(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-14
(45)【発行日】2023-02-22
(54)【発明の名称】潤滑油供給装置
(51)【国際特許分類】
F16H 57/04 20100101AFI20230215BHJP
H02K 7/116 20060101ALI20230215BHJP
【FI】
F16H57/04 J
H02K7/116
(21)【出願番号】P 2019021699
(22)【出願日】2019-02-08
【審査請求日】2021-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 崇之
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-118976(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
H02K 7/116
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油路と、
油孔を有する潤滑油捕集部材と、
潤滑油を貯留するキャッチタンクと、を有し、
前記潤滑油捕集部材は、遠心力で飛散した潤滑油を捕捉して前記油孔に導くキャッチ部と、前記油孔を径方向に移動させることで前記油孔と前記油路とを連通又は遮断させる移動部と、を有
し、
前記油路は前記キャッチタンクへ潤滑油を送油し、
前記キャッチ部へ向かって潤滑油を飛散させる回転部材の回転速度が所定回転速度未満の場合は、前記油路と前記油孔とが遮断され、
前記回転部材の回転速度が前記所定回転速度以上の場合は、前記油路と前記油孔とが連通されることを特徴とする潤滑油供給装置。
【請求項2】
油路と、
油孔を有する潤滑油捕集部材と、を有し、
前記潤滑油捕集部材は、遠心力で飛散した潤滑油を捕捉して前記油孔に導くキャッチ部と、前記油孔を径方向に移動させることで前記油孔と前記油路とを連通又は遮断させる移動部と、を有し、
前記油路は軸受へ潤滑油を油送し、
前記キャッチ部へ向かって潤滑油を飛散させる回転部材の回転速度が所定回転速度未満の場合は、前記油路と前記油孔とが連通され、
前記回転部材の回転速度が前記所定回転速度以上の場合は、前記油路と前記油孔とが遮断されることを特徴とする潤滑油供給装置。
【請求項3】
請求項1
又は請求項2に記載された潤滑油供給装置において、
前記潤滑油捕集部材は、潤滑油を前記キャッチ部へガイドするガイドリブを有することを特徴とする潤滑油供給装置。
【請求項4】
請求項1
から請求項3のいずれか一つに記載された潤滑油供給装置において、
前記キャッチ部が前記移動部を兼ねていることを特徴とする潤滑油供給装置。
【請求項5】
請求項
4において、
前記キャッチ部を内周側に押し返す付勢部材を有することを特徴とする潤滑油供給装置。
【請求項6】
請求項1から請求項
5のいずれか一つに記載された潤滑油供給装置において、
前記潤滑油供給装置は、駆動源としてモータを有する電動車両に設けられることを特徴とする潤滑油供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に示すように、回転軸を回転させ、遠心力を利用して軸心から油孔へ潤滑油をガイドする構成が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、装置によっては、回転速度に応じて潤滑油の供給を遮断したい、あるいは、潤滑油の供給を行いたいといった要請がある。
【0005】
本発明は、このような技術的課題に鑑みてなされたもので、回転速度に応じて潤滑油の供給を制御することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によれば、潤滑油供給装置は、油路と、油孔を有する潤滑油捕集部材と、潤滑油を貯留するキャッチタンクと、を有し、潤滑油捕集部材は、遠心力で飛散した潤滑油を捕捉して油孔に導くキャッチ部と、油孔を径方向に移動させることで油孔と油路とを連通又は遮断させる移動部と、を有し、油路はキャッチタンクへ潤滑油を送油し、キャッチ部へ向かって潤滑油を飛散させる回転部材の回転速度が所定回転速度未満の場合は、油路と油孔とが遮断され、回転部材の回転速度が所定回転速度以上の場合は、油路と油孔とが連通されることを特徴とする。
また、本発明の別の態様によれば、潤滑油供給装置は、油路と、油孔を有する潤滑油捕集部材と、を有し、潤滑油捕集部材は、遠心力で飛散した潤滑油を捕捉して油孔に導くキャッチ部と、油孔を径方向に移動させることで油孔と油路とを連通又は遮断させる移動部と、を有し、油路は軸受へ潤滑油を油送し、キャッチ部へ向かって潤滑油を飛散させる回転部材の回転速度が所定回転速度未満の場合は、油路と油孔とが連通され、回転部材の回転速度が所定回転速度以上の場合は、油路と油孔とが遮断されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
上記態様によれば、キャッチ部が遠心力で飛散した潤滑油を捕捉することで、油孔を移動させることができる。キャッチ部に捕捉された潤滑油の遠心力は、潤滑油捕集部材の回転速度に依存するので、潤滑油捕集部材の回転速度に応じて油孔と油路とを連通又は遮断、の2パターンを作り出すことができる。よって、回転速度に応じて潤滑油の供給を制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る潤滑油供給装置を備えた駆動装置の概略構成図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る潤滑油供給装置の所定回転速度未満での状態を示す断面図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る潤滑油供給装置の所定回転速度未満での状態を示す平面図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係る潤滑油供給装置の所定回転速度以上での状態を示す断面図である。
【
図5】
図5は、本実施形態に係る潤滑油供給装置の所定回転速度以上での状態を示す平面図である。
【
図6】
図6は、変形例に係る潤滑油供給装置の所定回転速度未満での状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0010】
図1は、本発明の実施形態に係る潤滑油供給装置1の概略構成図である。潤滑油供給装置1は、例えば、電動車両を駆動するための駆動装置100に適用される。以下では、潤滑油供給装置1が電動車両の駆動装置100に適用される場合を例に説明するが、潤滑油供給装置1は、自動変速機など他の装置に適用することもできる。
【0011】
駆動装置100は、駆動源としてのモータ10と、モータ10の出力軸11に平行に設けられたカウンタ軸20と、モータ10の出力軸11と同軸上に設けられた差動歯車装置30と、出力軸11とカウンタ軸20との間に設けられた第1減速ギア対G1と、カウンタ軸20と差動歯車装置30との間に設けられた第2減速ギア対G2と、これらを収容するケース40と、を備える。
【0012】
ケース40には、その内部をモータ10が設けられるモータ室41と差動歯車装置30等が設けられるギア室42とに仕切る仕切壁43が設けられる。ギア室42内には、ギア及び軸受の潤滑を行うための潤滑油が貯留される。
【0013】
モータ10は、出力軸11に固定された円柱状のロータ12と、ロータ12と若干の間隔を隔てるようにして設けられ、ケース40に固定されたステータ13と、を有する。出力軸11は、一端が仕切壁43を貫通し、ギア室42内に突出するように設けられる。出力軸11は、ケース40に固定された軸受51、52によって回転可能に支持される。
【0014】
カウンタ軸20は、ギア室42内において、ケース40に固定された軸受53、54によって回転可能に支持される。なお、
図1では、カウンタ軸20が出力軸11及び差動歯車装置30の上方に配置されているが、カウンタ軸20は、出力軸11及び差動歯車装置30の側方や下方に配置されてもよい。
【0015】
差動歯車装置30は、ハウジング33と、ハウジング33内に収容される差動機構35と、を備える。差動機構35は、ハウジング33に回転可能に支持される一対の小歯車35a、35bと、小歯車35a、35bと噛み合い出力軸31、32に固定される大歯車35c、35dと、を備える。小歯車35a、35b及び大歯車35c、35dは、例えば、傘歯車によって形成される。
【0016】
ハウジング33は、両端がケース40に固定された軸受55、56によって回転可能に支持される。
【0017】
出力軸31の一端には大歯車35cが固定される。出力軸31の他端は、ハウジング33を貫通し、出力軸11の内部を通ってケース40の外部に引き出され、駆動輪Tに接続される。出力軸31の他端側は、ケース40に固定された軸受57によって回転可能に支持される。
【0018】
出力軸32の一端には大歯車35dが固定される。出力軸32の他端は、ハウジング33を貫通してケース40の外部に引き出され、駆動輪Tに接続される。出力軸32の他端側は、ケース40に固定された軸受58によって回転可能に支持される。
【0019】
第1減速ギア対G1は、出力軸11の一端側に固定される第1ドライブギア14と、カウンタ軸20に固定され第1ドライブギア14と噛み合う第1ドリブンギア21と、を備える。第1ドリブンギア21は、第1ドライブギア14より歯数が多くなるように形成される。これにより、モータ10の出力軸11の回転が、第1減速ギア対G1によって減速されてカウンタ軸20に伝達される。
【0020】
第2減速ギア対G2は、カウンタ軸20に第1ドリブンギア21と間隔をあけて固定される第2ドライブギア22と、差動歯車装置30の後述するハウジング33の外周面に固定され、第2ドライブギア22と噛み合う第2ドリブンギア34と、を備える。第2ドリブンギア34は、第2ドライブギア22より歯数が多くなるように形成される。これにより、カウンタ軸20の回転が、第2減速ギア対G2によって減速されて差動歯車装置30に伝達される。
【0021】
このように構成された駆動装置100では、モータ10の出力は、出力軸11、第1減速ギア対G1、カウンタ軸20、第2減速ギア対G2、差動歯車装置30、及び出力軸31、32を介して、減速されて駆動輪Tに伝達される。
【0022】
駆動装置100は、ケース40内の上部に設けられ潤滑油を貯留するキャッチタンク60と、ギア室42内に貯留された潤滑油をキャッチタンク60へ送油する潤滑油供給装置1と、をさらに備える。
【0023】
キャッチタンク60は、底部に複数の孔61を有する。キャッチタンク60内の潤滑油は孔61を通って潤滑対象である各ギアや軸受に向かって落下する。なお、キャッチタンク60は、停車時におけるギア室42内の下部に貯留された潤滑油の油面高さよりも高い位置に設けられていれば、ケース40内の最上部に設けられていなくてもよい。
【0024】
キャッチタンク60は、仕切壁43に形成された流路43bと環状溝43aとを通じて後述するプレート2の油路2bと常時連通する。
【0025】
図1から
図4に示すように、潤滑油供給装置1は、出力軸11に固定された円板状のプレート2と、プレート2に形成された凹部2a内に設けられた潤滑油捕集部材3と、を備える。
【0026】
プレート2は、凹部2aの底面から出力軸11の回転軸方向にプレート2を貫通する油路2bと、凹部2aの底面に設けられたキー溝2cと、を有する。油路2b及びキー溝2cは、プレート2の径方向における同一線上に設けられる(
図3など参照)。また、油路2b及びキー溝2cは、出力軸11の回転軸を中心として、等間隔に複数設けられる。本実施形態では、油路2b及びキー溝2cは、出力軸11の軸芯を中心として、90度毎に4箇所設けられる。
【0027】
潤滑油捕集部材3は、4つの平板状のプレート3aによって円板状に構成される。プレート3aは、中心角が約90度の扇形の平板である。潤滑油捕集部材3は、これらを組み合わせることによって円板状に形成される。
【0028】
プレート3aは、平板状の本体部3bと、出力軸11の回転軸方向に本体部3bを貫通する油孔3cと、遠心力で飛散した潤滑油を捕捉して油孔3cに導くキャッチ部3dと、ギア室42内に貯留された潤滑油をキャッチ部3dへガイドするガイドリブ3eと、プレート2と接触する側面に形成されキー溝2cと係合するキー3fと、を有する。
【0029】
プレート3aは、プレート2の凹部2aにキー溝2cとキー3fとが係合するようにして収容される。プレート3aの外周面とプレート2の凹部2aの内周面との間には、プレート3aを径方向内方へ付勢する付勢部材4が設けられる。なお、図示はしないが、プレート3aがプレート2の凹部2aから抜け出すことを防止する抜け止め部材が設けられている。
【0030】
キー溝2cの長手方向の長さは、キー3fの長手方向の長さよりも長くなるように形成される。これにより、プレート3aは、凹部2aにおいてキー溝2cに沿って径方向に移動することが可能になっている。
【0031】
キャッチ部3dは、本体部3bの外縁部において起立するように形成され周方向に延びる壁部3gと、壁部3gの先端から径方向内側に延びる返し部3hと、を備える。
【0032】
油孔3cは、本体部3bにおける壁部3g近傍に設けられる。油孔3cは、プレート2が径方向外方に移動したときに油路2bと連通し、プレート2が径方向内方に移動したときに油路2bとの連通が遮断されるように形成される。
【0033】
ガイドリブ3eは、本体部3bのキャッチ部3dと同じ側の側面において起立するように形成される。さらに、ガイドリブ3eは、径方向に延び、出力軸11の回転方向前側が突出する円弧状に形成される。ガイドリブ3eの外方端は、油孔3cに隣接する位置であって、油孔3cの回転方向前方の位置に形成される。
【0034】
プレート3aは、壁部3gの一端において周方向に延出するように形成され、隣り合うプレート3aの外周面の一部を覆うラップ部3iと、壁部3gの他方に形成されラップ部3iが係合する切欠部3jと、をさらに備える。ラップ部3iの機能については、後述する。
【0035】
駆動装置100では、モータ10の停止時には油面が高さH1にある(
図1参照)。油面が高さH1の位置にあるときには、軸受52、55、56、及び第1ドライブギア14等が部分的に潤滑油に浸っている。この状態で、モータ10が駆動すると、出力軸11やハウジング33が回転するので、軸受52、55、56の内輪及び第1ドライブギア14も回転する。これにより、潤滑油が掻き上げられてギア室42内に潤滑油が飛散し、各要素の潤滑が行われる。
【0036】
モータ10の回転速度が上昇すると、軸受52、55、56の内輪及び第1ドライブギア14等の回転速度もそれに伴って上昇する。このようにして回転速度が上昇すると、それに伴い、軸受52、55、56及び第1ドライブギア14の潤滑油による回転抵抗(撹拌抵抗)が大きくなる。このように回転抵抗が大きくなると、電動車両としての電費が低下する。そこで、本実施形態では、モータ10の回転速度が上昇した場合に、潤滑油供給装置1によってギア室42に貯留された潤滑油をキャッチタンク60へ送油することにより、油面の高さを低下させて、回転抵抗を低下させる。以下に、潤滑油供給装置1の動作について具体的に説明する。
【0037】
モータ10が停止している状態から回転を始めると、出力軸11が回転し、プレート2及びプレート3aも回転を始める。プレート3aが回転すると、プレート3aに形成されたガイドリブ3eによって潤滑油は掻き上げられ、キャッチ部3dに導かれる。また、このとき、ギア室42内の下部に貯留された潤滑油が第2ドリブンギア34等によって掻き上げられて飛散し、各ギア及び軸受に潤滑油が供給される。
【0038】
ガイドリブ3eによってキャッチ部3dに潤滑油が導かれると、潤滑油の遠心力がキャッチ部3dに作用し、プレート3aは径方向外方に移動しようとする。しかしながら、出力軸11の回転速度(ガイドリブ3eの回転速度)が所定回転速度N1未満の場合には、付勢部材4による付勢力が、キャッチ部3dに貯留された潤滑油及びプレート3aの自重による遠心力の合計による力を上回るため、プレート3aは
図2及び
図3に示す位置に保持される。
図2及び
図3に示す位置では、油路2bと油孔3cとの連通が遮断されている。このため、キャッチ部3d内の潤滑油は、キャッチタンク60へ送油されることがない。なお、油路2bと油孔3cとの連通が遮断された状態においては、キャッチ部3d内に貯留できなくなった潤滑油は、ギア室42内に飛散し、ギア室42の下部に落下する。
【0039】
モータ10の出力軸11の回転速度(ガイドリブ3eの回転速度)が、所定回転速度N1以上になると、キャッチ部3dに貯留された潤滑油及びプレート3aの自重による遠心力の合計による力が、付勢部材4による付勢力を上回るため、プレート3aが付勢部材4による付勢力に抗して径方向外方に移動し、油路2bと油孔3cとが連通する(
図4及び
図5参照)。このとき、プレート2に形成されキー溝2cとプレート3aに形成されたキー3fとが係合しているため、プレート3aは、キー溝2cに沿って径方向外側に移動する。油路2bと油孔3cとが連通すると、キャッチ部3d内の潤滑油は、仕切壁43に形成された環状溝43a及び流路43bを通じてキャッチタンク60に送油される。
【0040】
プレート3aが径方向外方へ移動すると、隣り合うプレート3aの間に隙間が生じる(
図5参照)。このため、潤滑油がこの隙間を通って漏れてしまうおそれがある。しかしながら、本実施形態では、プレート3aには、隣り合うプレート3aの外周面の一部を覆うラップ部3iが設けられている。これにより、隣り合うプレート3aのキャッチ部3d間における隙間の発生を防止できる。潤滑油捕集部材3が所定回転速度N1以上で回転している場合には、潤滑油は遠心力によってキャッチ部3dに導かれることになるので、隣り合うプレート3aのキャッチ部3d間の隙間の発生を防止することにより、潤滑油の漏れを効果的に防止できる。
【0041】
モータ10の出力軸11の回転速度が所定回転速度N1以上になり、潤滑油供給装置1によって、ギア室42の下部に貯留されている潤滑油がキャッチタンク60へ送油されると、潤滑油の油面の高さが低下し(
図1の高さH2)、軸受52、55、56及び第1ドライブギア14等が潤滑油の油面上に露出する。これにより、軸受52、55、56及び第1ドライブギア14における潤滑油による回転抵抗(撹拌抵抗)を抑制することができる。
【0042】
なお、キャッチタンク60へ供給された潤滑油は、孔61を通じて落下し、キャッチタンク60内の潤滑油は孔61を通って各ギアや軸受に向かって落下する。これにより、第1ドライブギア14等によって潤滑油を飛散させなくとも、各ギア及び軸受を潤滑することができる。
【0043】
モータ10の出力軸11の回転速度が低下し、所定回転速度N1未満になると、付勢部材4による付勢力が、キャッチ部3dに貯留された潤滑油及びプレート3aの自重による遠心力の合計による力を上回るため、プレート3aが付勢部材4による付勢力によって径方向内方に移動し、油路2bと油孔3cとの連通が遮断される(
図2及び
図3参照)。
【0044】
なお、所定回転速度N1以上であっても、潤滑油の油面が高さH2まで低下し、キャッチ部3d内の潤滑油量が少なくなると、その分遠心力による径方向外方への力が低下する。この場合にも、付勢部材4による付勢力が、キャッチ部3dに貯留された潤滑油及びプレート3aの自重による遠心力の合計による力を上回った場合には、プレート3aが付勢部材4による付勢力によって径方向内方に移動し、油路2bと油孔3cとの連通が遮断される。
【0045】
このように、本実施形態では、モータ10の出力軸11の回転速度が所定回転速度N1以上になると、油路2bと油孔3cとが連通し、潤滑油供給装置1によってギア室42の下部に貯留している潤滑油をキャッチタンク60に送油する。これにより、軸受52、55、56及び第1ドライブギア14等の回転抵抗(撹拌抵抗)を抑制することができる。また、本実施形態によれば、モータ10の出力軸11の回転速度が所定回転速度N1未満の場合には、第1ドライブギア14等によって潤滑油を掻き上げて、各ギア及び軸受を潤滑し、所定回転速度N1以上の場合にも、キャッチタンク60の孔61から潤滑油を落下させて各ギアや軸受を潤滑することができる。つまり、本実施形態では、回転速度に応じて潤滑油の供給を制御することにより潤滑油による回転抵抗を抑制しつつ、各ギア及び軸受の潤滑を確実に行うことができる。
【0046】
上記実施形態では、プレート3aを移動させるための手段として、キャッチ部3d内の潤滑油の遠心力を用いていたが、これに代えて、プレート3aを移動させるための手段として、電磁アクチュエータなどの駆動装置を用いでもよい。アクチュエータを用いる場合には、回転速度センサで回転速度を検出して、アクチュエータを制御するようにすればよい。
【0047】
また、プレート3aを付勢する付勢部材として、径方向に設けられた付勢部材4を例に説明したが、これに代えて、環状の付勢部材を潤滑油捕集部材3の外周に設け、この環状の付勢部材の内径方向への付勢力によってプレート3aを付勢するように構成してもよい。
【0048】
次に、
図6を参照して、本実施形態の変形例について説明する。
【0049】
図6に示す変形例では、キャッチタンク60を備えておらず、モータ10の低回転速度時に、特定の軸受やギアに潤滑油供給装置1によって積極的に潤滑油を供給する場合を例に説明する。
【0050】
変形例では、潤滑油供給装置1は、モータ10の出力軸11の回転速度が所定回転速度N2未満の場合は、油路2bと油孔3cとが連通し、モータ10の出力軸11の回転速度が所定回転速度N2以上の場合は、油路2bと油孔3cとの連通が遮断されるように構成されている。なお、図示はしないが、流路43bは、低回転速度時に積極的な潤滑を必要とする軸受またはギアの近傍へ潤滑油を導くように形成される。
【0051】
このように構成された変形例では、モータ10の出力軸11の回転速度が所定回転速度N2未満の場合には、油路2bと油孔3cとが連通しているので、上記実施形態と同様に、ギア室42の下部に貯留している潤滑油はプレート3aに形成されたガイドリブ3eによって掻き上げられ、キャッチ部3dに導かれる。キャッチ部3d内の潤滑油は、仕切壁43に形成された環状溝43a及び流路43bを通じて潤滑対象の軸受またはギアへ送油される。
【0052】
そして、モータ10の出力軸11の回転速度が所定回転速度N2以上になると、プレート3aが径方向外方へ移動し、油路2bと油孔3cとの連通が遮断される。これにより、流路43bを通じて潤滑対象の軸受またはギアへ送油は停止される。このとき、第2ドリブンギア34等によって掻き上げられ飛散する潤滑油の油量が増加するので、潤滑対象の軸受またはギアへの潤滑が不足することがない。
【0053】
このように、本変形例では、モータ10の出力軸11の回転速度が所定回転速度N2未満では、油路2bと油孔3cとが連通し、潤滑対象の軸受またはギアへ潤滑油をする。これにより、潤滑油不足になることを防止できる。また、本変形例によれば、モータ10の出力軸11の回転速度が所定回転速度N2以上の場合には、第2ドリブンギア34等によって十分は潤滑油が掻き上げられるので、潤滑対象の軸受またはギアを十分に潤滑することができる。つまり、本変形例においても、回転速度に応じて潤滑油の供給を制御することにより、所定回転速度N2未満の場合に積極的な潤滑を可能にするとともに、所定回転速度N2以上の場合にも各ギア及び軸受の潤滑を確実に行うことができる。
【0054】
以上のように構成された上記実施形態の作用効果をまとめて説明する。
【0055】
本実施形態の潤滑油供給装置1は、油路2bと、油孔3cを有する潤滑油捕集部材3と、を有し、潤滑油捕集部材3は、遠心力で飛散した潤滑油を捕捉して油孔3cに導くキャッチ部3dと、油孔3cを径方向に移動させることで油孔3cと油路2bとを連通又は遮断させる移動部(キャッチ部3d、アクチュエータ、付勢部材4)と、を有する。
【0056】
潤滑油供給装置1では、キャッチ部3dが遠心力で飛散した潤滑油を捕捉することで、油孔3cを移動させることができる。そして、キャッチ部3dに捕捉された潤滑油の遠心力は、潤滑油捕集部材3の回転速度(出力軸11の回転速度)に依存する。したがって、潤滑油供給装置1によれば、潤滑油捕集部材3の回転速度(出力軸11の回転速度)に応じて油孔3cと油路2bとを連通又は遮断、の2パターンを作り出すことができる。つまり、潤滑油供給装置1によれば、回転速度に応じて潤滑油の供給を制御できる(請求項1及び請求項2に係る発明の効果)。
【0057】
潤滑油供給装置1では、潤滑油捕集部材3は、潤滑油をキャッチ部3dへガイドするガイドリブ3eを有する。
【0058】
効率的にキャッチ部3dへ油送でき油孔3cへ多くの油を送ることができる(請求項3に係る発明の効果)。
【0059】
潤滑油供給装置1では、キャッチ部3dが移動部を兼ねている。
【0060】
遠心力が加わるとキャッチ部3dに径方向外方への推力がかかり、油孔3cが移動して油路2bと連通する。キャッチ部3d自体が移動部を兼ねることにより、別途のアクチュエータなどが不要となるので、部品点数を削減することができる(請求項4に係る発明の効果)。
【0061】
潤滑油供給装置1では、キャッチ部3dを内周側に押し返す付勢部材4を有する。
【0062】
付勢部材4の付勢力を調整することにより油路2bと油孔3cを遮断する遠心力の閾値を決定できる。これにより、自動で狙い通りの制御が可能となる(請求項5に係る発明の効果)。
【0063】
潤滑油供給装置1は、潤滑油を貯留するキャッチタンク60を有し、油路2bはキャッチタンク60へ潤滑油を送油し、キャッチ部3dへ向かって潤滑油を飛散させる回転部材(出力軸11、ガイドリブ3e)の回転速度が所定回転速度N1未満の場合は、油路2bと油孔3cとが遮断され、回転部材(出力軸11、ガイドリブ3e)の回転速度が所定回転速度N1以上の場合は、油路2bと油孔3cとが連通される。
【0064】
所定回転速度N1以上の場合は、油路2bと油孔3cとが連通し、キャッチタンク60に潤滑油が送油されるので、油面を低下させることができる。これにより、回転抵抗(撹拌抵抗)を減らすことができる。また、所定回転速度N1未満の場合は、油路2bと油孔3cとが遮断されているので、油面レベルを上げておくことができる(請求項1に係る発明の効果)。
【0065】
潤滑油供給装置1では、油路2bは軸受へ潤滑油を油送し、キャッチ部3dへ向かって潤滑油を飛散させる回転部材(出力軸11、ガイドリブ3e)の回転速度が所定回転速度N2未満の場合は、油路2bと油孔3cとが連通され、回転部材(出力軸11、ガイドリブ3e)の回転速度が所定回転速度N2以上の場合は、油路2bと油孔3cとが遮断される。
【0066】
所定回転速度N2未満では、油路2bと油孔3cとが連通することで、例えば、潤滑を必要とする構成要素に潤滑油を供給することができる(請求項2に係る発明の効果)。
【0067】
潤滑油供給装置1は、駆動源としてモータ10を有する電動車両に設けられる。
【0068】
潤滑油供給装置1を用いることにより、潤滑油による回転抵抗(撹拌抵抗)を考慮した制御を行うことができるので、電費を向上させることができる(請求項6に係る発明の効果)。
【0069】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一つを示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0070】
上記実施形態では、油路2b及び油孔3cを4か所としたが、数は適時選択すればよい。また、潤滑油捕集部材3を4つのプレート3aで構成するようにしたが、これに限らず、2または3つのプレート、あるいは、5以上としてもよい。
【符号の説明】
【0071】
100 駆動装置
1 潤滑油供給装置
2 プレート
2b 油路
3 潤滑油捕集部材
3a プレート
3c 油孔
3d キャッチ部(移動部)
3e ガイドリブ
4 付勢部材(移動部)
10 モータ
11 出力軸
30 差動歯車装置
41 モータ室
42 ギア室
43 仕切壁
43a 環状溝
43b 流路
60 キャッチタンク