5mol%(疎水性)の範囲、>75mol%(親水性):<25mol%(疎水性)~約95%(親水性):5mol%(疎水性)の範囲、約80mol%(親水性):20mol%(疎水性)~約90mol%(親水性):10mol%(疎水性)の範囲、または約85mol%(親水性):15mol%(疎水性)の範囲である。
【0034】
換言すれば、一実施形態におけるブロックコポリマーは、ブロックコポリマーの全量(mol)を基準として、75~95mol%の範囲の少なくとも1つの親水性ブロックと、5~25mol%の範囲の少なくとも1つの疎水性ブロックとを含む。一実施形態において、ブロックコポリマーは、ブロックコポリマーの全量(mol)を基準として、>75~95mol%の範囲の少なくとも1つの親水性ブロックと、5~<25mol%の範囲の少なくとも1つの疎水性ブロックとを含む。一実施形態において、ブロックコポリマーは、ブロックコポリマーの全量(mol)を基準として、80~90mol%の範囲の少なくとも1つの親水性ブロックと、10~20mol%の範囲の少なくとも1つの疎水性ブロックとを含む。一実施形態において、ブロックコポリマーは、ブロックコポリマーの全量(mol)を基準として、84~86mol%の範囲の少なくとも1つの親水性ブロックと、14~16mol%の範囲の少なくとも1つの疎水性ブロックとを含む。
【0035】
一実施形態における、ブロックコポリマー中の親水性ブロックと疎水性ブロックのmol%は、合計で100mol%である。
【0036】
本発明のブロックコポリマーの親水性ブロックは、親水性ブロックの全量(mol)を基準として、好ましくは、少なくとも90mol%、少なくとも95mol%の親水性単量体単位からなる。特に好ましくは、ブロックコポリマーの親水性ブロックは、親水性単量体単位からなる。ブロックコポリマーの親水性ブロックは、通常、150~900、例えば、150~500、または200~800、特に175~450、または300~600の単量体分子の長さ(鎖長)を有する。
【0037】
親水性ブロックは、好ましくは、親水性ブロックの絡み合い点間分子量(Me)を上回る重量平均分子量(Mw)を有する。絡み合い点間分子量は、ポリマー鎖が自身に対してループを形成し始める分子量である(R.P.Wool,Macromolecules 26(1993)、1564-1569)。この分子量において、理想的なポリマー鎖の立体構造的動力学を記述するRouseモデルは、もはや合致しない(Rouse,J.Chem.Phys.21(1953)、1272ff.)。例えば、親水性ブロックの絡み合い点間分子量(Me)は、10~80kDaの範囲、好ましくは20~30kDaの範囲であり得る。さらに、親水性ブロックは、好ましくは、24000g/molまたはそれを上回る、好ましくは約24000g/mol~約90000g/molの範囲の重量平均分子量(Mw)を有する。重量平均分子量(Mw)は、数平均分子量(Mn)に対して上述されているように、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を用いて決定することができる。
【0038】
本発明のコポリマーの疎水性ブロックは、疎水性ブロックの全量を基準として、好ましくは、少なくとも90mol%、より具体的には少なくとも95mol%の疎水性単量体単位からなる。特に好ましくは、ブロックコポリマーの疎水性ブロックは、疎水性単量体単位からなる。ブロックコポリマーの疎水性ブロックは、通常、20~300、例えば、20~200、または50~250、特に50~100、または80~150の単量体単位の長さ(鎖長)を有する。
【0039】
疎水性ブロックは、好ましくは、疎水性ブロックの絡み合い点間分子量(Me)を下回る重量平均分子量(Mw)を有する。疎水性ブロックの絡み合い点間分子量(Me)に対しては、親水性ブロックの絡み合い点間分子量(Me)に対して上記された定義が当てはまる。例えば、疎水性ブロックの絡み合い点間分子量(Me)は、10~100kDaの範囲、好ましくは10~20kDaの範囲である。さらに、疎水性ブロックは、好ましくは、19000g/molまたはそれを下回る、好ましくは約5000g/mol~約16000g/molの範囲の重量平均分子量(Mw)を有する。重量平均分子量(Mw)は、数平均分子量(Mn)に対して上述されているように、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を用いて決定することができる。
【0040】
ブロックコポリマーの親水性ブロックの鎖長とブロックコポリマーの疎水性の鎖長の比は、好ましくは、2:1~20:1の範囲、または3:1~10:1の範囲、好ましくは4:1~8:1の範囲である。
【0041】
親水性ブロックおよび/または疎水性ブロックは、好ましくは、(メタ)アクリルをベースとする単量体単位からなる。より好ましくは、親水性ブロックと疎水性ブロックの両方が、(メタ)アクリルをベースとする単量体単位からなる。
【0042】
本発明における(メタ)アクリルをベースとする単量体単位という用語は、アクリルをベースとする単量体単位の他に、メタクリルをベースとする単量体単位を含む。
【0043】
疎水性ブロックの疎水性単量体単位は、好ましくは、疎水性アクリル単位および/もしくはメタクリル単位またはこれらの組み合わせから選択される。好ましくは、疎水性単量体単位は、疎水性(メタ)アクリルエステル、例えば、親水性基なしに、1~12個のC原子を有するアルコール部分を有するエステル、例えば、C1-C12アクリル酸アルキル、好ましくはC4-C12アクリル酸アルキルまたはC6-C12メタクリル酸アルキルから選択される。
【0044】
一実施形態において、疎水性ブロックの疎水性単量体単位は、疎水性アクリル単位および/またはメタクリル単位から選択される。
【0045】
疎水性ブロックのための単量体単位の具体例は、以下から選択される。
アクリル酸エチル(EA)
アクリル酸n-プロピルまたはアクリル酸i-プロピル、
アクリル酸n/sec-ブチルまたはアクリル酸i-ブチル(n-BuA/sec-BuAまたはi-BuA)、
アクリル酸3-ペンチル、
アクリル酸n-ペンチル、
アクリル酸n-ヘキシル、
メタクリル酸n-ヘキシル、
アクリル酸2-エチルヘキシル、
メタクリル酸2-エチルヘキシル、
アクリル酸n-ヘプチル、
メタクリル酸n-ヘプチル、
アクリル酸n-オクチル、
メタクリル酸n-オクチル、
アクリル酸n-ノニル、
メタクリル酸n-ノニル、
メタクリル酸n/イソ-デシル、
メタクリル酸n-ドデシル、
アクリル酸n-ドデシル
およびこれらの組み合わせ。
【0046】
好ましい疎水性単量体は、アクリル酸n-ブチル(n-BuA)である。より好ましくは、疎水性ブロックは、単一の疎水性単量体単位のホモポリマー、例えば、アクリル酸n-ブチル(n-BuA)のホモポリマーからなる。
【0047】
その乾燥状態での本発明の疎水性ブロックのガラス転移温度は、約-80℃~約0℃の範囲である。好ましくは、疎水性ブロックのガラス転移温度は、約-80℃~約-20℃の範囲、約-70℃~約-30℃の範囲、または好ましくは約-60℃~約-40℃の範囲である。疎水性ブロックのガラス転移温度は、第二の加熱工程がガラス転移温度を決定するために使用される2つの加熱工程を含む、窒素流下において、大気圧で、10℃/分の温度変化で示差走査熱量測定(DSC)を用いて測定され得る。DSC測定は、Mettler-Toledoから得られるDSC1装置を用いて行われ得る。適切なDSC条件は、表1に記載されている。
【0048】
【0049】
疎水性ブロックの疎水性は、接触角計測器、例えば、Kyowa Interface Science Ltd.,モデルCA-Aを用いて決定することができる。ポリマーに被覆されたガラスシートが接触角計測器中に配置される。3~5個の水滴をポリマー表面上に順次配置し、各液滴に対して1~3分以内に接触角を測定する。疎水性ブロックは、好ましくは、上記方法にしたがって測定された70°~115°の範囲の接触角を有する(Okouchi et al.,Macromolecules 39(2006),1156-1159)。
【0050】
親水性ブロックの親水性単量体単位は、好ましくは、親水性(メタ)アクリルエステル、すなわち、エステルのアルコール部分内に極性、例えばOHおよび/またはOCH3を有するエステル、アミド(-NH2)またはN-アルキルもしくはN,N-ジアルキルアミド基を有する親水性(メタ)アクリルアミド(アルキル基は、1~2個のC原子を含み、必要に応じて、OHおよび/またはOCH3などの親水性基を含む。)およびアクリル酸(アクリレート)またはメタクリル酸(メタクリレート)などの、帯電した基、例えば、陰イオン性または陽イオン性基を有する適切な(メタ)アクリル単位から選択される。さらに、単量体単位の組み合わせが使用され得る。
【0051】
親水性ブロックのための好ましい単量体単位の具体例は、以下から選択される。
アクリル酸2-ヒドロキシエチル、
メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)、
アクリル酸2-メトキシエチル、
メタクリル酸2-メトキシエチル、
アクリル酸2-ヒドロキシプロピルまたはアクリル酸3-ヒドロキシプロピル、
メタクリル酸2-ヒドロキシプロピルまたはメタクリル酸3-ヒドロキシプロピル(2-HPMAまたは3-HPMA)、
アクリル酸2-メトキシプロピルまたはアクリル酸3-メトキシプロピル、
メタクリル酸2-メトキシプロピルまたはメタクリル酸3-メトキシプロピル、
アクリル酸1-グリセロールまたはアクリル酸2-グリセロール、
メタクリル酸1-グリセロールまたはメタクリル酸2-グリセロール、
アクリルアミド、
メタクリルアミド、
N-アルキルアクリルアミドまたはN,N-ジアルキルアクリルアミドおよび
N-アルキルメタクリルアミドまたはN,N-ジアルキルメタクリルアミド、ここでアルキルは、メチルなどの炭素原子1つを含み、
アクリル酸(アクリレート)、
メタクリル酸(メタクリレート)、
メタクリル酸2-(2-メトキシエトキシ)エチル、
アクリル酸2-(2-メトキシエトキシ)エチル、
アクリル酸2-(2-ヒドロキシエトキシ)エチル、
メタクリル酸2-(2-ヒドロキシエトキシ)エチル、
およびこれらの組み合わせ。
【0052】
好ましい親水性単量体は、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)および/またはメタクリル酸2-ヒドロキシプロピルもしくはメタクリル酸3-ヒドロキシプロピル(2-HPMAまたは3-HPMA)である。親水性ブロックは、1種またはそれを超える異なる親水性単量体単位からなり得る。例えば、親水性ブロックは、HEMAおよび2-HPMAなどの少なくとも2種の異なる単量体単位のランダムコポリマーであり得る。最も好ましくは、親水性ブロックは、単一の親水性単量体単位のホモポリマー、例えば、HEMAまたは2-HPMAのホモポリマーからなる。
【0053】
本発明のブロックコポリマーの親水性ブロックのガラス転移温度(Tg)は、好ましくは、約100℃またはそれを上回る、例えば、約100℃~約250℃の範囲または約150℃~約200℃の範囲である。好ましくは、親水性ブロックのガラス転移温度(Tg)は、約105℃~約140℃の範囲または約110℃~約120℃の範囲である。親水性ブロックのガラス転移温度(Tg)は、第二の加熱工程がガラス転移温度(Tg)を決定するために使用される2つの加熱工程を含む、窒素流下において、大気圧で、10℃/分の温度変化でDSCを用いて測定され得る。DSC測定は、上述されているとおりに行われ得る。
【0054】
単量体中にイオン性の基を導入するために、アクリル酸(アクリレート)および/またはメタクリル酸(メタクリレート)などの帯電した単量体単位が親水性ブロック中に取り込まれ得る。このため、本発明の特定の実施形態において、親水性ブロックは、少なくとも1つの非イオン性親水性単量体単位(例えば、上述されているとおりの)から、および少なくとも1つのイオン性親水性単量体単位から作製され得、イオン性単量体単位は、親水性ブロックの全量を基準として、好ましくは1~20mol%のモル量で存在する。親水性ブロックがアクリル酸またはメタクリル酸などのイオン性単量体単位を含む場合には、(メタ)アクリルアミドの群から選択される親水性単量体、特にN,N-ジアルキルアクリルアミドまたはN,N-ジアルキルメタクリルアミドとの共重合が好ましい。
【0055】
本発明のコポリマーの親水性ブロックと疎水性ブロックのガラス転移温度(Tg)間の差は、好ましくは、少なくとも約100℃、例えば、約120℃~約250℃である。
【0056】
本発明において使用されるブロックコポリマーは、公知の方法(Boeker et al.,Macromolecules 34(2001),7477-7488)にしたがって、例えば、原子移動ラジカル重合(ATRP)によって製造され得る。
【0057】
ブロックコポリマーは、通常の技術によって、例えば、予め組み立てられた電極系に塗布され、その上で乾燥される適切な溶媒または溶媒混合物、例えば、エーテルなどの有機溶媒中にブロックコポリマーの溶液を提供することによって、電極系に適用され得る。
【0058】
ブロックコポリマーに加えて、拡散障壁は、ブロックコポリマー中に分配および/または溶解され得るさらなる成分、特に非ポリマー性成分も含み得る。これらのさらなる化合物には、可塑剤、特に、トリメリット酸トリ-(2-エチルヘキシル)および/またはグリセロールなどの生体適合性可塑剤が含まれる。
本発明の拡散障壁は、グルコースに対して、高い有効拡散係数Deffを有し、これは、37℃の温度および7.4のpHで、好ましくは>10-10cm2/秒、より好ましくは>5・10-10cm2/秒、さらにより好ましくは>10-9cm2/秒、例えば、最大10-7または10-8cm2/秒である。有効拡散係数は、好ましくは、以下の式:
Deff=SEm/F・Lm・5.182・10-8
にしたがって、実施例4に記載されているとおりに決定され、cm2/秒で表され、SEmは作用電極の感度であり、Fは作用電極スポットの総面積であり、Lmは拡散障壁の層の厚さである。SEmおよびLmは、実施例に記載されているとおりに決定され得る。
【0059】
さらに、本発明の拡散障壁は低いセンサードリフトを有する。好ましい実施形態において、本発明のセンサーは、-1.5%/d~1.5%/dの範囲、または-1.0%/d~1.0%/dの範囲、より好ましくは-0.5%/d~0.5%/dの範囲にインビトロセンサードリフトを有する。
【0060】
さらに、疎水性ブロックの低いガラス転移温度のために、本発明の拡散障壁は、良好な接着特性のみならず、優れた機械的安定性および柔軟性を示す。
【0061】
分析物に対する拡散係数は、適切な分子量を有するブロックコポリマーならびに/または適切な長さおよび/もしくは疎水性を有する疎水性ブロックを選択することによって、所望の値に調整され得る。これは、改善されたセンサードリフトと共同して、小さなセンサーの製造および/または低い酵素搭載量を有する作用電極を備えるセンサーの使用を可能にする。
【0062】
本発明の電極系は、インビボ条件下で、すなわち、体内に挿入されまたは移植されたときに、分析物の濃度を測定するのに適している。分析物は、組織または体液中に存在する任意の分子またはイオン、例えば、酸素、二酸化炭素、塩(陽イオンおよび/または陰イオン)、脂肪もしくは脂肪成分、炭化水素もしくは炭化水素成分、タンパク質もしくはタンパク質成分または他の種類の生体分子であり得る。特に好ましいのは、体液、例えば、血液および組織間で効率的に移動することができる分析物、例えば、酸素、二酸化炭素、ナトリウム陽イオン、塩化物陰イオン、グルコース、尿素、グリセロール、ラクテートおよびピルベートの決定である。
【0063】
電極系は、電極上に固定化された酵素を含む。酵素は、所望の分析物の決定に適している。好ましくは、酵素は、分析物を触媒的に転換させることが可能であり、これにより、作用電極の電気伝導体によって検出可能な電気信号を生成することができる。分析物を測定するための酵素は、好ましくは、酸化酵素、例えばグルコース酸化酵素もしくは乳酸酸化酵素、または脱水素酵素、例えばグルコース脱水素酵素もしくは乳酸脱水素酵素である。酵素に加えて、酵素層は、作用電極の導電性成分への電子の移動を好む電解触媒または酸化還元媒介物質、例えば、黒鉛粒子も含み得る。適切な電解触媒は、二酸化マンガンなどの金属酸化物またはコバルトフタロシアニンなどの有機金属化合物である。好ましい実施形態において、酸化還元媒介物質は、過酸化水素を分解することができ、これにより、作用電極の周囲での酸素の枯渇を打ち消すことができる。異なる実施形態において、酸化還元媒介物質は、酵素に共有結合され得、これにより、作用電極への直接的な電子移動をもたらし得る。直接的な電子移動のための適切な酸化還元媒介物質は、ピロロキノリンキノン(PQQ)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)またはその他の公知の補欠分子族などの補欠分子族である。電極上に固定化される酵素は、例えば国際公開第2007/147475号パンフレットに記載されており、その内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0064】
電極系の好ましい実施形態は、電気伝導体を有する対電極と、固定化された酵素分子を含有する酵素層および拡散障壁がその上に配置されている電気伝導体を有する作用電極とを備える。酵素層は、好ましくは、ある距離、例えば、互いに少なくとも0.3mmまたは少なくとも0.5mmで、作用電極の伝導体上に配置されている複数の場の形態で設計される。作用電極の個々の場は、一連の個々の作用電極を形成し得る。これらの場の間では、作用電極の伝導体は、絶縁層によって被覆され得る。電気的絶縁層の開口部の上に酵素層の場を配置することによって、シグナル対ノイズ比を改善することができる。
【0065】
好ましい実施形態によると、酵素層および拡散層は、スペーサー膜によってさらに被覆される。このような配置は、国際公開第2010/028708号パンフレット、国際公開第2012/130841号パンフレットおよび国際公開第2013/144255号パンフレットに開示されており、これらの内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0066】
本発明の電極系は、作用電極に対して参照電位を供給することができる参照電極、例えばAg/AgCl参照電極をさらに備え得る。さらに、本発明の電極系は、さらなる対電極および/または作用電極を有することができる。
【0067】
電極系は、例えば、定電位装置および電極系の測定信号の増幅のための増幅器に接続されていることによって、センサーの一部であり得る。センサーは、好ましくは、酵素的非流体(ENF)センサー、より好ましくは、電気化学的ENFセンサーである。電極系の電極は、定電位装置を担持する基板または定電位装置を担持する配線板に取り付けられた基板上に配置され得る。したがって、本発明のさらなる主題は、体内に挿入可能または移植可能であり、上記のとおりの拡散膜を有する電極系を備えたセンサーである。極めて好ましい実施形態において、センサーは、インビボ条件下での分析物の測定用である。特に好ましくは、センサーは、グルコースの測定用である。
【0068】
本発明のさらなる主題は、酵素電極用拡散障壁としての、少なくとも1つの親水性ブロックと少なくとも1つの疎水性ブロックとを有するブロックコポリマーの使用に関する。ブロックコポリマーは、好ましくは、上述のとおりであり、例えば、単一のブロックコポリマーである。拡散障壁および酵素電極も、好ましくは、上述のとおりである。
【0069】
添付の図面を参照しながら、例示的な実施形態に基づいて、本発明のさらなる詳細および利点を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【
図1】
図1は、本発明による電極系の例示的な実施形態を示す。
【
図5】
図5aは、拡散膜として異なるブロックコポリマー(A、BおよびC)を備えた3つのグルコースセンサー(10mMグルコースでの)の有効拡散係数を(標準偏差とともに)示す。
図5bは、拡散膜として異なるブロックコポリマー(A、BおよびC)を備えた3つのグルコースセンサーのセンサードリフトを示す。
【
図6】
図6は、ブロックコポリマーB(ポリ(nBuA-b-HEMA))および比較用ブロックコポリマーであるポリ(BUMA-r-MMA-b-HEMA)を備えたグルコースセンサーの曲げ試験の結果を示す。
【
図7】
図7aは、拡散膜としてブロックコポリマーEを備えたグルコースセンサー(10mMグルコースでの)の拡散係数を(標準偏差とともに)示す。
図7bは、拡散膜としてブロックコポリマーEを備えたグルコースセンサーのセンサードリフトを示す。
【
図8】
図8は、時間に依存するブロックコポリマーBおよびEの伝導性を示す。[発明の詳細な説明]
【0071】
図1は、ヒトまたは動物の身体組織中に、例えば、皮膚または皮下脂肪組織中に挿入するための電極系の例示的実施形態を示す。詳細
図Aの拡大が
図2に示されており、詳細
図Bの拡大が
図3に示されている。
図4は、
図2の切断線、CCに沿った対応する断面図を示す。
【0072】
示されている電極系は、作用電極1、対電極2および参照電極3を有する。電極1a、2a、3aの電気伝導体は、好ましくは白金または金で作製された金属製伝導体路の形態で、基板4上に配置されている。示されている例示的な実施形態において、基板4は、例えばポリエステル製の柔軟なプラスチックプレートである。基板4は、0.5mm厚未満、例えば、100~300マイクロメートル(μm)であり、したがって、その挿入後に、周囲の身体組織の動きに適合することができるように容易に屈曲する。基板4は、患者の身体組織中に挿入するための狭い柄と、体外に配置される電子系に接続するための幅広い頭部とを有する。基板4の柄は、少なくとも長さ1cm、特に2cm~5cmである。
【0073】
示されている例示的な実施形態において、測定機構の一部分、すなわち基板の頭部は、使用の間、患者の身体から突出する。または、測定機構全体を移植し、体外に配置された受信機に測定データを無線方式で送信することも同様に実行可能である。作用電極1は、分析物の触媒的転換のための固定化された酵素分子を含有する酵素層5を担持する。酵素層5は、例えば、炭素粒子の硬化ペースト、ポリマー性結合剤、酸化還元媒介物質または電解触媒および酵素分子の形態で付与され得る。この種の酵素層5の作製の詳細は、例えば、国際公開第2007/147475号パンフレットに開示されており、この文脈において参照される。
【0074】
示されている例示的な実施形態において、酵素層5は、作用電極1の伝導体1a上に連続して与えられておらず、むしろ、互いに距離を置いて配置された個別の場の形態で与えられている。示されている例示的な実施形態における酵素層5の個別の場は、一列に配置されている。
【0075】
作用電極1の伝導体1aは、
図2で特によく見られるように、酵素層の場の間に狭い部位を有する。対電極2の伝導体2aは、作用電極1の伝導体1aの経路をたどる輪郭を有する。この手段は、有利に短い電流路および低い電流密度を有する作用電極1および対電極2の互いに嵌入したまたは互いにかみ合った配置をもたらす。
【0076】
その有効表面を増加させるために、対電極2には、対電極2の伝導体2a上の個別の場の形態で置かれた多孔質導電性層6を設けることができる。作用電極1の酵素層5と同様に、この層6は、炭素粒子の硬化ペーストおよびポリマー性結合剤の形態で付与することができる。層6の場は、好ましくは、酵素層5の場と同じ大きさを有するが、これは必須ではない。しかしながら、対電極の表面を増加させるための措置は省略することもでき、対電極2は、いかなる種類の被覆も有さないまたは記載されたブロックコポリマーおよび必要に応じて存在するスペーサーから作られた被覆を有する直線の導体路であるように設計することもできる。
【0077】
参照電極3は、作用電極1の伝導体1aと対電極2の伝導体2aの間に配置される。
図3に示されている参照電極は、導電性銀/塩化銀ペーストの場3bがその上に配置されている伝導体3aからなる。
【0078】
図4は、
図2の切断線、CCに沿った模式的断面図を示す。切断線CCは、作用電極1の酵素層の場5の1つを通り、対電極2の導電性層6の場の間に伸びる。さもなければ導体路1a、2aの金属によって触媒され得る妨害性反応を抑制するために、導電性層6の場の間における対電極2の伝導体2aと同様、酵素層5の場の間において、作用電極1の伝導体1aは、電気的絶縁層7で被覆することができる。したがって、酵素層5の場は、絶縁層7の開口部中に位置する。同様に、対電極2の導電性層6の場を、絶縁層7の開口部の上に配置してもよい。
【0079】
酵素層5は、測定されるべき分析物に拡散抵抗を与え、したがって、拡散障壁として作用する被覆層8によって被覆されている。拡散障壁8は、上述のように親水性ブロックと疎水性ブロックを交互に有する単一のコポリマーからなる。
【0080】
被覆層8の好ましい厚さは、例えば、5~60μm、特に約10~125μmまたは約10~15μmである。その拡散抵抗の故に、被覆層8は、単位時間あたりに酵素層5に到達する分析物分子をより少なくする。したがって、被覆層8は、分析物分子が転換される速度を低下させ、したがって、作用電極の周囲での分析物濃度の枯渇を打ち消す。
【0081】
被覆層8は、作用電極1の伝導体1aの全領域にわたって本質的に連続して広がる。被覆層8上には、酵素層5と周囲の身体組織の細胞との間に最小限の距離を確立するスペーサー9として、生体適合性膜が配置され得る。これは、酵素層場5の周囲における流体交換が一過性に乱れた場合に、対応する酵素層場5に分析物分子がそこから到達することができる分析物分子用貯留槽を有利に作出することを意味する。電極系の周囲における体液の交換が一過性に制限されまたは妨げられた場合、スペーサー9中に貯蔵された分析物分子は、作用電極1の酵素層5に拡散し続け、そこで転換される。したがって、スペーサー9は、著しくさらに長時間の後でなければ、分析物濃度の顕著な減少およびこれに対応する測定結果の歪曲を引き起こさない。示されている例示的な実施形態において、スペーサー9を形成する膜は対電極2および参照電極3も被覆する。
【0082】
スペーサー膜9は、例えば、透析膜とすることができる。この文脈において、透析膜は、最大サイズより大きな分子に対して不透過性である膜であると理解される。透析膜は、別個の製造過程において予め組み立てることが可能であり、その後、電極系の組み立ての間に適用され得る。透析膜が透過性である分子の最大サイズは、分析物分子が通過することができるが、より大きな分子は保持されるように選択される。
【0083】
または、透析膜に代えて、例えばポリウレタンまたはアクリレートを基本とする、分析物および水に対して高度に透過性であるポリマー製の被覆を、スペーサー膜9として電極系の上に付与することができる。
【0084】
好ましくは、スペーサー膜は、(メタ)アクリレートのコポリマーから構成される。好ましくは、スペーサー膜は、少なくとも2または3の(メタ)アクリレートからのコポリマーである。より好ましくは、スペーサー膜は、例えば国際公開第2012/130841号パンフレットおよび国際公開第2013/144255号パンフレットに記載されているように、スペーサー膜の全量を基準として、50mol%より多い、少なくとも60mol%または少なくとも70mol%の親水性単量体単位、例えば、HEMAおよび/または2-HPMAならびに最大40mol%または最大30mol%の親水性単位、例えば、BUMA(メタクリル酸ブチル)および/またはMMA(メタクリル酸メチル)を含む。当業者にとって、スペーサー膜は拡散障壁とは異なることが明らかである。スペーサー膜は、ランダムまたはブロックコポリマーであり得る。特に好ましいスペーサー膜は、疎水性部分としてMMAまたはBUMAならびに親水性部分として2-HEMAおよび/または2-HPMAを含む。スペーサー膜は分析物に対して高度に透過性である、すなわち、スペーサー膜は、作用電極の面積当たりの感度を著しく、例えば20%もしくはそれ未満または5%もしくはそれ未満低下させ、約20μm未満、好ましくは約5μm未満の層の厚さを有する。特に好ましいスペーサー膜の厚さは、約1μm~約3μmである。
【0085】
電極系の酵素層5は、触媒性酸化還元媒介物質として、金属酸化物粒子、好ましくは二酸化マンガン粒子を含有することができる。二酸化マンガンは、例えば、グルコースおよびその他の生物分析物の酵素的酸化によって形成された過酸化水素を触媒的に転換する。過酸化水素の分解の間に、二酸化マンガン粒子は、作用電極1の導電性成分へ、例えば酵素層5中の黒鉛粒子へ電子を移動させる。過酸化水素の触媒的分解は酵素層5中の酸素濃度の任意の減少を打ち消す。有利には、これは、酵素層5中での検出されるべき分析物の転換が局所的な酸素濃度によって制約されないようにすることを可能にする。したがって、触媒的酸化還元媒介物質の使用は、酸素濃度が低いことによる測定結果の歪曲を打ち消す。触媒的酸化還元媒介物質の別の利点は、細胞を損傷する濃度の過酸化水素の生成を妨げることである。
【0086】
本明細書に記載されている好ましいスペーサー膜ポリマーは、本発明の拡散障壁のための外側被覆として使用され得るが、電極系全体の外側被覆としても、特に、インビボ条件下で分析物の濃度を測定するための電極系であって、固定化された酵素分子を有する電極と前記電極系の外側から前記酵素分子への前記分析物の拡散を調節する拡散障壁とを備える、電極系の外側被覆としても使用され得る。
【0087】
このため、インビボ条件下で分析物の濃度を測定するための電極系であって、固定化された酵素分子を有する電極と、好ましくは前記電極系の外側から前記酵素分子への前記分析物の拡散を調節する拡散障壁とを備え、スペーサー膜が前記電極系の外側層の少なくとも一部を形成し、前記スペーサー膜がアクリル単量体および/またはメタクリル単量体の親水性コポリマーを含み、ポリマーが50mol%より多い親水性単量体を含むことを特徴とする電極系を提供することが本発明のさらなる課題である。
【0088】
特に電極系、分析物および酵素分子の構造に関する本実施形態の特徴は、本明細書に記載されているとおりである。拡散障壁は、好ましくは、本明細書に記載されているとおりのアクリル系および/またはメタクリル系単量体を基礎とするが、異なる組成を有してもよい。
【0089】
外側スペーサー膜は、好ましくは、酵素分子を含む作用電極部分を少なくとも被覆し、必要に応じて他の部分、例えば対電極も被覆する。
【実施例】
【0090】
[実施例1]1つの単一のブロックコポリマーからなる拡散層を有する経皮的移植用の分散型電極を備える酵素的非流動性(ENF)グルコースセンサーの透過性。
このセンサーは、250μmの厚さを有するポリエステル基板上の予め組み立てられたパラジウム片伝導体構造上に構築された。作用電極(WE)および対電極(CE)は、分散して配置された(
図1~2に示されているとおり)。
【0091】
CEの場には、炭素ペーストを重ねて印刷し、片伝導体の残りは絶縁した。WEの場は、架橋されたグルコース酸化酵素(酵素)、導電性ポリマーペーストおよび電気的触媒、ここでは酸化マンガン(IV)(Technipur)の混合物で重ねて印刷した。片伝導体の残りの路を再度絶縁した。参照電極(RE)は、Ag/AgClペーストからなる。電極は、約1cmのセンサー柄を被覆する。
【0092】
HEMAブロックおよびn-BuAブロックからなるブロックコポリマー拡散層で、WE場を被覆した。層の厚さは、20~50μmである。
【0093】
それぞれ拡散層として特定のブロックコポリマーで被覆された3つのセンサーバッチを作製した(下表2参照)。全てのブロックコポリマーは、Polymer Source、MontrealおよびTU Darmstadtから入手し、以下の表2に列記されている。
【0094】
【0095】
各ブロックコポリマーを有機溶媒(15~18%濃度)中に溶解し、センサーをこれで被覆した。オーブン中、50℃で1時間、大気条件下で乾燥後、異なる濃度のグルコース溶液中で、被覆されたセンサーをインビトロで試験した。各センサーバッチのうち、無作為な試料として4つのセンサーを測定した。インビトロ感度に対する指標として、10mMおよび0mMグルコース濃度での測定された電流の差によってシグナルを計算し、次いで、10mMで除した(実施例4参照)。
【0096】
全てのセンサーは、Ag/AgClに対して350mVの分極電圧で作動させ、測定温度は37℃で一定に保った。この測定系列に対して使用されたセンサーは、国際公開第2010/028708号パンフレットに記載されたスペーサーを含まなかったが、試験されたシグナルレベルの観点で差は全く生じなかった。
図5aおよびbは、3つの異なる拡散層に対する標準偏差とともに、センサーの拡散係数およびセンサードリフトを示している。
【0097】
ブロックコポリマーAは、45:55(疎水性:親水性)のモル比を有する比較用ブロックコポリマーを表す。ブロックコポリマーAは、(
図5aおよび5bに示されているように)比較的高いセンサードリフトを伴う高い拡散係数を示す。
【0098】
本発明のブロックコポリマーBでは、親水性HEMAブロックの量が85mol%に増加され、疎水性nBuAブロックが15mol%に低下された。ブロックコポリマーBは、(
図5aおよび5bに示されているように)著しく低下したセンサードリフトを伴う若干低下した拡散係数を示す。
【0099】
ブロックコポリマーCは、疎水性および親水性部分ならびにモル比に関してブロックコポリマーBに本質的に対応する。しかしながら、ブロックコポリマーCは、ブロックコポリマーBと比べて、低下した全数平均分子量(Mn)を示す。これにより、(
図5aおよび5bに示されているように)拡散係数のさらなる低下および極めて低い、わずかに正のセンサードリフトをもたらす。
【0100】
このため、本発明によると、幅広い範囲内で、分析物、例えばグルコースに対する所望の拡散係数を調整することができる。これにより、1~1.5nA/mM分析物、例えばグルコースの好ましい感度範囲が取得され得る。
【0101】
[実施例2]ENFグルコースセンサーの拡散層の機械的柔軟性
センサーは、国際公開第2010/028708号パンフレットに記載されているとおりに製造されたが、本発明による拡散層を有する。ガラス転移温度(Tg)が機械的柔軟性に対する代替パラメータであると仮定した。さらに、疎水性ブロックに割り当てられ得るガラス転移温度が、インビボでの利用における機械的柔軟性を決定すると仮定した。
【0102】
実施例1に記載されているとおりの本発明のブロックコポリマーBの拡散層で、または国際公開2012/130841号パンフレットに実施例4中で記載されているとおりの比較用ブロックコポリマーポリ(BUMA-r-MMA-b-HEMA)でセンサーを被覆した。疎水性BUMA-r-MMAブロック対親水性HEMAブロックのモル比は50%:50%であり、疎水性ブロックは、ランダム化された配列中に、等しいモル量でMMAおよびBUMAを含有する。分子量は50kDaである。ランダム化された疎水性ブロックのガラス転移温度は、DSCおよび10℃/分の加熱速度によって決定された、約73℃である。
【0103】
両拡散層は、有機溶媒中でコポリマーの各溶液から作製され、実施例1におけるように乾燥した。拡散層の厚さは、約20μmであった。
【0104】
1mmの曲げ半径での両センサー種に対する曲げ試験は、手作業で行った。ブロックコポリマーB拡散層を有するセンサーは、拡散層中に亀裂を示さなかった。これに対して、同一の試験条件下において、ブロックコポリマー、ポリ(BUMA-r-MMA-b-HEMA)を有するセンサーは、拡散層の層間剥離によってニュートン環を示した(
図6に示されているとおり)。
【0105】
[実施例3]ENF ECセンサーの拡散層の疎水性
比較用ブロックコポリマーDおよびHEMAの親水性ブロックとアクリル酸エチル(EA)の疎水性ブロックとを含む本発明のブロックコポリマーEを用いて、国際公開第2010/028708号パンフレットに記載されているとおりに、センサーを製造した(表3参照)。全ての試験条件は、実施例1と同一であった。
【0106】
【0107】
ブロックコポリマーDで被覆されたセンサーは、センサー挙動に関して不安定であることが見出された。このため、拡散係数またはセンサードリフトに対する値を測定することができなかった。
【0108】
代わりに、親水性HEMA割合が約80mol%に増加され、疎水性EA割合が約20mol%に減少されたブロックコポリマーEによって、優れたセンサー挙動が観察された。
図7aおよび7bから明らかなように、ブロックコポリマーEは、実施例1から得られたブロックコポリマーBと比較して、増加した拡散係数のみならず、増加したセンサードリフトも示す。これは、ポリ(n-BuA)と比較してより低いポリEAの疎水性によるものであり得る。
【0109】
測定の開始時に、ブロックコポリマーBおよびEの異なる挙動も観察された。ブロックコポリマーE(ポリ(EA-b-HEMA))は、比較的長く持続する(24時間)始動期間を有するのに対して、ブロックコポリマーB(ポリ(nBuA-b-HEMA))は極めて短い始動期間を示すにすぎないことが見出された(
図8に示されているとおり)。
【0110】
[実施例4]ブロックコポリマーの性質決定
グルコースの連続的測定のための複数場センサー(それぞれ、作用電極および対電極の10の場)を作製し、インビトロで性質決定した。
【0111】
センサーには、アクリル酸n-ブチル(n-BuA)の疎水性ブロックとメタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)の親水性ブロックとを含むブロックコポリマーからなる拡散層を設けた。これらのポリマーは、実施例1のブロックコポリマーBおよびCに対応する。
分析物に対する拡散障壁の透過性に関する決定的パラメータは、作用電極の面積単位(すなわち、幾何学的面積)当たりの感度である。感度SEは、nA/mMで表した、ホスフェート緩衝溶液(pH7.4)中の10mMおよび0mMグルコース濃度での電流(I)測定値から、分析されたセンサーのそれぞれに対して計算される:
SE=[I(10mM)-I(0mM)]/10
個別の測定値(N=8)から、平均感度SEmが求められる。複数場センサー上にある全ての作用電極スポットの微視的に測定された幾何学的総面積Fによって、得られた感度値を除する。これにより、感度密度SEm/Fが得られる。
【0112】
インビトロ機能曲線の直線性Yは、作用電極上のポリマー被覆層の拡散調節機能性の指標である。直線性Yは、20mM、10mMおよび0mMグルコース濃度での電流測定値から%で、分析されたセンサーのそれぞれに対して計算される:
Y20mM=50・[I(20mM)-I(0mM)]/[I(10mM)-I(0mM)]
個別の測定値から、平均直線性値およびその標準偏差が求められる。
【0113】
最後に、ポリマーの各々に対する光学的測定によって、センサーの拡散障壁の層の厚さLが決定される。同じポリマーを有するn=4センサーの試料に対して、対応する平均値が計算される。これらから、被覆層の有効拡散係数Deff:
Deff=SEm/F・Lm・5.182・10-8
がcm2/秒で計算され得、SEmおよびLmはそれぞれ感度および層の厚さに対する平均値であり、Fは全ての作用電極スポットの総面積である。
【0114】
7日のインビトロ測定にわたるグルコース濃度ステージの反復から、センサードリフトを計算した。
【0115】
結果を表4に示す。
【0116】