(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-14
(45)【発行日】2023-02-22
(54)【発明の名称】樹脂組成物、樹脂組成物を含むカード用樹脂シート、及び多層シート
(51)【国際特許分類】
C08L 67/00 20060101AFI20230215BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20230215BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20230215BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20230215BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20230215BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20230215BHJP
B32B 7/027 20190101ALI20230215BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20230215BHJP
【FI】
C08L67/00
C08L69/00
C08J5/18 CFD
B32B27/36 102
B32B27/20 A
B32B27/18 Z
B32B7/027
B32B27/00 G
(21)【出願番号】P 2018546362
(86)(22)【出願日】2017-10-17
(86)【国際出願番号】 JP2017037580
(87)【国際公開番号】W WO2018074480
(87)【国際公開日】2018-04-26
【審査請求日】2020-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2016204712
(32)【優先日】2016-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597003516
【氏名又は名称】MGCフィルシート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100156476
【氏名又は名称】潮 太朗
(72)【発明者】
【氏名】武田 聖英
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】造田 敬一
(72)【発明者】
【氏名】浅野 淳也
【審査官】飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-287804(JP,A)
【文献】特開2007-326938(JP,A)
【文献】特開2011-219763(JP,A)
【文献】特開2007-131679(JP,A)
【文献】特表2010-531365(JP,A)
【文献】特開2015-083621(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/00
C08L 69/00
C08J 5/18
B32B 27/36
B32B 27/20
B32B 27/18
B32B 7/027
B32B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3質量%以上7質量%以下の脂肪族ポリエステル化合物、及び93質量%以上97質量%以下のポリカーボネート樹脂を含有する樹脂組成物であって、
前記脂肪族ポリエステル化合物がポリカプロラクトンであり、
前記ポリカーボネート樹脂がビスフェノールA骨格を有する芳香族ポリカーボネート樹脂であり、
前記樹脂組成物が、レーザー発色剤をさらに含有し、
前記レーザー発色剤が、少なくともカーボンブラックを含み、
前記カーボンブラックの含有量は、前記樹脂組成物全体の質量を基準として、1~100質量ppm(0.0001~0.01質量%)である樹脂組成物。
【請求項2】
レーザーマーキング性を有する、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
ガラス転移温度が、100~135℃である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記脂肪族ポリエステル
化合物が、構成モノマーがε-カプロラクトンのみであるポリカプロラクトンである、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
樹脂組成物全体の質量を基準として、3質量%以上5質量%以下の前記脂肪族ポリエステル化合物を含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記脂肪族ポリエステル化合物の重量平均分子量が、10000~90000である、請求項1~5のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
樹脂組成物全体の質量を基準として、95質量%以上の前記ポリカーボネート樹脂を含有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記カーボンブラックの含有量は、前記樹脂組成物全体の質量を基準として、5~35質量ppmである、請求項1~7のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記レーザー発色剤が、金属酸化物の粒子をさらに含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記金属酸化物が、下記一般式(I)で表される請求項9に記載の樹脂組成物。
Bi(1-x)MxOy・・・(I)
(式(I)中、Mはガドリウム、及びネオジムから選択される少なくとも1つの金属であり、xは、0.001<x<0.5の関係を満たす値であり、yは、1<y<2.5の関係を満たす値である。)
【請求項11】
前記樹脂組成物が、前記樹脂組成物の質量を基準として0.0001~0.2質量%の前記レーザー発色剤を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含む層を有する、カード用樹脂シート。
【請求項13】
埋め込みアンテナ・チップを有する、請求項12に記載のカード用樹脂シート。
【請求項14】
レーザーマーキングカード用である、請求項12又は13に記載のカード用樹脂シート。
【請求項15】
二枚以上の積層された樹脂シートを有する多層シートであって、その少なくとも一層が、請求項1~11のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含む、多層シート。
【請求項16】
前記多層シートが、PET-G、ポリカーボネート、PCT-G、PCT、及びこれらの少なくとも2種類の混合物からなる群から選択されるいずれか一つを含む樹脂シートをさらに有する、請求項15に記載の多層シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い耐久性、及び耐熱性を有するとともに、加工が容易である樹脂組成物、それを用いて製造されたカード用樹脂シート、及び多層シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、IDカード、e-パスポート、及び非接触型ICカード等において、樹脂フィルムが使用されている。このような樹脂フィルムの材料として、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)、及びポリエチレンテレフタレート系のPET-G等を用いることが知られている。
【0003】
また、各種カード用の樹脂組成物として、ポリエステル樹脂組成物を用いることも知られている(特許文献1参照)。特許文献1においては、PETを主な成分としたポリエステル樹脂と、芳香族ポリカーボネート樹脂とを含むポリエステル樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カード用の樹脂組成物として、PVC、及びPET-G等を用いた場合、これらの樹脂の耐久性、及び耐熱性が必ずしも十分ではないため、カードの機械的強度が問題となり得る。
【0006】
また、特許文献1においては、上述のポリエステル樹脂組成物が、耐熱性、及び耐衝撃性等に優れていることが記載されている。しかしながら、このようなポリエステル樹脂組成物は、透明性に劣り、印刷部の解像度を低下させてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上述の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ポリカーボネートを含む所定の樹脂組成物が、高い耐久性、及び耐熱性を有するとともに、透明性を保ちつつ加工容易性にも優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下に示す樹脂組成物、ポリカーボネート樹脂組成物を用いて形成されたカード用樹脂シート、及び多層シートに関する。
【0008】
(1)2質量%以上9質量%未満の脂肪族ポリエステル化合物、及びポリカーボネート樹脂を含有する樹脂組成物。
(2)レーザーマーキング性を有する、上記(1)に記載の樹脂組成物。
(3)ガラス転移温度が、100~135℃である、上記(1)に記載の樹脂組成物。
(4)前記脂肪族ポリエステル化合物が、構成モノマーとして少なくともラクトン化合物を含む、上記(1)~(3)のいずれかに記載の樹脂組成物。
(5)前記ラクトン化合物が、ε-ポリカプロラクトンを含む、上記(4)に記載の樹脂組成物。
(6)前記ラクトン化合物が、主要構成モノマーがε-カプロラクトンであるポリカプロラクトンを含む、上記(5)に記載の樹脂組成物。
(7)樹脂組成物全体の質量を基準として、3質量%以上5質量%以下の脂肪族ポリエステル化合物を含有する、上記(1)~(6)のいずれかに記載の樹脂組成物。
(8)前記脂肪族ポリエステル化合物の重量平均分子量が、10000~90000である、上記(1)~(7)のいずれかに記載の樹脂組成物。
(9)樹脂組成物全体の質量を基準として、90質量%以上のポリカーボネート樹脂を含有する、上記(1)~(8)のいずれかに記載の樹脂組成物。
(10)前記樹脂組成物が、樹脂組成物全体の質量を基準として、10~30質量%の白色顔料をさらに含有するものである、上記(1)~(9)のいずれかに記載の樹脂組成物。
(11)前記樹脂組成物が、レーザー発色剤をさらに含有するものである、上記(1)~(10)のいずれかに記載の樹脂組成物。
(12)前記レーザー発色剤が、カーボンブラック、及び金属酸化物の粒子の少なくとも一方を含む、上記(11)に記載の樹脂組成物。
(13)前記金属酸化物が、下記一般式(I)で表される上記(12)に記載の樹脂組成物。
Bi(1-x)MxOy・・・(I)
(式(I)中、Mはガドリウム、及びネオジムから選択される少なくとも1つの金属であり、xは、0.001<x<0.5の関係を満たす値であり、yは、1<y<2.5の関係を満たす値である。)
(14)前記樹脂組成物が、前記樹脂組成物の質量を基準として0.0001~0.2質量%の前記レーザー発色剤を含む、上記(11)~(13)のいずれかに記載の樹脂組成物。
(15)上記(1)~(14)のいずれかに記載の樹脂組成物を含む層を有する、カード用樹脂シート。
(16)埋め込みアンテナ・チップを有する、上記(15)に記載のカード用樹脂シート。
(17)レーザーマーキングカード用である、上記(15)又は(16)に記載のカード用樹脂シート。
(18)二枚以上の積層された樹脂シートを有する多層シートであって、その少なくとも一層が、上記(1)~(14)のいずれかに記載の樹脂組成物を含む、多層シート。
(19)前記多層シートが、PET-G、ポリカーボネート、PCT-G、PCT、及びこれらの少なくとも2種類の混合物からなる群から選択されるいずれか一つを含む樹脂シートをさらに有する、上記(18)に記載の多層シート。
【発明の効果】
【0009】
本発明の樹脂組成物は、脂肪族ポリエステル化合物、及びポリカーボネート樹脂を含んでおり、シート状に加工した際にも割れにくく耐衝撃性に優れ、特に曲げ疲労に対して高い耐久性を有する。さらに、本発明の樹脂組成物は、耐熱性、及び透明性にも優れているとともに、加熱による加工も容易である。以上のように、優れた性質を有する本発明の樹脂組成物は、特に、カード用樹脂シート、及び多層シートの材料として好適に用いられるものであり、例えば、IDカード、e-パスポート、及び非接触型ICカード等の製造に適している。
【0010】
また、本発明の樹脂組成物は、他の樹脂により形成されたフィルム、特に、PET-Gフィルム等のポリエステル樹脂を主成分として形成されたフィルムとの接着性にも優れているため、これらのフィルムを含む積層体の製造にも適している。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】多層シート(IDカード)の具体例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、発明の効果を有する範囲において任意に変更して実施することができる。
【0013】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は、2質量%以上9質量%未満の脂肪族ポリエステル化合物、及びポリカーボネート樹脂を含む。脂肪族ポリエステル化合物、及びポリカーボネート樹脂の種類等については後述の通りであり、樹脂組成物における脂肪族ポリエステル化合物の含有量は、より好ましくは3質量%以上9質量%未満、さらに好ましくは3質量%以上7質量%以下、特に好ましくは3質量%以上5質量%以下である。
このように、本発明の樹脂組成物は、耐久性、及び耐熱性に優れ、高い透明性を有するポリカーボネート樹脂を主成分として含有するため、これらの優れた特徴を有する。さらに本発明の樹脂組成物は、詳細を後述する脂肪族ポリエステル化合物を所定量、含むことから、加工容易性にも優れている。
【0014】
本発明の樹脂組成物のガラス転移温度は、好ましくは100℃~135℃であり、より好ましくは105℃~130℃、さらに好ましくは110℃~128℃である。特に、樹脂組成物の加工容易性の観点からは、ガラス転移温度が128℃以下、好ましくは120℃以下である。
【0015】
<脂肪族ポリエステル化合物>
本発明の樹脂組成物に含まれる脂肪族ポリエステル化合物は、構成モノマーとして、ラクトン化合物を含むものである。脂肪族ポリエステル化合物は、構成モノマーとしては、上述の化合物のうちの複数の種類を含んでいても良く、いずれか一種類のみを含んでいても良い。
脂肪族ポリエステル化合物は、上述の化合物のうち、ラクトン化合物をモノマーとして含むことが好ましい。ここで、脂肪族ポリエステル化合物を構成する全モノマーのうち、ラクトン化合物を70モル%以上、使用することが好ましく、より好ましくは、ラクトン化合物を90モル%以上、使用する。
そして、脂肪族ポリエステル化合物のモノマーとしてのラクトン化合物は、ε-カプロラクトン、β-プロピオンラクトン、δ-バレロラクトン等を含むものである。脂肪族ポリエステル化合物のモノマーは、これらのラクトン化合物のうちの複数の種類を含んでいても良く、いずれか一種類のみを用いても良い。
【0016】
また、脂肪族ポリエステル化合物のモノマーとしての上述のラクトン化合物のうち、ε-カプロラクトンを用いることが好ましい。ここで、ラクトン化合物のうち、ε-カプロラクトンを70モル%以上、使用することが好ましく、より好ましくは、ε-カプロラクトンを90モル%以上、使用する。
このように脂肪族ポリエステル化合物は、主要構成モノマーがε-カプロラクトンであるポリカプロラクトンを含むことが好ましく、より好ましくは、脂肪族ポリエステル化合物として、モノマーがε-カプロラクトンのみであるポリカプロラクトンを用いる。なお、主要構成モノマーとは、構成モノマー全体の50モル%以上を占めるものである。
【0017】
脂肪族ポリエステル化合物の重量平均分子量は、10,000~90,000であることが好ましい。より好ましくは、脂肪族ポリエステル化合物の重量平均分子量は、10,000~60,000であり、特に好ましくは、10,000~40,000未満である。
【0018】
<ポリカーボネート樹脂>
本発明の樹脂組成物に含まれるポリカーボネート樹脂は、分子主鎖中に炭酸エステル結合を含む-[O-R-OCO]-単位(Rが脂肪族基、芳香族基、又は脂肪族基と芳香族基の双方を含むもの、さらに直鎖構造あるいは分岐構造を持つもの)を含むものであれば、特に限定されるものではないが、特に以下のポリカーボネートを使用することが好ましい。
すなわち、ビスフェノールA骨格を有するポリカーボネートである。
【0019】
ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量としては、20,000~60,000が好ましく、23,000~55,000がより好ましい。さらに好ましくは25,000~50,000である。
また、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度としては、120~160(℃)が好ましく、130~155(℃)がより好ましい。
上述の範囲内の重量平均分子量、又はガラス転移温度を有するポリカーボネート樹脂は、樹脂組成物の高い耐熱性、及び耐衝撃性の実現に貢献する。
【0020】
また、樹脂組成物は、樹脂組成物全体の質量を基準として、90質量%以上のポリカーボネート樹脂を含有することが好ましい。より好ましくは、樹脂組成物は、樹脂組成物全体の質量を基準として、脂肪族ポリエステル化合物の93質量%以上のポリカーボネート樹脂を含有し、特に好ましくは、95質量%以上のポリカーボネート樹脂を含有する。
【0021】
<白色顔料>
樹脂組成物は、白色顔料をさらに含有しても良い。このように白色顔料を含む樹脂組成物は、白色シート、例えば、IDカード等のアンテナを含むコア層を形成する白色シートの材料として、好適に使用される。白色顔料としては、酸化チタン、タルク、カオリン、クレー、マイカ等が使用され、好ましくは、酸化チタンが使用される。
【0022】
白色顔料の含有量は、樹脂組成物全体の質量を基準として、好ましくは10~30質量%であり、より好ましくは13~25質量%、さらに好ましくは15~20質量%である。
【0023】
<レーザー発色剤>
樹脂組成物は、レーザー発色剤をさらに含有しても良い。このようにレーザー発色剤を含む樹脂組成物は、例えば、改ざん防止が特に必要とされるカードにおいてマーキング処理による印字を可能にするレーザーマーキングシート(レーザーマーキング層)の材料として、好適に使用される。レーザー発色剤としては、カーボンブラック、アンチモンドープ酸化錫、ビスマス酸化物系発色剤等が使用され、好ましくは、カーボンブラックが使用される。
また、金属酸化物系のレーザー発色剤としては、ビスマス酸化物系発色剤が好ましく、金属成分としてビスマス以外にも、ネオジウム、又はガドリニウムを含むビスマス酸化物系発色剤がより好ましい。
例えば、レーザー発色剤である金属酸化物としては、下記式(I)で表されるものが好ましい。
Bi(1-x)MxOy・・・(I)
(式(I)中、Mはガドリウム、及びネオジムから選択される少なくとも1つの金属である。xは、0.001<x<0.5の関係を満たす値であり、好ましくは、0.01<x<0.3の関係を満たす値である。yは、1<y<2.5の関係を満たす値であり、好ましくは、1.5<y<2.1の関係を満たす値である。)
【0024】
レーザー発色剤の含有量は、樹脂組成物全体の質量を基準として、好ましくは0.0001~0.2質量%であり、より好ましくは0.0005~0.15質量%、さらに好ましくは0.001~0.1質量%である。
例えば、レーザー発色剤としてカーボンブラックが使用される場合、カーボンブラックの含有量は、樹脂組成物全体の質量を基準として、好ましくは1~100質量ppm(0.0001~0.01質量%)、より好ましくは40質量ppm未満、例えば5~35質量ppmである。また、上述の金属酸化物系の粒子がレーザー発色剤として使用される場合、レーザー発色剤の含有量は、例えば、樹脂組成物全体の質量を基準として、50~5000質量ppm(0.005~0.5質量%)、好ましくは80~3000質量ppm、より好ましくは100~2000質量ppmである。レーザー発色剤に関して、レーザーの波長である1064nmの光を透過させにくいことに加え、波長が500nm付近の光を特異的に通しにくい性質を持っているレーザー発色剤を使用することがレーザーマーキング性能に驚くべき効果をあたえる。例えば、上述のレーザー発色剤は、樹脂組成物にわずかな量のみが含まれていても、鮮明な印字を可能にするといった効果を実現できる。このような効果を実現するレーザー発色剤として、上述のカーボンブラック、及びビスマス酸化物を含むものが挙げられる。
【0025】
<樹脂組成物の添加物>
樹脂組成物は、上述の成分に加えて、以下の添加剤を含んでいても良い。すなわち、熱安定剤、酸化防止剤、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、離型剤及び着色剤から成る群から選択された少なくとも1種類の添加剤などである。
また、所望の諸物性を著しく損なわない限り、帯電防止剤、蛍光増白剤、防曇剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤等を添加してもよい。
【0026】
ただし、有機リン化合物、例えば、ホスファゼン難燃剤等については、樹脂組成物中に過剰に添加すると、樹脂組成物を用いて形成するシートの耐久性の低下を生じる可能性がある。このため、樹脂組成物における有機リン化合物の含有量を例えば2000質量ppm未満、リンの含有量を例えば100質量ppm未満に抑えることが好ましい。
【0027】
また、帯電防止剤として、有機スルホン酸ホスホニウム塩、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸ホスホニウム塩を含むものを樹脂組成物に添加すると、分子量が低いことからカード成形後の耐久性を著しく低下させてしまう可能性がある。従って、このように、カード用樹脂シートの性能に悪影響を与え得る添加剤の添加は回避することが好ましい場合がある。
さらに、ガラスフレーク等、又は、フェニル基含有シリコーンオイル等の液体の添加剤を樹脂組成物に添加した場合においても、カード成形後の耐久性の低下の問題が生じ得る。特に、ガラスフレークを添加すると、樹脂組成物の外観(透明性)の低下の問題も生じ得る。従って、これらの添加剤の使用も回避することが好ましい場合がある。
【0028】
[カード用樹脂シート]
本発明の樹脂組成物は、上述のように、耐熱性及び耐久性に優れているとともに加工が容易であることから、カード用樹脂シートの材料して好適に使用される。すなわち、本発明の樹脂組成物を用いて、カード用のシート、例えば、アンテナ・チップが埋め込まれたシート、又はレーザーマーキングシートを製造することができる。
【0029】
本発明の樹脂組成物を用いたシートの製造工程において、樹脂組成物を層状(シート状)に加工する方法としては、従来の手法が採用され得る。例えば、押出成形、キャスト成形による方法である。
押出成形の例としては、本発明の樹脂組成物のペレット、フレークあるいは粉末を押出機で溶融、混練後、Tダイ等から押出し、得られる半溶融状のシートをロールで挟圧しながら、冷却、固化してシートを形成する方法が挙げられる。
【0030】
[多層シート]
本発明の多層シートは、二枚以上の積層された熱可塑性樹脂シートを有するものであって、その少なくとも一層が、本発明の樹脂組成物を含む。より具体的には、本発明の樹脂組成物を用いて形成されたシート、例えば、上述のカード用のシートを複数、積層させて多層シート(積層体)であるカードを製造できる。
本発明の多層シートの好ましい形態として、例えば、熱可塑性樹脂シート(樹脂シート)の少なくとも一層が、PET-G、ポリカーボネート、PCT-G、PCT、及びこれらの少なくとも2種類の混合物(アロイ)からなる群から選択されるいずれか一つを含む。すなわち、熱可塑性樹脂シート(樹脂シート)の好ましい具体例として、PET-Gシート、ポリカーボネート(PC)樹脂シート、PCT-Gシート、PCTシート、あるいは、これらの樹脂のいずれか2種類のアロイを主成分としたシートが挙げられる。特に、上述のアロイとしては、PC樹脂とPET-G樹脂のアロイが好ましい。
また、ポリカーボネートを含有している本発明の樹脂組成物を用いて形成されたシート、例えば、上述のアンテナ・チップが埋め込まれたシート、及びレーザーマーキングシートは、積層される他のポリカーボネート樹脂シートとの接着性に優れるのみならず、上述のPET-Gシート、及びPC樹脂とPET-G樹脂のアロイのシートとの接着性にも優れている。
【0031】
多層シートを構成する熱可塑性樹脂シート(樹脂シート)としては、さらに、ポリカーボネート/ポリエステルシート(ポリカーボネート及びポリエステルをいずれも含有する樹脂のシート)を用いても良い。
PET-Gシートは、ポリエチレンテレフタレート系のPET-G樹脂(PETG樹脂)、すなわち、テレフタル酸単位を主とするジカルボン酸単位、エチレングリコール単位、及びシクロヘキサンジメタノール単位(1,4-シクロヘキサンジメタノール単位)を主とするグリコール単位を含むポリエステルにより形成されたシートである。なおテレフタル酸単位は、例えば、モル基準で全てのジカルボン酸単位の50%以上を占め、エチレングリコールは、モル基準で全てのグリコール単位(エチレングリコール単位及びシクロヘキサンジメタノール単位の合計)の50%以上を占める。
また、熱可塑性樹脂シートの材料として、他のポリエチレンテレフタレート系の樹脂、例えば、PCT-G樹脂(PCTG樹脂)、及びPCT樹脂を用いても良い。
PCT-G樹脂も、テレフタル酸単位を主とするジカルボン酸単位、エチレングリコール単位、及びシクロヘキサンジメタノール単位(1,4-シクロヘキサンジメタノール単位)を主とするグリコール単位を含むポリエステルであるものの、シクロヘキサンジメタノール単位が、モル基準で全てのグリコール単位(エチレングリコール単位及びシクロヘキサンジメタノール単位の合計)の50%以上を占める点で、PET-G樹脂と相違する。
また、PCT樹脂(ポリシクロへキシレン・ジメチレン・テレフタレート樹脂)は、テレフタル酸単位を主とするジカルボン酸単位、及びシクロヘキサンジメタノール単位(1,4-シクロヘキサンジメタノール単位)を主とするグリコール単位を含むポリエステルであり、エチレングリコール単位を含まない。
上述のポリエチレンテレフタレート系の樹脂を用いて形成されたシート、すなわち、PET-Gシート、PCT-Gシート、及びPCTシートは、ポリカーボネート樹脂シートとの接着性(相溶性)に優れており、ポリカーボネート樹脂シートとの積層体に好適に用いられる。
また、ポリカーボネート/ポリエステルシートは、ポリカーボネート及びポリエステルのポリマーアロイ(混合物)を含むシートであり、ポリカーボネートとしては、本発明の樹脂組成物に含まれるポリカーボネート樹脂と同様のものが使用可能であり、ポリエステルとしては、上述の脂肪族ポリエステル化合物、ポリエチレンテレフタレート系のPETG樹脂、PCTG樹脂、及びPCT樹脂等が使用可能である。すなわち、多層シートに含まれる熱可塑性樹脂シートの材料として、上述のポリカーボネート樹脂、PETG樹脂、PCTG樹脂、PCT樹脂、及び脂肪族ポリエステルの少なくとも2つ以上を含むポリマーアロイを用いても良い。
【0032】
多層シートの具体例としては、
図1に示されるIDカード10が挙げられる。IDカード10は、第1表層12、第2表層14、第1レーザーマーキング層16、第2レーザーマーキング層18、第1コア層20、及び第2コア層22を含む積層体である。
第1表層12、及び第2表層14は無色透明であり、第1レーザーマーキング層16、及び第2レーザーマーキング層18においては、レーザー光Lを照射することによる印字が可能である。第1コア層20、及び第2コア層22は白色顔料を含んでいるため白色であり、第1コア層20においては、アンテナ・チップ24が埋め込まれている。アンテナ・チップ24が受信する外部からの電磁波に応じてICチップ(図示せず)の情報が上書きされる。
これらのいずれの層においても、本発明の樹脂組成物を使用することが可能である。特に、本発明の樹脂組成物を用いて第1表層12、及び第2表層14を形成することにより、表面の耐久性及び耐熱性に優れたIDカード10を製造することができる。
また、レーザー発色剤を含有する本発明の樹脂組成物により、レーザーマーキング性に優れた第1、及び第2レーザーマーキング層16、及び18を形成することもできる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
【0034】
<ガラス転移温度の測定>
樹脂のガラス転移温度(Tg)は、示差熱走査熱量分析計(株)日立ハイテクサイエンス製のEXSTAR DSC 7020(DSC)で測定した。測定においては、窒素雰囲気下で樹脂成分が溶融する温度(270℃)に15℃/minで昇温し、30℃まで20℃/minで冷却後、再度15℃/minで昇温(2nd run)した。得られたDSC曲線から始点法によってガラス転移温度を求めた。
【0035】
<PETGフィルムとの接着性>
各実施例、及び比較例の樹脂組成物のPETGフィルムとの接着性は、以下のように作成した試料を用いて評価した。
試料の作成
測定対象となる樹脂組成物を用いて50μmのフィルムを作成し、PETG(S2008:SK Chemicals社製)を用いて同様に作成した100μmのフィルムと重ねた。これらの2層を重ねた測定対象フィルムの上下を、0.5mmのSUS板、1mmのシリコンゴムシート、100μmのSUS板、0.78mmのテフロン(登録商標)シートの4枚の積層板2枚で挟み込んだ。すなわち、測定対象フィルムのサンプルフィルム側に1方の積層板のテフロンシートが、測定対象フィルムのPETGフィルム側に他方の積層板のテフロンシートがそれぞれ接するように、上述の積層板2枚で測定対象フィルムを挟み込んだ。そして測定対象フィルムの上下を積層板2枚が挟み込んだ状態で、さらに、プレス機の一対のプレス板により、2枚の積層板のそれぞれの最も外側に配置されている0,5mmSUS板を挟み込み、空圧式加熱プレス(IMC-1839型:井元製作所製)を用いて、120℃、エアー圧力0.2MPaで60秒間プレスして積層体を作成した。
<接着性評価>
出来上がった積層体を、オートグラフ(AGS-X:島津製作所製)により粘着テープ引きはがし試験装置に装着し、測定対象である樹脂組成物の50μmのフィルムをPETGの100μmのフィルムから引きはがすピール試験(引きはがし速度152.4mm/minにて90°剥離試験)を行い、接着性を次のように評価した。
フィルムの剥離不可:非常に良好
剥離力20N/50mm以上:良好
剥離力20N/50mm未満:悪い
【0036】
<耐久性>
各実施例、及び比較例の樹脂組成物の耐久性は、以下のように評価した。対象樹脂組成物を用いて厚み0.78mmのカードを作成し、ICカード曲げ・ねじり試験機((株)東洋精機製作所製)を用いてカード曲げ試験を実施しカードに割れが発生するまでの曲げ回数を測定した。カード曲げ回数の測定は、JIS X6305-1に準拠して行い、回数の数値によって以下のように評価した。
1000回未満:悪い
1000回以上3000回未満:良好
3000回以上:非常に良好
【0037】
<透明性>
各実施例、及び比較例の樹脂組成物の透明性は、以下のように評価した。測定対象樹脂組成物を用いて厚み0.3mmのフィルムを成形し、ヘーズメーター(村上色彩技術研究所製HM-150)を用いてHaze値を測定し、透明性を次のように評価した。Haze値の測定は、JIS K 7136に準拠して行った。
Haze値:5%以上:悪い
Haze値:1%以上5%未満:良好
Haze値:1%未満:非常に良好
【0038】
<黒色度>
試験片作成
詳細を後述する実施例4~7、及び比較例6~13のフィルムにレーザーマーキング加工を実施し、黒色度を、以下のように評価した。まず、測定対象の樹脂組成物を用いて、カーボンブラック、又は金属酸化物を含有する、厚み0.1mmのレーザーマーキングフィルムを成形した。また前記測定対象樹脂組成物中のカーボンブラック及び金属酸化物を含有しない樹脂組成物を用いて0.1mmのオーバーレイフィルムを成形した。さらにオーバーレイフィルム成形に用いた樹脂組成物に酸化チタン(レジノカラー工業(株)製「ホワイトDCF-T-17007」)を全体として15wt%となるよう添加して作成した樹脂組成物を用いて厚み0.2mmのホワイトコアフィルムを成形した。
作成したフィルムを、オーバーレイフィルム、レーザーマーキングフィルム、ホワイトコアフィルムの順に重ねた。これらの3層を重ねた測定対象フィルムの上下を、0.5mmのSUS板、1mmのシリコンゴムシート、100μmのSUS板、0.78mmのテフロン(登録商標)シートの4枚の積層板2枚で挟み込んだ。すなわち、測定対象フィルムのオーバーレイフィルム側に1方の積層板のテフロンシートが、測定対象フィルムのホワイトコアフィルム側に他方の積層板のテフロンシートがそれぞれ接するように、上述の積層板2枚で測定対象フィルムを挟み込んだ。そして測定対象フィルムの上下を積層板2枚が挟み込んだ状態で、さらに、プレス機の一対のプレス板により、2枚の積層板のそれぞれの最も外側に配置されている0,5mmSUS板を挟み込み、空圧式加熱プレス(IMC-1839型:井元製作所製)を用いて、160℃、エアー圧力0.2MPaで60秒間プレスして積層体を作成した。
レーザーマーキング装置(ロフィンバーゼル製「EasyMarIV-E10」)を用いて、プレスにて得られた積層体にオーバーレイフィルム層側から以下の照射条件にてレーザーマーキングを実施した。印字部を分光濃度計(エックスライト(株)製「X-Rite504」)をもちいて測定し、得られた値の最大値を黒色度とした。
レーザーマーキング条件
Scan Speed:1,000mm/s
Output Energy:21~30A
Pulse Frequency:10~100kHz
【0039】
<レーザー発色性の評価>
黒色度の値が閾値である1.70以上の実施例、又は比較例をレーザー発色性判定「良好」、黒色度の値が閾値未満の実施例、又は比較例を「悪い」として評価した。なお、カーボンブラック及び金属酸化物を含まず、レーザーマーキング性を有していない実施例、及び比較例については、レーザー発色性が「無し」と評価した。
【0040】
<樹脂組成物の製造>
実施例1~3及び比較例1~5の樹脂組成物を、以下のように製造した。すなわち、下記のように表1にて略語で示した樹脂に、ポリカプロラクトン(ポリε-カプロラクトン:重量平均分子量:10000)、ホスファゼン難燃剤((株)伏見製薬所製「ラビトル(登録商標)FP-110」)、を表1にそれぞれ示す含有量で添加し、均一な樹脂組成物を得た。
【0041】
実施例4~7及び比較例6~13の樹脂組成物を、以下のように製造した。すなわち、下記のように表1に示した樹脂に、ポリカプロラクトン(ポリε-カプロラクトン:重量平均分子量:10000)、カーボンブラック(キャボットコーポレーション製「MONARCH(登録商標)800」)、金属酸化物(東罐マテリアル・テクノロジー(株)製「42-920A」)を表1にそれぞれ示す含有量で添加して撹拌し、均一な樹脂組成物とした。
また、下記表1に示した樹脂に、ポリカプロラクトン(パーストープ社製Capa(登録商標)6800:重量平均分子量80,000)、及び上記カーボンブラックを表1にそれぞれ示す含有量で添加して撹拌し、実施例8の樹脂組成物を製造した。
なお、上記金属酸化物(「42-920A」)は、三酸化ビスマス Bi2O3と、三酸化ネオジウム Nd2O3との混合物であり、具体的には、Bi2O3を98~99質量%、及びNd2O3を0.3~1.0質量%程度含む混合物である。
(PC)
ビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート樹脂
(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製「ユーピロン(登録商標)E-2000」、熱変形温度(ガラス転移温度)150℃)
(PETG)
変性ポリエチレンテレフタレート樹脂
(SK Chemicals製「SKYGREEN(登録商標)S2008」、熱変形温度(ガラス転移温度)80℃)
(PC/PETGアロイ)
上記(PC)と(PETG)との50:50(重量比)の混合物
【0042】
<試験片(シート)の製造>
実施例1~7及び比較例1~13の樹脂組成物を用いて、以下のように試験片のシートを製造した。まず、バレル直径32mm、スクリューのL/D=31.5の二軸押出機からなるTダイ溶融押出機を用い、吐出量20kg/h、スクリュー回転数200rpmで幅300mmのシートを成形した。シリンダー・ダイヘッド温度は、実施例1~7、比較例2、4~9、11、及び、13においては280℃、比較例1、3、10、及び、12においては260℃にそれぞれ設定した。また、シートとして、表面の両面が鏡面のものを製造した。上述の接着性、耐久性、及び透明性の評価のために、各樹脂組成物ごとに50μm(0.05mm)、100μm(0.1mm)、300μm(0.3mm)、780μm(0.78mm)の4つの厚みを有するフィルムを成形して、上述の各測定を実施した。
【表1】
【符号の説明】
【0043】
10 IDカード(多層シート)
12 第1表層
14 第2表層
16 第1レーザーマーキング層
18 第2レーザーマーキング層
20 第1コア層
22 第2コア層
24 アンテナ・チップ