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特許7227654固形癌及び微生物感染を治療するための方法及び組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-14
(45)【発行日】2023-02-22
(54)【発明の名称】固形癌及び微生物感染を治療するための方法及び組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/869 20060101AFI20230215BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20230215BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20230215BHJP
   A61K 35/763 20150101ALI20230215BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230215BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230215BHJP
【FI】
C12N15/869 Z
C12N15/12
C12N7/01
A61K35/763
A61K48/00
A61P35/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021507574
(86)(22)【出願日】2018-08-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-09
(86)【国際出願番号】 CN2018096152
(87)【国際公開番号】W WO2020034051
(87)【国際公開日】2020-02-20
【審査請求日】2021-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】520400807
【氏名又は名称】イムヴィラ・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】IMMVIRA CO., LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100165892
【弁理士】
【氏名又は名称】坂田 啓司
(72)【発明者】
【氏名】ジョウ・グレイス
(72)【発明者】
【氏名】チェン・シャオチン
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/103237(WO,A1)
【文献】PLoS Pathog.,2014年,Volume 10, Issue 5, e1004134,p. 1-13
【文献】Exp. Ther. Med.,2018年04月,Vol. 15,p. 3523-3529
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 - 15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイトカインシグナル伝達阻害因子4(SOCS4)をコードする外因性ポリヌクレオチド断片を含む組換え腫瘍溶解性1型単純ヘルペスウイルス(oHSV-1)であって、
一旦癌細胞内で複製されると、SOCS4を発現する組換えoHSV-1。
【請求項2】
前記外因性ポリヌクレオチド断片は、oHSV-1のUL3とUL4遺伝子の間に位置する、請求項1に記載の組換えoHSV-1。
【請求項3】
前記癌細胞は、食道癌細胞、肺癌細胞、前立腺癌細胞、又は膀胱癌細胞である、請求項1に記載の組換えoHSV-1。
【請求項4】
前記SOCS4は、ヒトSOCS4である、請求項1に記載の組換えoHSV-1。
【請求項5】
免疫刺激剤及び/又は免疫治療剤をコードする追加の外因性ポリヌクレオチド断片を含む、請求項1に記載の組換えoHSV-1。
【請求項6】
請求項1に記載の組換えoHSV-1と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物。
【請求項7】
癌の治療用である、請求項6に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物感染及び固形癌を治療するための方法及び組成物に関し、特にSOCS4を発現する組換えウイルス及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
HSV-1は気道を含む様々な粘膜組織に感染し、HSV-1誘導肺炎はウイルスそのものではなく炎症反応による直接的な細胞変性効果であることが報告されている。この制御されていない炎症反応は、「サイトカインストーム」と呼ばれる炎症性サイトカインの過剰放出の結果であり、「サイトカインストーム」は、最初には、インフルエンザによって誘導されたサイトカインが短期間で過剰に産生されることを意味し、制御されていない炎症性反応、重要な免疫病理学、及び重篤な疾患の結末に関連している。残念なことに、サイトカインストームに関与する分子、サイトカインの発症機序への貢献、及び症状を予防又は軽減するための治療戦略についての理解はまだ不十分である。
【0003】
癌細胞内で選択的に複製し、癌細胞を殺傷するように遺伝子操作された腫瘍溶解性ウイルス(OV)は、抗腫瘍治療の新しい方法の代表である。その機序の選択性、腫瘍細胞死を調節する潜在力及び腫瘍部位で追加の治療用導入遺伝子を発現する可能性に基づくものであるため、この方法は特に注目されている。腫瘍溶解性ウイルスが腫瘍内注射用に設計されていることを考慮すると、このユニークな癌療法は通常、宿主の抗腫瘍免疫(免疫ウイルス療法、immunovirotherapy)と組み合わせられている。腫瘍溶解性HSV(oHSV)に基づく1型単純ヘルペスウイルス(HSV-1)、talimogene laherparepvec(T-VEC、Imlygic)はFDAにより初めて承認されたOVである。他のOV候補者のように、oHSVに対する宿主反応は複雑で、多方面であり、しかも宿主免疫力と腫瘍微小環境を通じて調節を行い、さらに、種々の免疫反応及び炎症反応は、有利にも有害にもなり得、OVを介して特定の器官(たとえば肺)に送達されることによって誘導されるサイトカインストームは、ますます認められた障害の1つである。サイトカインストームに伴う肺損傷の進展は、その後、すでに各種のウイルス、細菌又は真菌感染において報告されていた。一貫した観察から、サイトカインストームの概念はより複雑であることが示されているが、現在のところ、サイトカインストームを促進する機序についての理解はまだ限られており、適切なサイトカイン放出とサイトカイン過剰産生のバランスを制御する対策はまだ開発されていない。
【発明の概要】
【0004】
本発明の第1の態様は、サイトカインシグナル伝達阻害因子4(SOCS4)又はその機能的断片をコードする外因性ポリヌクレオチド断片を含む組換えウイルスであって、一旦細胞内で複製されると、SOCS4又はその機能的断片を発現する、組換えウイルスに関する。
【0005】
いくつかの実施形態では、組換えウイルスは、サイトカインシグナル伝達阻害因子4(SOCS4)又はその機能的断片をコードする外因性ポリヌクレオチド断片を担持する組換え腫瘍溶解性ウイルスであり、このウイルスが複製される細胞は腫瘍細胞である。いくつかの実施形態では、組換えウイルスは、サイトカインシグナル伝達阻害因子4(SOCS4)又はその機能的断片をコードする外因性ポリヌクレオチド断片を担持する組換えウイルスベクターであり、このウイルスが複製される細胞は正常細胞である。
【0006】
本発明の別の態様は、治療有効量の組換え腫瘍溶解性ウイルスを対象に投与することを含む、対象において癌を治療するための、又は対象において腫瘍溶解性ウイルス療法の副作用を低減又は解消するための方法であって、該組換え腫瘍溶解性ウイルスは、サイトカインシグナル伝達阻害因子4(SOCS4)又はその機能的断片をコードする外因性ポリヌクレオチド断片を含み、一旦癌細胞内で複製されると、SOCS4又はその機能的断片を発現する方法に関する。
【0007】
本発明のさらなる態様は、治療有効量の組換えウイルスベクターを対象に投与することを含む、対象において微生物感染治療の副作用を低減又は解消するための方法であって、該ベクターは、サイトカインシグナル伝達阻害因子4(SOCS4)又はその機能的断片をコードする外因性ポリヌクレオチド断片を含み、該組換えウイルスは、一旦正常細胞内で複製されると、SOCS4又はその機能的断片を発現する方法に関する。
【0008】
本発明では、サイトカインストームに対する誘導の制御に及ぼす影響を研究するために、SOCS4タンパク質挿入断片(protein insert)を有するHSV株(HSV-SOCS4)が構築されている。本発明は、MCP-1、IL-1β、TNF-α、IL-6、及びIFN-γを含むいくつかの重要な役割を果たす代表的なサイトカインを研究し、HSV-SOCS4に感染したマウスにおけるそれらの濃度はHSV-1(F)に感染したマウスにおけるそれらの濃度よりもはるかに低く、HSV-SOCS4マウスはわずかな肺損傷、わずかな体重減少、及び100%の生存率を示すことを発見した。本発明は、腫瘍溶解性ウイルス療法によって誘導されるサイトカインストームを調節するための有望な技術案を提供する。
【0009】
本発明の態様をさらに記載する:
[項1]
サイトカインシグナル伝達阻害因子4(SOCS4)又はその機能的断片をコードする外因性ポリヌクレオチド断片を含む組換えウイルスであって、
一旦細胞内で複製されると、SOCS4又は前記機能的断片を発現する組換えウイルス。
[項2]
前記ウイルスは腫瘍溶解性ウイルス又はウイルスベクターである、上記項1に記載の組換えウイルス。
[項3]
前記腫瘍溶解性ウイルスは腫瘍溶解性1型単純ヘルペスウイルス(oHSV-1)である、上記項2に記載の組換えウイルス。
[項4]
前記外因性ポリヌクレオチド断片は、oHSV-1のUL3とUL4遺伝子の間に位置する、上記項3に記載の組換えウイルス。
[項5]
前記ウイルスベクターは、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、単純ヘルペスウイルス、牛痘ウイルス、又はバキュロウイルスに由来する、上記項2に記載の組換えウイルス。
[項6]
前記細胞は癌細胞である、上記項1に記載の組換えウイルス。
[項7]
前記癌細胞は、食道癌細胞、肺癌細胞、前立腺癌細胞、又は膀胱癌細胞である、上記項6に記載の組換えウイルス。
[項8]
前記SOCS4は、GenBank登録番号がNC_000014.9であるホモサピエンス由来であるか、又はホモサピエンスと少なくとも80%の同一性を有する配列由来である、上記項1~7のいずれか1項に記載の組換えウイルス。
[項9]
免疫刺激剤及び/又は免疫治療剤をコードする追加の外因性ポリヌクレオチド断片を含む、上記項1~8のいずれか1項に記載の組換えウイルス。
[項10]
上記項1~9のいずれか1項に記載の組換えウイルスと、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物。
[項11]
治療有効量の組換え腫瘍溶解性ウイルスを対象に投与することを含む、対象において癌を治療する方法であって、
前記組換え腫瘍溶解性ウイルスは、サイトカインシグナル伝達阻害因子4(SOCS4)又はその機能的断片をコードする外因性ポリヌクレオチド断片を含み、一旦癌細胞内で複製されると、SOCS4又は前記機能的断片を発現する方法。
[項12]
前記腫瘍溶解性ウイルスは腫瘍溶解性1型単純ヘルペスウイルス(oHSV-1)である、上記項11に記載の方法。
[項13]
前記癌細胞は、食道癌細胞、肺癌細胞、前立腺癌細胞、又は膀胱癌細胞である、上記項11又は12に記載の方法。
[項14]
SOCS4は、GenBank登録番号がNC_000014.9であるホモサピエンス由来であるか、又はホモサピエンスと少なくとも80%の同一性を有する配列由来である、上記項11~13のいずれか1項に記載の方法。
[項15]
前記組換え腫瘍溶解性ウイルスは、免疫刺激剤及び/又は免疫治療剤をコードする追加の外因性ポリヌクレオチド断片を含む、上記項11~14のいずれか1項に記載の方法。
[項16]
治療有効量の組換え腫瘍溶解性ウイルスを対象に投与することを含む、対象において腫瘍溶解性ウイルス療法の副作用を低減又は解消する方法であって、
前記組換え腫瘍溶解性ウイルスは、サイトカインシグナル伝達阻害因子4(SOCS4)又はその機能的断片をコードする外因性ポリヌクレオチド断片を含み、一旦癌細胞内で複製されると、SOCS4又は前記機能的断片を発現する方法。
[項17]
前記組換え腫瘍溶解性ウイルスは、腫瘍溶解性1型単純ヘルペスウイルス(oHSV-1)である、上記項16に記載の方法。
[項18]
前記癌細胞は、食道癌細胞、肺癌細胞、前立腺癌細胞、又は膀胱癌細胞である、上記項16又は17に記載の方法。
[項19]
SOCS4は、GenBank登録番号がNC_000014.9であるホモサピエンス由来であるか、又はホモサピエンスと少なくとも80%の同一性を有する配列由来である、上記項16~18のいずれか1項に記載の方法。
[項20]
前記副作用は、サイトカインの過剰産生である、上記項16~19のいずれか1項に記載の方法。
[項21]
前記副作用は肺組織損傷である、上記項16~20のいずれか1項に記載の方法。
[項22]
治療有効量の組換えウイルスを対象に投与することを含む、対象において微生物感染治療の副作用を低減又は解消する方法であって、
前記組換えウイルスは、サイトカインシグナル伝達阻害因子4(SOCS4)又はその機能的断片をコードする外因性ポリヌクレオチド断片を含み、一旦細胞内で複製されると、SOCS4又は前記機能的断片を発現する方法。
[項23]
前記組換えウイルスはウイルスベクターである、上記項22に記載の方法。
[項24]
前記ウイルスベクターは、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、単純ヘルペスウイルス、牛痘ウイルス、又はバキュロウイルスに由来する、上記項22又は23に記載の方法。
[項25]
SOCS4は、GenBank登録番号がNC_000014.9であるホモサピエンス由来であるか、又はホモサピエンスと少なくとも80%の同一性を有する配列由来である、上記項22~24のいずれか1項に記載の方法。
[項26]
前記微生物感染は、ウイルス感染、細菌感染、又は真菌感染である、上記項22~25のいずれか1項に記載の方法。
[項27]
前記副作用は、サイトカインの過剰産生である、上記項22~26のいずれか1項に記載の方法。
[項28]
前記副作用は肺組織損傷である、上記項22~27のいずれか1項に記載の方法。
本発明の他の態様は、以下の本発明の詳細な説明から容易に把握できる。

【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】HSV-SOCS4再構築の概略図。A)確認されたSOCS4遺伝子をCla I/Acc I及びNot IでのpNEWUL骨格部位に連結する。(B)pNEWULからpNEWUL骨格のBglIIとPacIの間の配列(UL3、UL4、及びSOCS4を含む)を切断し、同じ部位でプラスミドPko5.1にクローニングする。
図2】HSV-SOCS4再構築のPCR確認。(A)バンド1は、pReveiver-M02からのSOCS4(1397bp)のPCR産物を示す。(B)最終的な確認のために再構築ウイルスからDNAを抽出してPCRを行い、1000bp~2000bpの間のバンドは、UL49(1492bp)、UL3(1319bp)、及びSOCS4(1397bp)を示す。
図3】PBS、HSV-1-F又はHSV-SOCS4に感染したマウスからのBALF中のサイトカイン産量。感染後1日目、3日目、及び7日目にマウス(n=6)からBALFを収集し、ELISAアッセイを行った。(A)3日間にわたってHSV-SOCS4マウスから検出されたMCP-1の濃度と比較したところ、HSV-1-Fマウスから有意により高濃度のMCP-1が検出された。HSV-1-FマウスのMCP-1産量は7日目に減少したが、HSV-SOCS4マウスでは無視できる差しか示されなかった。(B)HSV-SOCS4マウスと比較して、HSV-1-Fマウスでは、1日目と3日目にIL-1βレベルの上昇が観察されたが、7日目には観察されなかった。HSV-1-FマウスのIL-1β産量は上昇傾向-下降傾向曲線を示した。(C)HSV-1-FマウスとHSV-SOCS4マウスとの間でTNF-αレベルに有意差があり、HSV-1-Fマウスでは最も高いTNF-αレベルが1日目に測定され、その後低下した。(D)HSV-1-Fマウスで測定したIL-6レベルと比較して、HSV-SOCS4マウスでは、1日目、3日目、及び7日目に有意により低レベルのIL-6が測定され、2群ともに7日目に産量が増加した。(E)HSV-1-FマウスのIFN-γ産量はHSV-SOCS4マウスからのIFN-γ産量よりもはるかに高く、3日目に増加し7日目には高レベルを維持した。陰性対照である模擬マウス(NC)は、評価可能な量のサイトカインを誘導しなかった。*はp値<0.05を示す。
図4】PBS、HSV-1-F又はHSV-SOCS4に感染したマウスの血清中からのサイトカイン産量。感染後1日目、3日目、及び7日目に各マウスから血清を収集して、ELISAアッセイを行った。(A)1日目に、HSV-SOCS4マウスから検出されたMCP-1の濃度と比較して、HSV-1-Fマウスでは、有意により高濃度のMCP-1が検出され、HSV-1-Fマウス中のMCP-1の産量が連続的に低下したが、HSV-SOCS4マウスでは7日目にのみ低下した。(B)HSV-1-FマウスとHSV-SOCS4マウスのIL-1β値は1日目と3日目で類似していたが、HSV-1-Fマウスでは7日目に強い上昇を示し、このため、2群のマウスの間に有意差が認められた。(C)HSV-1-FマウスとHSV-SOCS4マウスとの間でTNF-αレベルの差が有意であり、7日目にHSV-1-FマウスのTNF-αレベルが最も高いことを示した。(D)3日間にわたってHSV-1-Fマウスで測定したIL-6レベルと比較して、HSV-SOCS4マウスでは、有意により低レベルのIL-6が測定された。HSV-1-FマウスではIL-6産量の持続的な増加が検出されたが、HSV-SOCS4マウスでは7日目にのみレベルの増加を示した。(E)HSV-1-Fマウスではより多くのIFN-γ産量が測定され、2群ともに7日目に増加した。陰性対照である模擬マウス(NC)は、評価可能な量のサイトカインを誘導しなかった。*はp値<0.05を示す。
図5】HSV-1-F又はHSV-SOCS4に感染したマウスからのBALF細胞のフローサイトメトリー解析。感染後1日目と7日目にマウスからのBALF細胞を収集して、CD11bで染色した後、フローサイトメトリー解析を行った。(A)1日目及び7日目の各群のマウスの1つの代表的な結果を示す。CD11b+細胞の数が標識されている。(B)マウス(n=6)の結果を示す。HSV-1-Fマウスでは優位なCD11b+細胞が検出され、また2群では、7日目に染色陽性の細胞に比べて、1日目に染色陽性の細胞数が多かった。*はp値<0.05を示す。
図6】HSV-1-F又はHSV-SOCS4に感染したマウスからの脾臓細胞のフローサイトメトリー解析。感染後1日目と7日目にマウスからの脾臓細胞を収集して、CD62L、CD8a又はCD4で染色した後、フローサイトメトリー解析を行った。(A)各群のマウスからの代表的なCD8+及びCD62L+細胞の1日目及び7日目の結果を示す。二重陽性細胞の数を示す。(B)マウス(n=6)の結果を示す。1日目から7日目にかけて、二重陽性細胞が大幅に増加し、7日目にHSV-1-FマウスとHSV-SOCS4マウスとの間で二重陽性細胞数の差が認められた。(C)1日目及び7日目に各群のマウスから産生された典型的なCD4+及びCD62L+細胞を提示する。二重陽性細胞の数を記録する。(D)マウス(n=6)の結果を示す。7日目に有意に上昇したCD4+及びCD62L+細胞が検出され、HSV-1-FマウスとHSV-SOCS4マウスとの間で陽性細胞数に有意差が認められた。*はp値<0.05を示す。
図7】感染マウス中のウイルス力価(Viral titration)及び病理分析。BALFを抽出されなかったマウスの肺を、感染マウスから摘出した後に細断し、上澄み液を収集して単層Vero細胞上でのウイルス力価解析を行う。(A)1日目に最大ウイルス力価が観察され、その後低下し、7日目にウイルスが検出されなかった。3日目には、HSV-1-FマウスとHSV-SOCS4マウスとの間でウイルス量に有意差が認められた。(B)BALFが収集されなかったマウスの肺について病理解析を行い、200xの代表的な写真を示した。1日目には、HSV-SOCS4マウスの肺部にはほとんど病理的変化は見られなかったが、HSV-1-Fマウスの肺には、局所毛細血管の軽度から中等度の拡張と充血を伴う明らかな細胞浸潤が見られた。7日目には、HSV-SOCS4に感染したマウスの肺には、いくつかの免疫細胞の浸潤及び毛細血管の軽微な拡張と充血が観察されたが、肺胞壁の構造は破裂しなかった。HSV-1-Fマウスの肺には、肥厚になり破裂した肺胞壁が出現し、周囲の重篤な充血を伴い、免疫細胞で満たされていた。*はp値<0.05を示す。
図8】PBS、HSV-1-F又はHSV-SOCS4に感染したマウスの体重及び死亡率。鼻内経路で感染した後、マウスを1日に2回モニタリングし、12日間続けた。(A)生存しているすべてのマウスの平均体重(g)を示す。HSV-1-Fに感染したマウスは2日目に徐々に体重が減少し始め、7日目にはその減少が急激になり、最後に生存したマウスは10日目に50%体重が減少した。HSV-SOCS4群マウスはわずかに体重が減少し、一般的に12日目に80%の体重を維持した。(B)HSV-1-Fマウスは7日目に生存率が低下し始め、その後急速に死亡し、11日目には生存しなかった。HSV-SOCS4マウスの生存率は100%に維持された。PBS模擬マウスは体重減少を示さず、死亡もしなかった。*はp値<0.05を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
定義
なお、用語「一」又は「1つ」の実体は、その実体のうちの1つ又は複数を意味し、たとえば、「癌細胞」は、1つ又は複数の癌細胞を表すものとして理解される。したがって、用語「1つ」(又は「一」)、「1つ又は複数」、及び「少なくとも1つ」は、本明細書において交換的に使用され得る。
【0012】
本明細書で使用される場合、「治療」という用語は、治療的処置、及び予防的又は防止的対策を意味し、癌の進行など、望ましくない生理学的変化又は病症を予防又は遅延(低減)することを目的とする。検出可能であるか検出不可能であるかにかかわらず、有益又は期待される臨床結果には、症状の寛解、疾患の程度の軽減、疾患状態の安定化(すなわち悪化しない)、疾患の進行の遅延又は減速、疾患状態の改善又は緩和、及び寛解(部分的又は全体的)が含まれるが、これらに限定されるものではない。「治療」とは、治療を受けていない場合に予想される生存期間よりも生存期間を延長することを意味することもある。治療を必要とする対象には、既に疾患や病症に罹患している対象と、疾患や病症に罹患しやすい対象や、疾患や病症を予防しようとしている対象とが含まれる。
【0013】
「対象」、「個体」、「動物」、「患者」又は「哺乳動物」とは、診断、予後又は治療を必要とする任意の対象、特に哺乳動物対象を指す。哺乳動物対象には、人間、飼い動物、農場動物、動物園動物、競技動物、又はペット、たとえば、犬、猫、モルモット、ウサギ、ラット、マウス、馬、牛、乳牛などが含まれる。本明細書では、対象は人間であることが好ましい。
【0014】
本明細書で使用される場合、たとえば、「治療を必要とする患者」又は「治療を必要とする対象」という語句は、たとえば、検出、診断手順及び/又は治療のための本開示の組換えウイルス又は組成物の投与から利益を得る対象、たとえば、哺乳動物対象を含む。
【0015】
本明細書において使用される「治療有効量」又は「薬学的有効量」という用語は、臨床的に顕著な効果を発揮し得る各活性成分の量を指す。たとえば、製剤方法、投与方式、患者の年齢、体重、性別、病理状況、飲食、投与時間、投与間隔、投与方式、排泄速度及び反応敏感性の要素により、各種の方式で単回用量の組換えウイルスの薬学的有効量を投薬することができる。たとえば、単回用量の組換えウイルスの薬学的有効量は、0.001~100mg/kg又は0.02~10mg/kgの範囲であってもよいが、これに限定されるものではない。単回用量の薬学的有効量は、単位剤形の単一製剤に配合されてもよいし、適当に別々の剤形に配合されてもよいし、多剤量容器に収容されるように製造されてもよい。
【0016】
本明細書で互換的に使用され得る用語「ポリヌクレオチド」及び「核酸」は、任意の長さのヌクレオチドの重合形態、すなわちリボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチドを指す。これらの用語には、一本鎖、二本鎖又は三本鎖DNA、ゲノムDNA、cDNA、ゲノムRNA、mRNA、DNA-RNAヘテロ接合体、又はプリン及びピリミジン塩基、又は他の天然、化学的、生化学的に修飾された、非天然又は誘導されたヌクレオチド塩基を含むポリマーが含まれる。ポリヌクレオチドの骨格は、糖及びリン酸基(一般にRNA又はDNA中に発現され得る)、又は修飾又は置換された糖又はリン酸基を含んでいてもよい。もしくは、ポリヌクレオチドの骨格は、ホスホルアミデートのような合成サブユニットのポリマーを含んでいてもよく、したがって、オリゴデオキシヌクレオシドホスホルアミデート(P-NH2)又はホスホルアミデート-リン酸ジエステルを混合したオリゴマーであってもよい。
【0017】
さらに、ヌクレオチド又はアミノ酸の置換、欠失又は挿入を行うことができ、それによって「必須でない」アミノ酸領域における保存的な置換又は変化をもたらす。たとえば、指定されたタンパク質から誘導されたポリペプチド又はアミノ酸配列は、1つ又は複数の単独のアミノ酸置換、挿入又は欠失(たとえば、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、15個、20個又はそれ以上の単独のアミノ酸置換、挿入又は欠失)以外、開始配列と同一であってもよい。いくつかの実施形態では、指定されたタンパク質から誘導されたポリペプチド又はアミノ酸配列は、この開始配列に対して、1~5個、1~10個、1~15個、又は1~20個の単独のアミノ酸置換、挿入、又は欠失を有する。
【0018】
本明細書で使用される用語「組換えウイルス」又は「再構築ウイルス」は、たとえば、異種核酸構築体をウイルスのゲノムに付加又は挿入することによって、及び/又はウイルスのゲノムから内因性ポリヌクレオチドを欠失させることによって、遺伝的に改変されたウイルスを指す。本出願で使用される場合、この用語は、SOCS4タンパク質又はその機能的断片をコードする異種核酸配列断片を担持する組換え腫瘍溶解性ウイルス又は組換えウイルスベクターを指す。
【0019】
腫瘍溶解性ウイルス
本分野においては、多くの腫瘍溶解性ウイルスが知られ、記載されており、これらのいずれかが本発明に使用されることが考えられる。たとえば、適切な腫瘍溶解性ウイルスは、1型単純ヘルペスウイルス、2型単純ヘルペスウイルス、水疱性口炎ウイルス、腫瘍溶解性アデノウイルス、ニューカッスル病ウイルス、牛痘ウイルス、及びこれらのウイルスの突然変異株を含む。一実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスは、複製選択的であるか、又は複製能を有する。一実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスは複製能を有しない。
【0020】
いくつかの実施形態では、現在の方法及び組成物で使用可能な腫瘍溶解性ウイルスは複製選択的である。なお、腫瘍溶解性ウイルスの複製を遺伝子発現の調節因子(たとえば、アルブミン遺伝子の5’側から誘導されたエンハンサー/プロモーター領域)の制御下に置くと、腫瘍溶解性ウイルスを複製選択的にすることができる。たとえば、HSV遺伝子をTGF-βプロモーターに作動可能に連結することにより、HSVの主要転写単位を腫瘍成長因子-β(TGF-β)プロモーターの転写制御下に置くことができる。同じタイプの非腫瘍細胞に対してTGF-βを過剰発現する腫瘍細胞があることが知られている。したがって、TGF-βプロモーターの転写によって複製が制御されている腫瘍溶解性ウイルスは、同じタイプの非腫瘍細胞よりも一部の腫瘍細胞内で複製され得ることから、複製選択的である。影響を受けた細胞において選択的に過剰発現を引き起こすことが知られている任意の遺伝子発現の調節因子を使用して、同様に複製選択的な腫瘍溶解性ウイルスを製造することができる。たとえば、複製選択的な腫瘍溶解性ウイルスは、ICP34.5をコードする遺伝子が突然変異又は欠失されたHSV-1突然変異体であってもよい。
【0021】
本発明による腫瘍溶解性ウイルスは、そのゲノム中に他の修飾をさらに含むことができる。たとえば、U44遺伝子に挿入された他のDNAを含むことができる。この挿入によってU44遺伝子の機能不活性化及び切断表現型の生成を発生させるか、又は不活性化された遺伝子に挿入するか又は欠失した遺伝子を置換することができる。
【0022】
腫瘍溶解性ウイルスにはまた、1つ又は複数のプロモーターを組み込むことができ、これらのプロモーターは、増強されたレベルの腫瘍細胞特異性をこのウイルスに付与する。このようにして、腫瘍細胞特異的プロモーターを用いて、腫瘍溶解性ウイルスを特定の腫瘍タイプに標的化することができる。「腫瘍細胞特異的プロモーター」又は「腫瘍細胞特異的転写調節配列」又は「腫瘍特異的プロモーター」又は「腫瘍特異的転写調節配列」という用語は、正常細胞と比較して標的腫瘍細胞中に高いレベルで存在する転写調節配列、プロモーター及び/又はエンハンサーを表す。たとえば、本発明に使用される腫瘍溶解性ウイルスは、外因的に付加された調節因子(たとえばテトラサイクリン)の制御下にあり得る。
【0023】
一実施形態では、本発明の腫瘍溶解性ウイルス(たとえば、oHSV)は、少なくとも1種のウイルス複製に必要なウイルスタンパク質を腫瘍特異的プロモーターの制御下に置くように操作される。又は、細胞傷害剤をコードする遺伝子(ウイルス遺伝子又は外因性遺伝子)を腫瘍特異的プロモーターの制御下に置いてもよい。本明細書で使用される場合、細胞傷害剤とは、細胞死を引き起こす任意のタンパク質を意味する。たとえば、リシン、ジフテリア毒素、又はそれらの切断形態を含む。プロドラッグ、サイトカイン又はケモカインをコードする遺伝子も含まれる。このような腫瘍溶解性ウイルスは、標的化された腫瘍において高度に発現されている遺伝子からのプロモーター、たとえば上皮成長因子受容体(EGFr)又は塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)のプロモーター、又は腫瘍に関連する他のプロモーター又はエンハンサーエレメントを利用することができる。
【0024】
本発明に使用される腫瘍溶解性ウイルスの1つは腫瘍溶解性単純ヘルペスウイルス(oHSV)である。oHSVは、本明細書に記載のポリペプチドのうちの1つ又は複数をコードする1つ又は複数の外因性核酸を含む。このような外因性核酸を含むoHSVを生成する方法は、本分野において公知である。oHSVゲノムにおける核酸の具体的な挿入位置は、当業者によって決定することができる。
【0025】
腫瘍溶解性単純ヘルペスウイルス(oHSV)は、本分野において公知であり、1型単純ヘルペスウイルス及び2型単純ヘルペスウイルスを含む。一実施形態では、本発明の方法、組成物、及びキットに使用されるoHSVは、複製選択的であるか、又は複製能を有するものであり、たとえば、本明細書に記載の一実施例が挙げられる。一実施形態では、oHSVは複製能を有しない。
【0026】
その中でも、1型単純ヘルペスウイルス、たとえば、機能的ICP34.5を発現しないHSV-1ウイルスのバリアントは好ましいウイルスであり、したがって、対応する野生型よりも著しく低い神経毒性を示す。このようなバリアントには、oHSV-R3616が含まれるが、これに限定されるものではない。他の例示的なHSV-1ウイルスは、1716、R3616及びR4009を含む。使用し得る複製選択性を有する他のHSV-1ウイルス株は、たとえばR47Δ(タンパク質ICP34.5及びICP47をコードする遺伝子が欠失している)、G207(ICP34.5及びリボヌクレオチド還元酵素をコードする遺伝子が欠失している)、NV1020(UL24、UL56及び内部反復をコードする遺伝子が欠失している)、NV1023(UL24、UL56、ICP47及び内部反復をコードする遺伝子が欠失している)、3616-UB(ICP34.5及びウラシルDNAグリコシラーゼをコードする遺伝子が欠失している)、G92Δ(アルブミンプロモーター駆動に必要なICP4遺伝子の転写)、hrR3(リボヌクレオチド還元酵素をコードする遺伝子が欠失している)、R7041(Us3遺伝子が欠失している)、及び機能的ICP34.5を発現しないHSV株を含む。
【0027】
本明細書に記載の方法及び組成物に使用されるoHSVは、本明細書に記載のHSV-1突然変異株のうちの1つに限定されない。任意の単純ヘルペスウイルスの複製選択的株を使用することができる。本明細書に記載のHSV-1突然変異株に加えて、本分野では、複製選択性を有する他のHSV-1突然変異株も記載されている。さらに、本明細書に記載の方法及び組成物には、HSV-2突然変異株、たとえばHSV-2株2701(RL遺伝子が欠失している)、Delta RR(ICP10PK遺伝子が欠失している)、及びFusOn-H2(ICP10PK遺伝子が欠失している)を使用することもできる。
【0028】
HSVの非ラボ株を単離して、本発明での使用に適したものとすることもできる。さらに、HSV-2突然変異株(たとえば、HSV-2株HSV-2701、HSV-2616及びHSV-2604)は本発明の方法に使用することができる。
【0029】
一実施形態では、組換え腫瘍溶解性ウイルスは、サイトカインシグナル伝達阻害因子4(SOCS4)又はその機能的断片をコードする外因性ポリヌクレオチド断片を含む組換えoHSV-1であり、ここで、この外因性ポリヌクレオチド断片はoHSV-1のU3とU4遺伝子の間に位置する。一実施形態では、組換えoHSV-1はF株(oHSV-1(F))である。
【0030】
ウイルスベクター
本発明の一実施形態では、組換えウイルスはSOCS4をコードするポリヌクレオチドを担持する組換えウイルスベクターである。ウイルスベクターはベクター、ベクターウイルス粒子又はベクター粒子と呼ぶこともできる。別の実施形態では、ウイルスベクターは、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、単純ヘルペスウイルス、牛痘ウイルス、又はバキュロウイルスから誘導される。本発明に使用される「ウイルスベクター」という用語は、ウイルスから誘導された、ベクターであって、ポリヌクレオチド(たとえば、SOCS4又はそのバリアントをコードする)を正常細胞に送達し、該細胞内で該ポリヌクレオチドを発現させるためのベクターを指す。
【0031】
レトロウイルスベクターは、任意の適切なレトロウイルスから誘導することができる。多くの異なるレトロウイルスが同定されている。たとえば、マウス白血病ウイルス(MLV)、ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)、マウス乳腺腫瘍ウイルス(MMTV)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、藤浪肉腫ウイルス(FuSV)、モロニーマウス白血病ウイルス(Mo MLV)、FBRマウス骨肉腫ウイルス(FBR MSV)、モロニーマウス肉腫ウイルス(Mo-MSV)、Abelsonマウス白血病ウイルス(A-MLV)、鳥類骨髄細胞腫ウイルス29(MC29)及び鳥類赤血球増加症ウイルス(AEV)を含む。レトロウイルスはバブルウイルスから誘導されてもよい。
【0032】
レンチウイルスはより大きな集団のレトロウイルスの一部である。簡単に言えば、レンチウイルスは霊長類集団と非霊長類集団に分けられる。霊長類レンチウイルスの例としては、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ヒト自己免疫不全症候群(AIDS)の原因物質、及びサル免疫不全ウイルス(SIV)が含まれるが、これらに限定されない。非霊長類レンチウイルス集団には、プロトタイプ「レンチウイルス」ビスナ/メディウイルス(visna/maedi virus、VMV)及び関連するヤギ関節炎-脳炎ウイルス(CAEV)、馬伝染性貧血ウイルス(EIAV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、及びウシ免疫不全ウイルス(BIV)が含まれる。本明細書で使用されるレンチウイルスベクターは、レンチウイルスベクターから誘導され得る少なくとも1つの構成要素を含むベクターである。好ましくは、この構成要素は、そのベクターを介した細胞の感染、遺伝子の発現、又は複製される生物学的機序に関与する。レンチウイルスベクターは、霊長類レンチウイルス(たとえば、HIV-1)又は非霊長類レンチウイルスに由来することができる。非霊長類レンチウイルスの例は、自然に霊長類に感染しないレンチウイルス科ファミリーの任意のメンバーであってもよく、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、ウシ免疫不全ウイルス(BIV)、ヤギ関節炎-脳炎ウイルス(CAEV)、メディビスナウイルス(MVV)、又は馬伝染性貧血ウイルス(EIAV)を含むことができる。別の実施形態では、レンチウイルスベクターは、HIV-1、HIV-2、SIV、FIV、BIV、EIAV、CAEV、又はビスナレンチウイルスから誘導される。
【0033】
本発明の別の実施形態では、ウイルスベクターはアデノウイルスベクターであってもよい。アデノウイルスは、RNA中間体を介して複製されない二本鎖線状DNAウイルスである。アデノウイルスは二本鎖DNA無エンベロープウイルスであり、インビボ、エクスビボ、及びインビトロで一連のヒトと非ヒト由来の細胞タイプを形質導入することができる。これらの細胞には、気道上皮細胞、肝細胞、筋肉細胞、心筋細胞、滑膜細胞、初代乳腺上皮細胞、及び有糸分裂後期の終末分化細胞(たとえばニューロン)が含まれる。アデノウイルスは、遺伝子治療及び異種遺伝子発現のためのベクターとして使用されてきた。大きな(36kb)ゲノムは、最大8kbの外因性挿入DNAを収容することができ、相補的な細胞株内で効率的に複製して1ミリリットル当たり1012個の形質導入単位までの非常に高い力価を生成することができる。したがって、アデノウイルスは初代非複製細胞における遺伝子発現を研究するのに最適なシステムの1つである。アデノウイルスゲノム由来のウイルス又は外因性遺伝子の発現は複製細胞を必要としない。アデノウイルスベクターは、受容体媒介エンドサイトーシスによって細胞内に入る。一旦細胞内に入ると、アデノウイルスベクターが宿主染色体に組み込まれることはほとんどない。逆に、それらは(宿主ゲノムとは独立した)付加体として、宿主細胞核内に線形ゲノムの形で存在する。
【0034】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、高い組み込み頻度を有し、非分裂細胞に感染することができるので、本発明で使用される魅力的なベクター系である。これにより、アデノ随伴ウイルス(AAV)は哺乳動物細胞への遺伝子の送達に用いられ得る。AAVは広い宿主範囲で感染性を有する。組換えAAVベクターはすでに遺伝子の標識、及びヒト疾患に参与する遺伝子のインビトロ、エクスビボ及びインビボの形質導入に使用されている。大きなペイロード(最大8~9kb)を効果的に結合することができるいくつかのAAVベクターが開発されている。このようなベクターは、AAV5キャプシド及びAAV2 ITRを有する。
【0035】
単純ヘルペスウイルス(HSV)はエンベロープ二本鎖DNAウイルスであり、天然にニューロンに感染することができる。外因性DNAの大部分を収容することができるので、魅力的なベクター系となり、ニューロンへの遺伝子の送達のベクターとして使用されている。治療手順でHSVを使用するには、ウイルス株を弱毒化する必要があり、このため、溶解サイクルを確立することができない。特に、HSVベクターをヒトの遺伝子治療に用いる場合、必須遺伝子にポリヌクレオチドを挿入することが好ましい。これは、ウイルスベクターが野生型ウイルスに遭遇すると、組み換えにより野生型ウイルスに異種遺伝子を導入することができるからである。しかしながら、複製を防止するように組換えウイルスを構築する場合には、複製に必要なウイルス遺伝子にオリゴヌクレオチドを挿入することにより実現することができる。
【0036】
本発明のウイルスベクターは、牛痘ウイルスベクター、たとえばMVA又はNYVACであってもよい。牛痘ベクターの代替物には、ALVACと呼ばれる鶏痘又はカナリア痘などのアビポックスベクター(avipox vector)、及び、ヒト細胞内で感染し、組換えタンパク質を発現することができるが複製することができない、アビポックスベクターに由来するウイルス株が含まれる。なお、組換え遺伝子が挿入された後も、ウイルスゲノムの一部は完全なままであってもよい。これは、ウイルスベクターが細胞を感染し、その後追加の遺伝子を発現する能力を保持し得る概念を意味し、この追加の遺伝子は、その複製をサポートし、感染細胞の溶解及び死を促進することができる。
【0037】
SOCS4、機能的断片及びバリアント
本明細書に記載の腫瘍溶解性ウイルス又はウイルスベクターは、SOCS4又はその生物学的に活性な断片をコードする核酸配列を含み、該核酸配列は、ウイルスゲノム中に発現可能な形態で組み込まれる。したがって、このウイルスは、SOCS4を感染細胞に送達するためのベクターとして使用される。本発明は、様々な形態のSOCS4(たとえば、本明細書に記載の形態のSOCS4)の使用を期待しており、様々な形態のSOCS4は、SOCS4の機能的ドメイン又は治療的SOCS4ドメイン又は治療的SOCS4バリアント、ならびにそれらの断片、バリアント及び誘導体、これらの形態のSOCS4(本明細書に記載のもの)の1つを含む融合タンパク質を含むが、これらに限定されない。
【0038】
本明細書で使用される「SOCS4」という用語は、SH2ドメイン及びSOCS BOXドメインを含むタンパク質であるサイトカインシグナル伝達阻害因子4を指す。したがって、このタンパク質はサイトカインシグナル伝達阻害因子(SOCS)に属し、STAT誘導STAT阻害剤(SSI)タンパク質ファミリーとも呼ばれる。シグナル伝達及び転写活性化因子3(STAT3)を阻害することにより、SOCS4は免疫シグナル伝達を阻害することが知られているが、機能的SOCS4を欠乏したマウスはA型インフルエンザウイルスの原発性感染に対して非常に感受性が高く、肺部での炎症性サイトカイン産生の失調、ウイルス除去の遅延、及びインフルエンザ特異的CD8+T細胞の感染部位への輸送の損傷を示している。SOCS4の機能的断片/バリアント/誘導体とは、天然SOCS4と実質的に相同なポリペプチドを指すが、1つ又は複数の欠失、挿入又は置換により、天然SOCS4と異なるアミノ酸配列を有する。SOCS4の例は、GenBank登録番号NC_000014.9を有するホモサピエンス由来である。
【0039】
本発明に使用される、SOCS4の所望の生物学的活性を保持する天然SOCS4タンパク質の断片、バリアント及び誘導体が、腫瘍溶解性ウイルス又はウイルスベクターを介して送達されることも期待される。一実施形態では、SOCS4の断片、バリアント又は誘導体の生物学的活性は、対応する天然SOCS4タンパク質の生物学的活性と実質的に等しい。一実施形態では、活性を決定するための生物学的活性は、サイトカインシグナル伝達を阻害する活性である。一実施形態では、断片、バリアント、又は誘導体によって100%の活性が保持される。一実施形態では、完全長の天然SOCS4と比較して100%未満の活性(たとえば、95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%)が保持される。
【0040】
たとえば、SOCS4バリアントは、天然SOCS4ヌクレオチド配列の1つ又は複数の付加、欠失、突然変異又は置換によって取得することができる。バリアントアミノ酸又はDNA配列は、天然SOCS4配列と少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又はそれ以上同じであることが好ましい。たとえば、天然配列と突然変異配列との間の相同性の程度又は同一性の百分率を決定するために、この目的のために一般的にワールドワイドウェブ上で使用されている無料のコンピュータプログラムを使用して、2つの配列を比較することができる。
【0041】
天然アミノ酸配列の変化は、当業者に知られている多くの公知技術のいずれかによって行うことができる。たとえば、突然変異配列を含むオリゴヌクレオチドを合成することにより、特定の遺伝子座に突然変異を導入することができ、前記オリゴヌクレオチドの両側が天然配列の断片と連結可能な制限部位である。連結後、生成された再構築配列は、所望のアミノ酸挿入、置換又は欠失を有するアナログをコードする。又は、必要な置換、欠失又は挿入に応じて変化する特定のコドンを有する、変化したヌクレオチド配列を提供するために、オリゴヌクレオチド指向性の部位特異的な突然変異形成方法を採用することができる。
【0042】
いくつかの実施形態では、SOCS4バリアントは保存的に置換された配列を含むことができ、これは、天然SOCS4ポリペプチドの1つ又は複数のアミノ酸残基が異なる残基で置換され、保存的に置換されたSOCS4ポリペプチドが天然SOCS4ポリペプチドの生物学的活性と実質的に同等の所望の生物学的活性を保持することを意味する。保存的置換の例としては、SOCS4の二次構造及び/又は三次構造を変化させないアミノ酸の置換が含まれる。
【0043】
その他の核酸
SOCS4核酸を含む組換え腫瘍溶解性ウイルス又はウイルスベクターは、本明細書では第2の異種核酸配列、第3の異種核酸配列などと称される追加の異種核酸配列(たとえば、発現可能な形態で)をさらに含むことができる。あるいは、組換え腫瘍溶解性ウイルス又はウイルスベクターは、追加の異種核酸配列を含まなくてもよい。
【0044】
任意の所望のDNAを挿入することができ、これには、選択的マーカーをコードするDNA、好ましくは治療的で生物学的に活性なタンパク質(たとえば、インターフェロン、サイトカイン、ケモカイン)をコードする遺伝子、又はより好ましくはプロドラッグ変換酵素(チミジンキナーゼ、シトシンデアミナーゼ、cyp450、及びその他を含む)をコードするDNAが含まれる。一実施形態では、核酸は、腫瘍の成長を阻害するタンパク質(たとえば、化学療法剤、成長調節剤)、又は免疫応答を修飾するタンパク質をコードする。化学療法剤の例としては、マイトマイシンCが挙げられる。一実施形態では、核酸は、成長調節分子(たとえば、腫瘍の腫瘍発生において失われたもの)をコードする。このような分子の例は、カスパーゼファミリー由来のタンパク質、たとえばカスパーゼ-9(P55211(CASP9_HUMAN); HGNC: 15111; Entrez Gene: 8422; Ensembl: ENSG000001329067; OMIM: 6022345; UniProtKB: P552113)、カスパーゼ-8(Q14790 (CASP8_HUMAN); 9606 [NCBI])、カスパーゼ-7(P55210 (CASP7_HUMAN); 9606 [NCBI])及びカスパーゼ-3(HCGN: 1504; Ensembl:ENSG00000164305; HPRD:02799; MIM:600636; Vega:OTTHUMG00000133681);アポトーシス促進タンパク質、たとえば、Bax(HGNC: 9591; Entrez Gene: 5812; Ensembl: ENSG000000870887; OMIM: 6000405; UniProtKB: Q078123)、Bid(HGNC: 10501; Entrez Gene: 6372; Ensembl: ENSG000000154757; OMIM: 6019975; UniProtKB: P559573)、Bad(HGNC: 9361; Entrez Gene: 5722; Ensembl: ENSG000000023307; OMIM: 6031675; UniProtKB: Q92934)、Bak(HGNC: 9491; Entrez Gene: 5782; Ensembl: ENSG000000301107; OMIM: 6005165; UniProtKB: Q166113)、BCL2L11(HGNC: 9941; Entrez Gene: 100182; Ensembl: ENSG000001530947; OMIM: 6038275; UniProtKB: 0435213)、p53(HGNC: 119981; Entrez Gene: 71572; Ensembl: ENSG000001415107; OMIM: 1911705; UniProtKB: P046373)、PUMA (HGNC: 178681; Entrez Gene: 271132; Ensembl: ENSG000001053277; OMIM: 6058545; UniProtKB: Q96PG83; UniProtKB: Q9BXH13)、Diablo/SMAC(HGNC: 215281; Entrez Gene: 566162; Ensembl: ENSG000001840477; OMIM: 6052195; UniProtKB: Q9NR283)に制限されない。一実施形態では、核酸は、Flt-3リガンド、HMBG1、カルシニューリン、GITRリガンド、インターロイキン-12、インターロイキン-15、インターロイキン18、又はCCL17を含むがこれらに限定されない免疫調節剤(たとえば、免疫刺激性導入遺伝子)をコードする。
【0045】
当業者は、腫瘍溶解性ウイルスに外因性核酸を挿入することができる。一実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスはHSVであり、外因性核酸がウイルスゲノムのチミジンキナーゼ(TK)遺伝子に挿入されるか、又は欠失したTK遺伝子に置換される。腫瘍溶解性ウイルスが第2の外因性核酸を含む場合、該核酸は抗癌遺伝子又は腫瘍溶解性遺伝子産物をコードすることが好ましい。遺伝子産物は、ウイルスに感染された細胞の成長又は複製のみを阻害する産物(たとえばアンチセンスオリゴヌクレオチド)であってもよく、又はウイルスに感染された細胞を溶解する際に顕著なオブザーバー効果を発揮する産物(たとえばチミジンキナーゼ)であってもよい。
【0046】
組成物
本発明の別の態様は、治療有効量の組換えウイルス及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。この医薬組成物は、対象において腫瘍を治療する、又は腫瘍溶解性腫瘍療法又は抗ウイルス治療の副作用を解消又は低減するためのものである。組換えウイルスは、適切な薬学的に許容される担体又は賦形剤中で製造することができる。これらの製剤は、通常の保存及び使用の条件下で、微生物の成長を防止するために防腐剤を含むことができる。注射用途に適した薬物形態は、無菌水溶液又は分散液と、無菌注射液又は分散液を一時的に製造するための無菌粉末とを含む。いずれの場合も、この形態は無菌でなければならず、注射を容易にするために流体でなければならない。生産及び保存の条件下で安定していなければならず、微生物(たとえば、細菌や真菌)による汚染から保護されていなければならない。
【0047】
担体は、たとえば、水、エタノール、ポリオール(たとえば、グリセリン、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、それらの適切な混合物、及び/又は植物油を含む溶媒又は分散媒であってもよい。適度な流動性は、たとえばレシチンなどのコーティングを用いること、分散液の場合は所望の粒径を維持すること、界面活性剤を用いることなどにより維持することができる。微生物の作用は、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、メルチオレートなどの各種抗菌剤や抗真菌剤によって予防することができる。多くの場合、糖や塩化ナトリウムなどの等張剤を含むことが好ましい。注射可能な組成物の吸収は、組成物に吸収遅延剤(たとえば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチン)を使用することによって延長され得る。
【0048】
水溶液中での非経口投与の場合、たとえば、溶液は、溶液を適切に緩衝し(必要に応じて)、まず、十分な塩水又はブドウ糖で液体希釈剤を等張する必要がある。これらの特定の水溶液は、静脈内、筋肉内、皮下、腫瘍内、及び腹膜内投与に特に適している。この点に関して、本開示によれば、使用し得る無菌水性媒体は当業者に周知のものである。たとえば、1用量を等張NaCl溶液1mLに溶解するか、皮下灌流液1000mLに加えるか、又は推薦された注入部位に注射することができる。用量は、治療対象の状況によっては必ず何らかの変化が生じる。いずれの場合も、投与担当者は、個々の対象の適切な用量を決定しなければならない。さらに、人体投与の場合、製剤はFDA生物製品基準が要求する無菌性、発熱性、一般安全性、及び純度基準に合致しなければならない。
【0049】
注射可能な無菌溶液は、活性化合物を所望の量で上記に挙げられた各成分と共に適当な溶媒中に混合した後、濾過滅菌することにより製造される。通常、分散液は、基本分散媒及び上記に挙げられたものからの所望の他の成分を含む無菌担体中に、滅菌された様々な活性成分を混合することによって製造される。無菌注射溶液を製造するための無菌粉末の場合、好ましい製造方法は、その前の無菌濾過溶液から活性成分及び任意の他の所望の成分の粉末を製造する真空乾燥、及び凍結乾燥技術である。
【0050】
本明細書で使用される「担体」には、すべての溶媒、分散媒、担体、コーティング、希釈剤、抗菌剤及び抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤、緩衝剤、担体溶液、懸濁液、コロイドなどが含まれる。薬物活性物質におけるそのような媒体及び試薬の用途は、本分野において公知である。いずれかの従来の媒体又は試薬が活性成分と非相溶性でない限り、治療用組成物におけるその用途が期待される。補充された活性成分も、組成物中に混合されていてもよい。
【0051】
「薬学的に許容される」という句は、ヒトに投与された場合にアレルギー又は類似の副作用を生じない分子実体及び成分を指す。タンパク質を活性成分として含有する水性組成物の製造は、本分野において十分に理解されている。通常、このような組成物は、注射剤、又は液体溶液又は懸濁液に製造され、また、注射前に液体中に溶解又は懸濁するのに適した固体形態に製造され得る。
【0052】
治療法
本発明の別の態様は、対象において増殖性障害を治療する方法に関する。この方法は、本明細書に記載のSOCS4核酸配列を含む組換え腫瘍溶解性ウイルスを対象に投与することによって、望ましくない増殖を示す細胞を有効量の組換え腫瘍溶解性ウイルスと接触させることを含む。
【0053】
一実施形態では、この増殖性疾患は腫瘍であり、本発明の方法は腫瘍の進行を阻害する方法に関する。有効量の組換え腫瘍溶解性ウイルスを腫瘍と接触させて、該ウイルスを腫瘍細胞に送達する。「腫瘍」又は「癌」という用語は、制御されていない増殖をしている組織塊又は組織のタイプ又は細胞のタイプを指す。本明細書で使用される場合、「腫瘍」という用語は、制御されずに成長する(すなわち、過剰増殖性疾患)形質転換された細胞を含む悪性組織を指す。腫瘍は白血病、リンパ腫、骨髄腫、形質細胞腫など、及び固形腫瘍を含む。本発明にしたがって治療することができる固形腫瘍の例には、肉腫及び癌が含まれるが、これらに限定されるものではなく、前記肉腫及び癌は、たとえば、メラノーマ、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管腺肉腫、リンパ管内皮肉腫(lymphangioendotheliosarcoma)、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍(Ewing’s tumor)、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌、膵臓癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、皮脂腺癌、乳頭癌、乳頭腺癌、嚢状腺癌、髄様癌、気管支癌、腎細胞癌、肝臓癌、胆管癌、絨毛癌、精原細胞腫、胚性癌、ウィルムス腫瘍(Wilms’tumor)、子宮頸癌、精巣腫瘍、肺癌、小細胞肺癌、膀胱癌、上皮癌、神経グリオーマ、星細胞腫、神経芽細胞腫、頭蓋咽頭管腫、心室管膜腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫、乏突起膠腫、髄膜腫、神経芽細胞腫、及び網膜芽細胞腫である。
【0054】
副作用を解消又は低減する方法
本発明の別の態様は、対象において腫瘍溶解性ウイルス療法の副作用を低減又は解消するための方法に関し、この方法は、治療有効量の組換え腫瘍溶解性ウイルスを該対象に投与することを含み、該組換え腫瘍溶解性ウイルスは、サイトカインシグナル伝達阻害因子4(SOCS4)又はその機能的断片をコードする外因性ポリヌクレオチド断片を含み、一旦癌細胞内で複製されると、SOCS4又はその機能的断片を発現する。
【0055】
いくつかの実施形態では、副作用はサイトカインの過剰産生であり、本明細書ではサイトカインストームとも呼ばれる。いくつかの実施形態では、サイトカインは、MCP-1、IL-1β、IL-6、TNF-α、及びIFN-γのいずれか1つ又は複数である。いくつかの実施形態では、サイトカインの過剰産生の臨床症候群又は結果は肺組織損傷である。いくつかの実施形態では、肺組織損傷は、細胞浸潤、軽度から中等度の拡張、局所毛細血管充血、肺胞壁の肥厚、肺胞壁の破裂、肺胞壁周囲の充血、及び満たしている免疫細胞のいずれか1つ又は複数の特徴であることが示されている。
【0056】
本発明の別の態様は、対象において微生物感染治療の副作用を低減又は解消する方法に関する。この方法は、治療有効量の組換えウイルスを該対象に投与することを含み、該組換えウイルスは、サイトカインシグナル伝達阻害因子4(SOCS4)又はその機能的断片をコードする外因性ポリヌクレオチド断片を含み、一旦細胞内で複製されると、SOCS4又はその機能的断片を発現する。いくつかの実施形態では、微生物感染は、細菌感染、ウイルス感染、又は真菌感染のいずれか1種である。
【0057】
いくつかの実施形態では、副作用はサイトカインの過剰産生であり、本明細書ではサイトカインストームとも呼ばれる。いくつかの実施形態では、サイトカインは、MCP-1、IL-1β、IL-6、TNF-α、及びIFN-γのいずれか1つ又は複数である。いくつかの実施形態では、サイトカインの過剰産生の臨床症候群又は結果は肺組織損傷である。いくつかの実施形態では、肺組織損傷は、細胞浸潤、軽度から中等度の拡張、局所毛細血管充血、肺胞壁の肥厚、肺胞壁の破裂、肺胞壁周囲の充血、及び満たしている免疫細胞のいずれか1つ又は複数の特徴であることが示されている。
【0058】
実施例
材料及び方法
動物:6週齢の雌Balb/cマウスは広東省実験動物センターから購入し、微生物病原体なしで、広州医科大学動物センターで飼育した。マウスに関するすべての手順は、広州医科大学動物保護及び使用委員会により承認されている。
【0059】
細胞及びウイルス株:Vero細胞はアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションから得られ、そしてDMEM(高糖)で培養し、ここでDMEM(高糖)には5%(vol/vol)の胎児ウシ血清(FBS)又は5%(vol/vol)の新生ウシ血清(NBCS)がそれぞれ補充された。我々の研究室で使用されているプロトタイプHSV-1ウイルス株HSV-1(F)は、Vero細胞上で増殖され、滴定された。ホモサピエンスのサイトカインシグナル伝達阻害因子4(SOCS4)mRNAを有するpReveiver-M02は、GeneCopoeia Inc.から購入されたものである。
【0060】
SOCS4を発現するHSV組換えウイルスの構築:ホモサピエンスのSOCS4遺伝子配列に基づいて2つのオリゴヌクレオチドプライマー:順方向、5’- GTCGACATGTGGTGGCGCCTGTGGTGGCTCTGCTGCTGTGGCCCATGGTGTGGGCCGCAGAAAATAATGAAAATATTAG-3’(Acc I部位及び下線が引かれたシグナルペプチドHmm38を有する);逆方向、5’-GCGGCCGCCTAGCATTGCTGTTCTGGTGCATC-3’(Not I部位を有する)を設計した。95℃で1分間の変性ステップ、58℃で30秒間のプライマーアニールステップ、72℃で2分間のプライマー伸長ステップからなるPCRサイクルを、全反応体積50μLで30サイクル行った。SOCS4のPCR産物をT-easyプラスミドに連結し、XL-1blue細胞に形質転換してシークエンシングに送って確認した。確認されたSOCS4遺伝子をT-easyプラスミドから切り取り、Cla I/Acc IとNot Iの部位でベクターpNEWUL骨格に連結し(図1A)、次に、pNEWULからBglIIとPacIの間の配列(UL3、UL4、及びSOCS4を含む)を切断し、同じ部位でプラスミドPko5.1にクローニングした(図1B)。組換えプラスミドをBACに形質変換し、クロラムフェニコール及びブレオマイシン(zeocin)を有するLBプレート上に43℃で一晩培養した後、細菌クローンを選択してクロラムフェニコール及びショ糖を有するLBプレート上に30℃で一晩濃縮してプラスミドPko5.1を切り取った。SOCS4遺伝子のPCRによる同定後、陽性組換えBACを培養して増殖させた後、Lipoectamine(R)LTX及びPLUSを用いて、製造元(Life Technologies Corporation)の取扱書にしたがってVero細胞に形質変換した。ウイルス細胞変性効果を示すまで細胞をインキュベートした。ウイルスプラーク(Viral plaque)をミルク1mLに収集し、凍結融解(-80℃と37℃)を3回行い、ウイルスを放出した。ウイルスをVero細胞(PD)25cmに接種して培養し、DNAを抽出してPCRを行い、最終確認(UL3、UL4、及びSOCS4遺伝子を含む)に用いた。所望のウイルスをHSV-SOCS4と命名し、収穫して-80℃で保存し、さらなる使用に備えた。
【0061】
マウス感染:BALB/cマウスをランダムに3群に分け、1群はHSV-1(F)で感染し、1群はHSV-SOCS4で感染し、1群はPBSで模擬感染とした。詳しくは、マウスを1匹ずつ軽度麻酔した後、鼻内経路で10 PFUのHSV-1(F)又はHSV-SOCS4のPBS溶液30μL又はPBS30μLのみで感染した。感染後、マウスの体重を毎日量り、その発症率と死亡率を12日間持続して監視した。
【0062】
血清と気管支肺胞洗浄液サンプルの収集及びダブルサンドイッチELISA:感染後1日目、3日目、及び7日目に各マウスからの眼窩血を収集し、血清を分離した後、-20℃で保存して、後のELISAアッセイに用いた。出血後、マウスを殺し、気管に挿入された鈍針を介してPBS 1mLで肺を3回洗浄し、気管支肺胞洗浄液(BALF)を収集した。サンプルを遠心分離した後、上澄み液を除去してELISAアッセイに用い、同じ群の2匹のマウスの細胞を組み合わせることにより、フローサイトメトリー解析に十分な細胞を得た。BALF及び血清サンプルについて、MCP-1、IL-1β、IL-6、TNF-α及びIFN-γを含むサイトカイン群をダブルサンドイッチELISAにより評価した。各種類のサイトカインの濃度を、製造元(Dakewe Biothech Company Limited)の取扱書にしたがって、検量線に対して決定した。
【0063】
細胞分離及びフローサイトメトリー解析:BALFから取得した細胞をTris-NHClで処理して赤血球を溶解し、その後、2回洗浄し、冷RPMI 1640培地に再懸濁させた。殺されたマウスからの脾臓を切除し、十分に粉砕し、無菌金網を介して組織を洗浄した。脾臓細胞の懸濁液を収集し、赤血球を溶解した後、細胞を洗浄して再懸濁させた。BALF細胞と脾臓細胞をカウントし、2×10個細胞/mLに調節した。細胞を洗浄して表面マーカーとして、脾臓細胞用のAPC-CD4(APC抗マウスCD4 mAb、クローンGK1.5)、FITC-CD8a(FITC抗マウスCD8 mAb、クローン53-6.7)、及びPE-CD62L(PE抗マウスCD62L mAb、クローンMEL-14)、並びに、BALF細胞用のPB-CD11b(PB抗マウスCD11b mAb、クローンM1/70)で染色した。すべての細胞を10分間染色し、洗浄して2%ホルムアルデヒド-PBSに再懸濁させ、CytoFLEXフローサイトメーター(Beckman coulter Inc.)及びCytExpert 2.0ソフトウェア上でフローサイトメトリー解析を行った。
【0064】
ウイルス力価解析及び病理学的解析用の肺サンプル:血液を収集して殺した後、各群の2匹のマウスの肺を直接摘出し、細胞培地で完全に細断し、組織ホモジネートを収集し、遠心分離して上澄み液を収集してウイルス力価解析に用いた。Vero細胞を、2×10個/ウェルで細胞が90%の単層を形成するまで6ウェルプレート上に成長させた後、上澄み液サンプルを添加した。24時間インキュベートした後、慎重に細胞を除去し、遠心分離し、細胞塊をミルク1mLに重懸濁させ、-80℃で保存した。上記の3回の凍結融解処理後、放出されたウイルスサンプルを1%NBCSで、それぞれ1:100、1:1000、及び1:10000に希釈した。6ウェルプレート上のVero単層細胞に各希釈液100μLを加えて2時間培養した後、培地を新しい培地(BME+1%NBCS+0.5%IgG)に交換し、さらに72時間インキュベートした。その後、細胞を収集し、0.03%メチレンブルーで染色してプラークを定量化した。HSV-1(F)感染、HSV-SOCS4感染マウスのマウス肺(n=2、BALF未収集)の病理解析を広州医科大学病理学部門で行った。
【0065】
結果及び検討
HSV-SOCS4組換えウイルスの構築
SOCS4遺伝子挿入断片を用いて新しいHSV-1株を再構築し、HSV-SOCS4と命名し、SOCS4タンパク質の発現を証明することに成功し、HSV-SOCS4を鼻内感染マウスに用いて、サイトカインストームに対するHSV-SOCS4の作用を評価した。HSV-SOCS4ウイルスを再構築するために、SOCS4遺伝子をBACに挿入した。SOCS4遺伝子のPCR産物とシークエンシング同定のいずれによっても、この組換え体が確認された。図2Aは、pReveiver-M02からのSOCS4(1397bp)のPCR産物を示し、図2Bに示すように、最後のPCRは、UL2(1492bp)、UL3(1319bp)、及びSOCS4(1397bp)の断片を含むことを確認した。
【0066】
ウイルス感染後のBALF及び血清中のサイトカイン産量
肺に灌流されたサイトカインは血流に入ることができるので、局所的な反応と全身的な反応との間の直接的な交流を提供でき、そのため、感染後1日目、3日目、及び7日目にBALFと血清サンプルを収集し、サイトカインストームの核心にあるいくつかのサイトカインを検出した。
【0067】
サイトカイン分泌におけるSOCS4タンパク質の作用を解析するために、PBS又はHSV-1(F)又はHSV-SOCS4ウイルスで感染したマウスからの、感染後1日目、3日目、及び7日目のBALFと血清中の主要な炎症サイトカイン(たとえばMCP-1、IL-1β、IL-6、TNF-α、及びIFN-γ)マップを解析した。検査の各時点で、模擬マウスはBALF又は血清中に評価可能な量のサイトカインを誘導しなかった。BALFサンプル中のサイトカイン産量の結果を図3に示す。1日目、3日目、7日目に、HSV-SOCS4マウスからのサイトカインのレベルと比較して、2群間で無視できる差しか示さなかった7日目のIL-1β産量を除き、HSV-1(F)感染マウスからの5種類のすべてのサイトカインには有意により高レベルが観察された。HSV-1(F)感染マウスにおけるIL-1β産量の上昇-下降傾向曲線を見出し、7日目には約50%まで急速に低下した(図3b)。HSV-1(F)マウスのIL-6とIFN-γの産量は増加傾向にあり、前者は7日目、後者は3日目に増加した。HSV-1(F)マウスでは1日目と3日目に最高のMCP-1レベルが検出され、その後7日目に低下した。1日目にも最も高いTNF-αレベルが観察されたが、3日目には低下した。興味深いことに、解析された時点には、7日目にIL-6が有意に増加したことに加えて、HSV-SOCS4感染マウスからのBALFのサイトカイン分泌が安定しており、差がわずかしかなかった。
【0068】
体循環中のサイトカイン産量に対するSOCS4タンパク質の影響を分析するために、マウス血清を収集してELISAを行い、その結果を図4に示す。1日目には、HSV-SOCS4マウスで検出されたMCP-1の濃度と比較して、HSV-1(F)マウスでは有意により高濃度のMCP-1が検出され、HSV-1(F)マウスでは産量が連続的に低下したが、HSV-SOCS4マウスでは7日目にのみ低下した。さらに、2群の各日の時点に、BALF中のMCP-1レベルは血清中のMCP-1レベルよりもはるかに高かった。HSV-1(F)マウスとHSV-SOCS4マウスでは、IL-1β値は1日目と3日目で類似していたが、7日目にHSV-1(F)マウスでは激しい上昇が検出された。そのため、この2群の間には有意差があった。1日目と3日目にHSV-1(F)マウスのこの値がHSV-SOCS4マウスの値よりも高かった以外、TNF-α産生においても類似の増幅パターンが観察された。1日目、3日目、及び7日目には、HSV-1(F)マウスではIL-6レベルの上昇が持続的に検出されたが、7日目にのみHSV-SOCS4マウスのレベルの増加が認められ、測定した毎日、HSV-1(F)マウスのIL-6レベルはHSV-SOCS4マウスのIL-6レベルよりもはるかに高かった。その結果から明らかなように、HSV-1(F)マウスとHSV-SOCS4マウスでは、1日目と3日目にIFN-γの差の増加は軽微であったが、7日目には顕著になった。7日目の血清中のIFN-γ濃度はBALF中のIFN-γ濃度よりも高く、このことから、活性化されたT細胞がIFN-γ産生の主な源となることが確認された。HSV-SOCS4マウスの血清中のサイトカイン産量をさらに評価するために、12日目にサイトカインレベルを測定したが、有意差は認められなかった(データは示されていない)。要するに、BALFでは、HSV-SOCS4感染マウスのサイトカイン産量は各時点でほぼ一致していたが、血清では、多様性が示された。
【0069】
IL-1βは主にDCとマクロファージから産生され、炎症促進活性を駆動するキーサイトカインである。感染初期に発生する場合、回復を促進し、しかし、感染の後期に発生する場合、重篤な発症機序や死亡率をもたらす破壊的炎症反応と関連する。BALFサンプルではIL-1βは初期(1日目と3日目)に高いレベルに維持され、その後7日目に分解を示すことを発見し、逆には、7日目にHSV-1(F)マウスでは、血清中の産量が増加した。しかし、HSV-SOCS4マウスでは、すべての時点でBALFと血清のIL-1βはかなり低いレベルに維持されていた。これらのデータから明らかなように、SOCS4タンパク質は初期のBALF中のIL-1β産量及び後期の血清中の産量を抑えることができる。
【0070】
IL-1とIL-6の作用は相乗的であり、IL-1は主に感染初期に発現し、その後IL-6の発現が増加する。HSV感染部位におけるBALF中のIL-6産生は報告されており、我々の結果と一致しており、つまり、HSV-1(F)マウスのBALF中のIL-6レベルの激しい上昇は明らかであり、その後、特に7日目に、持続的に増加し、比較的低濃度の血清でも同様の増加を示した。HSV-SOCS4マウスでは、IL-6レベルはBALF、血清ともに有意に制限され、7日目に上昇を伴った。ある意味では、IL-6の後期の大量生産はウイルスの存在とは無関係であり、Th2反応の促進につながる可能性がある。
【0071】
もう1つの重要な急性反応サイトカインである腫瘍壊死因子α(TNF-α)は主にマクロファージ、肺上皮細胞、及びヘルパーT細胞から産生し、感染後の初期に出現し得る。TNF-αはH5N1ウイルス感染後の重篤な疾患の症状を促進し、サイトカインストームの典型的な特徴を表し、HSV感染に関連する免疫病理学にも関与している。感染後の初期にウイルスとマクロファージ及びNK細胞との相互作用により、TNF-αは先天性免疫系から放出され(たとえば、測定における1日目のBALF中の有意に高いレベル)、また、ウイルス特異的CD4+又はCD8+T細胞を活性化することにより、適応免疫系から放出され、たとえば、7日目のHSV-1(F)マウスからの血清中のTNF-αレベルの増加が観察された。HSV-SOCS4に感染したマウスのTNF-αレベルの変化は、BALF及び血清サンプルでは、毎日の時点で区別できなかった。報告によれば、抗TNF治療はH3N2ウイルス攻撃後の体重減少と疾患の重症度を低減させることができ、それは、TNFが将来性のある治療的標的である可能性があることを示しており、阻害されたTNF産生はHVS感染による症状を軽減することもできると推定されている。
【0072】
単球走化性タンパク質-1(MCP-1)は、主に炎症刺激と組織損傷後の単球、マクロファージ、上皮細胞、及び内皮細胞である複数タイプの細胞から迅速に産生される。単球走化性タンパク質-1(MCP-1)は単球、メモリT細胞、NK細胞、及び樹状細胞を組織損傷や感染の部位まで募集し、しかも、通常、炎症期間内に組織で発現される。HSV-1(F)マウスから初期のBALFでMCP-1の有意に高いレベルを観察し、HSV-1(F)マウスのBALFサンプルでより多くのCD11b+細胞が発見されたことを示した。
【0073】
IFN-γは、DCやマクロファージの活性化促進、NK細胞の細胞毒性増強、B細胞の抗体産生誘導など、様々な機能を有する強力なサイトカインである。HSV-1(F)に感染したマウスでは、3日目に示されたBALF中の増加したIFN-γレベルは、主に感染初期のNK細胞によって産生された可能性があり、また、ウイルスの複製を制御するのに役立ち、2群のマウスからの血清中には、後期(7日目)レベルが上昇したのは、T細胞がIFN-γの主要な源となったためであるが、後期反応では、IFN-γのいくつかの活性は炎症と肺損傷に関連している。さらに、肺組織にウイルスが認められなかった場合、12日目にHSV-SOCS4に感染したマウスの血清サンプルでは、IFN-γの延長した無差別な産生が観察され、これは、他のサイトカインや免疫応答の特徴により下流でIFN-γが誘導され、SOCS4タンパク質がこの血清中のこのような延長した産生を阻害することを確認した。炎症性サイトカインは細胞活性化と組織損傷を担当し、さらに、1種のサイトカインの放出は新たなサイトカインの産生を誘導し、その結果、細胞と器官の壊死をさらに引き起こす。HSV-1(F)に感染したマウスと比較して、HSV-SOCS4マウスでは、BALF及び血清中の炎症性サイトカイン産量の安定した低レベルはマウスの肺損傷の軽減に関連していると考えられた。
【0074】
ウイルスによる鼻内感染後のBALF及び脾臓の細胞解析
BALFと血清中のサイトカインのレベルの違いが免疫細胞の数に関係しているか否かを調べるために、BALFから細胞を収集し、感染したマウスから脾臓を収集してフローサイトメトリー解析を行った。1日目と7日目にサイトカイン産量の差が明らかになったので、1日目と7日目から細胞を収集して比較した。マクロファージ、好中球、及びNK細胞を含むCD11b陽性細胞がBALFに存在する主要な細胞集団を構成していることを考慮し、HSV-1(F)に感染したマウスとHSV-SOCS4に感染したマウスとの間のCD11b+細胞数の変化を解析するようにした。その結果から明らかなように、HSV-1(F)マウスからのCD11b+細胞はHSV-SOCS4マウスからのCD11b+細胞よりも優れており、2群では、7日目よりも1日目に染色された陽性細胞が多かった(図5)。脾臓からのCD4+細胞とCD8+細胞の両方を染色し、CD62Lを活性化マーカーとして使用した。図6に示すように、2群のマウスでは、1日目に二重陽性細胞はほとんどなかったが、7日目に有意に増加したCD8+及びCD62L+細胞が検出され、HSV-1(F)マウスとHSV-SOCS4マウスとの間で陽性細胞数の差が有意であった。CD4+及びCD62L+細胞にも同様のパターンが観察された(図6)。
【0075】
1日目には、HSV-1(F)マウスのBALFに優勢な数のCD11b+細胞(マクロファージ、単球、好中球、及びNK細胞を含む)が認められ、これは、BALF中で高いMCP-1レベルの結果であった。報告によれば、炎症性サイトカインの一次波を迅速に分泌することにより、マクロファージは肺内でHSVに対する第1の防御線において重要な役割を果たし、これは、1日目にHSV-1(F)マウスのBALF中のTNF-α、IL-1β、及びIL-6の産量増加を解釈しており、つまり、初期反応時にマクロファージとNK細胞がこれらのサイトカインの主要な源であるからである。肺及び肺胞腔へのマクロファージの募集は初期免疫応答のマーカーであり、脾臓のCD4とCD8 T細胞は適応免疫応答の活性を反映することができる。CD62Lは通常、T細胞の活性化マーカーとして使用され、リンパ球を感染や炎症の部位に導く点で主要な作用を果たす。1日目には、2群の脾臓ともに活性化T細胞は認められなかったが、7日目には細胞が有意に大きく活性化され、HSV-1(F)マウスのCD62L+CD4+T細胞とCD62L+CD8+T細胞の数はすべてHSV-SOCS4マウスより2倍高く、これは、7日目にHSV-1(F)マウスの血清中で上昇したTNF-α、IL-1β、IL-6、及びIFN-γのレベルと密接に関連している。サイトカインの産生及び/又は感染細胞の直接溶解を介して、影響を受けたTh細胞及びCTLはウイルス感染の効果的な解決に不可欠であるが、これらの同じ機序は肺損傷にも寄与する。いくつかの報告から明らかなように、インフルエンザに感染したマウスでは、急性肺損傷(ALI)は肺胞環境におけるサイトカインストームと直接関連している。
【0076】
ウイルス力価及び肺部の病理学的変化
サイトカインとウイルス複製/除去との相関性を評価するために、感染マウス肺からのウイルス力価を定量化した。1日目には、最大ウイルス力価が観察されたが、その後大幅に低下し、7日目には、ウイルスが検出されず、さらに、3日目には、HSV-1(F)マウスとHSV-SOCS4マウスとの間でウイルス除去率に有意差が見られた(図7A)。BALFを収集していないマウスの肺を組織病理学的に解析し、典型的な200倍写真を図7Bに示す。1日目には、HSV-SOCS4マウスでは、肺の病理学的変化はほとんどなかった。しかし、HSV-1(F)マウスの肺部には有意な細胞浸潤を示し、局所毛細血管の軽微な拡張と充血を伴っていた。7日目には、HSV-SOCS4に感染したマウスの肺にはいくつかの免疫細胞の浸潤、及び毛細血管の軽度から中等度の拡張と充血が観察されたが、肺胞壁の構造は破裂しなかった。HSV-1(F)マウスの肺部には、重篤な病理学的変化が見られ、つまり、肺胞壁は厚くなって破裂し、周囲は厳重に充血し、免疫細胞が満たされている。
【0077】
その結果から明らかなように、HSV-1(F)マウスとHSV-SOCS4マウスとの間で、1日目には、肺におけるウイルス力価は類似していたが、3日目に低下し、2群の間で有意な差が検出された。この迅速なウイルス除去は先天性免疫機構と一致し、大量の免疫細胞の活性化(1日目にフローサイトメトリー及び病理学的解析により観察されたような)のため、HSV-1(F)マウスの肺からウイルス量の低下が検出された。通常、溶解性感染は7日目に停止するため、ウイルスは検出されない。HSV-1(F)感染後、7日目には、マウスのサイトカインのレベルとT細胞の増加と一致するように、マウス肺の重篤な病理学的変化が観察された。
【0078】
HSV-1(F)又はHSV-SOCS4による鼻内感染後のマウスの体重及び死亡率
鼻内経路で感染した後、体重と発症死亡率(onset of mortality)を確認するために、すべてのマウスを1日に2回、12日間検出した。HSV-1(F)に感染したマウスは、2日目から体重が徐々に減少し始め、7日目にはその減少が急激になり、最後に生存したマウスは10日目に50%体重が減少し(図8A)、それと同様に、生存率の百分率は7日目から減少し始め(図8B)、その後、マウスは急速に死亡したが、11日目には、HSV-1(F)群のマウスは生存しなかった。HSV-SOCS4群マウスはわずかに体重が減少し、一般的に12日目に80%の体重を維持した。HSV-SOCS4マウスの生存率は100%に維持されており、HSV-1(F)感染群の生存率とは有意に異なっていた。模擬マウスは体重減少も死亡もなかった。
【0079】
肺損傷(他の臓器損傷も伴う可能性がある)のため、7日目には、HSV-1(F)マウスの体重が過度に減少し始め、8日目に75%、11日目に100%の死亡率に達した。一方、HSV-SOCS4マウスは、12日目にわずかな体重減少を示し、死亡しなかった。これらの結果から、サイトカインストームの過剰放出を制御することにより感染マウスの体重、健康、及び生存を維持できることを示している。我々の結果から、SOCS4タンパク質挿入断片を有するHSVがサイトカインの過剰産生、免疫細胞の過剰浸潤を阻害し、肺部の病理学的損傷を軽減しマウスの死亡率を低下させることを示している。
【0080】
ウイルス感染に対する免疫力は多面的かつ高度に複雑であり、サイトカインの誘導は冗長性と増幅カスケードを有する一連の蔓延ネットワークであり、このため、介入策略は多種のサイトカイン経路を対象とすべきである。HSV-1バリアントのHSV-SOCS4株を組み換えた試みは、サイトカインストーム及びその壊滅的結果を阻害するために、価値のあるツールを提供し、oHSVの臨床治療を改善することができる。
【0081】
なお、好ましい実施形態及び任意の特徴によって本発明を具体的に開示しているが、当業者であれば、本明細書に開示された本発明を修正、改良、及び変形することができ、そのような修正、改良、及び変形は、本開示の範囲内であると考えられる。ここで提供される材料、方法、及び実施例は、好ましい実施形態の代表であり、例示的なものであり、本開示の範囲を制限することを意図していない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8