(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-14
(45)【発行日】2023-02-22
(54)【発明の名称】微生物の活性を測定する測定装置及び測定方法、生物処理システム及び生物処理方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/34 20060101AFI20230215BHJP
C12M 1/33 20060101ALI20230215BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20230215BHJP
【FI】
C12M1/34 A
C12M1/33
C12Q1/02
(21)【出願番号】P 2018160391
(22)【出願日】2018-08-29
【審査請求日】2021-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】清川 達則
【審査官】幸田 俊希
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-506146(JP,A)
【文献】特開2011-045263(JP,A)
【文献】特開2010-204013(JP,A)
【文献】特開2009-103667(JP,A)
【文献】特開2002-273473(JP,A)
【文献】特開平06-121684(JP,A)
【文献】特開昭54-001090(JP,A)
【文献】D. Mata et al.,Screen-printed integrated microsystem for the electrochemical detection of pathogens.,Electrochimica Acta,2010年05月30日,Vol.55, No.14,p.4261-4266,doi:10.1016/j.electacta.2009.03.001
【文献】Kengo Ishiki et al.,Electrochemical Detection of Viable Bacterial Cells Using a Tetrazolium Salt.,Anal. Chem.,2018年08月17日,Vol.90,p.10903-10909,https://doi.org/10.1021/acs.analchem.8b02404
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
C12Q 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学的手段を用いて液体中の微生物の活性を測定する測定装置であって、
前記微生物の細胞内に存在する酸化還元物質を細胞外に取り出す細胞破壊部と、
前記酸化還元物質に
より電極に流れる電流値を、電極に走査電位を印加せずに測定する測定部と、を備えたことを特徴とする測定装置。
【請求項2】
前記細胞破壊部は、物理的処理又は化学的処理による破壊であることを特徴とする、請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記細胞破壊部及び前記測定部は密閉された状態であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の測定装置。
【請求項4】
被処理液を微生物で処理する生物処理槽と、
電気化学的手段を用いて液体中の微生物の活性を測定する測定装置と、を備えた生物処理システムであって、
前記測定装置は、
前記微生物の細胞内に存在する酸化還元物質を細胞外に取り出す細胞破壊部と、
前記酸化還元物質に
より電極に流れる電流値を、電極に走査電位を印加せずに測定する測定部と、を具備することを特徴とする、生物処理システム。
【請求項5】
電気化学的手段を用いて液体中の微生物の活性を測定する測定方法であって、
前記微生物の細胞内に存在する酸化還元物質を細胞外に取り出す細胞破壊工程と、
前記酸化還元物質に
より電極に流れる電流値を、電極に走査電位を印加せずに測定する測定工程と、を備えたことを特徴とする測定方法。
【請求項6】
被処理液を微生物で処理する生物処理工程と、
電気化学的手段を用いて液体中の微生物の活性を測定する測定工程と、を備えた生物処理方法であって、
前記測定工程は、
前記微生物の細胞内に存在する酸化還元物質を細胞外に取り出す細胞破壊工程と、
前記酸化還元物質に
より電極に流れる電流値を、電極に走査電位を印加せずに測定する測定工程と、を具備することを特徴とする、生物処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学的手段を用いて液体中の微生物の活性を測定する測定装置及び測定方法に関するものである。また、本発明は、被処理液を微生物で処理する生物処理槽と、電気化学的手段を用いて液体中の微生物の活性を測定する測定装置と、を備えた生物処理システムに関するものである。また、本発明は、被処理液を微生物で処理する生物処理工程と、電気化学的手段を用いて液体中の微生物の活性を測定する測定工程と、を備えた生物処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液体中の微生物の含量を測定する方法としては、所定の環境条件下で微生物を培養した後、微生物のコロニー数を計測する方法が用いられてきた。しかし、この方法では、コロニーを形成するための培養やコロニー数を計測するための作業に多大な時間を要するという問題があった。そこで、近年、微生物の代謝活性を電気化学的に直接測定する方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、生物電気化学槽において電流測定手段を用いて液体中の微生物の含量を測定する方法であって、メディエータを最初に槽中で酸化させた後、試料となる微生物を含有するフィルターと接触させて、電極に第一の応答を生じさせ、次いで、フィルターに含まれる微生物を殺生物剤で洗浄し、その後、メディエータを再度接触させて第二の応答を生じさせる方法が開示されている。この方法によれば、干渉物質による第二の応答を第一の応答から差し引くため、試料又はフィルターに含まれていることがある干渉を除き、微生物の含量のみに依存した応答を得られるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電気化学的手段を用いて液体中の微生物の活性を測定する方法では、微生物による基質の酸化反応により生じた電子を、細胞外の電極に伝達するためのメディエータを使用する。メディエータは、細胞膜を通過することが可能な酸化還元物質であり、基質と共に細胞内に入り、基質の酸化により生じた電子を受け取り(還元反応)、その後、細胞外に出て、電極に電子を放出する(酸化反応)ものである。この方法では、メディエータが細胞膜を通過する量を勘案して、多量のメディエータを使用するという問題がある。
【0006】
本発明の課題は、電気化学的手段を用いて液体中の微生物の活性を測定する測定装置又は測定方法において、メディエータの使用量を低減することが可能な測定装置又は測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題について鋭意検討した結果、微生物の細胞内に存在する酸化還元物質を細胞外に取り出し、これをメディエータとして利用することにより、外部から添加するメディエータの添加量を低減できることを見出して、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の微生物の活性を測定する測定装置、微生物の活性を測定する測定方法、生物処理システム及び生物処理方法である。
【0008】
上記課題を解決するための本発明の微生物の活性を測定する測定装置は、電気化学的手段を用いて液体中の微生物の活性を測定する測定装置であって、前記微生物の細胞内に存在する酸化還元物質を細胞外に取り出す細胞破壊部と、前記酸化還元物質に生じる電気化学的変化を測定する測定部と、を備えたことを特徴とする。
この測定装置によれば、細胞破壊部で微生物の細胞内に存在する酸化還元物質を細胞外に取り出すため、細胞内の酸化還元物質を直接電極に反応させることができる。よって、外部から添加するメディエータの添加量を低減することが可能となり、薬品の使用量を低減することができる。更には、メディエータを添加することなく微生物の活性を測定することも可能であり、その場合には、メディエータを添加するための手段を省略できるため、装置構成を簡素化することができる。
【0009】
更に、本発明の微生物の活性を測定する測定装置の一実施態様によれば、細胞破壊部は、物理的処理又は化学的処理による破壊であるという特徴を有する。
この特徴によれば、確実に細胞を破壊することができるという効果がある。また、化学的処理は、薬剤の添加量を正確に調整することができるため、細胞の破壊の程度を正確に制御することができる。物理的処理は、薬剤の添加せずに処理することができるため、試薬調製の必要がなく、簡易的な操作で測定することができる。
【0010】
更に、本発明の微生物の活性を測定する測定装置の一実施態様によれば、細胞破壊部及び測定部は密閉された状態であるという特徴を有する。
この特徴によれば、細胞破壊部及び測定部は密閉された空間に存在するため、細胞破壊部により取り出された酸化還元物質が、酸素などの酸化還元反応に影響する物質と接触することを制限するという効果がある。よって、酸化還元物質に生じる電気化学的変化を正確に測定することができる。
【0011】
上記課題を解決するための本発明の微生物の活性を測定する測定方法は、電気化学的手段を用いて液体中の微生物の活性を測定する測定方法であって、前記微生物の細胞内に存在する酸化還元物質を細胞外に取り出す細胞破壊工程と、前記酸化還元物質に生じる電気化学的変化を測定する測定工程と、を備えたことを特徴とする。
この測定方法によれば、細胞破壊工程で微生物の細胞内に存在する酸化還元物質を細胞外に取り出すため、細胞内の酸化還元物質を直接電極に反応させることができる。よって、外部から添加するメディエータの添加量を低減することが可能となり、薬品の使用量を低減することができる。更には、メディエータを添加することなく微生物の活性を測定することも可能であり、その場合には、メディエータを添加するための工程を省略できるため、測定操作を簡素化することができる。
【0012】
上記課題を解決するための本発明の生物処理システムは、被処理液を微生物で処理する生物処理槽と、電気化学的手段を用いて液体中の微生物の活性を測定する測定装置と、を備えた生物処理システムであって、前記測定装置は、前記微生物の細胞内に存在する酸化還元物質を細胞外に取り出す細胞破壊部と、前記酸化還元物質に生じる電気化学的変化を測定する測定部と、を具備することを特徴とする。
この生物処理システムによれば、生物処理槽の微生物の活性を簡易的に測定し、生物処理槽における生物処理を監視することができる。
【0013】
上記課題を解決するための本発明の生物処理方法は、被処理液を微生物で処理する生物処理工程と、電気化学的手段を用いて液体中の微生物の活性を測定する測定工程と、を備えた生物処理方法であって、前記測定工程は、前記微生物の細胞内に存在する酸化還元物質を細胞外に取り出す細胞破壊工程と、前記酸化還元物質に生じる電気化学的変化を測定する測定工程と、を具備することを特徴とする。
この生物処理方法によれば、生物処理工程における微生物の活性を簡易的に測定し、安定した生物処理を実施することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電気化学的手段を用いて液体中の微生物の活性を測定する測定装置又は測定方法において、メディエータの使用量を低減することが可能な測定装置又は測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1の実施態様の微生物の活性を測定する測定装置を示す概略説明図である。
【
図2】本発明の微生物の活性を測定する方法の原理を説明する概略説明図である。
【
図3】本発明の測定装置により測定された電位変化の結果と、メディエータを用いて測定した電位変化の結果を比較するグラフである。
【
図4】本発明の第2の実施態様の微生物の活性を測定する測定装置を示す概略説明図である。
【
図5】本発明の第3の実施態様の微生物の活性を測定する測定装置を示す概略説明図である。
【
図6】本発明の第4の実施態様の微生物の活性を測定する測定装置を示す概略説明図である。
【
図7】本発明の第5の実施態様の生物処理システムを示す概略説明図である。
【
図8】本発明の第6の実施態様の生物処理システムを示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の測定装置及び生物処理システムの実施態様について、添付図面を参照して詳細に説明する。
なお、実施態様に記載する測定装置及び生物処理システムについては、本発明の測定装置及び生物処理システムを説明するために例示したに過ぎず、これに限定されるものではない。また、本発明の測定装置及び生物処理システムの各部の説明は、各部における処理工程の説明を記載しているものとする。
【0017】
本発明の測定装置は、電気化学的手段を用いて液体中の微生物の活性を測定するものである。本発明の測定装置で測定される微生物は、特に制限されず、好気性微生物、通性嫌気性微生物、絶対嫌気性微生物のいずれでもよく、また、単細胞の微生物だけでなく、多細胞の微生物でもよい。具体的には、水処理等に利用する活性汚泥や、食品の製造に利用する酵母などが挙げられる。また、大腸菌などの研究等に使用される微生物でもよい。
【0018】
本発明の測定装置は、例えば、下水処理設備、排水処理設備、廃水処理設備などの生物処理槽の管理に好適に使用される。より具体的には、生物処理槽の処理効率の監視や、種汚泥の活性量の評価や、難分解性物質や毒性物質等の混入による被処理水の水質の評価などに利用することができる。また、ビール、日本酒、焼酎、ウイスキーなどの酒類、ヨーグルト、みそ、納豆、醤油などの発酵食品等の製造に使用する発酵槽の管理に利用することもできる。その他、飲食品等に混入した微生物の検査や、医療研究等の学術的研究に利用することもできる。
【0019】
[第1の実施態様]
図1は、本発明の第1の実施態様の微生物の活性を測定する測定装置1Aを示す概略説明図である。
図1に示すように、本発明の測定装置1Aは、微生物の活性を測定するための試料を内部に保持する容器4、微生物の細胞内に存在する酸化還元物質を細胞外に取り出すための細胞破壊部2A、酸化還元物質に生じる電気化学的変化を測定する測定部3Aを備える。
【0020】
酸化還元物質は、酸化還元反応を行う物質であり、微生物の細胞内に元々存在するものである。本発明の測定装置1Aは、この酸化還元物質に生じる電気化学的変化を直接測定することにより、微生物の活性を測定するものである。
図2を参照して、本発明の微生物の活性を測定する方法の原理を説明する。
図2に示すように、微生物Cは、細胞内において有機物等の基質A
1を酵素Eで代謝物A
2に分解することにより生存に必要なエネルギーを形成している。そして、基質を分解する際に、微生物Cの持つNAD
+などの酸化還元物質が電子(e
-)を受け取ることにより生体内にエネルギーを蓄積する。これらの酸化還元物質は、微生物Cの細胞膜Mを通過することができないため、本発明の測定装置では、細胞破壊部2Aにより細胞膜を破壊(溶菌)して、酸化還元物質を細胞の外部に取り出す。細胞外に取り出された酸化還元物質は測定部3Aに到達することが可能となり、測定部3Aで酸化還元物質に生じる電気化学的変化を測定する。
【0021】
(容器)
容器4は、微生物の活性を測定するための試料を内部に保持し、微生物の細胞内に存在する酸化還元物質を細胞外に取り出すためのものである。第1の実施態様では、試料入口41、試料出口42を備え、試料入口41から測定するための試料S1が流入し、試料出口42から測定後の試料S2を流出させる。試料S1の流入は、ポンプ(不図示)など流入制御手段により制御する。また、測定部3Aのカソード32側には、空気室7を備え、空気室7と外部を連通するガス入口43と、ガス出口44が形成されている。
【0022】
第1の実施態様では、容器4の内部に、物理的処理により微生物の細胞内に存在する酸化還元物質を細胞外に取り出すための細胞破壊部2Aが設置されている。また、容器4の内部には、細胞破壊部2Aの近傍に、酸化還元物質に生じる電気化学的変化を測定する測定部3Aが設置されている。これらの細胞破壊部2Aと測定部3Aは、容器4の内部に密閉された状態で設置される。ここで、密閉された状態とは、容器4に流入した試料S1が外気との接触を制限した状態であることを意味する。細胞破壊部2Aと測定部3Aを密閉した状態とすることにより、酸素などの外的な酸化還元反応に影響する物質と接触することを制限し、酸化還元物質に生じる電気化学的変化を正確に測定することができる。なお、本発明の実施態様では、細胞破壊部2Aと測定部3Aを密閉した状態とする例を挙げるが、細胞破壊部2Aと測定部3Aのいずれか又は各部とも開放された状態で測定することも可能である。
【0023】
また、第1の実施態様では、細胞破壊部2Aと測定部3Aが近接した位置に配置されている。細胞破壊部2Aと測定部3Aを近接した位置に配置すると、細胞破壊部2Aにより細胞外に取り出された酸化還元物質は、測定部3Aに素早く到達することができるため、試料S1に含まれる外的な物質(例えば、溶存酸素など)による影響を受けずに測定することができる。細胞から取り出された酸化還元物質が測定部3Aの到達時間としては、特に制限されないが、例えば、10分以内であり、より好ましくは5分以内であり、更に好ましくは1分以内であり、特に好ましくは30秒以内である。なお、到達時間は、細胞破壊部による破壊処理を開始後から、測定部により検出が開始されるまでの時間である。到達時間は、細胞破壊部と測定部の配置だけでなく、試料S1の流入速度や、容器の容量等によっても調整することができる。
【0024】
第1の実施態様では、細胞破壊部2Aと測定部3Aが同一の容器4の内部に配置されているが、細胞破壊部2Aと測定部3Aは別の容器にそれぞれ配置し、各容器を流路等で接続してもよい。例えば、マイクロ流路などにより、流路内で細胞を破砕し、その後段に測定部を設けて測定してもよい。
【0025】
(細胞破壊部)
細胞破壊部2Aは、微生物の細胞膜を破壊し、微生物の細胞内に存在する酸化還元物質を細胞外に取り出すためのものである。第1の実施態様の細胞破壊部2Aは、具体的には加熱装置であり、熱により細胞膜を破壊するものである。
【0026】
細胞破壊部は、細胞膜を破壊し、酸化還元物質を細胞外に取り出すものであればよく、例えば、熱処理、超音波処理、電気パルス処理、剪断処理、キャビテーション処理、高圧噴流処理などの物理的処理や、酸処理、アルカリ処理、界面活性剤処理、ウイルス処理、酵素処理、酸化剤処理などの化学的処理等が挙げられる。また、熱アルカリ処理のように、各処理を併用してもよい。化学的処理は、薬剤の添加量を正確に調整することができるため、細胞の破壊の程度を正確に制御することができる。なお、酸化剤処理等のように酸化還元反応に影響する化学的処理は、酸化剤などの薬剤の添加量を調整することによりその差分で評価することも可能である。また、物理的処理は、薬剤を添加せずに処理することができるため、試薬調製の必要がなく、簡易的な操作で測定することができる。
【0027】
(測定部)
測定部3Aは、微生物の細胞から取り出した酸化還元物質に生じる電気化学的変化を測定するものである。第1の実施態様の測定部3Aは、具体的には、酸化還元物質から電極に電子を移動した際に生じる電流値を検出するものである。
【0028】
図1に示すように、測定部3Aは、細胞破壊部2Aの近傍にアノード31、空気室7の内部の空気と接触する位置にカソード32を備え、アノード31とカソード32の間には水素イオン(H
+)を選択的に透過する陽イオン交換膜33が設置されている。また、アノード31とカソード32は、配線により電気的に結合しており、その間に電流値を検出する検出部34を備えている。
なお、陽イオン交換膜33は、電極間の水素イオン(H
+)が移動するイオン移動部であり、イオン移動部としては、例えば、第1の実施態様の陽イオン交換膜だけでなく、素焼きの陶板や、セラミックス、塩橋などでもよい。
【0029】
細胞破壊部2Aにより細胞から取り出された酸化還元物質(NADH)は、アノード31の表面で酸化されてNAD+に変化する。その際に、電極に電子(e-)が流れ、液体中には水素イオン(H+)が放出される。電子(e-)は、配線を通ってカソード32に流れるため、検出部34で電流値が検出される。水素イオン(H+)は、陽イオン交換膜33を透過して、カソード32の表面で空気室7に流入する酸素(O2)と電子(e-)と反応して水蒸気(H2O)を生成する。第1の実施態様の測定部3Aは、検出部34の電流値の変化から微生物の活性を測定することができる。
【0030】
なお、測定部は、微生物の細胞から取り出した酸化還元物質に生じる電気化学的変化を測定するものであればよく、電流値を検出する手段の他、例えば、ORP計(酸化還元電位計)のように電位差を検出する手段でもよい。また、NADHから放出された水素イオン(H+)をpH計により検出する方法や、空気室7における酸素(O2)の消費量をガス検知器により検出する方法などのように、酸化還元物質に生じる電気化学的変化を間接的に測定する手段であってもよい。
【0031】
次に、本発明の測定装置により測定された電位変化と、従来の細胞から酸化還元物質を取り出さずにメディエータを用いて測定した電位変化について比較する。メディエータは、細胞膜を通過することが可能な酸化還元物質であり、基質と共に細胞内に入り、基質の酸化により生じた電子を受け取り(還元反応)、その後、細胞外に出て、電極に電子を放出する(酸化反応)ものである。
図3に、本発明の測定装置により測定された電位変化の結果と、メディエータを用いて測定した電位変化の結果を比較するグラフを示す。グラフに示すとおり、メディエータを使用せず、細胞も破壊しない場合(バッファー+菌体)と、メディエータを使用し、細胞を破壊しない場合(メディエータ+菌体)では、メディエータの作用により、電位変化が大きくなる。そして、本発明の測定装置により測定された電位変化(バッファー+溶菌液(熱))では、メディエータを使用した場合と同等の電位変化が示された。よって、本発明の測定装置を使用することにより、メディエータを使用することなく、微生物の活性を測定することが可能であることがわかった。なお、本発明の測定装置では、メディエータを使用することにより、より高感度に測定することも可能である。
【0032】
[第2の実施態様]
図4は、本発明の第2の実施態様の微生物の活性を測定する測定装置1Bを示す概略説明図である。
第2の実施態様の測定装置1Bは、細胞破壊部2Bとして、アルカリを添加する手段を備え、アルカリにより細胞膜を破壊するものである。なお、第1の実施態様における測定装置1Aの構造と同じものについては説明を省略する。
この測定装置1Bによれば、薬剤の添加量を正確に調整することができるため、細胞の破壊の程度を正確に制御することができる。
【0033】
[第3の実施態様]
図5は、本発明の第3の実施態様の微生物の活性を測定する測定装置1Cを示す概略説明図である。
第3の実施態様の測定装置1Cは、測定部3Bとして、ORP計を備え、微生物の細胞から取り出された酸化還元物質に生じる電気化学的変化を電位差により検出するものである。なお、第1の実施態様における測定装置1Aの構造と同じものについては説明を省略する。
この測定装置1Cによれば、簡易的なORP計を容器内に挿入すればよいため、簡素な装置構成とすることができる。
【0034】
[第4の実施態様]
図6は、本発明の第4の実施態様の微生物の活性を測定する測定装置1Dを示す概略説明図である。
第4の実施態様の測定装置1Dは、微生物の活性を測定するための試料を内部に保持する容器として、マイクロ流路を使用したものである。
図4に示すように、測定装置1Dは、基板5と、基板5の表面に形成されたマイクロ流路L
1、マイクロ流路L
2と、細胞破壊部2Aとしてマイクロ流路L
1を下部から加熱するヒーターと、マイクロ流路L
1とマイクロ流路L
2の間に設置された測定部3Bを備える。
【0035】
マイクロ流路L1は、試料S1を流入し、細胞破壊処理を行うための流路である。マイクロ流路L1は、ヒーター(細胞破壊部2A)により加熱される領域では、蛇行して形成されている。マイクロ流路L1を蛇行して形成することにより、ヒーターの設置領域を縮小化しつつ、加熱処理に必要な時間を十分に確保することができる。マイクロ流路L1の流路幅は特に制限されないが、微生物の大きさ等を勘案すると、下限値としては好ましくは50μm以上である。また、加熱処理の効率を勘案すると、好ましくは1mm以下であり、より好ましくは500μm以下であり、好ましくは200μm以下である。
【0036】
一方、マイクロ流路L2は、測定部3Bにより酸化還元物質に生じる電位差を測定した後に、測定装置1Dから液体を排出するための流路であるため、流路幅等はどの程度でもよい。
【0037】
マイクロ流路を用いることにより、細胞破壊処理の時間を短縮することができるため、素早く微生物の活性を測定することができる。また、細胞破壊部から測定部までの到達時間を正確に調整することができるため、移動における他の影響を制限し、微生物の活性を正確に測定することができる。
なお、本実施態様では、基板に形成されたマイクロ流路を例示したが、微細管によりマイクロ流路を形成してもよい。
【0038】
[第5の実施態様]
図7は、本発明の第5の実施態様の生物処理システム100を示す概略説明図である。
第5の実施態様の生物処理システム100は、本発明の測定装置1Aを排水処理設備の生物処理槽10に適用した例である。
生物処理槽10は、被処理水W
0を流入するための被処理液流入部11、生物処理槽10の内部で生物処理された処理液W
1を排出するための処理水排出部12を備えた槽であり、下水や工場排水等の有機性排水に含まれる有機物を微生物により分解して水質を改善するための装置である。生物処理槽10における生物処理は、好気性処理、嫌気性処理のいずれであってもよい。
【0039】
生物処理槽10と測定装置1Aは、配管L3及び配管L4を介して連結されている。配管L3は、生物処理槽10の液体の一部を試料S1として抜き取り、測定装置1Aに送液するための配管であり、配管L4は、微生物の活性の測定後の試料S2を生物処理槽10に返送するための配管である。測定後の試料S2を生物処理槽10に返送することにより、廃液を削減できるという効果がある。なお、測定後の試料S2は、生物処理槽10に返送せずに、廃液として系外に排出してもよい。
【0040】
この生物処理システム100によれば、測定装置1Aを備えるため、廃水処理設備における生物処理を簡易的に監視し、安定した生物処理を実現することができる。また、測定装置1Aの変動から、被処理液W0への難分解性物質や毒性物質の混入などを検知し、これらの問題に対する早期対応を可能とするという効果もある。
【0041】
[第6の実施態様]
図8は、本発明の第6の実施態様の生物処理システム101を示す概略説明図である。
第6の実施態様の生物処理システム101は、生物処理槽10の内部に、本発明の測定装置1Eを設置した例である。測定装置1Eを生物処理槽10の内部に設置することにより、細胞破壊部により取り出された酸化還元物質と外気との接触を遮断することができる。また、生物処理システム101を縮小化することができる。
【0042】
測定装置1Eは、
図8に示すように、生物処理槽10の壁面に設置されている。測定部3Aは、第1の実施態様と同様のものであり、カソード32を生物処理槽10の外気と接触するように配置している。
また、細胞破壊部2Aは、第1の実施態様と同様、電源Eに接続された加熱装置であり、アノード31の近傍に設置されている。
【0043】
測定装置1Eは、容器の内部に試料S1を投入するためのサンプリング器6を備えている。このサンプリング器6は、容器の天面と底面が同時に上下方向に移動するものであり、サンプリング器6を移動することにより生物処理槽10から試料S1を採取し、測定後の試料S2を生物処理槽10に戻すことができる。
なお、生物処理槽10から測定装置へ試料S1を採取する手段は、どのような装置により採取してもよく、例えば、ポンプ等により測定装置の容器内に試料S1を送液してもよいし、生物処理槽10内に発生する被処理液W0の流れを利用して容器内に試料S1を送液してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の測定装置は、例えば、下水処理設備、排水処理設備、廃水処理設備などの生物処理槽の管理に好適に使用される。より具体的には、生物処理槽の処理効率の監視や、種汚泥の活性量の評価や、難分解性物質や毒性物質等の混入による被処理水の水質の評価などに利用することができる。また、ビール、日本酒、焼酎、ウイスキーなどの酒類、ヨーグルト、みそ、納豆、醤油などの発酵食品等の製造に使用する発酵槽の管理に利用することもできる。その他、飲食品等に混入した微生物の検査や、医療研究等の学術的研究に利用することもできる。
【符号の説明】
【0045】
1A,1B,1C,1D,1E…測定装置、2A,2B…細胞破壊部、3A,3B…測定部、31…アノード、32…カソード、33…陽イオン交換膜、34…検出部、4…容器、41…試料入口、42…試料出口、43…ガス入口、44…ガス出口、5…基板、6…サンプリング器、7…空気室、10…生物処理槽、100,101…生物処理システム、S1,S2…試料、C…微生物、E…酵素、M…細胞膜、A1…基質、A2…代謝物、L1,L2…流路、L3,L4…配管、W0…被処理液、W1…処理液、V…電源