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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-14
(45)【発行日】2023-02-22
(54)【発明の名称】トナー用結着樹脂
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/087 20060101AFI20230215BHJP
   C08L 101/02 20060101ALI20230215BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230215BHJP
【FI】
G03G9/087
G03G9/087 331
G03G9/087 325
C08L101/02
C08L101/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018214795
(22)【出願日】2018-11-15
(65)【公開番号】P2020085932
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100118131
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 渉
(72)【発明者】
【氏名】柴田 要
(72)【発明者】
【氏名】村田 将一
(72)【発明者】
【氏名】山本 泰輝
(72)【発明者】
【氏名】清水 章貴
【審査官】福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-004086(JP,A)
【文献】特開2015-064566(JP,A)
【文献】特開2016-126156(JP,A)
【文献】特開2016-040576(JP,A)
【文献】特開2019-020690(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/08-9/097,9/12-9/135
C08L 101/02
C08L 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ基を有する樹脂(N)、該樹脂(N)以外の非晶性樹脂(A)、及び該樹脂(N)以外の結晶性樹脂(C)を含有する、トナー用結着樹脂であって、
前記樹脂(N)の含有量が、前記樹脂(N)、前記樹脂(A)及び前記樹脂(C)の合計含有量100質量%中、0.1質量%以上10質量%以下であり、
前記樹脂(N)が、ジアルキルアミノ基を有する化合物を含む原料成分(P)の反応物であり、
前記ジアルキルアミノ基を有する化合物の含有量が、前記原料成分(P)100モル%中、50モル%以上100モル%以下であり、
前記ジアルキルアミノ基を有する化合物が、次の一般式(I)で表される化合物であり、
前記樹脂(C)が、アルコール成分(c-al)とカルボン酸成分(c-ac)との重縮合物である結晶性ポリエステルであり、該カルボン酸成分(c-ac)が炭素数4以上14以下のα,ω-脂肪族ジカルボン酸を含有し、
前記樹脂(C)の酸価が、10mgKOH/g以上45mgKOH/g以下である、トナー用結着樹脂。
【化1】

(一般式(I)中、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1以上4以下のアルキル基を示し、それらは互いに結合して環構造を形成していてもよい。Rは、水素原子又は炭素数1以上5以下のアルキル基を示す。Lは、炭素数1以上4以下のアルキレン基を示す。Yは、-O-又は-NH-を示す。)
【請求項2】
前記樹脂(C)のFedorsの溶解度パラメータ(SP値)が11.0以下である、請求項1に記載のトナー用結着樹脂。
【請求項3】
前記樹脂(A)と前記樹脂(C)との質量比〔(A)/(C)〕が、65/35以上95/5以下である、請求項1又は2に記載のトナー用結着樹脂。
【請求項4】
前記樹脂(A)及び/又は前記樹脂(C)がポリエステル系樹脂である、請求項1~のいずれかに記載のトナー用結着樹脂。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載の結着樹脂を含有する、静電荷像現像用トナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナー用結着樹脂、及び該トナー用結着樹脂を含有する静電荷像現像用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真の分野では、電子写真システムの発展に伴い、高画質化及び高速化に対応した静電荷像現像用トナー(以下、単に「トナー」ともいう)の開発が求められている。例えば、マシンの高速化に対応するため、トナーには、優れた低温定着性が要求されている。
ところで、トナーの低温定着性を改善するために、トナーの軟化点やガラス転移温度を低く設計すると、トナーの保存安定性が低下するという弊害が生じるため、低温定着性及び保存安定性に優れるトナーの開発が要求されている。
例えば、特許文献1には、カブリ抑制性と結着樹脂等に由来する臭気抑制性付与性を有する電子写真用トナーとして、アルコール成分と、カルボン酸成分と、樹脂Aの全モノマー成分の合計量に対して0.01質量%以上5.0質量%以下の特定の構造で表されるポリヒドロキシアミン化合物と、を重縮合させて得られるポリエステル部位を少なくとも有する樹脂Aを含有する、電子写真用トナーが記載されている。
また、特許文献2には、結着樹脂、顔料、顔料分散剤、及び定着助剤を含有するトナー粒子を有するトナーであって、該顔料分散剤が特定の構造を有し、該結着樹脂と該定着助剤が特定の条件を満たし、該顔料分散剤と該定着助剤とが特定の条件と満たすことを特徴とするトナーが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-146419号公報
【文献】特開2017-49581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述のとおり、近年のマシンの高速化に対応するため、トナーには、低温定着性及び保存安定性に優れるトナーの開発が要求されている。更に、キャリアの汚染を抑制できるトナー、すなわち、耐キャリア汚染性に優れることも要求されている。しかしながら、特許文献1又は2には、低温定着性、保存安定性及び耐キャリア汚染性のいずれにも優れるトナーは開示されていない。
本発明は、低温定着性、保存安定性及び耐キャリア汚染性に優れるトナー用結着樹脂及び該トナー用結着樹脂を含有する静電荷像現像用トナーに関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、アミノ基を有する樹脂(N)、該樹脂(N)以外の非晶性樹脂(A)、及び該樹脂(N)以外の結晶性樹脂(C)を含有する、トナー用結着樹脂が、低温定着性、保存安定性及び耐キャリア汚染性の課題を解決し得ることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、次の〔1〕及び〔2〕の実施形態に関する。
〔1〕アミノ基を有する樹脂(N)、該樹脂(N)以外の非晶性樹脂(A)、及び該樹脂(N)以外の結晶性樹脂(C)を含有する、トナー用結着樹脂。
〔2〕前記〔1〕に記載の結着樹脂を含有する、静電荷像現像用トナー。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、低温定着性、保存安定性及び耐キャリア汚染性に優れるトナー用結着樹脂並びに該トナー用結着樹脂を含有する静電荷像現像用トナーを提供する事ができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[トナー用結着樹脂]
本発明のトナー用結着樹脂(以下、単に「結着樹脂」ともいう)は、アミノ基を有する樹脂(N)(以下、単に「樹脂(N)」ともいう)、該樹脂(N)以外の非晶性樹脂(A)(以下、単に「樹脂(A)」ともいう))、及び該樹脂(N)以外の結晶性樹脂(C)(以下、単に「樹脂(C)」ともいう)を含有する。
【0009】
本発明の結着樹脂を含有する静電荷像現像用トナーが、低温定着性、保存安定性及び耐キャリア汚染性に優れる理由は定かではないが、次のように考えられる。
トナーの低温定着性向上のためには結晶性樹脂の使用が一般的であり、非晶性樹脂中で結晶性樹脂を微分散化させることで定着時に非晶性樹脂を可塑化し、低温定着性が発現する。本発明トナーは、前記樹脂(N)中にアミノ基を含んでいるため、樹脂(A)と樹脂(C)との界面で、当該アミノ基と、樹脂(A)及び樹脂(C)中の酸基(例えば、カルボン酸)部分とが酸塩基相互作用を形成することによって、樹脂(C)が樹脂(A)中で微分散化され、低温定着性が良好になったと考えられる。
一般に、結晶性樹脂と非晶性樹脂との組み合わせでは低温定着性と保存安定性との両立は難しい。しかし、本発明では、前述の酸塩基相互作用によって、樹脂(C)を樹脂(A)中に微分散、結晶化させることができたため、低温定着性と、保存安定性の両立が可能になったと考えられる
また、通常、結晶性樹脂は非晶性樹脂に比べてガラス転移温度(Tg)が低く、トナー表面に存在すると、キャリア汚染を生じ易いが、樹脂(C)が前記理由によって、トナー内部で微分散し易くなることによってトナー表面への露出が抑制され、トナー表面の樹脂(C)の露出量が少なくなることで、トナーの耐キャリア汚染性を向上させることができたと考えられる。
【0010】
本明細書における各種用語の定義等を以下に示す。
樹脂が結晶性であるか非晶性であるかについては、結晶性指数により判定される。結晶性指数は、後述する実施例に記載の測定方法における、樹脂の軟化点と吸熱の最大ピーク温度との比(軟化点(℃)/吸熱の最大ピーク温度(℃))で定義される。前記「吸熱の最大ピーク温度」とは、実施例に記載する測定方法の条件下で観測される吸熱ピークのうち、ピーク面積が最大のピークの温度のことを指す。
一般に、この結晶性指数が1.4を超えると樹脂は非晶性であり、0.6未満では結晶性が低く非晶質部分が多い。本明細書において、「結晶性樹脂」とは、結晶性指数が0.6以上、好ましくは0.7以上、更に好ましくは0.9以上であり、そして、1.4以下、好ましくは1.2以下である樹脂をいい、「非晶性樹脂」とは結晶性指数が1.4を超える、又は0.6未満の樹脂をいう。
樹脂の結晶性指数は、原料成分の種類とその比率、及び製造条件(例えば、反応温度、反応時間、冷却速度)等により調整することができる。
「結着樹脂」とは、樹脂(N)、樹脂(A)、及び樹脂(C)を包含するトナー中に含まれる樹脂成分を意味する。
「溶解度パラメータ値」、「SP値」とは、Fedorsらが提案した[POLYMERENGINEERING ANDSCIENCE, FEBRUARY, 1974, Vol.14, No.2, ROBERT F. FEDORS. (147~154頁)]に記載の方法によって計算されたものである。
樹脂の原料成分となるカルボン酸成分には、その化合物のみならず、反応中に分解して酸を生成する無水物、及び、各カルボン酸のアルキルエステル(アルキル基の炭素数1以上3以下)も含まれる。
「スチレン系化合物」とは、スチレン及びスチレン誘導体から選ばれる1種以上を意味する。
「アルキル(メタ)アクリレート」とは、アルキルアクリレートとアルキルメタクリレートの両方を意味する。同様に「(メタ)アクリレート」は、アクリレートとメタクリレートの両方を意味する。
「体積中位粒径D50」とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径であって、具体的には、後述する実施例に記載の測定方法により測定される粒径である。
【0011】
<アミノ基を有する樹脂(N)>
樹脂(N)としては、前述のとおり、樹脂(A)及び樹脂(C)中の酸基と酸塩基相互作用を形成し得る樹脂であればよく、好ましくはポリアルキレンイミン及びアミノ基を有する化合物を含む原料成分の反応物からなる群より選ばれる1種以上が挙げられ、ポリアルキレンイミン及びジアルキルアミノ基を有する化合物を含む原料成分(P)の反応物からなる群より選ばれる1種以上、更に好ましくはより好ましくはジアルキルアミノ基を有する化合物を含む原料成分(P)の反応物である。
【0012】
前記ポリアルキレンイミンとしては、好ましくはアルキレン基の炭素数が1以上5以下のポリアルキレンイミン、より好ましくはアルキレン基の炭素数が2以上4以下のポリアルキレンイミン、更に好ましくはポリエチレンイミン又はポリプロピレンイミン、より更に好ましくはポリエチレンイミンが挙げられる。これらのポリアルキレンイミンは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
前記ジアルキルアミノ基を有する化合物を含む原料成分(P)の反応物の原料として用いられるジアルキルアミノ基を有する化合物としては、低温定着性、保存安定性、及び耐キャリア汚染性の各特性のバランスにより優れるトナーを得る観点から、次の一般式(I)で表される化合物が好ましい。
【0014】
【化1】
【0015】
一般式(I)中、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1以上4以下のアルキル基を示し、それらは互いに結合して環構造を形成していてもよい。該アルキル基の炭素数は、好ましくは1以上3以下、より好ましくは1又は2、更に好ましくは1である。
は、水素原子又は炭素数1以上5以下のアルキル基を示し、該アルキル基の炭素数は、好ましくは1以上4以下、より好ましくは1以上3以下、更に好ましくは1又は2、より更に好ましくは1である。
Lは、炭素数1以上4以下のアルキレン基を示し、該アルキレン基の炭素数は、好ましくは2以上4以下、より好ましくは2又は3である。Yは、-O-又は-NH-を示す。
【0016】
前記一般式(I)で表される化合物としては、例えば、ジメチルアミノメチルアクリレート、ジメチルアミノメチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリレート、ジメチルアミノプロピルメタクリレート、ジブチルアミノエチルアクリレート、ジブチルアミノエチルメタクリレート、ジブチルアミノメチルメタクリレート、N-[2-(ジメチルアミノ)エチル]アクリルアミド、N-[2-(ジメチルアミノ)エチル]メタクリルアミド、N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]アクリルアミド、N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]メタクリルアミド等が挙げられる。
これらの中では、前記と同様の観点から、ジメチルアミノエチルメタクリレート及びN-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]アクリルアミドから選ばれる1種以上がより好ましく、ジメチルアミノエチルメタクリレートが更に好ましい。
前記原料成分(P)中、一般式(I)で表される化合物の含有量は、低温定着性、保存安定性、及び耐キャリア汚染性の各特性のバランスにより優れるトナーを得る観点から、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上、更に好ましくは70モル%以上、そして、好ましくは100モル%以下であり、より更に好ましくは100モル%である。
【0017】
一般式(I)以外のその他のジアルキルアミノ基を有する化合物としては、例えば、p-ジメチルアミノスチレンが挙げられる。
これらジアルキルアミノ基を有する化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
前記アミノ基を有する化合物を含む原料成分、又は前記原料成分(P)は、本発明の効果を損なわない範囲で、前記ジアルキルアミノ基を有する化合物以外のその他化合物(d)(以下、「化合物(d)」ともいう)を含有していてもよい。該その他化合物(d)としては、付加重合性を有する化合物であることが好ましく、低温定着性の観点から、少なくともスチレン系化合物を含むことがより好ましく、少なくともスチレンを含むことが更に好ましい。そして、該その他化合物(d)としては、耐キャリア汚染性の観点から、スチレン及び後述するアルキル(メタ)アクリレートを両方含むことが更に好ましい。
【0019】
スチレン系化合物としては、スチレン、メチルスチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、tert-ブチルスチレン、クロロスチレン、クロロメチルスチレン、メトキシスチレン、スチレンスルホン酸及びその塩から選ばれる1種以上が好ましい。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、(イソ)アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)パルミチル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート、(イソ)ベヘニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、低温定着性の観点から、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートが好ましい。
「(イソ又はターシャリー)」、「(イソ)」とは、これらの接頭辞が存在する場合としない場合との双方を意味し、これらの接頭辞が存在しない場合には、ノルマルを示す。
【0020】
その他化合物(d)中、スチレン系化合物の含有量は、低温定着性の観点から、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上であり、そして、耐キャリア汚染性の観点から、好ましくは100モル%以下、より好ましくは95モル%以下、更に好ましくは90モル%以下である。
その他化合物(d)中、アルキル(メタ)アクリレートの含有量は、低温定着性の観点から、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上であり、そして、好ましくは40モル%以下、より好ましくは30モル%以下、更に好ましくは20モル%以下である。
【0021】
前記原料成分(P)の反応物は、例えば、ラジカル重合開始剤等の重合開始剤を用いて、ラジカル付加重合反応することにより製造することができる。
重合開始剤を用いる場合、その量は、前記原料成分(P)100質量部に対して、好ましくは1質量部以上であり、そして、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下、更に好ましくは5質量部以下である。
【0022】
樹脂(N)の数平均分子量(Mn)は、低温定着性、保存安定性、及び耐キャリア汚染性の各特性のバランスにより優れるトナーを得やすくする観点から、好ましくは1,000以上、より好ましくは2,000以上、更に好ましくは4,000以上であり、そして、低温定着性をより向上させる観点から、好ましくは30,000以下、より好ましくは20,000以下、更に好ましくは10,000以下である。
樹脂(N)の重量平均分子量(Mw)は、上下限値のいずれも前記と同様の観点から、好ましくは5,000以上、より好ましくは10,000以上、更に好ましくは15,000以上であり、そして、好ましくは100,000以下、より好ましくは50,000以下、更に好ましくは30,000以下、より更に好ましくは25,000以下である。
前記樹脂(N)の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)の値は、具体的には、後述する実施例に記載の測定方法により測定される値である。
前記樹脂(N)の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、原料成分及び重合開始剤の種類並びにそれらの比率、並びに反応温度、反応時間、冷却速度等の製造条件により適宜調整することができる。
【0023】
前記結着樹脂中の樹脂(N)の含有量は、低温定着性、保存安定性、及び耐キャリア汚染性の各特性のバランスにより優れるトナーを得やすくする観点から、該樹脂(N)、樹脂(A)及び樹脂(C)の合計含有量100質量%中、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1.0質量%以上、より更に好ましくは1.5質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より更に好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、より更に好ましくは5質量%以下である。
【0024】
<非晶性樹脂(A)>
非晶性樹脂(A)は、前記樹脂(N)を除く、酸基を有する非晶性樹脂であり、好ましくは非晶性ポリエステル、ポリエステルセグメント(AH-1)及びビニル系樹脂セグメント(AH-2)を有する非晶性複合樹脂(AH)等の非晶性ポリエステル系樹脂であり、より好ましくは非晶性ポリエステルである。
非晶性ポリエステルは、アルコール成分(a-al)とカルボン酸成分(a-ac)との重縮合物である。
なお、樹脂(A)が「非晶性ポリエステル系樹脂」であるとは、変性されたポリエステル、例えば、非晶性ポリエステルがウレタン結合で変性されたウレタン変性ポリエステル、非晶性ポリエステルがエポキシ結合で変性されたエポキシ変性ポリエステル、及び樹脂(AH)を含んでいてもよいことを意味する。
また、樹脂(A)が樹脂(AH)である場合、ポリエステルセグメント(AH-1)を構成するアルコール成分(a-al)及びカルボン酸成分(a-ac)、並びにビニル系樹脂セグメント(AH-2)を構成する付加重合性モノマー成分(V)を含み、更に、ポリエステルセグメント(AH-1)及びビニル系樹脂セグメント(AH-2)のいずれとも反応し得る両反応性モノマーを含むことが好ましい。
【0025】
〔アルコール成分(a-al)〕
アルコール成分(a-al)(以下、「成分(a-al)」ともいう)としては、低温定着性、保存安定性、及び耐キャリア汚染性の各特性のバランスにより優れるトナーを得る観点から、ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物(以下、「BPA-AO」ともいう)及び炭素数2以上6以下の脂肪族ジオールからなる群より選ばれる1種以上を含有することが好ましく、BPA-AOを含有することがより好ましい。
【0026】
BPA-AOとしては、好ましくは、次の一般式(II)で表されるBPA-AOが挙げられる。
【0027】
【化2】
【0028】
一般式(II)中、OR11及びR12Oは、それぞれ独立に、炭素数1以上4以下のアルキレンオキシ基であり、好ましくはエチレンオキシ基又はプロピレンオキシ基である。
x及びyは、アルキレンオキシドの平均付加モル数であって、それぞれ独立に正の数である。前記と同様の観点から、x及びyの和の平均値は、好ましくは1以上、より好ましくは1.5以上であり、そして、好ましくは16以下、より好ましくは8以下、更に好ましくは4以下である。
【0029】
一般式(II)で表されるBPA-AOは、好ましくはビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物(以下、「BPA-PO」ともいう)、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物(以下、「BPA-EO」ともいう)、より好ましくはBPA-POである。
一般式(II)で表されるBPA-AOは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
成分(a-al)が、BPA-AOを含有する場合、その含有量は、成分(a-al)中、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上、より更に好ましくは98モル%以上であり、そして、100モル%以下であり、より更に好ましくは100モル%である。
【0030】
炭素数2以上6以下の脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-ブテンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3,3-ジメチル-1,2-ブタンジオールが挙げられる。これらの中では、前記と同様の観点から、好ましくは1,2-プロパンジオール及び1,4-ブタンジオールからなる群より選ばれる1種以上であり、そして、トナーの保存安定性をより向上させる観点からは、1,2-プロパンジオール及び1,4-ブタンジオールをともに含有することがより好ましい。
成分(a-al)が、炭素数2以上6以下の脂肪族ジオールを含有する場合、その含有量は、前記と同様の観点から、成分(a-al)中、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上、より更に好ましくは98モル%以上であり、そして、100モル%以下である。
成分(a-al)は、本発明の効果を損なわない範囲で、BPA-AO及び炭素数2以上6以下の脂肪族ジオールとは異なる他のアルコール成分を含有していてもよい。他のアルコール成分としては、例えば、炭素数2以上6以下の脂肪族ジオール以外の脂肪族ジオール、BPA-AO以外の芳香族ジオール、脂環式ジオール、3価以上の多価アルコール等が挙げられる。
これらアルコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、得られるポリエステルの分子量や軟化点を調整する観点から、成分(a-al)には1価のアルコールが、適宜含有されていてもよい。
【0031】
〔カルボン酸成分(a-ac)〕
カルボン酸成分(a-ac)(以下、「成分(a-ac)」ともいう)が含有するカルボン酸成分としては、例えば、ジカルボン酸、3価以上の多価カルボン酸、並びにそれらの無水物及び炭素数1以上3以下のアルキルエステル等の誘導体が挙げられる。
ジカルボン酸としては、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、及び脂環式ジカルボン酸等が挙げられ、芳香族ジカルボン酸及び脂肪族ジカルボン酸からなる群より選ばれる1種以上が好ましい。
ジカルボン酸の炭素数は、好ましくは2以上、より好ましくは3以上であり、そして、好ましくは30以下、より好ましくは20以下である。
芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等が挙げられ、イソフタル酸、テレフタル酸が好ましく、テレフタル酸がより好ましい。
脂肪族ジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、1,5-ペンタン二酸、1,12-ドデカン二酸、アゼライン酸、炭素数1以上20以下のアルキル基又は炭素数2以上20以下のアルケニル基で置換されたコハク酸(以下、「アルケニルコハク酸」ともいう)等が挙げられ、フマル酸、並びに炭素数1以上20以下のアルキル基又は炭素数2以上20以下のアルケニル基で置換されたコハク酸からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、フマル酸、並びに炭素数1以上20以下のアルキル基又は炭素数2以上20以下のアルケニル基で置換されたコハク酸からなる群より選ばれる2種以上の混合物であることがより好ましい。
【0032】
前記アルケニルコハク酸が有するアルキル基又はアルケニル基の炭素数は、好ましくは8以上、より好ましくは9以上であり、そして、好ましくは16以下、より好ましくは14以下である。また、それらのアルキル基又はアルケニル基は、直鎖であっても分岐鎖であってもよい。前記アルケニルコハク酸の例としては、好ましくはオクテニルコハク酸、ノネニルコハク酸、デセニルコハク酸、ウンデセニルコハク酸、ドデシルコハク酸、ドデセニルコハク酸、トリデセニルコハク酸、テトラデセニルコハク酸、テトラプロペニルコハク酸等が挙げられる。
【0033】
成分(a-ac)としては、前記ジカルボン酸の中でも、芳香族ジカルボン酸を含むことが好ましく、テレフタル酸を含むことがより好ましい。
芳香族ジカルボン酸の含有量は、低温定着性、保存安定性、及び耐キャリア汚染性の各特性のバランスにより優れるトナーを得る観点から、成分(a-ac)中、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上、更に好ましくは65モル%以上、より更に好ましくは70モル%以上であり、そして、100モル%以下、好ましくは98モル%以下、より好ましくは95モル%以下、更に好ましくは90モル%以下、より更に好ましくは85モル%以下である。
また、成分(a-ac)がアルケニルコハク酸を含有する場合、その含有量は、成分(a-ac)中、好ましくは3モル%以上、より好ましくは5モル%以上、更に好ましくは7モル%以上であり、そして、好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下、更に好ましくは15モル%以下、より更に好ましくは10モル%以下である。
【0034】
3価以上の多価カルボン酸としては、例えば、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、ピロメリット酸が挙げられる。これらの中でも、トリメリット酸を含むことが好ましい。
成分(a-ac)が3価以上の多価カルボン酸を含有する場合、その含有量は、成分(a-ac)中、好ましくは3モル%以上、より好ましくは5モル%以上、更に好ましくは10モル%以上であり、そして、好ましくは50モル%以下、より好ましくは40モル%以下、更に好ましくは30モル%以下、より更に好ましくは20モル%以下である。
これらのカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。なお、得られるポリエステルの分子量や軟化点を調整する観点から、成分(a-ac)には1価のカルボン酸が、適宜含有されていてもよい。
成分(a-al)のヒドロキシ基(OH基)に対する成分(a-ac)のカルボキシ基(COOH基)の当量比〔COOH基/OH基〕は、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.8以上であり、そして、好ましくは1.3以下、より好ましくは1.2以下、より更に好ましくは1.0以下である。
【0035】
(付加重合性モノマー成分(V))
樹脂(A)が樹脂(AH)である場合に用いることができる付加重合性モノマー成分(V)としては、低温定着性の観点から、少なくともスチレン系化合物を含むことが好ましく、少なくともスチレンを含むことがより好ましく、スチレン及び後述するアルキル(メタ)アクリレートを両方含むことが更に好ましい。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、樹脂(N)のその他化合物(d)の欄で前述したものと同様のものが挙げられる。それらの中でも、ビニル系樹脂セグメント(AH-2)にアルキル(メタ)アクリレートを導入してガラス転移温度をより低くすることによって低温定着性を向上させる観点から、2-エチルヘキシルアクリレート及び/又はブチルアクリレートが好ましく、2-エチルヘキシルアクリレートがより好ましい。
付加重合性モノマー成分(V)中、スチレン系化合物の含有量は、低温定着性の観点から、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上であり、そして、同様の観点から、好ましくは100質量%以下、より好ましくは95質量%以下、更に好ましくは90質量%以下である。
付加重合性モノマー成分(V)中、アルキル(メタ)アクリレートの含有量は、低温定着性の観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
【0036】
(両反応性モノマー)
樹脂(AH)は、更に、両反応性モノマー由来の構成単位を含むことが好ましい。「両反応性モノマー由来の構成単位」とは、両反応性モノマーの官能基、付加重合性基が反応した単位を意味する。
両反応性モノマーとは、例えば、分子内に、ポリエステルセグメント(AH-1)との反応に用いられる前記官能基と、ビニル系樹脂セグメント(AH-2)との反応に用いられる前記付加重合性基とを有する化合物が挙げられる。
前記官能基としては、例えば、ポリエステルセグメント(AH-1)との反応に用いられる水酸基、カルボキシ基、エポキシ基、第1級アミノ基及び第2級アミノ基から選ばれる1種以上の官能基、好ましくは水酸基及び/又はカルボキシ基、より好ましくはカルボキシ基が挙げられる。
前記付加重合性基としては、例えば、ビニル系樹脂セグメント(AH-2)との反応に用いられるエチレン性不飽和結合等の炭素-炭素不飽和結合が挙げられる。
【0037】
両反応性モノマーとしては、低温定着性、保存性及び耐キャリア汚染性をより向上させる観点から、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸及び無水マレイン酸から選ばれる1種以上が好ましく、アクリル酸、メタクリル酸及びフマル酸から選ばれる1種以上がより好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる1種以上が更に好ましく、アクリル酸がより更に好ましい。
ただし、フマル酸やマレイン酸等のカルボキシ基を2以上有する多価カルボン酸の場合であって、該カルボン酸がポリエステルセグメント(AH-1)を構成する成分として用いられる場合、前記フマル酸等は両反応性モノマーではなく、ポリエステルセグメント(AH-1)の原料成分である。
両反応性モノマーの含有量は、低温定着性、保存性及び耐キャリア汚染性をより向上させる観点から、成分(a-al)100モル部に対して、好ましくは1モル部以上、より好ましくは2モル部以上、更に好ましくは3モル部以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは30モル部以下、より好ましくは20モル部以下、更に好ましくは10モル部以下、より更に好ましくは5モル部以下である。
また、樹脂(A)の原料成分は、本発明の効果を損なわない範囲で、前述の各原料成分と共に、アミノ基を有する化合物以外の異種官能基を1分子内に有するモノマーなど、例えば、乳酸等のその他の原料成分を含んでいてもよい。
【0038】
樹脂(AH)中、ポリエステルセグメント(AH-1)とビニル系樹脂セグメント(AH-2)との質量比〔セグメント(AH-1)/セグメント(AH-2)〕は、低温定着性及び保存性の観点から、好ましくは60/40以上、より好ましくは70/30以上、更に好ましくは75/25以上であり、そして、好ましくは95/5以下、より好ましくは90/10以下、更に好ましくは85/15以下である。
なお、前記質量比〔セグメント(AH-1)/セグメント(AH-2)〕の計算において、ポリエステルセグメント(AH-1)の質量は、ポリエステルセグメント(AH-1)の原料成分の合計量から、縮合反応時の脱水量を除去した値を用い、また、ビニル系樹脂セグメント(AH-2)の質量は、ビニル系樹脂セグメント(AH-2)の付加重合性モノマー成分(V)及び重合開始剤の合計量を用いる。また、必要により用いられる両反応性モノマーは、ポリエステルセグメント(AH-1)の質量として算出される。後述する樹脂(CH)中のポリエステルセグメント(CH-1)とビニル系樹脂セグメント(CH-2)との質量比〔セグメント(CH-1)/セグメント(CH-2)〕も同様の方法を用いて算出される。
【0039】
樹脂(A)の軟化点は、保存安定性の観点から、好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上、更に好ましくは100℃以上、より更に好ましくは110℃以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは160℃以下、より好ましくは150℃以下、更に好ましくは140℃以下、より更に好ましくは130℃以下である。
樹脂(A)のガラス転移温度は、保存安定性の観点から、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上、更に好ましくは55℃以上、より更に好ましくは60℃以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下、更に好ましくは75℃以下、より更に好ましくは70℃以下である。
樹脂(A)の酸価は、樹脂(N)との相互作用の観点、並びに低温定着性、保存安定性、及び耐キャリア汚染性の各特性のバランスにより優れるトナーを得やすくする観点から、好ましくは2mgKOH/g以上、より好ましくは5mgKOH/g以上、更に好ましくは10mgKOH/g以上、より更に好ましくは15mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは40mgKOH/g以下、より好ましくは30mgKOH/g以下、更に好ましくは25mgKOH/g以下である。
樹脂(A)の軟化点、ガラス転移温度、及び酸価は、原料成分の種類及びその比率、並びに反応温度、反応時間、冷却速度等の製造条件により適宜調整することができる。それらの値は、後述の実施例に記載の方法により求められる。
【0040】
樹脂(A)が非晶性ポリエステルの場合、樹脂(A)は成分(a-al)と成分(a-ac)とを重縮合させることで得られる。その重縮合は、必要に応じて、エステル化触媒、エステル化助触媒、重合禁止剤等の存在下で行ってもよい。
エステル化触媒としては、例えば、酸化ジブチル錫、ジ(2-エチルヘキサン酸)錫(II)等の錫触媒;チタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート等のチタン化合物等のチタン触媒;が挙げられ、反応性、樹脂(A)の分子量及び物性調整の観点から、ジ(2-エチルヘキサン酸)錫(II)等のSn-C結合を有していない錫(II)化合物が好ましい。エステル化触媒を用いる場合、その量は、前記と同様の観点から、成分(a-al)と成分(a-ac)との合計100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上であり、そして、好ましくは1.5質量部以下である。
エステル化助触媒としては、例えば、ピロガロール化合物が挙げられ、その中でも、没食子酸が好ましい。エステル化助触媒を用いる場合、その量は、反応性、樹脂(A)の分子量及び物性調整の観点から、成分(a-al)と成分(a-ac)との合計100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.03質量部以上であり、そして、好ましくは0.2質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下である。
【0041】
樹脂(A)が、樹脂(AH)の場合、例えば、次の(1)~(3)のいずれかの方法により製造することができる。なお、両反応性モノマーは、反応性の観点から、ビニル系樹脂セグメント(AH-2)の原料成分である付加重合性モノマー成分(V)と共に反応系に供給されることが好ましい。また、同様の観点から、エステル化触媒、エステル化助触媒等の触媒を用いてもよく、更に、重合開始剤及び重合禁止剤を用いてもよい。
(1)ポリエステルセグメント(AH-1)の原料成分である成分(a-al)及び成分(a-ac)による重縮合反応の工程(X)の後に、ビニル系樹脂セグメント(AH-2)の原料成分である付加重合性モノマー成分(V)及び必要に応じて両反応性モノマーによる付加重合反応の工程(Y)を行う方法。
(2)ビニル系樹脂セグメント(AH-2)の原料成分である付加重合性モノマー成分(V)及び両反応性モノマーによる付加重合反応の工程(Y)の後に、ポリエステルセグメント(AH-1)の原料成分である成分(a-al)及び成分(a-ac)による重縮合反応の工程(X)を行う方法。
(3)ポリエステルセグメント(AH-1)の原料成分である成分(a-al)及び成分(a-ac)による重縮合反応の工程(X)と、ビニル系樹脂セグメント(AH-2)の原料成分である付加重合性モノマー成分(V)及び両反応性モノマーによる付加重合反応の工程(Y)とが並行して進行する条件で反応を行う方法。
樹脂(A)の原料成分を反応させる際の温度は、好ましくは120℃以上、より好ましくは140℃以上、更に好ましくは160℃以上であり、そして、好ましくは250℃以下、より好ましくは240℃以下、更に好ましくは230℃以下である。
【0042】
樹脂(A)における非晶性ポリエステル系樹脂の含有量は、低温定着性、保存安定性、及び耐キャリア汚染性の各特性のバランスにより優れるトナーを得やすくする観点から、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、そして、100質量%以下であり、そして好ましくは100質量%である。
【0043】
<結晶性樹脂(C)>
結晶性樹脂(C)は、前記樹脂(N)を除く、酸基を有する結晶性樹脂であり、好ましくは結晶性ポリエステル、結晶性ポリエステルセグメント(CH-1)及びビニル系樹脂セグメント(CH-2)を有する結晶性複合樹脂(CH)等の結晶性ポリエステル系樹脂であり、より好ましくは結晶性ポリエステルである。
結晶性ポリエステルは、アルコール成分(c-al)とカルボン酸成分(c-ac)との重縮合物である。
なお、樹脂(C)が「結晶性ポリエステル系樹脂」であるとは、変性されたポリエステル、例えば、結晶性ポリエステルがウレタン結合で変性されたウレタン変性ポリエステル、結晶性ポリエステルがエポキシ結合で変性されたエポキシ変性ポリエステル、及び樹脂(CH)を含んでいてもよいことを意味する。
【0044】
(アルコール成分(c-al))
アルコール成分(c-al)(以下、「成分(c-al)」ともいう)としては、低温定着性、保存安定性、及び耐キャリア汚染性の各特性のバランスにより優れるトナーを得やすくする観点から、α,ω-脂肪族ジオールを含有することが好ましい。
α,ω-脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,13-トリデカンジオール、1,14-テトラデカンジオール等が挙げられる。これらの中でも、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオールが好ましく、そして、前記と同様の観点から、1,12-ドデカンジオールがより好ましい。
α,ω-脂肪族ジオールの含有量は、成分(c-al)中、好ましくは80モル%以上、より好ましくは85モル%以上、更に好ましくは90モル%以上、より更に好ましくは95モル%以上であり、そして100モル%以下であり、より更に好ましくは100モル%である。
【0045】
成分(c-al)は、α,ω-脂肪族ジオールとは異なる他のアルコール成分を含有していてもよい。他のアルコール成分としては、例えば、α,ω-脂肪族ジオール以外の脂肪族ジオール、芳香族ジオールのアルキレンオキシド付加物、脂環式ジオール、3価以上の多価アルコール等が挙げられる。
これらアルコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、得られる樹脂(C)の分子量や軟化点を調整する観点から、成分(c-al)には1価のアルコールが、適宜含有されていてもよい。
【0046】
(カルボン酸成分(c-ac))
カルボン酸成分(c-ac)(以下、「成分(c-ac)」ともいう)としては、低温定着性、保存安定性、及び耐キャリア汚染性の各特性のバランスにより優れるトナーを得やすくする観点から、炭素数4以上14以下のα,ω-脂肪族ジカルボン酸を含有することが好ましく、同様の観点から、前記炭素数はより好ましくは8以上、更に好ましくは10以上、より更に好ましくは12以上である。また、α,ω-脂肪族ジカルボン酸は、直鎖脂肪族ジカルボン酸が好ましい。
炭素数4以上14以下のα,ω-脂肪族ジカルボン酸としては、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸等が挙げられる。これらの中では、前記と同様の観点から、フマル酸、セバシン酸、ドデカン二酸が好ましく、セバシン酸、ドデカン二酸がより好ましく、ドデカン二酸が更に好ましい。
炭素数4以上14以下のα,ω-脂肪族ジカルボン酸の含有量は、成分(c-ac)中、好ましくは85モル%以上、より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上であり、そして、100モル%以下である。
【0047】
成分(c-ac)は、本発明の効果を損なわない範囲で、炭素数4以上14以下のα,ω-脂肪族ジカルボン酸以外の他の脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、3価以上の多価カルボン酸を含有していてもよい。
炭素数4以上14以下のα,ω-脂肪族ジカルボン酸以外の他の脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸が挙げられる。
芳香族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、3価以上の多価カルボン酸の例は、成分(a-ac)が含有するカルボン酸成分に例示するものと同様である。それらの中でも、トリメリット酸を含むことが好ましい。
これらのカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。なお、得られる樹脂(C)の分子量や軟化点を調整する観点から、成分(c-ac)には1価のカルボン酸が、適宜含有されていてもよい。
樹脂(C)の成分(c-al)のヒドロキシ基(OH基)に対する成分(c-ac)のカルボキシ基(COOH基)の当量比〔COOH基/OH基〕は、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.8以上であり、そして、好ましくは1.3以下、より好ましくは1.2以下である。
【0048】
樹脂(C)における結晶性ポリエステル系樹脂の含有量は、低温定着性、保存安定性、及び耐キャリア汚染性の各特性のバランスにより優れるトナーを得やすくする観点から、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、そして、100質量%以下であり、そして好ましくは100質量%である。
【0049】
樹脂(C)の軟化点は、前記と同様の観点から、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上、更に好ましくは80℃以上であり、そして、好ましくは150℃以下、より好ましくは120℃以下、更に好ましくは100℃以下である。
樹脂(C)の融点は、前記と同様の観点から、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上、更に好ましくは75℃以上であり、そして、好ましくは130℃以下、より好ましくは120℃以下、更に好ましくは110℃以下である。
樹脂(C)のSP値は、前記と同様の観点から、好ましくは8.5以上、より好ましくは8.8以上、更に好ましくは9.0以上、より更に好ましくは9.3以下であり、そして、好ましくは11.0以下、より好ましくは10.5以下、更に好ましくは10.3以下、より更に好ましくは9.8以下、より更に好ましくは9.5以下である。なお、当該SP値の単位は、(cal/cm1/2で表される。
樹脂(C)の酸価は、樹脂(N)との相互作用の観点、並びに低温定着性、保存安定性、及び耐キャリア汚染性の各特性のバランスにより優れるトナーを得やすくする観点から、好ましくは10mgKOH/g以上、より好ましくは15mgKOH/g以上であり、更に好ましくは18mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは45mgKOH/g以下、より好ましくは40mgKOH/g以下、更に好ましくは30mgKOH/g以下、より更に好ましくは25mgKOH/g以下である。
樹脂(C)の軟化点、融点、SP値及び酸価は、原料成分の種類及びその比率、並びに反応温度、反応時間、冷却速度等の製造条件により適宜調整することができる。それらの値は、後述の実施例に記載の方法により求められる。
【0050】
樹脂(C)が結晶性ポリエステル系樹脂の場合、少なくとも成分(c-al)と成分(c-ac)とを重縮合させることで得られる。成分(c-al)と成分(c-ac)との重縮合は、必要に応じて、前述の付加重合性モノマー成分(V)、両反応性モノマー、成分(e)、エステル化触媒、エステル化助触媒、重合禁止剤等の存在下で行ってもよい。
付加重合性モノマー成分(V)、両反応性モノマー、成分(e)、エステル化触媒、エステル化助触媒、重合禁止剤の好適な態様、並びにその好適な量は、樹脂(A)の製造方法について前述したものと同様である。
樹脂(C)が樹脂(CH)の場合、その好適な製造方法は、樹脂(AH)の製造方法において、樹脂(AH)、ポリエステルセグメント(AH-1)、成分(a-al)、成分(a-ac)、ビニル系樹脂セグメント(AH-2)を、それぞれ、樹脂(CH)、結晶性ポリエステルセグメント(CH-1)、成分(c-al)、成分(c-ac)、ビニル系樹脂セグメント(CH-2)と置き換えたものと同様である。
【0051】
前記樹脂(A)と前記樹脂(C)との質量比〔(A)/(C)〕は、保存安定性及び耐キャリア汚染性に優れるトナーを得る観点から、好ましくは65/35以上、より好ましくは75/25以上、更に好ましくは85/15以上であり、そして、トナーの低温定着性の観点から、好ましくは95/5以下、より好ましくは94/6以下、更に好ましくは92/8以下である。
前記樹脂(N)、樹脂(A)及び樹脂(C)との合計含有量は、低温定着性、保存安定性、及び耐キャリア汚染性の各特性のバランスにより優れるトナーを得る観点から、前記結着樹脂100質量%中、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、そして、100質量%以下である。そして、前記樹脂(N)、樹脂(A)及び樹脂(C)との合計含有量は、前記結着樹脂100質量%中、より更に好ましくは100質量%である。
【0052】
[静電荷像現像用トナー]
本発明の静電荷像現像用トナーは、前述した本発明のトナー用結着樹脂を含有する。
<着色剤>
本発明の静電荷像現像用トナーは、着色剤を含有してもよく、着色剤としては、トナー用着色剤として用いられている染料、顔料等のいずれも使用することができる。着色剤の量は、トナーの画像濃度を向上させる観点から、結着樹脂全量100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上であり、そして、好ましくは40質量部以下、より好ましくは20質量部以下、更に好ましくは10質量部以下である。
<離型剤>
前記トナーは、離型剤を含有してもよく、離型剤としては、例えば、ポリオレフィンワックス;炭化水素系ワックス又はそれらの酸化物;エステル系ワックス;脂肪酸アミド類;脂肪酸類;高級アルコール類;脂肪酸金属塩;等のトナー用離型剤として用いられている離型剤を使用することができる。離型剤の量は、結着樹脂全量100質量部に対して、トナーの低温定着性と耐オフセット性の観点から、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは1.5質量部以上であり、そして、好ましくは10質量部以下、より好ましくは8質量部以下、更に好ましくは7質量部以下である。
<荷電制御剤>
前記トナーは、荷電制御剤を含有してもよく、トナー用荷電制御剤として用いられている正帯電性及び負帯電性のいずれの荷電制御剤を含有していてもよい。荷電制御剤の量は、トナーの帯電性の観点から、結着樹脂全量100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上、更に好ましくは0.5質量部以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、更に好ましくは3質量部以下、より更に好ましくは2質量部以下である。
<その他添加剤>
前記トナーは、その他添加剤として、更に、磁性粉、流動性向上剤、導電性調整剤、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、老化防止剤、クリーニング性向上剤等の添加剤を適宜含有してもよい。
なお、後述する外添剤を添加する前のトナーを「トナー粒子」とも称する。
<外添剤>
前記トナー粒子は、トナーとしてそのまま用いることもできるが、トナーの流動性を向上させるために、更に外添剤を用いて、前記トナー粒子の表面処理を行うことが好ましい。該外添剤としては、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化スズ、酸化亜鉛等の無機微粒子や、メラミン系樹脂微粒子、ポリテトラフルオロエチレン樹脂微粒子等の樹脂粒子等の有機微粒子が挙げられる。前記トナーは、これらの外添剤を単独で又は2種以上を含有していてもよい。これらの外添剤の中では、シリカが好ましく、疎水化処理された疎水性シリカであることがより好ましい。
外添剤を用いる場合、その量は、トナーの帯電性や流動性の観点から、トナー粒子100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上、更に好ましくは0.5質量部以上であり、そして、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下、更に好ましくは2質量部以下である。
【0053】
前記トナー粒子の体積中位粒径(D50)は、好ましくは2μm以上、より好ましくは3μm以上、更に好ましくは4μm以上であり、そして、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下、更に好ましくは10μm以下である。
また、トナーを前記外添剤で処理している場合にも、外添剤で処理したトナーの体積中位粒径(D50)の好適範囲は、前記外添剤で処理する前のトナー粒子の体積中位粒径(D50)と同様である。
【0054】
[静電荷像現像用トナーの製造方法]
前記静電荷像現像用トナーは、粉砕トナーであっても、乳化凝集トナーであってもよく、溶融混練粉砕法、乳化転送法、重合法、凝集融着法等、従来公知のいずれの方法により得られた静電荷像現像用トナーであってもよい。これらの中では、トナーの生産性を向上させる観点、並びに得られるトナーの低温定着性、保存安定性及び耐キャリア汚染性をより向上させる観点から、溶融混練粉砕法が好ましい。
前記のいずれの方法でトナーを製造する場合においても、結着樹脂及びその原料、並びに着色剤、離型剤、荷電制御剤等の各添加剤は、本発明のトナー用結着樹脂及び静電荷像現像用トナーについて前述したものと同様のものが挙げられ、それらの好適な態様及び量も同様である。
前記のいずれの方法でトナーを製造する場合においても、結着樹脂の量は、得られるトナーが含有する原料の合計量(固形分換算)100質量%中、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、より更に好ましくは85質量%以上、より更に好ましくは90質量%以上であり、そして、100質量%以下、好ましくは99質量%以下である。
【0055】
前記溶融混練粉砕法としては、好ましくは下記工程1-1及び1-2を含む。
工程1-1:本発明の結着樹脂を含むトナー用原料混合物を溶融混練する工程
工程1-2:工程1-1で得られた溶融混練物を粉砕し、分級する工程
<工程1-1>
工程1-1では、本発明の結着樹脂を含むトナー用原料混合物を溶融混練する。工程1-1では、本発明の結着樹脂に、更に、着色剤、離型剤、荷電制御剤等の添加剤を含むトナー用原料混合物を溶融混練することが好ましい。
溶融混練は、着色剤等の結着樹脂中での分散性を向上させる観点から、二軸押出機又は連続式オープンロール型混練機で行うのが好ましく、二軸押出機で行うのがより好ましい。前記混練機に供給する結着樹脂を含むトナー用原料混合物は、予めヘンシェルミキサー等を用いて均一に混合しておくのが好ましい。
工程1-1で得られた溶融混練物を、粉砕が可能な程度に冷却した後、続く工程1-2に供する。
<工程1-2>
工程1-2では、工程1-1で得られた溶融混練物を粉砕し、分級する。
粉砕工程は、多段階に分けて行ってもよい。例えば、溶融混練物を硬化させて得られた樹脂混練物を、1~5mmに粗粉砕した後、更に所望の粒径に微粉砕してもよい。
粉砕工程に用いられる粉砕機は特に限定されないが、例えば、粉砕効率の観点から、ジェットミルが好ましい。
粉砕物は、更に分級し、所望の粒径に調整することが好ましい。分級工程の際、粉砕が不十分で除去された粉砕物は再度粉砕工程に供してもよく、必要に応じて粉砕工程と分級工程を繰り返してもよい。
【0056】
<外添剤による表面処理>
トナーの流動性を向上させるため、工程1-1及び工程1-2を経て得られたトナー粒子を更に外添剤を用いて処理してもよい。該処理方法は特に限定されないが、トナー粒子と外添剤とを、回転羽根等の攪拌具を備えた混合機を用いて処理することが好ましく、好ましくはヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等の高速混合機、より好ましくはヘンシェルミキサーを用いて混合する方法が挙げられる。
該トナー粒子及び該外添剤は、本発明の静電荷像現像用トナーについて前述したものと同様のものが挙げられ、トナー粒子及び外添剤の好適な態様及び添加量も同様である。
【0057】
本発明の静電荷像現像用トナーは、一成分現像用トナーとして、又はキャリアと混合して用いられる二成分現像剤として、それぞれ一成分現像方式又は二成分現像方式の画像形成装置に用いることができる。
【実施例
【0058】
原料等の各性状等については、次の方法により、測定、評価した。
【0059】
[樹脂の軟化点]
フローテスター「CFT-500D」(株式会社島津製作所製)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出した。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とした。
【0060】
[樹脂の結晶性指数、及び融点]
示差走査熱量計「Q100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製)を用いて、試料0.01~0.02gをアルミパンに計量し、室温(20℃)から降温速度10℃/minで0℃まで冷却した。次いで試料をそのまま1分間静止させ、その後、昇温速度10℃/minで180℃まで昇温し熱量を測定した。観測される吸熱ピークのうち、ピーク面積が最大のピークの温度を吸熱の最大ピーク温度(1)とした。
そして、(軟化点(℃))/(吸熱の最大ピーク温度(1)(℃))により、結晶性指数を求めた。
結晶性性指数により結晶性樹脂と判断された樹脂においては、吸熱の最大ピーク温度(1)を融点とした。
【0061】
[樹脂のガラス転移温度]
結晶性指数により非晶性樹脂と判断された樹脂のガラス転移温度を、次に示す方法により測定した。示差走査熱量計「DSC210」(セイコーインスツル株式会社製)を用いて、試料0.01~0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却した。次に試料を昇温速度10℃/分で昇温し、吸熱の最大ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移温度とした。なお、当該ピークが観測されずに段差が観測される時は該段差部分の曲線の最大傾斜を示す接線と該段差の低温側のベースラインの延長線との交点の温度をガラス転移温度とした。
【0062】
[樹脂の酸価]
樹脂の酸価は、JIS K 0070-1992に記載の方法に基づき測定した。ただし、測定溶媒については、樹脂が非晶性である場合は、前記JIS規格で規定のエタノールとエーテルの混合溶媒を、アセトンとトルエンの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に変更して測定した。また、樹脂が結晶性である場合は、前記混合溶媒を、クロロホルムに変更して測定した。
【0063】
[結晶性樹脂(C)のSP値(Fedors SP)]
SP値は、Fedorsの溶解度パラメータであり、明細書中に記載の方法により算出される値を用いた。
【0064】
[樹脂(N)の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)]
以下の方法により、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により分子量分布を測定し、樹脂(N)の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)を求めた。
(1)試料溶液の調製
濃度が0.1g/100mLになるように、樹脂(N)をクロロホルムに溶解させた。ついで、この溶液をポアサイズ2μmのフッ素樹脂フィルター「FP-200」(住友電気工業株式会社製)を用いて濾過して不溶成分を除き、試料溶液とした。
(2)分子量測定
下記装置を用いて、溶離液としてクロロホルムを、毎分1mLの流速で流し、40℃の恒温槽中でカラムを安定化させた。そこに試料溶液100μlを注入して測定を行った。試料の分子量は、予め作製した検量線に基づき算出した。このときの検量線には、数種類の分子量が既知の単分散ポリスチレン(東ソー株式会社製;2.63×103、2.06×104、1.02×105、ジーエルサイエンス株式会社製;2.10×103、7.00×103、5.04×104)を標準試料として作成したものを用いた。
測定装置:「CO-8010」(東ソー株式会社製)
分析カラム:「Shodex(登録商標)GPC K-804L」(昭和電工株式会社製)2本を直列で連結したものを用いた。
【0065】
[離型剤の融点]
示差走査熱量計「Q100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製)を用いて、試料0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温した後、200℃から降温速度10℃/分で0℃まで冷却した。次いで、試料を昇温速度10℃/分で昇温し、熱量を測定し、吸熱の最大ピーク温度を融点とした。
【0066】
[トナー粒子の体積中位粒径(D50)]
トナー粒子の体積中位粒径(D50)は、次のとおり測定した。
・測定装置:「コールターマルチサイザー(登録商標)III」(ベックマン・コールター株式会社製)
・アパチャー径:50μm
・解析ソフト:「コールターマルチサイザー(登録商標)IIIバージョン3.51」(ベックマン・コールター株式会社製)
・電解液:「アイソトン(登録商標)II」(ベックマン・コールター株式会社製)
・分散液:「エマルゲン(登録商標)109P」〔ポリオキシエチレンラウリルエーテル、花王株式会社製、HLB(Hydrophile-LipophileBalance、グリフィン法)=13.6〕を前記電解液に溶解し、濃度5質量%の分散液を得た。
・分散条件:前記分散液5mLに測定試料10mgを添加し、超音波分散機にて1分間分散させ、その後、電解液25mLを添加し、更に、超音波分散機にて1分間分散させて、試料分散液を調製した。
・測定条件:ビーカー内で、前記試料分散液を、前記電解液100mLに加えることにより、3万個の粒子の粒径を20秒間で測定できる濃度に調整した後、3万個の粒子を測定し、得られた粒度分布から体積中位粒径(D50)を求めた。
【0067】
[樹脂の製造]
製造例A1~A3(非晶性ポリエステルA-1~A-3の製造)
表1に示す非晶性ポリエステルの原料成分のうち、無水トリメリット酸及びフマル酸以外のカルボン酸成分、アルコール成分、並びに、エステル化触媒及び助触媒を、温度計、ステンレス製撹拌棒、流下式コンデンサーを備えた脱水管及び窒素導入管を装備した内容積10リットルの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、180℃まで昇温した後、210℃まで5時間かけて昇温を行った。その後、無水トリメリット酸及び必要に応じてフマル酸(フマル酸は製造例A2及びA3で使用。)を投入し、220℃まで昇温し、8.0kPaの減圧下にて、下記表1に示す軟化点に達するまで反応を行い、非晶性樹脂(A)として各非晶性ポリエステル(樹脂A-1~A-3)を得た。
【0068】
製造例A4(非晶性複合樹脂A-4の製造)
表1に示すポリエステル系樹脂セグメントの原料成分のうち、フマル酸及び無水トリメリット酸以外の原料成分を、温度計、ステンレス製攪拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した10リットルの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、160℃まで昇温した。そこに、ビニル系樹脂セグメントの原料モノマー(V)、両反応性モノマーとしてのアクリル酸及びラジカル重合開始剤としてのジ-tert-ブチルパーオキサイドを混合したものを滴下し、重合を行った後、エステル化触媒を添加し、220℃まで7時間かけて昇温を行い、220℃にて4時間反応させた。その後、フマル酸及び無水トリメリット酸を投入し、220℃、8.0kPaの減圧下にて表1に示す軟化点に達するまで反応を行い、非晶性樹脂(A)として非晶性複合樹脂(樹脂A―4)を得た。
【0069】
【表1】
【0070】
製造例C1~C4(結晶性ポリエステルC-1~C-4の製造)
表2に示すアルコール成分、カルボン酸成分及びエステル化触媒を、温度計、ステンレス製撹拌棒、流下式コンデンサーを備えた脱水管及び窒素導入管を装備した内容積10リットルの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、140℃まで昇温した後、200℃まで8時間かけて昇温を行った。その後、8.0kPaの減圧下にて表2に示す軟化点に達するまで反応を行い、結晶性樹脂(C)として各結晶性ポリエステル(樹脂C-1~C-4)を得た。
【0071】
製造例C5~C7(結晶性ポリエステルC-5~C-7の製造)
表2に示すアルコール成分、カルボン酸成分及びエステル化触媒を、温度計、ステンレス製撹拌棒、流下式コンデンサーを備えた脱水管及び窒素導入管を装備した10リットルの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、140℃まで昇温した後、200℃まで8時間かけて昇温を行った。その後、無水トリメリット酸を入れ、30分後、8.0kPaの減圧下にて表2に示す軟化点に達するまで反応を行い、結晶性樹脂(C)として各結晶性ポリエステル(樹脂C-5~C-7)を得た。
【0072】
【表2】
【0073】
製造例N1~N4(樹脂N-1~N-4の製造)
溶媒(メチルエチルケトン)500gを、冷却管、窒素導入管、撹拌機及び熱電対を装備した内容積2リットルの四つ口フラスコに入れ、窒素ガスで当該反応容器内を置換した。反応容器内を80℃に加温して、表3に示す原料成分(P)と重合開始剤の混合物を2時間かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、80℃で、更に3時間反応させた。80℃で溶媒を留去し、樹脂(N)として表3に示す樹脂物性を有する各樹脂N-1~N-4を得た。
【0074】
【表3】
【0075】
[トナーの製造]
実施例1(トナー1の製造)
非晶性ポリエステルA-1 90質量部、結晶性ポリエステルC-1 10質量部、樹脂N-1 2質量部、着色剤「Pigment blue 15:3」(大日精化工業株式会社製)4質量部、負帯電性荷電制御剤「ボントロン(登録商標) E-81」(オリヱント化学工業株式会社製)0.85質量部、及び離型剤「三井ハイワックス NP056」(ポリプロピレンワックス、三井化学株式会社製、融点124℃)2質量部をヘンシェルミキサーで10分間混合して、トナー用結着樹脂を含有する原料混合物を得た。得られた原料混合物を、同方向回転二軸押出機を用い、スクリュー回転速度200r/min、バレル設定温度100℃で溶融混練し、溶融混練物を得た。得られた溶融混練物を冷却、粗粉砕した後、ジェットミルにて粉砕し、分級して、体積中位粒径(D50)が8μmのトナー粒子を得た。
得られたトナー粒子100質量部に、疎水性シリカ「NAX-50」(日本アエロジル株式会社製、疎水化処理剤:ヘキサメチルジシラザン、体積平均粒子径:30nm)1.0質量部を添加し、ヘンシェルミキサーで混合することにより、トナー1を得た。
得られたトナー1を、後述する方法により評価した。
【0076】
実施例2~6、参考例7、実施例8~14、参考例15、及び実施例16~17(トナー2~17の製造)
樹脂(N)、非晶性樹脂(A)及び結晶性樹脂(C)の種類又はそれらの添加量を、それぞれ、表4又は5に示す通りに変更したこと以外は、実施例1と同様にしてトナー2~17を得た。得られた各トナーを、それぞれ、後述する方法により評価した。
【0077】
比較例1(トナー18の製造)
実施例1において、樹脂(N)を含まないこと以外は、実施例1と同様にしてトナー18を得た。得られたトナー18を、後述する方法により評価した。
【0078】
[トナーの評価]
<低温定着性>
複写機「AR-505」(シャープ株式会社製)の定着機を装置外での定着が可能なように改良した装置にトナーを実装し、シャープ株式会社製の紙「CopyBondSF-70NA(75g/m)」上に、未定着の状態で印刷物を得た(印字面積:3cm×4cm、付着量:0.45mg/cm)。その後、総定着圧が40kgfになるように調整した定着機(定着速度390mm/秒)を用い、定着ローラーの温度を100℃から200℃へと5℃ずつ順次上昇させながら、各温度で前記未定着状態の印刷物の定着試験を行った。定着した印刷物の画像にセロハン粘着テープ「ユニセフセロハン」(三菱鉛筆株式会社製、幅:18mm、JIS Z1522)を貼り付け、30℃に設定した定着ローラーに通過させた後、前記セロハン粘着テープを剥がした。前記セロハン粘着テープを貼る前の画像部分の反射画像濃度と、セロハン粘着テープを剥がした後の画像部分の反射画像濃度とを反射濃度計「RD-915」(グレタグマクベス社製)を用いて測定し、両者の比率((テープ剥離後の反射画像濃度/テープ貼付前の反射画像濃度)×100)が最初に90%を越える定着ローラーの温度を最低定着温度とした。最低定着温度が低いほど、トナーの低温定着性が良好である。
【0079】
<保存安定性>
トナー4gを、温度50℃、相対湿度60%の環境下で72時間放置した。放置後、トナー凝集の発生程度を目視にて観察し、以下の評価基準にしたがって、トナーの保存安定性を評価した。
<評価基準>
A:72時間後も凝集は全く認められない。
B:48時間後に凝集は認められないが72時間後ではわずかに凝集が認められる。
C:24時間後に凝集は認められないが48時間後ではわずかに凝集が認められる。
D:24時間以内で既に凝集が認められる。
【0080】
<耐キャリア汚染性>
トナー3重量部と平均粒子径90μmのシリコンコートフェライトキャリア(関東電化工業株式会社製)97重量部とを混合して得られた現像剤を複写機「プリテール50」(リコー株式会社製、商品名)に実装し、印字率5%の画像を2時間連続で印刷した後、トナーを取り出して得られた混合物を目開き32μmの篩を用いてトナー部分を吸引し、キャリア部分だけにした。得られたキャリアの炭素量を炭素分析装置「EMIA-110」(株式会社堀場製作所製、商品名)を用いて測定し、予めトナーと混合する前に測定しておいたキャリアの炭素量との差を求め、以下の評価基準に基づいて耐キャリア汚染性として評価した。即ち、炭素量の差が大きいほど、キャリアに多量のトナーが付着していると判断できる。なお、スコア3以上が実用上許容される範囲である。
5:0.15以下
4:0.15を超え、0.2未満
3:0.2を超え、0.25未満
2:0.25を超え、0.3未満
1:0.3以上
【0081】
【表4】
【0082】
【表5】
【0083】
表4及び5に示すとおり、樹脂(N)、樹脂(A)、及び樹脂(C)を含有するトナー用結着樹脂を含有する静電荷像現像用トナー1~6、8~14、16、及び17(実施例1~6、8~14、16、及び17)は、低温定着性、保存安定性及び耐キャリア汚染性のバランスに優れていることがわかる。
それに対して、表5に示すとおり、樹脂(N)を含有しないトナー用結着樹脂を含有する静電荷像現像用トナー18(比較例1)は、特に、低温定着性及び耐キャリア汚染性が、実施例のトナー1~6、8~14、16、及び17と比べて著しく劣ることがわかる。